JP2011218542A - 硬質被覆層がすぐれた耐欠損性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

硬質被覆層がすぐれた耐欠損性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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Abstract

【課題】切刃に対して高負荷が作用する乾式断続重切削加工や乾式連続高送り切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐欠損性を発揮する表面被覆切削工具を提供する。
【解決手段】超硬合金焼結体からなる切削工具基体表面にCrAlN層からなる硬質被覆層を物理蒸着で形成した表面被覆切削工具において、CrAlN結晶粒の粒径幅が小さい領域Iと、粒径幅がこれより大きい領域IIとから硬質被覆層を構成し、かつ、領域Iの微細粒子と領域IIの粗大粒子の結晶方位のずれが15度以下となる縦区分の面積割合を60%以上とし、乾式断続重切削加工、乾式連続高送り切削加工において、すぐれた高温強度、耐欠損性、靭性を発揮させる。
【選択図】図3

Description

この発明は、鋼や鋳鉄などの高速断続重切削加工という厳しい切削条件下で用いた場合でも、硬質被覆層がすぐれた耐欠損性を示し、切削工具の長寿命化が可能となる表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
一般に、被覆工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるインサートや、前記インサートを着脱自在に取り付けて、面削加工や溝加工、さらに肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うインサート式エンドミルなどが知られている。
例えば、炭化タングステン基超硬合金基体または炭窒化チタン系サーメット基体の表面に、CrとAlの複合窒化物からなる硬質被覆層を物理蒸着してなる表面被覆超硬合金製切削工具における硬質被覆層を、層厚方向にそって、Al最高含有点とAl最低含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ両点間でAl含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、さらに、Al最高含有点が、組成式:(Cr1−xAl)N(ただし、原子比で、xは0.40〜0.60を示す)、Al最低含有点が、組成式:(Cr1−yAl)N(ただし、原子比で、yは0.05〜0.30を示す)をそれぞれ満足し、かつ隣り合うAl最高含有点とAl最低含有点の間隔が、0.01〜0.1μmである硬質被覆層で構成することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金焼結体で構成された工具本体の表面に、TiAlN系の硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆工具が知られており、この被覆工具においては、その特徴の一つとして、硬質被覆層を柱状結晶で構成するとともに、硬質被覆層の表面側に位置する結晶粒の結晶幅を、硬質被覆層の工具基体側に位置する結晶粒の結晶幅より大きい二つの領域で構成することにより、被覆工具の耐欠損性、耐摩耗性を向上させている。
特開2004−50381号公報 特開2008−296290号公報
近年の切削加工装置のFA化はめざましく、加えて切削加工に対する省力化、省エネ化、低コスト化さらに効率化の要求も強く、これに伴い、高送り、高切り込みなどより高効率の重切削加工が要求される傾向にあるが、上記の従来被覆工具においては、各種の鋼や鋳鉄を通常条件下で切削加工した場合に特段の問題は生じないが、切刃に対して衝撃的かつ断続的な高負荷が作用する乾式断続重切削や、連続的な高負荷がかかる乾式連続高送り切削に用いた場合には、層中へのクラック進展が避けられず表面被覆層の剥離・欠落が生じるため、切刃部に欠損を生じやすく、これが原因で、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者らは、前述のような観点から、被覆工具の耐欠損性を高め、使用寿命の延命化を図るべく、CrAlN層からなる硬質被覆層の結晶形態に着目し、鋭意研究を行った結果、次のような知見を得た。
従来の被覆工具のCrAlN層からなる硬質被覆層は、例えば、図2に示される物理蒸着装置の1種であるスパッタリング(SP)装置に上記のWC基超硬合金焼結体からなる工具基体を装着し、例えば、
装置内加熱温度:300〜500℃、
工具基体に印加する直流バイアス電圧:−20〜−50V、
カソード電極:Cr−Al合金、
スパッタリング電力:3〜6kW、
装置内ガス流量:窒素(N)ガス+アルゴン(Ar)ガス、
装置内ガス圧力:0.3〜1.5Pa、
の条件で、CrAlN層(以下、従来CrAlN層という)を形成することにより製造されている。
しかし、本発明者らは、CrAlN層の形成を、例えば、図1に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種である圧力勾配型Arプラズマガスを利用したイオンプレーティング装置を用いて、装置内に前記工具基体を装着し、例えば、
工具基体温度:350〜450 ℃、
蒸発源:金属Crおよび金属Al、
プラズマガン放電電力:(金属Crに対して)8〜12 kW、
プラズマガン放電電力:(金属Alに対して)8〜12 kW、
反応ガス流量:窒素(N)ガス 100〜120 sccm、
放電ガス:アルゴン(Ar)ガス 50〜60 sccm、
工具基体に印加する直流バイアス電圧: 0〜−20 V
という条件下で蒸着を行い、かつ、蒸着初期は、バイアス電圧を0Vにして工具基体側(領域I)のCrAlN層を蒸着し、蒸着後期には、バイアス電圧を−5〜−20Vに切り換えて硬質被覆層の表面側(領域II)のCrAlN層の蒸着を行うと、この結果形成された領域Iと領域IIからなるCrAlN層(以下、改質CrAlN層という)は、前記従来CrAlN層に比して、切刃に対して衝撃的かつ断続的な高負荷が作用する乾式断続重切削や、連続的な高負荷がかかる乾式連続高送り切削において、すぐれた耐摩耗性と耐欠損性を示すことを見出したのである。
この発明は、前記研究結果に基づいてなされたものであって、
「(1)炭化タングステン基超硬合金焼結体からなる工具基体の表面に、0.5〜2μmの平均層厚を有するCrAlN膜からなる硬質被覆層を物理蒸着した表面被覆切削工具において、
(a)硬質被覆層の、工具基体とCrAlN膜の界面から0.1μmの高さ位置にあるCrAlN結晶粒の粒径幅をWΙ、CrAlN膜の最表面から0.1μmの深さ位置にあるCrAlN結晶粒の粒径幅をWΙΙとしたとき、
10nm<WΙ<50nm、かつ、5<WΙΙ/WΙ<100
を満たす関係が存在し、
(b)さらに、電子線後方散乱回折装置を用いて、硬質被覆層断面のCrAlN結晶粒の結晶方位を解析し、測定された二次元領域を工具基体表面に対して略垂直な方向に100nm毎のピッチで縦区分に区切り、さらに、それぞれの縦区分内を工具基体とCrAlN膜の界面からCrAlN膜の成長方向に100nm毎のピッチで区切り、100nm×100nmに区分けされたそれぞれの領域(セル)に存在する各測定点の、
<111>結晶方位とCrAlN膜測定断面の法線方向がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下であり、
<111>結晶方位とCrAlN膜測定断面の法線と直交する方向がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下であり、
<100>結晶方位とCrAlN膜測定断面の法線がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下
である100nm幅の縦区分が、測定された全面積のうちの60%以上を占有することを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記CrAlN膜の組成をCr1−xAlNで表した時に、Crに対するAlの含有割合xが0.3≦x≦0.6を満たすことを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
本発明について、以下に詳細に説明する。
既に述べたように、この発明は、例えば、図1に概略説明図で示される圧力勾配型Arプラズマガスを利用したイオンプレーティング装置を用いて、装置内にWC基超硬合金焼結体からなる工具基体を装着し、例えば、
工具基体温度:350〜450 ℃、
蒸発源:金属Crおよび金属Al、
プラズマガン放電電力:(金属Crに対して)8〜12 kW、
プラズマガン放電電力:(金属Alに対して)8〜12 kW、
反応ガス流量:窒素(N)ガス 100〜120 sccm、
放電ガス:アルゴン(Ar)ガス 50〜60 sccm、
工具基体に印加する直流バイアス電圧: 0〜−20 V
という条件下で蒸着を行い、かつ、蒸着初期は、バイアス電圧を0Vにして工具基体側(領域I)のCrAlN層を蒸着し、蒸着後期には、バイアス電圧を−5〜−20Vに切り換えて硬質被覆層の表面側(領域II)のCrAlN層の蒸着を行うことによって、領域Iと領域IIからなる改質CrAlN層を形成するものである。
なお、従来CrAlN層の構成成分であるCrが高温強度を向上させ、また、Alが硬さを向上させ、Nが層の強度を向上させる作用があることはすでによく知られているが、これに加えて、この発明の改質CrAlN層は高速断続重切削加工条件という厳しい使用条件下でも、すぐれた耐欠損性を示す。
そして、その理由は以下に述べるように、改質CrAlN層の特異な結晶粒形態と強い関連性を有する。
まず、前記蒸着で形成された改質CrAlN層について、膜の成長方向に対して垂直平面内におけるCrAlN結晶粒の粒径幅の変化を観察したところ、図3(a)に、層厚方向縦断面模式図を、また、図3(b)には、イ−イ面に沿った斜視断面模式図を示すように、領域I(工具基体側の硬質被覆層)においては、粒径幅が10〜50nmのCrAlN結晶粒が観察され、一方、領域II(硬質被覆層の表面側)においては、領域Iの粒径幅より大きな粒径幅を有するCrAlN結晶粒が観察された。
さらに、集束イオンビーム加工装置を用いて、例えば、図3(a)および図3(b)に示す模式図のイ−イ面に示すように薄片化した試料について、工具基体表面と硬質被覆層界面から垂直高さ換算で0.1μmの位置での粒径幅WΙおよび、硬質被覆層表面から垂直深さ換算で0.1μmの位置の粒径幅WΙΙを測定し、それらの値とWΙΙ/WΙの数値を測定したところ、WΙΙ/WΙは5〜100であることを確認した。
なお、この改質CrAlN層の平均層厚、領域Iと領域IIのCrAlN結晶粒の粒径幅、WΙ、WΙΙおよびWΙΙ/WΙの値は、特に、工具基体である超硬合金焼結体のWCの粒径、前記蒸着条件の内の蒸着時間によって影響を受けるが、WCの平均粒径が0.2〜3μm、また、蒸着時間が62〜250minであれば、0.5〜2μmの平均層厚で、かつ、WΙΙ/WΙが5〜100の範囲の改質CrAlN層を形成することができる。
なお、ここでいう「粒径幅」とは、「前記高さ換算あるいは深さ換算で0.1μmとなる位置に工具基体表面と平行な線を引いた場合に、ひとつの粒子内を通る線分の長さの平均値」である。
ついで、さらに、電子線後方散乱回折装置を用いて、硬質被覆層断面のCrAlN結晶粒の結晶方位を解析し、測定された二次元領域を垂直に100nm毎のピッチで縦区分に区切り、さらに、それぞれの縦区分内を工具基体とCrAlN膜の界面からCrAlN膜の成長方向に100nm毎のピッチで区切り、100nm×100nmに区分けされたそれぞれの領域(セル)に存在する各測定点の、
<111>結晶方位とCrAlN膜測定断面の法線方向がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下であり、
<111>結晶方位とCrAlN膜測定断面の法線と直交する方向がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下であり、
<100>結晶方位とCrAlN膜測定断面の法線がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下である100nm幅の縦区分が、測定された全面積のうちの60%以上を占有することが見出された。
前記改質CrAlN層の領域II(粗粒領域)では、すくい面側から生じる垂直方向へのクラック発生を抑制するとともに、直下の領域Iに存在する微細な結晶粒群の結晶方位と強く配向し、ずれが15度以下となる結晶方位を有することから、領域Iと領域IIの結晶界面で高い整合性が導入され、層界面の付着強度を高めるだけでなく、領域IIの粗大粒子を媒介として領域Iの微細粒同士の結合を高め、高い靭性を発揮させ耐欠損性を向上させる作用を有する。
また、領域Iでは、結晶粒界が多数導入されていることで、改質CrAlN層中での亀裂進展を分散させ、耐欠損性を向上させる作用を有する。
前記改質CrAlN層について、領域IのCrAlN結晶粒の粒径幅が50nmを超えると、前述した亀裂の進展分散効果および領域IIの粗大粒欠落抑制効果が小さくなり、一方、領域IのCrAlN結晶粒の粒径幅が10nm未満では、CrAlN結晶粒自体の強度が維持されないため、領域IのCrAlN結晶粒の粒径幅は10〜50nmと定めた。
また、領域Iと領域IIのそれぞれの中間高さにおけるCrAlN結晶粒の粒径幅WΙ、WΙΙの比の値WΙΙ/WΙが5未満では、領域IIの粗大CrAlN結晶粒の大きさが十分でなく、領域Iの微細CrAlN結晶粒の結合を高める効果が得られず、一方、WΙΙ/WΙが100を超えると粒径幅が大きくなり結晶粒が粗大化しすぎて、剥離を生じやすくなることから、WΙΙ/WΙの値は、5〜100と定めた。
さらに、CrAlN膜の組成をCr1−xAlNで表した時に、Crに対するAlの含有割合xが0.3未満では、Alの含有割合が低く、所望の耐摩耗性と耐熱性を発揮することができないため好ましくなく、0.6を超えるとCrの含有割合が低く、所望の高温強度を得ることができないため好ましくない。そこで、xの値は、0.3〜0.6と定めた。
また、本発明の改質CrAlN層は、工具基体表面から硬質被覆層の表面にまで、成長方向に、結晶方位のずれが15度以下である縦区分の占有面積が60%以上であることから、既に述べたように、領域IIの粗大粒子と領域Iの微細粒子の界面において高い結合力を発揮し、さらに、領域IIの粗大粒子を介して領域Iの微細結晶粒が高い靭性を発揮するのである。
本発明の被覆工具は、改質CrAlN層からなる硬質被覆層が、CrAlN結晶粒の粒径幅が小さい領域Iと、粒径幅がこれより大きい領域IIとからなり、かつ、領域Iの微細粒子と領域IIの粗大粒子の結晶方位のずれが15度以下となる縦区分の面積割合が高いため、切刃に対して衝撃的・断続的高負荷が作用する乾式断続重切削条件や、連続的な高負荷がかかる乾式連続高送り切削条件においても、すぐれた高温強度に加えてすぐれた耐欠損性と靭性を示し、すぐれた工具特性を発揮し、工具寿命の延命化に寄与するものである。
本発明の表面被覆切削工具の硬質被覆層(改質CrAlN層)を蒸着形成するため圧力勾配型Arプラズマガンを利用したイオンプレーティング装置の概略正面図である。 従来の表面被覆切削工具の硬質被覆層(従来CrAlN層)を蒸着形成するためスパッタリング(SP)装置の概略図を示す。 本発明の表面被覆切削工具の改質CrAlN層からなる硬質被覆層の模式図を示し、(a)は、層厚方向縦断面模式図を、また、(b)は、イ−イ面に沿った斜視断面模式図を示す 硬質被覆層の領域IにおけるCrAlN結晶粒の結晶方位<111>が断面研磨面に対する法線方向と直交する方向に対する傾斜角の測定範囲を示す概略説明図である。
つぎに、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
なお、ここでは被覆インサートを中心にして説明するが、被覆インサートに限らず、被覆エンドミル、被覆ドリル等の各種の被覆工具に適用できるものである。
原料粉末として、いずれも0.8〜3.0μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3 2 粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPa の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A1〜A12を形成した。
ついで、前記工具基体A1〜A12を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図1に示される圧力勾配型Arプラズマガンを利用したイオンプレーティング装置に装着し、蒸発源として、金属Crおよび金属Alを装着し、まず、装置内を排気して1.0×10−3Pa以下の真空に保持しながらヒーターで装置内を400℃に加熱した後、Arガスを導入して2.3×10−2Paとしたのち、圧力勾配型プラズマガンの放電電力を2kWとし、装置内にArイオンを発生させ、工具基体に−200Vのバイアス電圧を印加することによって、前記工具基体を10分間Arボンバード処理し、ついで、装置内を一旦1×10−3Pa程度の真空にした後、
表2に示す条件で、まず、工具基体にバイアス電圧を印加しないで、圧力勾配型Arプラズマガンの放電電力を表2に示す出力値とし、Arガスを60sccm,窒素ガスを100sccm流しながら、炉内の圧力を3×10−2〜6×10−2Paに保ち、夫々の蒸発源にプラズマビームを入射し金属Crおよび金属Alの蒸気を発生させるとともにプラズマビームでイオン化して、工具基体表面に、表4に示される所定時間の間、改質CrAlN層の領域Iを蒸着形成し、
引き続き、同じく表2に示す条件で、工具基体に−10〜−20Vのバイアス電圧を印加した状態で、前記同様に、工具基体表面に、表4に示される所定時間の間、改質CrAlN層の領域IIを蒸着形成することにより、本発明被覆工具としての本発明表面被覆インサート(以下、本発明インサートという)1〜17を製造した。
なお、表2に、本発明インサート1〜17の改質CrAlN層の形成条件である圧力勾配型Arプラズマガンを利用したイオンプレーティングの各種条件を示す。
比較の目的で、前記工具基体A1〜A11を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図2に示されるスパッタリング(SP)装置に装着し、カソード電極(蒸発源)として金属CrおよびCr−Al合金を装着し、まず、装置内を排気して0.01Pa以下の真空に保持しながらヒーターで装置内を300〜460℃に加熱した後、Arガスを200sccm導入し、金属Crと前記工具基体との間に−800Vの直流バイアス電圧を印加し、前記工具基体表面を5分間Crボンバード処理し、ついで、表3に示す条件で、装置内に雰囲気ガスとして窒素ガスおよびArガスを導入して0.5Paの雰囲気とするとともに、前記CrAl合金と前記工具基体との間にバイアス電圧として−30Vおよび−50Vの直流バイアス電圧を印加し、もって前記工具基体の表面に、表6に示される目標層厚の従来CrAlN層を硬質被覆層として蒸着形成することにより、従来被覆工具としての従来表面被覆インサート(以下、従来インサートという)1〜13を製造した。
なお、表3には、従来インサート1〜13の従来CrAlN層の形成されるスパッタリング条件を示す。
本発明インサート1〜17の改質CrAlN層および従来インサート1〜13の従来CrAlN層について、硬質被覆層の垂直縦断面内におけるCrAlN結晶粒の粒径の変化を、走査型電子顕微鏡(CarlZeiss社製 ULTRA55)で観察したところ、例えば、図3(a)に例示されるように、改質CrAlN層の工具基体表面近傍は幅10〜50nmの微細粒からなる領域Iからなり、さらに、硬質被覆層表面近傍は幅50nm以上の粗大粒からなる領域IIからなることが観察された。
さらに、集束イオンビーム加工装置を用いて、図3(a)および図3(b)に示す模式図のイ−イ面に例示されるように、基板表面に対して5度の傾きで試料を幅7μm×長さ10μm×厚さ100nmに薄片化した試料について、透過型電子顕微鏡(JEM−2010F)を用いて、工具基体表面と硬質被覆層界面から垂直高さ換算で0.1μmの位置での粒径幅WΙおよび、硬質被覆層表面から垂直深さ換算で0.1μmの位置の粒径幅WΙΙを測定し、それらの値をWΙΙ/WΙの数値とともに表4および表5に示した。
なお、ここでいう粒径幅とは、「観察された表面内で、前記高さ換算あるいは深さ換算で0.1μmとなる位置に工具基体表面と平行な線を引いた場合に、ひとつの粒子内を通る線分の長さの平均値」である。
表4から、本発明インサート1〜17の改質CrAlN層は、工具基体表面と硬質被覆層界面から垂直高さ換算で0.1μmの位置での粒径幅WΙおよび、硬質被覆層表面から垂直深さ換算で0.1μmの位置の粒径幅WΙΙが、それぞれ、
10nm<WΙ<50nm、かつ、5<WΙΙ/WΙ<100
の関係を満たしていることが分かる。
一方、表5から、従来インサート1〜13の従来CrAlN層は、前記関係式を満たしていないことが分かる。
ついで、本発明インサート1〜17の改質CrAlN層および従来インサート1〜13の従来CrAlN層について、硬質被覆層の縦断面を研磨面とした状態で、電子線後方散乱回折装置(EBSD)を用いて、硬質被覆層の縦断面の結晶方位を解析した。すなわち、幅10μm、高さ硬質被覆層の層厚相当の領域を、0.01μm/stepの間隔で、前記断面研磨面の法線方向および法線と直交する任意の方向に対して各測定点の結晶方位<111>がなす傾斜角、および断面研磨面の法線方向と結晶方位<100>がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、測定された面積領域を基板表面に垂直に100nm毎のピッチで縦区分に区切り、さらに、それぞれの縦区分内を工具基体とCrAlN膜の界面からCrAlN膜の成長方向に100nm毎のピッチで区切り、100nm×100nmに区分けされたそれぞれの領域(セル)に存在する測定点の前記三つの測定傾斜角の平均値をそれぞれ計算し、同一の前記縦区分に存在する複数セルの三つの測定傾斜角の平均値の最大値と最小値の差をそれぞれ計算し、これらの値を表4および表5に示した。
そして、表4から、本発明インサートの改質CrAlN層は、縦区分内に存在するセルにおける、前記断面研磨面の法線方向と<111>方向のなす平均傾斜角、前記断面研磨面の法線に直交する方向と<111>方向のなす平均傾斜角、前記断面研磨面の法線方向と<100>方向のなす平均傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下となる縦区分が全面積の60%以上を占めていることが分かる。
一方、表5から、従来インサートの従来CrAlN層は、同一縦区分における各平均傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下となる縦区分は、存在するものの、少ない(50%以下)ことが分かる。
Figure 2011218542
Figure 2011218542
Figure 2011218542
Figure 2011218542
Figure 2011218542
つぎに、本発明インサート1〜17および従来インサート1〜13について、これを工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・SUS304の長さ方向等間隔6本縦溝入り丸棒、
切削速度: 220m/min.、
切り込み: 3.0mm、
送り: 0.4mm/rev.、
切削時間: 2分、
の条件(切削条件1という)でのステンレス鋼の乾式連続高送り切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、120m/min、0.3mm/rev.)、
被削材:JIS・S45Cの長さ方向等間隔6本縦溝入り丸棒、
切削速度: 200m/min.、
切り込み: 3.0mm、
送り: 0.4mm/rev.、
切削時間: 2分、
の条件(切削条件2という)での炭素鋼の乾式断続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、180mm、0.2mm/rev.)、
を行い、
いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表6に示した。
Figure 2011218542
表4、6に示される結果から、本発明インサート1〜17は、CrAlN結晶粒の粒径幅が小さい領域Iと、粒径幅がこれより大きい領域IIとからなり、かつ、基板に対して垂直に連続する領域Iの微細粒子と領域IIの粗大粒子の結晶方位のずれが15度以下となる縦区分の面積割合が高いため、切刃に対して衝撃的・断続的高負荷が作用する乾式断続重切削条件や、連続的な高負荷がかかる乾式連続高送り切削条件においても、すぐれた高温強度に加えてすぐれた耐欠損性と靭性を示し、すぐれた工具特性を発揮することが明らかである。
さらに、表4、6から、本発明インサートの改質CrAlN層の中でも特に性能のよいものは、縦区分内に存在するセルにおける、前記断面研磨面の法線方向と<111>方向のなす平均傾斜角、前記断面研磨面の法線に直交する方向と<111>方向のなす平均傾斜角、前記断面研磨面の法線方向と<100>方向のなす平均傾斜角の最大値と最小値の差が5度以下となる縦区分が全面積の60%以上を占めていることが分かる。
これに対して、表5、6から、従来インサート1〜13においては、従来CrAlN層は、耐欠損性と靭性に劣り、乾式断続重切削条件や、乾式連続高送り切削条件では欠損等により、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
前述のように、この発明の被覆工具は、硬質被覆層(改質CrAlN層)がすぐれた靭性、耐欠損性を有することから、被覆インサートばかりでなく、被覆エンドミル、被覆ドリル等の各種被覆工具として用いることができ、そして、これによって、靭性不足、強度不足等に起因する工具欠損の発生を防止し、長期の使用に亘って優れた切削性能を発揮するものであるから、低コスト化に十分満足に対応できるとともに、工具寿命の延命化を図ることができるものである。
1: 工具基体
2: 硬質被覆層
3: 工具基体と硬質被覆層の界面
4: 硬質被覆層の最表面
5: 工具基体と硬質被覆層の界面から、基体に垂直な高さ換算で0.1μmの位置
6: 硬質被覆層の最表面から、基体に垂直な深さ換算で0.1μmの位置

Claims (2)

  1. 炭化タングステン基超硬合金焼結体からなる工具基体の表面に、0.5〜2μmの平均層厚を有するCrAlN膜からなる硬質被覆層を物理蒸着した表面被覆切削工具において、
    (a)硬質被覆層の、工具基体とCrAlN膜の界面から0.1μmの高さ位置にあるCrAlN結晶粒の粒径幅をW、CrAlN膜の最表面から0.1μmの深さ位置にあるCrAlN結晶粒の粒径幅をWIIとしたとき、
    10nm<W<50nm、かつ、5<WII/W<100
    を満たす関係が存在し、
    (b)さらに、電子線後方散乱回折装置を用いて、硬質被覆層断面のCrAlN結晶粒の結晶方位を解析し、測定された二次元領域を工具基体表面に対して略垂直な方向に100nm毎のピッチで縦区分に区切り、さらに、それぞれの縦区分内を工具基体とCrAlN膜の界面からCrAlN膜の成長方向に100nm毎のピッチで区切り、100nm×100nmに区分けされたそれぞれの領域(セル)に存在する各測定点の、
    <111>結晶方位とCrAlN膜測定断面の法線方向がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下であり、
    <111>結晶方位とCrAlN膜測定断面の法線と直交する方向がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下であり、
    <100>結晶方位とCrAlN膜測定断面の法線がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下
    である100nm幅の縦区分が、測定された全面積のうちの60%以上を占有することを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記CrAlN膜の組成をCr1−xAlNで表した時に、Crに対するAlの含有割合xが0.3≦x≦0.6を満たすことを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
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