以下、本発明について詳細に説明する。
<塗装用金属板>
本発明の水系塗装用組成物で表面被覆できる塗装用金属板の構成金属としては、例えば、アルミニウム、チタン、亜鉛、銅、ニッケル、そして鋼等が適用可能である。これらの金属の成分は特に限定せず、例えば、鋼を使用する場合には、普通鋼であっても、クロム等の添加元素含有鋼であってもよい。ただし、これらの金属板を強しごき加工や深絞り加工用途に用いる場合は、いずれの金属の場合も、強しごき加工や深絞り加工に適するように、添加元素の種類と添加量、及び金属組織を適正に制御したものが好ましい。
また、塗装用金属板として鋼板を使用する場合、その表面には被覆めっき層があってもよいが、その種類は特に限定されず、適用可能なめっき層としては、例えば、亜鉛、アルミニウム、コバルト、錫、ニッケルのうちのいずれか1種からなるめっき、及び、これらの金属元素やさらに他の金属元素、非金属元素を含む合金めっき等が挙げられる。
特に、亜鉛系めっき層としては、例えば、亜鉛からなるめっき、亜鉛と、アルミニウム、コバルト、錫、ニッケル、鉄、クロム、チタン、マグネシウム、マンガンの少なくとも1種との合金めっき、又は、さらに他の金属元素、非金属元素を含む種々の亜鉛系合金めっき(例えば、亜鉛と、アルミニウム、マグネシウム、シリコンの4元合金めっき)が挙げられるが、亜鉛以外の合金成分を特に限定しない。さらには、これらのめっき層に少量の異種金属元素または不純物としてコバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、鉛、ビスマス、アンチモン、錫、銅、カドミウム、ヒ素等を含有したもの、シリカ、アルミナ、チタニア等の無機物を分散させたものが含まれる。
アルミニウム系めっき層としては、アルミニウム、またはアルミニウムとシリコン、亜鉛、マグネシウムの少なくとも1種との合金めっき(例えば、アルミニウムとシリコンの合金めっき、アルミニウムと亜鉛の合金めっき、アルミニウム、シリコン、マグネシウムの3元合金めっき)等が挙げられる。
更に、前記めっきと他の種類のめっき、例えば鉄めっき、鉄とリンの合金めっき、ニッケルめっき、コバルトめっき等と組み合わせた複層めっきも適用可能である。
めっき層の形成方法も特に限定せず、例えば、電気めっき、無電解めっき、溶融めっき、蒸着めっき、分散めっき等を用いることができる。めっき処理方法は、連続式、バッチ式のいずれでもよい。また、塗装用金属板として鋼板を使用する場合、めっき後の処理として、溶融めっき後の外観均一処理であるゼロスパングル処理、めっき層の改質処理である焼鈍処理、表面状態や材質調整のための調質圧延等があり得るが、本発明の水系塗装用組成物は、いずれの処理を経た鋼板に適用することもできる。
<有機樹脂(A)>
本発明の水系塗装用組成物は、後述する有機樹脂(A)を不揮発分の50〜100質量%含む。該組成物を用いて金属板上に塗膜を形成した後、有機樹脂(A)は、その塗膜のバインダー成分となる。本発明の水系塗装用組成物を金属板に塗布、加熱乾燥すると、有機樹脂(A)が反応せずそのまま脱水乾燥するか、有機樹脂(A)の少なくとも一部が自己架橋反応して硬化するか、あるいは、前記組成物中にシランカップリング剤、架橋剤、硬化剤等を含む場合は、有機樹脂(A)の少なくとも一部がそれらと反応して有機樹脂(A)の誘導体を形成する。従って、この場合、未反応の有機樹脂(A)、有機樹脂(A)の自己架橋体、有機樹脂(A)と他の添加剤との反応誘導体を包含したものが、前記塗膜のバインダー成分となる。
前記有機樹脂(A)は、本発明の水系塗装用組成物中で安定に存在するものであれば、その種類や構造に特に制限はない。種類としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、フェノール樹脂、又はそれらの変性体等を挙げることができる。これらの1種または2種以上を混合して前記樹脂(A)として用いてもよいし、少なくとも1種の有機樹脂を変性することによって得られる有機樹脂を1種または2種以上混合して前記樹脂(A)として用いてもよい。
本発明の組成物から得られる塗膜中の導電性粒子(B)の存在量は僅かであり、導電性粒子を介して流れる腐食電流が少ないため、塗膜のバインダー成分を特殊な耐食性樹脂とする必要はない。また、通常の使用環境下では塗膜中に水分が存在するが、本願発明で用いる導電性粒子は湿潤環境下でも安定で高い導電能を長期間保持するため、バインダー成分を特殊な耐食性樹脂としなくても塗膜中の存在量が少なくても、アース性や溶接性は安定して確保できる。
なお、本発明の水系塗装用組成物に用いられる樹脂は、水に完全溶解する水溶性樹脂、及び、エマルションやサスペンジョン等の形態で水中に均一に微分散している樹脂(水分散性樹脂)を含める。またここで、「(メタ)アクリル樹脂」とはアクリル樹脂とメタクリル樹脂を意味する。
前記有機樹脂(A)のうち、ポリエステル樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6−へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、2−メチル−3−メチル−1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノール-A、ダイマージオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリオールと、フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水ハイミック酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、アゼライン酸、コハク酸、無水コハク酸、乳酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、無水エンド酸等の多価カルボン酸とを脱水重縮合させ、アンモニアやアミン化合物等で中和し、水系化したもの等を挙げることができる。
前記有機樹脂(A)のうち、ポリウレタン樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させ、その後に更に鎖伸長剤によって鎖伸長して得られるもの等を挙げることができる。前記ポリオール化合物としては、1分子当たり2個以上の水酸基を含有する化合物であれば特に限定されず、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6−へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル等のポリエーテルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリウレタンポリオール、又はそれらの混合物が挙げられる。
前記ポリイソシアネート化合物としては、1分子当たり2個以上のイソシアネート基を含有する化合物であれば特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環族ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)等の芳香族ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の芳香脂肪族ジイソシアネート、又はそれらの混合物が挙げられる。
前記鎖伸長剤としては、分子内に1個以上の活性水素を含有する化合物であれば特に限定されず、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族ポリアミンや、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミンや、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン等の脂環式ポリアミンや、ヒドラジン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド等のヒドラジン類や、ヒドロキシエチルジエチレントリアミン、2−[(2−アミノエチル)アミノ]エタノール、3−アミノプロパンジオール等のアルカノールアミン等が挙げられる。これらの化合物は、単独で、又は2種類以上の混合物で使用することができる。
前記有機樹脂(A)のうち、エポキシ樹脂としては、特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂をジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン等のアミン化合物と反応させ、有機酸又は無機酸で中和、水系化したものや、前記エポキシ樹脂の存在下で、高酸価アクリル樹脂をラジカル重合した後、アンモニアやアミン化合物等で中和し水系化したもの等を挙げることができる。
前記有機樹脂(A)のうち、(メタ)アクリル樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシシラン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルを、(メタ)アクリル酸と共に水中で重合開始剤を用いてラジカル重合することにより得られるものを挙げることができる。前記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を使用することができる。ここで、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートとメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」とはアクリル酸とメタクリル酸を意味する。
前記有機樹脂(A)のうち、ポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレンとメタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸類とを高温高圧下でラジカル重合したのち、アンモニアやアミン化合物、KOH、NaOH、LiOH等の塩基性金属化合物あるいは前記金属化合物を含有するアンモニアやアミン化合物等で中和し、水系化したもの等を挙げることができる。
前記有機樹脂(A)のうち、フェノール樹脂としては、特に限定されず、例えば、フェノール、レゾルシン、クレゾール、ビスフェノールA、パラキシリレンジメチルエーテル等の芳香族化合物とホルムアルデヒドとを反応触媒の存在下で付加反応させたメチロール化フェノール樹脂等のフェノール樹脂を、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン等のアミン化合物類と反応させ、有機酸又は無機酸で中和し水系化したもの等を挙げることができる。
前記有機樹脂(A)は、1種又は2種以上を混合して用いてもよい。また、本発明の水系塗装用組成物の主成分として、少なくとも1種の有機樹脂(A)の存在下で、少なくとも1種のその他の有機樹脂(A)を変性することによって得られる水系複合樹脂の1種又は2種以上を総括して有機樹脂(A)として用いてもよい。
前記有機樹脂(A)は、既に述べたように、本発明の水系塗装用組成物中で安定に存在するものであれば、その種類や構造に特に制限はないが、その構造中にカルボキシル基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含む樹脂であるのが好ましい。そのような場合、前記組成物から得られる塗膜中の前記有機樹脂(A)は、カルボキシル基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基を構造中に含む樹脂、または更に該樹脂の誘導体を含む。
前記有機樹脂(A)が、その構造中にカルボキシル基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含む樹脂であるのが好ましい理由について、以下に述べる。
炭化水素鎖を主体とする有機樹脂(A)の低極性構造中に、高極性で極めて高い親水性を示すカルボキシル基またはスルホン酸基があれば、水系塗装用組成物の保管中や塗装直後の水の多い環境下では、カルボキシル基またはスルホン酸基部分が水中に伸び、周辺の水と水和し、その結果、有機樹脂(A)は水系塗装用組成物中で分散安定化し易い。また、これらのカルボキシル基またはスルホン酸基は、塗装用組成物中に共存する極性の導電性粒子(B)の表面に吸着し、導電性粒子(B)同士の凝集を防ぎ、分散性を保つ効果がある。
一般に、水系塗装用組成物は、有機溶剤系の塗装用組成物と異なり、保管中や塗装直後は多量の水を含んでいて高極性だが、塗膜形成過程で水が蒸発すると、組成物中の雰囲気が高極性から低極性へ大きく変化する。本発明の場合、前記有機樹脂(A)の構造中にカルボキシル基またはスルホン酸基があれば、塗膜形成過程で水が蒸発し極性が急激に低下すると、カルボキシル基またはスルホン酸基の少なくとも一部は水和水や金属表面から脱着してコイル状に縮む。その一方で、有機樹脂(A)の低極性の樹脂鎖部分が伸び、立体障害層を形成し、導電性粒子(B)同士の凝集を防ぐ役割を果たす。
このように、炭化水素鎖を主体とする有機樹脂(A)の低極性構造中に、高極性で極めて高い親水性を示すカルボキシル基またはスルホン酸基があれば、水系塗装用組成物の保管中や塗膜形成時に、系内の極性変化に応じてその極性にマッチした基や鎖が伸び、導電性粒子の分散性を保ち易くなる。そのため、有機樹脂(A)が、カルボキシル基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含む樹脂であることが好ましい。
有機樹脂(A)がカルボキシル基やスルホン酸基を含むその他のメリットとしては、これらの官能基を含むことで、基材である金属板(下地処理がある場合は下地処理層)との密着性が向上し、塗膜の耐食性、加工性(金属板加工時の加工部の塗膜密着性、耐亀裂性、耐色落ち性等)、耐傷付き性が向上することが挙げられる。
前記カルボキシル基やスルホン酸基を含む樹脂が、構造中にスルホン酸基を含むポリエステル樹脂の場合、樹脂の合成原料として用いるポリオール、多価カルボン酸、スルホン酸基含有化合物に制限はなく、ポリオールと多価カルボン酸としては、既に例示したものを使用できる。また、スルホン酸基含有化合物としては、例えば、5−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン−2、7−ジカルボン酸、5(4−スルホフェノキシ)イソフタル酸等のスルホン酸基を含有するジカルボン酸類、または2−スルホ−1,4−ブタンジオール、2,5−ジメチル−3−スルホ−2,5−ヘキシルジオール等のグリコール類等を使用できる。
前記スルホン酸基は−SO3Hで表される官能基を指し、それがアルカリ金属類、アンモニアを含むアミン類等で中和されたものであっても構わない(例えば、5−スルホナトリウムイソフタル酸、5−スルホナトリウムイソフタル酸ジメチル等)。中和する場合は、すでに中和されたスルホン酸基を樹脂中に組み込んでもよいし、スルホン酸基を樹脂中に組み込んだ後に中和してもよい。特にLi、Na、Kなどのアルカリ金属類で中和されたスルホン酸金属塩基が、水系塗装用組成物の保管中や、塗装直後の水の多い環境下で導電性粒子(B)の凝集を抑止したり、塗膜と基材との密着性を高める上で特に好ましく、スルホン酸Na塩基が最も好ましい。
前記スルホン酸基を含有するジカルボン酸またはグリコールの使用量は、全多価カルボン酸成分または全ポリオール成分に対し、0.1〜10モル%含有することが好ましい。0.1モル%未満であると、水系塗装用組成物の保管中や、塗装直後の水の多い環境下にて、カルボキシル基やスルホン酸基を含む樹脂を分散安定化するためのスルホン酸基部分が少なく、十分な樹脂分散性が得られない可能性がある。また、塗装用組成物中に共存する導電性粒子(B)に吸着するスルホン酸基の量が少ないため、導電性粒子どうしの凝集を防ぐ効果が不足する場合がある。また、基材である金属板(下地処理がある場合は下地処理層)に作用するスルホン酸基の量が少ないため、密着性や耐食性の向上効果が得られない場合がある。10モル%超であると、スルホン酸基により塗膜が保持する水分量が増え、耐食性が低下する場合がある。性能のバランスを考慮すると、0.5〜5モル%の範囲にあるのがより好ましい。
前記カルボキシル基やスルホン酸基を含む樹脂が、構造中にカルボキシル基を含むポリエステル樹脂の場合、ポリエステル樹脂に前記カルボキシル基を導入する場合の方法としては特に制限はないが、例えば、ポリエステル樹脂を重合した後に、常圧、窒素雰囲気下、無水トリメリット酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水コハク酸、無水1,8−ナフタル酸、無水1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,3,4−テトラカルボン酸−3,4−無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸ニ無水物などから1種または2種以上を選択し、後付加する方法やポリエステルを高分子量化する前のオリゴマー状態のものにこれらの酸無水物を投入し、次いで減圧下の重縮合により高分子量化する方法等が挙げられる。
前記カルボキシル基は−COOHで表される官能基を指し、それがアルカリ金属類、アンモニアを含むアミン類等で中和されたものであっても構わない。中和する場合は、すでに中和されたカルボキシル基を樹脂中に組み込んでもよいし、カルボキシル基を樹脂中に組み込んだ後に中和してもよい。
前記カルボキシル基の導入量としては特に制限はないが、酸価で0.1〜50mgKOH/gの範囲にあることが好ましい。0.1mgKOH/g未満であると、水系塗装用組成物(β)の保管中や、塗装直後の水の多い環境下にて、カルボキシル基やスルホン酸基を含む樹脂を分散安定化するためのカルボキシル基部分が少なく、十分な樹脂分散性が得られない可能性がある。また、塗装用組成物中に共存する導電性粒子(B)に吸着するカルボキシル基の量が少ないため、導電性粒子同士の凝集を防ぐ効果が不足する場合がある。また、基材である金属板(下地処理がある場合は下地処理層)に作用するカルボキシル基の量が少ないため、密着性や耐食性の向上効果が得られない場合がある。50mgKOH/g超であると、カルボキシル基により塗膜が保持する水分量が増え、耐食性が低下する場合がある。性能のバランスを考慮すると、0.5〜25mgKOH/gの範囲にあるのがより好ましい。
前記有機樹脂(A)を含む本発明の水系塗装用組成物を調合する際、必要に応じ、以下に詳細に述べるシランカップリング剤や、前記有機樹脂(A)の架橋剤、硬化剤等を添加しても良いし、樹脂構造中に架橋剤を導入してもよい。
前記シランカップリング剤としては、一般式Y−Z−SiXmR3-mで示される分子構造を持つシランカップリング剤から選ばれる1種又は2種以上を用いる。前記分子構造中の各官能基のうち、主として金属表面や他のシランカップリング剤との反応点となる−X基は、炭素原子数1〜3の加水分解性アルコキシ基、又は、加水分解性ハロゲノ基(フルオロ基(−F)、クロロ基(−Cl)、ブロモ基(−Br)など)、又は、加水分解性アセトキシ基(−O−CO−CH3)である。これらのうち、炭素原子数1〜3の加水分解性アルコキシ基が、アルコキシ基の炭素原子数を変えることにより加水分解性を調整しやすいため好ましく、メトキシ基(−OCH3)又はエトキシ基(−OCH2CH3)が特に好ましい。−X基が前記以外の官能基のシランカップリング剤は、−X基の加水分解性が低いか、または加水分解性が高すぎるため、本発明では望ましくない。
前記分子構造中の−R基は、炭素原子数1〜3のアルキル基である。−R基がメチル基又はエチル基の場合、嵩高いn-プロピル基やイソプロピル基に比べ、水系塗装用組成物中で前記−X基への水分子の接近を妨げず、−X基が比較的容易に加水分解するため好ましく、中でもメチル基が特に好ましい。−R基が前記以外の官能基であるシランカップリング剤は、−X基の加水分解性が極端に低いか、または反応性が高すぎるため、本発明では望ましくない。
前記分子構造にて、置換基の数を示すmは1〜3の整数である。加水分解性の−X基が多いほど金属表面との反応点が多いため、置換基の数を示すmは、2又は3が好ましい。
前記シランカップリング剤の分子構造中の−Z−は、炭素原子数1〜9、窒素原子数0〜2、酸素原子数0〜2の炭化水素鎖である。これらのうち、炭素原子数2〜5、窒素原子数0又は1、酸素原子数0又は1の炭化水素鎖が、シランカップリング剤の水分散性と反応性のバランスが良いため、好ましい。−Z−の炭素原子数が10以上、窒素原子数が3以上、または酸素原子数が3以上の場合、シランカップリング剤の水分散性と反応性のバランスが不良のため、本発明では望ましくない。
シランカップリング剤の前記分子構造Y−Z−SiXmR3-mにて、有機樹脂(A)や他の共存樹脂の官能基との反応点となる−Y基は、有機樹脂(A)や他の共存樹脂と反応するものであれば特に制限がないが、反応性の高さから、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、又はメチリデン基(H2C=)が好ましく、エポキシ基又はアミノ基が特に好ましい。
前記シランカップリング剤の具体例としては、前記一般式Y−Z−SiXmR3-m(−X基は炭素原子数1〜3の加水分解性アルコキシ基、加水分解性ハロゲノ基、又は加水分解性アセトキシ基、−R基は炭素原子数1〜3のアルキル基、置換基の数を示すmは1〜3の整数、−Z−は炭素原子数1〜9、窒素原子数0〜2、酸素原子数0〜2の炭化水素鎖、−Y基は樹脂(A1)と反応する官能基)に示す分子構造を持つものとして、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニルー3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
本発明にて用いる水系塗装用組成物が前記シランカップリング剤を含む場合、有機樹脂(A)100質量部に対し、シランカップリング剤を1〜100質量部含有するのが好ましい。1質量部未満ではシランカップリング剤の量が少なく、シランカップリング剤による架橋構造があまり発達しないため、十分に繊密な塗膜が得られず耐食性が不十分になる可能性や、金属表面等との加工密着性が不十分になる可能性がある。一方、100質量部を超えると、密着性向上効果が飽和し、高価なシランカップリング剤を必要以上に用いるため不経済なだけでなく、塗装用組成物の安定性を低下させることがある。
なお、シランカップリング剤と樹脂等との反応で生成する−C−Si−O−結合を形成するSi原子の同定や定量は、金属板上の塗膜のFT−IRスペクトルや、29Si−NMR等の分析方法を利用して行うことができる。
前記有機樹脂(A)の架橋剤としては特に限定されず、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート、エポキシ化合物、カルボジイミド基含有化合物等からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤が挙げられる。これらの架橋剤を配合することで、塗膜(α)の架橋密度や金属表面への密着性を高めることができ、耐食性や、加工時の塗膜追従性が向上する。これらの架橋剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記架橋剤として用いることができるアミノ樹脂としては、特に限定されず、例えば、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂、グリコールウリル樹脂等を挙げることができる。
同様に、前記架橋剤として用いることができるポリイソシアネート化合物としては、特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等を挙げることができる。また、ブロック化ポリイソシアネートは、前記ポリイソシアネート化合物のブロック化物である。
前記架橋剤として用いることができるエポキシ化合物は、3員環の環状エーテル基であるエポキシ基(オキシラン環)を複数有する化合物であれば特に限定されず、例えば、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、ソルビタンポリグルシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチルプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、2,2−ビス−(4’−グリシジルオキシフェニル)プロパン、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル等を挙げることができる。これらのエポキシ化合物の多くは、エポキシ基に1基の−CH2−が付加したグリシジル基を持つため、化合物名の中に「グリシジル」という語を含む。
前記架橋剤として用いることができるカルボジイミド基含有化合物としては、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート等のジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素を伴う縮合反応によりイソシアネート末端ポリカルボジイミドを合成した後、更にイソシアネート基との反応性を有する官能基を持つ親水系セグメントを付加した化合物等を挙げることができる。
これらの架橋剤の量は、本発明の有機樹脂(A)100質量部に対して1〜40質量部が好ましい。1質量部未満の場合、量が不十分で添加効果が得られない可能性があり、40質量部を超える量では過剰硬化で塗膜が脆くなり、耐食性や加工密着性が低下する可能性がある。
前記有機樹脂(A)の硬化剤は、前記有機樹脂(A)を硬化させるものであれば特に制限はないが、前記有機樹脂(A)の架橋剤として既に例示したものの中で、アミノ樹脂の1つであるメラミン樹脂やポリイソシアネート化合物から選択される少なくとも1種の架橋剤を前記硬化剤として用いるのがよい。
メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとを縮合して得られる生成物のメチロール基の一部またはすべてをメタノール、エタノール、ブタノールなどの低級アルコールでエーテル化した樹脂である。ポリイソシアネート化合物としては特に限定されず、例えば、前記樹脂(A)の架橋剤として既に例示したヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等を挙げることができる。また、そのブロック化物は、前記ポリイソシアネート化合物のブロック化物であるヘキサメチレンジイソシアネートのブロック化物、イソホロンジイソシアネートのブロック化物、キシリレンジイソシアネートのブロック化物、トリレンジイソシアネートのブロック化物等を挙げることができる。これらの硬化剤は1種で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記硬化剤の含有量は、前記有機樹脂(A)の5〜35質量%であることが好ましい。5質量%未満であると、焼付硬化が不十分で、耐食性、耐傷付き性が低下する場合があり、35質量%超であると、焼付硬化が過剰になり、耐食性、加工性が低下する場合がある。
<導電性粒子(B)>
本発明の水系塗装用組成物に含まれる導電性粒子(B)は、粒子全体、あるいは、少なくともその表面層が、25℃の水系組成物中で長期間安定に存在する耐水劣化性を有し、かつ、25℃の電気抵抗率が0.1×10-6〜185×10-6Ωcmの導電性単体や化合物からなる。尚、本願で定義する耐水劣化性とは、25℃の電気抵抗率が0.1×10-6〜185×10-6Ωcmの導電性粒子を25℃の水中に30日間浸漬した場合、該粒子の電気抵抗率が、浸漬前のそれの10倍未満に抑えられる性質のことである。このような導電性粒子(B)は、表面層のみが耐水劣化性であっても、表面を含む粒子全体が耐水劣化性であってもよい。
導電性粒子(B)の粒子全体や表面層として用いることができる耐水劣化性の導電性単体や化合物としては、例えば、貴金属(Au、Ag、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptの8種)、前記貴金属を多く含む合金、前記貴金属以外の水中で酸化されにくい金属(Ni、Mo、Sn、W、Ge、Bi、Cu等)、前記の水中で酸化されにくい金属を多く含む合金、導電性セラミックス、前記の単体金属や合金を結合相としたサーメット(セラミックスに金属を結合相として加えた混合物)、導電性高分子(ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリカルバゾール等の共役二重結合系高分子、及びこれらの誘導体)、または、これらから選ばれる2種以上の混合物が挙げられる。
しかし、これらのうち、Ag以外の貴金属やそれらの貴金属の合金は、材料そのものが高価なため、導電性粒子または粒子表面層に加工した場合のトータルコストが高くなり、結果として、得られる塗装用組成物が高価格となる。そのため、本発明において、導電性粒子(B)の粒子全体や表面層としてAg以外の貴金属やそれらの貴金属の合金を用いるのは好ましくない。また、導電性高分子は、有機溶剤に溶解して粒子表面をコーティングすることにより導電性表面層を形成できるという利点があるが、導電性高分子の多くは高価格で、かつ他の導電性単体や化合物に比べ耐久性に劣るため、本発明において導電性粒子(B)の粒子全体や表面層として用いるのは好ましくない。
なお、導電性媒体としては、前記化合物以外にカーボン系化合物群があるが、それらの電気抵抗率は、金属や導電性セラミックス等の電気抵抗率の20〜200倍、あるいはそれ以上と高いため、樹脂系塗膜に所望のアース性や溶接性を付与するには添加量をかなり多くする必要があり(多くの場合、塗膜の10体積%以上)、塗膜外観や意匠性を損なうため、本発明において導電性粒子(B)の粒子全体や表面層として用いるには不適である。
以上のような視点から、本発明での使用が好ましい導電性粒子(B)を整理すると、以下のようになる。即ち、標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にある耐水劣化性の金属粒子(B1)、または、25℃の電気抵抗率(体積抵抗率、比抵抗)が0.1×10-6〜185×10-6Ωcmのほう化物、炭化物、窒化物、けい化物から選ばれる非酸化物セラミックス粒子(B2)のうち少なくとも1種または2種以上の混合物を用いるのが好ましい。なお、ここでいう非酸化物セラミックスとは、酸素を含まない元素や化合物からなるセラミックスのことである。また、ここでいうほう化物セラミックス、炭化物セラミックス、窒化物セラミックス、けい化物セラミックスとは、それぞれ、ほう素B、炭素C、窒素N、けい素Siを主要な非金属構成元素とする非酸化物セラミックスのことである。
前記金属粒子(B1)は、金属の25℃の水溶液における標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にあるものが好ましく、更に、標準電極電位が−0.2〜+0.8Vであるのがより好ましい。
ここでいう金属とは、単一の金属元素からなる単体金属、及び、複数の金属元素あるいは金属元素と非金属元素からなる合金のことである。金属の標準電極電位が−0.25Vより卑な(−0.25V未満の)場合、水系塗装用組成物に添加すると、粒子表面が水と反応して酸化する。酸化反応速度や酸化生成物は金属の種類や標準電極電位により異なるが、直ちに水と反応したり(標準電極電位が−2.3V以下のアルカリ金属、アルカリ土類金属)、数十秒〜数十日で粒子表面に酸化絶縁層や錆層が生じたりし(標準電極電位が−2.3Vを上回り−0.25V未満の範囲内にある多くの金属)、いずれの場合も表面層の導電性を失うため、塗膜中に分散させた場合に導電性粒子として機能しない。また、金属粒子の標準電極電位が+0.9Vより貴なものは、殆どが、貴金属Au(標準電極電位+1.52V)、Pd(同+0.92V)、Ir(同+1.16V)、Pt(同+1.19V)や希少金属、またはこれらを多く含む合金であり、非常に高価、または微粒子の入手が困難なため、本発明の目的には適さない。
標準電極電位が−0.25V以上で−0.2V未満の範囲にある金属には、例えば、Ni(標準電極電位−0.25V)があるが、標準電極電位が上記範囲にある金属の粒子を含む水系塗料中では、数週間程度の保管で粒子表層が徐々に酸化して有色の金属酸化物が生成し、水中に遊離し塗料を汚染する場合があるため、本発明で用いる金属粒子としては、その金属の標準電極電位の下限が−0.2Vまでの方が好ましい。また、標準電極電位が+0.8Vを超え、+0.9Vまでの範囲にある金属には、例えば、Ag(標準電極電位+0.80V)に少量のAu、Pd、Pt等を加えた歯科治療用のAg-Au系やAg-Pd系の合金があるが、いずれもAg単体に比べかなり高価になるため、本発明で用いる金属粒子としては、その金属の標準電極電位の上限が+0.8Vまでのものの方がより好ましい。
多くの単体金属の標準電極電位は、対象とする金属を電極としたガルバニ電池の起電力測定や電池反応の熱力学エネルギー変化等から算出でき、文献に掲載されているが、合金については、標準電極電位の実測(あるいは算出)例は少ない。標準電極電位の文献値が見当たらない単体金属や合金について、標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にあるかどうか確認するには、対象とする金属を電極として半電池を組み、標準電極と組合せたガルバニ電池の電極電位をポテンシォスタットで測定し、下記一般式(I)(電極電位を記述したNernstの式と、電解液中のイオンの相互作用に関するDebye-Huckel理論から導出)を用いて標準電極電位を算出すればよい。
(式中、Eは対象とする金属の電極電位、E○は前記金属の標準電極電位、Rは気体定数、Tは絶対温度、Fはファラデー定数、mは水溶液中の電解質の質量モル濃度)
Eを種々の濃度(m<0.01mol/kg)で測定し、一般式(I)の左辺をm1/2に対してプロットすると、切片E○、傾き2.34RT/Fの直線が得られ、E○を算出できる。なお、このような標準電極電位の測定の詳細に関しては、例えば文献:化学便覧 基礎編 改訂4版,社団法人 日本化学会編,丸善株式会社,II-465,1993 に記載されている。
以下、前記金属粒子(B1)を構成する金属の例について具体的に述べるが、金属名に付記した標準電極電位は、過去の文献値、または、上記一般式(I)を用いて実測したものである。
本発明にて用いることができる前記金属粒子(B1)を構成する単体金属の例としては、Ni(標準電極電位−0.25V)、Mo(同−0.2V)、Sn(同−0.14V)、W(同−0.09V)、Ge(同+0.25V)、Bi(同+0.32V)、Cu(同+0.34V)、Nb(同+0.65V)、Ru(同+0.68V)、Os(同+0.69V)、Rh(同+0.76V)またはAg(同+0.80V)、または、これらから選ばれる2種以上が挙げられる。ただし、Niは、「発明が解決しようとする課題」の項で述べたように、Ni粒子を含む水系塗料中では、数週間程度の保管で粒子の表層が酸化して青緑色の酸化ニッケル(II)(NiO)が生成して水中に遊離し、塗料を汚染する難点があり、また、Nb、Geと、貴金属のRu、Os、Rhは非常に高価格のため、本発明においては、上記の群からこれらを除いたMo、Sn、W、Bi、CuまたはAg、または、これらから選ばれる2種以上を用いるのが好ましい。
更に、上記のMo、Sn、W、Bi、Cu、Agのうち、水系組成物中での沈降や凝集抑止の観点から、比重が10以下であるSn(比重7.31)、Bi(同9.78)、Cu(同8.93)、または、これらから選ばれる2種以上を用いるのがより好ましい。本発明において比重が10を超える粒子の使用も可能であるが、水系組成物の保管や輸送時にこのような重質粒子の沈降や凝集を十分に抑えることが困難である為、比重が10以下であることが好ましい。
本発明の金属粒子(B1)として2種以上の金属の混合物を用いた場合、それらを含む水系塗装用組成物中や、そのような塗装用組成物を金属板に被覆して得られる塗膜中では、異種金属接触腐食による粒子の劣化は無視できる。何故なら、後述するように、本発明で導電性粒子(B)として金属粒子(B1)を用いる場合、本発明の塗装用組成物中では、有機樹脂(A)と金属粒子(B1)の総量に対する金属粒子(B1)の含有比率が10体積%以下と少なく、従って、本発明の水系塗装用組成物から得られる塗膜に含まれる導電性粒子比率も僅少のため、水系塗装用組成物中や塗膜中で、異種金属粒子どうしが接触して電池を形成する状態を保持する可能性が低いからである。
本発明の金属粒子(B1)として用いることができる合金の組織には特に制限がなく、固溶体(複数の元素が原子レベルで完全に均一に溶け込んでいる合金)、金属間化合物(金属結晶格子の特定の位置に規則的に別元素が置換した構造を持ち、前記金属と別元素が原子レベルで一定割合で結合している合金)、共晶(異なる成分比の固溶体結晶が共存する合金)、異種金属焼結体(異種金属のミクロ凝集塊が界面で相互に融着した焼結体)等、どのような組織のものでもよい。ただし、共晶組織を持つ合金や異種金属焼結体の中で、凝固組成中に成分比の著しく異なる相がミクロ的に接合している場合には、そのような粒子を用いて水系塗装用組成物を製造後、長く保管していると相間で電池を形成し腐食しやすくなるため、熱処理等で相組織をある程度均一化してから用いる方が望ましい。
固溶体合金としては、例えば、熱間工具材料等に実用されているNi-W合金(W20質量%の場合は標準電極電位 −0.20V)、貨幣や耐海水性部材等に用いられているCu-Ni合金(白銅;現行100円や50円白銅貨に用いられているものと同じ組成の合金はNi25質量%で、標準電極電位 −0.10V)、Cu-Sn-Zn合金(青銅;現行10円青銅貨に用いられているものと同じ組成の合金はSn1〜2質量%、Zn4〜3質量%で、標準電極電位 +0.28〜+0.30V)、Cu-Ni-Zn合金(洋白;現行500円洋白貨や食器類等に用いられているものと同じ組成の合金はNi 10〜30質量%、Zn15〜20質量%で、標準電極電位 −0.25〜0V)等が挙げられる。
金属間化合物としては、例えば、はんだ中のSnとプリント基板配線のCuとの相互拡散で生成するCu6Sn5やCu3Sn等(標準電極電位 +0.13〜+0.23V)が挙げられる。
共晶合金としては、例えば、鉛フリーはんだとして用いられているSn-Ag-Cu合金(Ag3質量%、Cu0.5質量%のものは標準電極電位 −0.10V)、Sn-Cu合金(Cu0.5〜2質量%、標準電極電位 −0.12〜−0.14V)、Sn-Bi合金(Bi58質量%、標準電極電位 +0.25V)等が挙げられる。
また、異種金属焼結体としては、電力開閉機器の接点等に広く用いられているCu-W合金(Cu10〜70質量%、標準電極電位 +0.04〜+0.21V)、Ag-W合金(Ag20〜70質量%、標準電極電位 +0.09〜+0.53V)、Ag-Ni合金(Ag60〜90質量%、標準電極電位 +0.17〜+0.70V)、Ag-グラファイト合金(Ag97〜99質量%、標準電極電位 +0.78V)等が挙げられる。
本発明の(B1)として用いることができる合金の標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にあれば、その合金を構成する複数の異種金属の中で、一部の金属の標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲になくても差支えない。そのような例としては、前記のCu-Sn-Zn合金やCu-Ni-Zn合金、また、後で述べるCu-Au系合金等が挙げられる(Znの標準電極電位は−0.76V、Auの標準電極電位は+1.52V)。
本発明の金属粒子(B1)として使用できる、標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にある単体金属、及び、複数の金属元素からなる合金の体積抵抗率(=電気抵抗率、比抵抗)は、公開文献を調査した限りでは、185×10-6Ωcmを超えるものは見当たらず、いずれも導電性に優れる。しかし、金属元素と非金属元素からなる合金には、標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にあっても体積抵抗率が185×10-6Ωcmを超えるものがあり、そのような合金は本発明では用いない方がよい。体積抵抗率が185×10-6Ωcmを超える合金は、樹脂系塗膜に十分な導電性を付与するために多量添加が必要となり、塗膜外観が導電性粒子の色に支配され、着色顔料を加えても所望の色合いに着色できない。そのため、意匠性が必要な塗装金属板の最表面層として使えない場合が多い。例えば、炭素C(単体の体積抵抗率1400〜3300×10-6Ωcm)を5質量%以上含む合金は、体積抵抗率が185×10-6Ωcmを超えることがあり、そのような合金は、本発明では用いない方がよい。
なお、金属の電気抵抗率は、金属の結晶格子に入り込んだ不純物元素の種類や量により増減するため、本発明での使用に際しては、例えば、三菱化学(株)製の抵抗率計ロレスタEP(MCP-T360型)とESPプローブを用いた4端子4探針法、定電流印加方式で、JIS K7194に準拠して25℃の電気抵抗率を実測し、金属電導を示す範囲にあることを確認してから使用すればよい。
本発明の金属粒子(B1)として用いることができる合金は、水系塗装用組成物の製造に活用できる微粉末が工業的に大量製造されているものか、あるいは容易に微粉化できるもので、かつ、高価でないものが好ましい。そのような見地から、本発明の(B)に用いる合金は、標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にあるCu系合金がより好ましい。中でも、Cu-Ni系合金(白銅;Ni 9.0〜33.0質量%、Fe 0〜2.3質量%、Mn 0〜2.5質量%、Zn 0〜1.0質量%、Cu残部)、Cu-Ni-Zn系合金(洋白;Cu 54.0〜75.0質量%、Ni 5.0質量%以上、Mn 0〜0.50質量%、Zn残部)、Cu-Sn系合金(青銅;Sn 2.0〜11.0質量%、Zn 0〜10.0質量%、Cu残部)、Cu-Sn-P系合金(リン青銅;Sn 3.5〜9.0質量%、P 0.03〜0.35質量%、Cu残部)、Cu-Al系合金(アルミニウム青銅;Cu 77.0〜92.5質量%、Al 6.0〜12.0質量%、Fe 1.5〜6.0質量%、Ni 0〜7.0質量%、Mn 0〜2.0質量%)、Cu-Zn系合金(真鍮;Cu 59.0〜71.5質量%、Zn残部)、Cu-Au系合金(赤銅;Au 3.0〜5.0質量%、Cu残部)から選ばれるいずれか1種で、かつ標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲となる組成の合金、または、これらから選ばれる2種以上の混合物が、耐水劣化性や耐食性に優れるため、特に好ましい。また、これらのCu系合金の比重は殆どの場合10以下のため、水系組成物の保管や輸送時にも粒子の沈降や凝集を抑えることができ、その点でも好ましい。
更に、例示した種々の合金から選ばれる2種以上の混合物も、本発明の(B1)として用いることが可能な金属として例示できる。
前記の非酸化物セラミックス粒子(B2)は、25℃の電気抵抗率(体積抵抗率、比抵抗)が0.1×10-6〜185×10-6Ωcmのほう化物、炭化物、窒化物、けい化物から選ばれる非酸化物セラミックス粒子のうち少なくとも1種または2種以上の混合物を用いるのが好ましい。
これらのうち、25℃の電気抵抗率が0.1×10-6Ωcm未満の非酸化物セラミックスは見当たらない。25℃の電気抵抗率が185×10-6Ωcmを超える非酸化物セラミックスを用いると、塗膜に十分な導電性を付与するために塗装用組成物に多量添加する必要があり、そのような塗装用組成物で塗膜を得た場合、塗膜を貫通する腐食電流の導通路が沢山形成され、耐食性が劣悪になるため不適である。また、塗膜外観が多量の導電性粒子の色に支配され、着色顔料を加えても所望の色合いに着色できない。本発明の塗膜に含まれる非酸化物セラミックス粒子(B)は、25℃の電気抵抗率が0.1×10-6〜100×10-6Ωcmの範囲にあるホウ化物セラミックス、炭化物セラミックス、窒化物セラミックス、またはケイ化物セラミックスが好ましい。これらの粒子は、25℃の電気抵抗率が100×10-6Ωcmを超え185×10-6Ωcmまでの範囲にある粒子より高い導電性を有するため、樹脂塗膜に十分な導電性を付与するための添加量がより少ない量でよく、その結果、塗装金属板の耐食性や塗膜外観への悪影響がより少なくなる。なお、参考までに、単体金属の電気抵抗率は1.6×10-6Ωcm(Ag単体)〜185×10-6Ωcm(Mn単体)の範囲にあり、本発明で導電性粒子として用いるのが好ましい非酸化物セラミックス(電気抵抗率0.1×10-6〜185×10-6Ωcm)は、単体金属と同程度の優れた導電性を持つことがわかる。
本発明にて用いることができる非酸化物セラミックスとしては、以下を例示できる。即ち、ほう化物セラミックスとしては、周期律表のIV族(Ti、Zr、Hf)、V族(V、Nb、Ta)、VI族(Cr、Mo、W)の各遷移金属または希土類元素のほう化物、炭化物セラミックスとしては、IV族、V族、VI族の各遷移金属、希土類元素、BまたはSiの炭化物、窒化物セラミックスとしては、IV族、V族、VI族の各遷移金属または希土類元素の窒化物、けい化物セラミックスとしては、IV族、V族、VI族の各遷移金属または希土類元素のけい化物、または、これらほう化物、炭化物、窒化物、けい化物から選ばれる2種以上の混合物、または、これらのセラミックスを金属の結合材と混合して焼結したサーメット等を例示できる。
ただし、本発明の非酸化物セラミックス粒子(B)としてサーメット粉末を用いる場合、サーメットの一部を構成する金属の標準電極電位は−0.3V以上で耐水劣化性であることが好ましい。本発明の塗膜は、水系塗装用組成物の塗装により製造するからである。このような耐水劣化性のサーメットの例としては、WC-12Co、WC-12Ni、TiC-20TiN-15WC-10Mo2C-5Ni等が挙げられる。Co、Niの標準電極電位はそれぞれ−0.28V、−0.25Vでいずれも−0.3Vより貴であり、いずれの金属も耐水劣化性である。
前記の非酸化物セラミックスのうち、Cr系セラミックスは環境負荷への懸念から、また、希土類元素系、Hf系セラミックスの多くは高価格であったり市場に流通していないため、本発明においては、上記の群からこれらを除いたTi、Zr、V、Nb、Ta、MoまたはWのほう化物、炭化物、窒化物またはけい化物、または、BまたはSiの炭化物、または、これらから選ばれる2種以上の混合物を用いるのが好ましい。
更に、工業製品の有無や国内外市場での安定流通性、価格、電気抵抗率等の観点から、以下の非酸化物セラミックスがより好ましい。即ち、Mo2B(電気抵抗率40×10-6Ωcm)、MoB(同35×10-6Ωcm)、MoB2(同45×10-6Ωcm)、NbB(同6.5×10-6Ωcm)、NbB2(同10×10-6Ωcm)、TaB(同100×10-6Ωcm)、TaB2(同100×10-6Ωcm)、TiB(同40×10-6Ωcm)、TiB2(同28×10-6Ωcm)、VB(同35×10-6Ωcm)、VB2(同150×10-6Ωcm)、W2B5(同80×10-6Ωcm)、ZrB2(同60×10-6Ωcm)、B4C(同0.3×10-6Ωcm)、MoC(同97×10-6Ωcm)、Mo2C(同100×10-6Ωcm)、Nb2C(同144×10-6Ωcm)、NbC(同74×10-6Ωcm)、SiC(同107×10-6Ωcm)、Ta2C(同49×10-6Ωcm)、TaC(同30×10-6Ωcm)、TiC(同180×10-6Ωcm)、V2C(同140×10-6Ωcm)、VC(同150×10-6Ωcm)、WC(同80×10-6Ωcm)、W2C(同80×10-6Ωcm)、ZrC(同70×10-6Ωcm)、Mo2N(同20×10-6Ωcm)、Nb2N(同142×10-6Ωcm)、NbN(同54×10-6Ωcm)、Ta2N(同135×10-6Ωcm)、TiN(同22×10-6Ωcm)、ZrN(同14×10-6Ωcm)、Mo3Si(同22×10-6Ωcm)、MoSi2(同22×10-6Ωcm)、NbSi2(同6.3×10-6Ωcm)、Ta2Si(同124×10-6Ωcm)、TaSi2(同8.5×10-6Ωcm)、TiSi(同63×10-6Ωcm)、TiSi2(同123×10-6Ωcm)、V5Si3(同115×10-6Ωcm)、VSi2(同9.5×10-6Ωcm)、W3Si(同93×10-6Ωcm)、WSi2(同33×10-6Ωcm)、ZrSi(同49×10-6Ωcm)、ZrSi2(同76×10-6Ωcm)、または、これらから選ばれる2種以上の混合物を用いるのがより好ましい。
これらの中でも、25℃の電気抵抗率が0.1×10-6〜100×10-6Ωcmにある、非酸化物セラミックスは、特に好ましい。何故なら、これらは、25℃の電気抵抗率が100×10-6Ωcmを超え185×10-6Ωcmまでの範囲にある非酸化物セラミックスより高い導電性を有するため、樹脂塗膜に十分な導電性を付与するための粒子添加量がより少ない量でよく、塗膜を貫通する腐食電流の導通路が僅かしか形成されず、耐食性が殆ど低下しないからである。また、極少量の粒子添加のため塗膜外観が導電性粒子の色に支配されず、着色顔料を加えても容易に所望の色合いに着色できるからである。
前記の非酸化物セラミックスに付記した電気抵抗率は、それぞれ、工業用素材として販売され使用されているものの代表値(文献値)である。これらの電気抵抗率は、非酸化物セラミックスの構成元素の化学量論比のずれや、結晶格子に入り込んだ不純物元素の種類や量により増減するため、本発明での使用に際しては、例えば、微粒子から長さ80mm、幅50mm、厚さ2〜4mm程度の焼結板を作成し、三菱化学(株)製の抵抗率計ロレスタEP(MCP-T360型)とASPプローブを用いた4端子4探針法、定電流印加方式で、JIS K7194に準拠して25℃の電気抵抗率を実測し、0.1×10-6〜185×10-6Ωcmの範囲にあることを確認してから使用すればよい(なお、このような電気抵抗率測定の詳細に関しては、例えば文献: 株式会社三菱化学アナリテック インターネット公式サイト上のウェブページ http://www.dins.jp/dins_j/3seihin/genri/ghlup2.htm(測定方法詳細)、 http://www.dins.jp/dins_j/3seihin/kksoku/mcpt360.htm(抵抗率計MCP-T360型詳細)、または、JIS K7194(導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法)等を参照することができる)。
更に、電気抵抗率を列挙した上記の非酸化物セラミックスのうち、水系組成物中での沈降や凝集抑止の観点から、比重が10を超えるTaB(比重14.2)、TaB2(同12.6)、W2B5(同13.1)、Ta2C(同15.0)、TaC(同14.4)、W2C(同17.3)、WC(同15.8)、Ta2Si(同13.6)、W3Si(同15.2)の使用は避けることが望ましい。既に述べたように、本発明において比重が10を超える粒子を含む水系組成物の保管や輸送時に、このような重質粒子の沈降や凝集を十分に抑えることが容易でないためである。
本発明の水系塗装用組成物中に含まれる有機樹脂(A)と耐水劣化性の導電性粒子(B)の25℃での体積比は、90.0:10.0〜99.9:0.1であり、95:5〜99.9:0.1であるのが好ましく、塗膜の着色自由度や耐食性確保の観点から97:3〜99.7:0.3であるのがより好ましい。更に、99:1〜99.9:0.1の範囲が、より高い着色自由度や耐食性確保の観点から特に好ましい。
有機樹脂(A)と導電性粒子(B)との総量に対する(B)の体積比が10.0体積%を超えると、導電性は高まるが、(B)の添加量が多すぎて、水系塗装用組成物から得られる塗膜の外観が導電性粒子の色に支配され、着色顔料を加えても所望の色合いに着色できない可能性が非常に高いため、10.0体積%以下である必要がある。また、10.0体積%を超えると、塗膜中に分散する導電性粒子(B)の量が多くなるため、通電点が増えて腐食電流が流れやすくなり、耐食性が不十分になる。なお、塗膜の5〜10体積%の導電性粒子添加でも耐食性がやや不十分となることがあり、また、塗膜外観がその粒子自体の色に支配され、着色顔料を加えても所望の色合いに着色しにくい傾向もあるため、5体積%以下の添加が好ましい。更に高い塗膜着色自由度や耐食性を確保するには、1体積%以下の少量添加が特に好ましい。
一方、(A)と(B)との総量に対する(B)の体積比が0.1体積%未満の場合、水系塗装用組成物から得られる塗膜中に分散する(B)の量が僅少で、塗膜に十分な導電性を付与できない。
前記金属粒子(B1)や非酸化物セラミックス粒子(B2)の粒子形状は、球状粒子、または、擬球状粒子(例えば楕円球体状、鶏卵状、ラグビーボール状等)や多面体粒子(例えばサッカーボール状、サイコロ状、各種宝石のブリリアントカット形状等)のような、球に近い形状が好ましい。細長い形状(例えば棒状、針状、繊維状等)や平面形状(例えばフレーク状、平板状、薄片状等)のものは、塗装過程で塗膜面に平行に配列したり、基材と塗膜の界面付近に沈積したりして、塗膜の厚方向を貫く有効な通電路を形成しにくいため、本発明の用途に適さない。
前記金属粒子(B1)や非酸化物セラミックス粒子(B2)の平均粒子径は特に限定しないが、本発明の水系塗装用組成物中にて、体積平均径が0.05〜8μmの粒子で存在するのが好ましく、体積平均径が0.2〜5μmの粒子で存在するのがより好ましい。これらの体積平均径を持つ分散粒子は、水系塗装用組成物の製造工程、保管・運搬時や、塗装用基材である金属板(金属面に下地処理がある場合は下地処理層)への塗装工程等にて、水系塗装用組成物中で安定に存在すれば、単一粒子であっても、複数の単一粒子が強く凝集した二次粒子であってもよい。水系塗装用組成物の基材への塗装工程にて、製膜に伴い前記(B1)粒子、(B2)粒子が凝集し、塗膜中での体積平均径が大きくなっても差支えない。
なお、ここで言う体積平均径とは、粒子の体積分布データから求めた体積基準の平均径のことである。これは、一般に知られているどのような粒子径分布測定方法を用いて求めても良いが、コールター法(細孔電気抵抗法)により測定される球体積相当径分布の平均値を用いるのが好ましい。何故なら、コールター法は、他の粒子径分布測定方法(レーザー回折散乱法で得た体積分布から算出する、画像解析法で得た円面積相当径分布を体積分布に換算する、遠心沈降法で得た質量分布から算出する、等)に比べ、測定機メーカーや機種による測定値の違いが殆どなく、正確で高精度な測定ができるからである。コールター法では、電解質水溶液中に被験粒子を懸濁させ、ガラス管の細孔に一 定の電流を流し、陰圧により粒子が細孔を通過するように設定する。粒子が細孔を通過すると、粒子が排除した電解質水溶液の体積(=粒子の体積)によって、細孔の電気抵抗が増加 する。一定電流を印加すれば、粒子通過時の抵抗変化が電圧パルス変化に反映されるため、この電圧パルス高を1個ずつ計測処理することにより、個々の粒子の体積を直接測定できる。粒子は不規則形状の場合が多いので、粒子と同一体積の球体を仮定し、その球体の径(=球体積相当径)に換算する。このようなコールター法による球体積相当径の測定方法は、よく知られており、、例えば文献: ベックマン・コールター株式会社 インターネット公式サイト上のウェブページ〔http://www.beckmancoulter.co.jp/product/product03/Multisizer3.html(
精密粒度分布測定装置 Multisizer3)〕に、詳細に記載されている。
球体積相当径が0.05μm未満の金属粒子、非酸化物セラミックス粒子は、それより大きな金属粒子、非酸化物セラミックス粒子より高価なだけでなく、比表面積が非常に大きいため、湿潤分散剤を用いても、水系塗装用組成物中で表面を濡らし分散させるのが困難である。また、球体積相当径が8μmを超える金属粒子、非酸化物セラミックス粒子は、それより小さな金属粒子、非酸化物セラミックス粒子より水系塗装用組成物中で速く沈降しやすく(ストークスの式により明らか)、従って、分散安定性を確保することが難しく、粒子が浮遊せず短時間で沈降し、凝集・固化する等の不具合を生じる場合がある。
<チクソトロピー流動性を付与する増粘剤(C)>
本発明において用いるチクソトロピー流動性を付与する増粘剤(C)は、水溶性または水分散性であり、水系塗装用組成物に少量を溶解または微細分散することにより、チクソトロピー流動性を付与でき、かつ、前記組成物から得られる塗膜に求められる導電性、耐食性、塗膜外観や意匠性を損なわないものであれば、特に限定しない。
本発明にて使用できる水溶性のチクソトロピー流動性を付与する増粘剤としては、例えば、水溶性の蛋白質、水溶性の高分子多糖類及びその誘導体、天然ポリエステルの水溶性誘導体、水溶性の合成高分子、等が挙げられる。
前記の水溶性蛋白質としては、カゼインナトリウム、アルブミン(卵白の蛋白質の主成分)、α-ラクトアルブミン(乳清蛋白質の主成分)、ゼラチン(動物の皮膚や骨等に含まれる蛋白質であるコラーゲンの熱変性体)等を例示できる。
前記の水溶性の高分子多糖類及びその誘導体としては、水溶性ノニオン性セルロース系ポリマー(例えば、メチルセルロース(MC) 、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(MHPC)、ヒドロキシプロピルエチルセルロース(MHEC)等)、水溶性アニオン性セルロース系ポリマー(例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)等)、及び、アルギン酸とその塩、カラギナン、キサンタンガム、ウェランガム、ラムザンガム、ジェランガム、アラビアガム、トラガカントガム、グァーガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、アルカガム、アルカラン、レオザン、ペクチン等とそれらの水溶性誘導体、及び、寒天、澱粉、デキストリン、デンプングリコール酸ナトリウム、及び、キトサンの水溶性誘導体等を例示できる。
前記の天然ポリエステルの水溶性誘導体としては、天然ポリエステルであるラノリンの水溶性誘導体を例示できる。
前記の水溶性の合成高分子としては、ポリアルキレンオキサイド系樹脂、ポリグリコール系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂のうち水溶性のもの(例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン等)、変性ポリアルキレンオキサイド系樹脂、変性ポリグリコール系樹脂、変性ポリビニル系樹脂、変性ポリエーテル系樹脂のうち水溶性のもの、水溶性の合成高分子であるポリアクリル酸系樹脂(ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、変性ポリアクリル酸ナトリウム等)、及び、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、変性アクリル系樹脂、変性ポリウレタン系樹脂、変性ポリアミド系樹脂、変性ポリエステル系樹脂のうち水溶性のものや、水溶性誘導体等を例示できる。
このような水溶性有機高分子型の増粘剤の添加により、水系組成物がチクソトロピー流動性を発現する機構は、以下の通りである。
水系組成物中で、増粘剤高分子の疎水部や疎水基が導電性粒子等の分散粒子に吸着し、かつ、増粘剤高分子の極性官能基(主にカルボキシル基、水酸基やエーテル結合)が水和することにより、多数の分散粒子と水分子を取込んだ3次元網目状構造を持つ流動単位を形成する。これらの増粘剤のうち、重量平均分子量(Mw)が10万以上の高分子量型増粘剤は、単独あるいは少数の分子で多くの分散粒子を取込んで、巨大で強固な3次元網目状構造を持つ流動単位を形成できる。一方、Mwが数千〜数万の増粘剤は、分子が小さいため、単独あるいは少数では巨大網目状構造を持つ流動単位を形成できない。ただし、個々の分子のMwが数千〜数万程度と大きくなくても、分子鎖中や末端に疎水基を持つポリエーテル系化合物やエーテル基含有セルロース系ポリマー等の会合型増粘剤では、分子どうしが疎水基で会合して擬似高分子量体を形成し、前記の高分子量型増粘剤による網目ほど強固ではないが、巨大な3次元網目状構造を持つ流動単位を形成できる。
高分子量型増粘剤、会合型増粘剤のいずれを用いた場合でも、水系組成物が静止または低剪断速度で流動する時、前記の流動単位が細分化されず保持され、その流動変形はそれらの流動単位が位置を変えたり回転することによるため、変形抵抗が大きく、結果として該組成物は高粘度になる。なお、高分子量型増粘剤を用いた場合は網目が強固で変形しにくいため、静止または低剪断速度下では、会合型増粘剤を用いた場合より高粘度であることが多い。
高分子量型増粘剤、会合型増粘剤のいずれを用いた場合でも、高速攪拌や塗装等の高剪断速度下で系に大きな剪断応力が加わり、網目状構造の降伏値(網目構造が耐えられず崩壊し、流動し始める剪断応力の限界値)を超えると、流動単位が細分化され流動し易くなり、結果として該組成物の粘度が低下する。即ち、チクソトロピー流動性を示す。なお、会合型増粘剤より高分子量型増粘剤を用いた方が強固な網目状構造を形成するため、一般に、高分子量型増粘剤を用いた方が大きな降伏値を持つ。
本発明にて使用できる水分散性のチクソトロピー流動性を付与する増粘剤としては、例えば、水分散性の粘土鉱物であるモンモリロナイト(含水けい酸アルミニウムマグネシウム)、バイデライト(含水けい酸アルミニウム)、ヘクトライト(含水けい酸マグネシウムリチウム)、サポナイト(含水けい酸アルミニウムマグネシウム)、スチブンサイト(含水けい酸マグネシウム)等やそれらの有機変性体の水分散体、フュームドシリカ微粒子、及び、乳蛋白質の主成分で、水中でミセルを作りコロイド分散するカゼイン等を例示できる。
前記の粘土鉱物の有機変性体やフュームドシリカの水分散体は、水系組成物中にて、これらの水分散体の疎水部が導電性粒子等の分散粒子に吸着し、かつ、これらの水分散体表面にある水酸基を介し、水分散体どうしや水と水素結合する。その結果、多数の分散粒子と水分子を取込んだ大きな3次元網目状構造を形成できるため、前記の水溶性増粘剤の場合と同様に、水系組成物中でチクソトロピー流動性を発現する。
本発明では、本発明の水系塗装用組成物の安定性を損なわない範囲で、これらの水溶性または水分散性増粘剤の1種または2種以上を混合して前記増粘剤(C)として用いてもよい。
以上のように、水溶性、水分散性のいずれの増粘剤も、本発明の増粘剤(C)として用いることができるが、本発明では、水溶性有機高分子型の増粘剤を用いるのが好ましく、これらの中でも、重量平均分子量(Mw)が10万以上の高分子量型増粘剤を用いるのがより好ましい。
粘土鉱物系、フュームドシリカ、カゼインミセル等、水系組成物に溶解しない水分散性の増粘剤を用いた場合、それらの添加量や粒径によっては、本発明の水系塗装用組成物の安定性や、該組成物の塗装により得られる塗膜の外観や意匠に悪影響を及ぼす可能性がある。
また、Mwが10万未満の水溶性高分子型増粘剤では、増粘剤分子の大きさが分散粒子に比べかなり小さい場合が多く、分散粒子を取込んだ巨大でかつ強固な3次元網目状構造を形成できず、十分なチクソトロピー流動性を発現できない可能性がある。これらのうちMwが数千〜数万の会合型増粘剤の場合、既に説明したように、Mwが小さくても巨大な3次元網目状構造を形成できる可能性が高い。しかし、Mwが10万以上の高分子量型増粘剤による強固な網目に比べ、会合型増粘剤による網目状構造や分散粒子の保持力は弱いため、比較的低い剪断速度下で降伏して崩壊し、十分なチクソトロピー流動性を発現できない可能性がある。
本発明では、前記増粘剤(C)が、水系塗装用組成物全体の0.02〜3.0質量%含まれているのが望ましい。0.02質量%未満では、前記組成物全体に対する増粘剤の量が少なすぎて、チクソトロピー流動性を発現できる3次元網目状構造を形成できない可能性がある。3.0質量%を超えると、前記組成物中で3次元網目状構造の形成が飽和するだけでなく、そのような組成物から得られる塗膜では、親水性の増粘剤が多く含まれるため耐水性が低下し、結果として塗膜の耐食性が低下する可能性がある。
<水系塗装用組成物の粘度>
本発明の水系塗装用組成物は、25℃、低い剪断速度5sec−1において示す粘度η5が50〜2000mPa・secである必要がある。水系塗装用組成物のη5が50mPa・sec未満の場合、低剪断速度下での粘度が低すぎるため、該組成物の保管、搬送、塗装時等に該組成物中に滞留個所が生じ、該組成物中に分散している重質の導電性粒子(B)のうち粒径の比較的大きなものが速やかに沈降したり、粒径の比較的小さなものが徐々に沈降、凝集し、該組成物や、得られる塗膜の均一性が損なわれてしまう。塗装用組成物の工業的な製造から塗装までの各工程や物流過程にて、滞留個所を皆無にすることは不可能なため、η5を50mPa・sec以上に保持する必要がある。一方、水系塗装用組成物の粘度η5が2000mPa・secを超える場合、粘度が高すぎるため、後述する通常の塗装方法では、該組成物を所望の塗膜厚で均一に金属板に塗装できない。
粘度η5の測定には、市販のB型回転粘度計(共軸二重円筒型回転粘度計)、またはE型回転粘度計(コーン-フラット型回転粘度計)等を用いるのが好ましい。測定対象の組成物を粘度計に導入し、組成物を25℃に温度調節し、測定前に剪断速度5sec−1で15分間回転させ、その後、粘度測定を行う。測定までに15分間の待ち時間を設ける理由は、<チクソトロピー指数>の項で述べるように、水系塗装用組成物がチクソトロピー流動性を有する場合の粘度の時間的依存性の影響をできるだけ除くためである。
<チクソトロピー指数>
本願で言及しているチクソトロピー流動に似た流動として、擬塑性流動がある。チクソトロピー流動、擬塑性流動のどちらの流動現象も、液が静止または低剪断速度で流動する時、液中の流動単位(3次元網目構造)が保持されるため変形抵抗が大きく高粘度だが、高剪断速度で流動する時は、流動単位が細分化されるため、粘度が低下する。ただし、擬塑性流動には時間依存性がなく、流動単位の細分化の程度は剪断速度で決まり、一定の剪断速度下では何時間攪拌しても粘度が変わらず、静止状態に戻すと細分化された流動単位はすぐに集合して元に戻る。
一方、前述のように、チクソトロピー流動には時間的依存性がある。例えば、チクソトロピー流動性の組成物を一定の剪断速度で攪拌し続けると流動単位が徐々に細分化され、時間と共に粘度が低下する。また、剪断速度を下げて静止状態に戻しても、流動単位が剪断を加える前の状態にまで十分に回復しないか、あるいは回復に時間がかかるため、該組成物の粘度は元の状態に戻らないか、あるいは元の状態への回復に長時間かかる。
本発明の水系塗装用組成物の殆どはチクソトロピー流動性であるが、本発明の請求項の要件を満たす水系塗装用組成物であれば、流動変動の時間的依存性がない擬塑性流動を示す組成物も本発明に含める。
本発明の水系塗装用組成物のチクソトロピー流動性を定量的に論じるためには、例えば、JIS R 1665(セラミックススラリーの回転粘度計によるチクソトロピー性測定方法)に示されたような精緻な方法で、一定の剪断速度下での剪断応力の時間的依存性や、剪断速度を一定の割合で変化させた場合の剪断応力の回復追従性(ヒステリシスの大小)を測定しなければならない。このような測定は非常に煩雑で時間がかかるため、本発明では、チクソトロピー流動性や擬塑性を示す液体の粘性挙動を簡便に比較、評価できるチクソトロピー指数を用いて、本発明の水系塗装用組成物の流動挙動を規定する。
チクソトロピー指数は、異なる剪断速度D1、D2(D1<D2)の下で、対象となる液体がそれぞれ示す粘度η1、η2(η1>η2)の比η1/η2で定義される。時間的依存性に関わる変数は含まれていないが、チクソトロピー流動性を示す液体の粘度挙動を容易に評価できるため、種々の流動資材や液体状製品の製造、加工、物流等に際し、広く活用されている。そのような流動資材や液体状製品とは、例えば、塗料、印刷やボールペンのインク、流動食品や飲料、薬品、化粧品、シャンプー、洗剤、潤滑油、熱媒、燃料、高分子重合物、セラミックススラリー等である。
本発明では、チクソトロピー指数として、TI1(η5/η50;η5、η50は、剪断速度5sec−1と50sec−1において25℃の水系塗装用組成物がそれぞれ示す粘度)、または更に、TI2(η5/η1000;η5、η1000は、剪断速度5sec−1と1000sec−1において25℃の前記組成物がそれぞれ示す粘度)を用いる。測定には、市販のB型回転粘度計(共軸二重円筒型回転粘度計)、またはE型回転粘度計(コーン-フラット型回転粘度計)等を用いるのが好ましい。このようなチクソトロピー指数測定の詳細に関しては、よく知られており、例えば文献:JIS R1665(セラミックススラリーの回転粘度計によるチクソトロピー性測定方法)や、英弘精機株式会社 インターネット公式サイト上のウェブページ 〔http://www.eko.co.jp/eko/c/c01/c01-t01_thixotropy/c01-t01_thixotropy.html(チクソトロピー指数の測定方法)〕に、詳細に記載されている。
測定対象の組成物を粘度計に導入し、組成物を25℃に温度調節し、所望の剪断速度に設定後、その剪断速度で15分間回転させてから粘度測定を行う。測定までに15分間の待ち時間を設ける理由は、所望の剪断速度で回転させた後に生じる組成物中の流動単位(3次元網目状構造)の遅れ破壊、または遅れ回復のための時間を確保し、時間的依存性の影響をできるだけ除くためである。(3次元網目状構造の遅れ破壊または遅れ回復が緩慢で15分以上かかる場合も多いが、ここでは、測定の簡便性を重視して待ち時間を15分とした。)
本発明の水系塗装用組成物では、前記のチクソトロピー指数TI1が1.5〜6.0である必要がある。TI1が1.5未満の場合、水系組成物の比較的緩慢な攪拌工程や輸送、管送時等(剪断速度は概ね数十〜100sec−1程度)に粘度が殆ど下がらないため、添加物の分散が不良になったり、配管が詰まったりする。TI1が6.0を超える場合、比較的緩慢な攪拌や輸送、管送等の際、剪断速度の僅かな変化で粘度が急変するため、水系組成物のハンドリングが困難となる。
本発明の水系塗装用組成物では、前記のチクソトロピー指数TI2が10〜100であるのが好ましい。TI2が10未満の場合、導電性粒子や顔料等の分散工程や塗装時等(剪断速度は概ね数百〜10000sec−1程度)に粘度があまり下がらないため、添加物の分散や塗装が困難になる可能性がある。
<防錆剤>
本発明の水系塗装用組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、塗膜形成後の防錆剤として、ポリフェノール化合物、りん酸及びヘキサフルオロ金属酸からなる群より選択される1種又は2種以上、りん酸塩化合物、Si、Ti、Al、Zrからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素からなる金属酸化物微粒子、等を含有することが好ましい。
前記ポリフェノール化合物は、ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2基以上有する化合物又その縮合物であって、金属表面にキレート作用で配位結合でき、また、共存する水系樹脂の親水基と水素結合することができる。このようなポリフェノール化合物を配合することにより、塗装用基材である金属板(下地処理がある場合は下地処理層)と塗膜との密着性や加工時の塗膜追従性を飛躍的に向上させ、ひいては加工部耐食性も向上させる。
前記ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2基以上有する化合物としては、例えば、没食子酸、ピロガロール、カテコール等を挙げることができる。ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2基以上有する化合物の縮合物としては特に限定されず、例えば、通常タンニン酸と呼ばれる植物界に広く分布するポリフェノール化合物等を挙げることができる。タンニン酸は、広く植物界に分布する多数のフェノール性水酸基を有する複雑な構造の芳香族化合物の総称である。
前記タンニン酸は、加水分解性タンニン酸でも縮合型タンニン酸でもよい。前記タンニン酸としては特に限定されず、例えば、ハマメリタンニン、カキタンニン、チャタンニン、五倍子タンニン、没食子タンニン、ミロバランタンニン、ジビジビタンニン、アルガロビラタンニン、バロニアタンニン、カテキンタンニン等を挙げることができる。前記ポリフェノール化合物は1種で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。
前記のりん酸とヘキサフルオロ金属酸は、それぞれ単独で用いてもよいし、併用してもよい。これらの酸は、金属表面をエッチングにより活性化し、シランカップリング剤や前記ポリフェノール化合物が共存する場合は、それらの金属面への作用を促進させる。また、りん酸は、前記作用のほかに、金属表面にりん酸塩層を形成して不働態化する作用を持つため、耐食性を向上させる。また、ヘキサフルオロ金属酸は、前記作用のほかに、塗膜を形成する金属表面に、ヘキサフルオロ金属酸から供給される金属の酸化物を含む安定な薄膜を形成でき、その結果、耐食性を向上させる。
本発明で用いることができるりん酸には特に制限はなく、例えば、オルトりん酸、ポリりん酸(オルトりん酸の重合度6までの直鎖状重合体の単体、又はこれらの2種以上の混合物)、メタりん酸(オルトりん酸の重合度3〜6までの環状重合体の単体、又はこれらの2種以上の混合物)を挙げることができる。前記りん酸は1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。重合度が2より大きなポリりん酸は、幾つかの重合度のポリりん酸の混合物として工業的に容易に得られるため、本発明では、このような混合物を用いるのがよい。
本発明で用いることができるヘキサフルオロ金属酸にも特に制限はなく、例えば、ヘキサフルオロりん酸、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロジルコン酸、ヘキサフルオロけい酸、へキサフルオロニオブ酸、ヘキサフルオロアンチモン酸やそれらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。ヘキサフルオロ金属酸は、前記のように、金属表面に金属酸化物を含む安定な薄膜を形成するが、そのような効果をもたらすには、金属としてTi、Si、Zr、Nbからなる群より選択される1種または2種以上の元素を含むものが好ましい。前記へキサフルオロ金属酸は、1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記りん酸塩化合物を本発明の水系塗装用組成物に配合することにより、塗膜形成時に、金属表面に難溶性のりん酸塩薄膜を形成できる。即ち、りん酸塩のりん酸イオンにより金属が溶解すると、金属表面でpHが上昇し、その結果、りん酸塩の沈殿薄膜が形成され、耐食性が向上する。
本発明で用いることができるりん酸塩化合物には、特に制限はなく、例えば、オルトりん酸、ポリりん酸(オルトりん酸の重合度6までの直鎖状重合体の単体、又はこれらの2種以上の混合物)、メタりん酸(オルトりん酸の重合度3〜6までの環状重合体の単体、又はこれらの2種以上の混合物)などの金属塩、フィチン酸、ホスホン酸(亜りん酸)、ホスフィン酸(次亜りん酸)などの有機金属塩が挙げられる。カチオン種としては特に制限はなく、例えば、Cu、Co、Fe、Mn、Sn、V、Mg、Ba、Al、Ca、Sr、Nb、Y、Ni及びZn等が挙げられるが、Mg、Mn、Al、Ca、Niを用いるの
が好ましい。前記りん酸塩化合物は、1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
Si、Ti、Al、Zrからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素からなる金属酸化物微粒子を本発明の水系塗装用組成物に配合することにより、得られる塗膜の耐食性をより高めることができる。
本発明で用いることができる前記金属酸化物微粒子としては、例えば、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、チタニア微粒子、ジルコニア微粒子等を挙げることができ、平均粒子径が1〜300nm程度のものが好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、シリカ微粒子は、塗膜の耐食性向上及び強靭化の両方が必要な場合に添加する。シリカ微粒子としては特に制限なく、塗膜が薄膜であることから、一次粒子径が3〜50nmのコロイダルシリカ、フュームドシリ力等のシリカ微粒子であることが好ましい。ただし、フュームドシリ力は、<チクソトロピー流動性を付与する増粘剤(C)>の項で述べたように、水分散性のチクソトロピー流動性付与剤としての機能もあるため、水系塗装用組成物の粘度や安定性等に及ぼす影響にも留意して用いる必要がある。
前記の各種防錆剤は、水系塗装用組成物に適量を予め溶解、あるいは分散安定化させ、塗膜中の有機樹脂(A)に導入するのが好ましい。
<着色顔料>
前記の水系塗装用組成物には、着色顔料を更に含有することができる。着色顔料の種類としては特に限定されず、無機着色顔料としては、例えば、二酸化チタン粉、アルミナ粉、ベネチアンレッドやバーントシェンナ等の酸化鉄粉、酸化鉛粉、カーボンブラック、グラファイト粉、コールダスト、タルク粉、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、コバルトイエロー、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトグリーン等を使用できる。有機着色顔料としては、例えば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、ペリレン、アンスラピリミジン、カルバゾールバイオレット、アントラピリジン、アゾオレンジ、フラバンスロンイエロー、イソインドリンイエロー、アゾイエロー、インダスロンブルー、ジブロムアンザスロンレッド、ペリレンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッド等を使用できる。
また、水系塗装用組成物から得られる塗膜に必要な色合いや光沢、風合い等の外観を与えることができるなら、例えば銅粉、錫粉、ニッケル粉、ブロンズ(Cu-Sn系合金)粉等の耐水劣化性の金属粒子を着色顔料として使用できるし、耐水性にやや劣るアルミニウム粉や亜鉛粉等も、着色顔料として用いることができる。また、アルミフレーク、マイカフレーク、板状酸化鉄、ガラスフレーク等の鱗片状光輝材、マイカ粉、金属コーティングマイカ粉、二酸化チタンコーティングマイカ粉、二酸化チタンコーティングガラス粉等の粉状光輝材も使用できる。
<水系塗装用組成物の調製>
本発明の水系塗装用組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、水中に各々の塗膜形成成分を添加し、ディスパーで攪拌し、溶解もしくは分散する方法が挙げられる。各々の塗膜形成成分の溶解性、もしくは分散性を向上させるために、必要に応じて、公知の親水性溶剤等を添加してもよい。
水系塗装用組成物には、更に、必要に応じ、塗料の水性塗料としての特性や塗工性を損なわない範囲で種々の水溶性または水分散性の添加剤を添加してもよい。ここで言う、水性塗料としての特性とは、水が溶媒の主成分で、水以外の成分が水中に溶解または分散していて、かつ労働安全衛生法施行令(有機溶剤中毒予防規則第一章第一条)で定義される有機溶剤等(第1種有機溶剤、第2種有機溶剤、第3種有機溶剤、または、前記有機溶剤を5質量%を超えて含有するもの)に該当しない性状を意味する。そのような添加剤としては、例えば、前記の種々の防錆剤や、消泡剤、沈降防止剤、レベリング剤、湿潤分散剤等の界面活性剤、及び、本発明の増粘剤(C)以外の増粘剤、粘度調整剤等などを添加してもよい。更に、塗装用組成物の構成成分の安定化等のために少量の有機溶剤を添加してもよいが、添加後の組成物が、前記の労働安全衛生法施行令で定義される有機溶剤等に該当しないように留意する必要がある。
本発明の水系塗装用組成物は、有機溶剤系の塗装用組成物に比較して表面張力が高く、基材である金属板や導電性粒子(B)や顔料等への濡れ性に劣り、均一な塗装性や粒子分散性が得られないことがある。そのような場合は、前記の湿潤分散剤を添加するのがよい。湿潤分散剤としては、表面張力を低下させる界面活性剤を用いることができるが、分子量が2000以上の高分子界面活性剤(高分子分散剤)を用いる方がよい。
塗装用組成物から得られる樹脂系塗膜が低分子界面活性剤を含む場合、これらの低分子界面活性剤は湿気を含む塗膜中を比較的容易に移動できるため、界面活性剤の極性基に吸着した水や、その水を介して溶存酸素、溶存塩等の腐食因子を塗装された金属面に呼び込み易く、また、自らブリードアウトしたり溶出し易いため、塗膜の防錆性を劣化させることが多い。一方、高分子界面活性剤は、導電性粒子(B)や顔料の表面に多点吸着できるため一旦吸着すると離れにくく、低濃度でも濡れ性改善に有効である。その上、分子が嵩高いため樹脂系塗膜中を移動しにくく、腐食因子を金属面に呼び込みにくい。
<塗膜の形成>
本発明の水系塗装用組成物から得られる塗膜は、水系塗装用組成物を基材である金属板に塗布し、その後、含水(ウェット)塗膜の水分を乾燥する方法が好ましい。前記水系塗装用組成物の塗布方法に特に制限はないが、例えば、ロールコート、グルーブロールコート、カーテンフローコート、ローラーカーテンコート、バーコート、スプレー塗布、浸漬(ディップ)、エアナイフ絞り、静電塗布等の公知の塗装方法を適宜使用することができる。
焼付乾燥方法は特に制限はなく、あらかじめ金属板を加熱しておくか、塗布後に金属板を加熱するか、或いはこれらを組み合わせて乾燥を行ってもよい。加熱方法に特に制限はなく、熱風、誘導加熱、近赤外線、直火等を単独もしくは組み合わせて使用することができる。焼付乾燥温度については、金属板表面到達温度で120℃〜250℃であることが好ましく、150℃〜230℃であることが更に好ましく、180℃〜220℃であることが最も好ましい。到達温度が120℃未満では、塗膜硬化が不十分で、耐食性が低下する場合があり、250℃超であると、焼付硬化が過剰になり、耐食性や加工性が低下する場合がある。焼付乾燥時間は1〜60秒であることが好ましく、3〜20秒であることが更に好ましい。1秒未満であると、焼付硬化が不十分で、耐食性が低下する場合があり、60秒を超えると、生産性が低下する場合がある。
本発明の水系塗装用組成物から得られる塗膜の金属板への密着性や耐食性等を更に改善する目的で、該塗膜と金属板表面の間に、下地形成用の水系組成物から得られるクロメートフリーの下地塗膜を設けてもよい。
下地塗膜を設ける場合、下地層(下地形成用の水系組成物から得られる層)から最表面層(本発明の水系塗装用組成物から得られる塗膜層)まで1層ずつ塗り重ねと乾燥を繰返すこと(逐次塗装法)により複層塗膜を形成してもよいが、簡便にかつ効率的に塗膜を金属板表面に形成する方法として、金属板表面に接する最下層から最表層までの各層の塗膜を、含水(ウェット)状態で、順次または同時に複層被覆する工程(水系の各組成物のウェット・オン・ウェット塗装または多層同時塗装工程)、含水状態の各層塗膜の水分や揮発分を同時に乾燥させる乾燥工程、前記複層塗膜を硬化する製膜工程をこの順序で含む積層方法で製膜してもよい。
ここで、ウェット・オン・ウェット塗装法とは、金属板上に塗装用組成物を塗布後、この組成物が乾燥する前の含溶媒(ウェット)状態のうちに、その上に他の塗装用組成物を塗布し、得られる積層組成物の溶媒を同時に乾燥、硬化させ、製膜する方法である。また、多層同時塗装法とは、多層スライド式カーテンコーダーやスロットダイコーター等により、複数層の組成物を積層状態で同時に金属板上に塗布後、積層組成物の溶媒を同時に乾燥、硬化させ製膜する方法である。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
1.塗装用金属板
以下の亜鉛めっき鋼板M1、M2を準備し、水系脱脂剤(日本パーカライジング(株)製FC-4480)の水溶液に浸漬して表面を脱脂した後、水洗、乾燥して塗装用の金属板とした。
M1:電気亜鉛めっき鋼板
(新日本製鐵(株)製ジンコート、板厚0.8mm、めっき厚約2.8μm)
M2:溶融亜鉛めっき鋼板
(新日本製鐵(株)製シルバージンク、板厚0.8mm、めっき厚約7μm)
2.水系塗装用組成物の調製
水系塗装用組成物の調製のため、有機樹脂(A)、導電性粒子(B)、(B)以外の導電性粒子、増粘剤(C)を準備した。
(1)有機樹脂(A)
樹脂A1を合成し、また、市販樹脂A2を準備した。
A1:水酸基含有ポリエステル樹脂水溶液(製造例で合成)
[製造例]
攪拌装置、還流冷却器、窒素ガス導入管及び温度計、サーモスタットを備えた耐圧反応容器に、トリメチロールプロパン174g、ネオペンチルグリコール327g、アジピン酸352g、イソフタル酸109g及び1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物101gを仕込み、160℃から230℃まで3時間かけて昇温させた後、生成した縮合水を水分離器により留去させながら230℃で保持し、酸価が3mgKOH/g以下となるまで反応させた。この反応生成物に、無水トリメリット酸59gを添加し、170℃で30分間付加反応を行った後、50℃以下に冷却し、2-(ジメチルアミノ)エタノールを酸基に対して当量添加し中和してから、脱イオン水を徐々に添加することにより、固形分濃度45%、酸価35mgKOH/g、水酸基価128mgKOH/g、重量平均分子量13,000の水酸基含有ポリエステル樹脂水溶液(A1)を得た。
A2:水酸基含有ポリウレタン樹脂水分散液(三洋化成工業(株)製サンプレンUXA-3005)
(2)導電性粒子(B)
以下の金属粒子(B1)、非酸化物セラミックス粒子(B2)とも、市販の微粒子(試薬)を用いた。非酸化物セラミックス粒子の電気抵抗率は、各微粒子から長さ80mm、幅50mm、厚さ2〜4mmの焼結板を作成し、三菱化学(株)製の抵抗率計ロレスタEP(MCP-T360型)とESPプローブを用いた4端子4探針法、定電流印加方式で、JIS K7194に準拠して25℃で測定した。体積平均径は、ベックマン・コールター(株)製Multisizer3(コールター原理による精密粒度分布測定装置)を用いて測定した。
(a)金属粒子(B1)
W:W微粒子((株)高純度化研究所製WWE06PB、体積平均径約3.3μm、標準電極電位 −0.09V)、25℃の水中に30日間浸漬後の電気抵抗率は、浸漬前の電気抵抗率とほぼ同様。
CuNiZn:Cu55質量%、Ni18質量%、Zn27質量%のCu-Ni-Zn合金(洋白)の微粉末((株)高純度化研究所製Cu-Ni-Zn洋白ワイヤーを機械的に粉砕して得た体積平均径3.3μmの微粒子で、標準電極電位 −0.06V)、25℃の水中に30日間浸漬後の電気抵抗率は、浸漬前の電気抵抗率の10倍未満。
(b)非酸化物セラミックス粒子(B2)
TiN:TiN微粒子(和光純薬工業(株)製、体積平均径1.6μm、電気抵抗率の実測値20×10-6Ωcm)、25℃の水中に30日間浸漬後の電気抵抗率は、浸漬前の電気抵抗率とほぼ同様。
ZrB:ZrB2微粒子(和光純薬工業(株)製、体積平均径2.2μm、電気抵抗率の実測値70×10-6Ωcm)、25℃の水中に30日間浸漬後の電気抵抗率は、浸漬前の電気抵抗率とほぼ同様。
VC:VC微粒子(和光純薬工業(株)製、体積平均径1.8μm、電気抵抗率の実測値180×10-6Ωcm)、25℃の水中に30日間浸漬後の電気抵抗率は、浸漬前の電気抵抗率とほぼ同様。
(3)(B)以外の導電性粒子
市販の微粒子(試薬)を用いた。電気抵抗率、体積平均径は、前記(2)と同様にして測定した。
(a)金属粒子
Al:Al微粒子((株)高純度化研究所製ALE11PB、体積平均径3.5μm、標準電極電位 −1.66V)、25℃の水中に30日間浸漬後の電気抵抗率は、浸漬前の電気抵抗率の10倍以上。
Zn:Zn微粒子((株)高純度化研究所製ZNE01PB、体積平均径7.9μm、標準電極電位 −0.76V)、25℃の水中に30日間浸漬後の電気抵抗率は、浸漬前の電気抵抗率の1000倍以上。
(b)非酸化物セラミックス
TaN:TaN微粒子(添川理化学(株)製、体積平均径3.7μm、電気抵抗率の実測値205×10-6Ωcm)
BN:BN微粒子((株)高純度化研究所製BBI03PB、体積平均径8.0μm、電気抵抗率の実測値2000×10-6Ωcm)
(4)増粘剤(C)
市販の工業製品または試薬を用いた。C1とC3は、ジメチルエタノールアミンで中和してから用いた。
C1:架橋型ポリアクリル酸(東亜合成(株)製ジュンロンPW-111、ジメチルエタノールアミン中和)
C2:アクリル系樹脂とポリエーテル系化合物の混合物(サンノプコ(株)製SNシックナー617)
C3:ポリアクリル酸(和光純薬工業(株)製、平均分子量25万、ジメチルエタノールアミン中和)
前記の有機樹脂、導電性粒子、増粘剤と蒸留水とを用いて、水系塗装用組成物を調製した。表1〜表6に、それぞれの水系塗装用組成物を調製する際に添加した有機樹脂(A)、導電性粒子、増粘剤の種類や添加比率を示す。導電性粒子については、有機樹脂(A)と導電性粒子の総量に対する導電性粒子の添加比率を体積%で示した。また、増粘剤については、全ての構成成分と水とを含めた水系塗装用組成物全体に対する増粘剤の添加比率を質量%で示した。
水系塗装用組成物の不揮発分濃度は、狙いの塗膜付着量や良好な塗装性を得るため、水の添加量を変えて適宜調整した。なお、「不揮発分」とは、該組成物に溶媒として配合されている水や溶剤類を揮発させた後に残る成分のことを意味する。
3.剪断粘度、チクソトロピー指数の測定
調製した水系塗装用組成物を十分に攪拌して各成分を均一に分散後、<水系塗装用組成物の粘度>、<チクソトロピー指数>の項で述べた方法で、B型粘度計を用い、25℃、剪断速度5sec−1における粘度η5と、チクソトロピー指数TI1(η5/η50;η50は、剪断速度50sec−1において25℃の水系塗装用組成物が示す粘度)、TI2(η5/η1000;η1000は、剪断速度1000sec−1において25℃の前記組成物が示す粘度)を測定した。表1〜表6に、測定値を示す。
4.塗装金属板の作成と性能評価
(1)水系塗装用組成物中の導電性粒子の耐水劣化性
水系塗装用組成物中の導電性粒子の耐水劣化性は、水系塗装用組成物そのものを用いた評価ではなく、以下に示すように、該組成物を金属板上に製膜し、得られる塗膜の表面接触抵抗値を調べることにより評価した。
前記3.で用いた水系塗装用組成物を攪拌して良好な粒子分散状態を保ちながら、A液、B液、C液の3つに分け、これらのうちA液を攪拌しながら、乾燥後の塗膜厚が4μmになるように前記塗装用金属板にバーコートした。これを熱風炉にて金属表面到達温度200℃で製膜後、水冷、風乾し、塗装金属板freshを得た(前記塗装用組成物を調製直後に塗装したことを表すため、添字「fresh」を付した)。また、B液を25℃で30日間保管後、攪拌して再び各成分を均一に分散させた状態で、塗装金属板freshの場合と同様に製膜し、塗装金属板oldを得た(前記塗装用組成物を30日間経時後に塗装したことを表すため、添字「old」を付した)。
これらの塗装金属板を用い、以下の手順で耐水劣化性の優劣を評価した。三菱化学(株)製の抵抗率計ロレスタEP(MCP-T360型)とESPプローブを用いた4端子4探針法、定電流印加方式で、前記塗装金属板freshまたは塗装金属板oldの表面の異なる10点での接触抵抗を測定し、それらの相加平均値を、それぞれの塗装金属板の表面接触抵抗値Rfresh、Roldとした。30日間で、塗装用組成物中の導電性粒子に表面錆や厚い不動態皮膜等の絶縁層が生成すれば、粒子の通電性が低下するため、前記のRoldはRfreshに比べ大きくなる。そこで、抵抗比率Rold/Rfreshを導電性粒子の耐水劣化性を表す指標とし、以下の評価点を用い、耐水劣化性の優劣を評価した。表面接触抵抗測定の詳細に関しては、例えば文献:株式会社三菱化学アナリテック インターネット公式サイト上のウェブページ 〔http://www.dins.jp/dins_j/3seihin/genri/ghlup2.htm(測定方法詳細)〕、〔http://www.dins.jp/dins_j/3seihin/kksoku/mcpt360.htm(抵抗率計MCP-T360型詳細)〕、または、JIS K7194(導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法)等に記載されている。
4: 抵抗比率Rold/Rfreshが1.5未満
3: 1.5以上、2.5未満
2: 2.5以上、10.0未満
1: 10.0以上
(2)水系塗装用組成物中の導電性粒子の沈降抑止性
水系塗装用組成物中の導電性粒子の沈降抑止性も、水系塗装用組成物そのものを用いた評価でなく、以下に示す方法で、製膜後の塗膜の表面接触抵抗値を調べることにより評価した。
前記(1)のC液を攪拌して良好な粒子分散状態を保ちながら、サンプル管に入れて密栓し、図1に示す約30mm高さの液柱として25℃で48時間静置した。その後、前記液柱の上端付近(top)、液底(bottom)にそれぞれ滞留する液を、注射針を装着していない注射筒(シリンジ)で静かに採取し、塗液top、塗液bottomを得た。これらを、乾燥後の塗膜厚が4μmになるように前記塗装用金属板にそれぞれバーコートし、熱風炉にて金属表面到達温度200℃で製膜後、水冷、風乾し、塗膜top、塗膜bottomで被覆された塗装金属板を得た。
また、前記塗装金属板の性能を、塗膜に導電性粒子を含まない塗装金属板の性能と比較するため、前記組成物から導電性粒子のみを抜いた水系塗装用組成物を別に調製し、前記と同様の製膜方法で、塗膜厚4μmの比較用塗装金属板を作成した。
導電性粒子の沈降抑止性は、以下の(a)、(b)に従い、得られた塗膜topと塗膜bottomのそれぞれに存在する導電性粒子の量と、塗膜topまたは塗膜bottomで被覆された各塗装金属板のアース性を調べることにより評価した。なお、このような塗装金属板のアース性は、後述するように、表面接触抵抗の測定値から評価する。表面接触抵抗測定の詳細に関しては、例えば文献:株式会社三菱化学アナリテック インターネット公式サイト上のウェブページ 〔http://www.dins.jp/dins_j/3seihin/genri/ghlup2.htm(測定方法詳細)〕、〔http://www.dins.jp/dins_j/3seihin/kksoku/mcpt360.htm(抵抗率計MCP-T360型詳細)〕、または、JIS K7194(導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法)等に記載されている。
(a)液柱上端付近、液底での導電性粒子の量
前記の塗膜topと塗膜bottomに含まれる導電性粒子の構成元素を蛍光X線法により定量分析し、塗膜中の各成分の比重を考慮し、塗膜中に存在する導電性粒子の体積%(α)を求めた。また、有機樹脂、導電性粒子、増粘剤の添加量から、もとの塗装用組成物の不揮発分に含まれる導電性粒子の体積%(β)も算出した。これらの体積%の比α/βを、48時間静置後の液柱上端付近での粒子残存比率(αtop/β)、または、液底への粒子沈積比率(αbottom/β)とし、以下の評点を用いて、液柱上端付近での粒子残存性、または、液底への沈積抑止性の優劣を評価した。
4: αtop/βが0.9以上
3: αtop/βが0.5以上、0.9未満
2: αtop/βが0.2以上、0.5未満
1: αtop/βが0.2未満
4: αbottom/βが1.0以上、1.1未満
3: αbottom/βが1.1以上、1.5未満
2: αbottom/βが1.5以上、2.0未満
1: αbottom/βが2.0以上
(b)アース性
前記(1)と同じ方法で、前記の塗膜topまたは塗膜bottomで被覆された塗装金属板の表面接触抵抗を測定した。以下の評価点を用いてアース性の優劣を評価した。
6: 表面接触抵抗が10-4Ω未満
5: 10-4Ω以上、10-3Ω未満
4: 10-3Ω以上、10-1Ω未満
3: 10-1Ω以上、103Ω未満
2: 103Ω以上、106Ω未満
1: 106Ω以上
(3)塗装金属板の耐食性
前記の塗膜topまたは塗膜bottomで被覆された塗装金属板から50×100mmサイズの試験片を切り出し、エリクセン試験機で塗装面の裏側から7mm高さの張出し加工を行い、板の端部をシール後、JIS-Z2371に準拠した塩水噴霧試験を行い、120時間後の凸部の白錆発生面積率を測定した。以下の評価点を用いて加工部の耐食性の優劣を評価した。
6: 凸部に白錆発生なし
5: 白錆発生面積率5%未満
4: 白錆発生面積率5%以上10%未満
3: 白錆発生面積率10%以上20%未満
2: 白錆発生面積率20%以上30%未満
1: 白錆発生面積率30%以上
(4)導電性粒子添加による塗膜の色変化
前記の塗膜topまたは塗膜bottomで被覆された塗装金属板と、塗膜に導電性粒子を含まない塗装金属板のそれぞれから測定片を20枚切出し、スガ試験機(株)製分光測色計SC-T45を用い、それぞれの測定片についてL*a*b*表色系の明度L*、色度a*、b*を測定した。20枚の測定結果の相加平均値をその塗装金属板のL*、a*、b*値とした。塗膜topまたは塗膜bottomで被覆された塗装金属板と、塗膜に導電性粒子を含まない塗装金属板のL*、a*、b*値から両板の色差ΔE*を算出し、以下の評価点を用いて、導電性粒子の添加による塗膜の色変化を評価した。
6: 色差ΔE*が0.3未満
5: 0.3以上、0.6未満
4: 0.6以上、1.0未満
3: 1.0以上、2.0未満
2: 2.0以上、4.0未満
以下の表1〜表6に評価結果を併せて示す。
以上により、本発明例の水系塗装用組成物が、本発明に規定した構成成分や組成を有し、かつ、規定した範囲の剪断粘度とチクソトロピー指数を示す場合、該組成物中の導電性粒子は優れた耐水劣化性と沈降抑止性を示し、かつ、該組成物から得られる塗装金属板は優れた導電性と耐食性を示し、更に、塗膜中の導電性粒子の存在が塗膜外観を損なわないことがわかる。即ち、本発明例では、
(a) 該水系塗装用組成物中の導電性粒子は、該組成物を30日間経時後も水劣化せず、優れた導電性を保持する。
(b) 該組成物を48時間静置しても導電性粒子が沈降しにくく、該組成物の液柱上端付近(top)でも相当量の導電性粒子が残存し、反面、液底(bottom)では沈積による増分が少ない。そのため、該組成物の液柱の上端付近、液底のいずれから塗液を採取しても、これを塗装して得られる塗装金属板は、優れた導電性を発現する。
(c) 該組成物を塗装して得られる塗膜は、導電性粒子を少量しか含まないにも関わらず、導電性粒子自体の電気抵抗率が小さいため、結果として優れた導電性を発現する。
(d) 該組成物を塗装して得られる塗膜が導電性粒子を少量しか含まないため、塗膜厚方向の腐食電流の導通路が僅少で、結果として優れた耐食性を発現する。
(e) 該組成物を塗装して得られる塗膜が導電性粒子を少量しか含まないため、導電性粒子の色が塗膜色に悪影響を与えにくく、結果として、導電性粒子が塗膜の外観設計を殆ど妨げない。
標準電極電位が−0.25Vを下回る耐水劣化性でない金属粒子(Al、Zn)を用いた場合、これらが水系塗装用組成物中で劣化し、絶縁性の厚い不動態層や錆層を生成するため、得られた塗装金属板の導電性が劣悪となる。また、電気抵抗率が185×10-6Ωcmを超える非酸化物セラミックス粒子を用いた場合、得られた塗装金属板の導電性が劣悪となる。
有機樹脂(A)と導電性粒子(B)との体積比が必要な範囲を外れる場合は、導電性と耐食性を両立できない。また、導電性粒子(B)が多すぎる場合(有機樹脂(A)と導電性粒子(B)の総量に対する(B)の体積比が10.0体積%を超える場合)、製膜後の塗装金属板の耐食性が不足したり、導電性粒子(B)の色が塗膜色に悪影響を与えやすくなる。水系塗装用組成物中に増粘剤(C)が無いか、または過少量しか含まない場合、低剪断速度下での剪断粘度やチクソトロピー指数が不適正となり、塗装性に劣る組成物となる。例えば、増粘剤(C)量が過少の場合、組成物の保管中に導電性粒子の多くが沈降する。増粘剤(C)量が過多の場合、導電性粒子の沈降は抑制されるが、低剪断速度領域から高剪断領域まで、広い剪断領域で高粘度のため、塗装困難な組成物となる。
以上の結果、本願に示した比較例では、導電性粒子の耐水劣化性、水系塗装用組成物の液柱上端付近での粒子残存性、液底への粒子沈積抑止性、及び、液柱上端付近、液底からそれぞれ採取した塗液を塗布して得た塗装金属板のアース性、耐食性、塗膜色変化のうち、少なくとも2項目の評点が2以下で劣悪である。