JP2016222985A - 高周波焼入れ用非調質鋼 - Google Patents

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Abstract

【課題】溶融割れの発生を抑制でき、高い疲労強度及び被削性を有する高周波焼入れ用非調質鋼を提供する。【解決手段】本発明による高周波焼入れ用非調質鋼は、質量%で、C:0.35〜0.44%、Si:0.30超〜0.70%、Mn:1.00〜1.50%、P:0.030%以下、S:0.010〜0.095%、Cr:0.10〜0.30%、Al:0〜0.040%、V:0.100〜0.200%、N:0.0040〜0.0200%、Ca:0.0005%〜0.0100%、及び、O:0.0024%以下を含有し、fn1が50.0以下であり、fn2が0.80〜1.00であり、fn3が0.013〜0.124であり、残部はFe及び不純物からなる。fn1=80C2+55C+13Si+4.8Mn+30P+30S+1.5Crfn2=C+(Si/10)+(Mn/5)−(5S/7)+(5Cr/22)+1.65Vfn3=Al+10.8Ca【選択図】図3

Description

本発明は、非調質鋼に関し、さらに詳しくは、高周波焼入れ用非調質鋼に関する。
自動車、建設車両のクランクシャフト等に利用される機械構造用部品には、例えば、疲労強度、耐摩耗性等の向上のために表面硬化処理が施される場合がある。
種々の表面硬化処理のうち、高周波焼入れは、必要な部位のみ硬化させる事ができる。さらに、高周波焼入れは高温で加熱後に冷却するため、軟窒化処理等の他の表面硬化処理と比較して、深い硬化層深さ及び高い疲労強度を得ることができる。そのため、機械構造用部品には、高周波焼入れが施される場合が多い。例えば、機械構造用部品の1種であるクランクシャフトの疲労強度を向上させるために、図1に示すフィレットのR部1を高周波焼入れする技術が実用化されている。
近年、産業界から、機械構造用部品のさらなる高強度化、特に、疲労強度の向上が求められている。高周波焼入れを利用して硬化層深さを大きくするためには、高周波電力の出力や加熱時間を増加して加熱温度を高めればよい。しかしながら、高温で高周波焼入れ処理を実施する場合、機械構造用部品のエッジ部(たとえば、図1のクランクシャフトの場合は符号2で示される部分)で、加熱温度が過剰に高くなりやすい。加熱温度が過剰に高くなって機械構造用部品の鋼材の融点を超えれば、鋼材の表層又は内部の一部が溶融して割れが発生する。以下、このような割れを「溶融割れ」という。溶融割れは高周波焼入れにおいて発生する特有の現象である。溶融割れが生じた鋼材は実用に適さないため、高周波焼入れ用鋼において、溶融割れの抑制が求められる。
機械構造用部品に用いられる高周波焼入れ用鋼ではさらに、上述の疲労強度とともに、優れた被削性も求められる。そのため、被削性を高めるために、高周波焼入れ用鋼にはSが含有される。しかしながら、S含有量が高くなれば、上述の溶融割れが生じやすくなる。したがって、高周波焼入れ用鋼では、高い疲労強度及び被削性を有しつつ、溶融割れの発生も抑制されることが求められる。
高周波焼入れ用鋼に関する技術の一例は、特開平5−33101号公報(特許文献1)、特開2004−27259号公報(特許文献2)及び特開2011−26641号公報(特許文献3)に開示されている。
特許文献1に開示された高周波焼入れクランクシャフト用非調質鋼は、質量基準で、C:0.40〜0.52%、Si:0.10〜0.40%、Mn:1.00〜1.50%、S:0.010〜0.070%、Cr:0.40〜0.70%、Pb:0.02〜0.35%、Ca:0.0005〜0.0100%、O:0.0040%以下、Al:0.025%以下、N:0.005〜0.015%を含有し、残部は実質的にFeからなる。
特許文献2に開示された機械構造用快削鋼は、質量%で、C:0.35〜0.65%、Si:0.03〜1.0%、Mn:0.30〜2.50%、S:0.015〜0.35%、Al:0.060%以下、Ca:0.0005〜0.01%を含有し、さらにNi:0.1〜3.5%、Cr:0.1〜2.0%、Mo:0.05〜1.00%から選択した元素を1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、鋼中の硫化物の大きさが長径30μm以下であり、素材を切削後あるいは鍛造後、部品の一部を高周波焼入れして使用する。
特許文献3に開示された高周波焼入れ用非調質鋼は、質量%で、C:0.35〜0.45%、Si:0.30%を超えて0.70%以下、Mn:1.00〜1.50%、P:0.030%以下、S:0.035%以下、Cr:0.10〜0.30%、Al:0.005〜0.050%、V:0.100〜0.200%およびN:0.0040〜0.0200%を含有するとともに、下記の式(1)で表されるfn1が50以下、かつ下記の式(2)で表されるfn2が0.80〜1.00の範囲であり、残部はFeおよび不純物からなる。
fn1=80C2+55C+13Si+4.8Mn+30P+30S+1.5Cr
(1)
fn2=C+(Si/10)+(Mn/5)−(5S/7)+(5Cr/22)+1.65V (2)
特開平5−33101号公報 特開2004−27259号公報 特開2011−26641号公報
特許文献1の非調質鋼は、焼入れ及び焼戻し処理が不要であり、寸法差に基づく冷却速度の違いによって硬さの差が大きくならず、さらに、加工性に優れる、と記載されている。しかしながら、特許文献1では、高周波焼入れ時に生じ得る溶融割れの抑制については検討されていない。
特許文献2では、高周波焼入れ時に生じる焼割れが低減すると記載されている。しかしながら、特許文献1の場合と同様に溶融割れの抑制については検討されていない。
特許文献3では、溶融割れの低減について考慮されている。しかしながら、Sが含有される鋼材、特にSが0.035%を超えて含有される鋼材に対して、1350℃を超える高温の加熱温度で高周波焼入れする場合の溶融割れについては検討されていない。
本発明の目的は、高周波焼入れを実施しても溶融割れの発生を抑制でき、熱間鍛造後においても高い疲労強度が得られ、かつ、優れた被削性を有する高周波焼入れ用非調質鋼を提供することである。
本発明による高周波焼入れ用非調質鋼は、質量%で、C:0.35〜0.44%、Si:0.30%超〜0.70%、Mn:1.00〜1.50%、P:0.030%以下、S:0.010〜0.095%、Cr:0.10〜0.30%、Al:0〜0.040%、V:0.100〜0.200%、N:0.0040〜0.0200%、Ca:0.0005%〜0.0100%、O:0.0024%以下、Ti:0〜0.020%、Nb:0〜0.020%、Pb:0〜0.30%、Cu:0〜0.20%、Ni:0〜0.20%、Mo:0〜0.20%を含有し、式(1)で定義されるfn1が50.0以下であり、式(2)で定義されるfn2が0.80〜1.00であり、式(3)で定義されるfn3が0.013〜0.124であり、残部はFe及び不純物からなる。
fn1=80C2+55C+13Si+4.8Mn+30P+30S+1.5Cr (1)
fn2=C+(Si/10)+(Mn/5)−(5S/7)+(5Cr/22)+1.65V (2)
fn3=Al+10.8Ca (3)
ここで、式(1)〜式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本発明の高周波焼入れ用非調質鋼では、高周波焼入れによる溶融割れの発生が抑制される。さらに、熱間鍛造後において、十分な疲労強度及び被削性が得られる。
図1は、機械構造用部品であるクランクシャフトの一部を示す正面図である。 図2は、実施例において、比較例である高周波焼入れ用非調質鋼の試験片を、25℃/秒の昇温速度で1380℃まで加熱し、30秒間保持した後、Heガスにて急冷した場合のミクロ組織写真画像である。 図3は、実施例において、本発明例である高周波焼入れ用非調質鋼の試験片を、25℃/秒の昇温速度で1380℃まで加熱し、30秒間保持した後、Heガスにて急冷した場合のミクロ組織写真画像である。
本発明者らは、高周波焼入れを施された機械構造用部品において溶融割れが発生した部位を詳細に調査した。その結果、溶融割れが発生した部位には脱炭が生じていなかった。一方、脱炭している部位は溶融していた。
以上の結果から、本発明者らは、高周波焼入れした場合の溶融割れにはC含有量が影響を及ぼし、C含有量を低下すれば、溶融割れが抑制されると考えた。そこで、本発明者らはさらに、種々の元素含有量が溶融割れの発生に及ぼす影響と、機械的性質、特に、疲労強度に及ぼす影響について詳細な検討を実施した。その結果、次の知見を得た。
C、Si、Mn、P、S及びCrの含有量を低減すれば、高周波焼入れの加熱時に生じる溶融割れを抑制できる。しかしながら、C、Si、Mn、P、S及びCrの含有量が低下すれば、溶融割れの発生を抑制できても、焼入れ性及び鋼材の内部硬さが低下してしまう。焼入れ性及び内部硬さが低下すれば、高い疲労強度が得られない。したがって、溶融割れを抑制しつつ、かつ、高い疲労強度も確保するためには、C、Si、Mn、P、S及びCrの含有量を適正に制御する必要がある。
本発明者らはさらに、MnS等の介在物の形態が溶融割れに及ぼす影響を調査した結果、次の知見を得た。
MnSのアスペクト比(最大長さ/最大幅)が大きい場合、つまり、MnSの幅が狭く、尖端部がある場合、高周波焼入れ時において、MnSの尖端部に局所的な異常加熱が発生する。この場合、溶融割れが起こりやすくなる。MnSのアスペクト比を小さくして尖端部の生成を抑制すれば、局所的な異常加熱の発生を抑制できる。そのため、溶融割れの発生を抑制できる。
MnSのアスペクト比を小さくするには、鋼にCaを含有させることが有効である。しかしながら、Caは低融点のAl系複合酸化物を生成し得る。Al系複合酸化物は、熱間圧延、熱間鍛造等により延伸されやすい。Al系複合酸化物が延伸されてアスペクト比が大きくなれば、MnSと同様に、局所的な異常加熱が発生して溶融割れが発生しやすくなる。Al系複合酸化物を形成する元素であるCaとAlとの合計含有量を適正に制御すれば、Al系複合酸化物の生成を抑制でき、溶融割れの発生を抑制できる。
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による高周波焼入れ用非調質鋼は、質量%で、C:0.35〜0.44%、Si:0.30%超〜0.70%、Mn:1.00〜1.50%、P:0.030%以下、S:0.010〜0.095%、Cr:0.10〜0.30%、Al:0〜0.040%、V:0.100〜0.200%、N:0.0040〜0.0200%、Ca:0.0005%〜0.0100%、O:0.0024%以下、Ti:0〜0.020%、Nb:0〜0.020%、Pb:0〜0.30%、Cu:0〜0.20%、Ni:0〜0.20%、Mo:0〜0.20%を含有し、式(1)で定義されるfn1が50.0以下であり、式(2)で定義されるfn2が0.80〜1.00であり、式(3)で定義されるfn3が0.013〜0.124であり、残部はFe及び不純物からなる。
fn1=80C2+55C+13Si+4.8Mn+30P+30S+1.5Cr (1)
fn2=C+(Si/10)+(Mn/5)−(5S/7)+(5Cr/22)+1.65V (2)
fn3=Al+10.8Ca (3)
ここで、式(1)〜式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本実施形態の高周波焼入れ用非調質鋼では、高周波焼入れの加熱時に溶融割れが発生するのを抑制することができる。この場合、製品歩留りが向上する。本実施形態の高周波焼入れ用非調質鋼はさらに、クランクシャフト等の機械構造用部品に製造される工程における熱間鍛造後においても、高い疲労強度及び被削性が得られる。
上記高周波焼入れ用非調質鋼は、Ti:0.005〜0.020%、及び、Nb:0.005〜0.020%からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
上記高周波焼入れ用非調質鋼はさらに、Pb:0.10〜0.30%を含有してもよい。
上記高周波焼入れ用非調質鋼はさらに、Cu:0.05〜0.20%、Ni:0.05〜0.20%、及び、Mo:0.05〜0.20%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
以下、本実施形態の高周波焼入れ用非調質鋼について詳述する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
[化学組成]
本実施形態の高周波焼入れ用非調質鋼の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.35〜0.44%
炭素(C)は、高周波焼入れされた部分の硬さ、及び、鋼の内部硬さを高める。C含有量が0.35%未満であれば、この効果が得られない。一方、C含有量が0.44%を超えれば、高周波焼入れの加熱時に溶融割れが発生する。したがって、C含有量は0.35〜0.44%である。C含有量の好ましい下限は0.37%である。C含有量の好ましい上限は0.42%である。
Si:0.30超〜0.70%
シリコン(Si)は、フェライトを強化して鋼の内部硬さを高める。Si含有量が0.30%以下であれば、この効果が得られない。一方、Si含有量が0.70%を超えれば、溶融割れが発生しやすくなる。さらに、内部硬さが高くなりすぎて鋼の被削性が低下する。したがって、Si含有量は0.30超〜0.70%である。Si含有量の好ましい下限は0.50%である。Si含有量の好ましい上限は0.68%である。
Mn:1.00〜1.50%
マンガン(Mn)は、製鋼時の溶鋼を脱酸する。Mnさらに、鋼の焼入れを高め、内部硬さを高める。Mn含有量が1.00%未満であれば、これらの効果が得られない。一方、Mn含有量が1.50%を超えれば、溶融割れが発生しやすくなる。さらに、内部硬さが高くなりすぎて被削性が低下する。したがって、Mn含有量は1.00〜1.50%である。Mn含有量の好ましい下限は1.05%である。Mn含有量の好ましい上限は1.48%である。
P:0.030%以下
燐(P)は不純物である。P含有量が0.030%を超えれば、熱間鍛造性が低下する。さらに、高周波焼入れの加熱時に溶融割れが発生しやすくなる。したがって、P含有量は0.030%以下である。P含有量の好ましい上限は0.025%である。
S:0.010〜0.095%
硫黄(S)は硫化物系介在物を生成し、鋼の被削性を高める。S含有量が0.010%未満であれば、この効果が得られない。一方、S含有量が0.095%を超えれば、溶融割れが発生しやすくなる。したがって、S含有量は0.010〜0.095%である。なお、Caが含有されない場合、S含有量が0.035%を超えれば、溶融割れが発生しやすくなる。しかしながら、本実施形態では、後述のとおりCaを含有するため、S含有量が0.095%以下であれば、溶融割れの発生を抑制でき、熱間鍛造性の低下も抑制できる。S含有量の好ましい下限は0.015%である。S含有量の好ましい上限は0.070%である。
Cr:0.10〜0.30%
クロム(Cr)は、鋼の焼入れ性及び内部硬さを高める。Cr含有量が0.10%未満であれば、これらの効果が得られない。一方、Cr含有量が0.30%を超えれば、溶融割れが発生しやすくなる。さらに、内部硬さが高くなりすぎて被削性が低下する。したがって、Cr含有量は0.10〜0.30%である。Cr含有量の好ましい下限は0.12%である。Cr含有量の好ましい上限は0.25%である。
Al:0〜0.040%
アルミニウム(Al)は任意元素である。Alは脱酸元素として利用可能である。しかしながら、Al含有量が0.040%を超えれば、CaとAl系複合酸化物を形成し、溶融割れを引き起こす。したがって、Al含有量は0〜0.040%である。Al含有量の好ましい上限は0.030%である。本明細書において、Al含有量は全Alの含有量を意味する。
V:0.100〜0.200%
バナジウム(V)は、鋼を熱間鍛造した後の冷却過程でV炭窒化物としてフェライト中に析出する。V炭窒化物をフェライトの硬さを高め、その結果、内部硬さが高まる。V含有量が0.100%未満であれば、この効果が得られない。一方、V含有量が0.200%を超えれば、上記効果が飽和して、製造コストが嵩む。したがって、V含有量は0.100〜0.200%である。V含有量の好ましい下限は0.103%である。V含有量の好ましい上限は0.195%である。
N:0.0040〜0.0200%
窒素(N)は、窒化物や炭窒化物を形成して組織を微細化したり、鋼を析出強化する。N含有量が0.0040%未満であれば、これらの効果が得られない。一方、N含有量が0.0200%を超えれば、熱間鍛造性が低下するので、したがって、N含有量は0.0040〜0.0200%である。N含有量の好ましい下限は0.0060%である。N含有量の好ましい上限は0.0150%である。
O:0.0024%以下
酸素(O)は不可避に含有される。Oは低融点のAl系複合酸化物を形成する。O含有量が0.0024%を超えれば、Al系複合酸化物により溶融割れが発生しやすくなる。したがって、O含有量は0.0024%以下である。O含有量の好ましい上限は0.0020%であり、さらに好ましくは0.0017%である。
Ca:0.0005〜0.0100%
カルシウム(Ca)は、MnSの形態を制御して、S含有量が上述の範囲であっても、溶融割れの発生を抑制し、熱間鍛造性の低下を抑制する。Ca含有量が0.0005%未満であれば、これらの効果が得られない。一方、Ca含有量が0.0100%を超えれば、Alが実質的に含有されていなくても、耐火物由来の成分(例えばAl23)中のAlと結合して低融点のAl系複合酸化物を形成し、溶融割れを発生させ得る。したがって、Ca含有量は0.0005〜0.0100%である。Ca含有量の好ましい下限は0.0010%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0080%である。
[fn1について]
上記化学組成ではさらに、式(1)で定義されたfn1が50.0以下である。
fn1=80C2+55C+13Si+4.8Mn+30P+30S+1.5Cr (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
fn1は、鋼の融点に起因する溶融割れの指標である。C、Si、Mn、P、S及びCrはいずれも、鋼の融点を低下する。鋼の融点が低下すれば、高周波焼入れの加熱時に溶融割れが発生しやすくなる。fn1が50.0以下であれば、鋼の融点の低下が抑制され、溶融割れの発生が抑制される。fn1の好ましい上限は49.4である。
一方、fn1中のC、Si、Mn及びCrは、鋼の焼入れ性を高める。そのため、鋼の焼入れ性を高めるための好ましいfn1の下限は40.0である。
[fn2について]
上記化学組成ではさらに、式(2)で定義されたfn2が0.80〜1.00である。
fn2=C+(Si/10)+(Mn/5)−(5S/7)+(5Cr/22)+1.65V (2)
ここで、式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
fn2は、鋼の内部硬さの指標である。C、Si、Mn、Cr及びVは、熱間鍛造後の鋼材の内部硬さを高める。一方、Sは、内部硬さを低下する。fn2が0.80未満であれば、鋼材の内部硬さが低いすぎ、疲労強度が低下する。一方、fn2が1.00を超えれば、内部硬さが高すぎ、被削性が低下する。したがって、fn2は0.80〜1.00である。fn2の好ましい下限は0.84である。fn2の好ましい上限は0.98である。
[fn3について]
上記化学組成ではさらに、式(3)で定義されたfn3が0.013〜0.124である。
fn3=Al+10.8Ca (3)
ここで、式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
fn3は低融点のAl系複合酸化物に起因する溶融割れの指標である。上述のとおり、溶融割れの要因となる低融点のAl系複合酸化物の生成を抑制するために、Al含有量の上限を0.040%とし、Ca含有量の上限を0.0100%とする。しかしながら、Al系複合酸化物の生成には、Al含有量及びCa含有量が相互に影響する。具体的には、Al含有量が0.040%以下であり、Ca含有量が0.0100%以下であっても、fn3が0.124を超えれば、Al系複合酸化物が形成されて溶融割れが発生する。一方、fn3が0.013よりも低ければ、Ca及びAlの脱酸力が低下する。さらに、Al系複合介在物に代えて、Siの低融点酸化物が顕著に生成する。この場合、溶融割れが発生しやすくなる。したがって、fn3は0.013〜0.124である。fn3の好ましい下限は0.020である。fn3の好ましい上限は0.100である。
本実施の形態による高周波焼入れ用非調質鋼の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、上記鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入されるものを意味する。
[任意元素について]
本実施形態の高周波焼入れ用非調質鋼はさらに、Feの一部に代えて、Ti及びNbからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、炭窒化物を形成して鋼の靭性を高める。
Ti:0〜0.020%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Tiは炭窒化物を形成して熱間鍛造時におけるオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する。そのため、熱間鍛造後の鋼材のパーライト組織が微細になり、鋼材の靭性が高まる。しかしながら、Ti含有量が0.020%を超えれば、上記効果が飽和して製造コストが嵩む。したがって、Ti含有量は0〜0.020%である。靭性をより有効に高めるためのTi含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.008%である。Ti含有量の好ましい上限は0.015%である。
Nb:0〜0.020%
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Nbは炭窒化物を形成して熱間鍛造時におけるオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する。そのため、熱間鍛造後の鋼材の靭性が高まる。しかしながら、Nb含有量が0.020%を超えれば、上記効果が飽和して製造コストが嵩む。したがって、Nb含有量は0〜0.020%である。靭性をより有効に高めるためのNb含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.008%である。Nb含有量の好ましい上限は0.015%である。
本実施形態の高周波焼入れ用非調質鋼はさらに、Feの一部に代えて、Pbを含有してもよい。
Pb:0〜0.30%
鉛(Pb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Pbは被削性を高める。しかしながら、Pb含有量が0.30%を超えれば、熱間鍛造性が低下する。したがって、Pb含有量は0〜0.30%である。被削性をより有効に高めるためのPb含有量の好ましい下限は0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。Pb含有量の好ましい上限は0.27%である。
本実施形態の高周波焼入れ用非調質鋼はさらに、Feの一部に代えて、Cu、Ni及びMoからなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼の疲労強度を高める。
Cu:0〜0.20%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Cuは鋼の疲労強度を高める。しかしながら、Cu含有量が0.20%を超えれば、鋼の熱間鍛造性が低下する。したがって、Cu含有量は0〜0.20%である。疲労強度をより有効に高めるためのCu含有量の好ましい下限は0.05%であり、Cu含有量の好ましい上限は0.17%である。
Ni:0〜0.20%
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Niは鋼の疲労強度を高める。しかしながら、Ni含有量が0.20%を超えれば、熱間鍛造性が低下する。したがって、Ni含有量は0〜0.20%である。疲労強度をより有効に高めるためのNi含有量の好ましい下限は0.05%であり、Ni含有量の好ましい上限は0.17%である。
Mo:0〜0.20%
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Moは鋼の疲労強度を高める。しかしながら、Mo含有量が0.20%を超えれば、熱間鍛造性が低下する。したがって、Mo含有量は0〜0.20%である。疲労強度をより有効に高めるためのMo含有量の好ましい下限は0.05%であり、Mo含有量の好ましい上限は0.17%である。
[製造方法]
本実施形態の高周波焼入れ用非調質鋼の製造方法の一例は次のとおりである。
上記化学組成の溶鋼を製造する。溶鋼を連続鋳造法により鋳片にする。溶鋼を造塊法によりインゴット(鋼塊)にしてもよい。鋳片又はインゴットを熱間加工して、鋼片又は棒鋼にしてもよい。以上の工程により、高周波焼入れ用非調質鋼が製造される。
高周波焼入れ用非調質鋼材(鋳片、インゴット、鋼片又は棒鋼)を熱間鍛造して機械構造用部品(例えばクランクシャフト)の粗形状の中間品を製造する。製造された中間品を大気中で放冷する。中間品を機械加工により所定の形状に切削する。切削後の中間品に対して、高周波焼入れを実施する。以上の工程により、機械構造用部品が製造される。
高周波焼入れでは、求める硬化層深さに応じて加熱温度を調整する。硬化層深さを大きくする場合、加熱温度は高温になり、1350℃を超える場合もあり得る。本実施形態の高周波焼入れ用非調質鋼を用いてクランクシャフトに代表される機械構造用部品を製造する場合、仮に、1350℃を超えるような高温で高周波焼入れを実施しても、溶融割れの発生が抑制される。さらに、熱間鍛造後の機械構造用部品において、優れた疲労強度が得られ、被削性にも優れる。
種々の化学組成を有する複数の高周波焼入れ非調質鋼を製造した。製造された鋼を用いて、高周波焼入れ後の溶融割れの有無、及び、熱間鍛造後の鋼の内部硬さを評価した。
[実験方法]
[高周波焼入れ用非調質鋼の製造]
70トン転炉及び二次精錬を実施して、表1及び表2に示す化学組成の溶鋼を製造した。
製造された溶鋼を用いて、連続鋳造法により300mm×400mmの横断面を有する鋳片(ブルーム)を製造した。鋳片を分塊圧延して、横断面が180mm×180mmのビレットを製造した。ビレットを1250℃に加熱して後、熱間圧延して、直径80mmの棒鋼(高周波焼入れ用非調質鋼)を製造した。
[溶融割れ評価試験]
製造された棒鋼のR/2部(Rは棒鋼の半径を意味する)から、直径8mm、長さ12mmの試験片を機械加工により作製した。
富士電波工機株式会社製の試験装置(商品名「Thermecmaster」)を用いて、上記試験片に対して、高周波焼入れの模擬試験を実施した。具体的には、試験片を25℃/秒の昇温速度で1380℃まで加熱し、1380℃で30秒間保持した。その後、Heガスを用いて試験片を急冷した。
急冷後の試験片の横断面(観察面)を機械研磨した後、ピクラール試薬にて腐食した。腐食された観察面を400倍の光学顕微鏡で観察し、溶融割れの有無を確認した。
図2は、溶融割れが発生したミクロ組織写真画像(試験番号4)であり、図3は溶融割れが発生しなかったミクロ組織写真画像(正常組織:試験番号28)である。
観察面の組織において、粒界において5μm以上の幅で明瞭に腐食されている領域が観察される場合(たとえば、図2中の符号10)、溶融割れが発生したと判断した(表1及び表2中の「溶融割れ」欄において、「X」で示す)。一方、図3のように、粒界に腐食領域が観察されない場合、溶融割れが発生しなかったと判断した(表1及び表2中の「溶融割れ」欄において、「A」で示す)。
[ロックウェル硬さ試験]
製造された棒鋼に対して、熱間鍛造後の冷却を模擬する熱処理を実施した。具体的には、棒鋼を1100℃に加熱して30分保持した。その後、棒鋼を大気中で放冷した。
熱処理後の棒鋼の横断面のR/2部において、JISZ2245(2011)に準拠して、4点のロックウェルC硬さを測定し、その平均値を求めた。以下、求めた平均値をHRC硬さと称する。
内部硬さであるHRC硬さが20以上であれば、熱間鍛造後の機械構造用部品において、十分な疲労強度が得られることが判明している。一方、HRC硬さが28を超えれば、被削性が低下する。そこで、得られたHRC硬さに対して、表3のとおり評価した。
[試験結果]
試験結果を表1及び表2に示す。試験番号1〜3、6〜8、11、12、15、17〜19、21,22、25、26、28、29、31〜34、36〜38、40〜43、47、48、50〜53、56,57、及び60〜65では、化学組成が適切であり、fn1〜fn3も適切であった。そのため、溶融割れは観察されなかった。さらに、HRC硬さが20〜28の範囲内であり、十分な疲労強度及び被削性が得られることが予想できた。
一方、試験番号4のC含有量は高すぎた。そのため、溶融割れが観察された。試験番号5のC含有量は低すぎた。そのため、HRC硬さが20未満であり、十分な疲労強度が得られないことが予想できた。
試験番号9のSi含有量は高すぎた。そのため、溶融割れが発生した。さらに、HRC硬さが28を超え、十分な被削性が得られないことが予想できた。
試験番号10のSi含有量は低すぎた。そのため、HRC硬さが20未満であり、十分な疲労強度が得られないと予想できた。
試験番号13のMn含有量は高すぎた。そのため、溶融割れが発生した。さらに、HRC硬さが28を超え、十分な被削性が得られないことが予想できた。
試験番号14のMn含有量は低すぎた。そのため、HRC硬さが20未満であり、十分な疲労強度が得られないと予想できた。
試験番号16のP含有量、及び、試験番号20のS含有量は高すぎた。そのため、いずれの試験番号においても、溶融割れが発生した。
試験番号23のCr含有量は高すぎた。そのため、溶融割れが発生した。さらに、HRC硬さが28を超え、十分な被削性が得られないことが予想できた。
試験番号24のCr含有量は低すぎた。そのため、HRC硬さが20未満であり、十分な疲労強度が得られないと予想できた。
試験番号27のAl含有量、及び、試験番号39のO含有量は高すぎた。そのため、いずれの試験番号においても、溶融割れが発生した。
試験番号30のV含有量、及び、試験番号35のN含有量は低すぎた。そのため、いずれの試験番号においても、HRC硬さが20未満であり、十分な疲労強度が得られないと予想できた。
試験番号44ではCaが含有されておらず、試験番号46ではCa含有量が低すぎた。そのため、溶融割れが発生した。一方、試験番号45のCa含有量は高すぎた。そのため、溶融割れが発生した。
試験番号49では、fn1が高すぎた。そのため、溶融割れが発生した。さらに、HRC硬さが28を超え、十分な被削性が得られないことが予想できた。
試験番号54では、fn2が高すぎた。そのため、HRC硬さが28を超え、十分な被削性が得られないと予想できた。一方、試験番号55では、fn2が低すぎた。そのため、HRC硬さが20未満であり、十分な疲労強度が得られないと予想できた。
試験番号58では、fn3が高すぎた。そのため、溶融割れが発生した。一方、試験番号59では、fn3が低すぎた。そのため、溶融割れが発生した。
試験番号66〜78では、Caを含有しなかった。そのため、これらの試験番号ではいずれも、溶融割れが発生した。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
本発明の高周波焼入れ用非調質鋼では、熱間鍛造によりクランクシャフト等の機械構造用部品とされ、高周波焼入れを実施されても、溶融割れの発生が抑制される。本発明の高周波焼入れ用非調質鋼はさらに、上記機械構造用部品に製造されても高い疲労強度及び被削性が得られる内部硬さを有する。したがって、本発明の高周波焼入れ用非調質鋼は、上記効果が発揮される用途に広く適用可能であり、特に、高周波焼入れが実施される機械構造用部品用の鋼として好適である。
1 フェレットR部
2 クランクシャフトのエッジ部
10 溶融割れ

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.35〜0.44%、
    Si:0.30超〜0.70%、
    Mn:1.00〜1.50%、
    P:0.030%以下、
    S:0.010〜0.095%、
    Cr:0.10〜0.30%、
    Al:0〜0.040%、
    V:0.100〜0.200%、
    N:0.0040〜0.0200%、
    O:0.0024%以下、
    Ca:0.0005%〜0.0100%、
    Ti:0〜0.020%、
    Nb:0〜0.020%、
    Pb:0〜0.30%、
    Cu:0〜0.20%、
    Ni:0〜0.20%、
    Mo:0〜0.20%を含有し、
    式(1)で定義されるfn1が50.0以下であり、
    式(2)で定義されるfn2が0.80〜1.00であり、
    式(3)で定義されるfn3が0.013〜0.124であり、
    残部はFe及び不純物からなる、高周波焼入れ用非調質鋼。
    fn1=80C2+55C+13Si+4.8Mn+30P+30S+1.5Cr (1)
    fn2=C+(Si/10)+(Mn/5)−(5S/7)+(5Cr/22)+1.65V (2)
    fn3=Al+10.8Ca (3)
    ここで、式(1)〜式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
  2. 請求項1に記載の高周波焼入れ用非調質鋼であって、
    Ti:0.005〜0.020%、及び、
    Nb:0.005〜0.020%からなる群から選択される1種以上を含有する、高周波焼入れ用非調質鋼。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の高周波焼入れ用非調質鋼であって、
    Pb:0.10〜0.30%を含有する、高周波焼入れ用非調質鋼。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の高周波焼入れ用非調質鋼であって、
    Cu:0.05〜0.20%、
    Ni:0.05〜0.20%、及び、
    Mo:0.05〜0.20%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、高周波焼入れ用非調質鋼。
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