以下、本発明のいくつかの実施形態について図面を参照しながら説明する。
<第一の実施形態>
図1は、本発明の第一の実施形態による、窒化ガリウム系化合物半導体レーザの製造方法を示す断面模式図である。サファイア等の基板上に、低温成長によるアンドープGaNバッファ層、n型GaNコンタクト層、n型Al0.1Ga0.9Nクラッド層、n型GaN光ガイド、In0.05Ga0.95N障壁層とIn0.15Ga0.85N井戸層とを3周期重ねた量子井戸構造の活性層、p型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層、p型GaN光ガイド層、p型Al0.1Ga0.9Nクラッド層、及びp型GaNコンタクト層を順次積層して得られた窒化ガリウム系化合物半導体積層構造100の表面に、図1(a)のごとく、電子ビーム蒸着法により厚さ150オングストロームのPbよりなる第一の上部電極層10を形成する。
次に、同図(b)のごとく、線幅1.5ミクロンのストライプ用フォトレジストマスク40をフォトリソグラフィー法により形成し、さらに、同図(c)のごとく、形成したストライプ用フォトレジストマスク40をマスクとして、反応性イオンエッチング法により、第一の上部電極層10を、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造100の表面が露出するまでエッチングする。
この場合のプロセスガスとしては、Ar、または、ArにCl2、SiCl4、BCl3などの塩素系ガスを、体積比率で0%から50%添加したものを用いる。これら塩素系ガスの添加は、Arにより表面からスパッタリングされたPbのエッチング表面への再付着を抑制する効果がある。ただし、50%以上添加すると、窒化ガリウム系化合物半導体に対する選択性が大幅に低下し、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造100の表面が露出した時点でエッチングが実質的に停止して、同図(c)に示したような断面形状を得ることが困難となる。
第一の上部電極層10のエッチングに引き続き、やはり反応性イオンエッチング法により、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造100を、上部クラッド層の途中までエッチングし、同図(d)のごとくリッジストライプを形成する。この場合は、Cl2、SiCl4、BCl3などの塩素系ガスを体積比率で50%以上包含するプロセスガスを使用することにより、ストライプ用フォトレジストマスク40をマスクとして、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造100をエッチングすることができる。その後、有機溶剤等によってストライプ用フォトレジストマスク40を除去し、第一の実施形態による、窒化ガリウム系化合物半導体レーザを得る。
本実施形態に示した方法によれば、ストライプ用フォトレジストマスク40の線幅を正確に転写したリッジ幅を有するリッジストライプ型の半導体レーザを得ることができ、従来の技術による製造方法よりも、半導体レーザ素子の電流電圧特性、発振しきい値電流、発振モード等のばらつきを半分以下に低減することができた。また、本実施形態に示した方法は、第一の上部電極層10を形成する前には、何ら、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造を被覆する工程が含まれておらず、よって、従来の技術により作成した窒化ガリウム系化合物半導体レーザ素子よりも約0.5ボルト程度低い動作電圧を実現できた。
図1に示す第一の実施形態においては、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造の表面の全体に渡って、第一の上部電極層を形成した。この場合、後の、反応性イオンエッチング法により第一の上部電極層をエッチングする工程において、エッチング条件によっては、表面から脱離した電極金属がエッチング表面に再付着し、エッチング表面に荒れを生じることがある。この現象は、マスク材で被覆されている領域に対して、エッチングする領域がより大きくなるほど、顕著である。
例えば上記の例では、マスク材で被覆されている領域は、線幅1.5ミクロンのストライプ用フォトレジストマスクにより覆われている部分である。ストライプ用フォトレジストマスクが、繰り返しピッチ400ミクロンで形成されているとすると、隣のストライプ用フォトレジストマスクまでの、幅398.5ミクロンの領域で、第一の上部電極層がエッチングされることとなり、マスク材で被覆されていて電極金属がエッチングされない領域に対する、電極金属がエッチングされる領域の比率は、約266である。
上述のような、エッチング条件によっては発生するエッチング表面荒れの危険性は、この、電極金属がエッチングされない領域に対する、電極金属がエッチングされる領域の比率を、例えば1以下にすることで、殆ど問題のないレベルにまで減じることができる。以下に、その具体的手法を例示する。
<第二の実施形態>
図2は、本発明の第二の実施形態による、窒化ガリウム系化合物半導体レーザの製造方法を示す断面模式図である。サファイア等の基板上に本発明の第一の実施形態と同様の構造を順次積層して得られた窒化ガリウム系化合物半導体積層構造200の表面に、図2(a)のごとく、電子ビーム蒸着法により厚さ150オングストロームのPbよりなる第一の上部電極層11を形成する。この際、第一の実施形態のごとく、第一の上部電極層を、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造の表面に、全面に渡って形成するのではなく、幅40ミクロンの領域にのみ形成しておく。
次に、同図(b)のごとく、線幅1.5ミクロンのストライプ用フォトレジストマスク41を、第一の上部電極層11の上部中央に、フォトリソグラフィー法により形成し、さらに、同図(c)のごとく、形成したストライプ用フォトレジストマスク41をマスクとして、反応性イオンエッチング法により、第一の上部電極層11を、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造200の表面が露出するまでエッチングする。この際、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造200の表面でも、エッチング前に第一の上部電極層11で被覆されていた領域と、被覆されていなかった領域との間に、段差91ができる。この段差91の高さは、主に、第一の上部電極層11の厚さと、プロセスガス中のArに対する塩素系ガスの添加比率によって決まるが、本実施形態の場合で、約500オングストローム程度である。
引き続き、やはり反応性イオンエッチング法により、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造200を上部クラッド層の途中までエッチングし、同図(d)のごとくリッジストライプを形成する。その後、有機溶剤等によってストライプ用フォトレジストマスク41を除去し、第二の実施形態による、窒化ガリウム系化合物半導体レーザを得る。
本実施形態に示した方法によれば、電極金属がエッチングされる領域は、幅40ミクロンの第一の上部電極層11のうち、線幅1.5ミクロンのストライプ用フォトレジストマスク41により被覆されていない、幅38.5ミクロンに相当する領域のみである。それに対し、電極金属がエッチングされない領域は、第一の実施の形態の場合と同様、ストライプ用フォトレジストマスクが、繰り返しピッチ400ミクロンで形成されているとすると、幅361.5ミクロンに相当する領域である。
従って、先述の、電極金属がエッチングされない領域に対する、電極金属がエッチングされる領域の比率は、約0.1となり、第一の実施の形態における約266に比べると、大幅に小さくなり、よって、エッチング条件によっては発生するエッチング表面荒れの危険性を、工業レベルでは、殆ど問題のないレベルにまで減じることができた。
また、電極金属がエッチングされる領域を減らす本実施形態の方法には、反応性イオンエッチング法により、第一の上部電極層をエッチングする工程において、エッチングされて、エッチング装置内に付着する電極金属及びその反応生成物の量を大幅に減じることができるため、より再現性の良いエッチングを繰り返し実施することが可能となるという、第二の効果も得られる。
これらの効果は、図2(a)に示した工程において形成する第一の上部電極層11の幅が狭ければ狭いほど有効であるが、あまり狭すぎると、同図(c)に示した工程において、反応性イオンエッチング法により、第一の上部電極層11を除去する際に生じる段差91が、形成されるリッジに近づきすぎることとなるため注意が必要である。即ち、上述の通り、リッジを形成する工程においては、半導体積層構造を上部クラッド層の途中までエッチングするが、その際の上部クラッド層の残し膜厚が、水平方向の光閉じ込めを制御する上で重要なパラメータとなる。
しかし本製造方法においては、上部クラッド層の最適な残し膜厚が、段差91よりもリッジに近い部分で得られていても、段差91よりもリッジから遠い側の部分では、最適残し膜厚よりも薄くなってしまう。このため、段差91がリッジに近づきすぎると、より具体的にはリッジの幅の2倍未満の距離まで近づくと、水平方向の光閉じ込めに対するその影響が無視しえなくなってくる。従って、本実施形態の例では、リッジの幅が1.5ミクロンであるので、第一の上部電極層11は、6.0ミクロン以上とすることが望ましい。
本実施形態においては、図2(b)のごとく、線幅1.5ミクロンのストライプ用フォトレジストマスク41を、第一の上部電極層11の上部中央に設けたが、必ずしも第一の上部電極層11の中央に設ける必要はなく、上述の理由により、第一の上部電極層11の左右両方の端から、リッジの幅の倍である3ミクロン以上、中央に寄った位置にありさえすれば良い。
同図(a)に図示のごとく、第一の上部電極層11を、幅40ミクロンの領域にのみ形成するためには、幅40ミクロンの開口部を有するフォトレジスト膜を窒化ガリウム系化合物半導体積層構造200の上に、フォトリソグラフィー法により形成し、引き続いて第一の上部電極層を電子ビーム蒸着法により形成、当該フォトレジスト膜と、その上の第一の上部電極層を、アセトン等の有機溶剤中でリフトオフ法により除去する方法がある。
ただし、この場合は、第一の上部電極層11を形成する前に、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造が、フォトレジストにより被覆される工程が、一回含まれる。しかしそれでもなお、ストライプ形成用フォトレジストマスクと誘電体膜、または誘電体膜と誘電体膜の、2回の被覆履歴を経ることとなる、従来の技術による工程に比べると、半導体積層構造上での残さの発生と、それに伴う、半導体レーザ素子の電流電圧特性、及び信頼性に対する悪影響を、大幅に減じることが可能である。
また、同図(a)に図示のごとく、第一の上部電極層11を、幅40ミクロンの領域にのみ形成するための第二の手法として、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造200の上部全面に、第一の上部電極層を電子ビーム蒸着法により形成し、引き続き、幅40ミクロンのストライプ状フォトレジスト膜を第一の上部電極層の上に、フォトリソグラフィー法により形成した後、ウェットエッチング法により当該フォトレジスト膜で被覆されていない領域に形成された第一の上部電極層を除去し、更にその後、有機溶剤等により当該フォトレジスト膜を除去する方法がある。
この方法によれば、本発明の第一の実施形態の場合と同様、第一の上部電極層を形成する前には、何ら、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造を被覆する工程が含まれておらず、同時に、先述の、電極金属がエッチングされない領域に対する、電極金属がエッチングされる領域の比率を、本発明の第一の実施形態の場合より、小さくすることが可能となる。この方法では、第一の上部電極層をウェットエッチング法によりエッチングするため、その幅の制御が比較的困難で数ミクロンのばらつきが発生するが、そのばらつきを考慮しても、段差91がリッジの幅の2倍以上の距離に形成される限り、問題とはならない。
この例では、幅40ミクロンの設計値に対して、ウェットエッチング時のばらつきが数ミクロンあったとしても、エッチング後の幅は、先述の6.0ミクロン以上に、十分再現性よく形成可能である。また、このようなPbよりなる第一の上部電極層11のエッチングには、例えば、塩化水素酸と硝酸と水とを混合した溶液を使えば良い。
また、同図(a)に図示のごとく、第一の上部電極層11を、幅40ミクロンの領域にのみ形成するための第三の手法として、幅40ミクロンの開口部を有するメタルマスクを、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造200の上に載置した状態で、第一の上部電極層を電子ビーム蒸着法により形成し、蒸着後、メタルマスクを、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造200の上から取り除く方法がある。この方法によれば、本発明の第一の実施形態の場合と同様、第一の上部電極層を形成する前には、何ら、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造を被覆する工程が含まれておらず、同時に、先述の、電極金属がエッチングされない領域に対する、電極金属がエッチングされる領域の比率を、本発明の第一の実施形態の場合より、小さくすることが可能となる。
ここまで述べてきた、第一の実施形態、及び第二の実施形態においては、リッジ上部のみに、上部電極層を形成した。しかしながら実際は、当該リッジ上部の幅は1.5ミクロンと非常に狭く、外部から電圧を印加するための金線等を、その上に配置することは、困難である。
そこで、この問題を解決するために、第二の上部電極を形成する実施形態を、次に示す。
<第三の実施形態>
図3は、本発明の第三の実施形態による、窒化ガリウム系化合物半導体レーザの製造方法を示す断面模式図である。まず、第一の実施形態において詳述した方法にて、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造300、厚さ150オングストロームのPbよりなる第一の上部電極層12、線幅1.5ミクロンのストライプ用フォトレジストマスク42を有する図3(a)に示した構造を得る。
次に、図3(b)のごとく、電子ビーム蒸着法により、全面に、厚さ2000オングス
トロームのSiO2膜30を形成する。次に、ストライプ用フォトレジストマスク42と
、その上部にあるSiO2膜30の一部を、アセトン等の有機溶剤中でリフトオフ法によ
り除去し、同図(c)のごとき構造を得る。
然る後に、同図(d)のごとく、第一の上部電極層12の上部に、幅150ミクロンの
第二の上部電極層20として、Auを2500オングストロームの厚さに形成する。幅1
50ミクロンの領域のみに、選択的に第二の上部電極層を形成するためには、幅150ミ
クロンの開口部を有するフォトレジスト膜を形成した上から、上部電極金属を電子ビーム
蒸着法により形成した後、当該フォトレジストと、その上に蒸着された上部電極金属を、
有機溶剤中でリフトオフする方法で、簡単に行うことができる。
本方法によれば、第二の上部電極層20は、幅150ミクロンと、外部から電圧を印加
するための金線等を、その上に配置するに十分な幅を有しており、なおかつ、第一の実施
形態において詳述した方法、または第二の実施形態における方法で述べた、電流注入領域
の幅と窒化ガリウム系化合物半導体積層構造の被覆履歴に関する本発明の効果は、そのま
ま維持されている。
また、ここでは、図3(a)に示した構造を得るために、第一の実施形態において詳述した方法を使用したが、代わりに第二の実施形態において詳述した方法を用いても可能である。ただしこの場合は、第二の実施形態の場合と同様、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造300の表面でも、エッチング前に第一の上部電極層12で被覆されていた領域と、被覆されていなかった領域に、段差ができる。
ここで、図3において説明した、第三の実施形態による窒化ガリウム系化合物半導体レーザにおいては、同図(d)に記載の第二の上部電極層20の、紙面に対して垂直な方向(リッジストライプに沿う方向)の形状についての規定をしなかった。しかし、この方向に関しては、特に、窒化ガリウム系化合物半導体レーザの共振器端面の直上を避けて形成することにより、より品質の高い窒化ガリウム系化合物半導体レーザを、より歩留まり良く作成することが可能となる。次に、その事例について説明する。
<第四の実施形態>
図4は、本発明の第四の実施形態による、窒化ガリウム系化合物半導体レーザの構造を示す模式図である。同図に示す窒化ガリウム系化合物半導体レーザの形状は、基本的に、第三の実施形態によるそれと同一で、異なる点は、第三の実施形態を示す図3における、第二の上部電極層20に相当するところの、第二の上部電極層21のストライプと平行な方向の長さが、本実施形態においては、図4に示したごとく200ミクロンと、また、共振器長が500ミクロンと、有限な長さに規定されている点のみである。
窒化ガリウム系化合物半導体積層構造400上に形成するところの第一の上部電極層13は、厚さ150オングストロームのPd、誘電体層31は、厚さ2000オングストロームのSiO2膜、第二の上部電極層21は、厚さ2500オングストロームのAuである。
図4のごとく、第二の上部電極21のストライプと平行な方向の長さを、共振器長よりも短くし、共振器端面直上には、第二の上部電極が形成されないようにすることによって、次のような利点が新たに得られる。即ち、共振器端面の直上にある電極金属層が厚いほど、劈開により共振器端面を作成する際に、当該電極金属層が、劈開面を起点としてめくれ上がり、よって電流が注入されない領域ができたり、また、めくれあがった電極金属が出射するレーザ光の光路を遮ったりするなどの不具合が発生する可能性が高まる。このような危険性は、例えば共振器端面直上の電極金属層が、1000オングストロームを越える厚さとなると、より顕著である。
同図に示した第一の上部電極層13は、たかだか、厚さ150オングストロームであるのに対して、第二の上部電極層21は、その上に金線をボンディングする際に、実用上問題がないレベルのボンディング強度を確保するためには、本実施形態のごとく、数千オングストロームの厚さが必要となる。従って、第二の上部電極層21が、同図のごとく、共振器端面上にはかからないように配置しておけば、共振器端面直上の電極金属層は、厚さ150オングストロームのPdだけであるため、上述の危険性は、無視できるほど小さい。しかも同時に、第一の上部電極層が、共振器端面の直上も含めたリッジストライプの頂部をくまなく覆う構造を有しているため、電流が注入されない領域ができることもない。
同図のごとく、ストライプと平行な方向の長さが200ミクロンの第二の上部電極を形成するためには、ストライプと平行な方向の長さが200ミクロンの開口部を有するフォトレジスト膜を形成した上から、上部電極金属を電子ビーム蒸着法により形成した後、当該フォトレジストと、その上に蒸着された上部電極金属を、有機溶剤中でリフトオフする方法で、簡単に形成できる。
ここで、図4において説明した、第四の実施形態による窒化ガリウム系化合物半導体レーザにおいては、共振器面を、劈開により形成することを前提としている。しかしながら、使用する基板とその上の化合物半導体積層構造の組み合わせよっては、その双方に良好な劈開性を有する面が得られず、従って劈開によっては良質な端面が得られない場合も生じる。このような場合は、ドライエッチング法により共振器端面を形成するが、本発明はその際にも、従来の製造方法にはない、好適な製造方法を提供する。
即ち、従来の、ドライエッチング法により形成した共振器端面を有する窒化ガリウム系化合物半導体レーザにおいては、共振器端面を形成した後に上部電極を形成する都合上、レーザ素子の共振器端面から、数ミクロン後退したところより内側の領域にしか、電極を形成できず、この、電極が形成されない領域が、吸収層として機能してしまうという問題があった。
一方、本発明による製造方法によれば、ドライエッチング法により形成した共振器端面の際まで、上部電極を形成した窒化ガリウム系化合物半導体レーザを得ることが可能となる。以下に、その方法を詳述する。
<第五の実施形態>
図5は、本発明の第五の実施形態による、窒化ガリウム系化合物半導体レーザの構造を示す模式図である。また図6は、その製造方法を示す模式図である。図5に示す窒化ガリウム系化合物半導体レーザは、リッジストライプ構造を有する窒化ガリウム系化合物半導体積層構造500の上に、厚さ2000オングストロームのSiO2膜32を介して、厚さ150オングストロームのPbよりなる第一の上部電極層14、厚さ2500オングストロームのAuよりなる第二の上部電極層22が形成されており、これらの構成は、図4に示した、第四の実施形態による、窒化ガリウム系化合物半導体レーザのそれと同一である。
異なる点は、第四の実施形態による窒化ガリウム系化合物半導体レーザにおいては、共振器面を、劈開により形成することを前提としているのに対し、本実施形態による窒化ガリウム系化合物半導体レーザにおいては、図5のごとく、ドライエッチング法により共振器端面60を形成している点である。このような構造を有する窒化ガリウム系化合物半導体レーザの製造方法を、次に説明する。
第四の実施形態によるものと同一の構造、即ち、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造500、厚さ150オングストロームのPbよりなる第一の上部電極層14、厚さ2000オングストロームのSiO2膜32、厚さ2500オングストロームのAuよりなる第二の上部電極22、から構成される図6(a)に示した構造の上に、同図(b)のごとく、共振器端面形成用フォトマスク50を形成する。次に、反応性イオンエッチング法により、共振器端面形成用フォトマスク50で覆われていない領域のSiO2膜32を除去し、同図(c)に示した形状を得る。
この場合の反応性イオンエッチング法に用いるプロセスガスとしては、CF4、CHF3などがあり、これらのガスによれば、共振器端面形成用フォトマスク50で覆われていない領域の第一の上部電極層14は、同図(c)に示した通り、殆どエッチングされずに残り、SiO2膜32のみが取り除かれる。
然る後に、第一から第四の実施形態で説明してきた、プロセスガスとして、Ar、または、ArにCl2、SiCl4、BCl3などの塩素系ガスを、体積比率で0%から50%添加したものを用いたところの、反応性イオンエッチング法により、共振器端面形成用フォトマスク50で覆われていない領域の第一の上部電極層14を、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造500の表面が露出するまでエッチングして、同図(d)に示した構造を得る。
次いで、やはり反応性イオンエッチング法により、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造500をエッチングし、同図(e)のごとく共振器端面60を形成する。この場合は、Cl2、SiCl4、BCl3などの塩素系ガスを主エッチングガスとすることにより、共振器端面形成用フォトマスク50をマスクとして、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造500をエッチングすることができる。その後、共振器端面形成用フォトマスク50を除去して、図5に示した窒化ガリウム系化合物半導体レーザを得る。
本実施形態で示した製造方法によれば、共振器端面形成用フォトマスク50をマスクとして、第一の上部電極層14と、その下の窒化ガリウム系化合物半導体積層構造500を、連続してエッチングして共振器端面60を形成するため、共振器端面の際まで第一の上部電極層14が形成でき、従来、ドライエッチング法により形成した共振器端面を有する窒化ガリウム系化合物半導体レーザで問題となっていた、電極が形成されない領域ができて、その部分が吸収層として機能するという不具合は発生しない。
ここまで説明してきた、第一から第五の実施形態においては、リッジ部のみを残して、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造をドライエッチング法によりエッチングしたが、リッジ部以外を全てエッチングする必要はなく、その近傍のみをエッチングしても良い。
リッジ部のみを残してエッチングした場合、表面から突出しているリッジ部が、後工程で破損する危険性がある。他方、リッジの近傍のみエッチングした場合は、リッジ部のみが突出するわけではないので、このような後工程での破損の危険性を、大幅に減じることが可能となる。そこで次に、リッジの近傍のみエッチングする場合について説明する。
<第六の実施形態>
図7は、本発明の第六の実施形態による、窒化ガリウム系化合物半導体レーザの構造を示す模式図である。また図8は、その製造方法を示す模式図である。図7に示す窒化ガリウム系化合物半導体レーザは、リッジストライプ構造を有する窒化ガリウム系化合物半導体積層構造600の上に、厚さ1000オングストロームのSiO2膜33、及び厚さ1500オングストロームのSiO2膜34を介して、厚さ150オングストロームのPbよりなる第一の上部電極層15、厚さ2500オングストロームのAuよりなる第二の上部電極層23が形成されており、これらの構成は、図4に示した第四の実施形態による、窒化ガリウム系化合物半導体レーザのそれと同一である。
異なる点は、第四の実施形態による窒化ガリウム系化合物半導体レーザにおいては、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造600を、リッジストライプ部を除いて全面、ドライエッチング法により掘り下げているのに対し、第六の実施形態による窒化ガリウム系化合物半導体レーザにおいては、リッジの両側の、片側25ミクロンずつの幅を有する部分のみを掘り下げている点である。このような構造を有する窒化ガリウム系化合物半導体レーザの製造方法を、次に説明する。
まず、サファイア等の基板上にn型窒化ガリウム系化合物半導体層、p型窒化ガリウム系化合物半導体層を順次積層して得られた窒化ガリウム系化合物半導体積層構造600の表面に、図8(a)のごとく、電子ビーム蒸着法により厚さ150オングストロームのPbよりなる第一の上部電極層15を形成する。この際、第一の上部電極15は、第二の実施形態の説明において詳述したものと同様の方法で、幅40ミクロンの領域にのみ形成しておく。
次に、同図(b)のごとく、第一の上部電極15の直上、及びその両側の片側5ミクロンの幅を有する領域を除いて、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造600全面に、厚さ1000オングストロームのSiO2膜33を、電子ビーム蒸着法により形成する。
次に、同図(c)のごとく、線幅1.5ミクロンのストライプ用フォトレジストマスク43を、第一の上部電極層15の上に、フォトリソグラフィー法により形成し、さらに、同図(d)のごとく、形成したストライプ用フォトレジストマスク43をマスクとして、反応性イオンエッチング法により、第一の上部電極層15を、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造600の表面が露出するまでエッチングする。この際、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造600の表面でも、エッチング前に第一の上部電極層15で被覆されていた領域と、被覆されていなかった領域に、段差92ができる。
引き続き、同図(e)のごとく、やはり反応性イオンエッチング法により、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造600を上部クラッド層の半ばまでエッチングし、リッジストライプを形成する。これら2回の反応性イオンエッチング法によるドライエッチング工程については、第一の実施形態による窒化ガリウム系化合物半導体レーザの製造方法におけるそれと同一の方法で可能であるため、ここではその詳細は省略する。
次に、ウエハの全面に厚さ1500オングストロームのSiO2膜34を、電子ビーム蒸着法により形成し、その後、リフトオフ法により、ストライプ用フォトレジストマスク43とその直上にあるSiO2膜34を除去することにより、同図(f)に示した構造を得る。
その後、第一の上部電極層15の上部に、幅150ミクロンの第二の上部電極層23として、Auを2500オングストロームの厚さに形成して、図7に示した窒化ガリウム系化合物半導体レーザを得る。幅150ミクロンの第二の上部電極層23の形成については、第三の実施形態による窒化ガリウム系化合物半導体レーザの製造方法におけるそれと同一の方法で可能であるため、ここではその詳細は省略する。
本実施形態で示した製造方法によれば、リッジの近傍の、片側30μmの幅を有する領域のみをドライエッチング法により掘り下げているため、リッジ部のみを残してウエハ全面をエッチングした場合のように、表面から突出しているリッジ部が、後工程で破損する危険性はない。
なお、本実施形態においては、リッジの両側に片側25ミクロンずつの幅を有する部分を掘り下げ、よって、リッジの左右に、幅が25ミクロンであるところの一対の溝が形成された形状をなしているが、この溝をリッジの左右いずれか片側のみに設ける、即ち、溝が設けられていない側は、全面に渡って上部クラッド層の半ばまでエッチングされていても、リッジ部のみが突出しないという、本実施形態と同様の効果が得られる。また、溝をリッジの両側に設ける場合も、その幅が、必ずしも左右対称となる必要はない。また、本実施形態を示す図7においては、第二の上部電極層を、リッジに関して左右対称となるように描画しているが、左右の幅が非対称であっても、また片側だけに設けてあっても、問題はない。
以上、本発明を、いくつかの実施形態に基づき詳述してきたが、本発明の内容は、ここに挙げた実施形態の内容に限定されるものではない。次に、本発明の技術的思想に基づく、変形を例示する。
本発明における「窒化ガリウム系化合物半導体」には、窒化ガリウム(GaN)のほか、そのGaが部分的に他のIII族元素に置き換えられた半導体、例えば、GasAltIn1-s-tN(0<s≦1、0≦t<1、0<s+t≦1)が含まれ、また、各構成原子の一部が不純物原子等に置き換えられた半導体や、他の不純物が添加された半導体も含まれる。
上述の各実施形態で使用したドライエッチング法は、反応性イオンエッチング法であったが、誘導結合プラズマエッチング法や、ECRプラズマエッチング法などでも、同様のプロセスガスの使用により、各実施形態に示したものと同様なエッチングが可能である。
また、各実施形態では、第一の上部電極のドライエッチング法におけるプロセスガスとして、Ar、または、ArにCl2、SiCl4、BCl3などの塩素系ガスを、体積比率で0%から50%添加したものを用いたが、Arの代わりに他の不活性ガス、例えば、HeやNeを用いてもよい。
各実施形態では第一の上部電極としてPbを使用したが、Ni、Tiなどでも、また、これらの上に、Au、Moなど、別の金属が積層された構造であっても、本発明の製造方法により、同様の窒化ガリウム系化合物半導体レーザの作成が可能である。ただし検討の結果、NiやTiを用いた場合は、コンタクト抵抗を最低とするために最適な厚みは、Pbを使用した場合に比べ、約65%程度厚くなる。そのため、ストライプ用フォトレジストをマスクとしてドライエッチングにより第一の上部電極層を除去する工程におけるエッチング時間がより長くなり、よって、ストライプ用フォトレジストの膜減り量が増える。このストライプ用フォトレジストは、更に、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造の一部を除去して、リッジストライプを形成する工程においてもマスクとして使用するため、前の工程における膜減り量が多いと、この工程において必要なレジスト膜厚を確保できない可能性があるため、注意が必要である。
また、各実施形態では、第一の上部電極の厚さを150オングストロームとしたが、その層厚は、150オングストロームに限定されるものではない。ただし、層厚が、複数の金属が積層された構造である場合はその総厚が、1000オングストロームを越えた場合は、劈開により共振器端面を作成する際に、当該電極金属層が、劈開面を起点としてめくれ上がり、よって電流が注入されない領域ができたり、また、めくれあがった電極金属が出射するレーザ光の光路を遮ったりするなどの不具合が発生する可能性が高まるので、注意が必要である。さらに、先に述べた通り、厚ければ厚いほど、ストライプ用フォトレジストをマスクとしてドライエッチングにより第一の上部電極層を除去する工程におけるエッチング時間がより長くなり、よって、ストライプ用フォトレジストの膜減り量が増える点にも注意が必要である。
第三〜第六の実施形態で形成した第二の上部電極はAuであったが、作成した窒化ガリウム系化合物半導体レーザ素子を、外部に電気的に接続するために金線がボンディングできる、または、外部の電極パッドに溶着できる限り、例えばAlなどの金属を使用することも可能であり、また、単体金属ではなく、複数の金属が積層された構造でも何ら問題はない。また、その厚さに関しても、外部への電気的接続に十分なだけ厚ければ、何ら問題はない。
また、第三〜第六の実施形態で使用したSiO2は、ZrO2やTiO2、SiO、Ta2O5、SiNなど、他の無機誘電体や、AlGaNなどの窒化ガリウム系化合物などで置き換えても何ら問題は無く、その厚さも、実施形態の記述中に例示した厚さに限定されるものではない。また、その形成方法についても、実施形態の記述中に例示した電子ビーム蒸着法によらずとも、スパッタリング法、プラズマCVD法などによるものでも構わない。
以上、詳述してきた、第一〜第六の実施形態における、窒化ガリウム系化合物半導体積層構造100〜600における活性層には、第一の実施形態の冒頭で述べた通り、In0.05Ga0.95N障壁層とIn0.15Ga0.85N井戸層とを3周期重ねた量子井戸構造の活性層を採用してきた。しかし、障壁層を2層、ないしは3層にする事も可能である。以下に、その場合を説明する。
<第七の実施形態>
本実施の形態における活性層付近の詳細な積層構造を図9に示した。厚さ4nmのIn0.15Ga0.85N井戸層803と厚さ4nmのGaN、(801、805)および厚さ4nmのIn0.05Ga0.95N(802、804)障壁層より構成される多重量子井戸構造を有する活性層を、障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層の順序で成長し、今回は井戸層の層数は3層とした。その際、井戸層には、不純物はドープしない形で成長した。
また、井戸層の厚さは2から7nmの範囲が良く、2nmより薄いと、界面散乱が増加して閾値電流を上昇させるので好ましくなく、また7nmより厚くなると、井戸層内で電子と正孔の空間的な分離がおこり、再結合確率を下げるため閾値電流を上昇させるので好ましくない。つまり、井戸層厚に関しては、2nm以上、7nm以下がよく、本実施の形態では4nmの厚さで実施しているが、上記範囲であれば何ら問題はない。
障壁層に関しては、2層構造とした。2層のうちn型GaN光ガイド層104側の層を第一の層801またp型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層106側の層を第二の層802と呼ぶことにする。また、障壁層で図9に示す通り、n型GaN光ガイド層104に接する第一の層を特に第三の層805と、p型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層106に接する層を第四の層804と呼ぶことにする。この第三の層と、第四の層は井戸層と直接接していないため、他の第一の層、第二の層と状況が異なり、区別する意味で第三、第四の層と呼ぶことにした。つまり、第一の層、第三の層がGaN、第二の層、第四の層がIn0.05Ga0.95Nである。
本実施の形態においては、第一、二、三、四の層の厚さは4nmで障壁層全体の厚さは8nmとし、第一、第三の層にはSi等のn型不純物をドープする。第二、四の層に関しては、Si等のn型不純物は故意に添加を行わず、ノンドープとした。この際のSi濃度は、5×1015cm-3〜1×1020cm-3までが良く、今回は、1×1018cm-3で行った。Si濃度が1×1020cm-3以上の場合、Siの過剰ドープが活性層の結晶性を悪化させ、閾値電流密度の増加を引き起こしてしまうために良くない。また、5×1015cm-3以下であると、キャリアの生成が起こらなくなり、閾値電流密度の増加を引き起こす。また、上記範囲以内であれば、第一、第三の層のSi濃度は異なっていても何ら問題はない。このSi濃度はSIMSなどの測定方法を用いて測定する。また、図10に図9に示した活性層のバンドダイヤグラムを示す。
なお、本実施の形態において、不純物としてドープしているMgはp型不純物としてドープしているが、それは、5×1019/cm3〜2×1020/cm3の濃度で添加している。
この様にして、n型GaN基板上に窒化ガリウム系化合物半導体積層構造を作製し、その後、熱処理などによりMgドープ層を低抵抗p型にした上で、本発明の第三の実施形態と同様の製造方法により、半導体レーザ素子を作製した。この半導体レーザ素子を、ハンダ等を用いてステムにマウントし、ワイヤーボンディングにより電気的接続を取り、半導体レーザ装置を組み、その特性歩留まりを評価した結果、良好な特性を得ることができた。
このようにして得られた半導体レーザ素子の閾値電流密度は2.5kA/cm2であった。図11は、障壁層全体の膜厚が8nmと一定で、第一の層と第三の層、第二の層と第四の層厚を同じ膜厚として、第一の層厚をX軸にプロットした。つまり、第一の層が1nmの時は、第二の層は7nmで、第一の層が2nmの時は、第二の層は6nmで、第一の層4nmの時は、第二の層は4nmとなり、障壁層の全体厚さが8nmになるように、第二の層の層厚が決定される。上記の様に、層厚を決めて実験を行った結果が図11であり、第一の層と、第三の層が4nm以下において、閾値電流密度の低減の効果が見られた。
上記の結果に関して、第一の層と、第三の層が4nmより厚いところで閾値電流密度が増加するのは、これ以上第一の層と第三の層を厚くしても、井戸層に注入されるキャリアの量が増加せず、障壁層にドープされるSiが多くなるために、活性層内のフリーキャリア散乱が増加し内部損失が大きくなったため閾値電流密度が増加したと考えられる。しかし、第一の層と、第三の層の層厚を4nm以下にすることで、フリーキャリア散乱による内部損失の増加を抑え、更に、第一の層と第三の層にSiドープした事により、井戸層に効率よくキャリアが供給されることにより低閾値電流密度の素子が実現できたと考えられる。
但し、第一の層と、第三の層の層厚が0.3nm以下になると十分なキャリア数が井戸層に注入できなくなるため、再び閾値電流密度の増大を引き起こす。また、第三の層に関して、本実施の形態では、Siドープを行ったが第三の層に関しては、Siドーピングを行っても行わなくても、図11に示す結果と同じであった。
上記のような実験を、井戸層厚を2nm以上7nm以下の範囲とし、障壁層の層厚を7nmから12nmの範囲で行ったが、図11と同様の結果を示した。また障壁層の厚さを7nm未満とした場合、閾値電流密度が増加した。これは、活性層厚が薄くなり、光閉じ込めが弱くなったためと考えられる。更に12nm以上であった場合、各々の井戸が離れすぎ、移動度の小さいホールが各井戸層に均一に注入されなくなり、ゲインの低下を引き起こし閾値電流密度が上昇した。
以上まとめると、障壁層のうちSi等の不純物でドーピングされている領域が多くなると、活性層内のフリーキャリア散乱が増加し内部損失が大きくなったため閾値電流密度が増加する。また、第一の層と第三の層にSiドーピングした場合、キャリアが効率よく井戸層に注入されるため閾値電流密度が減少する事が分かった。
つまり、井戸層厚を2から7nmの範囲とし、障壁層の層厚を7nmから12nmの範囲において、障壁層へのドーピングは、第一の層と第三の層に行うのがよく、最も効率よくキャリアを井戸層に注入できる。また、第一の層と第三の層の層厚が0.3nm以上4nm以下においては、フリーキャリア散乱による内部損失の増加を抑え、効率よく井戸層にキャリアを注入できるため閾値電流密度を低減することができる。しかし4nmより厚い領域においては、井戸層へのキャリアの注入の効果より、フリーキャリア散乱による内部損失の増加を招くため好ましくない。
また、本実施の形態において、第二の層、第四の層がIn0.05Ga0.95Nであるとしたが、この層がGaNであっても、ほぼ同じ結果が得られ問題はない。
<第八の実施形態>
本実施の形態において、第一の層、第三の層がIn0.05Ga0.95Nでノンドープ、第二の層、第四の層がGaNでありSiドープである事以外は、第七の実施の形態と全く同じである。第二、第四の層の厚さを同じとして、第二、第四の層厚をX軸にプロットした場合、図11とほぼ同じ結果が得られた。井戸層厚を2nm以上7nm以下の範囲とし、障壁層の層厚を7nm以上12nm以下の範囲において、障壁層へのドーピングは、第二の層と第四の層に行うのがよく、最も効率よくキャリアを井戸層に注入できる。
また、第二の層と第四の層の層厚が0.3nm以上4nm以下においては、フリーキャリア散乱による内部損失の増加を抑え、効率よく井戸層にキャリアを注入できるため閾値電流密度を低減することができる。しかし4nmより厚い領域においては、キャリアの注入の効果より、フリーキャリア散乱による内部損失の増加を招くため好ましくない。また、本実施の形態において、第一の層、第三の層がIn0.05Ga0.95Nであるとしたが、この層がGaNであっても、ほぼ同じ結果が得られ問題はない。
<第九の実施形態>
本実施の形態において活性層の障壁層は3層よりなり、活性層は次のように形成し、活性層付近の詳細な積層構造を図12に示した。厚さ4nmのIn0.15Ga0.85N井戸層604と厚さ9nmのGaN(602)とIn0.05Ga0.95N(601、603、606、607)からなる障壁層より構成される多重量子井戸構造を有する活性層を、障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層の順序で成長した。その際、井戸層には、不純物はドープしない形で成長した。
また、井戸層の厚さは2から7nmの範囲が良く、2nmより薄いと、界面散乱が増加して閾値電流を上昇させるので好ましくなく、また7nmより厚くなると、井戸層内で電子と正孔の空間的な分離がおこり、再結合確率を下げるため閾値電流を上昇させるので好ましくない。つまり、井戸層厚に関しては、2nm以上、7nm以下がよく、本実施の形態では4nmの厚さで実施しているが、上記範囲であれば何ら問題はない。
障壁層に関しては−3層構造とした−3層のうちn型GaN光ガイド層104側の層を第一の層(In0.05Ga0.95N)601またp型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層106側の層を第三の層(In0.05Ga0.95N)603、真ん中の層を第二の層(GaN)602と呼ぶことにする。また、障壁層で図12に示す通り、n型GaN光ガイド層104に接する第一の層を特に第四の層606と、p型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層106に接する第三の層を特に第五の層607と呼ぶことにする。この第四の層と、第五の層は井戸層と直接接していないため、他の第一の層、第二の層と状況が異なり、区別する意味で第四、第五の層と呼ぶことにした。
本実施の形態においては、第一、二、三、四、五の層の厚さはそれぞれ3nmとし、第二の層にはSi等のn型不純物をドープする。この際のSi濃度は、5×1015cm-3〜1×1020cm-3までが良く、今回は、1×1018cm-3で行った。Si濃度が1×1020cm-3以上の場合、Siの過剰ドープが活性層の結晶性を悪化させ、閾値電流密度の増加を引き起こしてしまうために良くない。また、5×1015cm-3以下であると、キャリアの生成が起こらなくなり、閾値電流密度の増加を引き起こす。このSi濃度はSIMSなどの測定方法を用いて測定する。また、図13に図12に示した活性層のバンドダイヤグラムを示す。
なお、本実施の形態にて、不純物としてドープしているMgはp型不純物としてドープしているが、それは、5×1019/cm3〜2×1020/cm3の濃度で添加している。
この様にして、n型GaN基板上に窒化ガリウム系化合物半導体積層構造を作製し、その後、熱処理などによりMgドープ層を低抵抗p型にした上で、本発明の第三の実施形態と同様の製造方法により、半導体レーザ素子を作製した。この半導体レーザ素子を、ハンダ等を用いてステムにマウントし、ワイヤーボンディングにより電気的接続を取り、半導体レーザ装置を組み、その特性歩留まりを評価した結果、良好な特性を得ることができた。
このようにして得られた半導体レーザ素子の閾値電流密度は3.0kA/cm2と低い値であった。図14は、障壁層全体205の膜厚が9nmと一定で第一の層と第三の層を同じ膜厚として、その層厚をX軸にプロットした。つまり、第一の層と第三の層が1nmの時は、第二の層は7nmで、第一の層と第三の層が2nmの時は、第二の層は5nmで、第一の層と第三の層が3nmの時は、第二の層は3nmとなり、障壁層205の全体厚さが9nmになるように、第二の層の層厚が決定される。
上記の様に、層厚を決めて実験を行った結果が図14であり、第一の層と、第三の層が3nm以下において、閾値電流密度の低減の効果が見られた。第一の層と、第三の層が3nmより薄い領域において、閾値電流密度が低下する原因に関しては以下のように考えられる。
本実施の形態では、井戸層と接する障壁層の領域はノンドープである。このため、障壁層で発生したキャリアは有効に井戸層に注入されない。しかし、本実施の形態では、井戸層と接する障壁層の領域は、障壁層中心部のSiドープ領域のGaNよりエネルギーギャップの小さいIn0.05Ga0.95Nを用いている。このため、障壁層の中心部で発生したキャリアは妨げられること無く、井戸層に注入される。このため、閾値密度の低減が可能であると考えられる。
更に、第一の層と、第三の層が3nmより厚いところで閾値電流密度が増加するのは、これ以上第一の層と第三の層を厚くした場合、井戸層とSiドーピングされた第二の層が離れてしまうために、厚いIn0.05Ga0.95N層で発光、非発光等のトラップにより消費されてしまい、有効に井戸層にキャリアの注入が行われなくなり、注入されるキャリアの量が減少し、閾値電流密度の上昇を引き起こすと考えられる。
従来の技術による工程における、上部電極層が形成される直前の、リッジ近傍を、マイクロオージェ電子分光法により観察した場合の平面図を図15に示す。同図の示す状態を詳述すると、図16で先に説明した、従来の窒化ガリウム系化合物半導体レーザ素子のリッジストライプ形成工程における図16(b)、−これは、ストライプ形成用フォトレジストマスクを形成した後、ドライエッチング装置を用いて、半導体積層構造の表面をエッチングし、リッジストライプを形成した後の断面模式図に相当する−、に図示される状態の後に、ストライプ形成用フォトレジストマスクを除去した状態を、図16(b)の紙面上方から見た場合に相当する。
図15(a)は、炭素原子に起源を有するオージェ電子の信号強度の分布を示した平面図、図15(b)は、同図(a)の発光強度分布に対応するリッジストライプの形成位置を示す断面模式図である。同図(a)の信号強度分布においては、白色に近いほど、炭素原子に起源を有するオージェ電子が強く検出されている事を示しており、同図(b)との対応をとると、リッジの側面901と、リッジの上面902とに炭素原子が局在している事がわかる。
工程上、リッジの上面902における炭素原子の局在の原因は、リッジの上面902上に形成されていたストライプ形成用フォトレジストマスクに含まれている炭素が最も疑われる。フォトレジスト自体は、リッジストライプを形成するためのドライエッチング工程が終了した後、アセトンなどの有機溶剤による洗浄によって除去されるが、ドライエッチング時にウエハ表面の温度が上昇する結果、洗浄時の除去性が劣化している事が推定され、実際、ストライプ形成用フォトレジストマスクを形成し、ドライエッチングを行なわずに、そのままアセトンによる洗浄を行なった後に、同様のマイクロオージェ電子分光法により観察すると、フォトレジストマスクを形成部及びそれ以外の部分に、炭素原子を起源とするオージェ電子の検出はなされなかった。
他方、リッジの側面901については、このようなレジストマスクによる被覆の履歴はないが、リッジストライプを形成するためのドライエッチング工程において、スパッタされたストライプ形成用フォトレジストマスクが飛散し、リッジの側面に再付着している事が疑われる。
また、ストライプ形成用マスクとしてフォトレジストの代わりにSiO2を使用した場合について、同様のマイクロオージェ電子分光法による観察を行なったところ、リッジ上面にSi原子の残留が観察された。この場合、リッジ側面にはSi原子は観察されていない。
一方、本発明による窒化ガリウム系化合物半導体レーザ素子の製造方法においては、このようなレジストやSiO2による被覆を一切行なっておらず、実際、完成したレーザ素子のリッジ部を、上部電極層をスパッタしつつマイクロオージェ電子分光法により観察しても、半導体積層構造の表面と電極との界面において炭素やSiなどの不純物原子は検出されなかった。
従って、第一の実施の形態の説明の最後に記した、従来の技術により作成した窒化ガリウム系化合物半導体レーザ素子よりも約0.5ボルト程度低い動作電圧を実現できた、という本発明の効果が、このような半導体積層構造の表面と電極との界面における不純物原子が存在しない事によるものである事が裏付けられ、逆に本発明による窒化ガリウム系化合物半導体レーザ素子の製造方法は、そのような不純物原子を当該界面に存在させない構造を得るために好適な手法であるといえる。