JP2012092468A - アクリル繊維束およびその製造方法 - Google Patents
アクリル繊維束およびその製造方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2012092468A JP2012092468A JP2010242376A JP2010242376A JP2012092468A JP 2012092468 A JP2012092468 A JP 2012092468A JP 2010242376 A JP2010242376 A JP 2010242376A JP 2010242376 A JP2010242376 A JP 2010242376A JP 2012092468 A JP2012092468 A JP 2012092468A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- fiber bundle
- acrylic fiber
- oil
- mass
- oil agent
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Granted
Links
Landscapes
- Treatments For Attaching Organic Compounds To Fibrous Goods (AREA)
- Artificial Filaments (AREA)
Abstract
【解決手段】アクリル繊維束製造工程中の油剤処理工程で、シリコーン系化合物を含有する油剤成分を含む油剤処理液をアクリル繊維束に付着させ、蛍光X線により前記シリコーン系化合物の付着量を測定する監視工程を有する、アクリル繊維束の製造方法である。
【選択図】なし
Description
また、油剤が過剰に付着しないように付着量を調整する技術として、油剤を付着させ乾燥した後の前駆体繊維束を界面活性剤が含まれる洗浄液に通すことで、付着した油剤の一部を除去する方法が提案されている(特許文献4参照)。
また、特許文献4に記載の方法では、全体的に油剤付着量が低下するのみで、定着した余分な油剤成分のみを除去することはできず、均一に油剤が付着した前駆体繊維束を得ることはできなかった。
また、特許文献5〜7に記載の各装置は、繊維束中に油剤処理液を行き渡らせ、繊維束半径方向の斑を低減することはできたとしても、数日から数ヶ月に渡る長期の製造工程において、常に一定量の油剤を繊維束に安定に付与して、経時的な油剤付与の安定性を可能にするものではなかった。
また、製造工程において、何らかの理由で局所的に油剤成分の付着異常が生じたとしても、それを検知できる技術も無かった。
また、従来、前駆体繊維束を製品として採取するためには、例えば前駆体繊維束をオフラインで複数回検査するなどして、前駆体繊維束の油剤成分の付着量が定常的に適正値の範囲内に入っているかどうか確認が必要であり、非常に手間がかかった。
前記油剤処理工程後に前記アクリル繊維束を乾燥緻密化する乾燥緻密化工程を有し、該乾燥緻密化工程後に前記監視工程を有することが好ましい。
前記監視工程で測定された前記付着量に応じて、前記油剤処理工程の処理条件を制御して、前記アクリル繊維束への前記油剤成分の付着量を所定の管理値にコントロールする制御工程を有することが好ましい。
前記アクリル繊維束は、当該アクリル繊維束の質量を100質量%とした場合、前記油剤成分を100質量%中、0.1〜1.0質量%含むものであることが好ましい。
前記シリコーン系化合物は、アミノ変性シリコーンであることが好ましい。
前記油剤処理液は、非イオン系乳化剤を含有することが好ましい。
前記油剤処理液中では、平均粒子径0.01μm以上0.5μm以下のミセルが形成されていることが好ましい。
本発明のアクリル繊維束は、上述の製造方法により製造されたアクリル繊維束である。
アクリル繊維束として炭素繊維前駆体アクリル繊維束を例示し、その製造方法の一例について、以下に詳細に説明する。
本実施形態例の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法では、公知の紡糸技術によりアクリル繊維束(前駆体繊維束)を得る紡糸工程を行う。
具体的には、アクリロニトリル系重合体を溶剤に溶解して、紡糸原液とし、この紡糸原液を凝固浴中に吐出して繊維化し、凝固糸を製造する方法が挙げられる。アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルを主な単量体とし、これを重合して得られる重合体であり、アクリロニトリルのみから得られるホモポリマーでも、主成分であるアクリロニトリルに加えて他の単量体を併用したアクリロニトリル系共重合体であってもよい。
アクリロニトリル系共重合体におけるカルボキシル基含有ビニル系単量体単位の含有量は0.5〜2.0質量%が好ましい。
これらビニル系単量体は、1種単独で用いても良よく、2種以上を併用してもよい。
なお、紡糸原液は適正な粘度・流動性を必要とするため、重合体濃度は25質量%を超えない範囲が好ましい。
凝固浴として溶剤を含む水溶液を用いる場合、水溶液中の溶剤濃度は、ボイドがなく緻密な構造を形成させ高性能な炭素繊維束を得られ、かつ延伸性が確保でき生産性に優れる等の理由から、50〜85質量%が好ましく、凝固浴の温度は10〜60℃が好ましい。
紡糸工程において、紡糸原液を凝固浴中に吐出して繊維化し、得られた凝固糸には、延伸処理工程により延伸し、アクリル繊維束とすることができる。具体的な延伸方法としては、凝固浴中または延伸浴中で延伸する浴中延伸や、一部空中延伸した後に、浴中延伸する方法が挙げられる。そして、延伸の前後あるいは延伸と同時に適宜水洗を行うことにより、水膨潤状態のアクリル繊維束を得ることができる。
浴中延伸は、通常50〜98℃の水浴中で1回あるいは2回以上の多段に分割するなどして行い、空中延伸と浴中延伸を行う場合には、合計倍率が2〜10倍になるように凝固糸を延伸するのが、得られる炭素繊維束の性能の点から好ましい。
ついで、シリコーン系化合物を含む油剤成分が水中に分散した油剤処理液に、水膨潤状態のアクリル繊維束を連続的に接触させ、油剤成分をアクリル繊維束に付着させる油剤処理工程を行う。
ここで油剤処理液としては、油剤成分を水中に分散させて、平均粒子径が0.01〜0.50μmのミセルを形成させた水系の乳化溶液(エマルション)を用いる。ミセルの平均粒子径が上記範囲内であれば、アクリル繊維束の表面に油剤成分を均一に付与できる。
なお、油剤処理液中のミセルの平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、商品名:LA−910)を用いて測定することができる。
油剤成分には、耐熱性樹脂や芳香族エステルなどの非シリコーン成分、帯電防止剤や酸化防止剤、抗菌剤、浸透剤などの添加物を任意成分として含有させてもよい。これらは、アクリル繊維束に油剤成分を付着させるための装置の種類、使用環境などに応じて、操業性向上の目的や、水系乳化溶液の安定性や付着特性の向上を目的として使用される。
酸化防止剤を含有させる場合は、酸化防止剤を予めシリコーン系化合物に溶かしておくことが好ましい。また、帯電防止剤および/または抗菌剤を含有させる場合は、水を加えて水系乳化溶液とした後に添加攪拌することが好ましい。
各成分の混合または水中分散は、プロペラ攪拌、ホモミキサー、ホモジナイザー等を使って行うことができる。特に、150MPa以上に加圧可能な超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
シリコーン系化合物の粘度は25℃において50〜300mm2/sが水系乳化溶液の調製の容易さ、耐熱性保持の観点から好ましい。
シリコーン系化合物は1種単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。変性基が異なる、あるいは変性基を有しないシリコーン系化合物を混合して用いても差し支えない。
なお、「所定の濃度」は、油剤処理時のアクリル繊維束の状態によって調整される。
これらの方法の中でも、均一付着の観点から、アクリル繊維束に十分に油剤処理液を浸透させ、その後余分な油剤処理液を除去するディップ付着法が好ましい。より均一に付着させるためには、油剤処理工程を2つ以上の多段にし、繰り返し付着させることも有効である。
ついで、油剤処理工程で油剤成分が付着したアクリル繊維束を乾燥して、緻密化する乾燥緻密化工程を行う。乾燥緻密化工程の温度は、繊維のガラス転移温度を超えた温度とすることが必要である。例えば温度が100〜200℃程度の加熱ローラーによる方法にて乾燥緻密化するのが好ましい。このとき加熱ローラーの個数は、1個でもよく、複数個でもよい。
ついで、本実施形態例では、このような乾燥緻密化工程後に、油剤成分が付着したアクリル繊維束のケイ素(Si)量を大気(常圧)中での蛍光X線分析法によりオンライン測定して、アクリル繊維束へのシリコーン系化合物の付着量を連続的に監視する監視工程を行う。具体的には、乾燥緻密化工程から後述の二次延伸処理工程へと、油剤成分が付着したアクリル繊維束を搬送する途中に、蛍光X線分析装置を設置して、アクリル繊維束中のSiの蛍光X線強度を測定し、予め作成した検量線によりSi含有量を定量する。
このSiは油剤成分に含まれるシリコーン系化合物由来の元素であり、測定されるSi含有量は、アクリル繊維束へのシリコーン系化合物の付着量と相関しており、さらには、アクリル繊維束への油剤成分の付着量とも相関している。そのため、Si含有量から油剤成分の付着量を求めることができる。
アクリル繊維束に対して種々の付着量で油剤成分を付着させ、それぞれの付着量のアクリル繊維束に対して、上述した搬送途中において、Siの蛍光X線強度を測定する。その後、蛍光X線強度を測定した部分のアクリル繊維束を採取し、鋏で細かく粉砕した後に、密閉るつぼに50mg秤量する。ついで、この中に、粉末状としたNaOH、KOHを各0.25g加え、マッフル炉にて210℃で150分間加熱分解する。これを蒸留水で溶解し100mlに定容したものを測定試料としてICP発光分析装置(サーモエレクトロン株式会社製、装置名:IRIS Advantage AP)にてSi含有量を求める。Siの蛍光X線強度と、ICP発光分析装置による精密分析結果との相関式をもって、検量線とすることができる。検量線を作成する際には、定量性を高めるために、検量線作成時の油剤成分の付着量(検量点)が、実際の工程での付着量をカバーするように、付着量を決定して検量線作成する。さらには、実際の工程での付着量の近傍に、検量点を設定することが好ましい。
ついで、監視工程で測定されたオンライン測定の測定値(Si含有量)、すなわち、シリコーン系化合物の付着量に応じて、油剤処理工程の処理条件を制御して、アクリル繊維束への油剤成分の付着量を所定の管理値にコントロールする制御工程を有する。具体的には、予め設定した管理値から±5%の範囲内であれば、管理値に等しいものとみなし、この範囲から外れた場合には、例えば油剤処理槽の油剤成分の濃度を変更するなど、油剤処理工程の処理条件を制御する。
乾燥緻密化したアクリル繊維束には、二次延伸処理工程により、更に延伸処理を施すことが好ましい。延伸方法としては、加圧あるいは常圧水蒸気による水蒸気延伸、熱盤延伸、加熱ローラーによる延伸等、公知の延伸技術を用いることができる。これらの中でも、安定した均一延伸が可能な加熱ローラーによる延伸処理が好ましい。このような延伸処理により、得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維束の緻密性や配向度をさらに高めることができる。特に、加熱ローラーにより乾燥緻密化したアクリル繊維束を搬送させながら、ローラー速度を変えることで、1.1〜4.0倍に延伸すると、得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維束の緻密性や配向度をより向上できる。
加熱ローラーの温度としては150〜200℃程度が好ましい。温度が150℃未満であると、可塑化が不完全となり、延伸をかけた際に毛羽等が発生し、得られたアクリル繊維束を炭素繊維束にするための炭素化工程で繊維束が搬送ローラー等に巻き付いて、工程障害を招き操業性が低下することがある。一方、温度が200℃を超えると、酸化反応や分解反応などが開始され、炭素繊維前駆体アクリル繊維束を焼成して得られる炭素繊維束の品質を低下させる場合がある。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、この状態で、炭素繊維束とするための焼成工程に移される。
このようにして得られる本発明のアクリル繊維束は、このアクリル繊維束の質量を100質量%とした場合、付着した油剤成分を100質量%中、0.1〜1.0質量%含むことが好ましく、より好ましくは0.3〜0.5質量%含むことが好ましい。油剤成分の付着量が0.1質量%未満であると、油剤成分本来の機能を十分に発現することが困難となる場合がある。一方、油剤成分の付着量が1.0質量%を越えると、油剤成分が過剰となりやすく、アクリル繊維束の製造過程において、アクリル繊維束を搬送しながら乾燥したり延伸したりする際などに用いられる加熱ローラー上に析出、堆積し、アクリル繊維束が巻き付くなどの操業性を低下させる場合がある。
なお、「乾燥質量」とは、乾燥緻密化工程で処理された後のアクリル繊維束の乾燥繊維質量のことである。
すなわち、メチルエチルケトンによるソックスレー抽出法に準拠し、90℃のメチルエチルケトンにアクリル繊維束を8時間浸漬させて油剤成分を抽出し、抽出前のアクリル繊維束の質量W1、および抽出後のアクリル繊維束の質量W2をそれぞれ測定し、下記式(I)により油剤成分の付着量を求める。
油剤成分の付着量(質量%)=((W1−W2)/W2)×100 ・・・(I)
このようにして製造されたアクリル繊維束を前駆体繊維束として得られる炭素繊維束は、様々な構造材料に用いられる繊維強化樹脂複合材料の強化繊維として好適である。
本実施例に用いた各種測定方法、および評価方法は以下の通りである。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造を始めてから10分おきに、得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束を採取し、Si含有量を蛍光X線分析装置(理学電機工業株式会社製、製品名:ZSX100e)にて測定し、油剤成分の付着量が安定化するまでの時間を評価した。
具体的には、製造開始後10分おきに採取した上記アクリル繊維束を、縦20mm、横40mm、厚み5mmのアクリル樹脂製板に、隙間のない様に均一に巻き付け、これを蛍光X線分析装置にセットした。このとき、測定に付す繊維束の巻き長は同一とすることが重要である。その後、通常の蛍光X線分析方法により各繊維束のSiの蛍光X線強度を測定し、検量線を用いて各繊維束のSi含有量を求めた。測定数はn=5とし、平均値を算出した。この値のうち、連続した3回分の測定結果の標準偏差が100ppmとなった時点を、付着量が安定化した定常状態と判断した。この安定化するまでの時間を定常化時間として、操業性の指標の一つとした。
<油剤成分の付着量>
炭素繊維前駆体アクリル繊維束を105℃で1時間乾燥させた後、メチルエチルケトンによるソックスレー抽出法に準拠し、90℃のメチルエチルケトンに8時間浸漬して付着した油剤成分を溶媒抽出した。抽出前の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の質量W1、および抽出後の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の質量W2をそれぞれ測定し、下記式(I)により油剤成分の付着量を求めた。なお、測定回数は各ボビンあるいは各ケンスにつき10回とし、全ボビンあるいは全ケンスの平均値を油剤付着量とした。
油剤成分の付着量(質量%)=((W1−W2))/W2×100 ・・・(I)
<付着斑>
連続して製造された炭素繊維前駆体アクリル繊維束について、各ボビンあるいは各ケンスにつき上記の油剤成分の付着量の測定を行った。ついで、各ボビンあるいは各ケンスについて10回測定した値の、各ボビンあるいは各ケンスにおける平均値を算出し、その平均値を用いて全ボビンあるいは全ケンスにおける変動係数(標準偏差の平均値に対する百分率)を算出して、一連の製品における油剤付着斑を評価した。評価基準は以下の通りとした。
○:変動係数が5%以下。
×:変動係数が5%より大きい
炭素繊維前駆体アクリル繊維束を30日間連続して製造した時に、製造工程中の搬送ローラーへ単糸が巻き付き、除去した頻度により、操業性の評価をした。評価基準は1日当たりの平均除去回数とし、次の通りとした。
○:除去回数(回/日)≦1
△:除去回数(回/日)2〜5
×:除去回数(回/日)>5
炭素繊維前駆体アクリル繊維のSi含有量A1、耐炎化繊維のSi含有量A2との差から計算される耐炎化工程前後の繊維束中Si含有量の変化を、Si飛散量(シリコーン系化合物由来のケイ素化合物飛散量)として評価した。
具体的には、鋏で細かく粉砕した試料(炭素繊維前駆体アクリル繊維、耐炎化繊維)を密閉るつぼに50mg秤量し、粉末状としたNaOH、KOHを各0.25g加え、マッフル炉にて210℃で150分間加熱分解する。これを蒸留水で溶解し100mlに定容したものを測定試料としてICP発光分析装置(サーモエレクトロン株式会社製、装置名:IRIS Advantage AP)にてSi含有量を求め、下記式(II)によってSi飛散量を算出する。
Si飛散量(mg/kg)=A1−A2 ・・・(II)
アクリル繊維束の各ボビンあるいは各ケンスごとに測定を行い、それらの平均値をその製造条件におけるSi飛散量として評価に用いた。
炭素繊維束を長さ3mmに切断し、アセトン中に分散させ、10分間攪拌した後の全単繊維数と、単繊維同士が融着している数(融着数)を計算し、単繊維100本当たりの融着数を算出し、以下の評価基準にて評価した。
○:融着数(個/100本)<1
×:融着数(個/100本)≧1
<ストランド強度の測定>
連続して製造された炭素繊維前駆体アクリル繊維束を焼成し、JIS−R−7608に規定されているエポキシ樹脂含浸ストランド法に準じて測定した。なお、測定回数はアクリル繊維束の各ボビンあるいは各ケンスにつき10回とし、それらの平均値をストランド強度として評価した。
<物性の安定発現評価>
上記の測定において、各ボビンあるいは各ケンスごとの10回の測定の平均値を用い、測定した各ボビン各ケンス間でのストランド強度の振れを変動係数として評価した。下記評価基準にて機械的特性の発現安定性を評価した。
○:変動係数が5%以下。
×:変動係数が5%より大きい。
<油剤成分の調製>
下記の組成で油剤成分の水系乳化溶液を調製した。
・1級側鎖タイプのアミノ変性シリコーン 80質量%
(信越化学工業株式会社製、商品名:KF−865)
・ノナエチレングリコールドデシルエーテル(非イオン系乳化剤) 20質量%
(日光ケミカルズ株式会社、商品名:NIKKOL BL−9EX)
調製手順は、上記の油剤成分を混合し、さらに上記油剤成分の濃度が30質量%になるようにイオン交換水を加え、ホモミキサーで乳化した。この状態でのミセルの平均粒子径をレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、装置名:LA−910)を用いて測定したところ、10μm程度であった。
その後、さらに高圧ホモジナイザーにより、ミセルの平均粒子径が0.3μm以下になるまで分散し、油剤成分の水系乳化溶液を得た。
油剤成分を付着させるアクリル繊維束は、次の方法で調製した。
アクリロニトリル系共重合体(組成比:アクリロニトリル/アクリルアミド/メタクリル酸=97/2/1(質量比))をジメチルアセトアミドに溶解し、重合体濃度21質量%の紡糸原液を調製し、濃度60質量%、温度35℃のジメチルアセトアミド水溶液を満たした凝固浴中に孔径(直径)50μm、孔数50000の紡糸ノズルより吐出し凝固糸とした。凝固糸は水洗槽中で脱溶媒するとともに5.5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維束とした(紡糸工程および延伸処理工程)。
先に得られた油剤成分の水系乳化溶液をイオン交換水で希釈して、油剤成分の初期濃度が0.6質量%になるように調整した油剤処理液を満たした油剤処理槽に、水膨潤状態のアクリル繊維束を導き、水系乳化溶液を連続的に付着させた。油剤処理槽を通過したアクリル繊維束は油剤の斑付き抑制や、必要以上の処理液を後工程に持ち出さないためにガイドバーで絞られる。ガイドバーは工程中の糸道を制御する円柱状のバーであり、繊維束をローラーで搬送するためには一定の張力が発生するため、その張力によってバーで扱かれて余分な油剤処理液が除去される。製品である前駆体アクリル繊維束への付着量0.3質量%を目標値とし、電磁定量ポンプを用いて、油剤成分が30質量%濃度の水系乳化溶液を油剤処理槽に定量的、連続的に追加した(油剤処理工程)。
その後、油剤処理液が付着したアクリル繊維束を表面温度180℃のロールにて乾燥緻密化(乾燥緻密化工程)した後に、表面温度190℃のロールを用い1.5倍延伸を施し(二次延伸処理工程)、炭素繊維前駆体アクリル繊維束を得た。得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束をケンスに振り込んで後述の焼成工程に移した。
また、このように監視すると共に、Si含有量がこの値(管理値)から±5%外れた場合には、これに連動して前記電磁定量ポンプのストローク数を変化させて、油剤処理槽に供給する水系乳化溶液の量を調整することによって、油剤処理槽中の油剤処理液の濃度(油剤成分の濃度)を変化させ、アクリル繊維束に付着させる油剤成分の付着量をコントロールした(制御工程)。この時、電磁定量ポンプのストローク数を変えてから、繊維への付着量が変化するのにはタイムラグがあるため、一度ストローク数を変更した後には、その後10分間はストローク数を変更せず、10分間経過してから、さらに必要がある場合には再度ストローク数を変更するようにした。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造は連続して30日間行い、10時間ごとに切断し、ケンスを替えて続けて製造し、合計で72ケンスの炭素繊維前駆体アクリル繊維束を得た。
油剤成分の付着量が安定し定常化するのに要した時間、得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束の油剤成分の付着量、付着斑を測定し、製造中の操業性を評価した。結果を表1に示す。
得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束を、220〜260℃の温度勾配を有する耐炎化炉に通して耐炎化し、耐炎化繊維束とした(耐炎化工程)。そして、上述のSi飛散量を評価した。結果を表1に示す。
その後、該耐炎化繊維束を窒素雰囲気中で400〜1400℃の温度勾配を有する炭素化炉に入れて、炭素繊維束とした(炭素化工程)。得られた炭素繊維束の単繊維間融着数、ストランド強度の測定とその安定発現性を評価した。結果を表1に示す。
<油剤成分の調製>
油剤成分の組成を下記のように変えた以外は実施例1と同様の手法で水系乳化溶液を調製した。
・1級および1,2級側鎖タイプのアミノ変性シリコーン 80質量%
(東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名:FZ−3785)
・ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(非イオン系乳化剤) 20質量%(BASFジャパン株式会社製、商品名:Pluronic PE6800)
<炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造>
孔径(直径)75μm、孔数12000の紡糸ノズルを用い、凝固浴の条件を38℃、ジメチルアセトアミドの濃度が67質量%、アクリル繊維束のSi含有量の管理値を1200ppmとし、炭素繊維前駆体アクリル繊維束をボビンで採取した。それ以外は実施例1と同様にして炭素繊維前駆体アクリル繊維束を製造した。
<炭素繊維束の製造>
実施例1と同様にして炭素繊維束を製造した。各評価結果を表1に示した。
<油剤成分の調製>
油剤成分の組成を下記のように変えた以外は実施例1と同様の手法で水系乳化溶液を調製した。
・両末端タイプのアミノ変性シリコーン 80質量%
(信越化学工業株式会社製、商品名:KF−8012)
・ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(非イオン系乳化剤) 20質量%(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社、商品名:PLURONIC F−68)
<炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造>
孔径(直径)45μm、孔数24000の紡糸ノズルを用い、凝固浴の条件を38℃、ジメチルアセトアミドの濃度が66質量%、アクリル繊維束のSi含有量の管理値を1500ppmとし、炭素繊維前駆体アクリル繊維束をボビンで採取した。それ以外は実施例1と同様にして炭素繊維前駆体アクリル繊維束を製造した。
<炭素繊維束の製造>
実施例1と同様にして炭素繊維束を製造した。各評価結果を表1に示した。
監視工程を行わず、そのため、監視工程に基く制御工程も行わない以外は、実施例1〜3と同様にして、それぞれ比較例1〜3を行った。各評価結果を合わせて表1に示した。なお、電磁定量ポンプにより、油剤成分が30質量%濃度の水系乳化溶液を油剤処理槽に定量的、連続的に追加することは行った。
監視工程を行わず、そのため、監視工程に基く制御工程も行わず、さらには、初期の油剤処理槽の濃度を1.7質量%に設定し、アクリル繊維束への油剤成分の付着量を増やすように条件設定した以外は、実施例1と同様にして比較例4を実施した。各評価結果を合わせて表1に示した。なお、電磁定量ポンプにより、油剤成分が30質量%濃度の水系乳化溶液を油剤処理槽に定量的、連続的に追加することは行った。
また、各実施例で得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束を前駆体繊維束として焼成して得られた炭素繊維束には、実質的に融着が無く、耐炎化工程におけるSi飛散量も良好であった。炭素繊維束の機械的強度の発現も良好で、長期連続生産においてもその値は変動が少なく、品質安定性に優れていた。
また、比較例1〜3においては、油剤成分の付着量は30日間に紡糸された全ケースあるいは全ボビンの値を平均化すると実施例1〜3と比較して実質的に同等であったが、各ケースあるいは各ボビン間の付着斑が大きかった。
操業性は比較例1,3では実施例同等であったが、比較例2において実施例よりやや劣る傾向にあった。
これらのアクリル繊維束を焼成して得られた炭素繊維束の融着数は各実施例と比べて多かった。
また、Si飛散量、平均のCF強度は実施例1〜3と同等であったが、CF強度は安定した物性を発現しなかった。このことから、Si飛散量は少なく、操業性への悪影響は少ないものの、油剤成分の付着が不均一であるために、CF強度の安定性が悪くなったと考えられる。
このようにして製造されたアクリル繊維束から得られた炭素繊維束は、例えばプリプレグ化したのち複合材料に成形することもできる。この炭素繊維束を用いた複合材料は、ゴルフシャフトや釣り竿などのスポーツ用途、さらには構造材料として自動車や航空宇宙用途、また各種ガス貯蔵タンク用途などに好適に用いることができ、有用である。
Claims (8)
- アクリル繊維束製造工程中の油剤処理工程で、シリコーン系化合物を含有する油剤成分を含む油剤処理液をアクリル繊維束に付着させ、蛍光X線により前記シリコーン系化合物の付着量を測定する監視工程を有する、アクリル繊維束の製造方法。
- 前記油剤処理工程後に前記アクリル繊維束を乾燥緻密化する乾燥緻密化工程を有し、該乾燥緻密化工程後に前記監視工程を有する、請求項1に記載のアクリル繊維束の製造方法。
- 前記監視工程で測定された前記付着量に応じて、前記油剤処理工程の処理条件を制御して、前記アクリル繊維束への前記油剤成分の付着量を所定の管理値にコントロールする制御工程を有する、請求項1または2に記載のアクリル繊維束の製造方法。
- 前記アクリル繊維束が、当該アクリル繊維束の質量を100質量%とした場合、前記油剤成分を100質量%中0.1〜1.0質量%含むものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアクリル繊維束の製造方法。
- 前記シリコーン系化合物が、アミノ変性シリコーンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアクリル繊維束の製造方法。
- 前記油剤処理液が、非イオン系乳化剤を含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のアクリル繊維束の製造方法。
- 前記油剤処理液中では、平均粒子径0.01μm以上0.5μm以下のミセルが形成されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のアクリル繊維束の製造方法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により製造されたアクリル繊維束。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2010242376A JP5866752B2 (ja) | 2010-10-28 | 2010-10-28 | アクリル繊維束およびその製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2010242376A JP5866752B2 (ja) | 2010-10-28 | 2010-10-28 | アクリル繊維束およびその製造方法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2012092468A true JP2012092468A (ja) | 2012-05-17 |
JP5866752B2 JP5866752B2 (ja) | 2016-02-17 |
Family
ID=46386123
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2010242376A Expired - Fee Related JP5866752B2 (ja) | 2010-10-28 | 2010-10-28 | アクリル繊維束およびその製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP5866752B2 (ja) |
Citations (5)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPH04240223A (ja) * | 1991-01-25 | 1992-08-27 | Mitsubishi Rayon Co Ltd | 油剤付着斑の監視法 |
JPH11217734A (ja) * | 1997-11-21 | 1999-08-10 | Toray Ind Inc | 炭素繊維およびその製造方法 |
JP2007039866A (ja) * | 2005-06-30 | 2007-02-15 | Toray Ind Inc | 炭素繊維前駆体用油剤および炭素繊維前駆体 |
JP2008196097A (ja) * | 2007-01-18 | 2008-08-28 | Mitsubishi Rayon Co Ltd | 炭素繊維前駆体アクリル繊維束およびその製造方法 |
JP2009263817A (ja) * | 2008-04-25 | 2009-11-12 | Mitsubishi Rayon Co Ltd | 油剤付与装置および油剤付与方法 |
-
2010
- 2010-10-28 JP JP2010242376A patent/JP5866752B2/ja not_active Expired - Fee Related
Patent Citations (5)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPH04240223A (ja) * | 1991-01-25 | 1992-08-27 | Mitsubishi Rayon Co Ltd | 油剤付着斑の監視法 |
JPH11217734A (ja) * | 1997-11-21 | 1999-08-10 | Toray Ind Inc | 炭素繊維およびその製造方法 |
JP2007039866A (ja) * | 2005-06-30 | 2007-02-15 | Toray Ind Inc | 炭素繊維前駆体用油剤および炭素繊維前駆体 |
JP2008196097A (ja) * | 2007-01-18 | 2008-08-28 | Mitsubishi Rayon Co Ltd | 炭素繊維前駆体アクリル繊維束およびその製造方法 |
JP2009263817A (ja) * | 2008-04-25 | 2009-11-12 | Mitsubishi Rayon Co Ltd | 油剤付与装置および油剤付与方法 |
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP5866752B2 (ja) | 2016-02-17 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
KR101210081B1 (ko) | 탄소 섬유 전구체 아크릴 섬유용 유제 조성물, 탄소 섬유 전구체 아크릴 섬유속 및 그 제조방법 | |
JP6017109B2 (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法 | |
JP5585579B2 (ja) | 油剤組成物が付着した炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法、および炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物と炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物分散液 | |
JP5659597B2 (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物、および炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法 | |
JP5707690B2 (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物、および炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法 | |
JP5712480B2 (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物、および炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法 | |
JP2015221957A (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法 | |
JP2010007216A (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル系繊維用油剤組成物、並びに炭素繊維前駆体アクリル系繊維束及びその製造方法 | |
JP4917991B2 (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物 | |
JP6510299B2 (ja) | 耐炎化繊維束、炭素繊維前駆体繊維束、およびそれからなる炭素繊維の製造方法 | |
JP5866752B2 (ja) | アクリル繊維束およびその製造方法 | |
JP2014163008A (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法、および炭素繊維束 | |
JP4311246B2 (ja) | 合成繊維処理油剤 | |
JP5862198B2 (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維束 | |
JP5831129B2 (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維束 | |
JP6167735B2 (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物と炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物分散液、および炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法 | |
JP4995754B2 (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維束およびその製造方法 | |
JP4990195B2 (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維束およびその製造方法 | |
JP2013209771A (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維束 | |
JP2015101804A (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維束及びその製造方法 | |
JP5872246B2 (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤、炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物、および炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤処理液 | |
JP6314369B2 (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物と炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物分散液、および炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法 | |
JP2014167175A (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法 | |
JP5872245B2 (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物、および炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤処理液 | |
JP5960943B2 (ja) | 炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物、炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法、ならびに炭素繊維束の製造方法 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20131024 |
|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20141016 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20141028 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20141224 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20150512 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20150710 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20151208 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20151221 |
|
R151 | Written notification of patent or utility model registration |
Ref document number: 5866752 Country of ref document: JP Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151 |
|
S533 | Written request for registration of change of name |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313533 |
|
R350 | Written notification of registration of transfer |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350 |
|
LAPS | Cancellation because of no payment of annual fees |