JP2011160718A - 脂質二分子膜基板 - Google Patents

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Abstract

【課題】基板に設けた微小な孔部が確実に脂質二分子膜で覆われた脂質二分子膜基板を提供する。
【解決手段】基板本体10に孔部20が設けられ、孔部20の開口部21が脂質二分子膜30によって覆われている脂質二分子膜基板1であって、孔部20の開口部21にその開口を狭める方向に延びるオーバーハング部11aが設けられている。オーバーハング部11aは、基板本体10の表面の薄膜層11に形成されている。開口部21の形状は円形または四角形であり、その内径あるいは1辺が100nm〜10μmである。脂質二分子膜30において開口部21を覆っている部分に、膜タンパク質31が配置されている。
【選択図】図1

Description

本発明は、脂質二分子膜基板に関するものである。
細胞膜上に発現する膜タンパク質の機能測定においては、細胞外から細胞内へのイオン流入や、細胞内から細胞外へのイオン流出や、細胞質に存在する細胞内セカンドメッセンジャーの濃度変化を検出することが行われる。
細胞外から細胞内へのイオン流入や、細胞内から細胞外へのイオン流出を引き起こすような膜タンパク質は、イオンチャンネル型膜タンパク質と呼ばれる。なかでも、イオンチャンネル型膜タンパク質に対して選択的に分子(以下、「リガンド」という)が結合することによってチャンネルの開閉を制御する膜タンパク質は、イオンチャンネル型受容体と呼ばれる。イオンチャンネル型受容体には、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、などの他、特定の条件下で有機イオンと呼ばれる前記イオンよりも大きな分子を透過する物が存在する。このようなイオンチャンネルの機能測定の有効な手法として、電気生理的手法があり、多く応用されてきている(例えば、非特許文献1参照)。
また、上記の細胞内セカンドメッセンジャーと呼ばれる因子には小胞体由来のカルシウムイオンが良く知られている。これらのセカンドメッセンジャーは細胞内に存在する様々な酵素が活性化し、細胞内の分子を代謝することによって放出されるため、この反応に関わる膜タンパク質は代謝型膜タンパク質と呼ばれ、特に膜タンパク質に対するリガンドを有するものを代謝型受容体と呼ぶ。代謝型受容体で代表的なものとしてGタンパク共役型受容体(GPCR)が良く知られている。代謝型受容体は多くの場合、電気的に不活性とされる細胞で発現している。このような場合、電気生理学的な手法は測定に不向きであり、上記のセカンドメッセンジャー、つまりカルシウムイオンに結合する蛍光試薬を用い、この強度を指標として代謝型受容体の活性化を計測する。
このように、膜タンパク質の機能は細胞内のイオン濃度変化を指標として測定することができる。2000年度における創薬の標的として膜タンパク質(特に受容体)は約45%を占めるといわれ、様々な病気の発生やその治療に関連する膜タンパク質の機能を正確に測定することは非常に重要である。また、2000年度米国でのトップ20の薬品売り上げのうち、膜タンパク質(GPCR,イオンチャネルを含む)は約50%を占める(例えば、非特許文献2参照)。そのため、様々な膜タンパク質の機能測定を行う系は非常に有用である。
しかしながら、通常細胞膜上には目的とする膜タンパク質以外の膜タンパク質も複数存在しており、ある薬剤で刺激しても目的の膜タンパク質に隣接する別の膜タンパク質へのトランス活性化と呼ばれる機構で情報伝達が行われる場合もあり、得られた反応が目的の膜タンパク質のみを介したものであるか不明瞭な場合がある。そのため、精製した膜タンパク質を用いたインビトロ(in vitro)の測定系が必要である。
人工的に作製した孔部を有し、生成した膜タンパク質を配置した機能測定基板は、このような要求を満たす物として期待がされる(例えば、非特許文献3参照)。また、固体基板上に人工的に作製した孔部を有する構造は、膜タンパク質の機能を利用するナノバイオデバイスへの応用も期待がされている(例えば、非特許文献4参照)。
E. Neher and B. Sakaman, Nature 260, 799 (1976) Drews J. Science, 287: 1960-1964 (2000) Y. Shinozaki et al. PLoS Biology Volume 7, Issue 5, e1000103 (2009) K. Sumitomo et al. NTT Technical Review Vol. 4, No.9 pp40-47
前述のように電気生理的に、あるいは蛍光強度変化を利用して膜タンパク質の機能測定を行うにあたり、安定した測定を行うためには、膜タンパク質を再構成する脂質二分子膜を安定に保持する必要がある。
少量の膜タンパク質の機能を、感度よく、また定量的に測定するためには、サイズの決まった微小な孔部を作製し、それを安定に脂質二分子膜で覆えばよい。また、微小な孔部を複数作製できれば、なおよい。
しかしながら、これまでは、基板上に微小な孔部を設けた場合、そこを脂質二分子膜で覆うことが困難であった。
そこで、本発明は、基板に設けた微小な孔部が確実に脂質二分子膜で覆われた脂質二分子膜基板を提供するものである。
本発明では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、基板に孔部が設けられ、該孔部の開口が脂質二分子膜によって覆われている脂質二分子膜基板であって、前記孔部の開口に該開口を狭める方向に延びるオーバーハング部が設けられていることを特徴とする脂質二分子膜基板である。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記基板はその表面側に薄膜層を備え、前記オーバーハング部は前記薄膜層に形成されていることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記開口の形状は円形であり、その内径が100nm〜10μmであることを特徴とする。
請求項4に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記開口の形状は四角形であり、その一辺の長さが100nm〜10μmであることを特徴とする。
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記脂質二分子膜で覆われた前記孔部が前記基板に複数設けられていることを特徴とする。
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発明において、前記脂質二分子膜における前記開口を覆っている部分に、膜タンパク質が配置されていることを特徴とする。
請求項7に係る発明は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の発明において、前記孔部の内部に蛍光分子が配置されていることを特徴とする。
請求項8に係る発明は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の発明において、前記孔部の内部に電極を有することを特徴とする。
本発明によれば、孔部の開口にオーバーハング部を設けることにより、孔部を安定に脂質二分子膜で覆うことが可能になる。
基板がその表面側に薄膜層を備えている場合には、薄膜層をエッチングすることによってオーバーハング部を形成することができる。
基板に複数の孔部を設けた場合に、それら複数の孔部を、一度に、また安定に脂質二分子膜で覆うことが実現できる。
このように、複数の孔部を設けた場合には、孔部の内部に配置した蛍光分子の発光強度変化測定による膜タンパク質の機能測定に用いたときに、感度の向上や定量性の向上を実現することができる。
孔部に電極を設けた場合には、パッチクランプ法(非特許文献1参照)による機能測定が可能になる。
また、架橋した脂質二分子膜において孔部を覆っている部分に膜タンパク質を再構成することで、イオンチャンネル型膜タンパク質のイオンの透過やイオン以外の分子の透過の測定に応用することができ、代謝型膜タンパク質の活性の測定にも応用することができる。さらに、製薬の分野でのハイスループットスクリーニングへの応用等が期待される。
本発明の実施形態1における膜タンパク質機能測定基板の断面を示す概念図である。 本発明の実施形態2における膜タンパク質機能測定基板の断面を示す概念図である。 実施形態1に対応する実施例1の膜タンパク質機能測定基板において、孔部形成時の断面を示す概念図である。 前記孔部形成時と同時点において、基板上方から孔部を撮影した電子顕微鏡写真である。 実施例1の膜タンパク質機能測定基板において、孔部の内部に蛍光分子を配置した時点での断面を示す概念図である。 実施例1の膜タンパク質機能測定基板において、孔部の内部に蛍光分子を配置した時点で基板上方から撮影した電子顕微鏡写真である。 オーバーハング部を有する実施例1の膜タンパク質機能測定基板を上方から撮影した電子顕微鏡写真である。 オーバーハング部を有さない比較例の膜タンパク質機能測定基板を上方から撮影した電子顕微鏡写真である。 実施形態2に対応する実施例2の膜タンパク質機能測定基板における断面の電子顕微鏡写真である。 実施例2の膜タンパク質機能測定基板における電極パターンを示す図である。 オーバーハング部を有さない場合に脂質二分子膜が開口部に落ち込む様子を示した図である。
以下、本発明に係る脂質二分子膜基板の実施の形態を図1から図11の図面を参照して説明する。
本発明の脂質二分子膜基板は、蛍光を利用した膜タンパク質の機能の測定や、電気生理的測定(パッチクランプ法等)に用いる基板であって、孔部を有し、該孔部の開口が脂質二分子膜で覆われていることを特徴とする。また、前記孔部の開口に脂質二分子膜を安定に保持するための「オーバーハング」形状を有することを特徴とする。換言すると、基板に孔部が設けられ、該孔部の開口が脂質二分子膜によって覆われている脂質二分子膜基板であって、前記孔部の開口に該開口を狭める方向に延びるオーバーハング部が設けられていることを特徴とする。蛍光強度の測定は、蛍光顕微鏡により行うことができる。また、電気生理測定は、パッチクランプ装置等を用いて行うことができる。
[実施形態1]
図1に、本発明に係る脂質二分子膜基板の実施形態1の概念図を示す。実施形態1における脂質二分子膜基板は、蛍光を利用した膜タンパク質の機能の測定に好適な脂質二分子膜基板(以下、膜タンパク質機能測定基板1という)としての態様である。
膜タンパク質機能測定基板1は、図1に示すように、基板本体10に孔部20が形成されており、孔部20の開口部(開口)21には、オーバーハング部(ひさし部)11aが設けられている。孔部20の開口部21は、膜タンパク質31を含む脂質二分子膜30で覆われている。孔部20内部には、蛍光物質(蛍光分子)22が配置されている。
以下、各構成について詳述する。
基板本体10の材質は、蛍光顕微鏡による孔部20の蛍光強度観察を妨げなければ、その材質を問わない。基板本体10の材質として、例えば、シリコン、ガラス、プラスチックなどを挙げることができる。
基板本体10は、孔部20を有している。孔部20の数は特に限定されず、1〜10000個であることが望ましい。孔部20の形状は、底面を有する凹状の孔とする。
孔部20の開口部21の形状は、脂質二分子膜を安定に形成する観点から、円形状または四角形状であることが望ましい。円形状の開口部21の直径あるいは四角形状の開口部21の一辺は、100nm〜10μmとする。100nmを下限値とするのは、膜タンパク質のサイズが10〜20nm程度であり、このサイズの膜タンパク質を配置し得る大きさが必要なためである。上限値を10μmとするのは、後述するように、脂質二分子膜30は巨大脂質ベシクルの展開により形成しており、巨大ベシクルのサイズは、数10μmに多く分布していることによる。
また、孔部20の深さは、脂質二分子膜30が孔部20の底面に接触しない深さがあればよく、開口部21の大きさに応じて設計すればよい。
基板本体10への孔部20の形成方法は、例えば、フォトリソグラフィ法、電子ビームリソグラフィ法、ドライエッチング法等の微細加工技術を適用することができる。
基板本体10の表面には、孔部20の開口部21にオーバーハング部11aを形成するための薄膜層11が設けられている。オーバーハング部11aは、基板本体10の上面を延長するように、孔部20の開口部21の開口を狭める方向に延ばして形成されている。薄膜層11の材質は、脂質二分子膜30が付着すれば、基板本体10の材質と同じでも、違う材質でも構わない。オーバーハング部11aの作製過程において、選択的エッチング法を適用できることから、異なる材質を用いることが望ましい。薄膜層11の厚さは、50nm〜500nmであることが望ましい。
脂質二分子膜30の脂質分子の種類としては、例えばホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトールホスフェイト(PIP)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)、スフィンゴ脂質などが挙げることができる。これら脂質分子は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
脂質二分子膜30の形成方法としては、例えば、その直径が10μm以上の巨大脂質ベシクルを、基板上で展開することにより脂質二分子膜30を得る。この形成方法を採用すると、基板本体10に複数の孔部20を設けた場合に、それら複数の孔部20を、一度に、また安定に脂質二分子膜30で覆うことが可能となる。
ベシクル構造を作製する代表的な手法としては、静置水和法やエレクトロスウェリング法(電界形成法)がある。ベシクルの作製手法は特に限定されないが、巨大ベシクルが作製しやすく、また反応時間や反応プロセスの簡易性から、電界形成法を採用することが好ましい。電界形成法は、酸化インジウムスズ(ITO)などの電極上に、リン脂質分子を薄膜化した後、交流電場をかけて水溶液中に巨大ベシクルを形成する手法である。サイズのそろったベシクルを得るためには、ITO基板上に厚さ数十nm〜数μmの均一なリン脂質分子の薄膜を形成することが好ましく、また、交流電場は数百mV〜2V程度の印加条件が好ましい。該電場範囲よりも低い電場強度では、ベシクルの収量が低く、該電場範囲よりも高い電場強度では、ベシクルの構造破壊や水の電気分解が生じ、ベシクルが製造できない可能性があるからである。
脂質二分子膜30に、機能測定対象となる膜タンパク質31を再構成する方法は、公知の方法を用いることができ、例えば、ベシクルヒュージョン法が挙げられる。具体的には、プロテオリポソームと呼ばれる、膜タンパク質30を含有するベシクルを、脂質二分子膜30上に添加することにより、プロテオリポソームと脂質二分子膜30が融合し、膜タンパク質31が脂質二分子膜30中に再構成される。
孔部20内部には、膜タンパク質31の機能測定のための蛍光物質22が配置される。蛍光強度の変化を、例えば、蛍光顕微鏡で観察することにより、膜タンパク質31の機能測定を行うことができる。
[実施形態2]
図2に、本発明に係る脂質二分子膜基板の実施形態2の概念図を示す。実施形態2における脂質二分子膜基板は、電気生理的に膜タンパク質の機能測定をするのに好適な脂質二分子膜基板(以下、膜タンパク質機能測定基板2という)としての態様である。
実施形態2の膜タンパク質機能測定基板2は、孔部20の内部に電極40を有することを特徴とする。この特徴部以外は、前述した実施形態1の膜タンパク質機能測定基板1と同様であるので、同一態様部分に同一符号を付して説明を省略し、実施形態2の膜タンパク質機能測定基板2が実施形態1の膜タンパク質機能測定基板1と相違する点を以下に説明する。
前述した実施形態1の膜タンパク質機能測定基板1では、孔部20の内部に蛍光物質22を配置したが、実施形態2の膜タンパク質機能測定基板2では、孔部20の内部に蛍光物質22を配置しない。
実施形態2の膜タンパク質機能測定基板2では、その作製するにあたり、孔部20の内部に電極40を埋め込む。電極40の材質としては、銀/塩化銀や、金、白金などが考えられる。
実施形態2の膜タンパク質機能測定基板2では、電極40を埋め込むので、基板本体10は絶縁性に優れていることが必要である。そのため、基板本体10の材質としては、シリコン酸化物やシリコン窒化物、アルミナ、酸化タンタル、レジスト膜等が採用可能と考えられる。
実施形態2の膜タンパク質機能測定基板2においても、前述した実施形態1と同様に、脂質二分子膜30で孔部20の開口部21を覆い、開口部21を覆っている部分の脂質二分子膜30に膜タンパク質31を再構成することで、膜タンパク質の機能を測定することができる。
膜タンパク質の機能測定に際しては、孔部20の外部23に対向電極41を配置する。電極40および対向電極41は、パッチクランプ測定装置に接続される。
例えば、膜タンパク質31としてイオンチャンネル型タンパク質を配置した場合には、イオンチャンネル型タンパク質を透過したイオン電流をパッチクランプ測定装置で計測することにより、膜タンパク質の機能測定を行うことができる。
[実施例1]
次に、実施形態1の膜タンパク質機能測定基板1の作成例を具体的に説明する。
この実施例1における孔部形成モデルを図3に示す。
基板本体10には、シリコン基板を用いた。基板本体10の上に、200nmの厚さのシリコン酸化膜層(薄膜層)11を、電子サイクロトロン共鳴プラズマ(ECRプラズマ)堆積法により形成した。さらに、フォトリソグラフィ法とドライエッチング法を用いて、四角形状の開口部(2μm×2μm)を持つ孔部20を形成した。深さは、1μmとした。さらに、水酸化カリウム溶液(10重量%)により、シリコン酸化膜層11の下の基板本体10を、選択的にエッチングすることにより、孔部20の開口部21の四隅にオーバーハング部11aを形成した。このとき形成した孔部20の電子顕微鏡(SEM)写真を図4に示す。
次に、前述のようにして作製した、孔部20を有する基板本体10の上に、巨大ベシクルを展開することにより脂質二分子膜30を形成した。
ここで、巨大ベシクルは以下のようにして作製した。ジフィタニルホスファチジルコリン(DPhPC)(80モル%)とコレステロール(20モル%)の混合クロロホルム溶液(濃度2.5mM)を調製した。続いて、酸化インジウムスズ(ITO)基板(SiO上に膜厚100nmのITOが薄膜化された基板、サイズ40×40mm、50〜100Ω/cm)上に、前記クロロホルム溶液200μLを均一に塗布した。この基板を、室温で2時間、減圧乾燥して、クロロホルム溶媒を完全に除去することで、均一なリン脂質薄膜をITO基板上に形成した。その上に、窓部を有するシリコーンゴム(外寸30×30mm、厚さ1mmのシリコーンゴムを20×20mmのサイズでくり貫いた窓部を有する)を密着して配置し、窓部に200mMのスクロース水溶液を400μL滴下した。さらに、その上部にITO基板を配置し、シリコーンゴム窓部にある溶液をITO基板で挟み込んで密閉した。続いて、ITO基板にクリップ電極を接合し、60℃のホットプレート上で、交流電場(正弦波、1V、10Hz)を2時間印加することで、電界形成法により巨大ベシクルを作製した。
そして、図3、図4に示す孔部20を有する基板本体10の上に、蛍光分子22を含む溶液(200mMグルコース、100μMカルセインの混合溶液)100μLを滴下した。さらに、前記巨大ベシクル溶液5μLを溶液中に滴下し、10分間静置し巨大ベシクルを沈降させた。さらに、100mMの塩化カルシウム溶液を5μL滴下した。さらに10分間静置することで、ほとんどの巨大ベシクルは基板上に展開した。
さらに、孔部20の外部23の溶液を、200mMグルコース溶液に置換することで、外部23から蛍光分子(カルセイン)22を除去した。図5に、そのモデル図を示す。また、その時の蛍光顕微鏡写真を図6に示す。
脂質二分子膜30に覆われている孔部20aからは、明るい蛍光が観察され、蛍光分子22が孔部20aの内部に安定に閉じ込められていることが分かる。一方、脂質二分子膜30に覆われていない孔部20bからは、蛍光分子が流失し、蛍光は観察されない。
図7,図8に、孔部20の開口部21にオーバーハング部11aを設けた場合(図7)と、オーバーハング部11aを設けなかった場合(図8)の蛍光観察結果の比較を示す。開口部21は、いずれの場合も1辺が1μmの正方形である。
オーバーハング部11aを設けなかった場合には、図8に示すように、脂質二分子膜30で覆われていない孔部20bが多数を占め、蛍光分子22が閉じ込められていないことがわかる。
一方、オーバーハング部11aを設けた場合には、図7に示すように、展開した脂質二分子膜30の外周部を除き、脂質二分子膜30で覆われている孔部20aが多数を占めていることがわかる。オーバーハング部11aを設けることにより、多くの孔部20で安定に蛍光分子22の閉じ込めに成功していることが分かる。
このように作製した「脂質二分子膜30で覆われた微小な孔部20を有する基板」に、膜タンパク質31を再構成し、孔部20の内部に配置された蛍光分子22の強度変化を測定することにより、膜タンパク質31の機能計測を行うことができる。
そして、複数の孔部20を安定に脂質二分子膜30で覆うことにより、膜タンパク質31の機能測定の感度や精度を向上することが可能になる。
なお、孔部20の開口部21にオーバーハング部11aを設けた場合に、開口部21を脂質二分子膜30で覆うことができる理由は、次のように推測される。
巨大脂質ベシクルを基板上で展開する場合、脂質膜と基板の間にはわずかながらでも引力が働いていなくてはならず、基板と脂質膜の間に働く引力により、巨大ベシクルは変形されて展開した脂質二分子膜となる。また、展開した脂質二分子膜を安定に保持するためにも、脂質二分子膜と基板の間の引力は必要となる。
しかしながら、図11に示すように、孔部20の開口部21にオーバーハング部が設けられていない場合には、基板本体10との間の引力で、微小な孔部20の上を覆った脂質二分子膜30を保持する場合、その引力のために孔部20の側面に沿って孔部20の内部に脂質二分子膜30が落ち込むことが考えられる。そのことが、微小な孔部の上を脂質二分子膜30で覆うことを困難にしていると考えられる。
本発明では、孔部20の開口部21にオーバーハング部11aを設けることにより、孔部20の側面に沿って孔部20の内部に脂質二分子膜30が落込むことを防ぐことができると推測される。
なお、孔部20の内部の脂質二分子膜30と基板(孔部の側面)との引力を制御して、孔部20の内部への落込みを防ぐ方法として、材質を変えたり表面修飾したりすることも考えられる。例えば、孔部20の内部をシランカップリング処理により疎水化することが考えられる。しかしながら、孔部20の内部だけを修飾するのは簡単ではなく、疎水化した場合には、孔部20の内部に溶液を満たすことが困難となる。したがって、本発明のように開口部にオーバーハング部を設けることは、安定に脂質二分子膜で覆われた微小な孔部を形成するのに有効な手段である。
[実施例2]
次に、前述した実施形態2の電気生理測定用の膜タンパク質機能測定基板2の作成例を具体的に説明する。
この実施例2の膜タンパク質機能測定基板2の作製途中(孔部20の開口部21を脂質二分子膜30で覆う前の段階)の断面の電子顕微鏡(SEM)写真を図9に示す。図9を参照して、実施例2の膜タンパク質機能測定基板2の作製方法例を説明する。
絶縁層13(ここでは、厚さ200nmの熱酸化膜)で被覆されたSiウエハー(14)を基板として用いた。
この基板上に、まず電極層(電極)40を堆積する。ここでは、フォトリソグラフィ法によりパターニングして金(60nm)を堆積することにより、図10に示すような電極パターンを形成した。この電極層40は、十分に大きなパッド部(400μm四方)に接続され、電気生理測定装置へと接続可能とする。
さらに、電極層40の上に、絶縁層12としてシリコン窒化膜をプラズマCVD法により1μm堆積する。
さらに、絶縁層12の上に、オーバーハング形状形成層(薄膜層)11として、シリコン酸化膜をスパッタ法を用いて、200nm堆積する。
なお、この実施例2では、絶縁層13で被覆されたSiウエハー14と絶縁層12とによって構成された基板本体10上にオーバーハング形状形成層11が形成された構成となっている。
このように形成したオーバーハング形状形成層11を有する基板本体10に、レジスト膜50を用いてフォトリソグラフィ法とドライエッチング法により孔部20および開口部21を形成する。この孔部形成のエッチングは、電極層40に届くまで行う。
このドライエッチングの過程で、シリコン酸化膜(オーバーハング形状形成層11)とシリコン窒化膜(絶縁層12)の間の選択性を利用することで、図9に示すようなオーバーハング部11aを形成した。
孔部20および開口部21を形成の後に、レジスト膜50を洗浄・除去することで、電極40を孔部20に備えた基板を作製した。
孔部20は、各電極40に複数個形成してもよいが、全ての孔部20を脂質二分子膜30で覆う必要があるため、一つの電極40には、一つの孔部20を形成することが望ましい。
このようにして形成した、電極40を孔部20に備えた基板の上に、前述した実施例1の場合と同様に、巨大脂質膜ベシクルを展開することにより、孔部20の開口部21を脂質二分子膜30で覆う。
さらに、脂質二分子膜において開口部21を覆う部分に、膜タンパク質をベシクルヒュージョン法により再構成することにより、膜タンパク質機能測定基板2を作製することができ、膜タンパク質のイオンチャンネル機能を測定することが可能になる。
1 膜タンパク質機能測定基板(脂質二分子膜基板)
2 膜タンパク質機能測定基板(脂質二分子膜基板)
10 基板本体(基板)
11 薄膜層(シリコン酸化膜層、オーバーハング形状形成層)
11a オーバーハング部
12 絶縁層
13 絶縁層
14 Siウエハー(基板)
20 孔部
20a 脂質二分子膜で覆われた孔部
20b 脂質二分子膜で覆われていない孔部
21 開口部(開口)
22 蛍光物質(蛍光分子)
23 孔部の外部
30 脂質二分子膜
31 膜タンパク質
40 電極(電極層)
41 対向電極
50 レジスト膜

Claims (8)

  1. 基板に孔部が設けられ、該孔部の開口が脂質二分子膜によって覆われている脂質二分子膜基板であって、
    前記孔部の開口に該開口を狭める方向に延びるオーバーハング部が設けられていることを特徴とする脂質二分子膜基板。
  2. 前記基板はその表面側に薄膜層を備え、前記オーバーハング部は前記薄膜層に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の脂質二分子膜基板。
  3. 前記開口の形状は円形であり、その内径が100nm〜10μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の脂質二分子膜基板。
  4. 前記開口の形状は四角形であり、その一辺の長さが100nm〜10μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の脂質二分子膜基板。
  5. 前記脂質二分子膜で覆われた前記孔部が前記基板に複数設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の脂質二分子膜基板。
  6. 前記脂質二分子膜における前記開口を覆っている部分に、膜タンパク質が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の脂質二分子膜基板。
  7. 前記孔部の内部に蛍光分子が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の脂質二分子膜基板。
  8. 前記孔部の内部に電極を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の脂質二分子膜基板。
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