近年、コンピューター及びその周辺機器の発展により各種デジタルプリンタを用いた平版印刷版の製版方法が各種提案されている。例えば、特開平6−138719号公報、特開平6−250424号公報には、乾式電子写真法レーザープリンタにより製版するもの、特開平9−58144号公報には、熱溶融型インクを用いたオンデマンドインクジェットプリンタにより製版するもの、更に、特開昭63−166590号公報には熱転写インクリボンを用いるサーマルプリンタにより製版するもの等が知られている。
上記のようなプリンタを用いた製版方法は、従来の可視光レーザー等を用いた光モードタイプとは大別され、取り扱い上において安全光の制約を受けないことから、この点で大きな利点を有する。また従来の光モードタイプにおいて通常用いられる露光後の現像処理を全く必要としない点から、これらの製版方式で製版された印刷版はプロセスレス印刷版と総称されている。
しかし上記プロセスレス印刷版は、何れも保水性付与層が設けられた支持体表面に、感脂性(即ち、平版印刷インク着肉性)の記録画像を転写付与することにより印刷版を形成する方式であったため、次のような問題点があった。
1)画像を形成する層が親水性であるためトナーやインク等の付着が十分ではなく、例えば転写トナー画像濃度が不足したり、転写画像に白抜けが発生するような問題。
2)転写画像の定着が十分ではなく、耐刷性が低下し、特に小ポイント文字の一部やハイライト部の網点画像に欠落が生じるような問題。
3)非画像部に少量のトナーが不規則に転写されたり、熱転写インクリボンが擦れること等によって、全体的に薄い地汚れが発生する等の問題。
一方、支持体上に熱可塑性樹脂あるいは熱溶融性粒子を含有する画像形成層を設けて、サーマルヘッドや赤外線レーザー等により加熱印字することで親油性の画像部が得られる感熱型平版印刷版等も提案されている。
例えば、特開昭58−199153号公報(特許文献1)、あるいは特開昭59−174395号公報(特許文献2)には、画像形成層に熱転写リボン等を介さずサーマルヘッド等で直接加熱描画することにより親油性の画像部が得られる感熱型平版印刷版が記載されている。特開2000−190649号公報(特許文献3)、特開2000−301846号公報(特許文献4)には、赤外線レーザー等で直接加熱描画することにより親油性の画像部が得られる感熱型平版印刷版も記載されている。これらは何れも相変換型印刷版であり、元々親水性であった部分が相変換を起こし、疎水性(親油性)に変化するものである。通常の平版印刷では、上記のように得られた親油性の画像部に、水とインキの両方が同時に供給され、該画像部が着色性のインキを受理、他の非画像部は親水性のために水を選択的に受け入れ、インキを受理しない。該画像部上に受理したインキを、例えば、紙等の被印刷体に転写させることによって印刷がなされるようになる。
しかしながら、上記した相変換を利用した感熱型平版印刷版は、画像形成層の加熱部分を画像部、非加熱部分を非画像部として利用するため、画像形成層自身が画像部と非画像部を兼ねている。このため同じ相変換を利用する感熱型平版印刷版であっても、従来のアブレーション方式や機上現像方式等の所謂デブリ処理により画像部と非画像部を形成する印刷版(水や湿し水等で現像処理することで非加熱の画像形成層を除去し、画像形成層と支持体の間に設けられた親水性層を露出させる感熱型平版印刷版)とは異なり、非画像部であっても熱可塑性樹脂や熱溶融性物質を含有する。即ち、上記デブリ処理が一切行われないことから、加熱部であっても、非加熱部分であっても、塗設された塗膜はそのまま印刷に利用されることになる。このため、加熱部の感脂性(親油性)を上げると、一方で親水性が犠牲になるという、相反する傾向を持ち合わせており、耐刷性と耐汚れ性をバランスよく向上させることは極めて困難であった。
上記したような問題を改善するため、例えば、特開平07−1849号公報(特許文献5)には、熱により画像部に転換するマイクロカプセル化された親油性成分と親水性バインダーポリマーを含有する親水層を有する感熱平版印刷版原版が開示され、特開平11−95417号公報(特許文献6)には、特定の親水性樹脂及び架橋剤を含有する感熱層を有する感熱性平版印刷版材料が開示され、特開2000−75471号公報(特許文献7)には、熱により表面の物性に変化を生じさせる画像形成層を有する感熱平版印刷版材料が開示され、特開2006−272795号公報(特許文献8)及び特開2006−272942号公報(特許文献9)には、疎水性へ変換できる層に特定のガラス転移温度を有する有機高分子化合物を含有する平版印刷版原版が開示されているが、耐刷性と耐汚れ性のバランスという点で更なる改善が求められていた。
一方、平版印刷版原版の製造過程や製版過程、更には印刷過程に発生する様々な機械的ストレスに対する耐傷性は、高品質な印刷物を得るための重要な要素の1つであり、耐傷性に優れ、耐刷性と耐汚れ性をバランスよく兼ね備えた感熱型平版印刷版が望まれている。
特開2001−138652号公報(特許文献10)には、基材上に無機粒子、光熱変換剤及び熱溶融素材を含有する層を有する感熱型平版印刷版が開示され、優れた耐傷性と耐汚れ性(汚れ回復性、ブランケット汚れ耐性)が得られることが記載されているが、耐刷性について更なる改善が望まれていた。また、特開2011−93148号公報(特許文献11)には、二酸化チタン、バインダー樹脂、及び架橋剤を含有する下塗り層を有する、耐傷性が改善された感熱型平版印刷版が開示されているが、耐汚れ性について、特にブランケット汚れ耐性について更なる改善が望まれていた。
本発明の感熱型平版印刷版は、熱可塑性樹脂、熱溶融性物質、及び水溶性高分子化合物を含有する画像形成層を最表層として有する。かかる画像形成層はサーマルヘッドや赤外線レーザー等で印字加熱することで疎水性へと相変換し、該画像形成層そのものが画像部と非画像部を兼ねるものである。具体的には赤外線レーザーやサーマルヘッドにより該画像形成層表面を像様に印字加熱することで、水溶性高分子化合物に埋もれている熱可塑性樹脂、及び熱溶融性物質が層の極表面に一部滲出する形で溶出し疎水性等を発現する。一方、加熱印字されなかった部分は、熱可塑性樹脂や熱溶融性物質が水溶性高分子化合物に埋もれて層中に留まり疎水性等を発現せず、画像形成層が元々有する親水性能等を維持することで、アブレーション方式や機上現像方式等の所謂デブリ処理を一切必要とせず、そのまま印刷することが可能となる。
本発明の感熱型平版印刷版は、上述したように画像部と非画像部を兼ねる画像形成層を最表層に有し、該画像形成層と支持体の間に、ガラス転移温度が50℃未満の熱可塑性樹脂を含有する層(以下、下塗り層と記載する)を設けることによって、耐傷性に優れ、耐刷性と耐汚れ性を兼ね備えた、特にブランケット汚れが発生しにくい感熱型平版印刷版とすることができる。ここでの耐傷性は、該平版印刷版の製造過程や製版過程等において生じるような表面上の傷等だけではなく、印刷中に生じる傷による品質低下にも効果を示す。印刷中に生じる傷とは、印刷機のブランケットローラー上にできた僅かな起伏が原因で部分的な版圧変化が生じ、結果的に版面を傷付けることで印刷適性不良を生じるというものである。そしてこの部分的な版圧変化は、印刷機のシリンダー咥え部付近でブランケットが折り曲がる部分において特に起こりやすく、印刷紙面には先端または尻端部に汚れとなって現れる場合がある。本願明細書においてはこの汚れを「ブランケット傷汚れ」と称する。
本発明の感熱型平版印刷版は、上述したように画像形成層と支持体の間に、ガラス転移温度が50℃未満の熱可塑性樹脂を含有する下塗り層を有することを特徴としている。本発明の下塗り層に含有させる熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度が50℃未満であり、好ましくは35℃未満である。ガラス転移温度が50℃以上の場合、耐汚れ性において十分満足できる感熱型平版印刷版は得られない。下塗り層が含有するガラス転移温度が50℃未満の熱可塑性樹脂としては、スチレンブタジエン共重合体、アクリロニトリルブタジエン共重合体、メチルメタクリレートブタジエン共重合体等の、その変性物を含めた熱可塑性樹脂の他、アクリル酸/アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸/メタクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体等を使用することができる。ガラス転移温度が50℃未満であれば、後述の画像形成層に用いる熱可塑性樹脂と同様のものを適用することもできる。
本発明の下塗り層が含有する熱可塑性樹脂の含有量は、0.1〜20g/m2が好ましく、より好ましくは0.5〜10g/m2である。この範囲より少ない場合、耐傷性が不十分となる場合があり、この範囲より多い場合は、耐刷性と耐汚れ性のバランスが悪くなる場合がある。
また、本発明の下塗り層は、水溶性高分子化合物を含有することが好ましく、例えば、石灰処理ゼラチン、酸処理ゼラチン、酵素処理ゼラチン等のゼラチン、多糖類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子化合物を用いることができるが、特にゼラチンを用いることが好ましい。
下塗り層が含有する水溶性高分子化合物の含有量は、前記したガラス転移温度が50℃未満の熱可塑性樹脂に対して5〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜80質量%である。
本発明の下塗り層は、架橋剤を含有することが好ましく、例えば、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート化合物、アルデヒド化合物、シラン化合物、クロム明礬、ジビニルスルホン等を好適に用いることができる。水溶性高分子化合物がゼラチンである場合に特に好ましい架橋剤はジビニルスルホンである。架橋剤の配合量は前記水溶性高分子化合物の固形分量に対して1〜30質量%が好ましく、更には2〜15質量%とすることが好ましい。架橋剤の添加方法については、該画像形成層と支持体の間に設ける下塗り層の塗工液を製造する際に添加したり、該塗工液の塗布直前にインラインで添加する方法等があるが何れでも良い。
本発明の感熱型平版印刷版は、熱可塑性樹脂、及び熱溶融性物質と水溶性高分子化合物を含有する画像形成層を最表層として有する。
本発明の画像形成層が含有する熱可塑性樹脂は、鎖状ポリマーからなり加熱によって可塑性を示す固体状の非水溶性有機高分子化合物であって、画像形成層の塗工液として水系塗工液を使用する場合には水分散体(エマルジョン、ラテックス)であることが好ましい。代表例はスチレンブタジエン共重合体、アクリロニトリルブタジエン共重合体、メチルメタクリレートブタジエン共重合体、スチレンアクリロニトリルブタジエン共重合体、スチレンメチルメタクリレートブタジエン共重合体等の、その変性物を含めた合成ゴムラテックスであるが、スチレン無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸共重合体、ポリスチレン、スチレン/アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル/アクリル酸エステル共重合体、及び低融点ポリアミド樹脂等の水分散体も使用可能である。これら熱可塑性樹脂は単独もしくは2種以上併用して用いることができる。印刷インクのビヒクル(バインダー成分)との親和性から、かかる熱可塑性樹脂としては合成ゴムラテックスが好ましく用いられる。かかる合成ゴムラテックスは耐刷性の観点から、熱により自己架橋するタイプが好ましい。自己架橋タイプとは、架橋剤の存在なしでも熱により三次元網状化することが可能であり、かかる合成ゴムラテックスを作製する際に、共重合成分として、カルボキシル基、水酸基、メチロールアミド基、エポキシ基、カルボニル基、アミノ基等の反応性官能基を存在させることにより得ることができる。また反応性官能基としては、カルボキシル基、水酸基、及びアミノ基が好ましく、特にカルボキシル基を反応性官能基として有する合成ゴムラテックスが好ましい。これにより画像部は自己架橋することで良好な耐刷性が得られると同時に、加熱されない非画像部は優れた保水性が得られるため好ましい。特に好ましい合成ゴムラテックスはカルボキシ変性スチレンブタジエン共重合体である。熱可塑性樹脂の好ましい配合量としては画像形成層の全固形分量に対して5〜50質量%が好ましく、更に20〜40質量%が好ましい。
また熱による溶融、融着効果を発現しやすくするためには、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は50〜150℃、更に好ましくは55〜120℃のものを使用するのが良い。ガラス転移温度が50℃未満では製造工程中に液状に相変化を起こし、非画像部にも親油性が発現するため印刷地汚れの原因となる場合がある。また150℃を超える場合はポリマーの熱溶融が起こりにくく、比較的小出力のレーザーや小型サーマルプリンタでは強固な画像を形成するのが困難となる場合がある。
本発明の画像形成層が含有する熱溶融性物質としては、例えば、カルナバワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等のワックス類、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、モンタン酸等の脂肪酸、及びそのエステル、アミド類、及び下記一般式(1)〜(4)で示される化合物の中から選ばれた少なくとも1種等が挙げられ、融点が50〜150℃の有機化合物が好ましく用いられる。融点が50℃未満では製造工程中に溶融してしまい、印刷物の地汚れの原因となる場合がある。一方、150℃を超えるとサーマルヘッド等の熱印加で溶融しにくく、親油性等の発現が乏しくなる場合がある。画像形成層における熱溶融性物質の好ましい使用量としては、画像形成層の全固形分量に対して1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜30質量%である。
以下に一般式(1)で示される化合物について説明する。
上記式中の、X1は−O−、または−CO−O−を示し、R1〜R6はそれぞれ水素原子、アルキル基、アリール基を示す。nは1から10までの整数を示し、置換基R1〜R3、及びR4〜R6は互いに結合して芳香環を形成していても良い。
一般式(1)で示される化合物のうちでも、X1が−O−である化合物が好ましく、特にR1及びR6が水素原子または炭素数1〜4のアルキル基で、R2〜R5が水素原子であり、nが1〜4の整数である化合物が特に好ましく用いられる。
一般式(1)で示される化合物としては例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)1−(1−ナフトキシ)−2−フェノキシエタン
(2)1−(2−ナフトキシ)−4−フェノキシブタン
(3)1−(2−イソプロピルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン
(4)1−(4−メチルフェノキシ)−3−(2−ナフトキシ)プロパン
(5)1−(2−メチルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン
(6)1−(3−メチルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン
(7)1−(2−ナフトキシ)−2−フェノキシエタン
(8)1−(2−ナフトキシ)−6−フェノキシヘキサン
(9)1−フェノキシ−2−(2−フェニルフェノキシ)エタン
(10)1−(2−メチルフェノキシ)−2−(4−フェニルフェノキシ)エタン
(11)1,4−ジフェノキシブタン
(12)1,4−ビス(4−メチルフェノキシ)ブタン
(13)1,2−ジ(3,4−ジメチルフェノキシ)エタン
(14)1−フェノキシ−3−(4−フェニルフェノキシ)プロパン
(15)1−(4−tert−ブチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(16)1,2−ジフェノキシエタン
(17)1−(4−メチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(18)1−(2,3−ジメチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(19)1−(3,4−ジメチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(20)1−(4−エチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(21)1−(4−イソプロピルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(22)1,2−ビス(2−メチルフェノキシ)エタン
(23)1−(2−メチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(24)1−(4−tert−ブチルフェノキシ)−2−(2−メチルフェノキシ)エタン
(25)1,2−ビス(3−メチルフェノキシ)エタン
(26)1−(3−メチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(27)1−(4−エチルフェノキシ)−2−(3−メチルフェノキシ)エタン
(28)1,2−ビス(4−メチルフェノキシ)エタン
(29)1−(2,3−ジメチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(30)1−(2,5−ジメチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(31)フェノキシ酢酸−2−ナフチル
(32)2−ナフトキシ酢酸−4−メチルフェニル
(33)2−ナフトキシ酢酸−3−メチルフェニル
次に一般式(2)で示される化合物について説明する。
上記式中、R7はアルキル基、アリール基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基を示す。また、式中のナフタレン環は更に置換基を有していても良く、好ましい置換基の例としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルファモイル基等が挙げられる。
上記の一般式(2)においてR7で表わされる置換基のうち炭素数4〜20のアルキル基、炭素数6〜24のアリール基、炭素数2〜20のアルキルカルボニル基、炭素数7〜20のアリールカルボニル基がより好ましい。上記一般式(2)において、ナフタレン環が更に有しても良い置換基のうちハロゲン基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜20のアルキルオキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基、炭素数2〜25のカルバモイル基がより好ましい。
一般式(2)で示される化合物としては例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)1−ベンジルオキシナフタレン
(2)2−ベンジルオキシナフタレン
(3)2−p−クロロベンジルオキシナフタレン
(4)2−p−イソプロピルベンジルオキシナフタレン
(5)2−ドデシルオキシナフタレン
(6)2−デカノイルオキシナフタレン
(7)2−ミリストイルオキシナフタレン
(8)2−p−tert−ブチルベンゾイルオキシナフタレン
(9)2−ベンゾイルオキシナフタレン
(10)2−ベンジルオキシ−3−N−(3−ドデシルオキシプロピル)カルバモイルナフタレン
(11)2−ベンジルオキシ−3−N−オクチルカルバモイルナフタレン
(12)2−ベンジルオキシ−3−ドデシルオキシカルボニルナフタレン
(13)2−ベンジルオキシ−3−p−tert−ブチルフェノキシカルボニルナフタレン
次に一般式(3)で示される化合物について説明する。
上記式中、R8、R9は水素原子、ハロゲン基、炭素数4以下のアルキル基、アルコキシ基を示す。X2は単なる結合手または−O−を示し、nは1〜4の整数を示す。
一般式(3)で示される化合物としては例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)シュウ酸ジベンジル
(2)シュウ酸ジ(p−メチルベンジル)
(3)シュウ酸ジ(p−クロロベンジル)
(4)シュウ酸ジ(m−メチルベンジル)
(5)シュウ酸ジ(p−エチルベンジル)
(6)シュウ酸ジ(p−メトキシベンジル)
(7)シュウ酸ビス(2−フェノキシエチル)
(8)シュウ酸ビス(2−o−クロロフェノキシエチル)
(9)シュウ酸ビス(2−p−クロロフェノキシエチル)
(10)シュウ酸ビス(2−p−エチルフェノキシエチル)
(11)シュウ酸ビス(2−m−メトキシフェノキシエチル)
(12)シュウ酸ビス(2−p−メトキシフェノキシエチル)
(13)シュウ酸ビス(4−フェノキシブチル)
これらの例示化合物の中で好ましい具体例としては、シュウ酸ジベンジル、シュウ酸ジ(p−メチルベンジル)、シュウ酸ジ(p−クロロベンジル)、シュウ酸ジ(m−メチルベンジル)、シュウ酸ジ(p−エチルベンジル)、シュウ酸ジ(p−メトキシベンジル)が挙げられる。
以下に一般式(4)で示される化合物について説明する。
上記式中、R10、R10′、R11及びR11′は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシ基を示す。
一般式(4)で示される化合物としては例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)1,2−ジフェノキシメチルベンゼン
(2)1,3−ジフェノキシメチルベンゼン
(3)1,4−ジ(2−メチルフェノキシメチル)ベンゼン
(4)1,4−ジ(3−メチルフェノキシメチル)ベンゼン
(5)1,3−ジ(4−メチルフェノキシメチル)ベンゼン
(6)1,3−ジ(2,4−ジメチルフェノキシメチル)ベンゼン
(7)1,3−ジ(2,6−ジメチルフェノキシメチル)ベンゼン
(8)1,4−ジ(2−クロロフェノキシメチル)ベンゼン
(9)1,2−ジ(4−クロロフェノキシメチル)ベンゼン
(10)1,3−ジ(4−クロロフェノキシメチル)ベンゼン
(11)1,2−ジ(4−オクチルフェノキシメチル)ベンゼン
(12)1,3−ジ(4−オクチルフェノキシメチル)ベンゼン
(13)1,3−ジ(4−イソプロピルフェニルフェノキシメチル)ベンゼン
(14)1,4−ジ(4−イソプロピルフェニルフェノキシメチル)ベンゼン
これらの例示化合物の中で好ましい具体例としては、1,2−ジフェノキシメチルベンゼン、1,4−ジ(2−メチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,4−ジ(3−メチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,4−ジ(2−クロロフェノキシメチル)ベンゼンが挙げられる。
一般式(1)〜(4)で示される化合物の中でも優れた耐刷性が得られる点において、一般式(1)、(2)及び(4)で示される化合物が好ましく、更には一般式(1)及び(2)で示される化合物が好ましく、最も好ましい化合物は一般式(1)で示される化合物である。またこれらは、それぞれを単独で使用しても良いし、組み合わせて使用することもできる。また耐刷性の観点からワックス類と一般式(1)〜(4)で示される化合物を併用して用いることが好ましい。
上記一般式(1)〜(4)で示される化合物は常温で固体の物質であるが、熱による反応性を高めるために、微分散処理を行って使用されることが好ましい。微分散処理の方法は、一般に塗料製造時に用いられる湿式分散法であるロールミル、コロイドミル、ボールミル、アトライター、サンドミル等のビーズミル等を使用することができる。ビーズミルでは、ジルコニア、チタニア、アルミナ等のセラミックビーズや、クロム、スチール等の金属ビーズ、ガラスビーズ等が使用できる。分散粒径はメジアン径で0.1〜1.2μmが望ましく、特に好ましくは0.3〜0.8μmである。なお、メジアン径とは、粒子体の一つの集団の全体積を100%として累積曲線を求めた時、累積曲線が50%となる点の粒子径(累積平均径)であり、粒度分布を評価するパラメータの一つとしてレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA920((株)堀場製作所製)等を用いて測定することができる。
本発明の画像形成層はバインダーとして水溶性高分子化合物を含有する。かかる水溶性高分子化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、澱粉及びその誘導体、ゼラチン、カゼイン、アルギン酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、スチレン・マレイン酸共重合体塩、スチレン・アクリル酸共重合体塩等が例示される。これらの水溶性高分子化合物は単独使用でも2種類以上の併用でも良く、特に皮膜形成に富むゼラチンやポリビニルアルコールとその変性物が非画像部の親水性保持に好ましく選択され、ゼラチンと、ポリビニルアルコールとその変性物とを併用することが好ましい。本発明の画像形成層に用いる水溶性高分子化合物の好ましい使用量としては、画像形成層の全固形分量に対して0.5〜30質量%が好ましく、更に5〜25質量%とすることがより好ましい。ゼラチンと、ポリビニルアルコールとその変性物とを併用する場合の含有比率については任意に設定することができるが、塗布性等を考慮して、ポリビニルアルコールの使用量をゼラチン量に対して20質量%以下に留めておくことが好ましい。
非画像部の耐水性及び機械的強度を向上させるため、画像形成層は前記水溶性高分子化合物の種類に応じて架橋剤(耐水化剤)を含有することが好ましい。架橋剤としては、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート化合物、アルデヒド化合物、シラン化合物、クロム明礬、ジビニルスルホン等、樹脂の架橋を促すことによって耐水性を付与するものを用いることができるが、特に好ましい架橋剤はジビニルスルホンあるいはグリオキザールが好ましく用いられる。また必要な耐水性及び機械的強度が得られ、更に保存した際の経時での特性変動を避ける意味から、架橋剤の配合量は前記水溶性高分子化合物の固形分量に対して1〜30質量%が好ましく、更には2〜15質量%とすることが好ましい。架橋剤の添加方法については先の下塗り層と同様、塗工液を製造する際に添加しても、塗布直前のインライン添加でも、どちらでも良い。
本発明の感熱型平版印刷版では、視認性確保のため一般的な感熱記録紙、感圧記録紙に使用されるフェノール誘導体や芳香族カルボン酸誘導体等の顕色剤や発色剤(電子供与性染料前駆体)を含有させることができる。
顕色剤の具体的な例としては、4−クミルフェノール、ヒドロキノンモノベンジルエーテル、4,4′−イソプロピリデンジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル−2,2−ブタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、ビス(4−ヒドロキシフェニルチオエトキシ)メタン、1,5−ジ(4−ヒドロキシフェニルチオ)−3−オキサペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,4−ビス〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、1,3−ビス〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ジ(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィン、4−ヒドロキシ−4′−メチルジフェニルスルホン、4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン、2,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4−ヒドロキシフェニル−4′−ベンジルオキシフェニルスルホン、4−ヒドロキシ−3′,4′−テトラメチレンビフェニルスルホン、3,4−ジヒドロキシフェニル−p−トリルスルホン、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシ安息香酸ベンジル、N,N′−ジ−m−クロロフェニルチオ尿素、N−(フェノキシエチル)−4−ヒドロキシフェニルスルホンアミド等のフェノール性化合物、4−〔3−(p−トリルスルホニル)プロピルオキシ〕サリチル酸亜鉛、4−〔2−(p−メトキシフェノキシ)エチルオキシ〕サリチル酸亜鉛、5−〔p−(2−p−メトキシフェノキシエトキシ)クミル〕サリチル酸亜鉛、p−クロロ安息香酸亜鉛等の芳香族カルボン酸の亜鉛塩、更にはチオシアン酸亜鉛のアンチピリン錯体等の有機酸性物質等が例示される。
また、発色剤(電子供与性染料前駆体)の具体的な例としては、(1)トリアリールメタン系化合物として3,3′−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド(クリスタル・バイオレット・ラクトン)、3,3′−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(1,2−ジメチルインドール−3−イル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(2−フェニルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(1,2−ジメチルインドール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(1,2−ジメチルインドール−3−イル)−6−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(9−エチルカルバゾール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(2−フェニルインドール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3−p−ジメチルアミノフェニル−3−(1−メチルピロール−2−イル)−6−ジメチル−アミノフタリド等:(2)ジフェニルメタン系化合物として、4,4′−ビス−ジメチルアミノベンズヒドリンベンジルエーテル、N−ハロフェニルロイコオーラミン、N−2,4,5−トリクロロフェニルロイコオーラミン等:(3)キサンテン系化合物として、ローダミンB−アニリノラクタム、ローダミンB−p−ニトロアニリノラクタム、ローダミンB−p−クロロアニリノラクタム、3−ジエチルアミノ−7−ジベンジルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−オクチルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−フェニルフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(3,4−ジクロロアニリノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(2−クロロアニリノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ピペリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−エチル−トリルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−エチル−トリルアミノ−6−メチル−7−フェニチルフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(4−ニトロアニリノ)フルオラン等:(4)チアジン系化合物として、ベンゾイルロイコメチレンブルー、p−ニトロベンゾイルロイコメチレンブルー等:(5)スピロ系化合物として、3−メチル−スピロ−ジナフトピラン、3−エチル−スピロ−ジナフトピラン、3,3′−ジクロロ−スピロ−ジナフトピラン、3−ベンジル−スピロ−ジナフトピラン、3−メチルナフト−(3−メトキシ−ベンゾ)−スピロピラン、3−プロピル−スピロ−ジベンゾピラン等が挙げられる。また、これらは単独でも2種以上を併用して用いても良い。
更に、本発明の感熱型平版印刷版には、光熱変換物質を配合することもできる。光熱変換剤を用いることによって、サーマルヘッドだけでなく赤外線レーザー等の活性光による描き込みも可能となる。光熱変換物質の例としては、効率よく光を吸収し熱に変換する材料が好ましく、使用する光源によって異なるが、例えば、近赤外光を放出する半導体レーザーを光源として使用する場合には、近赤外に吸収帯を有する近赤外光吸収剤が好ましく、例えば、カーボンブラック、シアニン系色素、ポリメチン系色素、アズレニウム系色素、スクワリウム系色素、チオピリリウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素等の有機化合物や、フタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系の有機金属錯体、鉄粉、黒鉛粉末、酸化鉄粉、酸化鉛、酸化銀、酸化クロム、硫化鉄、硫化クロム等の金属化合物類等が挙げられる。これら光熱変換物質は、下塗り層または画像形成層のどちらにも用いても良い。
本発明の感熱型平版印刷版が有する下塗り層、及び画像形成層は、その印刷適性及び塗膜の機械的強度等の観点から、平均乾燥膜厚を下塗り層は0.1〜10μmの範囲とすることが好ましく、画像形成層は1〜20μmの範囲とすることが好ましく、更に下塗り層が0.5〜5μm、画像形成層が1〜10μmであればより好ましい。これら平均乾燥膜厚は、走査型電子顕微鏡を用いて断面を観察し、任意の10カ所の平均値から求めることができる。
また、画像形成層は単層のみならず、分割して多層構成にすることもできる。その場合、熱可塑性樹脂は、支持体に近い画像形成層の水溶性高分子化合物の質量に対する熱可塑性樹脂の質量の比が、最表層の画像形成層の比よりも高いことが好ましい。
感熱記録紙等では一般的に二酸化珪素、酸化亜鉛、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の吸油性の高い無機顔料を用いることで、ヘッドカスを抑制し、同時にサーマルヘッドとの結着を防止してスティッキング現象を改善し、画像描画上支障ないように処方される。しかしながら本発明の感熱型平版印刷版の画像形成層が上記無機顔料を含有した場合、画質が低下したり、耐刷性が低下する場合がある。従って、本発明において画像形成層は無機顔料を実質的に含有しないことが好ましい。ここで実質的にとは画像形成層の全固形分量に対して上記無機顔料の配合量を10質量%未満とすることを意味し、更に5質量%未満とすることが好ましい。
本発明の感熱型平版印刷版に用いる支持体としては、プラスチックフィルム、樹脂被覆紙、耐水紙等の耐水性支持体が好ましく使用できる。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエーテルサルフォン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド及びポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルムとこれらプラスチックを表面にラミネートやコーティングした樹脂被覆紙、メラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ化ポリアミド樹脂等の湿潤紙力剤によって耐水化された紙を好適に用いることができる。
次に、上述した本発明の感熱型平版印刷版を用いた製版方法について説明する。本発明の感熱型平版印刷版は、感熱型の画像形成層を有するため、画像形成層中に光熱変換物質を配合することにより例えば760nmから1200nmの赤外光を含む光を照射することで画像部を形成することが可能であり、更に赤外線を放射する固体レーザー及び半導体レーザーにより画像部を形成することが好ましい。特にレーザー露光によれば、コンピューターのデジタル情報から直接所望の画像様の記録が可能となる。またサーマルヘッドやヒートブロック等により画像形成層を直接熱により描画し画像部を形成することも可能であるが、サーマルヘッドによればコンピューターのデジタル情報から直接所望の画像様の記録が可能となる。
サーマルヘッドを使用する場合は、厚膜または薄膜のラインヘッドを用いたラインプリンタや薄膜のシリアルヘッドを用いたシリアルプリンタ等が使用できる。記録エネルギー密度は、10〜100mJ/mm2であることが好ましく、また比較的高品質な出力画像を得るためにはヘッドの画像記録密度が300dpi以上であることが好ましい。
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、無論この記述により本発明が限定されるものではない。なお、以下の記述の中における%や部は、特に記載がない限りは全て質量比を示すものである。
(実施例1)
両面にラミネート加工が施された厚さ約180μmのポリエチレン被覆紙の片面に、下記下塗り層と画像形成層A及び画像形成層Bの塗工液をスライドホッパーコーティング法により、湿分塗布量で下塗り層を15g/m2、画像形成層Aを30g/m2、画像形成層Bを10g/m2になるように、支持体側から順に下塗り層、画像形成層A、画像形成層B(最上層)となるように3重層同時塗布を行った。
<下塗り層塗工液A>
ゼラチン 0.8部
熱可塑性樹脂U:固形分として 1.35部
(DIC(株)製ラックスターDS−223、カルボキシル化SBRラテックス、Tg40℃)
界面活性剤(0.5%溶液) 0.05部
ジビニルスルホン硬膜剤(5%溶液) 1.0部
水で全量を15部とした。
<画像形成層A塗工液>
ゼラチン 0.7部
ポリビニルアルコール 0.07部
熱可塑性樹脂A:固形分として 1.35部
(DIC(株)製ラックスター7132C、カルボキシル化SBRラテックス、Tg60℃)
界面活性剤(0.5%溶液) 0.4部
ジビニルスルホン硬膜剤(5%溶液) 2.0部
発色剤混合スラリー 7.0部
水で全量を30部とした。
<画像形成層B塗工液>
ゼラチン 0.3部
熱可塑性樹脂B:固形部として 0.27部
(DIC(株)製ラックスター7132C、カルボキシル化SBRラテックス、Tg60℃)
界面活性剤(0.5%溶液) 0.2部
熱溶融性物質:固形分として 0.03部
(モンタン酸エステルワックスエマルジョン)
ジビニルスルホン硬膜剤(5%溶液) 0.8部
発色剤混合スラリー 0.3部
水で全量を10部とした。
上記画像形成層A塗工液及び画像形成層B塗工液に用いている発色剤混合スラリーは、下記調製方法で予め製造したものを使用した。
<発色剤混合スラリーの調製>
材料a:1,2−ビス(3−メチルフェノキシ)エタン
(三光(株)製:KS−232)
材料b:4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン
(日本曹達(株)製:D−8)
材料c:3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン
(山本化成(株)製:ODB2)
上記の材料a、b、cを予め、個々に小型ダイノーミル(ビーズミル)でジルコニアビーズを用いて任意の粒径まで微分散処理を施し、固形分濃度約30%に調製された分散液をそれぞれ作製し、分散液a、分散液b、分散液cとした。分散液a、bを各々3部に対し、分散液cを1部常温下で混合することで発色剤混合スラリーを調製した。
上記湿分塗布量にて3重層同時塗布を行った後、直ちに3℃の冷風にて塗膜をゲル化させ、その後30℃の温風にて乾燥を行った。乾燥後、温度40℃/湿度40%に調整された恒温恒湿器を用いて7日間の加温を行うことにより、実施例1の感熱型平版印刷版を得た。
(実施例2)
実施例1の下塗り層塗工液Aに用いる熱可塑性樹脂UをDIC(株)製ボンコートAN−117(アクリルエマルジョン、Tg30℃)に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2の感熱型平版印刷版を得た。
(実施例3)
実施例1の下塗り層塗工液Aに用いる熱可塑性樹脂UをDIC(株)製ラックスター3009A(カルボキシル化MBRラテックス、Tg−5℃)に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例3の感熱型平版印刷版を得た。
(実施例4)
実施例1の下塗り層塗工液Aに用いる熱可塑性樹脂UをDIC(株)製ボンコートAB−885(アクリルエマルジョン、Tg−40℃)に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例4の感熱型平版印刷版を得た。
(比較例1)
実施例1の下塗り層塗工液Aに用いる熱可塑性樹脂Uを画像形成層A、Bに用いるDIC(株)製ラックスター7132C(カルボキシル化SBRラテックス、Tg60℃)に変更した以外は実施例1と同様にして、比較例1の感熱型平版印刷版を得た。
(比較例2)
実施例1の下塗り層塗工液を下記下塗り層塗工液Bに変更した以外は実施例1と同様にして、比較例2の感熱型平版印刷版を得た。
<下塗り層塗工液B>
ゼラチン 0.8部
二酸化チタン(堺化学工業(株)製TISR1) 4.0部
アクリル酸共重合体金属塩(分散剤、10%溶液) 0.2部
界面活性剤(0.5%溶液) 0.05部
ジビニルスルホン硬膜剤(5%溶液) 1.0部
水で全量を15部とした。
上記下塗り層塗工液Bは、分散剤が添加された水中に二酸化チタンを加えてホモミキサーを用いて30分間の高速微分散処理を施し、その後、ゼラチン、界面活性剤、及びジビニルスルホン硬膜剤を順次混ぜ合わせることで調製した。
上記のように作製した感熱型平版印刷版を、CTP用サーマルデジタルプリンター(三菱製紙(株)製Thermal Digiplater TDP−459:1200dpi/120lpi)を用いて画像出力(記録エネルギー密度70〜100mJ/mm2、電気容量330W)を行い、印刷刷版を作製した。この印刷刷版を用いて以下の方法にて印刷適性の評価を行った。
<耐刷性評価>
印刷機にはオフセット枚葉印刷機RYOBI3200CCD、インキにはDIC(株)製ニューチャンピオン Fグロス墨H、給湿液には三菱製紙(株)製SLM−ODの10%希釈液、エッチング処理には三菱製紙(株)製SLM−OD30の25%希釈液をそれぞれ用いて印刷を行った。耐刷性評価は、印刷物の画像に欠落を生じ印刷できなくなった枚数を以下の評価基準を用いて判定した。結果を表1に示す。
<耐刷性評価基準>
○:3,000枚以上
△:1,000枚以上3,000枚未満
×:1,000枚未満
<耐汚れ性評価及びブランケット汚れ耐性評価>
印刷インキをDIC(株)製ニューチャンピオンFグロス紫Sに、給湿液を三菱製紙(株)製SLM−ODの0.5%希釈液に変更した以外は、上記耐刷性評価と同様にして3,500枚の印刷を行った。耐汚れ性評価としては、地汚れまたは網絡みが発生し良好な印刷物が得られなくなった枚数を下記の評価基準を用いて判定した。ブランケット汚れ耐性評価としては、印刷開始時と3,500枚刷了後のブランケットの状態を比較して、下記の基準を用いて判定した。結果を表1に示す。
<耐汚れ性評価基準>
○:3,000枚以上
△:1,000枚以上3,000枚未満
×:1,000未満
<ブランケット汚れ評価基準>
○:印刷開始時と同等もしくは僅かに汚れている程度で、ブランケットの地色が十分判別できる。
△:印刷開始時より汚れているが、ブランケットの地色は判別できる。
×:ブランケットの地色が判別できないほど汚れている。
<ブランケット傷汚れ耐性評価>
印刷インキをDIC(株)製ニューチャンピオンFグロス墨Sに変更し、版−ブランケット圧を約2倍まで上げて印刷を行った以外は、上記耐刷性評価と同様に1,000枚印刷を行った。1,000枚目の印刷紙面の頭端の部分汚れを観察し、以下の評価基準を用いて判定した。結果を表1に示す。
○:局所的な部分汚れが一切見られない。
△:局所的な部分汚れが僅かに見られる。
×:局所的な部分汚れが明確に見られる。
表1に示す結果から判るように、本発明によって、耐傷性に優れ、耐刷性と耐汚れ性を兼ね備えた、ブランケット汚れが発生しにくい感熱型平版印刷版が得られることが判る。