JP2012064792A - スピントルク発振器、並びにそれを搭載した磁気記録ヘッド及び磁気記録装置 - Google Patents

スピントルク発振器、並びにそれを搭載した磁気記録ヘッド及び磁気記録装置 Download PDF

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Abstract

【課題】安定したスピントルク発振が実現でき、信頼性が高いスピントルク発振器を提供する。
【解決手段】スピントルク発振器は主磁極6の上に、磁化固定層4、非磁性中間層3、第一の磁性層1、第二の磁性層2、キャップ層5、対向磁極7を順に積層した構成であり、bcc結晶構造を有する面内磁気異方性を有した第一の磁性層1と、その上に積層されたCo及びNiの多層膜からなる垂直磁気異方性を有した第二の磁性層2からなる積層構造を有する。
【選択図】図5

Description

本発明は、安定して高周波発振するスピントルク発振器、及び、高い磁気記録密度に対応した、マイクロ波アシスト記録用スピントルク発振器を有した磁気記録ヘッド、並びに磁気記録装置に関するものである。
近年、HDD(Hard Disk Drive)の再生ヘッドに用いられているTMR(Tunneling Magneto Resistance)ヘッドや、スピン注入MRAM(Magnetic Random Access Memory)など、スピンエレクトロニクス素子が情報技術の発展に大きな貢献をしている。このような、スピンエレクトロニクス素子の開発過程で、スピントルクを用いて磁性体を発振させ、マイクロ波を発生させるスピントルク発振器や、高周波電流を整流するスピントルクダイオード効果などが発見され、高周波の生成、検波、変調、増幅など、その応用の可能性は更なる広がりを見せている。特に、HDDへのスピントルク発振器の応用に関しては、将来の高記録密度を達成する手段として、大きな注目を浴びている。以下に、HDDの高記録密度化が直面する問題及び、それを解決し高記録密度を達成するための方法に関して、より詳細に背景を説明する。
HDDはその記録密度向上に伴い、年々、記録媒体のビットサイズは微細化が進んでいる。しかしながら、ビットサイズの微細化が進むにつれ、熱揺らぎによる記録状態の消失が懸念される。このような問題を解決し、将来の高密度記録での記録ビットを安定に維持するためには保磁力の大きな(すなわち磁気異方性の大きな)記録媒体を使用する必要があるが、保磁力の大きな記録媒体に記録を行うためには強い記録磁界が必要である。しかし実際には、記録ヘッドの狭小化及び、利用可能な磁性材料の制限により、記録磁界強度にも上限がある。このような理由により、記録媒体の保磁力は、記録ヘッドで発生可能な記録磁界の大きさによって制約される。このように、媒体の高い熱安定性と、記録しやすい保磁力という、相反する要求に応えるため、各種の補助手段を使って記録媒体の保磁力を記録時にのみ実効的に低くする記録手法が考案されており、磁気ヘッドとレーザなどの加熱手段を併用して記録を行う熱アシスト記録などがその代表である。
一方、記録ヘッドからの記録磁界に高周波磁界を併用することにより記録媒体の保磁力を局所的に低減させて記録を行うアイディアも存在する。例えば、特許文献1には、高周波磁界により磁気記録媒体をジュール加熱あるいは磁気共鳴加熱し、媒体保磁力を局所的に低減することにより情報を記録する技術が開示されている。このような高周波磁界と磁気ヘッド磁界との磁気共鳴を利用する記録手法(以降、マイクロ波アシスト記録という)では、磁気共鳴を利用するため、反転磁界の低減効果を得るためには、媒体の異方性磁界に比例する、大きな高周波磁界を印加することが必要である。
近年になり、スピントルク発振器のように、スピントルクを用いた高周波磁界の発生原理が提案され、マイクロ波アシスト記録の可能性が現実的なものとなってきた。たとえば、非特許文献1には、外部からのバイアス磁界なしに発振するスピントルク発振器に関する計算結果が開示されている。また、非特許文献2には、垂直磁気ヘッドの主磁極に隣接した磁気記録媒体近傍に、スピントルクによって磁化が高速回転する磁化高速回転体(Field Generation Layer:FGL)を配置してマイクロ波(高周波磁界)を発生させ、磁気異方性の大きな磁気記録媒体に情報を記録する技術が開示されている。さらに、非特許文献3には、FGLに近接する主磁極の磁界を利用してFGLの回転方向を制御するスピントルク発振器が提示され、これにより、効率的に、媒体のマイクロ波アシスト磁化反転が実現できるとされている。
特開平6−243527号公報
X. Zhu and J. G. Zhu, "Bias-Field-Free Microwave Oscillator Driven by Perpendicularly Polarized Spin Current" IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, P2670 VOL.42, NO.10 (2006) J. G. Zhu and X. Zhu, ‘Microwave Assisted Magnetic Recording,’ The Magnetic Recording Conference (TMRC) 2007 Paper B6 (2007) J. Zhu and Y. Wang, ‘Microwave Assisted Magnetic Recording with Circular AC Field Generated by Spin Torque Transfer,’ MMM Conference 2008 Paper GA-02 (2008)
マイクロ波アシスト記録用のスピントルク発振器を構成するFGLに求められる特性は、大きな高周波磁界強度・高い発振周波数・大きなスピントルク効率・安定した発振特性であると考えられる。
そこで、安定した発振特性を得るための構造についてLLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式を用いたシミュレーションによって考察した。面内磁気異方性を有する第一の磁性層単層をFGLとして用いた場合と、その上に垂直磁気異方性を有する第2の磁性層を積層した積層型のFGLに関してその発振特性を比較した結果、第一の磁性層のみの構造では、発振層が多磁区化する条件が多く、安定発振する条件が極めて狭いことが分かった。一方で、第一の磁性層の上に第二の磁性層を積層した構造では、第二の磁性層により第一の磁性層に垂直磁気異方性が誘起され、その結果、第一の磁性層の多磁区化が抑制され、安定して発振しやすいことが分かった。多磁区化が抑制された結果、発振磁界強度も増加する。このような理由により、大きな高周波磁界強度を安定して得るためには、第一の磁性層に隣り合う強磁性層として垂直磁気異方性を有する層を形成することが効果的であることがわかった。
また、安定して発振しながら、大きな高周波磁界を得るためには、FGL層に高い飽和磁束密度Bsを有する材料を用いるか、もしくは厚膜を形成する必要がある。非特許文献2は、スピントルク発振器に関して、Bs=2.5Tを有する面内磁気異方性FGLと、1.5×108erg/cm3の垂直磁気異方性を有する垂直磁化膜の2層を積層した構成からなる発振積層構造に関するシミュレーション結果を開示している。しかし、高いBsを得るためにCoFe系材料を使うことが良いと言及していることを除いては、計算パラメータを実現するための具体的な材料・構成に関しては記述がない。また、実際高いBsを有する材料として代表的なFeCo(Fe65at%、Co35at%付近)では、その結晶構造はbcc構造になるため、fcc構造を基本に持つCo系垂直磁気異方性膜をbcc構造のFeCo上に単純に積層しただけでは、大きな垂直磁気異方性を発現させることが難しい。
本発明は、FGLにおいて、bcc構造の面内磁化膜の上に、大きな垂直磁気異方性を発現可能な具体的な材料・積層構成を提案することで、安定した発振が実現でき、信頼性が高いスピントルク発振器を提供する。
上記問題を解決するための本発明の一形態は、発振層にbcc結晶構造を有し面内磁気異方性を有する第一の磁性層と、その上に積層されたCo及びNiの多層構造からなる垂直磁気異方性を有する第二の磁性層とからなる積層構造を備えるスピントルク発振器である。
本発明によれば、安定した発振が実現でき、信頼性が高いスピントルク発振器を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
[Co(X)/Ni(Y)]n多層膜のCo組成とHkの関係を示す図。 [Co(X)/Ni(Y)]n多層膜のXRDプロファイルを示す図。 bcc結晶構造材料であるCoFeGe上に形成した[Co(0.2)/Ni(0.4)]20膜のXRDプロファイルを示す図。 CoFeGeに垂直磁気異方性が誘起されたことを示す面直磁界方向の磁化曲線を示す図。 スピントルク発振器の具体的な構成例を示す図。 スピントルク発振器の具体的な構成例におけるFMR特性を示す図。 スピントルク発振器の具体的な構成例を示す図。 スピントルク発振器の具体的な構成例におけるFMR特性を示す図。 スピントルク発振器を搭載した磁気ヘッドの例を示す概略図。 磁気ディスク装置の全体構成図。
以下に本発明の実施例を挙げ、図表を参照しながらさらに具体的に説明する。
[実施例1]
図1は、[Co(0.2〜0.8)/Ni(0.2〜0.8)]n=5-20/Pt(5)/Ta(3)/ガラス基板の種々の構成に関して、ベタ膜を250℃で3時間の熱処理を施した後、試料振動型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)を用いて、磁化曲線から異方性磁界Hkを評価した結果を示したものである。なお、()内の数値は膜厚をnm単位で示したものである。nは[Co/Ni]の積層数を表す。横軸のCo組成は、成膜したCoとNiの比率をat%に換算したものである。この結果から、磁性膜中のCoの平均組成が、20at%≦Co≦80at%の組成範囲で、積層数が5≦n≦20の場合には、少なくとも[Co(0.2〜0.8)/Ni(0.2〜0.8)]n=5-20は、Hk≧10kOeを有する垂直磁化膜になっていることがわかる。ここで、平均組成とは、[Co/Ni]nを一体の磁性層と考えたときに、その磁性層のうち、Coが占める割合で定義される。
図2には、代表的な組成として、[Co(X)/Ni(Y)]20:(X,Y)=(0.2,0.4)(0.4,0.2)(0.2,0.2)の時の、形成した膜のX線回折(X-ray diffraction:XRD)測定結果を示す。この結果から、[Co(X)/Ni(Y)]20は、fcc(111)配向したPt上にfcc(111)配向していることもわかる。
次に、図3には、Ta(3)/[Co(0.2)/Ni(0.4)]20/Co39Fe38Ge23(6)/Ta(3)/ガラス基板を形成し、XRD測定をした結果を示す。この結果から、bcc(110)配向したCo39Fe38Ge23上でも、[Co/Ni]20多層膜はfcc(111)配向を維持していることが分かる。このように、fcc(111)配向が維持されていれば、bcc構成上に垂直磁気異方性を誘起できる。
図4には、図3で作成した試料の垂直方向の磁化曲線を、Kerr効果を用いて測定した結果を示す。この結果によると、Co39Fe38Ge23上に[Co(0.2)/Ni(0.4)]20膜を形成することで、Co39Fe38Ge23が反磁界に打ち勝って垂直方向に飽和するための外部磁界が、9.5kOe低くなることが分かる。このことから、[Co(0.2)/Ni(0.4)]20はbcc磁性材料上に垂直磁化膜として形成され、かつCo39Fe38Ge23に9.5kOeの垂直磁気異方性を誘起しているといえる。
同様に、[Co(0.2〜0.8)/Ni(0.2〜0.8)]n=5-20のすべての構成において、Co39Fe38Ge23に垂直磁気異方性を誘起可能であった。以上により、[Co(0.2〜0.8)/Ni(0.2〜0.8)]n=5-20は、少なくとも20at%≦Co≦80at%の組成範囲で、bcc磁性材料の上に垂直磁化膜になっているといえる。
同様に、種々の第一の磁性層に対して、その上に第二の磁性層として[Co(0.2)/Ni(0.4)]20を形成した場合のΔHkに関して、表1にまとめる。なお、表1中の上向き矢印は、その上のものと同一の構成であることを示している。
Figure 2012064792
表1によると、bcc結晶構造をとり面内磁気異方性を有する第一の磁性層として、FeCo,FeNi,CoFeGe,CoFeSi,CoFeAl,CoMnGe,CoMnSi,CoMnAl単層膜を用いた場合、及び、FeCo/CoFeGe,FeCo/CoFeAl,FeCo/CoMnGeの積層構成を用いた場合に、Hkを誘起可能なことが分かる。さらに、第一の磁性層としては、スピントルク効率を向上させるために、CoFeSnもしくは、CoMnZ(Z=Al,Si,Ge,Sn)など、ホイスラー合金と呼ばれる材料の組み合わせでも同様の効果が得られる。ホイスラー合金で用いられる材料の組み合わせを用いる場合は、必ずしもストイキオメトリー組成でなくても、大きなスピントルク効率が得られる。
また、第二の磁性層としてCo,Niの多層膜の他に、CoNiに第三元素としてPtやPdを添加した垂直磁気異方性を有する合金、もしくはCoNi合金とPt又はPdとの多層膜を用いた垂直磁気異方性を有する構造も用いることが可能である。表2は、その構成例と、第一の磁性層に誘起されたHkを示したものである。PtやPdを添加することで、第二の磁性層の飽和磁束密度Bsや異方性磁界Hkをコントロールすることが可能で、スピントルク発振器の設計に応じてPtやPdの組成を変化させることで、所望の特性が得られる。なお、表2中の上向き矢印は、その上のものと同一の構成であることを示している。
Figure 2012064792
[実施例2]
図5に、実施例1に記載の第一の磁性層及び第二の磁性層を有する、スピントルク発振器の具体的な構成例を示す。
図5は、主磁極6の上に、磁化固定層4、非磁性中間層3、第一の磁性層1、第二の磁性層2、キャップ層5、対向磁極7を順に積層した構成である。本構成の主磁極6の材料としては、大きな記録磁界強度を得るためにCoFeをベースとする高Bs材料を用いることが望ましい。また、その上に積層される磁化固定層4は、スピントルク源となるため、スピントルクによる磁化の揺らぎを抑制する必要があり、垂直磁気異方性を有するCoPt,CoCrPt,CoPd,FePt,CoFePd,TbFeCo及びCo/Niなどの、合金及び多層膜を用いることができる。また、主磁極6から、対向磁極7への漏洩磁界を用いて磁化方向を膜面に垂直に固定することも可能で、その場合は、垂直磁気異方性を有する膜のほかに、面内磁化膜を用いてもよい。ただし、面内磁化膜を用いる場合は、スピントルク耐性の観点から磁化固定層4の[飽和磁束密度Bs×膜厚t]は第一の磁性層1のそれの2倍程度以上にすることが望ましい。特に、スピン注入効率を向上させる観点からは、磁化固定層4として用いる面内磁化膜としては、ホイスラー合金や、CoFeBなどがよい。
非磁性中間層3としては、CPP−GMRを用いたスピントルク発振器を形成する場合には、スピン拡散長の長いAu,Ag,Cuなどの金属材料を用いることができる。また、TMRを利用したスピントルク発振器を構成することも可能で、その場合には、非磁性中間層3として、Al23,MgO,ZnOなど、大きなスピン依存トンネリング現象の期待できる絶縁層を形成することが望ましい。
第一の磁性層1としては、FeX(X=Co,Ni)からなる二元合金、CoFeZ(Z=Al,Si,Ge,Sn)からなる三元合金もしくは、CoMnZ(Z=Al,Si,Ge,Sn)からなる三元合金及び、これらを積層した構造を用いることができる。
第二の磁性層2としては、Co,Niの他に、第三元素としてPt,Pdを添加した垂直磁気異方性を有する合金、もしくは多層膜を用いた垂直磁気異方性を有する構造も用いることが可能である。
キャップ層5は、スピントルク発振器へのプロセスダメージを抑制し、対向磁極7と第二の磁性層2の磁気結合を切るための層である。この層は、電気抵抗の低い非磁性材料であることが望ましく、Au,Ag,Cu,Ru,Ir,Pd及びTaの単層、もしくはこれらの積層構成が候補として挙げられる。対向磁極7は、主磁極6の磁界勾配を急峻にするために必要であるが、スピントルク発振器の高周波磁界強度が十分高い場合は、必ずしも必要ではない。
図6には、第一の磁性層1として6nmのCo39Fe38Ge23、第二の磁性層2として[Co(0.2)/Ni(0.4)]18を用い、磁化固定層4として[Co(0.2)/Ni(0.4)]20を用いたスピントルク発振器において、電気的に測定した強磁性共鳴(Ferromagnetic Resonance:FMR)特性を示す。電流は、磁化固定層4から第一の磁性層1方向へ流れるようにした。FMR特性を評価することで、そのピーク位置からFGLの発振周波数が分かる。また、ピークの半値幅が狭いことは、有効なダンピング定数が小さくなっていることを意味し、半値幅が最も小さい状況で、定常的なFGLの歳差運動が起こっている。作製したスピントルク発信器は、12GHz近傍に発振ピークを持ち、半値幅の狭さから、定常的な歳差運動、つまり安定した発振が起こっていると考えられる。
なお、ここでは、スピントルク発振器をマイクロ波アシスト記録方式の磁気記録ヘッドに搭載することを前提に説明したが、スピントルク発振器の用途は磁気記録ヘッドに限られない。例えば、高周波電流を周波数選択的に整流するスピントルクダイオードとして用いることや、外部磁界の変化をFMR周波数の変化として高感度に読み取る高感度磁界検知素子などへの応用も可能である。その場合には、図5に示す主磁極6および対向磁極7は必要なく、磁化固定層4からキャップ層5までを電気回路に組み込むことで動作する。
[実施例3]
図7に、実施例1に記載の第一の磁性層及び第二の磁性層を有する、スピントルク発振器の別の具体的な構成例を示す。
図7は、主磁極6の上に、第二の磁性層2、第一の磁性層1、非磁性中間層3、磁化固定層4、キャップ層5、対向磁極7を順に積層した構成である。本構成の主磁極6の材料としては、大きな記録磁界強度を得るためにCoFeをベースとする高Bs材料を用いることが望ましい。また、その上に積層される第二の磁性層2としては、Co,Niの他に、第三元素としてPt,Pdを添加した垂直磁気異方性を有する合金、もしくは多層膜を用いた垂直磁気異方性を有する構造を用いることが可能である。
この際、主磁極6の材料がCoFeをベースとするbcc結晶構造を有するため、第二の磁性層2の磁気特性は、実施例1に記載の、第一の磁性層1上に第二の磁性層2を形成した場合と同等の特性を示す。
本実施例で、第二の磁性層2の上に形成される第一の磁性層1としては、FeX(X=Co,Ni)からなる二元合金、CoFeZ(Z=Al,Si,Ge,Sn)からなる三元合金もしくは、CoMnZ(Z=Al,Si,Ge,Sn)からなる三元合金及び、これらを積層した構造を用いることができる。
非磁性中間層3としては、CPP−GMRを用いたスピントルク発振器を形成する場合には、スピン拡散長の長いAu,Ag,Cuなどの金属材料を用いることができる。また、TMRを利用したスピントルク発振器を構成することも可能で、その場合には、非磁性中間層3として、Al23,MgO,ZnOなど、大きなスピン依存トンネリング現象の期待できる絶縁層を形成することが望ましい。
磁化固定層4は、スピントルク源となるため、スピントルクによる磁化の揺らぎを抑制する必要があり、垂直磁気異方性を有するCoPt,CoCrPt,CoPd,FePt,CoFePd,TbFeCo及びCo/Niなどの、合金及び多層膜を用いることができる。また、主磁極6から、対向磁極7への漏洩磁界を用いて磁化方向を膜面垂直に固定することも可能で、その場合には、垂直磁気異方性を有する膜のほかに、面内磁化膜を用いてもよい。ただし、面内磁化膜を用いる場合は、スピントルク耐性の観点から磁化固定層4の[飽和磁束密度Bs×膜厚t]は、第一の磁性層1のそれの2倍程度以上にすることが望ましい。特に、スピン注入効率を向上させる観点からは、磁化固定層4として用いる面内磁化膜としては、ホイスラー合金や、CoFeBなどがよい。
キャップ層5は、スピントルク発振器へのプロセスダメージを抑制し、対向磁極7と磁化固定層4の磁気結合を切るための層である。この層は、電気抵抗の低い非磁性材料であることが望ましく、Au,Ag,Cu,Ru,Ir,Pd及びTaの単層、もしくはこれら複数材料を用いた多層構造が候補として挙げられる。対向磁極7は、主磁極6の磁界勾配を急峻にするために必要であるが、スピントルク発振器の高周波磁界強度が十分高い場合は、必ずしも必要ではない。
図8に、第一の磁性層1として6nmのCo39Fe38Ge23を用い、第二の磁性層2として[Co(0.2)/Ni(0.4)]18を用い、磁化固定層4として[Co(0.2)/Ni(0.4)]20を用いたときの、スピントルク発振器のFMR特性を示す。電流は、磁化固定層4から第一の磁性層1方向へ流れるようにした。作製したスピントルク発信器は、8.7GHz近傍に発振ピークを持ち、半値幅の急峻さから、定常的な歳差運動、つまり安定した発振が起こっていると考えられる。
本実施例のスピントルク発振器は、マイクロ波アシスト記録方式の磁気記録ヘッドに搭載することができる。その場合、主磁極6は記録磁界を発生する磁極となる。なお、スピントルク発振器の用途は磁気ヘッドに限られず、スピントルク発振器の用途は磁気記録ヘッドに限られない。例えば、高周波電流を周波数選択的に整流するスピントルクダイオードとして用いることや、外部磁界の変化をFMR周波数の変化として高感度に読み取る高感度磁界検知素子などへの応用も可能である。その場合には、図7に示す主磁極6および対向磁極7は必要なく、第二の磁性層2からキャップ層5までを電気回路に組み込むことで動作する。
[実施例4]
図9は、実施例1〜3に記載されたスピントルク発振器を搭載した磁気ヘッドの断面拡大図である。磁気ヘッドは、記録ヘッド部と再生ヘッド部により構成されており、記録ヘッド部は、補助磁極206、主磁極6と対向磁極7との間に配置されたスピントルク発振器201、主磁極を励磁するコイル205等により構成される。記録磁界は主磁極6から発生される。再生ヘッド部は、下部シールド208と上部シールド210の間に配置された再生センサ207等により構成される。図示されてはいないが、コイルの励磁電流や再生センサの駆動電流及び高周波磁界発生素子への印加電流は、各々の構成要素毎に設けられた電流供給端子により供給される。
図9に示すように、対向磁極7は素子高さ方向上方にて主磁極6の方へ延び、互いに磁気的な回路を構成している。ただし、素子高さ方向上方においては電気的には絶縁されているものとする。その結果、主磁極6からスピントルク発振器201を介して対向磁極7へ、直列の電気回路が形成されるため、主磁極6及び対向磁極7に電極を接続することで、スピントルク発振器201へスピントルク発振に必要な電流を流すことが可能である。
[実施例5]
実施例4に示した磁気ヘッド、及び磁気記録媒体を組み込んで磁気記録再生装置を構成した。図10は本実施例の磁気記録再生装置の全体構成を示す模式図であり、(A)は上面図、(B)はそのA−A′での断面図である。磁気記録媒体(磁気ディスク)101は回転軸受け104に固定され、モータ100により回転する。図10では3枚の磁気ディスク、6本の磁気ヘッドを搭載した例について示したが、磁気ディスクは1枚以上、磁気ヘッドは1本以上あれば良い。磁気記録媒体101は、円盤状をしており、その両面に記録層を形成している。スライダ102は、回転する記録媒体面上を略半径方向移動し、先端部に磁気ヘッドを有する。サスペンション106は、アーム105を介してロータリアクチユエータ103に支持される。サスペンション106は、スライダ102を磁気記録媒体101に所定の荷重で押しつける又は引き離そうとする機能を有する。ロータリアクチュエータ103によってアーム105を駆動することにより、スライダ102に搭載された磁気ヘッドは、磁気記録媒体101上の所望トラックに位置付けられる。
磁気ヘッドの各構成要素を駆動するための電流はICアンプ113から配線108を介して供給される。記録ヘッド部に供給される記録信号や再生ヘッド部から検出される再生信号の処理は、リードライト用のチャネルIC112により実行される。また、磁気記録再生装置全体の制御動作は、メモリ111に格納されたディスクコントロール用プログラムをプロセッサ110が実行することにより実現される。従って、本実施例の場合には、プロセッサ110とメモリ111とがいわゆるディスクコントローラを構成する。
上述したような構成について、本発明の磁気ヘッド及びこれを搭載した磁気記録再生装置を試験した結果、充分な出力と、高い記録密度を示し、また動作の信頼性も良好であった。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
1 第一の磁性層
2 第二の磁性層
3 非磁性中間層
4 磁化固定層
5 キャップ層
6 主磁極
7 対向磁極
100 モータ
101 記録媒体
102 スライダ
103 ロータリアクチユエータ
104 回転軸受け
105 アーム
106 サスペンション
108 配線
110 プロセッサ
111 メモリ
112 チャネルIC
113 ICアンプ
201 スピントルク発振器
205 コイル
206 補助磁極
207 再生センサ
208 下部シールド
210 上部シールド

Claims (10)

  1. bcc結晶構造を有し面内磁気異方性を有する第一の磁性層と、
    前記第一の磁性層の上に形成されたCo及びNiの多層膜からなる垂直磁気異方性を有する第二の磁性層と、
    を有することを特徴とするスピントルク発振器。
  2. bcc結晶構造を有し面内磁気異方性を有する磁極と、
    前記磁極の上に形成されたCo及びNiの多層膜からなる垂直磁気異方性を有する第二の磁性層と、
    前記第二の磁性層の上に積層されたbcc結晶構造を有し面内磁気異方性を有する第一の磁性層と、
    を備えることを特徴とするスピントルク発振器。
  3. 請求項1又は2に記載のスピントルク発振器において、前記第一の磁性層として、FeX(X=Co,Ni)からなる二元合金を用いることを特徴とするスピントルク発振器。
  4. 請求項1又は2に記載のスピントルク発振器において、前記第一の磁性層として、CoFeZ(Z=Al,Si,Ge,Sn)からなる三元合金を用いることを特徴とするスピントルク発振器。
  5. 請求項1又は2に記載のスピントルク発振器において、前記第一の磁性層として、CoMnZ(Z=Al,Si,Ge,Sn)からなる三元合金を用いることを特徴とするスピントルク発振器。
  6. 請求項1又は2に記載のスピントルク発振器において、前記第一の磁性層として、FeX(X=Co,Ni)からなる二元合金、CoFeZ(Z=Al,Si,Ge,Sn)からなる三元合金、及びCoMnZ(Z=Al,Si,Ge,Sn)からなる三元合金の群から選択された複数の合金を積層した積層膜を用いることを特徴とするスピントルク発振器。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のスピントルク発振器において、前記第二の磁性層の平均組成が20at%≦Co≦80at%の範囲であることを特徴とするスピントルク発振器。
  8. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のスピントルク発振器において、前記第二の磁性層としてCo及びNiの多層膜の代わりに、CoNiに第三元素としてPt又はPdを添加した垂直磁気異方性を有する合金、もしくはCoNi合金とPt又はPdとの多層膜を用いることを特徴とするスピントルク発振器。
  9. 記録磁界を発生する磁極と、高周波磁界を発生する素子とを備えるマイクロ波アシスト磁気記録ヘッドにおいて、
    前記高周波磁界を発生する素子として請求項1〜8のいずれか1項に記載のスピントルク発振器を用いたことを特徴とするマイクロ波アシスト磁気記録ヘッド。
  10. 磁気記録媒体と、
    前記磁気記録媒体を駆動する媒体駆動部と、
    前記磁気記録媒体に対して記録動作を行う磁気ヘッドと、
    前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体の所望トラックに位置付けるヘッド駆動部とを有する磁気記録装置において、
    前記磁気ヘッドは、記録磁界を発生する磁極と、請求項1〜8のいずれか1項に記載のスピントルク発振器とを備えることを特徴とする磁気記録装置。
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