以下に、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
[第1実施形態]
図1から図5を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、トロイダル式無段変速機に関する。図1は、第1実施形態に係るトロイダル式無段変速機の要部断面図、図2は、第1実施形態に係るトロイダル式無段変速機の概略断面図、図3は、第1実施形態に係るトロイダル式無段変速機の一対のパワーローラ周りの概略断面図、図4は、第1実施形態に係るシリンダボディにおける射出孔の近傍を示す斜視図、図5は、第1実施形態に係る上部シリンダボディの下面を示す斜視図である。
図2に示すように、車両1は、駆動源となるエンジン5と、エンジン5に連結されたトルクコンバータ6と、トルクコンバータ6に連結された前後進切換機構7と、前後進切換機構7に連結されたトロイダル式無段変速機8とを備えている。また、トロイダル式無段変速機8には減速装置9が連結されると共に、減速装置9には差動装置10が連結され、さらに、差動装置10には駆動輪11が連結されている。
エンジン5は、燃料の燃焼エネルギーをクランクシャフト15の回転運動に変換して出力する。なお、車両1の駆動源は、エンジン5に限定されるものではない。
トルクコンバータ6は、流体クラッチの一種であり、エンジン5から出力された駆動力を、作動油を介して前後進切換機構7に伝えるものである。また、トルクコンバータ6は、例えば、ロックアップ機構を有するものがあり、エンジン5からの出力トルクを増加させて、あるいはそのままの出力トルクで、前後進切換機構7に伝達する。
トロイダル式無段変速機8は、前後進切換機構7から入力される駆動力の回転速度を、車両の運転状態に応じて所望の回転速度に変更して出力する。本実施形態のトロイダル式無段変速機8は、図1に示すように、シリンダボディ75、カウンタ軸42、油路44および射出孔13を備えている。なお、トロイダル式無段変速機8の詳細な説明は後述する。
図2に戻り、減速装置9は、トロイダル式無段変速機8から入力された駆動力の回転速度を減速して差動装置10に駆動力を伝達する。差動装置10は、車両1が旋回する際に生じる旋回の中心側、つまり内側の駆動輪11と、外側の駆動輪11との速度差を吸収する。
車両1において、エンジン5が駆動すると、エンジン5から出力された駆動力は、クランクシャフト15を介してトルクコンバータ6に伝達される。そして、トルクコンバータ6によって出力トルクが増幅された駆動力は、前後進切換機構7に伝達され、前後進切換機構7によって所望の回転方向に変更される。所望の回転方向となった駆動力は、トロイダル式無段変速機8の無段変速機構81に入力される。無段変速機構81は、入力ディスク20a,20b、出力ディスク21a,21b、パワーローラ22、トラニオン23等を含んでいる。無段変速機構81に入力された駆動力は、トロイダル式無段変速機8の所定の変速比に応じて、回転速度が変更される。無段変速機構81によって回転速度が変更された駆動力は、減速装置9に入力され、入力された駆動力は、減速装置9によって減速された後、差動装置10に出力される。そして、差動装置10は、入力された駆動力を駆動輪11に伝達することにより、駆動輪11が回転し、これにより、車両1が走行する。
トロイダル式無段変速機8は、車両1に搭載されたエンジン5からの駆動力(出力回転数や出力トルク)を、車両1の走行状態に応じて、適切な駆動力に変換して駆動輪11に伝達するものであり、変速比を無段階(連続的)に制御することができる、いわゆるCVTである。
トロイダル式無段変速機8は、入力軸28を介して駆動力が入力される一対の入力ディスク20a,20bと、一対の入力ディスク20a,20bの間に配設されると共に、各入力ディスク20a,20bに対向するように配設された一対の出力ディスク21a,21bと、各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとの間にそれぞれ設けられた対となる2組のパワーローラ22と、を備えている。各パワーローラ22は、各トラニオン23に回転自在に支持されている。また、トロイダル式無段変速機8は、各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとを接近させて各パワーローラ22を挟持させるディスク押圧機構24と、各トラニオン23を揺動軸61a,61b(図3参照)に沿って移動させて各パワーローラ22を中立位置と変速位置との間で移動させる油圧サーボ機構25と、を備えている。ディスク押圧機構24および油圧サーボ機構25は、油圧制御装置26により制御されている。また、エンジン5および油圧制御装置26は、ECU90によって制御される。
トロイダル式無段変速機8は、ディスク押圧機構24により各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとの間に各パワーローラ22を挟み込み、この状態で、油圧サーボ機構25により各トラニオン23を揺動軸61a,61bに沿って移動させる。これにより、各パワーローラ22が中立位置から変速位置に移動することで、各パワーローラ22が傾転し、入力ディスク20a,20bと出力ディスク21a,21bとの回転数比である変速比が変更される。
一対の入力ディスク20a,20bは、トロイダル式無段変速機8の入力軸28に連結されたバリエータ軸30に軸支されており、軸線X1を中心にバリエータ軸30と一体となって回転する。フロント側(エンジン5側)にフロント側入力ディスク20aが設けられ、フロント側入力ディスク20aに対して所定の間隔をあけてリア側(駆動輪11側)にリア側入力ディスク20bが設けられる。
フロント側入力ディスク20aは、バリエータ軸30に対して周方向への変位が規制される一方、バリエータ軸30に対してX1軸方向への変位が許容される。一方、リア側入力ディスク20bは、バリエータ軸30に対して周方向への変位が規制される一方、バリエータ軸30に対してX1軸方向リア側への変位が規制され、X1軸方向フロント側への変位が許容される。フロント側入力ディスク20aは、ディスク押圧機構24によりバリエータ軸30に対してX1軸方向リア側に押圧され、リア側入力ディスク20bは、ディスク押圧機構24によりバリエータ軸30に対してX1軸方向フロント側に押圧される。
一対の出力ディスク21a,21bは、バリエータ軸30に対し回転自在に軸支されており、軸線X1を中心に回転する。各パワーローラ22は、ディスク押圧機構24により各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bに挟持された状態で転動することにより、各入力ディスク20a,20bから各出力ディスク21a,21bに駆動力を、あるいは各出力ディスク21a,21bから各入力ディスク20a,20bに被駆動力を伝達する。このとき、各パワーローラ22は、トロイダル式無段変速機8に供給されるトラクションオイルにより各パワーローラ22と各入力ディスク20a,20bとの間および各パワーローラ22と各出力ディスク21a,21bとの間に形成される油膜のせん断力を用いて駆動力あるいは被駆動力を伝達する。
一対の出力ディスク21a,21bの間には、出力ギア40が連結されている。出力ギア40は、一対の出力ディスク21a,21bと一体となって回転する。また、出力ギア40には、カウンターギア41が噛み合わされており、このカウンターギア41にカウンタ軸42が連結されている。従って、各出力ディスク21a,21bが回転することにより出力ギア40が回転し、出力ギア40からカウンターギア41に回転を伝達することで、カウンタ軸42が回転する。そして、このカウンタ軸42は、減速装置9、差動装置10等を介して駆動輪11に接続されている。カウンタ軸42は、入力軸28およびバリエータ軸30と平行に配置されている。
各パワーローラ22を回転自在に支持する各トラニオン23は、各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bに対し、各パワーローラ22を中立位置と変速位置との間で移動させるものである。シリンダボディ75には、トラニオン23に潤滑油を供給する供給油路77が設けられている。供給油路77は、例えば、潤滑油のポンプとトラニオン23とを連通するものである。各トラニオン23は、図3に示すように、本体部60と、揺動軸61a,61bとを有する。
本体部60には、パワーローラ22が配置される空間部が形成されている。また、本体部60には、パワーローラ22の移動方向における両端部に揺動軸61a,61bがそれぞれ一体形成されている。揺動軸61a,61bは、柱状に形成されており、軸線X2を回転中心として本体部60を回転可能に軸支している。図示下方に延びる一方の揺動軸61aは、ロアリンク62を介してケーシング(不図示)に支持されており、図示上方に延びる他方の揺動軸61bは、アッパリンク63を介してケーシング(不図示)に支持されている。従って、トラニオン23は、本体部60が揺動軸61a,61bと共に軸線X2を中心として回転自在に支持され、また、軸線X2に沿った方向に移動自在に支持されている。
油圧サーボ機構25は、各トラニオン23をX2軸方向に移動させるものである。つまり、油圧サーボ機構25は、各トラニオン23を介して各パワーローラ22を中立位置から変速位置へ移動させるものである。この油圧サーボ機構25は、変速制御油圧室65と、変速制御ピストン66とを有しており、変速制御油圧室65に導入される作動油の油圧を変速制御ピストン66により受圧することで、各トラニオン23を軸線X2に沿った2方向(A1方向及びA2方向)に移動させる。変速制御ピストン66は、軸線X2方向に移動することによって無段変速機構81の変速比を制御するピストンである。
変速制御ピストン66は、ピストンベース70とフランジ部71とを有する。ピストンベース70は、円筒形状に形成され一方の揺動軸61aに挿入されて固定されている。フランジ部71は、ピストンベース70から揺動軸61aの径方向外側に突出して円板状に形成されると共にピストンベース70に固定的に設けられている。シリンダボディ75は、変速制御ピストン66を介して揺動軸61aをX2軸方向に移動可能に保持している。
変速制御油圧室65は、シリンダボディ75内に形成されている。シリンダボディ75は、上部シリンダボディ2と、上部シリンダボディ2の鉛直方向下側(底部)に配設された下部シリンダボディ3とを有する。上部シリンダボディ2は、その底部に変速制御油圧室65となる円柱中空状の凹部が形成されている。そして、下部シリンダボディ3は、上部シリンダボディ2の凹部の開口を塞ぐように上部シリンダボディ2の底部に固定される。これにより、変速制御油圧室65は、上部シリンダボディ2と下部シリンダボディ3とにより軸線X2を中心とした円柱状(シリンダ状)に区画される。変速制御油圧室65は、油路76を介して油圧制御装置26と接続されている。変速制御油圧室65には、油路76を介して潤滑油が供給される。
変速制御ピストン66のフランジ部71は、変速制御油圧室65内に収納されると共に、変速制御油圧室65を第1油圧室OP1と第2油圧室OP2とに区分けする。このとき、第1油圧室OP1は、軸線X2に沿ったA2方向側に形成され、第2油圧室OP2は、軸線X2に沿ったA1方向側に形成される。
従って、第1油圧室OP1の内部に作動油が供給されると、油圧によりフランジ部71が軸線X2に沿ったA1方向に移動する一方、第2油圧室OP2の内部に作動油が供給されると、油圧によりフランジ部71が軸線X2に沿ったA2方向に移動する。これにより、油圧サーボ機構25は、各トラニオン23を軸線X2に沿った方向に移動させることにより、各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bに対し、各パワーローラ22を中立位置から変速比に応じた変速位置に移動させることで、各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bに対し、各パワーローラ22を傾転させることができる。
トロイダル式無段変速機8は、トラクションオイルによる油膜のせん断力によって動力を伝達するトロイダル式の無段変速機構(トラクションドライブ機構)81と、ギアの噛合いによって動力を伝達するギア式の伝達機構を有している。ギア式の伝達機構は、出力ギア40、カウンターギア41、減速装置9および差動装置10を含んでいる。
トロイダル式の無段変速機構81では、動力伝達部材としてμが高いトラクションフルードを使用する。しかしながら、トラクションフルードは、その高μゆえに、ギア式の伝達機構の潤滑に用いられると損失が増大してしまう。これに対して、ギア式の伝達機構を収納するギア室を、トロイダル式の無段変速機構81を収納するトラクションドライブ室とは隔離し、ギア室内をトラクションフルードとは異なる低μの潤滑油(例えば、ATF)で潤滑することが考えられる。
トランスミッションのリア側のリダクションギア室をATF等の潤滑油による潤滑とした場合、無段変速機構81と減速装置9とを接続するカウンタ軸42は、後側がATFによる潤滑、前側がトラクションオイルによる潤滑となる。従って、カウンタ軸42の両端からそれぞれ別種の油を導入する構造が必要となる。
ここで、図1に示すように、カウンタ軸42のフロント側は、シリンダボディ75に囲まれた空間にある。カウンタ軸42のフロント側に潤滑油を供給する方法として、例えば、シリンダボディ75によって囲まれた空間に上部から落下してくる潤滑油を捕集し、捕集した潤滑油をカウンタ軸42に導入する構造を設けることが考えられる。しかしながら、カウンタ軸42のフロント側は、カウンタ軸42と別体のカウンターギア41を固定する構造を有する。カウンターギア41は、カウンタ軸42とは別体であり、カウンタ軸42に対して軸方向のフロント側から挿入されて嵌合している。従って、カウンタ軸42におけるフロント側の端部には、カウンターギア41を固定する構造を設ける必要がある。なお、本明細書では、特に記載のない限り、単に「軸方向」と記載した場合、カウンタ軸42の軸方向を示すものとする。
シリンダボディ75とカウンタ軸42との間の空間は、組付け時にカウンタ軸42に対してカウンターギア41を固定する作業などのために必要な空間である。作業用のスペースを確保するためには、潤滑油捕集の構造をシリンダボディ75等とは別体の構造として後付けする必要がある。その結果、潤滑油を捕集する部材のコストアップが問題となる。
本実施形態のトロイダル式無段変速機8は、シリンダボディ75に形成された射出孔13を備えており、射出孔13がカウンタ軸42に向けて潤滑油を射出する。この射出孔13は、シリンダボディ75の既存の油路、例えばトラニオン23に潤滑油を供給する供給油路77と連通している。射出孔13は、供給油路77から導かれる潤滑油を射出する。本実施形態のトロイダル式無段変速機8によれば、シリンダボディ75とカウンタ軸42との間の空間に新たに潤滑油を捕集する部材を設けることなくカウンタ軸42に対して適切に潤滑油を供給することができる。よって、カウンターギア41を固定するための空間を確保することができる。また、シリンダボディ75に対する加工によってカウンタ軸42に対して潤滑油を供給する構成を実現できるため、潤滑油を供給するための新たな部材を追加する場合と比較してコスト増を抑制することができる。
図1に示すように、カウンターギア41は、カウンタ軸42におけるフロント側の端部に配置されている。カウンターギア41は、スプライン嵌合等によってカウンタ軸42の外周に対して相対回転不能に連結されている。また、カウンターギア41は、カウンタ軸42に対して軸方向に相対移動不能に固定されている。カウンタ軸42には、油路44が形成されている。油路44は、カウンタ軸42のフロント側の端面42aから軸方向のリア側に向けて延在している。カウンタ軸42におけるフロント側の端面42aには、油路44の開口部45が形成されている。軸方向における油路44の設置範囲は、カウンターギア41の設置範囲を含んでいる。油路44は、端面42aから、カウンタ軸42とカウンターギア41とのスプライン嵌合部よりも軸方向のリア側まで設けられている。
カウンタ軸42には油路46が形成され、カウンターギア41には油路46と連通する油路47が形成されている。油路46,47は、それぞれカウンタ軸42の径方向に延在している。油路46は、カウンタ軸42の径方向視においてカウンターギア41と重なりを有する位置に形成されており、カウンタ軸42の壁部を径方向に貫通している。油路46は、油路44とカウンターギア41の内周とを連通している。油路47は、カウンターギア41の内周とカウンターギア41の外周とを連通している。カウンターギア41は、軸受43によって回転自在に支持されている。油路47は、油路46から流出する潤滑油を軸受43に導く。また、油路47から流出する潤滑油は、カウンターギア41のギア部41aを潤滑する。
シリンダボディ75は、上部シリンダボディ2、下部シリンダボディ3に加えて、シリンダボディプレート4を有する。シリンダボディプレート4は、上部シリンダボディ2と下部シリンダボディ3との間に介在する部材である。シリンダボディプレート4は、板状の部材であり、上部シリンダボディ2の下面と下部シリンダボディ3の上面とに挟まれている。シリンダボディプレート4によって、シリンダボディ2,3間が油密にシールされている。シリンダボディプレート4は、上部シリンダボディ2や下部シリンダボディ3の合わせ面に形成された潤滑油の供給溝を平面交差させることや立体交差させることを可能とする。
シリンダボディ75は、カウンタ軸42のフロント側の端面42aと軸方向において対向する対向部75aを有する。対向部75aのリア側の端面と、カウンタ軸42におけるフロント側の端面42aとは軸方向において互いに対向している。
射出孔13は、対向部75aに形成されている。射出孔13は、カウンタ軸42の開口部45に向けて潤滑油を射出するものである。開口部45は、射出孔13に対して射出孔13の中心軸線方向の延長線上にあり、この中心軸線方向において射出孔13の射出口13aと開口部45とが対向している。つまり、射出口13aは、開口部45と対向するシリンダボディ75における面に形成されている。本実施形態では、射出孔13は、軸方向に延在しており、射出孔13の中心軸線は、カウンタ軸42の中心軸線と平行である。また、射出孔13の中心軸線は、油路44の中心軸線よりも鉛直方向上側に位置している。
対向部75aには、加圧潤滑油空間12が形成されている。加圧潤滑油空間12は、射出孔13と連通する油室であり、射出孔13に対して軸方向のフロント側に形成されている。加圧潤滑油空間12は、トラニオン23に潤滑油を供給する供給油路77と連通している。つまり、加圧潤滑油空間12は、供給油路77と射出孔13とを接続する油室である。
図1、図4および図5に示すように、加圧潤滑油空間12および射出孔13は、上部シリンダボディ2に形成されている。図5に示すように、加圧潤滑油空間12および射出孔13は、上部シリンダボディ2の下面2b、言い換えると上部シリンダボディ2における下部シリンダボディ3側の合わせ面に形成されている。加圧潤滑油空間12および射出孔13は、上部シリンダボディ2の下面2bに形成された溝部である。射出孔13の断面形状は、例えば、半円形とされる。射出孔13は、直線状に延在しており、かつ中心軸線と直交する断面積は一定である。軸方向と直交する断面積で比較すると、射出孔13の断面積は、油路44の断面積よりも小さい。また、加圧潤滑油空間12の断面積は、射出孔13の断面積よりも大きい。
シリンダボディプレート4は、上部シリンダボディ2の下面2bをシールしており、加圧潤滑油空間12および射出孔13からの潤滑油の漏れを抑制する。シリンダボディプレート4は、加圧潤滑油空間12および射出孔13を下方から閉塞することにより、加圧潤滑油空間12および射出孔13を加圧された潤滑油を導く管路として機能させる。
供給油路77から加圧潤滑油空間12を介して射出孔13に加圧した潤滑油が供給されると、射出孔13からカウンタ軸42の開口部45に向けて潤滑油が射出される。射出孔13の射出口13aから射出される潤滑油は、開口部45を介して油路44に流入し、油路44から各被潤滑部に供給される。例えば、油路44に流入した潤滑油は、油路46を介してカウンタ軸42とカウンターギア41との嵌合部に供給されて当該嵌合部を潤滑する。さらに、潤滑油は油路47を介して軸受43、ギア部41aに供給される。
このように、本実施形態のトロイダル式無段変速機8では、カウンタ軸42の油路44に対して、射出孔13が射出する潤滑油が供給される。よって、カウンターギア41を固定する作業等のためのスペースを犠牲にすることなく、かつ低コストでカウンタ軸42の軸端部に潤滑油を供給することが可能となる。
また、本実施形態では、射出孔13から射出される潤滑油が拡散することを抑制できるように対向部75aが形成されている。具体的には、図1および図4に示すように、上部シリンダボディ2のリア側の端面2aと、シリンダボディプレート4のリア側の端面4aとが同一の平面を形成している。上部シリンダボディ2のリア側の端面2aは、開口部45と対向する上部シリンダボディ2における面である。また、シリンダボディプレート4のリア側の端面4aは、開口部45と対向するシリンダボディプレート4における面である。リア側の端面2a,4aが形成する平面は、軸方向と直交する平面となっている。言い換えると、各端面2a、4aが形成する平面は、射出孔13の中心軸線方向(潤滑油の射出方向)と直交する平面となっている。
上部シリンダボディ2の端面2aとシリンダボディプレート4の端面4aとが同一平面を形成していることで、射出孔13の射出口13aから射出される潤滑油が軸方向に対して傾斜する方向に飛散してしまうことが抑制される。よって、射出孔13から油路44に対して効率よく潤滑油を供給することができる。
なお、本実施形態では、射出孔13が上部シリンダボディ2に形成されたが、これに代えて、あるいはこれに加えて下部シリンダボディ3に射出孔13が形成されてもよい。この場合、射出孔13は、下部シリンダボディ3における上面、すなわち下部シリンダボディ3における上部シリンダボディ2側の合わせ面に溝部として形成されることが好ましい。
本実施形態のシリンダボディ75は、上部シリンダボディ2、下部シリンダボディ3およびシリンダボディプレート4を有するものであったが、シリンダボディ75の構成要素はこれに限定されるものではない。例えば、シリンダボディプレート4が省略されてもよい。シリンダボディプレート4を介さずに上部シリンダボディ2と下部シリンダボディ3とが接続される場合、上部シリンダボディ2のリア側の端面2aと下部シリンダボディ3のリア側の端面3aとが同一の平面を形成していることが好ましい。下部シリンダボディ3のリア側の端面3aは、開口部45と対向する下部シリンダボディ3における面である。
射出孔13が、下面2b等の合わせ面に溝部として形成されることで、加工の作業性を向上させることができる。シリンダボディ75が上下別体であり、上下のシリンダボディ2,3の合わせ面に溝加工をすることで射出孔13を形成している。これにより、穴開け加工によって射出孔13を形成する場合等に比べて、射出孔13の加工における作業性が向上する。
[第1実施形態の変形例]
第1実施形態の変形例について説明する。上記第1実施形態では、射出孔13が上部シリンダボディ2の合わせ面、あるいは下部シリンダボディ3の合わせ面の少なくともいずれか一方に形成されたが、射出孔13は、合わせ面以外の部分に形成されてもよい。例えば、射出孔13は、ドリルによる穴開け加工によって形成されてもよい。なお、この場合、軸方向と平行なドリル穴を加工するためには、シリンダボディ75におけるカウンタ軸42が貫通する空間を通してドリルを挿入する必要があり、作業性が低下する場合がある。
これに対して、例えば、射出孔13を軸方向に対して傾斜した方向からの加工などにより形成するようにすれば、穴開け加工の作業性の向上を図ることができる。例えば、シリンダボディ75の合わせ面に対し垂直な方向から加工することができる。
[第2実施形態]
図6から図8を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。図6は、第2実施形態に係るトロイダル式無段変速機の要部断面図、図7は、第2実施形態に係るシリンダボディにおける射出孔の近傍を示す斜視図、図8は、第2実施形態に係るシリンダボディプレートを示す斜視図である。
本実施形態のトロイダル式無段変速機8において、上記第1実施形態と異なる点は、射出孔14がシリンダボディプレート4に形成されている点である。図6に示すように、射出孔14は、シリンダボディプレート4におけるリア側に形成されている。射出孔14は、上部シリンダボディ2に形成された加圧潤滑油空間12と連通している。図8に示すように、射出孔14は、シリンダボディプレート4に形成された断面矩形の切欠部であり、軸方向に延在している。射出孔14の射出口14aは、シリンダボディプレート4におけるリア側の端面4aに形成されている。本実施形態では、端面4aは、カウンタ軸42の開口部45と軸方向において対向する面である。
図6に示すように、シリンダボディプレート4は、油路44の中心軸線と同じ高さ位置に配置されており、射出孔14は、開口部45の中心に対して水平方向に潤滑油を射出する。また、射出孔14は、油路44の中心軸線上に延在しており、射出孔14は、油路44の中心軸線に沿った方向に潤滑油を射出することができる。
図8に示すように、射出孔14は、シリンダボディプレート4における上部シリンダボディ2側の空間と下部シリンダボディ3側の空間とを連通している。射出孔14は、シリンダボディプレート4が上部シリンダボディ2と下部シリンダボディ3とによって挟まれて上面側および下面側がそれぞれ閉塞されることにより、管路として機能し、加圧潤滑油空間12を介して導かれる潤滑油を射出口14aから射出することができる。
射出孔14における軸方向の中間部分は、フロント側へ向かうに従い車幅方向の幅が拡大している。射出孔14におけるこの中間部分よりもフロント側の部分である拡幅部14bは、加圧潤滑油空間12と連通している。射出孔14の流路断面積が拡幅部14bからリア側へ向かうに従い減少することで、射出口14aに向かう潤滑油の流速を高めることができる。
本実施形態では、射出孔14をシリンダボディプレート4に対する切り欠き加工によって形成でき、射出孔14を簡易な加工によって実現することができる。
上記第1実施形態と同様に、対向部75aは、射出孔14から射出される潤滑油が拡散することを抑制できるように形成されている。具体的には、図6および図7に示すように、上部シリンダボディ2のリア側の端面2aと、シリンダボディプレート4のリア側の端面4aと、下部シリンダボディ3のリア側の端面3aとは、同一の平面を形成している。この平面は、軸方向と直交する平面となっている。言い換えると、開口部45と対向する各端面2a,3a,4aが形成する平面は、射出孔14の軸線と直交する平面となっている。
このように、上部シリンダボディ2のリア側の端面2aと、シリンダボディプレート4のリア側の端面4aと、下部シリンダボディ3のリア側の端面3aとが同一平面を形成していることで、以下に説明するように、射出孔14の射出口14aから射出される潤滑油が軸方向に対して傾斜する方向に飛散してしまうことが抑制される。
図9は、射出される潤滑油の水平方向の拡散を説明する図である。図9は、上部シリンダボディ2のリア側の端面2aおよび下部シリンダボディ3のリア側の端面3aが、シリンダボディプレート4のリア側の端面4aに対して軸方向に出っ張っている場合、すなわち、シリンダボディプレート4のリア側の端面4aが、上部シリンダボディ2のリア側の端面2aおよび下部シリンダボディ3のリア側の端面3aよりもフロント側に位置している場合の潤滑油の射出状況を示している。この場合、射出孔14が射出する潤滑油は、水平方向に拡散してしまい、カウンタ軸42の開口部45に供給できる潤滑油量が極端に少なくなってしまう。
図10および図11は、射出される潤滑油の鉛直方向の拡散を説明する図である。図11は、図10のA−A断面を示している。図10および図11は、シリンダボディプレート4のリア側の端面4aが、上部シリンダボディ2のリア側の端面2aおよび下部シリンダボディ3のリア側の端面3aに対して軸方向に出っ張っている場合、すなわち、シリンダボディプレート4のリア側の端面4aが、上部シリンダボディ2のリア側の端面2aおよび下部シリンダボディ3のリア側の端面3aよりもリア側に位置している場合の潤滑油の射出状況を示している。この場合、射出孔14が射出する潤滑油は、鉛直方向に拡散してしまい、カウンタ軸42の開口部45に供給できる潤滑油量が極端に少なくなってしまう。
本実施形態では、上部シリンダボディ2、下部シリンダボディ3およびシリンダボディプレート4のそれぞれのリア側の端面2a,3a,4aが面一であり、同一の平面を形成している。これにより、水平方向への潤滑油の拡散、および鉛直方向への潤滑油の拡散がそれぞれ抑制される。よって、本実施形態によれば、カウンタ軸42の開口部45に対して射出孔14から効率よく潤滑油を供給することができる。
なお、上記第1実施形態のシリンダボディ2,3に形成される射出孔13と本実施形態のシリンダボディプレート4に形成される射出孔14とを併用してもよい。例えば、射出孔13,14が一つの射出孔とされてもよい。
上記の各実施形態に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。