JP6734210B2 - 脂質二分子膜基板、及びその製造方法 - Google Patents

脂質二分子膜基板、及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、脂質二分子膜基板、及びその製造方法に関する。
コンピュータや携帯電話などの半導体産業に不可欠の技術となっているナノテクノロジーの加工レベルは、ナノメートルオーダーまで到達している。この微細加工技術と、DNAやタンパク質などの生体分子を扱うバイオテクノロジーとを融合させた、いわゆるナノバイオテクノロジーの動きが急速に展開しつつあり、基礎研究分野だけではなく、医療、創薬等、様々な方面への応用が期待されている。
近年では、ポストゲノムの流れから、膜タンパク質も脚光を浴びている。細胞膜中に存在する膜タンパク質は、様々な病気の発生や薬剤応答・免疫反応などの生理的機能に大きく関連した生体分子であり、現在では市販医薬品の約60%以上が膜タンパク質をターゲットとしていることが知られている。しかしながら、膜タンパク質は多種多様であり、しかも取り扱いが難しいため、機能解析には膨大な時間と費用がかかるという問題がある。
そのため、膜タンパク質を半導体基板上にアレイ化した超小型のバイオチップが実現できれば、多くの膜タンパク質の機能を同時かつ高速に解析することが可能となるため、新薬開発に要する時間の短縮や費用の低減など多くの効果が期待される。
膜タンパク質を基板上で解析する方法としては、細胞そのものを基板上に配列し、パッチクランプ法により機能計測する方法がある。しかしながら、通常細胞膜上には目的とする膜タンパク質以外の膜タンパク質も複数存在しており、ある薬剤で刺激して得られた応答が目的の膜タンパク質によるものなのか否かが不明瞭であるという問題があった。そのため、精製した膜タンパク質を用いたインビトロ(in vitro)での測定系の必要性が高まってきている。
インビトロの測定系で代表的な膜タンパク質を配置する方法として、黒膜に膜タンパク質を融合させる方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。黒膜は脂質分子をn−デカンなどの有機溶媒に溶解し、水溶液中で脂質溶液を基板上に設けられた小孔に塗りつけることにより形成される。しかしながら、形成された黒膜における残留有機溶媒や不均一性が、膜タンパク質の生理活性に影響を与える可能性が指摘されている。
上記の問題を改善するために、人工的に作製した微小井戸(マイクロウェル)を有し、該微小井戸の開口部にオーバーハング形状を有した基板を用い、その上部に巨大脂質膜ベシクルを展開させることにより、膜タンパク質を含む人工脂質二分子膜を再構成した基板が提案されている(非特許文献2)。このように作製した脂質二分子膜基板は、巨大脂質膜ベシクルを用いているために有機溶剤を含まず、再構成した膜タンパク質が活性を持つことも光学的手法(蛍光観察)によって確認することができる。
「最新パッチクランプ実験技術法」岡田泰伸 編 (2011年、吉岡書店), p153-181 K. Sumitomo et al. 著、Biosensors and Bioelectronics誌、第31巻、445-450頁(2012年) Kai Simons,Elina Ikonen著,nature誌,第387巻,569-572頁(1997年)
上述のように、膜タンパク質を含む人工脂質二分子膜を再構成した基板を用いて、膜タンパク質の機能を光学的手法により計測可能となったものの、この人工脂質二分子膜は無秩序液体相のみで構成されている。一方、実際の細胞膜内では、不飽和脂質や飽和脂質、コレステロール等が混在し、飽和脂質とコレステロールが凝集した秩序液体相状態のドメイン構造を形成するという、いわゆるラフトモデルが提唱されている(非特許文献3)。無秩序液体相は脂質分子の炭化水素鎖の配向が乱れており、脂質分子の流動性が非常に高い相である。一方、秩序液体相は脂質分子の炭化水素鎖の配向は揃っており、コレステロールの影響により流動性が発現する相である。ドメイン構造内で機能するタンパク質の存在も示唆されており、タンパク質計測部分である微小井戸の開口部を覆う脂質二分子膜に無秩序および秩序液体相が混合したドメイン構造を作製することは、インビトロ実験系において、より実際の生体環境に近いプラットフォームを構築できることが期待される。しかし従来の技術では、ドメイン構造を形成している三成分系(不飽和脂質、飽和脂質、及びコレステロール)を有する巨大ベシクルを、人工的に作製したオーバーハング形状を有した脂質二分子膜基板上で展開すると、秩序液体相を構成する飽和脂質やコレステロールは微小井戸の開口部から周辺部に排除され、微小井戸の開口部には不飽和脂質を主とした無秩序液体相の人工脂質二分子膜が局在するという結果が得られている。そのため、微小井戸の開口部を覆う脂質二分子膜に、秩序液体相のドメイン構造を形成し安定して維持することは困難であった。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、微小井戸の開口部を覆う脂質二分子膜に秩序液体相を形成可能な脂質二分子膜基板、及びその製造方法の提供を課題とするものである。
[1] 基板に微小井戸が形成され、該微小井戸の開口部が脂質二分子膜によって覆われている脂質二分子膜基板において、
前記微小井戸の前記開口部の周縁において、前記開口部を狭める方向に延びるオーバーハング部が配置されており、
前記脂質二分子膜が、秩序液体相及び無秩序液体相の2つの相状態を有し、
前記微小井戸の内部を満たして前記脂質二分子膜に接している第一溶液と、
前記微小井戸の外部で前記脂質二分子膜に接し、該脂質二分子膜を覆っている第二溶液と、を備え、
前記第二溶液は、前記第一溶液の浸透圧よりも低い浸透圧を有し、
前記脂質二分子膜は、前記開口部において前記微小井戸の外部に向かって膨らんでいることを特徴とする脂質二分子膜基板。
[2] 基板に微小井戸が形成され、該微小井戸の開口部が脂質二分子膜によって覆われている脂質二分子膜基板において、
前記微小井戸の前記開口部の周縁において、前記開口部を狭める方向に延びるオーバーハング部が配置されており、
前記脂質二分子膜が、秩序液体相及び無秩序液体相の2つの相状態を有し、
前記微小井戸の内部を満たして前記脂質二分子膜に接している第一溶液と、
前記微小井戸の外部で前記脂質二分子膜に接し、該脂質二分子膜を覆っている第二溶液と、を備え、
前記第二溶液は、前記第一溶液の浸透圧よりも高い浸透圧を有し、
前記脂質二分子膜は、前記開口部において前記微小井戸の内部に向かって凹んでいることを特徴とする脂質二分子膜基板。
] 前記微小井戸の内部に電極が配置されていることを特徴とする[1]又は[2]に記載の脂質二分子膜基板。
] 前記第一溶液中に蛍光分子が含まれていることを特徴とする[1]〜[]の何れか一項に記載の脂質二分子膜基板。
] 前記脂質二分子膜が正電荷を有することを特徴とする[1]〜[]の何れか一項に記載の脂質二分子膜基板。
] 微小井戸が形成された基板の表面に第一溶液を滴下し、前記第一溶液を前記微小井戸の内部に充填し、且つ前記基板の表面を前記第一溶液で覆う工程と、
前記基板の表面を覆う前記第一溶液に巨大脂質膜ベシクルを添加し、前記基板の表面で前記巨大脂質膜ベシクルを展開させることにより、前記微小井戸の開口部を脂質二分子膜で覆う工程と、
前記微小井戸の外部にある前記第一溶液を、該第一溶液の浸透圧よりも低い浸透圧を有する第二溶液に変えることにより、前記脂質二分子膜で隔てられた前記微小井戸の内部と外部との間に浸透圧差を生じさせ、前記微小井戸の開口部において、前記微小井戸の外部に向かって前記脂質二分子膜を膨らませ、前記開口部を覆う前記脂質二分子膜における秩序液体相及び/又は無秩序液体相の相状態を制御する工程と、を有し、
前記微小井戸の前記開口部の周縁において、前記開口部を狭める方向に延びるオーバーハング部が配置されている、脂質二分子膜基板の製造方法。
] 微小井戸が形成された基板の表面に第一溶液を滴下し、前記微小井戸の内部に前記第一溶液を充填し、且つ前記基板の表面を前記第一溶液で覆う工程と、
前記基板の表面を覆う前記第一溶液に巨大脂質膜ベシクルを添加し、前記基板の表面で前記巨大脂質膜ベシクルを展開させることにより、前記微小井戸の開口部を脂質二分子膜で覆う工程と、
前記微小井戸の外部にある前記第一溶液を、該第一溶液の浸透圧よりも高い浸透圧を有する第二溶液に変えることにより、前記脂質二分子膜で隔てられた前記微小井戸の内部と外部との間に浸透圧差を生じさせ、前記微小井戸の開口部において、前記微小井戸の内部に向かって前記脂質二分子膜を凹ませ、前記開口部を覆う前記脂質二分子膜における秩序液体相及び/又は無秩序液体相の相状態を制御する工程と、を有し、
前記微小井戸の前記開口部の周縁において、前記開口部を狭める方向に延びるオーバーハング部が配置されている、脂質二分子膜基板の製造方法。
本発明によれば、微小井戸の開口部を覆う脂質二分子膜に秩序液体相を形成可能な脂質二分子膜基板、及びその製造方法を提供できる。
本発明にかかる脂質二分子膜基板の第一実施形態の模式的な断面図である。 本発明にかかる脂質二分子膜基板の第二実施形態の模式的な断面図である。 実施例1で作製した巨大脂質膜ベシクルの蛍光観察像である。 実施例1で作製した、第二溶液への置換前の脂質二分子膜基板の上面の蛍光観察像である。 実施例1で作製した、第二溶液への置換前の脂質二分子膜基板の模式的な断面図である。 実施例1で作製した、第二溶液への置換後の脂質二分子膜基板の上面の蛍光観察像である。
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されない。
<脂質二分子膜基板>
[第一実施形態]
図1に示すように、本発明の脂質二分子膜基板1Aは、基板10に微小井戸20が形成され、該微小井戸20の開口部21が脂質二分子膜30によって覆われているものである。
脂質二分子膜30には秩序液体相30aと無秩序液体相30bの二つの相状態が存在している。一実施形態として、脂質二分子膜30は飽和脂質、不飽和脂質、及びコレステロールの三成分系を含んでよい。
秩序液体相30aはコレステロールと飽和脂質分子を含み、無秩序液体相30bよりも飽和脂質分子を多く含む。秩序液体相30aに含有される脂質分子100モル%に対する飽和脂質分子の割合は、例えば、50〜100モル%であってよく、80〜100モル%であってよく、90〜100モル%であってよい。飽和脂質分子としては、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)やスフィンゴミエリンなどを例示できる。
無秩序液体相30bは不飽和脂質分子を含み、秩序液体相30aよりも不飽和脂質分子を多く含む。無秩序液体相30bに含有される脂質分子100モル%に対する不飽和脂質分子の割合は、例えば、50〜100モル%であってよく、80〜100モル%であってよく、90〜100モル%であってよい。不飽和脂質分子としては、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)などを例示できる。
脂質二分子膜にドメイン状に存在する秩序液体相はラフト様構造とよばれ、ラフト様構造の直径は10〜1000nmであってもよく、20〜200nmであってもよく、30〜150nmであってもよく、50〜100nmであってもよい。ラフト様構造が真円でない場合の前記直径は、ラフト様構造を面積基準で真円に換算した場合の直径とする。
微小井戸20の内部には第一溶液22が充填され、満たされている。微小井戸20の外部には、脂質二分子膜30に接し、この脂質二分子膜30を覆う第二溶液24が配置されている。第一溶液22と第二溶液24は脂質二分子膜30を間に挟んで対向するように配置されている。各溶液中の溶質は脂質二分子膜30を透過し難く、各溶液を構成する溶媒は脂質二分子膜30を透過可能とされている。
はじめ、第一溶液22の溶質濃度は第二溶液24の溶質濃度よりも高くなっているので、第一溶液22の浸透圧は第二溶液24の浸透圧よりも高くなっている。これにより、脂質二分子膜30を隔てて、微小井戸20の内外で(第一溶液22と第二溶液24との間で)浸透圧差が生じている。この結果、脂質二分子膜30を隔てて、微小井戸20の内外で浸透圧差が生じており、脂質二分子膜30は、開口部21において微小井戸20の外部に向かって膨らむ。
脂質二分子膜30は、開口部21を覆う領域において、開口部21の周縁から中心に向かって徐々に膨らんだ凸部34をなしている。これにより、微小井戸の開口部の周辺に排除されていた秩序液体相の脂質二分子膜(飽和脂質及びコレステロール)を微小井戸の開口部へ移動させる効果が生じ、微小井戸の開口部を覆う脂質二分子膜に秩序液体相が形成される。
また、凸部34を構成する脂質二分子膜には浸透圧による応力(テンション)が負荷されており、凸部34の膜面を構成する脂質二分子の物理的な状態(例えば、膜面の単位面積当たりの脂質分子の数(濃度))は、平坦な膜面を構成する場合と比べて変化している。特に、凸部34の中でも開口部21の周縁を覆う部位33の膜面の変化は顕著である。これらの変化した状態にある凸部34の膜面にリポソームが接触すると、平坦な膜面に接触した場合と比べて、リポソームが凸部34の膜面に容易に融合する。したがって、第二溶液24にリポソームを添加した場合、沈降したリポソームは、凸部34、すなわち開口部21の直上又は近傍の脂質二分子膜30に対して、他の平坦な領域よりも、優先的に融合される。
上記の効果がより一層得られることから、凸部34の頂部の膜面は、開口部21の周縁から100nm以上の高さに膨らんでいることが好ましい。
凸部34の頂部の膜面の高さ位置を測定する方法としては、例えば、波長500〜600nm程度のレーザーを膜面に照射した際に観察される干渉縞の周期性から見積もることができる。
本発明において、微小井戸20の開口部21の形状は特に限定されない。開口部21を上方から見た場合の形状としては、例えば、円形、楕円形、三角形、矩形、多角形等の形状が挙げられる。このうち、脂質二分子膜30をより安定に支持する観点から、円形又は矩形であることが好ましい。また、基板10の厚さ方向で微小井戸20の断面を見た場合、開口部21の形状は、図1に示すようなオーバーハング形状(ひさし状)であることが好ましい。ここで、オーバーハング形状である開口部21の周縁をオーバーハング部11aと呼ぶ。オーバーハング部11aは、基板10の表面10aに設けられた薄膜層11が、微小井戸20の開口部21を狭める方向に延設されている。オーバーハング部11aが設けられていることにより、開口部21を覆う脂質二分子膜30が安定に維持される。
微小井戸20の開口部21の直径、又は開口部21を構成する多角形の一辺は、100nm〜10μmとすることが好ましい。
上記範囲の下限値以上とすることにより、開口部21を覆う脂質二分子膜30に1個以上の膜タンパク質を配置することができる。上記範囲の上限値以下とすることにより、浸透圧差によって脂質二分子膜30に充分な応力(テンション)を負荷し、大きく変形した凹部32が得られる。
微小井戸20の深さは、凹部32を構成する脂質二分子膜30が微小井戸20の底面に接触しない深さであれば特に限定されず、開口部21の直径に応じて適宜設計すればよく、例えば0.1μm〜10μmの深さが挙げられる。
基板(基板本体)10の材料は特に制限されず、例えば、シリコン、シリコン酸化物、シリコン窒化物、石英、ガラス、プラスチックなどが挙げられる。pH3〜10の水溶液中において表面が負に荷電する基板材料であることが好ましい。
基板10の厚みや形状は用途に応じて適宜調整される。基板10に設けられた微小井戸20の数は特に限定されず、1個でもよく、2個以上でもよく、例えば1〜10000個とすることができる。
基板10の表面10aに微小井戸20を形成する方法としては、公知方法が適用可能であり、例えば、フォトリソグラフィ法、電子ビームリソグラフィ法、ドライエッチング法等の微細加工技術を適用することができる。
オーバーハング部11aを形成する薄膜層11の材料としては、公知材料が適用され、基板10の材料と同じであってもよいが、オーバーハング部11aを形成する際のエッチングが容易になる観点から、基板10の材料と異なるものが好ましい。薄膜層11の材料として、シリコン酸化物やシリコン窒化物を用いた場合、基板10の表面を構成する薄膜層11は中性溶液においては負の表面電荷を有する。
薄膜層11の厚さは、例えば、50nm〜500nmであることが好ましい。
脂質二分子膜30の脂質分子の種類は、脂質二分子膜(脂質二重膜)を形成できるものであれば特に制限されず、例えば、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトールホスフェイト(PIP)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)、スフィンゴ脂質などの中性又はアニオン性の脂質分子や;1,2−ジオレイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン、トリメチルアンモニウムプロパン(TAP)、エチルホスホコリン(EPC)などのカチオン性の脂質分子等が挙げられる。これらの脂質分子は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
脂質二分子膜30の形成方法としては、例えば、巨大脂質膜ベシクルを基板上で展開する方法が挙げられる。ここで「脂質膜ベシクル」とは、脂質二分子膜がベシクル(小胞)を形成してなるものであり、「巨大」の意味は、脂質膜ベシクルが基板上に展開されて平面上の脂質二分子膜となる際に、当該基板上に予め配置された単数又は複数の微小井戸20の開口部21を充分に覆うことができる大きさであることを意味する。巨大脂質膜ベシクルの直径(長径)は、基板上における展開が容易である観点から、例えば1〜10μm以上であることが好ましい。巨大脂質膜ベシクルの直径は、一般的な光学的観察手法により測定される。
巨大脂質膜ベシクルを形成する代表的な手法としては、静置水和法やエレクトロスウェリング法(電界形成法)が例示できる。巨大脂質膜ベシクルを作製しやすく、反応時間や反応プロセスが簡易であるという観点から、電界形成法を採用することが好ましい。電界形成法は、酸化インジウムスズ(ITO)などの電極上に、リン脂質を薄膜化した後、交流電場をかけて水溶液中に巨大脂質膜ベシクルを形成する手法である。
サイズの揃ったベシクルを得るためには、ITO基板上に厚さ数十nm〜数μmの均一なリン脂質分子の膜を形成することが好ましく、また、交流電場は数百mV〜2V程度の印加条件が好ましい。
微小井戸20の内部に充填されている第一溶液22の組成、及び微小井戸20の外部において脂質二分子膜30を覆う第二溶液24の組成は、脂質二分子膜30を崩壊させる組成でなければ特に限定されず、脂質二分子膜基板1Aの使用目的や脂質二分子膜30に導入する膜タンパク質の種類に応じて、それぞれ独立に適宜決定される。ただし、脂質二分子膜30を隔てた微小井戸の内外で浸透圧差を生じさせるために、第一溶液22の浸透圧は第二溶液24の浸透圧よりも高くされる。
脂質二分子膜30を安定に保つ観点から、第一溶液22及び第二溶液24は、それぞれ独立に水を主成分とする水溶液であることが好ましい。
微小井戸20の内外で生じさせる浸透圧差の調整が容易になる観点から、第一溶液22の溶質と第二溶液24の溶質の種類は同じであることが好ましい。好適な溶質としては、各溶液のpHを調整するためのpH緩衝剤(例えば、HEPES、MOPS、TRIS、リン酸塩等);塩類(例えば、NaCl、KCl、CaCl、MgCl、生理的塩類等);糖類(グルコース、スクロース等);アルコール類(例えば、グリセロール、キシリトール等);グリコール類等(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)を例示できる。これらの溶質の脂質膜透過速度は非常に小さいため、浸透圧差の調製がより一層容易である。
本明細書において、溶質が電解質であり、溶液中でイオンになる場合、「溶質」の用語は各イオン(イオンと対イオン)を個別に指すものとする。例えば、非電解質のグルコース100mMを水に溶解した場合、当該水溶液中の溶質濃度は100mMであるが、塩化ナトリウム50mMを水に溶解した場合、NaイオンとClイオンとがそれぞれ50mM存在するので、当該塩化ナトリウム水溶液中の溶質濃度は50+50=100mMである。同様に33mMのCaClを水に溶解した水溶液中の溶質濃度は100mM(=Caイオン33mM+塩化物イオン66mM)である。したがって、本明細書において浸透圧に関する溶質濃度は、いわゆる活量である。
第一溶液22の溶質の濃度としては、例えば、5mM〜2Mが好ましく、50mM〜1Mがより好ましく、100mM〜0.4Mがさらに好ましい。
上記範囲の濃度であると、生理的条件(細胞や血液)に比較的近い状態を維持できるので、膜タンパク質の導入に適した環境となる。
第二溶液24の溶質の濃度としては、例えば、1mM〜1Mが好ましく、10mM〜0.5Mがより好ましく、50mM〜0.3Mがさらに好ましい。
上記範囲の濃度であると、生理的条件(細胞や血液)に比較的近い状態を維持できるので膜タンパク質の導入に適した環境となる。
第一溶液22と第二溶液24に含まれる全溶質の濃度差は、例えば、5mM〜400mMが好ましく、10mM〜300mMがより好ましく、50mM〜200mMがさらに好ましい。
上記範囲の濃度差であると、生理的条件(細胞や血液)に比較的近い状態を維持し、脂質二分子膜30の破れを抑制するとともに、脂質二分子膜30を変形させて凸部34が形成されるために充分な浸透圧差が得られる。
第一溶液22の第二溶液24に対する溶質の濃度比(第一溶液/第二溶液)は、例えば、1.05〜100倍が好ましく、1.1〜50倍がより好ましく、1.5〜20倍がさらに好ましい。
上記範囲の濃度比であると、生理的条件(細胞や血液)に比較的近い状態を維持し、脂質二分子膜30の破れを抑制するとともに、脂質二分子膜30を変形させて凸部34が形成されるために充分な浸透圧差が得られる。
[第二実施形態]
図2に、本発明の第二実施形態の脂質二分子膜基板1Bを示す。第一実施形態の脂質二分子膜基板1Aと同じ構成には同じ符号を付している。
基板10の表面に微小井戸20が形成され、該微小井戸の開口部21が脂質二分子膜30によって覆われており、脂質二分子膜30は、秩序液体相30a及び無秩序液体相30bの2つの相状態を有し、微小井戸20の内部には第一溶液22が充填され、微小井戸の外部において脂質二分子膜30を覆う第二溶液24が配置されていることについては、上記の第一実施形態と同様である。
第二実施形態の脂質二分子膜基板1Bにおいては、はじめ、第一溶液22の溶質濃度は第二溶液24の溶質濃度よりも低くなっているので、第一溶液22の浸透圧は第二溶液24の浸透圧よりも低くなっている。これにより、脂質二分子膜30は、開口部21において微小井戸20の内部(底部)に向かって凹む。
脂質二分子膜30は、開口部21を覆う領域において、開口部21の周縁から中心に向かって徐々に凹んだ凹部32をなしている。これにより、微小井戸の開口部の周辺に排除されていた秩序液体相の脂質二分子膜(飽和脂質及びコレステロール)を微小井戸の開口部へ移動させる効果が生じ、微小井戸の開口部を覆う脂質二分子膜に秩序液体相が形成される。
また、凹部32を構成する脂質二分子膜には浸透圧差による応力(テンション)が負荷されており、凹部32の膜面を構成する脂質二分子膜の物理的な状態(例えば、膜面の単位面積当たりの脂質分子の数(濃度))は、平坦な膜面を構成する場合と比べて変化している。特に、凹部32の中でも開口部21の周縁を覆う部位31の膜面の変化は顕著である。これらの変化した状態にある凹部32の膜面にリポソームが接触すると、平坦な膜面に接触した場合と比べて、リポソームが凹部32の膜面に容易に融合する。したがって、第二溶液24にリポソームを添加した場合、沈降したリポソームは、凹部32、すなわち開口部21の直上又は近傍の脂質二分子膜30に対して、他の平坦な領域よりも、優先的に融合される。
上記の効果がより一層得られることから、凹部32の底部の膜面は、開口部21の周縁から100nm以上の深さに凹んでいることが好ましい。
凹部32の底部の膜面の深さ位置を測定する方法としては、例えば、波長500〜600nm程度のレーザーを膜面に照射した際に観察される干渉縞の周期性から見積もることができる。
微小井戸20の形状、数、大きさ;オーバーハング部11aの構造;開口部21の形状や大きさ;脂質二分子膜30を構成する脂質分子の種類;脂質二分子膜30の形成方法については、第一実施形態における説明と同じであるため省略する。
微小井戸20の内部に充填されている第一溶液22の組成、及び微小井戸20の外部において脂質二分子膜30を覆う第二溶液24の組成は、脂質二分子膜30を崩壊させる組成でなければ特に限定されず、脂質二分子膜基板1Bの使用目的や脂質二分子膜30に導入する膜タンパク質の種類に応じて、それぞれ独立に適宜決定される。ただし、脂質二分子膜30を隔てた微小井戸20の内外で浸透圧差を生じさせるために、第一溶液22の浸透圧は第二溶液24の浸透圧よりも低くされる。
脂質二分子膜30を安定に保つ観点から、第一溶液22及び第二溶液24は、それぞれ独立に水を主成分とする水溶液であることが好ましい。
微小井戸20の内外で生じさせる浸透圧差の調整が容易になる観点から、第一溶液22の溶質と第二溶液24の溶質の種類は同じであることが好ましい。好適な溶質としては、各溶液のpHを調整するためのpH緩衝剤(例えば、HEPES、MOPS、TRIS、リン酸塩等);塩類(例えば、NaCl、KCl、CaCl、MgCl、生理的塩類等);糖類(グルコース、スクロース等);アルコール類(例えば、グリセロール、キシリトール等);グリコール類等(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)を例示できる。
本明細書における「溶質濃度」の用語の説明は前述の通りであり、溶質が電解質である場合は、イオンとその対イオンを個別の溶質として考える。
第一溶液22の溶質の濃度としては、例えば、1mM〜1Mが好ましく、10mM〜0.5Mがより好ましく、50mM〜0.3Mがさらに好ましい。
上記範囲の濃度であると、生理的条件(細胞や血液)に比較的近い状態を維持できるので、膜タンパク質の導入に適した環境となる。
第二溶液24の溶質の濃度としては、例えば、5mM〜2Mが好ましく、50mM〜1Mがより好ましく、100mM〜0.4Mがさらに好ましい。
上記範囲の濃度であると、生理的条件(細胞や血液)に比較的近い状態を維持できるので、膜タンパク質の導入に適した環境となる。
第一溶液22と第二溶液24に含まれる全溶質の濃度差は、例えば、5mM〜400mMが好ましく、10mM〜300mMがより好ましく、50mM〜200mMがさらに好ましい。
上記範囲の濃度差であると、生理的条件(細胞や血液)に比較的近い状態を維持し、脂質二分子膜30の破れを抑制するとともに、脂質二分子膜30を変形させて凹部32が形成されるために充分な浸透圧差が得られる。
第二溶液24の第一溶液22に対する溶質の濃度比(第二溶液/第一溶液)は、例えば、1.05〜100倍が好ましく、1.1〜50倍がより好ましく、1.5〜20倍がさらに好ましい。
上記範囲の濃度比であると、生理的条件(細胞や血液)に比較的近い状態を維持し、脂質二分子膜30の破れを抑制するとともに、脂質二分子膜30を変形させて凹部32が形成されるために充分な浸透圧差が得られる。
[膜タンパク質の導入]
図1,2に示す脂質二分子膜基板1A,1B(以下、まとめて脂質二分子膜基板1と記す。)を構成する凹部32及び凸部34に膜タンパク質を導入することができる。
前述したように、微小井戸20の外部において脂質二分子膜30を覆う第二溶液24に、リポソームを添加すると、リポソームは凹部32及び凸部34に対して優先的に融合する。この方法を応用して、予め目的の膜タンパク質が導入されたプロテオリポソームを公知方法により準備し、このプロテオリポソームを第二溶液24に添加することにより、プロテオリポソームを凹部32及び凸部34に対して優先的に融合させる。この結果、開口部21の直上又は近傍の脂質二分子膜30に目的の膜タンパク質を導入することができる。
脂質二分子膜30がカチオン性脂質分子を含み、正電荷を有する場合、当該脂質二分子膜30に融合させるリポソームは負電荷を有することが好ましい。逆に、脂質二分子膜30がアニオン性脂質分子を含み、負電荷を有する場合、当該脂質二分子膜30に融合させるリポソームは正電荷を有することが好ましい。脂質二分子膜30の電荷と反対の電荷を有するリポソームは、静電引力によって脂質二分子膜30に吸着し易くなるので、融合(ベシクルフュージョン)の効率を向上させることができる。
上記効果を充分に得る観点から、脂質二分子膜30を構成する脂質分子の総質量に対する、カチオン性脂質分子又はアニオン性脂質分子の含有量は5質量%以上であることが好ましい。また、脂質二分子膜30の安定性を維持する観点から、上記含有量は40質量%以下であることが好ましい。なお、残部は中性脂質分子が構成する。
[電極の配置]
図1,2に示す脂質二分子膜基板1において、微小井戸20の底部には第一溶液22に接触する電極40が備えられており、微小井戸20の外部には第二溶液24に接触する対向電極41が備えられている。例えば、電極対間の電位差や、脂質二分子膜30を透過する電流(イオン流)等を計測することにより、凹部32及び凸部34に導入された膜タンパク質について、電気化学的な機能解析を行うことができる。電極40,41の材料としては、例えば、銀/塩化銀、金、白金などが挙げられる。脂質二分子膜基板1において、電極は微小井戸20の内部又は外部の何れか一方のみに備えられていてもよい。
電極40の配置方法としては、例えば、基板10の製造時に、スパッタリング等の成膜法によって金属層を形成し、エッチング等により該金属層を適宜パターニングし、さらに電極を絶縁層で被覆することにより、微小井戸20の底面に埋め込んで配置する方法が挙げられる。電極を配置する場合、基板10は、例えば、シリコン酸化物やシリコン窒化物、アルミナ、酸化タンタル、レジスト膜等の絶縁体からなることが好ましい。
脂質二分子膜で覆われた微小井戸内外の電位差、あるいは脂質二分子膜を透過する電流を計測する事により、脂質二分子膜に導入した膜タンパク質の機能解析が可能である。
[蛍光分子の添加]
図1,2に示す脂質二分子膜基板1において、微小井戸20の内部の第一溶液22には、蛍光分子23が含まれている。蛍光分子(蛍光プローブ)23としては、例えば、微小井戸20の内部の状態変化が起こった場合に蛍光を発する水溶性のものが挙げられる。蛍光分子の蛍光強度変化を計測する事により、脂質二分子膜に導入した膜タンパク質の機能解析が可能である。
蛍光分子の具体例としては、微小井戸20の内部のCa2+イオン濃度の変化に伴い蛍光強度が変化する、Fluo4、Quin2等が挙げられる。凹部32及び凸部34にCa2+イオン透過性の膜タンパク質を導入した場合、その膜タンパク質を介してCa2+イオンが脂質二分子膜30を透過し、微小井戸20内のCa2+イオン濃度が変化すると、蛍光分子からの蛍光強度が変化する。この変化を蛍光顕微鏡等によって検出することにより、膜タンパク質の機能を解析することができる。
本発明によれば、微小井戸上に形成した脂質二分子膜にドメイン状に存在する秩序液体相(ラフト様構造)が形成されることで、ラフト様構造内で機能する膜タンパク質の観察が可能となる。タンパク質機能測定場である微小井戸上の脂質二分子膜にラフト様構造が形成された基板は、インビトロ(in vitro)の測定系の構築において、適用可能な膜タンパク質の種類を増加させる利点も創出する。さらに従来微小井戸を覆う脂質二分子膜に形成されていたのは無秩序液体相のみであったのに対し、本発明では秩序液体相が形成されているので、解析に用いる因子として、より実際の生体細胞と共通する因子を増やすことも可能であり、膜タンパク質の機能をより正しく解析できる。また細胞内環境と同じ機能の解析が実施できるため、創薬分野でのハイスループットスクリーニングへの応用などが期待される。
<脂質二分子膜基板の製造方法>
[第一実施形態]
本発明の脂質二分子膜基板の製造方法の第二実施形態は、図1を参照して、微小井戸20が形成された基板10の表面を構成する薄膜層11に第一溶液22を滴下し、第一溶液22を微小井戸20の内部に充填し、且つ第一溶液22で基板10の表面を覆う工程と、基板10の表面(薄膜層11)を覆う第一溶液22に巨大脂質膜ベシクルを添加し、基板10の表面で前記巨大脂質膜ベシクルを展開させることにより、微小井戸20の開口部21を脂質二分子膜30で覆う工程と、微小井戸20の外部にある第一溶液22を、該第一溶液の浸透圧よりも低い浸透圧を有する第二溶液24(低張液)に変えることにより、脂質二分子膜30で隔てられた微小井戸20の内部と外部との間に浸透圧差を生じさせ、微小井戸20の開口部21において、微小井戸20の外部に向かって脂質二分子膜30を膨らませ、前記開口部を覆う前記脂質二分子膜における秩序液体相及び/又は無秩序液体相の相状態を制御する工程と、を有する。この一連の工程を経ることにより、図1に示す脂質二分子膜基板1Aが得られる。
相状態を制御するとは、前記開口部を覆う脂質二分子膜において、秩序液体相及び/又は無秩序液体相の存在割合を変えることを意味する。本発明においては、前記開口部を覆う脂質二分子膜において、秩序液体相を存在させる又はその存在割合を高めることが好ましい。
秩序液体相及び無秩序液体相を有する脂質二分子膜30の形成方法としては、例えば、飽和脂質、不飽和脂質、及びコレステロールの三成分を有する巨大脂質膜ベシクルを用いればよい。
微小井戸20の外部の第一溶液22を第二溶液24に変える方法は特に限定されず、例えば、基板10上において、第一溶液22を第二溶液24によって洗い流し、第一溶液22を第二溶液24に置換する方法が挙げられる。また、第一溶液22に溶媒を添加して、第一溶液22を希釈することにより第二溶液24を基板10上で調製してもよい。
微小井戸20の外部の溶液を第二溶液24にすると、脂質二分子膜30によって隔てられた第一溶液22と第二溶液24の間の浸透圧差に応じて、溶媒の移動が起こる。
浸透圧差によって微小井戸20の外部から内部へ第二溶液24の溶媒が移動するにつれて、第一溶液22の濃度が減少して浸透圧差が減少し、同時に第一溶液22の体積が増加し、開口部21を覆う脂質二分子膜30が微小井戸20の外部へ膨らむ。凸部34を構成する脂質二分子膜の変形に伴って上昇する負荷と浸透圧差が釣り合うと、溶媒の移動と脂質二分子膜30の膨らみが停止する。
[第二実施形態]
本発明の脂質二分子膜基板の製造方法の第一実施形態は、図2を参照して、微小井戸20が形成された基板10の表面を構成する薄膜層11に第一溶液22を滴下し、第一溶液22を微小井戸20の内部に充填し、且つ第一溶液22で基板10の表面を覆う工程と、基板10の表面(薄膜層11)を覆う第一溶液22に巨大脂質膜ベシクルを添加し、基板10の表面で前記巨大脂質膜ベシクルを展開させることにより、微小井戸20の開口部21を脂質二分子膜30で覆う工程と、微小井戸20の外部にある第一溶液22を、該第一溶液の浸透圧よりも高い浸透圧を有する第二溶液24(高張液)に変えることにより、脂質二分子膜30で隔てられた微小井戸20の内部と外部との間に浸透圧差を生じさせ、微小井戸20の開口部21において、微小井戸20の内部に向かって脂質二分子膜30を凹ませ、前記開口部を覆う前記脂質二分子膜における秩序液体相及び/又は無秩序液体相の相状態を制御する工程と、を有する。この一連の工程を経ることにより、図2に示す脂質二分子膜基板1Bが得られる。
微小井戸20の外部の第一溶液22を第二溶液24に変える方法は特に限定されず、例えば、基板10上において、第一溶液22を第二溶液24によって洗い流し、第一溶液22を第二溶液24に置換する方法が挙げられる。また、第一溶液22に溶質を添加して、第一溶液22を原料液として第二溶液24を基板10上で調製してもよい。
微小井戸20の外部の溶液を第二溶液24にすると、脂質二分子膜30によって隔てられた第一溶液22と第二溶液24の間の浸透圧差に応じて、溶媒の移動が起こる。
浸透圧差によって微小井戸20の内部から外部へ第一溶液22の溶媒が移動するにつれて、第一溶液22の濃度が上昇して浸透圧差が減少し、同時に第一溶液22の体積が減少し、開口部21を覆う脂質二分子膜30が微小井戸20の内部に陥入する。凹部32を構成する脂質二分子膜の変形に伴い上昇する負荷と、浸透圧差が釣り合うと、溶媒の移動と脂質二分子膜30の陥入が停止する。
微小井戸の内外に浸透圧差を生じさせた時、微小井戸の開口部を覆う脂質二分子膜では、浸透圧を解消するために脂質二分子膜を介して微小井戸内部へ水の流入出が発生し、井戸内部の溶液の体積が変化する。この体積変化に伴い、微小井戸の開口部を覆う脂質二分子膜の表面積も増加するため、微小井戸の開口部の周辺より脂質分子の移動が発生し、増加した膜表面積分の脂質分子が補填される。そのため、微小井戸の開口部の周辺に排除されていた秩序液体相の脂質二分子膜(飽和脂質及びコレステロール)を微小井戸の開口部へ移動させる効果が生じ、開口部を覆う前記脂質二分子膜における秩序液体相及び無秩序液体相の相状態の制御を行うことができると考えられる。
[実施例1]
第一実施形態の脂質二分子膜基板1Aを以下の方法で製造した。
基板10の材料としてシリコン基板を用いた。基板10の上面に、120nmの厚さのシリコン酸化膜層(薄膜層)11を、熱酸化法により形成した。さらに、フォトリソグラフィ法とドライエッチング法を用いて、円形状の開口部(直径2μm又は4μm)を持つ微小井戸20を形成した。その深さは、1μmとした。さらに、水酸化カリウム溶液(濃度:10重量%)により、シリコン酸化膜層11の下に配置された基板10を、選択的にエッチングすることにより、微小井戸20の開口部21の四隅にオーバーハング部11aを形成した。
<巨大脂質膜ベシクルの作製および基板への展開>
脂質二分子膜30を以下の方法で形成した。
まず、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)(30モル%)とジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)(40モル%)とコレステロール(30モル%)との混合クロロホルム溶液(濃度2.5mM、秩序液体相用蛍光ラベル剤としてローダン(Laurdan;6-Dodecanoyl-2-Dimethylaminonaphthalene)を0.2モル%添加、無秩序液体相用蛍光ラベル剤としてローダミン‐ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(Rhod−DPPE)を0.05モル%添加)を調製した。
続いて、ITO基板(ガラス上に膜厚100nmのITO薄膜が成膜された基板、サイズ40×40mm)上に、前記混合クロロホルム溶液200μLを均一に塗布した。この基板を、室温で2時間、減圧乾燥して、クロロホルム溶媒を完全に除去することで、均一な脂質分子薄膜をITO基板上に形成した。その上に、サイズ20×20mmでくり貫いた窓部を有するシリコーンゴム(外寸30×30mm、厚さ1mm)を密着して配置し、窓部に200mMのスクロース水溶液500μLを滴下した。さらに、その上部にITO基板を配置し、シリコーンゴムの窓部に滴下した溶液をITO基板で挟み込んだ。続いて、ITO基板にクリップ電極を接合し、室温で交流電場(正弦波、1V、10Hz)を2時間印加することで、電界形成法により巨大脂質膜ベシクルのスクロース分散液を作製した。
図3に示すように、得られた巨大脂質膜ベシクルには、秩序液体相30aと無秩序液体相30bに分離したドメイン構造が形成されていた。励起波長559nmを使用してベシクルの蛍光観察を行ったため、無秩序液体相30b中のローダミン分子の蛍光のみが観測されている。
<脂質二分子膜基板の作製>
前述のようにして作製した、微小井戸20を有する基板10の上に、第一溶液22(200mMグルコース,5mM塩化カルシウムの溶液)50μLを滴下した。さらに、前記巨大脂質膜ベシクルのスクロース分散液1μLを第一溶液22中に滴下して、2分間静置することで巨大脂質膜ベシクルを基板10の表面を構成するシリコン酸化膜層11上に展開し、脂質二分子膜30を得た。球状構造を有するベシクルは基板10に衝突し、その球状構造が破壊されることで微小井戸20の開口部21を覆うように脂質二分子膜を形成すると考えられる。その時の蛍光観察像を図4に示す。無秩序液体相30bを標識するRhod−DPPEに由来する蛍光が脂質二分子膜で覆われた微小井戸20aの開口部に観察された。秩序液体相にはRhod−DPPEが存在しないため薄膜層11表面は秩序液体相30aで覆われていることが観察された。
図5に、このときの脂質二分子膜基板の模式的な断面図を示す。ここに示すような構成を有する脂質二分子膜30が得られたことが推定された。すなわち、開口部21は無秩序液体相30bが覆い、その周囲である薄膜層11の表面を秩序液体相30aが覆い、各相が分離した構造を形成していると推定された。
前述のようにして作製した脂質二分子膜30で覆われた微小井戸20の外部の第一溶液22を、第二溶液24(100mMグルコース、5mM塩化カルシウムの溶液)に置換した。微小井戸20の内部と外部の浸透圧差により、微小井戸20の外部から内部への水の移動が生じ、微小井戸20の開口部21において脂質二分子膜30が微小井戸20の外部に向かって膨らんでいる脂質二分子膜基板1Aを作製した。
浸透圧を生じさせたときの秩序液体相の動きを,蛍光顕微鏡を用いて観察した。図6に示すように、浸透圧差により脂質二分子膜30が井戸外部に向かって膨れ上がり、無秩序液体相30bで覆われていた微小井戸20に秩序液体相30aが局在的に混入し、開口部21を覆う脂質二分子膜において両者の相がドメイン構造を形成している様子が示唆された。浸透圧差による脂質二分子膜を変形させる本手法によって、微小井戸を覆う脂質二分子膜に秩序液体相30aのドメインを形成することに成功した。
1A,1B…脂質二分子膜基板、10…基板(基板本体)、11…薄膜層(シリコン酸化
膜層)、11a…オーバーハング部、20…微小井戸、21…開口部、22…第一溶液、
23…蛍光分子(蛍光プローブ)、24…第二溶液、30…脂質二分子膜(脂質二重膜)
、30a…秩序液体相、30b…無秩序液体相、32…凹部、34…凸部、40…電極、41…対向電極

Claims (7)

  1. 基板に微小井戸が形成され、該微小井戸の開口部が脂質二分子膜によって覆われている脂質二分子膜基板において、
    前記微小井戸の前記開口部の周縁において、前記開口部を狭める方向に延びるオーバーハング部が配置されており、
    前記脂質二分子膜が、秩序液体相及び無秩序液体相の2つの相状態を有し、
    前記微小井戸の内部を満たして前記脂質二分子膜に接している第一溶液と、
    前記微小井戸の外部で前記脂質二分子膜に接し、該脂質二分子膜を覆っている第二溶液と、を備え、
    前記第二溶液は、前記第一溶液の浸透圧よりも低い浸透圧を有し、
    前記脂質二分子膜は、前記開口部において前記微小井戸の外部に向かって膨らんでいることを特徴とする脂質二分子膜基板。
  2. 基板に微小井戸が形成され、該微小井戸の開口部が脂質二分子膜によって覆われている脂質二分子膜基板において、
    前記微小井戸の前記開口部の周縁において、前記開口部を狭める方向に延びるオーバーハング部が配置されており、
    前記脂質二分子膜が、秩序液体相及び無秩序液体相の2つの相状態を有し、
    前記微小井戸の内部を満たして前記脂質二分子膜に接している第一溶液と、
    前記微小井戸の外部で前記脂質二分子膜に接し、該脂質二分子膜を覆っている第二溶液と、を備え、
    前記第二溶液は、前記第一溶液の浸透圧よりも高い浸透圧を有し、
    前記脂質二分子膜は、前記開口部において前記微小井戸の内部に向かって凹んでいることを特徴とする脂質二分子膜基板。
  3. 前記微小井戸の内部に電極が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の脂質二分子膜基板。
  4. 前記第一溶液中に蛍光分子が含まれていることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載の脂質二分子膜基板。
  5. 前記脂質二分子膜が正電荷を有することを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載の脂質二分子膜基板。
  6. 微小井戸が形成された基板の表面に第一溶液を滴下し、前記第一溶液を前記微小井戸の内部に充填し、且つ前記基板の表面を前記第一溶液で覆う工程と、
    前記基板の表面を覆う前記第一溶液に巨大脂質膜ベシクルを添加し、前記基板の表面で前記巨大脂質膜ベシクルを展開させることにより、前記微小井戸の開口部を脂質二分子膜で覆う工程と、
    前記微小井戸の外部にある前記第一溶液を、該第一溶液の浸透圧よりも低い浸透圧を有する第二溶液に変えることにより、前記脂質二分子膜で隔てられた前記微小井戸の内部と外部との間に浸透圧差を生じさせ、前記微小井戸の開口部において、前記微小井戸の外部に向かって前記脂質二分子膜を膨らませ、前記開口部を覆う前記脂質二分子膜における秩序液体相及び/又は無秩序液体相の相状態を制御する工程と、を有し、
    前記微小井戸の前記開口部の周縁において、前記開口部を狭める方向に延びるオーバーハング部が配置されている、脂質二分子膜基板の製造方法。
  7. 微小井戸が形成された基板の表面に第一溶液を滴下し、前記微小井戸の内部に前記第一溶液を充填し、且つ前記基板の表面を前記第一溶液で覆う工程と、
    前記基板の表面を覆う前記第一溶液に巨大脂質膜ベシクルを添加し、前記基板の表面で前記巨大脂質膜ベシクルを展開させることにより、前記微小井戸の開口部を脂質二分子膜で覆う工程と、
    前記微小井戸の外部にある前記第一溶液を、該第一溶液の浸透圧よりも高い浸透圧を有する第二溶液に変えることにより、前記脂質二分子膜で隔てられた前記微小井戸の内部と外部との間に浸透圧差を生じさせ、前記微小井戸の開口部において、前記微小井戸の内部に向かって前記脂質二分子膜を凹ませ、前記開口部を覆う前記脂質二分子膜における秩序液体相及び/又は無秩序液体相の相状態を制御する工程と、を有し、
    前記微小井戸の前記開口部の周縁において、前記開口部を狭める方向に延びるオーバーハング部が配置されている、脂質二分子膜基板の製造方法。
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