JP4718315B2 - 耐摩耗性高Cr鋳鉄および耐摩耗部材 - Google Patents

耐摩耗性高Cr鋳鉄および耐摩耗部材 Download PDF

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Description

本発明は、耐摩耗性及び靱性(耐疲労亀裂進展性など)に優れており、岩石を破砕するコーンクラッシャ、ジョークラッシャなどの破砕機の耐摩耗部材に用いて好適な耐摩耗性高Cr鋳鉄およびこの耐摩耗性鋳鉄からなる耐摩耗部材に関するものである。
従来、破砕機などに用いられる耐摩耗部材には、耐摩耗性を有する高Cr鋳鉄が多用されてきた。近年ではこの破砕機の処理能力の向上が求められ、破砕機の大型化、破砕圧力の高圧化が進められている。このため、このような使用条件の過酷化に対応できる耐摩耗性と靱性とが共に優れた、耐摩耗性高Cr鋳鉄が強く要望されている。
従来から、高Cr鋳鉄の耐摩耗性向上のためには、種々の技術が提案されてきた。例えば、高Cr鋳鉄にTiやVを添加することによって、高Cr鋳鉄で主に析出するM7 3 型炭化物以外に高硬度のMC型炭化物(TiCやVC等)を分散させ、これによって、900〜940Hvレベルまで、耐摩耗性を向上させることが提案されている(特許文献1、2参照)。また、同様の趣旨で、NbとVを複合添加することも提案されている(特許文献3参照)。更に、高Cr鋳鉄の全体硬さに大きな影響を及ぼす炭化物量と基地中の合金元素固溶量を3次元的に規定して、800〜940Hvレベルまで、硬度を高めることも提案されている(特許文献4参照)。
これら提案されている高Cr鋳鉄は、そのほとんどが、硬さを最大限向上させて耐摩耗性を良くする方向であり、鋳鉄自体の靱性を向上させたものではなかった。これに対して、繰り返し引張応力の発生する様な環境で使用しても脆性破壊が生じることのない、疲労亀裂進展を防止するという観点からの技術も提案されている。この技術は、Cr,C,MnおよびMoを特定の関係を満足する様に含有させ、通常焼入れした部材表面に発生する引張残留応力を低減して、鋳造欠陥からの疲労亀裂の進展を抑制するものである(特許文献5参照)。
更に、圧延用ロールや切削工具などの用途ではあるが、鋳鉄の凝固時に形成される炭化物の形態に着目し、Vを3〜10%添加した上で、基地組織と、形成された一次炭化物であるMC型炭化物やM7 3 型炭化物との界面に、平均粒径が3μm以下の微細なM6 C型炭化物を形成させ、高硬度を得る技術も提案されている(特許文献6参照)。また、圧延用ロールの用途で、M7 3 型炭化物の他に、M236 型炭化物を分散させて、靱性を向上させる技術も提案されている(特許文献7参照)。
特開平2−115343号公報(特許請求の範囲) 特公平4−56102号公報(特許請求の範囲) 特公昭60- 51548号公報(特許請求の範囲) 特開2001−247929号公報(特許請求の範囲) 特開平11−229071号公報(特許請求の範囲) 特開2001−316754号公報(特許請求の範囲) 特開昭63−121635号公報(特許請求の範囲)
しかし、前記特許文献5や6であっても、鋳鉄自体の靱性を向上させたものではない。したがって、これまでの高Cr鋳鉄の硬度は、700Hv以上、場合によっては900Hv以上と高いものの、一方での靱性は、シャルピー衝撃値で5J/cm2 未満程度と著しく低いものでしかない。
また、前記特許文献7のような炭化物の制御技術も、それなりの靱性向上効果はあるものの、供述する通り、一次炭化物としてM7 3 型炭化物を主体にしたものであるため、シャルピー衝撃値で5J/cm2 未満程度の靱性しかない。
この高Cr鋳鉄に代わって、高Mn鋳鋼を使用することも考えられる。高Mn鋳鋼は、そのマトリックスがオーステナイトで靭性が良く、また塑性変形を受けると、双晶変形あるいは積層欠陥により加工硬化が生じて、該塑性変形を受けた表面部の硬さが高くなるという特性を有している。このため、破砕機のライナー部材など衝撃を受ける耐摩耗部材では、衝撃を受けた部分の硬さが高くなり衝撃面の耐摩耗性が向上する。
しかし、これら高Mn鋳鋼は、靱性はシャルピー衝撃値で50J/cm2 程度と高いものの、その硬度は600Hv未満程度と低い。このため、特に、硬い岩石の破砕などでは摩耗が大きく、上記した破砕機の処理能力の向上に十分対応できない問題がある。
更に、SUS304等のステンレスなどの高合金鋼を使用することも考えられるが、これら高合金鋼も、マルテンサイト組織により、その硬度は600Hv程度と高いものの、やはり靱性がシャルピー衝撃値で5J/cm2 未満程度、炭化物などを制御して特別に高いものでも13J/cm2 程度と、やはり低い。このため、高Mn鋳鋼と同様の理由で、コーンクラッシャ、ジョークラッシャなどの破砕機の、大きな衝撃を受け、機械加工により製造されるような耐摩耗部材には使用できない。
本発明は、かかる問題に鑑みなされたもので、硬度が650Hv以上と高く、靱性もシャルピー衝撃値で5J/cm2 以上と高い、耐摩耗性高Cr鋳鉄および耐摩耗部材を提供することを目的とする。
この目的を達成するために、本発明の耐摩耗性高Cr鋳鉄の要旨は、質量%で、C:4.0〜6.0%、Si:0.2〜1.0%、Mn:0.6〜2.0%、Cr:11〜18%、Mo:1.0〜3.0%を含有し、更に、Ti、V、Zr、Nbの内から1種または2種以上を合計で5.44〜20.0%を含有するとともに、これら各元素の含有量が、15<4.0×(%C)+5.1×(%Si)+1.4×(%Mn)+1.1×(%Cr)+0.6×(%Mo)−1.8×(%Ti+%V+5/9%Zr+5/9%Nb)−2.8の関係を満たし、残部がFe及び不可避的不純物からなることである。
本発明者らは、高Cr鋳鉄で通常主に析出するM7 3 型炭化物自体が、靱性を低下させていることを知見した。このM7 3 型炭化物は、鋳鉄を普通に溶解すると、通常は、平板状あるいはフィルム状の炭化物となって生成する。このM7 3 型炭化物は、これまで高Cr鋳鉄の高硬度化を保障してきた。しかし、一方で、この平板状あるいはフィルム状のM7 3 型炭化物は、鋳造欠陥などからのクラック (亀裂) の伝播経路となって、クラックが進展し、靱性を低下させる役割をも果たしていることを知見した。
そして、鋳造凝固時に生成(晶出)する炭化物を、上記平板状あるいはフィルム状のような形態のM7 3 型炭化物ではなく、球状化あるいは粒状化のように丸まった形態(以下、単に球状化と言う)をした炭化物としてやれば、上記したクラックの伝播経路とはなりにくいことを知見した。このように、炭化物の形態を球状化させれば、高い硬度レベルを維持したままで、高Cr鋳鉄の靱性を向上できる。
本発明では、この炭化物の球状化を、Ti、V、Zr、Nbなどを含有させることにより行なう。即ち、Ti、V、Zr、Nbなどを含有させることで、鋳鉄の凝固時に、球状の主としてMC型炭化物を優先的に生成させ、上記平板状あるいはフィルム状のM7 3 型炭化物の生成を抑制しつつ、炭化物の球状化を促進させる。
これによって、耐摩耗性高Cr鋳鉄、および、この高Cr鋳鉄からなる耐摩耗部材を、硬度が650Hv以上と高く、靱性も、シャルピー衝撃値で5J/cm2 以上と高くする。
この結果、耐摩耗性高Cr鋳鉄製の耐摩耗部材あるいはコーンクラッシャ、ジョークラッシャなどの破砕機の岩石の破砕性能や高寿命を保障する。
(鋳鉄組成)
本発明の高Cr鋳鉄の化学成分組成(単位:質量%)について、各元素の限定理由を含めて、以下に説明する。
本発明高Cr鋳鉄の化学成分組成は、C:4.0〜6.0%、Si:0.2〜1.0%、Mn:0.6〜2.0%、Cr:11〜18%、Mo:1.0〜3.0%を含有し、更に、Ti、V、Zr、Nbの内から1種または2種以上を合計で5.44〜20.0%を含有するとともに、これら各元素の含有量が、15<4.0×(%C)+5.1×(%Si)+1.4×(%Mn)+1.1×(%Cr)+0.6×(%Mo)−1.8×(%Ti+%V+5/9%Zr+5/9%Nb)−2.8の関係を満たし、残部がFe及び不可避的不純物からなるものとする。
C:4.0〜6.0%。
Cは、Ti、V、Zr、Nb、そして、Cr、Mo、あるいはFeと、高硬度の炭化物(MC型、M7 3 型、M236 型、M3 C型など) を形成するとともに、基地中に固溶し、鋳鉄の焼入れ処理(空冷処理)によって、オーステナイトから硬さの高いマルテンサイトへの変態を支配する (マルテンサイト組織を得る) ための元素であり、必要硬度確保のための重要な元素である。
一般にマルテンサイトの硬さは、固溶するC量が多いほど高くなることが知られており、C含有量が4.0%未満の場合は、基地中に固溶するC量が不足し、基地硬さが不足するだけでなく、晶出および析出する前記炭化物も少なくなるため、鋳鉄乃至耐摩耗部材としての硬さも不足し、必要な耐摩耗性が得られない。一方、C含有量が6.0%を超えると、生成する前記炭化物が粗大化して、鋳鉄乃至耐摩耗部材が脆弱となり、脆性破壊が生じてしまう。また、基地中に固溶するC量が多すぎるため、硬さの低いオーステナイトが多量に残留する結果、やはり硬さ不足を招来して、必要な耐摩耗性が得られない。従って、C量は4.0〜6.0%、好ましくは4.5〜5.5%の範囲とする。
Mn:0.6〜2.0%。
Mnは、高Cr鋳鉄の焼入れ性を改善し、特に基地中に固溶して、オーステナイトが硬さの低いベイナイトに変態するのを抑制する効果を有し、基地をマルテンサイト組織とするために必須である。Mn含有量が0.6%未満ではその効果が発揮されないため下限は0.6%とする。一方、Mnはオーステナイト安定化元素であり、過剰に含有すると基地中の残留オーステナイトが多量になり、硬さが低下するため、Mn含有量の上限は2.0%とする。従って、Mn含有量は0.6〜2.0%の範囲、好ましくは0.8〜1.4%の範囲とする。
Si:0.2〜1.0%。
Siは鋳造時の溶湯の流動性を確保し、また、溶解・精錬時の脱酸に有効な元素であり、こうした効果を発揮させるためには、0.2 %以上の含有量が必要である。一方、Siはフェライト生成元素であり、Si含有量が1.0%を超えると、フェライト変態を促進して、基地硬さの低下を招来するばかりか、靭性低下をもたらす。したがって、Si含有量は0.2〜1.0%の範囲、好ましくは0.3〜0.8%の範囲とする。
Cr:11〜18%。
Crは、Cと同様に、耐摩耗性の高い各種炭化物を形成するとともに、基地中に固溶して、オーステナイトが硬さの低いフェライトに変態するのを抑制する効果を果たす必須の元素である。従って、必要な硬さが得られるに十分な炭化物量を形成させるとともに、フェライト変態防止に有効な量のCrを基地中に固溶させる必要がある。Cr含有量が11%未満の場合は、基地中に固溶するCr量が不足して、基地のフェライト変態が生じ、基地硬さが低下するだけでなく、晶出および析出する炭化物も少なくなり、硬さ不足を招来し、必要な耐摩耗性が得られない。
一方、Cr含有量が18%を超えると、生成する炭化物が粗大化して、脆弱となり脆性破壊が生じてしまうとともに、基地中に固溶するC量が減少して基地の硬さが低下し、やはり硬さ不足を招来して必要な耐摩耗性が得られなくなる。従って、Cr含有量は11〜18%の範囲、好ましくは13〜16%の範囲とする。
Mo:1.0〜3.0%。
Moは、Crと同様に、耐摩耗性の高い各種炭化物を形成するとともに、基地中に固溶してオーステナイトが硬さの低いパーライトに変態するのを抑制する効果を有している必須元素である。従って、必要な硬さが得られるに十分な炭化物量を形成させるとともに、パーライト変態防止に有効な量を基地中に固溶させる必要がある。Mo含有量が1.0%未満の場合は、基地中に固溶するMo量が不足するため、基地中のパーライト変態が生じ基地硬さが低下するだけでなく、晶出および析出する炭化物も少なくなり、硬さ不足を招来し、必要な耐摩耗性が得られない。一方、Mo含有量が3.0%を超えると、基地中に固溶するC量が減少して基地硬さが低下し、やはり硬さ不足を招来して必要な耐摩耗性が得られなくなる。従って、Mo量は1.0〜3.0%の範囲、好ましくは1.4〜2.3%の範囲とする。
Ti、V、Zr、Nb。
Ti、V、Zr、Nbは、鋳鉄の凝固時に、球状の主としてMC型炭化物を優先的に形成させ、上記平板状あるいはフィルム状のM7 3 型炭化物の生成を抑制しつつ、炭化物の球状化を促進させる重要な元素である。MC型炭化物の硬度は、他の型の炭化物よりも硬度が高く、硬さ、耐摩耗性を向上させる。また、この炭化物の球状化によって、硬度レベルを低下させずに、靱性を向上させる。即ち、高Cr鋳鉄および耐摩耗部材の硬度を650Hv以上と高く、靱性もシャルピー衝撃値で5J/cm2 以上と高くする。
これらの効果を発揮させるためには、Ti、V、Zr、Nbの内から1種または2種以上を含有させる必要がある。これらの合計含有量が少なすぎると、常法のように、鋳鉄の凝固時に、上記平板状あるいはフィルム状のM7 3 型炭化物が優先的に生成する。
一方、Ti、V、Zr、Nbの合計の含有量が20.0%を超えた場合、炭化物量は増加するが、基地中に固溶するC量が減少して、硬さの低いベイナイトやフェライトが生成し、基地硬さが低下し、硬さ不足を招来して必要な耐摩耗性が得られなくなる。
(マルテンサイト指数)
本発明では、上記した各元素が各々の含有量範囲を満たした上で、更に、鋳鉄組織を、マルテンサイトの面積分率で50%以上としたマルテンサイト主体の組織とするために、各々の元素の含有量が、下記マルテンサイト指数で15を越えるようにする。即ち、各々の元素の含有量が、マルテンサイト指数:15<4.0×(%C)+5.1×(%Si)+1.4×(%Mn)+1.1×(%Cr)+0.6×(%Mo)−1.8×(%Ti+%V+5/9%Zr+5/9%Nb)−2.8の関係(マルテンサイト指数)を満たすようにする。
上記マルテンサイト指数の式は、各元素の前記した各々の効果からして、オーステナイトが硬さの低いパーライト、フェライト、ベイナイトなどに変態するのを抑制する効果を有し、基地をマルテンサイト組織とするためのものである。したがって、上記関係式は、マルテンサイト指数と言える規定であって、上記マルテンサイト指数が15を越えることで、鋳鉄の焼入れ処理(空冷など)によって、マルテンサイトを主体とする組織が得られる。一方、上記マルテンサイト指数が15未満では、焼入れ条件にもよるが、鋳鉄の焼入れ処理によっても、マルテンサイト分率が50%以上の、マルテンサイト主体の組織となりにくく、硬さが低下する。なお、上記マルテンサイト指数が30を越えても良いが、硬さ向上効果が飽和するため、意味が薄くなる。したがって、上記マルテンサイト指数の好ましい上限は30とする。
(鋳鉄組織)
本発明では、硬度が650Hv以上と高く、靱性もシャルピー衝撃値で5J/cm2 以上と高い高Cr鋳鉄および耐摩耗部材とするために、前記した通り、鋳鉄組織を、好ましくは、マルテンサイトの面積分率で50%以上としたマルテンサイト主体の組織とする。上記マルテンサイト指数を含めた成分組成範囲を満たすことによって、鋳鉄を焼入れ処理した際に、このようなマルテンサイト主体の組織が得られる。
本発明では、硬度と靱性の特性を阻害しない範囲で、マルテンサイト中に、硬さの低い、残留オーステナイトや、パーライト、フェライト、ベイナイトなどを含むことを許容する。マルテンサイト組織を得ようとする場合、鋳鉄の焼入れ処理条件によっては、残留オーステナイト、パーライト、フェライト、ベイナイトなどが含まれる場合もある。但し、これらの相は、靱性は高いが、硬度が低い。このため、これらの相の本発明鋳鉄組織に占める合計の割合が50%以上に多くなると、硬さ(耐摩耗性)や靱性を向上させることができなくなる可能性が高い。したがって、マルテンサイトの本発明鋳鉄組織に占める割合は、好ましくは50%以上とする。
(炭化物)
本発明では、前記した通り、鋳造凝固時に生成(晶出)する炭化物を、上記平板状あるいはフィルム状のような形態のM7 3 型炭化物ではなく、球状化した炭化物とする。これによって、鋳鉄組織中に分散して存在する炭化物を、上記平板状あるいはフィルム状炭化物のような、クラックの伝播経路とはなりにくくする。これによって、高い硬度レベルを維持したままで、高Cr鋳鉄の靱性を向上する。
但し、Ti、V、Zr、Nbによって、鋳鉄の鋳造凝固時に、球状の、主としてMC型炭化物を優先的に生成させるとしても、鋳造凝固条件によっては、MC型炭化物以外の、M7 3 型、M236 型、M3 C型などのフィルム状炭化物も必然的に形成される。このため、MC型炭化物以外のフィルム状炭化物の存在も許容するが、それは、高Cr鋳鉄およびこの高Cr鋳鉄からなる耐摩耗部材の硬度を650Hv以上と高くでき、靱性も、好ましくはシャルピー衝撃値で5J/cm2 以上と高くできる範囲内とする。
このための目安として、本発明では、前記鋳鉄組織を400倍の光学顕微鏡で観察した際の、長径と短径との比である長径/短径が1.5以下の球状化した炭化物の合計面積が、前記光学顕微鏡で観察される全炭化物の合計面積に対する分率(比率)として、50%以上存在するものとすることが好ましい。この球状の炭化物の面積分率が50%未満では、上記硬度と靱性などの特性向上を保証できない可能性がある。
ここで、上記した長径とは、1個の炭化物の内で最も長い長さ、上記した短径とは1個の炭化物の内で最も短い長さを言う。
(製造方法)
本発明鋳鋼自体は、常法により製造可能である。即ち、前記規定した化学成分組成を有する鋼塊を、溶解、鋳造したのち、例えば、900〜1100℃の温度範囲で0.5〜24時間加熱保持して溶体化処理(均質化処理)し、しかる後に、空冷によって焼入れ処理し、マルテンサイトを主体とする組織とする。
但し、本発明では、Ti、V、Zr、Nbなどを含有させることで、鋳鉄の凝固時に、球状の主としてMC型炭化物を優先的に生成させ、上記平板状あるいはフィルム状のM7 3 型炭化物の生成を抑制する。このためには、以下のような好ましい製造条件をとることが好ましい。
溶解温度は、球状のMC型炭化物を優先的に生成させ、フィルム状のM7 3 型炭化物の生成を抑制するために、できるだけ高い温度が好ましい。通常の溶解(鋳込み)温度は液相線温度直上〜1600℃の範囲で選択されるが、溶解温度が1500℃未満では、M7 3 型炭化物が多量に生成する可能性が高い。したがって、溶解温度は1500℃以上とすることが好ましい。
溶体化処理は、鋳造時に生成した炭化物をオーステナイト中へある程度溶解させることで靱性低下を防止するとともに、オーステナイト結晶粒の成長を抑制して、耐摩耗性を高めるためである。溶体化処理条件は、常法による、900〜1100℃×30分〜24時間程度の条件が選択できる。
これは、溶体化処理後の焼入れ処理も同様で、常法による冷却が適宜選択される。この冷却において、放冷あるいは強制空冷(風冷)といった、水冷と比べて速度が遅い方法を採用したとしても、本発明では、十分に高い硬さを得ることができる。
焼入れ処理後の鋳鉄は、適当な機械加工を施されて、耐摩耗部材とされる。この際の機械加工とは、切削などの加工である。
以下に本発明の実施例を説明する。成分組成、組織を種々変えた高Cr鋳鉄を得て、その硬度、靱性、などを各々評価した。即ち、高周波誘導溶解炉で、下記表1に示す1〜24の各成分組成の高Cr鋳鉄の20kgの矩形インゴット(幅:50mm×高さ:250mm×長さ200mm)を、溶解温度1550℃で各々溶製した。
上記各インゴットを900〜1100℃×6時間の溶体化処理を行なった後にいずれも空冷した。この熱処理後、インゴットからサンプルを採取し、鋳鉄組織のマルテンサイト分率と、長径/短径が1.5以下の球状化した炭化物(MC型炭化物)の面積分率とを測定した。これらの結果を表2に示す。
各試験片のマルテンサイト分率は、試験片組織を5000倍のSEM(走査型電子顕微鏡:JEOL社製 JSM-5410 )を用いて3視野測定した。これを画像解析ソフト(MEDIA CYBERNETICS TM社製Image-Pro Prus)で、前記SEMで観察した視野におけるマルテンサイトの合計測定面積と、残留オーステナイト、フェライト、ベイナイトなどのマルテンサイト以外の合計測定面積とを合わせた面積に対する、マルテンサイトの合計面積の分率(%)で表し、3視野の結果を平均化した。
各試験片の長径/短径が1.5以下の球状化した炭化物の面積分率は、試験片組織を400倍の光学顕微鏡で観察した際の、観察される全炭化物合計の面積に対する、長径/短径が1.5以下の炭化物の合計面積の比率(分率)を測定した。
更に、上記各インゴットからサンプルを採取し、硬度と靱性とを測定した。これらの結果を表2に示す。
硬度は、JISZ2244に準じて、ビッカース硬度計を用い、押し込み荷重(試験力)30kg(294.2N)で、各試験片の表面硬度(Hv)を5点測定して、平均化したものを鋳鉄の硬度とした。そして、耐磨耗性は、この硬度が650Hv以上を、コーンクラッシャーなどの実機破砕機での耐磨耗性部材としての耐磨耗性良好として、○と評価した。
靱性は、シャルピー衝撃試験により、2mmのUノッチのJIS3号試験片を用いて、ハンマー荷重:294.2N(30kgf)、試験温度:室温にて行った。なお、シャルピー衝撃値(J)は吸収エネルギーを試験片断面積で除して求めた。そして、靱性は、シャルピー衝撃値が5J/cm2 以上を、コーンクラッシャーなどの実機破砕機での耐磨耗性部材としての靱性良好として、○と評価した。
表1から明らかな通り、発明例1〜15の鋳鉄は、本発明化学成分組成範囲内からなる。このため、表2から明らかな通り、発明例1〜15の鋳鉄は、マルテンサイト分率が50%以上であるマルテンサイト主体の組織を有し、長径/短径が1.5以下の略球状の炭化物の面積分率が、炭化物合計の面積に対して、50%以上である。このため、硬度が650Hv以上と高く、靱性もシャルピー衝撃値で5J/cm2 以上と高く、コーンクラッシャーなどの実機破砕機での耐磨耗性部材としての耐磨耗性や靱性が良好である。
これに対して、本発明化学成分組成範囲外からなる各比較例16〜24は、マルテンサイト分率が50%未満か、長径/短径が1.5以下の略球状の炭化物の面積分率が50%未満の組織となっている。このため、硬度が650Hv未満であるか、靱性がシャルピー衝撃値で5J/cm2 未満であって、発明例に比して著しく低く、コーンクラッシャーなどの実機破砕機での耐磨耗性部材としての耐磨耗性か靱性が不適である。
以上の結果から、本発明化学成分組成の要件の臨界的な意義が分かる。
Figure 0004718315
Figure 0004718315
以上説明したように、本発明によれば、耐摩耗部材とされた際の、硬度が650Hv以上と高く、靱性もシャルピー衝撃値で5J/cm2 以上と高い、高Cr系耐摩耗鋳鉄および耐摩耗性部材を提供することができる。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:4.0〜6.0%、Si:0.2〜1.0%、Mn:0.6〜2.0%、Cr:11〜18%、Mo:1.0〜3.0%を含有し、更に、Ti、V、Zr、Nbの内から1種または2種以上を合計で5.44〜20.0%を含有するとともに、これら各元素の含有量が、15<4.0×(%C)+5.1×(%Si)+1.4×(%Mn)+1.1×(%Cr)+0.6×(%Mo)−1.8×(%Ti+%V+5/9%Zr+5/9%Nb)−2.8の関係を満たし、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする耐摩耗性高Cr鋳鉄。
  2. 前記高Cr鋳鉄組織を400倍の光学顕微鏡で観察した際の、長径と短径との比である長径/短径が1.5以下の球状化した炭化物の合計面積が、観察される全炭化物の合計面積に対する比率で、50%以上である請求項1に記載の耐摩耗性高Cr鋳鉄。
  3. 前記高Cr鋳鉄の硬度が650Hv以上、靱性がシャルピー衝撃値で5J/cm2 以上である請求項1または2に記載の耐摩耗性高Cr鋳鉄。
  4. 請求項1乃至3のいずれかの高Cr鋳鉄を機械加工して製作されたことを特徴とする耐摩耗部材。
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