以下、図に基づいて本発明を説明する。本発明の緩衝装置Dは、図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2に区画する隔壁部材としてのピストン2と、伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路3a,3bと、内部に圧力室R3を形成するハウジング14と、ハウジング14内に移動自在に挿入されて圧力室R3を伸側流路5を介して伸側室R1に連通される伸側圧力室7と圧側流路6を介して圧側室R2に連通される圧側圧力室8とに区画するフリーピストン9と、フリーピストン9のハウジング15に対する変位を抑制する附勢力を発生するばね要素10と、フリーピストン9に圧側圧力室8を圧縮する方向へ変位させるように内部圧力を作用させる変位補償室Cと、伸側圧力室7と圧側圧力室8のうち低圧側を変位補償室Cに連通する低圧優先弁11とを備えて構成され、車両における車体と車軸との間に介装されて減衰力を発生し車体の振動を抑制するものである。なお、伸側室R1とは、車体と車軸が離間して緩衝装置Dが伸長作動する際に圧縮される室のことであり、圧側室R2とは、車体と車軸が接近して緩衝装置Dが収縮作動する際に圧縮される室のことである。
そして、伸側室R1および圧側室R2さらには圧力室R3内には作動油等の液体が充満され、また、シリンダ1内の図中下方には、シリンダ1の内周に摺接して圧側室R2と気体室Gとを区画する摺動隔壁12が設けられている。
なお、上記した伸側室R1、圧側室R2および圧力室R3内に充填される液体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体を使用することもできる。
また、ピストン2は、シリンダ1内に移動自在に挿通されたピストンロッド4の一端に連結され、ピストンロッド4は、シリンダ1の図中上端部から外方へ突出されている。なお、ピストンロッド4とシリンダ1との間は図示しないシールでシリンダ1内が液密状態とされている。図示したところでは、緩衝装置Dがいわゆる片ロッド型に設定されているため、緩衝装置Dの伸縮に伴ってシリンダ1内に出入りするピストンロッド4の体積は、気体室G内の気体の体積が膨張あるいは収縮し摺動隔壁12が図1中上下方向に移動することによって補償されるようになっている。このように緩衝装置Dは、単筒型に設定されているが、摺動隔壁12および気体室Gの設置に変えて、シリンダ1の外周や外部にリザーバを設けて当該リザーバによって上記ピストンロッド4の体積補償を行ってもよい。また、緩衝装置Dが片ロッド型ではなく、両ロッド型に設定されてもよい。
さらに、通路3a,3bの途中には、オリフィスやリーフバルブ等の減衰力発生要素13a,13bが設けられており、通路3a,3bを通過する液体の流れに減衰力発生要素13a,13bによって抵抗を与えることができるようになっている。この減衰力発生要素13aは、詳しくは、図示はしないが、通路3aを伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する一方通行の通路に設定し、減衰力発生要素13bも、また、通路3bを圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容する一方通行の通路に設定しており、減衰力発生要素13aが通路3aを通過する液体の流れに与える抵抗を減衰力発生要素13bが通路3bを通過する液体の流れに与える抵抗よりも大きくしている。つまり、緩衝装置Dが伸縮する際に、通路3a,3bのみを介して減衰力を発生する場合を考えると、伸長作動時には通路3aのみを液体が通過し、収縮作動時には通路3bのみを液体が通過するようになっており、ピストン速度が同じである場合、伸長作動時の減衰力の方が収縮作動時の減衰力よりも大きい。なお、減衰力発生要素13a,13bは、たとえば、周知のオリフィスとリーフバルブとを並列した構成とすればよく、この構成以外にも、たとえば、チョークとリーフバルブを並列させる構成やその他の構成を採用することもできるのは当然である。
そして、圧力室R3は、この実施の形態の場合、ピストン2の下方に連結されて圧側室R2へ臨むハウジング14内に設けた中空部14aによって形成されており、当該中空部14aの側壁に摺接して中空部14a内を図1中上下方向に移動可能とされるフリーピストン9で中空部14aを図1中上方の伸側圧力室7と図1中下方の圧側圧力室8とに仕切っている。すなわち、フリーピストン9は、ハウジング14内に摺動自在に挿入されており、ハウジング14に対して図1中では上下方向に変位することができるようになっている。
また、ハウジング14における中空部14aは、図1中中間部の内径を大径に設定して形成した内周大径部14bと、内周大径部14bより上方の内径を内周大径部14bより小径に設定して形成した内周小径部14cと、内周大径部14bと内周小径部14cとの境に形成される内周段部14dと、内周大径部14bより下方の内径を内周大径部14bより小径に設定して形成したばね収容部14eとを備えている。
他方、フリーピストン9は、外周に設けた段部9aと、当該段部9aより図1中で下方側となる圧側圧力室側の大径部9bと、段部9aより図1中で上方側となる伸側圧力室側の小径部9cとを備えて構成されている。そして、フリーピストン9は、大径部9bをハウジング14における内周大径部14bに摺接させるとともに小径部9cをハウジング14における内周小径部14cに摺接させて、ハウジング14内となる中空部14a内を伸側圧力室7と圧側圧力室8とに区画している。また、ハウジング14内には、フリーピストン9の小径部9cの外周および段部9aと、ハウジング14の内周大径部14bと内周段部14dとで変位補償室Cが区画形成されている。
この変位補償室Cは、内部圧力をフリーピストン9の段部9aに作用させていて、当該内部圧力でフリーピストン9を圧側圧力室8を圧縮する方向に附勢するようになっている。
このように構成されたフリーピストン9とハウジング14によって、フリーピストン9における圧側圧力室8の圧力を受ける大径部側端bの面積である圧側受圧面積よりも伸側圧力室7の圧力を受ける小径部側端aの面積である伸側受圧面積は、上記した変位補償室Cの受圧面積である段部9aの面積分だけ小さくなっている。
なお、変位補償室Cは、内部圧力でフリーピストン9を圧側圧力室8を圧縮する方向へ附勢することができればよく、また、フリーピストン9における圧側圧力室8の圧力を受ける圧側受圧面積よりも伸側圧力室7の圧力を受ける伸側受圧面積を小さくすればよいので、変位補償室Cの圧力を受ける受圧面積と伸側受圧面積を足し合わせた面積を必ずしも圧側受圧面積に等しく設定しなくともよい。
そして、この実施の形態では、フリーピストン9に、上記した変位補償室Cを伸側圧力室7と圧側圧力室8とに連通する補償通路15と、補償通路15の途中に設けられて伸側圧力室7と圧側圧力室8のうち低圧側を変位補償室Cに連通する低圧優先弁11とを設けている。
具体的には、補償通路15は、フリーピストン9の小径部側端aから開口して大径部側端bへ通じるとともに途中で分岐して段部9aに通じている。低圧優先弁11は、この補償通路15の分岐点に設けられていて、伸側圧力室7と圧側圧力室8に差圧が生じた場合に、伸側圧力室7と圧側圧力室8のうち低圧側を変位補償室Cに連通するようになっている。
また、フリーピストン9は、中空部14aの下端部に一端が連結されてばね収容部14e内に収容されるばね要素10における他端に連結され、これにより、フリーピストン9はハウジング14内の所定位置に位置決めされた位置(以下、単に「フリーピストン中立位置」という)から変位するとばね要素10からその変位量に比例した附勢力が作用することになる。なお、上記したフリーピストン中立位置は、フリーピストン9が圧力室R3に対してばね要素10によって位置決められる位置であって、必ずしも中空部14aの上下方向における中間点に設定されなくともよい。
なお、ハウジング14内は、図示したところでは、フリーピストン9によって上下に伸側圧力室7、圧側圧力室8と変位補償室Cに区画され、緩衝装置Dが伸縮して抑制する振動方向とフリーピストン9の移動方向が一致しており、緩衝装置D全体が図1中上下方向に振動することによって、フリーピストン9のハウジング14に対する上下方向の振動が励起されることを避けたい場合には、フリーピストン9の移動方向を緩衝装置Dの伸縮方向と直交する方向、すなわち、図1中左右方向に設定し、伸側圧力室7と圧側圧力室8を図1中横方向に配置するようにすることもできる。
また、当該ハウジング14には、圧側室R2と圧側圧力室8とを連通する圧側通路6が設けられており、当該圧側流路6には絞り6aが設けられ、これを通過する液体の流れに抵抗を与えることができるようになっている。
さらに、伸側室R1と伸側圧力室7は、ピストンロッド4の伸側室R1に臨む側部から開口してピストン2およびハウジング14を通じる伸側流路5を介して連通されている。このように、伸側室R1と伸側圧力室7とが伸側流路5によって連通され、圧側室R2と圧側圧力室8と圧側流路6によって連通され、伸側圧力室7と圧側圧力室8の容積はフリーピストン9がハウジング14内で変位することによって変化するので、この緩衝装置Dにあっては、上記した伸側流路5、伸側圧力室7、圧側圧力室8および圧側流路6からなる流路が、見掛け上、伸側室R1と圧側室R2を連通しており、伸側室R1と圧側室R2は、通路3a,3bの他にも上記した見掛け上の流路によっても連通されることになる。
つづいて、緩衝装置Dの基本的な作動について説明する。緩衝装置Dがシリンダ1に対してピストン2が図1中上下動する伸縮作動を呈すると、ピストン2によって伸側室R1と圧側室R2の一方が圧縮され、伸側室R1と圧側室R2の他方が膨張されるので、伸側室R1と圧側室R2のうち圧縮される方の圧力が高まると同時に、伸側室R1と圧側室R2のうち容積拡大される方の圧力が低下して両者に差圧が生じて、伸側室R1と圧側室R2のうち圧縮側の液体は通路3a,3bと、これに加えて伸側流路5、伸側圧力室7、圧側圧力室8および圧側流路6からなる見掛け上の流路を介して伸側室R1と圧側室R2のうち拡大側に移動する。
ここで、緩衝装置Dに入力される振動の周波数、すなわち、緩衝装置Dの伸縮方向の振動の周波数が低周波であっても高周波であっても、緩衝装置Dの伸長行程におけるピストン速度が同じである場合、低周波振動入力時の緩衝装置Dの振幅は、高周波振動入力時の緩衝装置Dの振幅よりも大きくなる。このように緩衝装置Dに入力される振動の周波数が低い場合、振幅が大きいため、伸縮1周期で伸側室R1と圧側室R2を行き交う液体の流量は大きくなる。この流量に略比例して、フリーピストン9が動く変位も大きくなるが、フリーピストン9はばね要素10で附勢されているため、フリーピストン9の変位が大きくなると、フリーピストン9が受けるばね要素10からの附勢力も大きくなり、その分、伸側圧力室7の圧力と圧側圧力室8の圧力に差圧が生じて、伸側室R1と伸側圧力室7の差圧および圧側室R2と圧側圧力室8の差圧が小さくなり、上記の見掛け上の流路を通過する流量は小さくなる。この見掛け上の流路を通過する流量が小さい分、通路3aの流量は大きくなるので、緩衝装置Dが発生する減衰力が大きいまま維持される。
逆に、緩衝装置Dに高周波振動が入力される場合、振幅が低周波振動入力時よりも小さいため、伸縮1周期で伸側室R1と圧側室R2を行き交う液体の流量は小さく、フリーピストン9の動く変位も小さくなる。すると、フリーピストン9が受けるばね要素10から附勢力も小さくなる。その分、伸側圧力室7の圧力と圧側圧力室8の圧力がほぼ同等圧となり、伸側室R1と伸側圧力室7の差圧および圧側室R2と圧側圧力室8の差圧は低周波振動入力時よりも大きくなって、上記の見掛け上の流路を通過する流量が低周波振動入力時よりも増大する。この見掛け上の流路を通過する流量が増大した分は、通路3aの流量が減少することになるので、緩衝装置Dが発生する減衰力は低周波振動入力時の減衰力よりも小さくなる。
このように、ピストン速度が低い場合には、流量に対する差圧の周波数伝達関数の周波数に対するゲイン特性は、従来例と同じく式(2)で示される図2に示すが如くの特性となる。また、振動周波数の入力に対する減衰力のゲインを示す緩衝装置Dにおける減衰力の特性は、図3に示すように、低周波数域の振動に対しては大きな減衰力を発生し、高周波数域の振動に対しては減衰力を小さくすることができ、緩衝装置Dの減衰力の変化を入力振動周波数に依存させることができる。なお、緩衝装置Dの収縮行程にあっても、上述の伸長行程と同様に、低周波数域の振動に対しては大きな減衰力を発生し、高周波数域の振動に対しては減衰力を小さくすることができ、緩衝装置Dの減衰力の変化を入力振動周波数に依存させることができる。そして、図3の減衰特性における小さい値を採る折れ点周波数Faの値を車両のばね上共振周波数の値以上であって車両のばね下共振周波数の値以下に設定し、大きい値を採る折れ点周波数Fbを車両のばね下共振周波数以下に設定することで、緩衝装置Dは、ばね上共振周波数の振動の入力に対しては高い減衰力を発生することができ、車両の姿勢を安定させて、車両旋回時に、搭乗者に不安を感じさせることを防止できるとともに、ばね下共振周波数の振動が入力されると必ず低い減衰力を発生することになるので、車軸側の振動の車体側への伝達を絶縁して、車両における乗り心地を良好なものとすることができる。
上記したように、緩衝装置Dでは、高周波振動入力時には、見掛け上の流路を通過する液体の流量を多くするようになっているが、車両における乗り心地を向上させる都合上、圧縮作動時に発生する減衰力よりも伸長作動時に発生する減衰力を大きくする場合、高周波振動が継続して入力されると、伸長作動時に圧縮される伸側室R1の圧力は、圧縮作動時に圧縮される圧側室R2の圧力よりも高くなる傾向にあるため、伸側圧力室7の圧力の方が圧側圧力室8の圧力よりも高くなる。
このように、伸側圧力室7の圧力が圧側圧力室8の圧力よりも高くなると、フリーピストン9が圧側圧力室8側へ偏って変位しようとするが、低圧優先弁11が低圧側の圧側圧力室8を変位補償室Cへ連通するので、変位補償室Cの圧力が圧側圧力室8と等しくなる。そして、フリーピストン9における圧側圧力室8の圧力を受ける圧側受圧面である大径部側端bの圧側受圧面積よりも伸側圧力室7の圧力を受ける伸側受圧面である小径部側端aの伸側受圧面積を小さくしているので、変位補償室Cが内部圧力と伸側圧力室7の内部圧力で圧側圧力室8を圧縮するようフリーピストン9を附勢する附勢力と圧側圧力室8の内部圧力で伸側圧力室7を圧縮するようフリーピストン9を附勢する附勢力の差が小さくなる。
したがって、本発明の緩衝装置Dでは、高周波振動が継続して入力されて、伸側圧力室7の圧力が圧側圧力室8の圧力よりも高くなる状態となっても、圧側圧力室8を圧縮するようフリーピストン9を附勢する附勢力と伸側圧力室7を圧縮するようフリーピストン9を附勢する附勢力の差を小さくすることができるので、フリーピストン9がフリーピストン中立位置から圧側圧力室8側へ偏って変位した状態となることを抑制できる。また、圧側圧力室8が伸側圧力室7の圧力よりも上回ると、低圧優先弁11が低圧側の伸側圧力室7を変位補償室Cへ連通するため、圧側圧力室7を圧縮するようフリーピストン9を附勢する附勢力よりも伸側圧力室8を圧縮するようフリーピストン9を附勢する附勢力の方が大きくなる。緩衝装置Dに高周波振動が継続して入力されて、フリーピストン9が圧側圧力室側へ偏よって変位することがあっても、振動中における緩衝装置Dの収縮作動時には圧側圧力室8が伸側圧力室7の圧力よりも上回るため、フリーピストン9を伸側圧力室7へ向けて附勢して伸側圧力室7を圧縮する方向へ変位させることができる。これによって、緩衝装置Dに高周波振動が継続的に入力されてもフリーピストン9がフリーピストン中立位置から圧側圧力室8側へ偏って変位したままとなる状態を防止することができる。
それゆえ、本発明の緩衝装置Dでは、高周波振動が継続して入力されてもフリーピストン9の変位に偏りが生じないため、フリーピストン9の圧側圧力室8側へのストローク余裕を確保することができ、フリーピストン9がハウジング14に当接して圧側圧力室8への変位ができなくなることを防止することができる。この結果、本発明の緩衝装置Dによれば、高周波振動が継続的に入力されても、フリーピストン9のストローク余裕が確保されるので、減衰力低減効果を失うことがない。
また、この緩衝装置Dにあっては、高周波振動が継続的に入力されても、減衰力低減効果を発揮することができるので、悪路やでこぼこ道を車両が走行する場合にあっても、良好な乗心地を実現できる。
なお、上記した実施の形態では、フリーピストン9の外周に段部9aを設けて、段部9aより圧側圧力室側に大径部9bを設け、段部9aより伸側圧力室側に小径部9cを設け、大径部側端bに圧側圧力室8の圧力を作用させ、小径部側端aに伸側圧力室7の圧力を作用させ、変位補償室Cがフリーピストン9の段部9aへ内部圧力を作用させるようにしたので、大径部側端bの面積が小径部側端aの面積と段部9aの面積を足し合わせた面積に等しくなり、フリーピストン9の断面積に無駄が生じず、フリーピストン9の外径の大径化を防ぐことができるとともに、フリーピストン9の上記見掛け上の流路の流量に寄与しない変位を少なくできる。
また、ハウジング14にフリーピストン9の大径部9bに摺接する内周大径部14bと、フリーピストン9の小径部9cに摺接する内周小径部14cと、内周大径部14bと内周小径部14cとの境に内周段部14dとを設けて、変位補償室Cをフリーピストン9の小径部9cの外周および段部9aと、ハウジング14の内周大径部14bと内周段部14dとで区画形成したので、ハウジング14内に無駄なく変位補償室Cを形成することができ、ハウジング14の大径化を防ぐことができ、緩衝装置Dの大径化を防ぐことができる。
さらに、フリーピストン9に補償通路15と低圧優先弁11とを設けているので、ハウジング14への補償通路15と低圧優先弁11を形成する場合に比較して、ハウジング14がコンパクトになり、緩衝装置Dの大径化を防ぐことができる。なお、緩衝装置Dの大径化が問題とならない場合には、ハウジング14をシリンダ1外へ設けることもでき、補償通路15と低圧優先弁11についてもフリーピストン9ではなくハウジング14に設けることも可能である。
以上では、緩衝装置Dの基本的な構造を説明したが、以下、より構造を具体化した緩衝装置D1について説明する。
具体的な緩衝装置D1は、基本的には、図4に示すように、シリンダ21と、シリンダ21内に摺動自在に挿入されシリンダ21内を2つの作動室である伸側室R4および圧側室R5に区画する隔壁部材としてのピストン22と、一端がピストン22に連結されるピストンロッド23と、ピストン22に形成された伸側室R4および圧側室R5を連通する通路22a,22bと、ピストンロッド23の先端に固定されて内部に圧力室R6を形成するハウジング24と、ハウジング24内に移動自在に挿入されて圧力室R6を伸側流路25を介して伸側室R4に連通される伸側圧力室27と圧側流路26を介して圧側室R5に連通される圧側圧力室28とに区画するフリーピストン29と、フリーピストン29のハウジング24に対する変位を抑制する附勢力を発生するばね要素41,42と、フリーピストン29に圧側圧力室28を圧縮する方向へ変位させるように内部圧力を作用させる変位補償室C1と、伸側圧力室27と圧側圧力室28のうち低圧側を変位補償室Cに連通する低圧優先弁31とを備えて構成されている。なお、図示はしないが、図1に示した緩衝装置Dと同様に、シリンダ21の下方には、摺動隔壁が設けられており気体室が設けられている。
以下、各部について詳細に説明すると、ピストンロッド23は、その図4中下端側に小径部23aが形成されるとともに、小径部23aの先端側には螺子部23bが形成されている。
そして、ピストンロッド23には、小径部23aの先端から開口しピストンロッド23の側部に抜ける伸側流路25が形成されている。なお、図示したところでは、この伸側流路25の途中には、抵抗となる弁を設けていないが、絞り等の弁を設けるようにしてもよい。
ピストン22は、環状に形成されるとともに、その内周側にピストンロッド23の小径部23aが挿入されている。また、このピストン22には、伸側室R4と圧側室R5とを連通する通路22a,22bが設けられ、通路22aの図4中上端はピストン22の図4中上方に積層される減衰力発生要素である積層リーフバルブV1にて閉塞され、他方の通路22bの図4中下端もピストン22の図4中下方に積層される減衰力発生要素である積層リーフバルブV2によって閉塞されている。
この積層リーフバルブV1,V2は、共に環状に形成され、内周側にはピストンロッド23の小径部23aが挿入され、積層リーフバルブV1の撓み量を規制する環状のバルブストッパ32とともにピストン22に積層されている。
そして、積層リーフバルブV1は、緩衝装置D1の収縮作動時に圧側室R5と伸側室R4の差圧によって撓んで開弁し通路22aを開放して圧側室R5から伸側室R4へ移動する液体の流れに抵抗を与えるとともに、緩衝装置D1の伸長作動時には通路22aを閉塞するようになっており、他方の積層リーフバルブV2は、積層リーフバルブV1とは反対に緩衝装置D1の伸長作動時に通路22bを開放し、収縮作動時には通路22bを閉塞する。すなわち、積層リーフバルブV1は、緩衝装置D1の収縮作動時における圧側減衰力を発生する減衰力発生要素であり、他方の積層リーフバルブV2は、緩衝装置Dの伸長作動時における伸側減衰力を発生する減衰力発生要素である。また、積層リーフバルブV1,V2で通路22a,22bを閉じた状態にあっても、図示はしない周知のオリフィスによって伸側室R4と圧側室R5とが連通されるようになっており、オリフィスは、たとえば、積層リーフバルブV1,V2の外周に切欠を設けたり、積層リーフバルブV1,V2が着座する弁座に凹部を設けたりするなどして形成される。なお、緩衝装置D1のピストン速度が同じ場合、積層リーフバルブV1よりも積層リーフバルブV2の方が液体の流れに与える抵抗を大きくしてある。
そして、ピストンロッド23の螺子部23bには、順に上記したバルブストッパ32、積層リーフバルブV1、ピストン22および積層リーフバルブV2が組み付けられ、この積層リーフバルブV2の下方から、圧力室R6を形成するハウジング24が螺着される。このハウジング24によって、ピストン22、積層リーフバルブV1,V2およびバルブストッパ32がピストンロッド23に固定される。このように、ハウジング24は、内部に圧力室R5を形成するだけでなく、ピストン22をピストンロッド23に固定する役割をも果たしている。
ハウジング24は、ピストンロッド23の螺子部23bに螺合される鍔34付のナット部33と、ナット部33における鍔34の外周に開口部が加締められて一体化される筒状の筒部36と、筒部36の下端を加締めて筒部36に固定されるキャップ50とを備えて構成されている。そして、ナット部33、筒部36およびキャップ50で圧側室R5内に圧力室R6を画成している。なお、ナット部33と筒部36との一体化、および、筒部36とキャップ50との一体化に際し、上記加締め加工以外にも溶接等の他の方法を採用することも可能である。
そして、上記のように形成される圧力室R6内には、フリーピストン29が摺動自在に挿入されて、圧力室R6は、図4中上方側の伸側圧力室27と下方側の圧側圧力室28に区画されている。
また、ナット部33は、上述のように側方に鍔34を備え、その内周には筒状の螺子部35が形成され、この螺子部35をピストンロッド23の螺子部23bに螺着することによって、ハウジング24をピストンロッド23の小径部23aに固定することが可能なようになっている。ゆえに、筒部36の外周の一部の断面形状を真円以外の形状、たとえば、一部を切欠いた形状や、六角形等の形状として係合部36dを形成してあって、当該係合部36dの外周に係合する工具を用いてハウジング24をピストンロッド23に螺着する作業を容易としている。なお、筒部36の外周形状の全部を真円以外の形状に設定してもよい。
筒部36は、筒状であって、図4中中間部の内径を大径に設定して形成した内周大径部36aと、内周大径部36aより上方の内径を内周大径部36aより小径に設定して形成した内周小径部36bと、内周大径部36aと内周小径部36bとの境に形成される内周段部36cと、上記のように外周に設けた係合部36dとを備えて構成されている。また、筒部36の図4中下端は、有底筒状のキャップ50によって閉塞されており、このキャップ50は外周にフランジ50aを備えていて、筒部36の下端をフランジ50aへ加締めることで、筒部36とキャップ50とが一体化されている。
また、キャップ50の底部には、圧側流路26の一部を構成する固定オリフィス38が設けられ、筒部36の側部には圧側室R5をハウジング24内へ連通する二つの可変オリフィス39,40が設けられている。
他方、フリーピストン29は、有底筒状とされており、外周に設けた段部29aと、当該段部29aより図4中で下方側となる圧側圧力室側の大径部29bと、段部29aより図4中で上方側となる伸側圧力室側の筒状の小径部29cと、底部を貫通して伸側圧力室27と圧側圧力室28とを連通する弁孔29dと、補償通路37とを備えている。
補償通路37は、フリーピストン29の底部上端から弁孔29dの途中へ通じる伸側補償通路37aと、フリーピストン29の底部下端から弁孔29dの途中であって伸側補償通路37aよりも圧側圧力室28側へ通じる圧側補償通路37bと、弁孔29dの途中であって弁孔29dの軸方向において伸側補償通路37aの弁孔29dへの開口端(弁孔開口端)と圧側補償通路37bの弁孔29dへの開口端(弁孔開口端)の間から開口してフリーピストン29の段部29aへ通じる圧力導入通路37cとを備えて構成されている。
そして、フリーピストン29は、ハウジング24内に挿入されると、大径部29bをハウジング24における内周大径部36aに摺接させるとともに小径部29cをハウジング24における内周小径部36bに摺接させて、圧力室R6内を伸側圧力室27と圧側圧力室28とに区画する。また、ハウジング24内には、フリーピストン29の小径部29cの外周および段部29aと、ハウジング24の内周大径部36aと内周段部36cとで変位補償室C1が区画形成されている。
この変位補償室C1は、内部圧力をフリーピストン29の段部29aに作用させていて、当該内部圧力でフリーピストン29を圧側圧力室28を圧縮する方向に附勢するようになっている。また、この変位補償室C1は、上記したフリーピストン29に形成した圧力導入通路37cによって、弁孔29dを介して伸側補償通路37aおよび圧側補償通路37bに連通されている。したがって、変位補償室C1は、伸側圧力室27と圧側圧力室28へ連通されている。
このように構成されたフリーピストン29とハウジング24によって、フリーピストン29における圧側圧力室28の圧力を受ける大径部側端dの面積である圧側受圧面積よりも伸側圧力室27の圧力を受ける小径部側端cの面積である伸側受圧面積は、上記した変位補償室C1の受圧面積である段部29aの面積分だけ小さくなっている。
また、このフリーピストン29に、フリーピストン29のハウジング24に対する変位量に比例してその変位を抑制する附勢力を作用させるため、伸側圧力室27内であってナット部33の鍔34とフリーピストン29の底部との間、および、圧側圧力室28内であってキャップ50の底部とフリーピストン29の底部との間に、それぞれ、ばね要素としてコイルばね41,42を介装してあり、フリーピストン29は、これらコイルばね41,42のばね要素によって上下側から挟持されて、圧力室R6内で所定の中立位置に位置決められた上で弾性支持されている。
なお、ばね要素としては、フリーピストン29を弾性支持できればよいので、コイルばね41,42以外のものを採用してもよく、たとえば、皿ばね等の弾性体を用いてフリーピストン29を弾性支持するようにしてもよい。また、一端がフリーピストン29に連結される単一のばね要素を用いる場合には、ナット部33或いはキャップ50に他端を固定するようにしてもよい。
さらに、上記したフリーピストン29は、この実施の形態の場合、外周に環状溝29eと、フリーピストン29の大径部側端dから上記環状溝29eへ通じる孔29fを備えている。
そして、上記環状溝29eは、フリーピストン29がコイルばね41,42によって弾性支持されて中立位置にあるときには必ず上記可変オリフィス39,40に対向して圧側圧力室28と圧側室R5を連通するとともに、フリーピストン29がストロークエンドまで変位する、すなわち、フリーピストン29の小径部29cの図4中上端がナット部33の鍔34に当接するか、あるいは、フリーピストン29の大径部29bの図4中下端外周がキャップ50のフランジ50aに当接するまで変位すると、フリーピストン29の外周で完全にラップされて閉塞されるようになっている。すなわち、圧側流路26は、環状溝29e、可変オリフィス39,40、孔29fおよび固定オリフィス38で構成されている。なお、可変オリフィス39,40を二つ設けているが、その数は任意である。
つまり、この具体的な緩衝装置D1の場合、フリーピストン29の中立位置からの変位量が所定の変位量となるときに、可変オリフィス39,40の開口全てが環状溝29eに対向する状況からフリーピストン29の外周に対向し始める状況に移行して徐々に可変オリフィス39,40の流路面積が減少し始め、圧側流路26における流路抵抗が徐々に増加する。そして、この実施の形態では、フリーピストン29の変位量の増加に伴って徐々に可変オリフィス39,40の流路面積が減少し、フリーピストン29がストロークエンドに達すると、可変オリフィス39,40が完全にフリーピストン29の外周で閉塞されて、圧側流路26における流路抵抗が最大となり圧側圧力室28が固定オリフィス38のみによって圧側室R5に連通されるようになっている。
つづいて、低圧優先弁31は、フリーピストン29に設けた弁孔29dと、当該弁孔29d内に摺動自在に挿入されるとともに外周に環状溝43aを有するスプール43と、スプール43をスプール中立位置に附勢するスプールばね44,45とを備えている。
より詳細には、弁孔29dの内周であって、伸側補償通路37aの弁孔開口端よりも伸側圧力室27側に設けた環状のストッパ46と、同じく、弁孔29dの内周であって、圧側補償通路37bの弁孔開口端よりも圧側圧力室28側に設けた環状のストッパ47との間に、上記したスプールばね44とスプール43とスプールばね45とが直列配置されて介装されている。
そのため、スプール43は、図4中上下からスプールばね44,45によって附勢されて、スプール中立位置に位置決められている。このスプール中立位置にあっては、スプール43は、環状溝43aを圧力導入通路37cのみに対向させており、伸側圧力室27の圧力が圧側圧力室28の圧力を上回ると図4中下方へ変位し環状溝43aを圧側補償通路37bと圧力導入通路37cの両方へ対向させて圧側圧力室28を変位補償室C1へ連通し、圧側圧力室28の圧力が伸側圧力室27の圧力を上回ると図4中上方へ変位し環状溝43aを伸側補償通路37aと圧力導入通路37cの両方へ対向させて伸側圧力室27を変位補償室C1へ連通するようになっている。
なお、この実施の形態では、弁孔29dがフリーピストン29の変位方向と同じ方向へ向けて形成されるので、弁孔29dの設置が容易で低圧優先弁31のスプール43の組み付けも容易となるが、弁孔29dを孔29fの設置箇所をよけて、フリーピストン29の底部を図4中で紙面を貫く方向へ向けて形成して、フリーピストン29の変位による振動がスプール43の変位に影響を与えないようにしてもよく、孔29fを設けない場合には、底部の側方から自由に弁孔29dを穿つこともできる。
緩衝装置D1は、以上のように構成されるが、続いて緩衝装置D1の作動について説明する。
(A)フリーピストン29における中立位置からの変位量が可変オリフィス39,40を閉塞し始めない範囲内にある場合の緩衝装置D1における動作。
この場合、フリーピストン29は、圧側流路26の抵抗を変化させることなく変位することが可能である。そして、緩衝装置D1へ入力される振動周波数が低い場合と高い場合で、ピストン速度が同じであるという条件下で考えると、まず、入力周波数が低い場合、入力される振動の振幅が大きくなり、フリーピストン29の振幅も、可変オリフィス39,40を閉塞し始めない範囲内で大きくなる。
フリーピストン29の振幅が上記の範囲で大きくなると、フリーピストン29がコイルばね41,42から受ける附勢力が大きくなり、緩衝装置D1が伸長する場合、圧側圧力室28内の圧力は、伸側圧力室27内の圧力よりも上記コイルばね41,42の附勢力分だけ小さくなり、逆に、緩衝装置D1が収縮する場合には、伸側圧力室28内の圧力は、圧側圧力室27内の圧力よりも上記コイルばね41,42の附勢力分だけ小さくなる。
このように、緩衝装置D1が低周波振動を呈すると伸側圧力室27と圧側圧力室28にコイルばね41,42の附勢力に見合った差圧が生じているので、伸側室R4と伸側圧力室27の差圧および圧側室R5と圧側圧力室28の差圧が小さくなり、伸側流路25、圧側流路26、伸側圧力室27および圧側圧力室28でなる見掛け上の流路を通過する流量は小さい。この見掛け上の流路を通過する流量が小さい分、通路22a,22bの流量は大きくなるので、緩衝装置D1が発生する減衰力が大きいまま維持される。
逆に、緩衝装置D1への入力周波数が高い場合、入力される振動の振幅が小さくなり、フリーピストン29の振幅はより小さくなる。フリーピストン29の振幅が小さくなると、フリーピストン29がコイルばね41,40から受ける附勢力が小さくなり、緩衝装置D1が伸長行程にあっても収縮行程にあっても、伸側圧力室27内の圧力と圧側圧力室28内の圧力とが略等しくなる。すると、伸側室R4と伸側圧力室27の差圧および圧側室R5と圧側圧力室28の差圧は大きくなるので、伸側流路25および圧側流路26を通過する流量も多くなる。
緩衝装置D1へ入力される振動の周波数が低い場合には、見掛け上の流路を通過する流量は小さく、入力周波数が高い場合には、見掛け上の流路を通過する流量は大きくなり、入力速度が同じであれば、伸側室R4から圧側室R5或いは圧側室R5から伸側室R4へ流れる流量は、入力周波数によらず等しくならなければならないため、通路22a,22bの積層リーフバルブV1,V2を通過する流量は、入力周波数が低い場合には多くなって減衰力が高く、反対に、入力周波数が高い場合には少なくなって減衰力は低くなる。したがって、緩衝装置D1の減衰特性は、上記した緩衝装置Dと同様に図3に示すように、推移することになる。
したがって、この緩衝装置D1にあっても、減衰力の変化を入力振動周波数に依存させることができ、ばね上共振周波数の振動の入力に対しては高い減衰力を発生することで車両の姿勢を安定させて、車両旋回時に搭乗者に不安を感じさせることを防止できるとともに、ばね下共振周波数の振動が入力されると必ず低い減衰力を発生させて車軸側の振動の車体側への伝達を絶縁して、車両における乗り心地を良好なものとすることができる。
そして、低圧優先弁31は、伸側圧力室27と圧側圧力室28のうち、低圧側を変位補償室C1へ連通するので、緩衝装置D1に高周波振動が継続して入力されて、伸側圧力室27の圧力が圧側圧力室28の圧力よりも高くなる状態となっても、圧側圧力室28を圧縮するようフリーピストン29を附勢する附勢力と伸側圧力室27を圧縮するようフリーピストン29を附勢する附勢力の差を小さくすることができるので、フリーピストン29がフリーピストン中立位置から圧側圧力室28側へ偏って変位した状態となることを抑制でき、圧側圧力室28の圧力が伸側圧力室27の圧力を上回るとフリーピストン29を伸側圧力室27へ向けて附勢して伸側圧力室27を圧縮する方向へ速やかに変位させることができる。これによって、緩衝装置D1に高周波振動が継続的に入力されてもフリーピストン29がフリーピストン中立位置から圧側圧力室28側へ偏って変位したままとなる状態を防止することができる。
それゆえ、本発明の緩衝装置D1にあっても、高周波振動が継続して入力されてもフリーピストン29の圧側圧力室28側へのストローク余裕を確保することができ、フリーピストン29がハウジング24に当接して圧側圧力室28への変位ができなくなることを防止することができる。この結果、本発明の緩衝装置D1によれば、高周波振動が継続的に入力されても、フリーピストン29のストローク余裕が確保されるので、減衰力低減効果を失うことがない。
また、この緩衝装置D1にあっても、フリーピストン29の外周に段部29aを設けて、段部29aより圧側圧力室側に大径部29bを設け、段部29aより伸側圧力室側に小径部29cを設け、大径部側端dに圧側圧力室28の圧力を作用させ、小径部側端cに伸側圧力室27の圧力を作用させ、変位補償室C1がフリーピストン29の段部29aへ内部圧力を作用させるようにしたので、大径部側端dの面積が小径部側端cの面積と段部29aの面積を足し合わせた面積に等しくなり、フリーピストン29の断面積に無駄が生じず、フリーピストン29の外径の大径化を防ぐことができるとともに、フリーピストン29の上記見掛け上の流路の流量に寄与しない変位を少なくできる。
また、ハウジング24にフリーピストン29の大径部29bに摺接する内周大径部36aと、フリーピストン29の小径部29cに摺接する内周小径部36bと、内周大径部36aと内周小径部36bとの境に内周段部36cとを設けて、変位補償室C1をフリーピストン29の小径部29cの外周および段部29aと、ハウジング24の内周大径部36aと内周段部36cとで区画形成したので、ハウジング24内に無駄なく変位補償室C1を形成することができ、ハウジング24の大径化を防ぐことができ、緩衝装置D1の大径化を防ぐことができる。
さらに、フリーピストン29に補償通路37と低圧優先弁31とを設けているので、ハウジング24への補償通路37と低圧優先弁31を形成する場合に比較して、ハウジング24がコンパクトになり、緩衝装置D1の大径化を防ぐことができる。なお、緩衝装置D1の大径化が問題とならない場合には、ハウジング24をシリンダ21外へ設けることもでき、補償通路37と低圧優先弁31についてもフリーピストン29ではなくハウジング24に設けることも可能である。
(B)フリーピストン29の中立位置からの変位量が圧側流路26の流路抵抗を増加させる範囲内となる場合の緩衝装置D1における動作
可変オリフィス39,40は、緩衝装置D1が伸長しても収縮しても、フリーピストン29が中立位置から変位して、その変位量に応じて、徐々に流路面積を小さくし、フリーピストン29が上下のいずれかストロークエンドに到達すると完全に閉塞されて流路面積を固定オリフィス38の流路面積と同じくして最小とする状況となる。
つまり、フリーピストン29が可変オリフィス39,40を閉塞し始めた後は変位量に応じて圧側流路26の流路抵抗を徐々に大きくし、フリーピストン29がストロークエンドに到達すると流路抵抗が最大となる。
ここで、フリーピストン29がストロークエンドまで変位するのは、伸側圧力室27もしくは圧側圧力室28への液体の流出入量が多い場合であり、具体的には、緩衝装置D1の伸縮の振幅が大きい場合である。
緩衝装置D1に入力される振動周波数が比較的高い場合、緩衝装置D1は、フリーピストン29が可変オリフィス39,40を閉塞し始める位置へ変位するまでは、比較的低い減衰力を発生しているが、フリーピストン29が可変オリフィス39,40を閉塞し始める位置を越えて変位するようになると、徐々に圧側流路26の流路抵抗が徐々に大きくなっていくので、フリーピストン29のそれ以上のストロークエンド側への移動速度が減少されて、見掛け上の流路を介しての液体の移動量も減少し、その分通路22a,22bを通過する液体量が増加することになり、緩衝装置D1の発生減衰力は徐々に大きくなっていく。
そして、フリーピストン29がストロークエンドに達すると、それ以上、見掛け上の流路を介しての液体の移動はなくなり、緩衝装置D1の伸縮方向を転ずるまでは液体は通路22a,22bのみを通過することになり、緩衝装置D1は、最大の減衰係数で減衰力を発生することになる。
すなわち、フリーピストン29がストロークエンドまで変位してしまうような高周波数で大振幅の振動が緩衝装置D1に対し入力されても、フリーピストン29の中立位置からの変位量が任意の変位量を超えるとフリーピストン29がストロークエンドに達するまでに緩衝装置D1は徐々に発生減衰力を大きくするので、低い減衰力から急激に高い減衰力に変化することが無くなる。つまり、フリーピストン29がストロークエンドに達して圧力室R6を介して伸側室R4と圧側室R5の液体の交流ができなくなるときに急激に減衰力の大きさが変化してしまうことがなくなり、低減衰力から高減衰力への減衰力変化がなだらかとなる。さらに、フリーピストン29が圧力室R6における両端側のストロークエンドまで到る際に、徐々に発生減衰力を大きくするので、減衰力の急激な変化を抑制する機能は、緩衝装置D1の伸圧の両行程で発揮される。
したがって、この緩衝装置D1にあっては、高周波数で振幅が大きい振動が入力されても、発生減衰力がなだらかに変化することになって、搭乗者に減衰力の変化によるショックを知覚させずにすみ、車両における乗り心地を向上することができ、特に、急激な減衰力変化によって車体が振動しボンネットが共振して異音が発生してしまう事態も防止でき、この点でも車両における乗り心地を向上することができる。
また、フリーピストン29がストロークエンドに達するように大きく変位した場合、緩衝装置D1の伸縮動作が切り替わると、低圧優先弁31が伸側圧力室27と圧側圧力室28のうち低圧側の圧力を変位補償室C1へ導入するので、フリーピストン29が中立位置に速やかに戻されるので、つづいて緩衝装置D1へ入力される振動にもストローク不足を招かずに減衰力低減効果が減殺されることがない。
このように、ピストン速度が高速となって、固定オリフィス38、可変オリフィス39,40における流路抵抗が大きくなりすぎる状況とならない場合には、この具体的な緩衝装置D1は、上記(A)および(B)で説明したように、入力される振動周波数に依存した減衰力を発揮するとともに、フリーピストン29がストロークエンドまで変位する際には、減衰力を徐々に高めて、低下していた減衰力が性急に大きくなるような減衰力変化を抑制することができるのである。
そして、フリーピストン29がストロークエンドまで変位しても、低圧優先弁31が伸側圧力室27と圧側圧力室28のうち低圧側の圧力を変位補償室C1へ導入して、フリーピストン29が中立位置に速やかに戻されるので、緩衝装置D1の伸縮方向が反転した際にフリーピストン29の戻り遅れが生じて可変オリフィス39,40が全開されずに減衰力が高止まりすることを防止することができる。
このように、具体的な緩衝装置D1にあっては、フリーピストン29がストロークエンドまで変位する事態が生じても、減衰力が高止まりを防止できるから、車軸から車体への振動の伝達を絶縁する効果が消失してしまうといった不具合を解消でき、車両における乗り心地をより一層向上することができる。
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。