JP2012040727A - 造形方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】結着部分と未結着部分とからなる層を積層したのち該未結着部分を除去することにより結着部分からなる造形物を形成する造形方法において、未結着部分の形状に起因する造形物の形状不良を抑えた造形方法を提供する。
【解決手段】疎水性の粒体を結着液で結着することにより造形物を造形する造形方法であって、粒体を含む層を形成するスラリー層形成工程、その層にPVA溶液を塗布するPVA溶液滴下工程、UVインクを塗布する紫外線硬化樹脂滴下工程、紫外線を照射する紫外線照射工程が繰り返される積層体形成工程と、積層体に液体を流して未結着部分を積層体から除去する除去工程とを有し、積層体形成工程では、両親媒性ポリマーを水系溶媒に溶解させた調整液を未結着部分に塗布することによって、該未結着部分にのみ両親媒性ポリマーを含ませる。
【選択図】図1

Description

この発明は、結着液を介して結着された粒体からなる層を積み重ねることにより造形物を形成する造形方法に関する。
従来から、造形物を迅速に試作する方法(ラピッドプロトタイピング)として積層造形法が多用されている。積層造形法では、三次元CAD等による造形物のモデルを多数の二次元断面層に分割した後、各二次元断面層に対応する層状構造体を順次作成しつつ積層することによって造形物を形成する。
具体的には、例えば特許文献1に記載のように、まず、セラミックや金属等を含む粒体が層状に形成される。次いで、粒体からなる層の一部で粒体同士を結着させるための結着液が、例えばインクジェット式液滴吐出装置によって粒体からなる層に吐出される。そして粒体間の空隙に浸透した結着液がそれの硬化とともに粒体同士を結着させた結着部分によって、上記二次元断面層に対応する層状構造体が形成される。
以後同様に、これら粒体からなる層の形成と結着液の吐出とが交互に繰り返されることによって、層状構造体を有する層が積層された積層体を形成する。この積層体の各層における層状構造体以外の未結着部分は、積層される層を機械的に支持するサポート部として機能する。その後、積層体に水系液体を流すことにより上記未結着部分が除去されることで造形物が造形される。
特許2729110号公報
ところで、粒体からなる層における未結着部分は、粒体同士が互いに機械的に支持しているだけであるため、造形過程における振動等によって粒体が移動しやすい状態にある。そして、粒体が過度に移動してしまうとなれば、未結着部分が変形したり崩壊したりする場合もある。こうした未結着部分の変形や崩壊は、積層される層の形状不良、ひいては該層に形成された結着部分によって構成される造形物の形状不良を招く。
本発明は上記実状を鑑みてなされたものであり、その目的は、結着部分と未結着部分とからなる層を積層したのち該未結着部分を除去することにより結着部分からなる造形物を形成する造形方法において、未結着部分の形状に起因する造形物の形状不良を抑えた造形方法を提供することにある。
本発明の造形方法は、疎水性の粒体を結着液で結着することにより造形物を造形する造形方法であって、前記粒体を含む複数の層を積み重ねつつ各層の一部に前記結着液を塗布し、前記粒体同士が前記結着液を介して結着した結着部分と該結着部分以外の未結着部分とに区画された前記層の積層体を形成する積層体形成工程と、前記未結着部分を前記積層体から取り除く除去工程とを有し、前記積層体形成工程では、前記層が、前記粒体、前記粒体と水系溶媒とからなるスラリー、前記粒体と該粒体と同系であるモノマー及びオリゴマーの少なくとも一方からなる分散媒としての疎水性の液状体とからなるスラリーのいず
れか一つを用いて形成されるとともに、両親媒性ポリマーを水系溶媒に溶解させた調整液を前記未結着部分に塗布することによって、該未結着部分にのみ前記両親媒性ポリマーを含ませる。
本発明の造形方法によれば、塗布された調整液が未結着部分に浸透することにより該未結着部分では、両親媒性ポリマーが有する疎水性の部分によって粒体同士が架橋された状態になるとともに、両親媒性ポリマーが有する親水性の部分によって粒体が均一に分散した状態となる。そのため、両親媒性ポリマーによる粒体同士の架橋構造により未結着部分の機械的な強度を高めることができることから、未結着部分の形状不良を抑えることができる。それゆえに、未結着部分の形状に起因した造形物の形状不良を抑えることができる。しかも、未結着部分のみに両親媒性ポリマーを含ませることから、結着部分に両親媒性ポリマーを混入させることなく造形物を造形することもできる。
この造形方法は、前記疎水性の粒体を含む犠牲層を最下層として基体に形成し、前記犠牲層に前記調整液を塗布する犠牲層形成工程を有する。
この造形方法では、基体上に形成する最下層として、疎水性の粒体を含む層に上記調整液を塗布した犠牲層が設けられる。そのため、積層体を基体から剥離する際には、上記犠牲層を除去する、あるいは、犠牲層と基体とを剥離させるようにすればよい。また、上記調整液が塗布されることで犠牲層の形状不良が抑えられることから、該犠牲層に積層される層も形状不良が抑えられる。それゆえに、積層体を基体から剥離する際に造形物に掛かる力や犠牲層に積層される層の形状に起因した造形物の形状不良、特に、犠牲層の直上の層に形成される部位における形状不良を抑えることができる。
この造形方法では、前記調整液は、各層において、前記結着液を塗布するまえに塗布される。
ここで、調整液が浸透した部分には結着液が浸透しにくくなることから、上記造形方法では、調整液が浸透した部分に沿うように結着液の浸透が抑えられる。また、結着液や調整液は、塗布された位置からおよそ等方的に層内へ浸透していくものと考えられる。これらのことから、上記造形方法のように結着液よりも調整液を先に塗布した場合、調整液の浸透領域は塗布された位置から下の層に近い部分ほど層の面方向に幅狭となり、結着液の浸透領域は下の層に近い部分ほど幅広となる。反対に、調整液よりも結着液を先に塗布した場合には、結着液の浸透領域は塗布された位置から下の層に近い部分ほど層の面方向に幅狭となり、調整液の浸透領域は下の層に近い部分ほど幅広となる。つまり、上述した造形方法によれば、各層における結着部分とその直前の層における結着部分との接触面積が大きくなることから、結着部分同士の密着性を高めることができる。特に、直前の層の結着部分に比べて幅狭な結着部分を形成する場合に有効である。
この造形方法では、前記調整液は、各層において、前記結着液を硬化させたあとで塗布される。
ここで、調整液が浸透した部分には結着液が浸透しにくくなるものの、結着液を硬化させる前に調整液が塗布される場合には、結着部分となる部分にまで調整液が浸透してしまうことで両親媒性ポリマーが混入した造形物が造形されてしまう虞がある。この点、この造形方法のように、結着液を硬化させたあとで調整液を塗布することによって、結着部分への調整液の浸透が防止され、両親媒性ポリマーの混入が確実に抑えられた造形物を造形することができる。
この造形方法では、前記調整液は、インクジェット法を用いて塗布される。
この造形方法のようにインクジェット法を用いて調整液を塗布することにより、調整液を塗布する位置や塗布量に関して液滴の単位で変更することが可能である。これにより、例えば結着部分に近い位置では少ない量の液滴を用いて塗布し、遠い位置では多い量の液
滴を用いて塗布する等、調整液の塗布に関する自由度を向上させることができる。
この造形方法では、前記両親媒性ポリマーは、ポリビニルアルコールである。
この造形方法のように、疎水性の粒体及び水系溶媒と親和性を有する両親媒性ポリマーとしては、ポリビニルアルコールを採用することが可能である。ポリビニルアルコールは、主鎖として直鎖状の炭化水素を有するとともに、側鎖として親水性の官能基であるヒドロキシル基を有する。ポリビニルアルコールには、その単位構造当りにおよそ一つのヒドロキシル基が含まれることから、該ポリビニルアルコールは、疎水性の粒体との親和性を主鎖によって維持しつつ、水系溶媒との親和性が高いものとなる。それゆえに、両親媒性ポリマーとしてポリビニルアルコールを含む調整液が浸透した部位においては、これを構成する粒体を均一に分散させることができる。すなわち、未結着部分内における機械的強度のばらつきを抑えることができる。
本発明の一実施の形態に係る造形方法の手順を示すフローチャート。 (a)(b)同造形方法の各工程を手順に沿って模式的に示す図。 (a)(b)(c)同造形方法の各工程を手順に沿って模式的に示す図。 (a)(b)(c)同造形方法の各工程を手順に沿って模式的に示す図。
以下、本発明に係る造形方法の一実施の形態について、図1〜図4を参照して説明する。
まず、本実施の形態における造形方法の手順について説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る造形方法の手順を示すフローチャートである。図1に示されるように、この造形方法では、まず、造形用スラリーを用いた犠牲層形成工程(ステップS10)が実施される。次に、造形用スラリーを用いたスラリー層形成工程(ステップS21)、PVA溶液滴下工程(ステップS22)、紫外線硬化樹脂滴下工程(ステップS23)、紫外線照射工程(ステップS24)が繰り返し実施される積層体形成工程(ステップS20)が実施される。そして、除去工程(ステップS30)が実施される。
次に、上述した造形方法に用いられる造形用スラリーの組成について説明する。本実施形態に用いられる造形用スラリーは、2つの材料である疎水性粒体、水系溶媒が混練された懸濁物である。
上記疎水性粒体は、造形用スラリーを用いて形成される造形物の主要な構成材料である。疎水性粒体には、疎水性の樹脂の粒体、例えばアクリル樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末、アクリルシリコーン樹脂粉末、ポリエチレン樹脂粉末、及びポリエチレンアクリル酸共重合樹脂粉末を用いることができる。なお、本実施の形態における疎水性粒体とは、100gの水系溶媒に対して1g以上溶解しない粒体のことである。
上記水系溶媒に対しては、造形物を構成する疎水性粒体の溶解度が上述のように低い。そのため、溶媒への溶解や溶媒の吸収に起因する疎水性粒体の変性が起こり難い。それゆえに、疎水性粒体の飛散を抑制する媒質として好ましい。なお、水系溶媒とは水、及び無機塩の水溶液等の非有機系溶媒を含むものであって、このうち水が水系溶媒として用いられることが好ましい。また、上記水系溶媒は、水に水溶性の有機溶媒を添加したものであってもよい。
上記2つの材料が混練されたスラリー中では、各粒体が互いに独立して存在するとともに、各粒体は水系溶媒によって覆われた状態で存在する。そのため、造形物の形成に際して、スラリーに振動等が与えられたとしても、疎水性の粒体を覆っている水系溶媒が抵抗
となることで周囲への粒体の飛散が抑制される。
次に、上述した造形方法において用いられる調整液としてのPVA溶液について説明する。PVA溶液は、両親媒性ポリマーとしてポリビニルアルコール(PVA:polyvinyl alcohol)を水系溶媒に溶解させた溶液である。
両親媒性である両親媒性ポリマーは、親水性の部分による水系溶媒との親和性によって水系溶媒に溶解するとともに、上述した造形用スラリーに混ぜると、疎水性の部分による疎水性粒体との親和性によって該疎水性粒体の溶媒中への分散作用を発現する。また、造形用スラリーに両親媒性ポリマーを混ぜると、スラリー中にある疎水性粒体が両親媒性ポリマーの疎水性の部分によって互いに架橋された状態にもなるため、この疎水性粒体の架橋構造によって機械的な強度が向上することになる。なお、造形用スラリーに両親媒性ポリマーを含ませることによって、疎水性粒体が粒体間の架橋によって形成された構造中に保持されることから、振動等による粒体の飛散がより抑制される。
こうした両親媒性ポリマーとしては、主鎖である炭化水素鎖と、側鎖である親水性の官能基とを有する材料を用いることができる。本実施の形態ではポリビニルアルコールを用いている。ポリビニルアルコールの構造を以下に示す。
Figure 2012040727
ポリビニルアルコールは、主鎖として直鎖状の炭化水素を有するとともに、側鎖として親水性の官能基であるヒドロキシル基を有する。ポリビニルアルコールには、その単位構造当りにおよそ一つのヒドロキシル基が含まれることから、該ポリビニルアルコールは、疎水性の粒体との親和性を主鎖によって維持しつつ、水系溶媒との親和性が高いものとなる。なお、ポリビニルアルコールの単量体であるビニルアルコール(HC=CHOH)はケト−エノール互変異性による平衡がケト体であるアセトアルデヒド(CHCHO)側に大きく偏っていて不安定であることから、ポリビニルアルコールは一般に以下の手順で生成される。
(a)まず、酢酸(CHCOOH)とエステル化した構造を有する酢酸ビニル(CHCOOCH=CH)を重合することによって、ポリ酢酸ビニルを生成する。
(b)ポリ酢酸ビニルのエステル結合を加水分解(鹸化)して、−C=OCHを−Hに置換する。
そのため、ポリビニルアルコールは、上記化学式(1)に示されるように、側鎖に官能基としてヒドロキシル基(−OH)の他に、一部−OC=OCH基を有している。また、ポリビニルアルコールと総称される物質には、上記加水分解の度合いの違いに起因して、ポリ酢酸ビニルの重合度に対する、ヒドロキシル基の数の比が異なるものが含まれる。こうした重合度に対するヒドロキシル基の数の比の百分率は鹸化度と呼ばれ、ポリビニルアルコールの特性を示す指標として用いられている。
また、ポリビニルアルコールの特性を示す指標としては、上記化学式(1)に示される単位構造の重合数である重合度も用いられている。
これら鹸化度と重合度には以下のような傾向がある。
(ア)鹸化度が大きい程、親水性が増大するため、水系溶媒に対する溶解度が大きくなる。
(イ)ただし、一般的に部分鹸化型と呼ばれる鹸化度86以上の範囲では、鹸化度が100%に近づく程結晶化しやすくなるため、水系溶媒に対する溶解度が小さくなる。
(ウ)鹸化度が小さい程、疎水性が増大するため、水系溶媒に対する溶解度が小さくなる。
(エ)重合度が大きい程、ポリビニルアルコールが含まれる構造体の機械的強度が増大する。
(オ)重合度が小さい程、水系溶媒、特に冷水に対する溶解度が大きくなる。
ここで、上記積層造形法では、隣接する層の接合面において、前の層の界面に存在するポリビニルアルコールが、積層される造形用スラリーの溶媒に溶解してしまう。そのため、ポリビニルアルコールの溶解度合いによっては、PVA溶液が塗布された部分に重なるように形成される結着部分には、ポリビニルアルコールが多く混入されてしまう虞がある。
この点、造形用スラリーに含まれる水系溶媒が水であるときには、積層される造形用スラリーへのポリビニルアルコールの混入を抑えるうえでは、上記(ア)〜(オ)に基づき、PVA溶液におけるポリビニルアルコールの重合度を600以上1700以下とすることが好ましい。加えて、鹸化度を86以上96以下とすることも好ましい。これらによれば、積層される造形用スラリーに対してポリビニルアルコールが溶解し難くなることから、結着部分への両親媒性ポリマーの混入を抑えることができる。
次に、上記組成の造形用スラリーを用いた造形方法について、図1〜図4を参照してさらに詳細に説明する。図2,3,4は、上記各工程にて実施される処理を模式的に示している。
図1に示したように、この造形方法では、まず、犠牲層形成工程(ステップS10)が実施される。犠牲層形成工程では、まず、図2(a)に示されるように、例えばガラス基板やプラスチックシート等の基板11(基体)上に、例えば厚さが200μmになるように、上記造形用スラリーを塗布することによって、スラリーからなる層の最下層としての犠牲層12を形成する。なお、造形用スラリーの塗布には、公知の方法であるスキージ法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、及びスピンコート法等、基板11上に略均一な厚さを有したスラリーの層を形成可能な方法を用いることができる。
続いて犠牲層形成工程では、図2(b)に示されるように、犠牲層12の全域に対して液滴吐出装置31からPVA溶液Fをインクジェット法により吐出する。犠牲層12の表面に吐出されたPVA溶液Fは、疎水性粒体によって形成されている空間を通じて犠牲層12の全体に浸透する。なお、図ではPVA溶液Fが浸透した領域にドットを付している。これにより、犠牲層12は、該犠牲層12を構成する粒体同士に架橋構造が形成されることで機械的強度が高められるとともに、粒体が均一に分散されることで機械的強度のばらつきが抑えられる。その結果、犠牲層12の形状不良を抑えることができることから、犠牲層12の形状に起因して、該犠牲層12に積層されるスラリー層の形状不良が引き起こされることもない。
次いで、積層体形成工程(ステップS20)が実施される。この積層体形成工程(ステップS20)は、図1に示したように、スラリー層形成工程(ステップS21)、PVA溶液滴下工程(ステップS22)、紫外線硬化樹脂滴下工程(ステップS23)、紫外線照射工程(ステップS24)が順に繰り返し実施されて犠牲層12に積層体40(図4(b)参照)を形成する工程である。なお、本実施形態では、図4(c)に示す造形物20を造形する場合について説明する。この造形物20は、後述する5つの結着部分22a,22b,22c,22d、22eを順に積層したものである。
まず、スラリー層形成工程(ステップS21:図3(a))にて、厚さが100μmになるように、上記スラリーを塗布して第1層目のスラリー層21aを形成する。なお、スラリー層21aの形成に際しても、犠牲層12の形成時と同様、上記公知の方法を用いることができる。
次に、PVA溶液滴下工程(ステップS22:図3(b))にて、スラリー層21a内において、造形物20を構成する結着部分22a以外の部分となる未結着部分23aに、液滴吐出装置31からPVA溶液Fをスラリー層21aにインクジェット法により吐出する。この液滴吐出装置31によるPVA溶液Fの吐出は、スラリー層21aにおけるPVA溶液Fの吐出に関する情報を規定した吐出データに基づいて行われる。この吐出データは、例えば造形物20の断面データに基づいて予め生成されるデータであって、PVA溶液Fの吐出位置やその位置における吐出回数などが規定されているデータである。インクジェット法では、PVA溶液Fの吐出位置や吐出量に関して液滴の単位で変更することが可能である。これにより、例えば結着部分22aに近い位置では少ない量の液滴を用いて塗布し、遠い位置では多い量の液滴を用いて塗布する等、PVA溶液Fの塗布に関する自由度を向上させることができる。スラリー層21aの表面に吐出されたPVA溶液Fは、疎水性粒体によって形成されている空間を通じてスラリー層21aに浸透し、やがて裏面等に到達する。このようにPVA溶液Fを塗布することによって未結着部分23aは、両親媒性ポリマーによる粒体同士の架橋構造が形成されることで機械的強度が高められるとともに、粒体が均一に分散されることで未結着部分23a内における機械的強度のばらつきが抑えられる。その結果、未結着部分23aの形状不良を抑えることができる。
続いて、紫外線硬化樹脂滴下工程(ステップS22:図3(c))にて、上記スラリー層21aにおいて造形物20の一部を構成する結着部分22aに、液滴吐出装置31から結着液としての紫外線硬化樹脂を含んだUVインクIをインクジェット法により吐出する。なお、図では、UVインクIが浸透した結着部分に斜線を付している。ここで、結着部分22a内には、疎水性粒体同士は互いに所定の空間を有して配置されているとともに、空間中には水が充填されている。そのため、スラリー層21aの上方から、該スラリー層21aの表面に向かって吐出されたUVインクIは、上述の空間を通ってスラリー層21aの裏面に到達するようになる。つまり、結着部分22aの全体にUVインクIが浸透するため、該結着部分22aの機械的強度が向上する。
このようにUVインクIの滴下された結着部分22aは、紫外線L(図4(a)参照)の照射により硬化して、両親媒性ポリマーを含むことなく、造形物20の一部を構成する。他方、両親媒性ポリマーを含ませることで機械的強度が高められた未結着部分23aは、該スラリー層21aに形成された結着部分22aや、スラリー層21aの次の層である第2層目のスラリー層21b等を機械的に支持するサポート部として機能させることができる。これにより、図4(c)に示すように、結着部分22bが結着部分22aよりも外側に張り出している造形物20を形成する場合であっても、結着部分22bを支持するサポート部を別途形成する必要がない。また、張り出し部分の直下に未結着部分23aが存在する状態で該張り出し部に関わる工程が実施されることから、造形物20の形成途中に
おいて張り出し部分が欠けることを抑制できる。
上記UVインクIには、カチオンを活性種とする重合反応によって硬化するカチオン重合型の紫外線硬化樹脂を含むものと、ラジカルを活性種とする重合反応によって硬化するラジカル重合型の紫外線硬化樹脂を含むものとがある。本実施の形態においては、これらのいずれに属するUVインクIも用いることができる。ただし、当該UVインクIは、スラリー層21aの結着部分22aに滴下された後、結着部分22aに含まれる疎水性粒体と共々、硬化させるものである。そのため、UVインクI、特に紫外線硬化樹脂と疎水性粒体とには、相溶性を有する材料を選択することが好ましい。つまり、UVインクIと疎水性粒体には同系の材料を用いること、例えばアクリル系のUVインクIと、アクリル樹脂粉末とを用いることが好ましい。あるいは、UVインクIと、該UVインクIと同系の材料が表面に導入された疎水性粒体とを用いること、例えばアクリル系UVインクIとアクリルシリコーン樹脂粉末とを用いることが好ましい。つまり、ここでいう同系とは、疎水性粒体を構成する繰り返し単位構造の主骨格と、UVインクIに含まれる樹脂の単位構造の主骨格とが同一であることを意味している。また同系とは、該単位構造における側鎖官能基や該単位構造における主骨格の一部が異なるものの、疎水性液状体と上記樹脂との相互作用が疎水性粒体間の相互作用と略同じになる程度に、該単位構造の主骨格同士が一部重複することを意味している。それゆえに、疎水性粒体及び上記樹脂がそれぞれ共重合体である場合には、これらに含まれる原子の組成比が一致していないものも同系であるとする。
その後、紫外線照射工程(ステップS24:図4(a))にて、上記スラリー層21a全体に紫外線Lが照射されることによって、結着部分22aが硬化される。なお、紫外線Lは、スラリー層21aの全体に照射されなくともよく、少なくともスラリー層21aのうちの結着部分22aに照射されればよい。また、紫外線Lの照射は、例えば上記液滴吐出装置31に搭載された紫外線照射装置によって、結着部分22aへのUVインクIの滴下と交互に行うことも可能であり、また該液滴吐出装置31とは別に設けられた紫外線照射装置によって、スラリー層毎に行うことが可能である。こうしてUVインクIが硬化された結着部分22aは、造形用スラリーの疎水性粒体とUVインクIの紫外線硬化樹脂とによって構成される。すなわち、結着部分22aに両親媒性ポリマーを含ませることなく造形物20を造形することができる。
上述したスラリー層形成工程(ステップS21)から上記紫外線照射工程(ステップS24)までの4工程が、造形物20を構成する結着部分22a,22b,22c,22d,22eの全てが形成されるまで繰り返し実施される。このように、スラリー層形成工程から紫外線照射工程までの4工程を順に繰り返すことにより、複数の層から構成される積層体40(図4(b)参照)を形成することができるため、当該造形方法によって形成される造形物20の形状に係る自由度が高くなる。
なお、本実施の形態では、紫外線硬化樹脂滴下工程(ステップS23)の前にPVA溶液滴下工程(ステップS22)を実施した。PVA溶液Fが浸透した部分にはUVインクIが浸透しにくくなるため、UVインクIの浸透は、PVA溶液Fが浸透した部分に沿う位置で抑えられる。また、スラリー層に吐出されたPVA溶液F及びUVインクIは、吐出された位置からおよそ等方的に浸透していくものと考えられる。これらのことから、PVA溶液F及びUVインクIのうち、スラリー層21aに先に吐出された方が、下の層に近い部分ほどスラリー層の面方向において幅狭になる。すなわち、上述した構成によれば、図4(b)に拡大して示すように、後に吐出されるUVインクIが浸透する結着部分22eは、下の層に近い部分ほど幅広になる。そのため、結着部分22dと結着部分22eとの接触面積が大きくなることから、結着部分22d,22eの密着性を高めることができる。特に、結着部分22d,22eのように、直前の層の結着部分22dに比べて幅狭
な結着部分を積層する場合に有効である。
積層体形成工程(ステップS20)によって犠牲層12の上に積層体40が形成されると、次の除去工程(ステップS30)にて、積層体40から未結着部分23a,23c,23d,23eが除去される。未結着部分23a,23c,23d,23eの除去は、上記基板11とともに積層体40を水系の液体中、例えば水中に浸すこと、積層体に水を所定の圧力で流すこと等によって行うことができる。そして、除去工程が実施されることによって、各結着部分22a,22b,22c,22d,22eが積層された造形物20が形成される。
なお、除去工程に用いられた水には未結着部分23a〜23eを構成していた疎水性粒体が含まれている。上述のように、未結着部分23a〜23eを構成する疎水性粒体は水に溶解し難いため、上記水を濾過する等によって疎水性粒体を抽出することができる。つまり、上記除去工程に続いて、疎水性粒体の抽出工程を行うようにしてもよい。こうして抽出された疎水性粒体は、スラリーの構成材料として再利用することができる。
・造形用スラリー
(A)疎水性粒体 シャリーヌR−170S(粒径30μm)(日信化学工業(株)製)(シャリーヌ:登録商標)
(B)水系溶媒 水
・組成比 (A):(B)=7:3.1(単位g)
・各スラリー層の厚さ 100μm
・UVインク アクリル系のUVインク
・PVA溶液
(C)水系溶媒 水
(D)両親媒性ポリマー ポバールJM−17L(日本酢ビ・ポバール(株)製、重合度1700、鹸化度95.0〜97.0(96))
・組成比 (C):(D)=3.1:0.22(単位g)
以上説明したように、本実施の形態に係る造形方法によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)積層体形成工程(ステップS20)において、疎水性粒体、水系溶媒が混練された造形用スラリーを用いてスラリー層21a〜21eを形成するとともに、造形物20を構成する結着部分22a〜22e以外の未結着部分23a〜23eにPVA溶液Fを塗布した。
こうした構成によれば、UVインクIが硬化された結着部分22a〜22eを、造形用スラリーの疎水性粒体とUVインクIの紫外線硬化樹脂とによって形成することができる。また、未結着部分23a〜23eの機械的強度が高められることで、未結着部分23a〜23eの形状不良を抑えることができる。それゆえに、結着部分22a〜22eに両親媒性ポリマーを混入させることなく造形物20を形成可能であるとともに、未結着部分23a〜23eの形状に起因した造形物20の形状不良を抑えることができる。
(2)疎水性粒体、水系溶媒を混練した造形用スラリーを用いて各層を形成した。こうした構成によれば、スラリー中では疎水性粒体が水系溶媒に覆われた状態で存在することから、疎水性粒体が周辺に飛散することを抑えることができる。
(3)PVA溶液Fが塗布される犠牲層12を形成する犠牲層形成工程(ステップS10)を設け、該犠牲層12に積層体40を形成した。
こうした構成によれば、積層体40を基板11から剥離させる際には、犠牲層12を除去する、あるいは犠牲層12を基板11から剥離させるようにすればよい。また、PVA
溶液Fが塗布されることで犠牲層12の形状不良が抑えられることから、該犠牲層12に積層されるスラリー層21aも形状不良が抑えられる。それゆえに、積層体40を基板11から剥離する際に造形物20に掛かる力や犠牲層12に積層されるスラリー層21aの形状に起因した造形物20の形状不良、特に、犠牲層12の直上の層に形成される結着部分22aにおける形状不良を抑えることができる。
(4)積層体形成工程(ステップS20)において、PVA溶液滴下工程(ステップS22)を紫外線硬化樹脂滴下工程(ステップS23)よりも先に実施した。
こうした構成によれば、各層において、直前の層に近づくほど幅広な結着部分を形成することができる。その結果、直前の層における結着部分との接触面積が大きくなることから、結着部分同士の密着性を高めることができる。
(5)PVA溶液滴下工程(ステップS22)においては、インクジェット法を用いてPVA溶液Fを塗布した。インクジェット法では、PVA溶液Fを吐出する吐出位置や吐出量に関して液滴の単位で変更することが可能であることから、PVA溶液Fの塗布に関する自由度を向上させることができる。
(6)ポリビニルアルコールは、主鎖として直鎖状の炭化水素を有するとともに、側鎖として親水性の官能基であるヒドロキシル基を有する。ポリビニルアルコールには、その単位構造当りにおよそ一つのヒドロキシル基が含まれることから、該ポリビニルアルコールは、疎水性の粒体との親和性を主鎖によって維持しつつ、水系溶媒との親和性が高いものとなる。それゆえに、ポリビニルアルコールを含む未結着部分では、粒体を均一に分散させることができる。すなわち、未結着部分における機械的強度のばらつきを抑えることができる。
なお、上記実施の形態は、以下のように適宜変更して実施することも可能である。
・両親媒性ポリマーはポリビニルアルコールに限らず、疎水性粒体の間に介在してこれらを繋ぐとともに、該疎水性粒体を水系溶媒中に均一に分散可能な両親媒性ポリマーであればよい。
・両親媒性ポリマーは、主鎖として炭化水素鎖を有するとともに、側鎖として親水性の官能基を有するものに限らず、疎水性の部位と親水性の部位を有するものであって、疎水性の部位によって疎水性粒体間に介在するとともに、親水性の部位によって水系溶媒中に分散可能なものであればよい。
・UVインクI及びPVA溶液Fは、液滴吐出装置31を用いたインクジェット法によってスラリー層21a,21b,21c,21d,21eに塗布した。これに限らず、例えば塗布位置が規定されたマスクを用いる方法等、他の方法を用いて、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eにUVインクI及びPVA溶液Fを塗布してもよい。
・積層体形成工程(ステップS20)において、紫外線硬化樹脂滴下工程のあとにPVA溶液滴下工程を実施してもよい。UVインクIが浸透した部分には、PVA溶液Fも浸透しにくくなるため、上述した構成であっても、造形物への両親媒性ポリマーの混入を抑えることができる。また、UVインクIの浸透がPVA溶液Fによって妨げられることもないため、結着部分の形状をより高精度に形成することも可能である。
・積層体形成工程(ステップS20)において、紫外線照射工程のあとにPVA溶液滴下工程を実施してもよい。ここで、PVA溶液Fが浸透した部分にはUVインクIが浸透しにくいものの、UVインクIを硬化させる前にPVA溶液Fが塗布された場合には、結着部分と未結着部分との境界付近で両親媒性ポリマーが結着部分に混入してしまう虞があ
る。この点、上述した造形方法によれば、UVインクIを硬化させたあとでPVA溶液Fが塗布されるため、造形物を構成する結着部分への両親媒性ポリマーの混入を確実に抑えることができる。
・造形物20を構成するスラリー層21a,21b,21c,21d,21eの形成に先立ち、基板11上に犠牲層12を形成する犠牲層形成工程(ステップS21)を設けたが、犠牲層形成工程(ステップS21)を割愛し、スラリー層21aを基板11上に形成するようにしてもよい。
・造形用スラリーは、疎水性粒体、水系溶媒が混練されたものに限らず、疎水性の粒体と、疎水性の粒体と同系であるモノマー及びオリゴマーの少なくとも一方からなる分散媒としての疎水性の液状体とで構成されていてもよい。こうした造形用スラリーにおいては、疎水性粒体とこれと同系の疎水性の液状体、より正確には、疎水性粒体を構成する繰り返し単位構造の主骨格と、疎水性液状体の単位構造の主骨格とが同一である、あるいは、該単位構造における側鎖官能基や該単位構造における主骨格の一部が異なるものの、疎水性液状体と疎水性粒体との相互作用が疎水性粒体間の相互作用と略同じになる程度に、該単位構造の主骨格同士が一部重複する疎水性の液状体とを混合すると、疎水性の粒体と疎水性の液状体とは、互いに共通する構造を介して相互作用する。そのため、疎水性の粒体同士は、それぞれの周囲に存在する疎水性の液状体を介して相互作用するようになる。そのため、造形過程において振動等が与えられたとしても、疎水性粒体がこれに近接する疎水性粒体との上記相互作用による構造中に保持されることで、該粒体の飛散が抑制されるようになる。また、この造形用スラリーは、PVA溶液Fを塗布することで未結着部分の機械的強度を高めるという点で、上記相互作用により、疎水性粒体と水系溶媒とが混練された造形用スラリーよりも優れている。
なお、この造形用スラリーの疎水性粒体には、例えば、シリコーン樹脂粉末材料やアクリル樹脂粉末材料、アクリルシリコーン樹脂粉末材料を用いることができる。また、疎水性の液状体には、疎水性粒体として上記シリコーン樹脂粉末材料を用いる場合には、その単位構造であるアルコキシケイ素化合物を用いればよく、疎水性粒体としてアクリル樹脂を用いる場合には、その単位構造であるアクリレートを用いればよい。他方、疎水性粒体としてアクリルシリコーン樹脂粉末材料を用いる場合には、その単位構造として上記アクリレートとアルコキシケイ素化合物とのいずれもが含まれることから、疎水性液状体としてはアクリレートのモノマー及びオリゴマーと、アルコキシケイ素化合物のモノマー及びオリゴマーのいずれも用いることができる。例えば、上記(E)疎水性粒体としてシャリーヌR−170Sを、(F)疎水性液状体としてアクリル系オリゴマーであるBYK350(ビックケミー・ジャパン(株)製)を用いるとき、これらの材料を以下の割合で配合すると好ましい。
(E):(F)=5:1(単位g)
・疎水性粒体は樹脂からなる粒体に限らず、他の疎水性粒体、例えば表面に疎水性を有したシリコーン酸化物等の粒体であってもよい。
・疎水性粒体には、その表面に親水基を有するものを用いてもよい。
・造形用スラリーならびにPVA溶液Fの水系溶媒は水に限らず、無機塩の水溶液等、他の非有機系の水系溶媒であってもよい。
・造形用スラリーならびにPVA溶液Fの水系溶媒は、水に水溶性の有機溶媒を添加したものであってもよい。
・造形用スラリーならびにPVA溶液Fの水系溶媒は非有機系の溶媒に限らず、造形物20の形状制御が可能であれば、エタノール、n−プロパノール等のアルコール類、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、ピロリドン系溶媒等の有機溶媒を主成分とする溶媒を用いるようにしてもよい。なおこの場合、造形物20を構成する疎水
性流体としては、上記シリコーン酸化物等の有機溶媒に対する溶解性が低いものを用いることが好ましい。
・上記の造形方法では、UVインクI及びPVA溶液Fが塗布される各層を造形用スラリーで用いて形成した。これに限らず、各層を粒体のみで構成してもよい。すなわち、各層にUVインクIを塗布して粒体同士を結着させた結着部分を積層することにより造形物が形成される造形方法に対してであれば、採用することができる。
F…PVA溶液、I…UVインク、L…紫外線、11…基板、12…犠牲層、20…造形物、21a,21b,21c,21d,21e…スラリー層、22a,22b,22c,22d,22e…結着部分、23a,23c,23d,23e…未結着部分、31…液滴吐出装置、40…積層体。

Claims (6)

  1. 疎水性の粒体を結着液で結着することにより造形物を造形する造形方法であって、
    前記粒体を含む複数の層を積み重ねつつ各層の一部に前記結着液を塗布し、前記粒体同士が前記結着液を介して結着した結着部分と該結着部分以外の未結着部分とに区画された前記層の積層体を形成する積層体形成工程と、
    前記未結着部分を前記積層体から取り除く除去工程とを有し、
    前記積層体形成工程では、
    前記層が、前記粒体、前記粒体と水系溶媒とからなるスラリー、前記粒体と該粒体と同系であるモノマー及びオリゴマーの少なくとも一方からなる分散媒としての疎水性の液状体とからなるスラリーのうち、いずれか一つを用いて形成されるとともに、
    両親媒性ポリマーを水系溶媒に溶解させた調整液を前記未結着部分に塗布することによって、該未結着部分にのみ前記両親媒性ポリマーを含ませる
    ことを特徴とする造形方法。
  2. 前記疎水性の粒体を含む犠牲層を最下層として基体に形成し、前記犠牲層に前記調整液を塗布する犠牲層形成工程を有する
    ことを特徴とする請求項1に記載の造形方法。
  3. 前記調整液は、各層において、前記結着液を塗布するまえに塗布される
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の造形方法。
  4. 前記調整液は、各層において、前記結着液を硬化させたあとで塗布される
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の造形方法。
  5. 前記調整液は、インクジェット法を用いて塗布される
    ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の造形方法。
  6. 前記両親媒性ポリマーは、ポリビニルアルコールである
    ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の造形方法。
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