次に、本発明に係る実施形態の変速制御装置について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明を適用可能なハイブリッド車両の構成を示したブロック図である。図1に示すハイブリッド車両1はFF(フロントエンジンフロントドライブ)タイプの車両であり、エンジン11と、バッテリ19に蓄積された電気で駆動されるモータジェネレータ12(本発明のモータに相当、図1中においてはMGと記載)とを備え、該2種類の原動機が並列に配置されて搭載され、各々の原動機によって車輪を駆動できるような構成となっている。
また、ハイブリッド車両1は、図1、図2に示すように、自動変速機13(本発明の自動変速装置に相当)、クラッチ装置30(本発明のクラッチに相当)、クラッチアクチュエータ17、差動装置(ディファレンシャル)14、駆動軸15a、15b、及び駆動輪16a、16bを備えている。
自動変速機13はエンジン11の出力軸31(本発明のアウトプットシャフトに相当)に回転連結され、出力軸31の回転数(回転速度)を複数の変速比の変速段によって変速する。クラッチ装置30は、エンジン11の出力軸31と自動変速機13の入力軸34との係脱を制御するとともに出力軸31から入力軸34に伝達されるクラッチトルクを後述する目標クラッチトルクTrに制御する。
クラッチアクチュエータ17は、図1、図2に示すように自動変速機13に設けられ、クラッチアクチュエータ17を構成する直流電動モータ61(本発明のアクチュエータに相当する)によって、出力ロッド64を軸線方向にロッド作動量Sa作動させ、後述するマスタシリンダ65に発生させる油圧を制御する。そして制御した油圧をクラッチ装置30に固定された後述するスレーブシリンダ47(図2参照)に付与し、クラッチ装置30の係合、及び切断制御を行なう。
なお、本実施形態においては上述した目標クラッチトルクTrを求めるときには、事前に準備される図4に示す出力ロッド64のロッド作動量SaとクラッチトルクTcとの関係に基づく(実線グラフ参照)。図4において、実線グラフは初期状態(車両出荷状態)におけるロッド作動量Saと、該ロッド作動量Saだけ作動させた時に自動変速機13の入力軸34に伝達されるエンジントルク(=クラッチトルクTc)との対応関係を示したクラッチトルクマップであり、変速機ECU24のROMに記憶されている(後述するクラッチトルク−作動量記憶手段51に相当)。図4では、表の左端がフライホイール41とクラッチディスク42との間が完全に係合している完全係合状態を示し、右端がフライホイール41とクラッチディスク42との間が切断されている開放状態を示している。
そして図4のロッド作動量SaとクラッチトルクTcとの関係から目標クラッチトルクTrを導出するためのロッド作動量Saaを読み出し、出力ロッド64をロッド作動量Saa作動させることによって目標クラッチトルクTrを実現するものである。ところが実際には、ベースとする図4に示す出力ロッド64のロッド作動量SaとクラッチトルクTcとの関係については、クラッチフェーシングの摩耗、発熱によるμ(摩擦係数)変化、経年劣化等の動的な要因によって変動していることが考えられる。そこで本来であれば、特開2005−214331号公報等に開示されるように動的な要因についての補正も必要となる。しかし本発明においては上記のような動的な変動要因ではなく、製品毎のばらつきである、アイドルポート65aの位置や径、または出力ロッド64が組付けられた状態におけるアイドルポート65aと出力ロッド64との相対位置関係のばらつき等の静的な変動要因に着目した。そのため、以後、動的な変動要因に対しての補正については説明せず、クラッチアクチュエータ17の出力ロッド64をロッド作動量Saa作動させて目標クラッチトルクTrに制御する説明においては、目標クラッチトルクTrをそのまま使用して説明する。
ハイブリッド車両1は、制御装置としてHV−ECU(Hybrid Vehicle Electronic Control Unit)21と、モータECU22と、エンジンECU23と、変速機ECU24と、バッテリECU25と、を備えている。HV−ECU21は、車両全体の制御を掌り、モータECU22はモータジェネレータ12に駆動又は回生を指令する。エンジンECU23は、エンジン11の停止、及び燃焼を制御し、変速機ECU24は自動変速機13に組み込まれたクラッチアクチュエータ17、シフトアクチュエータ18、及びセレクトアクチュエータ26と接続され、各アクチュエータ17、18、26を制御し最適な変速を行なわせしめる。バッテリECU25は、インバータ27と接続されたバッテリ19の充電状態を管理する。モータECU22、エンジンECU23、変速機ECU24、及びバッテリECU25はHV−ECU21とCAN接続され、それぞれはHV−ECU21によって管理、及び制御されている。
各ECU21、22、23、24、25は、それぞれ制御部(図略)を備えており、演算を行なうCPU(制御部)と、ROM、RAM及びバックアップ電源なしでデータの保持が可能なEEPROM等とを備えて構成される(いずれも図略)。制御部は、CPUによってROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。ROMは、各種制御プログラムや、これらのプログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されたメモリである。RAMは制御部での演算結果や外部から入力されるデータ等を一時的に記憶するメモリに相当し、EEPROMは記憶されたデータ等を保存する不揮発性のメモリからなる。制御部のCPU、ROM、RAM、及びEEPROMは、夫々バス(図略)を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース、及び出力インターフェース(いずれも図略)と接続される。
このように構成されたハイブリッド車両1は、発進時においてはモータジェネレータ12のみによって発進し、モータジェネレータ12の駆動力が不足した場合等にスタータ73を駆動しエンジン11を始動させる。これによってモータジェネレータ12とエンジン11との両駆動力、若しくはエンジン11のみの駆動力によっても走行することができる。
エンジン11、自動変速機13、クラッチ装置30、クラッチアクチュエータ17、マスタシリンダ65、スレーブシリンダ47、ストロークセンサ67(本発明のロッド作動量検出手段に相当)、電流計28(本発明のアクチュエータ電流検出手段に相当)、変速機ECU24、及びHV−ECU21等によって本発明に係る変速制御装置2が構成される。また変速機ECU24が有するクラッチトルク−作動量記憶手段51、クラッチ制御手段52、及び原点位置補正手段53によって変速制御装置2が制御される。
図1、図2に示すようにHV−ECU21には、スタータ73、アクセルペダルスイッチ(図略)、及びアクセル開度センサ(図略)等の各種センサが接続されている。変速機ECU24には、自動変速機13の入力軸回転数Niを検出する入力軸回転数センサ36、ストロークセンサ67(ロッド作動量検出手段)、直流電動モータ61の駆動電流値Icを検出するアクチュエータ電流検出手段である電流計28、クラッチアクチュエータ17、シフトアクチュエータ18、及びセレクトアクチュエータ26等が接続されている。エンジンECU23にはエンジン回転数センサ72が接続されエンジン回転数Neが検出される。
そしてHV−ECU21は、上記各種センサの検出信号を取り込み、アクセルのオン・オフ状態、アクセルペダル開度、スタータ73のオン・オフ状態等を検知する。また、変速機ECU24は、直流電動モータ61の駆動電流値Ic、自動変速機13の入力軸回転数Ni等を検知するとともに、ストロークセンサ67(ロッド作動量検出手段)からの信号によってクラッチアクチュエータ17のロッド作動量Saを検知する。そして検知した車両状態及び運転者の意思に基づいて、HV−ECU21が変速機ECU24を制御し、変速機ECU24がクラッチアクチュエータ17、シフトアクチュエータ18、及びセレクトアクチュエータ26を駆動して自動変速機13の変速段の変速作動を行なう。
まず、図2に基づき変速制御装置2を構成するエンジン11、自動変速機13、クラッチ装置30、クラッチアクチュエータ17、マスタシリンダ65、スレーブシリンダ47、ストロークセンサ67、電流計28、変速機ECU24、及びHV−ECU21等について詳細に説明する。
図2に示すように、エンジン11の出力軸31には、クラッチ装置30が組み付けられ、クラッチ装置30を介して出力軸31と自動変速機13の入力軸34とが接続されている。クラッチ装置30は乾式・単板式の摩擦クラッチである。
エンジン11は、吸入空気量を調節し、エンジン11の出力を制御するためスロットルバルブ70と、スロットルバルブ70の開度(スロットル開度)を検出するためのスロットルセンサ68と、スロットルバルブ70を開閉駆動するスロットル用アクチュエータ69とを備えている。スロットルセンサ68、及びスロットル用アクチュエータ69はエンジンECU23に接続されている。そしてHV−ECU21からの指令に基づきエンジンECU23がスロットル用アクチュエータ69を制御し、スロットルセンサ68からのスロットル開度信号がエンジンECU23に送信される。
なお、図2においてはスロットル用アクチュエータ69がスロットルバルブ70を開閉させるように表してはいない。しかし、図2は模式的に描いたものであり、実際にはスロットル用アクチュエータ69がスロットルバルブ70の回転軸であるスロットルシャフト71を軸回りに回動させるよう構成されている。
図1に示すように、エンジン11の出力軸31近傍には出力軸31の回転数(回転速度)を検出する非接触式のエンジン回転数センサ72が設けられている。また図略のアクセルペダルにはアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサが設けられている。そして運転者がアクセルペダル(図略)を踏み込んだり戻したりすると、アクセル開度センサからアクセル開度信号がHV−ECU21に送信され、運転者の走行に対する意思(加減速、または、定常走行等の要求)を伝達する。HV−ECU21はエンジン11が作動状態である場合においては、送信されたアクセル開度信号の値に応じてエンジンECU23に指令値を送信する。エンジンECU23は、指令値に基づきスロットル用アクチュエータ69を作動させてスロットルバルブ70を開閉弁させ、エンジン回転数センサ72によって出力軸31の回転数を監視しながらエンジン11の出力、及びエンジン回転数Neを制御する。
なお、本実施形態においては、エンジン回転数Neは、運転者が踏み込むアクセルペダルの踏み込み量のみによって制御されるものではなく、アクセルペダルの踏み込み量とは関係なく、HV−ECU21からの要求によってもスロットル用アクチュエータ69を作動させて制御可能となっている。
図2に示すように、クラッチ装置30(本発明のクラッチに相当)は、エンジン11の出力軸31に固定されたフライホイール41、クラッチフェージング43が外周両面に貼付され固着されるとともに自動変速機13の入力軸34とスプライン連結され一体的に回転するクラッチディスク42、フライホイール41に固定されるクラッチアッセンブリであるプレッシャプレート44、ダイヤフラムスプリング45、及びクラッチカバー46等を含んで構成される。そして、油圧が付与されると油圧の大きさに応じて押圧力を付与する構造を有した円環状のスレーブシリンダ47がダイヤフラムスプリング45の内周部に固定される。
そしてクラッチ装置30は、スレーブシリンダ47、ダイヤフラムスプリング45、及びプレッシャプレート44を介し、スレーブシリンダ47に付与される油圧の大きさに応じてフライホイール41に対するクラッチディスク42の圧着荷重を変化させる。これによってフライホイール41及びクラッチディスク42間の回転伝達量を増減可能とし、クラッチトルクTcを目標クラッチトルクTrに制御可能としている。
クラッチアクチュエータ17は、図2に示すように、直流電動モータ61、減速機62、出力ホイール63、出力ロッド64、及びアシストスプリング(助勢手段)66等を備えて構成されている。
減速機62は、直流電動モータ61の出力軸上に形成されたウォームギヤよりなり、出力ホイール63は減速機62を介して直流電動モ−タ61の駆動によって回動される。そして出力ホイール63の回動によって、出力ホイール63にピポットピン49によって連結された出力ロッド64が前方(図2において左方)又は後方(図2において右方)に移動されてマスタシリンダ65内圧を増減させる。ロッド作動量Saは前述したストロークセンサ67によって検出される。また直流電動モータ61を駆動させるために接続された配線には電流検出手段としての電流計28が接続され直流電動モータ61の駆動電流を検出する。電流計28は変速機ECU24に接続され、取得したデータが変速機ECU24に送信される。
アシストスプリング66は出力ホイール63に連結されており、クラッチ装置30を脱離する(クラッチを切る)方向(図2において反時計回り)にアシスト力を発生させ、直流電動モータ61の出力(トルク)がより小さい力で出力ホイール63を回動可能なように構成されている。
マスタシリンダ65は、クラッチアクチュエータ17と共に自動変速機13に固定されている。図3に示すようにマスタシリンダ65は、有底円筒状に形成され底部側(図3において左側)がクラッチ装置30を構成するスレーブシリンダ47と油圧配管74(本発明に係る油圧回路である)によって接続され油路が形成されている。またマスタシリンダ65の開口部(図3右側)からはクラッチアクチュエータ17の出力ロッド64が挿入されている。出力ロッド64は別体で形成され連結されたピストン部64aとロッド部64bとを有している。ピストン部64aは円筒形状を呈し円筒部外周面がマスタシリンダ65の内周面と軸線方向に摺動可能に、且つ液密に係合している。ロッド部64bは棒状に形成されている。そしてピストン部64aとロッド部64bとの連結部は、ピストン部64aがマスタシリンダ65の内周面に沿って軸方向に移動する際に、ピポットピン49によって出力ホイール63に連結されたロッド部64bの右端が出力ホイール63の回動に伴い上下方向に揺動される動きを吸収するように可動構造にて連結されている。
マスタシリンダ65の円筒側面の重力方向上方にはマスタシリンダ65の内部空間65bと連通する所定の内径を有したアイドルポート65aが貫通されている。アイドルポート65aはアイドルポート65aより重力方向上方に配置されるリザーバタンク40と油圧配管54によって接続され連通されている。アイドルポート65aの内径は出力ロッド64のピストン部64aの軸線方向長さよりも若干小さな径に形成されることが好ましく、アイドルポート65aがピストン部64aの外周面によって完全に閉塞される状態を有することが好ましい。しかし、これに限らずアイドルポート65a径がピストン部64aの軸線方向長さよりも大きくてもよく、相応の効果は得られる。
リザーバタンク40には油圧制御用のオイルが大気圧状態で保持されている。油圧制御用のオイルはリザーバタンク40からマスタシリンダ65内に重力によって、または、ピストン部64aが右方に移動するときにマスタシリンダ65の内部空間65bに発生させる負圧によって、マスタシリンダ65内に流入し油圧配管74を介してスレーブシリンダ47に到達する。
このように構成され、マスタシリンダ65内において出力ロッド64が所定のロッド作動量Saだけ図3における左方に向かって移動される。そしてピストン部64aの図3における左端64cがリザーバ40に連通するアイドルポート65aの左端に一致し、アイドルポート65aとマスタシリンダ65の内部空間65bとが遮断され、アイドルポート65aが閉止された位置から油圧が発生され始める。そして本発明においてはこの油圧が発生され始めた点(ロッド作動量位置)を図4において完全係合側の補正後の原点とする。
そして、出力ロッド64の図3における左方へのさらなる作動によってマスタシリンダ65に発生した油圧が、クラッチ装置30を構成するスレーブシリンダ47に付与される。スレーブシリンダ47はマスタシリンダ65で発生された油圧の大きさに応じて、つまり出力ロッド64ロッド作動量Saに応じてクラッチ装置30のダイヤフラムスプリング45の内周部を押動したり押動を解除したりしてクラッチ装置30の係合の切断および係合を所望通りに制御する。
例えば、図2に示すクラッチアクチュエータ17が制御されていない初期の状態(完全係合状態)では、バネ反力(プレッシャプレート44をフライホイール41方向に付勢する力)を発生するダイヤフラムスプリング45によって、クラッチ装置30のプレッシャプレート44に圧着荷重が生じている。これによってクラッチディスク42にはフライホイール41に向かって圧着荷重が加えられフライホイール41と完全係合してエンジン11側からの回転が完全に伝達可能な状態となっている。
一方、クラッチアクチュエータ17が制御され、出力ロッド64の図2における左方への移動によってピストン部64aが左方に移動し、マスタシリンダ65内圧が上昇してスレーブシリンダ47が作動されると、ダイヤフラムスプリング45の内径部が変形される。これによってプレッシャプレート44を押圧するダイヤフラムスプリング45の外径部の力が弱くなり、フライホイール41に対するクラッチディスク42の圧着荷重が低減されるようになっている。そしてフライホイール41とクラッチディスク42との間は、出力ロッド64のロッド作動量Sa(またはマスタシリンダ65の内圧)の大きさに応じ係合状態である、いわゆる半クラッチ状態となる。そして、エンジントルクTeが自動変速機13の入力軸34に、係合状態に応じて伝達される。
次に自動変速機13について説明する。自動変速機13は既存のマニュアルトランスミッションに対し、クラッチアクチュエータ17の作動によって係脱を制御されるクラッチ装置30を取り付け、変速を自動化した、いわゆるAMT(オートメイテッドマニュアルトランスミッション)である。自動変速機13は入力軸34及び出力軸35を備えるとともに、複数段の変速比の変速ギヤ列を備えており、本実施形態においては例えば前進5段・後進1段の平行軸歯車式変速機である。前進1〜5速段は1速段から5速段に向かってギヤの変速比が順次小さくなるように構成されており、例えば、1速段〜3速段では1を超える変速ギヤ比であり、4速段では変速ギヤ比1となっており、5速段では1を下回る変速ギヤ比になっている。
自動変速機13の入力軸34は、クラッチ装置30側からの動力(クラッチトルクTc)が伝達可能に連結され、出力軸35は、車両の駆動軸15a、15bに差動装置(ディファレンシャル)14を介して動力が伝達可能に連結されている(図1参照)。これによりエンジン11から伝達されたクラッチトルクTcは、変速ギヤ列で増減され、差動装置(ディファレンシャル)14を経由して駆動軸15a、15b、及び駆動輪16a、16bに伝達され車両を駆動させる。
自動変速機13には、変速機ECU24と接続され、変速機ECU24によって制御される変速段の切り替えを操作するための変速用アクチュエータ群(前述のクラッチアクチュエータ17、シフトアクチュエータ18、及びセレクトアクチュエータ26)が備えられている。
変速機ECU24は各変速段(変速比)毎に設定された変速線(図5参照)をROMに記憶して有している。図5に示す変速線Aは、代表として例えば1速段から2速段への変速線である増速側の1速段変速線を示している。変速線は車両の変速時に利用されるマップデータであり、予め選択した変速段選択パラメータ(本実施形態においては自動変速機13の入力軸回転数Niとアクセルペダル開度)を各軸にとり、一の変速比から他の変速比への変速の要否を判断するための基準線である。
図示しないが、変速線A上には各アクセルペダル開度毎に変速点が存在している。そして例えば運転者が1速段で走行中にアクセルペダル(図略)を例えば全踏み込み量の75%だけ踏み込みエンジン回転数が増加し変速線A上の点であるPrpmと交差すると、変速機ECU24は、変速制御を開始する。図6の制御図に示すように、変速制御が開始されるとエンジンECU21は、スロットル用アクチュエータ69を駆動させてスロットルバルブ70を閉弁側に作動開始させ、エンジントルクTeをHV−ECU21の指令値に基づいて減少させる(図6中、制御項目のエンジントルクTeの欄参照)。なお、エンジントルクTeはHV−ECU21のROMに事前に準備され記憶されている各スロットル開度におけるエンジン回転数NeとエンジントルクTeとの関係(図7のグラフ参照)に基づき、エンジン回転数センサ72によって検出されたエンジン回転数Neとスロットルセンサ68によって検出されたスロットル開度とから演算される。
略同時に変速機ECU24は、クラッチアクチュエータ17の作動を開始し、クラッチアクチュエータ17の出力ロッド64を図2において左方に移動させてマスタシリンダ65の内圧を上昇させクラッチ装置30のフライホイール41とクラッチディスク42とを脱離させ、やがて係合を切断する(図6中、制御項目のクラッチトルクTcの欄参照)。この状態において、スロットルバルブ70はいわゆる全閉状態に閉弁されエンジントルクTeは最小となる。
変速機ECU24は上記においてスロットルバルブ70が閉弁されクラッチ装置30の係合が切断された状態でシフトアクチュエータ18、及びセレクトアクチュエータ26を適宜駆動し自動変速機13のギヤ列(変速段)を例えば1速段→2速段に切替える(図6中、制御項目の変速制御の欄参照)。そしてギヤ列(変速段)の切替え終了後、エンジンECU23は、スロットル用アクチュエータ69を駆動しスロットルバルブ70をHV−ECU21からの指令値に合わせて開弁させエンジントルクTeを指令値に従って増加させていく。
このとき、変速機ECU24は、クラッチ装置30を再度係合させていくためにクラッチアクチュエータ17を駆動してロッド作動量Saをクラッチ装置30の係合方向に変化させる。そして、クラッチトルクTcが変速機ECU24から指令された目標クラッチトルクTrとなるように図4の実線グラフのマップに基づいてロッド作動量Saが目標クラッチトルクTrに対応する作動量Saaとなるよう制御する。このようにしてエンジン回転数Neと、変速作動後の自動変速機13の入力軸回転数Niとが良好に適合できるようエンジントルクTeをクラッチ装置30に作用させて半クラッチ状態(係合状態)とし、最終的にフライホイール41とクラッチディスク42とを完全係合させ2速段への変速作動を完了する。なお、上記の説明において、シフトアクチュエータ18、及びセレクトアクチュエータ26の駆動方法については公知であるので詳細な説明は省略する(特開2004−176894等参照)。
モータジェネレータ12は、図1に示されるように、駆動輪16a、16bの駆動軸15a、15bよりも車両1において後側に配設されている。モータジェネレータ12は、ハイブリッド車両で一般的に使用される三相交流回転電機である。モータジェネレータ12の図略のアウトプットシャフトは、図略の減速機構を介して差動装置14の入力側に回転連結されている。したがって、モータジェネレータ12のアウトプットシャフトは、自動変速機13の出力軸35と、駆動軸15a、15bの両方に回転連結されていることになる。
モータジェネレータ12を駆動するために、インバータ27およびバッテリ19が車両1の後側に搭載されている。インバータ27は、バッテリ19から出力される直流電力を周波数可変の交流電力に変換してモータジェネレータ12に供給する直流/交流変換機能、および、モータジェネレータ12で発電した交流電力を直流電力に変換してバッテリ19を充電する交流/直流変換機能の両方を具備している。なお、バッテリ19は、走行駆動専用に設けることができ、他の用途と兼用するようにしてもよい。
モータジェネレータ12は、交流電力を供給されると電動機として機能し、エンジントルクTeに加算可能なアシストトルクを発生して駆動輪15a、15bをアシスト駆動することができる。また、モータジェネレータ12は、エンジントルクTeの一部の発電トルク分で駆動されると発電機として機能し、バッテリ19を充電することができる。
変速機ECU24は、変速制御装置2を構成するクラッチトルク−作動量記憶手段51、クラッチ制御手段52、及び原点位置補正手段53を備えている(図1参照)。変速機ECU24は、これらの各手段によってクラッチ装置30のロッド作動量SaとクラッチトルクTcとの対応関係を変速段の変速時に学習し補正する。
クラッチトルク−作動量記憶手段51は、図4に示す、ロッド作動量SaとクラッチトルクTcとの対応関係を示すクラッチトルクTc−ロッド作動量Saマップ(実線グラフ)をROMに記憶しているとともに、本発明によって完全係合側原点が補正されたロッド作動量SaとクラッチトルクTcとの対応関係を記憶する。
クラッチ制御手段52は車両が要求する所要の目標クラッチトルクTrを得るためにクラッチアクチュエータ17が制御すべきロッド作動量Saaをクラッチトルク−作動量記憶手段51から求める。そして求めたロッド作動量Saaデータを変速機ECU24に送信し、変速機ECU24によってクラッチアクチュエータ17を駆動させ出力ロッド64を対応するロッド作動量Saaだけ作動させ、クラッチトルクTcが目標クラッチトルクTrになるよう制御する。
原点位置補正手段53は、出力ロッド64のピストン部64aの図2、図3における左端64cが所定のロッド作動量Saだけ作動してアイドルポート65aの左端と一致しアイドルポート65aを閉止したときに出力される直流電動モータ61の駆動電流を油圧発生時アクチュエータ電流Iocとして電流計(アクチュエータ電流検出手段)28によって検出する(図8参照)。
アイドルポート65aを閉止するまでの間である油圧発生時までは、アイドルポート65aを介してマスタシリンダ65の内部空間65bとリザーバ40とが連通しているためマスタシリンダ65の内部空間65bは大気圧状態となっている。これにより出力ロッド64のピストン部64aが左方に移動しても大気圧状態のオイルを押しているため出力ロッド64を押す力は小さな力でよく直流電動モータ61の駆動電流は小さい。
しかし、図3に示すようにピストン部64aの左端64cがアイドルポート65aの左端と一致してアイドルポート65aを閉止すると、オイルが充満したマスタシリンダ65の内部空間65bとリザーバ40とは遮断される。このためマスタシリンダ65の内部空間65b、及び油圧回路74からは、油圧の逃げ場がなくなり油圧が発生(上昇)し始める(図8油圧の項目参照)。これにより、マスタシリンダ65の内部空間65bの抵抗が大きくなるので出力ロッド64を出力ホイール63を介して押動させる直流電動モータ61の駆動電流値(油圧発生時アクチュエータ電流値Ioc)に変化が発生する。
本発明においては、この駆動電流値Icの変化を捉えてマスタシリンダ65内の油圧の発生点とし、クラッチトルク−作動量記憶手段51に記憶された図4に示すクラッチトルクTcとクラッチアクチュエータ17のロッド作動量Saとの対応関係における、完全係合側の補正後の原点とするものである。具体的には、検出した駆動電流値Icの微分値を原点位置補正手段53が演算し、該微分値に所定の変化が出現した点を油圧発生時アクチュエータ電流Iocの出現点とすればよい。そして判定に用いる微分値の値は実施者が実験等によって導出し決定すればよい。このようにして、油圧発生時アクチュエータ電流Iocが検出された時にロッド作動量検出手段によって検出された出力ロッド64のロッド作動量Sa位置をクラッチトルク−作動量記憶手段51に記憶されたクラッチトルクTcとクラッチアクチュエータ17のロッド作動量Saとの対応関係における、クラッチ装置30の完全係合側の原点位置に置き換えて補正する。これによって製品毎に発生するマスタシリンダ65のアイドルポート65a位置等の静的なばらつきをキャンセルし好適に完全係合側の原点を得ることができる。
次に本発明に係る変速制御装置2の作動について図2、図3、図4、図5、図8を参照して説明する。なお、図8はタイムチャートであり、上方から実際のロッド作動量Sa(破線)、図4のマップに基づく目標ロッド作動量Sa(実線)、直流電動モータ61の駆動電流値Ic(A)、及びマスタシリンダ65の内部空間65bに発生する油圧(Pa)が同じ時系列で並べて記載されている。
ハイブリッド車両1が起動され発進する時には、モータジェネレータ12によって発進する。これにより発進時、エンジン11は始動されておらずクラッチ装置30の係合は切断されている。そして、その後、例えばモータジェネレータ12を駆動するバッテリの充電量が不足していたり、運転者がアクセルペダルを踏み込み加速を要求したりすることによってHV−ECU21がエンジンECU23に指令信号を送信し、スタータ73をONさせ、エンジン11が始動される。そして、この状態において、自動変速機13は例えば1速段に係合され、クラッチ装置30はクラッチアクチュエータ17の出力ロッド64が図2において右方に移動し完全係合される。
次に運転者がアクセルペダルを踏み込み加速を要求し入力軸回転数Niが1速段増速側の変速線(図5参照)を横切ると変速機ECU24は、自動変速機13を1速段から2速段にアップシフトするためにクラッチアクチュエータ17の作動を開始する。変速機ECU24はクラッチアクチュエータ17の出力ロッド64を図2において左方に移動させるために直流電動モータ61に駆動電流を印加し直流電動モータ61の作動を開始させる。このとき直流電動モータ61の駆動電流値Icは図8に示すように電流計28によって監視されており、電流計28によって取得した電流データは変速機ECU24に送信される。そして直流電動モータ61の駆動によって出力ロッド64は出力ホイール63を介して図2、図3において左方に移動され始める。このとき図8に示すようにマスタシリンダ65の内部空間65bに油圧が発生するまでの段階においては、アイドルポート65aを介してマスタシリンダ65内部とリザーバ40とが連通しているためマスタシリンダ65の内部空間65bは大気圧状態となっている。これにより出力ロッド64のピストン部64aが左方に移動しても押されたマスタシリンダ65の内部空間65bのオイルはアイドルポート65aを介してリザーバ40に逆流するだけであり、これによって油圧は上昇せず出力ロッド64を押す力は小さな力でよく直流電動モータ61の駆動電流値Icは小さい。なお、図8に示すように、アイドルポート65aが閉止されるまでの間にも初期において電流値は上昇しているが、これは出力ロッド64が実際に移動を開始したことによって、急激に上昇した分である。
次に、図3に示すように実線のピストン部64aの左端64cがアイドルポート65aの左端と一致し、アイドルポート65aをマスタシリンダ65の内部空間65bに対して閉止するとマスタシリンダ65の内部空間65bとリザーバ40とは遮断される。このためマスタシリンダ65の内部空間65b、及び油圧回路74からは、油圧の逃げ場がなくなり油圧が発生(上昇)し始める(図8参照)。
油圧が発生(上昇)し始める状態が原点位置補正手段53によって、油圧発生時アクチュエータ電流Iocとして検出される(図8中、油圧発生時アクチュエータ電流Ioc参照)。そして油圧発生時アクチュエータ電流Iocが検出された時点における、ストロークセンサ67(ロッド作動量検出手段)によって検出された実際の出力ロッド64のロッド作動量Sa位置(図8においてQ点)を検出する。次に検出したロッド作動量Sa位置(Q点)をクラッチトルク−作動量記憶手段51に記憶されたクラッチトルクTcとアクチュエータ17のロッド作動量Saとの対応関係における、クラッチ装置30の係合側の原点位置に置き換えRAMに記憶し、図4のマップを補正する。そして次回の制御時には補正されたマップによって制御を行なう。これにより、補正されたマップによって制御を行なった場合、図4に示すように目標クラッチトルクTrで制御したいときには、補正後の2点鎖線グラフに基づいて演算したロッド作動量Sabだけ作動させて制御すればよい。なお、本発明に係る制御の実施頻度は、初めに一回のみ実施すればよい。しかし、変速制御時に毎回実施してもよいし、一定の周期毎に実施してもよい。
上述の説明から明らかなように、本実施形態においてはクラッチアクチュエータ17は、クラッチアクチュエータ17が有する原点位置補正手段53によって直流電動モータ61の駆動電流値Icを監視し、出力ロッド64がマスタシリンダ65のアイドルポート65aを閉止することによって発生させる油圧発生時アクチュエータ電流Iocを検出するとともに、該油圧発生時アクチュエータ電流Ioc検出時の出力ロッド64の位置を検出する。そして該検出した出力ロッド64の位置をクラッチトルク−作動量記憶手段51に記憶されたクラッチトルクTcとクラッチアクチュエータ17のロッド作動量Saとの対応関係における、クラッチ装置30の係合側の原点位置に置き換える。これにより製品毎にばらつきのあるアイドルポート65aのばらつき分を良好に補正することができ、クラッチトルク−作動量記憶手段51に記憶されたクラッチトルクTcとクラッチアクチュエータ17のロッド作動量Saとの対応関係を補正して制御の精度を向上させることができる。
また本実施形態における車両は、自動変速機13の出力軸に回転連結されるとともに駆動輪にモータ減速比で回転連結されるモータジェネレータ12を備えたパラレル方式のハイブリッド車両1である。このように構成されるハイブリッド車両1では、搭載上の都合からクラッチ装置30の係脱を制御するクラッチアクチュエータ17をクラッチ装置30から離れた位置に配置することが必要となることがある。この場合には配管の配策次第で搭載位置を変更できる油圧式のアクチュエータが多く採用される。そのように油圧式のアクチュエータが採用された場合に本発明を適用することにより、マスタシリンダ65におけるアイドルポート65aの閉めきり位置のばらつき分を学習して好適に補正することができる。このように簡易な方法によって学習を実施しクラッチ制御の精度を向上させることができる。
また本実施形態における車両は、パラレル方式のハイブリッド車両1であるのでモータジェネレータ12のみの駆動力によって発進することもできる。そして、そのときには発進時におけるクラッチアクチュエータ17のロッド作動量Saの学習の機会が少なくなる。しかし、本発明では、少なくともスタシリンダ65におけるアイドルポート65aの閉めきり位置のばらつき分を学習して好適に補正することができる。これにより、クラッチ制御の精度を向上させることができる。
なお、本実施形態では、エンジン11とモータジェネレータ12とが並列的な関係にあって、それぞれが独立して車両を駆動可能な構成のハイブリッド車の例を挙げて説明した。しかし、この構成に限らず、モータジェネレータとエンジンとが直列に連結されモータジェネレータで出力される駆動力が、差動装置(ディファレンシャル)14に伝達されるハイブリッド車や、エンジンのみによって走行する一般的な車両のクラッチ学習制御にも適用可能である。さらには、A/T車におけるトルクコンバータのクラッチ学習制御にも適用可能である。