JP5831610B2 - 造形方法 - Google Patents
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Description
両親媒性物質の親水性及び疎水性の程度を示す値として、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance 親水親油バランス)値が広く用いられている。HLB値は、その値が大きい程、両親媒性物質の親水性が高いことを示し、他方、その値が小さい程、両親媒性物質の疎水性が高いことを示す。ここで、造形用スラリーの構成材料である水系溶媒が、これに溶解された両親媒性固体ポリマーに起因して発泡することを抑制する場合、消泡剤としては、泡膜の表面張力を局所的あるいは全体的に下げるべく、両親媒性固体ポリマーよりも疎水性の高い物質が好ましい。
この発明によれば、フッ素を含有する消泡剤を造形用スラリーの構成材料として用いることによって、造形用スラリーに撥液性を付与することができる。これにより、造形用スラリーに滴下された結着液が、その滴下位置から滲み出すことを抑制できる。つまり、造形物の形状に係る精度を向上させることができる。
この発明によれば、造形用スラリーの構成材料である消泡剤に、水素原子の一部又は全てがフッ素原子に置換されたフルオロアルキル基が含まれるため、該造形用スラリーに対してより高い撥液性を付与することができる。
この発明によれば、スラリー中に繊維材料を含有させることによって、その機械的強度を増大することができる。
[造形用スラリーの組成]
まず、造形用スラリーの組成について説明する。
(A)疎水性粒体
(B)水系溶媒
(C)両親媒性固体ポリマー
(D)消泡剤
上記疎水性粒体は、造形用スラリーを用いて形成される造形物の主要な構成材料である。疎水性粒体には、疎水性の樹脂の粒体、例えばアクリル樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末、アクリルシリコーン樹脂粉末、ポリエチレン樹脂粉末、及びポリエチレンアクリル酸共重合樹脂粉末を用いることができる。なお、本実施の形態における疎水性粒体とは、100gの水系溶媒に対して1g以上溶解しない粒体のことである。
[(A)疎水性粒体]
疎水性粒体としての粉末樹脂材料は、真球形状の粒体を含有していることが好ましい。これにより、造形物の形状に係る制御性、特に造形物の外形を規定する辺や角部における形状の制御性が向上する。
シリコーン樹脂粉末材料としては、例えば、トスパール(登録商標)1110(粒径11μm)、トスパール120(粒径2μm)、トスパール130(粒径3μm)、トスパール145(粒径4.5μm)、トスパール2000B(粒径6μm)、トスパール3120(粒径12μm)(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)(トスパール:登録商標)等が挙げられる。
アクリル樹脂としては、例えば、エポスター(登録商標)L15(粒径10〜15μm)、エポスターM05(粒径4〜6μm)、エポスターGPH40〜H110(粒径4〜11μm)((株)日本触媒製)(エポスター:登録商標)が挙げられる。
[(C)両親媒性固体ポリマー]
両親媒性固体ポリマーの好ましい例として、ポリビニルアルコールが挙げられる。ポリビニルアルコールの構造を以下に示す。
そのため、ポリビニルアルコールは、上記化学式(1)に示されるように、側鎖である官能基としてヒドロキシル基の他に、カルボキシル基を有している。また、ポリビニルアルコールと総称される物質には、上記加水分解の度合いの違いに起因して、ポリ酢酸ビニルの重合度に対する、ヒドロキシル基の数の比が異なるものが含まれる。こうした重合度に対するヒドロキシル基の数の比の百分率は鹸化度と呼ばれ、ポリビニルアルコールの特性を示す指標として用いられている。
これら鹸化度と重合度には以下のような傾向がある。
・ただし、鹸化度が100%付近になると結晶化しやすくなるため、水系溶媒に対する溶解度が極端に小さくなる。
・重合度が大きい程、ポリビニルアルコールが含まれる構造体の機械的強度が増大する。
ここで、上記積層造形法を用いて造形物を形成する場合、スラリーからなる単一層における機械的強度に鑑みれば、スラリーに含まれるポリビニルアルコールの重合度をより大きくすることが好ましい。しかしながら、重合度の増大によってポリビニルアルコールの溶解度が低下することから、スラリーからなる層を積層することによって造形物を形成する際、隣接する層の接合面においては、一方の層の界面に存在するポリビニルアルコールが、他方の層を構成する溶媒に溶解し難くなる。つまり、層間の溶解性が低下することによって層間の接着性が低下してしまい、層間における機械的強度が低下することになる。
ポバールJP−03(重合度300、鹸化度86.0〜90.0(88))、ポバールJP−04(重合度400、鹸化度86.0〜90.0(88))、ポバールJP−05(重合度500、鹸化度87.0〜89.0(88))、ポバールJP−10(重合度1000、鹸化度86.0〜90.0(88))、ポバールJP−05S(重合度500、鹸化度86.0〜90.0(88))(日本酢ビ・ポバール(株)製)等が挙げられる。
[消泡剤]
消泡剤としては、両親媒性固体ポリマーよりもHLB値の小さい界面活性剤が好ましい。例えば、両親媒性固体ポリマーとしてポリビニルアルコールが選択され、且つ、その鹸化度が85以上90以下である場合、ポリビニルアルコールのHLB値は以下のようになる。HLB値の算出方法の1つであるグリフィン法では、以下の式によってHLB値を算出する。
ここで、上記化学式(1)から、ポリビニルアルコールが有する親水基の分子量は17nであり、他方、ポリビニルアルコールの総分子量は大凡44n+72mである。ポリビニルアルコールの鹸化度が85であるときのHLB値をHLB1とし、同ポリビニルアルコールの鹸化度が90であるときのHLB値をHLB2とするとき、各HLB値は以下のようになる。
HLB2=17×0.9/(44×0.9+72×0.1)≒6.5
つまり、上記消泡剤としては、そのHLB値が6未満である界面活性剤が好ましい。
加えて、結着液が造形用スラリーに滴下されたときに、その滴下位置から滲み出すことを抑制するために、撥液性を有するフッ素を含有する消泡剤を選択してもよい。フッ素を含有する消泡剤としては、フルオロアルキル基を含有するオリゴマーが挙げられる。なお、フルオロアルキル基とは、アルキル基に含まれる全水素がフッ素に置換されたパーフルオロアルキル基でもよいし、アルキル基に含まれる水素の一部がフッ素に置換された官能基でもよい。また、直鎖状及び分岐状のいずれであってもよく、且つ、酸素原子を含むものであってもよい。
上記化学式(A)において、R1は水素原子、塩素原子、フッ素原子、メチル基、及びシアノ基のいずれかであり、且つ、Xはフッ素原子を含まない2価の連結基であり、且つ、aは0又は1の整数であり、且つ、Rfはフルオロアルキル基を示す。このうちXとしては、例えば、−(CH2)n−、−CH2CH(OH)(CH2)n−、−(CH2)nNR2−SO2−、−(CH2)nNR2−CO−、−CH(CH3)−、−CH(CH2CH3)−、−C(CH3)2−等が挙げられる。なお、nは1〜10の整数であり、且つ、R2は水素原子又は炭素数が1〜18のアルキル基である。また、Rfとしては、例えば、−C4F9、C7F15、−C8F17、−(CF2)4H、−(CF2)6CF(CF3)2、−(OCF2CF2)4OCF2CF3、−(OCF2CF(CF3))3C3F7等が挙げられる。
CH2=CHCOOCH2CH2C8F17
CH2=C(CH3)COOCH2CH2C8F17
CH2=CHCOOCH2CH2C12F25
CH2=CHCOOCH2CH2C6F13
CH2=CHCOOCH2CH2C4F9
CH2=CFCOOCH2CH2C6F13
CH2=CHCOOCH2CH3
CH2=C(CH3)COOCH2CF(CF3)2
CH2=C(CH3)COOCH2CFHCF3
CH2=CHCOOCH2(CF2)6H
CH2=CHCOOCH2CH(OH)CH2C8F17
CH2=CHCOOCH2CH2N(C3H7)SO2C8F17
CH2=CHCOOCH2CH2N(C2H5)COC7F15
CH2=CHCOOC2H4(CF(CF3)OCF2)3C2F5
CH2=CHCOOCH2(CF(CF3)OCF2)2C2F5
なお、オリゴマーに含まれる単量体は、上記化学式(A)で示される化合物が1つであってもよいし、異なる2以上の化合物が含まれるようにしてもよい。
メガファック(登録商標)F−470、メガファックR−08、メガファックF−471、メガファックF−472SF、メガファックF−475、メガファックR−30、メガファックF−477、メガファックF−479、メガファックMCF−350SF(DIC(株)製)(メガファック:登録商標)のうち、HLB値が上述の条件を満たすものを用いることができる。なお、上記各種メガファックは、パーフルオロアルキル基を有する。
[配合比]
上記(A)疎水性粒体としてシャリーヌR−170Sを、(B)水系溶媒として水を、(C)両親媒性固体ポリマーとしてポバールJP−05を、(D)消泡剤としてメガファックF−477を用いるとき、これらの材料を以下の割合で配合すると好ましい。
(A):(B):(C):(D)=7:3.1:0.22:0.06(単位g)
これら材料を混練することにより、造形用スラリーを作成することができる。なお、造形物において疎水性粒体の充填率が高くなるほど、該造形物における機械的な強度が高められる。それゆえに、造形物の機械的な強度を高める上では、疎水性粒体が最密に充填されるべく、最密に充填された疎水性粒体の隙間よりも水系溶媒及び両親媒性固体ポリマーの占める体積が小さくなるような配合比が好ましい。
[造形方法]
次に、上記組成のスラリーを用いた造形方法について、図1〜図3を参照して説明する。
本実施の形態における造形方法では、まず、犠牲層形成工程(ステップS11:図2(a))にて、例えばガラス基板やプラスチックシート等の基板11上に、例えば厚さが200μmになるように、上記スラリーを塗布することによって、スラリーからなる層の最下層としての犠牲層12を形成する。なお、スラリーの塗布には、公知の方法であるスキージ法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、及びスピンコート法等、基板11上に略均一な厚さを有したスラリーの層を形成可能な方法を用いることができる。
(1)水系溶媒である水と、疎水性粒体である樹脂の粒体と、両親媒性固体ポリマーであるポリビニルアルコールとからスラリーを構成するようにした。これにより、造形物20を形成する樹脂粒体が、水及びポリビニルアルコールとともに混合されることによって、懸濁液であるスラリー中に存在する。また、当該スラリーにおいては、ポリビニルアルコールにおける炭化水素鎖が樹脂粒体と親和性を有するため、粒体同士がポリビニルアルコールを介して繋がれた状態にある。つまり、樹脂粒体同士は、互いに独立した状態にあるのではなく、ポリビニルアルコールの介在によって互いに架橋された状態にある。そのため、造形物20の形成に際して、スラリーに振動等が与えられたとしても、樹脂粒体は、粒体間の架橋によって形成された構造中に保持されることから、粒体の飛散が抑制されるようになる。
(5)消泡剤として、ポリビニルアルコールよりもHLB値が小さい界面活性剤を用いるようにした。これにより、ポリビニルアルコールに起因して水系溶媒である水に生じる気泡の量を低減することができる。
・各スラリー層21a,21b,21c,21d,21eを形成した後に、該スラリー層21a,21b,21c,21d,21eを乾燥する乾燥工程を設けるようにしてもよい。また、乾燥に際しては、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eに含まれる水を完全に乾燥させてもよいし、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eの水分含有量が大気中で変わらない状態、つまりスラリー層21a,21b,21c,21d,21eと大気とが平衡状態となるようにしてもよい。なお、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eを完全に乾燥させても、下層のスラリー層中のポリビニルアルコールが、上層のスラリー層中の水に溶解することによって、層間の接着性は維持される。
・造形物20を構成するスラリー層21a,21b,21c,21d,21eの形成に先立ち、基板11上に犠牲層12を形成するようにしたが、該犠牲層12を形成しないようにしてもよい。
・樹脂粒体は、造形物20の形状制御が可能であれば、真球以外の形状、例えば楕円体形状等をなしていてもよい。
・ポリビニルアルコールの鹸化度は、スラリーの水系溶媒中でポリビニルアルコールが析出しない範囲であれば、85以上90以下の範囲外であってもよい。
・両親媒性固体ポリマーはポリビニルアルコールに限らず、疎水性粒体の間に介在してこれらを繋ぐとともに、該疎水性粒体を水系溶媒中に均一に分散可能な両親媒性固体ポリマーであればよい。
・疎水性粒体には、その表面に親水基を有するものを用いてもよい。
・また水系溶媒は、水を主成分として、該水に水溶性の有機溶媒を添加したものであってもよい。
・非イオン系の消泡剤を用いることとしたが、結着液の硬化が妨げられない限りは、イオン系の消泡剤を用いるようにしてもよい。
Claims (5)
- 結着液を介して粒体同士を結着することにより造形物を形成する造形方法であって、
粒体と、水系溶媒と、両親媒性固体ポリマーと、消泡剤とを含むスラリーからなる層を形
成する層形成工程と、
結着液を前記層の一部に浸透させた後に前記結着液を硬化することによって、前記粒体及
び前記両親媒性固体ポリマーを結着する結着工程と、
前記硬化された前記結着液を含む前記層の両親媒性固体ポリマーを溶解することによって
、前記結着液が浸透した領域以外を前記層から取り除く除去工程と、を含む
ことを特徴とする造形方法。 - 請求項1に記載の造形方法において、
前記層形成工程と前記結着工程とを交互に繰り返すことによって前記硬化された前記結着
液を含む複数の前記層からなる積層体を形成した後、
前記除去工程を行うことを特徴とする造形方法。 - 請求項1または2に記載の造形方法において、
前記層形成工程後に、スラリーからなる層を乾燥する乾燥工程を含むことを特徴とする造
形方法。 - 請求項1〜3のいずれか一項に記載の造形方法において、
前記スラリーから形成されるとともに、前記層よりも前記結着液の滴下量が少ない犠牲層
を最下層として基体に形成する犠牲層形成工程を含む、
ことを特徴とする造形方法。 - 結着液を介して粒体同士を結着することにより造形物を形成する造形方法であって、
粒体と、水系溶媒と、両親媒性固体ポリマーと、消泡剤とを含むスラリーからなる層を形
成する層形成工程と、
結着液を前記層の一部に浸透させた後に前記結着液を硬化することによって、前記粒体及
び前記両親媒性固体ポリマーを結着する結着工程と、
前記硬化された前記結着液を含む前記層の両親媒性固体ポリマーを溶解することによって
、前記結着液が浸透した領域以外を前記層から取り除く除去工程と、
前記スラリーから形成されるとともに、前記層よりも前記結着液の滴下量が少ない犠牲層
を最下層として基体に形成する犠牲層形成工程と、を含む、
ことを特徴とする造形方法。
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