JP2012012317A - ナノファイバ積層シート - Google Patents

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Abstract

【課題】化粧用シートとして用いた場合、肌のケアとメイクとを同時に行うことができるナノファイバシートを提供すること。
【解決手段】ナノファイバ積層シートは、水不溶性高分子化合物のナノファイバの層と、化粧料成分又は薬効成分を含有する水溶性高分子化合物の層とを有する。ナノファイバが着色されていることが好ましい。水溶性高分子化合物の層は、前記有効成分を含有する水溶性高分子化合物のナノファイバの層からなることが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は、化粧や医療等に特に好適に用いられる、ナノファイバの層を有するシートに関する。
ナノファイバは、例えば、ナノサイズ効果を利用した高透明性などの光学特性が要求される分野に応用されている。一例として、ナノファイバの直径を可視光の波長以下にすることで、透明なファブリックを実現できる。また、ナノファイバの直径を可視光の波長と同じにすることで、構造発色を発現させることができる。また、高い比表面積効果を利用して、高吸着特性や高表面活性が要求される分野や、高い分子配列効果を利用して、引張強度等の力学的特性や高電気伝導性等の電気的特性が要求される分野でも検討がなされている。このような特徴を有するナノファイバは、例えば単繊維として用いられるほか、集積体(ファブリック)や複合材としても用いられている。
ナノファイバの応用例として、水溶性高分子化合物のナノファイバからなる網目状構造体に、化粧料やアスコルビン酸等の化粧料成分を保持させてなる化粧用シートが提案されている(特許文献1参照)。同文献の記載によれば、この化粧用シートは、顔面や手足に対する密着性や装着感を向上させることができ、また、保存性も向上させることができるとされている。
特開2008−179629号公報
しかし、水溶性高分子化合物を原料とするナノファイバは、その比表面積が大きいがゆえに、バルク状態に比べて水溶性が一層高くなるので、該ナノファイバのシートを肌に付着させると、汗等に由来する水分で溶解してしまうようになる。したがって、ナノファイバを、その繊維形態を維持したままで肌の表面に付着させておくことができず、ナノファイバを肌に付着させておくことの利点を十分に活用できない。また、肌に貼る際に指等でハンドリングすると、表面が溶解し、貼り付けにくいという課題があった。
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得るナノファイバ積層シートを提供することにある。
本発明は、水不溶性高分子化合物のナノファイバの層と、
化粧料成分又は薬効成分を含有する水溶性高分子化合物の層とを有するナノファイバ積層シートを提供することによって、前記の課題を解決したものである。
また本発明は、水不溶性高分子化合物のナノファイバと、
化粧料成分又は薬効成分を含有する水溶性高分子化合物のナノファイバとを有するナノファイバシートを提供することによって、前記の課題を解決したものである。
本発明のナノファイバ積層シートは、肌への密着性が高いので、本発明のナノファイバ積層シートを例えば化粧用シートとして用いた場合、肌のケアとメイクとを同時に行うことができる。また本発明のシートを例えば医療用シートとして用いた場合、傷口の治療と傷口の保護とを同時に行うことができる。
図1は、本発明のナノファイバ積層シートの製造に好適に用いられる装置を示す模式図である。
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のナノファイバ積層シート(以下、単に「積層シート」ともいう。)は、水不溶性高分子化合物のナノファイバの層(以下、「水不溶性ナノファイバ層」ともいう)と、水溶性高分子化合物の層((以下、「水溶性層」ともいう)とを、その基本構成として有している。水溶性層は、水不溶性ナノファイバ層の一方の面側に配置されている。水溶性層は、水不溶性ナノファイバ層に隣接して配置されていることが好適である。尤も、積層シートの具体的な用途によっては、水不溶性ナノファイバ層と水溶性層との間に、これらの層とは異なる層を配置してもよい。
水不溶性ナノファイバ層は、水不溶性高分子化合物を含有するナノファイバ(以下、このナノファイバのことを「水不溶性ナノファイバ」という。)のみから構成されていることが好ましい。尤も、水不溶性ナノファイバ層が、水不溶性ナノファイバに加えて他の成分を含むことは妨げられない。水不溶性ナノファイバは、その太さを円相当直径で表した場合、一般に10〜3000nm、特に10〜1000nmのものである。ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって、10000倍に拡大して観察し、その2次元画像から欠陥(ナノ繊維の塊、ナノ繊維の交差部分、ポリマー液滴)を除いた繊維を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引き繊維径を直接読み取ることで測定することができる。
水不溶性ナノファイバの長さは本発明において臨界的でなく、水不溶性ナノファイバの製造方法に応じた長さのものを用いることができる。水不溶性ナノファイバは、その長さが、その太さの100倍以上あれば、繊維と呼ぶことができる。また、水不溶性ナノファイバは、水不溶性ナノファイバ層において、一方向に配向した状態で存在していてもよく、あるいはランダムな方向を向いていてもよい。更に、水不溶性ナノファイバは、一般に中実の繊維であるが、これに限られず例えば中空の水不溶性ナノファイバや、中空の水不溶性ナノファイバがその断面方向に潰れた形状のリボン状水不溶性ナノファイバを用いることもできる。
水不溶性ナノファイバ層の厚みは、積層シートの具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。積層シートを、例えばヒトの肌、歯、歯茎等に付着させるために用いる場合には、水不溶性ナノファイバ層の厚みを50nm〜1mm、特に500nm〜500μmに設定することが好ましい。水不溶性ナノファイバ層の厚みは、接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(R5mm超硬球面測定子)を使用して測定できる。測定時にシートに加える荷重は0.01Nとする。
水不溶性ナノファイバ層の坪量も、積層シートの具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。積層シートを、例えばヒトの肌、歯、歯茎に付着させるために用いる場合には、水不溶性ナノファイバ層の坪量を0.01〜100g/m2、特に0.1〜50g/m2に設定することが好ましい。
水不溶性ナノファイバ層において、水不溶性ナノファイバは、それらの交点において結合しているか、又は水不溶性ナノファイバどうしが絡み合っている。それによって、水不溶性ナノファイバ層は、それ単独でシート状の形態を保持することが可能となる。水不溶性ナノファイバどうしが結合しているか、あるいは絡み合っているかは、水不溶性ナノファイバ層の製造方法によって相違する。
水不溶性ナノファイバは、水不溶性高分子化合物を原料とするものである。積層シートの具体的な用途によっては、水溶性ナノファイバは、少量の水溶性成分を含んでいてもよい。水不溶性高分子化合物としては、天然高分子及び合成高分子のいずれをも用いることができる。
本明細書において「水不溶性高分子化合物」とは、1気圧・23℃の環境下において、高分子化合物1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬した高分子化合物の0.8g以上が溶解しない性質を有する高分子化合物をいう。
水不溶性ナノファイバを構成する水不溶性高分子化合物としては、例えばポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール(ナノファイバ形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、後述する架橋剤と併用することでナノファイバ形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール)、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。これらの水不溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、比較的安全な有機溶媒に可溶であり、かつナノファイバの成形性が良好な化合物であるポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましい。
水不溶性ナノファイバは、水不溶性高分子化合物に加えて他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、架橋剤、顔料、填料、界面活性剤、帯電防止剤、発泡剤等が挙げられる。顔料は、水不溶性ナノファイバを着色する目的で用いられる。特に、本発明の積層シートを、ヒトの肌に付着させる場合、肌と積層シートとの一体感を増す観点から、水不溶性ナノファイバを着色して、積層シートの色を肌の色に近づけることが好ましい。
水不溶性ナノファイバ層の一方の面側に配置される水溶性層は、水溶性高分子化合物を含む層から構成されている。本明細書において「水溶性高分子化合物」とは、1気圧・23℃の環境下において、高分子化合物1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬した高分子化合物の0.5g以上が溶解する性質を有する高分子化合物をいう。積層シートの具体的な用途によっては、水溶性層は、少量の水不溶性成分を含んでいてもよい。
水溶性層に含まれる水溶性高分子化合物としては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ−γ−グルタミン酸、変性コーンスターチ、β−グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子、部分鹸化ポリビニルアルコール(後述する架橋剤と併用しない場合)、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子等が挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。水溶性層が、後述する水溶性ナノファイバの層である場合には、上述の各種の水溶性高分子化合物のうち、ナノファイバの調製が容易である観点から、プルラン、並びに部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンオキサイド等の合成高分子を用いることが好ましい。
水溶性層には、化粧料成分又は薬効成分が含有されている。このような有効成分を含むナノファイバの層を、例えばヒトの肌、歯、歯茎に付着させることによって、該有効成分に起因する有利な効果が発現する。
化粧料成分又は薬効成分としては、酸性ムコポリサッカライド、カミツレ、セイヨウトチノキ、イチョウ、ハマメリエキス、ビタミンE、ニコチン酸誘導体及びアルカロイド化合物から選択される血行促進剤; セイヨウトチノキ、フラボン誘導体、ナフタリンスルホン酸誘導体、アントシアニン、ビタミンP、キンセンカ、コンコリット酸、シラノール、テルミナリア、ビスナガ及びマユスから選択されるむくみ改善剤; アミノフィリン、茶エキス、カフェイン、キサンチン誘導体、イノシット、デキストラン硫酸誘導体、セイヨウトチノキ、エスシン、アントシアニジン、有機ヨウ素化合物、オトギリ草、シモツケ草、スギナ、マンネンロウ、朝鮮人参、セイヨウキヅタ、チオムカーゼ及びヒアルウロニダーゼから選択されるスリム化剤; インドメタシン、ジクロフェナック、dl−カンフル、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、トウガラシエキス、ピロキシカム、フェルビナック、サリチル酸メチル及びサリチル酸グリコールから選択される鎮痛剤;ポリオール類、セラミド類及びコラーゲン類から選択される保湿剤;プロテアーゼからなるピーリング剤;チオグリコール酸カルシウムからなる除毛剤; 及びγ−オリザノールからなる自律神経調節剤、その他にアスナロ、キキョウ根、ユーカリ、シラカバ、ショウキョウ、ユズ等のエキス類、トラネキサム酸、アラントイン、グリチルレチン酸ステアリル、ナイアシンアミド、Lメントール、ビタミンC等のビタミン類等が挙げられる。水溶性層中におけるこの有効成分の含有量は、その種類にもよるが、一般に0.01〜70質量%であることが好ましい。
なお、先に説明した水不溶性ナノファイバに、水溶性層に含有されている有効成分を含有させることは妨げられないが、そのようにしても水溶性層と同様の効果は得られないので、通常は、水不溶性ナノファイバには前記の有効成分を含有させる必要はない。
水溶性層の形態としては、例えば(イ)前記の有効成分を含有する水溶性高分子化合物のナノファイバの層(以下、「水溶性ナノファイバ層」ともいう。)、及び(ロ)前記の有効成分を含有する水溶性高分子化合物のフィルム又はゲルが挙げられる。
水溶性層が前記の(イ)の形態である場合、水溶性ナノファイバの太さや長さ、及び形態(中実・中空)等については、先に説明した水不溶性ナノファイバに関する説明が適宜適用される。また、水溶性ナノファイバからなる水溶性層の厚みは、該水溶性層の溶解性を考慮すると、100nm〜1000μm、特に500nm〜500μmに設定することが好ましい。同様の観点から、水溶性ナノファイバからなる水溶性層の坪量は、0.01〜100g/m2、特に0.1〜50g/m2に設定することが好ましい。水溶性層の厚みは、接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(R5mm超硬球面測定子)を使用して測定できる。
水溶性層が前記の(ロ)の形態である場合、水溶性フィルムからなる水溶性層の厚みは、該水溶性層の溶解性を考慮すると、1μm〜1000μm、特に5μm〜500μmに設定することが好ましい。同様の観点から、水溶性フィルムからなる水溶性層の坪量は、0.1〜100g/m2、特に1〜50g/m2に設定することが好ましい。また水溶性層がゲルからなる場合には、該ゲルは含水率95〜20質量%の含水ゲルであることが好ましい。このゲルの厚みは、その水溶性を考慮すると、5μm〜1000μm、特に10μm〜500μmに設定することが好ましい。同様の観点から、ゲルの坪量は、5〜1000g/m2、特に10〜500g/m2に設定することが好ましい。水溶性層がフィルムである場合及びゲルである場合のいずれにおいても、その厚みは、前記の(イ)の場合と同様にして測定できる。
本発明の積層シートは、例えばヒトの皮膚、歯、歯茎、非ヒト哺乳類の皮膚、歯、歯茎、枝や葉等の植物表面等に付着させて用いることができる。この場合、積層シートは、該積層シートにおける水溶性層を、付着対象物の表面に臨ませて付着を行う。水溶性層は、付着対象物の表面に存在している水分によって溶解して消失する。これとともに、水溶性層中に含まれている前記の有効成分が、付着対象物中に浸透して所望の効能が発現する。水溶性層の消失後は、水不溶性ナノファイバ層のみが付着対象物の表面に残存する。したがって、積層シートを例えば化粧料シートとして用いると、水溶性層中に含まれている化粧料成分が肌に浸透して肌のケア効果(美白効果、保湿効果等)を発現するとともに、水不溶性ナノファイバ層によって肌の皺隠しの効果が発現する。しかも、水不溶性ナノファイバ層の凹凸構造は、肌のキメの凹凸構造に近いものなので、該水不溶性ナノファイバ層の上にファンデーション等の化粧(メイク)を施しても、化粧の仕上がりが良好になり、地肌との境目が目立ちづらくなる。
また、本発明の積層シートを例えばニキビ治療シートとして用いる場合には、前記の有効成分として抗アクネ化合物を用いればよい。ニキビが生じた部位にこのニキビ治療シートを付着させると、水溶性層中に含まれている抗アクネ化合物が肌に浸透して抗アクネ作用が発現する。また、水不溶性ナノファイバ層は、ニキビを覆うように肌の表面に付着した状態が維持されるので、その上からメイクを行っても、ニキビの患部に影響を及ぼさずに、ニキビ隠しができる。しかも、上述のとおり、ナノファイバ層の上にメイクを行えば、地肌に行ったメイクと同様の仕上がりになる。
更に、本発明の積層シートを例えば創傷の治療用シートとして用いる場合には、前記の有効成分として抗炎症剤や殺菌消毒剤等を用いればよい。創傷の部位にこの治療用シートを付着させると、水溶性層中に含まれている抗炎症剤や殺菌消毒剤等が創傷内に浸透して抗炎症作用や殺菌消毒作用が発現する。また、水不溶性ナノファイバ層は、創傷を覆うように肌の表面に付着した状態が維持されるので、創傷が水不溶性ナノファイバ層によって保護され、細菌の侵入が妨げられる。しかも水不溶性ナノファイバ層は通気性を有しているので、細菌が繁殖しづらく、化膿が起こりにくい。
積層シートの具体的な用途によっては、該積層シートを対象物の表面に付着させるのに先立ち、該表面を液状物で湿潤状態にしておいてもよい。そうすることによって、表面張力の作用を利用して、積層シートを対象物の表面に首尾良く付着させることができる。対象物の表面を湿潤状態にすることに代えて、積層シートにおける水溶性層の表面(付着対象物の表面に臨む面)を液状物で湿潤状態にしてもよい。
対象物の表面を湿潤状態にするためには、例えば各種の液状物を該表面に塗布又は噴霧すればよい。塗布又は噴霧される液状物としては、積層シートを付着させる温度において液体成分を含み、かつその温度における粘度(E型粘度計を用いて測定される粘度)が5000mPa・s程度以下の粘性を有する物質が好適に用いられる。そのような液状物としては、例えば水、水溶液及び水分散液等の水系液体、並びに非水系溶剤、その水溶液及びその分散液等が挙げられる。また、O/WエマルションやW/Oエマルション等の乳化液、増粘性多糖類等を始めとする各種の増粘剤で増粘された液等も挙げられる。具体的には、本発明の積層シートを例えば化粧料として用い、ヒトの肌に付着させる場合には、対象物である肌の表面を湿潤させるための液体として、化粧水や化粧クリームを用いることができる。
これまでに説明した実施形態は、水不溶性ナノファイバ層と水溶性層との積層タイプのものであったが、本発明の別の実施形態として、水不溶性ナノファイバと、前記の有効成分を含有する水溶性ナノファイバとを有するナノファイバシートの実施形態も挙げられる。このナノファイバシートは単層を基本構造とするものである。ナノファイバシートにおける水不溶性ナノファイバの割合は20〜90質量%、特に30〜90質量%であることが、水溶性ナノファイバが水に溶解して消失した後であっても、ナノファイバシートの構造を十分に保つことができる点から好ましい。一方、水溶性ナノファイバの割合は10〜80質量%、特に10〜70質量%であることが、ナノファイバシートに有効成分を必要量含有することが容易にできる点から好ましい。
水溶性ナノファイバに含まれる前記の有効成分の割合に関しては、先に述べた積層シートの実施形態に関する説明が適宜適用される(先に述べた積層シートの実施形態における「水溶性層」を「水溶性ナノファイバ」と読み替える)。
水不溶性ナノファイバには、顔料を始めとする他の成分が含有されてもよい。例えば、顔料を含有させることで、水不溶性ナノファイバを着色することができる。
ナノファイバシートにおいては、水不溶性ナノファイバと水溶性ナノファイバとは均一に分散混合されていてもよい。あるいは、ナノファイバシートにおける一方の面から他方の面に向けて、水不溶性ナノファイバの存在割合が連続的に又は段階的に増加する傾斜分布をしているとともに、他方の面から一方の面に向けて、水溶性ナノファイバの存在割合が連続的に又は段階的に増加する傾斜分布をしていてもよい。
ナノファイバシートの坪量は、取り扱い性、皮膚の保護性等の点から、0.01〜100g/m2、特に0.1〜50g/m2であることが好ましい。
このナノファイバシートの取り扱い性を高めるために、該ナノファイバシートの使用前まで、該ナノファイバシートの一方の面に基材シートを取り付けておいてもよい。ナノファイバシートを、基材シートと組み合わせて用いることで、剛性が低いナノファイバシートを、例えばヒトの肌等の対象物に付着させるときの操作性が良好になる。
前記の基材シートは、そのテーバーこわさが0.01〜0.4mNm、特に0.01〜0.2mNmであることが、本実施形態のナノファイバシートの取り扱い性を向上させる観点から好ましい。テーバーこわさは、JIS P8125に規定される「こわさ試験方法」により測定される。テーバーこわさとともに、基材シートの厚みも、ナノファイバシートの取り扱い性に影響を及ぼす。この観点から、基材シートの厚みは、該基材シートの材質にもよるが、5〜500μm、特に10〜300μmであることが好ましい。基材シートの厚みは、上述の接触式の膜厚計を用いて測定することができる。また基材シートは、ナノファイバシートを対象物に転写させる観点から通気性を有することが好ましい。基材シートのガーレ通気度は、30秒/100ml以下、特に20秒/100ml以下であることが好ましい。基材シートのガーレ通気度は、JIS P8117に従い測定される。
本実施形態のナノファイバシートは、これを例えばヒトの肌、歯、歯茎等の対象物の表面に付着させると、該ナノファイバシート中の水溶性ナノファイバが、汗等に由来する水に溶解して、該水溶性ナノファイバ中の有効成分が身体に吸収される。また、水溶性ナノファイバは水に完全に溶解して消失する。その結果、水不溶性ナノファイバのみが薄いシート状の形態を維持した状態で残存する。この状態は、先に述べた積層シートの実施形態において、水溶性層が消失して水不溶性ナノファイバ層のみが残存した状態と同じである。したがって、本実施形態のナノファイバシートによれば、先の述べた実施形態の積層シートと同様の有利な効果が奏される。
次に、前記の各実施形態のシートの好適な製造方法について説明する。積層シートの実施形態においては、該積層シートにおける水不溶性ナノファイバ層は、例えばエレクトロスピニング法を用い、平滑な基板の表面にナノファイバを堆積させてすることで好適に製造することができる。図1には、エレクトロスピニング法を実施するための装置30が示されている。エレクトロスピニング法を実施するためには、シリンジ31、高電圧源32、導電性コレクタ33を備えた装置30が用いられる。シリンジ31は、シリンダ31a、ピストン31b及びキャピラリ31cを備えている。キャピラリ31cの内径は10〜1000μm程度である。シリンダ31a内には、水不溶性ナノファイバの原料となる高分子化合物を含む溶液が充填されている。この溶液の溶媒は、水不溶性の高分子化合物の種類に応じ、例えばアルコール等の有機溶媒とする。高電圧源32は、例えば10〜30kVの直流電圧源である。高電圧源32の正極はシリンジ31における高分子溶液と導通している。高電圧源32の負極は接地されている。導電性コレクタ33は、例えば金属製の板であり、接地されている。シリンジ31におけるニードル31cの先端と導電性コレクタ33との間の距離は、例えば30〜300mm程度に設定されている。図1に示す装置30は、大気中で運転することができる。運転環境に特に制限はなく、温度20〜40℃、湿度10〜50%RHとすることができる。
シリンジ31と導電性コレクタ33との間に電圧を印加した状態下に、シリンジ31のピストン31bを徐々に押し込み、キャピラリ31cの先端から高分子化合物の溶液を押し出す。押し出された溶液においては、溶媒が揮発し、溶質である高分子化合物が固化しつつ、電位差によって伸長変形しながらナノファイバを形成し、導電性コレクタ33に引き寄せられる。このようにして形成された水不溶性ナノファイバは、その製造の原理上は、無限長の連続繊維となる。なお、中空のナノファイバを得るためには、例えばキャピラリ31cを二重管にして芯と鞘に相溶し合わない溶液を流せばよい。
積層シートにおける水溶性層が、前記の有効成分を含有するフィルム又はゲルである場合には、上述した基板として該フィルム又はゲルを用い、その一面上に水不溶性ナノファイバを堆積させることで、水不溶性ナノファイバ層を形成することができる。
水溶性層が、前記の有効成分を含有する水溶性ナノファイバを含む場合には、別途用意した基板の一面上に、エレクトロスピニング法によって、前記の有効成分を含有する水溶性ナノファイバを堆積させて水溶性ナノファイバ層を形成し、次いでその上に、同じくエレクトロスピニング法によって、水不溶性ナノファイバ層を形成すればよい。あるいは、この反対の手順を採用し、まず水不溶性ナノファイバ層を形成し、次いで該層の上に水溶性ナノファイバ層を形成してもよい。
水不溶性ナノファイバ層及び水溶性ナノファイバ層の形成のためには、例えば異なる2つのシリンジを用い、一方のシリンジから水不溶性ナノファイバ層を形成するための溶液を押し出し、その後に他方のシリンジから水溶性ナノファイバ層を形成するための溶液を押し出だせばよい。このようにして得られた積層シートにおいては、該積層シートの厚み方向でみたときに、水不溶性ナノファイバ層との組成と、水溶性ナノファイバの層の組成との間に明瞭な境界が存在し、積層構造のナノファイバシートが得られることになる。
このような溶液の押出方式に代えて、2つのシリンジを同時に動作させ、一方のシリンジからは、水不溶性ナノファイバ層を形成するための溶液を、押出量0から徐々に増加させていき、設定押出量まで増量しつつ、他方のシリンジからは、水溶性ナノファイバ層を形成するための溶液を、設定押出量から徐々に減少させていき、押出量0まで減量するという方式を採用することができる。この方式を採用すると、単層構造のナノファイバシートが得られる。この単層構造のナノファイバシートにおいては、先に述べたとおり、ナノファイバシートにおける一方の面から他方の面に向けて、水不溶性ナノファイバの存在割合が連続的に又は段階的に増加する傾斜分布をしているとともに、他方の面から一方の面に向けて、水溶性ナノファイバの存在割合が連続的に又は段階的に増加する傾斜分布をしている。
2つのシリンジを同時に動作させる場合、2つのシリンジからの溶液の押出量を一定量に保てば、単層構造のナノファイバシートであって、かつ水不溶性ナノファイバと水溶性ナノファイバとが均一に分散混合した状態のものが得られる。
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記の各実施形態においては、ナノファイバの製造方法として、エレクトロスピニング法を採用した場合を例にとり説明したが、ナノファイバの製造方法はこれに限られない。
また、図1に示すエレクトロスピニング法においては、形成されたナノファイバが板状の導電性コレクタ33上に堆積されるが、これに代えて導電性の回転ドラムを用い、回転する該ドラムの周面にナノファイバを堆積させるようにしてもよい。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
〔実施例1〕
水不溶性化合物として積水化学(株)製のポリビニルブチラール(商品名BM−1)を使用した。これをエタノール溶液に溶解し、濃度15%に調整し電界紡糸原料液とした。この原料液を用い、図1に示した装置で電界紡糸を行い、コレクタ33の表面に配置されたポリエチレンテレフタレートメッシュ(ボルティングクロス テトロンT−No.100T、東京スクリーン(株))の表面に坪量5g/m2のナノファイバシートを形成した。電界紡糸法の条件は以下のとおりとした。
・印加電圧:26kV
・キャピラリ−コレクタ間距離:120mm
・水溶液吐出量:1.0ml/h
・環境:26℃、40%RH
次に、水溶性化合物として林原商事製プルランを使用した。これを80℃の温水中に溶解し、濃度15%に調整し電界紡糸原料液とした。次いでこの原料液を室温に冷却した後、アスコルビン酸を5%溶解し電界紡糸原料液とした。この原料液を用い、先に製造した水不溶性ナノファイバーの表面に電界紡糸を行い、坪量5g/m2のナノファイバシートを形成し、トータル10g/m2のナノファイバ積層シートを製造した。電界紡糸の条件は以下の通りとした。
・印可電圧:25kV
・キャピラリーコレクタ間距離:185mm
・吐出量:1.0ml/h
・環境:26℃、40%RH
このようにして、一層の水不溶性ナノファイバ層と一層の水溶性ナノファイバ層とから構成される積層シートを得た。
〔実施例2〕
実施例1において、ポリビニルブチラール溶液中に、顔料として肌色に着色した顔料を2.9%配合した。これ以外は実施例1と同様にして積層シートを得た。
〔実施例3〕
アスコルビン酸を5%含むプルランのフィルム(坪量20g/m2)を用意した。このフィルムを、実施例1における水溶性ナノファイバ層の代わりに用い、このフィルム上に水不溶性ナノファイバ層を形成した。これ以外は実施例1と同様にして、一層の水不溶性ナノファイバ層と一層の水溶性フィルムとから構成される積層シートを得た。
〔実施例4〕
実施例1で使用した水不溶性化合物溶液及び水溶性化合物溶液を用い、2本のシリンジを同時に使用してそれぞれに水不溶性化合物、水溶性化合物を同量ずつ供給し、電界紡糸を行い坪量20g/m2のナノファイバシートを製造した。電界紡糸の条件は以下の通りとした。
・印可電圧:25kV
・キャピラリーコレクタ間距離:120mm
・吐出量:1.0ml/h
・環境:26℃、40%RH
〔比較例1〕
実施例1で使用した水不溶性化合物溶液を用い、厚み18μm、坪量20g/m2のポリビニルブチラールのキャストフィルムを製造した。これ以外は実施例1と同様にして、ポリビニルブチラールのキャストフィルムと水溶性ナノファイバから構成される積層シートを得た。
〔比較例2〕
水不溶性層としてポリプロピレンのメルトブローン不織布(クラレ(株)製、PC0020、坪量20g/m2)を使用した。それ以外は実施例1と同様にしてメルトブローン不織布と水溶性ナノファイバから構成される積層シートを得た。
〔評価〕
実施例及び比較例で得られたシートの肌への密着性を以下の方法で評価した。25〜40歳の男女(合計3名)を被験者とし、該被験者の前腕内側部を、中性界面活性剤を用いて洗浄し、次いでウエスを用いて水滴を除去した後、23℃・50%RH環境下で十分な時間経過させ、肌表面を安定化させた。その後、該肌表面に霧吹きを用いてφ70mmの範囲に0.05gのイオン交換水を満遍なく噴霧し、そこに、20mm×20mmに切り分けた実施例1〜4並びに比較例1及び2で得られたシートを貼り付け、水が乾燥するまで放置した。そして、60分経過した後に、肌への密着性を、以下の基準で評価した。
○:ナノファイバシートの四隅まで密着している。
×:ナノファイバシートの大部分が剥がれてしまう。
表1に示す結果から明らかなように、各実施例の積層シート(本発明品)は、比較例のシートに比べて、肌への密着性が良好であることが判る。
30 装置
31 シリンジ
32 高電圧源
33 導電性コレクタ

Claims (6)

  1. 水不溶性高分子化合物のナノファイバの層と、
    化粧料成分又は薬効成分を含有する水溶性高分子化合物の層とを有するナノファイバ積層シート。
  2. ナノファイバが着色されている請求項1記載のナノファイバ積層シート。
  3. 前記水溶性高分子化合物の層が、ナノファイバの層からなる請求項1又は2記載のナノファイバ積層シート。
  4. 前記水溶性高分子化合物の層が、フィルム又はゲルからなる請求項1又は2記載のナノファイバ積層シート。
  5. 水不溶性高分子化合物のナノファイバと、
    化粧料成分又は薬効成分を含有する水溶性高分子化合物のナノファイバとを有するナノファイバシート。
  6. 水不溶性高分子化合物のナノファイバが着色されている請求項5記載のナノファイバシート。
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