例えば左右2台のテレビカメラを平行に配置して右目用(右側)と左目用(左側)の視差画像を撮影することによって両眼立体視のための立体画像(立体映像)を撮影する立体カメラが知られている。
立体カメラでは、違和感のない立体画像を撮影するために、左右のカメラの撮影光学系として同一仕様のレンズ装置が使用される。また、レンズ装置における制御についてもズーム(焦点距離)やフォーカス(焦点位置)等の撮影条件を常に左右で一致させる必要があるため、例えば一方を主、他方を従として主側のレンズ装置の撮影条件を変更するとそれに連動して従側のレンズ装置の撮影条件が変更されるようになっている。
ところで、上記のような立体カメラにおけるレンズ装置は、レンズ装置やカメラ本体の部品や組立時における制作誤差や加工誤差、あるいは、レンズ装置をカメラ本体に取り付ける際の位置や角度等のバラツキのために、左右2つのレンズ装置(撮影光学系)の光軸が、予定している光軸からずれてしまう場合がある。光軸がずれると左右の視差画像における同一被写体の位置関係が適切ではなく、立体画像として違和感が生じてしまうという問題がある。
そこで、特許文献1では、カメラ本体とレンズ装置(鏡胴)との装着部分(マウント部分)に連結部材を介在させ、その連結部材における左右各々のレンズ装置の支持位置をネジのねじ込み位置で上下左右に調整することによって光学的中心の調整(光軸調整)を行えるようにしたものが提案されている。
また、近年では、レンズ装置でのズームの高倍率化に伴い、像振れを補正する像振れ補正装置(防振装置)がレンズ装置に組み込まれることが多くなっている。像振れ補正装置は、例えば、レンズ装置の光学系に像振れ補正用の防振レンズを光軸と直交する方向に移動可能に配置し、カメラ(カメラの撮影光学系)に振動が加わると、防振レンズをモータで駆動してその振動による像振れを打ち消すようにしたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。また、光軸に直交する方向で移動する防振レンズを使用する方法以外にも像振れを補正する方法が知られており、光学的な像振れ補正は、光学系により結像される像の結像位置を光学的に撮像面内で上下左右に変位させる像変位手段を備えており、その像変位手段による像の変位量を、像振れを打ち消すように制御することによって像振れ補正が行われている。尚、付属装置としてレンズ装置に外付けして使用されるアダプタ式の像振れ補正装置も知られている(例えば、特許文献3参照)。
更に、立体カメラにおいても像振れ補正装置を備えたレンズ装置(防振機能付きレンズ装置)を使用し、各レンズ装置間での防振特性の差を抑えるようにして立体映像においても違和感のない像振れ補正を行えるようにしたものが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
以下、添付図面に従って本発明に係る立体カメラ用レンズシステムの好ましい実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る立体カメラ用レンズシステムが搭載された立体カメラを示す外観図である。図1(a)は側面図であり、図1(b)は上面平面図である。同図に示すように、本実施形態の立体カメラ用レンズシステム10は、同一仕様の2台のレンズ装置12A及び12Bを含んでいる。これらのレンズ装置12A及び12Bは、立体映像(視差画像)を撮影するための立体カメラ(立体テレビカメラ)のカメラ本体14A、14Bに並列にマウントにより装着される。例えば、レンズ装置12Aは右目の映像の撮影用として、レンズ装置12Bは左目の映像の撮影用として使用される。以下の説明では、レンズ装置12A及び12Bをそれぞれ右レンズ12A及び左レンズ12Bと記載する。
カメラ本体14A、14Bは、各々、右レンズ12A、左レンズ12Bの撮影光学系により結像された被写体の像を光電変換する撮像手段を備えており、図1(a)に示すように雲台16に取り付けられたプレート18上に載置される。雲台16には、振動検出部20が1つだけ設けられている。上述のように、右レンズ12A及び左レンズ12Bは、カメラ本体14A、14Bに取り付けられており、カメラ本体14A、14Bは、プレート18上に載置されている。このため、右レンズ12A及び左レンズ12Bは、パンやチルトの動作を一体的に行うとともに、右レンズ12A及び左レンズ12Bに加えられる振動は略同じになり、1つの振動検出部20によって検出される。
図2は、本発明が適用された立体カメラ用レンズシステム10の振動検出部及び防振部の要部構成を示すブロック図である。同図に示すように、本実施形態の立体カメラ用レンズシステム10では、防振部13A、13Bが右レンズ12A及び左レンズ12Bにそれぞれ設けられているのに対し、振動検出部20は1つだけ設けられている。
振動検出部20は、立体カメラ用レンズシステム10に加えられた振動を検出する振動センサを備えており、右レンズ12A及び左レンズ12Bにおいて共通である。なお、本実施形態において、振動センサは、例えば、各レンズ装置12A及び12Bから等距離の位置や、カメラ本体14が載置された際のプレート18の重心位置、雲台16のパン軸上の位置等に配置される。
振動センサは、左右方向及び上下方向の角速度を検出する角速度センサ(それぞれ22H及び22V)であり、この角速度センサ22H及び22Vにより検出された角速度に応じた電圧の電気信号(角速度信号)S1を出力する。角速度センサ22H及び22Vから出力された角速度信号S1は、それぞれアンプ24H及び24Vに入力されて増幅され、A/D変換器26H及び26Vによってデジタル信号S2に変換されて、シリアルコミュニケーションインタフェース28(SCI:S e r i a l C o m m u n i c a t i o n I n t e r f a c e)に入力される。そして、このデジタル信号S2は、SCI30を介して右レンズ12A及び左レンズ12Bに搭載された防振部13A、13Bに入力される。なお、角速度センサ22H及び22Vの代わりに速度センサ、加速度センサ等の振動に対応した信号を出力する任意の振動センサを使用することもできる。
同図に示すように、右レンズ12A及び左レンズ12Bの防振部13A、13Bは、CPU32、D/A変換器34、アンプ36、防振レンズ駆動用モータ38 、防振レンズ群40及びポテンショメータ42を含んでいる。同図では、右レンズ12Aと左レンズ12Bの防振部13A、13Bにおいて、同一の構成要素には同一の符号を付している。
防振レンズ群40は、右レンズ12A及び左レンズ12Bにおいて、フォーカスレンズ(群)、ズームレンズ(群)、アイリスなどから構成される被写体の像を結像するための撮影光学系に配置されており、撮影光学系の光軸に対して直交する方向に移動可能に支持されている。
CPU32は、右レンズ12A及び左レンズ12Bの撮影光学系を制御する制御部である。CPU32は、上記角速度センサ22H及び22Vからのデジタル信号S2を取得することにより、立体カメラ用レンズシステム10及びカメラ本体14A、14Bに加えられた振動の角速度を取得する。そして、この角速度に基づいて、右レンズ12A及び左レンズ12Bの各々の撮影光学系に配置された防振レンズ群40の像振れを補正(防止)するための位置(以下、像振れ補正位置と記載する)を求め、この像振れ補正位置への防振レンズ群40の左右方向及び上下方向への移動を指令する位置指令信号S3H及びS3VをD/A変換器34を介して、それぞれHアンプ36H及びVアンプ36Vに出力する。
ポテンショメータ42H及び42Vは、それぞれ左右方向及び上下方向における防振レンズ群40の位置を検出して、この防振レンズ群40の左右方向及び上下方向の位置を表す位置検出信号(それぞれS4H及びS4V)をそれぞれHアンプ36H及びVアンプ36Vに出力する。
Hアンプ36H及びVアンプ36Vは、上記位置指令信号S3H及びS3V、位置検出信号S4H及びS4Vに基づいて電圧を、それぞれ防振レンズ駆動用モータ38H及び38Vに供給する。これにより、防振レンズ駆動用モータ38H及び38Vが駆動されて、防振レンズ群40が撮影光学系の光軸に垂直な方向に変位し、振動による像振れを補正する像振れ補正位置に移動するようになっている。
ところで、各防振部13A、13BのCPU32には、操作部50からの指示信号が入力されるようになっている。操作部50は、例えば、右レンズ12A及び左レンズ12Bの両方にケーブル等で接続されており、防振部13A、13Bに関する操作部材を備えている。尚、操作部50は、右レンズ12A及び左レンズ12Bのフォーカス、ズーム等の基本的なレンズ操作に関する操作部材を備えたコントローラに組み込まれているものであってもよいし、右レンズ12A及び左レンズ12Bの各々に対して個別に設けられるものであってもよく、どのような形態であってもよい。
操作部50は、防振部13A、13Bにおける防振制御の実行又は停止を指示する防振オン/オフ指示手段(例えばオン/オフスイッチ)52と、防振レンズ群40の基準位置を調整するための移動指示手段54A、54Bとを備えている。
移動指示手段54A、54Bは、防振制御が停止している際に防振レンズ群40が固持される基準位置を調整するための手段であり、各々の防振部13A、13Bに対して移動指示手段54A、54Bが別々に設けられ、各防振部13A、13Bの防振レンズ群40の上下方向への移動と左右方向への移動を操作者が指示することができるようになっている。例えば、移動指示手段54Aは、防振部13Aの防振レンズ群40の上下方向の移動位置を指定するツマミと、左右方向の移動位置を指定するツマミとを備え、操作者は、それらのツマミを使用して、防振レンズ群40を所望の位置に移動させることを指示入力することができるようになっている。
各防振部13A、13BのCPU32は、操作部50から送信される指示信号を例えばSCI30を通じて取得し、取得した指示信号に従って制御を実行する。
即ち、CPU32は、操作部50の防振オン/オフ指示手段52に基づいて防振制御の実行を指示する指示信号を操作部50から取得すると、上記のように振動検出部20からの振れ信号(角速度センサ22H及び22Vからの角速度信号)に基づいて防振レンズ群40を制御し、像振れを防止するための防振制御を実行する。
一方、防振オン/オフ指示手段52に基づいて防振制御の停止を指示する指示信号を操作部50から取得すると、防振レンズ群40を所定の基準位置に停止させた状態に設定する。
また、CPU32は、防振制御を停止している際に、操作部50の移動指示手段54A、54Bに基づいて防振レンズ群40の上下方向又は左右方向への移動を指示する指示信号を操作部50から取得すると、その指示に従って防振レンズ群40を上下方向又は左右方向に移動させる。そして、停止した位置を基準位置として設定する。
防振レンズ群40の基準位置は、通常、防振レンズ群40の中心(光軸)が、撮影光学系全体(防振レンズ群40を除く他の光学系)の光軸と一致する位置であって、その撮影光学系により結像される像の位置が防振レンズ群40により変位しない位置に設定されている。
一方、右レンズ12A及び左レンズ12Bをカメラ本体14A、14Bに装着する際などに各々の撮影光学系の光軸が予定している光軸からずれてしまう場合があり、そのとき、カメラ本体14A、14Bの各撮像素子により撮像される画像内における同一被写体の位置関係が適切ではなく立体画像として違和感が生じてしまう問題がある。
そこで、上記のように操作部50の移動指示手段54A、54Bを使用して防振レンズ群40の基準位置を調整して、意図的に像の結像位置を撮像面内で変位させることによって、カメラ本体14A、14Bの各撮像素子により撮像される画像内における同一被写体の位置関係が適切となるように撮影光学系の光軸調整を行うことができるようになっている。
例えば、撮影本番前などにおいて所定の被写体を撮影し、カメラ本体14A、14Bの各撮像素子により撮像される映像を確認する。このとき、撮影した被写体が立体画像として適切に観察できるように防振レンズ群40の位置を移動指示手段54A、54Bにより調整すればよい。尚、本実施の形態のように右レンズ12A及び左レンズ12Bの2つの撮影光学系の光軸調整の場合には、右レンズ12A及び左レンズ12Bの両方ではなく、いずれか一方の防振レンズ群40の基準位置のみを調整可能としてもよい。
また、防振レンズ群40の基準位置の調整は、防振制御を停止している場合の光軸調整として有効なだけでなく、その調整位置を、防振制御を実行する場合における防振レンズ群40の基準位置とすることによって防振制御の実行時においても光軸のずれによる立体画像の違和感を低減することができる。即ち、防振制御の実行時においては、防振制御の開始時や振動が生じていない場合の防振レンズ群40の位置は所定の基準位置に設定される。また、この基準位置は、例えば正弦波振動が生じたときの像振れを防止する際において防振レンズ群40の動作中心(平均的位置)となる位置であり、防振制御の態様によっては、任意の振動に対して像振れを防止するように防振レンズ群40を動作させている際に、その防振動作と共に、防振レンズ群40の動作中心を基準位置に徐々に移行させるようなことも行われている。上記実施の形態において、防振制御の停止時に調整した防振レンズ群40の基準位置は、その防振制御の実行時における基準位置とすることによって、防止制御の実行時においても違和感のない立体映像が取得されるようになる。
以上、上記実施の形態では、撮影光学系の光軸に垂直な方向に変位する防振レンズ群40によって像振れを防止する場合について説明したが、本発明は他の方式の像振れ補正装置が搭載されたレンズ装置を使用する場合においても適用でき、撮影光学系に配置される防振光学系の状態を変化させることにより、撮影光学系により結像される像の結像位置を撮像面内で変位させるものであり、その結像位置の変位によって、振動による像振れを打ち消すように防振光学系の状態を変化させるものであれば本発明を適用できる。
また、上記実施の形態では、2つの撮影光学系を有する立体カメラについて説明したが、本発明は、2つ以上の撮影光学系(及び撮像手段)を有する立体カメラにおいても適用できる。
また、上記実施の形態では、撮影光学系に配置される防振レンズ群40と共に像振れ補正装置が各レンズ装置に組み込まれている態様について説明したが、レンズ装置とカメラ本体との間(レンズ装置の後端)に装着されるアダプタ式の像振れ補正装置も知られており、そのような像振れ補正装置においても上記実施の形態と同様に防振レンズ群の基準位置を手動操作による指示によって所望の位置に移動させることを可能にすれば、アダプタ式の像振れ補正装置も上記の光軸調整に利用することができる。