JP2012200782A - 隅肉溶接継手 - Google Patents

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Abstract

【課題】板厚50mm以上の極厚鋼板の隅肉継手で疲労特性に優れた隅肉溶接継手を提供する。
【解決手段】板厚50mm以上の板厚方向の耐疲労特性に優れた厚鋼板の隅肉継手を、入熱30kJ/cm以下、3層6パス以下の積層で溶接し、前記厚鋼板は、少なくとも、鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に2mmの位置から板厚の3/10位置までの範囲において、板面に平行な(110)面のX線強度比が2.0以上、板面に平行な(100)面のX線強度比が1.1以下の集合組織を有し、更に、板厚方向圧縮残留応力の平均値が、160MPa以上で、もしくは、鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に4mmまでの範囲において、板厚方向と直角方向の圧縮残留応力が100MPa以上とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、隅肉溶接継手に関し、特に板厚50mm以上の極厚鋼板の継手で疲労特性に優れたものに関する。
船舶、海洋構造物、橋梁、建築物、圧力容器などの溶接鋼構造物に使用される鋼板は、強度、靭性などの機械的性質や溶接性に優れていることはもちろんであるが、稼動時における定常の繰返し荷重や、風、地震等の震動に起因する非定常の繰返し荷重に対しても、構造物の構造安全性を確保できる特性を有することが要求される。特に近年では、鋼板に対して、耐疲労特性に優れることが強く要求されている。
溶接鋼構造物では、溶接止端部等に多数の応力集中部が存在するが、溶接止端部には応力が集中しやすく、また、引張の残留応力も作用するため、繰返し荷重が作用した場合には、溶接止端部から疲労亀裂が発生しやすく、溶接止端部が疲労亀裂の発生源となることが多い。
このような疲労亀裂の発生を防止するために、止端部形状の改善や、圧縮の残留応力の導入などの方策が知られている。しかし、溶接鋼構造物には多数の溶接止端部が存在するため、溶接止端部ごとに、上記した疲労亀裂の発生を防止する方策を実行することは、多大の労力と時間を必要とし、施工工数の増加や、施工コストの高騰を招く。
そこで、このような疲労亀裂の発生を防止する方策に代えて、使用する鋼板自体の耐疲労特性を向上させて、溶接鋼構造物の耐疲労特性の向上を図ることが考えられている。鋼板自体の耐疲労特性を向上させることにより、疲労亀裂の成長が抑制されて、溶接鋼構造物の疲労寿命の延長が可能となる。
耐疲労特性に優れた鋼板として例えば、特許文献1では、鋼板圧延方向に延在する縞状の第二相が母相内に5〜50%の面積率で散在する微視組織を有し、第二相の硬さHが母相の硬さHより30%以上高い、耐疲労亀裂進展特性の良好な鋼板が提案されている。
特許文献1に記載された技術は、母相中に、硬さの高い第二相を分散させ、疲労亀裂が硬い第二相付近に達すると亀裂の伝播が大幅に遅延する現象により、鋼板の耐疲労亀裂伝播特性を向上させるもので、第二相のアスペクト比を4以上とすることが好ましいとしている。このような鋼板を、表面から疲労亀裂が発生し伝播する大型構造物に使用すれば、特別な配慮を必要とせず、高い疲労亀裂伝播阻止特性を大型構造物に付与可能であることが記載されている。
また、溶接継手の中では、角回し溶接、十字溶接、カバープレート溶接、スタッド溶接などの隅肉溶接継手の疲労強度が最も低いことが知られ、特に最近の大型コンテナ船等に適用される極厚鋼板の隅肉溶接継手における疲労強度の改善が喫緊の課題とされている。
隅肉溶接継手の場合、溶接止端部から発生した疲労き裂は板厚方向に進展するため板厚方向の耐疲労特性に優れた鋼板を用いることが継手としての耐疲労特性を向上させるために有効である。
特許文献2には、質量%で、C:0.015〜0.20%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.1〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物よりなり、X線で測定した板厚方向の(200)回折強度比が2.0〜15.0で、且つ回復または再結晶フェライト粒の面積率が15〜40%である、板厚方向の疲労き裂伝播速度が低い厚鋼板が記載されている。
特開平7−90478号公報 特開平8−199286号公報
特許文献1に記載された技術では、疲労亀裂伝播速度を低くし、疲労亀裂の伝播を著しく遅滞させるため、母相に比べ第二相の硬さを高くし、さらに硬質の第二相を多量に分散させる必要がある。このため、鋼板の延性、靭性の低下が著しくなるという問題が生じる。鋼板の延性、靭性の低下は、多量の合金元素の含有で防止できる場合もあるが、多量の合金元素の含有は、材料コストの高騰を招くという問題を避けられない。
また、特許文献2に記載された技術では、板厚方向の(200)回折強度比を2.0以上とし、すなわち、(100)面が板面に平行に揃った集合組織を発達させ、疲労亀裂先端で種々のすべり系を活動させ転位同士の干渉を生じさせ、亀裂の伝播を抑制して板厚方向の疲労亀裂伝播速度を低くしている。しかし、(100)面は劈開面であり、板面に平行に(100)面が揃った厚鋼板では、板厚方向の靭性が劣化するという問題を残していた。更に、特許文献1、2記載の技術では、疲労亀裂伝播速度は低減するが、疲労亀裂発生寿命を含むトータルの疲労寿命は顕著には増加しない。
上述したように、特許文献1、2に記載された耐疲労特性に優れた厚鋼板は溶接構造物用としては、コストや性能面で改善すべき余地があり、一方、隅肉溶接継手の製作においても、継手としての耐疲労特性を向上する溶接法は明らかにされていない。
そこで、本発明は板厚方向の耐疲労特性に優れた厚鋼板を用いた隅肉継手で耐疲労特性に優れた隅肉溶接継手を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するため、厚鋼板の板厚方向の耐疲労特性に及ぼす集合組織と鋼板内の圧縮残留応力の影響および隅肉溶接継手の溶接条件が継手の耐疲労特性に及ぼす影響について鋭意研究を重ね、以下の知見を得た。
厚鋼板の板厚方向の耐疲労特性を向上させるためには、(1)少なくとも、鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に2mmの位置から板厚の3/10位置までの範囲を、板面に平行に、(110)面を発達させた組織((110)集合組織)とする。
(2)上記(1)においてさらに、板面に平行に、(100)面の発達を抑制した組織とする。(3)板厚方向圧縮残留応力を導入し、その平均値をできるだけ小さくする(圧縮側にする)。
(4)鋼板の板厚方向と直角方向の圧縮残留応力を、鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に4mmまでの範囲において、100MPa以上とすることも有効である。
また、(5)隅肉溶接継手作製の際の溶接入熱と積層数を制限することが、隅肉溶接部の疲労強度を向上させるのに有効である。
尚、本発明は板厚50mm以上の厚鋼板の隅肉溶接継手を対象とする。板厚50mm未満では、板厚効果による疲労強度の低下はそれほど顕著ではなく、また、過去の多くの疲労試験データベースに基づいた各種疲労設計曲線に準拠すれば、本発明を用いなくとも耐疲労安全性は確保される。「耐疲労特性に優れた」とは、図1に示す寸法形状の切欠付3点曲げ隅肉溶接継手疲労試験片を用いて、応力比が0.1となる条件で疲労試験を実施して、板厚方向の疲労寿命を求め、応力範囲340MPaでの疲労寿命が25万回以上の場合とする。
本発明は、上記知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)板厚50mm以上の板厚方向の耐疲労特性に優れた厚鋼板の隅肉部を、入熱30kJ/cm以下、3層6パス以下の積層で溶接することを特徴とする、疲労強度の優れた隅肉溶接継手。
(2)前記板厚50mm以上の厚鋼板が、少なくとも、鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に2mmの位置から板厚の3/10位置までの範囲において、板面に平行な(110)面のX線強度比が2.0以上となる部位を有することを特徴とする(1)に記載の疲労強度の優れた隅肉溶接継手。
(3)前記板厚50mm以上の厚鋼板の前記組織が、さらに板面に平行な(100)面のX線強度比が1.1以下であることを特徴とする(2)に記載の疲労強度の優れた隅肉溶接継手。
(4)前記板厚50mm以上の厚鋼板の板厚方向圧縮残留応力の平均値が、160MPa以上であることを特徴とする(2)または(3)に記載の疲労強度の優れた隅肉溶接継手
(5)前記板厚50mm以上の厚鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に4mmまでの範囲において、板厚方向と直角方向の圧縮残留応力が100MPa以上であることを特徴とする(1)に記載の疲労強度の優れた隅肉溶接継手。
本発明によれば、疲労強度が特に問題となる板厚50mm以上の厚鋼板の隅肉溶接部の疲労特性を溶接構造物としての延性、靭性を備えた厚鋼板を用いて容易に、且つ安価に向上でき、産業上格段の効果を奏する。
疲労試験に使用する切欠付3点曲げ隅肉溶接継手疲労試験片の寸法形状を模式的に示す説明図。 隅肉溶接継手に適用する厚鋼板の板厚方向断面における、進展する疲労亀裂先端でのすべりの発生状況を模式的に示す説明図。 疲労試験に使用する切欠付3点曲げ疲労試験片の寸法形状を模式的に示す説明図。 隅肉溶接継手の溶接条件を説明する図。
本発明では、板厚方向の耐疲労特性に優れた厚鋼板の隅肉継手の溶接条件として溶接入熱(kJ/cm)と積層方法を規定する。溶接入熱(入熱と言う場合がある)は30kJ/cm以下とする。30kJ/cmを超える入熱で隅肉溶接すると、溶接の熱影響により、鋼板の組織あるいは内部残留応力の形態が変化し、板厚方向の耐疲労特性に優れた鋼板の疲労特性に悪影響を及ぼすため30kJ/cm以下とする。
また、溶接入熱30kJ/cm以下であっても3層6パスを超える積層で隅肉溶接継手を作製すると、溶接止端部の圧縮残留応力が高くなり、疲労特性向上効果が得られなくなるため、積層は3層6パス以下とする。なお、溶接法は特に規定しない。手溶接、MIG溶接、CO溶接などが適用できる。
板厚50mm以上の板厚方向の耐疲労特性に優れた厚鋼板として以下に述べる厚鋼板1(特定の組織、板厚方向圧縮残留応力を備えたもの)または厚鋼板2(板厚方向と直角方向の圧縮残留応力を備えたもの)が好ましい。まず、厚鋼板1の組織と板厚方向圧縮残留応力について説明する。
[組織]
少なくとも鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に2mmの位置から板厚の3/10位置までの範囲において、板面に平行な(110)面のX線強度比が2.0以上となる集合組織を有する。
板厚方向に進展する疲労亀裂(亀裂面が板厚面)の進展(伝播)を抑制するために、(110)面を、亀裂面(板厚面)から90°傾けた組織、すなわち、板面に平行に(110)面を集積させた組織((110)集合組織)とし、X線強度比を2.0以上とする。
図2は板厚方向断面における、進展する疲労亀裂先端でのすべりの発生状況を説明する模式図である。一般に、疲労亀裂は、繰返し応力の作用により、亀裂先端で、剪断応力が最大となる亀裂面から45°程度傾いた面で不可逆なすべりが生じ、それが蓄積して進展していく(亀裂先端の応力場と結晶方位の関係で剪断応力が最も高くなるすべり系(すべり面すべり方向)ですべり変形が生じ、亀裂が進展していく)。
従って、体心立方(bcc)構造鋼板の主すべり面である(110)面を、亀裂面から90°傾けると、剪断応力が最大となる。例えば、亀裂面から45°程度傾いた面でのすべりが抑制される。
また、板面に平行な(110)面のX線強度比が2.0未満では疲労亀裂伝播速度を低下させて、板厚方向の疲労特性を向上させる効果が十分得られないので、2.0以上とする。なお、板面に平行な(110)面のX線強度比とは、ランダムな方位を有する鋼板における板面に平行な(110)面からのX線強度を基準とし、それに対する、板面に平行に存在する(110)面からのX線強度の比をいう。板面に平行な(110)面のX線強度比が2.0以上とは、ランダムな結晶方位を有する鋼板に比して、板面に平行な(110)面が2.0倍以上に高く集積して、(110)集合組織を形成していることを意味する。
板厚方向に伝播する疲労亀裂は、鋼板表面近傍の応力集中部、たとえば表面に取り付けられた部材等の溶接部から発生するが、当該部位、特に鋼板表面から2mm迄の部位においては、部材等の取り付けのための溶接熱により付与された集合組織が消失してしまう。
一方、板厚中央部まで進展した疲労亀裂は、亀裂が大きくなっており、亀裂先端の応力拡大係数が大きく、繰返し荷重1サイクル当たりの疲労亀裂進展量が大きくなり、(110)集合組織の存在による疲労亀裂伝播速度の低減効果がほとんど得られない。
従って、上記集合組織を、少なくとも鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に2mmの位置から板厚の3/10位置までの範囲に形成する。但し、鋼板全体を(110)集合組織としてもよく、板厚方向全体を上記集合組織とすることを妨げるものではない。
体心立方(bcc)構造鋼板では、(100)面は劈開面であり、板面に平行な(100)面の存在は、板厚方向の靭性を低下させ、(100)面が板面に平行に発達すると、(110)集合組織の形成を阻害するので、少なくとも鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に2mmの位置から板厚の3/10位置までの範囲において、板面に平行な(100)面のX線強度比を1.1以下、好ましくは可能な限り低減する。なお、板面に平行な(100)面のX線強度比とは、ランダムな方位を有する鋼板における板面に平行な(100)面からのX線強度を基準とし、それに対する、板面に平行に存在する(100)面からのX線強度の比をいう。板面に平行な(100)面のX線強度比が1.1以下とは、ランダムな方位を有する鋼板に比して、板面に平行な(100)面の集積が1.1倍以下であり、(100)集合組織をほとんど形成していないことを意味する。
[板厚方向圧縮残留応力]
板厚方向の圧縮残留応力は、板厚方向の靭性低下抑制および板厚方向の疲労亀裂伝播速度低減に有効であるが、160MPa未満では、前述した、優れた耐疲労特性が得られないため、160MPa以上とする。板厚方向圧縮残留応力の平均値は、X線測定により板厚方向(亀裂伝播方向)の残留応力を板厚方向に4mmピッチで測定し、その圧縮側の値(マイナス側の値)の平均値の絶対値とした。
次に、厚鋼板2の板厚方向と直角方向の圧縮残留応力について説明する。板厚方向の耐疲労特性を向上させる場合、厚鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に4mmまでの範囲において、板厚方向と直角方向の圧縮残留応力を100MPa以上とすることも有効である。
溶接構造物の製作において鋼板表面部への仮付溶接あるいは打ち傷等が避けられず、鋼板のごく表面部においては圧縮残留応力が損なわれるので、100MPa以上の圧縮残留応力の存在する範囲を鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に4mmとする。
一方、圧縮残留応力の範囲が表面から4mmを超えて板厚の内部にまで拡がると、内部応力のバランスから疲労亀裂が発生する表面部付近の圧縮残留応力が小さくなるため、鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に4mmまでの範囲とする。
上記範囲内における板厚方向に直角方向の圧縮残留応力は100MPa以上とする。疲労亀裂の伝播抑制には、亀裂面(亀裂伝播面)と直角方向に圧縮応力を作用させることが有効である。本発明は板厚方向に伝播する亀裂を対象とするので、圧縮残留応力の圧縮方向を板厚方向と直角方向とする。
圧縮残留応力が100MPa未満では、疲労亀裂伝播速度は低減されるものの、疲労寿命の向上につながるほど顕著な効果は得られないため、100MPa以上とする。なお、より好ましくは、150MPa以上である。鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に4mmまでの範囲を超える鋼板内の板厚方向に直角方向の圧縮残留応力については特に規定しないが、通常、板厚方向に4mmまでの範囲内より小さい大きさとなる。
上述した板厚方向の耐疲労特性に優れた、板厚50mm以上の厚鋼板1、2に溶接鋼構造物用としての強度と靭性(引張強さTS:490MPa以上、−40℃における吸収エネルギー:200J以上)を兼備させるための、成分組成と製造条件は本発明においては特に規定しないが、好ましい、成分組成と製造条件は以下の様である。
厚鋼板1の場合
[成分組成] 説明において%は質量%とする。
C:0.03〜0.15%
Cは、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、所望の高強度を確保するためには、0.03%以上含有することが好ましいが、0.15%を超えて含有すると、溶接熱影響部靭性が低下する。このため、Cは0.03〜0.15%の範囲に限定することが好ましい。
Si:0.60%以下
Siは、脱酸剤として作用するとともに、固溶して鋼の強度を増加させる作用を有する元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましい。一方、0.60%を超える含有は、溶接熱影響部靭性を低下させる。このため、Siは0.60%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.50%以下である。
Mn:0.80〜1.80%
Mnは、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、所望の高強度を確保するためには、0.80%以上含有することが好ましいが、1.80%を超えて含有すると、母材靭性の低下が懸念される。このため、Mnは0.80〜1.80%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.9〜1.60%である。
Ti:0.005〜0.050%、Nb:0.001〜0.1%のうちから選ばれた1種または2種
Ti、Nbは、析出強化を介して強度を増加させるとともに、加熱時のオーステナイト粒の成長を抑制し鋼板組織の微細化に寄与する元素であり、本発明では1種または2種を含有する。
Tiは、炭化物、窒化物を形成し、鋼板製造時のオーステナイト粒の微細化に寄与するとともに、溶接熱影響部の結晶粒粗大化を抑制し、溶接熱影響部靭性を向上させる。このような効果を得るためには、0.005%以上含有することが好ましい。一方、0.050%を超える含有は、靭性を低下させる。このため、Tiは0.005〜0.050%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.005〜0.02%である。
Nbは、Tiと同様に、析出強化を介して強度を増加させ、さらに組織を微細化するとともに、オーステナイトの再結晶を抑制し、所望の組織を形成するための圧延による効果を促進する作用を有する。このような効果を得るためには、0.001%以上含有することが好ましいが、0.1%を超える含有は、組織が針状化し靭性が低下する傾向となる。このため、Nbは0.001〜0.1%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.02〜0.05%である。
更に特性を向上させる場合、上記基本成分に加えて、Cu、Ni、Cr、Mo、V、W、Zr、B、Alの1種または2種以上を含有することができる。
Cu:2.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:0.6%以下、Mo:0.6%以下、V:0.2%以下、W:0.5%以下、Zr:0.5%以下、B:0.0050%以下の1種または2種以上
Cu、Ni、Cr、Mo、V、W、Zr、Bは、鋼の強度および靭性を向上させる元素で、所望する特性に応じて1種または2種以上を含有する。
Cuは、主として析出強化を介して鋼の強度増加に寄与する。このような効果を得るためには、0.05%以上含有することが望ましいが、2.0%を超える含有は、析出強化が過多となり、靭性が低下する。このため、含有する場合には、Cuは2.0%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.35%以下である。
Niは、鋼の強度を増加するとともに、靭性向上にも寄与する。また、Niは、Cuによる熱間圧延時の割れを防止するために有効に作用する。このような効果を得るためには、0.05%以上含有することが望ましい。しかし、2.0%を超えて多量に含有しても、効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できなくなり経済的に不利となるとともに、Niは高価な元素であり多量の含有は材料コストの高騰を招く。このため、含有する場合には、Niは2.0%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.1%以上である。
Crは、パーライト量を増加させ、鋼の強度増加に寄与する。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましいが、0.6%を超える含有は、溶接部の靭性を低下させる。このため、含有する場合には、Crは0.6%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.01〜0.2%である。
Moは、鋼の強度増加に寄与する。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましいが、0.6%を超える含有は、溶接部の靭性を低下させる。このため、含有する場合には、Moは0.6%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.01〜0.08%である。
Vは、固溶強化、析出強化を介して鋼の強度増加に寄与する。このような効果を得るためには、0.05%以上含有することが望ましいが、0.2%を超える含有は、母材靭性および溶接性を顕著に低下させる。このため、Vは0.2%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.05〜0.1%である。
Wは、鋼の強度増加、とくに高温の強度増加に寄与する。このような効果を得るためには、0.1%以上含有することが望ましいが、0.5%を超える多量の含有は、溶接部の靭性を低下させる。また、高価なWの多量含有は材料コストの高騰を招く。このため、含有する場合には、Wは0.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.2〜0.4%である。
Zrは、鋼の強度増加に寄与するとともに、亜鉛めっき処理材における耐めっき割れ性を向上させる。このような効果を得るためには0.01%以上含有することが望ましいが、0.5%を超える含有は、溶接部靭性を低下させる。このため、含有する場合には、0.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.01〜0.1%である。
Bは、焼入れ性の向上を介し鋼の強度増加に寄与するとともに、圧延中にBNとして析出し、圧延後のフェライト粒の微細化に寄与する。このような効果を得るためには、0.0010%以上含有することが望ましいが、0.0050%を超える含有は靭性を劣化させる。このため、含有する場合には、Bは0.0050%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.0010〜0.0035%である。
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として作用するとともに、結晶粒の微細化にも寄与し、このような効果を得るためには、0.015%以上含有することが望ましいが、0.1%を超える過剰の含有は、靭性の低下に繋がる。このため、含有する場合には、Alは0.1%以下に限定した。なお、好ましくは0.08%以下である。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物で、P:0.035%以下、S:0.035%以下、N:0.012%以下などが許容できる。
[製造条件]
スラブ等の鋼素材の製造方法は、とくに限定しない。上記組成の溶鋼を、転炉等の常用の溶製炉を用いて溶製し、連続鋳造法等の常用の方法で、スラブ等の鋼素材とし、900〜1350℃の温度に加熱する。
加熱温度が900℃未満では、所望の熱間圧延が困難となる。一方、1350℃を超える加熱温度では、表面酸化が顕著となり、また、結晶粒の粗大化が顕著となる。このため、鋼素材の加熱温度は、900〜1350℃の範囲の温度に限定することが好ましい。なお、より好ましくは、靭性向上の観点から、1150℃以下である。
加熱された鋼素材に、熱間圧延を施す。熱間圧延は第一の圧延と、第二の圧延を備え、第一の圧延は、オーステナイト部分再結晶温度以上の温度域(上記成分組成の場合、オーステナイト部分再結晶温度以上の温度域は、表面温度で1000〜850℃)で累積圧下率10%以上とする。オーステナイト粒が少なくとも部分的に再結晶するため、鋼板組織を微細かつ均一にすることができる。なお、少なくともオーステナイト粒が部分的に再結晶するためには、累積圧下率:10%以上とすることが好ましい。圧延温度域が、オーステナイト未再結晶温度域では、結晶粒の均一化が期待できなくなる。なお、累積圧下率の上限は、第二の圧延の圧下率確保の観点から30%とすることが好ましい。
上記した第一の圧延後、鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に2mmの位置から板厚の3/10位置までの範囲が、二相組織となる温度域で、各パスの平均圧下率が3.5%未満かつ累積圧下率:50%以上、圧延終了温度:600℃以上の第二の圧延を施す。
第二の圧延において、各パスの平均圧下率は、鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に2mmの位置から板厚の3/10位置までの範囲に剪断歪を導入し、累積圧下率50%以上とし、圧延終了温度:600℃以上とした場合に、板面に平行な(110)面のX線強度比が2.0以上の(110)集合組織を形成するため、3.5%未満とする。
累積圧下率が50%未満では、板面に平行な(110)面のX線強度比が2.0以上とすることができない。
なお、上記組成範囲の場合、表面温度が900〜600℃の温度域で鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に2mmの位置から板厚の3/10位置までの範囲が略二相組織となる。圧延終了温度は表面温度で600℃以上、の温度域の温度とする。
圧延終了温度が、表面温度で600℃未満では、フェライトに過度の加工歪が導入され靭性が低下するため、600℃以上、好ましくは850〜600℃とする。
上記製造方法による厚鋼板は、少なくとも、鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に2mmの位置から板厚の3/10位置までの範囲で板面に平行な(100)面のX線強度比が1.1以下となり、板厚方向の靭性劣化が抑制される。
熱間圧延では、板厚50mm以上の鋼板とする。板厚が50mm未満では、熱間圧延時に、少なくとも、鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に2mmの位置から板厚の3/10位置までの範囲に、(110)集合組織の発達に有効な剪断歪を導入することが困難となる。更に、板厚が50mm未満では、板厚方向圧縮残留応力の導入により鋼板座屈性能の低下が懸念される。以上より、板厚50mm以上の厚鋼板とする。また、熱間圧延は第一の圧延と第二の圧延の他に、これら圧延の作用効果を損なわない範囲で圧延を施しても良い。
第二の圧延後、冷却速度1℃/s以上で加速冷却を施す。冷却速度1℃/s未満では、板厚方向圧縮残留応力の平均値を160MPa以上とすることが困難なため、1℃/s以上とする。なお、より好ましくは、5℃/s以上の冷却速度で400℃以下まで冷却する。
なお、熱間圧延では、板厚50mm以上の鋼板とする。先に述べた理由以外に、板厚が50mm未満では、熱間圧延時に、少なくとも、鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に2mmの位置から板厚の3/10位置までの範囲に、(110)集合組織の発達に有効な剪断歪を導入することが困難となる。更に、板厚が50mm未満では、板厚方向圧縮残留応力の導入により鋼板座屈性能の低下が懸念される。熱間圧延は第一の圧延と第二の圧延の他に、これら圧延の作用効果を損なわない範囲で圧延を施しても良い。
第二の圧延後、冷却速度1℃/s以上で加速冷却を施す。冷却速度1℃/s未満では、板厚方向圧縮残留応力の平均値を160MPa以上とすることが困難なため、1℃/s以上とする。なお、より好ましくは、5℃/s以上の冷却速度で400℃以下まで冷却する。
厚鋼板2の場合
[成分組成] 説明において%は質量%とする。
C:0.03〜0.15%
Cは、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、所望の高強度を確保するためには、0.03%以上含有することが好ましいが、0.15%を超えて含有すると、溶接熱影響部靭性が低下する。このため、Cは0.03〜0.15%の範囲に限定することが好ましい。
Si:1.0%以下
Siは、脱酸剤として作用するとともに、固溶して鋼の強度を増加させる作用を有する元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましい。一方、1.0%を超える含有は、溶接熱影響部靭性を低下させる。このため、Siは1.0%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.50%以下である。
Mn:1.0〜2.0%
Mnは、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、所望の高強度を確保するためには、1.0%以上含有することが好ましいが、2.0%を超えて含有すると、母材靭性の低下が懸念される。このため、Mnは1.0〜2.0%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.9〜1.60%である。
Ti:0.005〜0.05%、Nb:0.001〜0.05%の1種または2種
Ti、Nbは、析出強化を介して強度を増加させるとともに、加熱時のオーステナイト粒の成長を抑制し鋼板組織の微細化に寄与する元素であり、本発明では1種または2種を含有する。
Tiは、炭化物、窒化物を形成し、鋼板製造時のオーステナイト粒の微細化に寄与するとともに、溶接熱影響部の結晶粒粗大化を抑制し、溶接熱影響部靭性を向上させる。このような効果を得るためには、0.005%以上含有することが好ましい。一方、0.05%を超える含有は、靭性を低下させる。このため、Tiは0.005〜0.05%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.005〜0.02%である。
Nbは、Tiと同様に、析出強化を介して強度を増加させ、さらに組織を微細化するとともに、オーステナイトの再結晶を抑制し、所望の組織を形成するための圧延による効果を促進する作用を有する。このような効果を得るためには、0.001%以上含有することが好ましいが、0.05%を超える含有は、組織が針状化し靭性が低下する傾向となる。このため、Nbは0.001〜0.05%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.02〜0.05%である。
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として作用するとともに、結晶粒の微細化にも寄与する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、0.015%以上含有することが望ましいが、0.1%を超える過剰の含有は、靭性の低下に繋がる。このため、含有する場合には、Alは0.1%以下に限定した。なお、好ましくは0.08%以下である。
N:0.0035〜0.0075%
Nは、TiNの必要量を確保するために必要な元素で、0.0035%未満では十分なTiN量が得られず、0.0075%を超えると溶接熱サイクルによってTiNが溶解する領域において固溶N量が増加して、いずれの場合も溶接部の靭性を著しく低下させるため、0.0075%以下とする。
更に特性を向上させる場合、上記基本成分に加えて、Cu、Ni、Cr、Mo、V、W、Zr、B、Caの1種または2種以上を含有することができる。
Cu:0.01〜0.5%、Ni:2.0%以下、Cr:0.01〜0.5%、Mo:0.01〜0.5%、V:0.001〜0.1%、W:0.5%以下、Zr:0.5%以下、Ca:0.0005〜0.0030%、B:0.0005〜0.0020%の1種または2種以上
Cu、Ni、Cr、Mo、V、W、Zr、Bは、鋼の強度および靭性を向上させる元素で、所望する特性に応じて1種または2種以上を含有する。
Cuは、主として析出強化を介して鋼の強度増加に寄与する。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましいが、0.5%を超える含有は、析出強化が過多となり、靭性が低下する。このため、含有する場合には、Cuは0.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.35%以下である。
Niは、Cuによる熱間圧延時の割れを防止するために有効に作用する。このような効果を得るためには、0.05%以上含有することが望ましい。しかし、2.0%を超えて多量に含有しても、効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できなくなり経済的に不利となるとともに、Niは高価な元素であり多量の含有は材料コストの高騰を招く。このため、含有する場合には、Niは2.0%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.1%以上である。
Crは、パーライト量を増加させ、鋼の強度増加に寄与する。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましいが、0.5%を超える含有は、溶接部の靭性を低下させる。このため、含有する場合には、Crは0.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.01〜0.2%である。
Moは、鋼の強度増加に寄与する。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましいが、0.5%を超える含有は、溶接部の靭性を低下させる。このため、含有する場合には、Moは0.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.01〜0.08%である。
Vは、固溶強化、析出強化を介して鋼の強度増加に寄与する。このような効果を得るためには、0.001%以上含有することが望ましいが、0.1%を超える含有は、母材靭性および溶接性を顕著に低下させる。このため、Vは0.1%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.05〜0.1%である。
Wは、鋼の強度増加、とくに高温の強度増加に寄与する。このような効果を得るためには、0.1%以上含有することが望ましいが、0.5%を超える多量の含有は、溶接部の靭性を低下させる。また、高価なWの多量含有は材料コストの高騰を招く。このため、含有する場合には、Wは0.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.2〜0.4%である。
Zrは、鋼の強度増加に寄与するとともに、亜鉛めっき処理材における耐めっき割れ性を向上させる。このような効果を得るためには0.01%以上含有することが望ましいが、0.5%を超える含有は、溶接部靭性を低下させる。このため、含有する場合には、0.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.01〜0.1%である。
Bは、焼入れ性の向上を介し鋼の強度増加に寄与するとともに、圧延中にBNとして析出し、圧延後のフェライト粒の微細化に寄与する。このような効果を得るためには、0.0005%以上含有することが望ましいが、0.0020%を超える含有は靭性を劣化させる。このため、含有する場合には、Bは0.0020%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.001〜0.003%である。
Ca:0.0005%〜0.0030%
Caは、Sの固定による靭性改善効果を有する元素である。このような効果を発揮させるには少なくとも0.0005%は含有することが必要であるが、0.0030%を超えて含有しても効果が飽和するため、0.0005%〜0.0030%とする。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物で、P:0.035%以下、S:0.035%以下などが許容できる。
[製造条件]
スラブ等の鋼素材の製造方法は、とくに限定しない。上記組成の溶鋼を、転炉等の常用の溶製炉を用いて溶製し、連続鋳造法等の常用の方法で、スラブ等の鋼素材とし、1000〜1250℃の温度に加熱する。
加熱温度が1000℃未満では、所望の熱間圧延が困難となる。一方、1250℃を超える加熱温度では、表面酸化が顕著となり、また、結晶粒の粗大化が顕著となる。このため、鋼素材の加熱温度は、1000〜1250℃の範囲の温度に限定することが好ましい。なお、より好ましくは、靭性向上の観点から、1200℃以下である。
加熱された鋼素材に、熱間圧延を施す。熱間圧延は、(Ar3点+50)℃以上の温度域において累積圧下率30%以上の圧延を行い、後述の冷却条件との組み合わせで、鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に4mmまでの範囲に、100MPa以上の板厚方向に直角方向の圧縮残留応力を導入する。Ar3点は、例えば、Ar3(℃)=910−273×C−74×Mn−57×Ni−16×Cr−9×Mo−5×Cu(各元素は含有量(質量%))で求めることが可能である。
熱間圧延では、板厚50mm以上の鋼板とする。圧縮残留応力は、疲労特性を向上させるが、座屈性能を低下させ、その低下は板厚が薄い鋼板ほど顕著で板厚50mm未満では鋼板自体の座屈性能の低下が懸念されるため、板厚50mm以上とする。
尚、本発明は規定した温度域外での圧延を制限するものではなく、スラブ加熱後の高温で実施する粗圧延などを行うことが可能である。
圧延終了後、3℃/s以上の冷却速度にて350℃以下まで冷却する。冷却速度、冷却停止温度のどちらかが上記規定を外れると、鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に4mmまでの範囲において、板厚方向に直角となる100MPa以上の圧縮残留応力が得られない。より好ましくは、5℃/s以上の冷却速度にて300℃以下まで冷却する。
表1に化学成分、表2に製造条件および特性を示す板厚50〜80mmの板厚方向の疲労特性に優れる厚鋼板1、表4に化学成分、表5に製造条件および特性を示す板厚55〜70mmの板厚方向の疲労特性に優れる厚鋼板2を用いて、隅肉溶接継手を作製し、図1に形状を示す切欠付3点曲げ隅肉溶接継手疲労試験片を用いて3点曲げ疲労試験を実施した。厚鋼板1、2の組織、機械的特性および板厚方向疲労特性を確認するための試験方法は次の(1)〜(6)のとおりとした。
(1)組織観察
得られた厚鋼板の板厚の1/4位置(表面から板厚方向に2mm〜板厚の3/10位置の範囲の代表)から、板面に平行に組織観察用試験片(大きさ:厚さ1.5mm×幅25mm×長さ30mm)を採取し、X線回折法により、板面に平行な(110)面および(100)面のX線回折強度を求めた。得られたX線回折強度と、ランダム試験片の(110)面および(100)面のX線回折強度との比を、それぞれ、板面に平行な(110)面のX線強度比、板面に平行な(100)面のX線強度比とした。
(2)板厚方向圧縮残留応力測定
得られた厚鋼板から、X線残留応力測定用試験片(大きさ:板厚(鋼板元厚まま)×12.5mm×300mm[板厚方向寸法×圧延垂直方向寸法×圧延方向寸法])を採取し、測定面[寸法12.5mm×350mmの面]に電解研磨を施した後、板厚方向に4mmピッチでX線により板厚方向圧縮残留応力を測定した。測定された残留応力の内、圧縮側(マイナス側)の値を平均し、その絶対値を、板厚方向圧縮残留応力の平均値とした。
(3)板厚方向に垂直方向の圧縮残留応力測定
得られた厚鋼板から、X線残留応力測定用試験片(大きさ:板厚(鋼板元厚まま)×12.5mm×300mm[板厚方向寸法×圧延垂直方向×圧延方向])を採取し、測定面[寸法12.5mm×350mmの面]に電解研磨を施した後、板厚方向に4mmピッチでX線により板厚方向に垂直方向の残留応力を測定した。板厚方向に4mmピッチで測定するライン数は5ラインとした。測定された5ラインの残留応力を各板厚位置毎に5点平均して求めた残留応力の板厚方向分布図から、表面/裏面から4mmの位置における残留応力(マイナスの値)を求め、その絶対値を、圧縮残留応力とした。
(4)引張試験
得られた厚鋼板から、JIS Z 2201(1998)の規定に準拠して、引張方向が鋼板の圧延方向と直角方向となるように、JIS 4号引張試験片(平行部径:14mm)を採取した。試験片の採取位置は、板厚の1/4位置(表面から板厚方向に2mm〜板厚の3/10位置の範囲の代表)とした。引張試験は、JIS Z 2241(1998)に準拠して行い、YS:降伏強さまたは0.2%耐力、TS:引張強さ、伸びELを求め、静的引張時の引張特性を評価した。
(5)靭性試験
得られた厚鋼板から、JIS Z 2242(2005)の規定に準拠して、長手方向が圧延方向に平行となるように、Vノッチ試験片を採取し、−40℃における吸収エネルギーを求め、靭性を評価した。なお、Vノッチ試験片は、板厚の1/4位置(表面から板厚方向に2mm〜板厚の3/10位置の範囲の代表)から採取した。
(6)板厚方向疲労特性確認試験
得られた厚鋼板から、疲労亀裂の伝播方向が板厚方向となるように、疲労試験用試験片(大きさ:板厚(鋼板元厚まま)×12.5mm×300〜350mm[板厚方向寸法×圧延垂直方向寸法×圧延方向寸法])を採取した。試験片は、図3に示す寸法形状の切欠き付き3点曲げ疲労試験片であり、疲労試験時の曲げスパンを板厚の4倍とするため、板厚が50〜65mmの場合、圧延方向寸法を300mm、板厚が80mmの場合、圧延方向寸法を350mmとした。疲労試験は、応力範囲が340MPa、応力比R(=最小荷重/最大荷重)が0.1となる条件で疲労試験を実施して、板厚方向の疲労特性(疲労寿命)を求めた。
上述した試験により特性を確認した厚鋼板1、2を用いて、図4に示す条件にて隅肉溶接継手を作製し、疲労試験を実施した。疲労試験片として、図1に示す寸法形状の切欠付3点曲げ隅肉溶接継手疲労試験片を用い、応力範囲が340MPa、応力比R(=最小荷重/最大荷重)が0.1となる条件で実施して、疲労寿命を求めた。厚鋼板1で得られた結果を表3に、厚鋼板2で得られた結果を表6に示す。
厚鋼板1、2において、本発明例(厚鋼板1の場合、試験No.3、4、6、厚鋼板2の場合、試験No.2、7、8、10)はいずれも、応力範囲340MPaの厳しい条件で、疲労寿命が25万回以上で耐疲労特性に優れた隅肉溶接継手の得られることが確認された。一方、本発明で規定する溶接条件(入熱30kJ/cm以下、3層6パス以下の積層条件)の範囲を外れる比較例(厚鋼板1の場合、試験No.1、2、厚鋼板2の場合、試験No.4、5)および、板厚方向の疲労寿命が劣る厚鋼板を用いた比較例(厚鋼板1の場合、試験No.5、厚鋼板2の場合、試験No.1、3、6、9)は、耐疲労特性が確保できていない。
Figure 2012200782
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Claims (5)

  1. 板厚50mm以上の板厚方向の耐疲労特性に優れた厚鋼板の隅肉部を、入熱30kJ/cm以下、3層6パス以下の積層で溶接したことを特徴とする、疲労強度の優れた隅肉溶接継手。
  2. 前記板厚50mm以上の厚鋼板が、少なくとも、鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に2mmの位置から板厚の3/10位置までの範囲において、板面に平行な(110)面のX線強度比が2.0以上となる部位を有することを特徴とする請求項1に記載の疲労強度の優れた隅肉溶接継手
  3. 前記板厚50mm以上の厚鋼板の前記組織が、さらに板面に平行な(100)面のX線強度比が1.1以下であることを特徴とする請求項2に記載の疲労強度の優れた隅肉溶接継手
  4. 前記板厚50mm以上の厚鋼板の板厚方向圧縮残留応力の平均値が、160MPa以上であることを特徴とする請求項2または3に記載の疲労強度の優れた隅肉溶接継手
  5. 前記板厚50mm以上の厚鋼板の圧延面の両側または片側から板厚方向に4mmまでの範囲において、板厚方向と直角方向の圧縮残留応力が100MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の疲労強度の優れた隅肉溶接継手。
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