以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る内燃機関のEGR制御装置について説明する。図2に示すように、第1実施形態のEGR制御装置1は、ECU2を備えており、このECU2は、後述するように、図1に示す内燃機関(以下「エンジン」という)3を制御する。
エンジン3は、ディーゼルエンジンタイプのものであり、図示しない車両に動力源として搭載されている。このエンジン3は、4つの気筒3aと、気筒3aごとに設けられた燃料噴射弁4(図2に1つのみ図示)などを備えている。これらの燃料噴射弁4は、ECU2に電気的に接続されており、ECU2からの制御入力信号によってその開閉タイミングが制御される。それにより、燃料噴射量および燃料噴射時期が制御される。
このエンジン3には、クランク角センサ20および水温センサ21が設けられている。このクランク角センサ20は、マグネットロータおよびMREピックアップで構成されており、図示しないクランクシャフトの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号をECU2に出力する。このCRK信号は、所定クランク角(例えば2゜)毎に1パルスが出力され、ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の機関回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。なお、本実施形態では、クランク角センサ20が機関回転数検出手段および負荷パラメータ検出手段に相当する。
また、水温センサ21は、例えばサーミスタなどで構成されており、エンジン3のシリンダブロック内を循環する冷却水の温度であるエンジン水温TWを表す検出信号をECU2に出力する。
一方、エンジン3の吸気通路5には、上流側から順に、エアフローセンサ22、インテークシャッタ機構6、吸気圧センサ23、ターボチャージャ7、インタークーラ8、HP用インテークシャッタ機構9、吸気チャンバ圧センサ24、および吸気チャンバ温センサ25が設けられている。
インテークシャッタ機構6は、インテークシャッタ6aおよびこれを駆動するISアクチュエータ6bなどを備えている。インテークシャッタ6aは、吸気通路5の途中に回動自在に設けられており、当該回動に伴う開度の変化によりインテークシャッタ6aを通過する空気の流量を変化させる。ISアクチュエータ6bは、モータに減速ギヤ機構(いずれも図示せず)を組み合わせたものであり、ECU2に電気的に接続されている。ECU2は、ISアクチュエータ6bを介してインテークシャッタ6aの開度(以下「インテークシャッタ開度」という)αinを制御する。
また、エアフローセンサ22は、熱線式エアフローメータで構成され、インテークシャッタ6aを通過する新気の流量(以下「新気流量」という)dGafmを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、このエアフローセンサ22の検出信号に基づいて、新気流量dGafmを算出する。
さらに、吸気圧センサ23は、例えば半導体圧力センサなどで構成され、インテークシャッタ6aよりも上流側の吸気通路5内の圧力(以下「吸気圧」という)Pinを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。この吸気圧Pinは、絶対圧として検出される。
一方、ターボチャージャ7は、吸気通路5のインテークシャッタ6aよりも下流側に設けられたコンプレッサブレード7aと、排気通路10の途中に設けられ、コンプレッサブレード7aと一体に回転するタービンブレード7bと、複数の可変ベーン7c(2つのみ図示)と、可変ベーン7cを駆動するベーンアクチュエータ7dなどを備えている。
このターボチャージャ7では、排気通路10内の排ガスによってタービンブレード7bが回転駆動されると、これと一体のコンプレッサブレード7aも同時に回転することにより、吸気通路5内の空気が加圧される。すなわち、過給動作が実行される。
また、可変ベーン7cは、ターボチャージャ7が発生する過給圧を変化させるためのものであり、ハウジングのタービンブレード7bを収容する部分の壁に回動自在に取り付けられている。可変ベーン7cは、ECU2に接続されたベーンアクチュエータ7dに機械的に連結されている。ECU2は、ベーンアクチュエータ7dを介して可変ベーン7cの開度(以下「ベーン開度」という)αtbを変化させ、タービンブレード7bに吹き付けられる排ガス量を変化させることによって、タービンブレード7bの回転速度すなわちコンプレッサブレード7aの回転速度を変化させ、それにより、過給圧を制御する。
また、インタークーラ8は、水冷式のものであり、その内部を吸気が通過する際、ターボチャージャ7での過給動作によって温度が上昇した吸気を冷却する。
さらに、HP用インテークシャッタ機構9は、前述したインテークシャッタ機構6と同様のものであり、HP用インテークシャッタ9aおよびこれを駆動するHP用ISアクチュエータ9bなどを備えている。このHP用インテークシャッタ機構9では、ECU2からの制御入力信号によって、HP用ISアクチュエータ9bが駆動されることにより、HP用インテークシャッタ9aの開度が制御される。
このHP用インテークシャッタ9aの開度制御では、通常時は、HP用インテークシャッタ9aが全開状態に保持されるとともに、後述する所定の動作条件が成立したときにのみ、HP用インテークシャッタ9aの開度が全開状態よりも若干、閉じた状態に制御される。なお、以下の説明では、HP用インテークシャッタ9aの開度を、HP用シャッタ開度αinHPという。
一方、吸気チャンバ圧センサ24は、例えば半導体圧力センサなどで構成され、吸気マニホールド5aの吸気チャンバ5b内の圧力(以下「吸気チャンバ圧」という)Pchを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。この吸気チャンバ圧Pchは、絶対圧として検出される。
また、吸気チャンバ温センサ25は、吸気マニホールド5aの吸気チャンバ5b内の温度(以下「吸気チャンバ温」という)Tchを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。この吸気チャンバ温Tchは、絶対温度として検出される。
一方、エンジン3の排気通路10には、上流側から順に、排気マニホールド圧センサ26、排気マニホールド温センサ27、前述したタービンブレード7b、LAFセンサ28、触媒装置13、排気圧センサ29および排気温センサ30が設けられている。
この排気マニホールド圧センサ26は、例えば半導体圧力センサなどで構成され、排気マニホールド10a内の圧力(以下「排気マニホールド圧」という)Pemを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。この排気マニホールド圧Pemは、絶対圧として検出される。
また、排気マニホールド温センサ27は、排気マニホールド10a内の温度(以下「排気マニホールド温」という)Temを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。この排気マニホールド温Temは、絶対温度として検出される。
さらに、LAFセンサ28は、ジルコニアおよび白金電極などで構成され、理論空燃比よりもリッチなリッチ領域から極リーン領域までの広範囲な空燃比の領域において、排気通路10内を流れる排ガス中の酸素濃度をリニアに検出し、それを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、このLAFセンサ28の検出信号の値に基づき、排ガスの当量比の検出値として検出当量比φを算出する。
一方、触媒装置13は、排気通路10内を流れる排ガスを浄化するものであり、DOC(Diesel Oxidation Catalyst)13aとCSF(Catalyzed Soot Filter)13bとを組み合わせて構成されている。
また、排気圧センサ29は、触媒装置13の下流側に設けられており、触媒装置13を通過した排ガスの圧力(以下「排気圧」という)Pexを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。この排気圧Pexは、絶対圧として検出される。
さらに、排気温センサ30も、排気圧センサ29と同様に、触媒装置13の下流側に設けられており、触媒装置13を通過した排ガスの温度(以下「排気温」という)Texを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。この排気温Texは、絶対温度として検出される。
これに加えて、エンジン3には、低圧EGR装置11および高圧EGR装置12が設けられている。この低圧EGR装置11(第1EGR装置)は、排気通路10内の排ガスの一部を吸気通路5側に還流させるものであり、吸気通路5および排気通路10の間に接続された低圧EGR通路11aと、低圧EGR通路11a内を流れる還流ガス(以下「低圧EGRガス」という)を冷却する低圧EGRクーラ11bと、この低圧EGR通路11aを開閉する低圧EGR制御弁11cなどで構成されている。低圧EGR通路11aの一端は、排気通路10の触媒装置13よりも下流側の部位に開口し、他端は、吸気通路5のインテークシャッタ6aとコンプレッサブレード7aとの間の接続部5cに開口している。
低圧EGR制御弁11cは、その開度が最大値と最小値との間でリニアに変化するリニア電磁弁で構成され、ECU2に電気的に接続されている。ECU2は、低圧EGR制御弁11cの開度を変化させることにより、低圧EGRガスの還流量すなわち低圧EGRガス量を制御する。
以上の構成により、この低圧EGR装置11では、低圧EGRガスは、排気通路10の触媒装置13の下流側の部分から低圧EGR通路11a内に流入し、図1の矢印X1で示す向きに流れ、低圧EGRクーラ11bおよび低圧EGR制御弁11cを通過した後、吸気通路5の接続部5c内に流れ込む。そして、低圧EGRガスは、新気とともに、コンプレッサブレード7aおよびインタークーラ8を通過した後、吸気マニホールド5aを介して、各気筒3a内に流れ込む。
一方、高圧EGR装置12(第2EGR装置)も、低圧EGR装置11と同様に、排気通路10内の排ガスの一部を吸気通路5側に還流させるものであり、吸気通路5および排気通路10の間に接続された高圧EGR通路12aと、高圧EGR通路12a内を流れる還流ガス(以下「高圧EGRガス」という)を冷却する高圧EGRクーラ12bと、この高圧EGR通路12aを開閉する高圧EGR制御弁12cなどで構成されている。高圧EGR通路12aの一端は、排気通路10の排気マニホールド10aに開口し、他端は、吸気通路5の吸気マニホールド5aに開口している。
高圧EGR制御弁12cは、その開度が最大値と最小値との間でリニアに変化するリニア電磁弁で構成され、ECU2に電気的に接続されている。ECU2は、高圧EGR制御弁12cの開度を変化させることにより、高圧EGRガスの還流量すなわち高圧EGRガス量を制御する。
以上の構成により、この高圧EGR装置12では、高圧EGRガスは、排気マニホールド10aから高圧EGR通路12a内に流入し、図1の矢印X2で示す向きに流れ、高圧EGRクーラ12bおよび高圧EGR制御弁12cを通過した後、吸気マニホールド5a内に流れ込む。そして、高圧EGRガスは、低圧EGRガスおよび新気とともに、吸気マニホールド5aを介して、各気筒3a内に流れ込む。
ここで、低圧EGRガスは、気筒3a内に達するまでの経路が高圧EGRガスよりも長いので、高圧EGRガスよりも長い時間をかけて気筒3a内に流れ込むことになる。すなわち、低圧EGR装置11は、高圧EGR装置12と比べて、応答遅れおよびむだ時間が大きいという特性を有している。したがって、後述するEGR制御処理では、2つのEGR装置11,12の特性を考慮し、低圧EGR装置11の応答遅れ特性やむだ時間特性を補償するように、高圧EGR装置12が制御される。
一方、図2に示すように、ECU2には、LP開度センサ31、HP開度センサ32、大気圧センサ33、大気温センサ34およびアクセル開度センサ35が接続されている。このLP開度センサ31は、低圧EGR制御弁11cの開度(以下「LP開度」という)αLPを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力し、HP開度センサ32は、高圧EGR制御弁12cの開度(以下「HP開度」という)αHPを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。
また、大気圧センサ33は、半導体圧力センサで構成されており、大気圧PAを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。さらに、大気温センサ34は、大気温TAを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力し、アクセル開度センサ35は、車両の図示しないアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセル開度」という)APを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。なお、本実施形態では、アクセル開度センサ35が負荷パラメータ検出手段に相当する。
また、ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されており、前述した各種のセンサ20〜35の検出信号などに応じて、エンジン3の運転状態を判別するとともに、運転状態に応じて、後述するように、EGR制御処理などの各種の制御処理を実行する。
なお、本実施形態では、ECU2が、機関回転数検出手段、負荷パラメータ検出手段、EGR制御手段、第1EGR制御入力算出手段、第1EGR制御手段、第2EGR制御入力算出手段、および第2EGR制御手段に相当する。
次に、本実施形態のEGR制御装置1について説明する。このEGR制御装置1は、以下に述べる制御手法によって、LP開度αLPおよびHP開度αHPを制御するもの、すなわちEGR制御を実行するものである。ここで、本実施形態のエンジン3のような、リーンバーン運転されるディーゼルエンジンの場合、EGRガスは、通常、不活性ガスだけでなく新気を含んだ状態となる。これに対して、エンジン3から排気通路10に排出されるNOx量(以下「NOx排出量」という)を考慮した場合、このNOx排出量は、EGR率またはEGR量よりも、不活性ガス率(吸気中の不活性ガスの比率)または不活性ガス量に対する相関性が高いという事象が一般的に知られている。
したがって、本実施形態のEGR制御手法では、NOx排出量を低減し、排ガス特性を向上させるために、EGRガス中の不活性ガスを考慮した手法が用いられる。なお、以下の説明では、低圧EGRガス中の不活性ガスを「LP不活性ガス」といい、高圧EGRガス中の不活性ガスを「HP不活性ガス」という。
EGR制御装置1は、図3に示すように、目標不活性ガス総流量算出部40、目標LP不活性ガス流量算出部50、不活性ガス推定部60、モデル修正器70、LP開度コントローラ80、およびHP開度コントローラ90を備えており、これらはいずれもECU2によって構成されている。
まず、目標不活性ガス総流量算出部40では、目標不活性ガス総流量dGiegr_cmdが算出される。この目標不活性ガス総流量dGiegr_cmdは、2つのEGR装置11,12によって気筒3a内に供給される不活性ガスの総流量の目標となる値であり、エンジン回転数NEおよび要求トルクTRQDRVに応じて、図4に示すマップを検索することにより算出される。この要求トルクTRQDRVは、運転者によってエンジン3に要求されているトルクすなわち運転負荷を表すものであり、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じて、図示しないマップを検索することにより算出される。
また、図4のTRQDRV1〜3は、TRQDRV1<TRQDRV2<TRQDRV3が成立するように設定される要求トルクTRQDRVの所定値であり、この点は以下の説明においても同様である。同図に示すように、目標不活性ガス総流量dGiegr_cmdは、高負荷域(すなわち要求トルクTRQDRVが大きい領域)では、要求トルクTRQDRVを確保するために、低・中負荷域よりも小さい値に設定されている。なお、本実施形態では、要求トルクTRQDRVが負荷パラメータに相当する。
また、目標LP不活性ガス流量算出部50では、下式(1)により、目標LP不活性ガス流量dGiegr_LP_cmdが算出される。なお、本実施形態では、目標LP不活性ガス流量dGiegr_LP_cmdが所定の第1目標値に相当する。
上式(1)のRiegr_LPは、LP側分配率(単位:%)であり、不活性ガス総流量のうちのLP不活性ガス流量側への分配率を表すものである。このLP側分配率Riegr_LPは、エンジン回転数NEおよび要求トルクTRQDRVに応じて、図5に示すマップを検索することにより算出される。同図において、NE1〜NE5は、エンジン回転数NEの所定値であり、NE1<NE2<NE3<NE4<NE5が成立するように設定される。
同図に示すように、LP側分配率Riegr_LPは、NE≦NE1の低回転域では、要求トルクTRQDRVすなわち負荷の大小にかかわらず、0%に設定されている。これは、低回転域では、車両の減速時、低圧EGR装置11の応答遅れ特性やむだ時間特性を補償するための制御が間に合わない状態となり、気筒3a内の不活性ガス量が過剰な状態となるおそれがあるので、それを回避すべく、低圧EGRガスの気筒3a内への供給を停止するためである。一方、高負荷かつ高回転域(NE≧NE5かつTRQDRV≧TRQDRV2の領域、またはNE≧NE4かつTRQDRV≧TRQDRV3の領域)では、気筒3a内のガス温度およびTDC位置での温度の低減によるNOx排出量の低減を目的として、LP不活性ガスを気筒3a内に多量に供給するために、LP側分配率Riegr_LPが100%に設定されている。
これに加えて、エンジン回転数NEおよび要求トルクTRQDRVの組み合わせが所定領域にある場合には、LP側分配率Riegr_LPは、Riegr_LP>50が成立するとともに、エンジン回転数NEが高いほど、または要求トルクTRQDRVが大きいほど、より大きい値に設定されている。この場合、同図に示すように、例えば、TRQDRV=TRQDRV3かつNE2<NE≦NE4の領域や、TRQDRV2≦TRQDRV≦TRQDRV3かつNE3<NE≦NE4の領域や、TRQDRV=TRQDRV2かつNE3<NE≦NE5の領域が、所定領域に相当する。すなわち、この所定領域は、中負荷以上でかつ中回転以上の領域に相当する。
なお、上式(1)における記号(k)付きの各離散データは、所定の制御周期ΔT(本実施形態では10msec)に同期してサンプリングまたは算出されたデータであることを示しており、記号k(kは正の整数)は各離散データのサンプリングまたは算出サイクルの順番を表している。例えば、記号kは今回の制御タイミングでサンプリングまたは算出された値であることを、記号k−1は前回の制御タイミングでサンプリングまたは算出された値であることをそれぞれ示している。この点は、以下の離散データにおいても同様である。また、以下の説明では、各離散データにおける記号(k)を適宜省略する。
一方、不活性ガス推定部60では、後述するモデリング手法で導出したモデルを用いた算出アルゴリズムによって、LP不活性ガス、HP不活性ガスおよび新気などに関連する各種の推定値が算出される。また、モデル修正器70では、後述する制御アルゴリズムを用いて、不活性ガス推定部60におけるモデルを修正するための修正値が算出される。
さらに、LP開度コントローラ80では、後述する制御アルゴリズムを用いて、LP開度αLPを制御するための目標LP開度αLP_cmdが算出され、HP開度コントローラ90では、後述する制御アルゴリズムを用いて、HP開度αHPを制御するための目標HP開度αHP_cmdが算出される。
次に、前述した不活性ガス推定部60について説明する。この不活性ガス推定部60は、以下に述べるモデリング手法で導出されたモデルを用いて、各種の推定値を算出するものであり、このモデリング手法は、吸気通路5内のガスの収支を、物理式を用いてモデリングするものである。なお、前述したように、HP用インテークシャッタ9aは、通常時、全開状態に保持されるので、以下に述べるモデリング手法では、HP用インテークシャッタ9aを無視できるものとしてモデリングを実行している。
以下、図6を参照しながら、モデリング手法の具体的な内容について説明する。なお、以下の説明では、吸気通路5内のEGRガスと新気の双方を含めて、吸気通路5内のガスという。まず、吸気通路5の接続部5cにおけるガスの収支をモデリングすると、下式(2)が得られる。
上式(2)において、Ginは接続部5c内の総ガス量(以下「接続部総ガス量」という)を、dGegr_LPは低圧EGR装置11から接続部5c内に流れ込む低圧EGRガスの流量(以下「低圧EGRガス流量」という)をそれぞれ表している。また、上式(2)のdGair_ISはインテークシャッタ6aを通過する新気の流量(以下「IS通過新気流量」という)であり、このIS通過新気流量dGair_ISは、後述する吸気圧コントローラ110(図7参照)によって決定される。さらに、上式(2)のdGgas_CPは、接続部5cから吸気チャンバ5b内に流れ込むガスの流量(以下「チャンバガス流量」という)を表しており、本実施形態の場合、このチャンバガス流量dGgas_CPは、後述する過給圧コントローラ100(図7参照)によって決定される。
また、上式(2)の低圧EGRガス流量dGegr_LPの算出式は以下のモデリング手法によって導出される。まず、吸気通路5内のガス温度をTin、吸気通路5の内部容積をVin、気体定数をRとすると、Tin=TAの関係と気体の状態方程式に基づき、吸気通路5内の圧力である吸気圧Pinは、下式(3)で表される。
さらに、低圧EGR制御弁11cをノズルと見なし、ノズルの式を適用すると、下式(4)〜(7)が得られる。
上式(4)において、A(αLP)は、LP開度αLPによって決まる有効開口面積であり、LP開度αLPに応じて、図示しないマップを検索することにより算出される。また、Ψ_LPは、上式(5),(6)のように定義される流量関数であり、式(5),(6)のκは、比熱比である。さらに、上式(4)のρexは、低圧EGR制御弁11cよりも上流側(すなわち排気通路10側)の低圧EGRガスの密度であり、上式(7)によって算出される。
次に、図7を参照しながら、前述した過給圧コントローラ100および吸気圧コントローラ110について説明する。これらのコントローラ100,110はいずれも、ECU2で構成されており、本実施形態のエンジン3では、これらのコントローラ100,110によって、吸気チャンバ圧Pchおよび吸気圧Pinがそれぞれ以下に述べるように制御される。
過給圧コントローラ100では、まず、チャンバガス流量dGgas_CPが、下式(8)〜(10)に示すスライディングモード制御アルゴリズムによって算出される。
上式(8)に示すように、追従誤差Epchは、吸気チャンバ圧Pch(すなわち過給圧)と目標過給圧Pch_cmdとの偏差として算出され、この目標過給圧Pch_cmdは、エンジン回転数NEおよび要求トルクTRQDRVに応じて、図示しないマップを検索することにより算出される。また、上式(9)において、σpchは切換関数であり、POLE_pchは切換関数設定パラメータである。この切換関数設定パラメータPOLE_pchは、追従誤差Epchの値0への収束速度を設定するためのものであり、−1<POLE_pch<0の関係が成立するように設定される。この場合、追従誤差Epchの値0への収束速度は、この切換関数設定パラメータPOLE_pchが値0に近いほど、より速くなる。さらに、上式(10)において、Krch_pchは所定の到達則ゲインを、Kadp_pchは所定の適応則ゲインをそれぞれ表している。
そして、以上のように算出したチャンバガス流量dGgas_CPを用いて、下式(11)により、目標ベーン開度αtb_cmdが算出される。
上式(11)において、Ftbは、チャンバガス流量dGgas_CP、吸気チャンバ圧Pchおよび排気マニホールド圧Pemを、目標ベーン開度αtb_cmdに変換するための変換関数である。なお、上式(11)に代えて、目標ベーン開度αtb_cmdを、マップ検索手法で算出したり、ノズルの式に基づく演算式で算出したりしてもよい。
過給圧コントローラ100では、以上の手法によって目標ベーン開度αtb_cmdが算出され、さらに、ECU2によって、この目標ベーン開度αtb_cmdに対応する制御入力信号がベーンアクチュエータ7dに供給される。それにより、吸気チャンバ圧Pchが、目標過給圧Pch_cmdに収束するようにフィードバック制御される。
一方、吸気圧コントローラ110では、まず、IS通過新気流量dGair_ISが、下式(12)〜(14)に示すスライディングモード制御アルゴリズムによって算出される。
上式(12)に示すように、追従誤差Epinは、吸気圧Pinと目標吸気圧Pin_cmdとの偏差として算出され、この目標吸気圧Pin_cmdは、排気圧Pexよりも所定値分低い値に設定される。また、上式(13)のσpinは切換関数であり、POLE_pinは切換関数設定パラメータである。この切換関数設定パラメータPOLE_pinは、前述した式(9)の切換関数設定パラメータPOLE_pchに対して、−1<POLE_pch<POLE_pin<0の関係が成立するように設定される。これは、インテークシャッタ機構6の方がターボチャージャ7よりも応答性が高いので、それに対応して、吸気圧コントローラ110における追従誤差Epinの値0への収束速度を、過給圧コントローラ100における追従誤差Epchの値0への収束速度よりも速くなるように設定することにより、2つのコントローラ100,110におけるフィードバック制御が互いに干渉しないようにするためである。
さらに、上式(14)において、Krch_pinは所定の到達則ゲインを、Kadp_pinは所定の適応則ゲインをそれぞれ表している。また、吸気圧コントローラ110においては、チャンバガス流量dGgas_CPが外乱となるので、上式(14)の場合、そのような外乱を補償するためのフィードフォワード項として、チャンバガス流量の前回値dGgas_CP(k−1)が右辺に含まれている。
そして、以上のように算出したIS通過新気流量dGair_ISを用いて、下式(15)により、目標インテークシャッタ開度αin_cmdが算出される。
上式(15)において、Finは、IS通過新気流量dGair_IS、吸気圧Pinおよび大気圧PAを、目標インテークシャッタ開度αin_cmdに変換するための変換関数である。なお、上式(15)に代えて、目標インテークシャッタ開度αin_cmdを、マップ検索手法で算出したり、ノズルの式に基づく演算式で算出したりしてもよい。
吸気圧コントローラ110では、以上の手法によって目標インテークシャッタ開度αin_cmdが算出され、さらに、ECU2によって、この目標インテークシャッタ開度αin_cmdに対応する制御入力信号がISアクチュエータ6bに供給される。それにより、吸気圧Pinが、目標吸気圧Pin_cmdに収束するようにフィードバック制御される。
なお、以上の2つのコントローラ100,110では、チャンバガス流量dGgas_CPおよびIS通過新気流量dGair_ISを、スライディングモード制御アルゴリズムを用いて算出した例であるが、例えば、バックステッピング制御アルゴリズム、モデル予測制御アルゴリズムおよびPID制御アルゴリズムなどの、フィードバック制御アルゴリズムを用いて、これらの値を算出するように構成してもよい。
モデリング手法に戻り、上記IS通過新気流量dGair_ISと、前述した新気流量dGafmとの関係をモデリングする。まず、エアフローセンサ22付近における吸気通路5内の体積流量をdVafmとすると、気体の状態方程式に基づき、下式(16)が得られる。
ここで、エアフローセンサ22付近における吸気通路5内の新気の流速をWafm、吸気通路5の断面積をAafmとすると、この流速Wafmは下式(17)で算出される。
次に、エアフローセンサ22とインテークシャッタ6aとの間の距離をLafmとすると、両者の間のむだ時間dafmは、下式(18),(19)によって算出される。
ここで、上式(18)のdafm_tempは、むだ時間の基本値(単位は時間)であり、上式(19)のRoundは、括弧内の値を整数化する整数化関数である。この場合、上式(19)に示すように、むだ時間dafmは、基本値dafm_tempを制御周期ΔTで除算した値を整数化することによって算出されるので、基本値dafm_tempを制御回数に換算した値として算出される。
そして、以上のように算出されたむだ時間dafmを用いて、新気流量dGafmとIS通過新気流量dGair_ISとの関係は、下式(20)のように定義される。
ここで、新気流量dGafmとIS通過新気流量dGair_ISとの関係が上式(20)のように定義されるのは、エアフローセンサ22の場合、インテークシャッタ6aの開度が変化した直後からむだ時間dafmが経過したタイミングで、開度変化の影響を受けることになるからである。
また、低圧EGR装置11から吸気通路5の接続部5cに流れ込む不活性ガスの流量(以下「LP不活性ガス流量」という)dGiegr_LPの算出式は、以下に述べるモデリング手法で導出される。
まず、低圧EGR通路11a内を流れる低圧EGRガスの体積流量をdVlpとすると、気体の状態方程式により、下式(21)が得られる。
ここで、低圧EGRガスの流速をWlp、低圧EGR通路11aの断面積をAlpとすると、この流速Wlpは下式(22)で算出される。
次に、低圧EGR通路11aの長さをLlpとすると、排気通路10内の排ガスが低圧EGR通路11a内を通過して吸気通路5の接続部5cに達するまでのむだ時間dlpは、下式(23),(24)によって算出される。
ここで、上式(23)のdlp_tempは、むだ時間の基本値(単位は時間)であり、上式(24)に示すように、むだ時間dlpは、基本値dlp_tempを制御周期ΔTで除算した値を整数化することによって算出されるので、基本値dlp_tempを制御回数に換算した値として算出される。
そして、以上のように算出されたむだ時間dlpを用いて、LP不活性ガス流量dGiegr_LPの算出式を、下式(25)のように表すことができる。
また、吸気チャンバ5b内に流れ込む不活性ガスの流量(以下「チャンバ不活性ガス流量」という)dGiegr_CPの算出式は、以下に述べるモデリング手法で導出される。
まず、接続部5cと吸気チャンバ5bとの間の吸気通路(以下「中間吸気通路」という)5内を流れるガスの体積流量をdVcpとすると、気体の状態方程式に基づき、下式(26)が得られる。
ここで、中間吸気通路5内のガスの流速をWcp、中間吸気通路5の断面積をAcpとすると、この流速Wcpは下式(27)で算出される。
次に、中間吸気通路5の長さをLcpとすると、接続部5c内のガスが中間吸気通路5を通過して吸気チャンバ5bに達するまでのむだ時間dcpは、下式(28),(29)によって算出される。
ここで、上式(28)のdcp_tempは、むだ時間の基本値(単位は時間)であり、上式(29)に示すように、むだ時間dcpは、基本値dcp_tempを制御周期ΔTで除算した値を整数化することによって算出されるので、基本値dcp_tempを制御回数に換算した値として算出される。
そして、以上のように算出されたむだ時間dcpを用いて、チャンバ不活性ガス流量dGiegr_CPの算出式を、下式(30)のように表すことができる。
上式(30)のRiegr_inは、中間吸気通路5内の不活性ガス率(以下「中間通路内不活性ガス率」という)であり、その算出式は以下に述べるように導出される。
まず、中間吸気通路5内の不活性ガス量(以下「中間通路内不活性ガス量」という)Giegr_inの算出式は、下式(31)のように定義される。
そして、中間通路内不活性ガス率Riegr_inは、下式(32)で算出される。
一方、吸気チャンバ5bにおけるガスの収支は、下式(33)で表される。
上式(33)のGchは、吸気チャンバ5b内の総ガス量(以下「チャンバ総ガス量」という)であり、dGegr_HPは、高圧EGR装置12から吸気チャンバ5b内に流れ込む高圧EGRガスの流量(以下「高圧EGRガス流量」という)である。また、同式(33)のdGgas_cylは、吸気チャンバ5bから気筒3a内に流れ込むガスの流量(以下「筒内ガス流量」という)である。これらの3つの値Gch,dGegr_HP,dGgas_cylの算出手法は以下に述べるように導出される。
まず、吸気チャンバ圧Pchは、気体の状態方程式に基づいて、下式(34)で算出される。
さらに、高圧EGR制御弁12cをノズルと見なし、ノズルの式を適用すると、下式(35)〜(38)が得られる。
上式(35)において、A(αHP)は、HP開度αHPによって決まる有効開口面積であり、HP開度αHPに応じて、図示しないマップを検索することにより算出される。また、Ψ_HPは、上式(36),(37)のように定義される流量関数である。さらに、上式(35)のρemは、高圧EGR制御弁12cよりも上流側(すなわち排気通路10側)の高圧EGRガスの密度であり、上式(38)によって算出される。
一方、前述した筒内ガス流量dGgas_cylと、エンジン回転数NEと吸気チャンバ圧Pchとの関係をマッピングすると、図8に示すマップが得られる。なお、同図において、Pch1〜3は、吸気チャンバ圧Pchの所定値であり、Pch1<Pch2<Pch3の関係が成立するように設定される。
また、高圧EGR装置12から吸気チャンバ5b内に流れ込む不活性ガスの流量(以下「HP不活性ガス流量」という)dGiegr_HPの算出式は、以下に述べるモデリング手法で導出される。
まず、高圧EGR通路12a内を流れる高圧EGRガスの体積流量をdVhpとすると、気体の状態方程式に基づき、下式(39)が得られる。
ここで、高圧EGRガスの流速をWhp、高圧EGR通路12aの断面積をAhpとすると、この流速Whpは下式(40)で算出される。
次に、高圧EGR通路12aの長さをLhpとすると、排気通路10内の排ガスが高圧EGR通路12a内を通過して吸気チャンバ5bに達するまでのむだ時間dhpは、下式(41),(42)によって算出される。
ここで、上式(41)のdhp_tempは、むだ時間の基本値(単位は時間)であり、上式(42)に示すように、むだ時間dhpは、基本値dhp_tempを制御周期ΔTで除算した値を整数化することによって算出されるので、基本値dhp_tempを制御回数に換算した値として算出される。
そして、以上のように算出されたむだ時間dhpを用いて、HP不活性ガス流量dGiegr_HPの算出式を、下式(43)のように表すことができる。
ここで、吸気チャンバ5b内の不活性ガス率(以下「チャンバ不活性ガス率」という)をRiegr_chとすると、吸気チャンバ5bから気筒3a内に流れ込む不活性ガスの流量(以下「筒内不活性ガス総流量」という)dGiegr_cylは、下式(44)によって算出される。
また、吸気チャンバ5b内の不活性ガスの総量(以下「チャンバ不活性ガス総量」という)Giegr_chは、下式(45)によって算出される。
さらに、チャンバ不活性ガス率Riegr_chは、下式(46)によって算出される。
そして、各燃焼サイクルごとの、気筒3a内の総ガス量である吸入空気量Gcylと、気筒3a内の不活性ガスの総量である筒内不活性ガス総量Giegrと、気筒3a内の新気量である筒内新気量Gairは、下式(47)〜(49)によってそれぞれ算出される。
上式(47),(48)のNcylは気筒数であり、本実施形態のエンジン3の場合、Ncyl=4となる。
本実施形態の場合、以上のモデリング手法によって、吸気通路5内のガスの収支を表す式(2)〜(49)が導出される。そして、不活性ガス推定部60では、以上の式(2)〜(49)に基づく算出アルゴリズムを用いて、以下に述べるように、前述した各種のパラメータの推定値がそれぞれ算出される。なお、以下の説明では、以上のモデリング手法で用いた各種のパラメータの末尾に「_hat」を付けて表記した値を、各種のパラメータの推定値として用いるとともに、各種のパラメータの推定値に加えて、後述するIS通過新気流量の仮想要求値dGair_IS_vも含めて「推定値」という。
図9に示すように、不活性ガス推定部60は、仮想吸気圧コントローラ61、低圧EGRガス流量推定部62、吸気上流側パラメータ推定部63、筒内ガス流量推定部64、吸気下流側パラメータ推定部65、筒内LP不活性ガス流量推定部66および新気流量推定部67を備えている。
まず、仮想吸気圧コントローラ61では、下式(50)〜(52)により、IS通過新気流量の仮想要求値dGair_IS_vが算出される。
上式(50)〜(52)は、前述した吸気圧コントローラ110の演算式(12)〜(14)において、IS通過新気流量dGair_ISを仮想要求値dGair_IS_vに置き換えるとともに、2つの値Epin,σpinを、それぞれの推定値に置き換えたものに相当する。なお、式(50)の吸気圧の推定値Pin_hatは、吸気上流側パラメータ推定部63で後述するように算出される。
不活性ガス推定部60の仮想吸気圧コントローラ61において、以上の式(50)〜(52)により、IS通過新気流量の仮想要求値dGair_IS_vを算出するのは、以下の理由による。すなわち、不活性ガス推定部60で用いたモデルにおいてモデル化誤差を生じた場合、前述した吸気圧コントローラ110で算出される、吸気圧Pinを目標吸気圧Pin_cmdに維持するためのIS通過新気流量の値と、吸気圧の推定値Pin_hatを目標吸気圧Pin_cmdに維持するためのIS通過新気流量の値は互いに異なってしまうことになる。したがって、不活性ガス推定部60の仮想吸気圧コントローラ61では、前述した式(12)〜(14)に代えて、以上の式(50)〜(52)を用いることにより、IS通過新気流量の仮想要求値dGair_IS_vが算出される。
次に、低圧EGRガス流量推定部62では、下式(53)〜(57)により、低圧EGRガス流量の推定値dGegr_LP_hatが算出される。
上式(53)は、前述した式(4)において、低圧EGRガス流量dGegr_LPを、低圧EGRガス流量の基本推定値dGegr_LP_hat_tempに置き換えたものに相当し、上式(54),(55)は、前述した(5),(6)において、吸気圧Pinをその推定値Pin_hatに置き換えたものに相当するとともに、式(56)は、前述した式(7)と同一である。すなわち、低圧EGRガス流量の基本推定値dGegr_LP_hat_tempは、ノズルの式を適用したモデルである式(53)を用いて算出される。
また、上式(57)のKVNS_LPはLP用修正値であり、後述するように、モデル修正器70によって算出される。同式(57)に示すように、低圧EGRガス流量の推定値dGegr_LP_hatは、LP用修正値KVNS_LPを、基本推定値dGegr_LP_hat_tempに乗算することによって算出される。すなわち、低圧EGRガス流量の推定値dGegr_LP_hatは、モデル式(53)で算出した基本推定値dGegr_LP_hat_tempを、LP用修正値KVNS_LPで修正することによって算出される。この場合、上述したように、式(53)はノズルの式を適用したモデルであるので、以上のようにLP用修正値KVNS_LPで基本推定値dGegr_LP_hat_tempを修正することは、モデルを修正することに相当する。
次に、前述した吸気上流側パラメータ推定部63について説明する。この吸気上流側パラメータ推定部63では、以下に述べる算出アルゴリズムによって、吸気圧の推定値Pin_hat、LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_LP_hatおよび中間通路内不活性ガス率の推定値Riegr_in_hatなどが算出される。
まず、下式(58)により、接続部総ガス量の推定値Gin_hatが算出される。
この式(58)は、前述した式(2)において、2つの値Gin,dGegr_LPを、それぞれの推定値Gin_hat,dGegr_LP_hatに置き換えるとともに、IS通過新気流量dGair_ISをその仮想要求値dGair_IS_vに置き換えたものに相当する。
次いで、下式(59)により、吸気圧の推定値Pin_hatが算出される。
この式(59)は、前述した式(3)において、2つの値Pin,Ginを、それぞれの推定値Pin_hat,Gin_hatに置き換えたものに相当する。
さらに、下式(60)〜(64)により、LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_LP_hatが算出される。
上式(60)〜(64)は、前述した式(21)〜(25)において、6つの値dVlp,dGegr_LP,Wlp,dlp_temp,dlp,dGiegr_LPを、それぞれの推定値dVlp_hat,dGegr_LP_hat,Wlp_hat,dlp_temp_hat,dlp_hat,dGiegr_LP_hatに置き換えたものに相当する。
また、下式(65)により、中間通路内不活性ガス量の推定値Giegr_in_hatが算出される。
この式(65)は、前述した式(31)において、3つの値Giegr_in,dGiegr_LP,dGiegr_CPを、それぞれの推定値Giegr_in_hat,dGiegr_LP_hat,dGiegr_CP_hatに置き換えたものに相当する。このチャンバ不活性ガス流量の推定値dGiegr_CPは、吸気下流側パラメータ推定部65で、後述するように算出される。
そして、下式(66)により、中間通路内不活性ガス率の推定値Riegr_in_hatが算出される。
この式(66)は、前述した式(32)において、3つの値Riegr_in,Giegr_in,Ginを、それぞれの推定値Riegr_in_hat,Giegr_in_hat,Gin_hatに置き換えたものに相当する。
次に、前述した筒内ガス流量推定部64について説明する。この筒内ガス流量推定部64では、エンジン回転数の前回値NE(k−1)および吸気チャンバ圧の前回値Pch(k−1)に応じて、図10に示すマップを検索することにより、筒内ガス流量の推定値dGgas_cyl_hatが算出される。この図10は、前述した図8の縦軸の「筒内ガス流量dGgas_cyl」を「筒内ガス流量の推定値dGgas_cyl_hat」に置き換えたものに相当する。
また、前述した吸気下流側パラメータ推定部65では、以下に述べる算出アルゴリズムによって、筒内不活性ガス総流量の推定値dGiegr_cyl_hat、チャンバ総ガス量の推定値Gch_hat、チャンバ不活性ガス流量の推定値dGiegr_CP_hat、およびチャンバ不活性ガス率の推定値Riegr_ch_hatなどが算出される。
まず、下式(67)により、筒内不活性ガス総流量の推定値dGiegr_cyl_hatが算出される。
この式(67)は、前述した式(44)において、3つの値dGiegr_cyl,dGgas_cyl,Riegr_chを、それぞれの推定値dGiegr_cyl_hat,dGgas_cyl_hat,Riegr_ch_hatに置き換えたものに相当する。このチャンバ不活性ガス率の推定値Riegr_ch_hatは、後述する式(85)によって算出される。
また、下式(68)により、チャンバ総ガス量の推定値Gch_hatが算出される。
この式(68)は、前述した式(33)において、3つの値Gch,dGegr_HP,dGgas_cylを、それぞれの推定値Gch_hat,dGegr_HP_hat,dGgas_cyl_hatに置き換えたものに相当する。この高圧EGRガス流量の推定値dGegr_HP_hatは、後述する式(74)〜(78)で算出される。
さらに、下式(69)〜(73)により、チャンバ不活性ガス流量の推定値dGiegr_CP_hatが算出される。
以上の式(69)〜(73)は、前述した式(26)〜(30)において、6つの値dVcp,Wcp,dcp_temp,dcp,dGiegr_CP,Riegr_inを、それぞれの推定値dVcp_hat,Wcp_hat,dcp_temp_hat,dcp_hat,dGiegr_CP_hat,Riegr_in_hatに置き換えたものに相当する。
また、下式(74)〜(78)により、高圧EGRガス流量の推定値dGegr_HP_hatが算出される。
上式(74),(76),(77)は、前述した式(34),(36),(37)において、吸気チャンバ圧Pchを吸気チャンバ圧の推定値Pch_hatに置き換えたものに相当し、上式(75)は、前述した式(35)の高圧EGRガス流量dGegr_HPを、高圧EGRガス流量の基本推定値dGegr_HP_hat_tempに置き換えたものに相当する。すなわち、高圧EGRガス流量の基本推定値dGegr_HP_hat_tempは、ノズルの式を適用したモデル式(75)を用いて算出される。
また、上式(78)のKVNS_HPはHP用修正値であり、後述するように、モデル修正器70によって算出される。同式(78)に示すように、高圧EGRガス流量の推定値dGegr_HP_hatは、HP用修正値KVNS_HPを、基本推定値dGegr_HP_hat_tempに乗算することによって算出される。すなわち、高圧EGRガス流量の推定値dGegr_HP_hatは、モデル式(75)で算出した基本推定値dGegr_HP_hat_tempを、HP用修正値KVNS_HPで修正することによって算出される。この場合、上述したように、式(75)はノズルの式を適用したモデル式であるので、基本推定値dGegr_HP_hat_tempをHP用修正値KVNS_HPで修正することは、モデルを修正することに相当する。
次いで、下式(79)〜(83)により、HP不活性ガス流量の推定値dGiegr_HP_hatが算出される。
上式(79)〜(83)は、前述した式(39)〜(43)において、6つの値dVhp,dGegr_HP,Whp,dhp_temp,dhp,dGiegr_HPを、それぞれの推定値dVhp_hat,dGegr_HP_hat,Whp_hat,dhp_temp_hat,dhp_hat,dGiegr_HP_hatに置き換えたものに相当する。
さらに、下式(84)により、チャンバ不活性ガス総量の推定値Giegr_ch_hatが算出される。
この式(84)は、前述した式(45)において、4つの値Giegr_ch,dGiegr_CP,dGiegr_HP,dGiegr_cylを、それぞれの推定値Giegr_ch_hat,dGiegr_CP_hat,dGiegr_HP_hat,dGiegr_cyl_hatに置き換えたものに相当する。
そして、下式(85)により、チャンバ不活性ガス率の推定値Riegr_ch_hatが算出される。
この式(85)は、前述した式(46)において、3つの値Riegr_ch,Giegr_ch,Gchを、それぞれの推定値Riegr_ch_hat,Giegr_ch_hat,Gch_hatに置き換えたものに相当する。
次に、前述した筒内LP不活性ガス流量推定部66について説明する。この筒内LP不活性ガス流量推定部66は、以下に述べる算出アルゴリズムによって、筒内LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_cyl_LP_hatを算出するものであり、この筒内LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_cyl_LP_hatは、気筒3a内に流れ込むLP不活性ガス流量を推定したものである。
まず、高圧EGR装置12から吸気チャンバ5b内に流れ込む高圧EGRガスを新気と見なした場合、吸気チャンバ5b内に流れ込むLP不活性ガス量の推定値Giegr_ch_LP_hatは、下式(86)によって算出される。
さらに、吸気チャンバ5b内の不活性ガス率の推定値Riegr_ch_LP_hatは、下式(87)によって算出される。
そして、以上のように算出された不活性ガス率の推定値Riegr_ch_LP_hatを用いて、下式(88)により、筒内LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_cyl_LP_hatが算出される。
次に、前述した新気流量推定部67について説明する。この新気流量推定部67では、下式(89)〜(93)により、新気流量の推定値dGafm_hat(推定ガス状態パラメータ)が算出される。
上式(89)〜(93)を、前述した式(16)〜(20)と比較する明らかなように、式(89)〜(92)は前述した式(16)〜(19)と同一であり、式(93)は、前述した式(20)において、新気流量dGafmをその推定値dGafm_hatに、IS通過新気流量dGair_ISをその仮想要求値dGair_IS_vにそれぞれ置き換えたものに相当する。なお、上式(89)において、新気流量の今回値dGafm(k)に代えて、推定値の前回値dGafm_hat(k−1)を用いてもよい。
次に、図11を参照しながら、前述したモデル修正器70について説明する。このモデル修正器70は、以下に述べる手法によって、前述したLP用修正値KVNS_LPおよびHP用修正値KVNS_HPを算出するものであり、同図に示すように、減算器71,74、除算器72、乗算器73、むだ時間算出部75、LP用修正値算出部76およびHP用修正値算出部77を備えている。
まず、減算器71では、下式(94)により、誤差EVNSが算出される。
また、除算器72では、下式(95)により、LP不活性ガス比RLPが算出される。
さらに、乗算器73では、下式(96)により、LP用誤差EVNS_LPが算出される。
一方、減算器74では、下式(97)により、HP用誤差EVNS_HPが算出される。
さらに、むだ時間算出部75では、下式(98)〜(101)により、吸気がエアフローセンサ22から気筒3aに達するまでのむだ時間dintが算出される。なお、下式(98),(99)は、前述したモデリング手法で述べた式(16),(17)と同一である。
ここで、上式(100)のdint_tempは、むだ時間の基本値(単位は時間)であり、上式(101)に示すように、むだ時間dintは、基本値dint_tempを制御周期ΔTで除算した値を整数化することによって算出されるので、基本値dint_tempを制御回数に換算した値として算出される。
そして、LP用修正値算出部76では、LP用修正値KVNS_LPが以下に述べる手法で算出される。
まず、下式(102)により、第1LP圧力比Rplp1を算出する。
上式(102)において、むだ時間dint前の吸気圧の推定値Pin_hat(k−dint(k))と、むだ時間dint前の排気圧Pex(k−dint(k))を用いた理由は、LP用誤差EVNS_LPは、むだ時間dint前の圧力比の状態に起因して発生していると推定されることによる。
次いで、第1LP圧力比Rplp1に応じて、図12に示すマップを検索することにより、第1LP圧力比重み関数Wplp_i(i=1〜3)を算出する。この第1LP圧力比重み関数Wplp_iは、3個の値Wplp_1,Wplp_2,Wplp_3を要素とするベクトルとして算出される。同図において、Rplp1_refは、第1LP圧力比Rplp1の所定値であり、Rplp1_maxは、エンジン3の運転中に第1LP圧力比Rplp1が変化し得る値の最大値である。
同図に示すように、3個の第1LP圧力比重み関数Wplp_iはそれぞれ、第1LP圧力比Rplp1が変化し得る領域を0≦Rplp1<Rplp1_ref,Rplp1_ref≦Rplp1≦Rplp1_maxの2つの領域に区分した場合、以下に述べるように設定されている。まず、1番目の第1LP圧力比重み関数Wplp_1は、0≦Rplp1<Rplp1_refの領域では、Rplp1=0のときの値1を最大値として、第1LP圧力比Rplp1が大きいほど、より小さい正の値に設定されているとともに、Rplp1_ref≦Rplp1≦Rplp1_maxの領域では、値0に設定されている。
また、2番目の第1LP圧力比重み関数Wplp_2は、0≦Rplp1<Rplp1_refの領域では、第1LP圧力比Rplp1が大きいほど、より大きい正の値に設定されているとともに、Rplp1_ref≦Rplp1≦Rplp1_maxの領域では、Rplp1=Rplp1_refのときの値1を最大値として、第1LP圧力比Rplp1が大きいほど、より小さい正の値に設定されている。さらに、3番目の第1LP圧力比重み関数Wplp_3は、0≦Rplp1<Rplp1_refの領域では、値0に設定されているとともに、Rplp1_ref≦Rplp1≦Rplp1_maxの領域では、Rplp1=Rplp1_maxのときの値1を最大値として、第1LP圧力比Rplp1が大きいほど、より大きい正の値に設定されている。
さらに、1番目および2番目の第1LP圧力比重み関数Wplp_1,Wplp_2は、0≦Rplp1<Rplp1_refの領域において互いに重なり合うとともに、両者の和は、各第1LP圧力比重み関数Wplp_iにおける最大値1と等しくなるように設定されている。これと同様に、2番目および3番目の第1LP圧力比重み関数Wplp_2,Wplp_3は、Rplp1_ref≦Rplp1≦Rplp1_maxの領域において互いに重なり合うとともに、両者の和は、各第1LP圧力比重み関数Wplp_iにおける最大値1と等しくなるように設定されている。
次いで、下式(103)により、第1LP開度αLP1を算出する。
上式(103)において、第1LP開度αLP1として、むだ時間dint前の制御タイミングでのLP開度αLP(k−dint(k))を用いた理由は、LP用誤差EVNS_LPは、むだ時間dint前の制御タイミングでの圧力比の状態に起因して発生していると推定されることによる。
次に、第1LP開度αLP1に応じて、図13に示すマップを検索することにより、第1LP開度重み関数Walp_j(j=1〜3)を算出する。この第1LP開度重み関数Walp_jは、3個の値Walp_1,Walp_2,Walp_3を要素とするベクトルとして算出される。同図において、αLP_refは、LP開度αLPの所定値であり、αLP_maxは、LP開度αLPすなわち第1LP開度αLP1がエンジン3の運転中に変化し得る値の最大値である。これらの点は以下の説明においても同様である。
同図に示すように、3個の第1LP開度重み関数Walp_jはそれぞれ、第1LP開度αLP1が変化し得る領域を0≦αLP1<αLP_ref,αLP_ref≦αLP1≦αLP_maxの2つの領域に区分した場合において、以下に述べるように設定されている。まず、1番目の第1LP開度重み関数Walp_1は、0≦αLP1<αLP_refの領域では、αLP1=0のときの値1を最大値として、第1LP開度αLP1が大きいほど、より小さい正の値に設定されているとともに、αLP_ref≦αLP1≦αLP_maxの領域では、値0に設定されている。
また、2番目の第1LP開度重み関数Walp_2は、0≦αLP1<αLP_refの領域では、第1LP開度αLP1が大きいほど、より大きい正の値に設定されているとともに、αLP_ref≦αLP1≦αLP_maxの領域では、αLP1=αLP_refのときの値1を最大値として、第1LP開度αLP1が大きいほど、より小さい正の値に設定されている。さらに、3番目の第1LP開度重み関数Walp_3は、0≦αLP1<αLP_refの領域では、値0に設定されているとともに、αLP_ref≦αLP1≦αLP_maxの領域では、αLP1=αLP_maxのときの値1を最大値として、第1LP開度αLP1が大きいほど、より大きい正の値に設定されている。
さらに、1番目および2番目の第1LP開度重み関数Walp_1,Walp_2は、0≦αLP1<αLP_refの領域において互いに重なり合うとともに、両者の和は、各第1LP開度重み関数Walp_jにおける最大値1と等しくなるように設定されている。これと同様に、2番目および3番目の第1LP開度重み関数Walp_2,Walp_3は、αLP_ref≦αLP1≦αLP_maxの領域において互いに重なり合うとともに、両者の和は、各第1LP開度重み関数Walp_jにおける最大値1と等しくなるように設定されている。
次いで、下式(104)により、修正誤差WE_lp_ijを算出する。
この修正誤差WE_lp_ijは、9つの値を要素とする行列として算出されるとともに、2種類の重み関数Wplp_i,Walp_jをLP用誤差EVNS_LPに乗算することにより算出されるので、これらの値Wplp_i,Walp_jにより、第1LP圧力比Rplp1の2つの領域と、第1LP開度αLP1の2つの領域とを組み合わせた4つの領域に対して、LP用誤差EVNS_LPを分配して重み付けした値として算出される。
さらに、下式(105),(106)に示すスライディングモード制御アルゴリズムにより、LP局所補正値D_lp_ijを算出する。
上式(105)のσlp_ijは切換関数であり、POLE_vは−1<POLE_v<0の関係が成立するように設定される切換関数設定パラメータである。さらに、上式(106)において、Krch_vは所定の到達則ゲインを、Kadp_vは所定の適応則ゲインをそれぞれ表している。
このように、LP局所補正値D_lp_ijは、修正誤差WE_lp_ijすなわちLP用誤差EVNS_LPを値0に収束させるための、9つの値を要素とする行列として算出される。言い換えれば、LP局所補正値D_lp_ijは、新気流量の推定値dGafm_hatを新気流量dGafmに収束させるように算出される。
さらに、下式(107)により、第2LP圧力比Rplp2を算出する。
次いで、第2LP圧力比Rplp2に応じて、図14に示すマップを検索することにより、第2LP圧力比重み関数Wplp’_i(i=1〜3)を算出する。同図において、Rplp2_refは、第2LP圧力比Rplp2の所定値であり、Rplp2_maxは、エンジン3の運転中に第2LP圧力比Rplp2が変化し得る値の最大値である。この図14のマップは、前述した図12のマップにおいて、横軸の第1LP圧力比Rplp1を第2LP圧力比Rplp2に置き換えるとともに、3つの第1LP圧力比重み関数Wplp_iを3つの第2LP圧力比重み関数Wplp’_iにそれぞれ置き換えたものに相当するので、その詳細な説明はここでは省略する。
次いで、下式(108)により、第2LP開度αLP2を算出する。
次に、第2LP開度αLP2に応じて、図15に示すマップを検索することにより、第2LP開度重み関数Walp’_j(j=1〜3)を算出する。この図15のマップは、前述した図13のマップにおいて、横軸の第1LP開度αLP1を第2LP開度αLP2に置き換えるとともに、3つの第1LP開度重み関数Walp_jを3つの第2LP開度重み関数Walp’_jにそれぞれ置き換えたものに相当するので、その詳細な説明はここでは省略する。
そして、最終的に、下式(109)により、LP用修正値KVNS_LPが算出される。
以上のように、LP用修正値KVNS_LPは、重み関数Wplp’_i,Walp’_jをLP局所補正値D_lp_ijに乗算した値の総和として算出される。この場合、前述した第1および第2LP圧力比Rplp1,Rplp2は、互いに演算タイミングが異なる、吸気圧の推定値Pin_hatと排気圧Pexとの圧力比であり、第1LP開度αLP1および第2LP開度αLP2は、互いに演算タイミングが異なるLP開度αLPであるので、LP用修正値KVNS_LPは、圧力比の2つの領域とLP開度αLPの2つの領域とを組み合わせた4つの領域に対して、LP用誤差EVNS_LPが値0に収束するように、領域ごとに重み付けされた値の総和として算出される。したがって、前述した不活性ガス推定部60で用いたモデルにおいてモデル化誤差を生じ、誤差EVNSすなわちLP用誤差EVNS_LPが生じた場合でも、上記のように算出されたLP用修正値KVNS_LPを用いることによって、圧力比およびLP開度αLPの領域ごとにモデル化誤差を精度よく修正することができる。
次に、前述したHP用修正値算出部77について説明する。このHP用修正値算出部77では、以下に述べるように、前述したLP用修正値算出部76と同様の手法によって、HP用修正値KVNS_HPが算出される。
まず、下式(110)により、第1HP圧力比Rphp1を算出する。
上式(110)において、むだ時間dint前の吸気チャンバ圧の推定値Pch_hat(k−dint(k))と、むだ時間dint前の排気マニホールド圧Pem(k−dint(k))を用いた理由は、LP用修正値KVNS_LPの算出手法で前述した理由と同じである。
次いで、第1HP圧力比Rphp1に応じて、図16に示すマップを検索することにより、第1HP圧力比重み関数Wphp_i(i=1〜3)を算出する。この第1HP圧力比重み関数Wphp_iは、3個の値Wphp_1,Wphp_2,Wphp_3を要素とするベクトルとして算出される。同図において、Rphp1_refは、第1HP圧力比Rphp1の所定値であり、Rphp1_maxは、エンジン3の運転中に第1HP圧力比Rphp1が変化し得る値の最大値である。
同図に示すように、3個の第1HP圧力比重み関数Wphp_iはそれぞれ、第1HP圧力比Rphp1が変化し得る領域を0≦Rphp1<Rphp1_ref,Rphp1_ref≦Rphp1≦Rphp1_maxの2つの領域に区分した場合、以下に述べるように設定されている。まず、1番目の第1HP圧力比重み関数Wphp_1は、0≦Rphp1<Rphp1_refの領域では、Rphp1=0のときの値1を最大値として、第1HP圧力比Rphp1が大きいほど、より小さい正の値に設定されているとともに、Rphp1_ref≦Rphp1≦Rphp1_maxの領域では、値0に設定されている。
また、2番目の第1HP圧力比重み関数Wphp_2は、0≦Rphp1<Rphp1_refの領域では、第1HP圧力比Rphp1が大きいほど、より大きい正の値に設定されているとともに、Rphp1_ref≦Rphp1≦Rphp1_maxの領域では、Rphp1=Rphp1_refのときの値1を最大値として、第1HP圧力比Rphp1が大きいほど、より小さい正の値に設定されている。さらに、3番目の第1HP圧力比重み関数Wphp_3は、0≦Rphp1<Rphp1_refの領域では、値0に設定されているとともに、Rphp1_ref≦Rphp1≦Rphp1_maxの領域では、Rphp1=Rphp1_maxのときの値1を最大値として、第1HP圧力比Rphp1が大きいほど、より大きい正の値に設定されている。
さらに、1番目および2番目の第1HP圧力比重み関数Wphp_1,Wphp_2は、0≦Rphp1<Rphp1_refの領域において互いに重なり合うとともに、両者の和は、各第1HP圧力比重み関数Wphp_iにおける最大値1と等しくなるように設定されている。これと同様に、2番目および3番目の第1HP圧力比重み関数Wphp_2,Wphp_3は、Rphp1_ref≦Rphp1≦Rphp1_maxの領域において互いに重なり合うとともに、両者の和は、各第1HP圧力比重み関数Wphp_iにおける最大値1と等しくなるように設定されている。
次いで、下式(111)により、第1HP開度αHP1を算出する。
上式(111)において、第1HP開度αHP1として、むだ時間dint前の制御タイミングでのHP開度αHP(k−dint(k))を用いた理由は、HP用誤差EVNS_HPは、むだ時間dint前の制御タイミングでの圧力比の状態に起因して発生していると推定されることによる。
次に、第1HP開度αHP1に応じて、図17に示すマップを検索することにより、第1HP開度重み関数Wahp_j(j=1〜3)を算出する。この第1HP開度重み関数Wahp_jは、3個の値Wahp_1,Wahp_2,Wahp_3を要素とするベクトルとして算出される。同図において、αHP_refは、HP開度αHPの所定値であり、αHP_maxは、HP開度αHPすなわち第1HP開度αHP1がエンジン3の運転中に変化し得る値の最大値である。これらの点は以下の説明においても同様である。
同図に示すように、3個の第1HP開度重み関数Wahp_jはそれぞれ、第1HP開度αHP1が変化し得る領域を0≦αHP1<αHP_ref,αHP_ref≦αHP1≦αHP_maxの2つの領域に区分した場合において、以下に述べるように設定されている。まず、1番目の第1HP開度重み関数Wahp_1は、0≦αHP1<αHP_refの領域では、αHP1=0のときの値1を最大値として、第1HP開度αHP1が大きいほど、より小さい正の値に設定されているとともに、αHP_ref≦αHP1≦αHP_maxの領域では、値0に設定されている。
また、2番目の第1HP開度重み関数Wahp_2は、0≦αHP1<αHP_refの領域では、第1HP開度αHP1が大きいほど、より大きい正の値に設定されているとともに、αHP_ref≦αHP1≦αHP_maxの領域では、αHP1=αHP_refのときの値1を最大値として、第1HP開度αHP1が大きいほど、より小さい正の値に設定されている。さらに、3番目の第1HP開度重み関数Wahp_3は、0≦αHP1<αHP_refの領域では、値0に設定されているとともに、αHP_ref≦αHP1≦αHP_maxの領域では、αHP1=αHP_maxのときの値1を最大値として、第1HP開度αHP1が大きいほど、より大きい正の値に設定されている。
さらに、1番目および2番目の第1HP開度重み関数Wahp_1,Wahp_2は、0≦αHP1<αHP_refの領域において互いに重なり合うとともに、両者の和は、各第1HP開度重み関数Wahp_jにおける最大値1と等しくなるように設定されている。これと同様に、2番目および3番目の第1HP開度重み関数Wahp_2,Wahp_3は、αHP_ref≦αHP1≦αHP_maxの領域において互いに重なり合うとともに、両者の和は、各第1HP開度重み関数Wahp_jにおける最大値1と等しくなるように設定されている。
次いで、下式(112)により、修正誤差WE_hp_ijを算出する。
この修正誤差WE_hp_ijは、9つの値を要素とする行列として算出されるとともに、2種類の重み関数Wphp_i,Wahp_jをHP用誤差EVNS_HPに乗算することにより算出されるので、これらの値Wphp_i,Wahp_jにより、第1HP圧力比Rphp1の2つの領域と、第1HP開度αHP1の2つの領域とを組み合わせた4つの領域に対して、HP用誤差EVNS_HPを分配して重み付けした値として算出される。
さらに、下式(113),(114)に示すスライディングモード制御アルゴリズムにより、HP局所補正値D_hp_ijを算出する。
上式(113)のσhp_ijは切換関数であり、POLE_vは−1<POLE_v<0の関係が成立するように設定される切換関数設定パラメータである。さらに、上式(114)において、Krch_vは所定の到達則ゲインを、Kadp_vは所定の適応則ゲインをそれぞれ表している。
このように、HP局所補正値D_hp_ijは、修正誤差WE_hp_ijすなわちHP用誤差EVNS_HPを値0に収束させるための、9つの値を要素とする行列として算出される。言い換えれば、HP局所補正値D_hp_ijは、新気流量の推定値dGafm_hatを新気流量dGafmに収束させるように算出される。
さらに、下式(115)により、第2HP圧力比Rphp2を算出する。
次いで、第2HP圧力比Rphp2に応じて、図18に示すマップを検索することにより、第2HP圧力比重み関数Wphp’_i(i=1〜3)を算出する。同図において、Rphp2_refは、第2HP圧力比Rphp2の所定値であり、Rphp2_maxは、エンジン3の運転中に第2HP圧力比Rphp2が変化し得る値の最大値である。この図18のマップは、前述した図16のマップにおいて、横軸の第1HP圧力比Rphp1を第2HP圧力比Rphp2に置き換えるとともに、3つの第1HP圧力比重み関数Wphp_iを3つの第2HP圧力比重み関数Wphp’_iにそれぞれ置き換えたものに相当するので、その詳細な説明はここでは省略する。
次いで、下式(116)により、第2HP開度αHP2を算出する。
次に、第2HP開度αHP2に応じて、図19に示すマップを検索することにより、第2HP開度重み関数Wahp’_j(j=1〜3)を算出する。この図19のマップは、前述した図17のマップにおいて、横軸の第1HP開度αHP1を第2HP開度αHP2に置き換えるとともに、3つの第1HP開度重み関数Wahp_jを3つの第2HP開度重み関数Wahp’_jにそれぞれ置き換えたものに相当するので、その詳細な説明はここでは省略する。
そして、最終的に、下式(117)により、HP用修正値KVNS_HPが算出される。
以上のように、HP用修正値KVNS_HPは、重み関数Wphp’_i,Wahp’_jをHP局所補正値D_hp_ijに乗算した値の総和として算出される。この場合、前述した第1および第2HP圧力比Rphp1,Rphp2は、互いに演算タイミングが異なる、吸気チャンバ圧の推定値Pch_hatと排気マニホールド圧Pemとの圧力比であり、第1HP開度αHP1および第2HP開度αHP2は、互いに演算タイミングが異なるHP開度αHPであるので、HP用修正値KVNS_HPは、圧力比の2つの領域とHP開度αHPの2つの領域とを組み合わせた4つの領域に対して、HP用誤差EVNS_HPが値0に収束するように領域ごとに重み付けされた値の総和として算出される。したがって、前述した不活性ガス推定部60で用いたモデルにおいてモデル化誤差を生じ、誤差EVNSすなわちHP用誤差EVNS_HPが生じた場合でも、上記のように算出されたHP用修正値KVNS_HPを用いることによって、圧力比およびHP開度αHPの領域ごとにモデル化誤差を精度よく修正することができる。
次に、前述したLP開度コントローラ80について説明する。このLP開度コントローラ80では、以下に述べる制御アルゴリズムによって、目標LP開度αLP_cmdが算出される。なお、本実施形態では、LP開度コントローラ80がEGR制御手段および第1EGR制御入力算出手段に相当し、目標LP開度αLP_cmdが第1EGR制御入力に相当する。まず、下式(118)〜(120)に示す、スライディングモード制御アルゴリズムを適用した制御アルゴリズムによって、LP制御入力U_lpを算出する。
上式(118)に示すように、追従誤差Eie_lp(第1偏差)は、LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_LP_hat(第1EGRガス中の不活性ガス量)と、目標LP不活性ガス流量dGiegr_LP_cmdとの偏差として算出される。また、式(119)において、σie_lpは切換関数であり、POLE_lpは、−1<POLE_lp<0の関係が成立するように設定される切換関数設定パラメータである。さらに、上式(120)において、Krch_lpは所定の到達則ゲインを、Kadp_lpは所定の適応則ゲインをそれぞれ表している。
また、上式(120)の右辺の第3項dGiegr_LP_cmd(k)/φ(k−dlp_hat(k))は、低圧EGR制御弁11cおよび低圧EGR通路11aでの応答遅れやむだ時間を補償するためのフィードフォワード項である。この場合、低圧EGR制御弁11cで直接的に制御できるのは、不活性ガス流量ではなく、EGR流量であるので、上式(120)では、フィードフォワード項として、目標LP不活性ガス流量dGiegr_LP_cmdをEGR流量に換算した値が用いられる。
そして、以上のように算出したLP制御入力U_lpを用いて、下式(121)により、目標LP開度αLP_cmdが算出される。
上式(121)において、Flpは、LP制御入力U_lpを目標LP開度αLP_cmdに変換するための変換関数である。なお、上式(121)に代えて、目標LP開度αLP_cmdを、LP制御入力U_lpに応じてマップを検索する手法によって算出してもよい。
以上のように、LP開度コントローラ80では、目標LP開度αLP_cmdが、スライディングモード制御アルゴリズムを適用した式(118)〜(120)の制御アルゴリズムを用いて、LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_LP_hatを目標LP不活性ガス流量dGiegr_LP_cmdに収束させるように算出される。すなわち、気筒3a内に流れ込むLP不活性ガスの流量の推定値ではなく、吸気通路5の接続部5cに流れ込むLP不活性ガスの流量の推定値がその目標値になるように、目標LP開度αLP_cmdが算出される。これは、低圧EGR装置11の場合、低圧EGRガスが排気通路10から気筒3a内に流れ込むまでの距離が長いことに起因して、その応答性が低く、むだ時間が大きいという特性を有している関係上、気筒3a内に流れ込むLP不活性ガスの流量をその目標値になるように制御すると、制御性が低下してしまい、高い制御精度を確保できなくなるので、それを回避するためである。
次に、図20を参照しながら、前述したHP開度コントローラ90について説明する。このHP開度コントローラ90は、以下に述べる制御アルゴリズムを用いて、目標HP開度αHP_cmdを算出するものである。なお、本実施形態では、HP開度コントローラ90がEGR制御手段および第2EGR制御入力算出手段に相当し、目標HP開度αHP_cmdが第2EGR制御入力に相当する。このHP開度コントローラ90は、同図に示すように、減算器91、FF入力項算出部92、FB入力項算出部93、加算器94および目標HP開度算出部95を備えている。
まず、減算器91では、下式(122)により、目標HP不活性ガス流量dGiegr_HP_cmdが算出される。
上式(122)に示すように、目標HP不活性ガス流量dGiegr_HP_cmdは、目標不活性ガス総流量dGiegr_cmdから筒内LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_cyl_LP_hatを減算することにより算出されるので、低圧EGR装置11により気筒3a内に供給された不活性ガスの不足分を、高圧EGR装置12で補充するための値として算出される。
次いで、FF入力項算出部92では、以下に述べるように、フィードフォワード項としてのFF入力項Uff_hpが算出される。まず、下式(123)により、目標高圧EGRガス流量dGegr_HP_cmdが算出される。
上式(123)に示すように、目標高圧EGRガス流量dGegr_HP_cmdは、むだ時間の推定値dhp_hat前の制御タイミングにおける検出当量比φ(k−dhp_hat(k))で、目標HP不活性ガス流量の今回値dGiegr_HP_cmd(k)を除算することにより算出される。これは、高圧EGR制御弁12cで直接的に制御できるのは、不活性ガス流量ではなく、EGR流量であるので、上式(123)において、目標HP不活性ガス流量dGiegr_HP_cmdをEGR流量に換算するとともに、排気通路10内の排ガスが高圧EGR通路12a内を通過して吸気チャンバ5bに達するまでのむだ時間を、目標高圧EGRガス流量dGegr_HP_cmdの算出結果に反映させるためである。
そして、最終的に、下式(124)により、FF入力項Uff_hpが算出される。
この式(124)は、高圧EGR制御弁12cの応答遅れを一次遅れ系と見なして、逆伝達関数補償法を適用することにより導出される。また、式(124)のKffは、一次遅れ補償係数であり、0<Kff≦1が成立するように設定される。
一方、FB入力項算出部93では、下式(125)〜(127)に示す、スライディングモード制御アルゴリズムによって、FB入力項Ufb_hpが算出される。
上式(125)に示すように、追従誤差Eie_hpは、筒内不活性ガス総流量の推定値dGiegr_cyl_hatと、目標不活性ガス総流量dGiegr_cmdとの偏差として算出される。なお、本実施形態では、追従誤差Eie_hpが第2偏差に相当し、筒内不活性ガス総流量の推定値dGiegr_cyl_hatが不活性ガスの総量に相当し、目標不活性ガス総流量dGiegr_cmdが所定の第2目標値に相当する。また、上式(126)において、σie_hpは切換関数であり、POLE_hpは−1<POLE_lp<POLE_hp<0の関係が成立するように設定される切換関数設定パラメータである。2つの切換関数設定パラメータPOLE_lp,POLE_hpの値が、このような関係に設定されている理由については後述する。さらに、上式(127)において、Krch_hpは所定の到達則ゲインを、Kadp_hpは所定の適応則ゲインをそれぞれ表している。
以上の制御アルゴリズムにより、FB入力項Ufb_hpは、筒内不活性ガス総流量の推定値dGiegr_cyl_hatを、目標不活性ガス総流量dGiegr_cmdに収束させるように算出される。
また、加算器94では、下式(128)に示すように、FF入力項Uff_hpとFB入力項Ufb_hpの和として、HP制御入力U_hpが算出される。
そして、目標HP開度算出部95では、以上のように算出したHP制御入力U_hpを用いて、下式(129)により、目標HP開度αHP_cmdが算出される。
上式(129)において、Fhpは、HP制御入力U_hpを目標HP開度αHP_cmdに変換するための変換関数である。なお、上式(129)に代えて、目標HP開度αHP_cmdを、HP制御入力U_hpに応じてマップを検索する手法によって算出してもよい。
以上のように、HP開度コントローラ90では、目標HP開度αHP_cmdが、式(125)〜(127)のスライディングモード制御アルゴリズムを用いて、筒内不活性ガス総流量の推定値dGiegr_cyl_hatを、目標不活性ガス総流量dGiegr_cmdに収束させるように算出される。この場合、LP開度コントローラ80およびHP開度コントローラ90はいずれも、フィードバック制御の一種であるスライディングモード制御アルゴリズムを用いている関係上、LP開度コントローラ80における追従誤差Eie_lpの値0への収束速度と、HP開度コントローラ90における追従誤差Eie_hpの値0への収束速度が同じであると、2つのフィードバック制御が互いに干渉し合うおそれがある。これに加えて、前述したように、低圧EGR装置11は、高圧EGR装置12と比べて、EGRガスの供給経路が長いことで、その応答性が低いという特性がある。
したがって、本実施形態では、応答性の高い方を制御するHP開度コントローラ90における追従誤差Eie_hpの値0への収束速度を、LP開度コントローラ80における追従誤差Eie_lpの値0への収束速度よりも速くすることと、2つのコントローラ80,90におけるフィードバック制御が互い干渉し合うのを回避することを目的として、前述したように、2つの切換関数設定パラメータPOLE_lp,POLE_hpが、POLE_lp<POLE_hpの関係が成立するように設定されている。
なお、以上の2つの開度コントローラ80,90では、目標LP開度αLP_cmdおおび目標HP開度αHP_cmdを、スライディングモード制御アルゴリズムを用いて算出した例であるが、例えば、バックステッピング制御アルゴリズム、モデル予測制御アルゴリズムおよびPID制御アルゴリズムなどの、フィードバック制御アルゴリズムを用いて、これらの値を算出するように構成してもよい。
次に、図21を参照しながら、ECU2によって実行される本実施形態のEGR制御処理について説明する。このEGR制御処理は、以下に述べるように、LP開度αLPおよびHP開度αHPを制御することによって、気筒3a内に流入するEGR量すなわち不活性ガス量を制御するものであり、前述した所定の制御周期ΔTで実行される。
同図に示すように、まず、ステップ1(図では「S1」と略す。以下同じ)で、吸気デバイス故障フラグF_VDNGが「1」であるか否かを判別する。この吸気デバイス故障フラグF_VDNGは、図示しない判定処理において、前述した2つのインテークシャッタ機構6,9およびターボチャージャ7の少なくとも1つが故障していると判定されたときに「1」に、それ以外のときに「0」に設定される。
ステップ1の判別結果がNOで、2つのインテークシャッタ機構6,9およびターボチャージャ7がいずれも正常であるときには、ステップ2に進み、エンジン水温TWが第1所定温度TW_E1よりも高いか否かを判別する。この判別結果がNOのときには、エンジン水温TWが低い状態にあり、不活性ガスを気筒3a内に供給すべきではないと判定して、ステップ3に進み、目標不活性ガス総流量dGiegr_cmdを値0に設定する。
一方、ステップ2の判別結果がYESのときには、不活性ガスを気筒3a内に供給すべきであると判定して、ステップ4に進み、目標不活性ガス総流量dGiegr_cmdを、前述したように、図4のマップを検索する手法によって算出する。
以上のステップ3または4に続くステップ5で、LP故障判定フラグF_LPNGが「1」であるか否かを判別する。このLP故障判定フラグF_LPNGは、図示しない判定処理において、前述した低圧EGR制御弁11cが故障していると判定されたときに「1」に、それ以外のときに「0」に設定される。
このステップ5の判別結果がNOで、低圧EGR制御弁11cが正常であるときには、ステップ6に進み、エンジン水温TWが第2所定温度TW_E2よりも高いか否かを判別する。この第2所定温度TW_E2は、第1所定温度TW_E1よりも高い値に設定されている。
ステップ6の判別結果がYESのときには、低圧EGR装置11によるLP不活性ガスの供給動作を実行すべきであると判定して、ステップ7に進み、LP側分配率Riegr_LPを、前述したように、図5のマップを検索する手法によって算出する。
次に、ステップ8で、前述した式(1)により、目標LP不活性ガス流量dGiegr_LP_cmdを算出する。
次いで、ステップ9に進み、前述した式(94)〜(117)と、図12〜19のマップを検索する手法とを用いて、LP用およびHP用修正値KVNS_LP,KVNS_HPを算出する。
ステップ9に続くステップ10で、推定値算出処理を実行する。この推定値算出処理は、前述した各種の推定値を算出するものであり、具体的には、図22に示すように実行される。
同図に示すように、まず、ステップ30で、前述した式(58)により、接続部総ガス量の推定値Gin_hatを算出する。その後、ステップ31に進み、前述した式(59)により、吸気圧の推定値Pin_hatを算出する。
次に、ステップ32で、前述した式(50)〜(52)により、IS通過新気流量の仮想要求値dGair_IS_vを算出する。ステップ32に続くステップ33で、前述した式(53)〜(57)により、低圧EGRガス流量の推定値dGegr_LP_hatを算出する。
次いで、ステップ34に進み、前述した式(60)〜(64)により、LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_LP_hatを算出する。その後、ステップ35で、前述した式(65),(66)により、中間通路内不活性ガス率の推定値Riegr_in_hatを算出する。
ステップ35に続くステップ36で、前述したように、図10のマップを検索する手法により、筒内ガス流量の推定値dGgas_cyl_hatを算出する。その後、ステップ37で、前述した式(67)により、筒内不活性ガス総流量の推定値dGiegr_cyl_hatを算出する。
次に、ステップ38で、前述した式(68)により、チャンバ総ガス量の推定値Gch_hatを算出する。その後、ステップ39に進み、前述した式(69)〜(73)により、チャンバ不活性ガス流量の推定値dGiegr_CP_hatを算出する。
ステップ39に続くステップ40で、前述した式(74)〜(85)により、チャンバ不活性ガス率の推定値Riegr_ch_hatを算出する。その後、ステップ41で、前述した式(86)〜(88)により、筒内LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_cyl_LP_hatを算出する。
次いで、ステップ42に進み、前述した式(89)〜(93)により、新気流量の推定値dGafm_hatを算出した後、本処理を終了する。
図21に戻り、ステップ10の推定値算出処理を以上のように実行した後、ステップ11に進み、前述した式(118)〜(121)により、目標LP開度αLP_cmdを算出する。
次いで、ステップ12に進み、HP故障判定フラグF_HPNGが「1」であるか否かを判別する。このHP故障判定フラグF_HPNGは、図示しない判定処理において、前述した高圧EGR制御弁12cが故障していると判定されたときに「1」に、それ以外のときに「0」に設定される。
ステップ12の判別結果がNOで、高圧EGR制御弁12cが正常であるときには、ステップ13に進み、前述した式(122)〜(129)により、目標HP開度αHP_cmdを算出する。
次いで、ステップ14に進み、以上のように算出された目標LP開度αLP_cmdおよび目標HP開度αHP_cmdに対応する制御入力信号を、低圧EGR制御弁11cおよび高圧EGR制御弁12cにそれぞれ供給することにより、これらのEGR制御弁11c,12cを駆動する。それにより、LP開度αLPおよびHP開度αHPがそれぞれ、目標LP開度αLP_cmdおよび目標HP開度αHP_cmdになるように制御される。以上のようにステップ14を実行した後、本処理を終了する。
一方、ステップ12の判別結果がYESで、高圧EGR制御弁12cが故障しているときには、高圧EGR装置12によるHP不活性ガスの供給動作を実行すべきでないと判定して、ステップ16に進み、目標HP開度αHP_cmdを値0に設定する。次いで、上述したように、ステップ14を実行する。この場合、目標HP開度αHP_cmdが値0に設定されていることで、高圧EGR制御弁12cは全閉状態に制御される。その後、本処理を終了する。
一方、ステップ5の判別結果がYESで、低圧EGR制御弁11cが故障しているとき、またはステップ6の判別結果がNOで、TW≦TW_E2のときには、低圧EGR装置11によるLP不活性ガスの供給動作を実行すべきでないと判定して、ステップ17に進み、LP側分配率Riegr_LPを値0に設定する。その後、ステップ18で、目標LP不活性ガス流量dGiegr_LP_cmdを値0に設定する。
次いで、ステップ19に進み、前述したステップ9と同じ手法により、LP用およびHP用修正値KVNS_LP,KVNS_HPを算出する。ステップ19に続くステップ20で、前述したステップ10と同じ手法により、推定値算出処理を実行する。
次に、ステップ21で、目標LP開度αLP_cmdを値0に設定する。その後、前述したように、ステップ12以降を実行した後、本処理を終了する。
一方、ステップ1の判別結果がYESで、2つのインテークシャッタ機構6,9およびターボチャージャ7の少なくとも1つが故障しているときには、ステップ15,16で、目標LP開度αLP_cmdおよび目標HP開度αHP_cmdをいずれも値0に設定する。次いで、前述したように、ステップ14を実行する。この場合、目標LP開度αLP_cmdおよび目標HP開度αHP_cmdがいずれも値0に設定されていることで、低圧EGR制御弁11cおよび高圧EGR制御弁12cはいずれも全閉状態に制御される。以上のように、ステップ14を実行した後、本処理を終了する。
次に、図23を参照しながら、ECU2によって実行される本実施形態の吸気デバイス制御処理について説明する。この吸気デバイス制御処理は、以下に述べるように、ベーン開度αtb、インテークシャッタ開度αinおよびHP用シャッタ開度αinHPを制御することによって、吸気通路5内のガスの流量および圧力を制御するものであり、前述した所定の制御周期ΔTで実行される。
同図に示すように、まず、ステップ50で、目標ベーン開度αtb_cmdを算出する。この目標ベーン開度αtb_cmdは、通常、前述した式(8)〜(11)により算出されるとともに、後述する所定のHP動作条件が成立しているときには、前述した式(8)において、吸気チャンバ圧Pchおよび目標過給圧Pch_cmdを、ブースト圧Pboostおよび目標Pboostに置き換えた式で算出される。このブースト圧Pboostは、HP用インテークシャッタ9aよりも上流側で、かつコンプレッサブレード7aよりも下流側の圧力であり、図示しないセンサによって検出される。
次いで、ステップ51に進み、前述した式(12)〜(15)により、目標インテークシャッタ開度αin_cmdを算出する。
次に、ステップ52で、目標HPシャッタ開度αinHP_cmdを算出する。具体的には、目標HPシャッタ開度αinHP_cmdは、通常時、HP用インテークシャッタ9aを全開状態に制御するために、所定の全開値に設定されるとともに、所定のHP動作条件が成立したときにのみ、吸気チャンバ圧Pchが目標過給圧Pch_cmdに収束するように、フィードバック制御アルゴリズムで算出される。この場合、HP用インテークシャッタ9aの全開制御中において、前述した目標HP開度αHP_cmd≠0で、かつ吸気チャンバ圧Pchと排気マニホールド圧Pemとの差圧ΔPが所定値ΔPch_cpよりも小さいときに、所定のHP動作条件が成立したと判定される。また、フィードバック制御では、目標過給圧Pch_cmdとして、排気マニホールド圧Pemから所定値ΔPch_cpを減算した値が用いられる。
ステップ52に続くステップ53で、以上のように算出した3つの目標開度αtb_cmd,αin_cmd,αinHP_cmdに対応する制御入力信号を、ベーンアクチュエータ7d、ISアクチュエータ6bおよびHP用ISアクチュエータ9bにそれぞれ供給することによって、これらのアクチュエータ7d,6b,9bをそれぞれ駆動する。それにより、ベーン開度αtbが目標ベーン開度αtb_cmdに、インテークシャッタ開度αinが目標インテークシャッタ開度αin_cmdに、HP用シャッタ開度αinHPが目標HPシャッタ開度αinHP_cmdにそれぞれなるように制御される。その後、本処理を終了する。
次に、以上のように構成された本実施形態のEGR制御装置1によるEGR制御のシミュレーション結果(以下「制御結果」という)について説明する。まず、図24は、前述した各種のモデルにおいてモデル化誤差がないように設定したときの本実施形態の制御結果の一例を示しており、図26はモデル化誤差があるように設定したときの本実施形態の制御結果の一例を示している。一方、図25および図27はそれぞれ、モデル化誤差がないように設定した場合およびモデル化誤差があるように設定した場合において、比較のために、目標HP不活性ガス流量dGiegr_HP_cmdの算出式として、前述した式(122)に代えて、下式(130)を用いた場合のシミュレーション結果(以下「比較例の制御結果」という)の一例を示している。
上式(130)と前述した式(122)を比較すると明らかなように、この比較例は、筒内LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_cyl_LP_hatに代えて、前述した目標LP不活性ガス流量dGiegr_LP_cmdを用いて、目標HP不活性ガス流量dGiegr_HP_cmdを算出した場合の制御結果である。
また、図24〜27のΔdGiegrは、筒内不活性ガス総流量の推定値dGiegr_cyl_hatと、目標不活性ガス総流量dGiegr_cmdとの偏差(=dGiegr_cyl_hat−dGiegr_cmd)である。
まず、図24,25を参照すると、これらの制御結果の場合、モデル化誤差がないように設定されている関係上、モデル化誤差を修正する必要がないことで、2つの修正値KVNS_LP,KVNS_HPはいずれも値1.0に保持されている。また、2つの制御結果を比較した場合、本実施形態の制御結果では、偏差ΔdGiegrの値0に対する乖離度合が小さく、高い制御精度が確保されているのに対して、比較例の制御結果では、偏差ΔdGiegrが値0を中心として振動的な繰り返し挙動を示しているとともに、偏差ΔdGiegrの変動幅が本実施形態の制御結果よりも大きくなっており、制御精度が低い状態にあることが判る。
次に、図26および図27を参照すると、図26の本実施形態の制御結果の場合、偏差ΔdGiegrの絶対値は、シミュレーションの開始直後に最大の状態となった後、制御の進行に伴い、2つの修正値KVNS_LP,KVNS_HPによって修正されたモデルが実際のパラメータの関係に近づくことで減少する。そして、新気流量の推定値dGafm_hatが新気流量dGafmに一致した以降、値0近傍で推移しており、高い制御精度を確保できていることが判る。これに対して、図27の比較例の制御結果の場合、新気流量の推定値dGafm_hatが新気流量dGafmに一致した以降も、偏差ΔdGiegrが値0を中心として振動的な繰り返し挙動を示しており、制御精度が低い状態にあることが判る。すなわち、本実施形態のように、筒内LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_cyl_LP_hatを用いて、目標HP不活性ガス流量dGiegr_HP_cmdを算出する手法の方が、比較例のように、目標LP不活性ガス流量dGiegr_LP_cmdを用いる手法と比べて、高い制御精度を確保できることが判る。
これは、前述したように、低圧EGR装置11の場合、低圧EGRガスが排気通路10から気筒3a内に流れ込むまでの距離が長いことに起因して、その応答性が低く、むだ時間が大きいという特性を有しているので、筒内LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_cyl_LP_hatに代えて、目標LP不活性ガス流量dGiegr_LP_cmdを用いて、目標HP不活性ガス流量dGiegr_HP_cmdを算出した場合、その制御性が低下することによる。
以上のように、第1実施形態のEGR制御装置1によれば、LP開度コントローラ80では、前述した式(118)〜(120)のスライディングモード制御アルゴリズムを用い、LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_LP_hatと目標LP不活性ガス流量dGiegr_LP_cmdとの偏差である追従誤差Eie_lpが値0に収束するように、目標LP開度αLP_cmdが算出される。そして、この目標LP開度αLP_cmdに対応する制御入力信号が低圧EGR制御弁11cに供給されることにより、LP開度αLPがこの目標LP開度αLP_cmdになるように制御される。すなわち、LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_LP_hatが目標LP不活性ガス流量dGiegr_LP_cmdに収束するように、LP開度αLPがフィードバック制御される。
さらに、HP開度コントローラ90では、前述した式(125)〜(127)のスライディングモード制御アルゴリズムを用い、筒内不活性ガス総流量の推定値dGiegr_cyl_hatと目標不活性ガス総流量dGiegr_cmdとの偏差である追従誤差Eie_hpが値0に収束するように、FB入力項Ufb_hpが算出され、これとFF入力項Uff_hpとの和であるHP制御入力U_hpに基づいて、目標HP開度αHP_cmdが算出される。そして、この目標HP開度αHP_cmdに対応する制御入力信号が高圧EGR制御弁12cに供給されることにより、HP開度αHPが目標HP開度αHP_cmdになるように制御される。すなわち、筒内不活性ガス総流量の推定値dGiegr_cyl_hatが目標不活性ガス総流量dGiegr_cmdに収束するように、HP開度αHPがフィードバック制御される。
ここで、前述したように、追従誤差Eie_hpの値0への収束速度は、追従誤差Eie_lpの値0への収束速度よりも速く設定されているので、LP開度コントローラ80およびHP開度コントローラ90におけるフィードバック制御が互いに干渉するのを回避することができる。また、低圧EGR装置11は、高圧EGR装置12と比べて、応答遅れおよびむだ時間が大きいという特性を有しているので、両者の応答特性の差異により、追従誤差Eie_hpの値0への収束速度を追従誤差Eie_lpの値0への収束速度よりも速くなるように設定した場合でも、そのような収束速度を確実に実現することができる。さらに、応答性の低い低圧EGR装置11のみでは確保できない分の不活性ガス量を、応答性の高い高圧EGR装置12によって精度よく供給することができる。これに加えて、フィードバック制御アルゴリズムとして、応答指定型制御アルゴリズムを用いたことにより、2つの追従誤差Eie_hp,Eie_lpを、指数関数的挙動で値0に収束させることができる。以上により、燃焼状態の安定性および排ガス特性を向上させることができ、運転性を向上させることができる。
また、HP開度コントローラ90の場合、目標HP開度αHP_cmdが、FF入力項Uff_hpとFB入力項Ufb_hpとの和に基づいて算出される。このFF入力項Uff_hpは、目標不活性ガス総流量dGiegr_cmdから筒内LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_cyl_LP_hatを減算することにより、目標HP不活性ガス流量dGiegr_HP_cmdを算出し、これをEGR流量に換算した目標高圧EGRガス流量dGegr_HP_cmdに、逆伝達関数補償法を適用することにより算出される。また、FB入力項Ufb_hpは、前述したように、筒内不活性ガス総流量の推定値dGiegr_cyl_hatが目標不活性ガス総流量dGiegr_cmdとの偏差Eie_hpが値0に収束するように算出される。したがって、以上の手法により、目標HP開度αHP_cmdが算出される関係上、低圧EGR装置11を介したEGR制御によって気筒3a内に供給された不活性ガス量が不足している場合、それを補償するように、高圧EGR装置12によるEGR制御が実行されることになる。
一方、LP開度コントローラ80の場合、目標LP不活性ガス流量dGiegr_LP_cmdは、前述した式(1)により、LP側分配率Riegr_LPと目標不活性ガス総流量dGiegr_cmdとの積として算出され、このLP側分配率Riegr_LPは、前述した図5の設定により、エンジン回転数NEおよび要求トルクTRQDRVの組み合わせが所定領域にある場合、Riegr_LP>50が成立するとともに、エンジン回転数NEが高いほど、または要求トルクTRQDRVが大きいほど、より大きい値になるように算出される。
このように、エンジン回転数NEおよび要求トルクTRQDRVの組み合わせが所定領域にある場合、Riegr_LP>50が成立することで、気筒3a内に供給される低圧EGRガス中の不活性ガス量が、気筒3a内に供給される高圧EGRガス中の不活性ガス量を上回るように制御される。したがって、エンジン3が中負荷以上でかつ中回転以上の領域に相当する領域にあることで、気筒内ガス温度および圧縮端温度を低下させる必要があるときに、高圧EGRガス中および低圧EGRガス中の不活性ガスのうちのより低温な方の不活性ガスを、より多く気筒3a内に供給することができる。これに加えて、LP側分配率Riegr_LPは、所定領域において、エンジン回転数NEが高いほど、または要求トルクTRQDRVが大きいほど、より大きい値になるように算出されるので、エンジン回転数NEが高いことや負荷が大きいことで、低温の不活性ガスの要求度合が高いほど、それに応じて、低温の不活性ガスをより多量に気筒3a内に適切に供給することができ、それにより、気筒内ガス温度および圧縮端温度を適切に低下させることができる。以上により、燃焼状態の安定性および排ガス特性をさらに向上させることができ、運転性をさらに向上させることができる。
なお、第1実施形態は、本発明のEGR制御装置1をディーゼルエンジンタイプの内燃機関3に適用した例であるが、本発明のEGR制御装置はこれに限らず、ガソリン、HPGおよびアルコール系燃料や、ガソリンに他の燃料を混合したものを燃料とする内燃機関に適用可能である。
また、第1実施形態は、第2EGR装置として、高圧EGR装置12を用いた例であるが、本発明の第2EGR装置はこれに限らず、EGRガスを第1EGR装置よりも短い経路で気筒内に供給するものであればよい。例えば、第2EGR装置として、吸気弁および/または排気弁の開弁タイミングや排気タイミングを変更することによって、既燃ガスの気筒内における残留量すなわち内部EGR量を変更する可変動弁機構を用いてもよい。この場合には、前述した目標HP開度αHP_cmdに代えて、例えば、内部EGR量の目標値や、可変動弁機構のアクチュエータへの制御入力信号の値などを算出すればよい。
さらに、第1実施形態は、負荷パラメータとして、要求トルクTRQDRVを用いた例であるが、本発明の負荷パラメータはこれに限らず、内燃機関の負荷を表すものであればよい。例えば、負荷パラメータとして、アクセル開度APを用いてもよい。
一方、第1実施形態は、所定の第1および第2フィードバック制御アルゴリズムとして、式(118)〜(120)式(125)〜(127)のスライディングモード制御アルゴリズムを用いた例であるが、本発明の所定の第1および第2フィードバック制御アルゴリズムはこれに限らず、第1偏差および第2偏差を値0に収束させることができるものであればよい。例えば、所定の第1および第2フィードバック制御アルゴリズムとして、例えば、バックステッピング制御アルゴリズム、モデル予測制御アルゴリズムおよびPID制御アルゴリズムなどの、フィードバック制御アルゴリズムを用いてもよい。
一方、第1実施形態は、誤差EVNSの算出式として、前述した式(94)を用いた例であるが、誤差EVNSの算出式として下式(131)を用いてもよい。
上式(131)のφ_hatは、検出当量比の推定値であり、下式(132)〜(135)によって算出される。
上式(132)〜(134)は、前述した式(47)〜(49)において、5つの値Gcyl,dGgas_cyl,Giegr,dGiegr_cyl,Gairを、それぞれの推定値Gcyl_hat,dGgas_cyl_hat,Giegr_hat,dGiegr_cyl_hat,Gair_hatに置き換えたものに相当する。また、上式(135)のGfuelは、燃料噴射弁4の燃料噴射量であり、図示しない燃料噴射制御処理において算出される。
ここで、誤差EVNSを前述した式(131)で算出した場合、前述したモデル修正器70における2つの修正値KVNS_LP,KVNS_HPの算出において、前述したむだ時間dintに代えて、気筒3aからLAFセンサ28までのむだ時間を用いる必要がある。図28は、誤差EVNSを式(131)で算出し、2つの修正値KVNS_LP,KVNS_HPを、気筒3aからLAFセンサ28までのむだ時間を用いて算出するとともに、モデル化誤差があるように設定した場合の制御結果の一例を示している。
同図に示すように、この制御結果の場合、偏差ΔdGiegrの絶対値は、シミュレーションの開始直後に最大の状態となった後、制御の進行に伴い、減少するとともに、検出当量比の推定値φ_hatが検出当量比φに一致した以降、値0近傍で推移しており、前述した図26の制御結果と同様に、高い制御精度を確保できていることが判る。
なお、誤差EVNSの算出手法として、前述した式(131)の、LAFセンサ28の検出結果を用いる手法と、前述した式(94)の、エアフローセンサ22の検出結果を用いる手法とを比較した場合、エンジン3が定常運転状態にあるときには、エアフローセンサ22の検出結果を用いる手法の方が、LAFセンサ28の検出結果を用いる手法よりも、モデル化誤差の修正精度の点で優れている。これは、LAFセンサ28の場合、その検出結果が、燃料噴射弁4における流量特性の個体間のばらつきや経年変化の影響を受けやすいことによる。
一方、エンジン3が過渡運転状態にあるときには、エアフローセンサ22の検出結果を用いる手法の方が、LAFセンサ28の検出結果を用いる手法よりも、モデル化誤差の修正精度の点で優れている。これは、エアフローセンサ22の場合、気筒3aから検出部位までの距離がLAFセンサ28よりも長く、むだ時間がLAFセンサ28よりも大きいため、誤差EVNSの算出時に用いるむだ時間の推定(算出)精度が低下しやすいことによる。
また、第1実施形態は、前述した式(95)を用いて、LP不活性ガス比RLPを算出した例であるが、これに代えて、下式(136)を用いて、LP不活性ガス比RLPを算出してもよい。
LP不活性ガス比RLPの算出式として、この式(136)を用いる手法と、前述した式(95)を用いる手法とを比較すると、前述した式(95)を用いる手法の場合、吸気系の遅れやむだ時間を考慮しながら、筒内LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_cyl_LP_hatを算出しているので、通常時は、上記式(136)を用いる場合よりも、高い算出精度を確保することができる。
一方、CSF13bの故障などに起因して、前述した各種のモデルで突発的に大きなモデル化誤差を生じた場合には、筒内LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_cyl_LP_hatの算出精度も低下してしまうので、上記式(136)を用いた方が高い算出精度を確保することができる。すなわち、式(136)を用いた方が、より高いロバスト性を確保することができる。
また、エンジン3において、排気通路10の、低圧EGR通路11aとの接続部よりも下流側の排気抵抗が小さい場合には、PA≒Pexが成立するので、第1実施形態の排気圧Pexを用いている演算式において、排気圧Pexに代えて、大気圧PAを用いてもよい。これに加えて、低圧EGR通路11aとの接続部よりも下流側の排気抵抗が大きい場合でも、その排気抵抗を補正するための補正値を、エンジン回転数NEなどのパラメータに応じて、マップを検索することにより算出し、そのような補正値で補正した大気圧PAを、排気圧Pexに代えて用いてもよい。
さらに、第1実施形態は、2つのEGR制御弁11c,12cをノズルと見なし、低圧および高圧EGRガス流量の推定値dGegr_LP_hat,dGegr_HP_hatの算出に用いるモデルとして、ノズルの式を用いた例であるが、2つのEGR制御弁11c,12cをオリフィスと見なし、低圧および高圧EGRガス流量の推定値dGegr_LP_hat,dGegr_HP_hatの算出に用いるモデルとして、オリフィスの式を用いてもよい。
次に、図29を参照しながら、本発明の第2実施形態に係る内燃機関のEGR制御装置1Aについて説明する。第2実施形態のEGR制御装置1Aは、前述した第1実施形態のEGR制御装置1と比較すると、前述した不活性ガス推定部60に代えて、図29に示す不活性ガス推定部160を備えている点のみが異なっており、それ以外の点は第1実施形態のEGR制御装置1と同一の構成を備えているので、以下、異なる点を中心に説明するとともに、第1実施形態と同一の構成については、同じ符号を付し、その説明は省略する。
同図に示すように、不活性ガス推定部160は、仮想吸気圧コントローラ161、低圧EGRガス流量推定部162、吸気上流側パラメータ推定部163、高圧EGRガス流量推定部164、筒内ガス流量推定部165、筒内LP不活性ガス流量推定部166および新気流量推定部167を備えている。
まず、仮想吸気圧コントローラ161では、前述した仮想吸気圧コントローラ61と同じ演算式(50)〜(52)により、IS通過新気流量の仮想要求値dGair_IS_vが算出される。
また、4つの推定部162,164〜166では、以下に述べるように、ニューラルネットワークを用いて、各種の推定値が算出される。本実施形態で用いるニューラルネットワークは、図30に示すように、入力層、中間層および出力層を有する階層型ニューラルネットワークNNであり、入力層はm(mは2以上の整数)個のニューロン(3つのみ図示)を、中間層はm×(n−1)[nは2以上の整数]個のニューロン(6つのみ図示)を、出力層はm+1個のニューロンをそれぞれ備えている。
この階層型ニューラルネットワークNNの場合、入力Uを下式(137)に示すように定義し、j=1〜mとすると、入力層では、下式(138)〜(140)に示すアルゴリズムによって、値V1jが算出される。
上式(139)のfは、シグモイド関数であり、上式(140)のように定義される。上式(140)において、βはシグモイド関数の傾きゲインを、εはシグモイド関数のオフセット値をそれぞれ表している。これらの傾きゲインβおよびオフセット値εは、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。
以上のように入力層で算出された値V1jは、中間層に入力される。そして、中間層では、i=2〜nとして、下式(141),(142)に示すアルゴリズムによって、値Vijが算出される。
上式(141)のωは重み係数であり、誤差伝播法などの学習アルゴリズムや、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。以上のように中間層で算出された値Vijは、出力層に入力される。そして、出力層では、下式(143)〜(145)に示すアルゴリズムによって、出力Yが算出される。
上式(144)のgはシグモイド関数であり、上式(145)のように定義される。上式(145)において、αはシグモイド関数の出力ゲインを、γはシグモイド関数の傾きゲインを、δはシグモイド関数のオフセット値をそれぞれ表している。これらの出力ゲインα、傾きゲインγおよびオフセット値δは、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。
次に、前述した低圧EGRガス流量推定部162について説明する。この低圧EGRガス流量推定部162では、前述した図30と同様の階層型ニューラルネットワークを用いて、低圧EGRガス流量dGegr_LPが算出される。すなわち、階層型ニューラルネットワークへの入力を、下式(146)に示す4つの要素で構成された入力Uaとすると、入力層では、下式(147)〜(149)に示すアルゴリズムによって、値Va1jが算出される。
上式(148)のfaは、上式(149)のように定義されるシグモイド関数である。上式(149)において、βaはシグモイド関数の傾きゲインを、εaはシグモイド関数のオフセット値をそれぞれ表しており、これらの値βa,εaは、前述したように、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。
以上のように入力層で算出された値Va1jは、中間層に入力される。そして、中間層では、下式(150),(151)に示すアルゴリズムによって、値Vaijが算出される。
上式(150)のωaは重み係数であり、誤差伝播法などの学習アルゴリズムや、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。以上のように中間層で算出された値Vaijは、出力層に入力される。そして、出力層では、下式(152)〜(154)に示すアルゴリズムによって、出力Yaが算出される。
上式(153)のgaは、上式(154)のように定義されるシグモイド関数である。上式(154)において、αaはシグモイド関数の出力ゲインを、γaはシグモイド関数の傾きゲインを、δaはシグモイド関数のオフセット値をそれぞれ表しており、これらの値αa,γa,δaは、前述したように、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。
そして、最終的に、下式(155)によって、低圧EGRガス流量の推定値dGegr_LP_hatが算出される。
上式(155)に示すように、低圧EGRガス流量の推定値dGegr_LP_hatは、階層型ニューラルネットワークの出力Yaを、LP用修正値KVNS_LPで修正することにより算出される。これは、LP用修正値KVNS_LPで修正したモデルを用いて、低圧EGRガス流量の推定値dGegr_LP_hatを算出することに相当する。
なお、この低圧EGRガス流量推定部162で用いたニューラルネットワークの重み重み係数ωaを学習する場合には、LP用修正値KVNS_LP=1と設定して、学習が実行される。
次に、前述した吸気上流側パラメータ推定部163について説明する。この吸気上流側パラメータ推定部163では、第1実施形態の吸気上流側パラメータ推定部63と同一の演算式(58)〜(73)により、吸気圧の推定値Pin_hat、LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_LP_hatおよび中間通路内不活性ガス率の推定値Riegr_in_hatが算出される。
次いで、前述した高圧EGRガス流量推定部164について説明する。この高圧EGRガス流量推定部164では、前述した図30と同様の階層型ニューラルネットワークを用いて、高圧EGRガス流量の推定値dGegr_HP_hatが算出される。すなわち、階層型ニューラルネットワークへの入力を、下式(156)に示す6つの要素で構成された入力Ubとすると、入力層では、下式(157)〜(159)に示すアルゴリズムによって、値Vb1jが算出される。
上式(158)のfbは、上式(159)のように定義されるシグモイド関数である。式(159)において、βbはシグモイド関数の傾きゲインを、εbはシグモイド関数のオフセット値をそれぞれ表しており、これらの値βb,εbは、前述したように、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。
以上のように入力層で算出された値Vb1jは、中間層に入力される。そして、中間層では、下式(160),(161)に示すアルゴリズムによって、値Vbijが算出される。
上式(160)のωbは重み係数であり、誤差伝播法などの学習アルゴリズムや、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。以上のように中間層で算出された値Vbijは、出力層に入力される。そして、出力層では、下式(162)〜(164)に示すアルゴリズムによって、出力Ybが算出される。
上式(163)のgbは、上式(164)のように定義されるシグモイド関数である。上式(164)において、αbはシグモイド関数の出力ゲインを、γbはシグモイド関数の傾きゲインを、δbはシグモイド関数のオフセット値をそれぞれ表しており、これらの値αb,γb,δbは、前述したように、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。
そして、最終的に、下式(165)によって、高圧EGRガス流量の推定値dGegr_HP_hatが算出される。
上式(165)に示すように、高圧EGRガス流量の推定値dGegr_HP_hatは、階層型ニューラルネットワークの出力Ybを、HP用修正値KVNS_HPで修正することにより算出される。これは、HP用修正値KVNS_HPで修正したモデルを用いて、高圧EGRガス流量の推定値dGegr_HP_hatを算出することに相当する。
また、この高圧EGRガス流量推定部164で用いたニューラルネットワークの重み係数ωbを学習する場合には、HP用修正値KVNS_HP=1と設定して、学習が実行される。
次いで、前述した筒内ガス流量推定部165について説明する。この筒内ガス流量推定部165では、前述した図30と同様の階層型ニューラルネットワークを用いて、筒内新気流量の推定値dGair_cyl_hatおよび筒内不活性ガス総流量の推定値dGiegr_cyl_hatが算出される。まず、筒内新気流量の推定値dGair_cyl_hatの算出手法について説明する。この場合、階層型ニューラルネットワークへの入力を、下式(166)に示す5つの要素で構成された入力Ucとすると、入力層では、下式(167)〜(169)に示すアルゴリズムによって、値Vc1jが算出される。
上式(168)のfcは、上式(169)のように定義されるシグモイド関数である。式(169)において、βcはシグモイド関数の傾きゲインを、εcはシグモイド関数のオフセット値をそれぞれ表しており、これらの値βc,εcは、前述したように、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。
以上のように入力層で算出された値Vc1jは、中間層に入力される。そして、中間層では、下式(170),(171)に示すアルゴリズムによって、値Vcijが算出される。
上式(170)のωcは重み係数であり、誤差伝播法などの学習アルゴリズムや、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。以上のように中間層で算出された値Vcijは、出力層に入力される。そして、出力層では、下式(172)〜(174)に示すアルゴリズムによって、出力Ycが算出される。
上式(173)のgcは、上式(174)のように定義されるシグモイド関数である。上式(174)において、αcはシグモイド関数の出力ゲインを、γcはシグモイド関数の傾きゲインを、δcはシグモイド関数のオフセット値をそれぞれ表しており、これらの値αc,γc,δcは、前述したように、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。
そして、最終的に、筒内新気流量の推定値dGair_cyl_hatは、下式(175)に示すように、階層型ニューラルネットワークの出力Ycに設定される。
次に、筒内ガス流量推定部165における筒内不活性ガス総流量の推定値dGiegr_cyl_hatの算出手法について説明する。この場合、階層型ニューラルネットワークへの入力を、下式(176)に示す4つの要素で構成された入力Udとすると、入力層では、下式(177)〜(179)に示すアルゴリズムによって、値Vd1jが算出される。
上式(178)のfdは、上式(179)のように定義されるシグモイド関数である。式(179)において、βdはシグモイド関数の傾きゲインを、εdはシグモイド関数のオフセット値をそれぞれ表しており、これらの値βd,εdは、前述したように、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。
以上のように入力層で算出された値Vd1jは、中間層に入力される。そして、中間層では、下式(180),(181)に示すアルゴリズムによって、値Vdijが算出される。
上式(180)のωdは重み係数であり、誤差伝播法などの学習アルゴリズムや、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。以上のように中間層で算出された値Vdijは、出力層に入力される。そして、出力層では、下式(182)〜(184)に示すアルゴリズムによって、出力Ydが算出される。
上式(183)のgdは、上式(184)のように定義されるシグモイド関数である。上式(184)において、αdはシグモイド関数の出力ゲインを、γdはシグモイド関数の傾きゲインを、δdはシグモイド関数のオフセット値をそれぞれ表しており、これらの値αd,γd,δdは、前述したように、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。
そして、最終的に、筒内不活性ガス総流量の推定値dGiegr_cyl_hatは、下式(185)に示すように、階層型ニューラルネットワークの出力Ydに設定される。
次に、前述した筒内LP不活性ガス流量推定部166について説明する。この筒内LP不活性ガス流量推定部166では、前述した図30と同様の階層型ニューラルネットワークを用いて、筒内LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_cyl_LP_hatが算出される。すなわち、階層型ニューラルネットワークへの入力を、下式(186)に示す5つの要素で構成された入力Ueとすると、入力層では、下式(187)〜(189)に示すアルゴリズムによって、値Ve1jが算出される。
上式(188)のfeは、上式(189)のように定義されるシグモイド関数である。式(189)において、βeはシグモイド関数の傾きゲインを、εeはシグモイド関数のオフセット値をそれぞれ表しており、これらの値βe,εeは、前述したように、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。
以上のように入力層で算出された値Ve1jは、中間層に入力される。そして、中間層では、下式(190),(191)に示すアルゴリズムによって、値Veijが算出される。
上式(190)のωeは重み係数であり、誤差伝播法などの学習アルゴリズムや、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。以上のように中間層で算出された値Veijは、出力層に入力される。そして、出力層では、下式(192)〜(194)に示すアルゴリズムによって、出力Yeが算出される。
上式(193)のgeは、上式(194)のように定義されるシグモイド関数である。上式(194)において、αeはシグモイド関数の出力ゲインを、γeはシグモイド関数の傾きゲインを、δeはシグモイド関数のオフセット値をそれぞれ表しており、これらの値αe,γe,δeは、前述したように、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムによって決定される。
そして、最終的に、下式(195)に示すように、筒内LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_cyl_LP_hatは、階層型ニューラルネットワークの出力Ycに設定される。
一方、新気流量推定部167では、下式(196)〜(200)により、新気流量の推定値dGafm_hatが算出される。
なお、上式(196)において、新気流量の今回値dGafm(k)に代えて、推定値の前回値dGafm_hat(k−1)を用いてもよい。
次に、ECU2によって実行される第2実施形態のEGR制御処理について説明する。第2実施形態のEGR制御処理の場合、前述した図21のEGR制御処理と比較して、ステップ10,20の推定値算出処理の内容のみが異なっているので、以下、図31を参照しながら、本実施形態の推定値算出処理についてのみ説明する。
同図に示すように、この推定値算出処理の場合、まず、ステップ60で、前述した式(58)により、接続部総ガス量の推定値Gin_hatを算出する。その後、ステップ61に進み、前述した式(59)により、吸気圧の推定値Pin_hatを算出する。
次に、ステップ62で、前述した式(50)〜(52)により、IS通過新気流量の仮想要求値dGair_IS_vを算出する。ステップ62に続くステップ63で、前述した式(146)〜(155)により、低圧EGRガス流量の推定値dGegr_LP_hatを算出する。
次いで、ステップ64に進み、前述した式(60)〜(64)により、LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_LP_hatを算出する。その後、ステップ65で、前述した式(65),(66)により、中間通路内不活性ガス率の推定値Riegr_in_hatを算出する。
ステップ65に続くステップ66で、前述した式(156)〜(165)により、高圧EGRガス流量の推定値dGegr_HP_hatを算出する。その後、ステップ67で、前述した式(166)〜(175)により、筒内新気流量の推定値dGair_cyl_hatを算出する。
次に、ステップ68で、前述した式(176)〜(185)により、筒内不活性ガス総流量の推定値dGiegr_cyl_hatを算出する。その後、ステップ69に進み、前述した式(186)〜(195)により、筒内LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_cyl_LP_hatを算出する。
次いで、ステップ70に進み、前述した式(196)〜(200)により、新気流量の推定値dGafm_hatを算出した後、本処理を終了する。
以上のように構成された第2実施形態のEGR制御装置1Aによれば、第1実施形態のEGR制御装置1と同様の作用効果を得ることができる。また、第2実施形態の活性ガス推定部160では、前述したように、物理式モデルとニューラルネットワークモデルとを併用することによって、各種の推定値が算出される。一般に、内燃機関のEGR系および吸排気系のような、非線形性が強い制御対象の場合、これを物理式のみを用いるモデリング手法でモデル化しようとすると、過渡状態における制御対象の動特性を適切に表現するのが困難である。これに対して、第2実施形態の活性ガス推定部160のように、物理式モデルとニューラルネットワークモデルとを併用するモデリング手法の場合には、そのような非線形な動特性を適切かつ容易に表現することができ、それにより、制御対象の非線形性を精度よく補償しながら、各種の推定値を算出することができる。特に、そのように算出された筒内LP不活性ガス流量の推定値dGiegr_cyl_LP_hatが、HP開度コントローラ90において、目標HP開度αHP_cmdの算出に用いられるので、エンジン3が過渡状態にあるときの高圧EGRガスの制御精度をさらに向上させることができ、結果的に、EGR制御の制御精度をさらに向上させることができる。
なお、第2実施形態は、ニューラルネットワークとして、階層型ニューラルネットワークを用いた例であるが、本発明の場合、ニューラルネットワークはこれに限らず、例えば、ニューラルネットワークとして、網目状ニューラルネットワーク、RBFニューラルネットワーク、カオス型ニューラルネットワークおよびリカレント型ニューラルネットワークなどを用いてもよい。
また、式(156),(166),(176),(186)にそれぞれ示す入力Ub,Uc,Ud,Ueの要素において、チャンバガス流量dGgas_CPに代えて、ベーンアクチュエータ7dの操作量すなわちベーン開度αtbに相当する値を用いてもよい。
なお、第2実施形態においても、誤差EVNSを前述した式(131)で算出してもよく、LP不活性ガス比RLPを前述した式(136)で算出してもよい。