ディフューザ部に各種態様を伴う可動ベーンを有し、この可動ベーンの配置、構成或いは構造等により空気流量を可変とするコンプレッサを備える過給器においては、この可動ベーン周囲にデポジットが付着又は堆積することによる、或いはデポジットを噛み込むことによる動作の緩慢化を包括する概念としての、所謂渋り故障が発生することがある。この渋り故障は、過給圧の立ち上がりを緩慢化させ得るため、早急にその発生が検出される必要がある。
ところで、この種のコンプレッサ構成を有する過給器においては、排気側にも、排気流量を調整可能な可動ベーンを有する、例えばVNT(Variable Nozzle Turbine:可変ノズルタービン)等のタービン機構を備える場合が多い。
このように吸排気系に可動ベーンを備える構成においては、排気側の可動ベーンにもまた渋り故障の発生の可能性がある。ところが、特許文献1に開示されたように、単に機関制御量の実測値を基準値と比較するのみの故障検出態様では、いずれの可動ベーン機構の故障であるのかを切り分けることが実践上殆ど不可能である。
即ち、特許文献1に開示された技術には、コンプレッサ及びタービンが夫々可動ベーンを備える構成を有する過給器に適用された場合に、故障状態の検出精度が著しく低下するという技術的問題点がある。また、このような問題点は、同じく過給圧に基づいて故障を診断する特許文献2に開示される装置とて同様である。
尚、排気側可動ベーンと吸気側可動ベーンとでは、渋り故障発生時に採るべき措置が当然ながら異なり得るから、このように切り分けが困難であることは望ましくない。また、例え、故障検出時の採るべき措置がさして変わらないとしても、例えばメンテナンス等の観点から言って、いずれの可動ベーンが渋り故障を生じているのかについて確定している方が望ましいことは言うまでもない。
また、この種のベーンの渋り故障とは、言うなれば目標とする開度と実際の開度との乖離であり、開度相当値を検出可能なセンサが吸排気系に備わっている場合には、より簡便に検出することは不可能ではない。ところが、このようなセンサを設ける構成では、コストの増加は避け難い。
本発明は、係る技術的問題点に鑑みてなされたものであり、コンプレッサ側とタービン側とに可動ベーンを備える構成において、コンプレッサ側の可動ベーンの渋り故障を正確に検出し得る過給器の故障診断装置を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、本発明に係る過給器の故障診断装置は、内燃機関の排気通路に設置されると共に開閉状態に応じて排気圧を調整可能な排気側可動ベーン機構を備えるタービンと、前記内燃機関の吸気通路に設置されると共にディフューザ部に開閉状態に応じて空気流量を調整可能な吸気側可動ベーン機構を有するコンプレッサとを備えてなる過給器の故障状態を診断する過給器の故障診断装置であって、前記過給器の過給圧が初期過給圧から目標過給圧へ向けて、前記吸気側可動ベーン機構における前記開閉状態の閉弁側から開弁側への変化を伴って変化する変化期間において、前記過給圧における変曲点の有無を判定する第1判定手段と、前記変曲点が有ると判定された場合に、前記変曲点以降における前記過給圧の時間変化率に基づいて前記吸気側可動ベーン機構の故障状態を判定する第2判定手段とを具備することを特徴とする。
本発明において、「内燃機関」とは、燃料の燃焼エネルギを運動エネルギに変換して動力として取り出すことが可能な機関を包括する概念であり、例えば燃料種別、燃料の燃焼形態、気筒数、気筒配列、着火態様、燃料の供給態様、動弁系の構成或いは吸排気系の構成等、その実践的態様は、本発明に係る過給器を備える限りにおいて如何様にも限定されない趣旨である。
このような概念としての内燃機関の吸気通路には、例えば、VGD(Variable Geometry Diffuser:可変ジオメトリディフューザ)或いはVD(Variable Diffuser:可変ディフューザ)等の呼称を伴う各種の吸気側可動ベーン機構を有する、例えばVGC等可変容量型のコンプレッサが備わる。
ここで、吸気側可動ベーン機構は、コンプレッサにおける、流体(ここでは、コンプレッサインペラにより圧縮された吸入空気である)の運動エネルギの一部を圧力エネルギに変換することが可能な整流装置としてのディフューザ部に、常時或いは選択的に、整流子としての複数のベーン(羽根状の部材である)を備える構成を採り、これらベーンの開閉状態に応じて流体の流路面積を可変とすることにより、コンプレッサの空気流量を変化させることが可能である。尚「ベーン機構」とは、好適には、当該ベーンを開閉させるための開閉機構及び当該開閉機構に駆動力を与える駆動装置等を適宜に包含し得る。
吸気側可動ベーン機構の構成は、コンプレッサ側にこの種の空気流量可変機能を付帯し得る限りにおいて限定されるものではなく、吸気側可動ベーン機構は、ベーンの状態を、例えばディフューザ部に突出した突出状態と、ディフューザ部の外部空間に没入した没入状態との間で切り替え可能な、所謂スライド式ベーン機構であってもよいし、ベーンが常時ディフューザ部に配置される代わりに、これらベーンがディフューザ部で、吸入空気の流路構成に影響を及ぼし得るように回転又は回動可能に構成された、所謂回転式ベーン機構であってもよいし、これらが複合された態様を有するものであってもよい。
尚、可動ベーン機構が所謂スライド式ベーン機構として構成される場合、空気流量を規定する「開閉状態」とは、上記突出状態と上記没入状態とを意味するものであってもよい。また、可動ベーン機構が所謂回転式ベーン機構として構成される場合、当該「開閉状態」とは、好適には、基準状態に対する開弁又は閉弁の度合いを規格化してなる、所謂「開度」なる概念により規定されてもよい。
また、可動ベーン機構に係る「ベーン」とは、好適な一形態として羽根状の部材を意味するが、可動ベーン機構の概念に鑑みれば、その物理的動作が空気流量の大小変化に影響を及ぼし得る部材は、全て本発明に係るベーンの範疇であり、その形状、構成及び構造等は、一般に「ベーン」なる言葉から想達し得る範囲を超え得るものである。
一方、内燃機関の吸気通路には、例えば、VN(Variable Nozzle:可変ノズル)等の呼称を伴う各種の排気側可動ベーン機構を有する、例えばVNT等可変容量型のタービンが備わる。排気側可動ベーン機構は、概念的には、吸気側可動ベーン機構と同様であり、例えば、タービンへの排気の流路面積をベーン(例えば、ノズルベーン)の動作状態に応じて変化させ、タービンへ導かれる排気の流速若しくは流量又はその両方を変化させるものである。
本発明に係る過給器の故障診断装置は、このような過給器の故障状態を診断する装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、ECU(Electronic Control Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ等の実践的態様を採り得る。尚、これらには必要に応じて更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等が内蔵又は付設されていてもよい。
尚、「故障状態」とは、故障しているか否かの二値的な状態並びに故障の度合い及び故障部位を含む多値的な状態を含む包括概念である
本発明に係る過給器の故障診断装置によれば、第1判定手段により、変化期間における過給圧の変曲点の有無が判定される。
ここで、本発明に係る「変化期間」とは、過給圧が、初期過給圧から目標過給圧へ向けて変化する期間であり、且つ前記吸気側可動ベーン機構における開閉状態の、閉弁側から開弁側への変化を伴う期間を意味する。初期過給圧及び目標過給圧は、夫々、吸気側可動ベーンの渋り故障が実際の過給圧の時間推移に十分に影響し得る程度に異なっている限りにおいて、如何なる値であってもよい。
一方、吸気側可動ベーン機構における渋り故障とは、吸気側可動ベーン機構の開閉状態が変化する際に発生する、一時的恒久的の別を問わない一種の過渡現象であり、開閉状態が一の状態に維持される場合には顕在化することがない。従って、このような閉じ側から開き側への開閉状態の変化(このような変化は、二値的、段階的又は連続的の別を問わない)が必要となるのである。
他方、このような変化期間において第1判定手段によりその有無が判定される「過給圧の変曲点」とは、過給圧の時間推移を規定する時間特性線の曲がる方向が変化する点を意味し、数学的に言えば、過給圧の時間二階微分値の符合が変化する点を意味する。この変曲点は、その発生タイミングが吸気側可動ベーン機構における渋り故障の発生タイミングと相関する。即ち、渋り故障が発生すると、望ましい過給圧上昇特性に対して過給圧の上昇が緩慢化することに起因して、過給圧の時間推移に変曲点が現れる。
第1判定手段が変曲点の有無を判定するにあたっての実践的態様は、特に限定されず、また吸気側可動ベーン機構の構成に応じても適宜変化し得る。例えば、第1判定手段が、過給圧の時間変化率を例えば一定の制御周期でモニタし得る場合には、上述した時間二階微分処理等を伴う演算処理の結果としてリアルタイムに変曲点が検出され得る。また、変化期間において開閉状態が二値的に切り替わる、例えば、上述したストローク式の吸気側可動ベーン機構の場合、変曲点が現れ得るタイミングは、吸気側可動ベーン機構の状態が、突出状態から没入状態へと切り替わるタイミングに相当するから、この切り替わりタイミングに相前後して過給圧の時間変化率を比較すれば、比較的簡便に変曲点の検出を実現することも可能である。
ここで特に、実践的見地から言えば、実際の空気流の振る舞いは厳密には一定ではない。従って、変曲点は、必ずしも吸気側可動ベーン機構の渋り故障と一対一には対応しない場合もある。例えば、瞬間的に過給圧が上下変動するだけでも、この種の変曲点は出現し得るし、また検出され得るのである。そこで、本発明に係る過給器の故障診断装置においては、このような変曲点の検出が、渋り故障の判定の一成立条件として利用される。
即ち、本発明に係る過給器の故障診断装置によれば、第1判定手段により、このような変曲点が有るものと判定された場合において、第2判定手段が、当該変曲点以降における過給圧の時間変化率に基づいて、吸気側可動ベーン機構の故障状態を判定する。尚、ここで言う「故障状態の判定」とは、少なくとも渋り故障の有無に係る判定を含むものである。
吸気側可動ベーン機構に渋り故障が発生した場合、それが極一時的なものであれば、過給圧の変化に対する影響は小さく、一種の恒常的な渋り故障(例えば、デポジットを噛み込んだままで開閉状態が変化する状態など)では、変曲点以降の過給圧の変化は継続的に緩慢となる。従って、例えば、変曲点検出以降の時間領域において、一定の制御周期で当該時間変化率を取得し、その時間推移を所定の基準に従って判断すれば、吸気側可動ベーン機構に渋り故障が生じているか否かを高精度に判定することが可能となる。
また、このような渋り故障は、あくまで吸気側可動ベーン機構の開き側への動作を緩慢化するものであって、例えば固着とは異なる現象である。従って、経過時間の差はあれ、最終的には、過給圧は目標過給圧相当値に収束する。その点に鑑みれば、リアルタイム性が要求されない場合(即ち、渋り故障の有無が検出されさえすればよい場合)には、目標過給圧到達前後における過給圧の時間変化率を然るべき基準値(例えば、予めリファレンス値として保持する正常時の値)と比較する等しても、高精度な故障状態の判定が可能である。
このように、本発明に係る過給器の故障診断装置は、排気側可動ベーン機構及び吸気側可動ベーン機構の各々における渋り故障が過給圧の時間推移に与える影響が、当該各々相互間で異なる点を利用して、吸気側可動ベーン機構における渋り故障の発生を、排気側可動ベーン機構における渋り故障の発生と区別して検出することができるのである。
本発明に係る過給器の故障診断装置の一の態様では、前記初期過給圧は、定常圧相当値である。
この態様によれば、定常圧相当値からの過給圧上昇に際して故障診断が実行される。定常圧相当値とは、即ち、故障診断の実行前において十分に安定な過給圧であり、好適にはその時点の大気圧相当値である。尚、このような定常圧相当値は、例えば、車両が定常走行状態にある場合や、低速走行状態にある場合、或いは車両が停止状態にある場合等の過給圧を意味する。
このように定常圧相当値からの過給圧の変化は、車両の運転条件にもよるものの比較的大きく、吸気側可動ベーンの故障状態を比較的明確に反映するため、好適である。
本発明に係る過給器の故障診断装置の他の態様では、前記第2判定手段は、前記変曲点以降における過給圧の時間変化率が基準値未満である場合に前記吸気側可動ベーン機構に渋り故障が生じていると判定する。
この態様によれば、例えば、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、吸気側可動ベーンに渋り故障が生じている旨を正確に切り分けつつ誤判定を防止し得るように定められる等した基準値と過給圧の時間変化率との相対比較に基づいて、比較的簡便に且つ高精度に吸気側可動ベーン機構における渋り故障の有無を判定することができる。
本発明に係る過給器の故障診断装置の他の態様では、前記第2判定手段は、前記変曲点が有ると判定された場合であって、且つ、前記変曲点における前記コンプレッサの空気流量が、前記初期過給圧に対応する前記吸気側可動ベーン機構の初期開度における前記コンプレッサのチョーク限界流量よりも大きい場合に、前記変曲点以降における過給圧の時間変化率に基づいて前記吸気側可動ベーン機構の故障状態を判定する。
吸気側可動ベーンの開閉状態は、コンプレッサのサージ限界及びチョーク限界を規定する要素である。例えば、空気流量相当値(例えば、空気流量)と過給圧相当値(例えば、コンプレッサの前後圧力比)とを座標軸に配してなる動作点平面(即ち、当該平面上の座標点は、過給器の一動作点となり得る)において、サージ限界及びチョーク限界を夫々サージ限界線及びチョーク限界線として表した場合、これらは、閉じ側から開き側への開閉状態の変化に対して、高負荷側(空気流量が大きくなる側)へ順次遷移する。
一方、先述したように、吸気側可動ベーン機構の渋り故障は、開閉状態の変化を伴う、言い換えれば、チョーク限界の変化を伴う変化期間の途中で顕在化する現象であり、検出された変曲点が、吸気側可動ベーン機構に渋り故障が生じていることに起因する変曲点であるならば、変曲点におけるコンプレッサの空気流量は、少なくとも初期過給圧に対応する初期開度におけるチョーク限界流量よりも大きくなる。係る関係が得られない場合、開閉状態が変化する以前で過給圧の変化が緩慢化したことになるから、少なくとも渋り故障は発生していないことになる。
この態様によれば、このようにチョーク限界流量と変曲点における空気流量との比較に基づいて第2判定手段に係る判定動作がなされるため、吸気側可動ベーンの渋り故障をより高精度に検出することが可能となる。
本発明に係る過給器の故障診断装置の他の態様では、前記過給器の故障診断装置は、前記変化期間における前記過給圧の時間変化率に基づいて前記排気側可動ベーン機構の故障状態を判定する第3判定手段を更に具備する。
先に述べたように、吸気側可動ベーン機構の渋り故障と、排気側可動ベーンの渋り故障とでは、過給圧の時間推移が異なっており、具体的には、排気側可動ベーン機構に渋り故障が生じた場合、過給圧の時間推移は、過給圧の立ち上がり初期から緩慢となる。
この態様によれば、このような両者間の差異を利用した第3判定手段に係る判定動作によって、排気側可動ベーン機構の故障状態が正確に判定されるため実践上有益である。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の好適な各種実施形態について説明する。
<第1実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る車両10の構成について一部その動作を交えて説明する。ここに、図1は、車両10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
図1において、車両10は、本発明に係る「車両」の一例であり、ECU100、エンジン200及びターボ過給器300を備える。
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、エンジン200及びターボ過給器300の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「過給器の故障診断装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する故障診断制御を実行可能に構成されている。
尚、ECU100は、本発明に係る「第1判定手段」、「第2判定手段」及び「第3判定手段」の夫々一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、これら各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のCPU、MPU(Micro Processing Unit)、ECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いは各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
エンジン200は、ガソリンを燃料とする、本発明に係る「内燃機関」の一例たる直列4気筒ガソリンエンジンである。エンジン200の概略について説明すると、エンジン200は、シリンダブロック201に4本の気筒202が並列した構成を有している。燃料たるガソリンは吸気ポートに噴射され、吸入行程において、空気と混合された混合気として気筒内部に吸入される。この気筒内部において、吸入空気は、圧縮行程における着火装置の着火制御により着火し、燃焼室内で燃焼する。
この燃焼に伴う燃焼エネルギは、不図示のピストン及びコネクティングロッドを介してクランクシャフト(不図示)を駆動することにより運動エネルギに変換される。このクランクシャフトの回転は、車両10の駆動輪に伝達され、当該車両の走行が可能となる。
尚、本発明において、「内燃機関」とは、燃料の燃焼エネルギを運動エネルギに変換して動力として取り出すことが可能な機関を包括する概念であり、例えば燃料種別、燃料の燃焼形態、気筒数、気筒配列、着火態様、燃料の供給態様、動弁系の構成或いは吸排気系の構成等、その実践的態様は、エンジン200のものに限定されない。
排気行程において各気筒から排出される排気は、排気マニホールド203に集約され、排気マニホールド203に接続された排気管204に導かれる。ここで、車両10は、ターボ過給器300を備えており、排気管204に導かれた排気は、このターボ過給器300の後述するタービンブレード312に熱エネルギを供与した後、下流側の触媒装置(不図示)に導かれる構成となっている。尚、ターボ過給器300の詳細については後述する。
一方、上流側吸気管205には、不図示のエアクリーナを介して外界から空気が吸入される。この吸入空気は、ターボ過給器300を構成する後述のコンプレッサインペラ342の回転により圧縮され、コンプレッサ340の下流側に設置された下流側吸気管206に供給されると共に、この下流側吸気管206に設置されたインタークーラ207へ供給される。インタークーラ207は、圧縮後の吸入空気を冷却して過給効率を向上させるための冷却装置である。
下流側吸気管206におけるインタークーラ207の下流側には、スロットル弁208が設置されている。スロットル弁208は、開閉状態に応じて吸入空気を調量する弁である。
下流側吸気管206は、スロットル弁208の下流側において吸気マニホールド209に連結されている。吸気マニホールド209は、シリンダブロック201内に形成された各気筒に対応する吸気ポートに接続されている。吸気マニホールド209に導かれた吸入空気は、この吸気ポートにおいて霧状に噴射されるガソリンと混合され、先に述べたように、各気筒における不図示の吸気弁の開弁時に気筒内に吸入される。
上流側吸気管205には、エアフローメータ210が設置されている。エアフローメータ210は、外界から吸入される吸入空気の量たる空気流量Gaを検出可能なセンサである。エアフローメータ210は、ECU100と電気的に接続されており、検出された空気流量Gaは、ECU100により適宜参照される構成となっている。尚、空気流量Gaは、本発明に係る「コンプレッサの空気流量」の一例である。
上流側吸気管205には、第1圧力センサ211が設置されている。第1圧力センサ211は、上流側吸気管205における吸入空気の圧力、即ち、コンプレッサ入口圧P0を検出可能に構成されたセンサである。第1圧力センサ211は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたコンプレッサ入口圧P0は、ECU100によって適宜参照される構成となっている。尚、コンプレッサ入口圧P0は、実質的に大気圧と同等である。
下流側吸気管206には、第2圧力センサ212が設置されている。第2圧力センサ212は、下流側吸気管206における吸入空気の圧力、即ち、コンプレッサ出口圧としての過給圧P3を検出可能に構成されたセンサである。第2圧力センサ212は、ECU100と電気的に接続されており、検出された過給圧P3は、ECU100によって適宜参照される構成となっている。
車両10では、コンプレッサ入口圧P0と過給圧P3との比たる圧力比Rp(Rp=P3/P0)が、ECU100により常時算出され把握される構成となっている。
ターボ過給器300は、排気熱を回収してタービンブレード312を回転駆動し、当該タービンブレード312と一体に回転するコンプレッサインペラ342の流体圧縮作用を利用して吸入空気を大気圧以上に過給可能な、本発明に係る「過給器」の一例である。
ターボ過給器300は、VNT(Variable Nozzle Turbine:可変ノズルタービン)310、VNTアクチュエータ320、ターボ回転軸330、VGC(可変ジオメトリコンプレッサ)340及びVGCアクチュエータ350を備える。
VNT310は、タービンハウジング311、タービンブレード312及びノズルベーン313を備える。
タービンハウジング311は、タービンブレード312及びノズルベーン313を収容する筐体である。
タービンブレード312は、排気管204に導かれた排気の圧力(即ち、排気圧)によりターボ回転軸330を中心として回転可能に構成された、金属製或いはセラミック製の回転翼車である。
ノズルベーン313は、タービンハウジング311においてタービンブレード312に対する排気の入り口に相当する排気インレット部に、タービンブレード312を囲むように等間隔で複数設置された、本発明に係る「排気側可動ベーン機構」の一例たる羽根状部材である。これらノズルベーン313の各々は、不図示のリンク式回動機構により所定の回転軸を中心として当該排気インレット部内で一斉に回動可能であり、その開閉状態に応じて、排気管204とタービンブレード312との連通面積(ノズルベーンによって規定される排気流路の流路面積である)を変化させることが可能である。当該連通面積は、ノズルベーン313が全閉状態である場合に最小となり、全開状態である場合に最大となる。
ここで、連通面積が小さくなれば排気の流速が高まるため、排気量が比較的小さい軽負荷領域においては、このノズルベーン313を閉じ側に制御することによって、効率的にタービンブレード312を駆動することが可能となる。
VNTアクチュエータ(VNTA)320は、ノズルベーン313を回動させる上述したリンク式回動機構に備わる各リンクに対し、ノズルベーン313を一斉に回動させるための駆動力を付与可能な油圧式のアクチュエータである。このVNTアクチュエータ320における油圧制御ユニットは、ECU100と電気的に接続されており、ノズルベーン313の開閉状態は、エンジン200の運転条件に応じてECU100により制御される構成となっている。尚、VNTアクチュエータ320は、電動式のアクチュエータであってもよい。
尚、ノズルベーン313の制御態様は、公知のものであってよく、ここではその詳細を省略する。但し、定性的には、軽負荷領域においては先述したようにノズルベーン313は閉じ側に制御され、高負荷領域においてはノズルベーン313による排気の調速作用は必要ないため、エンジン背圧の上昇を避けるべくノズルベーン313は開き側に制御される。
ターボ回転軸330は、タービンブレード312と後述するコンプレッサインペラ342とを連結する回転軸体である。ターボ回転軸330により相互に連結された構成を採るため、コンプレッサインペラ342とタービンブレード312とは略一体に回転する。
VGC340は、コンプレッサハウジング341、コンプレッサインペラ342、ディフューザベーン343及びディフューザ344を備える。
コンプレッサハウジング341は、コンプレッサインペラ342、ディフューザベーン343及びディフューザ344を収容する筐体である。
コンプレッサインペラ342は、エアクリーナを介して外界から上流側吸気管205に吸入された空気を、タービンブレード312の回転に伴う回転により生じる圧力により下流側吸気管206へ圧送供給可能に構成されている。このコンプレッサインペラ342による吸入空気の圧送効果により、所謂過給が実現される構成となっている。
ディフューザベーン343は、コンプレッサハウジング341においてコンプレッサインペラ342を介して供給される吸入空気の流速を調整して圧力エネルギを取り出すディフューザ344に、コンプレッサインペラ342を囲むように等間隔で複数設置された羽根状部材である。
このディフューザベーン343は、先述したノズルベーン313と異なり、ディフューザ344内での位置が固定されている。一方で、ディフューザベーン343は、VGCアクチュエータ350の作用により、その位置状態として、ディフューザ344内に突出した突出状態と、ディフューザ344外に没入した没入状態とを採ることが可能である。
ここで、図2を参照し、ディフューザベーン343の位置状態について説明する。ここに、図2は、VGC340の模式的な拡大平面断面図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には、同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
図2において、VGC340は、格納部345を備える。格納部345は、コンプレッサインペラ342のタービンブレード312側においてコンプレッサハウジング341に固定された、コンプレッサインペラ342と連通する空間である。尚、格納部345は、コンプレッサハウジング341と一体に構成されていてもよい。
一方、各ディフューザベーン343は、リンクロッド(符号省略)を介して油圧ダイアフラム(符号省略)に形成された油圧室353内に往復運動可能に設置されたピストン354に固定されている。
他方、図2において、VGCアクチュエータ350は、油圧コントローラ(OPC)351、油圧供給路352を備える。
油圧コントローラ351は、油圧供給路352を介して油圧室353に加わる油圧を制御する装置である。油圧コントローラ351は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によりその駆動状態が制御される構成となっている。
ここで、油圧コントローラ351を介して油圧室353に然るべき油圧が加えられると、ピストン354は、図2において左方向へ移動する。ピストン354には、リンクロッドを介してディフューザベーン343が連結されているため、ピストン354がこのように移動すると、ディフューザベーン343もまた図2における左方向、即ちディフューザ344側に移動する。その結果、ディフューザベーン343は、ディフューザ344内に突出した突出状態となる。図2(a)には、ディフューザベーン343の位置状態が、この突出状態である様子が示される。
一方、油圧コントローラ351を介して油圧室353の油圧が然るべき格納側油圧まで低下すると、ピストン354は、図2において右方向へ移動する。従って、このピストン354に連結されたディフューザベーン343もまた図2における右方向、即ちディフューザ344から離間する側に移動する。その結果、ディフューザベーン343は、ディフューザ344内に突出した上述の突出状態から、格納部345に没入した没入状態となる。図2(b)には、ディフューザベーン343の位置状態が、この格納状態である様子が示される。
尚、本実施形態では、ディフューザベーン343が、油圧室353を有する油圧ダイアフラムにより駆動される構成としたが、これは一例に過ぎず、油圧ダイアフラムは、例えば、空気圧式ダイアフラムであってもよい。この場合、上述の説明において「油圧」を適宜「空気圧」と置き換えればよい。
<実施形態の動作>
続いて、本実施形態の動作について説明する。
<ターボ過給器300の駆動制御>
始めに、図3を参照し、ターボ過給器300の動作特性について説明する。ここに、図3は、空気流量Gaと圧力比Rp(Rp=P3/P0)との関係を概念的に説明する図である。
図3において、横軸には空気流量Gaが、縦軸には圧力比Rpが夫々表されている。
図3には、ディフューザベーン343の上述した突出状態と没入状態とに夫々対応するサージ限界線Sg(細い実線参照)及びチョーク限界線Chk(細い破線参照)が示される。
突出状態(即ち、開度で言えば、閉じ側の開度を意味する)に対応するサージ限界線Sg及びチョーク限界線Chkが、夫々図示サージ限界線Sg_cl及びチョーク限界線Chk_clであり、没入状態(即ち、開度で言えば、開き側の開度を意味する)に対応する両線が、夫々サージ限界線Sg_op及びチョーク限界線Chk_opである。
サージ限界線Sgとは、ターボ過給器300を構成するVGC340のサージ限界を規定する線であり、サージ限界線Sgよりも小空気流量側(図中左側)の領域或いは高圧力比側(図中上側)の領域がサージ領域であることを意味する。サージ領域においては、コンプレッサインペラ342に圧力変動としてのサージが生じて、ターボ過給器300の過給効率が極端に低下する。
チョーク限界線Chkとは、ターボ過給器300を構成するVGC340のチョーク限界を規定する線であり、チョーク限界線Chkよりも大空気流量側(図中右側)の領域或いは高圧力比側(図中上側)の領域が一種の過回転領域であることを意味する。実践的には、空気流量を増す側の動作点変化の折には、動作点がこの過回転領域に突入することはなく、動作点がチョーク限界線Chkに到達すると、それ以降はこのチョーク限界線Chkに沿って圧力比Rpは極端に低下する。
即ち、ターボ過給器300は、動作点がこのサージ限界線とチョーク限界線とに囲まれた領域に位置するように制御される。より具体的には、ターボ過給器300の動作点は、図示正常時動作線に沿って移動するように制御され、正常時動作線がチョーク限界線を超えないように、然るべきタイミングでディフューザベーン343の開閉状態が切り替えられるのである。
ところで、過給圧P3の低下だけを見れば、実はVNTのノズルベーン303が閉じ側固着した場合にも生じ得る。従って、単にその時点の過給圧P3だけを参照しても、ノズルベーン303の閉じ側固着とディフューザベーン308の閉じ側固着とを切り分けることができない。これらの切り分けが出来ないと、ターボ過給器300の実践的運用形態を、安全側に整合させるよりないから、ターボ過給器300の動作を最適化することが難しくなる。
<故障診断制御の詳細>
次に、図4を参照し、ECU100により実行される故障診断制御の詳細について説明する。ここに、図4は、故障診断制御のフローチャートである。
図4において、ECU100は、故障診断条件であるか否かを判別する(ステップS101)。故障診断条件とは、故障診断を実質的に有意に行い得る条件であり、本実施形態では、ディフューザベーン343の開閉状態の開弁側への切り替えを伴う(即ち、没入状態への移行を伴う)過給圧の上昇が要求された場合を意味する。また、その時点での過給圧P3を意味する初期過給圧Pbaseの変動レベルが大きい場合には、故障の診断精度が低下するため、ECU100は、ディフューザベーン343の開弁状態の開弁側への切り替えを伴う過給圧上昇要求時であって、且つ初期過給圧Pbaseが定常圧である場合に、故障診断を実行する。故障診断条件が満たされない場合(ステップS101:NO)、処理はステップS101に戻される。
故障診断条件が満たされる場合(ステップS101:YES)、ECU100は、過給圧P3の時間変化率dPの計測を開始する(ステップS102)。
過給圧時間変化率dPの計測が開始されると、ECU100は、第1検出期間における当該過給圧時間変化率を意味するdP1が正常値であるか否かを判別する(ステップS103)。
ここで、図5を参照し、故障診断制御に係る過給圧の時間推移について説明する。ここに、図5は、過給圧の時間推移を例示する図である。
図5において時刻T0に過給圧時間変化率dPの計測が開始されたとする。ここで、ターボ過給器300の最終的な目標過給圧が図示Ptgであるとすると、目標過給圧は、図示L_ptg(細い破線参照)に沿って、時刻T1において最終目標値であるPtgに到達する。上述の第1検出期間とは、時刻T0から、ターボ過給器300の目標過給圧がこのPtgに設定される時刻T1までに相当する期間である。
尚、この第1検出期間は、ディフューザベーン342の開閉状態の切り替えがなされない期間でもある。
一方、図5には、このような目標過給圧の設定に伴うターボ過給器300の正常時における過給圧P3の時間推移として、正常時過給圧線L_pnml(実線参照)が示される。即ち、図5においては、時刻T1における目標過給圧Ptgの設定に対し、それより遅れた時刻T2において、実際の過給圧が目標過給圧Ptgに到達する。正常時過給圧線L_pnmlに相当する正常時の過給圧の上昇特性は、予め初期過給圧と目標過給圧とに対応付けられて数値化され、制御マップとしてROMに格納されている。
図4に戻り、ECU100は、第1検出期間の過給圧時間変化率dP1が、制御マップから取得された正常時過給圧線の傾き(ここでは、図5のL_pnmlの傾き)と整合するか否かを判別し、これらが整合する場合には、第1検出期間における過給圧時間変化率dP1が正常であると判別する(ステップS103:YES)。また、これらが整合しない場合、第1検出期間における過給圧時間変化率dP1が正常ではないと判別する(ステップS103:NO)。
尚、「整合する」とは、必ずしも一致することのみを含むものではなく、正常時の過給圧変化率に対し所定割合内に含まれることを含む。このような所定割合は、予め実験的に適合され、ROMに格納されている。
第1検出期間の過給圧時間変化率dP1が正常値でない場合、ECU100は、VNT310に渋り故障が生じている旨の故障診断を行う(ステップS104)。一方、第1検出期間の過給圧時間変化率dP1が正常値である場合、ECU100は、第2検出期間の過給圧時間変化率dP2が正常値であるか否かを判別する(ステップS105)。
ここで、再び図5を参照すると、正常時の過給圧は、時刻T2において目標過給圧Ptgに到達する。一方、時刻T1から時刻T2に至る期間の一経過時点においては、ディフューザベーン342における開閉状態の切り替えが遂行される。第2検出期間とは、このディフューザベーン342の開閉状態の切り替え実行時点から、時刻T2までに相当する期間である。
図4に戻り、ステップS105において、ECU100は、第2検出期間における過給圧時間変化率dP2が、正常時の過給圧時間変化率に対し補正係数を乗じてなる判定基準値未満であるか否かを判別する。過給圧時間変化率dP2が当該判定基準値未満である場合(ステップS105:NO)、ECU100は、VGC340に渋り故障が生じている旨の故障診断を行う(ステップS106)。一方、過給圧時間変化率dP2が当該判定基準値以上である場合(ステップS105:YES)、ECU100は、ターボ過給器300が正常である旨の故障診断を行う(ステップS107)。
ステップS104、S106又はS107が実行されると、夫々に対応するフラグ設定が更新され(ステップS108)、処理がステップS101に戻される。故障診断制御は以上のように実行される。
ここで、再度図5を参照すると、VNT310におけるノズルベーン313の開度は、過給圧の立ち上がり時点から開始されるため、VNT310に渋り故障が生じている場合、過給圧の時間推移は、図示L_pvntfl(鎖線参照)の如くに、過給圧の立ち上がり時点から緩慢となる。
それに対して、VGC340に渋り故障が生じている場合、ディフューザベーン342の開閉状態切り替え時点までは、ディフューザベーン342が固定されているため、過給圧の推移が正常である。一方、開閉状態切り替え以後は、この渋り故障の影響によって過給圧の変化が緩慢となり、目標過給圧への到達は大幅に遅れる。即ち、過給圧の時間推移は、図示L_pvgcfl(破線参照)の如くとなって、第2検出期間における過給圧変化率dP2は、正常値に対して大きく低下する。従って、正常値に対し誤差分を排除すべく補正係数を乗じてなる判定基準値との比較によって、VGC340の渋り故障を正確に検出することができるのである。
このように、本実施形態によれば、渋り故障発生時に過給圧の時間推移に与える影響の相違に基づいて、VGC340におけるディフューザベーン343の渋り故障を正確に検出することができる。
<第2実施形態>
次に、ターボ過給器300の構成が異なる本発明の第2実施形態について説明する。
始めに、図6を参照し、第2実施形態に係る車両20の構成について説明する。ここに、図6は、車両20の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図6において、車両20は、ターボ過給器300の代わりにターボ過給器301を備える点において、第1実施形態に係る車両10と相違している。また、ターボ過給器301は、VGC340に代えてVGC360を備え、且つVGCアクチュエータ350に代えてVGCアクチュエータ370を備える点において、第1実施形態に係るターボ過給器300と相違している。
第2実施形態に係る車両20において、VGC360は、ディフューザベーン361を備える。ディフューザベーン361の各々は、不図示のリンク式回動機構(VNTのノズルベーンと同様のものである)により、所定の回転軸を中心として当該ディフューザ344内で一斉に回動可能であり、その開閉状態に応じて、ディフューザ344における吸入空気の流路面積を変化させることが可能である。
尚、VGCアクチュエータ370は、このリンク式回動機構の各リンクに対し、ディフューザベーン361の回動を促す駆動力を付与可能な公知のアクチュエータである。VGCアクチュエータ370もまた、ECU100と電気的に接続され、ECU100によりその動作が制御される構成となっている。
ここで、図7を参照し、ディフューザベーン361の構成について説明する。ここに、図7は、コンプレッサインペラ342から上流側吸気通路205の方向を見た概略平面図である。尚、同図において、図4と重複する箇所には、同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
図7において、コンプレッサインペラ342の外周部には、複数のディフューザベーン361が配設される。このディフューザベーン361は、ディフューザベーン343と異なり、ディフューザ344外へ格納されることはなく、その代わりに、ディフューザ344内で回動可能に構成されている。
図5(a)には、ディフューザベーン361が基準位置にある場合が示される。基準位置とは、ディフューザベーン361によって規定される吸入空気の流路面積が最小となる位置であり、開度で言えば、最小開度に相当する。
一方、図5(b)には、ディフューザベーン361が、上記基準位置から回転角α(矢線参照)で回動した状態が示される。基準位置に対し回転した状態では、基本的に、回転角αが大きい程、ディフューザベーン361により規定される吸入空気の流路面積が大きくなる。
流路の連通面積が小さくなれば吸入空気の流速が高まるため、過給効果が比較的小さい軽負荷領域においては、このディフューザベーン361を閉じ側(最小開度側)に制御することによって、過給効率を向上させることが可能となる。一方、ディフューザベーン361の回転角を一定に維持したまま過給を行うと、吸入空気量が、チョーキングが発生するチョーク流量に到達してチョーキングを生じさせる可能性が高くなる。そのため、ディフューザベーン361は、軽負荷運転から高負荷運転への移行(概ね、過給圧の上昇と一義的である)に伴って、段階的に開き側、即ち回転角が増大する側へ駆動制御される。尚、ディフューザベーン361の回転角αは、不図示の回転角センサにより検出され、回転角センサと電気的に接続されたECU100が適宜参照可能となっている。
次に、図8を参照し、第2実施形態に係る故障診断制御について説明する。ここに、図8は、故障診断制御のフローチャートである。尚、同図において、図4と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図8において、ECU100は、過給圧変化率dPの計測を開始すると(ステップ102)、過給圧立ち上がり初期の過給圧変化率dPstが正常値であるか否かを判別する(ステップS201)。過給圧変化率dPstが正常値でない場合(ステップS201:NO)、ECU100は、VNT310に渋り故障が発生したものと診断する(ステップS104)。
ここで、過給圧立ち上がり初期とは、過給圧変化率計測開始時点を0、正常時の過給圧が目標過給圧Ptgに到達する時点を100として規格化した場合に、概ね0〜10に相当する期間である。尚、正常時における過給圧時間変化率は、初期過給圧、目標過給圧及び当該経過時点に対応付けられる形でマップ化されており、ECU100は、該当する正常時の過給圧変化率をROMから取得することができる。但し、これは一例であり、例えば、ECU100は、予め与えられた、過給圧変化開始時点からの経過時間に対する過給圧の時間応答遅延データに基づいて、初期過給圧からの任意の時間が経過した時点についての、正常時の過給圧変化率を算出してもよい。
一方、過給圧立ち上がり初期の過給圧変化率dPstが正常値である場合(ステップS201:YES)、ECU100は、変曲点判定処理を開始し(ステップS202)、変曲点xが存在するか否かを判別する(ステップS203)。変曲点xとは、過給圧変化率dPの時間微分値、即ち、過給圧P3の時間二階微分値の符号が反転する点であり、一時的にせよ恒常的にせよVGC360にディフューザベーン361の渋り故障が生じている場合に顕在化する点である。
変曲点xが存在する場合(ステップS203:YES)、ECU100は、変曲点xが検出された時刻txを記憶し(ステップS204)、過給圧立ち上がり後期の過給圧変化率dPendが正常値であるか否かを判別する(ステップS205)。
ここで、過給圧立ち上がり後期とは、過給圧変化率計測開始時点を0、正常時の過給圧が目標過給圧Ptgに到達する時点を100として規格化した場合に、概ね90〜100に相当する期間である。
過給圧立ち上がり後期の過給圧変化率dPendとの比較に供される判断基準値は、上述したようにROMに格納される正常時の過給圧変化率の値に、予め適合された1未満の補正係数を乗じて得られる値である。尚、正常時の過給圧変化率の値は、先述した通りROMにマップ化されている。ECU100は、過給圧変化率dPendが、この判断基準値以上である場合に、この過給圧変化率dPendが正常値であると判別する。
変曲点xの存在によりVGC360における渋り故障の存在が予見されても、過給圧変化率dPendが正常値の範囲内である場合(ステップS205:YES)又は変曲点xが存在しない場合(ステップS203:NO)、ECU100は、ターボ過給器301が正常であると診断する(ステップS107)。
一方、立ち上がり後期の過給圧変化率dPendが判断基準値未満である場合(ステップS205)、ECU100は、VGC360に渋り故障が生じている旨の故障診断を行う(ステップS106)。第2実施形態に係る故障診断制御は以上のように実行される。
ここで、図9を参照し、第2実施形態に係る過給圧の時間推移について補足する。ここに、図9は、第2実施形態に係る故障診断制御の実行期間における過給圧の時間推移を例示する図である。尚、同図において、図5と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図9において、上述した過給圧立ち上がり初期及び過給圧立ち上がり後期は、夫々図示ハッチング領域として示される。また、変曲点の存在が検出された時刻が図示時刻txである。
このように、第2実施形態に係る故障診断制御によれば、第1実施形態と異なり開閉状態が連続的に変化し得るVGC360の構成に鑑み、変曲点xの存在が数値解析的手法により正確に検出される。また、VNT310とCVGC360とにおける、渋り故障発生時の過給圧の時間推移への影響は第1実施形態と同様である。従って、第2実施形態に係る故障診断制御により、VGC360の故障状態を正確に診断することが可能となる。
ここで、第2実施形態においては、故障診断補助制御が実行される。故障診断補助制御は、故障診断制御に係る故障の診断精度を向上させる制御である。ここで、図10を参照し、故障診断補助制御の詳細について説明する。ここに、図10は、故障診断補助制御のフローチャートである。
図10において、ECU100は、変曲点が検出されたか否かを判別する(ステップS301)。変曲点の検出自体は、先述した故障診断制御において実行されており、ECU100は、変曲点が検出された旨のフラグ設定がなされているか否かに基づいてステップS301に係る判別処理を実行する。変曲点が検出されていなければ、処理はステップS301に戻される。
一方、変曲点xが検出されている場合(ステップS301:YES)、ECU100は、変曲点xにおける空気流量Ga(tx)を取得する(ステップS302)。続いて、この取得された空気流量Ga(tx)が、基準値Gachk(t0)以下であるか否かが判別される(ステップS303)。基準値Gachk(t0)は、過給圧立ち上がり時刻t0(即ち、上述した0乃至100の間で規定される規格値で言えば、0に相当する値である)におけるチョーク限界流量である。
ステップS303において、変曲点xにおける空気流量Ga(tx)が基準値Gachk(t0)よりも大きい場合(ステップS303:NO)、ECU100は、処理をステップS301に戻す。即ち、故障診断補助制御は、上述した故障診断制御における故障診断に影響を与えない。
一方、ステップS303において、変曲点xにおける空気流量Ga(tx)が基準値Gachk(t0)以下である場合(ステップS303:YES)、ECU100は、上記故障診断制御においてVGC360に渋り故障が生じているとの診断が下されているか否かに関係なく、VGC360は正常であり、その他の故障がターボ過給器301に生じているとの診断を行い(ステップS304)、その旨をフラグ設定に反映させる(ステップS305)。ステップS305が実行されると、処理はステップS301に戻される。故障診断補助制御は以上のように実行される。
ここで、ステップS303に係る基準値Gachk(t0)との比較について説明する。
始めに、図11及び図12を参照し、上記故障診断制御の実行期間における空気流量Ga及びVGC開度Avgcの時間推移について説明する。ここで、図11は、空気流量Gaの時間推移を例示する図であり、図12はVGC開度Avgcの時間推移を例示する図である。尚、これらの図において、既に説明した各図と重複する箇所については同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図11において、正常時における空気流量Gaの時間推移が図示L_Ganml(実線参照)として、またVGC360に渋り故障が発生した場合の空気流量Gaの時間推移が図示L_Gavgcfl(破線参照)として示される。図示の通り、VGC360に渋り故障が発生した場合、変曲点検出時刻tx以降の、変曲点xに対応する空気流量Ga(tx)からの空気流量Gaの増加が緩慢となる。
一方、図12において、正常時におけるVGC開度Avgcの時間推移が図示L_Avgcnml(実線参照)として、またVGC360に渋り故障が発生した場合のVGC開度Avgcの時間推移が図示L_Avgcvgcfl(破線参照)として示される。ここで、図示の通り、VGC360に渋り故障が発生した場合、上記変曲点検出時刻tx以前の時刻tx’において実際の渋り故障が発生し、VGC開度Avgcが、時刻tx’における開度値Avgc(tx’)において、それ以降の増加が緩慢となる。
即ち、一のVGC開度Avgcに対しては、既に述べたようにサージ限界線及びチョーク限界線が規定され得るが、動作点がチョーク限界線に抵触するまでには時間的猶予があり、実際の渋り故障が空気流量に反映されるまでには、時間のズレが存在する。
次に、図13及び図14を参照し、故障診断制御の実行期間における空気流量Gaと圧力比Rpとの関係について説明する。ここに、図13は、正常時における空気流量Gaと圧力比Rpとの関係を例示する図であり、図14は、VGC360に渋り故障が生じた場合の空気流量Gaと圧力比Rpとの関係を例示する図である。尚、これら各図において、既に説明した各図と重複する箇所については同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図13において、ターボ過給器301が正常である場合、初期過給圧から目標過給への過給圧の変化に伴って、ターボ過給器301の動作点は、図示m1→m2→m3と変化する。即ち、いずれの動作点も、動作点変化に応じたVGC開度Avgの制御によって、サージ限界線Sg及びチョーク限界線Chkによって規定される動作許可領域内に良好に維持される。
一方、時刻tx’において渋り故障が発生した場合、チョーク限界線は、この時点でのVGC開度Avgc(tx’)に相当する図示チョーク限界線Chktx’で一時的に固定される(時間変化が緩慢となる)。従って、空気流量Gaの増加は、このチョーク限界線Chktx’に抵触する図示Ga(tx)において略停止状態となり、渋り故障を生じたVGC360の開度変化に伴うチョーク限界線の推移に準じた緩慢の変化しか生じなくなる。即ち、これが、故障診断制御において検出される変曲点xである。
ここで、故障診断補助制御に話を戻すと、渋り故障は、実際にVGC360に開度変化が生じるタイミングでのみ発生する現象である。従って、検出された変曲点xにおける空気流量が、初期過給圧に対応する空気流量である上記基準値Gachk(t0)以下である場合には、この変曲点xは、渋り故障によって生じたものではないことになる。従って、検出された変曲点xにおける空気流量Ga(tx)が、基準値Gachk(t0)以下であるか否かに基づいて、VGC360の渋り故障を、より正確に検出することが可能となるのである。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う過給器の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。