JP2012059468A - 超電導電流リード - Google Patents

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Abstract

【課題】湾曲した状態で超電導装置に用いても磁場の影響を受けにくく、安定した超電導特性を得ること。
【解決手段】極低温容器内に設置された超電導装置に対して、室温環境下に設置された電源から電力を供給する超電導電流リード100において、両端のそれぞれに一対の電極131、133が接合されたリード本体152の表裏面152a、152b上に、複数の超電導線材160をそれぞれ並行に配置されている。超電導線材160は、両端部が電極131、133にそれぞれ接続されている。超電導線材160は、ReBaCu系超電材料からなる酸化物超電導層163を備え、酸化物超電導層163中には、Y,Zr、Sn、Ti、Ceのうち少なくとも一つを含む50nm以下の酸化物粒子が磁束ピンニング点として分散している。
【選択図】図5

Description

本発明は、超電導を応用した低温機器、例えば、超電導マグネットに電源からの電流を供給するための酸化物超電導線材を有する超電導電流リードに関する。
従来、超電導応用機器、例えば、超電導マグネットを運転する場合、マグネットを超電導状態とするために極低温に冷却する必要があり、この冷却方法として2つの方式が知られている。
即ち、液体ヘリウムや液体窒素等の冷媒に浸漬する方式(浸漬冷却方式)と冷凍機や冷媒からの熱伝導を利用する方式(伝導冷却方式)である。冷却したマグネットを励磁するためには、超電導コイルに電流を流さなければならず、電源から電流を供給するための超電導電流リードが必要である。この場合、超電導電流リードは導電体であることが必要であるが、電気抵抗が小さくかつ熱伝導率の大きいCuやAlなどの金属を使用すると、超電導電流リード自体のジュール発熱に加え外部からの熱侵入により超電導マグネットの冷却効率が悪くなり、超電導状態を維持するためには冷却コストが膨大になるという問題があった。特に、冷凍機を用いた伝導冷却方式の場合にこの傾向は顕著であり、冷却が不可能となる場合も生ずる。
この問題を解決するためには、超電導マグネットに用いる超電導電流リードとして、導電性と低熱伝導性を両立させる必要があり、超電導マグネットでは超電導電流リード部分も液体窒素温度以下に冷却される。このため、電気抵抗及び熱伝導率の小さい酸化物超電導体を超電導電流リードとして使用することにより、電流を供給しつつ、熱侵入量を低く抑えることが可能となる。
この場合、超電導電流リードとして、例えば、特許文献1に示すように、金属基板上に形成された中間層と、中間層の上に形成された酸化物超電導層と、酸化物超電導層の上に形成された安定化層を有するテープ状の酸化物超電導線材を用いた超電導電流リードが知られている。
この超電導電流リードでは、支持部材上に、並列に支持部材の延在方向に沿って複数形成された各溝内に、複数の酸化物超電導線材が、それぞれ電気的に並列に分散配置して、支持部材に導電性樹脂によって接着されている。また、酸化物超電導線材の両端部は、支持部材の両端部上で、電極にハンダ接合されている。
特開2009−211899号公報
しかしながら、従来の超電導電流リードにおける超電導層は、配置状況によって磁場の影響を受けることが知られている。すなわち、従来の超電導電流リードが湾曲して配置されることによって、超電導層では、電流が流れる方向と垂直な磁束の影響を受けることで発熱し、安定した超電導特性(電流供給)を損なう虞がある。
また、従来の超電導電流リードの構成では、湾曲させて超電導装置に設置すると、導電性樹脂により接合された超電導線材と支持部材とが剥離して、互いの接合に用いられた導電性樹脂によって超電導線材の各層或いは支持部材が破損する問題がある。破損の際には、超電導製材は安定した特性を得ることができなくなるという虞がある。特に、冷却による超電導線材の歪み、つまり、支持部材と金属端子との収縮率の違いによって、導電性樹脂による接合が外れるだけでなく、超電導線材が、支持部材または金属端子から外れて、超電導電流リードとして安定した超電導特性を得ることができない。
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、湾曲した状態で超電導装置に用いても磁場の影響を受けにくく、安定した超電導特性を得ることができる超電導電流リードを提供することを目的とする。
本発明の超電導電流リードの一つの態様は、極低温容器内に設置された超電導装置に対して、室温環境下に設置された電源から電力を供給する超電導電流リードにおいて、両端のそれぞれに一対の電極端子が接合された電流リード支持材と、前記電流リード支持材の表裏面のうち少なくとも一面上に、それぞれ並行に配置され、且つ、両端部が前記電極端子にそれぞれ接続された複数の超電導線材と、を有し、前記超電導線材は、ReBaCuO系(Reは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選択された1又は2種以上の元素を示し)超電材料からなる酸化物超電導層を備え、前記酸化物超電導層中には、Y,Zr、Sn、Ti、Ceのうち少なくとも一つを含む50nm以下の酸化物粒子が磁束ピンニング点として分散している構成を採る。
本発明によれば、湾曲した状態で超電導装置に設置されても、磁場の影響を受けにくく、安定した超電導特性を発揮できる。
本発明の一実施の形態に係る超電導電流リードを用いた超電導磁石装置の一例の模式的構成を示す図 超電導電流リードにおける低温側超電導部を示す斜視図 図1のP−P線矢視断面図 超電導線材の構造を示す図 超電導層の構成を示す図 本発明の超電導電流リードで採用される超電導線材の一例である採用例及び不採用例により製造された超電導体の印加磁場に対する臨界電流値の説明に供する図 本発明の超電導電流リードで採用される超電導線材の一例である採用例及び不採用例により製造された超電導体の磁場印加角度依存性の説明に供する図 超電導線材を有するリード本体の端部を示す斜視図
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る超電導電流リードを用いた超電導磁石装置の一例の模式的構成を示す図である。
図1に示す超電導電流リード100は、極低温容器11内に配設された超電導マグネット12に通電する。超電導電流リード100では、一端部の接続端子100aは極低温容器11内で、超電導マグネット12の接続端子12aを介して超電導マグネット12に接続され、他端部の接続端子100bは、極低温容器11の外部で室温環境下に設置された電源に接続されている。これにより超電導電流リード100は、極低温容器11外部の電源から極低温容器11内の超電導マグネット12に電力を供給する。
図1に示す超電導電流リード100は、極低温容器11外に位置する接続端子100bに接続された高温側銅リード部110と、極低温容器11内に位置する接続端子100aに接続された低温側超電導部120とを有する。
図2は、超電導電流リード100における低温側超電導部120を示す斜視図である。
図2に示すように、低温側超電導部120は、一対の電極(電極端子)131、133と、一対の電極131、133が両端部151、153に接合されたリード本体150とを有する。
一対の電極131、133は銅或いは銅合金等の金属で作成され、それぞれ一端面を切り欠くことによって、リード本体150の端部151、153が挿入される凹部(切り欠き部)135が形成されている。
凹部135は、一対の電極131、133におけるそれぞれの端面に互いに対向するように、つまり、通電方向に互いに開口するように形成されている。これら電極131、133における凹部135内には、リード本体150の端部151、153がそれぞれ端面に対して直交して挿入されて内嵌している。
リード本体150は、長尺の電流リード支持材(以下「支持部材」という)152と、支持部材(電流リード支持材)152上に支持部材152の延在方向に沿って配置された複数のテープ状の高温超電導線材(以下、「超電導線材」という)160とを有する。
図3は、図1のP−P線矢視断面図である。
図3に示すようにリード本体150では、テープ状の超電導線材160が、支持部材152の表裏面152a、152bのそれぞれに、支持部材152の軸方向に沿って互いに並行に複数配置されている。なお、複数の超電導線材160は、支持部材152の表裏面の一方上にのみ互いに並行に並べて配置された構成としてもよい。また、ここでは複数のテープ状の超電導線材160は、支持部材152の表裏面152a、152b上にそれぞれ配置されているが、これに限らず、支持部材152の表裏面152a、152bのそれぞれに形成された溝内に配置された構成としても良い。なお、この構成の場合の溝は、支持部材152の表裏面152a、152bのそれぞれに、長手方向(通電方向)に並行で、且つ、超電導線材160の幅、厚みと同等の幅、深さの凹部として形成されることが好ましい。
支持部材152は、常温部からの熱侵入を低減するために低熱伝導性金属材料で製作され、低熱伝導性金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケル合金、チタン合金、FRP等が使用される。
図2に示すように、支持部材152の表裏面152a、152b(図3参照)に上に複数並べて配置された超電導線材160は、支持部材152の両端部152c、152dを電極131、133の凹部135でハンダを介して接合されている。
すなわち、これら複数の超電導線材160は、電極131、133の凹部135内でのみ支持部材152に固定されている。ここでは、複数の超電導線材160は、電極131、133の凹部135内でのみ支持部材152にハンダにより固定された構成としたが、接着剤により固定されてもよい。また、超電導線材160は、凹部135内で電極131、133にハンダを介して電気的に接合されている。なお、ここでは、超電導線材160の安定化層が電極131、133にハンダを介して電気的に接続されている。
図4は、超電導線材160の構造を示す図である。図4に示すように超電導線材160は、テープ状の金属基板161に、中間層162、酸化物超電導層(以下、「超電導層」と称する)163、安定化層164を順に積層されることによって形成される。
テープ状の金属基板161は、例えば、ニッケル(Ni)、ニッケル合金、ステンレス鋼又は銀(Ag)である。金属基板161は、ここでは、無配向金属基板であり、Ni−Cr系(具体的には、Ni−Cr−Fe−Mo系のハステロイ(登録商標)B、C、X等)、W−Mo系、Fe−Cr系(例えば、オーステナイト系ステンレス)、Fe−Ni系(例えば、非磁性の組成系のもの)等の材料に代表される立方晶系のHv=150以上の非磁性の合金である。金属基板161の厚さは、例えば、50〜200[μm]である。
中間層162は、IBAD法によりテープ状の金属基板161上に、GdZr(GZO)或いはイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)等を成膜した第1中間層162−1と、第1中間層162−1上にRF−Sputtering法によりCeOを蒸着して成膜される第2中間層162−2とを有する。
第1中間層162−1は、テープ状の金属基板161からの元素が上部に積層される超電導層163に拡散することにより超電導特性の劣化を引き起こすことを防止する拡散防止層として機能する。また、第1中間層162−1は、テープ状の金属基板161上に二軸配向してなるセラミック層として機能する。
第2中間層162−2は、超電導層163との格子整合性を高め、第1中間層162−1を構成する元素(Zrなど)拡散を抑制する。第2中間層162−2は、CeO膜、CeOにGdを所定量添加したCe−Gd−O膜、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで一部置換されたCe−M−O系酸化膜等のような耐酸性の薄膜である。第2中間層162−2は、MOD法(Metal Organic Deposition Processes:金属有機酸塩堆積法)、パルスレーザー蒸着法、スパッタ法またはCVD法のいずれかの方法により成膜することができる。なお、第2中間層162−2をCeO膜にGdを添加したCe−Gd−O膜とした場合、超電導層163としてYBCO超電導層を成膜した際に良好な配向性を得るために、膜中のGd添加量を50at%以下にすることが好ましい。
なお、第2中間層162−2は、結晶粒配向性が、その上層である超電導層163の結晶配向性と臨界電流値(Ic)に大きく影響を及ぼす。第2中間層162−2は第1中間層162−1上に、RTR式のRF−magnetron sputtering法により成膜される。このRTR式のRF−magnetron sputtering法は、PLD法と同様に、ターゲットと作製した膜の組成ずれが少なく、精確な成膜が可能である一方、PLD法に比べ、メンテナンスコスト等が安価である。なお、中間層162の厚さは、例えば、1[μm]であり、この中間層162上には超電導層163が成膜されている。
この超電導層163上には、銀、金、白金等の貴金属、あるいはそれらの合金であり低抵抗の金属である安定化層(キャップ層ともいう)164が設けられている。超電導層163は他の金属と反応しやすい活性な材料により構成されるため、金、銀などの貴金属、あるいはそれらの合金以外の材料と直接的に接触すると反応して性能低下を引き起こす。よって、安定化層164は、超電導層163の直上に形成することにより超電導層163の性能低下を防止する。また、安定化層164は、超電導層163に電流が流れているときに、常電導転移した場合のバイパス回路となる。
なお、安定化層164の上に、銅等の抵抗の低い低抵抗金属テープ等で第2安定化層を形成してもよい。第2安定化層は、真鍮、Ni、Ni−Cu合金、ステンレス鋼等の高抵抗の金属テープであってもよい。第2安定化層がCuやNi或いはその合金であれば、ハンダ材料に溶け込みにくいため、超電導線材160としての性能劣化を防止できる。なお、第2安定化層がNi−Cu合金等の高抵抗の金属テープである場合、超電導線材160自体を補強して強度を向上させることができるとともに、超電導線材160が交流に使用された際の損失を減少させることができる。このように第2安定化層は、安定化層164とともに、超電導層163、つまり、超電導線材160としての機械的、化学的、電磁気的および熱的な安定性を確保できる。なお、第2安定化層となるテープの厚さについて、超電導層163が常電導転移した場合のバイパス回路となるような厚さであれば特に限定されないが、50μmから200μm程度が好ましい。第2安定化層を備える場合、超電導線材160の電極131、133への電気的な接続は、第2安定化層と電極131、133とをハンダにより接合することで行われる。
図5は、超電導層163の構成を示す図である。
図5に示す超電導層163は、ReBaCu系(Reは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選択された1又は2種以上の元素を示し、y≦2及びz=6.2〜7である。)の高温超電導薄膜である。ここでは、超電導層163は、イットリウム系酸化物超電導体(RE123)である。また、超電導層163中には、Y,Zr、Sn、Ti、Ceのうち少なくとも一つを含む50nm以下の酸化物粒子が磁束ピンニング点165として分散している。
このような超電導層163を用いたRe系の超電導線材160は、基板上に、中間層162を介して原料溶液を塗布した後、仮焼熱処理を施し、次いで超電導体生成の熱処理を施すことによりReBaCu系超電導体を製造する。この方法において、原料溶液として、Re(Re=Y、Nd、Sm、Gd又はEuから選択された1種の金属元素を示す。)、Ba及びCuを含む有機金属錯体溶液とBaと親和性の大きいZr、Ce、Sn又はTiから選択された少なくとも1種以上の金属を含む有機金属錯体溶液からなる混合溶液を用い、Baのモル比をy<2の範囲内とするとともに、超電導体中にZr、Ce、Sn又はTiを含む50nm以下の酸化物粒子を磁束ピンニング点165として分散させることにより製造することができる。
また、基板上に中間層を介して形成したReBaCu系超電導体において、ReをRe=A1−xの組成とし、A及びBは、それぞれY、Nd、Sm、Gd又はEuから選択されたいずれか1種以上の異なる元素からなり、Baのモル比をy<2の範囲内とするとともに、超電導体中にZrを含む50nm以下の酸化物粒子を磁束ピンニング点165として分散させて形成してもよい。この場合、ReBaCu系超電導体を製造する方法において、原料溶液として、Re(Re=A1−xの組成を有し、A及びBは、それぞれY、Nd、Sm、Gd又はEuから選択されたいずれか1種以上の異なる元素を示す。)、Ba及びCuを含む有機金属錯体溶液とBaと親和性の大きいZr、Ce、Sn又はTiから選択された少なくとも1種以上の金属を含む有機金属錯体溶液からなる混合溶液を用い、Baのモル比をy<2の範囲内とするとともに、前記超電導体中にZr、Ce、Sn又はTiを含む50nm以下の酸化物粒子を磁束ピンニング点165として分散させることにより製造できる。
また、Re=A1−xの組成を有するRe系の超電導層では、Re=Y1−xSmの組成とすることが好適する。この場合には、超電導体中にSmを含む酸化物粒子及びZrを含む50nm以下の酸化物粒子を磁束ピンニング点165として分散させることができる。
このようなRe系の超電導層163及びその製造方法において、Baのモル比を1.3<y<1.8の範囲内とすることが好ましい。Baのモル比をその標準モル比より小さくすることにより、Baの偏析が抑制され、結晶粒界でのBaベースの不純物の析出が抑制される結果、クラックの発生が抑制されるとともに、結晶粒間の電気的結合性が向上して通電電流によって定義されるJcが向上する。Baのモル比を低減することにより、磁束ピンニング点165であるYCuやCuOが形成され、磁界特性が改善される。
また、超電導層163中に人工的に導入される磁束ピンニング点165として分散するZr、Ce、Sn又はTiを含む酸化物粒子は、50nm以下とされるが、特に、5〜30nmのZrを含む酸化物粒子であることが好ましい。
この場合、Y1−xSmの組成を用いた場合には、超電導層163中にlow−Tc相である粒子状のSmーrich相(Sm1+xBa2−xCu)が磁束ピンニング点165として形成される。超電導層163では、磁束ピンニング点165がSmを含む酸化物粒子及び5〜30nmのZrを含む酸化物粒子により形成される結果、著しくピンニング力が向上する。
人工的に導入される磁束ピンニング点165を形成するために添加されるZrの添加量は、金属濃度で0.5〜10モル%であることが好ましく、Zrの添加量が0.5モル%未満の場合、酸化物粒子の密度が十分でないため、高磁場で十分なピンニング力が得られず、一方、10モル%を超えると析出物が粗大化して結晶性を低下させる。特に、金属濃度で0.5〜5モル%の範囲が好ましい。
超電導線材160における超電導層163は、MOD法、パルスレーザー蒸着法、スパッタ法またはCVD法のいずれかの方法で、中間層162上に成膜される。ここでは、超電導層163は、TFAーMOD法で成膜され、TFAーMOD法によるRe系超電導層に磁束ピンニング点165を導入する手法として、TFAを含む溶液中にBaと親和性の高いZr含有ナフテン酸塩等を混合する手法が採用されている。
また、その導入量を制御することで、粒界偏析によるJc低下の要因の一つであるBaと結合してBaZrOを形成し、粒内に分散させることにより粒界特性が改善される。さらに、超電導体内に形成されたBaZrO、ZrOが膜面方向だけでなく、膜厚方向にもナノサイズ、ナノ間隔に存在しこれらが磁束を有効にピンニングし、磁場印加角度に対するJcの異方性を著しく改善することが可能となる。また、BaZrO、ZrOのサイズ、密度及び分散を制御するためには、Zr含有ナフテン酸塩等の導入量だけでなく、仮焼熱処理時及び結晶化熱処理時の酸素分圧、水蒸気分圧、焼成温度の制御により可能となり、これらの最適化を行うことにより有効な磁束ピンニング点165の導入が可能となる。
Ba濃度を低減したRe系超電導層において、超電導体中に人工的にZr含有磁束ピンニング点165を微細分散させることができる。
よって、Jcの磁場印加角度依存性が小さく、かつ、高磁場で高いJcを有する磁場特性を有するとともに、Jcの磁場印加角度依存性(Jc,min/Jc,max)も著しく向上する。このため、あらゆる磁場印加角度方向に対しても有効に磁束をピンニングして、Jc−B−θ特性(図6参照)を向上させることができ、等方的Jc特性が得られる。
ここで超電導層中に、磁束ピンニング点、特に、Zr含有磁束ピンニング点を備える超電導線材の特性について説明する。
<磁束ピンニング点を含む超電導層の特性>
<超電導電流リード100に採用する超電導線材の一例であって、磁束ピンニング点を含む超電導層を備える採用例>
採用例では、磁束ピンニング点を含む超電導層が設けられる基板として、ハステロイテープ上にIBAD法によりGdZrから成る第1中間層及びPLD法によりCeOからなる第2中間層を順次形成した複合基板を用いた。この場合の第1中間層及び第2中間層のΔφは、それぞれ14deg.及び4.5deg.であった。
一方、Y―TFA塩、Sm−TFA塩、Ba―TFA塩及びCuのナフテン酸塩をY:Sm:Ba:Cuのモル比が0.77:0.23:1.5:3となるように有機溶媒中に混合し、この混合溶液中にZr含有ナフテン酸塩を金属モル比で1%配合して原料溶液を作製した。
上記の複合基板の第2中間層上に原料溶液を塗布し、次いで、仮焼熱処理を施した。仮焼熱処理は、水蒸気分圧16Torrの酸素ガス雰囲気中で最高加熱温度(Tmax)500℃まで加熱した後、炉冷することにより施した。
以上の仮焼熱処理の後、超電導体生成の熱処理(結晶化熱処理)を施して複合基板上に超電導膜を形成した。この熱処理は、水蒸気分圧76Torr、酸素分圧0.23Torrのアルゴンガス雰囲気中で760°の温度で保持した後、炉冷することにより施した。
以上の方法により製造したテープ状Re系超電導体(YSmBCO+BZO)の膜厚は0.8μmであった。
このようにして得られた超電導膜について、その磁場印加角度依存性、即ち、c軸に平行な方向(ab面に垂直)に外部磁場を印加し、その値を変化させたときのJc(77K)を測定した。その結果を図6に示す。また、この超電導膜について、その磁場印加角度依存性、即ち、1Tの外部磁場を印加し、ab面に対する角度を変化させたときのJc(77K)を測定した。その結果を図7に示す。図7において、Jcの磁場印加角度依存性はJc,min/Jc,max=0.91であった。
このときの磁束ピンニング点は、Sm1+xBay=2−xCu(low−Tc相)、BaZrO及びZrOであり、約20nm(5〜25nm)程度のBaZrO及びZrOが超電導膜の(c軸に平行な)断面内において、おおよそ50nmの間隔でその膜厚方向に均一に分散していることが確認された。
<不採用例1>
採用例と同様の複合基板を用い、Y―TFA塩、Sm−TFA塩、Ba―TFA塩及びCuのナフテン酸塩をY:Sm:Ba:Cuのモル比が0.77:0.23:1.5:3となるように有機溶媒中に混合して原料溶液を作製した。上記の複合基板の第2中間層上に原料溶液を塗布し、次いで、採用例と同様にして仮焼熱処理及び超電導体生成の熱処理(結晶化熱処理)を施して複合基板上に超電導膜を形成した。以上の方法により製造したテープ状Re系超電導体(YSmBCO)の膜厚は0.8μmであった。
このようにして得られた超電導膜について、そのJcの磁場依存性を採用例と同様にして測定した。その結果を図7に示した。また、この超電導膜について、Jcの磁場印加角度依存性を採用例と同様にして測定した。Jcの磁場印加角度依存性はJc,min/Jc,max=0.6であった。このときの磁束ピンニング点は、Sm1+xBay=2−xCu(low−Tc相)であり、約100nm程度であった。
<不採用例2>
採用例と同様の複合基板を用い、Y―TFA塩、Ba―TFA塩及びCuのナフテン酸塩をY:Ba:Cuのモル比が1:1.5:3となるように有機溶媒中に混合して原料溶液を作製した。
上記の複合基板の第2中間層上に原料溶液を塗布し、次いで、採用例と同様にして仮焼熱処理及び超電導体生成の熱処理(結晶化熱処理)を施して複合基板上に超電導膜を形成した。以上の方法により製造したテープ状Re系超電導体(YBCO)の膜厚は0.8μmであった。
このようにして得られた超電導膜について、そのJcの磁場依存性を採用例と同様にして測定した。その結果を図6に示した。また、この超電導膜について、Jcの磁場印加角度依存性を採用例と同様にして測定した。その結果を図7に示した。図7において、Jcの磁場印加角度依存性はJc,min/Jc,max=0.47であった。
以上、図6及び図7に示す採用例及び不採用例の結果から明らかなように、磁束ピンニング点を含む超電導層であるテープ状Re系超電導体(YSmBCO+Zr含有酸化物粒)は、Yの一部をSmに置き換えた不採用例1のテープ状Re系超電導体(YSmBCO)及びBa濃度を標準組成よりも低減した不採用例2のテープ状Re系超電導体(YBCO)と比較してJcの磁場依存性が小さく、かつ、高磁場で高いJcを有する磁場特性を示している。
また、c軸に平行な方向(ab面に垂直)に1Tの外部磁場を印加した場合(77K)、不採用例1の(YSmBCO)は不採用例2の(YBCO)と比較して1.3倍のJcを有するが、採用例の(YSmBCO+Zr含有酸化物粒)は不採用例2の(YBCO)と比較して2.2倍のJcを有する。更に、採用例の(YSmBCO+Zr含有酸化物粒)の磁場印加角度依存性(Jc,min/Jc,max)も、不採用例2のYBCO及び不採用例1のYSmBCOがそれぞれ0.47及び0.6と異方性を示すのに対して0.91と著しく向上する。
よって、磁束ピンニング点を含む超電導層163は、図5に示すように、超電導層163と平行な磁場IA(c軸に平行)の発生に加えて、超電導層163に対して垂直(ab面に垂直)な磁場IBが発生しても、ピンニング点165によって影響を受けにくく安定した特性を得ることができる。なお、超電導層163においてZr添加を3wt%とすると好適である。
図8は、超電導線材160を有するリード本体150の端部を示す斜視図である。
図8に示すように超電導電流リード100は、支持部材152の表裏面に、作成した複数の超電導線材160をそれぞれ配置してリード本体150とする。
このように構成したリード本体150の両端部151(153)をそれぞれ電極131(133)の凹部135内に挿入する。なお、リード本体150の端部151(153)を凹部135内に挿入する前に、支持部材152の端部152c(152d)と、超電導線材160の両端部とをハンダ或いは接着剤を介して接合しておく。
次いで、リード本体150を挿入した凹部135内に、凹部135の内壁とリード本体150の両端部151(153)との間にハンダを流すことによって、超電導線材160は電極131、133に電気的に接続されるとともに電極131(133)が支持部材152に接合される。
このように構成された超電導電流リード100において、支持部材152の表裏面に、支持部材152の延在方向に沿って配置された超電導線材160は、その両端部でのみ支持部材152に対して接着されている。さらに、超電導線材160は、電極131、133に対して、凹部135内でのみハンダを介して接続されている。すなわち、超電導電流リード100では、電極131、133、支持部材152及び超電導線材160とは、凹部135とリード本体150との嵌合部分152eでのみ接合されることとなる。
これにより超電導電流リード100は、湾曲しても、電極131、133間に介設されるリード本体150では、支持部材152、超電導線材160が各々個別に独立して変形できる。よって、超電導電流リード100を湾曲させて超電導装置に設置した場合でも、従来と異なり、湾曲することによって、支持部材152、超電導線材160の接続部分が剥離することがない。
これに対して、従来の超電導電流リードでは、支持部材にハンダ付けにより超電導線材が接続されているため、従来の超電導電流リードを湾曲させると、支持部材と超電導線材とが剥がれ、その接合部分のハンダによって、支持部材或いは超電導線材の各層を損傷させてしまい、特性を損傷させてしまう可能性がある。
特に、設置された超電導電流リードに冷却によって歪みが発生しても、従来と異なり、本実施の形態の超電導電流リード100では、ハンダ付けによる接合が外れて支持部材152から超電導線材160が剥離することがなく、リード本体150が支持部材152または電極131、133から外れない。
すなわち、超電導電流リード100では、電極131、133の凹部135内への挿入によって嵌合するリード本体150の両端部151、153と凹部135との嵌合部分だけで、凹部135内にハンダを流し込むことで、電極131、133と、リード本体150における支持部材152及び超電導線材160との間の接合が行われている。
よって、超電導線材160は、従来の高温超電導線材と比較して支持部材と高温超電導線材とを接合するハンダの量を減少させることができ、製作コストの低廉化を図ることが出来る。
また、超電導線材160に歪みが生じても、ハンダを介して支持部材152と超電導線材160とが全面的に接合されていないため、接合された両者が剥離する可能性が小さく、超電導電流リード100自体は安定した特性を維持できる。
また、超電導電流リード100は、従来と異なり、支持部材152に超電導線材160がハンダによって全面的に取り付けられていない。このため、ハンダ付けする際の熱の影響を受けにくく、熱による超電導線材160の性能(具体的には超電導層163の性能)の劣化が起こりにくい。
さらに、湾曲した形状など変形した超電導線材160は、超電導層163にピンニング点165(図5参照)を備えるため、磁場のあるところに設置されても磁場の影響を受けにくく安定した特性を得ることができる。
さらに、支持部材152と超電導線材160とのハンダによる接合部分が、それぞれの両端部のみであるため、全面的に接合される従来構成と比較して接続抵抗(ハンダ全体の厚み)を小さくできる。
このように超電導電流リード100は、湾曲した状態で超電導装置に設置されても、磁場の影響を受けにくく、湾曲していない状態の超電導電流リード100の特性と同等の特性をうることができる。
<実施例1>
本実施例1では、TFA−MOD法で作製した超電導線材160は、幅が4.5mm、厚さ1.0μmのYBCO超電導層163と、第1中間層162−1をGdZr(GZO)層、第2中間層162−2をCeO層とした厚さ1.5μmの中間層162と、100μm厚のハステロイ(登録商標)であるテープ形状の金属基板161とで構成した。そして、超電導層163の表面には、約20μm厚さの銀層(第1安定化層)164が、熱的安定性、電気的接触の安定性、機械的強度などの向上を目的として蒸着されている。輸送電流は、この銀の第1安定化層164を介して供給される。
支持部材152は、幅36mm、長さ220mm、板厚3.0mmの形状をしたオーステナイト系ステンレンスの板材とした。このステンレス製板材の両面に12本のYBCO超電導層163を有する超電導線材160を配置、即ち片面に6本ずつ並べることでリード本体150を構成した。
リード本体150の両端部は、銅で作製したキャップ状の電圧端子である電極131、133を被せた後、市販されているPb−Snハンダを用いて電極131、133と超電導線材(YBCO線材)160をハンダ接続した。電極131、133は、長さ105mm、幅46mm、板厚30mm、凹部深さ35mmとし、これら電極131、133を使用した超電導電流リード全長360mmとした。
ステンレス製の金属基板161は、過電流通電におけるシャントの役割を担い、且つ薄いテープ状のYBCO線材(超電導線材160)における熱収縮を緩和する役割を果たす。一対の電極131、133は、電極間距離を150mmとし、各YBCO線材(超電導線材160)毎に12組設置した。
すなわち、実施例1の超電導電流リードは、すなわち、図5に示す超電導層163を備える超電導線材160、つまり、磁束ピンニング点165を含む超電導層163を有する超電導線材160と、電極131、133及び支持部材152とを備える。これら電極131、133及び支持部材152は、お互いに凹部135内でのみ接合されている。
このように構成された超電導電流リードを試料として、クライオスタットの液体窒素を寒剤として、湾曲させた状態、具体的には、試料を半径R=10mmの円筒体の外周に沿って湾曲させた状態で浸漬冷却した。この結果を表1で実施例として示す。
また、上記実施例1の超電導電流リードにおいて、ピンニング点を含まない超電導線材を有する超電導線材を参考例1とした。すなわち、参考例1は、実施例と同様の超電導電流リード100において、電極131、133、支持部材152及び磁束ピンニング点165を含まない超電導線材同士が凹部135内の部分以外、つまり嵌合部分以外では接着されていない超電導電流リードである。また、比較例1は、実施例1と同様の電極、支持部材と、実施例1の超電導線材において磁束ピンニング点を含まない超電導線材とを有し、支持部材と超電導線材とが全面的にハンダ付けされている超電導電流リードである。なお、線材の臨界電流値(I)は、通常の4端子抵抗法を用いて評価し、1μV/cmの電圧基準を用いて定義した。
Figure 2012059468
表1に示すように電極、支持部材、超電導線材の接合部分でのみ、支持部材及び超電導線材同士がハンダ付けされている実施例1の超電導電流リードでは、湾曲した状態における超電導特性Iは2400Aであり、支持部材と超電導線材との接合外れは見あたらなかった。
比較例1の超電導電流リードでは、湾曲した状態における超電導特性Iは600Aであり、支持部材と超電導線材との接合外れが見つかった。
このように、実施例1と比較例1との比較でみられるように、湾曲させた状態で超電導装置に設置したとしても、本実施の形態の超電導電流リードは、安定した超電導特性を得ることができる。
また、参考例1の超電導電流リードでは、湾曲した状態における超電導特性Iは1200Aであり、支持部材と超電導線材との接合外れは見あたらなかった。
なお、本実施の形態の超電導電流リードにおいて、複数の超電導線材における磁束ピンニング点を形成するZrの添加度合いは、それぞれの超電導線材で異なっていても良い。
例えば、支持部材の表裏面のうち少なくとも一面に複数の超電導線材が長手方向に沿って並べて配置された構成において、支持部材の両端に近い超電導線材におけるZrの含有度合いを最も大きくするようにしてもよい。
例えば、本実施の形態の超電導電流リード100では、6本の超電導線材のうち、支持部材において長手方向に延在する両端側に配置された線材における超電導層に含まれるZrを3wt%とし、これらに隣り合う線材の超電導層のZrを1wt%とする。さらに、1wt%のZrの内側で隣り合う線材の超電導層におけるZrを0wt%とするようにする構成が上げられる。
本発明に係る超電導電流リードは湾曲した状態で超電導装置に設置されても、磁場の影響を受けにくく、安定した超電導特性を発揮できる効果を有し、超電導装置に電流を供給するリードとして有用である。
11 極低温容器
12 超電導マグネット
100 超電導電流リード
120 低温側超電導部
131、133 電極
135 凹部
150 リード本体(電流リード支持材)
151、153 端部
152 支持部材
152a 表面
152b 裏面
152c、152d 端部
152e 嵌合部分
160 超電導線材
161 金属基板
162 中間層
163 超電導層
164 安定化層
165 磁束ピンニング点

Claims (6)

  1. 極低温容器内に設置された超電導装置に対して、室温環境下に設置された電源から電力を供給する超電導電流リードにおいて、
    両端のそれぞれに一対の電極端子が接合された電流リード支持材と、
    前記電流リード支持材の表裏面のうち少なくとも一面上に、それぞれ並行に配置され、且つ、両端部が前記電極端子にそれぞれ接続された複数の超電導線材と、
    を有し、
    前記超電導線材は、ReBaCuO系(Reは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選択された1又は2種以上の元素を示し)系超電材料からなる酸化物超電導層を備え、
    前記酸化物超電導層中には、Y,Zr、Sn、Ti、Ceのうち少なくとも一つを含む50nm以下の酸化物粒子が磁束ピンニング点として分散している、
    超電導電流リード。
  2. 前記超電導線材は、前記電極端子と接続する両端部でのみ、前記電流リード支持材に固定されている、
    請求項1記載の超電導電流リード。
  3. 前記電極端子は、通電方向と同じ方向に切り欠かれた切り欠き部を備え、
    前記超電導線材の両端部は、前記切り欠き部に、前記電流リード支持材とともに挿入され、且つ、前記切り欠き部で電気的に接続される、
    請求項1又は2記載の超電導電流リード。
  4. 前記磁束ピンニング点は、Zrを含む酸化物粒子である、
    請求項1から3の何れか一項に記載の超電導電流リード。
  5. 前記酸化物超電導層は、ReBaCu(REは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選択された1又は2種以上の元素を示し、y≦2及びz=6.2〜7)系超電導材料からなる、
    請求項1から4の何れか一項に記載の超電導電流リード。
  6. 前記酸化物超電導層は、TFA―MOD法により形成されたYBCO系超電導体である、
    請求項1から5の何れか一項に記載の超電導電流リード。
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