JP2012159584A - 電気光学素子 - Google Patents

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篤 坂井
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  • Optical Modulation, Optical Deflection, Nonlinear Optics, Optical Demodulation, Optical Logic Elements (AREA)

Abstract

【課題】光導波路型の電気光学素子において、コア層となる電気光学材料に電荷が注入されるのを抑制し、電気光学素子の内部を伝搬する光ビームのビーム形状の歪みを防止することを目的とする。
【解決手段】本発明の電気光学素子1は、電気光学材料の薄膜をコア層4とし、コア層4から順に誘電体クラッド層と電極層7a,7bとを積層して構成される光導波路2からなる。誘電体クラッド層は、第一のクラッド層5a,5bと第二のクラッド層6a,6bからなる。第二のクラッド層6a,6bの誘電率は、第一のクラッド層5a,5bの誘電率より大きく、第二のクラッド層6a,6bの膜厚6dclは、第一のクラッド層5a,5bの膜厚5dclより厚く設定されている。
【選択図】図1

Description

本発明は、電気光学素子の改良に関し、とりわけ、導波路型の電気光学素子の改良に関する。
従来から、電気光学効果を利用した光学素子として電気光学素子が知られている。この電気光学素子は、電界の変化に対する応答速度が極めて速いという性質があるので、光強度変調器、Qスイッチ素子、光ビームスキャナ等に用いられている。
電気光学効果とは、一般に、光が透過する物質に電場をかけると屈折率が変化する物理現象をいい、また、電場の強さに比例して屈折率が変化する効果をポッケルス効果といい、その屈折率変化量は以下の式(1)で与えられる。

この式(1)において、rijは電気光学定数(ポッケルス定数)、Vは印加電圧、dは電圧を印加する電極の間隔である。
電気光学効果による屈折率変化量は比較的小さく、例えば、典型的な電気光学材料であるニオブ酸リチウムを用いた場合、Δn=0.001程度の屈折率変化を与えるためには、6kV/mm程度の大きな電界を電気光学結晶(EO結晶)に印加する必要がある。実用的には、電気光学素子には、低電圧で動作可能でかつ幅広い周波数帯域で応答特性が良好であることが求められる。低電圧で大きな屈折率変化を得るためには、式(1)から明らかなように、電極の間隔dを小さくすることが有効である。
一方、電気光学材料に導波路を形成する代表例として、ニオブ酸リチウム等の電気光学結晶にチタンを局所的に拡散して、その拡散領域のみの屈折率を上昇させて光導波路構造を形成するという不純物拡散による光導波路形成技術が知られている。この光導波路構造では、電極は電気光学結晶の表面の不純物拡散により形成された光導波領域の近傍に設けられる。
また、電気光学材料に光導波路を形成する他の例として、研磨等によって電気光学結晶を薄膜化し、薄膜化された電気光学結晶基板の上面と下面とに電極層を設けて光導波路を形成する光導波路形成技術も知られている。この場合、電界の印加方向は電気光学結晶基板の上面と下面とに対して垂直である。この電気光学素子に光導波路を形成する技術によれば、電気光学結晶が有する本来の電気光学効果の特性を保ったまま光導波路構造を実現できるので、低電圧動作に対して有効な電気光学素子を提供できる。
このような薄膜型の電気光学素子では、導波光を光導波路のコア層としての電気光学結晶基板からなる薄膜の内部に閉じ込めて伝搬させるために、薄膜と電極層との間にコア層である薄膜の屈折率よりも屈折率の低い透明材料をクラッド層として介在させる必要がある。クラッド層を形成するための典型的なクラッド材料として、SiOのような誘電体材料がある。
このクラッド層とコア層とによって形成された光導波路に電圧を印加した場合、コア層に印加される電圧は、以下の式(2)により与えられる。

この式(2)において、Vは光導波路への印加電圧、Vcoはコア層に印加される電圧、dcoはコア層の膜厚、dclはクラッド層の膜厚、εcoはコア層の誘電率、εclはクラッド層の誘電率である。
式(2)から分かるように、クラッド層を設けると、式(2)の右辺の分母は「1」よりも大きくなるので、電気光学結晶基板そのものに印加される電圧、すなわち、コア層に印加される電圧Vcoは低くなる。
例えば、ニオブ酸リチウム薄膜をコア層、SiOをクラッド層とする導波路型の電気光学素子では、コア層の膜厚を10μm、クラッド層の膜厚を1μmと仮定すると、電気光学結晶自体(電気光学材料であるニオブ酸リチウム)に印加される電圧は、電気光学素子全体に印加した電圧の0.4倍程度にしかならならず、このため、電気光学素子それ自体の動作電圧が高くなる。
従って、電気光学材料に印加される電圧を高くするためには、クラッド層の膜厚を薄くすることが必要となる。例えば、クラッド層の膜厚を0.2μm程度に薄くした場合、電気光学材料に印加される電圧は電気光学素子に印加した電圧の0.8倍程度となり、動作電圧の低減を考えた場合には実用的である。このように、従来の導波路型の電気光学素子ではクラッド層の膜厚をできる限り薄くすることが低電圧駆動には有効である(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1には、シリコンを基板として強誘電体材料をコア層とする電気光学素子において、クラッド層における電圧降下を抑制するために、高誘電率を有する薄膜をクラッド層として用いる構成及びそのクラッド層の形成に有効な製造方法が開示されている。この特許文献1に開示の技術と本発明とは、薄膜化されたクラッド層が多層構造を有する点で類似している。
しかし、特許文献1に開示の技術では、クラッド層の膜厚が薄いために電気光学素子に高電界を印加した際に絶縁破壊が発生するおそれがある。すなわち、電界強度が大きい電圧で電気光学素子を動作させると、クラッド層に絶縁破壊が生じるおそれがある。電気光学素子に電圧を印加した場合に、クラッド層に印加される電界強度は以下の式(3)で与えられる。

この式(3)において、Ecl及びEcoはそれぞれクラッド層及びコア層に印加される電界強度である。
例えば、ニオブ酸リチウム薄膜をコア層、SiOをクラッド層とする光導波路型の電気光学素子では、εco/εclは7程度であり、コア層(電気光学材料)の7倍もの高電界がクラッド層に印加されることになる。一例として、厚さ10μmのニオブ酸リチウム薄膜に100Vの電圧を印加して動作させるような電気光学素子では、ニオブ酸リチウムに印加される電界強度は10kV/mmとなり、SiOクラッド層には70kV/mmもの高電界が印加される。
一般的な石英ガラスの絶縁破壊電圧は40kV/mm程度であり、クラッド層において絶縁破壊が発生する可能性が非常に高い。クラッド層において絶縁破壊が発生した場合、電気光学素子には以下に説明する悪影響が発生する。まず、クラッド層の成膜時の膜厚分布や、膜の表面粗さ、或いはコア層との密着性の領域依存性等の理由により、絶縁破壊はクラッド層全領域で同時に発生するわけではなく、クラッド層の一部の領域に局所的に発生すると考えられる。
絶縁破壊が発生した箇所では、本来絶縁体であるクラッド層はほぼ導電体として振舞うから、絶縁破壊領域が微小である場合、その絶縁破壊箇所では電極に微小な突起を設けた場合と同様の作用をもつと考えられる。このような微小突起には電界が集中することが知られており、コア層である電気光学材料も絶縁破壊を生じる可能性がある。また、電気光学材料の絶縁破壊までには至らなくとも、クラッド層に導電領域が形成されることにより、その導電領域を介して電気光学材料の内部に電荷が注入される可能性がある。
電気光学材料に局所的に絶縁破壊が発生した場合でも、クラッド層を介して電気光学材料の内部に電荷が注入された場合であっても、いずれも電気光学材料内部に不均一に電荷が注入される。この注入電荷が存在すると、この注入電荷によって電気光学材料の内部に形成される電界が終端される。従って、電気光学素子を動作させる際に、局所的な電荷注入によって電気光学材料の内部に形成される電界強度が不均一となる。
電気光学素子を動作させる際には、電気光学材料の内部に均一に電界が印加されていることが重要である。特に、光導波路の内部の電界が不均一となる場合、電界によって誘起される屈折率変化量も領域毎に異なることになり、その結果、光導波路を伝搬した光ビームの形状に大きな歪みが生じる。
特に、光導波路が横方向に閉じ込める構造を持たないスラブ導波路の場合、この電界不均一によるビーム形状の歪みが顕著に現れる。ビーム形状の歪みは電気光学素子を変調器として用いた場合には消光比の低下につながり、また、光ビームスキャナとして用いた場合には、出射ビームそのものの光ビームの形状の劣化や、スキャナによって分解できる解像点数の低減を引き起こす。
このように、従来のクラッド層では、光導波路を通過する光ビームのビーム形が歪み、その結果電気光学素子の性能を悪化させるという問題があった。本発明は、光導波路型の電気光学素子において、コア層となる電気光学材料に電荷が注入されるのを抑制し、電気光学素子の内部を伝搬する光ビームのビーム形状の歪みを防止することを目的とする。
本発明者等は、鋭意研究の結果、前記課題を解決するために以下のような電気光学素子を採用した。
本発明の電気光学素子は、電気光学材料薄膜をコア層とし、前記コア層から順に誘電体クラッド層と電極層とを積層して構成される光導波路からなる電気光学素子であって、前記誘電体クラッド層が第一のクラッド層と第二のクラッド層からなり、前記第二のクラッド層の誘電率が前記第一のクラッド層の誘電率より大きく、かつ前記第二のクラッド層の膜厚が前記第一のクラッド層の膜厚より厚いことを特徴とする。
ここで、第一のクラッド層の膜厚は、電気光学素子を伝搬する光の波長より小さいことが好ましく、第二のクラッド層の屈折率は、コア層の屈折率より大きいことが好ましい。さらに、第二のクラッド層の光透過率は、第一のクラッド層の光透過率より低くすることが好ましい。
電極層は少なくとも2種類以上の金属薄膜から構成することが好ましい。第一のクラッド層または第二のクラッド層の少なくとも一方が、微細構造を有するようにしても良い。コア層は分極反転領域を有するようにしても良い。
コア層の材料は、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸カリウム、チタン酸バリウム、KTN、STO、BTO、SBN、KTN、PLZT、PZT、DASTのいずれかを含むことが好ましい。
第二のクラッド層の材料は、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸カリウム、チタン酸バリウム、KTN、STO、BTO、SBN、KTN、PLZT、PZT、DASTのいずれかを含むことが好ましい。
また、コア層が分極反転領域を有する場合には、その分極反転領域の形状が少なくとも一つ以上のプリズム形状を順次並べた構造を有することが好ましい。さらに、電極層をコア層と誘電体クラッド層の外側に互いに対面して配置し、電極層に電圧を印加することによって、分極反転領域を伝搬した光ビームが電気光学素子出射端において偏向して出射されるようにすることが好ましい。
ここで、コア層をニオブ酸リチウム結晶あるいはマグネシウムをドープしたニオブ酸リチウム結晶から構成し、コア層の膜厚を5μm〜100μmの範囲に設定し、プリズム形状の分極反転領域の幅を0.5mm〜3mmの範囲に設定することが好ましい。
また、第一のクラッド層の材料をSiOから構成して第一のクラッド層の厚さを0.2μm〜0.4μmの範囲に設定しても良く、第二のクラッド層の材料をTaから構成して第二のクラッド層の厚さを1μm以上に設定しても良い。
また、電極層をTi、Ni、Al、Cr、Pt、Auのいずれかの材料から構成し、電極層の厚さを0.05μm〜1μmの範囲に設定しても良い。また、第二のクラッド層をポリマー材料薄膜から構成しても良い。
また、本発明の電気光学素子は、コア層に10kV/mmの電界が印加されたときに電気光学素子に流れる電流密度を10pA/mm以下であることを特徴としている。
本発明によれば、電気光学素子を構成する光導波路において、クラッド層を低誘電率を有する薄膜と、高誘電率を有する厚膜とが順に形成された多層構造とすることにより、高誘電率を有するクラッド層が電気光学素子の動作時の電極からの電荷注入を抑制し、かつ低誘電率を有するクラッド層がコア層への光閉じ込めを可能にする。従って、光導波路型の電気光学素子において、コア層となる電気光学材料への電荷の注入を抑制することができ、その結果、電気光学素子を駆動したときの光ビームの形状歪みを防止することができる。また、電気光学素子を伝搬する導波光において、高次モードの導波光が伝搬することを抑制する効果もある。
本発明の実施例1の電気光学素子の光導波路の断面構造の説明図である。 本発明の実施例2の電気光学素子の光導波路の断面構造の説明図である。 本発明の実施例3の電気光学素子の光導波路の断面構造において、(a)は第一のクラッド層に微細構造が形成されている説明図、(b)は第二のクラッド層に微細構造が形成されている説明図である。 本発明の実施例4の電気光学素子において、コア層に分極反転領域が形成されている状態を示す説明図である。 本発明の実施例5の電気光学素子において、(a)は電気光学素子を利用した光ビーム偏向素子の構造の説明図、(b)は光ビーム偏向素子のコア層の構造の説明図である。 実施例5の電気光学素子において、第一のクラッド層の膜厚をパラメータとした場合のコア厚と、コアに印加される電圧量の関係とを示すグラフである。 実施例5の電気光学素子において、第二クラッド層の膜厚をパラメータとした場合のコア厚と、コアに印加される電圧量の関係とを示すグラフである。 実施例5の電気光学素子に印加される電圧と、光ビーム偏向角の関係とを示すグラフである。 実施例5の電気光学素子と従来の電気光学素子において、電圧を印加する前後での素子出射光のビームプロファイルである。 従来の一般的な電気光学素子の光導波路断面構造の説明図である。
(実施例1)
実施例1は、請求項1〜請求項4に係る発明に対応する。図1は本発明の電気光学素子1において、電気光学素子1を構成する光導波路2の断面構造の説明図である。この電気光学素子1は光導波路2を有している。光導波路2は、電気光学材料としての電気光学結晶からなるコア層4を有する。光導波路2は、このコア層4を核としてコア層4から順に誘電体クラッド層である第一のクラッド層5a,5b、第二のクラッド層6a,6b、電極層7a,7b(第一の電極層)を積層することにより構成される。
具体的に説明すると、コア層4の下面4aには第一のクラッド層5aが形成されており、第一のクラッド層5aの下面には第二のクラッド層6aが形成されている。コア層4の上面4bには第一のクラッド層5bが形成されており、第一のクラッド層5bの上面には第二のクラッド層6bが形成されている。第二のクラッド層6aの下面には電極層(下部電極層)7aが形成されており、第二のクラッド層6bの上面には電極層(上部電極層)7bが形成されている。
コア層4は第一のクラッド層5a,5b、第二のクラッド層6a,6bを介して対向する一対の電極層7a,7b間に配置される。電極層7a,7bに電圧Vを印加すると、コア層4の屈折率が変化する。コア層4の厚さは、例えば数100nm〜数10μmである。コア層4の表面から順に第一のクラッド層5a,5bと第二のクラッド層6a,6bを設けたのは、コア層4に効果的に導波光を閉じ込めて伝搬させるためである。
第一のクラッド層5a,5bと第二のクラッド層6a,6bとは互いに異なる誘電率を有する誘電体であり、第二のクラッド層6a,6bの誘電率は第一のクラッド層5a,5bの誘電率より大きい。また、少なくとも第一のクラッド層5a,5bの屈折率はコア層4の屈折率より低い。さらに、第二のクラッド層6a,6bの膜厚6dclが、第一のクラッド層5a、5bの膜厚5dclより厚い。
コア層4を形成する電気光学材料には、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、KTP(KTiOPO)、SBN、KTNのような非線形光学結晶を用いるのが好適である。これらの光学結晶は、支持基板(図示を略す)に接着後、これらの電気光学結晶に研磨を施すことにより、電気光学結晶の特性を保持したまま薄膜化され得る。
また、クラッド層5a,5b、6a,6bを構成する材料には、二酸化シリコン(SiO)や、酸化タンタル(Ta)、酸化チタン(TiO)、窒化シリコン(Si)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ハフニウム(HfO)等の誘電体及びこれらの混合ガラスを用いることができる。電極層7a,7bを構成する材料には、Au、Pt、Ti、Al、Ni、Crのような金属材料を用いる他、ITO等の透明電極が好適である。
以上のように構成されている光導波路2の効果を説明する前に、一般的な電気光学素子の光導波路構造について説明しておく。一般的な光導波路構造として、電気光学結晶からなるコア層に一層のみからなるクラッド層が設けられている光導波路に電圧を印加する場合について説明する。
図10は、一般的な電気光学素子101の光導波路構造を示す説明図である。この電気光学素子101において、図1の電気光学素子1と同じ構成要素には同じ符号を付している。この電気光学素子101の光導波路102は、コア層4の下面4aと上面4bにクラッド層5a,5b(誘電体クラッド層)が形成されている。下側のクラッド層5aの下面には電極層7aが形成されており、上側のクラッド層5bの上面には電極層7bが形成されている。
光導波路102の内部に導波光を効果的に閉じ込めるには、クラッド層5a,5bを構成する材料として屈折率が小さいものほど好ましい。しかしながら、このようなクラッド層5a,5bを構成する材料は一般的に誘電率が小さい。電気光学結晶は一般的に誘電率が大きく、クラッド層5a,5bの誘電率εclに対するコア層4の誘電率εcoの比εco/εclが大きくなる。
したがって、電気光学素子101に電圧Vを印加したときにクラッド層5a,5bにおける電圧降下を抑制するためには、言い換えれば、コア層4に印加される印加電圧Vcoを光導波路2に印加する印加電圧Vに近づけるためには、式(2)から明らかなようにコア層4の膜厚4dcoに対するクラッド層5a,5bの膜厚5dclの比5dcl/4dcoを小さくすれば良い。すなわち、クラッド層5a,5bの膜厚5dclを薄くすることが求められる。
例えば、ニオブ酸リチウム薄膜をコア層4、SiOをクラッド層5a,5bとする光導波路型の電気光学素子101の場合、クラッド層5aの膜厚を0.2μmまで薄くすると、ニオブ酸リチウムの薄膜に印加される印加電圧Vcoは、電気光学素子101に印加した印加電圧Vの0.8倍程度に抑えられる。
しかし、クラッド層5a,5bを極端に薄くした場合、電圧Vの印加によってクラッド層5bを貫いて電極層7bから電気光学結晶(コア層4)の内部に電荷が注入され得る。電気光学結晶の内部に電荷が注入されると、電気光学結晶の内部に形成された電界分布が乱れ、光導波路102を伝搬する光ビームの形状に歪みが生じる。従って、電気光学素子101に電圧を印加する際には、電気光学結晶の内部への電荷注入を抑制することが要求される。
この要求を満たすため、実施例1では、誘電体クラッド層を第一のクラッド層5a,5bと第二のクラッド層6a,6bとから構成し、第二のクラッド層6a,6bには高誘電率を有する材料を用い、第二のクラッド層6a,6bを低屈折率を有する第一のクラッド層5a、5bの外側に設けている。第二のクラッド層6a,6bは誘電率が高いため、その膜厚6dclを厚くしても第二のクラッド層6a,6bにおける電圧降下が小さい。さらに、膜厚6dclそのものが厚いために、電圧印加時に電極層7a,7bから電荷がコア層4の内部に注入することを抑制することが可能である。
例えば、ニオブ酸リチウム薄膜をコア層、Taを第二のクラッド層6a,6bとする光導波路型の電気光学素子1では、ニオブ酸リチウムとTaの誘電率が比較的近いことから、Taの膜厚6dclを1μm程度に厚くしても、ニオブ酸リチウムに印加される電圧Vcoは電気光学素子1に印加した電圧Vの0.8倍程度に抑えられる。
さらに、第二のクラッド層6a,6bは膜厚6dclが厚いため、電極層7a,7bからの電荷注入を抑制することが可能であり、結果として電気光学素子1に高電圧を印加した際にコア層4への電荷注入を抑制することができる。
膜厚10μmのニオブ酸リチウムをコア層4、膜厚1μmのTaを第二のクラッド層6a,6bとした電気光学素子1において、電気光学素子1に電圧V=100Vの電圧を印加したとき、電気光学素子1に流れる電流密度は2nA/mm以下であった。
膜厚0.2μmのSiOのみをクラッド層5aとして用いた電気光学素子101と比較すると、電流密度は1/10以下であり、本発明による電荷注入抑制の効果を確認できた。
この場合、低屈折率材料で構成される第一のクラッド層5a,5bはその膜厚5dclを極めて薄くすることが可能である。第一のクラッド層5a,5bに要求される膜厚5dclは、電気光学素子1を構成する光導波路2におけるコア層4の屈折率と厚さに依存する。
例えば、ニオブ酸リチウムをコア層4、SiOを第一のクラッド層5a,5bとして仮定し、コア層4の膜厚4dcoを10μmと仮定すると、光導波路2はマルチモード導波路となるが、コア層4と第一のクラッド層5a,5bとの屈折率差が0.7以上と極めて大きいため、第一のクラッド層5a,5bを0.2μm程度に形成すれば、ほぼ全ての光パワーを電気光学結晶の内部に閉じ込めることが可能である。
さらに、高次モードの伝搬を抑制するために、より一層、第一のクラッド層5a,5bの膜厚5dclを薄くすることも有効である。光導波路2を伝搬する光は、一般に高次モードほど第一のクラッド層5a,5bに大きく染み出すが、極めて薄い第一のクラッド層5a,5bの外側にまで染み出した伝搬光は第二のクラッド層6a,6bの内部にまで達する。
ここでは、第一のクラッド層5a,5bの屈折率より第二のクラッド層6a,6bの屈折率の方が大きいので、第二のクラッド層6a,6bに達した光成分は第二のクラッド層6a,6bの内部に保持されたまま光導波路2の内部を伝搬する。第二のクラッド層6a,6bには直接電極層7a,7bが接しているから、そのような光成分は電極層7a,7bで吸収されるか、損失を伴う反射を繰り返して光導波路2の内部から消失する。
この効果を利用して、光導波路2において高次モードが伝搬することを抑制することが可能である。多くの導波路型の電気光学素子1では伝搬モードが異なると屈折率変化量が異なるため、光導波路2がマルチモード導波路である場合、高次モードの光の伝搬を抑制することが好ましい。すなわち、第一のクラッド層5a,5bの膜厚5dclを電気光学素子1を伝搬する光の波長よりも小さくすると、高次モードの伝搬を抑制することにも効果がある。
また、一般的に、図10に示すような光導波路構造では、クラッド層5a、5bの屈折率はコア層4の屈折率よりも小さい。これに対して、実施例1では、図1に示す第二のクラッド層6a,6bの材料はコア層4の材料の屈折率に依存せずに選択することが可能である。例えば、コア層4の材料としてKTPを選択した場合について以下に説明する。
KTPの屈折率は1.83程度であり、電気光学結晶の中では比較的に屈折率が低い。そこで、一般的には、クラッド層の材料として屈折率の低い誘電体材料を選択することになる。しかし、この実施例1では、第二のクラッド層6a,6bの材料にコア層4の屈折率よりも屈折率の大きな材料、例えば、Taを選んでも良い。
この場合、第一のクラッド層5a,5bの材料に例えばSiOのような低屈折率材料を用い、第一のクラッド層5a,5bとコア層4との境界において、基本モードの光閉じ込めを実現し、第二のクラッド層6a,6bがコア層4への電荷注入の抑制を担う。屈折率の大きな第二のクラッド層6a,6bは光導波路2の内部を高次モードが伝搬することを抑制することに有効となる。
さらに、第二のクラッド層6a,6bは透明体である必要はない。第二のクラッド層6a,6bの材料としては高い誘電率を有する材料が好適である。しかし、そのような材料の中には光を吸収あるいは散乱しやすい材料も含まれる。
本発明によれば、そのような高誘電体も第二のクラッド層6a,6bの材料として用いることができる。具体的には、樹脂材料にセラミック材料を分散させた混合材料を塗布することや、セラミック材料をエアロゾルデポジション等の成膜プロセスで第一のクラッド層5a,5bの外側に成膜することが有効である。
このような光導波路構造においても、第一のクラッド層5a,5bとコア層4との境界において基本モードの光閉じ込めを実現し、第二のクラッド層6a,6bがコア層4への電荷注入の抑制を担う。また、第二のクラッド層6a,6bでは光が吸収あるいは散乱されるため、光導波路2の内部を高次モードが伝搬することを抑制することが可能である。
(実施例2)
実施例2は、請求項5に係る発明に対応する。図2は、電気光学素子11の光導波路12の断面構造の説明図である。図2において、図1に示す電気光学素子1の構成要素と同一構成要素については、同一符号を付してその詳細な説明は省略する。
実施例2では、電極層は2種類以上の金属薄膜からなる多層構造とされ、ここでは、電極層は第一の電極層7a,7bと第二の電極層8a,8bとから構成されている。
また、実施例2では、第一の電極層7a,7bと第二の電極層8a,8bとは、異なる材料から構成されている。電気光学素子1の最表面となる第二の電極層8a,8bには周囲環境変化に対して影響を受けにくい材料が好ましく、例えばAuやPt等が好適である。このような材料と第二のクラッド層6a,6bとの密着性が悪い場合には、両者のいずれに対しても密着性の良好な別の電極材料を第一の電極層7a,7bとして介在させることが有効である。
また、電極層に用いる電極材料が異なると、その仕事関数が異なるから、電気光学素子11への電荷注入量も異なることが知られている。したがって、第一の電極層7a,7bとして電荷注入が発生しにくい電極材料を選ぶことが好ましい。
具体的には、仕事関数の小さいCrやTi、Al等が好適である。これらの金属は比較的酸化しやすいため、長時間の動作の間に電極材料の組成が変化し、電極層として有効に機能しなくなる恐れがある。このような問題を解決するためにも、第一の電極層7a,7bに続けて酸化しにくい第二の電極層8a,8bを形成することが有効である。
(実施例3)
実施例3は、請求項6に係る発明に対応する。図3(a)(b)は、電気光学素子21、31の光導波路22、32の断面構造の説明図である。図3において図1の電気光学素子1の構成要素と同一構成要素については、同一符号を付してその詳細な説明は省略する。
図3(a)では、第一のクラッド層5a,5bに微細構造5a”,5b”が形成されている。第二のクラッド層6a,6bは、微細構造5a”,5b”を被覆するようにして第一のクラッド層5a,5bの表面に形成されており、第二のクラッド層6a,6bの表面に第一の電極層7a,7bが形成されている。
微細構造5a”,5b”は、例えば、第一のクラッド層5a,5bを成膜した後、ドライエッチング技術を用いて微細孔を形成することにより得られる。また、この微細構造5a”,5b”は、研磨加工、ウェットエッチング等によって第一のクラッド層5a,5bの表面粗さを増加させることにより、簡便に形成できる。
微細構造5a”,5b”の凹凸は、光の伝搬方向(矢印X−X方向)に等間隔又はランダムに間隔を開けて形成されている。その微細構造5a”,5b”の間隔Hは、光導波路22を伝搬する光の波長程度か又はそれ以下の大きさが好ましい。クラッド層を多層構造とすることによる電荷注入の抑制効果については、実施例1、2と同様である。
この実施例3では、第一のクラッド層5a,5bに微細構造5a”、5b”を設けることによって電荷注入の抑制やコア層4への光閉じ込めがより一層効果的になる。例えば、図3(a)に示す光導波路22の構造において、第一のクラッド層5a、5bの膜厚を極めて薄くすると、光導波路22を伝搬する光が感じるクラッド層の等価的な屈折率を、第一のクラッド層5a,5bと第二のクラッド層6a,6bの中間の値に設定することができる。
このクラッド層の等価的な屈折率は、微細構造5a”,5b”の単位面積当たりの凹凸の個数(密度)を変えることにより任意の値に調整可能である。これによって、第二のクラッド層6a,6bに基づくコア層4への電荷注入を抑制するとともにクラッド層の屈折率を任意に設定でき、光導波路22の設計が容易になる。
図3(b)では、第二のクラッド層6a,6bに微細構造6a”,6b”が形成されている。第一の電極層7a,7bは微細構造6a”,6b”を被覆するようにして第二のクラッド層6a,6bの表面に形成されている。微細構造6a”,6b”の形成方法は微細構造5a”,5b”の形成方法と同様の方法を用いることができる。
微細構造6a”,6b”は、光の伝搬方向(矢印X−X方向)に等間隔又はランダムに間隔を開けて形成されている。微細構造6a”,6b”の間隔Hは、光導波路32を伝搬する光の波長程度か又はそれ以下の大きさが好ましい。
図3(a)に示す光導波路22の構造と異なり、この図3(b)に示す光導波路32の構造のように、第二のクラッド層6a,6bに微細構造6a”,6b”を設けることにより、第一の電極層7a,7bから第二のクラッド層6a,6bに注入される電荷量を制御することができる。
この微細構造6a”,6b”によって、第二のクラッド層6a,6bの内部に均一に電荷が注入されるため、第一のクラッド層5a,5bにおいて電界の集中が発生することが抑制され、第一のクラッド層5a,5b、第二のクラッド層6a,6bの絶縁破壊の発生を抑制することが可能である。
(実施例4)
実施例4は、請求項7に係る発明に対応する。図4は本発明の電気光学素子の説明図であって、電気光学材料からなる光導波路のコア層4を示す図である。この実施例4では、上記の各実施例で説明した電気光学素子1、11、21、31を光偏光器として用いる場合について説明する。
電気光学素子を光偏向器として用いるためには、プリズム構造体4Aをコア層4を構成する電気光学材料に形成することが有効である。具体的な電気光学材料としては、ニオブ酸リチウム結晶やタンタル酸リチウム結晶等が挙げられる。
コア層4は三角形状(プリズム形状)の分極反転領域40aを有し、分極反転領域40aの結晶軸の向きはその他の領域40bとは逆になっている。この分極反転領域40aは光ビーム(導波光)Pの伝搬方向に規則的に配列されている。
分極反転領域40aの結晶軸の向きは、例えば図4では紙面の裏側から紙面の表側に向かう方向であり、その他の領域40bの結晶軸の向きは紙面の裏側から紙面の表側に向かう方向である。
コア層4に一様な電圧が印加されると、分極反転領域40aとその他の領域40bとで屈折率変化量の符号が逆転する。このため、コア層4にプリズム構造体4Aが生成される。このプリズム構造体4Aは、複数個のプリズムの集合からなり、コア層4の内部を伝搬する光ビームPは各プリズムの境界において伝搬角が曲がり、電気光学素子からの出射時には光ビーム(導波光)Pの進行方向が電気光学素子の入射時とは異なって、すなわち、偏向されて出力される。印加電圧Vの大きさに対応してビーム偏向角を異なるようにすることができ、電気光学素子をビーム偏向器として利用することができる。
電気光学結晶の内部にこのような分極反転領域40aを形成するには、各種の方法が知られている。一般的には、電気光学結晶に抗電界以上の高い電界に相当する高電圧を結晶材料に印加すればよい。三角形状(プリズム形状)の分極反転領域40aを形成したい部分を絶縁体でマスクした状態で高電圧を印加することによって、三角形状(プリズム形状)分極反転領域40aを形成することができる。一般的なフォトレジストを絶縁体を用いて分極反転領域40aを十分に形成することが可能である。
プリズム型の光偏向器は印加電圧が大きいほど偏向角度が大きくなるため、電気光学素子には100V以上の電圧が印加される可能性がある。コア層4の厚さがマイクロメートルオーダーの場合、電気光学結晶及び第一のクラッド層5a,5b、第二のクラッド層6a,6bの材料には極めて大きな電界が形成される。
これに伴って、第一の電極層7a,7bからコア層4への電荷注入が発生して、電気光学素子の電気光学的特性、性能の劣化が懸念されるが、本発明に係る多層のクラッド層を形成することにより、電気光学素子に高電圧を印加する際にも電極層からコア層4への電荷注入を抑制することが可能となる。
(実施例5)
実施例5は、請求項10〜16に係る発明に対応する。図5(a)は、本発明の電気光学素子を利用した一例として、素子通過によって光ビームの出射方向を変化させる光ビーム偏向器201の構造を示している。
この光ビーム偏向器201では、電気光学結晶薄膜からなるコア層204の表面および裏面に、第一のクラッド層205a,205bと、第二のクラッド層206a,206bが順に積層されている。さらに、第二のクラッド層206a,206bの外側には、コア層204に電界を形成するための電極層207a,207b(第一の電極層)が対面するように積層されている。このように構成されている光ビーム偏向器201は、双方の電極層207a、207bを通じて電圧Vが印加されることで、コア層204の膜厚方向に平行な電界が形成される。
図5(b)は、コア層204の構造を示している。このコア層204は複数の三角形状(プリズム形状)を並べた分極反転領域240aを有しており、分極反転領域240aとその他の領域240bでは電気光学材料の分極軸が反転している。図5(a)に示す電極層207a,207bは、この分極反転領域240aを覆って配置されている。
以上のように構成されているコア層204は、光ビーム偏向器201に電圧が印加されることによってコア層204の屈折率が変化し、分極反転領域240aとその他の領域240bとで屈折率変化の符号が異なることから、電気光学結晶薄膜の内部に複数のプリズムが備わることと同じ効果が得られる。
また、図5(a)に示すように、光ビーム偏向器201の入射端面から入力された光ビームPは、分極反転領域240aによってその進行方向がコア層204の膜厚方向に平行な方向に変化し、光ビーム偏向器201の出射端面において光ビームPが偏向して出力される。分極反転領域240aの屈折率は光ビーム偏向器201に印加する電圧によって制御できる。したがって、光ビームPの出力角度も素子への印加電圧によって制御できる。図5(b)に示す分極反転領域240aの幅Dが一定の場合には、光ビーム偏向器201の出射角θは、以下の式(4)で与えられる。
この式(4)において、Δnはコア層204の屈折率変化量、Dは分極反転領域240aの幅、Lは複数の分極反転領域240aの全体の長さである。式(1)に示したようにコア層204の屈折率変化量は光ビーム偏向器201への印加電圧で制御できる。
以下、電気光学素子の具体的な設計例を示す。ここでは電気光学材料として広く用いられているニオブ酸リチウム(LiNbO)をコア層の材料として採用する。ニオブ酸リチウムはマグネシウムをドープすることによって、特に短波長領域での耐光性が向上することが知られている。
コア層の膜厚としては5μm〜50μm程度が好適である。その理由は2点あり、素子への光結合とコア層へ印加される電圧量を考慮して決定される。まず光ビームをコア層の膜厚方向に集光して素子に光結合を行うことから、高効率の光結合を達成するためにはコア層の膜厚は数μm程度以上が好ましい。また、電気光学材料の屈折率変化を誘起させるために必要な電圧はコア層の膜厚が小さいほど低電圧で済むが、式(2)から分かるようにコア層の膜厚が薄すぎると素子に印加した電圧に対して、コア層に印加される電圧量は小さくなってしまう。以上の2点のバランスをとって、コア層の膜厚としては5μm〜50μmの範囲で選ぶことが好ましい。
次に、第一のクラッド層の材料および膜厚を決定する。第一のクラッド層の材料は光源の波長に対して透明であり、かつコア層の屈折率より十分低いことが求められる。ここでは一般的なガラス材料であるSiOを第一のクラッド層の材料として採用する。第一のクラッド層の膜厚は、導波路の伝搬光を閉じ込めるのに十分な範囲でできる限り薄くすることが好ましい。この理由として、クラッド層の膜厚が厚くなるほど、素子への印加電圧に対してコア層に印加される電圧量が低減することによる。
図6は、コア層の膜厚(コア厚)を変化させたときにコア層に印加される電圧を素子への印加電圧で規格化して示したものである。この図6では、第一のクラッド層の膜厚をパラメータとしている。コア層の膜厚が等しくても、第一のクラッド層の膜厚を薄くするほどコア層に印加される電圧量を増やすことができることがわかる。ただし、第一のクラッド層の膜厚を薄くしすぎると、光導波路を伝搬する光のクラッド層への染み出しがクラッド領域で十分減衰しないため、伝搬損失につながる。このため、第一のクラッド層はある程度以上の膜厚が必要である。光導波モード伝搬のシミュレーションの結果、ニオブ酸リチウムをコア層の材料とした場合、SiOからなる第一のクラッド層の膜厚を200nm以上にすれば、光導波路内を伝搬する光はほぼ損失なしで導波することが分かった。したがって、第一のクラッドの膜厚を200nmと決定した。
次に、第二のクラッド層の材料および膜厚を決定する。第二のクラッド層の材料としては高誘電率を有する材料が好ましく、ここでは比誘電率が約25のTaを採用する。第二のクラッド層は電圧印加によって生じるコア層への電荷注入を抑制するために存在し、その膜厚を厚くするほど電荷注入の抑制効果を高めることができる。ただし第二のクラッド層の膜厚を厚くしすぎると、素子への印加電圧に対してコア層に印加される電圧量が低減するため、電荷注入抑制効果とコア層への印加電圧のバランスをとって適当な膜厚を選択する必要がある。
図7は、コア層の膜厚(コア厚)を変化させたときにコア層に印加される電圧を素子への印加電圧で規格化して示したものである。ここでは第一のクラッド層の材料をSiO、その膜厚を200nmと設定し、第二のクラッド層の膜厚をパラメータとしている。コア層の膜厚が等しくても、第二のクラッド層の膜厚を薄くするほどコア層に印加される電圧量を増やすことができることがわかる。実際に素子を製作して評価したところ、第二のクラッド層の膜厚を1μm以上にすると電荷注入の抑制に効果があることが分かった。
図8は、図5に示した光ビーム偏向器201の偏向性能の一例を上述の設計手順により、コア層204として膜厚20μmのニオブ酸リチウム、第一のクラッド層205a,205bとして膜厚0.2μmのSiO、第二のクラッド層206a,206bとして膜厚1.0μmのTaを採用した。
また、図5(b)に示したプリズム状の分極反転領域240aの寸法として、分極反転領域240aの幅を1.0mm、複数の分極反転領域240aの全体の長さを20mmとした。素子への印加電圧と素子出力光ビームの偏向角との関係より、±300Vの印加電圧により全角で8°以上の光ビーム偏向が可能である。
本発明の特徴は、電気光学素子において第二のクラッド層で電荷をブロックすることにより、電圧印加時にコア層へ電荷が注入することを抑制することである。そのため、電極層を構成する材料については原理的には導電性を有していれば、いかなる材料でも適用可能である。しかしながら、電極材料とコア層となる電気光学材料との仕事関数の大小関係によって電荷注入量が異なってくることが一般的に知られており、本発明においても適切な電極材料を選択することで電荷注入の抑制効果をさらに高めることができる。
具体的にはニオブ酸リチウムをコア層に用いた場合、注入電荷が電子である場合にはNiやPtなど仕事関数がニオブ酸リチウムより大きな材料が好ましく、逆に注入電荷が正孔である場合にはCrやTiなど、仕事関数がニオブ酸リチウムより小さな材料が好ましい。また、上記の素子構造の具体例では第ニのクラッド層の材料として透明無機材料であるTaを採用したが、より耐電圧性の高いポリマー材料を第二のクラッド層として適用してもよい。具体的には永久レジストとして知られるMicroChem 社のSU−8等が好適である。
図9は、本発明の効果を実験によって確認した結果である。電気光学素子に直流電圧を印加する前後での素子出射光のビームプロファイルを観察したところ、クラッド層として膜厚200nmのSiOのみを装荷した従来の電気光学素子は、図9(a)に示すように、電圧を印加した直後に光ビームの幅が3倍以上広がる。
これに対して、第ニのクラッド層に厚さ1.5μmのTaを採用した本発明の電気光学素子は、図9(b)に示すように直流電圧を印加した場合でも電圧印加前の光ビームプロファイルをほぼ保持できている。このとき素子に流れる電流量を測定した結果、従来の素子では1000pA/mmの電流が流れていたのに対し、本発明の素子では10pA/mm以下の電流量であった。電荷注入量と素子電流はほぼ線形の関係にあり、この結果は本発明により電圧印加による電荷注入を従来の1/100以下に抑制できたことを示唆している。
以上、本発明の電気光学素子に係る実施例を例示したが、これらの実施例は本発明の内容を限定するものではない。また、本発明の請求項の範囲を逸脱しない範囲であれば、各種の変更等は可能である。
以上説明したように本発明の電気光学素子では、コア層となる電気光学材料に電荷が注入されるのを抑制し、電気光学素子の内部を伝搬する光ビームのビーム形状の歪みを防止することができる。したがって、本発明の電気光学素子は、電気光学素子の技術分野で十分に利用することができる。
1 電気光学素子
2 光導波路
4 コア層
4dco 膜厚
5a,5b 第一のクラッド層
5dcl 膜厚
6a,6b 第二のクラッド層
6dcl 膜厚
7a,7b 第一の電極層
8a,8b 第二の電極層
11 電気光学素子
12 光導波路
21 電気光学素子
22 光導波路
31 電気光学素子
32 光導波路
40a 分極反転領域
201 光ビーム偏向器
204 コア層
205a,205b 第一のクラッド層
206a,206b 第二のクラッド層
207a,207b 第一の電極層
240a 分極反転領域
特開2009−080378号公報

Claims (16)

  1. 電気光学材料薄膜をコア層とし、前記コア層から順に誘電体クラッド層と電極層とを積層して構成される光導波路からなる電気光学素子であって、
    前記誘電体クラッド層が第一のクラッド層と第二のクラッド層からなり、前記第二のクラッド層の誘電率が前記第一のクラッド層の誘電率より大きく、かつ前記第二のクラッド層の膜厚が前記第一のクラッド層の膜厚より厚いことを特徴とする電気光学素子。
  2. 請求項1に記載の電気光学素子において、
    前記第一のクラッド層の膜厚が前記電気光学素子を伝搬する光の波長より小さいことを特徴とする電気光学素子。
  3. 請求項1に記載の電気光学素子において、
    前記第二のクラッド層の屈折率が前記コア層の屈折率より大きいことを特徴とする電気光学素子。
  4. 請求項3に記載の電気光学素子において、
    前記第二のクラッド層の光透過率が前記第一のクラッド層の光透過率より低いことを特徴とする電気光学素子。
  5. 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の電気光学素子において、
    前記電極層が少なくとも2種類以上の金属薄膜からなることを特徴とする電気光学素子。
  6. 請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の電気光学素子において、
    前記第一のクラッド層または前記第二のクラッド層の少なくとも一方が微細構造を有することを特徴とする電気光学素子。
  7. 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の電気光学素子において、
    前記コア層が分極反転領域を有することを特徴とする電気光学素子。
  8. 請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の電気光学素子において、
    前記コア層の材料が、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸カリウム、チタン酸バリウム、KTN、STO、BTO、SBN、KTN、PLZT、PZT、DASTのいずれかを含むことを特徴とする電気光学素子。
  9. 請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の電気光学素子において、
    前記第二のクラッド層の材料が、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸カリウム、チタン酸バリウム、KTN、STO、BTO、SBN、KTN、PLZT、PZT、DASTのいずれかを含むことを特徴とする電気光学素子。
  10. 請求項7〜請求項9のいずれか1項に記載の電気光学素子において、
    前記コア層が分極反転領域を有する場合には、その分極反転領域の形状が少なくとも一つ以上のプリズム形状を順次並べた構造を有し、
    前記電極層は、前記コア層と前記誘電体クラッド層の外側に互いに対面して配置され、前記電極層に電圧を印加することによって、前記分極反転領域を伝搬した光ビームが前記電気光学素子出射端において偏向して出射されることを特徴とする電気光学素子。
  11. 請求項10に記載の電気光学素子において、
    前記コア層が、ニオブ酸リチウム結晶あるいはマグネシウムをドープしたニオブ酸リチウム結晶からなり、前記コア層の膜厚が5μm〜100μmの範囲にあり、前記プリズム形状の分極反転領域の幅が0.5mm〜3mmの範囲であることを特徴とする電気光学素子。
  12. 請求項10または請求項11に記載の電気光学素子において、
    前記第一のクラッド層の材料がSiOからなり、前記第一のクラッド層の厚さが0.2μm〜0.4μmの範囲にあることを特徴とする電気光学素子。
  13. 請求項10〜請求項12のいずれか1項に記載の電気光学素子において、
    前記第二のクラッド層の材料がTaからなり、前記第二のクラッド層の厚さが1μm以上であることを特徴とする電気光学素子。
  14. 請求項10〜請求項13のいずれか1項に記載の電気光学素子において、
    前記電極層がTi、Ni、Al、Cr、Pt、Auのいずれかの材料からなり、前記電極層の厚さが0.05μm〜1μmの範囲であることを特徴とする電気光学素子。
  15. 請求項10〜請求項14のいずれか1項に記載の電気光学素子において、
    前記第二のクラッド層がポリマー材料薄膜からなることを特徴とする電気光学素子。
  16. 請求項10〜請求項15のいずれか1項に記載の電気光学素子において、
    前記コア層に10kV/mmの電界が印加されたときに前記電気光学素子に流れる電流密度が10pA/mm以下であることを特徴とする電気光学素子。
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