JP2012005480A - 抗生物質産生微生物及びそれが産生した抗生物質 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】リソバクター(Lysobacter)属に属する受託番号NITE P−870の微生物又はその自然的若しくは人工的に変異した微生物であって、抗菌活性を有する抗生物質を産生する能力を有する微生物であり、また、配列表の配列番号1で示される16S rRNA領域の塩基配列を有する微生物。
【選択図】図1
Description
(1)リソバクター(Lysobacter)属に属する受託番号NITE P−870の微生物又はその自然的若しくは人工的に変異した微生物であって、抗菌活性を有する抗生物質を産生する能力を有する微生物。
(2)上記抗生物質が、少なくともメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)及びバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対して抗菌活性を有するものである(1)に記載の微生物。
(3)配列表の配列番号1で示される16S rRNA領域の塩基配列を有する(1)又は(2)に記載の微生物。
(5)(1)ないし(3)の何れかに記載の微生物の培養液から、該微生物の産生した、少なくともメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)及びバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対して抗菌活性を有する抗生物質を得ることを特徴とする抗生物質の製造方法。
(6)(1)ないし(3)の何れかに記載の微生物の培養液から得られる、該微生物の産生した抗生物質であって、少なくともメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)及びバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対して抗菌活性を有することを特徴とする抗生物質。
(7)下記式(1)で示される化合物又はその製薬学的に許容される塩である(6)の抗生物質。
(1)肉汁寒天平板上では薄黄色のコロニーを形成する。拡散性の色素は認められない。
(2)肉汁ゼラチン穿刺培養では内部に渡ってゼラチンを液化しながら生育する。
(1)生育pH(最適生育pH):5〜9(6〜8)
(2)生育温度(至適生育温度):10〜40℃(25〜30℃)
(3)酸素に対する態度:好気的
(4)MRテスト(Methyl red test):−
(5)VPテスト(Voges−Proscauer test):+
(6)色素の生成(Pigment):+
(7)オキシダーゼ(Oxidase test):+
(8)カタラーゼ(Catalase test):+
(9)ウレアーゼ(Urease test):−
(10)フォスファターゼ(Phosphatase test):+
(11)カゼイン加水分解(Casein hydrolysis):+
(12)セルロース加水分解(Cellulose hydrolysis):−
(13)ゼラチン加水分解(Gelatin hydrolysis):+
(14)でんぷん加水分解(Starch hydrolysis):−
(15)デオキシリボヌクレアーゼ(Deoxyribonuclease test):+
(16)硝酸塩還元(Nitrate reduction):−
(17)脱窒(Denitrification):−
(18)硫化水素生成(H2S production):−
(19)インドール生成(Indole production):−
(20)クエン酸塩の利用(Citrate utilization):+
(21)OF−test:oxidation
(22)下記の糖類等からの酸及びガスの生成能
L−アラビノース(L−arabinose):−
D−キシロース(D−xylose):−
D−グルコース(D−glucose):+
D−マンノース(D−mannose):+
D−フラクトース(D−fructose):+
D−ガラクトース(D−galactose):−
D−マルトース(D−maltose):+
D−スクロース(D−sucrose):+
D−ラクトース(D−lactose):+
D−トレハロース(D−trehalose):+
D−ソルビトール(D−sorbitol):−
グリセロール(glycerol):−
スターチ(starch):−
(12)16S rRNA配列の解析結果
RH2180−5のコロニーから、コロニーPCRにより、16S rRNA領域の塩基配列を増幅し、シーケンサーによる解析を行った結果、5’末端側、3’末端側のいくつかの塩基を除く、配列表の配列番号1に示される16S rRNAのほぼ全長にあたる塩基配列が見出された。この配列表の配列番号1の塩基配列は、16S rRNA全長ではないため、16S rRNA「領域」とした。この塩基配列をNCBIのBLASTで相同性検索を行ったところ、本発明のRH2180−5の16S rRNA領域の塩基配列は、リソバクター属であるLysobacter enzymogenes DSN2043T株と相同率99%を示した。従って、本発明のRH2180−5は、リソバクター属に属する微生物である。
本発明のRH2180−5の培養方法は、リソバクター属の微生物に対して行われる一般的な培養方法に準じて行えばよい。具体的には、RH2180−5を、YME培地、SGM培地、CDY培地等の栄養源含有培地に接種し、好気的条件下で培養を行う。培地中の炭素源としては、例えば、D−グルコース、D−フラクトース、シュクロース、デンプン、デキストリン、グリセリン、糖蜜、水飴、油脂類等の有機炭素化合物が用いられ、窒素源としては、肉エキス、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、乾燥酵母、胚芽、大豆粉、尿素、アミノ酸、アンモニウム塩等の有機・無機窒素化合物を用いることができる。また、塩類は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、リン酸塩、鉄塩、銅塩、亜鉛塩、コバルト塩等の無機塩類を必要に応じて適宜添加する。更に、ビオチン、ビタミンB1、シスチン、オレイン酸メチル、ラード油等の生育促進物質を添加することが、目的物の産生量を増加させる点で好ましい。また、シリコン油や界面活性剤等の消泡剤を添加してもよい。
RH2180−5の培養物からの抗菌活性成分の回収は、通常の微生物培養物から生理活性物質を回収し精製する方法で行えばよい。ここで培養物とは、培養上清、培養菌体、培養菌体破砕物を含むものである。例えば、培養物に抽出処理としてアセトン等の適当な有機溶媒を加えて懸濁した後に、遠心分離やろ過膜分離等を行って菌体と分離した抽出上清に対して、通常用いられる単離精製処理を加えればよい。また必要に応じて残った菌体残渣を摩砕処理等してから再度抽出処理を行ってもよい。
多くの菌株から有用菌株の絞込みを行う一次スクリーニングは、抗菌活性を評価する方法であれば何れの方法でも行うことができるが、例えば、MICを指標として各種菌株の培養上清中に黄色ブドウ球菌に対して抗菌活性の認められた検体をピックアップすることができる。その後、各精製工程で得られた検体は、カイコ黄色ブドウ球菌感染モデルに供することで、その検体の治療効果を検討することができる。
カイコ黄色ブドウ球菌感染モデルにおける治療効果を指標として選択される単離精製方法としては特に限定はないが、培養物の溶媒抽出、転溶、水沈殿、ODSカラム等によるクロマトグラフィー、ODSカラム等を用いたRP−HPLCによる分取等が挙げられる。上記溶媒抽出の溶媒や転溶の溶媒としては特に限定はないが、アセトン等の水溶性溶媒;ブタノール等の親水性溶媒;それらの混合溶媒;水と親水性溶媒との混合溶媒;水と水溶性溶媒との混合溶媒;等が好ましい。また、ODSカラムの代わりに、オクチル基やブチル基で修飾した担体、ポリスチレン系のポリマー担体等を充填したカラムを用いてもよい。表1参照。
以上のRP−HPLCによって、RH2180−5の培養物から9つのピークに分けられる化合物を分取することができた(図1)。これらはUV吸収パターンが類似していることから互いに類似する化合物であり、RP−HPLCより前段階の単離精製方法によっては単一の成分となっている。
上記各ピークの抗生物質の示す抗菌スペクトルは、微量液体希釈法等で得られたMICによって検討することができる。それによって、例えば、RH2180−5Peak5物質は、表2に示すように、黄色ブドウ球菌、腸球菌等のグラム陽性細菌に対して抗菌活性を示すことを確認することができた。更に、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)だけでなくバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対しても通常の細菌と同様の抗菌活性を有し、多剤耐性細菌にも有効であることを確認することができた。表2、後述の表6参照。
RH2180−5の産生する抗生物質は、各精製工程においてカイコ黄色ブドウ球菌感染モデルにおいてその治療効果を有することが確認されている。前記特許文献5において、カイコ黄色ブドウ球菌感染モデルに治療効果を示す物質は、マウス感染モデルに対しても治療効果を示すことが確認されている。そこで、RH2180−5Peak5物質に対しても同様の確認を行ったところ、RH2180−5Peak5物質はマウス感染モデルにおいても治療効果を示し、そのED50値は0.6mg/kgとなりバンコマイシンの1.6mg/kgよりも明確に低く治療効果の高いことが確認された。表3参照。
<RH2180−5Peak5物質の単離精製>
(1)抗菌活性を有する微生物のMICによる探索
各地から採取した土壌を生理食塩水に懸濁し、その上清をGA培地及びHV培地に塗布し、30℃でインキュベート後に生育した菌を分離し、YME培地又はSGM培地、CDY培地にて30℃で5日間培養した。アセトンを等量加え、懸濁後に遠心分離しその上清をエバポレーションした。得られた残存物を生理食塩水で希釈後に黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を微量液体希釈法によるMICにて評価した。その結果、14346株中、3487株の培養上清に抗菌活性が認められた。
先の抗菌活性が認められた3487株の検体を、カイコモデルに供してその治療効果を検討したところ、45株の培養上清に治療効果が認められた。
上記45株中、沖縄で採取された土壌から分離されたRH2180−5について、培養上清からの治療活性物質の精製を実施した。RH2180−5は、後述する16S rRNA配列の解析、酸性物質の傾向等から、新規リソバクター(Lysobacter)属の微生物と判定された。
<RH2180−5の培養とRH2180−5Peak5物質の製造>
RH2180−5の斜面培養から白金耳で菌を掻き取り、100mLのYME培地を入れた500mL容の三角フラスコに接種し、30℃で3日間振とう培養を行い種培養液とした。次いで、この種培養液1.0mLを、先の液体培地100mLを入れた500mL容の三角フラスコ12本に接種し、30℃で5日間振とう培養を行った。
RH2180−5Peak5物質を、ブルカー・ダルトニクス社(BrukerDaltonics)BioTOF−Q質量分析器による精密質量分析に供した結果、分子量は1616.9[ESI−TOF−MSで、(M+H)+が、m/z=1617.8755]であることが分かった。また、6N塩酸下、105℃で一晩加水分解処理をした後に、日立アミノ酸分析機によりアミノ酸分析を行ったところ、各々2分子のThr、Glu、Argと、各々1分子のSer、Gly、Ileが検出された(図2)。更に、日本電子ECA−500NMRによる1H、13C−NMR解析(図3)、TOF−MS解析(図4)の結果、RH2180−5Peak5物質は、図5に示す新規骨格を有する化合物であることが明らかとなった。
GlnとGluについては、酸加水分解の結果では両方ともGluとなり、D,L体が1:1で検出されたため、グルタミンおよびグルタミン酸を含むペプチドに対して、ビス(1,1―トリフルオロアセトキシ)ヨードベンゼンを反応させることにより、グルタミンをジアミノ酪酸に変換し、加水分解後、反応しなかったグルタミン酸について、キラルカラムによる絶対配置の決定を行ったところ、GlnがD体、GluがL体であることが明らかになった。(この分解法によるペプチドのD,L体の決定法は本願において初めて行われた新規の方法である。)
脂肪酸鎖の水酸基については、改良モッシャー法により絶対配置Rを決定した。
その結果、RH2180−5Peak5物質は、各アミノ酸が図6に示す立体構造を有する新規な環状ペプチド化合物であることが分かった。
RH2180−5Peak5物質の各種細菌に対する抗菌スペクトルを微量液体希釈法によるMICにより検討した。その結果を表2に示す。MICの結果から、本物質は黄色ブドウ球菌、腸球菌に抗菌活性を示すことからグラム陽性細菌に対して抗菌活性を示すことが明らかとなった。またメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)だけでなくバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対しても抗菌活性を示したことから、多剤耐性菌に対しても有効であると考えられた。今回の結果で示されたMICの値は、従来報告のある抗生物質と比べて低い値でなく、特に高い抗菌活性を示したものではないが、治療効果については、後述する治療効果の検討により、バンコマイシンと比べた場合、バンコマイシン以上の治療効果を有することが確認された。
7%ムチン+0.2mMクエン酸鉄(III)アンモニウム(Ferric ammonium citrate)に、黄色ブドウ球菌Smith株を懸濁し、6.2×106個(20×LD50)を一群5匹のマウス(ICR雌4週齢)の腹腔に投与した。各薬剤は、以下に示す方法で先の菌株投与2時間後に皮下注射した。
<16S rRNA解析>
RH2180−5の16S rRNAの塩基をコロニーPCR法によって増幅し、増幅できたRNA断片についてシーケンサーによって解析した。その結果、5’末端側、3’末端側のいくつかの塩基を除く、配列表の配列番号1に示すほぼ16S rRNA領域全長に相当する塩基配列を決定した。この塩基配列を元にNCBIのBLASTを用いて既存菌株との相同性検索を行った。その結果RH2180−5は、Lysobacter enzymogenes DSM 2043T株と99%の相同性を示したことから、Lysobacter属に属する微生物であると考えられた。
RH2180−5は、Lysobacter enzymogenes DSM 2043T株と化学的性質について相似する点が多いが、産生する生理活性物質の抗菌スペクトルが異なること、これまで報告されていない新規で有用なRH2180−5Peak5物質を産生していることが確認されている点が異なっている。よって、以上の結果から、RH2180−5は、リソバクター(Lysobacter)属に属する新規な菌株であると判定した。
<各ピーク物質の多剤耐性菌と薬剤耐性を有さない菌に対する抗菌活性の比較検討>
試料量の少ないピーク1物質を除くピーク2物質からピーク9物質の8つの本発明の新規な環状ペプチド化合物について、多剤耐性菌と薬剤耐性を有さない菌に対する抗菌活性の比較検討を行った。
MRSA3:OX,FL,KM,TC,EM耐性黄色ブドウ球菌
MRSA4:OX,FL,KM,CP,CPLX耐性黄色ブドウ球菌
EF1 :腸球菌
VRE :バンコマイシン耐性腸球菌
TC:テトラサイクリン、CP:クロラムフェニコール、EM:エリスロマイシン
CPLX:シプロフロキサシン
<RH2180−5Peak5物質の抗菌スペクトルの検討>
先のRH2180−5Peak5物質の、MRSA、VREを含む各種の微生物に対する抗菌スペクトルの検討を行った。10%血清を添加した場合と血清を添加しなかった場合それぞれのMIC値をCLSI(旧NCCLS米国臨床検査標準委員会)に基づく微量検体希釈法によって測定した。測定結果を表6に示す。
<RH2180−5Peak5物質の殺菌活性の検討>
CA−Mueller Hinton Broth培地に1.8x108個の黄色ブドウ球菌を摂取し、先のRH2180−5Peak5物質(25μg/mL)、バンコマイシン(VM、5μg/mL)、ゲンタマイシン(GM、2.5μg/mL)を添加し、15分後、30分後、60分後、120分後の生存細胞数をCFU(colony forming unit/mL)として求めた。結果を表7に示す。
<RH2180−5Peak5物質の溶菌活性の検討>
CA−Mueller Hinton Broth培地に黄色ブドウ球菌液を希釈し、RH2180−5Peak5物質、バンコマイシン、ダプトマイシンを試験例1で用いたときの5倍の濃度で添加し、37℃で培養した。吸光度計(島津製作所社製)を用いて、添加後の600nmにおける吸光度(OD600)を経時的に測定した。結果を図7に示す。
ブダペスト条約に基づく寄託:NITE BP−870
Claims (7)
- リソバクター(Lysobacter)属に属する受託番号NITE P−870の微生物又はその自然的若しくは人工的に変異した微生物であって、抗菌活性を有する抗生物質を産生する能力を有する微生物。
- 上記抗生物質が、少なくともメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)及びバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対して抗菌活性を有するものである請求項1に記載の微生物。
- 配列表の配列番号1で示される16S rRNA領域の塩基配列を有する請求項1又は請求項2に記載の微生物。
- 請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の微生物の培養液から、該微生物の産生した抗生物質を得ることを特徴とする抗生物質の製造方法。
- 請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の微生物の培養液から、該微生物の産生した、少なくともメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)及びバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対して抗菌活性を有する抗生物質を得ることを特徴とする抗生物質の製造方法。
- 請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の微生物の培養液から得られる、該微生物の産生した抗生物質であって、少なくともメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)及びバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対して抗菌活性を有することを特徴とする抗生物質。
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