以下、図に基づいて本発明を説明する。本発明の緩衝装置Dは、図1に示すように、シリンダ1と、当該シリンダ1内に摺動自在に挿入されシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2に区画するピストン2と、伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰通路としての伸側減衰通路3aおよび圧側減衰通路3bと、圧力室R3と、圧力室R3内に移動自在に挿入されて圧力室R3を伸側圧力室7と圧側圧力室8とに区画するフリーピストン9と、当該フリーピストン9の圧力室R3に対する変位を抑制する附勢力を発生するばね要素10と、伸側室R1と伸側圧力室7とを連通する伸側流路5と、圧側室R2と圧側圧力室8とを連通する圧側流路6と、圧側室R2と圧側圧力室8とを連通するバイパス11と、当該バイパス11の途中に設けられて圧側室R2から圧側圧力室8へ向かう流れのみを許容する圧側バイパスバルブ15と、バイパス11の途中に設けられて圧側圧力室8から圧側室R2へ向かう流れのみを許容する伸側バイパスバルブ16とを備えて構成され、車両における車体と車軸との間に介装されて減衰力を発生し車体の振動を抑制するものである。なお、伸側室R1とは、車体と車軸が離間して緩衝装置Dが伸長作動する際に圧縮される室のことであり、圧側室R2とは、車体と車軸が接近して緩衝装置Dが収縮作動する際に圧縮される室のことである。
そして、伸側室R1および圧側室R2さらには圧力室R3内には作動油等の液体が充満され、また、シリンダ1内の図中下方には、シリンダ1の内周に摺接して圧側室R2と気体室Gとを区画する摺動隔壁12が設けられている。
なお、上記した伸側室R1、圧側室R2および圧力室R3内に充填される液体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体を使用することもできる。
また、ピストン2は、シリンダ1内に移動自在に挿通されたピストンロッド4の一端に連結され、ピストンロッド4は、シリンダ1の図中上端部から外方へ突出されている。なお、ピストンロッド4とシリンダ1との間は図示しないシールでシリンダ1内が液密状態とされている。図示したところでは、緩衝装置Dがいわゆる片ロッド型に設定されているため、緩衝装置Dの伸縮に伴ってシリンダ1内に出入りするピストンロッド4の体積は、気体室G内の気体の体積が膨張あるいは収縮し摺動隔壁12が図1中上下方向に移動することによって補償されるようになっている。このように緩衝装置Dは、単筒型に設定されているが、摺動隔壁12および気体室Gの設置に変えて、シリンダ1の外周や外部にリザーバを設けて当該リザーバによって上記ピストンロッド4の体積補償を行ってもよい。また、緩衝装置Dが片ロッド型ではなく、両ロッド型に設定されてもよい。
さらに、伸側減衰通路3aおよび圧側減衰通路3bの途中には、オリフィスやリーフバルブ等の減衰力発生要素13a,13bが設けられており、伸側減衰通路3aおよび圧側減衰通路3bを通過する液体の流れに減衰力発生要素13a,13bによって抵抗を与えることができるようになっている。この減衰力発生要素13aは、詳しくは、図示はしないが、伸側減衰通路3aを伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する一方通行の通路に設定し、減衰力発生要素13bも、また、圧側減衰通路3bを圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容する一方通行の通路に設定しており、減衰力発生要素13aが伸側減衰通路3aを通過する液体の流れに与える抵抗を減衰力発生要素13bが圧側減衰通路3bを通過する液体の流れに与える抵抗よりも大きくしている。つまり、緩衝装置Dが伸縮する際に、伸側減衰通路3aおよび圧側減衰通路3bのみを介して減衰力を発生する場合を考えると、伸長作動時には伸側減衰通路3aのみを液体が通過し、収縮作動時には圧側減衰通路3bのみを液体が通過するようになっており、ピストン速度が同じである場合、伸長作動時の減衰力の方が収縮作動時の減衰力よりも大きい。なお、減衰力発生要素13a,13bは、たとえば、周知のオリフィスとリーフバルブとを並列した構成とすればよく、この構成以外にも、たとえば、チョークとリーフバルブを並列させる構成やその他の構成を採用することもできるのは当然である。また、減衰通路は、伸側室R1と圧側室R2とを連通していればよいので、伸側減衰通路3aおよび圧側減衰通路3bをピストン2以外に設けることも可能であり、たとえば、ピストンロッド4に設けたり、シリンダ1外に設けたりすることもできる。
そして、圧力室R3は、この実施の形態の場合、ピストン2の下方に連結されて圧側室R2へ臨むハウジング14内に設けた中空部14aによって形成されており、当該中空部14aの側壁に摺接して中空部14a内を図1中上下方向に移動可能とされるフリーピストン9で中空部14aを図1中上方の伸側圧力室7と図1中下方の圧側圧力室8とに仕切っている。すなわち、フリーピストン9は、ハウジング14内に摺動自在に挿入されており、ハウジング14に対して図1中では上下方向に変位することができるようになっている。
また、フリーピストン9は、圧力室R3を形成する中空部14aの下端部に一端が連結されて圧側圧力室8内に収容されるばね要素10における他端に連結され、これにより、フリーピストン9はハウジング14内の所定位置に位置決めされた位置(以下、単に「フリーピストン中立位置」という)から変位するとばね要素10からその変位量に比例した附勢力が作用することになる。上記したフリーピストン中立位置は、フリーピストン9が圧力室R3に対してばね要素10によって位置決められる位置であって、必ずしも中空部14aの上下方向における中間点に設定されなくともよい。ばね要素10は、伸側圧力室7に収容されてもよく、ばね要素10を伸側圧力室7と圧側圧力室8のそれぞれに収容される二つのばねで構成して、これらばねでフリーピストン9を挟持して中立位置へ位置決めしてもよい。
なお、ハウジング14内は、図示したところでは、フリーピストン9によって上下に伸側圧力室7と圧側圧力室8に区画され、緩衝装置Dが伸縮して抑制する振動方向とフリーピストン9の移動方向が一致しており、緩衝装置D全体が図1中上下方向に振動することによって、フリーピストン9のハウジング14に対する上下方向の振動が励起されることを避けたい場合には、フリーピストン9の移動方向を緩衝装置Dの伸縮方向と直交する方向、すなわち、図1中左右方向に設定し、伸側圧力室7と圧側圧力室8を図1中横方向に配置するようにすることもできる。
また、当該ハウジング14には、圧側室R2と圧側圧力室8とを連通する圧側流路6が設けられており、当該圧側流路6には絞り6aが設けられ、これを通過する液体の流れに抵抗を与えることができるようになっている。当該絞り6aは、フリーピストン9が中立位置から変位すればするほど開口面積を小さくする可変絞りとされており、フリーピストン9がハウジング14の上端に当接するか、ばね要素10が最圧縮状態となるストロークエンドへ近づくにつれてフリーピストン9の変位速度を減ずることができるようになっている。なお、絞り6aは、可変絞り以外にも、固定オリフィスやチョーク等といった絞りとされてもよい。
さらに、伸側室R1と伸側圧力室7は、ピストンロッド4の伸側室R1に臨む側部から開口してピストン2およびハウジング14を通じる伸側流路5を介して連通されている。このように、伸側室R1と伸側圧力室7とが伸側流路5によって連通され、圧側室R2と圧側圧力室8と圧側流路6によって連通され、伸側圧力室7と圧側圧力室8の容積はフリーピストン9がハウジング14内で変位することによって変化するので、この緩衝装置Dにあっては、上記した伸側流路5、伸側圧力室7、圧側圧力室8および圧側流路6からなる流路が、見掛け上、伸側室R1と圧側室R2を連通しており、伸側室R1と圧側室R2は、伸側減衰通路3aおよび圧側減衰通路3bの他にも上記した見掛け上の流路によっても連通されることになる。
また、ハウジング14には、圧側室R2と圧側圧力室8とを連通するバイパス11が設けられている。このバイパス11は、この場合、圧側流路6に並列されていて、より詳細には、伸側バイパス11aとこれに並列される圧側バイパス11bとで構成されている。そして、圧側バイパス11bの途中には、圧側室R2から圧側圧力室8へ向かう流れのみを許容する圧側バイパスバルブ15が設けられ、伸側バイパス11aの途中には圧側圧力室8から圧側室R2へ向かう流れのみを許容する伸側バイパスバルブ16とが設けられている。すなわち、圧側バイパスバルブ15と伸側バイパスバルブ16とは、バイパス11に並列に設けられている。圧側バイパスバルブ15および伸側バイパスバルブ16は、この実施の形態の場合、逆止弁として機能するバルブとされており、具体的には、たとえば、リーフバルブ、ポペット弁やニードル弁等のように逆止弁としても機能するバルブを使用することができるほか、逆止弁とオリフィスやチョーク等といった絞りと逆止弁との組み合わせによって構成することもできる。
また、流量が同じであれば、圧側バイパスバルブ15がこれを通過する液体の流れに与える抵抗は、伸側バイパスバルブ16がこれを通過する液体の流れに与える抵抗よりも小さくなるように設定されている。具体的には、圧側バイパスバルブ15と伸側バイパスバルブ16とがバイパス11を開閉する弁体とばね要素とでなる場合、圧側バイパスバルブ15のばね要素の撓み剛性を伸側バイパスバルブ16のばね要素の撓み剛性より小さく設定すればよく、このような形態のバルブとしてはリーフバルブ、ポペット弁といったものがある。圧側バイパスバルブ15と伸側バイパスバルブ16とがバイパス11を絞る絞りを有する場合、圧側バイパスバルブ15の絞りにおける流路面積を伸側バイパスバルブ16の絞りにおける流路面積より大きく設定すればよい。
さらに、この実施の形態の場合、緩衝装置Dの伸長速度(緩衝装置Dにおける伸長時のピストン速度)が伸側の所定速度以上となると伸側バイパスバルブ16が開弁し伸側バイパス11aが開放され、緩衝装置Dの収縮速度(緩衝装置Dにおける収縮時のピストン速度)が圧側の所定速度以上となると圧側バイパスバルブ15が開弁し圧側バイパス11bが開放されるようになっている。具体的には、伸側バイパスバルブ16の開弁圧を、緩衝装置Dの伸長速度が所定速度となるときにおける圧側圧力室8と圧側室R2の差圧となるように設定すれば上記の如くの伸側バイパスバルブ16の動作が可能となり、同様に、圧側バイパスバルブ15の開弁圧を、緩衝装置Dの収縮速度が所定速度以上となるときにおける圧側室R2と圧側圧力室8との差圧となるように設定すれば上記の如くの圧側バイパスバルブ15の動作が可能となる。また、上記したところでは、伸側バイパスバルブ16が開弁する伸側の所定速度と圧側バイパスバルブ15が開弁する圧側の所定速度とを同じ速度に設定してあるが、別々に設定することも可能である。
したがって、液体は、伸側バイパス11aが開放される場合には、圧側流路6に加えて伸側バイパス11aを介して、圧側圧力室8から圧側室R2へ移動することができ、圧側バイパス11bが開放される場合には、圧側流路6に加えて圧側バイパス11bを介して、圧側室R2から圧側圧力室8へ移動することができる。
つづいて、緩衝装置Dの基本的な作動について説明する。緩衝装置Dがシリンダ1に対してピストン2が図1中上下動する伸縮作動を呈すると、ピストン2によって伸側室R1と圧側室R2の一方が圧縮され、伸側室R1と圧側室R2の他方が膨張されるので、伸側室R1と圧側室R2のうち圧縮される方の圧力が高まると同時に、伸側室R1と圧側室R2のうち容積拡大される方の圧力が低下して両者に差圧が生じて、伸側室R1と圧側室R2のうち圧縮側の液体は、伸側減衰通路3aと圧側減衰通路3bのうち一方と、これに加えて伸側流路5、伸側圧力室7、圧側圧力室8および圧側流路6からなる見掛け上の流路を介して伸側室R1と圧側室R2のうち拡大側に移動する。
ここで、緩衝装置Dに入力される振動の周波数、すなわち、緩衝装置Dの伸縮方向の振動の周波数が低周波であっても高周波であっても、緩衝装置Dの伸長行程におけるピストン速度が同じである場合、低周波振動入力時の緩衝装置Dの振幅は、高周波振動入力時の緩衝装置Dの振幅よりも大きくなる。このように緩衝装置Dに入力される振動の周波数が低い場合、振幅が大きいため、伸縮1周期で伸側室R1と圧側室R2を行き交う液体の流量は大きくなる。この流量に略比例して、フリーピストン9が動く変位も大きくなるが、フリーピストン9はばね要素10で附勢されているため、フリーピストン9の変位が大きくなると、フリーピストン9が受けるばね要素10からの附勢力も大きくなり、その分、伸側圧力室7の圧力と圧側圧力室8の圧力に差圧が生じて、伸側室R1と伸側圧力室7の差圧および圧側室R2と圧側圧力室8の差圧が小さくなり、上記の見掛け上の流路を通過する流量は小さくなる。この見掛け上の流路を通過する流量が小さい分、通路3aの流量は大きくなるので、緩衝装置Dが発生する減衰力が大きいまま維持される。
逆に、緩衝装置Dに高周波振動が入力される場合、振幅が低周波振動入力時よりも小さいため、伸縮1周期で伸側室R1と圧側室R2を行き交う液体の流量は小さく、フリーピストン9の動く変位も小さくなる。すると、フリーピストン9が受けるばね要素10から附勢力も小さくなる。その分、伸側圧力室7の圧力と圧側圧力室8の圧力がほぼ同等圧となり、伸側室R1と伸側圧力室7の差圧および圧側室R2と圧側圧力室8の差圧は低周波振動入力時よりも大きくなって、上記の見掛け上の流路を通過する流量が低周波振動入力時よりも増大する。この見掛け上の流路を通過する流量が増大した分は、伸側減衰通路3aの流量が減少することになるので、緩衝装置Dが発生する減衰力は低周波振動入力時の減衰力よりも小さくなる。
このように、ピストン速度が低い場合には、流量に対する差圧の周波数伝達関数の周波数に対するゲイン特性は、従来例と同じく式(2)で示される図2に示すが如くの特性となる。また、振動周波数の入力に対する減衰力のゲインを示す緩衝装置Dにおける減衰力の特性は、図3に示すように、低周波数域の振動に対しては大きな減衰力を発生し、高周波数域の振動に対しては減衰力を小さくすることができ、緩衝装置Dの減衰力の変化を入力振動周波数に依存させることができる。なお、緩衝装置Dの収縮行程にあっても、上述の伸長行程と同様に、低周波数域の振動に対しては大きな減衰力を発生し、高周波数域の振動に対しては減衰力を小さくすることができ、緩衝装置Dの減衰力の変化を入力振動周波数に依存させることができる。そして、図3の減衰特性における小さい値を採る折れ点周波数Faの値を車両のばね上共振周波数の値以上であって車両のばね下共振周波数の値以下に設定し、大きい値を採る折れ点周波数Fbを車両のばね下共振周波数以下に設定することで、緩衝装置Dは、ばね上共振周波数の振動の入力に対しては高い減衰力を発生することができ、車両の姿勢を安定させて、車両旋回時に、搭乗者に不安を感じさせることを防止できるとともに、ばね下共振周波数の振動が入力されると必ず低い減衰力を発生することになるので、車軸側の振動の車体側への伝達を絶縁して、車両における乗り心地を良好なものとすることができる。なお、緩衝装置Dの減衰特性の設定は、従来の緩衝装置と同様に係数C1、C2、C3、ばね要素10のばね定数K、フリーピストン9の受圧面積Aで設定されるが、各係数C1、C2、C3、ばね定数Kおよびフリーピストン9の受圧面積Aの設定いかんで絞り6aの有無も任意である。
そして、特に、高周波数の振動が緩衝装置Dに入力されて、ピストン速度が高速となって上記した所定速度以上となると、伸長行程時には、伸側バイパスバルブ16が開弁して伸側バイパス11aを開放し、収縮行程時には、圧側バイパスバルブ15が開弁して圧側バイパス11bを開放する。この状況となると、緩衝装置Dの伸長行程時には、圧側圧力室8の液体は、圧側流路6以外にも伸側バイパス11aを介して圧側室R2へ移動可能となり、また、緩衝装置Dの収縮行程時には、圧側室R2の液体は、圧側流路6以外にも圧側バイパス11bを介して圧側圧力室8へ移動可能となる。ここで、圧側バイパスバルブ15が通過する液体の流れに与える抵抗は、伸側バイパスバルブ16が通過する液体の流れに与える抵抗より小さくなっているため、液体は、圧側室R2から圧側圧力室8へ移動する方が、圧側圧力室8から圧側室R2へ移動するよりも移動しやすくなる。すなわち、フリーピストン9がハウジング14内を図1中下方へ移動し圧側圧力室8を圧縮するよう変位する場合にあっては、圧側圧力室8の圧力は圧側室R2へ逃げにくく、反対に、フリーピストン9がハウジング14内を図1中上方へ移動し圧側圧力室8を拡大するよう変位する場合にあっては、圧側圧力室8内へ高圧側の圧側室R2が伝播しやすい構造となっている。
つまり、この緩衝装置Dにあっては、高周波振動が入力される場合、伸長作動時には、圧側バイパスバルブ15によって圧側圧力室8の圧力を圧側室R2へ逃げ難くし、伸側圧力室7と圧側圧力室8の差圧を低減してフリーピストン9が圧側圧力室8側へ偏って変位することを抑制しつつ、収縮作動時においては、圧側室R2の圧力を圧側圧力室8へ取り込んで、圧側圧力室8の速やかな圧力上昇を実現することで、フリーピストン9の伸側圧力室7側への変位を妨げず、緩衝装置Dの伸縮方向が反転した際にもフリーピストン9の戻り遅れが生じてフリーピストン9の圧側圧力室8側への偏りを助長することがない。したがって、緩衝装置Dに高周波振動が入力される場合には、伸側圧力室7と圧側圧力室8の差圧は従来の緩衝装置のそれよりも低減され、フリーピストン9は、圧側圧力室8を拡大する方向へは変位しやすく、圧側圧力室8を圧縮する方向へは変位しにくくなる。
その結果、本発明の緩衝装置Dでは、高周波振動が継続して入力されて、伸側圧力室7の圧力が圧側圧力室8の圧力よりも高くなる状態となっても、伸側圧力室7と圧側圧力室8の差圧が低減されるので、フリーピストン9がフリーピストン中立位置から圧側圧力室8側へ偏って変位した状態となることを抑制できる。そして、伸側圧力室7と圧側圧力室8の差圧が低減されるだけで、フリーピストン9の作動を妨げるものではないので、緩衝装置Dの基本作動である高周波振動時に減衰力を低減する作動を損なうこともない。
それゆえ、本発明の緩衝装置Dでは、高周波振動が継続して入力されてもフリーピストン9の変位に偏りが生じないため、フリーピストン9の圧側圧力室8側へのストローク余裕を確保することができ、フリーピストン9がハウジング14に当接して圧側圧力室8への変位ができなくなることを防止することができる。この結果、本発明の緩衝装置Dによれば、高周波振動が継続的に入力されても、フリーピストン9のストローク余裕が確保されるので、減衰力低減効果を失うことがない。
また、この緩衝装置Dにあっては、高周波振動が継続的に入力されても、減衰力低減効果を発揮することができるので、悪路やでこぼこ道を車両が走行する場合にあっても、良好な乗心地を実現できる。
なお、この緩衝装置Dは、圧側室R2から圧側圧力室8へ向かう液体に対しては圧側バイパスバルブ15が開弁し、反対に、圧側圧力室8から圧側室R2へ向かう液体の流れに対しては伸側バイパスバルブ16が開弁するようになっている。フリーピストン9の圧側圧力室8側への偏りを防止するためだけであれば、バイパス11に圧側バイパスバルブ15のみを設けて、バイパス11が圧側圧力室8から圧側室R2へ向かい液体の流れを許容しないようにすることで対応可能であるが、伸側バイパスバルブ16を設けておくことで、高周波振動時におけるフリーピストン9の変位量を圧側バイパスバルブ15のみを設けて対応する場合よりも多くすることができる。したがって、圧側バイパスバルブ15のみで上記偏りを防止する場合には、圧側バイパスバルブ15の開弁時のバルブ開度は微小なものとせざるを得ないが、これに比較して、圧側バイパスバルブ15のみならず伸側バイパスバルブ16を設けておくことで、圧側バイパスバルブ15が開弁した際のバルブ開度を大きくすることができ、バルブ開度の制御が飛躍的に容易となる。
さらに、この緩衝装置Dは、高周波振動入力時において、圧側室R2から圧側圧力室8へ向かう液体に対しては圧側バイパスバルブ15で抵抗を与えるが、反対に、圧側圧力室8から圧側室R2へ向かう液体の流れに対しては伸側バイパスバルブ16で抵抗を与えるので、圧側バイパスバルブ15が液体の流れ与える抵抗と伸側バイパスバルブ16が液体の流れに与える抵抗の設定によって、図3に示すように、フリーピストン9の変位しやすさをコントロールすることができるから、高周波側の減衰力の低下幅Hをチューニングすることができる。
フリーピストン9の変位の偏りは、緩衝装置Dに高周波振動が継続して入力される際に生じる現象であるので、圧側バイパスバルブ15および伸側バイパスバルブ16が開弁するときのピストン速度である伸側および圧側の所定速度は、フリーピストン9の変位の偏りが発生する程度の高周波振動が緩衝装置Dに入力されたときのピストン速度を参考に決定すればよい。また、圧側の所定速度を伸側の所定速度よりも低く設定しておけば、圧側バイパスバルブ15の効きが速く、フリーピストン9の変位の偏りを早期に阻止することができる。
なお、この緩衝装置Dは、高周波振動入力時において、圧側室R2から圧側圧力室8へ向かう液体に対しては圧側バイパスバルブ15で抵抗を与えるが、反対に、圧側圧力室8から圧側室R2へ向かう液体の流れに対しては伸側バイパスバルブ16で抵抗を与えるので、圧側室R2から圧側圧力室8へ液体が流れる場合と圧側圧力室8から圧側室R2へ液体が流れる場合とで、式(2)における係数C3の値が異なる。したがって、緩衝装置Dの伸長作動時と収縮作動時とで振動周波数に対する減衰力の特性が異なるが、伸長作動時の係数C3と収縮作動時の係数C3の値を、両者の減衰特性における折れ点周波数Faの値が車両のばね上共振周波数の値以上であって車両のばね下共振周波数の値以下となり、折れ点周波数Fbが車両のばね下共振周波数以下となるような値に設定するとよい。
また、上記したところでは、特に、緩衝装置Dに高周波振動が入力された時に圧側バイパスバルブ15および伸側バイパスバルブ16とが開弁するように設定されていたが、圧側バイパスバルブ15および伸側バイパスバルブ16とが緩衝装置Dの伸縮の速度によらず、緩衝装置Dの伸縮に伴って、それぞれ対応する行程で開弁するように設定することも可能であり、その場合でも、フリーピストン9の偏りを解消することができる。この場合、緩衝装置Dが伸長行程では、伸側バイパスバルブ16が常に開弁し、緩衝装置Dが収縮行程では、圧側バイパスバルブ15が常に開弁するため、緩衝装置Dの全周波数帯における減衰特性の設定に圧側バイパスバルブ15および伸側バイパスバルブ16が関与することになる。したがって、圧側バイパスバルブ15および伸側バイパスバルブ16がそれぞれ圧側の所定速度以上および伸側の所定速度以上で開弁するように設定しておくことで、圧側バイパスバルブ15および伸側バイパスバルブ16の影響を限定的にすることができ、緩衝装置Dの減衰特性の設定が容易となるとともに、圧側バイパスバルブ15および伸側バイパスバルブ16が液体の流れに与える抵抗の設定自由度が向上することになる。
以上では、緩衝装置Dの構造を概念的に説明したが、以下、より構造を具体化した緩衝装置D1の一例について説明する。
具体的な緩衝装置D1は、基本的には、図4に示すように、シリンダ21と、シリンダ21内に摺動自在に挿入されシリンダ21内を2つの作動室である伸側室R4および圧側室R5に区画するピストン22と、一端がピストン22に連結されるピストンロッド23と、伸側室R4および圧側室R5を連通する減衰通路31と、ピストンロッド23の先端に固定されて内部に圧力室R6を形成するハウジング24と、ハウジング24内に移動自在に挿入されて圧力室R6を伸側圧力室27と圧側圧力室28とに区画するフリーピストン29と、フリーピストン29のハウジング24に対する変位を抑制する附勢力を発生するばね要素としてのコイルばね42,43と、伸側室R4と伸側圧力室27とを連通する伸側流路25と、圧側室R5と圧側圧力室28とを連通する圧側流路26と、圧側室R5と圧側圧力室28とを連通するバイパス30と、バイパス30の途中に設けられて圧側室R5から圧側圧力室28へ向かう流れのみを許容する圧側バイパスバルブ32と、バイパス30の途中に設けられて圧側圧力室28から圧側室R5へ向かう流れのみを許容する伸側バイパスバルブ33とを備えて構成されている。なお、図示はしないが、図1に示した緩衝装置Dと同様に、シリンダ21の下方には、摺動隔壁が設けられており気体室が設けられている。
以下、各部について詳細に説明する。まず、ピストンロッド23は、その図4中下端側に小径部23aが形成され、小径部23aの先端側には螺子部23bが形成されている。また、上記のようにピストンロッド23の下端を小径にしたことによって段部23cが設けられている。そして、ピストンロッド23には、小径部23aの先端から開口し当該小径部23aより上方側の側部に抜ける通路23dが形成されている。
ピストン22は、環状に形成されるとともに、その内周側にピストンロッド23の小径部23aが挿入されている。また、このピストン22には、伸側室R4と圧側室R5とを連通する伸側ポート31aと圧側ポート31cが設けられ、伸側ポート31aの図4中下端はピストン22の図4中下方に積層されるリーフバルブでなる伸側バルブ31bにて開閉され、他方の圧側ポート31cの図4中上端もピストン22の図4中上方に積層されるリーフバルブでなる圧側バルブ31dによって開閉される。
この伸側バルブ31bおよび圧側バルブ31dは、共に環状に形成され、内周側にはピストンロッド23の小径部23aが挿入され、内周側がピストンロッド23に固定されて外周側の撓みが許容されてピストン22に積層されている。なお、伸側バルブ31bおよび圧側バルブ31dを構成するリーフバルブの積層枚数や厚みは、望む減衰特性に応じて任意に変更することができる。また、伸側バルブ31bおよび圧側バルブ31dは、リーフバルブ以外のバルブとされてもよい。リーフバルブは、薄い環状板でありピストンロッド23に組付けた際に軸方向の長さが短くて済むので、伸側バルブ31bおよび圧側バルブ31dをリーフバルブとすることで、緩衝装置D1のストローク長を確保しやすくなる。
そして、伸側バルブ31bは、緩衝装置D1の伸長作動時に伸側室R4と圧側室R5の差圧によって撓んで開弁し伸側ポート31aを開放して伸側室R4から圧側室R5へ移動する流体の流れに抵抗を与えるとともに、緩衝装置D1の収縮作動時には伸側ポート31aを閉塞するようになっていて伸側ポート31aを一方通行に設定している。他方の圧側バルブ31dは、伸側バルブ31bとは反対に緩衝装置D1の収縮作動時に圧側ポート31cを開放し、伸長作動時には圧側ポート31cを閉塞するようになっていて圧側ポート31cを一方通行に設定している。すなわち、伸側バルブ31bは、緩衝装置D1の伸長作動時における伸側減衰力を発生する減衰力発生要素であり、他方の圧側バルブ31dは、緩衝装置D1の収縮作動時における圧側減衰力を発生する減衰力発生要素である。よって、この実施の形態にあっては、減衰通路31は、伸側ポート31a、伸側バルブ31b、圧側ポート31cおよび圧側バルブ31dとで構成されている。また、伸側バルブ31bは、伸側ポート31aを閉じた状態にあっても、図示はしない周知のオリフィスによって伸側室R4と圧側室R5とが連通されるようになっており、オリフィスは、たとえば、伸側バルブ31bの外周に切欠を設けたり、ピストン22に設けられて伸側バルブ31bが着座する符示しない弁座に凹部を設けたりするなどして形成される。圧側バルブ31dも同様に切欠等によってオリフィスが形成される。なお、緩衝装置D1のピストン速度が同じ場合、圧側バルブ31dよりも伸側バルブ31bの方が液体の流れに与える抵抗を大きくしてある。減衰通路31は、伸側室R4と圧側室R5とを連通していればよいので、ピストン22以外に設けることも可能であり、たとえば、ピストンロッド23に設けたり、シリンダ21外に設けたりすることもできる。
つづいて、ピストン22の図4中上方であって、圧側バルブ31dの図4中上方となる伸側室側には、環状のバルブストッパ72が積層されて、ピストンロッド23の小径部23aの外周に装着されている。また、ピストン22の図4中下方には、伸側バルブ31bが積層され、伸側バルブ31bは、ピストン22とともにピストンロッド23の小径部23aの外周に装着される。そして、伸側バルブ31bの図4中下方から圧力室R6を形成するハウジング24がピストンロッド23の螺子部23bに螺着される。このハウジング24によって、図4中上から順にピストンロッド23の外周に装着されるバルブストッパ72、圧側バルブ31d、ピストン22および伸側バルブ31bは、ピストンロッド23の段部23cとハウジング24によって挟持されてピストンロッド23に固定される。このように、ハウジング24は、内部に圧力室R6を形成するだけでなく、ピストン22や上記したバルブ類をピストンロッド23に固定するピストンナットとしての役割を果たしている。
ハウジング24は、ピストンロッド23の螺子部23bに螺合される筒状の螺子筒36と、螺子筒36の外周に設けた鍔37とを備えたナット部35と、ナット部35における鍔37の外周に開口部が加締められて一体化される有底筒状の外筒38とを備えて構成されている。そして、ナット部35および外筒38で圧側室R5内に圧力室R6を画成している。なお、ナット部35と外筒38との一体化に際し、上記加締め加工以外にも溶接等の他の方法を採用することも可能であり、ナット部35と外筒38とを一部品で構成されてもよい。
そして、上記のように形成される圧力室R6内には、フリーピストン29が摺動自在に挿入されて、圧力室R6は、図4中上方側の伸側圧力室27と下方側の圧側圧力室28に区画されている。
ナット部35は、螺子筒36をピストンロッド23の螺子部23bに螺着することによって、ハウジング24をピストンロッド23の小径部23aに固定することが可能なようになっている。ゆえに、外筒38の少なくとも一部の外周の断面形状を真円以外の形状、たとえば、一部を切欠いた形状や、六角形等の形状としておくことで、この外周に係合する工具を用いてハウジング24をピストンロッド23に螺着する作業を容易とすることができる。
外筒38は、底部38aと、筒部38bとを備えて有底筒状とされている。筒部38bは、底部側に小内径を持つ小径部38cと、反底部側に大内径を持つ大径部38dと、小径部38cを貫いて圧側室R5をハウジング24内へ連通する固定オリフィス38eと、大径部38dを貫いて圧側室R5をハウジング24内へ連通する二つの可変オリフィス38f,38gと、小径部38cと大径部38dとの境に形成される段部38hとが設けられている。
また、底部38aには、当該底部38aを貫いて圧側室R5をハウジング24内へ連通する伸側バイパス30aと圧側バイパス30bとを備えている。そして、伸側バイパス30aと圧側バイパス30bとでバイパス30を形成している。
さらに、この底部38aには、挿通孔38iが設けられている。また、底部38aの図4中上端となる圧力室R6側には、圧側バイパス30bを開閉する圧側バイパスバルブ32が積層され、底部38aの図4中下端となる圧側室R5側には、伸側バイパス30aを開閉する伸側バイパスバルブ33とが積層されている。これらの圧側バイパスバルブ32および伸側バイパスバルブ33は、この場合、環状のリーフバルブとされていて、それぞれ、上記挿通孔38iに挿通されるガイドロッド40の外周に装着される。なお、圧側バイパスバルブ32は、自身が開閉しない伸側バイパス30aの流路面積に影響を与えないようになっており、同様に、伸側バイパスバルブ33においても、自身が開閉しない圧側バイパス30bの流路面積に影響を与えないようになっている。また、この緩衝装置D1にあっても、緩衝装置Dと同様に、圧側バイパスバルブ32の撓み剛性は、伸側バイパスバルブ33の撓み剛性より小さくしていて、流量が同じであれば、圧側バイパスバルブ32が圧側バイパス30bを通過する液体の流れに与える抵抗は、伸側バイパスバルブ33が伸側バイパス30aを通過する液体の流れに与える抵抗よりも小さくなっている。
また、圧側バイパスバルブ32および伸側バイパスバルブ33は、バルブケース4の挿通孔38iに挿入されるガイドロッド40の外周に組みつけられて、ハウジング24に保持される。具体的には、ガイドロッド40は、挿通孔38iに挿入される軸部40aと、軸部40aの基端に設けた鍔部40bと、軸部40aの先端に設けた螺子部40cとで構成されている。そして、このガイドロッド40の螺子部40cには、ナット41が螺着される。こうすることで、ガイドロッド40の軸部40aの外周に装着された圧側バイパスバルブ32および伸側バイパスバルブ33は、内周側が鍔部40bとナット41とで挟持され、外周側の撓みが許容されてハウジングに固定される。
他方、フリーピストン29は、有底筒状とされており、フリーピストン底部29aを図4中下方へ向けてフリーピストン筒部29bの外周を外筒38の筒部38bにおける大径部38dの内周に摺接させてハウジング24内に挿入されている。フリーピストン29は、上記のようにハウジング24内に摺動自在に挿入されると圧力室R6内を伸側圧力室27と圧側圧力室28とに区画する。
なお、フリーピストン29のフリーピストン底部29aを図4中下方へ向けてハウジング24内に収容することで、フリーピストン29のナット部35における螺子筒36への干渉を避けることができる。さらに、フリーピストン29は、この実施の形態の場合、フリーピストン筒部29bの外周に環状溝29cと、フリーピストン底部29aから環状溝29cへ通じる孔29dを備えている。
また、このフリーピストン29に、フリーピストン29の圧力室R6に対する変位量に応じてその変位を抑制する附勢力を作用させるばね要素が設けられており、このばね要素は、フリーピストン29の底部29aとナット部35の鍔37との間に介装されるコイルばね42と、圧側圧力室28内であって外筒38における外筒底部38aとフリーピストン29の底部29aとの間に介装されるコイルばね43とで構成されている。よって、フリーピストン29は、コイルばね42,43に挟持されて圧力室R6内で中立位置に位置決められた上で弾性支持されている。
なお、ばね要素としては、フリーピストン29を弾性支持できればよいので、コイルばね42,43以外のものを採用してもよく、たとえば、皿ばね等の弾性体を用いてフリーピストン29を弾性支持するようにしてもよい。また、一端がフリーピストン29に連結される単一のばね要素を用いる場合には、ナット部35或いは外筒38に他端を固定するようにしてもよい。
そして、上記環状溝29cは、フリーピストン29がばね要素としてのコイルばね42,43によって弾性支持されて中立位置にあるときには必ず上記可変オリフィス38f,38gに対向して圧側圧力室28と圧側室R5を連通するとともに、フリーピストン29がストロークエンドまで変位する、すなわち、ナット部35の鍔57或いは外筒38の内周に設けた段部38hに当接するまで変位するとフリーピストン29の外周で完全にラップされて閉塞されるようになっている。
また、固定オリフィス38eは、フリーピストン9によって区画された圧側圧力室28と圧側室R5とに開口しており、これらを連通している。また、可変オリフィス38f,38gの一端は圧側室R5に臨んでおり、その他端は、フリーピストン29に設けた環状溝29cおよび孔29dによって圧側圧力室28に連通される。すなわち、圧側流路26は、環状溝29c、孔29d、可変オリフィス38f,38gおよび固定オリフィス38eで構成されている。なお、可変オリフィス38f,38gを二つ設けているが、その数は任意である。
つまり、この具体的な緩衝装置D1の場合、フリーピストン29の中立位置からの変位量が増加していくと、可変オリフィス38f,38gの開口全てが環状溝29cに対向する状況からフリーピストン29の外周に対向し始める状況に移行して徐々に可変オリフィス38f,38gの流路面積が減少し始め、圧側流路26における流路抵抗が徐々に増加する。そして、この実施の形態では、フリーピストン29の変位量の増加に伴って徐々に可変オリフィス38f,38gの流路面積が減少し、フリーピストン29がストロークエンドに達すると、可変オリフィス38f,38gが完全にフリーピストン29の外周で閉塞されて、圧側流路26における流路抵抗が最大となるようになっている。
また、ハウジング24の底部38aに設けられており、フリーピストン29がハウジング24内の底部38a側に圧側圧力室28を区画しているので、伸側バイパス30aと圧側バイパス30bは、圧側圧力室28と圧側室R5とを連通している。したがって、圧側バイパスバルブ32は、圧側室R5から圧側圧力室28へ向かう液体の流れに対して抵抗を与えて、その反対方向の流れを阻止するようになっており、伸側バイパスバルブ33は、圧側圧力室28から圧側室R5へ向かう液体の流れに対して抵抗を与えて、その反対方向の流れを阻止するようになっている。そして、緩衝装置Dと同様に、この緩衝装置D1にあっても、緩衝装置D1の伸長速度(緩衝装置D1における伸長時のピストン速度)が伸側の所定速度以上となると伸側バイパスバルブ33が開弁し伸側バイパス30aが開放され、緩衝装置D1の収縮速度(緩衝装置D1における収縮時のピストン速度)が圧側の所定速度以上となると圧側バイパスバルブ32が開弁し圧側バイパス30bが開放されるようになっている。
なお、圧側バイパスバルブ32および伸側バイパスバルブ33の一方または両方にオリフィスを設けるようにしておけば、このオリフィスを固定オリフィス38eとして代用することができ、ハウジング24に固定オリフィスを設ける加工を省くこともできる。具体的には、圧側バイパスバルブ32および伸側バイパスバルブ33とがリーフバルブとされているので、その外周に切欠を設けてもよいし、ハウジング24の底部38aに圧側バイパスバルブ32および伸側バイパスバルブ33が着座する弁座を設けておき、この弁座に打刻オリフィスを設けるようにしてもよい。
さて、緩衝装置D1は、以上のように構成されるが、続いて緩衝装置D1の作動について説明する。まず、フリーピストン29における中立位置からの変位量が可変オリフィス38f,38gを閉塞し始めない範囲内にある場合の緩衝装置D1における動作について説明する。
この場合、フリーピストン29は、圧側流路26の抵抗を変化させることなく変位することが可能である。そして、緩衝装置D1へ入力される振動周波数が低い場合と高い場合で、ピストン速度が同じであるという条件下で考えると、まず、入力周波数が低い場合、入力される振動の振幅が大きくなり、フリーピストン29の振幅も、可変オリフィス38f,38gを閉塞し始めない範囲内で大きくなる。
フリーピストン29の振幅が上記の範囲で大きくなると、フリーピストン29がコイルばね42,43から受ける附勢力が大きくなり、緩衝装置D1が伸長する場合、圧側圧力室28内の圧力は、伸側圧力室27内の圧力よりも上記コイルばね42,43の附勢力分だけ小さくなり、逆に、緩衝装置D1が収縮する場合には、伸側圧力室28内の圧力は、圧側圧力室27内の圧力よりも上記コイルばね42,43の附勢力分だけ小さくなる。
このように、緩衝装置D1が低周波振動を呈すると伸側圧力室27と圧側圧力室28にコイルばね42,43の附勢力に見合った差圧が生じているので、伸側室R4と伸側圧力室27の差圧および圧側室R5と圧側圧力室28の差圧が小さくなり、伸側流路25、圧側流路26、伸側圧力室27および圧側圧力室28でなる見掛け上の流路を通過する流量は小さい。この見掛け上の流路を通過する流量が小さい分、伸側ポート31a或いは圧側ポート31cの流量は大きくなるので、緩衝装置D2が発生する減衰力が大きいまま維持される。
逆に、緩衝装置D1への入力周波数が高い場合、入力される振動の振幅が小さくなり、フリーピストン29の振幅はより小さくなる。フリーピストン29の振幅が小さくなると、フリーピストン29がコイルばね42,43から受ける附勢力が小さくなり、緩衝装置D1が伸長行程にあっても収縮行程にあっても、伸側圧力室27内の圧力と圧側圧力室28内の圧力とが略等しくなる。すると、伸側室R4と伸側圧力室27の差圧および圧側室R5と圧側圧力室28の差圧は大きくなるので、伸側流路25および圧側流路26を通過する流量も多くなる。
緩衝装置D1へ入力される振動の周波数が低い場合には、見掛け上の流路を通過する流量は小さく、入力周波数が高い場合には、見掛け上の流路を通過する流量は大きくなり、入力速度が同じであれば、伸側室R4から圧側室R5或いは圧側室R5から伸側室R4へ流れる流量は、入力周波数によらず等しくならなければならないため、伸側ポート31a或いは圧側ポート31cを通過する流量は、入力周波数が低い場合には多くなって減衰力が高く、反対に、入力周波数が高い場合には少なくなって減衰力は低くなる。したがって、緩衝装置D1の減衰特性は、上記した緩衝装置Dと同様に図3に示すように、推移することになる。
したがって、この緩衝装置D1にあっても、緩衝装置Dと同様に、減衰力の変化を入力振動周波数に依存させることができ、ばね上共振周波数の振動の入力に対しては高い減衰力を発生することで車両の姿勢を安定させて、車両旋回時に搭乗者に不安を感じさせることを防止できるとともに、ばね下共振周波数の振動が入力されると必ず低い減衰力を発生させて車軸側の振動の車体側への伝達を絶縁して、車両における乗り心地を良好なものとすることができる。
そして、特に、高周波数の振動が緩衝装置D1に入力されて、ピストン速度が高速となって上記した所定速度以上となると、伸長行程時には、伸側バイパスバルブ33が開弁して伸側バイパス30aを開放し、収縮行程時には、圧側バイパスバルブ32が開弁して圧側バイパス30bを開放する。
つまり、この緩衝装置D1にあっても、高周波振動が入力される場合、緩衝装置Dと同様に、伸長作動時には、圧側バイパスバルブ33によって圧側圧力室28の圧力を圧側室R5へ逃げ難くし、伸側圧力室27と圧側圧力室28の差圧を低減してフリーピストン29が圧側圧力室8側へ偏って変位することを抑制しつつ、収縮作動時においては、圧側室R5の圧力を圧側圧力室28へ取り込んで、圧側圧力室28の速やかな圧力上昇を実現することで、フリーピストン29の伸側圧力室27側への変位を妨げず、緩衝装置D1の伸縮方向が反転した際にもフリーピストン29の戻り遅れが生じてフリーピストン29の圧側圧力室28側への偏りを助長することがない。したがって、緩衝装置D1に高周波振動が入力される場合には、伸側圧力室27と圧側圧力室28の差圧は従来の緩衝装置のそれよりも低減され、フリーピストン29は、圧側圧力室28を拡大する方向へは変位しやすく、圧側圧力室28を圧縮する方向へは変位しにくくなる。
その結果、本発明の緩衝装置D1では、高周波振動が継続して入力されて、伸側圧力室27の圧力が圧側圧力室28の圧力よりも高くなる状態となっても、伸側圧力室27と圧側圧力室28の差圧が低減されるので、フリーピストン29がフリーピストン中立位置から圧側圧力室28側へ偏って変位した状態となることを抑制できる。そして、伸側圧力室27と圧側圧力室28の差圧が低減されるだけで、フリーピストン29の作動を妨げるものではないので、緩衝装置D1の基本作動である高周波振動時に減衰力を低減する作動を損なうこともない。
それゆえ、本発明の緩衝装置D1では、高周波振動が継続して入力されてもフリーピストン29の変位に偏りが生じないため、フリーピストン29の圧側圧力室28側へのストローク余裕を確保することができ、フリーピストン29がハウジング24に当接して圧側圧力室28への変位ができなくなることを防止することができる。この結果、本発明の緩衝装置D1によれば、高周波振動が継続的に入力されても、フリーピストン29のストローク余裕が確保されるので、減衰力低減効果を失うことがない。また、緩衝装置D1にあっては、高周波振動が継続的に入力されても、減衰力低減効果を発揮することができるので、悪路やでこぼこ道を車両が走行する場合にあっても、良好な乗心地を実現できる。
なお、この緩衝装置D1は、圧側室R5から圧側圧力室28へ向かう液体に対しては圧側バイパスバルブ32が開弁し、反対に、圧側圧力室28から圧側室R5へ向かう液体の流れに対しては伸側バイパスバルブ33が開弁するようになっているので、圧側バイパスバルブ32が開弁した際のバルブ開度を大きくすることができ、バルブ開度の制御が飛躍的に容易となる。
さらに、この緩衝装置D1にあっても、圧側バイパスバルブ32が液体の流れに与える抵抗と伸側バイパスバルブ16が液体の流れに与える抵抗の設定によって、フリーピストン9の変位しやすさをコントロールすることができるから、高周波側の減衰力の低下幅を設定することができる。また、圧側の所定速度を伸側の所定速度よりも低く設定しておけば、圧側バイパスバルブ32の効きが速く、フリーピストン29の変位の偏りを早期に阻止することができる。また、圧側バイパスバルブ32および伸側バイパスバルブ33とが緩衝装置D1の伸縮の速度によらず、緩衝装置D1の伸縮に伴って、それぞれ対応する行程で開弁するように設定することも可能であるが、圧側バイパスバルブ32および伸側バイパスバルブ33の開弁をそれぞれ圧側の所定速度以上および伸側の所定速度以上と設定しておくことで、圧側バイパスバルブ32および伸側バイパスバルブ33の影響を限定的にすることができ、緩衝装置D1の減衰特性の設定が容易となるとともに、圧側バイパスバルブ32および伸側バイパスバルブ33が液体の流れに与える抵抗の設定自由度が向上することになる。
さらに、圧側バイパスバルブ32および伸側バイパスバルブ33がハウジング24に保持されるようにすることで、ハウジング24に圧側バイパスバルブ32および伸側バイパスバルブ33をアッセンブリ化することができ、組立が簡単となる。また、圧側バイパスバルブ32および伸側バイパスバルブ33をリーフバルブとして、ハウジング24の底部38aに設けたガイドロッド40に装着するようにすることで、圧側バイパスバルブ32および伸側バイパスバルブ33を簡易な構成として簡単にハウジング24に固定することができ、圧側バイパスバルブ32とフリーピストン29との干渉も避けつつもハウジング24の大型化を招かず、緩衝装置D1のストローク長に与える影響が少なくなる点で有利である。
次に、フリーピストン29の中立位置からの変位量が圧側流路26の流路抵抗を増加させる範囲内となる場合の緩衝装置D1における動作について説明する。
可変オリフィス38f,38gは、緩衝装置D1が伸長しても収縮しても、フリーピストン29が中立位置から変位して、その変位量に応じて、徐々に流路面積を小さくし、フリーピストン29が上下のいずれかストロークエンドに到達すると完全に閉塞されて流路面積を固定オリフィス38eの流路面積と同じくして最小とする状況となる。
つまり、フリーピストン29が可変オリフィス38f,38gを閉塞し始めた後は変位量に応じて圧側流路26の流路抵抗を徐々に大きくし、フリーピストン29がストロークエンドに到達すると流路抵抗が最大となる。
ここで、フリーピストン29がストロークエンドまで変位するのは、伸側圧力室27もしくは圧側圧力室28への液体の流出入量が多い場合であり、具体的には、緩衝装置D1の伸縮の振幅が大きい場合である。
緩衝装置D1に入力される振動周波数が比較的高い場合、緩衝装置D1は、フリーピストン29が可変オリフィス38f,38gを閉塞し始める位置へ変位するまでは、比較的低い減衰力を発生しているが、フリーピストン29が可変オリフィス38f,38gを閉塞し始める位置を越えて変位するようになると、徐々に圧側流路26の流路抵抗が徐々に大きくなっていくので、フリーピストン29のそれ以上のストロークエンド側への移動速度が減少されて、見掛け上の流路を介しての液体の移動量も減少し、その分、伸側ポート31a或いは圧側ポート31cを通過する液体量が増加することになり、緩衝装置D1の発生減衰力は徐々に大きくなっていく。
そして、フリーピストン29がストロークエンドに達すると、それ以上、見掛け上の流路を介しての液体の移動はなくなり、緩衝装置D1の伸縮方向を転ずるまでは液体は伸側ポート31a或いは圧側ポート31cのみを通過することになり、緩衝装置D1は、最大の減衰係数で減衰力を発生することになる。
すなわち、フリーピストン29がストロークエンドまで変位してしまうような高周波数で大振幅の振動が緩衝装置D1に対し入力されても、フリーピストン29の中立位置からの変位量が任意の変位量を超えるとフリーピストン29がストロークエンドに達するまでに緩衝装置D1は徐々に発生減衰力を大きくするので、低い減衰力から急激に高い減衰力に変化することが無くなる。つまり、フリーピストン29がストロークエンドに達して圧力室R6を介して伸側室R4と圧側室R5の液体の交流ができなくなるときに急激に減衰力の大きさが変化してしまうことがなくなり、低減衰力から高減衰力への減衰力変化がなだらかとなる。さらに、フリーピストン29が圧力室R6における両端側のストロークエンドまで到る際に、徐々に発生減衰力を大きくするので、減衰力の急激な変化を抑制する機能は、緩衝装置D1の伸圧の両行程で発揮される。
したがって、この緩衝装置D1にあっては、高周波数で振幅が大きい振動が入力されても、発生減衰力がなだらかに変化することになって、搭乗者に減衰力の変化によるショックを知覚させずにすみ、車両における乗り心地を向上することができ、特に、急激な減衰力変化によって車体が振動しボンネットが共振して異音が発生してしまう事態も防止でき、この点でも車両における乗り心地を向上することができる。
なお、緩衝装置D1にあっては、フリーピストン29の圧側圧力室28側への偏りを抑制できるとともに、圧側バイパスバルブ32が開弁すると、圧側圧力室28内の圧力を速やかに昇圧して、フリーピストン29がストロークエンドまで変位しても速やかにフリーピストン29を中立位置へ戻すことができる。したがって、この緩衝装置D2にあっては、可変オリフィス38f,38gが全開されない状態が長時間に亘って発生することがなく、減衰力が長時間に亘って高止まりすることを防止することができる。
このように、具体的な緩衝装置D1にあっては、フリーピストン29がストロークエンドまで変位する事態が生じても、減衰力が高止まりを防止できるから、車軸から車体への振動の伝達を絶縁する効果が消失してしまうといった不具合を解消でき、車両における乗り心地をより一層向上することができる。
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。