JP2012166539A - 活性エネルギー線照射装置及び方法、並びに画像形成装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】低流量の不活性ガスにより、エネルギー線照射位置での局所的な残存酸素濃度を低減し、硬化阻害の抑制により硬化を促進する小型のエネルギー線照射装置を提供する。
【解決手段】キャリッジ16上に活性エネルギー線硬化型材料付与手段18と活性エネルギー線照射装置20とを搭載し、媒体12に対して相対移動可能とする。活性エネルギー線照射装置20は、材料が付与された媒体表面の気体境界層を剥離する境界層剥離部22と、気体境界層剥離後の媒体表面に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部24と、媒体表面に不活性ガスの層流を確保する層流確保部26と、不活性ガスの層流を介して媒体12に活性エネルギー線を照射するエネルギー線照射部28とを備える。媒体対向面20Aと媒体12との隙間のクリアランスを1.5mm以下、境界層剥離部22の媒体入り口部の端から気体吸吸引口36までの距離αを20mm以上とする。排気流路32はコアンダ効果を利用する。
【選択図】図2

Description

本発明は、紫外線や電子線に代表されるエネルギー線の照射によって硬化する性質を持つ活性エネルギー線硬化型組成物を含んだ液体或いは液状体(以下、「活性エネルギー線硬化型液」という。)にエネルギー線を照射する装置、並びにこれを適用した硬化システムに関する。
活性エネルギー線照射システムの一形態として、紫外線発光ダイオード(UVLED:Ultra Violet Light Emitting Diode)を光源とする紫外線(UV)照射システムが知られている。かかる紫外線照射システムは、例えば、印刷物などの照射対象物に塗布された紫外線硬化型インク(いわゆるUVインクやUVニス)の硬化工程に使用されている。他にも、UVインクを使ったインクジェットプリンタにおけるインク滴の硬化に使用され、或いはUV硬化型樹脂を使った自動車、携帯電話などの筐体への塗装膜の硬化などにも使用されている。
これら各種用途にUV照射システムを用いる場合、ラジカル重合を利用する材料においては、硬化膜表面での酸素による硬化阻害が起こることが知られている。また別の材料、例えばカチオン重合を利用する材料においては、水分による硬化阻害が起こることが知られている。
かかる硬化阻害を改善するために、インクジェットプリンタに使われるUV照射システムにおいては、例えば雰囲気中の残存酸素濃度を抑える方法として、チャンバー形式の窒素置換などが採用されている(特許文献1)。この方法は酸素による硬化阻害を防ぐためにチャンバーを設け、窒素ガスとの置換を実施しているが、ヘッドとUV光源を搭載したキャリッジをチャンバー内に配置する構造が採用され、プリントメディア(媒体)表面に着弾させたUV硬化型のインク滴周辺までをもチャンバーで覆うため、チャンバーを設ける部分が大型化するという問題点がある。
こうした問題点を解決する方法として、特許文献2に記載のインクジェットプリンタが提案されている。特許文献2においては、紫外線の照射手段としてUVLEDを光源とし、プリントメディア表面に着弾したUV硬化型のインク滴の重合阻害物質を排除するガスを送り込むガス供給手段が備えられたインクジェットプリンタが提案されている。
特開2003−285424号公報 特開2007−185852号公報
特許文献2に記載された構成では、ガス室に設けられたスリットを通して窒素ガスを送り込むことによって、紫外線照射手段の下面とプリントメディア表面との間の空間全体に窒素ガスを滞留させた状態としている。この場合のスキャン速度は最高で20m/分程度であり、20リットル/分の窒素ガス流量を使用して、被照射領域での残存酸素濃度は14.5%となっている。この構成によれば、チャンバーを設けていないので装置の大型化は回避しているが、紫外線照射手段の下面とプリントメディア表面との間の空間全体を窒素ガスで満たして同空間に窒素ガスを滞留させているため、使用した窒素ガス流量に対して充分に低い残存酸素濃度が得られるかという点では問題を残している。
また、UVLED光源は、複数個の発光素子を並べることによって線状(帯状)の照射領域を形成することができ、かつその光強度を大きくできるという特徴がある。しかし一方で、UVインク硬化の指標となる光強度と時間の積で得られる積算光量を充分得るために、高出力のUVLED素子が採用されており、現状では高出力のUVLED素子が高額であることから、UV照射システムの価格が高額になるという問題がある。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、装置の小型化を達成するとともに、低流量の不活性ガスによってエネルギー線照射位置での局所的な残存酸素濃度を低減し、間接的に活性エネルギー線の積算エネルギー量を補完できる活性エネルギー線照射装置及び方法、並びにこれを適用した画像形成装置を提供することを目的とする。
本発明は前記目的を達成するために、活性エネルギー線の照射によって硬化する性質を持つ材料を媒体上に付与する活性エネルギー線硬化型材料付与手段とともにキャリッジに搭載され、前記媒体に対する前記キャリッジの相対移動に伴い前記活性エネルギー線硬化型材料付与手段により前記材料が付与された前記媒体の前記材料の付与面に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射装置であって、前記相対移動により前記媒体の前記材料の付与面と対面し、当該媒体の表面の気体境界層を剥離する気体吸引口を有する境界層剥離部と、前記活性エネルギー線硬化型材料付与手段による前記媒体への前記材料の付与時における前記キャリッジの移動方向に対して前記境界層剥離部の後方に配置され、前記気体境界層を剥離した後の前記媒体の表面に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、前記相対移動に伴い前記媒体の表面に前記不活性ガスの層流を確保する層流確保部と、前記不活性ガスの層流を介して前記媒体の前記材料の付与面に向けて前記活性エネルギー線を照射するエネルギー線照射部と、を備え、前記材料の付与時における前記相対移動の際に前記材料の付与面と対面する媒体対向面と前記媒体との隙間のクリアランスが1.5mm以下に設定され、前記相対移動により前記境界層剥離部に対して前記媒体が進入する媒体入り口部の端から前記気体吸引口までの前記相対移動方向の距離が20mm以上であることを特徴とする活性エネルギー線照射装置を提供する。
本発明の他の態様については、本明細書及び図面の記載により明らかにする。
本発明によれば、チャンバーを用いずに、比較的少量の不活性ガスによって、媒体上のエネルギー線照射位置において局所的に酸素濃度を低減することができる。これにより、活性エネルギー線硬化型材料を硬化させるために必要な積算エネルギー量を間接的に低減することが可能であり、低エネルギー化及び低コスト化を達成できる。
また、チャンバーを設けずに、省スペースの不活性ガス置換が可能となり、不活性ガスの使用量を低く抑えることが可能であり、ランニングコストも低く抑えることが可能である。さらに、本発明によれば、チャンバーを使わない小型のシステムが可能となるため、移動式の活性エネルギー線照射装置として用いることができる。
本発明の実施形態に係る紫外線照射システムを搭載したマルチパス描画方式の画像形成装置の要部構成を示す平面図 図1中のA矢視図 媒体搬送速度(線速)と、クリアランスδと、コアンダ排気流量と、窒素(N)置換流量と、残存酸素濃度の相関を示す図表 コアンダ長さαと、コアンダ排気流量と、残存酸素濃度の相関を示す図表 図1及び図2の装置構成による評価実験の結果をまとめた図表 図1及び図2の構成において搬送速度V=100m/分としたときの、窒素供給量(流量)Qn、大気境界層の排気流量(コアンダ大気排出量)Qa、残存酸素濃度(平均%)の関係を調べたシミュレーション結果を示す図表 図6のシミュレーションによる測定結果を示すグラフとそのグラフから抽出したデータの図表 図1及び図2の構成において搬送速度V=200m/分としたときの、窒素供給量(流量)Qn、大気境界層の排気流量(コアンダ大気排出量)Qa、残存酸素濃度(平均%)の関係を調べたシミュレーション結果を示す図表 図8シミュレーションによる測定結果を示すグラフとそのグラフから抽出したデータの図表 図8のシミュレーションによる測定結果を示すグラフとそのグラフから抽出したデータの図表 図8のシミュレーションによる測定結果を示すグラフとそのグラフから抽出したデータの図表
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係る紫外線照射システムを搭載したマルチパス描画方式の画像形成装置の要部構成を示す平面図である。この画像形成装置10は、大型ポスターや商業用壁面広告など、広い描画範囲を記録するのに好適なワイドフォーマットプリンタである。なお、ここでは、A3ノビ以上の記録媒体サイズに対応するものを「ワイドフォーマット」とよぶ。
記録媒体12は、図示せぬ搬送機構(例えば、搬送ローラなど)により、図1の上から下へと搬送される。この記録媒体12(「媒体」に相当)の搬送方向を「媒体搬送方向」或いは「副走査方向」という。
画像形成装置10は、プラテン14、ガイドレール15、キャリッジ16、インクジェットヘッド18及び紫外線照射システム20を備えている。ガイドレール15は、プラテン14の上方において、記録媒体12の幅方向(媒体搬送方向に直交する図1の横方向、「主走査方向」という。)に沿って延在するように配置されている。キャリッジ16は、ガイドレール15に沿って主走査方向に移動可能に支持されている。
キャリッジ16には、インクジェットヘッド18と紫外線照射システム20とが搭載されている。ここでは、図1の左から右にキャリッジ16が移動するときにインクジェットヘッド18からインク滴の吐出が行われ、記録媒体12上に印字(プリント)が行われる。
このプリント時におけるキャリッジ移動方向のキャリッジ16の先頭(前)側から複数色のインクジェットヘッド18が配置され、その後方側に、大気境界層剥離部22、不活性ガス供給部24、層流確保部26、紫外線照射部28が順に配置される。紫外線照射システム20は、キャリッジ16の移動によってインクジェットヘッド18と一緒に(一体的に)移動可能とされている。
本例では、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)、イエロー(Y)の4色の各インクに対応した色別のヘッド18M、18C、18K、18Yをキャリッジ16上に並べたヘッドユニットの構成を例示しているが、インク色(種類)や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されない。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクや特別色インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
各ヘッド18M、18C、18K、18Yは、複数のノズル(インク吐出口)を有している。ノズル配列形態は、特に限定されず、1列のノズル列でもよいし、2列の千鳥配列、或いは、さらに多列のマトリクス配列その他の2次元配列でもよい。吐出エネルギー発生素子として、圧電素子(ピエゾアクチュエータ)、静電アクチュエータ、発熱素子などを用いることができる。
図には示されていないが、本例の画像形成装置10には、紫外線硬化型インク(UVインク)を貯留する交換自在なカートリッジ(インクタンク)が設けられている。色別に設けられた各カートリッジは、それぞれ独立に形成された不図示のインク供給経路によって各ヘッド18M、18C、18K、18Yに接続される。使用されるUV硬化型インクは、常温(室温)での粘度が約20cpである。ヘッドを温調し(例えば、40度程度に温調し)、約10cp程度に低粘度化してからノズルよりインクを吐出する。
記録媒体12としては、シート状の媒体が好適である。シート材料は、特に限定されず、本紙(印刷用紙)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PET(ポリエチレン・テレフタレート)など、各種材料を用いることができる。
記録媒体12の搬送は、キャリッジ16の手前(媒体搬送方向の上流側)に配置された不図示の搬送ローラにより行われる。マルチパス印字方式の描画を行うキャリッジ移動に従い、記録媒体12は間欠送りされる。プラテン14上に搬送された記録媒体12に対して、キャリッジ16のプリント方向移動に伴い、インクジェットヘッド18からインク滴が吐出される。記録媒体12上に付着させたインク滴に対して紫外線照射部28から紫外線が照射される。
なお、本例では、キャリッジ16が図1の右方向から左方向へと移動するリターン動作時には、インクジェットヘッド18による描画は行わないものとする。ただし、キャリッジ16上においてインクジェットヘッド18を挟んで左右対称に、大気境界層剥離部、不活性ガス供給部、層流確保部、紫外線照射部(UV光源)を配置する構成を採用することにより、双方向(往復走行)でプリント可能とする構成も可能である。
図2は、図1のキャリッジ16を媒体搬送方向の下流側の側面から見た構成図(図1のA矢視図)である。記録媒体12は、プラテン14(図2中図示せず)に保持され、図2の紙面垂直方向に(例えば、奥から手前に向かって)搬送される。プリント時には、キャリッジ16の移動とともにインクジェットヘッド18からインク打滴が行われ、吐出されたUVインクは記録媒体12上に付着する。その後、キャリッジ16の移動に伴い、紫外線照射システム20は、当該記録媒体12のUVインク塗布面(図1において記録媒体12の上面、以下、「塗布面12A」と記載する)に接触することなく、塗布面12Aの上を通過する。この時、塗布面12A上のUVインクに紫外線が照射される。
本実施形態では、キャリッジ移動中のインクジェットヘッド18による描画プロセスと、紫外線照射による硬化プロセスの間に、記録媒体表面の大気境界層を剥離する工程と、不活性ガスの境界層を形成する不活性ガス置換工程とを有する。
キャリッジ移動に伴う紫外線照射システム20と記録媒体12との相対移動により、記録媒体12の塗布面12Aと紫外線照射システム20の媒体対向面20Aとの間の空間44には、キャリッジ16の移動方向と逆向きの気流(図2において、右から左へ向かう流れ)が生じる。
キャリッジ16上でプリント時のキャリッジ移動方向に対してインクジェットヘッド18の後方に配置される大気境界層剥離部22は、インクジェットヘッド18によってUVインクを付着させた記録媒体12の表面近傍の大気境界層を剥離する機能を果たす。
大気境界層剥離部22には、コアンダ効果(物体の表面に沿って流体が移動する性質)を利用した排気流路32が設けられている。排気流路32の一端(図2において上端、符号34)は、図示せぬ排気ポンプ又は排気ファンなどの強制排気手段(排気圧力付与手段)に接続される。排気流路32の他端は、記録媒体12の塗布面12Aに対面して開口したエアー吸い込み口36(「気体吸引口」に相当)につながっている。エアー吸い込み口36は、記録媒体12の搬送方向(図2において紙面垂直方向)に沿って、インクジェットヘッド18のノズル列の長さと同等又はこれを超える長さで開口したスリット(長孔)形状を有する。好ましくは、インクジェットヘッド18のノズル列領域に相当する範囲以上をカバーする開口幅を有するエアー吸い込み口36とする。なお、説明の便宜上、以後、インクジェットヘッド18における媒体搬送方向のノズル列領域の長さ寸法を「ノズル列幅」と記載する。このノズル列幅は、キャリッジ16の移動による1パスで当該インクジェットヘッド18が記録媒体12上にUVインクを付与可能なインク付与幅に相当しており、「材料付与幅」に相当する。
本例の紫外線照射システム20において媒体12と対面する面(図2において符号20Aで示す底面、以下「媒体対向面」という。)のうち、キャリッジ移動に伴う記録媒体12の相対移動により記録媒体12が進入する入り口部分の先端(符号38)からエアー吸い込み口36までの所定距離αの区間は、キャリッジ移動に伴う大気境界層(同伴エアー)の流れを整えて、その気流を安定させるとともに、エアー吸い込み口36から吸い込む大気の量を規制する機能を有する。当該距離αの区間は、ノズル列幅にわたって記録媒体12表面と平行な平滑面22Aを有する。
図2では、エアー吸い込み口36から斜め方向に延びる排気流路32の傾斜線(媒体搬送方向の上流側の流路境界線)と平滑面22Aとの交点(すなわち、エアー吸い込み口36の媒体搬送方向上流側の縁)から、媒体12の入り口部の先端(符号38)までの距離を「α」とした。このαを「コアンダ長さ」という。
紫外線照射システム20における媒体対向面20Aのうちエアー吸い込み口36から、媒体搬送方向の下流側についてもノズル列幅にわたって記録媒体12表面と概ね平行な面となっており、媒体対向面20Aと記録媒体12面との間に所定のギャップ(クリアランスδ)が形成される。
不活性ガス供給部24は、大気境界層剥離後の記録媒体12上に不活性ガス(ここでは、窒素ガスを例示)を供給する手段である。不活性ガス供給部24は、ノズル列幅以上の領域に対して均一な膜状(帯状)の不活性ガスを噴射する、いわゆる「エアーナイフタイプ」の噴射口(ノズル、或いはスリット)40を備えたものが採用されている。すなわち、噴射口40は、ノズル列幅に相当する範囲以上をカバーする噴射幅を有する。不活性ガス供給部24には、図示せぬ配管路並びに圧力調整器を介して不活性ガスの供給源となる窒素発生器が接続されている。窒素源として安価な窒素発生器を使用することで、ボンベを使用する形態と比較してランニングコストを大幅に低減できる。
層流確保部26は、キャリッジ16の移動に伴い、不活性ガスの層流を形成する機能を果たす。層流確保部26は、ノズル列幅以上の領域にわたって記録媒体12の塗布面12Aと平行な平滑面42を有する。噴射口40から記録媒体12の塗布面12Aに向けて吹き出された不活性ガスは、キャリッジ移動に伴って塗布面12A付近に広がり、平滑面42を上部境界、記録媒体12表面を下部境界とするギャップ空間44の中に不活性ガスの層流が形成される。
紫外線照射部28は、複数個のUVLEDが配列されたLED列によって構成され、ノズル列幅以上の領域にわたって一度に紫外線を照射できる帯状の紫外線照射領域が得られる。キャリッジ移動に伴い層流状態で流れる不活性ガス境界層の上方から塗布面12Aに向けて紫外線が照射される。
紫外線照射部28における不活性ガスの層流を安定させるために、紫外線照射部28の後段にも層流確保部29を備えることが好ましい。紫外線照射部28を挟んで前後に層流確保部26、29が設けられることにより、これらの区間にわたって層流状態を維持することができ。紫外線照射部28の紫外線照射範囲において安定した不活性ガス層が得られる。
かかる構成からなる紫外線照射システム20によれば、プリント時のキャリッジ移動方向に向かってキャリッジ16の先頭側から、大気境界層剥離部22、不活性ガス供給部24、層流確保部26、紫外線照射部28の順に配置され、これら各部が連なった構成により、インクジェットヘッド18のノズル列幅以上の幅寸法を有する媒体対向面20Aが形成される。プリント時のキャリッジ移動に伴って、紫外線照射システム20の下に記録媒体12が相対的に進入し、境界層剥離工程→不活性ガス置換工程→層流形成工程→紫外線照射工程の各工程が実施される。
本実施形態に係る紫外線照射システム20の媒体対向面20Aと媒体12との間のギャップ(クリアランスδ)は1.5mm以下の範囲で設定される。なお、δの下限値は、媒体対向面20Aが媒体12に接触しなければよいため、0よりも大きい値である。すなわち、δは、0<δ≦1.5mmの範囲で設定される。なお、実際の装置において妥当なδの値として、好ましくは、0.5≦δ≦1.5とする。
媒体12の厚み(用紙厚)が事前に把握される場合、媒体12を支持搬送する媒体支持部材(不図示)の表面と紫外線照射システム20の媒体対向面20Aとの間の距離(媒体対向面20Aと通紙搬送路との隙間の距離)を、媒体12の厚みを考慮して調整すればよい。
<記録媒体について>
記録媒体12の形態は特に限定されない。樹脂フィルム、紙、繊維などのシート材料の他、ウエブ材料でもよく、各種の形態が可能である。記録媒体12は、UV硬化型液を塗布した面の付近に不活性ガスの層流を形成できる程度に平面性を有する材料であればよい。
<記録媒体の搬送系について>
媒体搬送機構として、本例では搬送ローラを用いるローラ搬送方式を例示するが、ベルト搬送方式、ドラム搬送方式、ウエブ搬送方式なども可能である。
ただし、大気境界層剥離部22によるエアー排出作用の影響により、インクジェット描画工程、大気境界層剥離工程、不活性ガス置換工程、UV硬化工程は負圧環境となるため、キャリッジ16と対面する記録媒体12を保持する媒体保持部(プラテン14)には、記録媒体12を吸着保持する吸着手段を備える形態が好ましい。図1及び図2に示した本例の構成では、吸着穴(不図示)を有するプラテン14の背面から負圧を付与しプラテン14表面に記録媒体12を吸着させる構成が採用されている。
<実験結果>
図3に示した表は、記録媒体に対するキャリッジの相対速度(線速)と、クリアランスδと、コアンダ排気流量と、窒素(N)置換流量と、残存酸素濃度の相関を示すものである。図3では、図1及び図2で説明した構成のモデルに対し、有限体積法を使ったシミュレーションの結果と、実際の装置による評価実験の結果が示されている。シミュレーション(評価)条件は、次の通りである。
・コアンダ長さα=50mm、有効部幅(通紙幅)10cm
図3の表によれば、クリアランスδが1.5mm以下において、残存酸素濃度6%以下という結果が得られている。なお、別の実験により、残存酸素濃度が3%以下になると、硬化感度が約3倍になるという知見が得られている。一例としてこれを目安とし、3%以下の残存酸素量に設定するためには、相対速度(線速)が100m/分以下の場合はδを1.5mm以下とすることが好ましく、相対速度(線速)が200m/分以上の場合はδを1.0mm以下とすることが好ましい。
また、同表におけるクリアランスδ=1.0mmのデータに注目すると、線速が100m/分、200m/分、300m/分、350m/分と増加するにつれて、コアンダ排気流量(シミュレーションによるもの)は、13リットル/分、28リットル/分、45リットル/分、47リットル/分とおよそ比例関係で増加する。キャリッジ移動速度(相対速度)とコアンダ排気流量は比例関係で増減する設定とすることによって、一定の残存酸素量を得ることができる。例えば、ある目標の残存酸素濃度を実現するために、キャリッジ移動速度(相対速度)とコアンダ排気流量は比例関係で増減調整される。
相対速度とコアンダ排気流量、並びに窒素ガス供給流量の関係を予め実験的に調べたテーブルデータを用意しておき、相対速度に応じてコアンダ排気流量と窒素ガス供給流量を自動的に制御する制御回路(制御手段)を搭載する形態も可能である。
図4に示した表は、コアンダ長さαと、コアンダ排気流量と、残存酸素濃度の相関を表すものである。図4は、図1及び図2で説明した構成のモデルに対し、有限体積法を使ったシミュレーションの結果である。
図4におけるシミュレーション(評価)条件は、次の通りである。
・クリアランスδ=1.5mm、窒素(N)噴射量3リットル/分、相対速度V=100m/分、有効部幅(通紙幅)10cm
図4のシミュレーション結果から次の事項が把握される。
(1)αの値が小さい(αの短い)方が、ギャップδによる抵抗が小さくなって外部の空気を多く吸い込むため排気流量が多くなる。
(2)αの値が小さいほど、到達する酸素濃度は低くなる傾向がみられる。しかしその程度は小さい。
(3)αの値が20mmよりも小さい場合に、残存酸素量を抑えるには、コアンダ排気量(大気境界層の排気流量)を大きくしていく。
以上の観点から、現実的なコアンダ排気量に設定するためには、αは20mm以上であることが好ましい。
<実際の装置による検証・確認実験>
上記のシミュレーション結果について、実際の装置を用い、インク(インキ)膜厚一定の条件下で、コアンダ排気量、窒素ガス流量、UV照射パワー、線速度の各条件を変えて、それぞれの場合のUV硬化レベルの判定を行い、シミュレーション結果の検証を行った。その確認結果を図5に示す。
実際の装置を用いた評価実験条件の詳細は下記のとおりである。なお、装置の概要は図1及び図2で説明したとおりである。
・UVインク;英国FUJIFILM Sericol社製のKI シアンインク(市販品)
・紫外線照射部の光源:中心波長385nm、パナソニック電工株式会社製、LED方式ライン型UV光源、UD80(商品名)
・窒素ガス:工業用窒素ガス(大陽日酸株式会社製、濃度99.99%)
上記のUVインクを媒体上に一定の膜厚で塗布し、各サンプルについてUV照射を行い、照射後にUV硬化度を評価した。UV硬化度の評価は、塗布面に他の媒体を重ねたときのインクの転写性(硬化判定[1])、塗布面に粘着テープを貼ってこれを剥がしたときのインクの剥離性並びに塗布面を引っ掻いたときの堅牢性(硬化判定[2])の観点により行った。
また、評価の結果、良好な範囲で同等硬化レベルが得られたものについて積算光量(概算値)を比較した。図5中の「概算光量」とは、LEDの電流値と、照射光量とがリニアの
関係にあることを前提とし、5000mW/cm、線速度60m/分の場合に75mJ/cmであるとして、比例計算した計算値である。
図5中、線速度5m/分のものは、窒素置換を行わない比較例である。線速度30m/分と100m/分のデータは、クリアランスδ=1.0mmで実施したものである。線速度60m/分のデータは、クリアランスδ=1.5mmで実施したものである。
シミュレーション結果と、図5の実験結果におけるコアンダ排気量、窒素ガス流量の絶対値が異なる結果となった理由は、以下の点にあると考えられる。すなわち、実際の装置では、媒体の両サイドが開放になっているのに対し、シミュレーションでは両サイドを閉じた系で計算している。この条件の相違が数値の差異に影響していると思われる。
<シミュレーションの確認実験>
図5の結果から、被照射物の硬化度から比較した概算光量は、窒素ガス置換を実施しない、5m/分の結果の概算光量200mJ/cmの構成に対して、窒素ガス置換を実施した30m/分、60m/分、100m/分の結果はそれぞれ32mJ/cm、75mJ/cm、45mJ/cmとなっている。
また、図5の結果から、100m/分でのコアンダ排気量17リットル/分、15リットル/分、12リットル/分に対する、被照射物の硬化度からの結果によれば、一定の窒素ガス流量に対するコアンダ排気量の最適値があることが確認できた。
<コアンダ排気量と残存酸素濃度の関係に関するシミュレーション結果>
図6に示した表は、図1及び図2で説明した構成において、窒素供給量(流量)Qn[リットル/分]、大気境界層の排気流量(コアンダ排気量)Qa[リットル/分]、残存酸素濃度(平均%)の関係を調べたシミュレーション結果である。シミュレーション条件として、記録媒体12(ワーク)に対するキャリッジ16の相対速度(キャリッジ速度)V=100m/分、クリアランスδ=1.0mm、コアンダ長さα=50mmとした。
図7(a)は当該シミュレーションによる測定結果を示すグラフ、図7(b)は図7(a)中の評価範囲(LED位置50〜60m)における数値をまとめたものである。図7(a)のグラフの横軸はエアナイフ位置からキャリッジ移動方向の後方に向かう位置(エアナイフ位置からのLED位置)を示し、縦軸は酸素濃度(%)を表す。LEDによる照射位置は、窒素ガス噴射のエアナイフ位置から下流に50mm〜60mmの位置とし、この10mm区間を酸素濃度の評価範囲として設定した。
図6の表から明らかなように、大気排気量を最適化(ここでは、14〜15リットル/分)とすることで到達酸素濃度の最小値0.1%とすることができる。大気排気量を12〜16L/minとすることによって、到達酸素濃度を3%以下とすることができる。すなわち、残存酸素濃度を低減するためには、適切なコアンダ排気量があることを示している。
図8に示した表は、図6の表に対して、キャリッジ速度(相対速度)Vの条件を変えた場合の残存酸素濃度の結果である。すなわち、相対速度V=200m/分、クリアランスδ=1.0mm、コアンダ長さα=50mmとしたときのシミュレーション結果をまとめたものである。図9〜図11は、シミュレーション結果を示すグラフとそのグラフから抽出したデータ表である。
図8によれば、窒素噴射量Qn=4.0リットル/分の場合、到達酸素濃度の最小値は0.3%となる。酸素濃度3%以下となる排気量(Qa)は23〜30リットル/分である。また、窒素噴射量Qn=9.0リットル/分の場合、到達酸素濃度の最小値は0%となる。酸素濃度3%以下となる排気量(Qa)は15〜37リットル/分である。すなわち、残存酸素濃度を低減するためには、適切なコアンダ排気量があることを示している点で図6と同様の結果である。
<本実施形態による利点>
上述した本発明の実施形態によれば、UV照射位置での局所的な残存酸素濃度を低減することができるUV照射システムが提供される。すなわち、本実施形態によれば、比較的少量の不活性ガスによって媒体表面の残存酸素量を低減することができるとともに、高速のUV硬化及び描画が可能になる。また、残存酸素量低減効果として、硬化工程におけるUV照射光量の低減が可能であり、UVLEDなどの光源コストを安価に構成できる。
実験から得た知見によれば、残存酸素濃度が数%になると、材料の硬化感度がアップする。例えば、残存酸素濃度が3%になると、材料の硬化感度は実質的に3倍となる。このような観点から、実際の装置設計においては、残存酸素濃度を3%以下とすることを目安に各種条件を定めることが好ましい。
本実施形態では、エアナイフ構造の不活性ガス供給部24をノズル列幅と同等以上に設け、当該被照射物に対して不活性ガスを噴射することで、被照射物の照射表面位置において局所的な不活性ガスの層流を発生させ、残存酸素濃度を数%以下にすることを実現した。局所的に不活性ガスの層流を発生させる領域は、少なくとも紫外線照射部28による光照射範囲のうち、ある閾値以上の強度を有する照射面積部分を含むものとする。
特に、被照射物との相対移動速度(キャリッジ速度)が速い場合(例えば、60m/分以上の場合)、被照射物の大気境界層の影響が大きくなるため、コアンダ効果を使った大気境界層剥離部22を不活性ガス供給部24の前段に設けることで、被照射物上における効率の良い不活性ガス置換が可能となり、残存酸素濃度の低減が実現される。もちろん、被照射物の相対移動速度が60m/分未満の領域においても、大気境界層剥離部22の効果は得られる。
本実施形態によれば、高速に相対移動(例えば、60m/分以上)される記録媒体12の表面との間に小さなギャップδを保つエアシールドと、コアンダ効果により、媒体表面近傍の大気境界層の剥離が行われる。この大気境界層剥離後に発生する境界層は、新たに記録媒体12表面側から供給される不活性ガス層で形成される。これにより、硬化性材料の酸素による硬化阻害を低減することができる。硬化阻害の低減により、実質的に材料の感度を向上させることができ、間接的にUVLED光源の積算光量を補うことができる。つまり、UVLED光源の照射光量を少なくすることができ、LED素子数の削減や省エネルギー化が可能である。
特に、紫外線照射部28に採用するUVLED光源は、UVランプ等に比べて照射位置における光照射面積(照射範囲)を小さくすることができるという特徴を有する。UVLED光源による線状(帯状)の小照射面積、高強度という特徴を活かし、チャンバー無し構造により、不活性ガスの使用量を低く抑えた小流量での不活性ガス置換が可能である。
また、本実施形態によれば、チャンバーを使わない小型のシステムが可能となるため、固定式のみならず、移動式の紫外線照射システムを提供することができる。そのため、従来のチャンバー方式では考慮できなかった屋外での使用、大照射面積への対応、複雑形状の被照射物への利用など、多様な使い方が可能となる。
また、UVLED光源の特徴である、瞬時点灯、LED列における点灯領域の可変制御などの機能に合わせて、不活性ガスの置換を実施するタイミングや、不活性ガスの置換領域を制御する態様も可能である。例えば、UVLED光源の点灯時に限り照射位置での不活性ガスの置換を行う態様、LEDの点灯領域(光照射幅)に限り不活性ガスの置換を行う態様などが可能である。
このように光照射タイミングや光照射幅に合わせて、不活性ガスの供給タイミングや供給量を制御することにより、不活性ガスの消費量を一層減少させることが可能であり、システムのランニングコストを大幅に低減でき、効率的なシステムの構築が可能となる。
このような画像形成装置10の応用例として、例えば、液晶フィルムの製造工程におけるフィルム上のUV硬化樹脂の塗布工程に採用できる。その他、各種の塗布装置、印刷装置などに適用できる。
図1及び図2で説明した実施形態の装置によれば、少量の不活性ガスで記録媒体表面の残存酸素量(硬化阻害物質の量)を低減することができ、高速のUV硬化及び描画が可能である。
また、インクジェットヘッドと本発明による紫外線照射システム(活性エネルギー線照射装置)との組み合わせでは、コアンダ排気によって、ヘッド吐出で発生するミストの回収が可能であるため、解像度・粒状性の画質改善効果がある。
<変形例1>
コアンダ効果を利用する大気境界層剥離部22の排気流路32は、滑らかな曲面(R付きの面)で構成することが一層好ましい。気体と接する物体面に段差や角部があると、気体の流れが乱れるため、このような段差や角部ができる限り少ない、滑らかな面形状とする形態が好ましい。
<変形例2>
上述の実施形態では、不活性ガスとして窒素ガスを用いたが、窒素ガスに限らず、ヘリウム、アルゴンなど希ガス類などを用いることができる。また、活性エネルギー線硬化型液として、紫外線硬化型液を例示したが、電子線の照射によって硬化する性質を持つ電子線硬化型の材料に対する電子線照射装置などについても、本発明を適用できる。
<変形例3>
上述の実施形態では、活性エネルギー線硬化型材料付与手段としてインクジェットヘッドを例示したが、これに限らず、例えば、ローラによってUV硬化型液を媒体上に塗布する構成も可能である。この場合、ローラ幅が「材料付与幅」に相当する。すなわち、活性エネルギー線硬化型材料付与手段としては、インクジェット方式の他、ロールコーター方式、ギーサー方式、オフセット印刷方式、など、各種の方式を採用することが可能である。UV硬化型液は、工業用のUV硬化樹脂、UV硬化接着剤、UV硬化インク(インキ)、UV硬化ニスなど、各種のUV硬化性の液状体を用いることができる。
<硬化光源について>
硬化光源には、UVLED(波長365nm〜395nm等)、低圧水銀灯、メタルハライドランプなどを用いることができる。特に、酸素濃度を低くするエリアをなるべく狭くするという観点から、好ましくは、UVLEDを採用する。UVLEDを採用することにより、照射エリアを狭くすることが可能である。
<記録媒体について>
「記録媒体」は、活性エネルギー線硬化型液が付着される媒体の総称であり、印字媒体、被記録媒体、被画像形成媒体、受像媒体、被吐出媒体、ブリントメディアなど様々な用語で呼ばれるものが含まれる。本発明の実施に際して、記録媒体の材質や形状等は、特に限定されず、連続用紙、カット紙、シール用紙、OHPシート等の樹脂シート、フィルム、布、不織布、配線パターン等が形成されるプリント基板、ゴムシート、その他材質や形状を問わず、様々な媒体に適用できる。
<本発明の他の応用例について>
上記の実施形態では、ドロップオンデマンド型のマルチパスインクジェット画像形成装置への適用を例に説明したが、本発明の適用範囲はこの例に限定されない。例えば、ラベルプリンタ、オフセット印刷装置、オフセット輪転印刷装置における熱乾燥工程をUV乾燥工程に置き換える形態、自動車のボディトップコート、又は樹脂窓のハードコートの塗布装置、木工品やフロア材など不定形対象物に対する樹脂膜の塗布装置、印刷機を使って電子回路や電子デバイスを形成するプリンティドエレクトロニクス分野の製造装置(電子回路の配線パターンを描画する配線記録装置、各種デバイスの製造装置など)、吐出用の機能性液体として樹脂液を用いるレジスト印刷装置、カラーフィルター製造装置、マテリアルデポジション用の材料を用いて微細構造物を形成する微細構造物形成装置など、液状機能性材料を用いて様々な形状やパターンを描画するシステムに広く適用できる。
<付記>
上記に詳述した発明の実施形態についての記載から把握されるとおり、本明細書は少なくとも以下に示す発明を含む多様な技術思想の開示を含んでいる。
(発明1):活性エネルギー線の照射によって硬化する性質を持つ材料を媒体上に付与する活性エネルギー線硬化型材料付与手段とともにキャリッジに搭載され、前記媒体に対する前記キャリッジの相対移動に伴い前記活性エネルギー線硬化型材料付与手段により前記材料が付与された前記媒体の前記材料の付与面に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射装置であって、前記相対移動により前記媒体の前記材料の付与面と対面し、当該媒体の表面の気体境界層を剥離する気体吸引口を有する境界層剥離部と、前記活性エネルギー線硬化型材料付与手段による前記媒体への前記材料の付与時における前記キャリッジの移動方向に対して前記境界層剥離部の後方に配置され、前記気体境界層を剥離した後の前記媒体の表面に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、前記相対移動に伴い前記媒体の表面に前記不活性ガスの層流を確保する層流確保部と、前記不活性ガスの層流を介して前記媒体の前記材料の付与面に向けて前記活性エネルギー線を照射するエネルギー線照射部と、を備え、前記材料の付与時における前記相対移動の際に前記材料の付与面と対面する媒体対向面と前記媒体との隙間のクリアランスが1.5mm以下に設定され、前記相対移動により前記境界層剥離部に対して前記媒体が進入する媒体入り口部の端から前記気体吸引口までの前記相対移動方向の距離が20mm以上であることを特徴とする活性エネルギー線照射装置。
発明1によれば、活性エネルギー線硬化型材料の硬化阻害物質(例えば、酸素)を比較的低流量の不活性ガスで置換することができる。これにより、硬化が促進され、実質的な感度が向上する。このため、活性エネルギー線硬化型材料を硬化させるために必要な積算エネルギー量を間接的に低減することが可能であり、低エネルギー化及び低コスト化を達成できる。また、本発明によれば、チャンバーを用いないため、小型のシステムを提供できる。
(発明2):請求項1に記載の活性エネルギー線照射装置において、前記相対移動の速度が200m/分以上の場合には、前記クリアランスが1.0mm以下に設定されることを特徴とする。
相対移動の速度が高速になるほど、クリアランスを小さい値とすることが好ましい。
(発明3):発明1又は2に記載の活性エネルギー線照射装置において、前記境界層剥離部は、前記媒体対向面に開口する前記気体吸引口に連通し、コアンダ効果を利用した気体排出用流路と、当該気体排出用流路を介して前記気体吸引口から気体の吸い込みを行う排気用圧力を発生させる排気圧力付与手段と、を備えることを特徴とする。
被照射物たる媒体に対するキャリッジの相対移動速度が比較的速い場合(例えば、60m/分以上の場合)には、コアンダ効果を使った境界層剥離部を不活性ガス供給部の前段に設けることで、効率のよい不活性ガスの層流形成を実現できる。
(発明4):発明1から3のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置において、前記気体吸引口は、前記キャリッジの移動による1パスで前記活性エネルギー線硬化型材料付与手段によって前記媒体上に前記材料を付与可能な材料付与幅に相当する範囲以上をカバーする開口幅を有することを特徴とする。
かかる態様によれば、活性エネルギー線硬化型材料付与手段による材料付与幅に相当する範囲にわたって気体境界層を効率良く剥離することが可能である。
(発明5):発明1から4のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置において、前記不活性ガス供給部は、前記キャリッジの移動による1パスで前記活性エネルギー線硬化型材料付与手段によって前記媒体上に前記材料を付与可能な材料付与幅に相当する範囲以上をカバーする不活性ガス噴射幅を有することを特徴とする。
かかる態様によれば、活性エネルギー線硬化型材料付与手段による材料付与幅に相当する範囲にわたって不活性ガスを効率良く供給することが可能である。
(発明6):発明1から5のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置において、前記エネルギー線照射部は、前記キャリッジの移動による1パスで前記活性エネルギー線硬化型材料付与手段によって前記媒体上に前記材料を付与可能な材料付与幅に相当する範囲以上をカバーする照射領域幅を有することを特徴とする。
かかる態様によれば、活性エネルギー線硬化型材料付与手段による材料付与幅に相当する範囲にわたって一括照射が可能であり、マルチパス方式の画像形成装置に好適である。
(発明7):発明1から6のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置において、前記活性エネルギー線硬化型材料付与手段は、前記材料である活性エネルギー線硬化型液を吐出する複数のノズルを有する液体吐出ヘッドであることを特徴とする。
(発明8):発明1から7のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置において、前記境界層剥離部の前記気体吸引口から入って外部に排出される排気流量は、前記相対移動の速度に比例して増減調整されることを特徴とする。
排気流量と相対移動速度は概ね比例関係にあるため、相対速度の増減に合わせて、排気流量を増減調整することが好ましい。このような流量制御を自動的に行う制御回路を設ける態様も好ましい。
(発明9):請求項1から8のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置において、前記不活性ガス供給部は、前記付与面に対面する側にエアナイフ構造の噴射ノズルを有することを特徴とする。
媒体の材料付与領域を覆う不活性ガスの層流薄膜を形成するには、エアナイフ方式で不活性ガスを噴射する態様が好ましい。
(発明10):発明1から9のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置において、前記境界層剥離部による排気流量が前記不活性ガス供給部からの不活性ガスの供給流量よりも大きいことを特徴とする。
境界層剥離部の排気流量よりも少ない不活性ガス供給流量によって、エネルギー線照射位置付近の局所的な酸素濃度を低減することができる。
(発明11):発明1から10のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置において、前記材料は紫外線硬化型液であり、前記エネルギー線照射部は紫外線を照射するものであることを特徴とする。
紫外線硬化型液には、いわゆるUVインク(インキ)、UVニス、紫外線硬化型樹脂などが含まれる。
(発明12):発明1から11のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置において、前記エネルギー線照射部には、複数個の紫外線発光ダイオード(UVLED)が用いられていることを特徴とする。
UVLEDは、UVランプ等と比較して照射エリアを狭くできるため、局所的な不活性ガス置換を行う本発明の光源として特に、好ましい態様である。
(発明13):活性エネルギー線の照射によって硬化する性質を持つ材料を媒体上に付与する活性エネルギー線硬化型材料付与手段と、前記材料が付与された前記媒体の前記材料の付与面に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射装置とをキャリッジに搭載し、前記媒体に対して前記キャリッジを相対移動させながら前記媒体上に前記材料を付与する工程と、前記キャリッジの相対移動により、前記媒体の前記材料の付与面に対して前記活性エネルギー線照射装置を対面させ、当該相対移動に伴い前記媒体の表面の気体境界層を剥離する境界層剥離工程と、前記気体境界層を剥離した後の前記媒体の表面に不活性ガスを供給する不活性ガス供給工程と、前記相対移動に伴い前記表面に前記不活性ガスの層流を形成する層流形成工程と、前記不活性ガスの層流を介して前記媒体の前記材料の付与面に向けて前記活性エネルギー線を照射するエネルギー線照射工程と、を有し、前記媒体上に前記材料を付与する時の前記相対移動の際に前記材料の付与面と対面する前記活性エネルギー線照射装置の媒体対向面と前記媒体との隙間のクリアランスを1.5mm以下に設定し、前記相対移動により前記境界層剥離工程を行う前記活性エネルギー線照射装置の境界層剥離部に対して前記媒体が進入する媒体入り口部の端から前記気体吸引口までの前記相対移動方向の距離を20mm以上とすることを特徴とする活性エネルギー線照射方法。
(発明14):発明1から12のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置と、前記材料である活性エネルギー線硬化型液を吐出する複数のノズルを有する前記活性エネルギー線硬化型材料付与手段としての液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッド及び前記活性エネルギー線照射装置を搭載する前記キャリッジと、前記キャリッジを前記媒体に対して移動させる相対移動手段と、前記キャリッジと対面する前記媒体を保持する媒体保持手段と、を備えることを特徴とする画像形成装置。
(発明15):発明14に記載の画像形成装置において、前記媒体保持手段は、前記媒体を吸着する吸着手段を備えることを特徴とする。
なお、発明14、15は「塗布装置」の発明として把握することができる。
(発明16):活性エネルギー線の照射によって硬化する性質を持つ材料を媒体上に付与する活性エネルギー線硬化型材料付与手段と、前記材料が付与された前記媒体の前記材料の付与面に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射装置とをキャリッジに搭載し、前記媒体に対して前記キャリッジを相対移動させながら前記媒体上に前記材料を付与する工程と、前記キャリッジの相対移動により、前記媒体の前記材料の付与面に対して前記活性エネルギー線照射装置を対面させ、当該相対移動に伴い前記媒体の表面の気体境界層を剥離する境界層剥離工程と、前記気体境界層を剥離した後の前記媒体の表面に不活性ガスを供給する不活性ガス供給工程と、前記相対移動に伴い前記媒体の表面に前記不活性ガスの層流を形成する層流形成工程と、前記不活性ガスの層流を介して前記媒体の前記材料の付与面に向けて前記活性エネルギー線を照射するエネルギー線照射工程と、を有し、前記媒体上に前記材料を付与する時の前記相対移動の際に前記材料の付与面と対面する前記活性エネルギー線照射装置の媒体対向面と前記媒体との隙間のクリアランスを1.5mm以下に設定し、前記相対移動により前記境界層剥離工程を行う前記活性エネルギー線照射装置の境界層剥離部に対して前記媒体が進入する媒体入り口部の端から前記気体吸引口までの前記相対移動方向の距離を20mm以上とすることを特徴とすることを特徴とする画像形成方法。
発明16の画像形成方法を実施することによって画像形成物(印刷物)を製造することができる。つまり、この画像形成方法の発明は、画像形成物(印刷物)の製造方法として把握することができる。
また、発明16は「塗布方法」の発明として把握することができる。この塗布方法を実施することによって塗布物を製造することができるため、当該塗布方法の発明は塗布物の製造方法として把握することができる。
10…画像形成装置、12…記録媒体、14…プラテン、15…ガイドレール、16…キャリッジ、18…インクジェットヘッド、20…紫外線照射システム、22…大気境界層剥離部、24…不活性ガス供給部、26…層流確保部、28…紫外線照射部、32…排気流路、36…エアー吸い込み口、40…噴射口

Claims (15)

  1. 活性エネルギー線の照射によって硬化する性質を持つ材料を媒体上に付与する活性エネルギー線硬化型材料付与手段とともにキャリッジに搭載され、前記媒体に対する前記キャリッジの相対移動に伴い前記活性エネルギー線硬化型材料付与手段により前記材料が付与された前記媒体の前記材料の付与面に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射装置であって、
    前記相対移動により前記媒体の前記材料の付与面と対面し、当該媒体の表面の気体境界層を剥離する気体吸引口を有する境界層剥離部と、
    前記活性エネルギー線硬化型材料付与手段による前記媒体への前記材料の付与時における前記キャリッジの移動方向に対して前記境界層剥離部の後方に配置され、前記気体境界層を剥離した後の前記媒体の表面に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
    前記相対移動に伴い前記媒体の表面に前記不活性ガスの層流を確保する層流確保部と、
    前記不活性ガスの層流を介して前記媒体の前記材料の付与面に向けて前記活性エネルギー線を照射するエネルギー線照射部と、を備え、
    前記材料の付与時における前記相対移動の際に前記材料の付与面と対面する媒体対向面と前記媒体との隙間のクリアランスが1.5mm以下に設定され、
    前記相対移動により前記境界層剥離部に対して前記媒体が進入する媒体入り口部の端から前記気体吸引口までの前記相対移動方向の距離が20mm以上であることを特徴とする活性エネルギー線照射装置。
  2. 前記相対移動の速度が200m/分以上の場合には、前記クリアランスが1.0mm以下に設定されることを特徴とする請求項1に記載の活性エネルギー線照射装置。
  3. 前記境界層剥離部は、前記媒体対向面に開口する前記気体吸引口に連通し、コアンダ効果を利用した気体排出用流路と、当該気体排出用流路を介して前記気体吸引口から気体の吸い込みを行う排気用圧力を発生させる排気圧力付与手段と、を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の活性エネルギー線照射装置。
  4. 前記気体吸引口は、前記キャリッジの移動による1パスで前記活性エネルギー線硬化型材料付与手段によって前記媒体上に前記材料を付与可能な材料付与幅に相当する範囲以上をカバーする開口幅を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置。
  5. 前記不活性ガス供給部は、前記キャリッジの移動による1パスで前記活性エネルギー線硬化型材料付与手段によって前記媒体上に前記材料を付与可能な材料付与幅に相当する範囲以上をカバーする不活性ガス噴射幅を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置。
  6. 前記エネルギー線照射部は、前記キャリッジの移動による1パスで前記活性エネルギー線硬化型材料付与手段によって前記媒体上に前記材料を付与可能な材料付与幅に相当する範囲以上をカバーする照射領域幅を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置。
  7. 前記活性エネルギー線硬化型材料付与手段は、前記材料である活性エネルギー線硬化型液を吐出する複数のノズルを有する液体吐出ヘッドであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置。
  8. 前記境界層剥離部の前記気体吸引口から入って外部に排出される排気流量は、前記相対移動の速度に比例して増減調整されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置。
  9. 前記不活性ガス供給部は、前記付与面に対面する側にエアナイフ構造の噴射ノズルを有することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置。
  10. 前記境界層剥離部による排気流量が前記不活性ガス供給部からの不活性ガスの供給流量よりも大きいことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置。
  11. 前記材料は紫外線硬化型液であり、前記エネルギー線照射部は紫外線を照射するものであることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置。
  12. 前記エネルギー線照射部には、複数個の紫外線発光ダイオード(UVLED)が用いられていることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置。
  13. 活性エネルギー線の照射によって硬化する性質を持つ材料を媒体上に付与する活性エネルギー線硬化型材料付与手段と、前記材料が付与された前記媒体の前記材料の付与面に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射装置とをキャリッジに搭載し、前記媒体に対して前記キャリッジを相対移動させながら前記媒体上に前記材料を付与する工程と、
    前記キャリッジの相対移動により、前記媒体の前記材料の付与面に対して前記活性エネルギー線照射装置を対面させ、当該相対移動に伴い前記媒体の表面の気体境界層を剥離する境界層剥離工程と、
    前記気体境界層を剥離した後の前記媒体の表面に不活性ガスを供給する不活性ガス供給工程と、
    前記相対移動に伴い前記表面に前記不活性ガスの層流を形成する層流形成工程と、
    前記不活性ガスの層流を介して前記媒体の前記材料の付与面に向けて前記活性エネルギー線を照射するエネルギー線照射工程と、を有し、
    前記媒体上に前記材料を付与する時の前記相対移動の際に前記材料の付与面と対面する前記活性エネルギー線照射装置の媒体対向面と前記媒体との隙間のクリアランスを1.5mm以下に設定し、
    前記相対移動により前記境界層剥離工程を行う前記活性エネルギー線照射装置の境界層剥離部に対して前記媒体が進入する媒体入り口部の端から前記気体吸引口までの前記相対移動方向の距離を20mm以上とすることを特徴とする活性エネルギー線照射方法。
  14. 請求項1から12のいずれか1項に記載の活性エネルギー線照射装置と、
    前記材料である活性エネルギー線硬化型液を吐出する複数のノズルを有する前記活性エネルギー線硬化型材料付与手段としての液体吐出ヘッドと、
    前記液体吐出ヘッド及び前記活性エネルギー線照射装置を搭載する前記キャリッジと、
    前記キャリッジを前記媒体に対して移動させる相対移動手段と、
    前記キャリッジと対面する前記媒体を保持する媒体保持手段と、を備えることを特徴とする画像形成装置。
  15. 前記媒体保持手段は、前記媒体を吸着する吸着手段を備えることを特徴とする請求項14に記載の画像形成装置。
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