以下、図1〜図4に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、車両のエンジン11の駆動力は、トルクコンバータ12、ベルト式無段変速機13、減速機14およびディファレンシャルギヤ15を介して左右の駆動輪16,16に伝達される。トルクコンバータ12は、エンジン11のクランクシャフト17に接続されたポンプ18と、ベルト式無段変速機13の入力軸19に接続されたタービン20と、ケーシング21に固定されたステータ22と、エンジン11のクランクシャフト17をベルト式無段変速機13の入力軸19に直結するロックアップクラッチ23とを備える。
ベルト式無段変速機13は、入力軸19の外周に相対回転自在に嵌合するスリーブ24と、入力軸19およびスリーブ24間に配置された遊星歯車機構よりなる前後進切換機構25と、スリーブ24に支持されたドライブプーリ26と、入力軸19と平行に配置された出力軸27と、出力軸27に支持されたドリブンプーリ28と、ドライブプーリ26およびドリブンプーリ28に巻き掛けた金属ベルト29とを備える。
前後進切換機構25は、入力軸19に接続されたリングギヤ30と、スリーブ24に接続されたサンギヤ31と、キャリヤ32に回転自在に支持されてリングギヤ30およびサンギヤ31に噛合する複数のピニオン33…と、リングギヤ30およびサンギヤ31を結合可能なフォワードクラッチ34と、キャリヤ32をケーシング21に結合可能なリバースブレーキ35とを備える。
ドライブプーリ26は固定側プーリ半体26aと可動側プーリ半体26bとを備え、可動側プーリ半体26bは油圧で固定側プーリ半体26aに対して接近および離間可能である。同様に、ドリブンプーリ28は固定側プーリ半体28aと可動側プーリ半体28bとを備え、可動側プーリ半体28bは油圧で固定側プーリ半体28aに対して接近および離間可能である。
減速機14は、出力軸27に固設した第1減速ギヤ37と、減速軸36に固設されて第1減速ギヤ37に噛合する第2減速ギヤ38と、減速軸36に固設された第3減速ギヤ39と、ディファレンシャルギヤ15のケースに固設されて第3減速ギヤ39に噛合する第4減速ギヤ40とで構成される。
図2に示すように、車両のクリープを制御する電子制御ユニット41には、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ42と、運転者によるブレーキ操作を検出するブレーキ操作センサ43と、車速を検出する車速センサ44と、シフトレバーにより選択されたシフトレンジを検出するシフトレンジセンサ45と、駐車支援装置46とが接続され、それらの信号に基づいて電子制御ユニット41は前後進切換機構25のフォワードクラッチ34およびリバースブレーキ35の作動と、スロットルバルブの開度を電気的に制御するスロットルアクチュエータ47の作動とを制御する。
駐車支援装置は、例えば特開2001−63600号公報に記載されているように周知のものである。その概要を説明すると、運転者が車両を所定の駐車位置に駐車するときに、先ず車両を駐車位置に対して一定の位置関係を有する駐車開始位置に停止させて駐車支援スタートスイッチを押し、ステアリングホイールから手を放してブレーキで車速を調整しながら車両をクリープ走行させると、車両の移動距離に応じて予め設定された操舵角が得られるようにステアリングアクチュエータが作動することで、車両を自動的に駐車位置に誘導するものである。
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
前後進切換機構25のフォワードクラッチ34を係合してリングギヤ30およびサンギヤ31を結合した状態では、エンジン11のクランクシャフト17の駆動力は、トルクコンバータ12→入力軸19→リングギヤ30→サンギヤ31→スリーブ24→ドライブプーリ26→金属ベルト29→ドリブンプーリ28→出力軸27→減速機14→ディファレンシャルギヤ15の経路で駆動輪W,Wに伝達され、車両を前進走行させる。
また前後進切換機構25のリバースブレーキ35を係合してキャリヤ30をケーシング21に結合した状態では、エンジン11のクランクシャフト17の駆動力は、トルクコンバータ12→入力軸19→リングギヤ30→ピニオン33…→サンギヤ31→スリーブ24→ドライブプーリ26→金属ベルト29→ドリブンプーリ28→出力軸27→減速機14→ディファレンシャルギヤ15の経路で駆動輪W,Wに逆回転となって伝達され、車両を後進走行させる。
このとき、ドライブプーリ26の可動側プーリ半体26bを固定側プーリ半体26aに接近させて有効半径を増加させ、ドリブンプーリ28の可動側プーリ半体28bを固定側プーリ半体28aから離間させて有効半径を減少させると、ベルト式無段変速機13の減速比がOD側に変化する。逆にドライブプーリ26の可動側プーリ半体26bを固定側プーリ半体26aから離間させて有効半径を減少させ、ドリブンプーリ28の可動側プーリ半体28bを固定側プーリ半体28aに接近させて有効半径を増加させると、ベルト式無段変速機13の減速比がLOW側に変化する。よって、ドライブプーリ26およびドリブンプーリ28の溝幅を制御することで、ベルト式無段変速機13の減速比を無段階に変化させることができる。
本実施の形態の車両では、クリープ走行を行う必要がないときにクリープ力の発生を禁止することで、トルクコンバータ12の引きずりトルクを低減してエンジン11の燃費を節減にするノンクリープ制御が行われる。即ち、アクセル開度センサ42で検出したアクセル開度ゼロであって運転者がアクセルペダル踏み込んでおらず、ブレーキ操作センサ43で運転者によるブレーキ操作が検出され、かつ車速センサ44により車両が停止していることが検出されると、シフトレンジセンサ45がドライブレンジを検出している場合であってもフォワードクラッチ34を強制的に係合解除し、シフトレンジセンサ45がリバースレンジを検出している場合であってもリバースブレーキ35を強制的に係合解除する。
これにより、エンジン11の駆動力は前後進切換機構25において遮断されて入力軸19からスリーブ24に伝達されなくなり、クリープ力が駆動輪W,Wに伝達されなくなって車両が停止する。その結果、クリープ走行しようとする車両をブレーキで強制的に停止状態に維持する必要がなくなるため、アイドリング運転中のエンジン11の負荷が減少して燃費の節減に寄与することができる。
ところで、上述した駐車支援制御を行うとき、運転者はブレーキペダルを断続的に踏んでクリープ車速を制御しながら車両を移動させるが、駐車支援制御中に一時的に車速がゼロになると上述したノンクリープ制御の条件が成立してクリープ走行が中断してしまうため、駐車支援制御が不能になる問題がある。
そこで本実施の形態では、駐車支援装置46が作動して駐車支援制御が開始されると、駐車支援制御が終了するまでの間はノンクリープ制御の実行を禁止し、車両のクリープ走行が可能な状態を維持する。これにより、駐車支援制御を行わないときにはノンクリープ制御を実行して燃費を節減し、駐車支援制御を行うときにはノンクリープ制御を禁止して支障なく駐車支援制御を行えるようにすることができる。これにより、ノンクリープ制御と駐車支援制御とが干渉するのを防止して運転者の違和感を解消することができる。
またクリープ制御中は、電子制御ユニット41からの指令でスロットルアクチュエータ47が作動してエンジン11のアイドル回転数を増加させるクリープアップ制御を行うので、運転者はブレーキで車速を調整しながら車両をクリープ走行させることができる、アクセルペダルの踏込みにより駐車支援制御の中断条件が成立して駐車支援制御が中断されるのを防止することができる。
次に、上記作用を図3のタイムチャートに基づいて更に説明する。
先ず、時刻t1にノンクリープ制御を実行する条件(アクセル開度ゼロ、ブレーキ作動、車速ゼロ)が成立すると、時刻t2にノンクリープ制御を実行すべくフォワードクラッチ34(あるいはリバースブレーキ35)が非係合になってインギヤ状態が解除される。続く時刻t3に駐車支援スタートスイッチが押されて時刻t4に駐車支援スタートスイッチが放されると、駐車支援制御の開始が受け付けられてクリープアップ制御が要求される。
時刻t5にフォワードクラッチ34(あるいはリバースブレーキ35)が係合してインギヤ状態になると、クリープアップ制御が許可されてエンジン回転数NEがアイドル回転数(例えば、600rpm)からクリープアップ回転数(例えば、900rpm)に向けて増加し、それに応じてプーリ車速VPも増加する。そして時刻t6に車両が目標駐車位置に達して駐車支援制御が終了すると、クリープアップ制御が終了してエンジン回転数NEがクリープアップ回転数からアイドル回転数に復帰する。
ところで、図4に示すように、クリープアップ制御が許可されて車両がクリープ走行するとき、エンジンEのアイドル回転数を増加させるファーストアイドル制御が実行されたり、車両が下り坂を走行したりすると、仮にベルト式無段変速機13のシフトアップが許可されてしまうと、クリープ車速が過剰に増加して煩雑なブレーキ操作を要求される可能性がある。しかしながら本実施の形態によれば、車両がクリープ走行する場合、ベルト式無段変速機13の減速比がLOW側の最低変速比に固定されるため、クリープ車速の過剰な増加が防止されて運転者のブレーキ操作の負担が軽減される。
また駐車支援制御中に車速が所定値(例えば、10km/h)を超えると、駐車支援制御を中止するように構成されている場合、クリープアップ制御中の変速比を最低変速比に固定することでクリープ車速を低く抑えることができるので、駐車支援制御が運転者の意思に反して中止されてしまう事態を回避することができる。
更に、上記特許文献3に記載された発明では、駐車支援制御中に車速を上限車速以下に抑えるべく自動制動を行うため、ブレーキ油圧を発生するVSA(ビークル・スタビリティ・アシスト)装置等の油圧制御装置が必要になるが、本実施の形態によれば、クリープアップ制御中に変速比を最低変速比に固定することでクリープ車速を低く抑えることができるので、油圧ブレーキを使用せずにエンジンブレーキのみで対応可能となり、前記油圧制御装置が不要になる。
次に、図5に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
第1の実施の形態では、所定の条件が成立すると、ベルト式無段変速機13のフォワードクラッチ34(あるいはリバースブレーキ35)を非係合にしてクリープを禁止しているが、第2の実施の形態では、フォワードクラッチ34(あるいはリバースブレーキ35)を非係合にすることに加えて、エンジン11をアイドルストップすることでクリープを禁止している。
即ち、時刻t1にアイドルストップ制御を実行する条件(アクセル開度ゼロ、ブレーキ作動、車速ゼロ)が成立するとエンジン11がアイドルストップし、時刻t2にフォワードクラッチ34(あるいはリバースブレーキ35)が非係合になってインギヤ状態が解除される。続く時刻t3に駐車支援スタートスイッチが押されて時刻t4に駐車支援スタートスイッチが放されると、駐車支援制御の開始が受け付けられてクリープアップ制御が要求され、エンジン11が始動してアイドリング状態になる。
時刻t5にフォワードクラッチ34(あるいはリバースブレーキ35)が係合してインギヤ状態になると、クリープアップ制御が許可されてエンジン回転数NEがアイドル回転数(例えば、600rpm)からクリープアップ回転数(例えば、900rpm)に向けて増加し、それに応じてプーリ車速VPも増加する。そして時刻t6に車両が目標駐車位置に達して駐車支援制御が終了すると、クリープアップ制御が終了してエンジン回転数NEがクリープアップ回転数からアイドル回転数に復帰する。
以上のように、第2の実施の形態によっても、駐車支援制御を行わないときにはノンクリープ制御を実行して燃費を節減し、駐車支援制御を行うときにはノンクリープ制御を禁止して支障なく駐車支援制御を行えるようにすることができる。これにより、ノンクリープ禁止と駐車支援制御とが干渉するのを防止して運転者の違和感を解消することができる。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
例えば、第2の実施の形態では、ノンクリープ制御時にベルト式無段変速機13をニュートラル状態にし、かつエンジン11をアイドルストップしているが、ベルト式無段変速機13をインギヤ状態にしたまま、エンジン11をアイドルストップしても良い。
また本発明の変速機は実施の形態のベルト式無段変速機Tに限定されるものではなく、クリープ力を発生可能なものであれば良い。