JP6237186B2 - 被削性と転動疲労寿命特性に優れる機械構造用鋼 - Google Patents

被削性と転動疲労寿命特性に優れる機械構造用鋼 Download PDF

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Description

本発明は、被削性と転動疲労寿命特性に優れる機械構造用鋼に関する。
自動車や産業機械には、多くの部品が使用されている。その中には、ハブ、等速ジョイント等といったボール等の部材を接触させて転動させる内輪、外輪等の転動面を備えた部品がある。これらの部品は、当然の如く長時間転動面に高い応力が負荷された状態で用いられることから、優れた転動疲労寿命特性を備えることが求められている。その一方で、前記したハブ、等速ジョイントといった部品はかなり部品形状が複雑である。従って、目的の部品形状を得るのに最終仕上加工としては、機械加工に頼らざるをえず、素材である鋼には、優れた被削性が求められる。
これまで非常に優れた転動疲労寿命特性を確保するためには、清浄度が高い鋼を用いるとよいことが知られており、そのための鋼として、S(硫黄)を極力低減した鋼が用いられてきた。これは、被削性向上に有効とされるSを単純に添加した場合に粗大なMnSが生成して転動疲労寿命特性に悪影響を与えることを回避したものである。
しかし、Sを単純に極力低減するのみでは、転動疲労寿命特性は改善できても被削性は低減前に比べ大きく低下する。その点を考慮して、特許文献1、2に示す通りMnとSを所定の条件を満足するように含有させて微細なMnSが多数生成されるように調整し、転動疲労寿命特性と被削性の両方を同時に改善しようとする試みが行われている。
特開2003−293081 特開2004−277768
しかしながら、前記した公報には、確かにMnSを微細に多数分散させることにより転動疲労寿命特性を改善できることが記載されているが、微細なMnSを発生させることが重視され、粗大なMnSを極力低減するための条件の検討が十分でない。従って、確かにMnSは微細かつ多量に発生させることができるが、その一方で粗大なMnSも同時に発生し、その結果、転動疲労強度が十分に改善しない場合が生じる。
本発明は、かかる背景に基づいて成されたものであり、粗大なMnSの発生を極力低減しつつ微細なMnSを多量に発生させる条件を新規に見出すことにより優れた被削性を確保しつつ転動疲労寿命特性を大幅に改善させた機械構造用鋼を提供することを目的とするものである。
S無添加の機械構造用鋼に対して、他の添加成分組成を変更せずにSのみを追加添加すると、従来用いられている炭素鋼、合金鋼では、鋼中にMnを0.6〜1.0%程度含有しており、追加添加したSが鋼中のMnと結びついてMnSが増加して、被削性向上効果が得られる。MnSには、溶鋼から凝固する際に生じる粗大な晶出MnSと、凝固後に析出する微細な析出MnSとがあるが、上記のように単純にSを増量した場合に生成されるMnSは、大部分が粗大な晶出MnSの増加によるものであって、析出MnSの増加はほとんどない。そのため、被削性は改善するものの、転動疲労寿命特性は低下してしまう。
そこで、発明者らは、種々の実験を重ね、以下の知見を得て本願発明を完成させた。すなわち、第1の知見は、S無添加の機械構造用鋼に対してSを添加することに加え、Mn含有率を低下させることによる有効性である。このS添加・Mn低減の有効性は、MnSの生成形態を変化させ、MnS全体量を増加させることができる一方、晶出MnS量の増加の抑制と、析出MnS量増加の促進を図ることができることである。
第2の知見は、S無添加の機械構造用鋼に対してSを添加することに加え、C含有率を低減させることによる有効性である。C含有率を低くしていくと、鋼の凝固温度を上昇させることができる。その結果、MnSが多量に晶出する前に凝固を終了させることが可能となり、晶出MnS量の低減を図ることができる一方、析出MnS量の増加の促進を図ることができるという効果が期待できる。勿論C含有率を減少させると焼入後に得られる硬さが低下し、必要な転動疲労寿命特性が得られなくなる可能性がある。そこで、転動疲労寿命特性に大きな影響を及ぼさない範囲でC含有率を低下できる範囲を多数の実験により把握した。
なお、C含有率は被削性等の加工性とも深い関係があり、狙いとする転動疲労寿命特性のレベルにも大きく関係してくる。本発明鋼で適用対象としている部品と同様に転動面を備えた部品でも、転がり軸受のような最高レベルの転動疲労寿命特性を要求される部品では、C含有率は前記第2の知見に記載の通り低減を考慮すると言っても限界があり、高めの設定となるが、本発明で対象とするハブ、等速ジョイント等の部品は、転がり軸受部品に比べ形状が複雑でより高い被削性が要求されることから、勿論転動疲労寿命特性は重視されるが、転がり軸受部品に比較すると、被削性等の加工性により重点を置いた成分設計が必要となる。
本願発明は、上記第1の知見と第2の知見とを融合させるとともに、被削性等の加工性の確保に充填を置いた成分設計を行った結果完成された発明である。すなわち、Sの適量添加に加え、Mn含有率の低下とC含有率の低下の両方を実施し、これらの3成分のバランスを図ったものである。そして、凝固点の上昇とMnS生成形態の変化による相乗的な効果を発揮させ、晶出MnS量が増加することなく析出MnS量を大幅に増加させることに成功したものである。なお、図1は、上記知見によるMnS生成形態の変化及び凝固点の上昇による効果を示す概念図である。
同図は、横軸に温度、縦軸にMnS生成量を取ったものである。横軸の右側に行くほど温度が高く、温度が徐々に低下して凝固点T1又はT2に到達した時点で凝固が完了する。この概念図において、まず、曲線Aが従来のS無添加の機械構造用鋼におけるMnS生成形態を示す。この場合には、鋼中に含有するSは、スクラップ等の原料から不可避に含有する不純物のみとなることから、液相から晶出する晶出MnS量a1及び固相から析出する析出MnS量a2はいずれも比較的少なく、総MnS量も比較的少ない。
曲線Bは、曲線Aの場合に対して単純にSを意図的に添加した鋼のMnS生成形態を示す。この場合には、曲線Aの場合に比べて、固相から析出する析出MnS量b2はa2と比較してほとんど増加しないものの、液相から晶出する晶出MnS量b1が曲線Aの場合よりも大きく増加し、その結果、総MnS量は増加する。この総MnS量の増加によって被削性が向上するものの、粗大な晶出MnS量の増加によって転動疲労寿命特性が低下する。
曲線Cは、曲線Bの場合に対してMn含有率を低減した鋼のMnS生成形態を示す。すなわち、曲線Aの場合に対してSを添加すると共にMn含有率を低減させた例である。この場合、Mnは低減したといってもMnSの生成に十分な量のMnは含有していることから、曲線Bの場合に比べて、総MnS量はほとんど変化しないが、Mn含有率低減により、液相から晶出する晶出MnS量c1が曲線Bの場合よりも若干減少し、その分固相から析出する析出MnS量c2が若干増加する。これにより、曲線Bの場合とほぼ同様の被削性改善効果が得られるが、依然として粗大な晶出MnSの低減が十分でないことから、曲線Aの場合よりも転動疲労寿命特性が大きくは改善されない。
曲線Dは、曲線Bの場合に対してC含有率を低減した鋼のMnS生成形態を示す。すなわち、曲線Aの場合に対してSを添加すると共にC含有率を低減した例である。この場合には、曲線Bの場合に比べて、MnとSの含有率に変化がないことから、総MnS量はほとんど変化しないが、C含有率低減により凝固点がT1からT2へ上昇した影響により、液相から晶出する晶出MnS量d1が曲線Bの場合よりも若干減少し、その分固相から析出する析出MnS量d2が若干増加する。これにより、曲線Bの場合とほぼ同様の被削性改善効果が得られるが、粗大な晶出MnSが大きく低減せず鋼中に残存するため、転動疲労寿命特性は大きくは改善されない。
曲線Eは、曲線Bの場合に対してC含有率を低減し、かつMn含有率を低減した鋼のMnS生成形態を示す。すなわち、曲線Aの場合に対してSを適量添加すると共にC及びMnの含有率を低減した例である。この場合は、曲線Bの場合に比べて、Mnを低減しているものの、MnSの生成に十分な量のMnを含む場合であれば、総MnS量はほとんど変化しないが、Mn含有率低減によるMnS生成形態の変化とC含有率低減による凝固点のT1からT2への上昇の効果が相俟って、液相から晶出する晶出MnS量e1が曲線Bの場合よりも大きく減少し、その分固相から析出する析出MnS量e2が大きく増加する。これにより、曲線Bの場合よりも被削性が改善し、かつ、優れた転動疲労寿命特性を曲線Aの場合と同様なレベルに維持することができる。
なお、前記した通り、本発明では、転動疲労寿命特性とともに軸受部品を製造目的とする場合に比べ被削性等の加工性を重視した鋼を対象としている。そこで、C含有率は、転動疲労寿命特性が大きく低下しない範囲で、軸受部品に適用する場合に比べ大幅に低減するとともに、熱処理として高周波焼入を採用し、表面は極めて硬い組織として優れた転動疲労寿命特性を確保できるように熱処理する一方、内部は焼入の効果のない表面に比べて軟らかくて、等速ジョイント等の部品へ適用した場合において問題のない靭性を確保可能とする組織を得るのに適した成分設計を行った。本発明は、上記コンセプトに基づいて完成させたものである。
以上説明した検討の結果見出された本願発明は、
質量%で、C:0.40%〜0.70%、Si:0.01%〜2.00%(0.05%以下を除く)、Mn:0.03%〜0.40%、S:0.015%〜0.048%、Cr:0.01〜2.00%、Al:0.001〜0.050%を含有すると共に、式1及び式2を満足し、
式1:90S+2C+5√Mn<7.5、
式2:1.5<Mn/S<13.4、
(式1及び式2中における元素記号は、当該元素の含有率(質量%)の値を意味する)
残部がFeおよび不可避不純物からなり、
高周波焼入及び焼もどし後における10mm 2 の観察面内に存在する円相当径が10μm以上のMnSが5個以下であり、1mm 2 の観察面内に存在するMnSの総数が2000個以上であることを特徴とする被削性と高周波焼入後の転動疲労寿命特性の優れた機械構造用鋼にある(請求項1)。
上記機械構造用鋼は、上記特定の成分組成と上記式1及び式2の両方の関係式を満足するように、Mn、S及びCの含有率が規制されている。そして、上記式1が満たされることにより、本発明鋼は、電気炉等で溶解し、成分調整された後凝固する際に晶出MnSの生成を抑制しつつ析出MnSの生成が促進されることにより、粗大なMnS、具体的には円相当径で10μm以上のMnSを極めて少ない個数(10mm2の観察面内に存在する円相当径が10μm以上のMnSを5個以下)に制御することが可能となる。これにより、その後高周波焼入による表面硬化処理を行った後において、優れた転動疲労寿命特性を有する機械構造用部品を製造できる。また、本発明鋼は高周波焼入して用いることにより、優れた転動疲労寿命特性を有する表面層を得ることができるとともに、内部は比較的軟らかくて靭性の優れた組織を得ることができる。その結果、優れた性能を有する機械構造用部品を製造し、提供することが可能になる。
さらに、本発明では、式2によりMnとSの添加割合を定めている。これと前記したMnの低減効果の組合せによって、微細なMnSの生成の促進と、FeS生成の抑制を図ることができ、本発明鋼を用いて部品を製造する過程における被削性及び熱間加工性を向上させることができる。そのため、上記機械構造用鋼は、生産性にも優れたものとなる。
S添加、Mn含有率減少及びC含有率減少によるMnS生成形態を示す説明図。 実施例における、転動疲労寿命特性試験用試験片採取位置を示す説明図。 試料1のMnS観察結果を示す図面代用写真。 試料16のMnS観察結果を示す図面代用写真。
上記機械構造用鋼における必須化学成分組成の限定理由を説明する。
C:0.40%〜0.70%、
C(炭素)は、転動疲労寿命特性を向上させるために必須の元素である。Cの含有によって、高周波焼入れ及び焼戻しを行なった後の硬度を向上させることができる。また、本発明鋼は熱間鍛造により部品を製造する場合があるが、Cの含有率が高すぎると、鍛造後の硬さが高くなり、鍛造ままでは必要な被削性を確保できなくなるおそれがある。さらに、C含有率が高いと高周波焼入し、焼もどし後において、部品内部(高周波焼入の影響が及んでいない内部)の靭性が低下するおそれがある。一方、Cの含有率が上記下限値よりも低い場合には、高周波焼入及び焼もどし後の硬度を十分に高めることができず、転動疲労寿命特性を十分に高めることができないおそれがある。
Si:0.01%〜2.00%、
Si(ケイ素)は、製鋼時の脱酸材として不可欠な元素である。Siの含有により、焼入性を向上させることができる。Siの含有率が上記上限値よりも高い場合には、C含有率の範囲の説明で記載したのと同様に、鍛造ままの状態の硬さが上昇し、必要な被削性を確保できないおそれがある。一方、Siの含有率が上記下限値よりも低い場合には、Si含有による効果が十分に得られないおそれがある。
Mn:0.03%〜0.40%、
Mn(マンガン)は、必要な焼入性確保に不可欠な元素であるため、通常高周波焼入用鋼では、0.60%程度以上含有するのが普通である。また、Mnは、Sと結合しMnSを生成し被削性の向上を図るために有効な元素でもある。しかし、本発明鋼は、凝固時に晶出する粗大なMnSを極力少なくすることにより転動疲労寿命特性を改善することを特徴としており、そのために上限を公知の高周波焼入用鋼に比較して低くする必要がある。そのため、上限を0.40%とした。好ましくは、上限を0.30%とするのがよい。一方、Mn含有率が上記下限値よりも低い場合には、FeSが生成し、熱間加工性が低下するおそれがある。
S:0.015%〜0.048%、
S(硫黄)は、Mnと結合しMnSを生成し、被削性を向上させる効果を有する。S含有率が上記上限値よりも高い場合には、MnSが粗大化しやすく転動疲労寿命特性が低下するおそれがある。一方、S含有率が上記下限値よりも低い場合には、S含有による効果が十分に得られないおそれがある。好ましくは、S含有率は、0.026%以上とするのがよい。
Cr:0.01〜2.00%、
Cr(クロム)は、焼入性を高める効果を発揮する元素である。特に本発明では、焼入性向上に効果的な元素であるMnを低減しているため、その焼入性の低下分をCr等の焼入性向上元素の添加により補う必要が生じる。しかし、添加しすぎると、鋳造時に粗大な炭化物が生成しやすくなるので、上限を2.00%とした。一方、Cr含有率が上記下限値よりも低い場合には、Cr含有による効果が十分に得られないおそれがある。
Al:0.001〜0.050%、
Al(アルミニウム)は、脱酸材として必要な元素である。しかし、Al含有率が上記上限値よりも高い場合には、酸化物系介在物が生成しやすくなるという問題がある。一方、Al含有率が上記下限値よりも低い場合には、Alによる脱酸効果が十分に得られないおそれがある。
式1:90S+2C+5√Mn<7.50、
式1における各元素記号は、当該元素の含有率(質量%)の値を意味するものである。この式1が満たされることによって、粗大なMnSの生成を抑制し、生成されるMnSを微細化することができ、一方、式1が満たされない場合には、粗大なMnSが生成されやすくなり、転動疲労寿命特性が低下するおそれがある。
式2:1.5<Mn/S<13.4、
式2における各元素記号は、当該元素の含有率(質量%)の値を意味するものである。この式2が満たされることにより、MnSの生成のために適したMn含有率とS含有率のバランスが保てられるため、必要とするMnSを生成させることが可能となり、優れた被削性と熱間加工性を得ることができる。一方、Mn/Sが13.4以上の場合には、微細MnSの生成量が少なくなり、被削性向上効果が低下し、Mn/Sが1.5以下の場合には、FeSが生成することによる熱間加工性が低下し、熱間鍛造時等に割れが発生しやすくなるおそれがある。
以上説明した成分からなる機械構造用鋼は、前記した通り、熱間鍛造等の粗加工をし、所定の部品形状に機械加工後、高周波焼入及び焼もどし処理を行って部品を製造し、用いられる。高周波焼入では、周波数や加熱時間等の焼入条件の変化により硬化深さの調整をすることができるが、概ね硬化深さは1〜数mm程度である。数mm程度以上の深さがあれば、それ以上硬化深さを深くしても転動疲労寿命特性は向上しないからである。但し、硬化深さを深くすると曲げ強度が向上するので、ハブ部品等のように曲げ応力が負荷される部品に本発明鋼を適用する場合には、硬化深さを深めとした方が良い。その一方で硬化深さが深いほど、同じ冷却条件では焼入時の冷却速度が遅くなって焼きが入りにくくなる傾向があることから、等速ジョイントのアウターレースの転動部等、曲げ応力があまり負荷されない部位では、浅めの硬化深さとするのが良い。従って、部品毎の使用条件に応じて、適した硬化深さとなるよう調整すればよい。但し、本発明では、焼入性向上元素であるMnを低減しているので、比較的深い硬化深さを得る場合には、焼入性が不足することのないよう、Cr等の他の焼入性向上元素の添加量の調整により、必要な焼入性が確保できるよう成分設計しておく必要がある。
なお、本発明の機械構造用鋼は、上述したごとく、粗大な晶出MnSが極力生成されないように成分設計されているので、所定の形状に機械加工し、高周波焼入及び焼もどしの熱処理を行って部品を製造した際に、部品中の転動面直下の位置において当該転動面に平行な断面を観察した場合に、10mm2の観察面内に存在するMnSのうち、円相当径が10μm以上のMnSが5個以下となるように制御できる(約1mm以内の研磨量の範囲で鏡面研磨して得られた転動面直下の面でレーザー顕微鏡等により観察した場合。なお、円相当径は、写真を撮影後、画像解析により求めたMnS面積から算出可)。
また、上記機械構造用鋼は、更に、質量%で、B:0.0005%〜0.0050%、とTi:0.01%〜0.20%の2種及び/又は、Mo:0.01〜1.00%をさらに含有してもよい(請求項2)。これにより、高周波焼入時に必要な焼入性を高めることができる。但し、過剰な添加はコストが上昇するとともに、Bの過剰添加は靭性を低下させるおそれがあるため、B、Tiは焼入性向上効果が得られる必要な量に調整し、Moについては、適用する部品、狙いとする硬化深さに合わせて必要な量だけ添加するようにすることが重要である。
B:0.0005%〜0.0050%、
B(ホウ素)は、鋼中に固溶することで焼入性を高めることができる元素であり、上記下限値以上の添加によりこの効果を得ることができる。一方、B含有率が上記上限値を超える場合には、靱性低下の可能性があり、好ましくない。
Ti:0.01%〜0.20%、
Ti(チタン)は、Nと結合してTiNを形成し、BNの生成を抑制することができ、Bを固溶状態にすることでBの焼入性向上効果が喪失するのを防止するために必要な元素であり、Bと共に上記下限値以上の添加によりこの効果を得ることができる。一方、Ti含有率が上記上限値を超えるとTi含有による上記効果が飽和し、コストが上昇するだけとなる。
Mo:0.01%〜1.00%、
Mo(モリブデン)は、焼入性を高める元素であり、上記下限値以上の添加によりこの効果を得ることができる。一方、Mo含有率が上記上限値を超えるとMo含有による上記効果が飽和し、コストが上昇するだけとなる。なお、Mo添加に必要なフェロモリブデンは価格変動が大きく高騰することがあるため、狙いの焼入性が確保できさえすれば、その量を超えて添加するのは、仮に上記範囲内であっても、好ましくなく、必要な焼入性を確保できる範囲で、少なめに添加するよう設計することが好ましい。
また、上記機械構造用鋼は、更に、質量%で、Nb:0.01%〜1.00%と、V:0.01%〜1.00%の少なくとも一方を含有してもよい(請求項3)。これにより、さらに転動疲労寿命特性の向上を図ることができる。
Nb:0.01%〜1.00%、V:0.01%〜1.00%、
Nb(ニオブ)、V(バナジウム)は、微細な炭化物を生成し、焼入れ時のオーステナイト粒を微細化し、転動疲労寿命特性及び靭性を向上させる効果を発揮する元素であり、少なくとも一方を上記下限値以上添加することによりこの効果を得ることができる。一方、Nb、Vともに上記上限値を超えて含有させても上記効果が飽和し、コストが上昇するだけとなる。
また、上記機械構造用鋼は、更に、質量%で、Ca:0.0005%〜0.0050%を含有してもよい(請求項4)。これにより、さらに被削性の向上を図ることができる。
Ca:0.0005%〜0.0050%、
Ca(カルシウム)は、被削性の改善に有効であるが、その効果を得たい場合には、0.0005%以上の含有が必要である。但し、含有させすぎてもその効果が飽和するとともに、粗大な酸化物系介在物が生成しやすくなって転動疲労寿命特性低下の原因となるため、上限を0.0050%とした。
上記機械構造用鋼に係る実施例につき、比較例と共に説明する。本例では、表1に示すごとく、成分組成が異なる複数種類の試料を準備して、最終製品である機械構造用部品を作製する場合を想定した加工を加えて各種評価を行った。なお、表1に示す鋼のうち、試料1〜11が本発明の成分の条件を満足する鋼であり、試料12〜19が一部の成分が本発明で指定した範囲をはずれている比較鋼、試料20は従来鋼であるS55Cである。以下、評価の仕方について説明する。
Figure 0006237186
<試験片準備のための溶解>
まず、各試料の原料の溶解、精錬及び鋳込みをVIM(Vacuum Induction Melting:真空誘導溶解装置)を用いて行い、30kgの鋼塊を得た。この鋼塊から後述に示す方法で試験片を得た。
<熱間加工性試験>
前記VIM溶解で得た鋼塊の表層から試験片を切り出した。試験片は、直径10mmφ×長さ120mmの丸棒形状とした。
熱間加工性は、グリーブル試験機を用いた熱間引張試験によって評価した。熱間引張試験の条件は、加熱温度:1200℃、ストローク速度:50mm/secとした。評価は、熱間引張試験の結果から、絞りの値を求め、この値が95%以上の場合を合格、95%未満の場合を不合格とする基準により行った。
<被削性試験>
前記VIM溶解で得た鋼塊に熱間鍛造を施し自然放冷して、直径65mmφの丸棒を得た。この丸棒に、切削加工を施して、直径60mmφ×長さ390mmの試験片を得た。
被削性は、旋盤により切削する場合の切削工具の摩耗量によって評価した。上記旋盤としては、森精機製SL−25旋盤を用い、上記切削工具としては、タンガロイ製SNMG120408−サーメットNS530を用いた。試験条件は、切削速度200m/sec、送り速度0.3mm/sec、切り込み:1.5mm、切削時間:15分の条件とした。試験後に切削工具の摩耗量を測定し、その値が0.3mm以下の場合を合格、0.3mmを超える場合を不合格と判定した。
<転動疲労寿命特性試験>
前記VIM溶解で得た鋼塊に熱間鍛造を施し自然放冷して、一辺の長さLが65mmの断面正方形の角棒1を得た。この角棒1に、切削加工を施し、直径45mmφ×厚さ12mmの円盤状試験片2を得た後、高周波焼入れ・焼戻し処理を施した。円盤状試験片2の採取位置は、図2に示すごとく、上記角棒1の一辺の長さLが65mmの正方形断面において、表面から1/4Lの位置が円形の試験面となるように、幅方向中央部(1/2L)が中心となる円盤状に切り出して採取した。なお、上記高周波焼入れ・焼戻し処理の焼入れは、上記の通り切り出した円盤状試験片2を1000℃に加熱し、狙いの硬化深さが2.5mmとなるよう加熱深さを調節し、水冷する条件で行った。また、焼戻しは、上記被処理材を180℃に加熱して60分保持した後、空冷する条件で行った。
転動疲労寿命特性試験は、森式スラスト型転動疲労試験機を用い、最大接触面圧:5.3GPa、回転数:1500rpm、潤滑油:マシン油#30、ボールサイズ3/8インチ、ボール個数3個、温度:室温という条件で行った。転動疲労寿命の評価は、ワイブル分析により折損しない確率が90%と定義されるB10寿命が10×106以上の場合を合格、10×106未満の場合を不合格と判定した。
<MnS観察>
MnS観察用の試料は、上述した転動疲労寿命特性試験の場合と同様に作製した円盤状試験片2を用いた、MnSの観察面は、円盤状試験片2の表面を鏡面研磨して形成した。
MnSの観察は、レーザー顕微鏡を用いて2段階で行った。第1の段階では、200倍で観察し、10mm2の観察範囲内に存在するMnSのうち、円相当径が10μm以上のMnSの個数を確認した。円相当径は、レーザー顕微鏡により写真を撮影後、その写真を画像解析することによってMnS面積を測定して算出した。円相当径が10μm以上のMnSの個数が5個以下の場合を合格、5個を超える場合を不合格と判定した。
第2の段階の観察では、上記レーザー顕微鏡の倍率を1000倍とし、1mm2相当の観察範囲内に存在する全てのMnSの個数(総数)を確認した。上記総数が2000個以上の場合を好ましい範囲と判断し、2000個未満の場合を好ましくない範囲と判断した。
上記各試験の結果を表2に示す。
Figure 0006237186
表2から知られるように、試料1〜11については、化学成分組成が適正な範囲にあり、かつ、上記式1及び式2を具備することにより、全ての評価項目において合格となり、転動疲労寿命特性に優れ、かつ、その製造過程における被削性及び熱間加工性にも優れることがわかった。
試料12は、C含有率が高すぎることにより、硬度が高くなりすぎて被削性が劣る結果となった。
試料13は、C含有率が低すぎることにより、硬度向上効果が十分に得られず、転動疲労寿命特性が劣る結果となった。
試料14は、Mn含有率が高すぎることにより、式2の値が高くなりすぎて、微細な析出MnSの個数が減少して被削性が劣る結果となった。
試料15は、Mn含有率が低すぎることにより、式2の値が低くなりすぎて、FeS生成に起因すると考えられる熱間加工性の低下が生じた。
試料16は、S含有率が高すぎることにより、式1を満足せず、円相当径が10μmを超えるMnSの個数が5個を超え、転動疲労寿命特性が劣る結果となった。
試料17は、S含有率が低すぎることにより、式2を満足せず、微細な析出MnSの総数が少なくなりすぎ、被削性が劣る結果となった。
試料18は、Si含有率が高すぎることにより、硬度が高くなりすぎて被削性が劣る結果となった。
試料19は、Al含有率が高すぎることにより、介在物増加に起因すると考えられる転動疲労寿命特性の低下が生じた。
試料20は、従来高周波焼入用として使用されていたJISのS55Cであるが、S含有率が低くMn含有率が高いため、MnSの個数が少なく、被削性が大きく劣るものであった。なお、今回用いた従来鋼はSが0.005%と比較的少ない鋼であったため被削性が悪く転動疲労寿命は悪い結果は得られなかったが、S55CでもSが多くなった場合には、被削性は改善するものの、転動疲労寿命が低下すると考えられる。
次に、MnS観察結果の代表的なものとして、試料1及び試料16のレーザー顕微鏡観察時に撮影した写真を図3及び図4に示す。同図の写真において示された黒い粒状のものがMnSである。図3に示されるように試料1の場合には、非常に微細なMnSが多数観察されるものの、円相当径が10μmを超えるMnSはこの写真の視野内では観察されていない。試料1は、10mm2の観察面内では、表2に示すごとく、円相当径が10μmを超えるMnSが観察されたが、その個数は2個と少ないことがわかった。
一方、試料16の場合には、上述したごとく式1を満足していないものであるが、図4中に示すように円相当径が10μmを超えるMnSが観察された。試料16は、10mm2の観察面内では、表2に示すごとく、円相当径が10μmを超えるMnSは8個観察され、試料1に比べその個数が多いことが確認できた。
1 角棒
2 転動疲労寿命特性用試験片

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.40%〜0.70%、Si:0.01%〜2.00%(0.05%以下を除く)、Mn:0.03%〜0.40%、S:0.015%〜0.048%、Cr:0.01〜2.00%、Al:0.001〜0.050%を含有すると共に、式1及び式2を満足し、
    式1:90S+2C+5√Mn<7.50、
    式2:1.5<Mn/S<13.4、
    (式1及び式2中における元素記号は、当該元素の含有率(質量%)の値を意味する)
    残部がFeおよび不可避不純物からなり、
    高周波焼入及び焼もどし後における10mm 2 の観察面内に存在する円相当径が10μm以上のMnSが5個以下であり、1mm 2 の観察面内に存在するMnSの総数が2000個以上であることを特徴とする被削性と高周波焼入後の転動疲労寿命特性の優れた機械構造用鋼。
  2. 請求項1に記載の機械構造用鋼において、上記機械構造用鋼は、上記残部のFe及び不可避不純物の一部に代えて、更に、質量%で、B:0.0005%〜0.0050%とTi:0.01%〜0.20%の2種及び/又はMo:0.01%〜1.00%を含有することを特徴とする機械構造用鋼。
  3. 請求項1又は2に記載の機械構造用鋼において、上記機械構造用鋼は、上記残部のFe及び不可避不純物の一部に代えて、更に、質量%で、Nb:0.01%〜1.00%と、V:0.01%〜1.00%の少なくとも一方を含有することを特徴とする機械構造用鋼。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の機械構造用鋼において、上記機械構造用鋼は、上記残部のFe及び不可避不純物の一部に代えて、更に、質量%で、Ca:0.0005%〜0.0050%を含有することを特徴とする機械構造用鋼。
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