JP2012043580A - 電気絶縁塗料およびこれを用いた絶縁電線 - Google Patents

電気絶縁塗料およびこれを用いた絶縁電線 Download PDF

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Abstract

【課題】 絶縁電線の絶縁層表面に優れた潤滑性を付与し、かつ絶縁層の可とう性を大幅に向上させることにより、絶縁電線のコイル加工工程において、絶縁電線をスロット部に過密に挿入しても絶縁電線の絶縁層の損傷を低減させることができ、また過度の曲げや伸びに対し十分に追従する絶縁電線を提供する。
【解決手段】 数平均分子量が2,000以上の脂肪族系ポリエステル樹脂(A)と、皮膜形成樹脂(B)とを、含有する電気絶縁塗料、およびこの電気絶縁塗料を導体上に直接または他の絶縁層を介し、塗布、焼付してなる絶縁電線である。
【選択図】 図1

Description

本発明は、電気機器、民生電子機器などの巻線および配線に使用される、銅線、アルミニウム線等の導体の絶縁被膜の形成に有用な電気絶縁塗料、およびこれを用いた絶縁電線に関する。
電気機器、民生電子機器などに用いられる絶縁電線の製造工程や巻線工程は作業の効率化を図るため高速化しており、特にキャプスタン部やプーリー部などでは絶縁電線の絶縁層が摩擦などの機械的損傷を受けやすい。このため、レアショート等の絶縁不良が生じたり、場合によっては断線したりするなどの問題点があった。これらの機械的損傷を軽減するために、従来から絶縁電線の絶縁層の表面にパラフィン樹脂またはフッ素樹脂などを塗布したり、あるいは絶縁電線の絶縁層に6−ナイロン樹脂や6,6−ナイロン樹脂などを溶解させた塗料を塗布、焼付して上塗り層を設け、絶縁層の表面の静摩擦係数を小さくすることで絶縁電線の潤滑性を向上させる手段がとられてきた。(例えば特許文献1および2参照。)
しかしながら、絶縁層の表面にパラフィン樹脂またはフッ素樹脂などを塗布する場合、それらを絶縁層の表面に均一に塗布することは困難で塗布量にムラが生じ易い。このため、パラフィン樹脂またはフッ素樹脂などを塗布した絶縁電線は安定した潤滑性を得られないばかりか、絶縁層の表面にベタツキが生じてしまい絶縁電線に埃などが付着したり端止めに使用される粘着テープの接着性を低下させてしまうなどの欠点があった。また、6−ナイロン樹脂や6,6−ナイロン樹脂などを溶解した塗料を塗布、焼付し上塗り層を設けた場合、絶縁電線の絶縁層の耐軟化性が低下したり、絶縁電線の耐クレージング性が悪化するなどの不具合を生じてしまう。
上記の不具合を解消するために、絶縁電線の絶縁層の潤滑性を向上させる樹脂などを予め電気絶縁塗料に含有させ、これを塗布、焼付し絶縁層の表面に潤滑性を付与した自己潤滑性絶縁電線が提案されている。(例えば特許文献3および4参照。)
また、電気機器、民生電子機器などは小型化および軽量化の要求が非常に強くなっており、これに伴ってコイル、モーターなどに用いられる絶縁電線の占積率(一定空間内に占める絶縁電線密度)は年々高まってきている。従って、絶縁電線をコイルやモーターなどのスロットに挿入する工程では、より多くの絶縁電線をスロットに挿入させるため、隣接する絶縁電線間や絶縁電線とスロットとの摩擦などによって、絶縁電線の絶縁層に加わる機械的負荷は必然的に大きくなってしまう。このような機械的負荷によって絶縁電線の絶縁層が損傷し、場合によってはレアショートなどを引き起こしてしまうため、コイル、モーターなどの信頼性が大きく損なわれている。このようなことから、機械的負荷を低減させるために、絶縁電線の絶縁層の表面には今までにも増して潤滑性が要求されるようになってきている。
更に、スロットに挿入された絶縁電線はその挿入工程において過度の曲げや伸びが加わるため、前述した絶縁電線の絶縁層の潤滑性のみならず、過度の曲げや伸びに対し絶縁層が十分に追従しうる、絶縁電線の絶縁層の可とう性向上が課題となっている。
特開昭59−128709号公報 特開昭60−158507号公報 特開平8−180739号公報 特開2002−42565号公報
本発明の目的は、前述した要求および課題を解決するため、絶縁電線の絶縁層に優れた潤滑性を付与すると共に、過度の曲げや伸びに対し絶縁電線の絶縁層が十分に追従しうる、可とう性に富んだ絶縁電線およびそれに用いられる電気絶縁塗料を提供することである。
本発明者らは、上記の状況に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、数平均分子量が2,000以上の脂肪族系ポリエステル樹脂(A)と、皮膜形成樹脂(B)とを含有する電気絶縁塗料を塗布、焼付した絶縁電線は、耐軟化性や耐クレージング性などの電線特性を損ねることなく優れた潤滑性を有し、かつ絶縁層の可とう性が大幅に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)に示されるものである。
(1)数平均分子量が2,000以上の脂肪族系ポリエステル樹脂(A)と、皮膜形成樹脂(B)とを含有すること、を特徴とする電気絶縁塗料。
(2)前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)が、脂肪族系アルコールと脂肪族系カルボン酸または脂肪族系カルボン酸エステルとの反応によって得られる脂肪族系ポリエステル樹脂であり、かつ、脂肪族系アルコールの炭素数と、脂肪族系カルボン酸の炭素数または脂肪族系カルボン酸エステルのアルコキシルを除いた炭素数と、の和が9以上である、前記(1)の電気絶縁塗料。
(3)前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)が、反応性官能基を有する脂肪族系ポリエステル樹脂である、前記(1)または(2)の電気絶縁塗料。
(4)前記皮膜形成樹脂(B)が、ポリウレタン樹脂、前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂およびポリアミドイミド樹脂からなる群から選択される1種または2種以上の皮膜形成樹脂である、前記(1)〜(3)のいずれかの電気絶縁塗料。
(5)前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)の含有量が、前記皮膜形成樹脂(B)100質量部に対し0.1〜10質量部の割合である、前記(1)〜(4)のいずれかの電気絶縁塗料。
(6)前記(1)〜(5)の電気絶縁塗料を導体上に直接または他の絶縁層を介し、塗布、焼付してなる、絶縁層が形成された絶縁電線。
本発明の電気絶縁塗料は塗料安定性が良好でこれを塗布、焼付した絶縁電線を用いた場合、絶縁電線の絶縁層は優れた潤滑性を有し、かつ過度の曲げや伸びなどに十分に追従しうる可とう性に富んだ絶縁電線を提供することができる。
図1は絶縁電線の静摩擦係数を求めるために用いる測定器の斜視図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の電気絶縁塗料は、数平均分子量が2,000以上の脂肪族系ポリエステル樹脂(A)と、皮膜形成樹脂(B)とを含有する。
前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)は、電気絶縁塗料に用いられる皮膜形成樹脂(B)との相溶性が良いことや、電気絶縁塗料に用いられる有機溶剤に容易に溶解することから、これを適量含有させた電気絶縁塗料の塗料安定性は良好である。
本発明における脂肪族系ポリエステル樹脂(A)は、脂肪族系アルコールと脂肪族系カルボン酸または脂肪族系カルボン酸エステルとのエステル化反応またはエステル交換反応、特に脂肪族系アルコールと脂肪族系カルボン酸とのエステル化反応から得られる数平均分子量が2,000以上の脂肪族系ポリエステル樹脂が好ましい。更に、脂肪族系ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量は2,000〜20,000、更に2,000〜15,000、特に2,000〜10,000の範囲が好ましい。前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量が2,000未満であると、本発明の電気絶縁塗料を塗布、焼付して得られる絶縁電線の可とう性が不十分であり、また、前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量が20,000を超えると、得られる電気絶縁塗料の粘度が大きくなり過ぎてしまうため、電気絶縁塗料を塗布、焼付して絶縁電線を製造する工程において電気絶縁塗料の塗布量にムラが生じ、絶縁電線の皮膜厚(絶縁層の厚さ)が安定して得られないなどの支障があるためあまり好ましくない。
また、前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)の合成に用いられる脂肪族系アルコールの炭素数と、脂肪族系カルボン酸の炭素数または脂肪族系カルボン酸エステルのアルコキシルを除いた炭素数と、の炭素数の和は9以上であることが好ましく、より好ましくは10以上である。前記炭素数の和が8以下であると、本発明の絶縁電線の絶縁層の潤滑性はその効果が認められるものの十分であるとは言えず好ましくない。
更に、前記脂肪族系アルコールと前記脂肪族系カルボン酸または前記脂肪族系カルボン酸エステルは、それぞれ直鎖脂肪族系アルコール、直鎖脂肪族系カルボン酸または直鎖脂肪族系カルボン酸エステルであることが、得られる絶縁電線の絶縁層の潤滑性に優れる点で好ましい。
また更に、本発明における脂肪族系ポリエステル樹脂(A)は、得られる絶縁電線の可とう性が向上することから、その樹脂中に水酸基またはカルボキシル基などの反応性官能基を少なくとも1つ以上有していることが好ましく、特に水酸基を少なくとも1つ以上有していることが好ましい。
本発明における脂肪族系ポリエステル樹脂(A)の合成に用いられる脂肪族系アルコールとしては、具体的には、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、3,6−オクタンジオール、1,2−ノナンジオール、1,9−ノナンジオール、1,2−デカンジオール、1,10−デカンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられ、これらを1種または2種以上混合して使用することができる。
これらの中で入手のしやすさや、得られる絶縁電線の潤滑性が優れることから、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオールが好ましい。
また、本発明における脂肪族系ポリエステル樹脂(A)の合成に用いられる脂肪族系カルボン酸としては、具体的には、エタン二酸、プロパン二酸、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、シクロヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ドデカン二酸などが挙げられ、脂肪族系カルボン酸エステルとしては、具体的には、エタン二酸ジメチル、プロパン二酸ジメチル、ブタン二酸ジメチル、ペンタン二酸ジメチル、ヘキサン二酸ジメチル、シクロヘキサン二酸ジメチル、ヘプタン二酸ジメチル、オクタン二酸ジメチル、ノナン二酸ジメチル、デカン二酸ジメチル、ドデカン二酸ジメチルなどが挙げられ、これらを1種または2種以上混合して使用することができる。
これらの中で、入手のしやすさから脂肪族系カルボン酸が好ましく、更に、得られる絶縁電線の潤滑性が優れることから、ブタン二酸、ヘキサン二酸、オクタン二酸、デカン二酸、ドデカン二酸が好ましい。
前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)を合成する方法は、特に制限はなく、従来公知の方法を使用することができる。例えば、脂肪族系アルコールと脂肪族系カルボン酸または脂肪族系カルボン酸エステルとを反応容器中で100〜250℃の温度で反応させ、副生成物などを系外へ除去しながら所定の数平均分子量の脂肪族系ポリエステル樹脂(A)が得られるまで反応を続ければよい。前記した反応において、反応物の粘度が高くなり反応容器中の攪拌が満足に行えない場合や、副生成物などを容易に系外へ除去するために、有機溶剤を使用することもできる。また、必要に応じて、反応触媒を1種または2種以上混合して使用することもできる。反応触媒としては、具体的には、チタン、ジルコニウム、クロム、タングステン、錫、亜鉛、コバルト、ビスマス、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウムなどの金属やこれらのカルボン酸塩、アルコキシ塩、有機スルホン酸塩、酸化物などが挙げられる。
本発明における皮膜形成樹脂(B)は、電気絶縁塗料に通常用いられる樹脂でよく、具体的には、ポリビニルホルマール樹脂、ポリウレタン樹脂、前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ブチラール樹脂、フェノキシ樹脂や、これらの変性塗料、混合塗料および無機類との複合塗料などが挙げられ、これらを1種または2種以上混合して使用することができる。
これらの中で、電気絶縁性に優れることから、ポリビニルホルマール樹脂、ポリウレタン樹脂、前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂を1種または2種以上使用することが好ましく、ポリウレタン樹脂、前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂を1種または2種以上使用することが更に好ましく、ポリウレタン樹脂またはポリアミドイミド樹脂が特に好ましい。
本発明の電気絶縁塗料は、前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)の含有量が前記皮膜形成樹脂(B)100質量部に対し0.1〜10質量部の範囲(割合)であることが好ましい。前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)の含有量が前記皮膜形成樹脂(B)100質量部に対し0.1質量部未満であると、これを塗布、焼付して得られる絶縁電線の潤滑性の効果が小さく、また、前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)の含有量が前記皮膜形成樹脂(B)100質量部に対し10質量部を超えると絶縁電線の潤滑性に効果が認められるものの、絶縁電線の耐軟化性が低下するなど、絶縁電線の電線特性に悪影響を与えるからである。前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)の含有量は前記皮膜形成樹脂(B)100質量部に対し、より好ましくは0.5〜8質量部、特に1〜6質量部の範囲(割合)が好ましい。
このように脂肪族系アルコールと脂肪族系カルボン酸または脂肪族系カルボン酸エステルとの反応によって得られる数平均分子量が2,000以上の脂肪族系ポリエステル樹脂(A)を皮膜形成樹脂(B)に対し適量含有させた電気絶縁塗料を塗布、焼付して得られる絶縁電線は優れた潤滑性を有し、かつ絶縁電線の可とう性が大幅に向上する。この作用については必ずしも明確ではないが、前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)は主鎖に多数のアルキレン基を有しており、このアルキレン基の部分が絶縁電線表面に現れると分子構造的に潤滑性能を発揮するためであると考えられる。また、前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量が2,000以上であると十分な屈曲性能を有する樹脂となり、このような樹脂が前記絶縁電線の、絶縁層の被膜中に適宜含まれることによって皮膜にソフトセグメント部分が与えられ、絶縁層の皮膜の可とう性が向上すると考えられる。特に前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)が水酸基またはカルボキシル基などの反応性官能基を有する場合、電気絶縁塗料を塗布、焼付し絶縁層を形成する際に、前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)の反応性官能基と皮膜形成樹脂(B)に含まれる反応性化合物とが反応し、前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)が皮膜形成樹脂(B)の樹脂骨格中にソフトセグメントとして直接組み込まれると前記絶縁電線の絶縁層の被膜の可とう性が大幅に向上すると推察される。更に、前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)は、ポリアミド樹脂よりも凝集力が低いことから絶縁電線の耐クレージング性には影響を与えず、またポリオキシアルキレングリコールよりも耐熱性が高いことから絶縁電線の耐軟化性に影響を与えないと推察される。
更に、絶縁電線の外観、密着性、耐磨耗性、耐熱性、耐湿熱性などの各電線特性を調整するために、必要に応じて、本発明の電気絶縁塗料に添加樹脂、硬化触媒、酸化防止剤、着色剤、レベリング剤、溶剤を1種または2種以上混合して使用することができる。
添加樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、クレゾール樹脂などが挙げられる。
硬化触媒としては、チタン、ジルコニウム、錫、亜鉛、コバルト、ビスマス、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウムなどの金属や、これらのカルボン酸塩、ナフテン酸塩、アルコキシ塩、有機スルホン酸塩、酸化物などや、トリエチルアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチルエチレンアミン、テトラメチルエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、メチルモルホルリン、エチルモルホリン、ジメチルベンジルアミン、イミダゾール類、1,8−ジアザビシクロ−(5,4,0)ウンデセン−7(DBU)、1,5−ジアザ−ビシクロ(4,3,0)−ノン−2−エン(DBN)、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどが挙げられる。
酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4′−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2′−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N′−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,3′,3″,5,5′,5″−ヘキサ−t−ブチル−a,a′,a″−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾールなどが挙げられる。
着色剤としては、銅フタロシアニン系染料、クロム錯体系染料、アゾ系染料などが挙げられる。
レベリング剤としては、アクリル系やポリエーテル系のポリマーやオリゴマーなどが挙げられる。
溶剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール酸、トリメチルフェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノンなどのフェノール類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、ステアリン酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、γ−ブチロラクトン、マロン酸ジエチルなどのエステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類;メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノンなどのケトン類などが挙げられる。また、ジメチルスルホキシド、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、2−メトキシエチルアセタート、2−エトキシエチルアセタートなども使用することができる。また、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤なども併用することができる。脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、2,2,3−トリメチルペンタン、2,2,4−トリメチルペンタン、n−ノナン、2,2,5−トリメチルヘキサン、n−デカン、n−ドデカンなどやこれらの混合物が挙げられる。芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ブチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ジペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ナフタレン、テトラリン、ビフェニル、石油ナフサ、コールタールナフサ、ソルベントナフサなどやこれらの混合物が挙げられる。
本発明の電気絶縁塗料を導体上に直接又は他の絶縁層を介して塗布、焼付することにより、本発明の絶縁層を有する絶縁電線を得ることができる。
導体としては、例えば、銅、アルミニウム、銅クラッドアルミニウムなどの一般に絶縁電線の導体として使用されるものが挙げられる。
また、他の絶縁層としては、例えば、ポリビニルホルマール絶縁層、ポリウレタン絶縁層、前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル絶縁層、ポリエステルイミド絶縁層、ポリイミド絶縁層、ポリアミドイミド絶縁層、ポリアミド絶縁層、ポリスルホン絶縁層、ブチラール絶縁層、フェノキシ絶縁層や、これらの変性絶縁層、混合絶縁層、無機類との複合絶縁層などが挙げられる。
本発明の電気絶縁塗料を塗布、焼付し絶縁層を有する絶縁電線を得るには、従来公知のあらゆる方法を採用することができる。一般的には、例えば、導体上に直接または他の絶縁層を介して、フェルト絞り方式やダイス絞り方式などで電気絶縁塗料を塗布し、焼付炉などで炉温200〜550℃程度で焼付する。
本発明の電気絶縁塗料によって得られる皮膜の厚さ、或いはこれ以外の皮膜との合計の皮膜の厚さは、使用する銅線などの導体の太さや要求性能により適宜選択すればよい。
この様な皮膜の厚さは1回の塗布、焼付で形成されない場合には、必要回数繰り返して塗布、焼付を行えば良い。
以下、本発明について合成例、実施例などにより更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより制限して解釈されるものではない。
〔合成例〕
本発明における脂肪族系ポリエステル樹脂(A)の合成を合成例1〜4および表1に示す。
合成例1(脂肪族系ポリエステル樹脂PE−1の合成)
攪拌機、温度計、窒素シール管およびコンデンサーを備え付けた1Lフラスコに、1,4−ブタンジオールを237g、ヘキサン二酸を349g仕込み、窒素気流下で攪拌しながら副生成物である水を系外へ除去し、内温が200℃になるまで5時間掛けて加温した。その後200℃のまま5時間反応を続け、水の流出量が理論流出量の95%以上になったことを確認した後、冷却して反応を終了させて脂肪族系ポリエステル樹脂PE−1を合成した。
脂肪族系ポリエステル樹脂PE−1の水酸基価を測定したところ、水酸基価は54mgKOH/gだった。また、脂肪族系ポリエステル樹脂PE−1をGPC測定し、ポリスチレン換算で数平均分子量を算出したところ、数平均分子量は2,150だった。
合成例2(脂肪族系ポリエステル樹脂PE−2の合成)
攪拌機、温度計、窒素シール管およびコンデンサーを備え付けた1Lフラスコに、1,4−ブタンジオールを229g、ヘキサン二酸を359g仕込み、合成例1と同様の操作を行い、脂肪族系ポリエステル樹脂PE−2を合成した。
脂肪族系ポリエステル樹脂PE−2の水酸基価を測定したところ、水酸基価は18mgKOH/gだった。また、脂肪族系ポリエステル樹脂PE−2をGPC測定し、ポリスチレン換算で数平均分子量を算出したところ、数平均分子量は6,330だった。
合成例3(脂肪族系ポリエステル樹脂PE−3の合成)
攪拌機、温度計、窒素シール管およびコンデンサーを備え付けた1Lフラスコに、1,12−ドデカンジオールを280g、ドデカン二酸を261g仕込み、合成例1と同様の操作を行い、脂肪族系ポリエステル樹脂PE−3を合成した。
脂肪族系ポリエステル樹脂PE−3の水酸基価を測定したところ、水酸基価は53mgKOH/gだった。また、脂肪族系ポリエステル樹脂PE−3をGPC測定し、ポリスチレン換算で数平均分子量を算出したところ、数平均分子量は2,200だった。
合成例4(脂肪族系ポリエステル樹脂PE−4の合成)
攪拌機、温度計、窒素シール管およびコンデンサーを備え付けた1Lフラスコに、1,4−ブタンジオールを250g、ヘキサン二酸を332g仕込み、合成例1と同様の操作を行い、脂肪族系ポリエステル樹脂PE−4を合成した。
脂肪族系ポリエステル樹脂PE−4の水酸基価を測定したところ、水酸基価は107mgKOH/gだった。また、脂肪族系ポリエステル樹脂PE−4をGPC測定し、ポリスチレン換算で数平均分子量を算出したところ、数平均分子量は1,070だった。
〔調製例〕
脂肪族系ポリエステル樹脂PE−1〜4を用いた電気絶縁塗料の調製およびその諸性能を実施例1〜4、比較例1〜6および表2、3に示す。
実施例1
攪拌機を備え付けた1Lフラスコにポリウレタン系電気絶縁塗料であるATH−710−40S(ポリウレタン樹脂濃度40質量%、フェノール系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤の混合溶剤60質量%、オート化学工業株式会社製)を500g、合成例1で合成した脂肪族系ポリエステル樹脂PE−1を6g仕込んだ後、常温で1時間攪拌し電気絶縁塗料を調製した。
実施例2
攪拌機を備え付けた1Lフラスコにポリウレタン系電気絶縁塗料であるATH−710−40Sを500g、合成例2で合成した脂肪族系ポリエステル樹脂PE−2を6g仕込んだ後、常温で1時間攪拌し電気絶縁塗料を調製した。
実施例3
攪拌機を備え付けた1Lフラスコにポリウレタン系電気絶縁塗料であるATH−710−40Sを500g、合成例3で合成した脂肪族系ポリエステル樹脂PE−3を6g仕込んだ後、常温で1時間攪拌し電気絶縁塗料を調製した。
実施例4
攪拌機を備え付けた1Lフラスコにポリアミドイミド系電気絶縁塗料であるAHU−1330(ポリアミドイミド樹脂濃度30質量%、アミド系溶剤70質量%、オート化学工業株式会社製)を500g、合成例1で合成した脂肪族系ポリエステル樹脂PE−1を4.5g仕込んだ後、常温で1時間攪拌し電気絶縁塗料を調製した。
比較例1
ポリウレタン系電気絶縁塗料であるATH−710−40Sを電気絶縁塗料として500g使用した。
比較例2
ポリアミドイミド系電気絶縁塗料であるAHU−1330を電気絶縁塗料として500g使用した。
比較例3
攪拌機を備え付けた1Lフラスコにポリウレタン系電気絶縁塗料であるATH−710−40Sを500g、合成例4で合成した脂肪族系ポリエステル樹脂PE−4を6g仕込んだ後、常温で1時間攪拌し電気絶縁塗料を調製した。
比較例4
攪拌機を備え付けた1Lフラスコにポリウレタン系電気絶縁塗料であるATH−710−40Sを500g、ポリエチレングリコール2000(数平均分子量2,000、和光純薬工業株式会社製)を6g仕込んだ後、常温で1時間攪拌し電気絶縁塗料を調製した。
比較例5
攪拌機、温度計、窒素シール管を備え付けた1Lフラスコにポリウレタン系電気絶縁塗料であるATH−710−40Sを500g、ポリアミド樹脂(製品名:アミランCM3001−N、東レ株式会社製)を6g仕込んだ後、60℃で12時間攪拌し電気絶縁塗料を調製した。
比較例6
攪拌機、温度計、窒素シール管を備え付けた1Lフラスコに酸化型ポリエチレン(ネオワックスE−20、ヤスハラケミカル株式会社製)を100g、クレゾール酸を200g、キシレンを200g仕込み、120℃まで加温しそのまま1時間攪拌し続け、ネオワックスE−20の溶液を調製した。さらに、攪拌機を備え付けた1Lフラスコにポリウレタン系絶縁塗料であるATH−710−40Sを500g仕込み、前記の予め調製した酸化型ポリエチレンの20質量%溶液を30g(酸化型ポリエチレンとして6g)仕込んだ後、常温で1時間攪拌し電気絶縁塗料を調製した。
電気絶縁塗料の性能
実施例1〜4、比較例1〜6で調製した電気絶縁塗料を用いて次の性能を評価した。
[塗料安定性]
実施例1〜4、比較例1〜6で調製した電気絶縁塗料をそれぞれ200mLの透明なガラス容器に150gづつ入れ密閉した後、60℃に調整したオーブンの中に一週間入れた。一週間後、電気絶縁塗料の入ったガラス容器をオーブンの中から取り出し、電気絶縁塗料に分離物または濁りが発生していないかを目視で観察した。
電気絶縁塗料に分離物または濁りが発生していない場合を○と評価し、分離物または濁りが発生している場合を×と評価した。
絶縁電線の性能
実施例1〜4、比較例1〜6で調製した電気絶縁塗料を用いて次のようにして製造した絶縁電線の諸性能を試験した。
<絶縁電線の作製>
実施例1〜4、比較例1〜6で調製した電気絶縁塗料に0.50mmφの銅線を用いて下記に示す焼付条件でそれぞれ塗布、焼付を行い、片皮膜厚が35μmの絶縁電線を得た。
<焼付条件>
横型電熱炉 炉長2.4m 線速16m/min
炉温350℃(入口)400℃(出口) ダイス10パス
(ただし、実施例4および比較例2は炉温500℃(入口)550℃(出口) ダイス12パスとした。)
[耐軟化性]
JIS C3003:1999「エナメル線試験方法」11.2 B法のb)交差法により軟化温度を測定した。おもりの質量は600gとした。
[潤滑性]
図1に示す金属ブロック(治具)に2本の試験線を50mm間隔で緩むことなく平行に張りつけた。同様に平面に固定された台座に2本の試験線を50mm間隔で緩むことなく平行に張りつけた。金属ブロックに張りつけた試験線と台座に張りつけた試験線が直角に交差するように、金属ブロックを台座上に置いた。金属ブロックを1mm/秒の速さで引張り、静摩擦係数を算出した。
静摩擦係数=金属ブロックが動き出した時の張力/金属ブロックの質量
[可とう性]
試験線を300mm測り取り、試験線の線間距離を256mmとして引張試験機で20%伸長した。伸長した試験線を直径0.5mmの鉄製丸棒に隣接する試験線が互いに接触するように50回巻付けた後、1分以内にフェノールフタレインの3%アルコール溶液の適量を滴下した0.2%食塩水中に浸し、12Vの直流電圧を1分間加えて発生するピンホールの個数を数えた。この操作を2回行った。
[耐クレージング性]
試験線を300mm測り取り、試験線の線間距離を256mmとして引張試験機で3%伸長した。伸長した試験線を直ちにフェノールフタレインの3%アルコール溶液を適量滴下した0.2%食塩水中に浸し、12Vの直流電圧を1分間加えて発生するピンホールの個数を数えた。この操作を2回行った。
Figure 2012043580
Figure 2012043580
Figure 2012043580
本発明の電気絶縁塗料は表2の実施例1〜4が示すように、塗料安定性が良好であることがわかる。また、本発明の電気絶縁塗料を塗布、焼付して得られた絶縁電線は、耐軟化性、耐クレージング性などの電線特性を損ねることなく、静摩擦係数が0.1未満であることから優れた潤滑性を有し、かつ絶縁電線の可とう性が大幅に向上することがわかる。
1 絶縁電線
2 台座
3 金属ブロック(治具)
4 滑車
5 金属ワイヤ



Claims (6)

  1. 数平均分子量が2,000以上の脂肪族系ポリエステル樹脂(A)と、皮膜形成樹脂(B)とを含有すること、を特徴とする電気絶縁塗料。
  2. 前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)が、脂肪族系アルコールと脂肪族系カルボン酸または脂肪族系カルボン酸エステルとの反応によって得られる脂肪族系ポリエステル樹脂であり、かつ、脂肪族系アルコールの炭素数と、脂肪族系カルボン酸の炭素数または脂肪族系カルボン酸エステルのアルコキシルを除いた炭素数と、の和が9以上である、請求項1に記載の電気絶縁塗料。
  3. 前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)が、反応性官能基を有する脂肪族系ポリエステル樹脂である、請求項1または2に記載の電気絶縁塗料。
  4. 前記皮膜形成樹脂(B)が、ポリウレタン樹脂、前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂およびポリアミドイミド樹脂からなる群から選択される1種または2種以上の皮膜形成樹脂である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気絶縁塗料。
  5. 前記脂肪族系ポリエステル樹脂(A)の含有量が、前記皮膜形成樹脂(B)100質量部に対し0.1〜10質量部の割合である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気絶縁塗料。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気絶縁塗料を導体上に直接または他の絶縁層を介し、塗布、焼付してなる、絶縁層が形成された絶縁電線。
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