JP2012103238A - 免疫複合体の網羅的解析方法および新規関節リウマチバイオマーカー - Google Patents
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Abstract
【解決手段】以下の工程を含む、疾患バイオマーカーの網羅的探索方法など。
(1)疾患患者および健常者由来の各試料からそれぞれ免疫複合体を回収する工程、
(2)それぞれの免疫複合体を分解し、分解産物を分離する工程、
(3)分離した分解産物を質量分析することによって、各試料中に含まれる抗原を網羅的に同定する工程、
(4)健常者と比較して疾患患者において特異的に同定される抗原を該疾患バイオマーカーとして選抜する工程
【選択図】なし
Description
一方、近年、プロテオーム解析が多くの生命分析科学研究領域において利用され始め、疾患の原因や発症のメカニズムの解明手段として有望視されてきている。特に全てのタンパク質を酵素分解によりペプチド断片化し、これを高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計(LC−MS/MS)で解析するショットガンプロテオミクスが開発され(非特許文献1)、疾患マーカーの探索などが迅速、効率的かつ再現性良く行えるようになってきた。また、特定疾患の解明を目的として、抗体を用いて抗原を精製し、その同定をLC−MS/MSによって行った例も報告されている(非特許文献2)。
しかし、臨床診断や病態解明の手段という観点から免疫複合体を形成する抗原そのものに着目し、これを網羅的に解析する手法はこれまでに開発されていない。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
[1]以下の工程を含む、疾患バイオマーカーの網羅的探索方法;
(1)疾患患者および健常者由来の各試料からそれぞれ免疫複合体を回収する工程、
(2)それぞれの免疫複合体を分解し、分解産物を分離する工程、
(3)分離した分解産物を質量分析することによって、各試料中に含まれる抗原を網羅的に同定する工程、
(4)健常者と比較して疾患患者において特異的に同定される抗原を該疾患バイオマーカーとして選抜する工程
[2]疾患が、感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍、動脈硬化症、糖尿病から選択される、上記[1]に記載の方法;
[3]試料が血液、血清または組織である、上記[1]に記載の方法;
[4]工程(1)において、プロテインGまたはプロテインAを用いて免疫複合体を回収する上記[1]に記載の方法;
[5]工程(2)において、液体クロマトグラフィーによって分解産物を分離する上記[1]に記載の方法;
[6]工程(3)において、タンデム質量分析によって質量分析する上記[1]に記載の方法;
[7]以下の工程を含む、疾患に罹患しているか否かを検査または将来的に罹患するか否かを予測する方法;
(1)被験者および疾患患者由来の各試料からそれぞれ免疫複合体を回収する工程、
(2)それぞれの免疫複合体を分解し、分解産物を分離する工程、
(3)分離した分解産物を質量分析することによって、各試料中に含まれる抗原を網羅的に同定、定量する工程、
(4)被験者と疾患患者の間でそれぞれ同定された抗原を比較することによって、被験者が該疾患に罹患しているか否かを検査または将来的に罹患するか否かを予測する工程
[8]疾患が、感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍、動脈硬化症、糖尿病から選択される、上記[7]に記載の方法;
[9]試料が血液、血清または組織である、上記[7]に記載の方法;
[10]工程(1)において、プロテインGまたはプロテインAを用いて免疫複合体を回収する上記[7]に記載の方法;
[11]工程(2)において、液体クロマトグラフィーによって分解産物を分離する上記[7]に記載の方法;
[12]工程(3)において、タンデム質量分析によって質量分析する上記[7]に記載の方法;
[13]被験者由来の試料から回収した免疫複合体における、トロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の有無を検出する関節リウマチの検査方法;
[14]プロテインGまたはプロテインAを用いて免疫複合体を回収する上記[13]に記載の方法;
[15]治療中または治療を受けた関節リウマチ患者から経時的に採取された試料から回収した免疫複合体における、トロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の有無を検出することを含む、関節リウマチ患者に対する治療効果の評価方法;
[16]プロテインGまたはプロテインAを用いて免疫複合体を回収する上記[15]に記載の方法;
[17]トロンボスポンジン−1を特異的に認識する抗体および/または血小板第4因子を特異的に認識する抗体を含む、関節リウマチの検査用キット
を提供する。
本発明は、任意の疾患に罹患した患者由来の免疫複合体を網羅的に調べることによる、疾患バイオマーカーの探索方法に関する。
(1)疾患患者および健常者由来の各試料からそれぞれ免疫複合体を回収する工程、
(2)それぞれの免疫複合体を分解し、分解産物を分離する工程、
(3)分離した分解産物を質量分析することによって、各試料中に含まれる抗原を網羅的に同定する工程、
(4)健常者と比較して疾患患者において特異的に同定される抗原を該疾患バイオマーカーとして選抜する工程
即ち、以下の工程を含む、疾患に罹患しているか否かを検査または将来的に罹患するか否かを予測する方法を提供する。
(1)被験者および疾患患者由来の各試料からそれぞれ免疫複合体を回収する工程、
(2)それぞれの免疫複合体を分解し、分解産物を分離する工程、
(3)分離した分解産物を質量分析することによって、各試料中に含まれる抗原を網羅的に同定する工程、
(4)被験者と疾患患者の間でそれぞれ同定された抗原を比較することによって、被験者が該疾患に罹患しているか否かを検査または将来的に罹患するか否かを予測する工程
試料の回収
米国リウマチ学会(ACR)の基準を満たす、佐世保中央病院の関節リウマチ(AR)患者21名から血清試料を回収した。また、健常人ドナー(13名)からも血清を回収し、コントロールとして用いた。全ての実験は、佐世保中央病院および長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の組織倫理委員会に承認され、ヘルシンキ宣言に従って実施した。患者および健常人ドナーからはインフォームドコンセントを得た。
プロテインGが固定化された磁性ビーズ(PureProteome, Millipore)を用いて免疫複合体を精製した。ビーズ40μlをリン酸緩衝生理食塩水(PBS, Wako Chemicals)500μlで洗浄し、PBSで希釈した血清(血清:PBS=1:9, v/v)100μlと共にゆっくり攪拌しながら30分間インキュベートした。免疫複合体が結合したビーズを磁石で回収し、PBS500μlで3回洗浄した。ビーズを10mMジチオスレイトール100μl中に再懸濁し、56℃で45分間インキュベートした後、55mMヨードアセトアミド100μlを加え、暗所、室温で30分間インキュベートした。続いて、トリプシン溶液(25mM重炭酸アンモニウム)を終濃度0.5mg/mlで添加し、混合液を37℃で一晩培養した。TFA(10%, v/v)を加えて、消化を停止させた後、抗原および抗体由来のペプチド消化物を含む上清を磁石を用いて回収した。最終的に、この混合液を減圧下、約80μlに濃縮した。
LCフロースプリッター(Accurate, Dionex, Sunnyvale, CA, USA)付きのLCポンプ(Surveyor MS pump, Thermo Fihser Scientific, Waltham, MA, USA)およびHCT PALオートサンプラー(CTC Analytics, Zwingen, Switzerland)からなるカスタムナノLCシステムを搭載したLC−エレクトロスプレーイオン化−タンデムMS(LCQ Fleet, Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)にペプチド混合物(1μl)を供試した。インジェクションループ中のナノ−プレカラム(300μm i.d. × 5.0mm, L−C−18, Chemicals and Evaluation and Research, Tokyo, Japan)に試料を注入し、2%アセトニトリル中の1%TFAを用いて洗浄した。ペプチドをナノHPLCカラム(75μm, i.d., Acclaim PepMap100C18, 3μm, Dionex, Sunnyvale, CA, USA)で分離し、スプレー電圧1.2から2.0kVでMSにイオン噴霧した。移動相のグラディエント条件を以下のように設定し、分離を行った:移動相中の移動相B含量を10分間で5から23%に増加(90%アセトニトリル中に0.1%ギ酸[Kanto Kagaku, Tokyo, Japan])(移動相A:0.1%ギ酸);移動相B含量を70分間で24から34%に増加;移動相B含量を16分間で34から50%に増加;移動相B含量を0.1分間で50から100%に増加;移動相B含量100%を9分間維持(総分離時間:115分)。試料の全解析から最も強度の高い3つの前駆体質量の3つのタンデムMSスキャンにプロセスする(Xcaliber(R)ソフトウェアー[Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA]によってリアルタイムに決定)ことによって得られるデータの質を有するデュティサイクル長を最適化するように質量分析計を設定した。衝突エネルギーは35%とした。全体質量/電荷比の範囲を400−1500で全スペクトルを計測した。トランスファーキャピラリー温度を200℃に設定した。MS/MSデータをBioworks V3.3(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)を用いて抽出した。欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI, Cambridge, UK)によって提供されるInternational Protein Index version 3.67(ダウンロード日;2009年12月10日)の公開されている非重複タンパク質データベースからヒトサブデータベースに対して以下のサーチパラメータでスペクトルを検索した:質量型、モノアイソトピック前駆体および断片;酵素、トリプシン(KR);酵素限界、2つまでの誤開裂を許容する全酵素的開裂;ペプチド許容、2.0原子質量単位;断片イオン許容、1.0原子質量単位;スコア結果数、250;計測されるイオンおよびイオンシリーズ、BおよびYイオン;静的修正、C(カルボキシメチル化);特異的修飾、M(酸化);NおよびQ(アミド分解)。経験的に決定されるタンパク質誤発見率(FDR)0、すなわちランダムヒットがゼロとなるようにフィルター基準値(関連ファクター[XCorr]およびタンパク質確率[P]を有するシングル、ダブル、トリプル電荷ペプチド)を調整した。リバースデータベースの固有ペプチドの数をフォワードデータベースの重要な固有ペプチドの数で割って、FDRを計算した。タンパク質は6アミノ酸長以上のペプチドについて同定した。仮に複数のタンパク質が見出されたペプチドを有するアミノ酸配列を共有していれば、それらのうち最も低い確率のタンパク質が最も一致すると判断され、ケラチンやトリプシンは潜在的な一致として除外された。
関節リウマチ患者および健常人ドナーに対する、広範なプロテオーム解析によって同定されたタンパク質を表1−1および表1−2に略記する。
同定された抗原タンパク質のうち、トロンボスポンジン−1(TSP−1)が関節リウマチ患者では最も頻度が高く検出され、極めて特異的であった。TSP−1は好中球、内皮細胞および線維芽細胞を含む複数の細胞で生産される。TSP−1は関節リウマチ患者の生理機能に関与していると考えられてきており、関節リウマチ患者の滑膜組織に存在し(I. Gotis−Graham et al., Arthritis & Rheumatism, 40, 1780−1787, 1997)、その血漿中レベルは高いことが報告されている(M. Rico et al., Translation Research, 152, 95−98, 2008)。近年の研究では、TSP−1/形質転換増殖因子(transforming growth factor)/結合組織増殖因子(CTGF)経路が関節リウマチの進行に役割を果たしており、該経路においてTSP−1発現が引き金となって、下流CTGFの上方制御が血管形成およびびらん性関節炎病変に関連していることが示唆されている。
最も有名な診断マーカーはリウマチ因子(RF)であるが、関節リウマチでは特異性に乏しく(80.8%)(L. De Ryche et al., Ann. Rheum. Dis., 63, 1587−1593, 2004)、他の疾患でも観察される(Y. Renaudineau et al., Autoimmunity, 38, 11−16, 2005; T. Dorner et al., Current Opinion in Reumatology, 16, 246−253, 2004)。一方、シトルリンを含むタンパク質/ペプチド抗体(抗CCP)はリウマチ因子よりも関節リウマチに対して極めて高い特異性を有する。大多数の関節リウマチ患者はこれらの抗体を1つまたは両方有しているが、20%はそうではない。TSP−1の免疫複合体は関節リウマチに対して高度に特異的であり(100%)、検出感度も高く(81.0%)、有望な疾患バイオマーカーである。
プロテインG付きビーズに対する、フィブロネクチンおよびTSP−1の2つのタンパク質の非特異的結合を見出すために、血中の標準値の10倍以上高い濃度の標準タンパク質溶液を血清試料の代わりに用いた。フィブロネクチンもTSP−1も見出されなかったことは、関節リウマチ患者またはコントロールの血漿中においてそれらが検出されたことが、ビーズへの非特異的結合によるものではないことを示唆するものである。
抗CCP抗体は現在、関節リウマチの特異的マーカーとして広く認知され、シトルリン化されたフィブリノーゲンが関節リウマチ患者の血清の免疫複合体中に存在すること(X. Zhao et al., Arthritis Res. Ther., 10, R94, 2008)が報告されているため、発明者らはまた、シトルリンがアルギニンに置換されたペプチドを対象にMSスペクトルを検索した。シトルリン化されたチミジンキナーゼ2、GRAMドメイン含有タンパク質2およびプロトロンビンが21名の関節リウマチ患者のうち2名から見出され、その一方、4名の健常人からはシトルリン化されたプロトロンビンのみが見出された。
他方、IgGのFcドメインに結合し、関節リウマチの診断試験に用いられてきたリウマチ因子を7名の関節リウマチ患者のプロテオミクス手法によって検出した。抗CCP抗体に対して、データベース中にアミノ酸配列がエントリーされておらず、本実施例では検出されなかった。
TSP−1よりも検出感度が低い(52.4%)が、血小板第4因子(PF4)もまた、関節リウマチ患者に特異的に検出された(表2−1、2−2)。滑膜液中の血小板第4因子が増加していることが複数の研究で報告され、血小板第4因子は関節リウマチの慢性化に関与している可能性が示唆される。
試料の回収
次に長崎大学病院の早期関節リウマチ(AR)患者26名(ACR基準は満たしていないが、リウマチ専門医が治療要と認め、かつ治療が施されていない集団)から血清試料を回収した。26名の患者のうち、16名についてはリウマチ因子(RF)が陽性の血清反応陽性集団であった。さらに血清反応陽性集団16名のうち11名はACCP抗体についても陽性であった。また、残りの10名についてはRFおよびACCP抗体について陰性であった(血清反応陰性集団)。また、健常人ドナー(11名)からも血清を回収し、コントロールとして用いた。
また、PF4については、血清反応陽性早期リウマチ患者においては18.8%(PF4とPF4 variantが検出された陽性患者3名。表3−2中にはどちらも陽性であった患者1名が含まれる。)の頻度で確認できたが、血清反応陰性早期リウマチ患者においては確認できなかった。
本出願は、日本で出願された特願2010−231935(出願日:平成22年10月14日)を基礎としており、その内容はすべて本明細書に包含されるものとする。
Claims (17)
- 以下の工程を含む、疾患バイオマーカーの網羅的探索方法。
(1)疾患患者および健常者由来の各試料からそれぞれ免疫複合体を回収する工程、
(2)それぞれの免疫複合体を分解し、分解産物を分離する工程、
(3)分離した分解産物を質量分析することによって、各試料中に含まれる抗原を網羅的に同定する工程、
(4)健常者と比較して疾患患者において特異的に同定される抗原を該疾患バイオマーカーとして選抜する工程 - 疾患が、感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍、動脈硬化症、糖尿病から選択される、請求項1に記載の方法。
- 試料が血液、血清または組織である、請求項1に記載の方法。
- 工程(1)において、プロテインGまたはプロテインAを用いて免疫複合体を回収する請求項1に記載の方法。
- 工程(2)において、液体クロマトグラフィーによって分解産物を分離する請求項1に記載の方法。
- 工程(3)において、タンデム質量分析によって質量分析する請求項1に記載の方法。
- 以下の工程を含む、疾患に罹患しているか否かを検査または将来的に罹患するか否かを予測する方法。
(1)被験者および疾患患者由来の各試料からそれぞれ免疫複合体を回収する工程、
(2)それぞれの免疫複合体を分解し、分解産物を分離する工程、
(3)分離した分解産物を質量分析することによって、各試料中に含まれる抗原を網羅的に同定、定量する工程、
(4)被験者と疾患患者の間でそれぞれ同定された抗原を比較することによって、被験者が該疾患に罹患しているか否かを検査または将来的に罹患するか否かを予測する工程 - 疾患が、感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍、動脈硬化症、糖尿病から選択される、請求項7に記載の方法。
- 試料が血液、血清または組織である、請求項7に記載の方法。
- 工程(1)において、プロテインGまたはプロテインAを用いて免疫複合体を回収する請求項7に記載の方法。
- 工程(2)において、液体クロマトグラフィーによって分解産物を分離する請求項7に記載の方法。
- 工程(3)において、タンデム質量分析によって質量分析する請求項7に記載の方法。
- 被験者由来の試料から回収した免疫複合体における、トロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の有無を検出する関節リウマチの検査方法。
- プロテインGまたはプロテインAを用いて免疫複合体を回収する請求項13に記載の方法。
- 治療中または治療を受けた関節リウマチ患者から経時的に採取された試料から回収した免疫複合体における、トロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の有無を検出することを含む、関節リウマチ患者に対する治療効果の評価方法。
- プロテインGまたはプロテインAを用いて免疫複合体を回収する請求項15に記載の方法。
- トロンボスポンジン−1を特異的に認識する抗体および/または血小板第4因子を特異的に認識する抗体を含む、関節リウマチの検査用キット。
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