JP3878376B2 - 耐食Ti合金 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐食Ti合金と、この耐食Ti合金を用いてなる部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
純Tiは、ステンレス鋼や銅合金に比較して一般に耐食性に優れることが知られているが、高温高濃度の非酸化性酸中では腐食を生じる。また高温高濃度の塩化物水溶液中では隙間腐食が発生しうる。これらの腐食を防止する方法として、合金化元素を添加したり、腐食環境中へ酸化剤を添加したり、或いは表面処理を施す等の方法が検討されている。中でも合金化元素の添加は最も確実な方法であり、PdやRu等の白金族元素が有効とされている。その理由は、PdやRuは水素発生過電圧が小さいため、チタンの陽分極を速やかに促進させることによるものである。すなわちチタンの表面で、
Ti+2H2O→TiO2+4H++4e-
の酸化反応が速やかに進行し、不動態酸化皮膜TiO2 が形成されることにより耐食性が改善されるのである。具体的にはTi−0.15Pd合金(ASTM Grade7,11 )等のTi合金が開発され、石油精製や石油化学プラント等の分野で使用されている。但し、上記Ti−0.15Pd合金は、高価なPdを比較的多量に添加していることから材料コストの上昇を招くという問題点を有している。更には、Ti合金中に含まれるPd量が多い場合には、酸洗時に表面にPd酸化物(通称Pdブラック)が生成し、酸洗が阻害されることから酸洗ラインに何度も通板する必要があり、製造コストも高くなる。
【0003】
そこで最近では、コスト増大につながるPdやRuの添加を最小限に抑え、それによる耐食性の劣化を補うために加工性を損なわない程度の鉄族元素を微量添加したTi合金が開発されており、例えばTi−0.05Pd−0.3 Co合金(ASTM Grade 30,31;特公平6−89423号)やTi−0.5 Ni−0.05Ru合金(ASTM Grade 13,14,15;特公昭62−20269号)等が提案されている。これらの合金は、PdやRuのような高価な白金族元素の添加量を制限してコスト高を抑えつつ、白金族元素の添加量低下により生じる耐食性劣化を、加工性を大きく損なわない範囲で耐食性向上に寄与する添加元素(Ni,Mo,Co等)を添加し補ったものである。しかしながら、上記耐食性向上元素の添加により加工性の低下は避けられず、プレート式熱交換器やソーダ電解工業における電槽部材等の様に、耐食性が要求され、しかも張出し成形等の比較的厳しい冷間加工を受ける部材に対しては、上記Ti合金の使用が困難であった。従って、耐食性と同時に冷間加工性が要求される用途には、コスト高とはなるものの、Ni,Mo,Co等の様な加工性を損なう耐食性向上元素を添加していないTi−0.15Pd合金(ASTM Grade 11 )を使用せざるを得ない状況にある。
【0004】
ところでチタンは、火力及び原子力発電所の復水器管や、尿素合成などの高温高圧化学プラントの配管及び海水淡水化装置の伝熱管等として多用されており、用途によっては使用時に水素を吸収し、水素脆化による事故を誘発する恐れがある。特公平4−57735号公報によれば、Ti−0.15Pd合金は、Pdを多量に含むため、純チタンに比べると耐水素吸収性が十分ではないことから、Pd量を0.03〜0.1%の範囲に調整したTi合金[例えば、Ti−0.05Pd合金(ASTM Gr.16,17 )]が提案されている。ところが、実際の使用においては、チタンの水素吸収は表面状態(粗度,仕上げ法)や結晶粒径および使用環境が複雑に関係するため、Pd量を0.03〜0.1%に制御したTi合金を用いたとしても水素吸収が発生することがあった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に着目してなされたものであって、現在汎用されているTi−0.15Pd合金より低コストで優れた耐食性を発揮するTi合金を提供しようとするものであり、またTi−0.15Pd合金と同等またはそれ以上の冷間加工性(プレス性)を有する耐食Ti合金と、更には耐水素吸収性に優れた耐食Ti合金を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決した本発明に係る耐食Ti合金とは、以下の通りである。
【0007】
冷間成形性に優れた耐食Ti合金を得るにあたっては、Pdを0.020〜0.050%とし、Ir及び/又はPtを0.01〜0.03%含有させ、なおかつFe含有量を0.05%以下、O含有量を0.05%以下として残部を不可避不純物およびTiとすることが望ましく、この様な冷間成形性に優れた耐食Ti合金はプレート式熱交換器用部材や電気分解槽構成部材に好適である。更に本組成範囲において、Pd量を0.030%以下にすることで、冷間成形性及び耐食性に加えて耐水素吸収性も付与できる。
【0008】
Pdを0.020〜0.030%含有させた耐水素吸収性に優れた耐食Ti合金は、熱交換器用チューブやその他の配管用チューブとして好適である。
【0009】
尚、本発明において不可避不純物としては、Fe,O,N,H,C,Ni,Crなどが挙げられ、これらの元素は原料である酸化チタンに含まれる微量成分や、スポンジチタンの製造に使われるステンレス容器に由来する元素である。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、Ti合金の成分組成を設計するにあたり、白金族元素の中でも最もTiの耐食性改善能の高いPdの添加量を低コスト化との兼ね合いから0.02〜0.05%に設定し、これにPd以外の各種白金族元素を単独または複合して添加した種々のTi合金を作製し、各Ti合金に関する耐食性及び冷間加工性の評価を繰り返した。その結果、Pd以外の白金族元素の一種以上をPdに対する質量比で1/3以上となるように含有させた場合には、Pd以外の白金族元素の合計量をPdに置き換えてPd単独で添加した場合よりも、むしろ耐食性が向上することを見出し、本発明に想到した。この効果は、現時点では明確に解明されていないが、これはPd以外の白金族元素がPdやTiと化学的に結合し、結果的にPdよりも水素過電圧の低い物質ができたことに起因するからであると考えられる。また、Pdに対する他の白金族元素の割合(質量比)が1/3以上となった場合に、耐食性が改善される理由についても、現時点では明確になっていないが、この範囲の場合に上記水素過電圧の低い物質が効率よく、より多く生成するためと推測される。尚、Pdに対する他の白金族元素の割合(質量比)は、高過ぎても成形性に悪影響を与えると共に経済性を損なう要因となるので2以下とすればよく、1以下でも十分である。
【0011】
本発明に係るTi合金において、Pdは十分な耐食性改善効果を得る上で、0.020%以上が必要である。一方、Pdの上限値は、多過ぎるとコスト高になると共に、硝ふっ酸による酸洗時にPd酸化物を表面に生成して酸洗を阻害するので、0.05%以下とすることが必要であり、また耐水素吸収性を向上させる上では0.030%以下とすることが望ましい。
【0012】
Pd以外の白金族元素としては、Ir,Pt,Ru,Re,Rh,Osがあるが、これらをTiに添加した場合、個々の元素により程度の差はあるものの、添加量が多くなるほど組織が微細化し、冷間加工性が悪くなる。したがって、耐食性を確保しつつ、良好な成形性を得る為には耐食性に有効な元素を添加することが必要であるが、その際、組織の微細化にできるだけ寄与しないような添加元素を選択することも必要である。そこで本発明者らはTi−Pd合金に複合添加する各白金族元素の結晶粒微細化能を調べた。その結果、Irの微細化能が最も小さく、次いでPtの微細化能が小さいことが判明した。結晶粒の微細化能が最も大きいのはRuであり、Re,Rh,OsはPtとRuの間であった。Re,Os,Rhは高価な元素であるので、Pdを含有するチタン合金にIrまたはPtを1種または2種含有させることで、成形性と耐食性に優れたチタン合金を得ることができる。この中でも特に好ましいのはTi−Pd合金にIrを単独で添加する場合である。なお、コスト面を度外視するならば、Ti−Pd合金にRe,Rh,Osを1種または2種以上添加することも有効である。
【0013】
尚、Ti合金中のFe及びO(酸素)は不可避不純物であり、これらの含有量が増えると組織を微細化させて強度上昇につながるため、成形性に著しく悪影響を与える。従って、FeおよびOの含有量はいずれも0.10%以下にすることが望ましく、0.05%以下にすればより望ましい。但し、成形性を考慮に入れなくてよい用途には、0.4%までであれば含有させても構わない。
【0014】
更に、本発明においては、原料のスポンジチタンに含まれる不可避不純物が含まれていても差し支えない。例えば、N,H,C,Ni,Crなどが不可避不純物として挙げることができ、成形性の要求される用途では、およその値であるが、N:0.02%以下,H:0.01%以下,C:0.02%以下,Ni:0.05%以下,Cr:0.05%以下であれば含まれていてもよい。
【0015】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の主旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲内に含まれるものである。
【0016】
【実施例】
実施例1
JIS 1種(ASTM Gr.1相当)の純チタン板(O:0.04%,Fe:0.03%)を溶解原料とし、表1に示す各金属粉末の成分割合を変化させて含有させ、真空アーク溶解炉において溶解し、鋳塊(約500g)を製造した。この後、以下の工程で評価用の板を作製した。
【0017】
調質焼鈍(1000℃、2時間加熱)→熱延(850℃加熱、約20t×40w→約5t×40w)→焼鈍(850℃,30分)→ショットブラスト→酸洗(板厚約1mm落とす)→冷延(約4t×40w→約1.2t×40w)→ソルト浸漬(520℃、3分)→酸洗(約1.2t×40w→約1.0t×40w)
全面腐食試験として、5%沸騰塩酸水溶液中で24時間の浸漬試験を実施して腐食速度を算出した。結果は表1に併記する。
【0018】
【表1】
【0019】
No.1〜9はPd以外の白金族元素をPdに対する質量比で1/3以上含有しているため、Pd以外の白金族元素をPdに対する質量比で1/3以下しか含有していないNo.11,13より腐食速度が小さく、またPdの単独添加であるNo.14,15よりも腐食速度が小さい。No.10,12はPd以外の白金族元素をPdに対する質量比で1/3以上含有しているもののPd量が0.020%を割っており耐食性に劣っている。
【0020】
実施例2
JIS 1種(ASTM Gr.1相当)の純チタン板(O:0.04%,Fe:0.03%)を溶解原料とし、表2に示す各金属粉末の成分割合を変化させて含有させ、真空アーク溶解炉において溶解し、鋳塊(約500g)を製造した。この後、以下の工程で評価用の板を作製した。
【0021】
調質焼鈍(1000℃、2時間加熱)→熱延(850℃加熱、約20t×40w→約5t×40w)→焼鈍(850℃,30分)→ショットブラスト→酸洗(板厚約1mm落とす)→冷延(約4t×40w→約0.7t×40w)→ソルト浸漬(520℃、3分)→酸洗(約0.7t×40w→約0.5t×40w)。
【0022】
耐食性を評価するにあたっては、2%沸騰塩酸水溶液中で24時間の浸漬試験を実施して腐食速度を算出し、以下の様に評価した。結果は表2に併記する。
◎:腐食速度 0.1mm/year未満
○:腐食速度 0.1mm/year以上0.5mm/year未満
△:腐食速度 0.5mm/year以上1mm/year未満
×:腐食速度 1mm/year以上。
【0023】
耐水素吸収性の評価は陰極チャージ法を用いた。本試験では硫酸水溶液(0.05M,30℃)中にPt電極1と短冊状の試験片2(10mm×50mm,厚さ1mm)を50mmの間隔で配置し、定電流直流電源を用いて両者の間に6時間、10mA/cm2の電流密度で通電させることで、陰極側から発生する水素を試験片に吸収させた。また本試験では、一度の試験で何枚かの試験片を処理するため、図1に示す様に、複数個の電解用容器3を直列につないだ。なお、試験片の表面状態が水素吸収に及ぼす影響を統一するため、全ての試験片について表面を#400湿式エメリー研磨した。試験前の水素量と試験後の水素量から水素吸収量を算出し、以下の如く評価した。尚、試験後の水素量の分析は、上記水素吸収サンプルを大気中において400℃で1時間加熱し、表面に形成された水素富化層をチタンの内部方向に均一に拡散させた後、行った。
◎:水素吸収量 50ppm未満
○:水素吸収量 50ppm以上100ppm未満
△:水素吸収量 100ppm以上200ppm未満
×:水素吸収量 200ppm以上。
【0024】
また、プレス性試験は、0.5t×40w×150lサイズの切り板を用い、図2に示す金型で波板プレス加工を行い、割れの有無で成形性を評価した。尚、プレス試験は常温でプレス用潤滑油を用いて行った。
【0025】
結果は表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
No.1〜8は本発明例であり、耐食性及び耐水素吸収性が優れており、結晶粒の微細化が生じておらず、プレス成形性にも優れていた。
【0028】
No.9〜11はO及びFeの含有量が多く、またNo.12〜14はIr及び/またはPtの量が多く、プレス成形性がNo.1〜8ほどには優れていないが、耐食性及び耐水素吸収性に関しては優れた特性を示した。No.15ではRuを含有させたが、耐食性及びプレス成形性がNo.1〜8ほどには良くなかった。No.16,17はIrまたはPdが少なく、耐食性がNo.1〜8ほどには良くなかった。No.18はPd量が多く、耐水素吸収性がNo.1〜8ほど良好ではなかった。No.19〜21は純チタンであり、耐食性が十分ではない。
【0029】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されているので、現在汎用されているTi−0.15Pd合金より低コストで優れた耐食性を発揮するTi合金が提供できることとなり、またTi−0.15Pd合金と同等またはそれ以上の冷間加工性(プレス性)を有する耐食Ti合金と、更には耐水素吸収性に優れた耐食Ti合金が提供できることとなった。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で行った陰極チャージ法の実験方法を示す説明図である。
【図2】プレス成形性の実験方法を示す説明図である。
Claims (6)
- Pdを0.020〜0.050質量%含有すると共に、
Ir及び/又はPtを0.01〜0.03質量%含有し、
なおかつFe含有量は0.05質量%以下、O含有量は0.05質量%以下であり、
残部が不可避不純物およびTiからなることを特徴とする冷間成形性に優れた耐食Ti合金。 - 請求項1に記載の耐食Ti合金からなることを特徴とするプレート式熱交換器用部材。
- 請求項1に記載の耐食Ti合金からなることを特徴とする電気分解槽構成部材。
- Pdを0.020〜0.030質量%含有し、耐水素吸収性にも優れた請求項1に記載の耐食Ti合金。
- 請求項4に記載の耐食Ti合金からなることを特徴とする熱交換器用チューブ。
- 請求項4に記載の耐食Ti合金からなることを特徴とする配管用チューブ。
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