JP2011190525A - 制振性に優れた鋼その製造方法及び該鋼を含んで構成される制振体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】
炭素0.001〜0.20重量%、シリコン0.01〜3.0重量%、マンガン5.0〜18.0重量%、クロム0.01〜20.0重量%、アルミニウム0.001〜0.1重量%、残部鉄を含んでなる鋼であって、積層欠陥エネルギー(SFE(mJ/m2)を20(mJ/m2)以下の条件を満たす化学組成になるように溶製し、所定の熱処理条件、冷却条件及び冷間加工条件を満たす製造方法によってε−Ms相が10〜50体積%となるようにする。
【選択図】図11
Description
これに応えるものとして振動減衰能のある材料として、鋳鉄、Mn−Cu合金、Mg−Zr合金、Mg−Ni合金、Al−Zn合金、Fe−Al−Cr合金、Ni−Ti合金、Cu−Al−Ni合金等が知られている。
これらの内、鋳鉄やMg系合金は強度が低いという欠点がある。
Mn−Cu系合金は、強度が低い上に100℃以上では減衰能が極端に減少する欠点がある。
Fe−Al−Cr合金は、歪によって減衰能が低下するという欠点がある。
これらの材料は、振動減衰能は比較的優れているが、高価な元素を多く含んでいるため、合金材料の価格上昇となり工業的用途が制限されている。
ここで、リニアモーター用材料等の交通機関に使用される鋼材には低温靭性に加えて騒音等の環境問題から放射音を吸収低減する新機能の制振性に優れた鋼が求められている。
自動車やオートバイ等では衝突安全性のために衝撃振動吸収が優れ、かつ、安価で制振性に優れた鋼が求められている。
上記Fe−Cr−Mn合金は、組成的にステンレス鋼をベースとしたものである。
従って、その機械的性質はステンレス鋼とほぼ同等であり、かつ、制振性に優れているので上記の問題点を解決する発明である。
そして、マンガン成分が多いと材料自体が極めて硬くなるために冷間加工時にコストが要るという問題点がある。
しかしながら、特許文献2においては、冷間加工による方法によって高強度高減衰能合金を推奨しているが、振動減衰能が安定して得られないばかりか、母材の靭性を著しく低下させるので、上記記載の用途が限定されるという問題が生ずる場合があることが判明してきた。
この技術は、ニッケル添加によってマンガン成分を低くすることで製造コストを低減するための対策技術ではあるが、高価なニッケルを添加して冷間加工性を向上しようとする対応策であるが、原料コストの観点に立てば、むしろ、コストが嵩むことともなる技術であり、総合的製造コストの原理原則に立ち返って検討し直すことが必要であった。
しかしながら、特許文献8におけるマンガン重量百分率は、15〜40%と高いため熱間加工及び冷間加工においてコスト高となり製造技術的に問題がある。
そして、特許文献8は、鋼の制振性発現に関するものではない。
[数式1]
SFE(mJ/m2)=
25.7+2×[%Ni]+410×[%C]−0.9×[%Cr]
−77×[%N]−13×[%Si]−1.2×[%Mn] (1)
ここで、高強度を得るために、炭素重量百分率が0.10%を超えて添加した上で、良好な靭性と良好な制振性を得るために、700℃近傍の温度で熱処理を施すことによって、炭素をクロム炭化物の形にして固溶炭素を低減する技術を想致した(非特許文献3参照)。この様な熱処理をした時には、固溶炭素重量百分率としては[%C]で表現することになるので、前述の数式1は、数式2とするのが妥当である。
具体的な処理条件については、後の項で詳述する。
即ち、
[数式2]
SFE(mJ/m2)=
25.7+2×[%Ni]+410×[%C]−0.9×[%Cr]
−77×[%N]−13×[%Si]−1.2×[%Mn] (2)
この数式(3)によって計算される積層欠陥エネルギー(SFE)(mJ/m2)は、ε−Ms相が生成し易い度合いを示す尺度(指標、メルクマール)であり、数式(3)を満足することは、制振性に優れることを意味する。
[数式3]
−20(mJ/m2) ≦ SFE ≦ 20(mJ/m2) (3)
[数式4]
10体積% ≦ [%ε−Ms相] ≦ 50体積% (4)
この片持ち梁法によって測定した制振性を表す損失係数(η)は、鋼の制振性を示す尺度(指標、メルクマール)であり、数式(5)を満足することは、制振性に優れることを意味する。
[数式5]
0.005 ≦ η ≦ 0.10 (5)
[数式6]
vE−196℃ = W × R × (cosβ−cosα) (6)
[数式7]
50(J) ≦ vE−196℃ ≦ 280(J) (7)
[表1]及び[表2]に示す如く、本願発明の発明特定事項(発明の構成要件)における特徴は、特許文献1〜7及び非特許文献1と比較して、Si重量百分率を相対的に高い値に設定することにより、Mn、Cr、及び、Niの重量百分率を顕著に低い値に設定することを実現できたことである。
[表1]及び[表2]に示す如く、本願発明の効果(作用効果)における特徴の1つは、Mnの重量百分率を低い値とすることにより、冷間加工性を顕著に向上することができたことである。
[表1]及び[表2]に示す如く、本願発明の効果(作用効果)における特徴の1つは、Crの重量百分率を低い値とすることにより、冷間加工性を顕著に向上することができたことである。
[表1]及び[表2]に示す如く、本願発明の効果(作用効果)における特徴の1つは、Niの重量百分率を0とすることにより、顕著にコストダウンを実現できたことである。
即ち、上記の制振性に優れた鋼材は、鋼材内部の組織であるε−Ms相が外部から加えられた衝撃的或いは継続的振動を効果的に吸収するので制振性発現として作用しているものである。
ここで、その制振性発現機構がその鋼材の靭性発現にも繋がっていると考えることができる。
図1から、熱処理又は冷間加工によって生成したε−Ms相の微細な組織が外的衝撃による振動を吸収することによって靭性を発現すると考えることができる。
即ち、図2に示す積層欠陥転位の振動が外部からの振動又は衝撃エネルギーを吸収すると考えることができる。
即ち、
W0(J)=W1(J)+W2(J) (8)
数式(8)において、Jは吸収エネルギーの単位(ジュール)である。
ここで、衝撃振動吸収エネルギー(W2)は、数式9で表わすことができる。
即ち、注目する試験片体積(V)の内部に存在する転位密度(ρ)の転位が、外部からの衝撃によって距離(Δ)だけn回振動し、積層欠陥エネルギー(SFE)だけ振動エネルギーとして消費される。
W2(J)=V(m3)・ρ(m/m3)・Δ(m)・n(回)・SFE(J/m2) (9)
(3)項に示すように振動に寄与する転位の密度ρ(m/m3)は、1016(m/m3)程度と推定して、転移の総長L(m)は、(5)項に示すように5.5×1010(m)と計算できる。
この転位が積層欠陥幅(Δ)だけ振動するので転移の振動の総面積S(m2)は、5.0×103(m2)となる。
表3に示すこれらの数値、即ち、V:5.5×10−6(m3)(シャルピー試験片寸法、10×10×55mm)、ρ:1016(m/m3)、Δ:10−8(m)、n:10(回)、SFE:20(mJ/m2)を数式(8)に代入すると、W2:110(J)となる。
このことは、試験片内部に存在するε−Ms相中の積層欠陥転位がシャルピー試験において加えられた衝撃振動エネルギーを110(J)だけ吸収することによって靭性向上に寄与することが理論的試算によって推測することができる。
これらは、制振性発現機構と靭性発現機構との関係を思考する過程を半定量的に示す概算値であるが、後に実験例によって実証する。
これは、例えば、制振性のあるばね材の場合には、ばね性と制振性付与が冷間加工によって同時に実現されるので最適な方法である。しかし、冷間加工を施すと母材そのものの靭性が損なわれ数式8のW1が低下する。
本発明の目的を実現するためには、本発明に示す熱処理法、即ち、急速冷却によって熱誘起ε−Ms相を生成した後、これに、必要に応じて靭性を損なわなく且つ所望の機械的性質を得る程度の冷間加工を施すという新しい製造技術によって上記の問題を解決する本発明を想到するに至った。
本発明は、上記の問題を解決する方法として、特定の熱処理方法によって固溶状態の炭素をクロム炭化物とすることによって解決する技術を提示している。
[特許請求の範囲]
[請求項1]
炭素の重量百分率[%C]を0.001〜0.10[%]、
シリコンの重量百分率[%Si]を0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量百分率[%Mn]を5.0〜18.0[%]、
クロムの重量百分率[%Cr]を0.01〜20.0[%]、
アルミニウムの重量百分率[%Al]を0.001〜0.10[%]、
残部を鉄の重量百分率[%Fe]、ニッケルの重量百分率[%Ni]、窒素の重量百分率[%N]として含む鋼であって、
数式1によって計算される積層欠陥エネルギー(SFE)(mJ/m2)が、数式3を満足し、
X線回折法によって測定されたイプシロン・マルテンサイト相の体積パーセント[%ε−Ms相]が、数式4を満足する、
優れた靭性、優れた冷間加工性、及び、優れた制振性を有することを特徴とする制振性鋼。
[数式2]
SFE(mJ/m2)=25.7+2×[%Ni]+410×[%C]−0.9×[%Cr]−77×[%N]−13×[%Si]−1.2×[%Mn] (1)
[数式3]
−20(mJ/m2) ≦ SFE ≦ 20(mJ/m2) (3)
[数式4]
10[体積%] ≦ [%ε−Ms相] ≦ 50[体積%] (4)
[請求項2]
炭素の重量百分率[%C]を0.001〜0.20[%]、
シリコンの重量百分率[%Si]を0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量百分率[%Mn]を5.0〜18.0[%]、
クロムの重量百分率[%Cr]を0.01〜20.0[%]、
アルミニウムの重量百分率[%Al]を0.001〜0.10[%]、
残部を鉄の重量百分率[%Fe]、ニッケルの重量百分率[%Ni]、窒素の重量百分率[%N]、固溶炭素重量百分率[%C]として含み、必要に応じて、500〜800℃で、1〜60分間、クロム炭化物析出のための熱処理を施す鋼であって、
数式2によって計算される積層欠陥エネルギー(SFE)(mJ/m2)が、数式3を満足し、
X線回折法によって測定されたイプシロン・マルテンサイト相の体積パーセント[%ε−Ms相]が、数式4を満足する、
高強度で、優れた靭性、優れた冷間加工性、及び、優れた制振性を有することを特徴とする、請求項1に記載した制振性鋼。
[数式2]
SFE(mJ/m2)=25.7+2×[%Ni]+410×[%C]−0.9×[%Cr]−77×[%N]−13×[%Si]−1.2×[%Mn] (2)
[数式3]
−20(mJ/m2) ≦ SFE ≦ 20(mJ/m2) (3)
[数式4]
10[体積%] ≦ [%ε−Ms相] ≦ 50[体積%] (4)
[請求項3]
片持ち梁法によって測定した制振性を表す損失係数(η)が、数式5を満足することを特徴とする請求項1乃至2の何れかに記載した制振性鋼。
[数式5]
0.005 ≦ η ≦ 0.10 (5)
[請求項4]
日本工業規格(JIS Z 2242:2005 金属材料のシャルピー衝撃試験方法)に規定する試験方法に従って、−196℃の試験温度でのシャルピー試験(Charpy test)において、ハンマ重量W[N]、回転軸中心線からハンマ重心までの距離R[m]、持上げ角度α[deg]の条件で、試験片の切り欠き背面にハンマで衝撃荷重を与えたときに、その後の振り上がり角度β[deg]に基づいて、数式6により計算される試験片が吸収したエネルギーであって、
鋼の低温靱性の尺度であるシャルピー吸収エネルギーvE−196℃[J]が、数式7を満足することを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載した制振性鋼。
[数式6]
vE−196℃ = W × R × (cosβ−cosα) (6)
[数式7]
50(J) ≦ vE−196℃ ≦ 280(J) (7)
[請求項5]
炭素の重量百分率[%C]を0.001〜0.20[%]、
シリコンの重量百分率[%Si]を0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量百分率[%Mn]を5.0〜18.0[%]、
クロムの重量百分率[%Cr]を0.01〜20.0[%]、
アルミニウムの重量百分率[%Al]を0.001〜0.10[%]、
且つ、残部を鉄及び不可避元素として含んでなる鋼を、
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、冷間加工する工程、
第4工程として、800〜1100℃で、1〜60分間、溶体化熱処理をした後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、必要に応じて、500〜800℃で、1〜60分間、熱処理した後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第6工程として、必要に応じて、冷間加工率1〜30%の冷間加工を施す工程、
を含んで構成されることを特徴とする、請求項1乃至4の何れかに記載した制振性鋼の製造方法。
[請求項6]
炭素の重量百分率[%C]を0.001〜0.20[%]、
シリコンの重量百分率[%Si]を0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量百分率[%Mn]を5.0〜18.0[%]、
クロムの重量百分率[%Cr]を0.01〜20.0[%]、
アルミニウムの重量百分率[%Al]を0.001〜0.10[%]、
且つ、残部を鉄及び不可避元素として含んでなる鋼を、
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、800〜1100℃で、1〜60分間、溶体化熱処理をした後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第4工程として、必要に応じて、500〜800℃で、1〜60分間、熱処理した後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、必要に応じて、冷間加工率1〜30%の冷間加工を施す工程、
を含んで構成されることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載した制振性鋼の製造方法。
[請求項7]
鋼球、ころがり軸受、ボルト・ナット、切削工具支持体、HDD用サスペンション、板ばね、コイルばね、自動車排気管、自動車補強材、自動車シート、建造物免震支持体、超電導体冷却用冷媒液体容器に適用されることを特徴とする、請求項1乃至6の何れかに記載した制振性鋼によって構成される制振体。
具体的には、鋼球、ころがり軸受、ボルト・ナット、切削工具支持体、HDD用サスペンション、板ばね、コイルばね、自動車排気管、自動車補強材、自動車シート、建造物免震支持体、超電導体冷却用冷媒液体容器に適用される制振体を提供できる。
本発明により、制振性に優れた鋼を製造するために必須の元素であるマンガン重量百分率を顕著に低減することが実現できることから、製造コストを顕著に低減することを可能とし、これにより、制振性に優れた鋼を安価に大量に提供することを可能とする。
図3に、本発明における製造プロセスを示す。
これは、良好な制振性発現能を持ちながら、微量のシリコンを添加することによってマンガン量を低く抑えることができることを示している。
即ち、請求項1及び2記載事項において、熱処理或いは冷間加工によってε−Ms相が生成し易い度合いを示す積層欠陥エネルギーSFE(mJ/m2)の関係式(数式1及び2)において、マンガンの項は−1.2×[%Mn]であり、シリコンの項は−13×[%Si]であることから、シリコンはマンガンの約十倍のSFEの低下効果があることを示している。
即ち、SFEを20mJ/m2以下に保持する上で、微量の0.1〜3.0重量%のシリコン添加によってマンガン重量百分率を5.0〜18.0重量%と少なく抑えられている。
これは、高マンガン鋼において、優れた冷間加工性を得るために極めて重要な発明である。
即ち、マンガン重量百分率が5.0%未満であると、制振性発現が不十分となるためであり、18.0%以上になると冷間加工性が悪くなり製造コストが上がるためである。好ましくは、マンガン重量百分率10.0〜18.0%である。
更に、シリコンを0.01重量%以上としたのは、0.01重量%以下ではシリコン添加効果が見られないためであり、3.0重量%以上はシリコンによる固溶体硬化によって材料が硬くなり過ぎるためであり、好ましくはシリコン重量百分率0.5〜1.0%である。
マンガンについては、マンガン重量百分率が5.0重量%未満では、制振性発現効果が少なく、また、18.0重量%以上では、冷間加工性が不良となり、製造コストが高くなるためである。
これは、本発明の基本となるγ−相の生成に関するものである。
図4に、Fe−Cr−Mn−Ni鋼の状態図を示した。
図4から明らかなように、クロムが20.0重量%を超える領域ではオーステナイト相(γ−相)とフェライト相(α−相)の2相が生成するので、クロムを20.0重量%以下、好ましくは、15.0%以下とする。
クロムの下限については、積層欠陥エネルギーSFE(mJ/m2)(数式1或いは2)を20(mJ/m2)以下とする条件を満たす範囲を設定することによって、クロムとマンガンの相乗効果によって効果的にγ−相を生成させる領域を広くとることができる。
ここで、特許文献2との比較で、ニッケルのγ−相生成の役割をシリコン、マンガン及びクロムが効果的に果しているので、制振性発現の観点からは高価なニッケルは必ずしも必要なくなっている。
即ち、本発明においては、制振性発現以外の必要がない限り、ニッケルの意図的な添加の必要はない。
これは、本発明の基本的な制振発現の必要条件である金属組織、即ち、ε−Ms相の定量的表現であり、10体積%以下では制振性と靭性が不十分となるためであり、50体積%を超えるとε−Ms相が相互に絡みあって逆に上記の制振特性を低下させることが分かったものである。
好ましくは、ε−Ms相の体積百分率が20〜40体積%である。
この場合、炭素、特に、固溶炭素は、ε−Ms相の振動吸収能を阻害するので、特定の熱処理を施すことによって、炭素をクロム炭化物の形にして固溶炭素を低減する技術を開示したものである。
以下に詳述する。
図5は、500、600及び700℃で熱処理した時の、全炭素重量百分率[%C]と固溶炭素重量百分率[%C]の関係を示す。
即ち、各温度における固溶限を超える炭素量はクロム炭化物として大きな形状の析出物となり制振性発現への阻害を無くすことができる。
図6は、クロム炭化物を析出する領域を示す温度−時間関係図である。
図6に示すように、800〜1100℃の固溶化熱処理の後に急速冷却して、炭素を粒内に微細に残留した後、500〜800℃に熱処理してクロム炭化物を結晶粒内に析出させて、しかる後に急速冷却する。図7は、クロム炭化物析出処理した後の顕微鏡写真である。
図7−2に示すように急速冷却することにより、結晶粒界にはクロム炭化物の析出が見られない。
即ち、アルミニウムが0.001重量%未満であると上記の鋼中窒素と結合するに必要なアルミニウム含有量が不足する場合がり、0.10重量%を越えると過剰のアルミニウムによって鋼材の表面や内部にアルミナ系の欠陥が発生しやすくなる危険があるためである。
ここで、本発明になる鋼材の振動減衰能は振動歪依存が大きいので、損失係数(η)測定方法は、振動歪みを約10−4以上にする必要があるため、これを可能にする方法として片持ち梁方式を選択した。
測定値においては、損失係数(η)が0.005未満であると制振性に優れた鋼としての振動減衰機能が不十分となるためであり、0.10を超えるための製造条件では鋼材の機械的性質が上記記載の用途に適さなくなるためである。
ここで、シャルピー吸収エネルギー(vE−196℃) を50ジュール以上としたのは、50ジュール未満では、例えば、超電導冷却液体窒素用の仕様を満足しないためである。
280ジュール以下としたのは、280ジュールを超える靭性値を得るためにはニッケル等の高価な元素添加が必要になり鋼のコストを不必要に上げることになるためである。
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、冷間加工する工程、
第4工程として、800〜1100℃で、1〜60分間、溶体化熱処理をした後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、必要に応じて、500〜800℃で、1〜60分間の、クロム炭化物析出処理した後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第6工程として、必要に応じて、冷間加工率1〜30%の冷間加工を施す工程、
を含んでなる工程によって、制振性に優れた鋼の製造方法を提案している。
ここで、特に、本発明における重要な工程は、第4工程、第5工程及び第6工程である。
第4工程は、所謂、固溶体化熱処理であり、熱処理温度を800〜1100℃としたのは、800℃未満の温度では冷間加工歪除去及びオーステナイト化が不十分となるためであるために制振性発現が不十分となるためであり、1100℃を超えるとオーステナイト結晶粒度が粗大化して機械的性質が不良となるためである。
第4及び5工程において急速冷却する理由は、γ−相からε−Ms相への相転移に於いて、効果的に熱誘起ε−Ms相を生成させるためであり、これを10〜50℃/secとした。10℃/sec未満の冷却速度ではε−Ms相の生成が不十分となる為である。
第6工程において、この鋼を更に1〜30%以下の冷間加工を施すことによってε−Ms相の体積%を増大させること又は冷間加工によって鋼の強度を上げる製造方法を開示している。
これは、用途によって必要な制振性や機械的性質或いは硬さを得るために必要に応じて選択することができる。
ここで、冷間加工率を1〜30%としたのは、冷間加工率が30%を超えると生成するε−Ms相の体積%が50%を超えるために、逆に有効なε−Ms相の振動が阻害されるので制振性が低下するためである。
ここで、本発明になる制振性に優れた鋼を使用する場合に留意すべきことは、本発明の鋼材形状を適用される振動環境に合わせた1次共振周波数にすることによって初めて、効果的に振動吸収効果を発揮することができる。この指標を基に適用環境において効果的な制振性を発揮できるようにする適用指針を提示することは、本発明の極めて重要な発明要素である。
個々に適用される制振体についての説明は、実験例4によって詳述する。
「REM」は、希土類元素一般を示す。
実験例1として、表4に示す組成の鋼を溶製した。
ここで、表4に記載されていない元素について説明すると、窒素は、溶製時に不可避的に侵入するもので0.008〜0.10%の範囲とした。
リン(P)及び硫黄(S)はいずれも0.01%以下とした。
ニッケル(Ni)は、SUS304以外では意図的には添加しなかった。
これを1000℃で2時間加熱し、仕上げ温度850℃で熱間加工して10mm厚の熱延鋼板とした。
これを、これを、950℃で真空中で1時間熱処理して急速冷却して10mm角×50mmのシャルピー試験片とした。
更に、半分の供試材を1.0mm厚まで冷間加工して、真空中で950℃、1時間の熱処理を行った後に急速冷却した。
このとき、500℃から常温までの冷却速度は20℃/秒であった。
さらに、クロム炭化物の析出処理として、700℃で30分間の熱処理を行った後、水中に急速冷却した。
この材料の積層欠陥エネルギーSFE(mJ/m2)を数式2によって計算した。数式中の固溶炭素重量百分率[%C]は、前述の図5の関係から読み取った値を使用した。
鋼中のε−Ms相の体積%をX線回折法によって求めた。
更に、片持ち梁方式によって損失係数(η)を測定した。
損失係数(η)の測定方法は一端をクランプで固定し振動部のサイズは1.0mm厚×50mm幅×100mm長であり固定部を3G(3×980mm/s2)の加速度で衝撃を与え自由減衰時間及び振動周波数を測定して損失係数(η)を求めた。このときの振動歪は10−4レベルであった。
冷間加工性は、試験用圧延機によって供試用サンプルを試作する際に次の熱処理が必要となるまでの冷間圧延率によって評価した。
冷間加工性評価の具体的な方法と結果については、実験例3に詳述する。
特に、表4において、本発明例14と比較例9は同一の化学組成の材料であるが、本発明例14は、クロム炭化物析出処理を施した場合であり、比較例9はそれをしなかった場合の各特性を比較したものである。
これによって、高強度を目的として採用する、炭素重量百分率が0.10〜0.20%の比較的高い領域でのクロム炭化物析出処理の効果を比較することができる。
総合評価として、優良(◎)、良好(○)及び不可(×)の記号によって表わした。
本発明例1〜14は、シリコンを本発明の推奨範囲内である0.5〜1.0重量%を添加した例である。
ここで、本発明例1〜3は、SFE値は、10mJ/m2以下であり、ε−Ms相体積%は、本発明の請求範囲内であるので損失係数(η)、冷間加工性及び低温靭性は極めて良好である。特に、本発明例3においては、シリコンを0,8%添加しているので、クロムが6.0重量%でもSFEの条件を満たせば極めて良好な制振性を示すことが確認できた。
次に、本発明例4〜14は、SFE値が20mJ/m2以下でありε−Ms相体積%は本発明の請求範囲内であるので、損失係数(η)及び靭性は良好である。特に、クロムについては、SFEの条件を満足する範囲である、7.0重量%(本発明例5,7及び9)或いは5.0重量%(本発明例12)においても良好な制振性発現が確認された。
比較例1及び2については、SFE、ε−Ms相体積%及び損失係数(η)の指標からの判断では、良好(○)であるが、マンガン量が22.0及び19.0重量%と高いために材料が硬く冷間加工性の観点から量産出来ないので総合評価は不可としており、これは実験例3の項において詳述する。
比較例3は、シリコン無添加のために制振性が不良である。
比較例4は、シリコン量が過大なので、材料が硬く加工コスト高いので実生産ができない。
比較例5は、マンガン量が不足しているため制振性が不良である。
比較例6は、クロム量が過大のため、母相がγ−相及びα−相の2相域となっているために、ε−Ms相の生成量が少ないので損失係数(η)も不十分である。
比較例7は、窒素をAlNの形に固定するに必要なAlが不足しているために、ε−Ms相の作用を阻害している。
比較例8は、炭素量が0.20重量%を超えているために、制振性及び低温靭性が不良である。
比較例9は、クロム炭化物析出の熱処理をしなかった例であり、過剰の固溶炭素がε−Ms相の制振性発揮を阻害している。即ち、本発明例との比較によって、クロム炭化物析出処理による高炭素領域での制振性改善効果が顕著である。
比較例10は、SUS304であるが、制振性は発現していないが、低温靭性に優れている量産材料なので比較のために掲載した。
図5は、SFEとε−Ms相体積%との関係を示すが、比較例6は、クロム組成比21重量%の場合であり、γ−相及びα−相の2相域となっているために、ε−Ms相の生成量が少ないので損失係数(η)も不十分である。
図6は、ε−Ms相体積%と損失係数(η)との関係を示すが、比較例7は、アルミニウムの添加量が過少のために固溶している窒素が損失係数(η)を低下させている為にε−Ms相体積%と損失係数(η)との関係が外れている。
図7は、マンガン含有量とε−Ms相体積%との関係を示しているが、比較例のシリコン無添加に対して本発明例はシリコンを0.5.〜1.0重量%の微量添加によってマンガン量が18重量%未満であっても必要なε−Ms相の生成領域を増大することができることを示したものであり本発明の主要な効果を示している。
これらから明らかなように、例えば、本発明例1〜14は、優れた制振性とSUS304並みの優れた低温靭性を発揮することが確認され、本発明の正当性を実証できた。
図11は、本発明の代表例として本発明例1と比較例10(SUS304)の制振性能(損失係数(η))、機械的性質、低温靭性(シャルピー吸収エネルギー)及び自由振動減衰波形を比較したものである。
実験例2は、本発明の請求項5及び6関するものである。
即ち、損失係数(η)を発現するε−Ms相を効果的に生成させ、かつ、良好な低温靭性を持つ鋼を得るための製造条件に関するものであり、本発明の主要な要件を実証するものである。
表4に記載した本発明例1の材料を用いた。
これを1000℃で2時間加熱し、加工仕上げ温度850℃で熱間加工して10mm厚の熱延鋼板とした。これを、800℃×1hr、真空中で溶体化熱処理を行った後、表5に示す条件で冷却及び冷間加工を施した。これらより、5mm角×500mmの小型シャルピー試験片を採取した。
械的性質及び損失係数(η)の測定には、上記の10mm厚の熱延板を冷間圧延によって、1.0mm厚の冷間圧延板として、これを、同様に、800℃×1hr、真空中で溶体化熱処理を行った後、表5に示す条件で冷却及び冷間加工を施した。
冷却条件としては、水冷条件は、20℃/秒であり、空冷条件は、0.06℃/秒であった。
表5に、これらの機械的性質、制振性(損失係数(η))及び低温靭性(vE−196℃)の測定結果を示す。
低温靭性を付加した制振性に優れた鋼は、損失係数(η)と低温靭性(vE−196℃)が重要である。
一方、ばね性を付与した制振性に優れた鋼は、損失係数(η)と機械的性質(ばね性)が重要である。
試験No.1−1〜1−5は、800℃で溶体化熱処理後に水中に急冷した場合である。
試験No.2−1〜2−5は、800℃で溶体化熱処理後に空冷した場合である。
試験No.1−1及び1−2に示すように、800℃で熱処理後水中急冷のまま又はこれに5%程度の軽い冷間加工を加えたときに、制振性及び低温靭性にすぐれた鋼を得ることができる。
試験No.1−3及び1−4は、使用目的によって引張り強度を必要とした場合を想定したものであるが、低温靭性は冷間加工によって当然低下するが制振性は優れている。
このように、熱処理後に急冷することによって、熱誘起ε−Ms相を生成させる製造方法は様々な用途に対応できる。
ただし、35%程度の冷間加工を加えると制振性も劣化する。
一方、試験No.2−1〜2−5の場合は、800℃で熱処理後に徐冷した場合であるが、熱処理のまま、或いは、軽加工を加えた程度では制振性の発現が不十分であり、制振性と低温靭性が共に優れる条件を見出すことが出来ない。
このことは、急速冷却処理をすることによって始めて、制振性及び低温靭性共に優れた鋼を安定して製造できることを示している。
実験例3は、本発明の制振性に優れた鋼の冷間加工性の評価に関するものである。
表6は、本発明例1(Mn:16%)、本発明例8(Mn:8%)、比較例1(Mn:22%)及び比較例10(Mn:1%、SUS304)のマンガン(Mn)含有量の異なる鋼について、試験圧延機(ワークロール径85mmφの4段圧延機)によって、2.0mmから約0.03mm厚までの冷間圧延における中間熱処理回数と次の熱処理が必要となるまでの冷間圧延率を測定したものである。
本発明例1又は8は、2.0mmから約0.03mmまでに中間熱処理回数は3回であり、次の中間熱処理までの平均冷間圧延率は63〜70%である。これはSUS304(比較例10)と同等であることが確認され、実生産可能との総合評価である。
これに対して、比較例1(Mn:22%)は、9回の中間熱処理が必要となり、次の中間熱処理までの平均冷間圧延率は35%である。これは、実生産における冷間加工のコストが過大となるために実用化が阻害されていることが明白に示されている。
本発明に係る鋼をその制振性能を効果的に発揮させるには、その制振体の1次共振周波数を、適用する振動環境に適するようにした制振体の構造にする必要がある。
そこで、本発明者らは、本発明になる鋼について、箔、板及び棒の単純な断面積の様々な寸法と1次共振周波数との関係を図9に示す実験によって求めた。
図10は、1次共振周波数を求めるための周波数応答関数の1例である。
サンプル(振動部)の横断面積S(mm2)、長さをL(mm)から数式8によって求められる形状ファクタF(以下、「形状ファクタF」という。)と1次共振周波数fnとの関係を試行錯誤によって求めた。
結果を表7及び図14に示す。
これによって、下記の実験式(数式9)の関係が導出された。
即ち、fn=C×Fの関係にあることがわかった。
ただし、数式9における係数(C)は、本発明に係る制振性に優れた鋼にのみ適用されるものであり、他の材料では別途測定しなければならない。
また上記の関係は、Fが0.0001〜1.0の広い範囲で適用できることが確認された。
本発明に係る制振性に優れた鋼において、形状ファクタFは数式8により算出され、1次共振周波数fn(Hz)は、数式9により算出される。
F=S/L2 (8)
[数式9]
fn(Hz)=1.0×105×F (9)
そのときの制振体の形状ファクタF及び1次共振周波数を併せて記載した。
ここで、複雑な断面形状や長さ方向で断面形状が変化するような用途の場合には、本発明の技術思想を基にして最も適した実験によって見かけの1次共振周波数を測定することによって、本発明の思想を適用することができる。
これによると、本発明になる制振性に優れた鋼は、各々の適用分野において、上記の関係を適用することによって振動吸収が効果的に発現するに必要な振動振幅となり、優れた制振性能を発揮することが明らかとなった。
制振体の具体例は、鋼球、ころがり軸受、ボールねじ、ボルト・ナット、切削工具支持体、HDD用サスペンション、板ばね、コイルばね、自動車排気管、自動車補強材、自動車シート、建造物免震支持体、超電導体冷却用冷媒液体容器である。
本発明により、制振性にすぐれた鋼を製造するためには必須な元素であるマンガンの含有量を顕著に低減することが実現できることから、製造コストを顕著に低減することを可能とし、さらには、制振に優れた鋼を安価に大量に提供することを可能とするので、産業上の利用価値が高い。
Claims (7)
- 炭素の重量百分率[%C]を0.001〜0.10[%]、
シリコンの重量百分率[%Si]を0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量百分率[%Mn]を5.0〜18.0[%]、
クロムの重量百分率[%Cr]を0.01〜20.0[%]、
アルミニウムの重量百分率[%Al]を0.001〜0.10[%]、
残部を鉄の重量百分率[%Fe]、ニッケルの重量百分率[%Ni]、窒素の重量百分率[%N]として含む鋼であって、
数式1によって計算される積層欠陥エネルギー(SFE)(mJ/m2)が、数式3を満足し、
X線回折法によって測定されたイプシロン・マルテンサイト相の体積パーセント[%ε−Ms相]が、数式4を満足する、
優れた靭性、優れた冷間加工性、及び、優れた制振性を有することを特徴とする制振性鋼。
[数式2]
SFE(mJ/m2)=25.7+2×[%Ni]+410×[%C]−0.9×[%Cr]−77×[%N]−13×[%Si]−1.2×[%Mn] (1)
[数式3]
−20(mJ/m2) ≦ SFE ≦ 20(mJ/m2) (3)
[数式4]
10[体積%] ≦ [%ε−Ms相] ≦ 50[体積%] (4) - 炭素の重量百分率[%C]を0.001〜0.20[%]、
シリコンの重量百分率[%Si]を0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量百分率[%Mn]を5.0〜18.0[%]、
クロムの重量百分率[%Cr]を0.01〜20.0[%]、
アルミニウムの重量百分率[%Al]を0.001〜0.10[%]、
残部を鉄の重量百分率[%Fe]、ニッケルの重量百分率[%Ni]、窒素の重量百分率[%N]、固溶炭素重量百分率[%C]として含み、必要に応じて、500〜800℃で、1〜60分間、クロム炭化物析出のための熱処理を施す鋼であって、
数式2によって計算される積層欠陥エネルギー(SFE)(mJ/m2)が、数式3を満足し、
X線回折法によって測定されたイプシロン・マルテンサイト相の体積パーセント[%ε−Ms相]が、数式4を満足する、
高強度で、優れた冷間加工性、及び、優れた制振性を有することを特徴とする、請求項1に記載した制振性鋼。
[数式2]
SFE(mJ/m2)=25.7+2×[%Ni]+410×[%C]−0.9×[%Cr]−77×[%N]−13×[%Si]−1.2×[%Mn] (2)
[数式3]
−20(mJ/m2) ≦ SFE ≦ 20(mJ/m2) (3)
[数式4]
10[体積%] ≦ [%ε−Ms相] ≦ 50[体積%] (4) - 片持ち梁法によって測定した制振性を表す損失係数(η)が、数式5を満足することを特徴とする請求項1乃至2の何れかに記載した制振性鋼。
[数式5]
0.005 ≦ η ≦ 0.10 (5) - 日本工業規格(JIS Z 2242:2005 金属材料のシャルピー衝撃試験方法)に規定する試験方法に従って、−196℃の試験温度でのシャルピー試験(Charpy test)において、ハンマ重量W[N]、回転軸中心線からハンマ重心までの距離R[m]、持上げ角度α[deg]の条件で、試験片の切り欠き背面にハンマで衝撃荷重を与えたときに、その後の振り上がり角度β[deg]に基づいて、数式6により計算される試験片が吸収したエネルギーであって、
鋼の低温靱性の尺度であるシャルピー吸収エネルギーvE−196℃[J]が、数式7を満足することを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載した制振性鋼。
[数式6]
vE−196℃ = W × R × (cosβ−cosα) (6)
[数式7]
50(J) ≦ vE−196℃ ≦ 280(J) (7) - 炭素の重量百分率[%C]を0.001〜0.20[%]、
シリコンの重量百分率[%Si]を0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量百分率[%Mn]を5.0〜18.0[%]、
クロムの重量百分率[%Cr]を0.01〜20.0[%]、
アルミニウムの重量百分率[%Al]を0.001〜0.10[%]、
且つ、残部を鉄及び不可避元素として含んでなる鋼を、
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、冷間加工する工程、
第4工程として、800〜1100℃で、1〜60分間、溶体化熱処理をした後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、必要に応じて、500〜800℃で、1〜60分間、熱処理した後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第6工程として、必要に応じて、冷間加工率1〜30%の冷間加工を施す工程、
を含んで構成されることを特徴とする、請求項1乃至4の何れかに記載した制振性鋼の製造方法。 - 炭素の重量百分率[%C]を0.001〜0.20[%]、
シリコンの重量百分率[%Si]を0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量百分率[%Mn]を5.0〜18.0[%]、
クロムの重量百分率[%Cr]を0.01〜20.0[%]、
アルミニウムの重量百分率[%Al]を0.001〜0.10[%]、
且つ、残部を鉄及び不可避元素として含んでなる鋼を、
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、800〜1100℃で、1〜60分間、溶体化熱処理をした後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第4工程として、必要に応じて、500〜800℃で、1〜60分間、熱処理した後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、必要に応じて、冷間加工率1〜30%の冷間加工を施す工程、
を含んで構成されることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載した制振性鋼の製造方法。 - 鋼球、ころがり軸受、ボルト・ナット、切削工具支持体、HDD用サスペンション、板ばね、コイルばね、自動車排気管、自動車補強材、建造物免震支持体、超電導体冷却用冷媒液体容器に適用されることを特徴とする、請求項1乃至6の何れかに記載した制振性鋼によって構成される制振体。
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