本発明に係わる感熱型平版印刷版は、耐水性支持体上に少なくとも熱可塑性樹脂、水溶性高分子化合物を含有する画像形成層を有する。このような感熱型平版印刷版の画像は、熱が加わるとその部位は含まれる熱溶融性の微粒子が互いに、また水溶性高分子化合物とも溶融し、加熱された部分が全体として疎水性へと変換するようになっている。従って、熱が与えられた部分が疎水性へと変換するために、印刷時にインキを受理することが可能となる。しかし、非画像部を形成する未加熱部分でも、疎水性の熱溶融性の微粒子が存在しており、層全体としての親水性は乏しい。特に非画像部を湿し水等の水性液で除去しないタイプの感熱型平版印刷版においては、親水性はとりわけ乏しい。そこで、本発明者は鋭意検討した結果、無機微粒子及び下記に示す化合物(A)または(B)を少なくとも1種含有する版面処理液を、印刷開始前に版面に付与することにより、非画像部の親水性を向上させ、且つ、インキ乗り及び耐刷の全てに満足できる印刷方法を見出した。
(A)多価金属塩
(B)同一分子内に2個以上のカチオン性官能基をもつ水溶性化合物
本発明に用いられる版面処理液について説明する。本発明に用いられる版面処理液が含有する無機微粒子は、特に水に分散安定化しやすい0.1μm以下の粒子径を有するものが好ましい。このような無機微粒子としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の微粒子が挙げられるが、印刷汚れを防止するにおいて、特にシリカ微粒子、アルミナ微粒子が好ましい。中でもコロイダルシリカが最も好ましく、例えば日産化学工業(株)から、スノーテックスXS、スノーテックスXL、スノーテックスYL、スノーテックスZL、スノーテックスMP−2040、スノーテックスC等として、アルミナ微粒子としては、例えば日産化学工業(株)から、アルミナゾル100、アルミナゾル520等の商品名で各種無機微粒子の分散液として市販されている。
無機微粒子の含有濃度は、濃度が高いと版面処理液を付与した後に一度乾燥させた場合に、画像部の感脂性が阻害され、刷り出し時の損紙が多くなる場合があり、濃度が低いと親水性付与の効果が得られ難くなるため、非画像部の印刷汚れや網点シャドウ部の詰まりが発生し、結果として損紙が増大する場合がある。従って、本発明に用いる版面処理液は、無機微粒子(酸化物として)を1〜50g/L含有することが好ましい。より好ましくは2〜30g/Lの範囲である。
本発明の版面処理液に用いられる(A)の化合物、多価金属塩は、水に溶解し多価金属イオンが生成するものであればいずれの多価金属塩でもよい。また生成する多価金属イオンは水溶液中でキレート化されていても良い。更に水に対する溶解度の低い塩であっても、pHを調整したり、キレート剤と併用したりすることで溶解させて使用することができる。多価金属塩の金属イオンの例としては、Mg、Ca、Ba、Al、Mn、Fe、Co、Ni、Zn等の金属イオンを挙げることができる。上記金属イオンの対となるアニオン種については、特に制限はないが、水溶性の高い塩の形で用いた方が製造上簡便であるために好ましい。また、本発明の多価金属塩は無機酸塩あるいは有機酸塩のいずれであっても良い。無機酸塩としては、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩としては酢酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩を挙げることができる。
本発明の版面処理液に用いられる(B)の化合物、同一分子内に2個以上のカチオン性官能基をもつ水溶性化合物について説明する。ここで言うカチオン性官能基は、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム等のオニウム塩を形成する官能基、あるいはアミノ基、アミジノ基、グアニジノ基のごとく、水溶液中でプロトンの付加が生じてカチオン性となる官能基を示す。(B)の化合物はこれら官能基を同一分子内に2個以上持つ水溶性化合物である。ここで言う水溶性化合物とは、水に1g/L以上溶解する化合物を言う。(B)の化合物の具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明に用いられる版面処理液は上記で説明した(A)の化合物または(B)の化合物を少なくとも1種類以上含有する。これらの化合物の作用は、少なすぎると効果が弱く、多すぎると無機微粒子の凝集を生じる場合がある。従って、これらの化合物の好ましい含有量は0.1〜50g/Lであり、より好ましくは3.5〜30g/Lである。(A)の化合物または(B)の化合物は同様の作用をもたらすが、(A)の化合物、多価金属塩の方が本発明の効果が大きく、無機微粒子の凝集を生じにくいため、本発明においては(A)の化合物、多価金属塩を用いる方がより好ましい。(A)の化合物、多価金属塩においては、アルカリ土類金属塩が好ましく、更に好ましくはマグネシウム塩である。具体的には、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム等を挙げることができる。
本発明に用いられる版面処理液には、無機微粒子、(A)の化合物または(B)の化合物の他に、高沸点水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。高沸点水溶性有機溶剤は、無機微粒子が画像部に固着することによって画像部の感脂性が阻害される現象を抑制する効果があり、本発明の効果を更に高めることができる。高沸点水溶性有機溶剤としては、ポリオール化合物またはグリコール誘導体を用いることが好ましい。ポリオール化合物の例としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等を挙げることができる。グリコール誘導体としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量200〜600)、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体等を挙げることができる。更にこれら化合物のメチル、エチル、プロピル、ブチル等のアルキルエーテルを挙げることができる。これら高沸点水溶性有機溶剤の含有量は1〜200g/Lの範囲が好ましく、より好ましくは5〜100g/Lの範囲である。
本発明に用いられる版面処理液は、版面への付与性を考慮して表面張力を調整するための界面活性剤を含有することができる。
本発明に用いられる版面処理液は、pHが3〜8に調整されていることが好ましく、より好ましくはpHの範囲が4〜7である。これらのpHの範囲に調整するために緩衝剤を含有することができる。pH緩衝剤としてはリン酸、酢酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸等の弱酸及びその塩、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の弱塩基及びその塩を挙げることができる。
本発明に用いられる版面処理液は、多価金属塩の溶解安定性、無機微粒子の凝集の防止、その他の理由でキレート剤を含有することができる。キレート剤としては、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等のアミノポリカルボン酸類及びその塩、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸等のヒドロキシカルボン酸類及びその塩を使用することができ、また、アミノポリホスホン酸類及びその塩、ヒドロキシホスホン酸類及びその塩、ポリリン酸及びその塩を使用することもできる。
更に、本発明に用いられる版面処理液は、前記化合物の他にアラビアガム、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸のプロピレングリコールエステル、ヒドロキシエチル澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルアルコール等の保護コロイド、またはそれらの混合物を含有することができる。また、防腐剤、保存剤、着色剤、防錆剤等を含有させてもよい。
本発明の印刷方法においては、上述の版面処理液を印刷開始前に版面に付与するが、この方法としては、脱脂綿等に版面処理液を含浸させてハンドエッチングを行う方法、一定量の版面処理液をバーコーターにて版面に塗布する方法、版面処理液を貯留させた液浴に印刷版を浸漬させてロール対により余剰の版面処理液を絞液するようなエッチングコンバーターを用いる方法等が適用できる。版面に版面処理液を付与するタイミングは、画像形成後、印刷するまでの間であれば、いずれの時間でも良いが、通常は、印刷版を印刷機に装着(版掛け)してから印刷を開始するまでの間、あるいは版掛けする直前に行われる。
次に本発明に係わる感熱型平版印刷版について詳細に説明する。かかる感熱型平版印刷版の画像部の形成方法としては、上記画像形成層をサーマルヘッド等の手段を直接接触させることで画像様に加熱する直接感熱タイプ、あるいは上記画像形成層に更に光熱変換剤を含有せしめ、画像様に露光することで加熱する光熱変換タイプが挙げられる。また非画像部の形成方法としては耐水性支持体上にコロイダルシリカに代表される無機微粒子を含有する保水性付与層と上記画像形成層とを少なくともこの順に設け、上記したいずれかの画像部の形成方法により画像を得た後、現像液にて現像する、あるいは印刷機上で現像することで画像形成層の未加熱部分(非画像部)を除去する湿式現像タイプ、あるいは、保水性付与層を設けずに画像形成した後の未加熱部分(非画像部)をそのまま保水性を付与する部分として利用する乾式タイプが挙げられる。中でも直接感熱タイプにより画像を形成するタイプが、エネルギーの伝達効率が高く親油性と耐刷性に優れた画像部が得られる点で好ましく、また現像処理における廃液が発生しない点で乾式タイプであることが好ましい。
また、乾式タイプの感熱型平版印刷版であっても、むろん該層のみ単層での構成でも構わないし、下層として視認性を得るための感熱発色層や親水性の無機微粒子等を含む親水性向上のための層や下引き層等を塗設してもよい。
本発明に用いる感熱型平版印刷版は、少なくとも熱可塑性樹脂、水溶性高分子化合物を含有する画像形成層を有する。画像形成層が有する水溶性高分子化合物としては、印刷中に水を保持し、且つ、層として存在しうるバインダー的要素を有するものであれば有効に使用できる。具体的には下記のような例が挙げられる。
天然物では、澱粉及びその誘導体、海藻マンナン、寒天及びアルギン酸ナトリウム等の藻類から得られるもの、マンナン、ペクチン、トラガントガム、カラヤガム、キサンチンガム、グアービンガム、ローカストビンガム、アラビアガム等の植物性粘質物、デキストラン、グルカン、キサンタンガム、及びレバン等のホモ多糖類、サクシノグルカン、プルラン、カードラン、及びザンタンガム等のヘテロ多糖等の微生物粘質物、にかわ、ゼラチン、カゼイン及びコラーゲン等のタンパク質、キチン及びその誘導体等が挙げられる。
また、半天然物(半合成物)類としては、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース類、カルボキシメチルグアーガム等の変性ガム、並びにデキストリン等の培焼澱粉類、酸化澱粉類、エステル化澱粉類等の加工澱粉等が挙げられる。
合成品には、ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、部分アセタール化ポリビニルアルコール、アリル変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコール類、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル等の変性ポリビニルエーテル類、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸エステル部分けん化物、ポリメタクリル酸塩、及びポリアクリルアマイド等のポリアクリル酸誘導体及びポリメタクリル酸誘導体、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合物、カルボキシビニル重合物、スチレン/マレイン酸共重合物、スチレン/クロトン酸共重合物、特開2006−247937号公報に記載のP1〜P24に例示される水溶性ポリマー等が挙げられる。
これらの水溶性高分子化合物は、単独使用でも2種類以上の併用でも良く、特に皮膜形成に富むゼラチンやポリビニルアルコールとその変性物が非画像部の親水性保持に好ましく選択される。かかる配合量は画像形成層の全固形分量に対して0.5〜30質量%が好ましく、更に3〜25質量%とすることがより好ましい。0.5質量%未満では、非画像部の親水性が得られず、印刷汚れしやすくなる場合があり、30質量%を超えると、感熱性が低下し、画像部の感脂性が低下したり、十分な耐刷性が得られなかったりする場合がある。これらの親水性樹脂の中でも、ゼラチン、変性あるいは未変性のポリビニルアルコール、及びセルロース誘導体が有利に使用できる。特にゼラチンを用いることは、保水性と強度のバランスに優れるため好ましい。
本発明に係わる画像形成層に用いるゼラチンとしては、動物のコラーゲンを原料としたゼラチンであれば全て使用できるが、豚皮、牛皮、及び牛骨から得られるコラーゲンを原料としたゼラチンが好ましい。また、ゼラチンの種類も特に制限はないが、石灰処理ゼラチン及び酸処理ゼラチンの他、特公昭38−4854号、特公昭39−5514号、特公昭40−12237号、及び特公昭42−26345号等公報、米国特許第2,525,753号、米国特許第2,594,293号、米国特許第2,614,928号、米国特許第2,763,639号、米国特許第3,118,766号、米国特許第3,132,945号、米国特許第3,186,846号、米国特許第3,312,553号等明細書、英国特許第1,033,189号明細書等に記載のゼラチン誘導体等が挙げられ、これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、非画像部の耐水性及び機械的強度を向上させるため、画像形成層は前記水溶性高分子化合物の種類に応じて硬化剤(耐水化剤)を含有することが好ましい。硬化剤としては、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート化合物、アルデヒド化合物、シラン化合物、クロム明礬、ジビニルスルホン等、樹脂の架橋を促すことによって耐水性を付与するものを用いることができるが、ゼラチンの場合には、例えばクロム明礬のような無機化合物、ホルマリン、グリオキサール、マレアルデヒド、グルタルアルデヒドのようなアルデヒド類、尿素やエチレン尿素等のN−メチロール化合物、ムコクロル酸、2,3−ジヒドロキシ−1,4−ジオキサンのようなアルデヒド類縁化合物、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン塩や、2,4−ジヒドロキシ−6−クロロ−s−トリアジン塩のような活性ハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、ジビニルケトンやN,N,N−トリアクリロイルヘキサヒドロトリアジン、活性な三員環であるエチレンイミノ基やエポキシ基を分子中に2個以上有する化合物類、高分子硬膜剤としてのジアルデヒド澱粉等の種々の化合物の1種もしくは2種以上を用いることが好ましい。ポリビニルアルコールの場合には、ホルマリン、グリオキサール、マレアルデヒド、グルタルアルデヒドのようなアルデヒド類を用いることが好ましい。特に好ましくは、ゼラチンの場合、ジビニルスルホンが、ポリビニルアルコールの場合、グリオキサールである。
硬化剤の配合量は、更に保存した際の経時での特性変動を避ける意味から、前記水溶性高分子化合物の固形分量に対して、1〜30質量%が好ましく、更には2〜15質量%とすることが好ましい。
本発明に係わる画像形成層が含有する熱可塑性樹脂について説明する。本発明に係わる熱可塑性樹脂としては、鎖状ポリマーからなり加熱によって可塑性を示す固体状の有機高分子化合物であって、有機高分子化合物の水分散体を指す。代表例としては、スチレンブタジエン共重合体、アクリロニトリルブタジエン共重合体、メチルメタクリレートブタジエン共重合体、スチレンアクリロニトリルブタジエン共重合体、スチレンメチルメタクリレートブタジエン共重合体等の、その変性物を含めた合成ゴムラテックスであるが、スチレン無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸共重合体、ポリスチレン、スチレン/アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル/アクリル酸エステル共重合体、及び低融点ポリアミド樹脂等の水分散体も使用可能である。これら熱可塑性樹脂は単独もしくは2種以上併用して用いることができる。印刷インキのビヒクル(バインダー成分)との親和性から、かかる熱可塑性樹脂としては合成ゴムラテックスが好ましく、特にスチレンブタジエン共重合体とその変性物が望ましい。好ましい配合量としては画像形成層の全固形分量に対して5〜50質量%が好ましく、更に10〜40質量%が好ましい。また、熱による溶融、融着効果を発現しやすくするためには、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は50〜150℃、更に好ましくは55〜120℃のものを使用するのが良い。ガラス転移温度が50℃未満では製造工程中に液状に相変化を起こし、非画像部にも親油性が発現するため、印刷地汚れの原因となる場合がある。また、150℃を超える場合はポリマーの熱溶融が起こりにくく、比較的小出力のレーザーや小型サーマルプリンタでは強固な画像を形成するのが困難となる場合がある。
また、熱可塑性樹脂は、微粒子化されたもので、固体あるいは水分散されたものである。例としては、水系溶媒に分散可能なポリマーラテックス等が挙げられ、分散状態の例としては、水不溶な疎水性ポリマーの微粒子が分散しているものや、ポリマー分子が分子状態またはミセルを形成して分散しているもの等があるが、いずれの場合も好適に用いることができる。これらの平均粒径は、1〜50000nmが好ましく、5〜1000nmがより好ましい。ポリマーラテックスの粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つものでも、単分散の粒径分布を持つものでもよい。加熱することにより、溶融もしくは互いに融着することで、微粒子状形態から変化し一体化するものである。
これらの熱可塑性樹脂は、必要に応じて2種以上混合して使用することができるし、また複数の層としても良い。また、熱が与えられた時に自己架橋する樹脂が特に好ましい。本発明に係わる感熱性平版印刷版の画像形成層に含有される熱可塑性樹脂の量としては、用いられる水溶性高分子化合物とのバランス、所望の感度により最適化されるが、水溶性高分子化合物100質量部に対して50〜1000質量部、より好ましくは100〜500質量部とすることが好ましい。画像形成層の水溶性高分子化合物と熱可塑性樹脂のバランスとしては質量比で1:10〜2:1の範囲であれば良い。詳細には用いる材料により、インキ乗り性や保水性のバランスを印刷試験にて最適化することが好ましい。
本発明に係わる感熱性平版印刷版は、画像部の視認性を得るために発色剤を含有することが好ましい。発色剤(電子供与性染料前駆体)の具体的な例としては、(a)トリアリールメタン系化合物として、3,3′−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド(クリスタル・バイオレット・ラクトン)、3,3′−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(1,2−ジメチルインドール−3−イル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(2−フェニルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(1,2−ジメチルインドール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(1,2−ジメチルインドール−3−イル)−6−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(9−エチルカルバゾール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(2−フェニルインドール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(1−メチルピロール−2−イル)−6−ジメチル−アミノフタリド等:(b)ジフェニルメタン系化合物として、4,4′−ビス−ジメチルアミノベンズヒドリンベンジルエーテル、N−ハロフェニルロイコオーラミン、N−2,4,5−トリクロロフェニルロイコオーラミン等:(c)キサンテン系化合物として、ローダミンB−アニリノラクタム、ローダミンB−p−ニトロアニリノラクタム、ローダミンB−p−クロロアニリノラクタム、3−ジエチルアミノ−7−ジベンジルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−オクチルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−フェニルフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(3,4−ジクロロアニリノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(2−クロロアニリノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ピペリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−エチル−トリルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−エチル−トリルアミノ−6−メチル−7−フェニチルフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(4−ニトロアニリノ)フルオラン等:(d)チアジン系化合物として、ベンゾイルロイコメチレンブルー、p−ニトロベンゾイルロイコメチレンブルー等:(e)スピロ系化合物として、3−メチル−スピロ−ジナフトピラン、3−エチル−スピロ−ジナフトピラン、3,3′−ジクロロ−スピロ−ジナフトピラン、3−ベンジル−スピロ−ジナフトピラン、3−メチルナフト−(3−メトキシ−ベンゾ)−スピロピラン、3−プロピル−スピロ−ジベンゾピラン等が挙げられる。またこれらを2種以上併用することもできる。
発色剤を含有せしめる層としては、感熱型平版印刷版の画像形成層を塗布する側の面に塗布する層であればよいが、画像形成層に含有させることが好ましい。発色剤の量としては、用いられる水溶性高分子化合物とのバランス、所望の感度により最適化されるが、0.01〜10g/m2の範囲であれば良く、好ましくは0.1〜1g/m2である。
また、本発明に係わる感熱型平版印刷版は、上記発色剤を含有させる場合には、熱が与えられた部分の発色剤を発色させるために、フェノール誘導体や芳香族カルボン酸誘導体等の顕色剤を含有させる。顕色剤の具体的な例としては、4−クミルフェノール、ヒドロキノンモノベンジルエーテル、4,4′−イソプロピリデンジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル−2,2−ブタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、ビス(4−ヒドロキシフェニルチオエトキシ)メタン、1,5−ビス(4−ヒドロキシフェニルチオ)−3−オキサペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,4−ビス〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、1,3−ビス〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィン、4−ヒドロキシ−4′−メチルジフェニルスルホン、4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン、2,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4−ヒドロキシフェニル−4′−ベンジルオキシフェニルスルホン、4−ヒドロキシ−3′,4′−テトラメチレンビフェニルスルホン、3,4−ジヒドロキシフェニル−p−トリルスルホン、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシ安息香酸ベンジル、N,N′−ジ−m−クロロフェニルチオ尿素、N−(フェノキシエチル)−4−ヒドロキシフェニルスルホンアミド等のフェノール性化合物、4−〔3−(p−トリルスルホニル)プロピルオキシ〕サリチル酸亜鉛、4−〔2−(p−メトキシフェノキシ)エチルオキシ〕サリチル酸亜鉛、5−〔p−(2−p−メトキシフェノキシエトキシ)クミル〕サリチル酸亜鉛、p−クロロ安息香酸亜鉛等の芳香族カルボン酸の亜鉛塩、更にはチオシアン酸亜鉛のアンチピリン錯体等の有機酸性物質等がある。
顕色剤を含有せしめる層としては、発色剤を含有させる層と同じ層に含有せしめることが好ましく、発色剤とともに画像形成層に含有させるのが好ましい。顕色剤の量としては、用いられる水溶性高分子化合物とのバランス、所望の感度により最適化されるが、0.01〜10g/m2の範囲であれば良く、好ましくは0.5〜5g/m2である。
本発明に係わる画像形成層は熱可塑性樹脂、水溶性高分子化合物に加えて更に光熱変換物質を含有させてもよい。光熱変換物質を含有させることで、サーマルヘッドだけでなく赤外線レーザー等の活性光による書き込みが可能となる。光熱変換物質としては、効率よく光を吸収し熱に変換する材料が好ましく、使用する光源によって異なるが、例えば近赤外光を放出する半導体レーザーを光源として使用する場合には、近赤外に吸収帯を有する近赤外光吸収剤が好ましく、例えばカーボンブラック、シアニン系色素、ポリメチン系色素、アズレニウム系色素、スクワリウム系色素、チオピリリウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素等の有機化合物や、フタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系の有機金属錯体、鉄粉、黒鉛粉末、酸化鉄粉、酸化鉛、酸化銀、酸化クロム、硫化鉄、硫化クロム等の金属化合物類等が挙げられる。
本発明に係わる画像形成層中に下記一般式(1)〜(4)で示される化合物の中から選ばれた少なくとも1種を含有することが好ましい。これらの化合物を含有させることで、画像形成層面を熱印加すると熱可塑性樹脂の溶融開始温度が下がり、より小さなエネルギーで版面に優れた親油性を有する画像部を与え、鮮明な印刷画像が得られ、十分な耐刷性が得られる。また、画像形成層が最表層である場合には、スティッキングも同時に改善することが可能となる。
以下に一般式(1)で示される化合物について説明する。
上記式中、X1は−O−または−CO−O−を示し、R1〜R6はそれぞれ水素原子、アルキル基、アリール基を示す。nは1〜10の整数を示す。尚、置換基R1〜R3及びR4〜R6は互いに結合して芳香環を形成してもよい。
一般式(1)で示される化合物のうちでも、X1が−O−である化合物が好ましく、特にR1及びR6が水素原子または炭素数1〜4のアルキル基で、R2〜R5が水素原子であり、nが1〜4の整数である化合物が特に好ましく用いられる。好ましい配合量は熱可塑性樹脂に対し30〜130質量%であり、更に好ましくは50〜100質量%である。この化合物は単独使用でもよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
一般式(1)で示される化合物としては、例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)1−(1−ナフトキシ)−2−フェノキシエタン
(2)1−(2−ナフトキシ)−4−フェノキシブタン
(3)1−(2−イソプロピルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン
(4)1−(4−メチルフェノキシ)−3−(2−ナフトキシ)プロパン
(5)1−(2−メチルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン
(6)1−(3−メチルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン
(7)1−(2−ナフトキシ)−2−フェノキシエタン
(8)1−(2−ナフトキシ)−6−フェノキシヘキサン
(9)1−フェノキシ−2−(2−フェニルフェノキシ)エタン
(10)1−(2−メチルフェノキシ)−2−(4−フェニルフェノキシ)エタン
(11)1,4−ビスフェノキシブタン
(12)1,4−ビス(4−メチルフェノキシ)ブタン
(13)1,2−ビス(3,4−ジメチルフェノキシ)エタン
(14)1−フェノキシ−3−(4−フェニルフェノキシ)プロパン
(15)1−(4−tert−ブチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(16)1,2−ビスフェノキシエタン
(17)1−(4−メチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(18)1−(2,3−ジメチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(19)1−(3,4−ジメチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(20)1−(4−エチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(21)1−(4−イソプロピルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(22)1,2−ビス(2−メチルフェノキシ)エタン
(23)1−(2−メチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(24)1−(4−tert−ブチルフェノキシ)−2−(2−メチルフェノキシ)エタン
(25)1,2−ビス(3−メチルフェノキシ)エタン
(26)1−(3−メチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(27)1−(4−エチルフェノキシ)−2−(3−メチルフェノキシ)エタン
(28)1,2−ビス(4−メチルフェノキシ)エタン
(29)1−(2,3−ジメチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(30)1−(2,5−ジメチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(31)フェノキシ酢酸−2−ナフチル
(32)2−ナフトキシ酢酸−4−メチルフェニル
(33)2−ナフトキシ酢酸−3−メチルフェニル
次に一般式(2)で示される化合物について説明する。
上記式中、R7はアルキル基、アリール基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基を示す。また、式中のナフタレン環は更に置換基を有していても良く、好ましい置換基の例としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルファモイル基等が挙げられる。
上記一般式(2)においてR7で表される置換基のうち炭素数4〜20のアルキル基、炭素数4〜24のアリール基、炭素数2〜20のアルキルカルボニル基、炭素数7〜20のアリールカルボニル基がより好ましい。上記一般式(2)において、ナフタレン環が更に有しても良い置換基のうちハロゲン基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜20のアルキルオキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基、炭素数2〜25のカルバモイル基がより好ましい。好ましい配合量は熱可塑性樹脂に対し30〜130質量%であり、更に好ましくは50〜100質量%である。この化合物は単独使用でもよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
一般式(2)で示される化合物としては、例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)1−ベンジルオキシナフタレン
(2)2−ベンジルオキシナフタレン
(3)2−p−クロロベンジルオキシナフタレン
(4)2−p−イソプロピルベンジルオキシナフタレン
(5)2−ドデシルオキシナフタレン
(6)2−デカノイルオキシナフタレン
(7)2−ミリストイルオキシナフタレン
(8)2−p−tert−ブチルベンゾイルオキシナフタレン
(9)2−ベンゾイルオキシナフタレン
(10)2−ベンジルオキシ−3−N−(3−ドデシルオキシプロピル)カルバモイルナフタレン
(11)2−ベンジルオキシ−3−N−オクチルカルバモイルナフタレン
(12)2−ベンジルオキシ−3−ドデシルオキシカルボニルナフタレン
(13)2−ベンジルオキシ−3−p−tert−ブチルフェノキシカルボニルナフタレン
次に一般式(3)で示される化合物について説明する。
上記式中、R8、R9は水素原子、ハロゲン基、炭素数4以下のアルキル基、アルコキシ基を示す。X2は単なる結合手または−O−を示し、nは1〜4の整数を示す。
一般式(3)で示される化合物としては、例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)シュウ酸ジベンジル
(2)シュウ酸ビス(p−メチルベンジル)
(3)シュウ酸ビス(p−クロロベンジル)
(4)シュウ酸ビス(m−メチルベンジル)
(5)シュウ酸ビス(p−エチルベンジル)
(6)シュウ酸ビス(p−メトキシベンジル)
(7)シュウ酸ビス(2−フェノキシエチル)
(8)シュウ酸ビス(2−o−クロロフェノキシエチル)
(9)シュウ酸ビス(2−p−クロロフェノキシエチル)
(10)シュウ酸ビス(2−p−エチルフェノキシエチル)
(11)シュウ酸ビス(2−m−メトキシフェノキシエチル)
(12)シュウ酸ビス(2−p−メトキシフェノキシエチル)
(13)シュウ酸ビス(4−フェノキシブチル)
これらの例示化合物の中で好ましい具体例としては、シュウ酸ジベンジル、シュウ酸ビス(p−メチルベンジル)、シュウ酸ビス(p−クロロベンジル)、シュウ酸ビス(m−メチルベンジル)、シュウ酸ビス(p−エチルベンジル)、シュウ酸ビス(p−メトキシベンジル)が挙げられる。好ましい配合量は熱可塑性樹脂に対し30〜130質量%であり、更に好ましくは50〜100質量%である。この化合物は単独使用でもよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
以下に一般式(4)で示される化合物について説明する。
上記式中、R10、R10′、R11及びR11′は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシ基を示す。
一般式(4)で示される化合物としては、例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)1,2−ビスフェノキシメチルベンゼン
(2)1,3−ビスフェノキシメチルベンゼン
(3)1,4−ビス(2−メチルフェノキシメチル)ベンゼン
(4)1,4−ビス(3−メチルフェノキシメチル)ベンゼン
(5)1,3−ビス(4−メチルフェノキシメチル)ベンゼン
(6)1,3−ビス(2,4−ジメチルフェノキシメチル)ベンゼン
(7)1,3−ビス(2,6−ジメチルフェノキシメチル)ベンゼン
(8)1,4−ビス(2−クロロフェノキシメチル)ベンゼン
(9)1,2−ビス(4−クロロフェノキシメチル)ベンゼン
(10)1,3−ビス(4−クロロフェノキシメチル)ベンゼン
(11)1,2−ビス(4−オクチルフェノキシメチル)ベンゼン
(12)1,3−ビス(4−オクチルフェノキシメチル)ベンゼン
(13)1,3−ビス(4−イソプロピルフェニルフェノキシメチル)ベンゼン
(14)1,4−ビス(4−イソプロピルフェニルフェノキシメチル)ベンゼン
これらの例示化合物の中で好ましい具体例としては、1,2−ビスフェノキシメチルベンゼン、1,4−ビス(2−メチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,4−ビス(3−メチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,4−ビス(2−クロロフェノキシメチル)ベンゼンが挙げられる。好ましい配合量は熱可塑性樹脂に対し30〜130質量%であり、更に好ましくは50〜100質量%である。この化合物は単独使用でもよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
一般式(1)〜(4)で示される化合物の中でも優れた耐刷性が得られる点で、一般式(1)、(2)及び(4)で示される化合物が好ましく、更には一般式(1)及び(2)で示される化合物が好ましく、最も好ましい化合物は一般式(1)で示される化合物である。またこれらはそれぞれ単独で使用しても良いし、組み合わせて使用することもできる。
上記一般式(1)〜(4)で示される化合物は常温で固体の物質であるが、熱による反応性を高めるために、微分散処理を行って使用されることが好ましい。微分散処理の方法は、一般に塗料製造時に用いられる湿式分散法であるロールミル、コロイドミル、ボールミル、アトライター、サンドミル等のビーズミル等を使用することができる。ビーズミルでは、ジルコニア、チタニア、アルミナ等のセラミックビーズや、クロム、スチール等の金属ビーズ、ガラスビーズ等が使用できる。分散粒径はメジアン径で0.1〜1.2μmが望ましく、特に好ましくは0.3〜0.8μmである。
本発明に係わる感熱型平版印刷版の画像を描画する側の面を構成する層には、スティッキング現象を防止する目的で、熱溶融性物質を用いてもよい。熱溶融性物質としては、融点が50〜150℃の有機化合物が好ましく、例えばカルナバワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等のワックス類、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、モンタン酸等の脂肪酸、及びそのエステル、アミド類等が使用できる。
尚、本発明に係わる感熱型平版印刷版は、前述のように画像形成層と支持体との接着性を改善するために下引層を設けてもよい。本発明に係わる感熱型平版印刷版の画像形成層や保水性付与層等の画像を描画する側の面を構成する層には、印刷地汚れを防止する目的に酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機物を含有させることができる。含有させる割合は、印刷に用いる印刷インキや湿し水等や印刷速度や印刷圧等各種条件により適宜所望の範囲で決められる。
本発明に係わる感熱型平版印刷版は、必要に応じて導電性、帯電防止性改善の機能を付加したり、印刷版としてのカールを防止するカール防止層、所望のカールを付与するカール促進層等を複数で設けることができる。
本発明に係わる感熱型平版印刷版を構成する層には、塗布助剤としてアニオン系、カチオン系、ベタイン系もしくはノニオン系界面活性剤の2種以上を組み合わせて用いてもよいし、マット剤、増粘剤、帯電防止剤等を用いることもできる。
耐水性支持体としては、例えばプラスチックフィルム、樹脂被覆紙、耐水紙等が使用できる。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエーテルサルフォン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド及びポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルム、これらプラスチックを表面にラミネートやコーティングした樹脂被覆紙、メラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ化ポリアミド樹脂等の湿潤紙力剤によって耐水化された紙を使用することができる。
支持体の厚さは、感熱製版装置の記録適性及び平版印刷機適性等の観点から100〜300μm程度が好適である。また、これらの支持体の表面は、上層として塗設される層との接着を良くするための表面処理を行うことや、視認性向上のため染色処理をすることも可能である。本発明における好ましい支持体は樹脂被覆紙、ポリエチレンテレフタレートである。
このような耐水性支持体の表面は、画像形成層との接着性を高めるために、プラズマ処理、コロナ放電処理、遠紫外線照射処理、下引き処理等の処理を施してもよい。下引き処理により、耐水性支持体上に設けられる下引層は、ポリビニルブチラール等のアセタール樹脂、分子鎖末端にヒドロキシル基を有するポリエステル樹脂、(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニリデン・塩化ビニル共重合体等から選択される樹脂を含有することができる。下引層の厚さは、通常乾燥膜厚0.1〜10μm程度である。
本発明に係わる感熱型平版印刷版を構成する層は、各素材を混合し適当な溶剤に溶解または分散した塗工液を、支持体上に公知のコーティング方法で塗工、乾燥することにより製造する。好ましい溶剤は水であるが、乾燥時の熱で画像形成層(及び中間層)が熱変性しないようにするため、乾燥処理は50℃以下の雰囲気で30秒〜10分程度とすることが好ましい。
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。尚、記載中、「部」及び「%」は特に示さない限り質量基準である。
(実施例1)
厚さ150μmの両面ポリエチレン被覆紙(RC紙)をコロナ放電加工した後、下記処方からなる最表層(画像形成層)塗工液を塗工し、乾燥膜厚3μmの画像形成層を有する感熱型平版印刷版を作製した。
<画像形成層塗工液>
・水溶性高分子化合物;ゼラチン((株)ニッピ IK3000)(12%水溶液) 80部
・熱可塑性樹脂の微粒子;カルボキシ変性スチレンブタジエン共重合体(DIC(株) ラックスター7132−C)(固形分45%) 30部
・1,2−ビス(3−メチルフェノキシ)エタン(三光株式会社製KS−232)分散液(30%分散液) 30部
・顕色剤;4−ヒドロキシ−4−イソプロポキシジフェニルスルホン(日本曹達株式会社製 D−8)分散液(30%水分散液) 30部
・発色剤;3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン(山本化成製ODB2)分散液(30%水分散液) 9部
・硬膜剤;ジビニルスルホン 1.2部
上記の方法で作成された感熱性平版印刷版を、ダイレクトサーマルプリンタ(東芝テックバーコードプリンタB−433ライン型サーマルヘッド300dpi)のテスト印字モード(印刷速度2インチ/秒、印加エネルギー18.6mJ/mm2)で画像を記録した。
このようにして画像形成を行った感熱性平版印刷版に対して版面処理液を版面に付与した後に印刷を行い、印刷性能について評価を行った。版面処理液を版面に付与する方法としては、エッチングコンバーターHP−420e(岩崎通信機社製)を使用した。これは版面処理液を貯留させた液浴に印刷版を浸漬させてロール対により余剰の版面処理液を絞液することによって、版面処理液を版面に付与する装置である。
版面処理液は下記(a)〜(p)のものを使用した。
<版面処理液(a)>
・水酸化ナトリウム 3g/L
・コハク酸 5g/L
・プロピレングリコール 20g/L
・コロイダルシリカ水分散液 20g/L
・アニオン性界面活性剤 0.05g/L
コロイダルシリカ水分散液としては、日産化学工業(株)製スノーテックスC(酸化物として20%分散液、粒径10〜20nm)を使用した。アニオン性界面活性剤としては、第一工業製薬(株)製ハイテノール227L(ポリオキシエチレンラウリル硫酸Na塩27%水溶液)を使用した。pHは5.6であった。
<版面処理液(b)>
上記版面処理液(a)1Lに対して硝酸ニッケル(II)六水和物を2g加えた。pHは5.6であった。
<版面処理液(c)>
上記版面処理液(a)1Lに対して硝酸コバルト(II)六水和物を2g加えた。pHは5.6であった。
<版面処理液(d)>
上記版面処理液(a)1Lに対して硝酸アルミニウム九水和物を2g、クエン酸1.9gを加え、水酸化ナトリウムでpHを5.6に調整した。
<版面処理液(e)>
上記版面処理液(a)1Lに対して硝酸カルシウム四水和物を2g加えた。pHは5.6であった。
<版面処理液(f)>
上記版面処理液(a)1Lに対して硝酸マグネシウム六水和物を2g加えた。pHは5.6であった。
<版面処理液(g)>
上記版面処理液(a)1Lに対して塩化マグネシウム六水和物を2g加えた。pHは5.6であった。
<版面処理液(h)>
上記版面処理液(a)1Lに対して硫酸マグネシウム七水和物を2g加えた。pHは5.6であった。
<版面処理液(i)>
上記版面処理液(a)1Lに対してクエン酸マグネシウム五水和物を2g加えた。pHは5.6であった。
<版面処理液(j)>
上記版面処理液(a)1Lに対して硝酸マグネシウム六水和物を5g加えた。pHは5.6であった。
<版面処理液(k)>
上記版面処理液(a)1Lに対して(C−5)の化合物を2g加え、コハク酸でpHを5.6に調整した。
<版面処理液(l)>
上記版面処理液(a)1Lに対して(C−7)の化合物を2g加え、コハク酸でpHを5.6に調整した。
<版面処理液(m)>
上記版面処理液(a)1Lに対して(C−10)の化合物を2g加え、コハク酸でpHを5.6に調整した。
<版面処理液(n)>
上記版面処理液(a)1Lに対して(C−14)の化合物を2g加えた。pHは5.6であった。
<版面処理液(o)>
上記版面処理液(a)1Lに対して(C−7)の化合物を2.5g、硝酸マグネシウム六水和物を2.5g加え、コハク酸でpHを5.6に調整した。
<版面処理液(p)>
上記版面処理液(a)1Lに対してコロイダルシリカ水分散液(スノーテックスC)を更に20g加えた。pHは5.6であった。
版面処理液を版面に付与する操作の後、3分以内に印刷を開始する場合と1日後に印刷を行う場合の2種類のテストを行った。印刷機はRYOBI3200CCD(リョービイマジクス(株))を使用し、給湿液はSLM−OD(三菱製紙(株))10%希釈液を、紙はパールコート(三菱製紙(株))をそれぞれ用いた。インキについては、インキ着肉性及び耐刷性の評価にはF−Gross墨N(DIC(株))を使用し、インキ汚れの評価にはF−Gross紫S(DIC(株))を使用した。印刷のスタートは、版胴に水着けローラーを接触させたまま紙を送らずに20回転させて版全体を湿らせた後、通常通り紙を送りはじめて印刷を行う方法をとった。
インキ着肉性の評価は、印刷開始直後から印刷機から排出される印刷物が適正な画像濃度となる枚数をカウントし、適正な画像濃度に達する印刷枚数で行った。枚数が少ないほどインキ着肉性に優れる。インキ汚れについては、非画像部に汚れが発生し始める枚数で評価した。1000枚以下で汚れる場合は×、1000枚を超え3000枚以下で汚れ始める場合は△、3000枚を超えても汚れない場合は○とした。更に、3000枚印刷後に10分間空転して版を乾燥させ、スタートと同じ方法で再び印刷を開始した。この時に非画像部のインキが完全になくなるまでの印刷枚数を、インキ汚れの別の指標となる再スタート性として評価した。枚数が少ないほどインキ汚れの関する性能として望ましい。耐刷性は、5000枚印刷後の印刷物における画像部を観察して、刷り出しと遜色ないレベルであれば○(良好)、濃度がやや低下したり、微少画像に欠落が発生したりしているレベルであれば△(やや良好)とした。明らかに劣化しているレベルの場合には×(不良)とした。
(実施例2)
実施例1のコロイダルシリカ水分散液(スノーテックスC)の代わりに、コロイダルアルミナ水分散液(日産化学工業(株)製アルミナゾル100(酸化物として20%分散液、粒径10〜20nm))を用いること以外同様にして版面処理液を作製し、実施例1と同じ方法で印刷を行った。更に実施例1と同じ方法で印刷性能の評価を行ったところ、印刷汚れが僅かに劣る以外は表2とほぼ同様の結果が得られた。
上記の結果から、本発明の印刷方法によればインキ着肉性や耐刷力を犠牲にすることなく、インキ汚れを改善する印刷方法を提供することが可能であり、特に無機微粒子及び多価金属カチオンを含有する版面処理液を、版面に付与した後に印刷を行った場合、その改善効果は顕著である。