前記エンジンは、燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関などである。回転機は、電気エネルギーで動力を発生する電動モータや、回転駆動されることにより発電する発電機、或いは電動モータおよび発電機として用いることができるモータジェネレータで、発電制御される第1回転機は発電機またはモータジェネレータにて構成され、力行トルクを発生する第2回転機は電動モータまたはモータジェネレータにて構成される。合成分配機構としては、シングルピニオン型またはダブルピニオン型の遊星歯車装置が好適に用いられ、エンジン、第1回転機、および出力部材との連結形態は、第1回転機の発電制御でエンジンの反力を受け止めることによって出力部材に出力できる種々の態様が可能である。
第2回転機(第2駆動源)は、例えば第1駆動源と駆動輪との間の動力伝達経路に変速機を介して接続されるが、第1駆動源が前後輪の一方を駆動する場合、前後輪の他方を駆動するように第2回転機および変速機を配設することもできる。また、第1駆動源と駆動輪との間の動力伝達経路に変速機が設けられる場合、その変速機と第1駆動源との間に第2回転機を接続するようにしても良い。変速機は、例えば複数の油圧式摩擦係合装置(クラッチやブレーキ)を有する遊星歯車式、平行軸式等の有段変速機が好適に用いられるが、油圧により伝動ベルトを挟圧して動力を伝達するベルト式無段変速機などでも良いし、複数の油圧式摩擦係合装置によって前後進を切り換える前後進切換装置であっても良い。この変速機は、運転者の手動操作に従って変速比やギヤ段を変更する手動変速機でも、車速やアクセル操作量等の運転状態に応じて自動的に変速比やギヤ段を変更する自動変速機でも良い。
変速機に供給される油圧を変更する油圧変更手段は、アクセルペダルが踏み込み操作される加速時や登坂走行時等の駆動力増大要求に伴って第2回転機の力行トルクが増大させられる際に、例えばライン圧等の油圧を連続的に高くしたり段階的に高くしたり、或いは高低の2段階で変化させたりするように構成される。駆動力増大要求時に第2回転機の力行トルクを増大させる際の制御は、第2発明に記載の駆動力増大制御が望ましいが、第1回転機の発電トルクを一時的に低下させることなくエンジン出力および第2回転機の発電トルクをそのまま増大させるものでも良い。駆動力増大要求時には常に第2発明の駆動力増大制御が行われるようになっていても良いが、例えばアクセル操作量の変化率が所定値以上の場合など、運転者の駆動力増大要求が大きい場合には、その第2発明の駆動力増大制御を実行し、駆動力増大要求が小さい場合には、エンジン出力および第2回転機の発電トルクをそのまま増大させる通常の駆動力制御を行うようにしても良い。駆動力増大要求は、必ずしも運転者のアクセル操作に限られず、例えば一定の車速で走行するオートクルーズ制御などにおいて登坂走行で車速を維持するための駆動力増大要求なども含む。
パワーモード走行は、例えばパワーモード選択スイッチによりパワーモードが選択された場合に実行されるが、運転者によって操作される所定の選択操作手段が操作されることにより、アクセル操作に対する駆動力応答性等の動力性能を重視したパワーモード走行が要求されているか否かを判断するパワーモード要求判断手段を有し、パワーモード走行が要求されていると判断した場合にパワーモード走行を実行するようにしても良い。上記選択操作手段は、手動操作で自動変速機の変速比(ギヤ段や変速レンジを含む)を変更することができるスポーツモードを選択するスポーツモード選択手段や、自動変速機の変速マップのパワーパターンを選択するパワーパターン選択手段などで、そのスポーツモードが選択された場合やパワーパターンが選択された場合には、動力性能を重視したパワーモード走行が要求されていると判断することができる。
駆動力増大制御手段は、第3発明ではパワーモード走行が要求されているパワーモードON時には、そのパワーモード走行が要求されていないパワーモードOFF時に比較して、第1回転機の発電トルクを一時的に低下させた後に増大させる時のタイミングを遅くすることによってエンジン回転速度を大きな変化率で上昇させるが、第2発明の実施に際しては、例えば第1回転機の発電トルクを一時的に低下させる際のトルク低下量をパワーモードOFF時よりも大きくして、エンジン回転速度を大きな変化率で上昇させるようにしても良い。第3発明の実施に際しても、第1回転機の発電トルクを増大させるタイミングを遅くするだけでなく、その発電トルクを一時的に低下させる際のトルク低下量を大きくするようにしても良い。
油圧変更手段は、例えば上記パワーモード走行が要求されているパワーモードONかパワーモード走行が要求されていないパワーモードOFFかによって増圧条件を切り換えるが、この増圧条件の切換に際しては、実際にパワーモードONかパワーモードOFFかを判断しても良いし、前記パワーモード要求判断手段と同様にパワーモード走行が要求されているか否かを判断するようにしても良い。
油圧変更手段は、エンジン回転速度に関して予め定められた第1増圧条件に従って油圧を高くするが、この第1増圧条件は、例えば油圧を高低2段階で変化させる場合には、エンジン回転速度そのものの値が所定の判定値以上の場合、エンジン回転速度の変化率(変化速度)が所定の判定値以上の場合、或いはその両方を満足する場合等に、油圧を高くするように定められる。油圧を連続的または段階的に変化させる場合は、例えばエンジン回転速度をパラメータとして定められたマップや演算式等に従って、エンジン回転速度が高くなる程油圧を高くするように定められる。エンジン回転速度に対して一定の関係を有する他の部材、例えば第1回転機の回転速度等を用いて第1増圧条件を定めることもできる。エンジン回転速度そのもので油圧を高低2段階で切り換える場合、第1増圧条件として予め一定の判定値が定められても良いが、例えば前記駆動力増大制御の開始時における実際のエンジン回転速度に基づいて定めることもできるなど、駆動力増大制御の内容に応じて適宜定められる。第1増圧条件は油圧を高くする時の条件で、油圧を低くする条件は、例えば所定のヒステリシスを有するようにエンジン回転速度に関して定めることができるが、第2回転機の力行トルクなどエンジン回転速度以外のパラメータを用いて定めることもできる。
第3発明では、パワーモードOFF時すなわち第2回転機の力行トルクの変化率が比較的小さいノーマルモードやエコノミーモード等の実行時には、第2回転機の力行トルクに関して定められた第2増圧条件に従って油圧が高くされるが、この第2増圧条件についても、例えば油圧を高低2段階で変化させる場合には、力行トルクそのものの値が所定の判定値以上の場合、力行トルクの変化率(変化速度)が所定の判定値以上の場合、或いはその両方を満足する場合等に、油圧を高くするように定められる。油圧を連続的または段階的に変化させる場合は、例えば力行トルクをパラメータとして定められたマップや演算式等に従って、力行トルクが高くなる程油圧を高くするように定められる。第2回転機の力行トルクとしては、特にトルク指令値を用いることが望ましいが、実際のトルクすなわち電流値などを用いることも可能である。また、力行トルクに対して一定の関係を有する他の部材、例えば第1回転機の発電量だけで第2回転機が力行制御される場合の第1回転機の発電トルク等を用いて第2増圧条件を定めることもできる。第2回転機の力行トルクそのもので油圧を高低2段階で切り換える場合、第2増圧条件として予め一定の判定値が定められても良いが、例えば前記駆動力増大制御の開始時における実際の力行トルクに基づいて定めることもできるなど、駆動力増大制御の内容等に応じて適宜定められる。この第2増圧条件は油圧を高くする時の条件で、油圧を低くする条件は、例えば所定のヒステリシスを有するように力行トルクに基づいて定めることができるが、力行トルク以外のパラメータを用いて定めることもできる。
第1発明、第2発明の実施に際しては、必ずしもパワーモードON、OFFで場合分けする必要はないし、動力性能重視のパワーモード走行を実行しないハイブリッド車両にも適用され得、少なくとも駆動力増大時にエンジン回転速度に関して定められた第1増圧条件に従って油圧を高くするようになっておれば良い。また、前記パワーモードOFF時に、エンジン回転速度や第2回転機の力行トルク以外のパラメータを用いて定められた第2増圧条件に従って油圧変更制御を行うようにしても良い。
第4発明では、パワーモードONからOFFへ切り換えられた場合に、その切換時から所定の切換猶予時間が経過するまでパワーモードON時の油圧変更制御、すなわち第1増圧条件による油圧の増大制御等を維持するが、他の発明の実施に際しては、例えばパワーモードのON→OFF切換に伴って直ちにパワーモードOFF時の油圧変更制御に切り換えたり、エンジン回転速度の変化率や第2回転機の力行トルクの変化率が所定値以下である等の一定の切換許可条件を満足する場合にパワーモードOFF時の油圧変更制御に切り換えたりするようにしても良い。第4発明の実施に際しても、切換猶予時間が経過する前に一定の切換許可条件を満足する場合には、パワーモードOFF時の油圧変更制御に切り換えるようにしても良い。第4発明で、切換猶予時間が経過するまで維持されるパワーモードON時の油圧変更制御は、第1増圧条件による油圧の増大制御および所定の油圧低下制御の両方を含んでいても良いが、何れか一方の制御だけでも良い。すなわち、パワーモードOFF時の油圧変更制御への切換に起因して油圧不足により変速機に滑りが生じることがないように、パワーモードON時およびOFF時の油圧変更制御の内容等に応じて適宜定められる。上記切換猶予時間についても、パワーモードOFF時の油圧変更制御への切換に起因して油圧不足により変速機に滑りが生じることがないように、パワーモードON時およびOFF時の油圧変更制御の内容や駆動力増大制御の内容等に応じて予め一定値が定められ、或いはその駆動力増大制御がアクセル操作量の変化率等によって異なる場合は、そのアクセル操作量の変化率等をパラメータとして定められるようにしても良い。
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用されたハイブリッド車両10を説明する概略構成図である。図1において、このハイブリッド車両10は、主駆動源である第1駆動源12のトルクが出力部材として機能する出力軸14に伝達され、その出力軸14から差動歯車装置16を介して左右一対の駆動輪18にトルクが伝達されるようになっている。また、このハイブリッド車両10には、走行のための駆動力を出力する力行制御および電気エネルギーを発生する発電制御を選択的に実行可能な第2モータジェネレータMG2が第2駆動源として設けられており、この第2モータジェネレータMG2は自動変速機22を介して出力軸14に連結されている。したがって、第2モータジェネレータMG2から出力軸14へ伝達されるトルクが、その自動変速機22で設定される変速比γs (=MG2の回転速度NMG2/出力軸14の回転速度NOUT )に応じて増減させられる。第2モータジェネレータMG2は第2回転機に相当する。
上記自動変速機22は、何れも変速比γs が「1」より大きいハイギヤ段Hおよびローギヤ段Lの2つのギヤ段を成立させることができるように構成されており、第2モータジェネレータMG2からトルクを出力する力行時には、ローギヤ段Lでトルクを増大させて出力軸14へ伝達することができるので、第2モータジェネレータMG2が一層低容量もしくは小型に構成される。また、車速上昇に伴って出力軸14の回転速度NOUT が高くなった場合には、第2モータジェネレータMG2の運転効率を良好な状態に維持するために、変速比γs が小さいハイギヤ段Hとして第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2を低下させ、出力軸14の回転速度NOUT が低下した場合には、変速比γs が大きいローギヤ段Lとして第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2を増大させる。
第1駆動源12は、エンジン24と、第1モータジェネレータMG1と、これらエンジン24と第1モータジェネレータMG1との間でトルクを合成もしくは分配するための遊星歯車装置26とを主体として構成されている。上記エンジン24は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の内燃機関であって、マイクロコンピュータを主体とするエンジン制御用の電子制御装置(E−ECU)28によって、スロットル弁開度や吸入空気量、燃料供給量、点火時期などの運転状態が電気的に制御されるように構成されている。上記電子制御装置28には、アクセルペダル27の操作量θacc を検出するアクセル操作量センサAS、ブレーキペダル29の操作の有無を検出するためのブレーキセンサBS、エンジン回転速度NEを検出するエンジン回転速度センサES等から制御に必要な各種の検出信号が供給されている。
上記第1モータジェネレータMG1は、例えば同期電動機であって、駆動トルクを発生させる電動機としての機能と発電機としての機能とが選択的に得られるように構成され、インバータ30を介してバッテリー32に接続されている。そして、マイクロコンピュータを主体とするモータジェネレータ制御用の電子制御装置(MG−ECU)34によってそのインバータ30が制御されることにより、第1モータジェネレータMG1の力行トルクあるいは発電トルクが調節或いは設定されるようになっている。上記電子制御装置34には、シフトレバー35の操作位置、具体的には駐車用の「P」ポジション、動力伝達を遮断する「N」ポジション、前進走行用の「D」ポジション、後進走行用の「R」ポジション、手動変速可能な「S」ポジションなどを検出する操作位置センサSSから、それ等の操作位置を表す検出信号が供給されるようになっている。
図13は、上記シフトレバー35の一例を示す図で、シフトパターン36は5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、および「S」を備えている。そして、前進走行するための「D」ポジションでは、前記自動変速機22のハイギヤ段Hおよびローギヤ段Lがアクセル操作量θacc や車速V等に応じて予め定められた変速条件に従って自動的に切り換えられる。また、手動変速可能な「S」ポジションには、その前後にハイギヤ段位置「H」、およびローギヤ段位置「L」が設けられており、シフトレバー35がハイギヤ段位置「H」へ操作されると自動変速機22は前記ハイギヤ段Hとされ、シフトレバー35がローギヤ段位置「L」へ操作されると自動変速機22は前記ローギヤ段Lとされる。ハイギヤ段位置「H」およびローギヤ段位置「L」は何れも不安定で、シフトレバー35はスプリング等の付勢手段により自動的に「S」ポジションへ戻される。すなわち、シフトレバー35が「S」ポジションへ操作されると、自動変速機22のギヤ段を手動で切り換えることができるスポーツモードが電気的に成立させられるのであり、シフトレバー35はスポーツモード選択手段(選択操作手段)に相当する。
前記遊星歯車装置26は、サンギヤS0と、そのサンギヤS0に対して同心円上に配置されたリングギヤR0と、これらサンギヤS0およびリングギヤR0に噛み合うピニオンギヤP0を自転かつ公転自在に支持するキャリアC0とを三つの回転要素として備えて、公知の差動作用を生じるシングルピニオン型の遊星歯車機構である。遊星歯車装置26は、エンジン24および自動変速機22と同心に設けられている。遊星歯車装置26および自動変速機22は中心線に対して略対称的に構成されているため、図1ではそれらの下半分が省略されている。
本実施例では、エンジン24のクランク軸37はダンパー38を介して遊星歯車装置26のキャリアC0に連結されている。これに対してサンギヤS0には第1モータジェネレータMG1が連結され、リングギヤR0には出力軸14が連結されている。このキャリアC0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能している。なお、これ等の連結関係は適宜変更できるし、遊星歯車装置26としてダブルピニオン型の遊星歯車装置を用いることも可能である。
上記トルク合成分配機構として機能するシングルピニオン型の遊星歯車装置26の各回転要素の回転速度の相対的関係は、図2の共線図により示される。この共線図において、縦軸S、縦軸C、および縦軸Rは、サンギヤS0の回転速度、キャリアC0の回転速度、およびリングギヤR0の回転速度をそれぞれ表す軸であり、縦軸S、縦軸C、および縦軸Rの相互の間隔は、縦軸Sと縦軸Cとの間隔を1としたとき、縦軸Cと縦軸Rとの間隔がギヤ比ρ(サンギヤS0の歯数ZS /リングギヤR0の歯数ZR )となるように設定されたものである。
上記遊星歯車装置26において、キャリアC0に入力されるエンジン24の出力トルクTEに対して、第1モータジェネレータMG1による反力トルク(発電トルク)がサンギヤS0に入力されると、出力要素となっているリングギヤR0には、エンジン24から入力されたトルクTEに応じたトルクが現れる。この場合の第1モータジェネレータMG1は発電機として機能する。また、リングギヤR0の回転速度(出力軸回転速度)NOUT が一定であるとき、第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1を上下に変化させることにより、エンジン24の回転速度NEを連続的に(無段階に)変化させることができる。図2の破線は、第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1を実線で示す値から下げたときに、エンジン24の回転速度NEが低下する状態を示している。すなわち、エンジン24の回転速度NEを例えば燃費が最もよい回転速度に設定する制御を、第1モータジェネレータMG1を制御することによって実行することができる。この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称される。
図1に戻って、前記自動変速機22は、一組のラビニヨ型遊星歯車機構によって構成されている。すなわち自動変速機22では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが設けられており、その第1サンギヤS1にショートピニオンP1が噛合するとともに、そのショートピニオンP1がこれより軸長の長いロングピニオンP2に噛合し、そのロングピニオンP2が前記各サンギヤS1、S2と同心円上に配置されたリングギヤR1に噛合している。上記各ピニオンP1、P2は、共通のキャリアC1によって自転かつ公転自在にそれぞれ保持されている。また、第2サンギヤS2がロングピニオンP2に噛合している。
前記第2モータジェネレータMG2は、前記モータジェネレータ制御用の電子制御装置(MG−ECU)34によりインバータ40を介して制御されることにより、電動機または発電機として機能させられ、力行トルクおよび発電トルクが制御される。第2サンギヤS2には、その第2モータジェネレータMG2が連結され、上記キャリアC1が出力軸14に連結されている。第1サンギヤS1とリングギヤR1とは、各ピニオンP1、P2と共にダブルピニオン型遊星歯車装置に相当する機構を構成し、また第2サンギヤS2とリングギヤR1とは、ロングピニオンP2と共にシングルピニオン型遊星歯車装置に相当する機構を構成している。
そして、自動変速機22には、第1サンギヤS1を選択的に固定するためにその第1サンギヤS1と変速機ハウジング42との間に設けられた第1ブレーキB1と、リングギヤR1を選択的に固定するためにそのリングギヤR1と変速機ハウジング42との間に設けられた第2ブレーキB2とが設けられている。これらのブレーキB1、B2は摩擦力によって係合力を生じる油圧式摩擦係合装置であり、多板形式の係合装置あるいはバンド形式の係合装置を採用することができる。そして、これらのブレーキB1、B2は、油圧アクチュエータ等により発生させられる係合圧に応じてそのトルク容量が連続的に変化するように構成されている。この自動変速機22は、油圧によって発生するトルク容量に基づいて動力を伝達する変速機である。
以上のように構成された自動変速機22は、第2サンギヤS2が入力要素として機能し、またキャリアC1が出力要素として機能し、第1ブレーキB1が係合させられると「1」より大きい変速比γshのハイギヤ段Hが成立し、第1ブレーキB1に替えて第2ブレーキB2が係合させられると、そのハイギヤ段Hの変速比γshより大きい変速比γslのローギヤ段Lが成立させられるように構成されている。これらのギヤ段HおよびLの間での変速は、マイクロコンピュータを主体とした変速制御用の電子制御装置(T−ECU)44によって行われる。電子制御装置44には、オイル(作動油)の温度(AT油温)TOIL を検出するための油温センサTS、第1ブレーキB1の係合油圧を検出するための油圧スイッチSW1、第2ブレーキB2の係合油圧を検出するための油圧スイッチSW2、ライン圧PLを検出するための油圧スイッチSW3等からの検出信号が供給されている。また、第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2を検出するMG2回転速度センサ43、車速Vに対応する出力軸14の回転速度NOUT を検出する出力軸回転速度センサ45からも、それ等の回転速度を表す信号が供給される。
図3は、上記自動変速機22を構成しているラビニヨ型遊星歯車機構についての各回転要素の回転速度の相互関係を直線で表すことができる共線図で、4本の縦軸S1、縦軸R1、縦軸C1、および縦軸S2は、第1サンギヤS1の回転速度、リングギヤR1の回転速度、キャリアC1の回転速度、および第2サンギヤS2の回転速度をそれぞれ示すためのものである。そして、第2ブレーキB2によってリングギヤR1が固定されるとローギヤ段Lが成立し、第2モータジェネレータMG2の出力した力行トルクがそのときの変速比γslに応じて増幅されて出力軸14に付加される。また、第1ブレーキB1によって第1サンギヤS1が固定されると、ローギヤ段Lの変速比γslよりも小さい変速比γshを有するハイギヤ段Hが成立する。このハイギヤ段Hにおける変速比γshも「1」より大きいので、第2モータジェネレータMG2の出力した力行トルクがその変速比γshに応じて増大させられて出力軸14に付加される。
図4は、上記各ブレーキB1、B2の係合解放によって自動変速機22のギヤ段を切り換えるための変速用油圧制御回路50を示している。この油圧制御回路50には、エンジン24のクランク軸37に作動的に連結されることによりそのエンジン24により回転駆動される機械式オイルポンプ46と、ポンプ用電動機48aとそれにより回転駆動されるポンプ48bを備えた電動式オイルポンプ48とを油圧源として備えており、それら機械式オイルポンプ46および電動式オイルポンプ48は、図示しないオイルパンに還流したオイルをストレーナ52を介して吸入し、或いは還流油路53を介して直接還流したオイルを吸入してライン圧油路54へ圧送する。上記還流したオイルの油温(AT油温)TOIL を検出するための油温センサTSが、油圧制御回路50が形成されているバルブボデー51に設けられているが、他の部位に設けられても良い。
ライン圧調圧弁56は、リリーフ形式の調圧弁であって、ライン圧油路54に接続された供給ポート56aとドレン油路58に接続された排出ポート56bとの間を開閉するスプール弁子60と、そのスプール弁子60の閉弁方向の推力を発生させるスプリング62を収容すると同時にライン圧PLの設定圧を高く変更するときに電磁開閉弁64を介してモジュール圧油路66内のモジュール圧PMを受け入れる制御油室68と、スプール弁子60の開弁方向の推力を発生させる上記ライン圧油路54に接続されたフィードバック油室70とを備え、低圧および高圧の2種類のいずれかの一定のライン圧PLを出力する。上記ライン圧油路54には、ライン圧PLが高圧側の値であるときにオン作動し、低圧側の値以下であるときにオフ作動する油圧スイッチSW3が設けられている。
モジュール圧調圧弁72は、上記ライン圧PLを元圧とし、そのライン圧PLの変動に拘わらず、低圧側のライン圧PLよりも低く設定された一定のモジュール圧PMをモジュール圧油路66に出力する。第1ブレーキB1を制御するための第1リニアソレノイド弁SLB1および第2ブレーキB2を制御するための第2リニアソレノイド弁SLB2は、上記モジュール圧PMを元圧として電子制御装置44からの指令値である駆動電流ISOL1およびISOL2に応じた制御圧PC1およびPC2を出力する。
第1リニアソレノイド弁SLB1は、非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が開弁(連通)される常開型(N/O)の弁特性を備え、図5に示すように、駆動電流ISOL1の増加に伴って出力される制御圧PC1が低下させられる。図5に示すように、第1リニアソレノイド弁SLB1の弁特性には、駆動電流ISOL1が所定値Ia を超えるまで出力される制御圧PC1が低下しない不感帯Aが設けられている。第2リニアソレノイド弁SLB2は、非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が閉弁(遮断)される常閉型(N/C)の弁特性を備え、図6に示すように、駆動電流ISOL2の増加に伴って出力される制御圧PC2が増加させられる。図6に示すように、第2リニアソレノイド弁SLB2の弁特性には、駆動電流ISOL2が所定値Ib を超えるまで出力される制御圧PC2が増加しない不感帯Bが設けられている。
B1コントロール弁76は、ライン圧油路54に接続された入力ポート76aおよびB1係合油圧PB1を出力する出力ポート76bとの間を開閉するスプール弁子78と、そのスプール弁子78を開弁方向に付勢するために上記第1リニアソレノイド弁SLB1からの制御圧PC1を受け入れる制御油室80と、スプール弁子78を閉弁方向に付勢するスプリング82を収容し、出力圧であるB1係合油圧PB1を受け入れるフィードバック油室84とを備え、ライン圧油路54内のライン圧PLを元圧として、第1リニアソレノイド弁SLB1からの制御圧PC1に応じた大きさのB1係合油圧PB1を出力し、インターロック弁として機能するB1アプライコントロール弁86を通して第1ブレーキB1に供給する。
B2コントロール弁90は、ライン圧油路54に接続された入力ポート90aおよびB2係合油圧PB2を出力する出力ポート90bとの間を開閉するスプール弁子92と、そのスプール弁子92を開弁方向に付勢するために上記第2リニアソレノイド弁SLB2からの制御圧PC2を受け入れる制御油室94と、スプール弁子92を閉弁方向へ付勢するスプリング96を収容し、出力圧であるB2係合油圧PB2を受け入れるフィードバック油室98とを備え、ライン圧油路54内のライン圧PLを元圧として、第2リニアソレノイド弁SLB2からの制御圧PC2に応じた大きさのB2係合油圧PB2を出力し、インターロック弁として機能するB2アプライコントロール弁100を通して第2ブレーキB2に供給する。
B1アプライコントロール弁86は、B1コントロール弁76から出力されたB1係合油圧PB1を受け入れる入力ポート86aおよび第1ブレーキB1に接続された出力ポート86bとの間を開閉するスプール弁子102と、そのスプール弁子102を開弁方向に付勢するためにモジュール圧PMを受け入れる油室104と、そのスプール弁子102を閉弁方向へ付勢するスプリング106を収容し且つB2コントロール弁90から出力されたB2係合油圧PB2を受け入れる油室108とを備え、第2ブレーキB2を係合させるためのB2係合油圧PB2が供給されるまでは開弁状態とされるが、そのB2係合油圧PB2が供給されると閉弁状態に切り換えられて、第1ブレーキB1の係合が阻止される。
また、上記B1アプライコントロール弁86には、そのスプール弁子102が開弁位置(図4の中心線の右側に示す位置)であるときに閉じられ、逆にそのスプール弁子102が閉弁位置(図4の中心線の左側に示す位置)にあるときに開かれる一対のポート110aおよび110bが設けられている。この一方のポート110aにはB2係合油圧PB2を検出するための油圧スイッチSW2が接続され、他方のポート110bには第2ブレーキB2が直接接続されている。この油圧スイッチSW2は、B2係合油圧PB2が予め設定された高圧状態となるとオン状態となり、B2係合油圧PB2が予め設定された低圧状態以下となるとオフ状態に切り換えられるように構成されている。この油圧スイッチSW2は、B1アプライコントロール弁86を介して第2ブレーキB2に接続されているので、B2係合油圧PB2の異常と同時に、第1ブレーキB1の油圧系を構成する第1リニアソレノイド弁SLB1、B1コントロール弁76、B1アプライコントロール弁86等の異常も判定可能となっている。
B2アプライコントロール弁100も、B1アプライコントロール弁86と同様に、B2コントロール弁90から出力されたB2係合油圧PB2を受け入れる入力ポート100aおよび第2ブレーキB2に接続された出力ポート100bとの間を開閉するスプール弁子112と、そのスプール弁子112を開弁方向に付勢するためにモジュール圧PMを受け入れる油室114と、そのスプール弁子112を閉弁方向に付勢するスプリング116を収容し且つB1コントロール弁76から出力されたB1係合油圧PB1を受け入れる油室118とを備え、第1ブレーキB1を係合させるためのB1係合油圧PB1が供給されるまでは開弁状態とされるが、そのB1係合油圧PB1が供給されると閉弁状態に切り換えられて、第2ブレーキB2の係合が阻止される。
上記B2アプライコントロール弁100にも、そのスプール弁子112が開弁位置(図4の中心線の右側に示す位置)であるときに閉じられ、逆にそのスプール弁子112が閉弁位置(図4の中心線の左側に示す位置)にあるときに開かれる一対のポート120aおよび120bが設けられている。この一方のポート120aにはB1係合油圧PB1を検出するための油圧スイッチSW1が接続され、他方のポート120bには第1ブレーキB1が直接接続されている。この油圧スイッチSW1は、B1係合油圧PB1が予め設定された高圧状態となるとオン状態となり、B1係合油圧PB1が予め設定された低圧状態以下となるとオフ状態に切り換えられるように構成されている。この油圧スイッチSW1は、B2アプライコントロール弁100を介して第1ブレーキB1に接続されているので、B1係合油圧PB1の異常と同時に、第2ブレーキB2の油圧系を構成する第2リニアソレノイド弁SLB2、B2コントロール弁90、B2アプライコントロール弁100等の異常も判定可能となっている。
図7は、以上のように構成された油圧制御回路50の作動、すなわちリニアソレノイド弁SLB1、SLB2の励磁状態とブレーキB1、B2の作動状態との関係を説明する図である。図7では、○印が励磁状態或いは係合状態を示し、×印が非励磁状態或いは解放状態を示している。すなわち、第1リニアソレノイド弁SLB1および第2リニアソレノイド弁SLB2が共に励磁状態とされることによって、第1ブレーキB1が解放状態とされ且つ第2ブレーキB2が係合状態とされ、自動変速機22のローギヤ段Lが達成される。そして、第1リニアソレノイド弁SLB1および第2リニアソレノイド弁SLB2が共に非励磁状態とされることによって、第1ブレーキB1が係合状態とされ且つ第2ブレーキB2が解放状態とされ、自動変速機22のハイギヤ段Hが達成される。
図8は、前記電子制御装置28、34および44の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図で、ハイブリッド制御手段130、変速制御手段140、およびライン圧制御手段150を機能的に備えている。ハイブリッド制御手段130は、例えばキーがキースロットに挿入された後、ブレーキペダル29が操作された状態でパワースイッチが操作されることにより制御が起動されると、アクセル操作量θacc および車速V等に基づいて運転者の要求駆動力Tvを算出し、その要求駆動力Tvが得られるように第1駆動源12および/または第2モータジェネレータMG2のトルクを制御する。例えば、エンジン24を最適燃費曲線上で作動させて駆動力を発生させるとともに、要求駆動力Tvに対する不足分を第2モータジェネレータMG2でアシストするアシスト走行モード、要求駆動力Tvの増大時すなわち発進時や加速時にエンジン24の出力トルクTEおよび第1モータジェネレータMG1の発電トルク(反力トルク)TMG1を共に増加させ、第1駆動源12のトルクを増大させるとともに第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2を増大させる発進・加速モード、エンジン24を停止し専ら第2モータジェネレータMG2を駆動源とするモータ走行モード、エンジン24の動力で第1モータジェネレータMG1により発電を行いながら第2モータジェネレータMG2を動力源として走行する充電走行モード、エンジン24の動力を機械的に駆動輪18に伝えて走行するエンジン走行モード、等を走行状態に応じて切り換える。
ここで、上記発進・加速モードは駆動力増大制御手段136によって実行されるようになっており、この発進・加速モードについて更に具体的に説明すると、アクセルペダル27が踏み込み操作されてアクセル操作量θacc が所定値以上の変化率で増加した駆動力増大要求時には、そのままエンジン12の出力や第1モータジェネレータMG1の発電トルクTMG1を増大させるのではなく、図12のタイムチャートに示すように第1モータジェネレータMG1の発電トルクTMG1を一時的に低下(図12では上方へ変化)させてエンジン回転速度NEを速やかに上昇させながら、所定のタイミングで発電トルクTMG1を増大させるとともに、その発電トルクTMG1の増大に伴って第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2を増大させることにより、アクセル操作に対して優れた応答性で駆動力を増大させる。発電トルクTMG1の低下幅や上昇させるタイミングは、予め一定のトルク低下量や低下保持時間が設定されても良いが、運転者の駆動力増大要求の程度を表すアクセル操作量θacc の変化率等をパラメータとして設定されるようにしても良い。また、本実施例ではトルク低下状態でも、小さいな所定の勾配で発電トルクTMG1を漸増させるようになっているが、一定の発電トルク値に保持するようにしても良い。第2モータジェネレータMG2は、基本的には第1モータジェネレータMG1の発電制御で得られた電気エネルギーのみを用いて力行制御されるようになっており、その力行トルクTMG2は発電トルクTMG1に対応して変化する。図12の時間t1は、この駆動力増大制御の開始時間である。
一方、本実施例のハイブリッド車両10にはパワーモード選択スイッチ160が設けられているとともに、ハイブリッド制御手段130は、そのパワーモード選択スイッチ160によって動力性能を重視したパワーモード走行が要求されているか否かを判断するパワーモード要求判断手段134を機能的に備えている。パワーモード選択スイッチ160は、インストルメントパネルやステアリングホイール等の運転席近傍に配設されており、アクセル操作に対する駆動力応答性等の動力性能を重視したパワーモード走行を運転者が希望する場合に操作されるON−OFFスイッチである。そして、そのパワーモード選択スイッチ160がON操作され、パワーモード走行が要求されていることがパワーモード要求判断手段134によって判断されると、前記駆動力増大制御手段136は、前記第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2を一層大きな変化率で変化させるパワーモード走行を実行する。すなわち、前記図12の実線はパワーモード走行が要求されているパワーモードON時の場合で、図12の破線はパワーモード走行が要求されていないパワーモードOFF時すなわちノーマルモードの場合であり、パワーモードON時にはパワーモードOFF時に比較して前記発電トルクTMG1を増大させるタイミングが遅延時間tpowerだけ遅くされ、それだけエンジン回転速度NEを大きな変化率で上昇させるとともに、その発電トルクTMG1を大きな変化率で増大させることにより、第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2を大きな変化率で増大させるのである。これにより、アクセル操作に対してエンジン回転速度NEや第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2が、破線で示すパワーモードOFF時に比較して一層速やかに上昇させられるようになり、優れた駆動力応答性が得られる。上記遅延時間tpowerは、所定の駆動力応答性が得られるように予め一定値が定められても良いが、アクセル操作量θacc の変化率等をパラメータとして定められるようにしても良い。図12の時間t3はパワーモードON時の駆動力増大制御の終了時間で、時間t4はパワーモードOFF時の駆動力増大制御の終了時間である。
図8に戻って、変速制御手段140は、例えば図9に示す予め記憶された変速線図(変速マップ)から、車速Vおよびアクセル操作量θacc に基づいて自動変速機22のギヤ段を決定し、決定されたギヤ段に切り換えるように第1ブレーキB1および第2ブレーキB2を制御する。図9の実線は、ローギヤ段Lからハイギヤ段Hへ切り換えるアップシフト線で、破線はハイギヤ段Hからローギヤ段Lへ切り換えるダウンシフト線であり、所定のヒステリシスが設けられている。そして、図9に示す変速線図に従って自動変速機14の変速すべきギヤ段が決定されると、現在のギヤ段からその変速すべきギヤ段への切換が実行されるように、ブレーキB1、B2の係合油圧PB1、PB2を所定の変化パターンに従って変化させるように、その油圧指令値である駆動電流ISOL1、ISOL2を制御する。例えば、アクセルOFFの減速走行時にダウンシフトするコーストダウンシフトでは、解放側である第1ブレーキB1の油圧PB1を制御する駆動電流ISOL1を所定の勾配で上昇させることにより、そのB1係合油圧PB1を所定の勾配で低下させて第1ブレーキB1を解放する一方、係合側である第2ブレーキB2の油圧PB2を制御する駆動電流ISOL2を所定の勾配で上昇させることにより、そのB2係合油圧PB2を所定の勾配で上昇させて第2ブレーキB2を滑らかに係合させる。なお、シフトレバー35が「S」ポジションへ操作されたスポーツモード時には、そのシフトレバー35の操作に従ってギヤ段を設定し、上記と同様にブレーキB1、B2の係合油圧PB1、PB2を所定の変化パターンに従って変化させるように駆動電流ISOL1、ISOL2を制御することにより、目的とするギヤ段を成立させる。
ライン圧制御手段150は、自動変速機22の伝達トルクに対応する第2モータジェネレータMG2の力行トルクの増大時や、自動変速機22の変速過渡時などに、前記電磁開閉弁64を閉状態から開状態に切り換えてモジュール圧PMをライン圧調圧弁56の油室68内に供給してスプール弁子60が閉弁方向に向かう推力を所定値増加させることにより、ライン圧PLの設定圧を低圧状態から高圧状態へ切り換え、前記第1ブレーキB1、第2ブレーキB2に対して必要十分な油圧が供給されるようにする。このライン圧制御手段150は、上記第2モータジェネレータMG2の力行トルクの増大時にライン圧PLを高圧に切り換える際の制御に関して、更にパワーモード判断手段152および制御切換猶予手段154を機能的に備えており、図10および図11に示すフローチャートに従って信号処理を実行する。図10および図11のステップS2およびS11はパワーモード判断手段152に相当し、ステップS8およびS13は制御切換猶予手段154に相当する。
図10のステップS1では、ライン圧PLが低圧か否かを前記油圧スイッチSW3の検出信号によって判断し、低圧でない場合すなわち高圧の場合は図11のステップS11以下を実行するが、低圧の場合にはステップS2を実行する。ステップS2では、バワーモードONか否かを前記パワーモード選択スイッチ160がON操作されているか否かによって判断し、パワーモードOFFの場合はステップS8以下を実行するが、パワーモードONの場合はステップS3を実行する。ステップS3では、前記駆動力増大制御手段136による駆動力増大制御が実行中か否かを、例えばその制御中か否かによってON、OFFが切り換えられるフラグ等によって判断する。そして、駆動力増大制御を実行中の場合はステップS4を実行し、駆動力増大制御を実行中でない場合はステップS9を実行する。
ステップS4では、エンジン回転速度NEが予め定められた高圧切換判定値NE1以上か否かを判断し、NE≧NE1であれば、ステップS5でライン圧PLを高圧に切り換えるとともに、ステップS6でフラグF1をONにする一方、NE<NE1の場合はステップS7を実行して低圧状態を維持する。NE≧NE1であることは、エンジン回転速度NEに関して定められた第1増圧条件に相当し、高圧切換判定値NE1は、前記駆動力増大制御手段136による駆動力増大制御で第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2が大きな変化率で立ち上がる前にライン圧PLが高圧とされるように、その油圧切換の応答遅れ等を考慮して、例えば駆動力増大制御の開始時(時間t1)におけるエンジン回転速度NEに基づいて設定される。このようにステップS5でライン圧PLが高圧に切り換えられることにより、自動変速機22の第1ブレーキB1或いは第2ブレーキB2に供給される係合油圧PB1或いはPB2が増大させられ、力行トルクTMG2の増大に拘らずそれ等のブレーキB1、B2の滑りが防止される。図12の時間t2は、ステップS4の判断がYES(肯定)となってステップS5でライン圧PLを高圧に切り換える指令が出力された時間である。
ステップS2の判断がNO(否定)の場合、すなわちパワーモードOFFの場合に実行するステップS8では、パワーモード選択スイッチ160がOFF操作されてパワーモードONからOFFに切り換えられてからの経過時間が予め定められた切換猶予時間tyuyo以上か否かを判断し、切換猶予時間tyuyo未満の場合は前記ステップS3以下を実行し、切換猶予時間tyuyo以上の場合はステップS9を実行する。これにより、パワーモードOFFに切り換えられた時に既にエンジン回転速度NEが上昇させられ、直後に第1モータジェネレータMG1の発電トルクTMG1が増加させられて第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2が増大させられるような場合でも、ステップS4、S5の実行でエンジン回転速度NEに基づいてライン圧PLが高くされることにより、油圧不足に起因する自動変速機22の滑り、具体的にはブレーキB1或いはB2の滑りが防止される。すなわち、パワーモードのON→OFF切換に伴って直ちにステップS9以下が実行され、第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2に基づく油圧変更制御が行われるようになると、その力行トルクTMG2の変化はエンジン回転速度NEの変化よりも遅いため、油圧変化の応答遅れと相まって自動変速機22が油圧不足により滑りを生じる可能性がある。上記切換猶予時間tyuyoは、パワーモードOFF時の油圧変更制御(ステップS9の判断による油圧制御)への切換に起因して油圧不足により自動変速機22に滑りが生じることがないように、例えばパワーモードON時およびOFF時の油圧変更制御の内容(ステップS4、S9)や前記駆動力増大制御手段136による駆動力増大制御の内容に応じて予め一定値が定められるが、駆動力増大制御がアクセル操作量θacc の変化率等によって異なる場合には、そのアクセル操作量θacc の変化率等をパラメータとして定められるようにしても良い。
上記ステップS8の判断がYESの場合、或いはステップS3の判断がNOの場合に実行するステップS9では、第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2が予め定められた高圧切換判定値TQ1以上か否かを判断し、TMG2≧TQ1であれば、ステップS10でライン圧PLを高圧に切り換える一方、TMG2<TQ1の場合は前記ステップS7を実行して低圧状態を維持する。TMG2≧TQ1であることは、力行トルクTMG2に関して定められた第2増圧条件に相当し、高圧切換判定値TQ1は、トルクTMG2の増大で自動変速機22の第1ブレーキB1或いは第2ブレーキB2が滑りを生じることがないようにライン圧PLが高圧とされるように、その油圧切換の応答遅れ等を考慮して例えば予め一定値が設定される。上記力行トルクTMG2は、本実施例ではトルク指令値である。図12の時間t3は、ステップS9の判断がYESとなってステップS10でライン圧PLを高圧に切り換える指令が出力された時間である。なお、この時間t3は、パワーモードON時に前記駆動力増大制御手段136によって実行される駆動力増大制御が終了した時間と一致しているが、これは単なる偶然である。
一方、前記ステップS1の判断がNOの場合、すなわちライン圧PLが高圧の場合に実行する図11のステップS11では、前記ステップS2と同様にしてパワーモードONか否かを判断し、パワーモードONの場合は直ちにステップS14以下を実行するが、パワーモードOFFの場合はステップS12を実行する。ステップS12では、前記フラグF1がONか否かを判断し、F1=OFFの場合はステップS18以下を実行し、F1=ONの場合はステップS13を実行する。ステップS13では、前記ステップS8と同様にパワーモード選択スイッチ160のON→OFF切換後の経過時間が予め定められた切換猶予時間tyuyo以上か否かを判断し、切換猶予時間tyuyo未満の場合はステップS14以下のエンジン回転速度NEに基づく油圧変更制御を実行し、切換猶予時間tyuyo以上の場合はステップS18以下の力行トルクTMG2に基づく油圧変更制御を実行する。これにより、パワーモードOFFに切り換えられた時に既にエンジン回転速度NEが前記高圧切換判定値NE1を超えており、前記ステップS5の実行でライン油圧PLが高くされている場合に、直ちにステップS18以下が実行されて力行トルクTMG2に基づく油圧変更制御が行われることによりライン圧PLが低圧に復帰させられ、油圧不足に起因して自動変速機22が滑りを生じることが防止される。すなわち、例えば図12において時間t2とt3との間でパワーモードがONからOFFへ切り換えられた場合に、直ちにステップS18以下の力行トルクTMG2に基づく油圧変更制御が行われると、ライン圧PLが低圧に切り換えられてしまう可能性がある。この時の切換猶予時間tyuyoは、前記ステップS8と同じであっても良いが、パワーモードON時およびOFF時の油圧変更制御の内容(ステップS14、S18)や前記駆動力増大制御手段136による駆動力増大制御の内容に応じて異なる時間が定められても良い。
ステップS14では、エンジン回転速度NEが予め定められた低圧復帰判定値NE2以下か否かを判断し、NE≦NE2であれば、ステップS15で高圧要求を解除してライン圧PLを低圧に切り換える指令を出力するとともに、ステップS16でフラグF1をOFFにする一方、NE>NE2の場合はステップS17を実行して高圧状態を維持する。NE≦NE2であることは、エンジン回転速度NEに関して定められた低圧復帰条件で、低圧復帰判定値NE2は、ライン圧PLが短時間で高低に切り換えられることがないように、すなわち所定のヒステリシスを有するように、前記高圧切換判定値NE1よりも少し低い値が設定される。
ステップS18では、第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2が予め定められた低圧復帰判定値TQ2以下か否かを判断し、TMG2≦TQ2であれば、ステップS19で高圧要求を解除してライン圧PLを低圧に切り換える指令を出力するとともに、ステップS20でフラグF1をOFFにする一方、TMG2>TQ2の場合は前記ステップS17を実行して高圧状態を維持する。TMG2≦TQ2であることは、力行トルクTMG2に関して定められた低圧復帰条件で、低圧復帰判定値TQ2は、ライン圧PLが短時間で高低に切り換えられることがないように、すなわち所定のヒステリシスを有するように、前記高圧切換判定値TQ1よりも少し低い値が設定される。
このように、本実施例のハイブリッド車両10においては、アクセル操作量θacc が所定値以上の変化率で増大する駆動力増大要求時には、駆動力増大制御手段136により、図12に示すように第1モータジェネレータMG1の発電トルクTMG1を一時的に低下させてエンジン回転速度NEを速やかに上昇させながら、所定のタイミングで発電トルクTMG1を増大させるとともに、その発電トルクTMG1の増大に伴って第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2を増大させる駆動力増大制御が行われ、アクセルペダル27の操作に対して優れた応答性で駆動力が増大させられる。また、パワーモード選択スイッチ160がON操作されているパワーモードON時には、図12に実線で示すように、破線で示すパワーモードOFF時に比較して上記発電トルクTMG1を増大させるタイミングを遅延時間tpowerだけ遅くし、エンジン回転速度NEを大きな変化率で上昇させるとともに、発電トルクTMG1を大きな変化率で増大させることにより、第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2を大きな変化率で増大させ、一層優れた応答性で駆動力が増大させられる。
その場合に、上記パワーモードON時には、図10のステップS4でエンジン回転速度NEに関して定められた第1増圧条件、すなわちNE≧NE1を満足するか否かを判断し、NE≧NE1を満足する場合にライン圧PLを高くする指令が出力されるため、実際に第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2が高くなる前に自動変速機22のトルク容量が増大させられ、油圧変化の応答遅れに拘らず自動変速機22の滑りが適切に防止される。また、パワーモードOFF時には、図10のステップS9で第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2に関して定められた第2増圧条件、すなわちTMG2≧TQ1を満足するか否かを判断し、TMG2≧TQ1を満足する場合にライン圧PLを高くする指令が出力されるが、第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2は自動変速機22の伝達トルクに対応するとともに、パワーモードOFF時には第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2の変化率がパワーモードON時に比較して小さいため、その力行トルクTMG2に関して定められた第2油圧増大条件(ステップS9)に従ってライン油圧PLが高くされることにより、自動変速機22の滑りを防止しつつライン圧PLをできるだけ低くすることが可能で、燃費の悪化が抑制される。これにより、駆動力増大時に自動変速機22の滑りを適切に防止しつつ、ライン圧PLをできるだけ低圧に維持して燃費を向上させることができる。
また、本実施例では、パワーモードONからパワーモードOFFに切り換わった場合に、そのON→OFF切換時から所定の切換猶予時間tyuyoが経過するまでパワーモードON時の油圧変更制御、すなわちステップS4およびS14の実行が維持されるため、パワーモードOFFに切り換えられた時に既にエンジン回転速度NEが上昇させられ、直後に第1モータジェネレータMG1の発電トルクTMG1が増加させられて第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2が増大させられるような場合でも、エンジン回転速度NEに基づいてライン圧PLが高くされることにより、或いは既にエンジン回転速度NEが高圧切換判定値NE1に達してライン圧PLを高くする指令が出力された場合はその高圧状態が維持されることにより、油圧不足に起因する自動変速機22の滑りが防止される。すなわち、油圧変更制御の増圧条件や低圧復帰条件がパワーモードのON→OFF切換に伴って直ちに切り換えられ、第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2に基づいて油圧変更制御が行われると、ライン圧PLを高くする指令が遅れたり、一旦高圧とされたライン圧PLが低圧に戻されたりして、油圧不足により自動変速機22が滑りを生じる可能性がある。
なお、上記実施例では、パワーモード選択スイッチ160が運転者によってON操作されることにより動力性能を重視したパワーモード走行を実行するパワーモードONとなり、駆動力増大制御手段136はパワーモードON時の制御を行うようになっているが、前記シフトレバー35が「S」ポジションへ操作され、手動操作でギヤ段を切り換えることができるスポーツモードが選択された場合も、運転者が動力性能を重視したパワーモード走行を要求していると判断し、駆動力増大制御手段136がパワーモードON時の制御を行うようにしても良い。その場合は、ライン圧PLの制御に関するステップS2、S11でも、例えばシフトレバー35が「S」ポジションへ操作されてスポーツモードが選択されているか否かによって、パワーモードONか否かを判断するようにすれば良い。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。