JP2011254891A - シリンジ用ガスケットおよびそれを用いたプレフィルドシリンジ - Google Patents
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Abstract
【課題】シリンダに対する摺動性が良好であり、且つ従来のゴム製ガスケット本体を使用できるシリコングリスレスガスケットを提供する。
【解決手段】摺動面および先端面が摺動性フィルム20で覆われ、ピストンPが取り付けられる面に凹部16が形成された架橋型ゴム製のガスケット本体12と、
前記ピストンPの先端部の雄ネジ部p1が螺着されるネジ穴18を有しており、前記ネジ穴18が外部に開口した状態で前記凹部16に取り付けられて前記ガスケット本体12のピストン取付部となり、加硫温度以上の耐熱温度を有する樹脂製のベース部材14と、
ガスケット本体12とベース部材14との間に設けられ、ベース部材14の凹部16からの相対移動を阻止する相対移動防止部19とで構成されたことを特徴とする。
【選択図】図1
【解決手段】摺動面および先端面が摺動性フィルム20で覆われ、ピストンPが取り付けられる面に凹部16が形成された架橋型ゴム製のガスケット本体12と、
前記ピストンPの先端部の雄ネジ部p1が螺着されるネジ穴18を有しており、前記ネジ穴18が外部に開口した状態で前記凹部16に取り付けられて前記ガスケット本体12のピストン取付部となり、加硫温度以上の耐熱温度を有する樹脂製のベース部材14と、
ガスケット本体12とベース部材14との間に設けられ、ベース部材14の凹部16からの相対移動を阻止する相対移動防止部19とで構成されたことを特徴とする。
【選択図】図1
Description
本発明は、医薬、医療分野において薬液を人体あるいは動物に投与する際に使用されるシリンジ、とりわけプレフィルドシリンジに好適なシリンジ用ガスケットに関する。
注射筒兼薬液容器となるシリンダ内に、予め注射用の薬液を充填しておき、注射針が取り付けられる先端部分をキャップ等で密閉・封止した状態で輸送、保管し、薬液投与の際にはシリンダの先端部分に注射針を取り付けた後、ピストン(押し棒)を押し込んでガスケットをシリンダの先端方向に摺動させることにより、シリンダ内の薬液を投与する、いわゆるプレフィルドシリンジが近年多用されるようになってきている。
プレフィルドシリンジは、薬液を誤用することなく正確な量で投与することができる点や、薬液の移し替え作業が不要であり、かかる作業に起因する薬液の微生物汚染等を防止できる点等に特徴を有している。
ところで、従来のプレフィルドシリンジでは、ガスケットがブチルゴムで形成されていたが、これらゴム製のガスケットがシリンダの内面を摺動する際の「摺動性の悪さ」を改善するために、ガスケット表面やシリンダの内面にシリコングリスを塗布する必要があり、当該シリコングリスが薬液中の有効成分を吸着してしまうことによる力価低下や、シリコングリスの微粒子による薬液の汚染およびこれによる人体への悪影響が問題視されていた。また、ゴム中の可溶性成分が薬液中に溶出するおそれもあった。そのため可溶性成分除去のための酸及びアルカリ洗浄や無菌水による大量のガスケット洗浄を行う工程が不可欠であった。
そこで、係る問題を解決すべく、図5に示すようなガスケット1が開発されている(例えば、特許文献1参照)。このガスケット1は、ゴム製ガスケット本体2の表面に樹脂フィルム3を積層することにより、シリンダ4に対する摺動性を向上させ、シリンダ4の内面へのシリコングリスの塗布を不要にして当該シリコングリスに起因する上記問題を回避することができる。
しかしながら、特許文献1のガスケット1には、以下に述べるような問題があった。即ち、ガスケット本体2には、ピストン5の先端部の雄ネジ部5aを螺着するためのネジ穴6が形成されているが、ガスケット本体2を形成するゴムの摺動性の悪さ故に、そのままではピストン5の雄ネジ部5aをネジ穴6にねじ込むことが困難であることから成形後、ピストン5の雄ネジ部5aをネジ穴6に螺着するに当たってネジ穴6の表面にシリコングリスを予め塗布しておく必要があった。
このため、折角、シリンダ4の内面へのシリコングリス塗布を不要(シリコングリスレス)にしているにもかかわらず、ネジ穴6の表面へのシリコングリス塗布工程を省くことができない。しかも、工程上、シリコングリス自動塗布後に前述のように大量のガスケット1を洗浄する必要があり、洗浄時に洗浄液に混じり込んだシリコングリスが表面の樹脂フィルム3の表面に薄く付着してしまうという問題があった。
加えて、ネジ穴6にシリコングリスを塗布した場合、最悪の場合にはネジ穴6にピストン5を螺着した際にネジ穴6から押し出されたシリコングリスがシリンダ4の内面に付着することもあり、そのまま注射するためにピストン5を少し引いた時に付着部分まで注射液が移動して当該シリンダ4内の薬液中に混入するおそれも皆無ではなかった。これらの理由から、このようなガスケット本体2にゴムを使用したガスケット1に於いて、一切シリコングリスを使用する必要のないものが要求されていた。
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みて開発されたもので、従来のガスケット本体にゴムを使用したもので、シリコングリスを一切使用する必要のないシリンジ用ガスケットおよびそれを用いたプレフィルドシリンジを提供することにある。
請求項1に記載した発明は、「摺動面および先端面が摺動性フィルム20で覆われ、ピストンPが取り付けられる面に凹部16が形成された架橋型ゴム製のガスケット本体12と、
前記ピストンPの先端部の雄ネジ部p1が螺着されるネジ穴18を有しており、前記ネジ穴18が外部に開口した状態で前記凹部16に取り付けられて前記ガスケット本体12のピストン取付部となり、ガスケット本体12の加硫温度以上の耐熱温度を有する樹脂製のベース部材14と、
ガスケット本体12とベース部材14との間に設けられ、ベース部材14の凹部16からのガスケット本体12の相対移動を阻止する相対移動防止部19とで構成されたことを特徴とするシリンジ用ガスケット10」である。
前記ピストンPの先端部の雄ネジ部p1が螺着されるネジ穴18を有しており、前記ネジ穴18が外部に開口した状態で前記凹部16に取り付けられて前記ガスケット本体12のピストン取付部となり、ガスケット本体12の加硫温度以上の耐熱温度を有する樹脂製のベース部材14と、
ガスケット本体12とベース部材14との間に設けられ、ベース部材14の凹部16からのガスケット本体12の相対移動を阻止する相対移動防止部19とで構成されたことを特徴とするシリンジ用ガスケット10」である。
この発明によれば、従来同様、摺動性フィルム20によってシリンダCに対する前記摺動性が担保され、且つベース部材14の使用によってネジ穴18へのピストンPの雄ネジ部p1の螺入時の滑り性を担保することが出来て、シリコングリス塗布不要に伴う摺動性フィルム20表面への薄いシリコングリスの付着なしなどの利点が実現される。
そして、本発明ではガスケット本体12として架橋型ゴム製のガスケット本体12を使用しているが、ベース部材14をガスケット本体12内にインサートして加圧成形し、該成形工程においてガスケット本体12を加硫するためにベース部材14をガスケット本体12内にインサートした状態で加硫温度に曝してもベース部材14の耐熱温度(或いは熱変形開始温度)はガスケット製造における加硫温度以上の温度(好ましくは加硫温度を超える温度)であるから、加硫時におけるベース部材14の変形がない。
ここで、ベース部材14の耐熱温度或いは熱変形開始温度とは該加硫温度がガスケット本体12に加えられてから或る時間「例えば10分程度」が経過してはじめて全体形状の変化を生じ始める程度の軟化が起こる実用上の温度で、少なくとも加硫温度と同じ耐熱温度或いは熱変形開始温度であれば実用上ベース部材14は加硫に耐え得るが、ベース部材14の耐熱温度或いは熱変形開始温度が加硫温度を超える温度であれば変形がなくより好ましい。なお、ガスケット製造における加硫温度は通常150℃〜180℃であり、加硫温度に合わせてベース部材14の材質が選定される。そしてベース部材14がこのような耐熱温度或いは熱変形開始温度を有するので、通常行われる加熱殺菌(例えば、120℃・20分間の蒸気殺菌)より高く加硫温度より低い温度での加熱殺菌を行ったとしてもガスケット10の変形は生じない。
そしてこれに加えて、相対移動防止部19の存在により、接着性の悪いガスケット本体12とベース部材14において、使用中にベース部材14がガスケット本体12から脱落するようなことがない。換言すればこのようにすることで、従来の架橋型ゴム製のガスケット本体12を使用するシリンジ用ガスケット10において、完全シリコングリスレスとすることが出来た。
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載したシリンジ用ガスケット10に関し、「ベース部材14と摺動性フィルム20との間の開口部分12aに該開口部12aを密閉する密閉部21が設けられている」ことを特徴とするもので、このリング状に設けられた密閉部21の存在により、洗浄時や最終段階の蒸気消毒時でも洗浄水や蒸気がゴム製のガスケット本体12に直接触れることは殆どなく、ガスケット本体12からの異物の漏出もないし、仮に前記蒸気消毒温度を法定の120℃以上に誤って設定したとしても、或いは安全性を高めるために蒸気消毒温度を法定の120℃以上に設定したとしても、加硫温度以下(より好ましくは加硫温度を越えない温度)であればベース部材14やガスケット本体12の変形はなく、且つ密閉部21の密閉効果によるガスケット本体12の前記開口部12aからの膨出変形阻止効果も生じる。
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載したシリンジ用ガスケット10に関し、「前記ベース部材14は、全芳香族液晶樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリアリルエーテル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、充填剤入りポリアミドから選択されるいずれかの樹脂材料で形成されている」ことを特徴とする。これらはいずれもガスケット本体12の加硫温度を超える耐熱温度を有する樹脂で、その耐熱温度は全芳香族液晶樹脂で180℃〜355℃、ポリフェニレンエーテルで150℃、ポリエーテルケトンで160℃、ポリアリルエーテルで162℃、ポリアミドイミドで278℃、ポリイミドで277℃〜360℃、ポリエーテルイミドで197℃〜200℃、ポリスルホンで174℃、ポリエーテルスルホンで201℃〜203℃、充填剤入りポリアミドで200〜250℃である。前記ベース部材14を構成する素材の内、温度範囲があるのは充填剤や添加剤の相違による。
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3に記載したシリンジ用ガスケット10に関し、「前記摺動性フィルム20は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルムであり、
前記ガスケット本体12と前記PTFEフィルム20との接合面には、接着性改善処理が施されている」ことを特徴とする。
前記ガスケット本体12と前記PTFEフィルム20との接合面には、接着性改善処理が施されている」ことを特徴とする。
本発明では、ガスケット本体12の摺動面および先端面を覆う摺動性フィルム20として、高い摺動性(つまり、摺動時の抵抗が低い)を有するPTFE(ポリテトラフルオロエチレン或いは四フッ化エチレン)フィルム20が用いられていることから、シリンダCに対するシリンジ用ガスケット10の摺動性をより高くして、更に滑らかに摺動させることができる。
前記PTFEフィルム20は難接着性であり、ガスケット本体12を構成する架橋型ゴム製のガスケット本体12との接合力が極めて弱いことから、単にPTFEフィルム20をガスケット本体12に接合しようとしても目的の成形品が得られないが、本発明のシリンジ用ガスケット10では、ガスケット本体12とPTFEフィルム20との接合面に接着性改善処理が施されているので、難接着性のPTFEフィルム20とガスケット本体12とを成形時において強固に接合させることができる。
この「接着性改善処理」としては、後述するように、「シリカ微粒子層22の配設」、「金属ナトリウムによる化学処理」、「アルゴン雰囲気中でのプラズマ処理」、あるいは「PTFEフィルム20の表面に対するブタジエンのプラズマ重合処理」が考えられる。これにより、シリンダCに対する摺動性が極めて高く、かつ、振動や衝撃によってガスケット本体12からPTFEフィルム20が外れる心配のないシリンジ用ガスケット10を提供することができる。
請求項5に記載した発明は、「薬液Mが充填されたシリンダCと、
前記シリンダCを密封する請求項1乃至4のいずれかに記載されたシリンジ用ガスケット10と、
前記シリンジ用ガスケット10を前記シリンダCの先端に向けて押し込む先端部の雄ネジ部p1が前記ネジ穴18に螺着されたピストンPとで構成されたプレフィルドシリンジA」である。
前記シリンダCを密封する請求項1乃至4のいずれかに記載されたシリンジ用ガスケット10と、
前記シリンジ用ガスケット10を前記シリンダCの先端に向けて押し込む先端部の雄ネジ部p1が前記ネジ穴18に螺着されたピストンPとで構成されたプレフィルドシリンジA」である。
本発明によれば、蒸気殺菌温度を規定温度より高くしても問題がなく、しかも従来のゴム製ガスケット本体を使用できてシリコングリスレスのシリンジ用ガスケットを提供することができた。
以下、本発明を適用したシリンジ用ガスケット10について、図面を用いて説明する。図1(a)は、本発明のシリンジ用ガスケット10の第1実施例を示した断面図であり、同図(b)は第2実施例を示した断面図であり、同図(c)は第1、2実施例の部分拡大断面図であり、図2は、シリンジ用ガスケット10が適用されたプレフィルドシリンジAを示した断面図である。
図2に示すように、プレフィルドシリンジAは、大略、シリンジ用ガスケット10(以下、単に「ガスケット10」という。)と、シリンダCと、ピストンPと、キャップKとで構成されている。なお、同図中のMは、シリンジA内に充填された薬液(注射液)である。
ガスケット10は、図1に示すように、ガスケット本体12と、ベース部材14と、ガスケット本体12におけるシリンダCの内面との摺動面に積層されたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン或いは四フッ化エチレン)フィルム20とで構成されている。
ガスケット本体12は略円柱状の部材であり、ピストンPが取り付けられる面には、ベース部材14が取り付けられる有底略円柱状の凹部16が形成され、その内表面に相対移動防止部19が嵌まり込む窪み19aが適数箇所設けられている。本実施例では窪み19aは相対移動防止部19に合わせて設けられるもので、本実施例では凸半球状の相対移動防止部19に対して凹半球状の窪み19aが90度間隔で4箇所形成されている。相対移動防止部19は図の形状のものに限られず、ベース部材14がガスケット本体12から脱落は勿論、回転その他相対移動しないようなものであれば足る。
本実施例のガスケット本体12は合成ゴムの加硫物で形成され、合成ゴムの種類は特に制限されない。合成ゴムとしては架橋型ゴム、例えば、ブチルゴム、塩素化又は臭素化、沃素化等のハロゲン化ブチルゴム、ジビニルベンゼン共重合部分架橋ブチルゴム等のブチル系ゴム;エチレン−プロピレン共重合ゴム(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエンモノマー三元共重合ゴム(EPDM)等の非共役ジエン系ゴム;ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)等の共役ジエン系ゴム等が挙げられる。
これらのゴム成分は、従来からピストンのゴム製ガスケット製造に使用されている各ゴム成分に適した加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤等の加硫系や必要に応じて充填剤、補強剤、着色剤、酸化防止剤等の配合剤と混練され、加硫性ゴム組成物とされる。加硫性ゴム組成物は、従来公知のピストンのゴム製ガスケット製造方法、例えば、プレス成形(圧縮成形)、射出成形等により、種々の形状のゴム製ガスケットに成形される。図4に示す成形方法の例はプレス成形である。
ベース部材14は、ガスケット本体12よりも軟化点の高く、耐熱温度がガスケット本体12の加硫温度以上(好ましくは加硫温度を超える温度)を有する樹脂が加硫温度との関係において適宜選択されて使用される。樹脂例を示すと、例えば、全芳香族液晶樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリアリルエーテル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、充填剤入りポリアミドで、これらの耐熱温度は樹脂により前述のように150℃〜360℃である。ベース部材14はこれらから選択されるいずれかの樹脂材料で形成された略有底円筒状の部材であって、ガスケット本体12にインサートした場合の露出側面にピストンPの先端部の雄ネジ部p1が螺着されるネジ穴18が形成されており、かつ、当該ネジ穴18が外部に開口した状態で、インサート成形によりガスケット本体12の凹部16に嵌め込むようにして取り付けられている。
ベース部材14の形状としては、図1に示すように、ネジ穴18が形成された面と反対側の先端部がやや尖った略円柱状で、ネジ穴18が形成された面側の端部における側周面に、平面視外形が密閉部21として働く円形リング状の鍔(以下、鍔が密閉部21である場合を代表例として説明する。勿論、鍔でなく、別体のリング状のものでもよく、その場合はベース部材14の外周面とPTFEフィルム20の内周面とに接着していることが望ましい。)を一体で有するような形状である。そして、該鍔21の外周面がPTFEフィルム20で覆われた態様を示すものであり、接触面は本実施例の場合は密着しているが、シリカ微粒子層22を介して接着されていることが好ましい。
このような鍔21を設けることにより、ガスケット本体12が閉じ込められることになるので、ガスケット本体12内の異物が外部に漏洩することがない。
また、鍔21の径は、シリンダCの内径にほぼ等しい(鍔21の径が若干小さい)ことから、ベース部材14のネジ穴18にピストンPの先端部を螺着してガスケット10をシリンダC内に押し込んでいく際、鍔21がガスケット10の動きを適正にガイドするようになり、ガスケット10がシリンダC内で斜めに向いた状態で押し込まれるおそれがなくなる。
さらに、ベース部材14のネジ穴18にピストンPの雄ネジ(=ガスケット装着部p1)を螺着したとき、ガスケット装着部である雄ネジ部p1の基面p3(図2参照)と鍔21とが面接触することにより、ピストンPをベース部材14に対してより確実に固定することができる。
また、ベース部材14とガスケット本体12との接着力は不十分であるため、ベース部材14の側面には前述の窪み19aに嵌まり込む相対移動阻止部19が一体的に突設されている。(勿論、相対移動が阻止できれば相対移動阻止部19は別体であってもよい。)勿論、相対移動阻止部19はこのような形状に限られず、ベース部材14とガスケット本体12との接触面が細かい凹凸を有する粗面に構成されており、十分な摩擦保持力があればその接触面が相対移動阻止部19となる。
PTFEフィルム20は、ガスケット本体12におけるシリンダCの内面との摺動面(すなわち、ガスケット本体12の外周側面)および先端面に積層された、ガスケット本体12の摺動面に高い摺動性を付与する摺動性フィルムである。PTFEフィルム20の厚みは、ガスケット本体12への積層前において20μm以上80μm以下に設定されている。これは、PTFEフィルム20の厚みが20μm未満の場合、PTFEフィルム20を経済的に得るのが困難になり、逆に、PTFEフィルム20の厚みが80μmより大きい場合、ガスケット本体12の弾力性を十分に発揮させることができなくなるからである。もちろん、PTFEフィルム20以外の摺動性フィルムをガスケット本体12に積層してもよいが、ガスケット10に高い摺動性を付与するという目的に鑑みれば、PTFEフィルム20を用いるのが好適である。
また、PTFEフィルム20は、後述するようにプレス成形(圧縮成形)にてガスケット本体12に積層され(積層後におけるPTFEフィルム20の厚みは、10μm〜20μmになる。)、また、ガスケット本体12の弾力性を阻害しないようにするため、少なくとも250〜650%程度の伸び(より厳密にいえば、破断伸度)を示すものが好適である。なお、伸び率が300%以下の場合、後述するガスケット10の成形時(延伸時)にPTFEフィルム20が破れてしまうおそれがあることから、PTFEフィルム20として、変性、結晶制御、あるいは配向制御を行った、伸び率が300%以上のものを用いるのが更に好適である。
なお、PTFEフィルム20の製法は、キャスト法を用いてPTFEをシート状に形成する方法、PTFEをブロック状に成形した後、刃物でスライスする方法、あるいはスカイビング加工などを採用することができる。
ここで、PTFEフィルム20は、難接着性であり、架橋型ゴムとの接合力が極めて弱いという問題があることから、PTFEフィルム20とガスケット本体12との接合面には、「接着性改善処理」を施すことが必要であり、本実施例では、この「接着性改善処理」として、PTFEフィルム20とガスケット本体12との接合面にシリカ微粒子層22が設けられている。もちろん、これに替えて、「接着性改善処理」として、金属ナトリウムによる化学処理や、アルゴン雰囲気中でのプラズマ処理を行ってもよい。更に、PTFEフィルム20を配設した真空チャンバに、入手の容易な1,2−ブタジエンあるいは1,3−ブタジエンガスと、酸素との混合気体を導入した後、プラズマを用いて当該PTFEフィルム20の表面にブタジエンをプラズマ重合させてもよい。この場合、ガスケット本体12のソフトセグメントとしてポリブタジエン(BDR)を用いることで、ガスケット本体12側とPTFEフィルム20側とに同じ成分(この場合はブタジエン)が存在することになり、ガスケット本体12とPTFEフィルム20とを強固に接着させることができる。
シリカ微粒子層22は、バインダー22aとシリカ(SiO2)微粒子22bとからなり、シリカ微粒子22bが有する、ガスケット本体12との親和性およびアンカー効果により、難接着性のPTFEフィルム20とガスケット本体12とを強固に接合させることができる。シリカ微粒子層22を構成するシリカ微粒子22bは、PTFEフィルム20の表面において、バインダー22aからある程度露出した状態で接着されるとともに、この露出した部分がガスケット本体12及び鍔21の表面に食い込んでアンカー効果を発揮する。
PTFEフィルム20の表面にこのシリカ微粒子層22を形成する方法としては、具体的に以下の2つの方法が挙げられる。
1つ目の方法は、PTFEフィルム20の表面にシリカ微粒子22bを固着させるバインダー22aとしてPFA樹脂を用いる方法で、具体的には、PFA樹脂の水性分散液にシリカ微粒子22b及び界面活性剤を混合・攪拌して得た混合分散液を、公知の塗布方法(例えば、スプレー法やロール塗布法など)を用いてPTFEフィルム20の片面に均一に塗布し、図示しない炉に導入して100℃で乾燥した後、PTFEフィルム20の形状が保持できる装置を用いて250〜360℃でPFA樹脂の焼成を行う。
これによりバインダー22aであるPFA樹脂がPTFEフィルム20と一体化し、PTFEフィルム20の表面にシリカ微粒子22bを強固に固着させることができる。又、上記形状が保持できる装置並びに温度範囲で焼成することにより、PTFEフィルム20の伸びが低下するのを防止することができ、その結果、圧縮成形にて好適にガスケット10が製造(すなわち共成形)できるようになると共に、PTFEフィルム20がガスケット本体12の弾力性を阻害するのを防止することができる。
2つ目の方法は、PTFEフィルム20の表面にシリカ微粒子22bを固着させるバインダー22aとしてパーフルオロフッ素樹脂およびPFA粉末を混合したワニスを用いる方法で、具体的には、パーフルオロフッ素樹脂とシリカ微粒子22bとをパーフルオロ溶剤(例えば、旭硝子(株)製のCT−solv.100など)に分散して得たワニスを、公知の塗布方法を用いてPTFEフィルム20の片面に均一に塗布・乾燥・熱処理して形成する。かかる方法によれば、PTFEフィルム20の表面に効率よくシリカ微粒子層22を形成することができる。
ここで、上述のような各方法で形成されるシリカ微粒子層22の厚みは、0.5μm〜10μmの範囲内であることが好ましい。かかる範囲内であれば、PTFEフィルム20の伸びやガスケット本体12の弾力性を阻害することなく、両者を強固に接合することができるからである。
また、シリカ微粒子層22を構成するシリカ微粒子22bの平均粒径は、0.02μm〜10μmの範囲内であるのが好ましく、より好ましくは0.05μm〜2μmの範囲内である。シリカ微粒子22bの平均粒径が0.05μm未満の場合には、シリカ微粒子22bの取扱いが困難になると共に、当該シリカ微粒子22bを経済的に製造するのが困難になり、逆に、シリカ微粒子22bの平均粒径が10μmより大きい場合には、当該シリカ微粒子22bの比表面積が小さくなり、ガスケット本体12に対して十分なアンカー効果を発揮できなくなるからである。
シリンダCは(図2)、先端に針装着部c1、後端に指掛け部c2、これらの間に円筒状の薬液充填部c3が形成されており、本実施例では環状ポリオレフィンで形成されている。もちろん、シリンダCの形状は図示したものに限られず、また、シリンダCの材質には、ポリプロピレンやガラス等も使用することができる。
ピストンPは、先端部にガスケット装着部である雄ネジ部p1、後端に指当て部p2が設けられたロッド状の部材である。このピストンPのガスケット装着部には、上述したガスケット10におけるベース部材14のネジ穴18に螺着する雄ネジ部p1が形成されている。なお、このピストンPも上述のシリンダCと同様に、環状ポリオレフィン、ポリカーボネートおよびポリプロピレン等の樹脂やガラス等で構成されている。
キャップKは、基本的にシリンダCと同じ材料で形成されており、シリンダCの針装着部c1を気密的に覆ってシリンダC中に充填された薬液が不所望に当該針装着部c1から漏れ出すのを防止する役割を有している。
以上のようなプレフィルドシリンジAを製造する手順について、インサート成形によるガスケット10の製造手順を中心に説明する。
ガスケット10は、図4に示すように、金型Zを開き(図4(a))、予め所定の形状に成形されたベース部材14をインサートするとともに、上述したような方法で表面にシリカ微粒子層22が形成されたPTFEフィルム20を当該下型の開き面に載置し、然る後、当該下型の雌穴に合わせて加硫ゴムシート11をセットし、型閉を行ってベース部材14を当該下型の雌穴に圧入し(図4(b))、所定の温度で加硫する。
この時、PTFEフィルム20が金型に刻まれた所望の雌穴形状に引き込まれて延ばされつつガスケット外形形状に成形することになるが、PTFEフィルム20の成形が主として引き込みによって形成され、伸びは従であるため、PTFEフィルム20の圧入時の破断は大幅に解消される。そして、PTFEフィルム20は完成したガスケット10の外形状に延ばされると共に、ガスケット本体12がベース部材14のバックアップの下、シリカ微粒子層22を介してPTFEフィルム20と強固に接着する。そして、所定の加硫時間が経過後、型開きして金型から取り出し、必要に応じて不要部をトリミングすることにより、ガスケット10の製造が完了する。然る後、大量のガスケット10を無菌水(RO水)にて洗浄を行う。このガスケット10は、シリコンフリーなので、洗浄時に従来のようにガスケット10のネジ穴18に塗布したシリコンオイルが洗浄水中に流れ出してガスケット10の表面に付着するというようなことがない。
そして、製造されたガスケット10のネジ穴18に予め成形しておいたピストンPの先端部の雄ネジ部p1をシリコングリスレスでそのまま螺着し、然る後、同じく予め成形し、薬液Mを充填しておいたシリンダCにガスケット10を嵌め込み、120℃、20分間蒸気殺菌処理を行うことにより、プレフィルドシリンジAが完成する。この時、蒸気殺菌処理装置の設定温度が誤って120℃以上であったとしても、或いはより安全のために120℃以上の温度で殺菌処理を行ったとしても、加硫温度を越えない温度であるならば、ベース部材14の材質は加硫温度以上(好ましくはこれを超えた例えば150℃〜360℃)の耐熱性を有するので、処理温度が耐熱温度を越えない温度であればガスケット10の熱変形はない。
A …プレフィルドシリンジ
C …シリンダ
c1…針装着部
c2…指掛け部
c3…薬液充填部
P …ピストン
K …キャップ
10…ガスケット
12…ガスケット本体
14…ベース部材
16…凹部
18…ネジ穴
20…PTFEフィルム(摺動性フィルム)
21…鍔(密閉部)
22…シリカ微粒子層
22a…バインダー
22b…シリカ微粒子
C …シリンダ
c1…針装着部
c2…指掛け部
c3…薬液充填部
P …ピストン
K …キャップ
10…ガスケット
12…ガスケット本体
14…ベース部材
16…凹部
18…ネジ穴
20…PTFEフィルム(摺動性フィルム)
21…鍔(密閉部)
22…シリカ微粒子層
22a…バインダー
22b…シリカ微粒子
Claims (5)
- 摺動面および先端面が摺動性フィルムで覆われ、ピストンが取り付けられる面に凹部が形成された架橋型ゴム製のガスケット本体と、
前記ピストンの先端部の雄ネジ部が螺着されるネジ穴を有しており、前記ネジ穴が外部に開口した状態で前記凹部に取り付けられて前記ガスケット本体のピストン取付部となり、ガスケット本体の加硫温度以上の耐熱温度を有する樹脂製のベース部材と、
ガスケット本体とベース部材との間に設けられ、ベース部材の凹部からのガスケット本体の相対移動を阻止する相対移動防止部とで構成されたことを特徴とするシリンジ用ガスケット。 - ベース部材と摺動性フィルムとの間の開口部分に該開口部を密閉する密閉部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載したシリンジ用ガスケット。
- 前記ベース部材は、全芳香族液晶樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリアリルエーテル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、充填剤入りポリアミドから選択されるいずれかの樹脂材料で形成されている請求項1又は2に記載したシリンジ用ガスケット。
- 前記摺動性フィルムは、PTFEフィルムであり、前記ガスケット本体と前記PTFEフィルムとの接合面には、接着性改善処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載したシリンジ用ガスケット。
- 薬液が充填されたシリンダと、前記シリンダを密封する請求項1乃至4のいずれかに記載されたシリンジ用ガスケットと、前記シリンジ用ガスケットを前記シリンダの先端に向けて押し込む先端部の雄ネジ部が前記ネジ穴に螺着されたピストンとで構成されたプレフィルドシリンジ。
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-
2010
- 2010-06-07 JP JP2010129986A patent/JP2011254891A/ja active Pending
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