JP2012118642A - 能動型振動騒音抑制装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】伝達系の温度が変化することにより実際の伝達関数が変化したとしても、適応制御に用いる伝達関数の推定値と実際の伝達関数とのずれを抑制することにより、高精度に振動や騒音を抑制できる能動型振動騒音抑制装置を提供する。
【解決手段】推定伝達関数記憶部160に、伝達系の温度Tを複数に区分した温度範囲毎に、伝達系の伝達関数の推定値Ghを記憶する。そして、フィルタ係数更新部170は、検出温度Tが含まれる温度範囲における伝達関数の推定値Ghと残留信号eとにより算出される更新値に基づいて、制御信号yの適応フィルタのフィルタ係数a、φを更新する。また、伝達関数同定処理部180は、検出温度Tがそれぞれの温度範囲に含まれる場合にそれぞれの伝達関数Gの同定処理を行い、算出されたそれぞれの伝達関数の推定値Ghを推定伝達関数記憶部160に記憶させる。
【選択図】図1

Description

本発明は、適応制御を用いて、能動的に振動や騒音を抑制することができる能動型振動騒音抑制装置に関するものである。
従来、適応制御を用いて能動的に振動や騒音を抑制する装置として、特許文献1〜3に記載されたものがある。この装置は、制御信号の発生装置から評価点までの伝達系の伝達関数について同定処理を行い、同定処理によって得られた伝達関数の推定値を用いて、制御信号の適応フィルタのフィルタ係数を更新することで、能動的に振動または騒音を抑制するというものである。
ここで、実際の伝達関数と伝達関数の推定値とにずれが生じると、振動または騒音を抑制することができない場合がある。場合によっては、制御が発散して、振動または騒音を拡大するおそれがある。そこで、実際の伝達関数と伝達関数の推定値とにずれが生じないようにする必要がある。
例えば、特許文献1には、伝達関数の同定処理の際に外乱が入った場合には、高精度な同定処理が行えないために、同定処理を再始動することが記載されている。これにより、外乱の影響を受けることを防止できるとされている。
また、伝達関数は、温度に依存することが知られている。そこで、伝達関数の同定処理を行う際の温度と、実際に制御する際の温度とが異なると、適切に振動または騒音を抑制することができない場合がある。そこで、例えば、特許文献2には、適応制御を行う際に、伝達系の温度に応じて伝達関数を補正することが記載されている。
また、特許文献3には、伝達系の検出温度が予め設定した所定温度範囲外の値であるとき、伝達関数の同定処理を禁止することが記載されている。これにより、伝達系の温度が所定温度範囲内である通常時において、伝達系の実際の伝達特性と大きく異なる伝達特性に基づいて振動低減処理が実行されることを回避されるとされている。
特開平10−187164号公報 特開平10−307590号公報 特開平10−319972号公報
ところで、伝達系の伝達関数は、温度の他に、経時変化によっても変化する。そこで、実際の伝達関数と伝達関数の推定値とを高精度に一致させるためには、伝達関数の同定処理を行う頻度を高めることが考えられる。これにより、例えば、経時変化などにより伝達関数が変化した場合には、その変化に追従することができるようになる。つまり、特許文献2に記載のように伝達関数の補正を行うのでは、そもそも現状の実際の伝達関数に適切に追従できないおそれがある。従って、伝達関数を補正するのではなく、やはり伝達関数の同定処理を行うことが必要となる。
そして、伝達関数の同定処理を頻繁に行うようにした場合には、特に、伝達関数の同定処理を行う際の伝達系の温度について注意する必要がある。上述したように、伝達関数は温度によって異なるためである。
確かに、特許文献3に記載のように、伝達系の温度が予め設定された所定温度範囲外の値のときに、伝達関数の同定処理を禁止することで、制御を行う際の実際の伝達関数と伝達関数の推定値とのずれが抑制できる。しかしながら、特に、自動車などにおいて、振動発生源であるエンジンは、発熱源でもある。そのため、エンジンの駆動によって生じる振動や騒音を抑制するためには、常温からエンジンによって加熱される高温までの広い温度範囲について、制御を行う必要がある。つまり、制御を行う対象の温度範囲が広い場合には、低温時と高温時とにおいて伝達関数が大きく異なる場合がある。従って、特許文献3に記載の技術を適用してもなお、高精度に適応制御ができないおそれがある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、伝達系の温度が変化することにより実際の伝達関数が変化したとしても、適応制御に用いる伝達関数の推定値と実際の伝達関数とのずれを抑制することにより、高精度に振動や騒音を抑制できる能動型振動騒音抑制装置を提供することを目的とする。
本発明の能動型振動騒音抑制装置は、制御信号に応じた制御振動または制御音を出力して、評価点における振動または騒音を能動的に抑制する能動型振動騒音抑制装置であって、振動または騒音の発生源の周波数に基づいて前記制御信号を生成する制御信号生成部と、前記制御信号に応じた制御振動または制御音を出力する制御振動制御音発生装置と、前記制御振動制御音発生装置と前記評価点との間における伝達系の温度を検出する温度検出部と、前記評価点において前記発生源による振動または騒音と前記制御振動または制御音との干渉による残留信号を検出する残留信号検出部と、前記伝達系の温度を複数に区分した温度範囲毎に、前記伝達系の伝達関数の推定値を記憶する推定伝達関数記憶部と、前記温度検出部により検出される前記温度が含まれる前記温度範囲における前記伝達関数の推定値と前記残留信号とにより算出される更新値に基づいて、前記制御信号の適応フィルタのフィルタ係数を更新するフィルタ係数更新部と、前記温度検出部により検出された前記温度がそれぞれの前記温度範囲に含まれる場合にそれぞれの前記伝達関数の同定処理を行い、算出されたそれぞれの前記伝達関数の推定値を前記推定伝達関数記憶部に記憶させる伝達関数同定処理部とを備える。
本発明によれば、推定伝達関数記憶部が複数の温度範囲毎に伝達関数の推定値を記憶している。複数の温度範囲毎の伝達関数の推定値は、伝達系の温度がそれぞれの温度範囲に含まれる場合に伝達関数の同定処理を行うことにより導き出している。そして、制御する際には、現在温度に応じた伝達関数の推定値を用いてフィルタ係数を更新する。これにより、伝達系の温度が変化することにより実際の伝達関数が変化したとしても、実際の伝達関数と伝達関数の推定値とがずれることを抑制できる。従って、温度に依存することなく、高精度に振動または騒音を抑制することができる。
また、本発明において、前記伝達関数同定処理部は、複数の前記温度範囲のうち高い温度範囲から低い温度範囲に向かって順に、または、複数の前記温度範囲のうち低い温度範囲から高い温度範囲に向かって順に前記伝達関数の同定処理を行うようにしてもよい。
前者は、温度検出部により検出される温度を下降させながら、複数の温度範囲における伝達関数の同定処理を温度の高い方から低い方に向かって順に行う。また、後者は、温度検出部により検出される温度を上昇させながら、複数の温度範囲における伝達関数の同定処理を温度の低い方から高い方に向かって順に行う。これらにより、各温度範囲の所望の温度で伝達関数の同定処理ができる。
特に、前記伝達関数同定処理部は、前記温度検出部により検出された前記温度がそれぞれの前記温度範囲の中間値のときに、それぞれの前記伝達関数の同定処理を行うようにするとよい。これにより、それぞれの温度範囲のうち最低温度および最高温度の何れに対しても、伝達関数のずれを抑制できる。
また、本発明において、前記能動型振動騒音抑制装置は、車両に搭載され、前記伝達関数同定処理部は、前記車両のエンジン停止後に、複数の前記温度範囲のうち高い温度範囲から低い温度範囲に向かって順に前記伝達関数の同定処理を行うようにしてもよい。
エンジン停止後に伝達関数の同定処理を行う場合、通常、エンジンの駆動によってエンジン周囲および排気管周囲は非常に高温雰囲気となっている。そして、エンジンの停止により、エンジン周囲および排気管周囲の温度は低くなっていく。そこで、制御振動制御音発生装置および残留信号検出部をエンジン周囲または排気管周囲に取り付けている場合に、エンジン停止後に、高い温度範囲から低い温度範囲に向かって順に伝達関数の同定処理を行うことで、短時間でかつ確実に複数の温度範囲における伝達関数の同定処理を行うことができる。また、複数の温度範囲について伝達関数の同定処理を行うために、専用の加熱処理を行ったり、冷却処理を行ったりする必要がない。
第一実施形態:能動型振動騒音抑制装置の機能ブロック図である。 伝達関数同定処理部における伝達関数の同定処理を示すフローチャートである。
<第一実施形態>
(能動型振動騒音抑制装置の概要)
能動型振動騒音抑制装置の概要について説明する。能動型振動騒音抑制装置は、種々の発生源が振動または騒音(以下、「抑制対象振動等」と称する)を発生する場合に、所望の位置において当該振動または騒音を能動的に抑制するために、制御振動または制御音(以下、「制御振動等」と称する)を発生させる装置である。つまり、抑制対象振動等に対して制御振動等を合成させることで、所定位置(評価点)において、制御振動等が抑制対象振動等を打ち消すように作用する。その結果、評価点において、抑制対象振動等が抑制されることになる。
ここで、自動車を例にあげて説明する。自動車において、エンジン(内燃機関)が振動騒音発生源となり、エンジンによって発生した振動や騒音が車室内に伝達されないようにすることが望まれる。そこで、エンジンによって発生した振動や騒音(抑制対象振動等)を能動的に抑制するために、制御振動制御音発生装置によって制御振動等を発生させることとしている。なお、以下において、能動型振動騒音抑制装置は、自動車に適用し、エンジンによって発生される振動または騒音を抑制する装置を例に挙げて説明するが、これに限られるものではない。抑制すべき振動や騒音を発生するものであれば、全てに適用できる。
(能動型振動騒音抑制装置の詳細説明)
次に、能動型振動騒音抑制装置100の詳細について、図1を参照して説明する。図1に示すように、能動型振動騒音抑制装置100は、エンジン10によって発生される抑制対象振動等が伝達系Cを介して評価点20に伝達する場合に、評価点20における振動または騒音を低減するための装置である。
能動型振動騒音抑制装置100は、角周波数算出部110と、正弦波制御信号生成部120と、発生装置130と、残留信号検出部140と、温度検出部150と、推定伝達関数記憶部160と、フィルタ係数更新部170と、伝達関数同定処理部180とを備えている。
角周波数算出部110は、エンジン10の回転数を検出する回転検出器(図示せず)から周期性のパルス信号を入力する。そして、角周波数算出部110は、入力されたパルス信号に基づき、該パルス信号の角周波数ωを算出する。このパルス信号の角周波数ωは、エンジン10によって発生される抑制対象振動等の主成分の角周波数ωに相当する。
正弦波制御信号生成部120は、角周波数算出部110にて算出された角周波数ωに基づいて、式(1)に従って得られる正弦波制御信号yを適応制御によって生成する。ここで、添字のnは、サンプリング数(時間ステップ)を表す添字である。つまり、式(1)より明らかなように、正弦波制御信号yは、角周波数ωと、適応フィルタWとしての振幅フィルタ係数aおよび位相フィルタ係数φとを構成成分に含む、時刻tにおける信号である。そして、振幅フィルタ係数aおよび位相フィルタ係数φは、後述するフィルタ係数更新部170により適応的に更新される。
Figure 2012118642
発生装置130は、実際に振動や音を発生する装置である。この発生装置130は、正弦波制御信号生成部120によって生成された正弦波制御信号yに基づいて駆動する。例えば、制御振動を発生させる発生装置130としては、例えば、駆動系につながるフレームやサブフレーム(図示せず)などに配置される振動発生装置である。また、制御音を発生させる発生装置130としては、例えば、スピーカー等である。発生装置130が例えば磁力を用いて制御振動や制御音を発生させる装置の場合には、コイル(図示せず)に供給する電流、電圧または電力を、各時刻tにおける正弦波制御信号yに応じるように制御することで、発生装置130が正弦波制御信号yに応じた制御振動または制御音を発生する。
そうすると、評価点20においては、発生装置130によって発生された制御振動等が伝達系Bを介して伝達された振動騒音Zと、エンジン10によって発生された抑制対象振動等が伝達系Cを介して伝達された振動騒音fとが合成される。そこで、残留信号検出部140は、評価点20に配置されており、評価点20における残留振動または残留騒音(本発明における「残留信号」に相当する)eを検出する。この残留振動eは、式(2)で表される。例えば、残留振動eを検出する残留信号検出部140としては、加速度センサなどを適用できる。また、残留音eを検出する残留信号検出部140としては、吸音マイクなどを適用できる。残留信号検出部140によって検出される残留信号eがゼロになることが理想状態である。なお、伝達関数Gは、発生装置130から評価点20までの伝達系の伝達関数である。つまり、伝達関数Gは、発生装置130そのものの伝達関数と、発生装置130と評価点20との間の伝達系Bの伝達関数とを含む。
Figure 2012118642
温度検出部150は、発生装置130と評価点20との間における伝達系の温度を検出する。例えば、温度検出部150は、温度センサが適用され、発生装置130あるいはその近傍に設けられ、発生装置130の周囲の雰囲気温度を検出する。
推定伝達関数記憶部160は、伝達関数を取得する際にはエンジン10の信号を使用せずに角周波数算出部110にて算出された角周波数ωに応じた伝達関数Gの推定値「Gハット」を予め記憶している。ここで、図1および数式において、Gの上部に「^(ハット)」を付した記号は、推定値を意味する。ただし、記載の都合上、以下の説明において、伝達関数Gの推定値「Gハット」は、推定伝達関数「Gh」と記載する。ここで、上述したように、伝達関数Gは、発生装置130から評価点20までの伝達系の伝達関数である。
さらに、この推定伝達関数Ghは、温度検出部150により検出される温度を複数に区分した温度範囲毎に記憶されている。例えば、推定伝達関数Ghは、温度検出部150により検出される温度が、0℃〜10℃、10℃〜20℃、20℃〜30℃、30℃〜40℃、40℃〜50℃、50℃〜60℃、60℃〜70℃、70℃〜80℃のそれぞれの範囲毎に記憶されている。
ここで、伝達系の伝達関数Gは、角周波数ωに応じた振幅成分Aと位相成分Φとにより表される。そこで、式(3)に示すように、推定伝達関数Ghとしては、角周波数ωおよび温度範囲Tに応じた推定振幅Aハット(以下、「Ah」と記載する)と推定位相Φハット(以下、「Φh」と記載する)とにより表される。なお、式(3)においては、推定伝達関数Gh、推定振幅Ahおよび推定位相Φhは、角周波数ωおよび温度範囲Tに応じたものとなるため、ωおよびTの関数であることを明記するために、それぞれGh(ω,T)、Ah(ω,T)およびΦh(ω,T)と記載している。
Figure 2012118642
例えば、推定伝達関数記憶部160には、角周波数ωに応じた推定振幅Ahおよび推定位相Φhのマップ(MAP1〜MAP8)が温度範囲毎に記憶されている。この推定振幅Ahおよび推定位相Φhは、例えば、自動車の製造初期段階、車検時の他、エンジン停止時に、後述する伝達関数同定処理部180により伝達関数の同定処理を行うことで算出される。ここで、実際の伝達関数Gの振幅Aおよび位相Φは、外乱や経年変化に加えて、伝達系の温度によって変化する。ただし、本実施形態によれば、推定振幅Ahおよび推定位相Φhは、複数の温度範囲毎に設定されていると共に、エンジン停止の都度に伝達関数の同定処理を行っている。そのため、推定振幅Ahおよび推定位相Φhは、種々の変化要因に応じて変化させることができる。そして、推定伝達関数記憶部160においては、温度検出部150により検出された温度Tが含まれるマップが選定され、当該マップの中から角周波数算出部110により算出された角周波数ωに対応する推定振幅Ahおよび推定位相Φhが選出される。
フィルタ係数更新部170は、上述した正弦波制御信号yを構成するための適応フィルタWを適応的に更新する。適応フィルタWは、式(4)に示すように、振幅フィルタ係数aと位相フィルタ係数φとにより構成される。
Figure 2012118642
このフィルタ係数更新部170は、推定伝達関数記憶部160にて選出された推定伝達関数Ghと残留信号検出部140により検出される残留信号eとに基づいて適応フィルタWを更新する。適応フィルタWのうち振幅フィルタ係数aの更新は、式(5)に従って行う。つまり、式(5)に示すように、振幅フィルタ係数aの更新式は、前回更新された振幅フィルタ係数aに対して、推定伝達関数Ah,Φhおよび残留信号eに基づき算出される振幅更新式の項[{μsin(ωt+φ+Φh)}/Ah]を加減算することにより、正弦波制御信号yの振幅フィルタ係数の更新値an+1を算出する。
Figure 2012118642
ここで、式(5)において、振幅更新式の加減算項は、前回更新された振幅フィルタ係数aから減算した式として表している。また、振幅更新式の加減算は、振幅ステップサイズパラメータμを乗算した項としている。この振幅ステップサイズパラメータμは、予め決定された固定値としている。
また、適応フィルタWのうち位相フィルタ係数φの更新は、式(6)に従って行う(位相フィルタ係数更新部)。つまり、式(6)に示すように、位相フィルタ係数φの更新式は、前回更新された位相フィルタ係数φに対して、推定伝達関数Ah,Φhおよび残留信号eに基づき算出される位相更新式の項[μφcos(ωt+φ+Φh)]を加減算することにより、正弦波制御信号yの位相フィルタ係数の更新値φn+1を算出する。
Figure 2012118642
ここで、式(6)において、位相更新式の加減算項は、前回更新された位相フィルタ係数φから減算した式として表している。また、位相更新式の加減算項は、位相ステップサイズパラメータμφを乗算した項としている。この位相ステップサイズパラメータμφは、予め決定された固定値としている。
伝達関数同定処理部180は、温度検出部150により検出された温度Tがそれぞれの温度範囲に含まれる場合に、それぞれの伝達関数Gの同定処理を実行する。そして、伝達関数同定処理部180は、算出されたそれぞれ温度範囲毎の推定伝達関数Ghを推定伝達関数記憶部160に記憶させる。伝達関数同定処理部180による伝達関数Gの同定処理の実行は、例えば、自動車の製造初期段階、車検時の他、エンジン停止時に、後述する伝達関数同定処理部180により伝達関数の同定処理を行うことで算出される。ここで、エンジン停止時に行う伝達関数の同定処理についての詳細は、後述する。
(能動型振動騒音抑制装置の動作)
上述した能動型振動騒音抑制装置100においては、予め推定伝達関数Ghが記憶されている。そして、自動車の動作中において、推定伝達関数記憶部160に記憶されている複数のマップの中から、温度検出部150により検出される伝達系の温度Tが含まれる温度範囲に対応するマップが選出される。続いて、選出されたマップを用いて、角周波数算出部110にて算出された角周波数ωに応じた推定振幅Ahおよび推定位相Φhを選出する。
そして、フィルタ係数更新部170において、残留信号eと推定振幅Ahと推定位相Φhとに基づいて、式(5)(6)に従って、振幅フィルタ係数an+1および位相フィルタ係数φn+1を更新する。正弦波制御信号生成部120において、更新された振幅フィルタ係数an+1および位相フィルタ係数φn+1を用いて正弦波制御信号yが生成される。生成された正弦波制御信号yに応じて、発生装置130が制御振動または制御音を発生させて、評価点20に伝達されるエンジン10により発生される抑制対象振動等に対して逆位相となるように合成させる。このようにして、評価点20において、残留振動等を抑制することができる。
そして、本実施形態によれば、推定伝達関数記憶部160が複数の温度範囲毎に推定伝達関数Ghを記憶している。複数の温度範囲毎の推定伝達関数Ghは、伝達系の温度Tがそれぞれの温度範囲に含まれる場合に伝達関数の同定処理を行うことにより導き出している。そして、制御する際には、現在温度Tに応じた推定伝達関数Ghを用いてフィルタ係数a,φを更新する。これにより、伝達系の温度Tが変化することにより実際の伝達系の伝達関数Gが変化したとしても、実際の伝達関数Gと推定伝達関数Ghとがずれることを抑制できる。従って、温度Tに依存することなく、評価点20において高精度に振動または騒音を抑制することができる。
(伝達関数の同定処理)
次に、伝達関数同定処理部180による伝達関数Gの同定処理について、図2のフローチャートを参照しつつ、図1の破線にて示す情報伝達経路を参照して説明する。図2に示すように、同定処理は、エンジン10が停止したか否かを判定する(ステップS1)。エンジン10が停止していなければ、エンジン10が停止するまで処理を繰り返す。この判定は、例えば、エンジン10の回転数がゼロになったことにより判定してもよいし、イグニッションスイッチがOFF状態になったか否かにより判定してもよい。
続いて、エンジン10が停止したと判定された場合に、温度検出部150により伝達系の温度Tの検出を開始する(ステップS2)。温度検出部150による温度検出は、後の温度検出終了と判定されるまで、継続して行われる。
続いて、検出温度Tが80℃より大きいか否かを判定する(ステップS3)。ここで、80℃としたのは、推定伝達関数記憶部160にて記憶されている温度範囲毎のマップのうち上限温度が80℃であるためである。なお、推定伝達関数記憶部160に記憶されているマップの温度範囲は、それぞれ、第一マップ:0℃〜10℃、第二マップ:10℃〜20℃、第三マップ:20℃〜30℃、第四マップ:30℃〜40℃、第五マップ:40℃〜50℃、第六マップ:50℃〜60℃、第七マップ:60℃〜70℃、第八マップ:70℃〜80℃としている。
そして、検出温度Tが80℃より大きい場合には、検出温度Tが80℃以下になるまで処理を繰り返す。ここで、エンジン10が停止する前は、当然、エンジン10が駆動状態である。そのため、発熱源であるエンジン10によって、発生装置130から評価点20までの伝達系の温度雰囲気は、加熱されて高温状態となっている。ただし、外気温によっては、検出温度Tが80℃より大きくなる場合や80℃以下となる場合がある。
続いて、検出温度Tが80℃以下となると、下限パラメータT1を70℃に、上限パラメータT2を80℃に設定する(ステップS4)。続いて、検出温度Tが、現時点の下限パラメータT1より大きく、上限パラメータT2以下であるか否かを判定する(ステップS5)。最初は、検出温度Tが、70℃より大きく、かつ、80℃以下であるか否かを判定することになる。
そして、ステップS5において、検出温度Tが現時点の下限パラメータT1より大きく、上限パラメータT2以下である場合には、さらに、検出温度Tが、現時点のT1とT2の中間値{(T1+T2)/2}より大きく、T2以下であるか否かを判定する(ステップS6)。最初は、検出温度Tが、75℃より大きく、かつ、80℃以下であるか否かを判定する。この意味は、検出温度Tが、当該検出温度Tの含まれている温度範囲の中間値より大きいか否かを判定するという意味である。
そして、検出温度Tが当該温度範囲の中間値より大きい場合には(ステップS6:Y)、検出温度Tが当該温度範囲の中間値に達したか否かを判定する(ステップS7)。そして、検出温度Tが当該温度範囲の中間値に達していなければ、検出温度Tが中間値に達するまで処理を繰り返す。そして、検出温度Tが中間値に達した場合に、伝達関数の同定処理を実行する(ステップS8)。一方、ステップS6において、検出温度Tが当該温度範囲の中間値以下の場合には、直ちに、伝達関数の同定処理を実行する(ステップS8)。
ここで、伝達関数の同定処理の実行の動作について、図1を参照して説明する。図1の破線にて、伝達関数同定処理部180により伝達関数Gの同定処理実行の際に用いる情報伝達経路を示す。具体的には、伝達関数同定処理部180による同定処理実行の際には、温度検出部150により検出された温度Tを入力する。そして、正弦波制御信号生成部120に対して、同定処理実行用の角周波数ωt、振幅フィルタ係数at、位相フィルタ係数φtを与えて、正弦波制御信号yを生成する。そして、発生装置130が正弦波制御信号yに応じた制御振動または制御音を発生し、伝達関数同定処理部180は、残留信号検出部140により検出された残留信号eを入力する。そして、伝達関数同定処理部180は、正弦波制御信号生成部120に出力した角周波数ωt、振幅フィルタ係数at、位相フィルタ係数φtと、残留信号検出部140から入力した残留信号eとにより、伝達系の伝達関数Gの推定値を算出する。
このようにして、最初のステップS8の処理により、70℃〜80℃の温度範囲における推定伝達関数Ghを記憶することができる。そして、検出温度Tが75℃以上であれば、検出温度が75℃(中間値)のときに、伝達関数の同定処理が実行される。つまり、70℃〜80℃の温度範囲における推定伝達関数Ghは、検出温度Tが75℃のときに同定処理を実行された推定伝達関数Ghとなる。
図2に戻り説明する。図2のステップS8の後には、下限パラメータT1が0℃であるか否かを判定する(ステップS9)。下限パラメータT1が0℃でなければ、下限パラメータT1を、現在の下限パラメータT1から10℃減算した値に更新する(ステップS10)。さらに、下限パラメータT1が0℃でなければ、上限パラメータT2を、現在の上限パラメータT2から10℃減算した値に更新する(ステップS10)。最初は、下限パラメータT1が70℃であり、上限パラメータT2が80℃であるため、ステップS10において、下限パラメータT1が60℃に更新され、上限パラメータT2が70℃に更新される。そして、ステップS5から処理を繰り返す。
つまり、次のステップS5〜S8において、60℃〜70℃の温度範囲に対する推定伝達関数Ghの同定処理を実行する。そのとき、60℃と70℃の中間値65℃にて、推定伝達関数Ghの同定処理が実行される。
さらに、次のステップS9において、下限パラメータT1が50℃に更新され、上限パラメータT2が60℃に更新される。そして、次のステップS5〜S8において、50℃〜60℃の温度範囲に対する推定伝達関数Ghの同定処理を実行する。そのとき、50℃と60℃の中間値55℃にて、推定伝達関数Ghの同定処理が実行される。
そして、当該処理の繰り返しは、ステップS9にて下限パラメータT1が0℃に達するまで行われる。つまり、0℃〜80℃の温度範囲を10℃刻みで区分したそれぞれの温度範囲に対して、高い温度範囲から低い温度範囲に向かって順に、伝達関数の同定処理を実行している。特に、可能な限りにおいて、それぞれの温度範囲の中間値にて、伝達関数の同定処理を実行している。
ここで、図2のステップS5において、検出温度Tが、現時点の下限パラメータT1より大きく、かつ、上限パラメータT2以下であるか否かを判定した。寒冷地や冬季など外気温が低い場合や、温度検出部150の配置によっては、エンジン10を駆動した後であっても検出温度Tが80℃以上とならない場合もある。
このような場合には、図2のステップS5において、検出温度Tが現時点の下限パラメータT1以下となる場合には、ステップS9に移行して、下限パラメータT1が0℃であるか否かを判定する。そして、ステップS10にて、下限パラメータT1および上限パラメータT2が更新され、再びステップS5〜S8の処理を行う。つまり、エンジン10を停止した初期状態において、当該検出温度Tよりも高い温度範囲の伝達関数の同定処理は行われない。
そして、ステップS9において、下限パラメータT1が0℃に達すると、温度検出部150による温度Tの検出を終了し(ステップS11)、伝達関数の同定処理を終了する。
このように、温度検出部150により検出される温度Tを下降させながら、複数の温度範囲における伝達関数の同定処理を、温度の高い方から低い方に向かって順に行っている。これにより、それぞれの温度範囲の所望の温度で伝達関数の同定処理ができるようになる。特に、温度検出部150により検出された温度Tがそれぞれの温度範囲の中間値のときに、それぞれの伝達関数の同定処理を行うようにすることができる。これにより、それぞれの温度範囲のうち最低温度および最高温度の何れに対しても、伝達関数のずれを抑制できる。
さらに、エンジン10の停止後に伝達関数の同定処理を行うことにより、エンジン10の駆動によってエンジン10の周囲および排気管周囲は非常に高温雰囲気となっている。そして、エンジン10の停止により、エンジン10の周囲および排気管周囲の温度は低くなっていく。この温度変化を利用して、エンジン10の停止後に、高い温度範囲から低い温度範囲に向かって順に伝達関数の同定処理を行うことで、短時間でかつ確実に複数の温度範囲における伝達関数の同定処理を行うことができる。また、複数の温度範囲について伝達関数の同定処理を行うために、専用の加熱処理を行ったり、冷却処理を行ったりする必要がない。
<第二実施形態>
次に、第二実施形態の伝達関数の同定処理について説明する。上記実施形態の伝達関数の同定処理は、複数の温度範囲のうち温度が高い方から低い方に向かって順に行った。この他に、伝達関数の同定処理は、複数の温度範囲のうち温度が低い方から高い方に向かって順に行うようにしてもよい。
具体的には、伝達関数の同定処理を行う際に、例えばヒーターなどにより温度検出部150により検出される温度Tを加熱しながら、検出温度Tを上昇させる。そして、検出温度Tが上昇しながら、当該検出温度Tが含まれる温度範囲の伝達関数の同定処理を実行する。この場合も、上記実施形態のように、それぞれの温度範囲の中間値にて、伝達関数の同定処理を実行する。
また、ヒーターの代わりに、エンジン10の駆動開始によってエンジン10の周囲や排気管周囲が加熱されることを利用することもできる。この場合に、エンジン10の駆動開始時に、伝達関数の同定処理を実行することになる。
10:エンジン、 20:評価点
100:能動型振動騒音抑制装置、 110:角周波数算出部
120:正弦波制御信号生成部、 130:発生装置、 140:残留信号検出部
150:温度検出部、 160:推定伝達関数記憶部
170:フィルタ係数更新部、 180:伝達関数同定処理部

Claims (4)

  1. 制御信号に応じた制御振動または制御音を出力して、評価点における振動または騒音を能動的に抑制する能動型振動騒音抑制装置であって、
    振動または騒音の発生源の周波数に基づいて前記制御信号を生成する制御信号生成部と、
    前記制御信号に応じた制御振動または制御音を出力する制御振動制御音発生装置と、
    前記制御振動制御音発生装置と前記評価点との間における伝達系の温度を検出する温度検出部と、
    前記評価点において前記発生源による振動または騒音と前記制御振動または制御音との干渉による残留信号を検出する残留信号検出部と、
    前記伝達系の温度を複数に区分した温度範囲毎に、前記伝達系の伝達関数の推定値を記憶する推定伝達関数記憶部と、
    前記温度検出部により検出される前記温度が含まれる前記温度範囲における前記伝達関数の推定値と前記残留信号とにより算出される更新値に基づいて、前記制御信号の適応フィルタのフィルタ係数を更新するフィルタ係数更新部と、
    前記温度検出部により検出された前記温度がそれぞれの前記温度範囲に含まれる場合にそれぞれの前記伝達関数の同定処理を行い、算出されたそれぞれの前記伝達関数の推定値を前記推定伝達関数記憶部に記憶させる伝達関数同定処理部と、
    を備える能動型振動騒音抑制装置。
  2. 請求項1において、
    前記伝達関数同定処理部は、複数の前記温度範囲のうち高い温度範囲から低い温度範囲に向かって順に、または、複数の前記温度範囲のうち低い温度範囲から高い温度範囲に向かって順に前記伝達関数の同定処理を行う能動型振動騒音抑制装置。
  3. 請求項2において、
    前記伝達関数同定処理部は、前記温度検出部により検出された前記温度がそれぞれの前記温度範囲の中間値のときに、それぞれの前記伝達関数の同定処理を行う能動型振動騒音抑制装置。
  4. 請求項2または3において、
    前記能動型振動騒音抑制装置は、車両に搭載され、
    前記伝達関数同定処理部は、前記車両のエンジン停止後に、複数の前記温度範囲のうち高い温度範囲から低い温度範囲に向かって順に前記伝達関数の同定処理を行う能動型振動騒音抑制装置。
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