JP2011165347A - 電解質、電解質膜、膜−電極接合体及び燃料電池 - Google Patents

電解質、電解質膜、膜−電極接合体及び燃料電池 Download PDF

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Abstract

【課題】高温低湿度条件下においても高いイオン伝導性を発現すると共に、膜強度、柔軟性、機械的耐久性及び成形性に優れる電解質を提供する。
【解決手段】炭化水素系疎水性ポリマー(P)と、一般式M1-xx2y7z(式中、Mは、Sn、Ti、Si、Ge、Pb、Zr及びHfからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表し、JはAl及び/又はInを表し、xは0.001〜0.5の範囲の数値を表し、y及びzは各々独立に0.9〜1.1の数値を表す。)で表されるピロリン酸金属塩(X)とを含む電解質であって、前記炭化水素系疎水性ポリマー(P)と前記ピロリン酸金属塩(X)との質量比[(P)/(X)]が70/30〜10/90である電解質。
【選択図】なし

Description

本発明は、電解質、該電解質からなる電解質膜、並びに該電解質膜を用いた膜−電極接合体及び燃料電池に関する。
近年、エネルギー及び/又は環境問題の抜本的解決策として、更には将来の水素エネルギー時代の中心的エネルギー変換システムとして、燃料電池技術が注目されている。特に固体高分子型燃料電池は、小型軽量化が可能である等の理由から、電気自動車用の駆動電源や携帯機器用の電源としての利用、更に電気と熱を同時利用する定置用電源等への適用が検討されている。
固体高分子型燃料電池は、一般に次のように構成される。まず、イオン伝導性を有する高分子を含む電解質からなる電解質膜の両側に、白金属の金属触媒を担持したカーボン粉末とイオン伝導性を有する高分子を含む電解質からなるイオン伝導性バインダーとを含む触媒層がそれぞれ形成される。当該イオン伝導性バインダーは、結着材としての役割及びイオン伝導を担う。各触媒層の外側には、燃料ガス及び酸化剤ガスをそれぞれ通気する多孔性材料であるガス拡散層がそれぞれ形成される。ガス拡散層としてはカーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられる。触媒層とガス拡散層を一体化したものはガス拡散電極と呼ばれ、また一対のガス拡散電極をそれぞれ触媒層が電解質膜と向かい合うように電解質膜に接合した構造体は、「膜−電極接合体(MEA;Membrane Electrode Assembly)」と呼ばれている。この膜−電極接合体の両側には、極室分離と電極への燃料供給流路の役割を兼ねた導電性のセパレータ材が配置される。電極面には、燃料ガス又は酸化剤ガス(例えば空気)を供給するガス流路が膜−電極接合体とセパレータとの接触部分又はセパレータ内に形成されている。
固体高分子型燃料電池では、一方の電極(燃料極、アノード)に水素やメタノール等の燃料を供給し、他方の電極(酸素極、カソード)に空気等の酸素を含有する酸化剤ガスを供給して発電が行われる。すなわち、燃料極において燃料がイオン化されてプロトン及び電子が生じ、プロトンは電解質膜を通り、電子は、両電極をつなぐことによって形成される外部電気回路を移動して酸素極へ送られて酸化剤と反応し、その際に水が生成する。このようにして、燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換して取り出すことができる。
これらの固体高分子型燃料電池のうち、水素を燃料とするものは高出力化が容易で幅広い用途への展開が期待されている。アノード及びカソードで電気化学反応を担う触媒の活性は、高温であるほど高まることが知られており、更なる高出力化及び/又は高価な貴金属触媒の低減には高温で燃料電池を運転することが有効である。しかしながら、高温条件下においては電解質膜の含水量が低下する傾向があり、このため電解質膜のイオン伝導度が低下し、発電時のセル抵抗(セル電気抵抗)が高くなる問題がある。したがって、高性能で安価な燃料電池の実現には、高温低湿度条件下においても高いイオン伝導度を発現可能な電解質膜が要求される。
電解質膜としては、化学的に安定であるという理由からパーフルオロカーボンスルホン酸系高分子であるナフィオン(Nafion,デュポン社の登録商標。以下同様)が多く用いられている。しかしながら、ナフィオンは耐熱性に乏しいことに加えて、高いイオン伝導度を発現させるためには高湿条件が必要である。また、ナフィオンはフッ素樹脂であるため、合成時及び廃棄時に環境安全性への配慮が必要であり、かつ高価である。そのため、新規な電解質膜の開発が望まれている。
一方、非フッ素樹脂をベースとした電解質が多数提案されている。例えば、耐熱性芳香族ポリマーであるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)をスルホン化したもの(例えば特許文献1を参照)、ポリエーテルスルホン(PES)をスルホン化したもの(例えば非特許文献1を参照)等のスルホン化エンジニアリングプラスチック系電解質が挙げられる。一般に、スルホン化エンジニアリングプラスチック系電解質は、高い耐熱性を有することが知られている。
また、イオン伝導性を有する4価金属カチオンを主たる構成成分として有するピロリン酸金属塩は、高温低湿度条件下でも安定で、かつ実質的にイオンの伝導に水を必要としないことから、高温低湿度条件下で使用する電解質として好適である。そこでこれに、機械的耐久性及び成形性を改善するためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に代表されるフッ素樹脂をバインダーとして複合させた電解質膜の開発が検討されている(例えば特許文献2及び非特許文献2を参照)。
更に、スルホン化エンジニアリングプラスチック系電解質の高弾性率と高耐熱性を活用し、スルホン化エンジニアリングプラスチック系電解質と、ピロリン酸金属塩とを含む電解質を材料とする電解質膜も提案されている(例えば特許文献3を参照)。
特開平6−93114号公報 特開2008−53224号公報 特開2008−218408号公報
"Journal of Membrane Science",Vol.197,p.231(2002) "Journal of The Electrochemical Society",Vol.154,p.B1265−B1269(2007)
しかしながら、特許文献1や非特許文献1に記載されているようなスルホン化エンジニアリングプラスチック系電解質は、ナフィオンと同様に低湿条件下でのイオン伝導度が不十分であるという問題がある。また、スルホン化エンジニアリングプラスチック系電解質は、その剛直さ故に、成形性に乏しく、電解質膜の機械的耐久性に改善が必要である。
また、特許文献2や非特許文献2に記載されているようなピロリン酸金属塩とフッ素樹脂とを複合させた電解質膜においては、ピロリン酸金属塩が、イオン伝導性を持たないフッ素樹脂で被覆されるため、高いイオン伝導度を発現するためにはピロリン酸金属塩の質量比を高めざるを得ない。そのため、バインダーであるフッ素樹脂の質量比が低下することに伴い電解質膜の強度が低下し、イオン伝導度と膜強度とを両立する電解質膜を作製するのは困難である。
更に、特許文献3に記載されているようなスルホン化エンジニアリングプラスチック系電解質とピロリン酸金属塩とを含む電解質膜は、バインダーを用いなければ機械的耐久性及び成形性が不十分なため、イオン伝導度を高めることが困難である。また、上記バインダーには、フッ素樹脂であるPTFEが使用されており、バインダーの合成、廃棄の際に環境に負荷を与えるという問題がある。加えて、上記電解質膜においては、スルホン酸基の脱離温度以上ではイオン伝導度や膜強度等が低下し、脱離した低分子化合物によって触媒が被毒され発電性能が低下するため、使用可能な温度範囲が狭くなるという問題がある。
したがって、本発明の課題は、高温低湿度条件下においても高いイオン伝導性を発現すると共に、膜強度、柔軟性及び機械的耐久性に優れ、成形性(組立性、電極との接合性、締付性等)にも優れる電解質、該電解質からなる電解質膜、並びに該電解質膜を使用した膜−電極接合体及び燃料電池を提供することにある。
本発明は、以下の電解質、電解質膜、膜−電極接合体及び燃料電池を提供する。
[1]炭化水素系疎水性ポリマー(P)と、
一般式M1-xx2y7z(式中、Mは、Sn、Ti、Si、Ge、Pb、Zr及びHfからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表し、JはAl及び/又はInを表し、xは0.001〜0.5の範囲の数値を表し、y及びzは各々独立に0.9〜1.1の数値を表す。)で表されるピロリン酸金属塩(X)
とを含む電解質であって、
前記炭化水素系疎水性ポリマー(P)と前記ピロリン酸金属塩(X)との質量比[(P)/(X)]が70/30〜10/90であることを特徴とする電解質。
[2]前記炭化水素系疎水性ポリマー(P)の90質量%以上が芳香族ビニル系重合体セグメント(A)及び柔軟性の脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)を含み、当該重合体セグメント(A)及び(B)の質量比[(A)/(B)]が10/90〜50/50である、上記[1]に記載の電解質。
[3]前記炭化水素系疎水性ポリマー(P)が、水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基を0.001〜0.1mmol/gの割合で有する、上記[1]又は[2]に記載の電解質。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の電解質からなる電解質膜。
[5]少なくとも上記[4]に記載の電解質膜の両面に電極を配置してなる膜−電極接合体。
[6]少なくとも上記[5]に記載の膜−電極接合体の両面に導電性のセパレータ材を配置してなる燃料電池。
本発明の電解質及び当該電解質からなる電解質膜は、水の沸点である100℃以上かつ無加湿条件下においても高いイオン伝導度を発現する。また、本発明の電解質及び電解質膜は、柔軟性、成形性及び加工性に優れ、高い機械的耐久性を有する。したがって、本発明の電解質膜を使用した膜−電極接合体は、水素を燃料とし、高温低湿度条件下で動作する燃料電池において優れた性能を発揮し得る。加えて、本発明の電解質は、高イオン伝導度及び燃料電池の水分管理の観点から、メタノール水溶液を燃料とした燃料電池用電解質膜、及び燃料電池電極触媒層に用いられるイオン伝導性バインダーとして用いることも可能である。
[炭化水素系疎水性ポリマー(P)]
本発明の電解質は炭化水素系疎水性ポリマー(P)を含む。当該炭化水素系疎水性ポリマー(P)は、電解質膜の性能に影響する官能基を含む割合が小さいため、官能基の脱離が起こるような高温条件下においても電解質膜の性能が低下しにくい。そのため、本発明の電解質を材料とする電解質膜は熱安定性が高く、高温条件下においてもイオン伝導度、引張強度、破断伸度等の物性の低下が起こりにくい。
本発明の電解質に含まれる炭化水素系疎水性ポリマー(P)は、炭化水素系の繰返し単位を主たる構成成分とする疎水性のポリマーである。炭化水素系疎水性ポリマー(P)を構成する繰返し単位のうち炭化水素系の繰返し単位の割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。また、炭化水素系疎水性ポリマー(P)における炭素含有率と水素含有率との和は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。
炭化水素系疎水性ポリマー(P)は、電解質膜の性能に影響する官能基を含む割合が小さいことが好ましい。特に、炭化水素系疎水性ポリマー(P)における親水性基(水酸基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基等)の含有量は、好ましくは0.1mmol以下、より好ましくは0.05mmol以下、更に好ましくは0.01mmol以下である。下限は特に限定されないが、好ましくは0mmol以上、より好ましくは0.001mmol以上である。
炭化水素系疎水性ポリマー(P)は特に限定されず、例えば付加重合系高分子、重縮合系高分子、重付加系高分子等の高分子骨格を有するものでもよい。
付加重合系高分子の例としては、ポリビニル脂肪族、ポリビニル芳香族、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリビニルエステル、ポリビニルエーテル等が挙げられ、重縮合系高分子の例としては、ポリエーテル、ポリスルフィド、ポリアミン、ポリシラン、ポリシロキサン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアゾメチン、ポリヒドラジド、ポリ酸無水物、ポリチオエステル、ポリチオカーボネート、ポリチオアミド、ポリホスホネート、ポリスルホンアミド、ポリホスホン酸エステル、ポリリン酸エステル、ポリホスホンアミド、ポリフェニレン、ポリケトン、ポリスルホン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリベンゾアゾール、ポリオキサゾール、ポリチアゾール、ポリイミダゾール、ポリピラゾール、ポリオキサジアゾール、ポリトリアゾール、ポリトリアジン、ポリイミジン、ポリキノリン、ポリベンゾオキサジノン、ポリキナゾロン、ポリキナゾリンジオン、ポリキノキサリン、ポリフタラジノン等が挙げられ、重付加系高分子の例としては、ポリウレタン、ポリアミド等が挙げられる。
前記ポリビニル脂肪族の例としては、炭素数2〜8のアルケン、炭素数5〜8のシクロアルケン、炭素数7〜10のビニルシクロアルケン、炭素数4〜8の共役アルカジエン、炭素数5〜8の共役シクロアルカジエン等の重合体が挙げられ、前記ポリビニル芳香族の例としては、ポリスチレン、ポリビニルナフタレン、ポリビニルアントラセン、ポリビニルフェナントレン、ポリビニルビフェニル、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリ(1−メチル−1−ナフチルエチレン)、ポリ(1−メチル−1−ビフェニリルエチレン)等が挙げられ、前記ポリ(メタ)アクリル酸エステルの例としては、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル等が挙げられ、前記ポリビニルエステルの例としては、ポリ酢酸ビニル、ポリプロピオン酸ビニル、ポリ酪酸ビニル、ポリピバリン酸ビニル等が挙げられ、前記ポリビニルエーテルの例としては、ポリメチルビニルエーテル、ポリイソブチルビニルエーテル等が挙げられる。
前記ポリビニル脂肪族を構成するモノマーの具体例として、炭素数2〜8のアルケンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−オクテン、2−オクテン等が挙げられ、炭素数5〜8のシクロアルケンとしては、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等が挙げられ、炭素数7〜10のビニルシクロアルケンとしては、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘプテン、ビニルシクロオクテン等が挙げられ、炭素数4〜8の共役アルカジエンとしては、1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,4−ヘプタジエン、3,5−ヘプタジエン等が挙げられ、炭素数5〜8の共役シクロアルカジエンとしては、シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン等が挙げられる。
高分子骨格が異なる二種以上の炭化水素系疎水性ポリマーを組み合わせてもよい。炭化水素系疎水性ポリマーは、付加重合、配位重合、グループトランスファー重合、光重合、放射線重合、重縮合、開環重合、重付加、電解重合、酸化重合等により合成されるが、精密重合の簡便性、及び適用可能な重合手法の多様性からビニル系重合体が好ましい。
炭化水素系疎水性ポリマー(P)の分子量は、精密重合の容易さ、電解質膜の膜強度、成膜性、加工性の観点から適宜選択されるが、ポリスチレン換算の数平均分子量として好ましくは5,000〜1,000,000、より好ましくは20,000〜700,000、更に好ましくは50,000〜500,000である。
また、二種以上の分子量の異なる炭化水素系疎水性ポリマーを組み合わせてもよい。分子量の異なるポリマーを組み合わせて使用することにより、電解質膜の加工性や膜強度等を制御することができる。
炭化水素系疎水性ポリマー(P)は、二種以上の繰返し単位からなる共重合体であってもよい。繰返し単位は本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、炭化水素系の繰返し単位の割合が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがより一層好ましい。これらの繰返し単位の共重合方法には特に限定はなく、ランダム共重合でもブロック共重合でもグラフト共重合でもテーパード共重合でもよい。
また、炭化水素系疎水性ポリマー(P)の90質量%以上が、芳香族ビニル系重合体セグメント(A)及び柔軟性の脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)を含み、当該重合体セグメント(A)及び(B)の質量比[(A)/(B)]が10/90〜50/50であることが好ましい。この場合、該炭化水素系疎水性ポリマー(P)中において重合体セグメント(A)及び(B)がそれぞれ分子間相互作用で自己組織化し、芳香族ビニル系重合体セグメント(A)と脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)とが相分離する。なお、本発明において「相分離」とは、微視的な意味での相分離を意味し、より詳しくは形成されるドメインサイズが可視光の波長(380〜780nm)以下であるミクロ相分離を意味する。重合体セグメント(A)及び(B)の相分離により、芳香族ビニル系重合体セグメント(A)が膜強度や寸法安定性等に寄与する拘束相となり、脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)が柔軟性、加工性、成膜性等に寄与する柔軟相となる。その結果、炭化水素系疎水性ポリマー中に複数の物性が共存し、相反する物性の両立が可能となるため、電解質膜の膜強度、柔軟性、強靭性を同時に向上させることができる。
重合体セグメント(A)及び(B)の質量比[(A)/(B)]は、電解質膜の膜強度、柔軟性、加工性等の観点から、好ましくは10/90〜50/50、より好ましくは15/85〜45/55、更に好ましくは20/80〜40/60である。なお、芳香族ビニル系重合体セグメント(A)の比率が高い場合には、電解質膜の引張強度、寸法安定性等が向上する傾向があり、脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)の比率が高い場合には、電解質膜の破断伸度が向上し、ハンドリング、加工性が良好になる傾向がある。
また、重合体セグメント(A)及び(B)の質量比が異なる二種以上の炭化水素系疎水性ポリマーを組み合わせてもよい。
芳香族ビニル系重合体セグメント(A)及び脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)の個数は、同一でも異なっていてもよい。また、複数の芳香族ビニル系重合体セグメント(A)及び脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)を有する場合には、各重合体セグメント同士の構造や分子量等が互いに同じであっても又は異なっていてもよい。
炭化水素系疎水性ポリマーの一次構造中の重合体セグメントの配列は、電解質膜の膜強度、柔軟性、加工性、機械的耐久性等の観点から適宜選択される。一次構造末端には芳香族ビニル系重合体セグメント(A)と脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)のどちらが配置されていてもよく、両末端に同一の重合体セグメントが配置されていてもよく、異なる重合体セグメントが配置されていてもよい。一次構造末端に脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)が存在する場合、電解質膜の加工性、成膜性が良好になる傾向があり、芳香族ビニル系重合体セグメント(A)が一次構造末端に存在する場合、電解質膜の膜強度、寸法安定性が良好になる傾向がある。重合体セグメントの配列は対称性があってもなくてもよい。少なくとも1つの脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)の両末端が一次構造末端を構成しない場合、電解質膜の膜強度、寸法安定性が一層良好になる傾向があり、該一次構造の両末端に芳香族ビニル系重合体セグメント(A)が存在する場合、さらに良好になる傾向がある。
重合体セグメントの配列、重合体セグメントの個数、及び/又は重合体セグメントの個数比率が異なる二種以上の炭化水素系疎水性ポリマーを組み合わせてもよい。
(芳香族ビニル系重合体セグメント(A))
前記芳香族ビニル系重合体セグメント(A)を構成する芳香族ビニル系化合物単位としては、下記一般式(1)で表される単位であることが、精密重合の容易性、本発明の電解質の耐熱性、電解質膜の膜強度等の観点から好ましい。主たる繰返し単位は下記一般式(1)で表される単位から選ばれる一種から構成されていてもよいし、二種以上から構成されていてもよい。
Figure 2011165347
(式中、R1は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は1〜3個の置換基を有していてもよい炭素数6〜14のアリール基を表す。R2〜R4は各々独立に、水素原子、1〜3個の置換基を有していてもよい炭素数6〜14のアリール基、又は多環構造を有する脂環式炭化水素基を表す。)
1における炭素数1〜4のアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
1〜R4における炭素数6〜14のアリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基、インデニル基、ビフェニリル基が挙げられる。該アリール基が1〜3個の置換基を有する場合の置換基としては、炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等)、炭素数1〜4のハロゲン化アルキル基(クロロメチル基、2−クロロエチル基、3−クロロプロピル基等)が挙げられる。
2〜R4における「多環構造を有する脂環式炭化水素基」とは、二個以上の脂肪族環(脂環)を有する炭化水素基を意味する。多環構造を有する脂環式炭化水素基(以下、単に「多脂環式炭化水素基」ということがある)は、本発明の電解質の耐熱性向上の観点から、橋架け脂環式炭化水素基、すなわち隣り合う2つの脂環が二個以上の炭素原子を互いに共有している炭化水素基であることが好ましい。
多脂環式炭化水素基の炭素数は、好ましくは5〜30、より好ましくは6〜20、更に好ましくは7〜12である。
多脂環式炭化水素基のベンゼン環での結合位置は、ベンゼン環におけるビニル結合[−C(R1)=CH2]の結合部位に対してオルト位、メタ位またはパラ位のいずれであってもよい。そのうちでも、重合反応性等の点から、多脂環式炭化水素基はパラ位に結合していることが好ましい。
多脂環式炭化水素基の具体例としては、アダマンチル基(トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デシル基)、ビアダマンチル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、ビシクロノニル基、ビシクロ〔2.1.0〕ペンチル基、ビシクロ〔3.2.1〕オクチル基、トリシクロ〔2.2.1.02,6〕ヘプチル基等を挙げることができる。これらの多脂環式炭化水素基は、場合によりアルキル基、ハロゲン原子、アルコキシル基等により置換されていてもよい。
上記芳香族ビニル系化合物単位を与える芳香族ビニル系化合物の具体例としては、スチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ビニルフェナントレン、ビニルビフェニル、α−メチルスチレン、1−メチル−1−ナフチルエチレン、1−メチル−1−ビフェニリルエチレンが挙げられる。上記芳香族ビニル系化合物単位を与える芳香族ビニル系化合物は各単独で用いても二種以上組み合わせて用いてもよい。二種以上を共重合させる場合の形態はランダム共重合でもブロック共重合でもグラフト共重合でもテーパード共重合でもよい。
芳香族ビニル系重合体セグメント(A)は、本発明の効果を損なわない範囲内で、芳香族ビニル系化合物単位以外に、一種以上の他の単量体単位を含んでいてもよい。かかる他の単量体単位を与える単量体の例としては、脂肪族ビニル系化合物(具体例としては、後述の脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)の説明で列挙される化合物が挙げられる)、(メタ)アクリル酸エステル類((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等)、ビニルエーテル類(メチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等)が挙げられる。芳香族ビニル系化合物と上記他の単量体との共重合形態はランダム共重合である必要がある。かかる他の単量体の使用量は、芳香族ビニル系化合物単位と他の単量体との合計に対して、好ましくは50質量%未満、より好ましくは30質量%未満、更に好ましくは10質量%未満である。
芳香族ビニル系重合体セグメント(A)の分子量は、電解質膜の性状、要求性能、他の重合体成分等によって適宜選択されるが、ポリスチレン換算の数平均分子量として好ましくは500〜50,000、より好ましくは2,000〜30,000、更に好ましくは5,000〜20,000である。
また、芳香族ビニル系重合体セグメント(A)は、本発明の効果を損なわない範囲内で任意の方法により架橋されていてもよい。架橋を導入することにより、電解質膜の膜強度が向上すると共に、熱膨張が抑制され、低温時と高温時の力学特性(引張特性等)の変化が小さくなる傾向がある。
(脂肪族ビニル系重合体セグメント(B))
前記脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)は、ガラス転移点あるいは軟化点が好ましくは50℃以下、より好ましくは20℃以下、更に好ましくは10℃以下のいわゆるゴム状重合体である。脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)の主たる繰返し化合物単位は、柔軟相を形成し得る化合物単位であることが好ましい。脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)が柔軟相を形成することによって、電解質が全体として弾力性を帯びかつ柔軟になり、膜−電極接合体や燃料電池の作製にあたって成形性(組立性、接合性、締付性等)を改善することができる。
脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)を形成し得る脂肪族系化合物単位としては、炭素数2〜8のアルケン単位、炭素数5〜8のシクロアルケン単位、炭素数7〜10のビニルシクロアルカン単位、炭素数7〜10のビニルシクロアルケン単位が挙げられる。これらの単位を与える脂肪族系化合物は単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。二種以上を共重合させる場合の形態はランダム共重合でもブロック共重合でもグラフト共重合でもテーパード共重合でもよい。また、(共)重合に供する単量体が炭素−炭素二重結合を2つ有する場合にはそのいずれが重合に用いられてもよく、共役アルカジエンの場合には1,2−結合もしくは3,4−結合であっても1,4−結合であってもよく、またガラス転移点あるいは軟化点が50℃以下であれば、1,2−結合もしくは3,4−結合と1,4−結合との割合にも特に制限はない。
脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)は、得られる電解質膜に、柔軟性、弾力性ひいては膜−電極接合体や燃料電池の作製に当たって良好な成形性を与える観点から、炭素数2〜8のアルケン単位、炭素数4〜8の共役アルカジエン単位から選ばれる少なくとも一種を主たる繰返し単位とする重合体であることが好ましく、炭素数2〜6のアルケン単位、炭素数4〜8の共役アルカジエン単位から選ばれる少なくとも一種を主たる繰返し単位とする重合体であることがより好ましい。上記で、アルケン単位として最も好ましいのはイソブテン単位、1,3−ブタジエン単位の二重結合を飽和した構造単位(1−ブテン単位、2−ブテン単位)、イソプレン単位の二重結合を飽和した構造単位(2−メチル−1−ブテン単位、3−メチル−1−ブテン単位、2−メチル−2−ブテン単位)であり、特に柔軟性の高さの観点から、1,3−ブタジエン単位の二重結合を飽和した構造単位(1−ブテン単位、2−ブテン単位)、イソプレン単位の二重結合を飽和した構造単位(2−メチル−1−ブテン単位、3−メチル−1−ブテン単位、2−メチル−2−ブテン単位)が最も好ましい。共役アルカジエン単位として最も好ましいのは1,3−ブタジエン単位及びイソプレン単位である。
脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)の主たる繰返し単位が、ビニルシクロアルケン単位や共役アルカジエン単位や共役シクロアルカジエン単位である場合のように炭素−炭素二重結合を有している場合には、本発明の電解質膜を用いた膜−電極接合体の発電性能、耐熱劣化性の向上等の観点から、かかる炭素−炭素二重結合は、好ましくはその30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、更に好ましくは80モル%以上が、水素添加されていることが好ましい。炭素−炭素二重結合の水素添加率は、一般に用いられている方法、例えば、ヨウ素価測定法、1H−NMR測定等によって算出することができる。
脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)において、上記した柔軟相を形成し得る脂肪族系化合物単位を与えるビニル系化合物について述べる。炭素数2〜8のアルケンの例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−オクテン、2−オクテンが挙げられ、炭素数5〜8のシクロアルケンの例としては、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンが挙げられ、炭素数7〜10のビニルシクロアルケンの例としては、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘプテン、ビニルシクロオクテンが挙げられ、炭素数4〜8の共役アルカジエンの例としては、1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,4−ヘプタジエン、3,5−ヘプタジエンが挙げられ、炭素数5〜8の共役シクロアルカジエンの例としては、シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエンが挙げられる。
また、脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)は、電解質膜に柔軟性、弾力性を与えるという脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)の目的を損なわない範囲で、上記柔軟相を形成し得る脂肪族ビニル系化合物単位以外に、一種以上の他の単量体単位を含んでいてもよい。かかる他の単量体単位を与える単量体としては、例えば芳香族ビニル系化合物(具体例としては、前述の芳香族ビニル系重合体セグメント(A)の説明で列挙された化合物が挙げられる)、塩化ビニル等のハロゲン含有ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル類((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等)、ビニルエーテル類(メチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等)が挙げられる。この場合、柔軟相を形成し得る脂肪族系化合物と他の単量体との共重合形態はランダム共重合であることが必要である。かかる他の単量体の使用量は、柔軟相を形成し得るビニル系化合物と他の単量体との合計に対して、好ましくは50質量%未満、より好ましくは30質量%未満、更に好ましくは10質量%未満である。
脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)の分子量は、電解質膜の性状、要求性能、他の重合体成分等によって適宜選択されるが、ポリスチレン換算の数平均分子量として好ましくは10,000〜300,000、より好ましくは20,000〜200,000、更に好ましくは30,000〜100,000である。
また、脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)は、本発明の効果を損なわない範囲内で任意の方法により架橋されていてもよい。架橋を導入することにより、電解質膜の膜強度が向上すると共に、熱膨張が抑制され、低温時と高温時の力学特性(引張特性等)の変化が小さくなる傾向がある。
芳香族ビニル系重合体セグメント(A)及び/又は脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)を構成する主たる繰返し単位が異なる二種以上の炭化水素系疎水性ポリマーを組み合わせてもよい。
前記炭化水素系疎水性ポリマー(P)は、水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基を0.001〜0.1mmol/gの割合で有していてもよい。上記官能基は、直接イオン伝導に対する寄与は小さいが、ピロリン酸金属塩(X)に対する親和性が高い傾向にある。そのため、炭化水素系疎水性ポリマー(P)が所定量の上記官能基を有する場合には、炭化水素系疎水性ポリマー(P)とピロリン酸金属塩(X)の混合液の均一性が向上して、炭化水素系疎水性ポリマー(P)中のピロリン酸金属塩(X)の分散性が向上すると共に、炭化水素系疎水性ポリマー(P)とピロリン酸金属塩(X)との密着性が向上し、電解質膜の膜強度、寸法安定性、イオン伝導度が向上する傾向にある。特に、官能基がアミノ基である場合には、ピロリン酸金属塩(X)中に含まれる余剰なリン酸と相互作用を形成し、余剰リン酸の溶出を抑制する効果が得られる。
前記官能基の導入位置に関しては特に制限がなく、高分子骨格に直接結合していてもよく、高分子骨格からのびた側鎖に結合していてもよく、高分子鎖末端に結合していてもよい。また、官能基の種類及び/又は導入位置の異なる二種類以上の炭化水素系疎水性ポリマーを組み合わせて使用してもよい。
高分子鎖末端に官能基を有する場合、炭化水素系疎水性ポリマー(P)とピロリン酸金属塩(X)との間に形成される相互作用が架橋点のように機能するため、少ない官能基でも電解質膜の強度が向上する効果が得られる。また、官能基の導入箇所は高分子鎖の片方の末端であっても両方の末端であってもよい。両末端にある場合は炭化水素系疎水性ポリマー(P)とピロリン酸金属塩(X)との相互作用形成箇所が増えるため、電解質膜の膜強度は更に増加する傾向にある。
ピロリン酸金属塩との親和性及び炭化水素系疎水性ポリマーの強度、耐熱性、加工性等の観点から、高分子鎖末端に結合した官能基としては、水酸基、アミノ基、チオール基等が好適であり、水酸基が特に好適である。
官能基の導入箇所が高分子鎖末端である場合には、炭化水素系疎水性ポリマーの分子量が小さいほど高分子鎖末端の官能基が膜強度等の物性に及ぼす影響が大きくなる。分子量低下に伴う影響を加味すると、高分子鎖の片方の末端に官能基を有する場合の分子量は、好ましくは10,000〜500,000、より好ましくは20,000〜300,000、更に好ましくは50,000〜150,000である。高分子鎖の両方の末端に官能基を有する場合の分子量は、好ましくは5,000〜300,000、より好ましくは10,000〜200,000、更に好ましくは30,000〜100,000である。
炭化水素系疎水性ポリマー(P)の90質量%以上が芳香族ビニル系重合体セグメント(A)及び柔軟性の脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)を含み、当該重合体セグメント(A)及び(B)の質量比[(A)/(B)]が10/90〜50/50である場合には、前記官能基の導入位置は芳香族ビニル系重合体セグメント(A)及び/又は脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)のいずれでもよい。芳香族ビニル系重合体セグメント(A)に前記官能基が含まれる場合、芳香族ビニル系重合体セグメント(A)の拘束相としての効果が増強され、電解質膜の膜強度が向上し、軟化温度が増加する傾向にあり、脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)に前記官能基が含まれる場合には、脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)の柔軟相としての効果が緩和され、電解質膜の弾性率が向上し、高温条件下での耐クリープ性が向上する傾向にある。
なお、本発明の電解質は、本発明の効果を損なわない限り、前記炭化水素系疎水性ポリマー(P)以外の少なくとも一種のポリマーを含有していてもよい。炭化水素系疎水性ポリマー(P)以外に含有していてもよいポリマーとしては、ピロリン酸金属塩との親和性に優れた水酸基、アミノ基、チオール基等の官能基を有するポリマー、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基等のイオン伝導性基を有するポリマー、両親媒性ポリマー等が挙げられる。
高温低湿度条件下におけるイオン伝導度、電解質膜の膜強度等の観点から、かかる炭化水素系疎水性ポリマー(P)以外のポリマーの含有量は、本発明の電解質の好ましくは30質量%未満、より好ましくは20質量%未満、更に好ましくは10質量%未満である。
[ピロリン酸金属塩(X)]
本発明の電解質はピロリン酸金属塩(X)を含む。これにより、水を介さないイオン伝導機構が発現する。そのため、プロトンに配位した含有水の電気浸透現象が抑制され、カソードが水分過剰となり酸化剤である酸素の拡散阻害をもたらすフラッディング現象を緩和することが可能である。したがって、本発明の電解質より得られた電解質膜を用いることにより、水分管理の観点からも燃料電池発電性能を向上させることができる。
本発明の電解質に含まれるピロリン酸金属塩(X)は、下記一般式(2)で表される。
1-xx2y7z (2)
(式中、Mは、Sn、Ti、Si、Ge、Pb、Zr及びHfからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表し、JはAl及び/又はInを表し、xは0.001〜0.5の範囲の数値を表し、y及びzは各々独立に0.9〜1.1の数値を表す。)
前記一般式(2)で表されるピロリン酸金属塩(X)は、金属元素Mを有するピロリン酸塩に対して、この金属元素Mの一部をドーパント元素Jで置換されてなるピロリン酸金属塩である。
一般式(2)中、金属元素Mは、ピロリン酸金属塩の安定性及び高水準のプロトン伝導性の観点から、好ましくはSn、Ti、Ge及びZrからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、より好ましくはSn、Ti及びZrからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、更に好ましくはSn及び/又はTi、特に好ましくはSnである。
Jは、ピロリン酸金属塩の安定性及び高水準のプロトン伝導性の観点で、MがSnを含有する場合を考慮すると、ドーパント元素Jは、好ましくはAlである。
xは、ドーパント元素Jの置換割合に相当し、Mの種類にもよるが、通常0.001〜0.5の範囲の数値を表し、好ましくは0.001〜0.3、より好ましくは0.02〜0.2である。MがSnでかつJがAlの場合においては、より高いプロトン伝導度を示す範囲として、xは、好ましくは0.01〜0.1、より好ましくは0.02〜0.08、更に好ましくは0.03〜0.07である。
y及びzは、各々独立に0.9〜1.1の数値を表し、前記一般式(2)における元素の組成比、すなわちM:J:P:Oのモル比[(1−x):x:2:7]において、イオン伝導性を阻害しない範囲で、P及びOの成分のそれぞれが、2及び7のそれぞれのモル比に対して10%程度以内で増減されていてもよいことを意味する。y及びzは、好ましくは1である。
前記ピロリン酸金属塩(X)の製造方法としては、公知の方法を適宜選択して用いることができる。一例を挙げると、原料として、Mを含有する化合物と、Jを含有する化合物と、リン化合物を用い、以下の(a)及び(b)の工程をこの順で含むようにしてピロリン酸金属塩(X)を製造することができる。
(a):Mを含有する化合物とJを含有する化合物とリン化合物(例えばリン酸)とを反応させ、反応物を得る工程。
(b):工程(a)で得られた反応物を熱処理する工程。
Mを含有する化合物としては、Mの種類により適宜選択すればよいが、酸化物を用いるか、又は水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩等、高温で分解及び/又は酸化して酸化物になり得るものを用いることができる。
MがTi、Zr、Ge又はSnである場合、Mを含有する化合物としては、塩化チタン(IV)、ヨウ化チタン(IV)、酸化チタン(IV)、チタン(IV)エトキシド、臭化ジルコニウム(IV)、塩化ジルコニウム(IV)、酸化ジルコニウム(IV)、炭酸ジルコニウム(IV)、ジルコニウム(IV)エトキシド、臭化ゲルマニウム(IV)、ヨウ化ゲルマニウム(IV)、酸化ゲルマニウム(IV)、酢酸スズ(IV)、フッ化スズ(IV)、塩化スズ(IV)、臭化スズ(IV)、ヨウ化スズ(IV)、酸化スズ(IV)、及びこれらの水和物を例示することができる。
上記化合物の中でも、コスト並びに高温時の分解及び/又は酸化により生じる副生成物の安全性の観点から、酸化物又はその水和物を好ましく用いることができる。
Jを含有する化合物としては、Jの種類により適宜選択すればよいが、具体的には、酸化物を用いるか、又は水酸化物、ハロゲン化物、硝酸塩、シュウ酸塩等、高温で分解及び/又は酸化して酸化物になり得るものを用いることができる。
Jを含有する化合物としては、炭酸アルミニウム(III)、フッ化アルミニウム(III)、塩化アルミニウム(III)、臭化アルミニウム(III)、ヨウ化アルミニウム(III)、硝酸アルミニウム(III)、シュウ酸アルミニウム(III)、酸化アルミニウム(III)、水酸化アルミニウム(III)、アルミニウム(III)エトキシド、アルミニウム(III)イソプロポキシド、α−Al23、γ−Al23、酢酸インジウム(III)、塩化インジウム(III)、臭化インジウム(III)、ヨウ化インジウム(III)、硝酸インジウム(III)、酸化インジウム(III)、水酸化インジウム(III)、インジウム(III)イソプロポキシド、及びこれらの水和物を例示することができる。
上記化合物の中でも、コスト並びに高温時の分解及び/又は酸化により生じる副生成物の安全性の観点から、酸化物、水酸化物、又はそれらの水和物を好ましく用いることができる。
リン化合物としては、リン酸、ホスホン酸が挙げられ、M及びJとの反応性の観点から、リン酸が好ましい。リン酸としては、通常50質量%以上の水溶液を用いることができ、操作性の観点から、80〜90質量%の水溶液が好ましい。
前記工程(a)において、反応温度は、合成するピロリン酸金属塩(X)の組成によって適宜選択できるが、好ましくは50℃〜200℃、より好ましくは75℃〜150℃、更に好ましくは100℃〜130℃である。また反応時においては、撹拌することにより混合を十分に行うのがよい。得られる反応物の操作性の観点で、反応物の適切な粘度を維持し固化を防ぐ意味で、反応時に適量の水を添加することが有効な場合もある。
反応時間は、合成するピロリン酸金属塩(X)の組成によって適宜選択できるが、可能な限り長時間であることが好ましい。ただし生産性を考慮すると、好ましくは1〜50時間、より好ましくは1〜20時間である。
次に、工程(b)において、工程(a)において得られた反応物を熱処理することで、ピロリン酸金属塩(X)を得ることができる。熱処理の温度としては、合成するピロリン酸金属塩の組成によって適宜選択できるが、好ましくは250〜800℃、より好ましくは300〜750℃、更に好ましくは400〜700℃である。
熱処理に要する時間は、合成するピロリン酸金属塩(X)の組成によって適宜選択できるが、好ましくは1〜20時間、より好ましくは1〜5時間、更に好ましくは2〜5時間である。
本発明の電解質に含まれるピロリン酸金属塩(X)の平均粒径は、イオン伝導度等の要求性能、膜強度及び成形性の観点から、好ましくは10nm〜10μm、より好ましくは20nm〜1μm、更に好ましくは30nm〜500nmである。なお、ピロリン酸金属塩(X)の粒径が大きすぎると、電解質膜表面のラフネス及び/又は凹凸が大きくなるために、膜−電極接合体を作製する際に、電極との接合性が低下し、電極と電解質膜との界面に生じる接触抵抗が増加する場合がある。一方、ピロリン酸金属塩(X)の粒径が小さすぎると、後述する電解質膜作製時において、粒子間に生じる相互作用のため、炭化水素系疎水性ポリマー(P)及びピロリン酸金属塩(X)を含む混合液の粘度が著しく増加し、製膜が困難となる場合がある。また、イオン伝導性の発現に必要なピロリン酸金属塩(X)の結晶構造を維持することが困難となるため、イオン伝導効率が低下する傾向にある。
本発明の電解質に含まれるピロリン酸金属塩(X)の平均粒径は、以下に例示する手法で測定することができる:
(1)電解質の電子顕微鏡観察画像において、ピロリン酸金属塩(X)粒子100個の長径を測定し、その平均値をピロリン酸金属塩(X)の平均粒径とする手法、
(2)電解質の電子顕微鏡観察画像において、プラニメトリック法(電子顕微鏡観察画像上で面積(A)の既知の円を描き、円内の粒子数ncと円周にかかった粒子数niから以下の式によって単位面積あたりの粒子数NGを求める。
G=(nc+1/2ni)/(A/m2
ここで、mは電子顕微鏡観察画像の倍率である。1/NGが1個の粒子の占める面積であるから、粒子径は円相当径で2/(πNG1/2、正方形の一辺とすると1/(NG1/2で得られる。)よりピロリン酸金属塩(X)の平均粒子径を測定する手法
等、電解質を測定試料とする手法。
電解質に含まれる炭化水素系疎水性ポリマー(P)を溶解するが、ピロリン酸金属塩(X)を溶解しない溶媒と電解質とを混合し、得られる溶解した炭化水素系疎水性ポリマー(P)と溶解しないピロリン酸金属塩(X)を含む液を、
(3)静的光散乱法により測定し、そのメジアン径をピロリン酸金属塩(X)の平均粒径とする手法、(4)動的光散乱法により測定し、そのメジアン径をピロリン酸金属塩(X)の平均粒径とする手法、(5)レーザ回析式粒度分布測定装置を用いて測定し、レーザ回折により算出された粒度分布からピロリン酸金属塩(X)の平均粒径を算出する手法、
(6)電気的検知法を用いて測定し、測定される体積平均粒径をピロリン酸金属塩(X)の平均粒径とする手法、
(7)上記(3)〜(6)の測定手法において、ピロリン酸金属塩(X)粒子が凝集あるいは沈降することを防ぐため、適切な方法で該ピロリン酸金属塩(X)の分散状態を良好に保つ処理を施した後、あるいは該処理を施しながら測定を行う手法。
(8)電解質に含まれる炭化水素系疎水性ポリマー(P)を溶解するが、ピロリン酸金属塩(X)を溶解しない溶媒と電解質とを混合し、得られる溶解した炭化水素系疎水性ポリマー(P)と溶解しないピロリン酸金属塩(X)を含む液からピロリン酸金属塩(X)のみを回収した後、該ピロリン酸金属塩(X)をふるい分けし、得られる粒径分布からピロリン酸金属塩(X)の平均粒径を求める手法。
本発明の電解質を構成する炭化水素系疎水性ポリマー(P)とピロリン酸金属塩(X)との質量比[(P)/(X)]は、成膜性、膜強度、寸法安定性、高温低湿度条件下におけるイオン伝導度等の要求性能の観点から、好ましくは70/30〜10/90、より好ましくは50/50〜15/85、更に好ましくは45/65〜20/80である。
本発明の電解質は、本発明の効果を損なわない限り、各種添加剤、例えば、軟化材、安定剤、光安定剤、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、発泡剤、顔料、染料、増白剤、カーボン繊維、無機充填剤等を、各単独で又は二種以上組み合わせて含有していてもよい。
軟化剤としては、パラフィン系、ナフテン系もしくはアロマ系のプロセスオイル等の石油系軟化剤、パラフィン、植物油系軟化剤、可塑剤等が挙げられる。
安定剤は、フェノール系安定剤、イオウ系安定剤、リン系安定剤等を包含し、具体例としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスチリル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2,−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロジナマミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等のフェノール系安定剤;ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネート、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート等のイオウ系安定剤;トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジアステリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等のリン系安定剤が挙げられる。
無機充填剤の具体例としては、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、ガラス繊維、マイカ、カオリン、酸化チタン、モンモリロナイト、アルミナが挙げられる。
[電解質及び電解質膜の製造方法]
本発明の電解質膜の製造方法としては特に限定されず、例えば、以下の(i)及び(ii)の工程をこの順で含む方法が例示できる。また、工程(i)の後に、熱プレス成形、ロール成形、押し出し成形等の任意の方法等で成形することにより本発明の電解質を得ることができる。
(i):炭化水素系疎水性ポリマー(P)、ピロリン酸金属塩(X)、及び必要に応じて添加剤を含む混合液を得る工程。
(ii):工程(i)で得られた混合液を用いて電解質膜を得る工程。
工程(i)において、まず、炭化水素系疎水性ポリマー(P)を適当な溶媒と混合して溶解又は懸濁させて、炭化水素系疎水性ポリマー(P)の溶液又は懸濁液を調製する。
このとき使用する溶媒は、炭化水素系疎水性ポリマー(P)、ピロリン酸金属塩(X)及び添加剤の構造を破壊することなく、キャスト又はコートが可能な程度の粘度の溶液を調製することが可能なものであれば特に限定されない。具体的には、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン等の直鎖式脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール等のアルコール類、あるいはこれらの混合溶媒を例示できる。炭化水素系疎水性ポリマー(P)の一次構造、分子量、官能基の有無、官能基の量等に応じて、上記に例示した溶媒の中から、一種又は二種以上の組合せを適宜選択し、使用することができる。
次に、得られた溶液又は懸濁溶液にピロリン酸金属塩(X)及び必要に応じて添加剤を添加した後、機械的に撹拌、混練することによりピロリン酸金属塩(X)の凝集塊を解砕し、炭化水素系疎水性ポリマー(P)の溶液又は懸濁液にピロリン酸金属塩(X)及び添加剤を均一に分散させた混合液を調製する。
ここで、機械的な撹拌、混練によりピロリン酸金属塩(X)を解砕する手法としては、(1)炭化水素系疎水性ポリマー(P)及びピロリン酸金属塩(X)を含む混合液を撹拌機、ボールミル、ビーズミル、乳化機、超音波処理機、薄膜回転型撹拌機、高圧衝突型粉砕機等を用いて混練する方法、(2)ピロリン酸金属塩(X)を衝突型粉砕機、ハンマー式粉砕機等を用いて粉砕した後に炭化水素系疎水性ポリマー(P)との混合液を調製する方法、並びに(3)炭化水素系疎水性ポリマー(P)及びピロリン酸金属塩(X)を混練機(ミキシングロール、ニーダー、インテンシィブミキサー等)、一軸混練機(単軸スクリュー押出機、特殊単軸押出機等)、二軸混練機(同方向回転押出機、異方向回転押出機、ローター式押出機、スクリュー型押出機等)を用いて混練した後に混合液を調製する方法を例示することができ、上記に示す方法の中から二種類以上の方法を組み合わせて処理を行ってもよい。
工程(ii)において、工程(i)で得られた混合液を、PET、ガラス等の板状体にキャストするか又はコーターやアプリケーター等を用いて塗布し、適切な条件で溶媒を除去することによって、所望の厚みを有する電解質膜を得る方法や、熱プレス成形、ロール成形、押し出し成形等の公知の方法等を用いて電解質膜を得ることができる。
溶媒除去の条件は、炭化水素系疎水性ポリマー(P)の分解温度以下で、溶媒を完全に除去できる条件であれば任意に選択することが可能である。所望の物性を発現させるため、複数の温度を任意に組み合わせたり、通風気下と真空下等を任意に組み合わせたりしてもよい。具体的には、室温〜60℃程度の真空条件下で、数時間予備乾燥した後、100℃以上の真空条件下、好ましくは100〜120℃で12時間程度の乾燥条件で溶媒を除去する方法、60〜140℃の通風気下、数分〜数時間程度の乾燥条件で溶媒を除去する方法を例示できるが、これらに限定されるものではない。
また、得られた電解質膜の上に、新たに、組成が同じもしくは異なる混合液、又は異なる電解質を含む溶液を塗布して乾燥することにより積層化させてもよい。また、上記のようにして得られた、同じもしくは異なる電解質膜同士を熱ロール成形等で圧着させて積層化させてもよい。
本発明の電解質膜の厚みは用途に応じて適宜選択される。例えば、該電解質膜を固体高分子型燃料電池用電解質膜として使用する場合、必要な性能、特に膜強度、水素ガス等の燃料の遮断性、電気抵抗、ハンドリング性等の観点から、膜厚は、好ましくは5〜200μm程度、より好ましくは10〜100μm、更に好ましくは20〜60μmである。
[膜−電極接合体]
次に、本発明の電解質又は電解質膜を用いた膜−電極接合体について述べる。
本発明の膜−電極接合体は、本発明の電解質又は電解質膜を含む。好ましくは、少なくとも本発明の電解質膜の両面に電極が配置されてなる。
膜−電極接合体の製造は特に制限されず、任意の方法を適用することができる。例えば、イオン伝導性バインダーを含む触媒ペーストを印刷法やスプレー法により、ガス拡散層上に塗布し乾燥することで触媒層とガス拡散層との接合体を形成させ、ついで1対の接合体をそれぞれの触媒層を内側にして、電解質膜の両側にホットプレス等により接合させる方法や、上記触媒ペーストを印刷法やスプレー法により電解質膜の両側に塗布し、乾燥して触媒層を形成させ、それぞれの触媒層に、ホットプレス等によりガス拡散層を圧着させる方法がある。
更に別の製造法として、イオン伝導性バインダーを含む溶液又は懸濁液を、電解質膜の両面及び/又は1対のガス拡散電極の触媒層面に塗布し、電解質膜と触媒層面とを張り合わせ、熱圧着等により接合させる方法がある。この場合、該溶液又は懸濁液は電解質膜及び触媒層面のいずれか一方に塗付してもよいし、両方に塗付してもよい。
更に他の製造法として、まず、上記触媒ペーストをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製等の基材フィルムに塗布し、乾燥して触媒層を形成させ、ついで、1対のこの基材フィルム上の触媒層を電解質膜の両側に加熱圧着により転写し、基材フィルムを剥離することで電解質膜と触媒層との接合体を得、それぞれの触媒層にホットプレスによりガス拡散層を圧着する方法がある。
これらの方法においては、イオン伝導性基をNa等の金属との塩にした状態で行い、接合後の酸処理によってプロトン形に戻す処理を行ってもよい。
上記膜−電極接合体を構成するイオン伝導性バインダーとしては、例えば、「Nafion」(登録商標、DuPont社製)や「Gore−select」(登録商標、ゴア社製)等の既存のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーからなるイオン伝導性バインダー、スルホン化ポリエーテルスルホンやスルホン化ポリエーテルケトンからなるイオン伝導性バインダー、リン酸や硫酸を含浸したポリベンズイミダゾールからなるイオン伝導性バインダー等を用いることができる。また、本発明の電解質をイオン伝導性バインダーとして使用してもよい。ガス拡散電極と接触する電解質膜と同一もしくは類似の構造を有するイオン伝導性バインダーを用いることで、電解質膜とガス拡散電極との密着性が向上する傾向にある。
上記膜−電極接合体の触媒層の構成材料について、導電材/触媒担体としては特に制限はなく、例えば炭素材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛等が挙げられ、これら単独であるいは二種以上混合して使用される。触媒金属としては、水素やメタノール等の燃料の酸化反応及び酸素の還元反応を促進する金属であればいずれのものでもよく、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、パラジウム、あるいはそれらの合金、例えば白金−ルテニウム合金が挙げられる。中でも白金や白金合金が多くの場合用いられる。触媒となる金属の粒径は、好ましくは1〜30nmである。これら触媒はカーボン等の導電材/触媒担体に担持させた方が触媒使用量を少なくすることができ、コスト的に有利である。
また、触媒層には、必要に応じて撥水剤が含まれていてもよい。撥水剤としては例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリエーテルエーテルケトンの各種熱可塑性樹脂が挙げられる。
上記膜−電極接合体のガス拡散層は、導電性及びガス透過性を備えた材料から構成され、かかる材料として例えばカーボンペーパーやカーボンクロス等の炭素繊維よりなる多孔性材料が挙げられる。また、かかる材料には、撥水性を向上させるために、撥水化処理を施してもよい。
[燃料電池]
本発明の燃料電池は、本発明の電解質、電解質膜、又は膜−電極接合体を含む。好ましくは、少なくとも本発明の膜−電極接合体の両面に導電性のセパレータ材が配置されてなる。
上記のような方法で得られた膜−電極接合体を、極室分離と電極への燃料供給流路の役割を兼ねた導電性のセパレータ材の間に挿入することにより、燃料電池が得られる。本発明の膜−電極接合体は、燃料ガスとして水素を使用した純水素型、メタノールを改質して得られる水素を使用したメタノール改質型、天然ガスを改質して得られる水素を使用した天然ガス改質型、ガソリンを改質して得られる水素を使用したガソリン改質型、メタノールを直接使用する直接メタノール型等の燃料電池用の膜−電極接合体として使用可能である。特に、本発明の電解質膜を、水の沸点以上の高温条件下において動作させる燃料電池に用いることで、セル抵抗の低減及び高出力化が可能である。
以下、参考例、実施例及び比較例、並びに固体高分子型燃料電池用電解質膜としての性能試験及びその結果を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
参考例1
[ポリスチレン(重合体ブロック(A))と水添ポリブタジエン(重合体ブロック(B))とからなるブロック共重合体(SEBS)の製造]
重合体ブロック(A)を重合する際に、芳香族ビニル系化合物としてスチレンを用い、重合体ブロック(B)を重合する際にブタジエンを用いて、既報の方法(特開2005−281373号公報)と同様の方法で、ポリスチレン−b−ポリブタジエン−b−ポリスチレン(以下SBSと略記する)を合成した。得られたSBSの数平均分子量は69700であり、1H−NMR測定から求めたスチレン単位の含有量は30.0質量%であった。
合成したSBSのシクロヘキサン溶液を調製し、十分に窒素置換を行った耐圧容器に仕込んだ後、Ni/Al系のZiegler系水素添加触媒を用いて、水素雰囲気下において50℃で7時間水素添加反応を行い、ポリスチレン−b−水添ポリブタジエン−b−ポリスチレン(以下SEBSと略記する)を得た。得られたSEBSの水素添加率を1H−NMRスペクトル測定により算出したところ、99.7mol%であった。
参考例2
[片末端に水酸基を有する、ポリスチレン(重合体ブロック(A))と水添ポリブタジエン-水添ポリイソプレン(重合体ブロック(B))とからなるブロック共重合体(SEEPS−OH)の製造]
重合体ブロック(A)を重合する際に、芳香族ビニル系化合物としてスチレンを用い、重合体ブロック(B)を重合する際にブタジエン及びイソプレンを用いて、既報の方法(特開平7−118492号公報)と同様の方法で、片末端に水酸基を有する、ポリスチレン−b−ポリブタジエン・ポリイソプレン−b−ポリスチレン(以下SBIS−OHと略記する)を合成した。得られたSEEPS−OHの数平均分子量は62500であり、1H−NMR測定から求めたスチレン単位の含有量は28.0質量%であった。また、液体クロマトグラフィーにより算出した分子鎖末端部位への水酸基導入率は82mol%であった。
合成したSBIS−OHのシクロヘキサン溶液を調製し、十分に窒素置換を行った耐圧容器に仕込んだ後、Ni/Al系のZiegler系水素添加触媒を用いて、水素雰囲気下において50℃で7時間水素添加反応を行い、片末端に水酸基を有する、ポリスチレン−b−水添ポリブタジエン・水添ポリイソプレン−b−ポリスチレン(以下SEEPS−OHと略記する)を得た。得られたSEEPS−OHの水素添加率を1H−NMRスペクトル測定により算出したところ、99.5mol%であった。
参考例3
[スルホン化SEBSの合成]
塩化メチレン153ml中、0℃にて無水酢酸76.7mlと硫酸34.3mlとを反応させてスルホン化試薬を調製した。一方、参考例1で得られたSEBS 100gを、撹拌機付きのガラス製反応容器中にて1時間真空乾燥し、ついで窒素置換した後、塩化メチレン960mlを加え、35℃にて4時間撹拌して溶解させた。溶解後、スルホン化試薬を5分かけて徐々に滴下した。35℃にて8時間撹拌後、2Lの蒸留水の中に撹拌しながら重合体溶液を注ぎ、重合体を凝固析出させた。析出した固形分は、90℃の蒸留水で30分間洗浄し、ついでろ過した。この洗浄及びろ過の操作を洗浄水のpHに変化がなくなるまで繰り返し、最後にろ集した重合体を真空乾燥してスルホン化SEBSを得た。得られたスルホン化SEBSのスチレン単位のベンゼン環のスルホン化率は1H−NMR分析から36.1mol%、イオン交換容量は0.96meq/gであった。
なお、本発明においてイオン交換容量は以下のようにして測定した。試料を密閉できるガラス容器中に秤量し、そこに過剰量の塩化ナトリウム飽和水溶液を添加して一晩撹拌した。系内に発生した塩化水素を、フェノールフタレイン液を指示薬とし、0.01NのNaOH標準水溶液にて滴定した。イオン交換容量は、次式により求めた。
イオン交換容量=(0.01×b×f)/a
(式中、aは試料の質量(g)を表し、bはNaOH標準水溶液の滴定量(ml)を表し、fはNaOH標準水溶液の力価を表す。)
参考例4
[スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)の合成]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex社製、商品名:Victrex 450P AB7572)30gを、撹拌機付きのガラス製反応容器中にて1時間真空乾燥し、ついで窒素置換した後、濃硫酸300mlを加え、30℃にて120時間反応させた。反応後、2Lの氷冷水中に撹拌液しながら重合体溶液を注ぎ、重合体を凝固析出させた。析出した固形分を90℃の蒸留水で30分間洗浄し、ついでろ過した。この洗浄及びろ過の操作を洗浄水のpHに変化がなくなるまで繰り返し、最後にろ集した重合体を真空乾燥してS−PEEKを得た。得られたS−PEEKのスルホン化率は1H−NMR分析から65.0mol%、イオン交換容量は1.83meq/gであった。
参考例5
[Sn0.95Al0.0527の調製]
SnO2(シーアイ化成株式会社製、商品名:ナノテック)、Al(OH)3(和光純薬工業株式会社製)、H3PO4(和光純薬工業株式会社製)、及び純水をビーカー中で混合し、ペースト状になるまで約300℃にてスターラーで撹拌した。得られたペーストをアルミナ製の角サヤに移し、電気炉にて650℃で2.5時間固相反応させた。その後、得られた仮焼体を乳鉢と乳棒にて粉砕し、Sn0.95Al0.0527粉体を得た。なお、SnO2/Al(OH)3の仕込み比は95/5であり、H3PO4の仕込み量は蛍光X線回折法(XRF)によってカチオン種及びリンを定量し、リンとカチオン種とのモル比(P/(Sn+Al))が2.0になるように、調整した。
参考例6
[ホスホシリケートゲルの調製]
既報の方法(“Solid State Ionics”,Vol.139,p.113−119(2001))と同様の方法でホスホシリケートゲルを合成した。
実施例1
[SEBS/Sn0.95Al0.0527混合液の調製、及び電解質膜の作製]
参考例1で得られたSEBSの10質量%テトラヒドロフラン溶液を調製し、この溶液に、参考例5で得られたSn0.95Al0.0527をSEBS/Sn0.95Al0.0527の質量比が20/80となるよう添加した。上記したSEBS/ピロリン酸金属塩混合液を、マグネチックスターラーを用いて30分撹拌し、超音波処理を30分施した。マグネチックスターラーによる撹拌と、超音波処理を4回繰り返した後、SEBS/Sn0.95Al0.0527混合液を、離形処理済みPETフィルム上にコートし、室温で十分乾燥させたのち、十分真空乾燥させることで厚み51μmの電解質膜を得た。
レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、商品名:LA−950)を用いた静的光散乱法による粒径測定の結果、Sn0.95Al0.0527のメジアン径は288nm、モード径は245nmであった。
実施例2
[SEEPS−OH/Sn0.95Al0.0527混合液の調製、及び電解質膜の作製]
参考例2で得られたSEEPS−OHの10質量%テトラヒドロフラン溶液を調製し、この溶液に、参考例5で得られたSn0.95Al0.0527をSEEPS−OH/Sn0.95Al0.0527の質量比が20/80となるよう添加した。上記したSEEPS−OH/Sn0.95Al0.0527混合液を、マグネチックスターラーを用いて30分撹拌し、超音波処理を30分施した。マグネチックスターラーによる撹拌と、超音波処理を4回繰り返した後、SEEPS−OH/Sn0.95Al0.0527混合液を、離形処理済みPETフィルム上にコートし、室温で十分乾燥させたのち、十分真空乾燥させることで厚み55μmの電解質膜を得た。
実施例1と同様に粒径測定を行った結果、Sn0.95Al0.0527のメジアン径は293nm、モード径は242nmであった。
比較例1
[S−PEEK/Sn0.95Al0.0527混合液の調製、及び電解質膜の作製]
参考例4で得られたS−PEEKの20質量%ジメチルスルホキシド溶液を調製し、この溶液に、参考例5で得られたSn0.95Al0.0527をS−PEEK/Sn0.95Al0.0527の質量比が20/80となるよう添加した。得られたS−PEEK/Sn0.95Al0.0527混合液を、マグネチックスターラーを用いて30分撹拌し、超音波処理を30分施した。マグネチックスターラーによる撹拌と、超音波処理を8回繰り返した後、S−PEEK/Sn0.95Al0.0527混合液を、東洋紡エステルフィルムK1504上に約200μmの厚みでコートし、100℃で十分乾燥させたのち、十分真空乾燥させたのち、厚さ60μmの電解質膜を得た。作製したS−PEEK/Sn0.95Al0.0527電解質膜は、基材から剥がす際に破断するほど膜強度が乏しく、基材からの剥離が不可能であり、評価が不可能であった。
実施例1と同様に粒径測定を行った結果、Sn0.95Al0.0527のメジアン径は290nm、モード径は241nmであった。
比較例2
[S−PEEK/Sn0.95Al0.0527/PTFE電解質膜の作製]
既報の方法(特開2008−218408号公報)と同様に、参考例4で得られたS−PEEKと参考例5で得られたSn0.95Al0.0527とPTFE(三井デュポンフロロケミカル株式会社製、商品名:テフロン6−J)とを乳鉢にて混練後、圧延することで製膜して、厚み2mmの自立可能な電解質膜を得た。なお、S−PEEK/Sn0.95Al0.0527/PTFEの質量比を27.7/34/38.3とした。この結果、PTFEを加えることで比較例1とは異なり、基材からの剥離が可能であったので評価を行った。
比較例3
[スルホン化SEBS/Sn0.95Al0.0527混合液の調製、及び電解質膜の作製]
参考例3で得られたスルホン化SEBSの10質量%トルエン/イソブチルアルコール(質量比7/3)溶液を調製し、この溶液に、参考例5で得られたSn0.95Al0.0527をスルホン化SEBS/Sn0.95Al0.0527粉体の質量比が20/80となるよう添加した。上記したスルホン化SEBS/Sn0.95Al0.0527混合液を、マグネチックスターラーを用いて30分撹拌し、超音波処理を30分施した。マグネチックスターラーによる撹拌と、超音波処理を4回繰り返した後、スルホン化SEBS/Sn0.95Al0.0527混合液を、離形処理済みPETフィルム上にコートし、室温で十分乾燥させたのち、十分真空乾燥させることで厚み50μmの電解質膜を得た。
実施例1と同様に粒径測定を行った結果、Sn0.95Al0.0527のメジアン径は299nm、モード径は249nmであった。
比較例4
[SEBS/ホスホシリケートゲル混合液の調製、及び電解質膜の作製]
参考例1で得られたSEBSの10質量%テトラヒドロフラン溶液を調製し、この溶液に、参考例6で得られたホスホシリケートゲルをSEBS/ホスホシリケートゲルの質量比が20/80となるよう添加した。上記したSEBS/ホスホシリケートゲル混合液を、マグネチックスターラーを用いて30分撹拌し、超音波処理を30分施した。マグネチックスターラーによる撹拌と、超音波処理を4回繰り返した後、SEBS/ホスホシリケートゲル混合液を、離形処理済みPETフィルム上にコートし、室温で十分乾燥させることで製膜を試みた。得られた電解質膜は、厚みむらが大きく、表面凹凸が著しかった。また、膜厚の制御が困難であり、100μm以下の薄膜を作製するのが困難であった。作製した電解質膜を室温で十分乾燥させたのち、十分真空乾燥させた後に厚みを測定したところ、1100μmであった。
実施例1と同様に粒径測定を行った結果、ホスホシリケートゲルのメジアン径は90.0μm、モード径は89.4μmであった。
比較例5
[SEBS/Sn0.95Al0.0527混合液の調製、及び電解質膜の作製]
SEBS/Sn0.95Al0.0527の質量比を5/95に変更したこと以外は実施例1と同様にして、SEBS/Sn0.95Al0.0527混合液及び電解質膜を作製した。しかし、作製したSEBS/Sn0.95Al0.0527電解質膜は、基材から剥がす際に破断するほど膜強度が乏しく、基材からの剥離が不可能であり、評価が不可能であった。
比較例6
パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子電解質膜として、DuPont社製ナフィオンフィルム(商品名:Nafion115)を使用した。
<評価>
実施例1及び2並びに比較例1〜6で得られた電解質膜について、燃料電池用電解質膜としての性能の評価試験を行った。
1)電解質膜の膜強度の測定
実施例1及び2並びに比較例1〜5で得られた電解質膜に関して、試料をダンベル状に成形して、引張速度500mm/minの条件で引張強度及び破断伸度を測定した。結果を表1に示す。
Figure 2011165347
表1の結果から明らかなように、本発明の電解質膜は強度に優れることがわかる。なお、比較例1及び5の電解質膜は、基材から剥がす際に破断するほど膜強度が乏しく、基材からの剥離が不可能であり、評価が不可能であった。また、比較例2の電解質膜は、引張試験測定時にちぎれたため試験が実施できなかった。
更に、実施例1及び2の対比から、本発明の電解質に含まれる炭化水素系疎水性ポリマー(P)が微量の水酸基を有することで電解質膜の強度が更に増加することがわかる。これは、ピロリン酸金属塩(X)と親和性の高い官能基が存在することにより、炭化水素系疎水性ポリマーとピロリン酸金属塩の密着性が向上するためである。同様の傾向が、アミノ基、チオール基等でも得られるが、官能基の量が多すぎる場合には高温低湿度条件下における官能基の脱離等の分解及び/又は劣化による電解質膜の性能低下が顕著となる傾向にある。
2)電解質膜のイオン伝導度の測定
実施例1及び2並びに比較例1〜6で得られた電解質膜に関して、1cm×4cmの試料を一対の白金電極で挟み、開放系セルに装着し、50〜250℃、無加湿条件下において、交流インピーダンス法により膜のイオン伝導度を測定した。結果を表2に示す。
Figure 2011165347
表2の結果から明らかなように、本発明の電解質膜は、高温低湿度条件下において、優れたイオン伝導度を有することがわかる。なお、比較例1及び5の電解質膜は、基材から剥がす際に破断するほど膜強度が乏しく、基材からの剥離が不可能であり、評価が不可能であった。比較例2の電解質膜では、絶縁体であるPTFEを添加したため、イオン伝導度を測定できなかった。また、比較例6の電解質膜は、耐熱性に乏しいため、150℃以上の温度ではイオン伝導度を測定できなかった。比較例4の電解質膜では、175℃以上の温度ではイオン伝導度を測定できなかった。膜強度が乏しいために、高温条件で膜が破れたためと推定される。
また、スルホン酸基を有する比較例3の電解質膜は150℃付近までは優れたイオン伝導度を有していたが、それ以上の温度ではイオン伝導度が低下しており、225℃以上の高温では実施例1及び2のイオン伝導度が優れていた。このことから、本発明の電解質膜は、高い熱安定性を有することがわかる。比較例3の電解質膜におけるイオン伝導度低下の機構についてはまだ明らかにされていないが、スルホン酸基の脱離によるものと推定される。
更に、実施例1及び2の対比から、本発明の電解質に含まれる炭化水素系疎水性ポリマー(P)が微量の水酸基を有することで、イオン伝導度が向上することがわかる。これは、ピロリン酸金属塩(X)と親和性の高い官能基が存在することにより、炭化水素系疎水性ポリマー(P)中におけるピロリン酸金属塩(X)の分散性が向上し、ピロリン酸金属塩の良好なネットワークが形成されるためである。同様の傾向が、アミノ基、チオール基等でも得られるが、官能基の量が多すぎる場合には高温低湿度条件下における官能基の脱離等の分解及び/又は劣化による電解質膜の性能低下が顕著となる傾向にある。
本発明の電解質及び当該電解質からなる電解質膜は、膜−電極接合体及び燃料電池に好適に用いることができ、高温低湿度条件下、特に水の沸点である100℃以上かつ無加湿条件下においても、低抵抗(低電気抵抗)及び高出力を実現可能であると共に、優れた膜強度及び柔軟性を有するため、高性能で安価な燃料電池を実現することができる。

Claims (6)

  1. 炭化水素系疎水性ポリマー(P)と、
    一般式M1-xx2y7z(式中、Mは、Sn、Ti、Si、Ge、Pb、Zr及びHfからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表し、JはAl及び/又はInを表し、xは0.001〜0.5の範囲の数値を表し、y及びzは各々独立に0.9〜1.1の数値を表す。)で表されるピロリン酸金属塩(X)
    とを含む電解質であって、
    前記炭化水素系疎水性ポリマー(P)と前記ピロリン酸金属塩(X)との質量比[(P)/(X)]が70/30〜10/90であることを特徴とする電解質。
  2. 前記炭化水素系疎水性ポリマー(P)の90質量%以上が芳香族ビニル系重合体セグメント(A)及び柔軟性の脂肪族ビニル系重合体セグメント(B)を含み、当該重合体セグメント(A)及び(B)の質量比[(A)/(B)]が10/90〜50/50である、請求項1に記載の電解質。
  3. 前記炭化水素系疎水性ポリマー(P)が、水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基を0.001〜0.1mmol/gの割合で有する、請求項1又は2に記載の電解質。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の電解質からなる電解質膜。
  5. 少なくとも請求項4に記載の電解質膜の両面に電極を配置してなる膜−電極接合体。
  6. 少なくとも請求項5に記載の膜−電極接合体の両面に導電性のセパレータ材を配置してなる燃料電池。
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