JP5920498B2 - 造形方法 - Google Patents

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この発明は、造形に用いられる造形用スラリー、及び該造形用スラリーを用いた造形方法に関する。
従来から、造形物を迅速に試作する方法(ラピッドプロトタイピング)として積層造形法が多用されている。積層造形法では、三次元CAD等による造形物のモデルを多数の二次元断面層に分割した後、各二次元断面層に対応する層状構造体を順次作成しつつ積層することによって造形物を形成する。具体的には、例えば特許文献1に記載のように、まず、セラミックや金属等を含む粒体が層状に形成される。次いで、粒体からなる層の一部で粒体同士を結着させるための結着液が、例えばインクジェット式液滴吐出装置によって粒体からなる層に吐出される。そして粒体間の空隙に浸透した結着液がそれの硬化とともに粒体同士を結着することによって、上記二次元断面層に対応する層状構造体が形成される。以後同様に、これら粒体からなる層の形成と結着液の吐出とが交互に繰り返されることによって造形物が形成される。
特許2729110号公報
上述のように、造形物の形成材料として粒体を用いた場合、粒体の層に振動が与えられることや、粒体の層に対して結着液が吐出されること等によって、粒体からなる層から粒体の一部が飛散することも少なくない。飛散した粒体は、構造体が形成される空間中に拡散する他、結着液を吐出する液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドに付着する。このように液滴吐出ヘッドに付着した粒体は、液滴吐出ヘッドを汚染するとともに、液滴吐出ヘッドに設けられたノズルを塞ぐことで、液滴の吐出を妨げる虞がある。なお、上述したような粒体の飛散による問題とは、上記液滴吐出装置を用いた積層造形法に限られたものではなく、粒体を用いて造形する方法に概ね共通した問題である。
この発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、粒体を用いた造形時において粒体の飛散を抑制することが可能な造形用スラリーを提供するとともに、この造形用スラリーを用いた造形方法を提供することにある。
この発明では、造形物を粒体で形成するための造形用スラリーは、水系溶媒と、前記造形物を構成する疎水性の粒体と、前記造形物を構成するとともに前記水系溶媒に溶解される両親媒性固体ポリマーとを含有する。
この発明によれば、造形物を形成するための疎水性の粒体は、水系溶媒及び両親媒性固体ポリマーとともに混合されることによって、懸濁液であるスラリー中に存在する。当該スラリーにおいては、両親媒性固体ポリマーにおける疎水性の部位が疎水性の粒体と親和性を有するため、粒体同士が両親媒性固体ポリマーによって繋がれた状態にある。つまり、疎水性の粒体同士は、互いに独立した状態にあるのではなく、両親媒性固体ポリマーの介在によって互いに架橋された状態にある。そのため、造形物の形成に際して、スラリーに振動等が与えられたとしても、疎水性の粒体は、粒体間の架橋によって形成された構造中に保持されることから、粒体の飛散が抑制されるようになる。
他方、両親媒性固体ポリマーの有する親水性の部位が水系溶媒と親和性を有するため、疎水性の粒体は、両親媒性固体ポリマーを介して水系溶媒中に分散された状態になる。そのため、疎水性の粒体は、両親媒性固体ポリマーを介することによって、水系溶媒中に均一に分散することが可能になる。それゆえに、こうしたスラリーを用いて形成された造形物においては、その形成材料である疎水性の粒体が均一に存在するようになる。
しかも、このようにして粒体の飛散を抑制する溶媒として、水系溶媒を用いるようにしているため、粒体が溶媒に溶解することや、粒体が溶媒を吸収して膨潤することに起因して、粒体が変性することを抑制することができる。そして、上述した効果を発現するための両親媒性固体ポリマーが造形物の構成材料であるため、造形物を形成するに際して造形用スラリーから両親媒性固体ポリマーを別途取り除く必要もない。
この発明では、前記粒体が樹脂からなる粒体であり、且つ、前記水系溶媒が非有機系の溶媒を主成分とした溶媒であり、且つ、前記両親媒性固体ポリマーは、主鎖として炭化水素鎖を有するとともに、側鎖として親水性の官能基を有する。
この発明によれば、造形物を構成する粒体が樹脂から形成されたものであり、且つ、粒体とともにスラリーを構成する溶媒は、非有機系である。一般に、非有機系の溶媒に対する樹脂の溶解度は小さいことから、粒体の形成材料として樹脂を選択し、且つ、溶媒として非有機系の溶媒を選択した場合、粒体が溶媒に溶解することや粒体が溶媒を吸収して膨潤することをより確実に抑制できる。
また、上記発明では、主鎖として炭化水素鎖を有するとともに、側鎖として親水性の官能基を有する両親媒性固体ポリマーを用いるようにしている。これにより、両親媒性固体ポリマーの疎水性を発現する炭化水素鎖によって両親媒性固体ポリマーと粒体との親和性が担保されるとともに、両親媒性固体ポリマーの親水性を発現する親水基によって両親媒性固体ポリマーと非有機系の溶媒との親和性が担保されるようになる。
この発明では、前記両親媒性固体ポリマーはポリビニルアルコールである。
この発明によるように、疎水性の粒体及び水系溶媒と親和性を有する両親媒性固体ポリマーとしては、ポリビニルアルコールを採用することができる。ポリビニルアルコールは、主鎖として直鎖状の炭化水素を有するとともに、側鎖として親水性の官能基であるヒドロキシル基を有する。ポリビニルアルコールには、その単位構造当りに凡そ一つのヒドロキシル基が含まれることから、該ポリビニルアルコールは、疎水性の粒体との親和性を主鎖によって維持しつつ、水系溶媒との親和性が高いものとなる。それゆえに、両親媒性固体ポリマーとしてポリビニルアルコールを含むスラリーにおいては、これを構成する粒体がより均一に分散されることになる。
この発明では、前記水系溶媒は水であるとともに、前記ポリビニルアルコールの重合度は、300以上1000以下である。
ポリビニルアルコールは、単位構造の重合数である重合度が大きいもの程、これを含む膜等の構造体の機械的強度が増大する。一方、ポリビニルアルコールは上述のように、その単位構造に含まれるヒドロキシル基によった親水性を有してはいるものの、その重合度が大きくなる程、水系溶媒に対する溶解度は低下する。
ここで、スラリーを用いて造形物を形成する場合、スラリーからなる単一層における機械的強度に鑑みれば、スラリーに含まれるポリビニルアルコールの重合度をより大きくすることが好ましい。しかしながら、スラリーからなる層を積層することによって造形物を形成するとなれば、重合度の増大によってポリビニルアルコールの溶解度が低下することから、隣接する層の接合面においては、一方の層の界面に存在するポリビニルアルコールが、他方の層を構成する溶媒に溶解し難くなる。つまり、層間の溶解性が低下することによって層間の接着性が低下してしまい、層間における機械的強度が低下することになる。
上記観点に基づく本発明者らの鋭意研究によって、スラリーに含まれる水系溶媒が水であるときに、ポリビニルアルコールの重合度を300以上1000以下とすれば、スラリーからなる層内の機械的強度と層間の接着性との両立が可能であることが見出された。それゆえに、この発明によれば、スラリーからなる単一層によって造形物を形成する場合であれ、スラリーからなる層の積層体によって造形物を形成する場合であれ、当該造形用スラリーを利用することが可能である。
この発明では、前記水系溶媒は水であるとともに、前記ポリビニルアルコールの鹸化度は、85以上90以下である。
ポリビニルアルコールの単位構造であるビニルアルコールの単量体が酸化されやすく不安定であることから、ポリビニルアルコールは一般に以下の手順で生成される。
(a)ビニルアルコールのヒドロキシル基がカルボキシル基に置換された構造を有する酢酸ビニルを重合することによって、ポリ酢酸ビニルを生成する。
(b)ポリ酢酸ビニルを加水分解(鹸化)して、カルボキシル基をヒドロキシル基に置換する。
そのため、ポリビニルアルコールと総称される物質には、ポリ酢酸ビニルの重合度に対する、該ポリ酢酸ビニルが有するカルボシキル基と置換したヒドロキシル基の数の比が異なるものが含まれる。ここで、上記重合度に対するヒドロキシル基の数の比の百分率は鹸化度と呼ばれ、ポリビニルアルコールの特性を示す指標として用いられている。例えば、鹸化度が小さい程、ポリビニルアルコール中に含まれるカルボキシル基の数が多くなる一方、ヒドロキシル基の数が少なくなることから、ポリビニルアルコール全体としての疎水性が増大する。そのため、水系溶媒に対する溶解度が小さくなる。他方、鹸化度が大きい程、ポリビニルアルコール中に含まれるカルボキシル基の数が少なくなる一方、ヒドロキシル基の数が多くなることから、ポリビニルアルコール全体としての親水性が増大する。そのため、水系溶媒に対する溶解度が大きくなる。ただし、カルボキシル基がほとんど含まれていないポリビニルアルコール、言い換えれば、鹸化度が100に近いポリビニルアルコールは結晶化しやすいため、溶媒への溶解度が低下する。
この点、本発明によれば、スラリーを構成する溶媒が水であるときに、ポリビニルアルコールの鹸化度を85以上90以下とすることにより、水に対するポリビニルアルコールの溶解度の低下を抑制することができる。そのため、上述のようなスラリー層間の接着性の低下を抑制することができる。
この発明では、造形用スラリーの構成材料として繊維材料が含有される。
この発明によれば、スラリー中に繊維材料を含有させることによって、その機械的強度を増大することができる。
この発明は、結着液を介して粒体同士を結着することにより造形物を形成する造形方法であって、疎水性の粒体と、水系溶媒と、該水系溶媒に溶解された両親媒性固体ポリマーとを含むスラリーからなる層を基体に形成する層形成工程と、結着液を前記層の一部に浸透させた後に該結着液を硬化することによって、前記粒体及び前記両親媒性固体ポリマーを結着する結着工程と、前記硬化された前記結着液を含む前記層に水系の液体を流すことによって、前記結着液が浸透した領域以外を前記層から取り除く除去工程とを含む。
この発明によれば、造形物の形成に際しては、造形物を形成する疎水性の粒体が、水系溶媒中に懸濁されたスラリーを用いるようにしている。そのため、造形物の形成に際してスラリーに振動等が与えられたとしても、疎水性の粒体は水系溶媒中に保持されることから、粒体の飛散が抑制されるようになる。しかも、こうして粒体の飛散を抑制する溶媒として、水系溶媒を用いるようにしているため、粒体が溶媒に溶解することや、粒体が溶媒を吸収して膨潤することに起因して、粒体が変性することを抑制できる。
また、上記発明によれば、スラリーの構成材料として、疎水性の粒体と水系溶媒との両方に親和性を有する両親媒性固体ポリマーを加えるようにしている。こうした両親媒性固体ポリマーは、その疎水性の部位において疎水性の粒体と親和性を有するとともに、その親水性の部位において水系溶媒と親和性を有する。そのため、疎水性の粒体は、両親媒性固体ポリマーを介することによって、水系溶媒中に均一に分散することが可能になる。それゆえに、こうした造形用スラリーを用いて形成された造形物においては、その形成材料である疎水性の粒体が均一に存在するようになる。
さらに、上記発明では、スラリーからなる層に結着液が滴下されるとともに、結着液を浸透させて該結着液を硬化した後に、それ以外の領域を水系の液体によって除去するようにしている。この際、上記層を構成するスラリーが水系溶媒及び両親媒性固体ポリマーを含んで構成されるため、結着液が浸透した領域以外の領域は、水系の液体によって容易に除去することができる。
この発明では、前記層形成工程と前記結着工程とを交互に繰り返すことによって前記硬化された前記結着液を含む複数の前記層からなる積層体を形成した後、前記除去工程では、前記積層体に前記水系の液体を流すことによって、前記結着液が浸透した領域以外を前記積層体から取り除く。
この発明によれば、層形成工程と結着工程とを交互に繰り返すことにより、複数の層から構成される積層体を形成することができるため、当該造形方法によって形成される造形物の形状に係る自由度が高くなる。
この発明は、前記スラリーからなるとともに、前記層よりも前記結着液の滴下量が少ない犠牲層を最下層として前記基体に形成する犠牲層形成工程を含む。
この発明では、最下層として基体上に形成する層として上記層よりも結着液の滴下量が少ない犠牲層を設けるようにしている。そのため、造形物を形成する層を基体から剥離する際には、上記犠牲層を除去する、あるいは、犠牲層と基体とを乖離させるようにすればよい。それゆえに、造形物を基体から剥離する際に造形物に掛かる力等に起因して、造形物の形状、特に、犠牲層の直上に塗布される層によって形成される部位における形状の精度が低下することを抑制できる。
この発明では、前記犠牲層形成工程において、前記犠牲層となる前記層に対して前記結着液を離散的に滴下するとともに、該結着液を硬化する。
この発明によれば、犠牲層に対して離散的に結着液を滴下するとともに、結着液を硬化するようにしている。そのため、犠牲層の基体からの剥離性が低下することを抑制しつつ、スラリーの層に形成される造形物が、結着液の硬化領域を介して基体に安定に支持されるようになる。
本発明の一実施の形態に係る造形用スラリーを用いた造形方法の手順を示すフローチャート。 (a)(b)(c)同造形方法の各工程を手順に沿って模式的に示す図。 (a)(b)(c)同造形方法の各工程を手順に沿って模式的に示す図。 (a)(b)(c)(d)変形例に係る造形方法の各工程を手順に沿って模式的に示す図。 (a)(b)(c)変形例に係る造形方法の各工程を手順に沿って模式的に示す図。
以下、本発明に係る造形用スラリー及び該造形用スラリーを用いた造形方法の一実施の形態について、図1〜図3を参照して説明する。
[造形用スラリーの組成]
まず、造形用スラリーの組成について説明する。
本実施の形態の造形用スラリーは、次の3つの材料が混練された懸濁物である。
(A)疎水性粒体
(B)水系溶媒
(C)両親媒性固体ポリマー
上記疎水性粒体は、造形用スラリーを用いて形成される造形物の主要な構成材料である。疎水性粒体には、疎水性の樹脂の粒体、例えばアクリル樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末、アクリルシリコーン樹脂粉末、ポリエチレン樹脂粉末、及びポリエチレンアクリル酸共重合樹脂粉末を用いることができる。なお、本実施の形態における疎水性粒体とは、100gの水系溶媒に対して1g以上溶解しない粒体のことである。
上記水系溶媒に対しては、造形物を構成する疎水性粒体の溶解度が上述のように低い。そのため、溶媒への溶解や溶媒の吸収に起因する疎水性粒体の変性が起こり難い。それゆえに、疎水性粒体の飛散を抑制する媒質として好ましい。なお、水系溶媒とは水、及び無機塩の水溶液等の非有機系溶媒を含むものであって、このうち水が水系溶媒として用いられることが好ましい。また、上記水系溶媒は、水に水溶性の有機溶媒を添加したものであってもよい。
上記両親媒性固体ポリマーは、上記疎水性粒体とともに造形物を構成する材料である。この固体ポリマーは両親媒性であることから、親水性の部分による水系溶媒との親和性によって水系溶媒に溶解するとともに、その疎水性の部分による疎水性粒体との親和性によって該疎水性粒体の溶媒中への分散作用を発現する。両親媒性固体ポリマーとしては、主鎖である炭化水素鎖と、側鎖である親水性の官能基とを有する材料を用いることができる。中でも、直鎖炭化水素鎖を有しているものの、他の材料と比較して親水性が高いポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
上記3つの材料が混練されたスラリー中では、両親媒性固体ポリマーが有する疎水性の部分によって、疎水性粒体同士が互いに架橋された状態にもなる。そのため、造形物の形成に際して、スラリーに振動等が与えられたとしても、疎水性の粒体は、粒体間の架橋によって形成された構造中に保持されることから、粒体の飛散が抑制されるようになる。
また、疎水性粒体は、疎水性の部分において相互作用している両親媒性固体ポリマーが有する親水性の部分を介して、水系溶媒中に均一に分散される。そのため、こうしたスラリーを用いて形成された造形物においては、形成材料である疎水性粒体が均一に存在することになる。なお、こうした両親媒性固体ポリマーは、それ自体が造形物の形成材料であることから、造形物の形成時には、形成途中の、あるいは完成した造形物から両親媒性固体ポリマーを取り除くといった操作を必要としない。
以下に、(A)疎水性粒体及び(C)両親媒性固体ポリマーの具体例を記載する。
[(A)疎水性粒体]
疎水性粒体としての粉末樹脂材料は、真球形状の粒体を含有していることが好ましい。これにより、造形物の形状に係る制御性、特に造形物の外形を規定する辺や角部における形状の制御性が向上する。
また、上記粉末樹脂材料を含有するスラリーを用いて公知の積層造形法により造形物を形成する際には、粉末樹脂材料の粒径が、スラリーにより形成されるスラリー層当りの厚さ以下であることが好ましい。さらには、スラリー層の厚さの2分の1以下であることがより好ましい。これにより、スラリー層における粒体の体積充填率を向上させ、ひいては、造形物の機械的強度を向上させることができる。
加えて、粉末樹脂材料には、上記粒径の範囲内で、互いに異なる粒径の粒体が含まれていることが好ましい。なお、造形用スラリー中における粒径の分布としては、ガウス分布(正規分布)に近い分散であってもよいし、最大径側あるいは最小径側に粒径分布の最大値を有するような分散(片分散)であってもよい。粉末樹脂材料に含まれる粒体の粒径が単一の値である場合、造形物を形成したときの該粒子の体積充填率は、最密充填時の理論値である69.8%を超えることはなく、実際には50〜60%程度の充填率となる。上述のように、粉末材料中に互いに異なる粒径の粒体が含まれる、言い換えれば粒径が範囲を持って分布するようにすれば、例えば相対的に大きな粒径を有した粒体同士によって形成された空隙に、相対的に粒径の小さい粒体が配置されることによって体積充填率が向上される。これにより、造形物の機械的強度を向上させることができる。
例えば、上記スラリー層の厚さが100μmである場合、粉末樹脂材料に含まれる粒体の粒径は、100μm以下が好ましく、さらには、平均粒径が20μm〜40μmであって、数μm〜から100μm以下の分散を有しているとより好ましい。
上記条件を満たす粉末樹脂を以下に列挙する。
シリコーン樹脂粉末材料としては、例えば、トスパール1110(粒径11μm)、トスパール120(粒径2μm)、トスパール130(粒径3μm)、トスパール145(粒径4.5μm)、トスパール2000B(粒径6μm)、トスパール3120(粒径12μm)(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)(トスパール:登録商標)等が挙げられる。
アクリルシリコーン樹脂粉末としては、例えば、シャリーヌR−170S(粒径30μm)(日信化学工業(株)製)(シャリーヌ:登録商標)が挙げられる。
アクリル樹脂としては、例えば、エポスターL15(粒径10〜15μm)、エポスターM05(粒径4〜6μm)、エポスターGPH40〜H110(粒径4〜11μm)((株)日本触媒製)(エポスター:登録商標)が挙げられる。
ポリエチレン樹脂としては、例えば、フロービーズLE−1080(粒径6μm)、フロービーズLE−2080(粒径11μm)、フロービーズHE−3040(粒径11μm)、フロービーズCL−2080(粒径11μm)(住友精化(株)製)(フロービーズ:登録商標)が挙げられる。
エチレンアクリル酸共重合樹脂である、フロービーズEA−209(粒径10μm)(住友精化(株)製)が挙げられる。
[(C)両親媒性固体ポリマー]
両親媒性固体ポリマーの好ましい例として、ポリビニルアルコールが挙げられる。ポリビニルアルコールの構造を以下に示す。
Figure 0005920498
ポリビニルアルコールは、主鎖として直鎖状の炭化水素を有するとともに、側鎖として親水性の官能基であるヒドロキシル基を有する。ポリビニルアルコールには、その単位構造当りに凡そ一つのヒドロキシル基が含まれることから、該ポリビニルアルコールは、疎水性の粒体との親和性を主鎖によって維持しつつ、水系溶媒との親和性が高いものとなる。なお、ポリビニルアルコールの単量体であるビニルアルコール(H2C=CHOH)が酸化されやすく不安定であることから、ポリビニルアルコールは一般に以下の手順で生成される。
(a)ビニルアルコールのヒドロキシル基(−OH)がカルボキシル基(−COOH)に置換された構造を有する酢酸ビニル(H2C=CHCOOH)を重合することによって、ポリ酢酸ビニルを生成する。
(b)ポリ酢酸ビニルを加水分解(鹸化)して、カルボキシル基をヒドロキシル基に置換する。
そのため、ポリビニルアルコールは、上記化学式(1)に示されるように、側鎖である官能基としてヒドロキシル基の他に、カルボキシル基を有している。また、ポリビニルアルコールと総称される物質には、上記加水分解の度合いの違いに起因して、ポリ酢酸ビニルの重合度に対する、ヒドロキシル基の数の比が異なるものが含まれる。こうした重合度に対するヒドロキシル基の数の比の百分率は鹸化度と呼ばれ、ポリビニルアルコールの特性を示す指標として用いられている。
また、ポリビニルアルコールの特性を示す指標としては、上記化学式(1)に示される単位構造の重合数である重合度も用いられている。
これら鹸化度と重合度には以下のような傾向がある。
・鹸化度が大きい程、親水性が増大するため、水系溶媒に対する溶解度が大きくなる。
・ただし、鹸化度が100%付近になると結晶化しやすくなるため、水系溶媒に対する溶解度が極端に小さくなる。
・鹸化度が小さい程、疎水性が増大するため、水系溶媒に対する溶解度が小さくなる。
・重合度が大きい程、ポリビニルアルコールが含まれる構造体の機械的強度が増大する。
・重合度が小さい程、水系溶媒、特に冷水に対する溶解度が大きくなる。
ここで、上記積層造形法を用いて造形物を形成する場合、スラリーからなる単一層における機械的強度に鑑みれば、スラリーに含まれるポリビニルアルコールの重合度をより大きくすることが好ましい。しかしながら、重合度の増大によってポリビニルアルコールの溶解度が低下することから、スラリーからなる層を積層することによって造形物を形成する際、隣接する層の接合面においては、一方の層の界面に存在するポリビニルアルコールが、他方の層を構成する溶媒に溶解し難くなる。つまり、層間の溶解性が低下することによって層間の接着性が低下してしまい、層間における機械的強度が低下することになる。
この点、スラリーに含まれる水系溶媒が水であるときには、ポリビニルアルコールの重合度を300以上1000以下とすることが好ましい。これによれば、スラリーからなる層内の機械的強度と層間の接着性との両立が可能である。加えて、鹸化度を85以上90以下とすることも好ましい。これによれば、水に対するポリビニルアルコールの溶解度の低下を抑制することができる。そのため、上述のようなスラリー層間の接着性の低下を抑制することができる。また、ポリビニルアルコールの重合度を300以上1000以下とするとともに、鹸化度を85以上90以下とする構成はより好ましい。これによれば、スラリーからなる層内の機械的強度と層間の接着性との両立が可能であるとともに、水に対するポリビニルアルコールの溶解度の低下を抑制することができる。
上記条件を満たすポリビニルアルコールを以下に列挙する。
ポバールJP−03(重合度300、鹸化度86.0〜90.0(88))、ポバールJP−04(重合度400、鹸化度86.0〜90.0(88))、ポバールJP−05(重合度500、鹸化度87.0〜89.0(88))、ポバールJP−10(重合度1000、鹸化度86.0〜90.0(88))、ポバールJP−05S(重合度500、鹸化度86.0〜90.0(88))(日本酢ビ・ポバール(株)製)等が挙げられる。
クラレポバールPVA−203(重合度300、鹸化度87〜89(88))、クラレポバールPVA−205(重合度500、鹸化度86.5〜89(87.75))等が挙げられる。
ゴーセノールGL−05(重合度500、鹸化度86.5〜89.0(87.75))、ゴーセノールGL−03(重合度300、鹸化度86.5〜89.0(87.75))(日本合成化学工業(株)製)(ゴーセノール:登録商標)等が挙げられる。
[配合比]
上記(A)疎水性粒体としてシャリーヌR−170Sを、(B)水系溶媒として水を、(C)両親媒性固体ポリマーとしてポバールJP−05を用いるとき、これらの材料を以下の割合で配合すると好ましい。
(A):(B):(C)=7:3.1:0.22(単位g)
これら材料を混練することにより、造形用スラリーを作成することができる。なお、造形物において疎水性粒体の充填率が高くなるほど、該造形物における機械的な強度が高められる。それゆえに、造形物の機械的な強度を高める上では、疎水性粒体が最密に充填されるべく、最密に充填された疎水性粒体の隙間よりも水系溶媒及び両親媒性固体ポリマーが占める体積が小さくなるような配合比が好ましい。
[造形方法]
次に、上記組成のスラリーを用いた造形方法について、図1〜図3を参照して説明する。
図1は、造形方法の各工程を手順に沿って示すとともに、図2及び図3は、上記各工程にて実施される処理を模式的に示している。
本実施の形態における造形方法では、まず、犠牲層形成工程(ステップS11:図2(a))にて、例えばガラス基板やプラスチックシート等の基板11上に、例えば厚さが200μmになるように、上記スラリーを塗布することによって、スラリーからなる層の最下層としての犠牲層12を形成する。なお、スラリーの塗布には、公知の方法であるスキージ法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、及びスピンコート法等、基板11上に略均一な厚さを有したスラリーの層を形成可能な方法を用いることができる。
次いで、スラリー層形成工程(ステップS12:(b))にて、厚さが100μmになるように、上記スラリーを塗布してスラリー層21aを形成する。なお、スラリー層21aの形成に際しても、犠牲層12の形成時と同様、上記公知の方法を用いることができる。
そして、紫外線硬化樹脂滴下工程(ステップS13:図2(c))にて、上記スラリー層21aにおいて造形物20(図3)の一部を形成するための造形部22aに、液滴吐出装置31から結着液としての紫外線硬化樹脂を含んだUVインクIを吐出する。ここで、スラリー層21a内には、上記ポリビニルアルコールによる疎水性粒体の架橋構造が形成されることによって、疎水性粒体同士は互いに所定の空間を有して配置されているとともに、空間中には水が充填されている。そのため、スラリー層21aの上方から、該スラリー層21aの表面に向かって吐出されたUVインクIは、上述の空間を通ってスラリー層21aの裏面に到達するようになる。つまり、造形部22aの全体にUVインクIが浸透するため、該造形部22aの強度が向上される。ちなみに、スラリー層21a中のポリビニルアルコールにおける疎水性の領域が、UVインクIに対する親和性を有していることから、UVインクIがスラリー層21a中に浸透しやすくもなる。
上記UVインクIには、カチオンを活性種とする重合反応によって硬化するカチオン重合型の紫外線硬化樹脂を含むものと、ラジカルを活性種とする重合反応によって硬化するラジカル重合型の紫外線硬化樹脂を含むものとがある。本実施の形態においては、これらのいずれに属するUVインクIも用いることができる。ただし、当該UVインクIは、スラリー層21aの造形部22aに滴下された後、造形部22aに含まれる疎水性粒体と共々、硬化させるものである。そのため、UVインクI、特に紫外線硬化樹脂と疎水性粒体とには、相溶性を有する材料を選択することが好ましい。つまり、UVインクIと疎水性粒体には同系の材料を用いること、例えばアクリル系のUVインクIと、アクリル樹脂粉末とを用いることが好ましい。あるいは、UVインクIと、該UVインクIと同系の材料が表面に導入された疎水性粒体とを用いること、例えばアクリル系UVインクIとアクリルシリコーン樹脂粉末とを用いることが好ましい。つまり、ここでいう同系とは、疎水性粒体を構成する繰り返し単位構造の主骨格と、UVインクIに含まれる樹脂の単位構造の主骨格とが同一であることを意味している。また同系とは、該単位構造における側鎖官能基や該単位構造における主骨格の一部が異なるものの、疎水性液状体と上記樹脂との相互作用が疎水性粒体間の相互作用と略同じになる程度に、該単位構造の主骨格同士が一部重複することを意味している。それゆえに、疎水性粒体及び上記樹脂がそれぞれ共重合体である場合には、これらに含まれる原子の組成比が一致していないものも同系であるとする。
ラジカル重合型の紫外線硬化樹脂としては、アクリル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂等が挙げられる。なお、アクリル系樹脂としては、例えば、ポリエステルアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、及びポリエーテルアクリレート系樹脂が挙げられる。
カチオン重合型の紫外線硬化樹脂としては、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、及び、シリコーン系樹脂が挙げられる。なお、シリコーン系樹脂としては、アクリルシリコーン系樹脂、ポリエステルシリコーン樹脂、エポキシシリコーン樹脂、及びメルカプトシリコーン樹脂等が挙げられる。
また、上記各種UVインクIは、各色の顔料を含むようにしてもよい。イエローの顔料として、例えば、ファストイエロー(C.I.Pigment Yellow 74 )、ジスアゾイエロー(C.I.Pigment Yellow 16 , C.I.Pigment Yellow 128 )、イソインドリノンイエロー(C.I.Pigment Yellow 109 )が挙げられる。マゼンタの顔料として、キナクリドンマゼンタ(C.I.Pigment Red 122 )、無置換キナクリドン(C.I.Pigment Violet 19 )が挙げられる。シアンの顔料として、例えばフタロシアニンブルー(C.I.Pigment Blue 15:3 , C.I.Pigment Blue 15:4 )が挙げられる。ブラックの顔料として例えばカーボンブラックが挙げられる。ホワイトの顔料として例えば酸化チタンが挙げられる。また、これら顔料に加えて、艶消シリコーン粉末等の艶消剤や、蛍光顔料が、上記UVインクIに含まれるようにしてもよい。
その後、紫外線照射工程(ステップS14:図3(a))にて、上記スラリー層21a全体に紫外線Lが照射されることによって、造形部22aが硬化される。なお、紫外線Lは、スラリー層21aの全体に照射されなくともよく、少なくともスラリー層21aのうちの造形部22aに照射されればよい。また、紫外線Lの照射は、例えば上記液滴吐出装置31に搭載された紫外線照射装置によって、造形部22aへのUVインクIの滴下と交互に行うことや、該液滴吐出装置31とは別に設けられた紫外線照射装置によって、スラリー層毎に行うこと、あるいは複数のスラリー層に対して一度に行うことができる。
上述のようなUVインクIの滴下と紫外線Lの照射により硬化された造形部22aは、造形物20の一部を構成する。他方、スラリー層21aにおける造形部22a以外の領域は、同一のスラリー層21aに形成された造形部22aや、スラリー層21aの上部のスラリー層21b等に形成される造形部22b等を機械的に支持するサポート部23aとして機能するようになる。これにより、例えば、図3(b)に示されるように、上層の造形部22bが下層の造形部22aよりも、積層方向に垂直な方向に張り出している張り出し部を有する造形物20を形成する場合であっても、張り出し部を支持するサポート部を別途形成する必要がない。また、張り出し部の下層にスラリー層が存在する状態で造形物20の形成が行われることから、造形物20の形成途中において突起部が欠けることを抑制できる。なお、上記紫外線硬化樹脂滴下工程と紫外線照射工程とから結着工程が構成される。
上記スラリー層形成工程(ステップS12)から上記紫外線照射工程(ステップS14)までの3工程は、造形物20を構成する造形部の全てが形成されるまで繰り返し実施される。例えば、図3(b)に示されるように、造形物20が5層のスラリー層21a,21b,21c,21d,21eから構成される場合、上記3工程が順に5回繰り返される。このように、層形成工程から紫外線照射工程までの4工程を順に繰り返すことにより、複数の層から構成される積層体を形成することができるため、当該造形方法によって形成される造形物20の形状に係る自由度が高くなる。
造形物20を構成する造形部22a,22b,22c,22d,22eが全て形成されると、サポート部除去工程(ステップS15:図3(c))にて、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eの積層体から、サポート部23a,23c,23d,23eが除去される。サポート部23a,23c,23d,23eの除去は、上記基板11とともに積層体を水系の液体中、例えば水中に浸すこと、積層体に水を所定の圧力で吹き付けること等によって行うことができる。なお、スラリーの構成材料であるポリビニルアルコールの重合度を300以上1000以下とするとともに、鹸化度を85以上90以下とすれば、スラリー層の水に対する溶解度の低下を抑制することができる。そのため、上述した重合度と鹸化度とを有したポリビニルアルコールからなる構成では、サポート部除去工程(ステップS15)に際して、上記積層体からサポート部23a,23c,23d,23eのみを容易に取り除くことができるという点で好ましい。
なお、サポート部除去工程に用いられた水にはサポート部23a,23c,23d,23eを構成していた疎水性粒体が含まれている。上述のように、サポート部23a,23c,23d,23eを構成する疎水性粒体は水に溶解し難いため、上記水を濾過する等によって疎水性粒体を抽出することができる。つまり、上記サポート部除去工程に続いて、疎水性粒体の抽出工程を行うようにしてもよい。こうして抽出された疎水性粒体は、スラリーの構成材料として再利用することができる。
[実施例]
(A)シャリーヌR−170Sと、(B)水と、(C)各種ポバールとを以下の割合で配合してスラリーを形成した。
(A):(B):(C)=7:3.1:0.22(単位g)
上記ポバールには、重合度あるいは鹸化度が互いに異なる5種類のポバール(JP−05、JP−15、JP−24、JT−05、JT−15)を用いた。これらスラリーについて、23℃にてスラリー層を積層したときの層間の固定強度と、18℃の冷水に対する溶解性とを評価した。なお、固定強度の評価は、JISK7161、JISK7162に準じた方法で引っ張り弾性率を測定することにより行った。上記各ポバールを用いたスラリーの固定強度及び溶解性の評価結果を表1に示す。
Figure 0005920498
表1に示されるように、ポバールの鹸化度が85以上90以下の範囲にある場合には(JP−05、JP−15、JP−24)、重合度が最も小さいJP−05を用いた場合に溶解性が最も高く、重合度が最も大きいJP−24を用いた場合に溶解性が最も低いことが認められた。また、固定強度は、JP−05とJP−15とで同程度であり、JP−24がこれらよりも低いことが認められた。これは、鹸化度が至適の範囲である85以上90以下の範囲内であるときには、鹸化度に起因するポバールの溶解性は担保されているため、スラリーの溶解性が重合度によって規定されると言える。また、ポバールの重合度が小さい程、固定強度、溶解性ともに良好であるとも言える。
他方、ポバールの鹸化度が90より大きい範囲にある場合には(JT−05、JT−15)、いずれの重合度のポバールを用いたとしても、同一の重合度であって鹸化度がより低いJP−05、JP−15よりも溶解性が低いことが認められた。これは、鹸化度が90より大きいためにポバールが結晶化し易く、水に対する溶解度が低いためと言える。これに対し、スラリー層間の固定強度は、重合度が小さいJT−05よりも重合度が大きいJT−15の方が高いことが認められた。これは、JT−05とJT−15とが有するポリマー単位での重合度がほぼ同一であるとした場合、重合度が高いJT−15の方が、結晶化していない単位構造がポリマー当りに多く含まれるため、スラリー層間での溶解性が得られ易いためと考えられる。
以上説明したように、本実施の形態に係る造形用スラリー、及び該スラリーを用いた造形方法によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)水系溶媒である水と、疎水性粒体である樹脂の粒体と、両親媒性固体ポリマーであるポリビニルアルコールとからスラリーを構成するようにした。これにより、造形物20を形成する樹脂粒体が、水及びポリビニルアルコールとともに混合されることによって、懸濁液であるスラリー中に存在する。また、当該スラリーにおいては、ポリビニルアルコールにおける炭化水素鎖が樹脂粒体と親和性を有するため、粒体同士がポリビニルアルコールを介して繋がれた状態にある。つまり、樹脂粒体同士は、互いに独立した状態にあるのではなく、ポリビニルアルコールの介在によって互いに架橋された状態にある。そのため、造形物20の形成に際して、スラリーに振動等が与えられたとしても、樹脂粒体は、粒体間の架橋によって形成された構造中に保持されることから、粒体の飛散が抑制されるようになる。
(2)また、ポリビニルアルコールの有するヒドロキシル基が水と親和性を有するため、樹脂粒体は、ポリビニルアルコールを介して水中に分散された状態になる。そのため、樹脂粒体は、ポリビニルアルコールを介することによって、水中に均一に分散することが可能になる。それゆえに、こうしたスラリーを用いて形成された造形物20においては、その形成材料である樹脂粒体が均一に存在するようになる。
(3)しかも、このようにして粒体の飛散を抑制する溶媒として、水を用いるようにしているため、粒体が溶媒に溶解することや、粒体が溶媒を吸収して膨潤することに起因して、粒体が変性することを抑制することができる。
(4)加えて、ポリビニルアルコールが造形物の構成材料であるため、造形物20を形成するに際して造形用スラリーからポリビニルアルコールを別途取り除く必要もない。
(5)スラリーの構成材料として、重合度が300以上1000以下であるポリビニルアルコールを用いるようにした。これにより、スラリーからなる層内の機械的強度と層間の接着性との両立が可能である。それゆえに、スラリーからなる単一層によって造形物を形成する場合であれ、スラリーからなる層の積層体によって造形物を形成する場合であれ、当該造形用スラリーを利用することが可能である。
(6)スラリーの構成材料として、鹸化度が85以上90以下であるポリビニルアルコールを用いるようにした。これにより、水に対するポリビニルアルコールの溶解度の低下を抑制することができるため、上述のようなスラリー層間の接着性の低下を抑制することができる。
なお、上記実施の形態は、以下のように適宜変更して実施することも可能である。
・上記結着液は、紫外線硬化樹脂を含むUVインクIに限らず、熱硬化樹脂を含む液状体に具現化することもできる。
・各スラリー層21a,21b,21c,21d,21eを形成した後に、該スラリー層21a,21b,21c,21d,21eを乾燥する乾燥工程を設けるようにしてもよい。また、乾燥に際しては、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eに含まれる水を完全に乾燥させてもよいし、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eの水分含有量が大気中で変わらない状態、つまりスラリー層21a,21b,21c,21d,21eと大気とが平衡状態となるようにしてもよい。なお、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eを完全に乾燥させても、下層のスラリー層中のポリビニルアルコールが、上層のスラリー層中の水に溶解することによって、層間の接着性は維持される。
・スラリー層21a,21b,21c,21d,21eの造形部22a,22b,22c,22d,22eにUVインクIを滴下した後に、紫外線Lを照射するようにした。これに限らず、例えばスラリー層21bのように、層全体が造形部22bとなる場合には、スラリー層21bを形成することなく、造形部22bをUVインクIのみによって形成するようにしてもよい。
・上記犠牲層12は、スラリーのみによって形成するようにした。これに限らず、犠牲層12の全体に、離散的にUVインクIを滴下して、造形物20の基板への固定強度を高める固定部12aを形成するようにしてもよい。こうした固定部12aを用いた造形方法の詳細について、図4及び図5を参照して以下に説明する。
まず、基板11上に例えば200μmとなるようにスラリーを塗布して犠牲層12を形成する(図4(a))。犠牲層12の全体に、液滴吐出装置31を用いてUVインクIを離散的に滴下する(図4(b))。UVインクIを、該UVインクIが浸透した領域の疎水性粒体と共々硬化させて固定部12aを形成する。なお、このUVインクIの硬化は、図4(b)に示されるUVインクIの離散的な滴下の直後に行ってもよいし、犠牲層12上に形成されるスラリー層21aの造形部22aの硬化と同時に行ってもよい。また、固定部12aは、犠牲層12の直上に形成されるスラリー層21aにおける造形部22aの領域の直下に少なくとも形成されていればよい。
次いで、犠牲層12上に、例えば100μmのスラリー層21aを形成した後に(図4(c))、スラリー層21aの造形部22aに液滴吐出装置31によってUVインクIを滴下する(図4(d))。そして、スラリー層21aの全体に紫外線Lを照射することによって、造形部22aを硬化させる(図5(a))。上記スラリー層の形成、UVインクIの滴下、及び造形部の硬化を例えば5回繰り返す(図5(b))。
最後に、造形部22a,22b,22c,22d,22eの周囲のサポート部23a,23c,23d,23eを除去する(図5(c))。このとき、固定部12aも含んで犠牲層12を基板11から剥離する。なお、犠牲層12に形成された固定部12aのうち、サポート部23aの直下に形成された固定部12aは、サポート部23aを除去することで取り除くことができる。一方、造形部22aの直下に形成された固定部12aについては、機械的あるいは化学的に取り除く必要がある。
こうして犠牲層12中に固定部12aを設けることにより、造形物20を形成する造形部22aが、より安定に基板11によって支持されるようになる。
・造形物20を構成するスラリー層21a,21b,21c,21d,21eの形成に先立ち、基板11上に犠牲層12を形成するようにしたが、該犠牲層12を形成しないようにしてもよい。
・造形物20は、5層のスラリー層21a,21b,21c,21d,21eによって形成されるものを例示した。これに限らず、造形物20を構成する層の数は、一以上の任意の数とすることができる。また、各スラリー層に形成される構造物の形状も任意である。
・樹脂粒体は、造形物20の形状制御が可能であれば、真球以外の形状、例えば楕円体形状等をなしていてもよい。
・紫外線硬化樹脂と同系でない、あるいは同系の材料が表面に導入されていない疎水性粒子を用いてもよい。
・スラリーに、例えばアセテート繊維等の繊維材料を含有させてもよい。これにより、スラリーを用いて形成した造形物の機械的強度を向上させることができる。
・ポリビニルアルコールの鹸化度は、スラリーの水系溶媒中でポリビニルアルコールが析出しない範囲であれば、85以上90以下の範囲外であってもよい。
・ポリビニルアルコールの重合度は、スラリー層間での再溶解性が得られる範囲であれば、300以上1000以下の範囲外であってもよい。
・両親媒性固体ポリマーはポリビニルアルコールに限らず、疎水性粒体の間に介在してこれらを繋ぐとともに、該疎水性粒体を水系溶媒中に均一に分散可能な両親媒性固体ポリマーであればよい。
・両親媒性固体ポリマーは、主鎖として炭化水素鎖を有するとともに、側鎖として親水性の官能基を有するものに限らず、疎水性の部位と親水性の部位を有するものであって、疎水性の部位によって疎水性粒体間に介在するとともに、親水性の部位によって水系溶媒中に分散可能なものであればよい。
・疎水性粒体は樹脂からなる粒体に限らず、他の疎水性粒体、例えば表面に疎水性を有したシリコン酸化物等の粒体であってもよい。
・疎水性粒体には、その表面に親水基を有するものを用いてもよい。
・上記水系溶媒は水に限らず、無機塩の水溶液等、他の非有機系の水系溶媒であってもよい。
・また水系溶媒は、水に水溶性の有機溶媒を添加したものであってもよい。
・水系溶媒は非有機系の溶媒に限らず、造形物20の形状制御が可能であれば、エタノール、n−プロパノール等のアルコール類、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、ピロリドン系溶媒等の有機溶媒を主成分とする溶媒を用いるようにしてもよい。なおこの場合、造形物20を構成する疎水性流体としては、上記シリコン酸化物等の有機溶媒に対する溶解性が低いものを用いることが好ましい。
・UVインクIは、液滴吐出装置31によってスラリー層21a,21b,21c,21d,21eに滴下されるようにした。これに限らず、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eにUVインクIを浸透させることの可能な方法であれば、適宜採用可能である。
11…基板(基体)、12…犠牲層、12a…固定部、20…造形物、21a,21b,21c,21d,21e…スラリー層、22a,22b,22c,22d,22e…造形部、23a,23c,23d,23e…サポート部、31…液滴吐出装置、I…UVインク、L…紫外線。

Claims (3)

  1. 紫外線硬化樹脂を含む結着液を介して粒体同士を結着することにより造形物を形成する造形方法であって、
    粒体と、水系溶媒と、該水系溶媒に溶解された両親媒性ポリマーとを含むスラリーからなる層を形成する層形成工程と、
    前記層の一部に前記結着液を吐出する工程と、
    前記層に浸透した該結着液に紫外線を付与する硬化エネルギー付与工程と、
    前記層に浸透した前記結着液を硬化することによって形成された造形部を含む層上に前記結着液を吐出し、該結着液に紫外線を付与することで前記結着液のみの造形部を形成する造形部形成工程と、
    を含むことを特徴とする造形方法。
  2. 請求項1に記載の造形方法において、
    前記スラリーからなる層を乾燥させる乾燥工程と、
    を含むことを特徴とする造形方法。
  3. 請求項1又は2に記載の造形方法において、前記層からなる積層体に液体を流すことによって、前記結着液が浸透した領域以外を前記積層体から取り除く除去工程を含むことを特徴とする造形方法。
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