JP2011175948A - 有機エレクトロルミネッセンス素子 - Google Patents

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Abstract

【課題】有機EL素子において、耐久性を向上させる。
【解決手段】2つの電極11、17の間に、電極間への電界の印加により発光する発光層14を含む複数の有機層12〜16備えた有機EL素子1において、2つの電極11、17の少なくとも一方の電極11の内部または有機層側に電極11に隣接し、かつ導電性の有機層の内部に、発光層14からの発光光により局在プラズモンを生じる複数の金属微粒子21を備え、この複数の金属微粒子21の少なくとも一部が、発光層14の近傍に位置するように配置する。また、金属微粒子21として、発光層14から発光される発光光に対する散乱断面積σsが、発光光に対する吸収断面積σAよりも大きいものを用いる。
【選択図】図1

Description

本発明は、電界の印加により発光を生じる電界発光素子(エレクトロルミネッセンス素子)に関し、特に、発光の高効率化を図った有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
近年、照明、ディスプレイ光源などとして有機ELが注目されている。しかし、有機ELに用いられる発光材料は耐久性が低いという問題があり、実用化を困難なものとしている。
本質的に有機材料は、励起状態に長時間存在することで、化学結合が壊れ、発光性能が経時的に低下していくことが知られており、この耐久性の低さが有機物を発光素子に用いる際の大きな課題である。
また、一般に有機EL素子は、基板上に電極層や複数の有機層が積層された構成をしており、発光層において発光した光を、透明電極を介して取り出す構成とされている。この構成においては、各光取り出し側の層界面において臨界角以上で入射された光は、全反射して素子内に閉じ込められてしまい、外部に取り出すことができない。そのため、発光した光を高効率に取り出すことが難しく、ITO等の現在よく使われている透明電極の屈折率の場合、その取り出し効率は20%程度であると言われている。
特許文献1には、有機EL素子内に金属微粒子を含む散乱層を配置し、光を散乱させることにより、光取り出し効率を高める技術が提案されている。
他方、非特許文献1には、金属微粒子近傍にある色素は励起子寿命が短くなり、耐久性が向上することが記載されている。これに関連し、非特許文献2には、有機発光素子において、発光層の近傍に島状構造の金属を配置することで、発光の増強を図る方法が提案されている。この発光の増強は、発光素子からの双極子放射が金属表面に表面プラズモン(あるいは局在プラズモン)を誘起し、エネルギーを吸収したのちに、再放射する新たな発光が加わることに伴うものである。従って、発光素子の持つ発光過程に新たなプラズモンによる発光遷移が付け加わった形となり、上準位寿命(励起寿命)を短縮する効果が発現できる。このように、プラズモン共鳴を利用することにより、発光効率の向上と共に、励起寿命の短縮化による耐久性の向上効果も期待できる。
さらに、非特許文献3には、EL素子において、陽極である透明電極(ITO)近傍に12nm径のAu微粒子を配置させることにより、量子効率5×10-8〜2.0×10-6の非常に小さい発光材料に対して、プラズモン増強効果が得られたとの報告がなされている。
特開2007−165284号公報
Joseph R. Lakowicz, et al, "Effects of Silver Island Films on Fluorescence Intensity, Lifetimes, and Resonance Energy Transfer", Analytical Biochemistry 301, p.261-277(2002) W. Li et al, Proc. of SPIE, vol. 7032, pp.703224, 2008. A. Fujiki et al, Applied Physics Letters 96, 043307 (2010)
しかしながら、非特許文献2において、プラズモン増強効果による発光の増強が確認されているのは、光励起型の発光素子(フォトルミネッセンス素子:PL素子)においてのみであり、電界励起型のEL素子における成功例が報告されていない。
また、非特許文献3においては、量子効率が小さいほど大きなプラズモン増強効果が得られたと記載されている。一般的に、プラズモン増強効果は量子効率の非常に小さい場合に効果を得ることが知られているが、一方で量子効率が大きいものに対するプラズモン増強効果については議論がなされていない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、量子効率が大きい発光材料を備えた場合であっても、プラズモン増強効果を発現でき、励起子寿命を短くし、耐久性を向上させた有機EL素子を提供することを目的とするものである。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、2つの電極の間に、該電極間への電界の印加により発光する発光層を含む複数の有機層を備えてなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記2つの電極の少なくとも一方の電極の内部に、または該一方の電極の前記有機層側に隣接し、かつ導電性の有機層の内部に、前記発光層からの発光光により局在プラズモンを生じる複数の金属微粒子が備えられており、
該複数の金属微粒子の少なくとも一部が、前記発光層の近傍に位置しており、
前記金属微粒子の前記発光層から発光される発光光に対する散乱断面積σsが、該発光光に対する吸収断面積σAよりも大きいことを特徴とするものである。
「複数の金属微粒子の少なくとも一部が、前記発光層の近傍に位置して」とは、金属微粒子が、発光光の照射を受けてその表面に生じた局在プラズモンのプラズモン共鳴による効果を発光層に対して生じさることができる程度に発光層に近接して位置していることを意味する。具体的には、プラズモン共鳴による効果を生じさせるためには、複数の金属微粒子の少なくとも一部が前記発光層との最短距離が30nm以下に位置していることが望ましい。
「導電性の有機層」とは、前記複数の有機層のうちの導電性を有する有機層であり、具体的には、前記一方の電極に隣接して配置された正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層等の導電性有機層である。複数の金属微粒子は、電極中あるいは導電性の有機層中のいずれにしても導電層中に配置されている。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、前記金属微粒子の最大長dが、下記式(1)を満たすことが望ましい。
Figure 2011175948
(ここで、λは発光波長、nは前記導電層の屈折率、nparticleは前記金属微粒子の複素屈折率である。)
また、前記金属微粒子の最大長dが、該金属微粒子を構成する金属中での電子の平均自由工程よりも大きいことが望ましい。
前記発光層が有機燐光材料からなるものであることが望ましい。
前記金属微粒子は、球体、楕円球体、ロッド等どのような形状であってもよい。最大長とは、球体の場合直径であり、楕円球体の場合その長径である。
前記金属微粒子の材料としては、前記発光光によりプラズモン共鳴が生じる材料であればよく、Ag(銀)、Au(金)、Pt(白金)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)などの金属、およびこれらの金属のいずれかを主成分とする合金を用いることができる。なおここで、「主成分」は、含量80質量%以上の成分と定義する。
前記一方の電極は、陰極であっても陽極であってもよい。
また、前記一方の電極は、金属からなるものであってもよいし、透明導電性材料からなるものであってもよい。透明導電性材料としては、ITO(酸化チタンインジウム)、ZnO(酸化亜鉛)等が挙げられる。
前記一方の電極が金属からなるものである場合、Ag、Mgおよびこれらの金属のいずれかを主成分とする合金などからなる半透過の金属電極であってもよいし、Al、Mg、Ag,Cu、Caおよびこれらの金属のいずれかを主成分とする合金などからなる光を透過しない金属電極であってもよい。
なお、前記一方の電極が、前記金属微粒子を構成する金属よりも、前記発光光による表面プラズモンを生じにくい導電性材料からなるものであってもよい。
金属微粒子の配列はランダムであっても周期状であってもよい。
なお、前記複数の金属微粒子が、前記一方の電極の面積の5%以上の面積を占めることが望ましい。
「前記複数の金属微粒子が、前記一方の電極の面積の5%以上の面積を占める」とは、前記複数の金属微粒子を電極表面に投影させた際に、複数の金属微粒子の投影像が電極表面の面積の5%以上を占めることを意味する。
なお、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、前記一方の電極が、基板上に形成されなるものであることが好ましい。
本発明者らは、燐光のように量子効率が大きい発光材料についても、プラズモンによる増強効果を有効に発現させることができるようにするための検討を行い、本発明を想到するに至ったものである。既述の通り、プラズモン増強効果は、量子効率が非常に小さい材料に対して有効であるが、量子効率が大きい材料に対してプラズモン増強効果を得ることについての議論はなされてこなかった。本発明者らは、この従来重視されていなかった点に着目して、量子効率が大きい発光材料に対してもプラズモン増強効果を有効に発現させることができるための条件を見いだしたものである。
本発明の有機EL素子は、少なくとも一方の電極の内部に、または該一方の電極の前記有機層側に隣接し、かつ導電性の有機層の内部に、発光層からの発光光によりプラズモン共鳴を生じる複数の金属微粒子が備えられており、複数の金属微粒子の少なくとも一部が、発光層の近傍に位置しているので、プラズモンによる発光遷移による、発光増強と励起子寿命を短縮する効果を得ることができる。すなわち、プラズモン増強効果として、周囲の物質との反応性が高い状態である励起子として存在する時間を短縮させることにより、耐久性を向上させることができる。また、金属微粒子の発光層から発光される発光光に対する散乱断面積σsが、該発光光に対する吸収断面積σAよりも大きいので、量子効率の高い発光材料に対しても、非常に有効にプラズモン増強効果を発現させることができる。
本発明のEL素子のように、金属微粒子の発光層から発光される発光光に対する散乱断面積σsが、該発光光に対する吸収断面積σAよりも大きいという条件を満たす金属微粒子を備えれば、量子効率の大きい発光材料のみならず、量子効率の低い発光材料に対してもプラズモン増強効果は有効である。
また、本発明の有機EL素子は、金属微粒子を電極の内部にまたは、該電極に隣接して備える構成であるので、金属微粒子を電極から離れた有機層の内部に備えた構成と比較して、製造工程を簡単なものとすることができる。
本発明の第1の実施形態の有機EL素子の層構造を模式的に示す断面図 金属構造の電極面積に対する割合を説明するための説明図 本発明の第2の実施形態の有機EL素子の層構造を模式的に示す断面図 実施例1の有機EL素子の層構造を模式的に示す断面図 比較例1−3の有機EL素子の層構造を模式的に示す断面図
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態のエレクトロルミネッセンス素子(EL素子)について説明する。なお、各図においては視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態の有機EL素子1の構造を模式的に示す断面図である。
本実施形態の有機EL素子1は、ガラス等からなる透明基板10上に、光透過性を有する陽極11、正孔注入層12、正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15、電子注入層16、陰極17がこの順に積層されてなり、さらに陽極11の正孔注入層12側の表面に、発光層14からの発光光によりプラズモン共鳴を生じる金属微粒子21からなる金属構造20を備えている。金属微粒子21は陽極11の表面に接触するように配置されており、金属微粒子21間には導電性有機層である正孔注入層12が埋め込まれている。また、金属微粒子21としては、発光層14から発光される発光光に対する散乱断面積σsが、その発光光に対する吸収断面積σAよりも大きいものが備えられている。
本有機EL素子1は、電極11、17間に電界を印加することにより、発光層14から生じる発光光が、陽極11側から射出するよう構成されている。
なお、図1は模式図であり、金属微粒子21間が正孔注入層12により完全に埋め込まれ、正孔注入層12の上面は平坦となっているように記載されているが、後述する製造方法により作製される実際の素子においては、正孔注入層12は、粒子21の表面に沿って形成されるため、正孔注入層の上面(積層面)は粒子21に沿って波打った面となり、さらに積層される各層の上面もそれに応じて波打った面となる。粒子からの膜厚が増すにつれて積層面の凹凸は緩和される。
発光層14は、陽極11、陰極17から注入された電子、正孔が再結合することにより発光を生じる発光領域であり、有機EL素子の発光層として適用可能なものであれば特に制限なく、所望の発光波長により材料を選択すればよい。但し、本発明は特に、量子効率の高い発光層材料に対して有効であり、量子効率が0.5以上であるような燐光材料を用いることが望ましい。
陽極11は、ITOあるいはZnO等の透明導電性材料からなる透明電極であってもよいし、Ag,Mgおよびこれらの金属のいずれかを主成分とする合金等からなる半透過の金属電極であってもよい。金属電極の場合、その厚みを薄く形成することにより光透過性を持たせることができる。
金属微粒子21は、発光層14から発光される発光光に対する散乱断面積σsが、その発光光に対する吸収断面積σAよりも大きいものであればよい。なお、散乱断面積σsおよび吸収断面積σAは、入射方向によっても異なるが、ここでは、いずれかの方向からの発光光に対して、σs>σAを満たせばよい。もっとも、いずれの方向からの発光光に対しても、σs>σAを満たすものであることが特に好ましい。
金属微粒子21の発光層14から発光される発光光に対する散乱断面積σsが、その発光光に対する吸収断面積σAであることにより、量子効率の大きな燐光材料に対しても、プラズモンによる増強効果を発現させることができる。
金属微粒子21の粒子径(最大長d)は、上記条件を満たす大きさであればよいが、上記条件を充足する、より好ましい最大長dは、以下の式(1)で表される。
Figure 2011175948
(ここで、λは発光波長、nは前記導電層の屈折率、nparticleは前記金属微粒子の複素屈折率である。)
式(1)中において、Imは虚数部分、Absは絶対値を意味する。
上記式(1)は、局在プラズモンを生じうる金属微粒子サイズ(粒子径が発光光波長より小)であるときに成り立つレーリー散乱の近似式より導出したものである。
この式を充足する粒子径を有する金属微粒子は量子効率の大きな発光材料に対してさらに有効にプラズモン増強効果を発現させることができる。
また、金属微粒子21は、その粒子径(最大長)dが、金属微粒子を構成する金属中での電子の平均自由工程よりも大きいものであることが望ましい。これにより、金属における発光光の吸収を抑制することができ、プラズモンによる増強をより効果的なものとすることができる。
金属微粒子21は周期的に配列されていてもよいし、ランダムに配列されていてもよい。
金属微粒子21の材料としては、発光光により表面または局在プラズモンを生じうる金属からなるものであればよく、Au,Ag,Pt、Cu,Al、およびこれらの金属のいずれかを主成分とする合金が適用可能である。
また、複数の金属微粒子21は、発光光により金属微粒子に生じた局在プラズモンのプラズモン共鳴による効果を発光層に対して生じさせることができる程度に発光層に近接して、その少なくとも一部が、発光層14の近傍に位置する。発光層14から距離が離れすぎると、発光光とのプラズモン共鳴が生じにくくなり、発光増強効果を得ることができないため、複数の金属微粒子21の少なくとも一部が、発光層14と30nm以下の距離に位置していることが望ましい。ここで、金属微粒子21と発光層14との距離は両者の最も近い部分の距離(最短距離)をいうものとする。
一方、金属微粒子21が、発光層14と接触あるいは、5nm未満の距離dで近接していると、発光層14から直接電荷移動が生じ、発光の減衰が生じる可能性が高いため、発光層14とは5nm以上離間していることが望ましい。
なお、複数の金属微粒子21は、その金属微粒子21から構成される金属構造20を電極11表面に投影させた際に、金属構造の投影像が電極表面の面積の5%以上を占めることが望ましい。図2は、金属構造20を構成する粒子21の電極11の表面11A上における投影像21aを示す投影模式図である。図2に示すように、電極表面11Aの面積に対して粒子の投影像21aが占める割合が5%以上であること好ましい。金属構造の投影像の電極表面に対する割合が小さすぎると、微粒子と発光光のプラズモン共鳴が生じにくくなり、発光増強効果及び励起寿命の短縮化による耐久性向上の効果を得ることが出来ないため、割合は5%以上である事が望ましい。なお、金属構造が、光射出する側の電極に設けられている場合には、発光光を透過する必要があるため、40%程度の透過率を呈する程度の空隙が必要であるが、光射出側でない電極に設けられている場合には、金属構造の投影像の電極表面に対する割合が100%であってもよい。
本実施形態の有機EL素子1は、上述の金属微粒子膜からなる金属構造20を、その一部が、発光層14の近傍(30nm以下の距離)となるように備えており、発光光と金属微粒子21とのプラズモン共鳴による、発光増強と上準位寿命(励起寿命)を短縮する効果を得ることができる。これにより、発光効率、励起寿命の短縮化による耐久性を向上させることができる。
なお、金属微粒子21からなる金属構造20は、基板10上に、ITO等の透明材料からなる陽極11を形成した後、陽極11上に10nm程度の厚みに金属層を蒸着し、その後、所定温度でアニールすることにより形成することができる。
本実施形態の有機EL素子は、基板10上に陽極11、上述の方法により金属構造20を形成した後、該金属構造20を有する陽極11上に正孔注入層12、正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15、電子注入層16、陽極17を順次蒸着積層することにより製造することができる。
このように、本実施形態の有機EL素子は、基板10上の陽極11に隣接して複数の金属微粒子からなる金属構造が設けられ、その金属構造を埋め込むように有機層12〜16が設けられているので、簡易な製造工程により製造することができる。
上記実施形態において、正孔注入層12、正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15、電子注入層16などの各有機層は、それぞれの機能を有する層として周知の種々の材料のなかから、適宜選択可能である。さらに、正孔ブロック層、電子ブロック層、保護層などの層が備えられていてもよい。
上記第1の実施形態の有機EL素子は、ガラス基板10上に陽極電極側から積層されてなる構成であるが、ガラス基板10上に陰極電極側から積層され、陰極電極上に複数の金属微粒子が備えられた構成であっても、金属構造の少なくとも一部が発光層の近傍となるように構成されていれば、同様の効果を得ることができる。
また、上記第1の実施形態の有機EL素子は、基板10上に透明電極が設けられ、基板側から発光光を射出するよう構成されているが、基板10に、Al、Mg、Ag,Cu、Ca等からなる光を透過しない金属電極を備え、有機層上に発光光を透過する電極を備え、基板と対向する面から発光光を射出するよう構成されていてもよい。
また、第1の実施形態の有機EL素子は、金属微粒子21が陽極11の有機層側に備えられ、導電性有機層である正孔注入層12で埋め込まれた形態であるが、金属微粒子21は、陽極11内に備えられていてもよい。
<第2の実施形態>
図3は、第2の実施形態の有機EL素子2の構成を模式的に示す断面図である。なお、以下の各図においては、第1の実施形態のEL素子1と同様の構成要素には同一の符号を付している。
有機EL素子2は、複数の金属微粒子21からなる金属構造20が陽極11上でなく、陽極11内に配置されてなるものである点で第1の実施形態の有機EL素子1と異なる。本素子2においては、陽極11内の金属微粒子21が発光層14と、発光光によるプラズモン共鳴が生じる程度に近接するよう構成されている。
本実施形態においては、陽極11は透明導電性材料からなる透明電極などの発光光により表面または局在プラズモンが生じない材料、または、金属微粒子21を構成する金属よりも発光光による表面または局在プラズモンを生じにくい金属から構成される。このとき、金属微粒子21と陽極11とはその材料が異なることから明らかに区別ができ、金属構造20の効果が顕著に現れる。
本実施形態の有機EL素子2は、第1の実施形態の場合と同様に、複数の金属微粒子を、その一部が、発光層14の近傍となるように備えているので、発光光と金属微粒子とのプラズモン共鳴による、発光増強と上準位寿命(励起寿命)を短縮する効果を得、素子の耐久性を向上させることができる。
透明導電性材料中に複数の金属微粒子21を配置する具体的な方法としては、基板上に透明電極を製膜し、その上に金属を製膜し、所定温度でアニールすることにより多数の金属微粒子を形成し、さらにこの多数の金属微粒子を覆うように透明電極を製膜する方法が挙げられる。
このように、本実施形態の有機EL素子2は、基板10上の陽極11内部に金属構造が設けられているので、簡易な製造工程により製造することができる。
上記各実施形態においては、金属微粒子21は球状であるとしたが、粒状であればよく、楕円球状、ロッド状等であってもよい。
なお、上記各実施形態においては、複数の金属微粒子21からなる金属構造20が、2つの電極11、17のうちの一方の電極11にのみ形成されている素子を説明したが、金属構造20は2つの電極11、17の両方に形成されていてもよい。
本発明の有機EL素子の実施例、比較例を作製し、以下の実験を行った。
(実施例1)
透明基板10としてガラス基板を用い、ガラス基板上に、以下の順で蒸着を行い、緑色素子である実施例1の有機EL素子を作製した。図4は実施例1の有機EL素子の層構成を模式的に示す断面図である。
まず、ガラス基板10上に陽極11としてスパッタにてITOを100nm製膜した。ITO上にAgを12nm蒸着後、N雰囲気中300℃にて60分加熱(アニール)することにより、粒子径80〜120nmの複数のAg微粒子からなる微粒子膜(金属構造)20を得た。次に、正孔注入層12として2−TNATA(4,4,4,-トリス(2-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)とF4−TCNQとを、F4−TCNQが0.3%となるように10nm蒸着し、次に、正孔輸送層13としてNPD(N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニル−〔1,1’−ビフェニル〕を10nm蒸着し、さらに、発光層14としてCBP−10%Ir(ppy)を30nm、電子輸送層15としてBAlqを150nm、電子注入層17としてLiFを1nm、陰極18としてAlを100nm順次蒸着した。2種類以上の物質を共蒸着している層においては、濃度の小さい物質の蒸着速度を調整し、所望の濃度となるようにした。蒸着速度については、水晶振動子を用いて測定を行った。
作製した積層体を、窒素ガスで置換したグローブボックス内に入れ、ガラス板および紫外線硬化型の接着剤を用いて封止を行い、実施例1の有機EL素子を完成した。
本素子の発光材料であるIr(ppy)は、緑色の燐光材料であり量子効率は0.85である。
また、有機層(屈折率1.7)中の粒子径80nmのAg微粒子の、発光光波長であるIr(ppy)ピーク波長(515nm)に対する散乱断面積σs=0.31582[μm2]、吸収断面積σA=0.004886[μm2]であり、粒子径120nmのAg微粒子の場合、散乱断面積σs=0.052894[μm2]、吸収断面積σA=0.009584[μm2]である。ここでは、いずれもσs>σAを満たしている。
(比較例1−1)
比較例1−1として、上記実施例1の構成において、Ag粒子膜(金属構造)20を備えていない有機EL素子を作製した。上記実施例1の作製工程において、Ag蒸着および300℃でのアニール工程を省くことにより作製した。
(比較例1−2)
比較例1−2として、上記実施例1の構成において、粒子径が80〜120nmのAg微粒子に代えて、粒子径が20〜30nmのAg微粒子を備えた有機EL素子を作製した。すなわち、本比較例1−2は、実施例1と比較して粒子径の小さいAg微粒子を備えるものとした。上記実施例1の作製工程における金属構造の作製工程のみ変更した。ここでは、ITO上にAgを4nm蒸着後、N雰囲気中300℃にて60分加熱(アニール)することにより、粒子径20〜30nmのAg微粒子21からなる微粒子膜(金属構造)20を得た。他の作製工程は実施例1と同様とした。
有機層(屈折率1.7)中の粒子径20nmのAg微粒子の、発光光波長であるIr(ppy)ピーク波長(515nm)に対する散乱断面積σs=2.19×10-5[μm2]、吸収断面積σA=0.000171[μm2]であり、粒子径30nmのAg微粒子の場合、散乱断面積σs=0.000327[μm2]、吸収断面積σA=0.000766[μm2]である。ここでは、いずれもσs<σAとなっている。
(比較例1−3)
比較例1−3として、上記実施例1の構成において、電極に隣接して配置された粒子径が80〜120nmのAg微粒子に代えて、40〜50nmのAg微粒子が発光層から50nm離れて配置された有機EL素子を作製した。図5は比較例1−3の有機EL素子の層構成を模式的に示す断面図である。
上記実施例1の作製工程において、Ag蒸着および300℃でのアニール工程を省き、電子輸送層16としてBAlqを150nm蒸着する工程において、まず、BAlqを50nm蒸着し、そのBAlq層上にAgを10nm蒸着し、さらにBAlq100nmを蒸着した。それ以外は実施例1と同様の作製方法とした。
有機層(屈折率1.7)中の粒子径40nmのAg微粒子の、発光光波長であるIr(ppy)ピーク波長(515nm)に対する散乱断面積σs=0.002586[μm2]、吸収断面積σA=0.002602[μm2]であり、粒子径50nmのAg微粒子の場合、散乱断面積σs=0.011887[μm2]、吸収断面積σA=0.006263[μm2]である。50nmのときσs>σAを満たすが、40nmではσs<σAとなっている。
(実施例2)
透明基板10としてガラス基板を用い、ガラス基板上に、以下の順で蒸着を行い、赤色素子である有機EL素子を作製した。
まず、ガラス基板10上に陽極11としてスパッタにてITOを100nm製膜した。ITO上にAgを12nm蒸着後、N雰囲気中300℃にて60分加熱(アニール)することにより、粒子径80〜120nmのAg微粒子21からなる微粒子膜(金属構造)20を得た。次に、正孔注入層12としてMoO3を10nm蒸着し、次に、正孔輸送層13としてNPD(N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニル−〔1,1’−ビフェニル〕を7nm蒸着し、さらに、ブロック層として化合物1を3nm蒸着し、発光層14として化合物2−5%化合物3を30nm、電子輸送層15としてBalqを55nm、電子注入層17としてLiFを1nm、陰極18としてAlを100nm順次蒸着した。なお、実施例1の場合と同様に、2種類以上の物質を共蒸着している層においては、濃度の小さい物質の蒸着速度を調整し、所望の濃度となるようにした。蒸着速度については、水晶振動子を用いて測定を行った。
作製した積層体を、窒素ガスで置換したグローブボックス内に入れ、ガラス板および紫外線硬化型の接着剤を用いて封止を行い、実施例2の有機EL素子を完成した。
上記化合物1、2および3はそれぞれ次の化学構造式で表される化合物である。
Figure 2011175948
本素子の発光材料である化合物3は赤色の燐光材料であり量子効率は0.6である。
また、有機層(屈折率1.7)中の粒子径80nmのAg微粒子の、発光光波長である化合物3のピーク波長(610nm)に対する散乱断面積σs=0.028206[μm2]、吸収断面積σA=0.003953[μm2]であり、粒子径120nmのAg微粒子の場合、散乱断面積σs=0.057049[μm2]、吸収断面積σA=0.00348[μm2]である。ここでは、いずれもσs>σAを満たしている。
(比較例2−1)
比較例2−1として、上記実施例2の構成において、Ag粒子膜(金属構造)20を備えていない有機EL素子を作製した。上記実施例2の作製工程において、Ag蒸着および300℃でのアニール工程を省くことにより作製した。
(比較例2−2)
比較例2−2として、上記実施例2の構成において、粒子径が80〜120nmのAg微粒子に代えて、粒子径が20〜30nmのAg微粒子を備えた有機EL素子を作製した。すなわち、本比較例2−2は、実施例2と比較して粒子径の小さいAg微粒子を備えるものとした。上記実施例2の作製工程における金属構造の作製工程のみ変更した。ここでは、ITO上にAgを4nm蒸着後、N雰囲気中300℃にて60分加熱(アニール)することにより、粒子径20〜30nmのAg微粒子21からなる微粒子膜(金属構造)20を得た。他の作製工程は実施例2と同様とした。
有機層(屈折率1.7)中の粒子径20nmのAg微粒子の、発光光波長である化合物3のピーク波長(610nm)に対する散乱断面積σs=3.39×10-6[μm2]、吸収断面積σA=2.66×10-5[μm2]であり、粒子径30nmのAg微粒子の場合、散乱断面積σs=4.29×10-5 [μm2]、吸収断面積σA=0.000101[μm2]である。ここでは、いずれもσs<σAとなっている。
(実施例3)
実施例3として、上記実施例2の構成において、電子輸送層15の厚みを230nmと厚膜にした点以外は同じ構成の有機EL素子を作製した。上記実施例2の作製工程においいて電子輸送層であるBalqを230nm蒸着した点以外は同様として作製した。
(比較例3)
比較例3として、上記実施例3の構成において、Ag粒子膜(金属構造)20を備えていない有機EL素子を作製した。上記実施例3の作製工程において、Ag蒸着および300℃でのアニール工程を省くことにより作製した。
なお、実施例および比較例の各素子は、両電極間でキャビティ効果を得るために、発光層が電極間に生じる発光光の定在波の腹(定在波による電界が最大となる位置)と略一致するように設計されている。実施例1、2は基本振動の定在波、実施例3は2倍振動の定在波として設計した。
各素子において、Ag微粒子の大きさは、SEM(走査型電子顕微鏡)により素子断面を観察して確認した。Ag微粒子は概ね楕円球体であった。
<発光寿命測定>
実施例および比較例の各有機EL素子について、窒素レーザ光(波長337nm、パルス幅1ns)を励起光として照射し、それぞれの発光材料からの発光寿命をストリークカメラ(浜松ホトニクス社製C4334)により測定した。
<EL外部量子効率測定>
東陽テクニカ(株)製ソースメジャーユニット2400を用いて、各有機EL素子に直流電流を通電し発光させ、その時の発光スペクトルを、トプコン社製分光放射輝度計SR−3を用いて測定した。素子の電流密度が0.25mA/cm2における外部量子効率を、波長毎の強度換算法により算出した。
<EL駆動半減寿命測定>
実施例および比較例の各有機EL素子について、それぞれ輝度2000cd/mになる直流電流値を測定し、その電流値でそれぞれの素子を連続駆動して輝度が1000cd/mになるまでの時間を測定した。
各素子についての外部量子効率、発光寿命、EL駆動半減寿命を表1に示す。表1に示すように、緑色素子である実施例1は、Ag粒子を備えない比較例1−1、散乱断面積σs<吸収断面積σAを満たさない比較例1−2、およびAg粒子が発光層に配置されている比較例1−3と比較して、外部量子効率が高くなり、発光寿命が短くなり、またEL駆動耐久性が延びていることが確認できた。
また、赤色素子である実施例2についても、Ag粒子を備えない比較例2−1、散乱断面積σs<吸収断面積σAを満たさない比較例2−2と比較して、外部量子効率が高くなり、発光寿命がなくなり、またEL駆動耐久性が延びていることが確認できた。
さらに、実施例3のように、電子輸送層の厚みを厚くした場合にも同様の効果が得られることが確認できた。
実施例1と比較例1−1、1−2、実施例2と比較例2−1、2−2から、従来量子効率の小さいものに対して良好なプラズモン増強効果を発現させると考えられていた粒子径20〜30nmの金属微粒子を備えた比較例1−2、2−2では、微粒子を備えていない比較例1−1、2−1よりも、外部量子効率、耐久性共に低下した。本実施例、比較例で用いた量子効率0.85、0.6の大きな材料に対しては、粒子径20〜30nmの金属微粒子では、プラズモン増強の効果が得られないどころか、特性が低下することが明らかになった。これは、粒子径20〜30nmでは、散乱断面積が吸収断面積よりも小さいために、金属微粒子による発光光の吸収が大きいことによると考えられる。
一方、本発明の、散乱断面積が吸収断面積よりも大きいという条件を満たす金属微粒子を備えた実施例1、2および3は、それぞれ金属微粒子を備えない比較例1−1、2−1および3よりも外部量子効率、耐久性共に向上し、プラズモン増強効果が有効に発現した。
Figure 2011175948
1、2 有機EL素子
10 透明基板
11 陽極
12 正孔注入層
13 正孔輸送層
14 発光層
15 電子輸送層
16 電子注入層
17 陰極
20 金属構造
21 金属微粒子

Claims (8)

  1. 2つの電極の間に、該電極間への電界の印加により発光する発光層を含む複数の有機層を備えてなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
    前記2つの電極の少なくとも一方の電極の内部、または前記有機層側に該電極に隣接し、かつ導電性の有機層の内部に、前記発光層からの発光光により局在プラズモンを生じる複数の金属微粒子が備えられており、
    該複数の金属微粒子の少なくとも一部が、前記発光層の近傍に位置しており、
    前記金属微粒子の前記発光層から発光される発光光に対する散乱断面積σsが、該発光光に対する吸収断面積σAよりも大きいことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
  2. 前記金属微粒子の最大長dが、下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
    Figure 2011175948
    (ここで、λは発光波長、nは前記導電層の屈折率、nparticleは前記金属微粒子の複素屈折率である。)
  3. 前記金属微粒子の最大長dが、該金属微粒子を構成する金属中での電子の平均自由工程よりも大きいことを特徴とする請求項1または2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  4. 前記発光層が有機燐光材料からなるものであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  5. 前記一方の電極が、透明導電性材料からなることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  6. 前記一方の電極が、前記金属微粒子を構成する金属よりも、前記発光光による表面プラズモンを生じにくい導電性材料からなることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  7. 前記金属微粒子が、前記一方の電極の面積の5%以上の面積を占めることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  8. 前記一方の電極が、基板上に形成されてなることを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
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