JP2012149308A - 耐食性に優れたステンレスクラッド鋼 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐食性に優れたステンレスクラッド鋼を提供する。
【解決手段】ステンレスクラッド鋼の表面に形成される不動態皮膜部におけるCr/Fe濃度(at%)と母相であるステンレス鋼のCr/Fe濃度(at%)の比が1.2以上である。かつ、前記ステンレスクラッド鋼表面の、JIS Z 8741「鏡面光沢度−測定方法」に準拠して測定角度60°で測定される圧延方向(L)、垂直方向(C)および圧延45度方向(D)の各々の光沢度(Gs(60))がいずれも50以上であり、さらに、下記式(1)で算出される平均光沢度指標が60以上である。
平均Gs(60)=(Gs(60)L +2×Gs(60)D + Gs(60)C)/4 --- (1)
なお、平均Gs(60):平均光沢度指標、Gs(60)L:圧延方向(L)の光沢度、Gs(60)C:垂直方向(C)の光沢度、Gs(60)D:圧延45度方向(D)の光沢度を示す。
【選択図】なし

Description

本発明は、海洋構造物、熱交換器、ケミカルタンカー、化学プラント、圧力容器に代表される各種用途で使用される耐食性に優れたステンレスクラッド鋼に関するものである。
近年、高効率化の観点からプラント操業が高温・高圧化する傾向にあり、化学プラントの設計においては強度を確保するため、より板厚が厚い鋼板を使用する割合が増加する傾向にある。さらに、産業設備と構造物のニーズとしては耐久性と長寿命化およびメンテナンスフリーが指向されており、ステンレス鋼はこれらニーズに適合した材料として注目を集めている。一方で、ステンレス鋼の主原料であるNiやMo、Crに代表される合金元素は、価格の高騰や価格の上下動がある。そのため、ステンレス鋼に代わり、ステンレス鋼の優れた防錆性能をより経済的に利用でき、価格が安定しかつ安価な鋼材としてステンレスクラッド鋼が、最近、注目されている。
ステンレスクラッド鋼とは合わせ材にステンレス鋼、母材に普通鋼材と、二種類の性質の異なる金属を張り合わせた鋼材である。クラッド鋼は、異種金属を金属学的に接合させたもので、めっきとは異なり剥離する心配がなく単一金属および合金では達し得ない新たな特性を持たせることができる。
ステンレスクラッド鋼は、使用環境毎の目的に合った防錆能を確保するため、使用環境毎に合わせ材であるステンレス鋼の種類を選択し、無垢材(全厚ステンレス鋼)と同等の防錆能を確保している。
このように、ステンレスクラッド鋼は、ステンレス鋼材の使用量が少なくてすみ、かつ、無垢材(全厚ステンレス鋼)と同等の防錆能を確保できるため、経済性と機能性が両立できる利点を有する。
以上から、ステンレスクラッド鋼は非常に有益な機能性鋼材であると考えられており、近年そのニーズが各種産業分野で益々高まっている。
ステンレスクラッド鋼は耐食性を必要とする用途に使用される場合が多いため、いかに表面を高機能化するかが重要な技術課題となる。これに対して、従来の技術では、用途(例えば海洋構造物、熱交換器、化学プラント、ケミカルタンカー、圧力容器等)毎に求められるステンレスクラッド鋼の耐食性を確保するため、合わせ材として使用するステンレス鋼を選択することで要求にあった耐食性を確保する手法が一般的であった。しかし、ステンレスクラッド鋼の場合、接合界面の健全性と信頼性向上や母材と合わせ材の性能を同時に維持することを高級鋼材や多様な品種すべてに対応することは難しい。
このように同一成分系で表面の性状を適切に制御することで要求にあった耐食性(機能性)を向上させる技術が十分研究されているとはいいがたい。
従来の、ステンレスクラッド鋼の特性(耐食性)を改善する技術としては、例えば、特許文献1〜4などがあげられる。
特許文献1では、耐海水性に優れたステンレス鋼を合わせ材とし炭素鋼を母材としたステンレスクラッド鋼管の製造方法において、シーム溶接部の耐食性劣化を回復するために固溶化熱処理条件と母材炭素鋼の成分を適性成分範囲に規定する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1は、耐食性を低下させる第二相の析出を抑止する手法が示されているのであって、ステンレス鋼表面の性状には言及していない。すなわち、表面の性状、例えば不動態皮膜中のCr濃縮割合や方面の光沢度などを言及していないため、汎用素材に比べ飛躍的な耐食性(耐錆性)の改善は期待できない。
特許文献2は、深絞りや張り出し或いは曲げ等の加工に供される素材として好適な薄板ステンレスクラッド鋼を提供することを目的とし、合わせ材がオーステナイト系ステンレス鋼、母材が低炭素鋼からなる薄板ステンレスクラッド鋼を開示している。母材の低炭素鋼がC:0.015〜0.06重量%、N:0.010重量%以下、Ti:0.10〜0.40重量%、B:0.0005〜0.0050重量%を含有し、且つ、(Ti−3.4N)/4C≧0.6、Ti×C=2.8×(1/103 )〜13.5×(1/103 )(但し Ti:Ti含有量(重量%)、N :N含有量(重量%)、C :C含有量(重量%))を満足する成分組成を有することで、強加工に供するために高温焼鈍を行った場合でも母材結晶粒の粗大化を生じることがなく、オレンジピール等の肌荒れがなく、優れた表面性状を有するとされている。しかし、特許文献2は加工時鋼板表面の凹凸形状を低減する技術が開示されてはいるが、耐食性を改善する技術が開示されているわけではない。
特許文献3には、サワーガス環境で使用されるラインパイプ、ケミカルタンカーのタンク、排煙脱硫装置用吸収容器等のように高い耐食性が要求される分野で使用されるオーステナイト系ステンレスクラッド鋼およびその製造方法が開示されている。課題を解決する手段としてステンレス鋼の成分および熱処理条件を規定している。しかし、特許文献3では、基本的に成分で耐食性を確保しているため、合金元素の添加量を増大することなしに特性を改善することが難しい。
特許文献4には、耐食性および加工性に優れた複合金属板からなるスーパーステンレス/ステンレスクラッド鋼が開示されている。ステンレス鋼の両面もしくは片面に、Ni、Cr、Mo、Nを含有し、(Cr+2×Mo+9×N)≧27%(wt%)、16≦Ni≦30%、18≦Cr≦30%、7<Mo≦8%、0.10≦Nの条件を満足する組成を有するスーパーステンレス鋼をクラッドし、そのスーパーステンレス鋼とステンレス鋼との界面が金属学的に接合してなる。しかし、特許文献4においても合金元素の規定により耐食性を高めているため、合金元素の添加量を増大することなしに特性を改善することが難しい。
以上のように、ステンレスクラッド鋼に関して、耐食性改善に関する技術の開示は見られるものの、熱処理方法や合金元素の影響に関する技術が主であり、最終製品の表面特性を制御することで耐食性を改善する技術については、十分開示されていない。
特許第4179133号公報 特許第3409660号公報 特許第3514889号公報 特許第3401538号公報
本発明は、かかる事情に鑑み、耐食性、特に耐錆性向上や美観低下をもたらす表面の変色、流れ錆を改善することが可能なステンレスクラッド鋼を提供することを目的とする。
本発明は、課題を解決するために、同一成分(鋼組成)および同一履歴で圧延から熱処理まで完了した複数のステレスクラッド鋼に対して種々の鏡面仕上げ処理を施し、表面性状の詳細な検討を行った。
そして、表面光沢やその異方性、ステンレス鋼の耐食性(耐孔食性)を左右する不動態皮膜の強さCr/Fe比などに着目して検討を行ったところ、不動態皮膜部におけるCr濃度(at%)/Fe濃度(at%)と母相であるステンレス鋼のCr濃度(at%)/Fe濃度(at%)の比を1.2以上、かつ、前記ステンレスクラッド鋼表面のJIS Z 8741「鏡面光沢度−測定方法」に準拠して測定角度60°で測定される圧延方向(L)、垂直方向(C)および圧延45度方向(D)の各々の光沢度(Gs(60))をいずれも50以上、平均光沢度指標を60以上と規定することで、耐食性が著しく改善することを見い出した。
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
ステンレス鋼を合わせ材とするステンレスクラッド鋼であって、前記ステンレスクラッド鋼の表面に形成される不動態皮膜部におけるCr濃度(at%)/Fe濃度(at%)と母相であるステンレス鋼のCr濃度(at%)/Fe濃度(at%)の比が1.2以上であり、かつ、前記ステンレスクラッド鋼表面のJIS Z 8741「鏡面光沢度−測定方法」に準拠して測定角度60°で測定される圧延方向(L)、垂直方向(C)および圧延45度方向(D)の各々の光沢度がいずれも50以上であり、さらに、下記式(1)で算出される平均光沢度指標が60以上であることを特徴とする耐発錆性に優れたステンレスクラッド鋼。
平均Gs(60)=(Gs(60)L +2×Gs(60)D + Gs(60)C)/4 --- (1)
なお、平均Gs(60):平均光沢度指標、Gs(60)L:圧延方向(L)の光沢度、Gs(60)C:垂直方向(C)の光沢度、Gs(60)D:圧延45度方向(D)の光沢度を示す。
本発明によれば、耐食性、特に耐錆性向上や美観低下をもたらす表面の変色、流れ錆を改善することが可能なステンレスクラッド鋼が得られる。
海洋構造物、熱交換器、ケミカルタンカー、化学プラント、圧力容器に代表される各種用途で、耐錆性、特に流れ錆の抑止による美観に優れたステンレスクラッド鋼として、好適に用いられる。
不動態皮膜とステンレス母相のCr濃度(at%)、Fe濃度(at%)の測定例を示す図である。 表面光沢度の測定条件を示す図である。
本発明のステンレスクラッド鋼は、ステンレス鋼を合わせ材とするステンレスクラッド鋼であって、ステンレスクラッド鋼の表面に形成される不動態皮膜部におけるCr濃度(at%)/Fe濃度(at%)と母相であるステンレス鋼のCr濃度(at%)/Fe濃度(at%)の比が1.2以上であり、かつ、ステンレスクラッド鋼のステンレス鋼表面の、JIS Z 8741「鏡面光沢度−測定方法」に準拠して測定角度60°で測定される圧延方向(L)、垂直方向(C)および圧延45度方向(D)の各々の光沢度(Gs(60))がいずれも50以上であり、さらに、下記式(1)で算出される平均光沢度指標が60以上である。
平均Gs(60)=(Gs(60)L +2×Gs(60)D + Gs(60)C)/4 --- (1)
なお、平均Gs(60):平均光沢度指標、Gs(60)L:圧延方向(L)の光沢度、Gs(60)C:垂直方向(C)の光沢度、Gs(60)D:圧延45度方向(D)の光沢度を示す。
そして、上記のように表面性状を制御することにより、耐食性、特に耐錆性向上や美観低下をもたらす表面の変色、流れ錆を改善することが可能なステンレスクラッド鋼が得られることになる。なお、本発明のステンレスクラッド鋼としては、熱延鋼板、熱延処理後に焼きならし熱処理を施した鋼板、いずれも含まれ、同様な効果が得られる。
また、機械的な研磨に加え化学的な処理を組み合わせることで表面性状を制御し表面の特性を所定の範囲にすることができる。すなわち、表面制御手法としては、通常のベルト研磨、グラインダー研磨、砥石研磨、電解研磨、酸洗処理などが挙げられ、これらの既存の各種表面研磨手法を組み合わせて行うことができる。これらを組み合わせることで表面の粗さとその異方性を低く抑え、それに加えて不動態皮膜を強化することで目的の特性が得られる。表面の不動態皮膜を強化する方法としては、硝酸やふっ硝酸、硫酸中における酸洗処理または電解研磨による手法があげられ、これらの方法に中性塩溶液における中性塩電解処理(例えば、ルスナー法:20質量%硫酸ナトリウム溶液や硝酸ナトリウム)を組み合わせることも可能である。
次に、ステンレスクラッド鋼の表面に形成される不動態皮膜部におけるCr濃度(at%)/Fe濃度(at%)と母相であるステンレス鋼のCr濃度(at%)/Fe濃度(at%)の比が1.2以上について、説明する。
不動態皮膜部におけるCr濃度(at%)/Fe濃度(at%)は、不動態皮膜の耐食性改善に非常に重要な要因となる。基本的には、不動態皮膜部におけるCr濃度(at%)/Fe濃度(at%)と母相であるステンレス鋼のCr濃度(at%)/Fe濃度(at%)の比(以下、Cr/Fe濃度比と略す)が高いほど表層に耐食性に優れた安定な不動態皮膜が形成されていることになり、耐食性の観点からCr/Fe濃度比は高いほうが良い。検討したところ、大気暴露試験や促進腐食試験によって耐食性の向上効果が明瞭に現れるにはCr/Fe濃度比が1.2以上であることがわかった。この知見を基に、Cr/Fe濃度比は1.2以上とする。好ましくは1.5以上である。
一方で、Cr/Fe濃度比を大きく上げようとすると酸浸漬や酸洗、電解処理が必要となる。ステンレスクラッド鋼は普通鋼とステンレス鋼の合わせ鋼板であるため、所定の溶液中に浸漬し処理する場合に普通鋼が溶解しないように配慮する必要があり、無垢材(ステンレス鋼)以上に表層のCr濃縮割合を改善するには負荷がかかる。このように、過度なCr/Fe濃度比向上には設備的な負荷がかかるため、上限は100以下が好ましい。
なお、メカニカルな研磨のみではCr/Fe濃度比向上は期待できないので、何らかの化学的な表面制御手法と組み合わせることが重要となる。
また、本発明において、Cr/Fe濃度比は、例えば、深さ方向に鋼表面をスパッタしながら元素の濃度プロファイル(at%)を測定し、各元素(Fe、Crなど)濃度プロファイルからFeとCrの原子比を求め、Cr/Fe濃度比を求めることができる。この場合、図1に示すように、Cr、Feの(at%)値がほぼ一定値になった領域を母相と仮定し、それよりスパッタ時間の短い領域を不動態皮膜部と定義する。不動態皮膜部では最もCr/Feが高い値を示した部位での値を不動態皮膜部におけるCr濃度(at%)/Fe濃度(at%)とする。
次に、JIS Z 8741「鏡面光沢度−測定方法」に準拠して測定される圧延方向(L)、垂直方向(C)および圧延45度方向(D)の各々の光沢度(Gs(60))がいずれも50以上であり、
さらに、下記式(1)で算出される平均光沢度指標が60以上について説明する。
平均Gs(60)=(Gs(60)L +2×Gs(60)D + Gs(60)C)/4 --- (1)
なお、平均Gs(60):平均光沢度指標、Gs(60)L:圧延方向(L)の光沢度、Gs(60)C:垂直方向(C)の光沢度、Gs(60)D:圧延45度方向(D)の光沢度を示す。
表面の光沢度は、表面の微細な凹凸を示す指標と考えられ、表面光沢で評価されるような微細な表面粗さはステンレスクラッド鋼の美観の指標のみならず耐食性、流れ錆の形態に大きく左右する。そこで、上記のように、金属光沢が、表面粗さ、すなわち、表面のミクロな凹凸の特性をより反映していると考え、表面の光沢に注目した。光沢が高くしかも異方性の少ない表面材は、汚れがつきにくく隙間腐食の発生を抑止するとともに異方性が少ないため錆の形態が流れ錆よりむしろ点状錆となりやすい。また、一度錆が生じても雨水で洗い流される可能性が高い。さらに、微細な凹凸が少なく表面が滑らかであるため、メンテナンスが容易であるとの利点を有する。
このように、表面の微細な凹凸は、ステンレスクラッド鋼の耐食性に大きな影響を及ぼすものと考えられる。例えば海水中で使用した場合、凹凸が大きいほど、海水や海洋微生物、海洋中の汚染物質が表面に付着しやすくなる。その結果、それらに起因してミクロな隙間を形成(隙間腐食)しやすくなる。
さらに、光沢に異方性がある場合、特定な方向に溶液成分が残存しやすくなり、特に気液界面においては変色や発錆を誘発する。また色調も異なるため、クラッド鋼を使用する時に板の採取方向などを気にして適用しなくてはいけないという実使用上の制約がある。
そこで、上記に基づき表面光沢と耐食性の関係を鋭意研究したところ、JIS Z 8741「鏡面光沢度−測定方法」に準拠して測定した圧延方向(L)と垂直方向(C)と圧延45度方向(D)における光沢度(Gs(60))がいずれも50以上、さらに上記式(1)で算出される平均の光沢度指標(Gs(60))が60以上であれば耐食性が向上することがわかった。
光沢度(Gs(60))は高いほうが好ましいが、光沢度を上げるためのステンレス鋼の研磨には非常に負荷がかかるため、製造負荷を考慮して、圧延方向(L)と垂直方向(C)の圧延45度方向(D)の各々の光沢度上限値は好ましくは95以下、さらに好ましくは98以下である。平均光沢度指標は好ましくは70以上98未満である。
なお、本発明において、各光沢度および平均光沢度指標は、表面光沢はJIS Z 8741「鏡面光沢度−測定方法」に準拠して多角度光沢計を用いて、図2に示すような条件にて測定することができる。
また、本発明のステンレスクラッド鋼の母材としては、炭素鋼や低合金鋼を用いることができる。そして、本発明のステンレスクラッド鋼は、この母材の片面または両面に合わせ材としてステンレス鋼がクラッドされたものであり、母材と合わせ材とをクラッドにする製造方法については特に限定しない。熱間圧延法、爆着圧延法、拡散接合法、鋳包み法などを用いることができる。
また、700℃〜1000℃の温度で、1分から2時間保持の焼きなまし処理を行うこともできる。
ステンレスクラッド鋼の合わせ材に使用するステンレス鋼に含有されるCrやMo含有量が多い場合、例えばCr含有量18質量%以上でMoを2質量%以上含有するような高合金鋼の場合、σ(シグマ)相やΧ(カイ)相、さらにM23C6、M6C(MはFe、Crが主成分)などが生成し、有効なCrが低下し鋭敏化により著しい耐食性低下を引き起こすことがある。このような場合に、本発明の表面が制御されたステンレスクラッド鋼は有効であり、脱Cr層の除去、鋭敏化部の健全化に寄与することができる。
以下に、本発明を詳細に説明する。
表1に化学組成を示す成分組成からなるオ−ステナイト系ステンレス鋼(JIS規格範囲のSUS304L、SUS316L、SUS329J3L、SUS410、SUS444)とSS400成分系の普通鋼(以下、普通鋼と略す)の溶鋼を、転炉、電気炉、真空溶解炉等の公知の方法で溶製し、連続鋳造法あるいは造塊−分塊法により鋼素材(スラブ)とした。次いで、得られた鋼素材を、通常行われる製造条件にて、熱間圧延、熱延板焼鈍(例えば箱焼鈍)、酸洗と順次処理して熱延板とし、さらに、冷延、仕上げ焼鈍(例えば連続焼鈍)し、冷延焼鈍板とした。得られた冷延焼鈍板をクラッドの合わせ材(オーステナイト系ステンレス鋼)および母材(普通鋼)として、表2に示す製造条件でステンレスクラッド鋼を製造した。
すなわち、表1に示す合わせ材(オーステナイト系ステンレス鋼、板厚20mm)と母材(普通鋼、板厚73mm)を、幅1890mm、長さ2060mmに組み立てスラブ寸法とし、スラブ加熱温度(℃):1150℃〜1250℃、圧延終了温度(℃):1000±50℃、水冷開始温度(℃):950±50℃、水冷終了温度(℃):650±50℃、冷却速度(℃/s):0.2〜7.0℃/sの条件で、ステンレスクラッド鋼(合わせ材:板厚3mm、母材:板厚11mm、幅2500mm、長さ8000mm)を製造した。さらに、ステンレスクラッド鋼の一部に対して、表3に示すように、950±20℃で、10分または2時間の焼ならし熱処理を行った。
上記により得られたステンレスクラッド鋼に対して、ステンレス鋼の表面を表4に示す光沢度になるようにベルト研磨を行なった。具体的には、長手方向に対し多パスのベルト研磨を行なった後、長手垂直方向に対し多パスのベルト研磨を行なった。長手方向研摩の際には、JIS R6256:2006で規定するところの研磨ベルトP60〜P400であるものを用い、長手垂直方向研摩の際には、研磨ベルトP120〜P800であるものを用いた。
次に、硝酸水溶液を1L/分で所定時間ステンレスクラッド鋼のステンレス鋼の表面に噴霧し、その後水洗し、不動態化処理を行った。この際、表4に示すような不動態皮膜になるように、噴霧時間は5秒〜10分、硝酸水溶液濃度は5〜35質量%の範囲で調整しサンプルを作製した。
以上により得られた表面性状を制御したステンレスクラッド鋼に対して、Cr/Fe濃度比、光沢度、孔食電位を測定し、CCT試験を行い、耐食性を評価した。以上より得られた結果を表4に示す。
なお、Cr/Fe濃度比、光沢度、孔食電位の測定方法、CCT試験方法、耐食性評価方法は下記の通りである。
Cr/Fe濃度比
AES(装置名:PHISICAL ELECTONICS社製 PHI MODEL 660 加速電圧 : 5kV 試料電流量 :0.2μA 測定領域 :5μmx5μm)を用いて深さ方向にスパッタしながら測定した各元素(Fe、Cr)プロファイルからその原子比を求めた。なお、図1に示すように、Cr、Feの値がほぼ一定値になった領域を母相とし、それよりスパッタ時間の短い領域を不動態皮膜部と定義した。不動態皮膜部では最もCr/Feが高い値を示した部位での値をCr/Fe濃度とし、母相のCr/Fe濃度と比較した。
光沢度
表面光沢はJIS Z 8741「鏡面光沢度−測定方法」に準拠してスガ試験機株式会社製多角度光沢計 GSシリーズ GS-1Kを用い、測定角度60度で測定した。圧延方向(L)、垂直方向(C)と圧延45度方向(D)の3方向について測定し、下記式により平均光沢度指標を求め、得られた平均光沢度指標を表面光沢の異方性とした。平均Gs(60)=(Gs(60)L+2×Gs(60)D + Gs(60)C)/4 --- (1)
なお、平均Gs(60):平均光沢度指標、Gs(60)L:圧延方向(L)の光沢度、Gs(60)C:垂直方向(C)の光沢度、Gs(60)D:圧延45度方向(D)の光沢度を示す。
孔食電位
塩害環境下における耐食性の指標はJIS G 0577に準拠した孔食電位測定により行った。電流密度が100μA/cm2に到達した電位を孔食電位とし、Vc100(mV vs. SCE)で表記した。
なお、評価基準は鋼種によって異なり、表1に示す鋼1では300mV以上、鋼2では500mV以上、鋼3では900mV以上、鋼4では400mV以上、鋼5では200mV以上を、それぞれ合格とした。
CCT試験
発錆性を評価するため、100mm×70mmのサンプルに対してJASO M609-91のCCT試験を150サイクル行い、下記に従い発錆の程度をランク付けし、耐食性を評価した。なお、評価基準は鋼種によって異なり、表1に示す鋼1、2、4、5では○以上を合格とし、鋼3では◎を合格とした。
◎:発錆なし
○:発錆あり/発錆面積10%未満
△:発錆あり/発錆面積10%以上30%未満
□:発錆あり/発錆面積30%以上50%以下
×:発錆あり/発錆面積50%超
表4より、本発明例では、孔食電位が高く、CCT評価も優れており、耐食性に優れたステンレスクラッド鋼が得られていることがわかる。
一方、比較例では、孔食電位が低いか、CCT評価が劣っている。

Claims (1)

  1. ステンレス鋼を合わせ材とするステンレスクラッド鋼であって、
    前記ステンレスクラッド鋼の表面に形成される不動態皮膜部におけるCr濃度(at%)/Fe濃度(at%)と母相であるステンレス鋼のCr濃度(at%)/Fe濃度(at%)の比が1.2以上であり、
    かつ、前記ステンレスクラッド鋼表面のJIS Z 8741「鏡面光沢度−測定方法」に準拠して測定角度60°で測定される圧延方向(L)、垂直方向(C)および圧延45度方向(D)の各々の光沢度がいずれも50以上であり、さらに、下記式(1)で算出される平均光沢度指標が60以上であることを特徴とする耐発錆性に優れたステンレスクラッド鋼。
    平均Gs(60)=(Gs(60)L +2×Gs(60)D + Gs(60)C)/4 --- (1)
    なお、平均Gs(60):平均光沢度指標、Gs(60)L:圧延方向(L)の光沢度、Gs(60)C:垂直方向(C)の光沢度、Gs(60)D:圧延45度方向(D)の光沢度を示す。
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