JP2012155916A - リチウム二次電池用正極活物質とその製造方法および該正極活物質の前駆体とその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】オリビン型リン酸鉄リチウムの単相一次粒子および該一次粒子が凝集した二次粒子からなり、且つX線回析における(311)面の回折ピーク半価幅が0.1〜0.3°および走査型電子顕微鏡観察から求められる前記一次粒子の平均粒径が0.05〜0.5μmであるリチウム二次電池用正極活物質、並びに2価の鉄塩とリン酸を含有する混合水溶液と、水酸化リチウムを含有するリチウム水溶液とを混合して、リチウム鉄リン酸組成物を晶析させることによって得られ、且つX線回析において、該リチウム鉄リン酸組成物に由来する回折ピークが未検出の状態であるリチウム二次電池用正極活物質前駆体など。
【選択図】なし
Description
しかしながら、Coは、地球上に偏在し、希少な資源であるため、コバルト酸リチウムに代わる新たな正極活物質として、例えば、LiNiO2、LiMn2O4、LiFePO4等の開発が進められている。
しかしながら、LiFePO4は、電子伝導性が低いため、そのままでは十分な電極特性が得られない。これらの欠点を改善するため、数百nmへの粒子の微細化、黒鉛などの導電材との複合化、このFeの一部を他の金属で置換したLiFePO4を正極活物質とするリチウム二次電池が提案されている。
これらの製造方法では、それぞれの成分に対して個別の原料を用いるため、構成成分が十分に拡散して均一組成を持つ良好なオリビン構造を得るためには、比較的高い焼成温度が必要となる。
しかしながら、高温で焼成を行うと、平均粒径が数μm〜数十μmまで粗大化し、また、その粒子は、結晶が発達し、非常に硬いものとなる。このため、反応性が悪く、また、粉砕等の加工がし難いという欠点がある。この結果、リチウム二次電池用正極活物質としてのLiFePO4の用途展開を困難なものとしている。
また、このような高圧容器を用いずに、均一な組成の反応前駆体を得る試みとして、溶液の噴霧乾燥法や静置乾燥固化なども提案されている(例えば、特許文献6参照。)。
しかしながら、これらの方法では、媒体である水を除去するために、大きな熱量を必要とするため、生産性に劣る。
しかしながら、この提案においては、詳細な反応条件は明らかにされておらず、また、例えば、水酸化ナトリウムを用いて中和反応を行うと、反応途中で生成するナトリウム塩などが混入し、電池特性に悪影響を与える恐れがある。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記一次粒子の表面は、リチウム二次電池用正極活物質全量に対して、含有される炭素量が3〜10質量%の導電性炭素質材料により、被覆されていることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質が提供される。
さらに、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、ナトリウム含有量が0.5質量%以下であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質前駆体が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第5の発明において、前記pH制御のために、さらにアルカリ金属水酸化物を、前記反応水溶液(c)に添加することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第7の発明によれば、第5又は6の発明において、前記2価の鉄塩が硫酸第一鉄水和物(FeSO4・7H2O)であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第9の発明によれば、第8の発明において、前記熱処理前に、前記前駆体を乾式または湿式粉砕することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
(1)第2の発明において、前記導電性炭素質材料による被覆は、黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維もしくはこれらの材料、またはショ糖を加熱処理してなるものによることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
(2)第5の発明において、前記晶析工程における晶析時の反応温度は、5〜80℃であり、および晶析時の雰囲気は、窒素などの不活性ガス雰囲気であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
(3)第5の発明において、前記乾燥工程では、非酸化性雰囲気は、不活性雰囲気または真空雰囲気であり、および乾燥温度は、35〜250℃であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
(4)第8の発明において、熱処理時間は、2〜20時間であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
(5)第1又は2の発明に係るリチウム二次電池用正極活物質を正極に用いてなる二次電池。
また、本発明のリチウム二次電池用正極活物質前駆体は、結晶性が低く、熱処理することにより、容易に上記正極活物質が得られるものである。
さらに、本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、有毒物質を用いずに容易に高収率で上記正極活物質が得られるものであり、その工業的価値は極めて大きい。
本発明のリチウム二次電池用正極活物質(以下、単に本発明の正極活物質と記載することがある)は、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)の単相一次粒子および該一次粒子が凝集した二次粒子からなり、且つX線回析における(311)面の回折ピーク半価幅(または半値全幅)が0.1〜0.3°、および走査型電子顕微鏡観察から求められる前記一次粒子の平均粒径が0.05〜0.5μmであることを特徴とする。
一方、前記平均粒径が上記範囲であっても、回折ピーク半価幅が0.3°を超えた場合には、リン酸鉄リチウム粒子の結晶性が十分でなく、正極活物質として優れた特性は得られない。また、回折ピーク半価幅が上記範囲であっても、平均粒径が0.5μmを超えた場合には、結晶性が十分であってもリン酸鉄リチウム粒子が粗大となるため、優れた特性は得られない。
なお、本発明の正極活物質の形態は、上記一次粒子が集合してなる平均粒径1〜60μmの集合体粒子(二次粒子)であってもよい。
ここで、回折ピーク半価幅は、粉末X線回折(XRD)装置を用いて、Cu−Kα線による粉末X線回折で測定し、結晶面である(311)面の結晶性を評価している。その技術的意義は、以下のとおりである。
一般に、XRD回折ピークは、結晶性と関係が深く、結晶性が高い(原子配列が規則的な)ほど、回折ピークが高く、かつ幅が狭くなる。また一方、回折ピークは、結晶子の大きさにも影響を受け、結晶子が微細になると、結晶性が悪い状態と同様に、回折ピークが低く、かつ幅が広くなる。さらに、粗大粒子では、多結晶となることが多いが、本発明に係る微細な一次粒子では、単結晶に近い状態となり、結晶子の大きさにより、一次粒子の大きさを評価できる。本発明では、LiFePO4で大きな回折ピークが現れる(311)面の回折ピークにより、結晶性と結晶子の大きさを評価している。その結果、回折ピーク半価幅と一次粒子平均径が上記範囲となることにより、微細かつ結晶性に優れた一次粒子が得られることになる。
本発明の正極活物質を構成するリン酸鉄リチウム粒子は、導電性が低いため、上記範囲の導電性炭素質材料で被覆されることにより、該粒子間で十分な導電性が確保され、正極活物質として、優れた特性が得られる。導電性炭素質材料の被覆量が3質量%未満では、十分な導電性が確保されず、一方、導電性炭素質材料の被覆量が10質量%、好ましくは8質量%を超えると、正極活物質の体積当たりのリン酸鉄リチウム粒子量が減少するため、電池の体積当たりの電池容量が減少して、不利である。
上記導電性炭素質材料(または炭素材料)としては、例えば、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び土状黒鉛等の天然黒鉛及び人工黒鉛等の黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いることができる。この中、ケッチェンブラックが微粒なものを工業的に容易に入手できるため、特に好ましい。
また、上記導電性炭素質材料からなる被覆層は、例えば、上記導電性炭素質材料の他、ショ糖等の炭素を含む有機材料をその原料化合物(前駆体)と混合し、焼成して上記正極活物質を得る際に、有機材料を燃焼させて導電性を有するカーボンを生じさせると共に、該カーボンを正極活物質の粒子に被覆させることにより形成することもできる。
また、上記正極活物質は、公知の他のリチウムコバルト系複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物またはリチウムマンガン系複合酸化物などのリチウム金属複合酸化物と併用して用いることにより、従来のリチウム二次電池の安全性を、更に向上させることができる。この場合、併用する上記他のリチウム金属複合酸化物は、特に制限されるものではなく、一般的なものを用いることができる。
本発明のリチウム二次電池用正極活物質前駆体(以下、単に本発明の前駆体と記載することがある)は、上記正極活物質の原料として用いられるものであって、2価の鉄塩とリン酸を含有する混合水溶液(a)と、水酸化リチウムを含有するリチウム水溶液(b)とを混合して、リチウム鉄リン酸組成物を晶析させることによって得られ、且つX線回析において、該リチウム鉄リン酸組成物に由来する回折ピークが未検出の状態であることを特徴とする。
すなわち、前記前駆体は、非晶質の状態にあり、反応性に優れ、低温での焼成により、容易に結晶化して、上記微細なリン酸鉄リチウム粒子が生成する。ここで、上記回折ピークが未検出の状態とは、ピークがブロードな状態となり、回折角が特定されない状態、すなわち、X線回析装置で機械的に検出されない状態にあることを意味する。一方、上記回折ピークが検出されるような結晶性の高い前駆体は、リン酸鉄リチウム粒子を生成させるためには、反応性が低く、高温での焼成が必要となり、該粒子も粗大化する。
したがって、上記前駆体は、例えば、リン酸鉄とリン酸リチウムを混合した前駆体とは異なり、上記正極活物質の目標組成を有し、成分の均一性および反応性に優れるため、上記混合による前駆体の焼成温度よりも、低い熱処理温度でオリビン構造を得ることができ、リン酸鉄リチウム粒子の粗大化、焼結を抑制できる。
本発明の前駆体の製造方法は、2価の鉄塩とリン酸を含有する混合水溶液(a)と、水酸化リチウムを含有するリチウム水溶液(b)とを混合して、反応水溶液(c)を形成し、該リチウム水溶液(b)により、混合後の該反応水溶液(c)をpH8〜9の範囲となるように、制御して反応させることにより、リチウム鉄リン酸組成物を晶析させる晶析工程、および該リチウム鉄リン酸組成物を水洗後、非酸化性雰囲気中で乾燥させる乾燥工程からなることを特徴とする。
以下、工程毎に説明する。
本発明の前駆体は、微細構造を有するとともに低結晶性であるため、中和晶析法を用いることが最適であり、その晶析条件を制御することにより、得られる。
晶析工程においては、2価の鉄塩とリン酸を含有する混合水溶液(a)と、水酸化リチウムを含有するリチウム水溶液(b)とを混合することにより、上記正極活物質の目標組成を有し、均一に成分が混合された反応水溶液(c)を形成することができる。
ここで、先ず、2価の鉄塩とリン酸を含有する混合水溶液(a)を調製するが、2価の鉄塩もしくはリン酸と、上記リチウム水溶液(b)とを先に混合すると、反応生成物が生じるため、その後に未混合の2価の鉄塩もしくはリン酸と混合しても、成分的に均一に混合された前駆体が得られない。
ここで、該混合水溶液の濃度は、2価の鉄塩とリン酸を溶解できる濃度であれば、特に制限はないが、2価の鉄塩の濃度で0.1モル/L以上とすることが好ましく、0.5〜1.0モル/Lとすることがより好ましい。
一方、上記リチウム水溶液(b)は、上記混合後の反応水溶液(c)の成分がLiFePO4の組成となるように、リチウム含有量を調整するが、2価の鉄塩中の鉄原子に対するモル比で、好ましくは0.8〜1.2、より好ましくは0.95〜1.1とすることが望ましい。
前記混合水溶液(a)は、鉄およびリン酸を含有する酸性溶液であり、リチウムを含有する前記リチウム水溶液(b)と混合して、上記反応水溶液(c)を形成することで、中和され、晶析反応により、上記前駆体が生成する。
上記晶析時は、水酸化リチウム又はリチウム水溶液(b)の添加により、反応水溶液(c)をpH8〜9の範囲に制御する。pH8未満の酸性または中性領域で反応させると、リチウムが沈澱し難く、一方、pH9を超える高アルカリ領域では、Feが水酸化物化してしまい、均一に混合されたリチウム鉄リン酸組成物が得られない。pH8〜9の範囲で、反応水溶液(c)を反応させることにより、リチウムとFeがリン酸塩として晶出し、目的組成であるLiFePO4組成のリチウム鉄リン酸組成物を得ることができる。
また、上記ダブルジェット法においても、一定のpHに制御された反応水溶液中で、上記両水溶液が接触することにより、同様の反応が起こると考えられる。ダブルジェット法は、混合中のpHを常に上記pHの範囲に制御することが可能であり、Fe3(PO4)2やLi3PO4等の異相の晶析のおそれがなく、均一に混合されたリチウム鉄リン酸組成物が得られるため、好ましい。上記混合中のpHを常に上記pHの範囲に制御するためには、予め混合前の水溶液のpHを8〜9に制御しておくことが好ましく、pH制御は、水酸化リチウムの添加によって行うことが好ましい。
また、上記晶析時の雰囲気としては、大気雰囲気でも可能であるが、鉄の酸化が起こりやすく、酸化鉄(FeO)等の異相が晶析することがある。このため、非酸化性雰囲気とすることが好ましく、窒素などの不活性ガス雰囲気中で、反応を行うことがより好ましい。
上記晶析工程に用いられる装置としては、反応を均一に生じさせるため、撹拌装置付の反応槽が好ましく、晶析時の雰囲気制御を可能とするため、密閉構造を有するものとすることがより好ましい。
晶析反応終了後、ろ過、遠心分離などにより、固液分離して、リチウム鉄リン酸組成物を回収する。
乾燥工程では、不純物を除去するため、上記晶析工程で得られたリチウム鉄リン酸組成物を十分に水洗した後、乾燥させる。特に、晶析工程において、pH調整のため、水酸化ナトリウムを用いた場合には、ナトリウム含有量が0.5質量%以下となるまで、水で十分に洗浄することが好ましい。
ここで、上記リチウム鉄リン酸組成物は、微細でかつ非晶質的な構造を持っているため、水洗により、ナトリウムが容易に除去可能である。
このため、洗浄後の乾燥は、非酸化性雰囲気中で行う。非酸化性雰囲気中であれば、特に限定されるものではないが、不活性雰囲気中または真空雰囲気中で行うこと好ましい。
また、乾燥温度は、酸化が抑制可能な範囲であればよく、250℃以下とすることが好ましく、100℃以下とすることがより好ましい。一方、35℃未満では、乾燥に時間がかかるため、好ましくない。
また、乾燥工程で用いる装置は、静置式または流動床式等の撹拌式のいずれの乾燥装置でも可能であるが、鉄の酸化を抑制するため、雰囲気制御可能な乾燥装置とすることが好ましい。
本発明の正極活物質の製造方法は、上記前駆体を、導電性炭素質材料生成物と混合して、混合物とした後、不活性または還元雰囲気中において、350〜700℃で加熱して、熱処理するものである。
このため、上記熱処理前に、上記前駆体を、導電性炭素質材料生成物(導電性炭素質材料を生成する物質を意味する。)と混合する。用いる導電性炭素質材料(または炭素材料)生成物としては、前記したように、例えば、天然黒鉛、人工黒鉛等の黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維、ショ糖、アスコルビン酸その他、分解によって炭素質を生じる有機化合物等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いることができる。この中で、アセチレンブラック、ショ糖は、導電性炭素材料による被覆を容易に形成でき、工業的に入手も容易であるため、特に好ましい。
また、導電性炭素材料に含まれる炭素原子の量は、熱処理により、導電性炭素材料生成物より減少する傾向がある。このため、導電性炭素材料生成物の配合量は、熱処理後に含有される炭素量に対して、質量比で40〜100%多くすることが好ましく、50〜100%多くすることがより好ましい。
上記粉砕は、容器中に上記前駆体または混合物とボール、ビーズ等の粉砕媒体を入れ、該媒体同士を衝突させることで、主として該媒体の剪断・摩擦作用によって行うことが好ましい。粉砕媒体を用いた混合により、混合と粉砕を同時に行うことができる。
用いることができる粉砕機としては、転動ボールミル、振動ミル、遊星ミル、媒体攪拌ミルなどせん断力を有する粉砕機が好ましい。このような装置としては、市販されているものを利用することができる。
また、前記粉砕媒体は、空間容積50〜90%で容器内に粉砕媒体を収納し、流動媒体による剪断力と摩擦力を適切に管理するため、粉砕機の運転条件を適宜調整して、粉砕処理することが好ましい。
本発明の正極活物質の製造方法において、この熱処理温度を上記範囲とすることにより、得られる正極活物質を用いたリチウム二次電池は、放電容量及び充電サイクル特性を向上させることができる。熱処理温度が350℃未満では、結晶構造が十分に発達せず、一方、700℃を超えると、焼結が進行して、粒子成長が起こり、粗大粒子となる。
なお、鉄の酸化を抑制するため、上記冷却は、上記不活性ガス雰囲気または還元雰囲気中で行うことが好ましい。
ICP発光分析装置(VARIAN社、725ES)を用いて、ICP発光分析法により分析した。
(2)X線回折:
粉末X線回折装置(PANALYTICAL社製、X‘Pert PRO MRD)を用いて、Cu−Kα線による粉末X線回折で測定した。
(3)平均粒径:
電子顕微鏡観察により、50個の一次粒子の粒径を測定して個数で平均することにより求めた。
(4)炭素(C)含有量:
炭素分析計(LECO社製)を用いて測定した。
[実施例1]
硫酸第一鉄7水和物(FeSO4・7H2O)278g(1モル)と80質量%リン酸(H3PO4)115g(1モル)を水1Lに溶解させ、混合水溶液(a)を作製した。一方、水酸化リチウム24g(1モル)を水1Lに溶解してリチウム水溶液(b)を作製した。
窒素雰囲気中に設置した反応槽内に純水を入れ、水酸化リチウムを添加して、pH8.5になるように調整した後、上記混合水溶液(a)を20ml/分の速度で滴下しながら、pH8.5を保持するように、上記リチウム水溶液(b)を添加することにより、反応水溶液(c)中で反応させてリチウム鉄リン酸組成物の晶出物を得た。
次に、ろ過して上記リチウム鉄リン酸組成物を回収し、これを純水2Lで入念に洗浄した。さらに、洗浄後の上記リチウム鉄リン酸組成物を、真空中60℃で12時間乾燥し、前駆体155gを得た(収率98%)。
得られた前駆体のLi、Fe、Pのモル比は、1.0:1.0:1.0であった。また、得られた前駆体をX線回折で分析したところ、ブロードなピークが認められたが、ピークが示す物質の特定は困難であった。
実施例1と同様に、混合水溶液(a)とリチウム水溶液(b)を作製した。
次に、リチウム水溶液(b)に混合水溶液(a)を20ml/分の速度で滴下して、反応水溶液(c)を形成し、pHが8になった時点で、1mol%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、反応水溶液(c)のpHが8.1になるように維持しながら、混合水溶液(a)の添加を終了し、リチウム鉄リン酸組成物の晶析物を得た。
次に、ろ過して上記リチウム鉄リン酸組成物を回収し、これを純水2Lで入念に洗浄した。さらに、洗浄後の上記リチウム鉄リン酸組成物を、真空中60℃で12時間乾燥し、前駆体153gを得た(収率98%)。
得られた前駆体のLi、Fe、Pのモル比は、0.98:1.0:1.0であった。また、得られた乾燥品をX線回折で分析したところ、ブロードなピークが認められたが、ピークが示す物質の特定は困難であった。なお、前記前駆体のナトリウム含有量を原子吸光法で測定したところ、0.1質量%以下であることが確認された。
晶析時の反応水溶液(c)のpHを11.6に制御した以外は、実施例1と同様にして、前駆体を得た。
得られた晶析物をX線回折で分析したところ、Feの酸化物に由来するピークが検出された。
水酸化ナトリウム水溶液を滴下せず、晶析時の反応水溶液(c)のpHを6.5に制御した以外は、実施例2と同様にして、前駆体124gを得た(収率88%)。
得られた前駆体の分析を行ったところ、Liは、検出下限(<0.1質量%)以下で含有されておらず、また、FeとPのモル比が59.8:40.2と、約3:2となった。X線回折から、前駆体は、Fe3(PO4)2・n(H2O)であることが確認された。
また、これについては、従来法に従って、Li3PO4との混合による正極活物質の合成を試みた(比較例5、6)。
[実施例3]
実施例1で得られた前駆体300gと平均粒径0.05μmのケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製、商品名ECP)30gおよびジルコニアボール(粒径5mm)200gを2Lポリ容器へ入れ、シェーカーミキサーで振動させることにより、混合と粉砕を同時に行うことで、混合物を得た。
次に、得られた混合物を、窒素−2容量%水素雰囲気中500℃で5時間熱処理し、該雰囲気中で冷却することにより、ケッチェンブラックで被覆されたLiFePO4からなる正極活物質を得るとともに評価した。粉砕、分級は行わなかった。
得られた正極活物質の主物性を表1に示す。
実施例1で得た前駆体500gと100gのショ糖およびジルコニアボール(粒径5mm)200gを混合した以外は、実施例3と同様にして、炭素で被覆されたLiFePO4からなる正極活物質を得るとともに評価した。粉砕、分級は行わなかった。
得られた正極活物質の主物性を表1に示す。
実施例1で得た前駆体500gと100gのショ糖をおよびジルコニアボール(粒径5mm)200gを混合したこと、並びに熱処理温度を800℃としたこと以外は、実施例3と同様にして、炭素で被覆されたLiFePO4からなる正極活物質を得るとともに評価した。粉砕、分級は行わなかった。
得られた正極活物質の主物性を表1に示す。
実施例1で得た前駆体500gと100gのショ糖およびジルコニアボール(粒径5mm)200gを混合したこと、熱処理温度を325℃としたこと以外は、実施例3と同様にして、炭素で被覆されたLiFePO4からなる正極活物質を得るとともに評価した。
X線回折より、LiFePO4以外に、Fe3(PO4)2およびLi3PO4が検出され、目的合成物であるLiFePO4の単相が得られなかった。粉砕、分級は行わなかった。
得られた正極活物質の主物性を表1に示す。
比較例2で得られたFe3(PO4)2を180gとLi3PO4(高純度化学製)58gおよびジルコニアボール(粒径5mm)50gを、500ccポリ容器へ入れて混合したこと、熱処理温度を700℃としたこと以外は、実施例3と同様にして、LiFePO4からなる正極活物質を得た。
比較例2で得られたFe3(PO4)2を180gとLi3PO4(高純度化学製)58g、ケッチェンブラック24gおよびジルコニアボール(粒径5mm)50gを、500ccポリ容器に入れて混合した以外は、実施例3と同様にして、ケッチェンブラックで被覆されたLiFePO4からなる正極活物質を得るとともに評価した。
X線回折より、ケッチェンブラックを加えた場合では、原料であるFe3(PO4)2およびLi3PO4が検出され、目的合成物であるLiFePO4の単相が得られなかった。
これは、従来の製造方法で炭素導電材料を加えると、熱処理時の原料の反応を阻害してしまうと、考えられる。
上記のように調製した実施例3〜4および比較例3〜6で得られた正極活物質を真空乾燥し、重量比で、この正極活物質50質量%、黒鉛粉末33質量%、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)17質量%を混合して、正極剤とし、プレスして正極膜(正極板)を作製した。
この正極板を用いて、グローブボックス内でコイン型セル2032を作製した。
この際、負極は、金属リチウム箔を用い、また、電解液には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの容積比1:1の等量混合液1リットルにLiClO41モルを溶解したものを使用した。
作製したリチウム二次電池を室温において、充電0.2mA/cm2、休止60分、4.5V、放電0.2mA/cm2、1.5Vで作動させ、初期放電容量および10サイクル後の放電容量を測定した。
得られた電池評価結果を表2にまとめて示す。
一方、高温熱処理により、正極活物質粒子が粗大化した比較例3では、導電性が低いため、放電容量が低い。
また、熱処理温度の低い比較例4では、容量が著しく低くなっており、良好な結晶構造が得られていないと、考えられる。
また、Fe2(PO4)3とLi2PO4を用いて、従来法で得られた炭素系材料を添加しない比較例5の電池容量は、低い。
また、比較例5において、さらに、混合時にケッチェンブラックを添加した比較例6では、オリビン単相構造になっておらず、電池容量は、低くなっている。
また、本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、有毒物質を用いずに容易に高収率で上記正極活物質が得られるものであり、その工業的価値は、極めて大きい。
Claims (9)
- オリビン型リン酸鉄リチウムの単相一次粒子および該一次粒子が凝集した二次粒子からなり、且つX線回析における(311)面の回折ピーク半価幅が0.1〜0.3°および走査型電子顕微鏡観察から求められる該一次粒子の平均粒径が0.05〜0.5μmであることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
- 前記一次粒子の表面は、リチウム二次電池用正極活物質全量に対して、含有される炭素量が3〜10質量%の導電性炭素質材料により、被覆されていることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
- 請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質の原料として用いられる前駆体であって、
2価の鉄塩とリン酸を含有する混合水溶液(a)と、水酸化リチウムを含有するリチウム水溶液(b)とを混合して、リチウム鉄リン酸組成物を晶析させることによって得られ、且つX線回析において、該リチウム鉄リン酸組成物に由来する回折ピークが未検出の状態であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質前駆体。 - ナトリウム含有量が0.5質量%以下であることを特徴とする請求項3に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体。
- 2価の鉄塩とリン酸を含有する混合水溶液(a)と、水酸化リチウムを含有するリチウム水溶液(b)とを混合して、反応水溶液(c)を形成し、該リチウム水溶液(b)により混合後の該反応水溶液(c)をpH8〜9の範囲となるように制御して、反応させることにより、リチウム鉄リン酸組成物を晶析させる晶析工程、及び該リチウム鉄リン酸組成物を水洗後、非酸化性雰囲気中で乾燥させる乾燥工程からなることを特徴とする請求項3又は4に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
- 前記pH制御のために、さらにアルカリ金属水酸化物を、前記反応水溶液(c)に添加することを特徴とする請求項5に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
- 前記2価の鉄塩が硫酸第一鉄水和物(FeSO4・7H2O)であることを特徴とする請求項5又は6に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
- 請求項3又は4に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体を、導電性炭素質材料生成物と混合して混合物とした後、不活性または還元雰囲気中において350〜700℃で加熱して熱処理することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
- 前記熱処理前に、前記前駆体を乾式または湿式粉砕することを特徴とする請求項8に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
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