JP5212847B2 - 制振切削工具及びその製造方法 - Google Patents
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Description
厚みの薄い円板状回転切削工具は、切削中に刃先が被切削材に食込んだときに円板の厚み方向の横振動が生じ、その結果、切削面を悪化させ、切削効率を低下させ、切削工具の寿命を低下させることになる。
ここで、特許文献1及び2に例示される方法は、振動吸収機能を持たせる構造が極めて複雑であり、また、耐久信頼性が不十分であるという問題がある。このことから、理想的な技術として、材料自体が高強度でかつ振動吸収能をもつ制振切削工具が求められている。
しかしながら、上記のような円板状回転切削工具の台金のハンマリングやスリット構造の工夫のみでは、円板状回転切削工具の振動低減には限界があるので、台金用材料として、材料自体に振動吸収能があり、かつ、機械的性質及び価格の面からの要請を満足する材料が求められている。
(1)本発明者らが一貫して研究してきた高マンガン・ステンレス鋼を基本として、熱誘起又は加工誘起ε−Ms相を適切に生成させて、高強度で、かつ、材料自体が振動吸収能をもつ制振切削工具を提供する。
(2)切削工具に要求される強度を得るための安価で効果的な手段は、炭素含有量を上げることである。その際、固溶炭素量が多くなると、制振性の発現を阻害するだけでなく、結晶粒界に炭化物が生成し易くなるために靭性を阻害する。これに対して、本発明は、急速冷却と適切な熱処理によってクロム炭化物を結晶粒内に微細に析出させることによって、固溶炭素量を減少させ制振性を改善しかつ高強度と高靭性を得る技術を提供する。
(3)本発明になるε−Ms相が切削時の振動を効果的に吸収するための制振切削工具の形状を最適化する技術を提供する。
[特許請求の範囲]
[請求項1]
炭素の重量百分率[%C]を0.20[%]以下、
シリコンの重量百分率[%Si]を0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量百分率[%Mn]を3.0〜18.0[%]未満、
クロムの重量百分率[%Cr]を5〜20.0[%]以下、
アルミニウムの重量百分率[%Al]を0.001〜0.10[%]、
窒素の重量百分率[%N]を0.010〜0.100[%]、
残部が鉄及び不可避的不純物からなり、
数式1によって計算される積層欠陥エネルギー(SFE)(mJ/m2)が、数式2を満足する鋼から、
[数式1]
SFE(mJ/m2)=25.7+2×[%Ni]+410×[%C]−0.9×[%Cr]−77×[%N]−13×[%Si]−1.2×[%Mn]・・(1)
[数式2]
−20(mJ/m2) ≦ SFE ≦ 20(mJ/m2)・・・(2)
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、800〜1100℃で、1〜60分間、溶体化熱処理をした後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第4工程として、500〜800℃で、1〜60分間、クロム炭化物析出の熱処理した後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、冷間加工率1〜50%の冷間加工を施す工程、
を含む工程によって製造されることを特徴とする切削工具。
ここで、数式1において使用されている[%C]は、クロム炭化物析出処理後の固溶炭素重量百分率であり、[%Ni]は、ニッケルの重量百分率である。
【請求項2】
X線回折法によって測定されたイプシロン・マルテンサイト相の体積パーセント[%ε−Ms相]が、数式3を満足することを特徴とする、請求項1に記載された切削工具。
[数式3]
5[体積%] ≦ [%ε−Ms相] ≦ 80[体積%]・・・(3)
【請求項3】
片持ち梁法によって測定した制振性を表す損失係数(η)が、数式4を満足することを特徴とする請求項1に記載された切削工具。
[数式4]
0.005 ≦ η ≦ 0.10 ・・・(4)
【請求項4】
防振切削工具の断面積をS[mm2]、長さをL[mm]としたとき、数式5によって算出される形状ファクタF[−]から、数式6によって計算される一次共振周波数fn[Hz]を、切削時に発生する振動周波数より高い振動周波数に設定した形状ファクタFに設計することを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載した切削工具。
[数式5]
F = S/L2 [−] ・・・・・・・・・・(5)
[数式6]
fn = 0.5×105×F [Hz] ・・・(6)
【請求項5】
円板状切削工具の厚さをD[mm]、円板直径をR[mm]としたとき、数式7によって算出される形状ファクタFR[−]から、数式8によって計算される一次共振周波数fn[Hz]を、切削時に発生する振動周波数より高い振動周波数になる様に円板状切削工具形状を設計することを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載した切削工具。
[数式7]
FR= D/R[−] ・・・・・・・・・・(7)
[数式8]
fn= 0.8×105×FR[Hz]・・・・・(8)
図1に、本発明における製造プロセスを示す。
これは、良好な制振性発現能を持ちながら、微量のシリコンを添加することによってマンガン量を低く抑えることができることを開示している。即ち、熱処理或いは冷間加工によってε−Ms相が生成し易い度合いを示す積層欠陥エネルギーSFE(mJ/m2)の関係式(数式1及び3)において、マンガンの項は−1.2×[%Mn]であり、シリコンの項は−13×[%Si]であることから、シリコンはマンガンの約十倍のSFEの低下効果があることを示している。即ち、SFEを20mJ/m2以下に保持する上で、微量の0.01〜3.0%のシリコン添加によってマンガン重量百分率を18.0%未満と少なく抑えられている。これは、高マンガン鋼において、優れた熱間加工性及び冷間加工性を得るために極めて重要な発明である。即ち、マンガン重量百分率が18.0%を超えると熱間加工性及び冷間加工性が悪くなり製造コストが上がるためである。好ましくは、マンガン重量百分率は3.0〜17.0%である。
図2に、Fe−Cr−Mn−Ni鋼の状態図を示した。
図2から明らかなように、クロムが20.0重量%を超える領域ではオーステナイト相(γ−相)とフェライト相(α−相)の2相が生成するので、クロムを20.0重量%以下、好ましくは、15.0%以下とする。
クロムの下限については、積層欠陥エネルギーSFE(mJ/m2)(数式1又は3)を20(mJ/m2)以下とする条件を満たす範囲を設定すればよい。これによって、クロムとマンガンの相乗効果によって効果的にγ−相を生成させる領域を広くとることができる。
ここで、特許文献6との比較では、ニッケルのγ−相生成の役割をシリコン、マンガン及びクロムが効果的に果しているので、制振性発現の観点からは高価なニッケルは必ずしも必要なくなっている。即ち、本発明においては、制振性発現以外の必要がない限り、ニッケルの意図的な添加の必要はない。
図3は、500、600及び700℃で熱処理した時の、全炭素重量百分率[%C]と固溶炭素重量百分率[%C]の関係を示す。即ち、上記の熱処理をすることによって、各処理温度における固溶限を超える炭素量はクロム炭化物として大きな形状の析出物となり制振性発現への阻害を無くすことができる。
図4は、クロム炭化物を析出する領域を示す温度―時間関係図である。
図4に示すように、800〜1100℃の固溶化熱処理の後に急速冷却して、炭素を粒内に微細に残留した後、500〜800℃に熱処理してクロム炭化物を結晶粒内に析出させて、しかる後に急速冷却する。図5は、クロム炭化物析出処理した後の顕微鏡写真である。図5−1及び図5−2の比較において、本発明による熱処理をすることにより、結晶粒界にはクロム炭化物の析出が見られない。
測定値においては、損失係数(η)が0.005未満であると制振性に優れた鋼としての振動減衰機能が不十分となるためであり、0.10を超えるための製造条件では鋼材の機械的性質が上記記載の用途に適さなくなるためである。
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、800〜1100℃で、1〜60分間、溶体化熱処理をした後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第4工程として、500〜800℃で、1〜60分間の、クロム炭化物析出処理した後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、冷間加工率1〜30%の冷間加工を施す工程、
を含む工程によって製造された鋼によって構成されることを提案している。
ここで、特に、本発明における重要な工程は、第3工程、第4工程及び第5工程である。
第3工程は、所謂、固溶体化熱処理であり、熱処理温度を800〜1100℃としたのは、800℃未満の温度では冷間加工歪除去及びオーステナイト化が不十分となるためであるために制振性発現が不十分となるためであり、
1100℃を超えるとオーステナイト結晶粒度が粗大化して機械的性質が不良となるためである。
第4工程は、ε−Ms相生成を阻害する固溶炭素を図4に示す温度、時間で熱処理することによってクロム炭化物の形にして、固溶炭素を低減させるためであり、本発明の重要な要素になっている。
第3及び4工程において急速冷却する理由は、γ−相からε−Ms相への相転移に於いて、効果的に熱誘起ε−Ms相を生成させるためであり、これを10〜50℃/secとした。10℃/sec未満の冷却速度ではε−Ms相の生成が不十分となる為である。
第5工程において、この鋼を更に1〜30%以下の冷間加工を施すことによってε−Ms相の体積%を増大させること又は冷間加工によって鋼の強度を上げる製造方法を開示している。
これは、用途によって必要な制振性や機械的性質或いは硬さを得るために必要に応じて選択することができる。
ここで、冷間加工率を1〜30%としたのは、冷間加工率が30%を超えると生成するε−Ms相の体積%が80体積%を超えるために、逆に有効なε−Ms相の振動が阻害されるので制振性が低下するためである。
実験例1は板材について行ったものであるが、切削工具に用いられる丸鋼、或いは、形鋼についても適用できる。
実験例1として、表1に示す組成の鋼を溶製した。
ここで、表1に記載されていない元素について説明すると、窒素は、溶製時に不可避的に侵入するもので0.008〜0.10%の範囲とした。
リン(P)及び硫黄(S)はいずれも0.01%以下とした。
ニッケル(Ni)は、意図的には添加しなかった。
これを1000℃で2時間加熱し、仕上げ温度850℃で熱間加工して2.0mm厚の熱延鋼板とした。熱間圧延時に生成する熱間割れの有無によって熱間加工性を評価した。図6は、熱間圧延時に発生した熱間割れの表面写真であり、この発生を抑制することが必須である。次に、真空中で1050℃、1時間の熱処理を行った後に急速冷却した。このとき、500℃から常温までの冷却速度は20℃/秒であった。さらに、クロム炭化物の析出処理をする場合は、700℃で30分間の熱処理を行った後、水中に急速冷却した。
この材料の積層欠陥エネルギーSFE(mJ/m2)を数式1又は3によって計算した。クロム炭化物析出処理をした場合の固溶炭素重量百分率[%C]は、前述の図5の関係から読み取った値を使用した。鋼中のε−Ms相の体積%をX線回折法によって求めた。更に、片持ち梁方式によって損失係数(η)を測定した。損失係数(η)の測定方法は一端をクランプで固定し振動部のサイズは1.0mm厚×50mm幅×100mm長であり固定部を3G(3×980mm/s2)の加速度で衝撃を与え自由減衰時間及び振動周波数を測定して損失係数(η)を求めた。このときの振動歪は10−4レベルであった。
冷間加工性は、試験用圧延機によって供試用サンプルを試作する際に次の熱処理が必要となるまでの冷間圧延率によって評価した。
冷間加工性評価の具体的な方法と結果については、実験例3に詳述する。
特に、表1において、本発明例13及び14は、炭素含有量が0.11%及び0.15%と0.10を超えて高い場合であるが、クロム炭化物析出熱処理を施している。比較例8及び9はクロム炭化物析出処理を行わなかったものである。これによって、高強度を目的として採用する、炭素重量百分率が0.10〜0.20%の比較的高い領域でのクロム炭化物析出処理の効果を比較することができる。
総合評価として、優良(◎)、良好(○)及び不可(×)の記号によって表わした。
本発明例1〜14は、シリコンを本発明の推奨範囲内である0.5〜1.5重量%を添加した例である。
ここで、本発明例1〜3は、SFE値は、15mJ/m2以下であり、ε−Ms相体積%は、本発明の請求範囲内であるので損失係数(η)、冷間加工性は極めて良好である。特に、本発明例3においては、シリコンを0,8%添加しているので、クロムが6.0重量%でもSFEの条件を満たせば極めて良好な制振性を示すことが確認できた。
次に、本発明例4〜14は、SFE値が20mJ/m2以下でありε−Ms相体積%は本発明の請求範囲内であるので、損失係数(η)良好である。特に、クロムについては、SFEの条件を満足する範囲である、7.0重量%(本発明例5,7及び9)或いは5.0重量%(本発明例12)においても良好な制振性発現が確認された。
本発明例11においては、マンガン含有量が3.0重量%であるが、シリコンを1.5重量%にしているので、SFE値は14.7mJ/m2と発明の範囲内であるので、ε−Ms相の体積分率、制振性が良好である。
本発明例13及び14は、炭素含有量が0.11%及び0.15%と高い場合であるが、クロム炭化物析出熱処理を施こしているので、損失係数(η)及び冷間加工性は良好である。これは、前述の図5に示されるように、結晶粒界への炭化物の析出がなく、制振性を阻害する固溶炭素はクロム炭化物として無害化されていることによって理解できる。これに対して、比較例8及び9は、炭素含有量は、0.15%及び0.22%と高値であるが、クロム炭化物析出処理をしなかったので、損失係数(η)は不良である。
比較例1及び2については、SFE、ε−Ms相体積%及び損失係数(η)の指標からの判断では、良好(○)であるが、マンガン量が22.0及び19.0重量%と高いために材料が硬く熱間割れが発生すること及び冷間加工性の観点から量産出来ないので総合評価は不可とする。冷間加工性については、実験例3の項において詳述する。
比較例3は、シリコン無添加のために制振性が不良である。
比較例4は、シリコン量が過大なので、材料が硬く加工コスト高いので実生産ができない。
比較例5は、マンガン量が不足しているため制振性が不良である。
比較例6は、クロム量が過大のため、母相がγ−相及びα−相の2相域となっているために、ε−Ms相の生成量が少ないので損失係数(η)も不十分である。
比較例7は、窒素をAlNの形に固定するに必要なAlが不足しているために、ε−Ms相の作用を阻害している。
比較例8及び9は、クロム炭化物析出の熱処理をしなかった例であり、過剰の固溶炭素がε−Ms相の制振性発揮を阻害している。即ち、本発明例との比較によって、クロム炭化物析出処理による高炭素領域での制振性改善効果が顕著である。比較例9は、炭素量が0.20重量%を超えているために、さらに制振性が不良である。
図7は、SFEとε−Ms相体積%との関係を示すが、比較例6は、クロム組成比21重量%の場合であり、γ−相及びα−相の2相域となっているために、ε−Ms相の生成量が少ないので損失係数(η)も不十分である。
図8は、ε−Ms相体積%と損失係数(η)との関係を示すが、比較例7は、アルミニウムの添加量が過少のために固溶している窒素が損失係数(η)を低下させている為にε−Ms相体積%と損失係数(η)との関係が外れている。
図9は、マンガン及びシリコン含有量とε−Ms相体積%との関係を示しているが、比較例のシリコン無添加に対して本発明例はシリコンを0.5.〜1.0重量%の微量添加によってマンガン量が3〜17重量%であっても必要なε−Ms相の生成領域を増大することができることを示したものであり本発明の主要な効果を示している。
これらから明らかなように、例えば、本発明例1〜14は、優れた制振性と冷間加工性に優れた鋼を使用することによって振動吸収に優れた防振切削工具を提供できることが実証された。
実験例2は、本発明の請求項1に関するものである。即ち、損失係数(η)を発現するε−Ms相を効果的に生成させる製造条件に関するものであり、本発明の主要な要件を実証するものである。実験例2も板材について行ったものであるが、切削工具に用いられる丸鋼又は型鋼についても適用できる。
表1に記載した本発明例1の材料を用いた。これを1000℃で2時間加熱し、加工仕上げ温度850℃で熱間加工して2.0mm厚の熱延鋼板とした。
これを、冷間圧延により1.1mm厚の冷延鋼板とした、これを1050℃×1hr、真空中で溶体化熱処理を行った後、表2に示す条件で冷却そして冷間圧延をおこなった。これの機械的性質及び制振性を測定した。
結果を表2に示す。
試験No.1−1〜1−5は、1050℃で溶体化熱処理後に水中に急冷した場合である。
試験No.2−1〜2−5は、1050℃で溶体化熱処理後に空冷した場合である。
試験No.1−1及び1−2に示すように、溶体化熱処理後水中急冷のまま又はこれに5%程度の軽い冷間加工を加えたときに、制振性にすぐれた鋼を得ることができる。
試験No.1−3及び1−4は、使用目的によって引張り強度を必要とした場合を想定したものであるが、冷間加工によって当然低下するが制振性は優れている。
このように、熱処理後に急冷することによって、熱誘起ε−Ms相を生成させる製造方法は様々な用途に対応できる。
ただし、35%程度の冷間加工を加えると制振性も劣化する。
一方、試験No.2−1〜2−5の場合は、溶体化熱処理後に徐冷した場合であるが、熱処理のまま、或いは、軽加工を加えた程度では制振性の発現が不十分であり、制振性と機械的性質が共に優れる条件を見出すことが出来ない。
このことは、急速冷却処理をすることによって始めて、制振性及び機械的性質共に優れた鋼を安定して製造できることを示している。
実験例3は、本発明の制振性に優れた鋼の冷間加工性の評価に関するものである。実験例3も板材について行ったものであるが、切削工具に用いられるスエジ加工についても同様に考えることができる。
表3は、表1における、本発明例1(Mn:17%)、本発明例8(Mn:8%)、比較例1(Mn:22%)及びSUS304(Mn:1%)のマンガン含有率(Mn%)の異なる鋼について、試験圧延機(ワークロール径85mmφの4段圧延機)によって、2.0mmから約0.03mm厚までの冷間圧延における中間熱処理回数と次の熱処理が必要となるまでの冷間圧延率を測定したものである。
本発明例1又は8は、2.0mmから約0.03mmまでに中間熱処理回数は3回であり、次の中間熱処理までの平均冷間圧延率は63〜70%である。これはSUS304(比較例10)と同等であることが確認され、実生産可能との総合評価である。
これに対して、比較例1(Mn:22%)は、9回の中間熱処理が必要となり、次の中間熱処理までの平均冷間圧延率は35%である。これは、実生産における冷間加工のコストが過大となるために実用化が阻害されていることが明白に示されている。
本発明に係る鋼をその制振性能を効果的に発揮させるには、その制振体の1次共振周波数を、適用する振動環境に適するようにした制振体の構造にする必要がある。そこで、本発明者らは、本発明になる鋼について、図10に示す実験方法によって、箔、板及び棒の単純な断面積の様々な寸法と1次共振周波数との関係を求めた。図10は、1次共振周波数を求めるための周波数応答関数の1例である。図11に形状ファクタFと1次共振周波数との関係を示す。これによって、下記の実験式(数式9)の関係が導出された。即ち、fn=C×Fの関係にあることがわかった。
ただし、数式9における係数(C)は、本発明に係る制振性に優れた鋼にのみ適用されるものであり、他の材料では別途測定しなければならない。
また上記の関係は、Fが0.0001〜1.0の広い範囲で適用できることが確認された。
F=S/L2 (8)
[数式9]
fn(Hz)=0.5×105×F (9)
実験例5として、切削加工におけるびびり評価を行った。結果を表4に示す。表4における本発明例Aは、実験例1の表1の本発明例1を、本発明例Bは表1の本発明例13を用いた。この材料を熱間加工によって15mm径として、真空中で900℃の1時間溶体化熱処理を行った後水冷し、700℃のクロム炭化物析出処理をし、その後、断面積減少率20%の冷間スエジ加工を施して、これをボーリングバイトに加工した。ここで、本発明例Aは炭素重量含有量が0.05[%]と低い例であり、硬さはHvで350である。これに対して、本発明例Bは、炭素重量含有量を0.15[%]と高くしたので、硬さはHv450である。比較例Aは、耐びびり性の優れた超硬合金、比較例Bは、一般の切削工具支持体として用いられているクロム・モリブデン鋼(SCM440)である。この時の被削材は、S45C、切削条件としては、Vc=70mm/min、加工代ap=0.2mmである。切削工具は、10mm径(D)であり、突出し長さを3D、4D、5D及び6Dに変化させた時のびびり評価を行った。
結果を表4に示すように、本発明例Aは、突出し長さ4Dの条件において、比較例B(SCM440)に対して顕著なびびり低減効果があることが確認された。本発明例Bは、さらに5Dにおいては比較例A(超硬合金)に匹敵する顕著な耐びびり性を示すことが確認できた。この時の共振周波数を形状ファクタFより推定すると約1kHzであった。
本発明は、材料自体が振動吸収能を有する防振切削工具を提供すると共に、本発明に係る材料を防振切削工具として有効に活用する設計指針を提供するものである。実験例5は、本発明を防振切削工具として有効に活用する設計指針をその一例として示したものであり、請求項4のひとつの適用例である。
Claims (5)
- 炭素の重量百分率[%C]を0.20[%]以下、
シリコンの重量百分率[%Si]を0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量百分率[%Mn]を3.0〜18.0[%]未満、
クロムの重量百分率[%Cr]を5〜20.0[%]以下、
アルミニウムの重量百分率[%Al]を0.001〜0.10[%]、
窒素の重量百分率[%N]を0.010〜0.100[%]、
残部が鉄及び不可避的不純物からなり、
数式1によって計算される積層欠陥エネルギー(SFE)(mJ/m2)が、
数式2を満足する鋼から、
[数式1]
SFE(mJ/m2)=25.7+2×[%Ni]+410×[%C]−0.9×[%Cr]−77×[%N]−13×[%Si]−1.2×[%Mn]・・(1)
[数式2]
−20(mJ/m2) ≦ SFE ≦ 20(mJ/m2)・・・(2)
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、800〜1100℃で、1〜60分間、溶体化熱処理をした後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第4工程として、500〜800℃で、1〜60分間、クロム炭化物析出の熱処理した後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、冷間加工率1〜50%の冷間加工を施す工程、
を含む工程によって製造されることを特徴とする切削工具。
ここで、数式1において使用されている[%C]は、クロム炭化物析出処理後の固溶炭素重量百分率であり、[%Ni]は、ニッケルの重量百分率である。 - X線回折法によって測定されたイプシロン・マルテンサイト相の体積パーセント[%ε−Ms相]が、数式3を満足することを特徴とする、請求項1に記載された切削工具。
[数式3]
5[体積%] ≦ [%ε−Ms相] ≦ 80[体積%]・・・(3) - 片持ち梁法によって測定した制振性を表す損失係数(η)が、数式4を満足することを特徴とする請求項1に記載された切削工具。
[数式4]
0.005≦ η ≦0.10 ・・・(4) - 防振切削工具の断面積をS[mm2]、長さをL[mm]としたとき、数式5によって算出される形状ファクタF[−]から、数式6によって計算される一次共振周波数fn[Hz]を、切削時に発生する振動周波数より高い振動周波数に設定した形状ファクタFに設計することを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載した切削工具。
[数式5]
F = S/L2 [−] ・・・・・・・・・・(5)
[数式6]
fn = 0.5×105×F [Hz] ・・・(6) - 円板状切削工具の厚さをD[mm]、円板直径をR[mm]としたとき、数式7によって算出される形状ファクタFR[−]から、数式8によって計算される一次共振周波数fn[Hz]を、切削時に発生する振動周波数より高い振動周波数になる様に円板状切削工具形状を設計することを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載した切削工具。
[数式7]
FR = D/R [−] ・・・・・・・・・・(7)
[数式8]
fn = 0.8×105×FR [Hz]・・・・・(8)
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