JP4394917B2 - 人工脂質二重膜を有する電流測定装置 - Google Patents

人工脂質二重膜を有する電流測定装置 Download PDF

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Description

本発明は、人工脂質二重膜を有する電流測定装置に関するものであり、特に、人工脂質二重膜を用いた単一のイオンチャネルにおけるチャネル電流を測定するだけでなく、人工脂質二重膜を光学的に観察することが可能な電流測定装置に関するものである。
イオンチャネルは、脂質二重膜を基本構造として生体膜を貫通して存在するタンパク質で、刺激に応じてイオンの出入りを調節し、細胞に電気信号やカルシウム信号を発生させる。すなわち、イオンチャネルは刺激を細胞内信号に変換する重要なタンパク質分子である。
このようなイオンチャネルは、イオンの通り道であるポアとチャネルの開閉を制御するゲートとから構成され、ゲートは膜電位や生理活性物質を感受することにより開閉する。この開閉機能は、イオンがイオンチャネルを透過するときのイオン電流を測定することによって確認することができる。単一のイオンチャネルのイオン電流を測定する方法としてパッチクランプ法が用いられるが、脂質平面膜法によりイオン電流を測定することも行われている。
イオンチャネルの構造機能の相関研究を深めるためには、単純な再構成系で実験を行う必要がある。この場合に脂質平面膜法が用いられる。この脂質平面膜法は、イオン、水、人工脂質二重膜、イオンチャネルという最小限の単純系を提供するものである。また、脂質平面膜法の系を用いたセンサーの開発も現在盛んに行われている(例えば、非特許文献1等)。
脂質平面膜法の系について具体的に説明すると、図7に示すように、人工脂質二重膜111にイオンチャネル112を組み込み、イオンチャネル112を介して流れる電流を計測する。上記人工脂質二重膜111は、水溶液槽113を仕切るプラスティック板等の仕切り板114に開けられた小孔115に形成されている。2つに仕切られた水溶液槽113の一方の槽には、電極116が投入され、この電極116を介して電流計測器117が設けられている。他方の槽には、電極118が投入され、この電極118を介して水溶液槽113に対してアース119がなされている。
ここで、上記小孔115に人工脂質二重膜111を形成する方法としては、以下の(A)垂直型ペインティング法、(B)垂直型貼り合わせ法、(C)水平型法のいずれかの方法が挙げられる。
(A)垂直型ペインティング法では、まず、図8の左側に示すように、水溶液槽113(図8には図示せず)を仕切る仕切り板114等の支持体に形成されている小孔115に、脂質溶液110を細いガラス管等で塗りつける。この状態では脂質溶液110は、小孔115をふさぐ状態で、仕切り板114の表面側双方に突出するように盛り上がっている。この脂質溶液110は、デカン等の有機溶媒に脂質を溶解してなる溶液である。塗りつけた後、図8の右側に示すように、脂質溶液110が仕切り板114の表面を移動することにより、自然に薄化した人工脂質二重膜111が得られる。なお、薄化とは、塗りつけられた脂質溶液110の中心部から有機溶媒等が移動して、該中心部にて脂質二重膜が形成される過程をいう。
次に、(B)垂直型貼り合わせ法では、図9の上段に示すように、水溶液槽113(図9には図示せず)における気液界面に脂質の単分子膜121を展開する。このとき気液界面は、仕切り板114に形成されている小孔115の下方側の端部と同じ位置としておく。その後、図9の中段に示すように、2つに仕切られた水溶液槽113の一方の槽(図中右側)における液面(気液界面)を上昇させることにより、単分子膜121を仕切り板114の表面に展開させる。これにより、小孔115の一方の開口が単分子膜121により塞がれた状態になる。さらにその後、図9の下段に示すように、2つに仕切られた水溶液槽113の他方の槽(図中左側)における液面(気液界面)を上昇させることにより、単分子膜121を仕切り板114の表面に展開させる。これにより、小孔115の他方の開口も単分子膜121が塞がれた状態となる。その結果、小孔115の双方の開口において、単分子膜121が貼り合わせられ、最終的に人工脂質二重膜111が形成される。
次に、(C)水平型法では、図7に示す水溶液槽113が仕切り板114により上下に仕切られた状態となる。このとき、図10(a)に示すように、仕切り板114に形成した小孔115を脂質溶液110で塞ぎ、該脂質溶液110が自然に薄化して人工脂質二重膜111となるのを待つか、図10(b)に示すように、小孔115より上側の槽の水圧を上げることにより脂質溶液110を下方に膨らませて薄化させることにより人工脂質二重膜111を形成する。
しかしながら、上記の何れの人工脂質二重膜の形成方法であっても、安定した人工脂質二重膜111を迅速に形成することが困難となっている。すなわち、上記(A)垂直型ペインティング法では、脂質溶液110が仕切り板114の表面を移動し、十分に薄化して人工脂質二重膜111となるまでに数分から数十分を要する。また、(B)垂直型貼り合わせ法では、人工脂質二重膜111を形成する前に小孔115をスクアレン等の有機溶媒で前処理することが必須であり、工程の増加により形成方法が煩雑化するだけでなく、複数回、液面を上下しないと人工脂質二重膜111が形成されていないことがほとんどである。
さらに、(C)水平型法のうち、小孔115を塞いだ脂質溶液110が自然に薄化するのを待つ場合(図10(a)の場合)には、人工脂質二重膜の形成が人為的には全く制御できない。それゆえ、薄化に数時間以上を要する場合がある。また、小孔115より上側の槽の水圧を上げることにより薄化する場合には、得られる人工脂質二重膜111において、「脂質二重膜」となる薄い部分と、その周囲を取り囲む環状バルク相という厚い部分とが生じる。したがって、この方法で得られる人工脂質二重膜111は、上記各部分の物理化学的な平衡の上に成り立っているため、水溶液の流動などによる振動でこの平衡が崩れると、人工脂質二重膜111はすぐに破れる。しかも、水溶液槽113における上下各槽の圧力差を正確にコントロールするのは難しいため、得られる人工脂質二重膜111はより不安定になりやすい。
このように、脂質平面膜法を用いた場合、安定で耐久性のある人工脂質二重膜を形成することが克服すべき大きな課題となっている。
ところで、イオンチャネルのゲートの開閉時には、イオンの透過と同時に、イオンチャネル分子の構造の変化がおこっていると考えられる。このイオンチャネル分子の構造および機能の関係を明らかにするためには、イオンチャネル分子の構造と機能を同時に測定できる測定装置が不可欠である。
そこで、本発明者等は、従来の人工脂質二重膜の上記問題点を改善するとともに、イオンチャネル分子の構造と機能を同時に測定できる電流測定装置を提案している(例えば、非特許文献2等)。この電流測定装置は、図11に示すように、上溶液槽101および下溶液槽102の2つの溶液槽を備えている。上溶液槽101の底面には中心部に小孔105が開けられたフィルム103が貼り付けられている。また、下溶液槽102は底面に開口部104があり、カバーガラス106が接着剤で固定されている。そしてこのカバーガラス106にはアガロースゲル層(図示せず)が形成されている。なお、上溶液槽101には、脂質平面膜法の系と同様に、電極116が投入され、この電極116を介して電流計測器117が設けられている。また、下溶液槽102には、電極118が投入され、この電極118を介して下溶液槽102に対してアース119がなされている。
この電流測定装置では、まず、脂質溶液中で上溶液槽101の下方部を移動させることにより、小孔105に脂質溶液の厚い膜を形成する。その後、上溶液槽101を下溶液槽102に投入し、小孔105に形成された厚い膜がカバーガラス106に形成されたアガロースゲル層に接するまで下降させる。ここで上溶液槽101の圧力(水圧)を高くすることによって、厚い膜を薄化させ人工脂質二重膜を形成する。
この電流測定装置では、上溶液槽101の圧力を高くすることにより、人工脂質二重膜の形成(厚い膜の薄化)に時間を要することがない。また、形成された人工脂質二重膜は、アガロースゲル層に支持されるので、上溶液槽101から圧力がかけられていても人工脂質二重膜は上下方向に安定化する。さらに、アガロースゲル層を薄くすれば、開口数(NA)の大きなレンズ107で人工脂質二重膜を観察することができるので、人工脂質二重膜にイオンチャネルが含まれている場合でも、イオンチャネルそのものの観察が可能となる。これにより、チャネル電流の測定と、イオンチャネルの構造の観察を同時に行うことができる。
Bayley,H., Cremer,P. Stochastic sensors inspired by biology, Nature413,226-230(2001) Ide,T., Takeuchi,U., Yanagida,T. Development of an Experimental Apparatus for Simultaneous Observation of Optical and Electrical Signals from Single Ion Cannels, Single Mol.3(2002)1,33-42
しかしながら、上記従来の電流測定装置は、人工脂質二重膜の安定性、小型化の点で未だ不十分な点を有しており、より高い性能を有する電流測定装置が嘱望されている。
具体的には、まず、上記従来の電流測定装置では、図12に示すように、フィルム103の小孔105に形成された人工脂質二重膜111は、カバーガラス106上のアガロースゲル層108に支持されて上下方向には安定となる。ところが、上溶液槽101および下溶液槽102がともに解放系であるため、上溶液槽101の圧力を高くした場合、上溶液槽101(図12には図示せず)の底面に平行な方向(矢印H方向)では、水溶液の流動などによる振動で人工脂質二重膜111が不安定となる。
したがって、上記従来の電流測定装置では、人工脂質二重膜111の曲率を厳密に保持することが困難となる。そのため、上述した(C)水平型法のうち、小孔115より上側の槽の水圧を上げることにより薄化する場合(図10(b)参照)と同様に、人工脂質二重膜111と環状バルク相の物理化学的な平衡が崩れてしまい、人工脂質二重膜111は破れることになる。
さらに、上記従来の電流測定装置では、2つの溶液槽を用いているため、電流測定装置の小型化が難しい。そのため、例えば、小型のチップ上に人工脂質二重膜を作製することは事実上できない。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、安定した人工脂質二重膜を迅速に形成でき、小型化が可能であるとともに、例えば、単一チャネルの構造と機能を同時に測定する用途に好適に用いることが可能な、人工脂質二重膜を有する電流測定装置を提供することにある。
本発明にかかる電流測定装置は、人工脂質二重膜を介して流れる電流を測定可能とする電流測定装置であって、水溶液を蓄積可能となっている上溶液槽と、該上溶液槽の下方に配置される下溶液槽とを備えており、上溶液槽の底面には膜形成用開口部が形成されているとともに、下溶液槽の底面には、人工脂質二重膜を支持する支持層が設けられており、上溶液槽の膜形成用開口部で形成した人工脂質二重膜を支持層上に接触させて支持する電流測定装置において、さらに、上記支持層を表面に載置する底板と、上溶液槽および底板の間に所定の間隔を保持する間隔保持部材とを備えており、上記下溶液槽は、底板および間隔保持部材に囲まれることにより、上溶液槽の下方に形成され、上溶液槽の膜形成用開口部で形成した人工脂質二重膜を下溶液槽側に膨らませることにより、該人工脂質二重膜を薄化した状態で支持層に接触させ、支持層上で支持することを特徴としている。
上記の構成によれば、下溶液槽が解放系ではないため、水溶液の流動による振動が抑えられ、上溶液槽の底面に平行な方向においても安定な人工脂質二重膜を形成することが可能となる。
また、本発明にかかる電流測定装置は、底板および間隔保持部材に囲まれて形成される下溶液槽の内部の圧力を低下させる陰圧形成手段を備えており、該陰圧形成手段により、上溶液槽の膜形成用開口部で形成した人工脂質二重膜を下溶液槽側に膨らませることを特徴としている。上記陰圧形成手段は、上記間隔保持部材に形成され、上記下溶液槽から外部につながる吸引口と、該吸引口に接続され、下溶液槽内部の水溶液を吸引する吸引手段とを含んでいることが好ましい。
さらに、本発明にかかる電流測定装置は、上記間隔保持部材が、上溶液槽および底板の間隔を変化可能となっており、該間隔の変化により、上溶液槽の膜形成用開口部で形成した人工脂質二重膜を下溶液槽側に膨らませるものであってもよい。かかる場合、上記間隔保持部材は弾性体からなっており、上下に伸縮可能となっていることが好ましい。
上記の構成によれば、下溶液槽の内部の圧力を低下させることにより、人工脂質二重膜を数秒間という短時間で迅速に、且つ、簡単に形成させることが可能となる。
また、本発明にかかる電流測定装置は、上記支持層が、高分子ゲルからなっていることが好ましく、上記高分子ゲルとして、アガロースまたはポリアクリルアミドが用いられることがより好ましい。さらに、上記高分子ゲル層の厚さは、50nm以上2mm以下であることが好ましい。
上記の構成によれば、下溶液槽の内部の圧力を低下させても、高分子ゲル層に支えられて、人工脂質二重膜が上下方向に安定する。
また、本発明にかかる電流測定装置は、上記膜形成用開口部の直径が、10μm以上500μm以下であることが好ましい。
さらに、本発明にかかる電流測定装置は、上記底板が透光性を有する材料からなっているとともに、底板の下方には、支持層上の人工脂質二重膜を観察可能とする光学観察手段が設けられている構成であることが好ましい。
また、本発明にかかる電流測定装置は、上溶液槽に電気的に接続される電流計測手段と、下溶液槽に電気的に接続されるアース手段とを備えていればよく、さらに、本発明にかかる電流測定装置は、上記人工脂質二重膜がイオンチャネルを含むことが好ましい。
以上のように、本発明にかかる電流測定装置を用いれば、上溶液槽3の底面9に平行な方向においても安定で耐久性が高い人工脂質二重膜2を短時間で簡単に形成することができる。また、チャネル電流の測定と同時に、イオンチャネルを光学的に観察することができる。さらに、小型化が可能で、小型のチップ上に作成することによって、より小型のセンサーを製造することが可能となる。
その結果、イオンチャネルの種類を変えることにより、様々な物質の検出に応用することができ、疾患に関与するイオンチャネルタンパク質を用いた創薬におけるスクリーニングに用いることができる。また、チャネル電流測定と光学観察を同時に行うことにより、イオンチャネルの機能と構造の関係を明らかにするためにも有用である。
〔実施の形態1〕
本発明における実施の一形態について、図1ないし図3に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、言うまでもないが、本発明は、特に本実施の形態の記載内容にのみ限定されるものではない。
(1)人工脂質二重膜を有する電流測定装置の一例
図1は本発明にかかる電流測定装置の概略の構成を示す断面図である。図2(a)・(b)は、図1に示す電流測定装置において、人工脂質二重膜が形成される様子を示す断面図である。図3は、図1に示す電流測定装置の分解組立図である。なお、図3において、上溶液槽は全体を示さず底面のみを示している。
本発明にかかる電流測定装置1は、図1に示すように、人工脂質二重膜2と、上溶液槽3と、支持層5と、底板6と、間隔保持部材7aと、電流計測部13と、アース部14とを備えている。人工脂質二重膜2は、上溶液槽3の底面9に設けられている小孔(膜形成用開口部)4に形成されている。上記下溶液槽8は、底板6および間隔保持部材7aに囲まれることにより、上溶液槽3の下方に形成されている。そして、上記電流測定装置1は、上溶液槽3の小孔4で形成した人工脂質二重膜2を下溶液槽8側に膨らませることにより、該人工脂質二重膜2を薄化した状態で支持層5に接触させ、支持層5上で支持している。なお、底板6の下方には、光学顕微鏡(光学観察手段)17が設けられていることが好ましい。
上記構成によれば、下溶液槽8が解放系ではないため、水溶液の流動による振動が抑えられるため、小孔4に形成される人工脂質二重膜2は、上溶液槽3の底面に平行な方向においても安定とすることが可能となる。
<人工脂質二重膜>
上記人工脂質二重膜2は、上記のように、上溶液槽3の底面9に開けられた小孔4に形成される。人工脂質二重膜2は、後述するように、小孔4に脂質溶液を添塗した後、下溶液槽8の内部の圧力を低下させることにより、人工脂質二重膜2上部より、上溶液槽3の水溶液を下溶液槽8に流入させ、人工脂質二重膜2を下に膨らませて支持層5と接触させることにより形成する。
上記人工脂質二重膜2は、そのゲートの開閉によってイオンを通すイオンチャネルを含む生体膜を模したものであり、単一又は希望する組成の脂質混合物を用いることにより、単純化したモデルチャネルを提供することが可能となる。なお、イオンチャネルの詳細については後述する。
上記脂質としては、人工脂質二重膜2を形成するものであれば特に限定されないが、リン脂質が好適に用いられる。具体的には、例えば、ホスファチジルコリン、ジフィタノイルホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン等が挙げられる。
これらのリン脂質における2本の炭化水素鎖は、飽和炭化水素であってもよいし、不飽和炭化水素であってもよい。これらの脂質は純粋なものを用いてもよいし、少なくとも2種類の脂質を混合したものであってもよい。また、イオンチャネルの活性維持のために、必要に応じて、例えば、コレステロール等を添加してもよい。
上記脂質溶液とは、上記脂質を有機溶媒に分散したものをいう。用いられる有機溶媒としては、非極性有機溶媒であれば特に限定されるものではない。具体的な一例としては、例えば、デカン、ヘキサデカン、ヘキサン等の飽和炭化水素等が好適に用いられる。また、脂質濃度は5mg/mL以上、40mg/mL以下であることが好ましく、15mg/mL以上、20mg/mL以下であることがより好ましい。
<上溶液槽>
上記上溶液槽3は、底面9に小孔4が形成され、水溶液を蓄積可能となっている容器であればよく、その構成は特に限定されるものではない。このような構成であれば、後述するように、上記小孔4に人工脂質二重膜2を形成することができる。
上記小孔4は上記上溶液槽3の底面9に形成されていればよいが、底面の中心に形成されていることがより好ましい。これにより下方よりの光学観察を容易に行うことができる。また、上記小孔4は上記底面9に直接形成されていてもよいし、上記上溶液槽3の底面9に開口部を設け該開口部に小孔4を形成したフィルムを接着したものであってもよい。小孔4は、直径が10μm以上、500μm以下であることが好ましく、50μm以上、200μm以下であることがさらに好ましい。これにより、人工脂質二重膜を良好に形成することができる。
上記小孔4を形成する底面9又はフィルムの材質としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等のプラスティック、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂等が好適に用いられる。また、上記小孔4を形成する底面9又はフィルムの厚さは0.1mm以上、0.3mm以下であることが好ましい。さらに、小孔4の開口部周辺のみで、底面9又はフィルムの厚さを、底面9又はフィルムの他の部分の厚さよりも薄く加工することがより好ましい。これにより安定な人工脂質二重膜を迅速に形成することができる。
上記小孔4は、例えば、以下に示すような従来公知の方法によって形成することができる。まず、ごく先端まで円錐形に鋭利に削ったステンレス棒をガスバーナー等で熱する。次にこれを上記小孔4を形成する面に強く押し付け、押し付けた面と反対側にわずかに膨らみができるところまで押し付けを続ける。この膨らみを剃刀で切り取ることで小孔4が形成される。なお、小孔4はクロロホルム/メタノールで洗浄することにより不純物等を取り除く。もちろん、小孔4を形成する方法は、これに限定されるものではなく、公知のあらゆる方法を用いることができる。
上記上溶液槽3の形状は特に限定されるものではないが、例えば、円筒形のものが挙げられる。また、上記上溶液槽3の大きさは特に限定されるものではないが、例えば円筒形である場合、その内径は0.5mm以上、20mm以下であることが好ましく、1.0mm以上、10mm以下であることがより好ましい。さらに、上記上溶液槽3の大きさは、好ましくは上記内径が0.5mm、より好ましくは10μmまで小型化することができる。また、上溶液槽3の容積は特に限定されるものではないが、0.01cm3以上、1.0cm3以下であることが好ましい。さらに、上溶液槽3の容積は0.001cm3まで小型化することができる。これにより、本発明にかかる電流測定装置1を、小型のチップ上に作成することが可能となり、より小型のセンサーを製造することが可能となる。
さらに、上記上溶液槽3の上記小孔4を形成する部分以外の材質も、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス、プラスティック等が挙げられる。
上記上溶液槽3は、水溶液を蓄積可能となっている。そして小孔4に形成される人工脂質二重膜2は、上溶液槽3および下溶液槽に満たされた水溶液に各側が接している。これは、人工脂質二重膜2の下溶液槽8側が、後述する支持層5に接触している場合も同様であり、人工脂質二重膜2は支持層5を浸透した水溶液に接している。上記水溶液は、界面活性剤、有機溶媒等を含むものでなければ特に限定されるものではない。上記水溶液の好ましい一例としては塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の水溶液が挙げられる。
また、上記上溶液槽3は、上下方向に移動することができるものであることが好ましい。上記上溶液槽3の上下移動は、手動で行ってもよいし、移動のための装置を用いてもよい。移動のための装置としては、具体的には、一例として、マイクロマニュピレーター等が挙げられる。
<下溶液槽>
上記下溶液槽8は、上溶液槽3の下方に配置されており、底板6および間隔保持部材7aに囲まれることにより形成されていればよい。下溶液槽8の底面すなわち底板6の表面には、人工脂質二重膜2を支持する支持層5が設けられており、上溶液槽3の小孔4で形成した人工脂質二重膜2は、支持層5上に接触させて支持するようになっている。
上記下溶液槽8は、上溶液槽3の底面9の小孔4に人工脂質二重膜2を形成するとともに、形成された人工脂質二重膜2を支持層5で安定に支持するために設けられる槽となっている。この観点から見れば、本発明にかかる電流測定装置1においては、下溶液槽8の構成は具体的に限定されるものではないが、本実施の形態で示すように、底板6および間隔保持部材7aで囲まれることにより形成されることが好ましい。
下溶液槽8の容積は特に限定されるものではないが、0.1mm3以上、10mm3以下であることが好ましく、0.5mm3以上、3.5mm3以下であることが好ましい。これにより、本発明にかかる電流測定装置1を、小型のチップ上に作成することが可能となり、より小型のセンサーを製造することが可能となる。
次に、下溶液槽8を形成する底板6、間隔保持部材7aについて具体的に説明する。
<底板>
上記底板6は、上溶液槽3の下方に、その底面に略平行に配置され、間隔保持部材7aが底板6と上溶液槽3の間に配置される。この底板6および間隔保持部材7aに囲まれることにより、上溶液槽3の下方に下溶液槽8が形成される。上記底板6の構成は特に限定されるものではなく、支持層5を表面に載置できる構成であればよい。したがって、底板6の形状や大きさ、表面の状態等も特に限定されるものではなく、最終的に得られる電流測定装置1や形成される支持層6の構成に応じて、適切な形状、大きさ、表面の状態等を選択すればよい。
上記底板6の等材質も特に限定されるものではないが、例えば、下方、すなわち、底板6の上溶液槽3に面する側と反対側から、光学観察を行う場合には、透光性を有する材質であることが好ましく、具体的には、例えば、ガラスやポリスチレン等のプラスティック等が挙げられる。これにより下方から光学顕微鏡17による観察が可能となる。
また、底板6の厚みも特に限定されるものではないが、0.1mm以上、1.0mm以下であることが好ましい。これにより、良好な機械的強度が得られる。また、例えば下方から光学観察を行う場合には、底板6の厚みは、光学観察の条件(例えば、対物レンズの作動距離等)に応じて、適切な厚みを選択すればよく特に限定されるものではないが、0.1mm以上、0.17mm以下であることがより好ましい。これにより、高開口数の対物レンズを用いた光学観察を良好に行うことができる。
また、上記底板6における上溶液槽3に面する側の表面、すなわち下溶液槽8の底面には、上述したように、人工脂質二重膜2を支持する支持層5が形成されている。
上記支持層5は、水溶液が浸透することができ、且つ、人工脂質二重膜2を支持することができるものであれば特に限定されるものではない。上記支持層5としては、具体的には、例えば、高分子ゲル、セルロース膜等の多孔質膜等を挙げることができる。中でも、上記支持層5は高分子ゲルからなるものであることがより好ましい。上記高分子ゲルとしては具体的には特に限定されるものではないが、アガロース等の多糖類や、ポリアクリルアミド等の親水性樹脂を好ましく用いることができる。これらを用いることにより、安価かつ信頼性の高い材料を用いて簡単に支持層5を形成することができる。
上記支持層5の厚さは、特に限定されるものではないが、50nm以上、2mm以下であることが好ましく、100nm以上、1mm以下であることがさらに好ましい。これにより、好適な大きさの電流測定装置を製造することが可能となる。また、例えば、光学観察を行う場合には、上記支持層5の厚さは、対物レンズの作動距離よりも小さければ特に限定されるものではないが、50nm以上、20μm以下であることがより好ましく、100nm以上、20μm以下であることがさらに好ましい。これにより、高開口数の対物レンズを用いる光学観察を良好に行うことが可能となる。すなわち、高開口数の対物レンズを用いる光学観察においては、人工脂質二重膜と対物レンズとの距離を小さくすることが好ましい。例えば、イオンチャネル1分子を蛍光観察するために、開口数1.4程度の対物レンズを用いる場合には、人工脂質二重膜2が底板6の支持層5側の表面から20μm以下の位置にあることが好ましい。これにより、上記対物レンズを有効に働かせることができる。さらに、例えば、近接場光を用いる場合には、上記支持層5の厚みは、100nm以上、200nm以下であることがより好ましい。これにより、溶液中の蛍光物質を良好に観察することが可能となる。また、近接場光を用いる場合には、人工脂質二重膜2が底板6の支持層5側の表面から100nm以上、200nm以下の位置にあることが好ましい。これにより、近接場光を用いる光学観察を良好に行うことができる。
また、支持層5の形成方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。例えば、具体的な一例としては、支持層5として、高分子ゲルであるアガロースを用いる場合には、アガロースの分散液を調製し、これを加熱してアガロースを溶解させた後、これを底板6に塗布して、室温で乾燥する方法が挙げられる。
上溶液槽3の小孔4で形成した人工脂質二重膜2は、下溶液槽8側に膨らませることにより、該人工脂質二重膜2を薄化した状態で上記支持層5に接触させ、上記支持層5上で支持することができる。これにより、人工脂質二重膜2は、上溶液槽3と下溶液槽との間で圧力差がある場合でも、上記支持層5に支持されて上下方向に安定する。
<間隔保持部材>
間隔保持部材7aは、図1ないし図3に示すように、上溶液槽3と底板6との間に配置され、上溶液槽3および底板6の間に所定の間隔を保持する。そして底板6および間隔保持部材7aに囲まれることにより、上述したように、上溶液槽3の下方に下溶液槽8が形成される。
上記間隔保持部材7aは、上溶液槽3および底板6の間に所定の間隔を保持し、下溶液槽8を形成できるような形状であれば特に限定されるものではないが、本実施の形態では、例えば、内部が中空となっており、この中空の部分に、下溶液槽8に満たす水溶液を蓄積可能となっている構成を挙げることができる。そして下溶液槽8は上記間隔保持部材7aと上溶液槽3と底板6と人工脂質二重膜2とで密閉されることとなる。このように、下溶液槽8が閉じた空間となることにより、上溶液槽3と下溶液槽8との間に圧力差がある場合であっても、底板6に平行な方向に安定した人工脂質二重膜2の形成が可能となる。これは、密閉された下溶液槽8では、上下溶液槽がともに解放系である場合におこる水溶液の流動が起こらないためである(図12参照)。
本実施の形態で用いられる上記間隔保持部材7aは、上部と下部とが開口しているとともに、内部が中空の円柱または角柱の形状を有している。上記間隔保持部材7aにより保持される間隔、すなわち上記円柱または角柱の高さは、上溶液槽3の底面9に形成された人工脂質二重膜2が、下溶液槽側に膨らんで、底板6に形成された支持層5に接触することができる高さであればよい。また、間隔保持部材7aは、図3に示すように、円柱の形状を有することがより好ましく、その内径は、0.25mm以上、2.5mm以下であることが好ましく、0.5mm以上、1.5mm以下であることがより好ましい。これにより下溶液槽8の容積を上述した範囲内とすることができる。また間隔保持部材7aが、円柱の形状を有する場合の内径と外径との差、すなわち下溶液槽8の側面の厚みは、0.05mm以上、0.5mm以下であることが好ましく、0.1mm以上、0.3mm以下であることがより好ましい。これにより、下溶液槽17の密閉をより十分なものとすることができる。
本実施の形態で用いられる間隔保持部材7aは、上記上溶液槽3および底板6の間隔を変化可能となっており、該間隔の変化により、上溶液槽3の小孔4で形成した人工脂質二重膜2を下溶液槽8側に膨らませることができるものとなっている。
具体的には、図2(a)に示すように、間隔保持部材7aにより保持される間隔を小さくした状態で、脂質溶液12を上溶液槽3の小孔4に塗布する。その後、図2(b)に示すように、上記間隔を大きくすると、人工脂質二重膜2上部より上溶液槽3の水溶液が下溶液槽8に流入し、人工脂質二重膜2が下方に膨らみ支持層5と接触する。この状態で人工脂質二重膜2は支持層5により支持される。このように、間隔保持部材7aが保持する間隔を変化させることにより、人工脂質二重膜2を迅速に形成することが可能となる。
したがって、上記間隔を変化可能な間隔保持部材7aとしては、保持する間隔を変化させることが可能な構成であれば、特に限定されるものではなく、間隔保持部材7aが機械的にそのような構成を有するものであってもよいし、間隔保持部材7aの材質の性質によりそのような変化が可能なものであってもよい。好ましい一例としては、例えば、弾性体からなっており、上下に伸縮可能となっている構成を挙げることができる。上記弾性体としては、例えば、各種エラストマーを好ましく用いることができ、中でも耐久性や安定性の点からシリコーンゴムがより好ましい。
また、図3に示すように、間隔保持部材7aおよび底板6を用いて下溶液槽8を形成し、該下溶液槽8を上溶液槽3の底面9で密閉する方法は特に限定されるものではなく、例えば、上記3つの部材を密着させてネジ止めする方法や、クリップ等の固定手段を用いて圧着させる方法が挙げられる。
<電流計測部・アース部>
上記電流計測部(電流計測手段)13は上溶液槽3に電気的に接続されおり、人工脂質二重膜2に組み込まれたイオンチャネルを介して流れる電流を計測可能となっている構成であれば特に限定されるものではない。
電流計測部13のより具体的な構成としては、例えば、図1に示すように、上溶液槽3に投入される電極15と、この電極15に接続される増幅器18と、該増幅器18に電気的に接続される電流計(図示せず)とを含む構成を挙げることができる。電極15としては、例えば、Ag−AgCl電極等が挙げられるが特に限定されるものではない。増幅器18および電流計についても特に限定されるものではなく、公知の装置を用いることができる。
上記電流計測部13を上溶液槽3に電気的に接続する場合には、下溶液槽8を必ずアースする。このとき用いられるアース部(アース手段)14としては特に限定されるものではなく、下溶液槽8に電気的に接続される手段であればよい。例えば、図1に示すように、下溶液槽8に電極16を投入し、この電極16にアースを接続する構成となっていればよい。なお、電極16は上記電極15と同じものを用いることができる。
また、上記電流計測部13により電流を測定する具体的な手法についても、特に限定されるものではないが、例えばパッチクランプ法や、脂質二重膜に埋め込み測る方法等を挙げることができる。これにより、イオンチャネルの機能の観察が可能となり、また、電流変化の形、大きさ、頻度から、分析物の同定と定量が可能となる。
<光学顕微鏡>
本発明にかかる電流測定装置においては、底板6の下方、すなわち底板6の支持層5が形成されている側と反対側に光学顕微鏡(光学観察手段)17が設けられていることが好ましい。これにより、イオンチャネルを介して流れる電流の測定と同時に、イオンチャネルを光学的に観察することが可能となる。もちろん本発明では、光学的にイオンチャネルを観察できる手段(光学観察手段)であれば、光学顕微鏡17以外の構成を好適に用いることができる。具体的には、例えば、近接場光励起蛍光顕微鏡等が挙げられるが特に限定されるものではない。
上記光学顕微鏡17による観察としては、例えば、ゲートの開閉に伴う蛍光標識したイオンチャネルの蛍光強度の変化、イオンチャネルの動き、2つの蛍光染料間のエネルギー転移によるスペクトルの変化等の観察が挙げられる。また、人工脂質二重膜2が形成されていることを光学顕微鏡17により確認することも可能である。さらに、蛍光標識した脂質を用いた人工脂質二重膜2を用いて脂質分子の動きを観察することもできる。もちろん光学測定はこれらに限定されるものではなく、従来公知のあらゆる方法が適用されうる。
<イオンチャネル>
本発明にかかる電流測定装置は、上記人工脂質二重膜2にイオンチャネルを組み込むことによって、イオンチャネルの構造と機能を同時に測定する用途に好適に用いることができる。すなわち、イオンチャネルを組み込んだ人工脂質二重膜2を用いて、イオンチャネルを介して流れる電流を計測し、刺激としての生理活性物質又は検体がイオンチャネルに結合して電流を阻害又は活性化することを観測したり、生理活性物質又は検体の濃度を測定したりすることが可能となる。
上記人工脂質二重膜2に組み込まれるイオンチャネルは、生体膜から単離・精製されたものでもよいし、また、遺伝子工学的手法等により作製されたものでもよいし、また人工的に合成されたものでもよく、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、Naチャネル、Kチャネル、Ca2+チャネル、アラメチシンチャネル、リアノジン受容体チャネル、ヘモリシンチャネル等が挙げられる。
イオンチャネルを上記人工脂質二重膜に埋め込む方法も、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではない。具体的には、例えばイオンチャネルを含む膜分画を界面活性剤で可溶化し、膜ベシクルへ再構成し、人工脂質二重膜に融合させる方法が挙げられる。
(2)人工脂質二重膜形成の手順
次に、本発明にかかる電流測定装置において、上溶液槽3の底面に形成されている小孔4に人工脂質二重膜2を形成する手順を図2に基づいて説明する。
具体的には、本実施の形態では、上記間隔保持部材7aが、上溶液槽3および底板6の間隔を変化可能な構成となっている。そこで、該間隔保持部材7aとして弾性体を採用した場合に、弾性体の上下方向の伸縮を利用して上記間隔を変化させ、これにより人工脂質二重膜2を迅速に形成する手順について説明する。
最初に、上溶液槽3および下溶液槽8を上記水溶液で満たしておく。次に図2(a)に示すように、間隔保持部材7aを収縮させた状態で、小孔4に上記脂質溶液12を添塗する。その後、図2(b)に示すように、上溶液槽3を徐々に引き上げることにより、上溶液槽3の水溶液が人工脂質二重膜2の上側から下溶液槽8に入り込み、人工脂質二重膜2が下方に膨らむ。このようにして、人工脂質二重膜2が支持層5と接触して薄化する。
このように、間隔保持部材7aを伸縮させて上記間隔を変化させることにより、人工脂質二重膜2を数秒間で形成することができる。また従来のように上溶液槽3の圧力を高くして人工脂質二重膜2を下溶液槽側に膨らませる場合と比べて安定した人工脂質二重膜2を形成することができる。上溶液槽3の圧力を高くする方法では、特に解放系において、人工脂質二重膜2の曲率が一定しない。加えて環状バルク相及びそれに続く小孔4周辺の底面9の脂質が側方に拡散して、人工脂質二重膜2が過度に側方に膨らみ、時間と共に曲率が増大する。これが人工脂質二重膜2の不安定化につながる。これに対して、間隔保持部材7aを伸縮させる方法では、下溶液槽8の圧力を低下させるため、脂質の側方への拡散による不安化が起こらない。
さらに、上溶液槽3の圧力を高くする方法では、特に解放系において、曲率を制御する場合、面積の小さい人工脂質二重膜2の曲率を決めるには、かなり大きな圧力が必要である。すなわち上溶液槽の水圧を大きくするために上溶液槽により多くの水溶液を蓄積することが必要である。例えば、直径が500μmの人工脂質二重膜の曲率を決めるためには水溶液の深さが3〜5mm程度必要であるが、直径が50μmの場合は水溶液の深さが20mm以上必要である。そのため、面積の小さい人工脂質二重膜2を形成するためには装置が大きくなってしまうという問題点がある。これに対し、下溶液槽8の圧力を低下させる場合には、上記問題点がないため、上溶液槽3を大きくすることなく、面積の小さい人工脂質二重膜2を形成することができる。また、人工脂質二重膜2を小さくすることができるため、電気ノイズを減少させることができる。
また、上溶液槽3が解放系であるのに対し、下溶液槽8は、人工脂質二重膜2と上溶液槽3の底面9と間隔保持部材7aと底板6とにより密閉された系となっている。そのため、従来では不安定であった底板6に平行な方向で、人工脂質二重膜2が安定するので、人工脂質二重膜2の耐久性をより一層向上することができる。
したがって、本発明には、上記の手順で、人工脂質二重膜2を形成する方法も含まれる。具体的には、本発明にかかる人工脂質二重膜の形成方法では、底面9に膜形成用開口部(小孔4)が形成されている上溶液槽3と下溶液槽8とを用いる。下溶液槽8は、上溶液槽3の下方に配置され、人工脂質二重膜2を支持する支持層5を表面に載置する底板6並びに上溶液槽3および底板6の間に所定の間隔を保持する間隔保持部材7aを備えており、該底板6および間隔保持部材7aに囲まれることにより形成されている。ここで上記間隔保持部材7aは上溶液槽3および底板6の間隔を変化可能となっている。本発明にかかる人工脂質二重膜の形成方法は、上記膜形成用開口部(小孔4)の上溶液槽3側および下溶液槽8側の表面を水溶液と接した状態とした上で、上記間隔を小さくした状態で、脂質溶液12を添塗する脂質溶液添塗工程と、上記間隔を大きくすることにより、人工脂質二重膜2を薄化した状態で支持層5に接触させる脂質膜薄化工程とを含む。
(3)本発明の用途
このように本発明にかかる電流測定装置においては、形成した人工脂質二重膜2をより安定化させることができるので、イオンチャネルを人工脂質二重膜2に組み込んだ状態でも、十分に安定した状態でイオンチャネルの構造と機能を同時に測定することができる。
本発明にかかる電流測定装置の具体的な用途の一例について説明すると、例えば、疾患に関与するイオンチャネルタンパク質を用いた創薬におけるスクリーニングに用いることができる。
イオンチャネルタンパク質は、種類も多く、殆どすべての細胞に分布している。従って、これらは、疾患の原因にもなりやすいタンパク質であり、創薬のターゲットの30〜40%がイオンチャネルタンパク質であると言われている。一般に薬理実験は、試薬を実験動物に投与して効果をみるものであるが、安定な人工脂質二重膜2ができれば、標的となるイオンチャネルタンパク質に対する効果を直接調べながら、創薬におけるスクリーニングを行うことが可能となる。特に、向精神薬など神経系に作用する薬は、イオンチャネルタンパク質に直接働くものが多く、この分野の創薬に好適に用いることができる。また、農薬の創薬に際しては、逆に、人間のイオンチャネルに作用しないものを選択するために用いることができる。
また、本発明にかかる電流測定装置は、人工脂質二重膜2の膜上のタンパク質−タンパク質(薬物)相互作用の可視化解析に用いることができる。さらには、イオンチャネルの種類を変えることにより、様々な物質の検出に応用することができる。
〔実施の形態2〕
本発明における実施の他の形態について、図4ないし図6に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本発明は、本実施の形態の記載内容にのみ限定されるものではない。また、前記実施の形態1において説明した部材等と同じ機能や作用を有する部材等については、その説明を省略する。
図4は、本発明にかかる他の電流測定装置の概略の構成を示す断面図である。図5は、図4に示す陰圧形成部のより具体的な構成を示す断面図である。図6(a)・(b)は、図4に示す電流測定装置において、人工脂質二重膜が形成される様子を示す断面図である。
(1)人工脂質二重膜を有する電流測定装置の他の例
本実施の形態にかかる電流測定装置は、図4に示すように、基本的には、前記実施の形態1で説明した電流測定装置と同様の構成を有しているが、間隔保持部材7bが、その間隔を変化できる構成とはなっておらず、下溶液槽8内に陰圧を形成する陰圧形成部(陰圧形成手段)10が設けられている構成となっている。
<間隔保持部材>
本実施の形態で用いられる間隔保持部材7bは、基本的な形状は、前記実施の形態1における間隔保持部材7aと同様であるが、上下方向に変化可能となっていない構成となっている。したがって、その材質は、上溶液槽3および底板6と密着し、下溶液槽8を密閉することが可能な材質であれば特に限定されるものではない。具体的には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコーンゴム、エポキシ樹脂、ラテックスゴム等を好ましく用いることができる。
<陰圧形成部>
陰圧形成部10は、底板6および上記間隔保持部材7bに囲まれて形成される下溶液槽8の内部の圧力を、上溶液槽3の圧力より低くできる構成であれば特に限定されるものではないが、例えば、図4に示すように、上記間隔保持部材7bの側壁に孔を形成し、ここから下溶液槽8内部を吸引することによって陰圧を形成する構成を挙げることができる。
上記陰圧形成部10のより具体的な構成は特に限定されるものではない。例えば、図5に示すように、間隔保持部材7bに、下溶液槽8から測定装置の外部につながる吸引口21を設け、さらに、該吸引口21に接続し下溶液槽8から電流測定装置の外部に引き出されたチューブ22を設け、このチューブ22を介して吸引部(吸引手段、図示せず)を接続する構成を挙げることができる。これにより、吸引部で、吸引口21およびチューブ22を介して下溶液槽8から水溶液を吸引し、下溶液槽8の内部の圧力を低下させることができる。
上記吸引口21の具体的な構成は特に限定されるものではなく、下溶液槽8内部の圧力を良好に低下できるように、下溶液槽8内部の水溶液を外部に吸い出せる程度の径を有する構成であればよい。また、吸引口21を形成する方法も特に限定されるものではなく、間隔保持部材7bの材質や大きさ等に応じて適切な方法を選択すればよい。
上記チューブ22の具体的な構成も特に限定されるものではなく、吸引部の吸引により下溶液槽8内部から水溶液を十分に吸い出せる程度の強度や径や長さを有する構成であればよい。チューブ22の材質としては、特に限定されるものではないが、具体的な一例としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、シリコーン等を挙げることができる。
上記吸引部の具体的な構成も特に限定されるものではなく、吸引口21・チューブ22を介して下溶液槽8内部の水溶液を吸引することができる構成であればよい。具体的な一例としては、例えば、ピペット、スポイド、シリンジ等が挙げられる。吸引部の材質も特に限定されるものではなく、吸引部の具体的な構成に合わせた適切な材質を選択すればよい。例えば、本発明では、シリコーンゴム製のスポイドを特に好適に用いることができる。
もちろん陰圧形成部の具体的な構成は、上記構成に限定されるものではなく、下溶液槽8内部を減圧できる構成であれば、どのような公知の手段でも好適に用いることができる。
(2)人工脂質二重膜形成の手順
次に、本実施の形態にかかる電流測定装置において、上溶液槽3の底面に形成されている小孔4に人工脂質二重膜2を形成する手順を図6(a)・(b)に基づいて説明する。
まず、上溶液槽3および下溶液槽8を上記水溶液で満たしておく。次に、図6(a)に示すように、小孔4に上記脂質溶液12を添塗する。その後、図6(b)に示すように、下溶液槽8から外部につながる吸引口21を介して、吸引口21に接続された図示しないチューブ22および吸引部を用いて下溶液槽8から水溶液を吸引する。これにより、上溶液槽3の水溶液が人工脂質二重膜2の上側から下溶液槽8に入り込み、人工脂質二重膜2が下方に膨らむ。このようにして、人工脂質二重膜2が支持層5と接触して薄化する。
このように、上溶液槽3および下溶液槽8に圧力差を設けることにより、圧力差のない場合に比べ、人工脂質二重膜2を数秒間で形成することができる。また、上溶液槽3の圧力を高くして圧力差を設ける場合と比べて、本実施の形態の方法では、簡単に圧力差を設けることが可能となる。さらに、上記〔実施の形態1〕(2)で説明したように、上溶液槽3の圧力を高くして人工脂質二重膜2を下溶液槽側に膨らませる場合と比べて、本実施の形態の方法では安定した人工脂質二重膜2を形成することができるとともに、面積の小さい人工脂質二重膜2を形成するために装置が大きくなってしまうという問題点もない。さらに、上溶液槽3が解放系であるのに対し、下溶液槽8は、人工脂質二重膜2と上溶液槽3の底面9と間隔保持部材7aと底板6とにより密閉された系となっている。そのため、従来では不安定であった底板6に平行な方向で、人工脂質二重膜2が安定するので、人工脂質二重膜2の耐久性をより一層向上することができる。
したがって、本発明には、上記の手順で、人工脂質二重膜2を形成する方法も含まれる。具体的には、本発明にかかる人工脂質二重膜の形成方法では、底面9に膜形成用開口部(小孔4)が形成されている上溶液槽3と下溶液槽8とを用いる。下溶液槽8は上溶液槽3の下方に配置され、人工脂質二重膜2を支持する支持層5を表面に載置する底板6並びに上溶液槽3および底板6の間に所定の間隔を保持する間隔保持部材7bを備えており、該底板6および間隔保持部材7bに囲まれることにより形成されている。ここで下溶液槽8には、下溶液槽8の内部の圧力を低下させる陰圧形成手段(陰圧形成部10)が備えられている。本発明にかかる人工脂質二重膜の形成方法は、膜形成用開口部(小孔4)の上溶液槽3側および下溶液槽8側の表面を水溶液と接した状態とした上で、脂質溶液12を添塗する脂質溶液添塗工程と、陰圧形成手段(陰圧形成部10)を用いて下溶液槽8の内部の圧力を低下させることにより、人工脂質二重膜2を薄化した状態で支持層5に接触させる脂質膜薄化工程とを含む。
このように本実施の形態においても、前記実施の形態1と同様に、迅速な人工脂質二重膜2の形成が可能となるとともに、形成された人工脂質二重膜2をより安定させたものとすることができる。それゆえ、本実施の形態にかかる電流測定装置も、前記実施の形態1と同じ用途に利用することができる。
なお、本実施の形態における上記間隔保持部材7bは、上記陰圧形成部10のみを備えたものであってもよいが、前記実施の形態1と同様に、上溶液槽3および底板6の間隔を変化可能な構成と組み合わせた構成となっていてもよい。すなわち、上記間隔保持部材7bは弾性体であり、下溶液槽8内を減圧するとともに、上記間隔を変化可能になっていてもよい。
以下、実施例、図3、図5および図13ないし図17により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本実施例においては、図5に示される本発明にかかる電流測定装置を用いた。図5に基づいて説明すると、上溶液槽3としては、容積が0.1cmで、底面9が厚さ0.2mm〜0.3mmのポリプロピレンからなるものを用いた。底面9には、直径0.15mmの小孔4を形成した。底板6としては、厚さが0.17mmで、1辺18mmの正方形のガラス板を用い、底板6の上溶液槽3に面する側に100nmの厚さのアガロースゲル層を支持層5として形成した。アガロースゲル層は、アガロース(Sigma製)の分散液を調整し、これを加熱してアガロースを溶解させた後、これを底板6に塗布して室温で乾燥することにより形成した。間隔保持部材7bとしては、図3に示すように、上部と下部とが開口しているとともに、内部が中空の円柱の形状を有しているものを用いた。間隔保持部材7bの内径は1.0mmで、高さは0.2mmであった。また、間隔保持部材7bは、シリコーンゴムからなるものを用いた。間隔保持部材7bには、吸引口21と、吸引口21に接続して直径が50μm以下のポリテトラフルオロエチレンチューブ22とを設けた。該ポリテトラフルオロエチレンチューブ22には、シリコーンゴム製のスポイドを吸引部として接続した。電極16としては、上下溶液槽のいずれにおいても、AgホイルをAgメッキしたAg−AgCl電極を用い、下溶液槽8の上記Ag−AgCl電極は、シリコーンゴム成形時にシリコーンゴムに埋め込んだものを用いた。チャネル電流の測定には、パッチクランプアンプ(CEZ−2400、日本光電製)を用い、DATレコーダーを用いてDATテープに記録した。
〔実施例1:平滑筋Ca2+依存性Kチャネルの電流測定〕
まず、上溶液槽3および下溶液槽8に、100mM KCl、10−9M CaCl、10mM Hepes(pH7.4)水溶液を満たした。
その後、上溶液槽3の底面9に形成された小孔4に、ホスファチジルコリン(Sigma製)を20mg/mLとなるようにデカンに溶解した脂質溶液を添塗した。添塗後、上記スポイドを用いて、下溶液槽8内部の水溶液を吸引し、人工脂質二重膜2を下溶液槽8側に膨らませて、人工脂質二重膜2を形成した。人工脂質二重膜2が形成されていることを顕微鏡観察により確認した。次に、ウシ気管平滑筋より調整した細胞膜ベシクルをこの人工脂質二重膜2と融合させ、ベシクル膜上のKチャネルを人工脂質二重膜2に組み込み、本発明の電流測定装置を作製した。作製された電流測定装置を用いて経時的に電流を測定した。
次に、上溶液槽3および下溶液槽8に満たす水溶液のCaCl濃度のみを1mMに変えて、上記と同様に電流測定装置を作製し、電流の測定を行った。
図13は、形成された人工脂質二重膜2の薄化が完了した状態を示している。人工脂質二重膜2(図中「二重膜」と表記)とその周囲を囲む環状バルク相(図中「バルク相」と表記)との境界が視認できることにより、薄膜化が完了したことが確認できる。図14に、得られた電流のトレースを、図15に膜電位−電流特性を示す。図14(a)は、水溶液が100mM KCl、10−9M CaClを含む場合、図14(b)は、水溶液が100mM KCl、1mM CaClを含む場合の電流のトレースを示す。CaClが10−9Mであるときはイオンチャネルが閉じられた状態であるのに対し、CaClが1mMであるときはイオンチャネルが開く割合が増大することが確認された。得られた電流のトレースのパターンは、従来の実験結果より明らかとなっているパターンと同一であった。このことより、本発明の電流測定装置を用いることにより、安定した人工脂質二重膜2を迅速且つ簡単に形成でき、信頼性のある測定結果が得られることが判る。また、図15に示されるI−V直線の傾きより求められた単一チャネル電流の大きさ(単一チャネルコンダクタンス)は220pS(=220×10−12A/V)であった。この値は、人工膜法やパッチクランプ法等の従来の方法により明らかになっている値と一致した。このことより、本発明の電流測定装置を用いることにより、生体膜イオンチャネルの性質を正確に測定できることが示される。また、人工脂質二重膜2直下のアガロースゲル層等がイオンチャネルあるいは電流測定系に影響を与えることなく、電流を計測することができることが判る。
〔実施例2:抗生物質アラメチシン(alamethicin)による、チャネルポアの形成(光学観察)と単一チャネル電流の同時測定〕
上記実施例1のベシクルの代わりに、Cy3(アマシャムファルマシア製)で蛍光標識したアラメチシン(Sigma製)のメタノール溶液を、最終濃度が10−8M程度になるように上溶液槽3の水溶液に添加した。アラメチシンは、そのC末端にグリシンを付加し、該グリシンのアミノ基に、Cy3モノファンクショナルダイキット(Cy3 monofunctional dye kit、ファルマシア製)を用いてCy3を結合させることにより蛍光標識した。アラメチシンは両親媒性ペプチドであり、液相から人工脂質二重膜2に自然に移行しイオンチャネルを形成する。なお、上下溶液槽に満たす水溶液としては、100mM KCl、10mM Hepes(pH7.4)水溶液を用いた。
本発明の電流測定装置を用いてその蛍光像とアラメチシンによるイオン電流を同時に観察、測定した。なお、蛍光像は、自作の対物レンズ型全反射蛍光顕微鏡を用いて測定した。
図16(a)に得られた蛍光性アラメチシンの蛍光像と膜中でのブラウン運動の軌跡を、図16(b)に電流トレースを示す。このように、本発明の測定装置を用いることにより、イオン電流の測定とイオンチャネルの光学観察を同時に行うことができる。
〔実施例3:リアノジンの検出〕
まず、上溶液槽3および下溶液槽8に、500mM Na−メタンスルホン酸、40mM Hepes(pH7.4)、0.01−0.1μM Ca2+水溶液を満たした。
その後、上溶液槽3の底面9の小孔4に、ホスファチジルコリン20mg/mlデカン溶液を添塗し、上記スポイドを用いて、下溶液槽8内部の水溶液を吸引し、人工脂質二重膜2を下溶液槽8側に膨らませて人工脂質二重膜2を形成した。次に、ブタ心筋細より調整した細胞膜ベシクルをこの人工脂質二重膜と融合させ、ベシクル膜上のリアノジン受容体チャネル(Ca−チャネル)を人工脂質二重膜2に組み込んだ。このとき、ベシクル膜上のリアノジン受容体チャネルを、あらかじめ、蛍光色素Cy5(アマルシャムファルマシア製)で蛍光標識した後、細胞膜ベシクルを人工脂質二重膜2に融合させた。リアノジン受容体チャネルの蛍光標識は、これに対する特異的モノクロナール抗体をCy5で標識し、この標識された抗体をリアノジン受容体チャネルに結合させることにより行った。
得られた本発明の電流測定装置を用いて単一チャネル電流を測定しながら、Cy5(アマシャムファルマシア製)で蛍光標識した1〜10nMのリアノジン(Sigma製)を膜上方より添加し、チャネルの活性化を観察した。
図17に、リアノジン添加前の電流のトレース(a)(図中「current」と表示、後述する(d)においても同じ)、リアノジン受容体チャネルの蛍光像(b)(図中、「channel」と表示、後述する(e)においても同じ)およびリアノジンの蛍光像(c)(図中、「ligand」と表示、後述する(f)においても同じ)、並びに、リアノジン添加後の電流のトレース(d)、リアノジン受容体チャネルの蛍光像(e)、およびリアノジンの蛍光像(f)を示す。リアノジン受容体チャネルとリアノジンの蛍光像の観察と電流の測定とを同時に行うことで、リアノジンが観察されるのと同時にリアノジン受容体チャネルの活性化が起こっていることが確認できる。
本発明にかかる電流測定装置は、例えば、疾患に関与するイオンチャネルタンパク質を用いた創薬におけるスクリーニングに用いることができる。
イオンチャネルタンパク質は、種類も多く、殆どすべての細胞に分布している。従って、これらは、疾患の原因にもなりやすいタンパク質であり、創薬のターゲットの30〜40%がイオンチャネルタンパク質であると言われている。一般に薬理実験は、試薬を実験動物に投与して効果をみるものであるが、安定な人工脂質二重膜2ができれば、標的となるイオンチャネルタンパク質に対する効果を直接調べながら、創薬におけるスクリーニングを行うことが可能となる。特に、向精神薬など神経系に作用する薬は、イオンチャネルタンパク質に直接働くものが多く、この分野の創薬に好適に用いることができる。また、農薬の創薬に際しては、逆に、人間のイオンチャネルに作用しないものを選択するために用いることができる。
また、本発明にかかる電流測定装置は、人工脂質二重膜2の膜上のタンパク質−タンパク質(薬物)相互作用の可視化解析に用いることができる。さらには、イオンチャネルの種類を変えることにより、様々な物質の検出に応用することができる。
本発明にかかる電流測定装置の概略構成を示す断面図である。 (a)は、図1に示す電流測定装置において、脂質溶液を上溶液槽の小孔に塗布した状態を示す部分断面図であり、(b)は、人工脂質二重膜が支持層に接触して薄化した状態を示す部分断面図である。 図1に示す電流測定装置において、下溶液槽を構成する各部材を示す部分分解組立図である。 本発明にかかる電流測定装置の他の概略構成を示す断面図である。 図4に示す電流測定装置において、陰圧吸引部のより具体的な構成を示す部分断面図である。 (a)は、図1に示す電流測定装置において、脂質溶液を上溶液槽の小孔に塗布した状態を示す部分断面図であり、(b)は、人工脂質二重膜が支持層に接触して薄化した状態を示す部分断面図である。 従来の脂質平面膜法を示す模式図である。 従来の垂直型ペインティング法を示す図である。 従来の垂直型貼り合わせ法を示す図である。 従来の水平型法の人工脂質二重膜形成方法を示す図である。 従来の人工脂質二重膜を有する電流測定装置を示す図である。 従来の高分子ゲル層上に形成された人工脂質二重膜を示す図である。 〔実施例1〕において、人工脂質二重膜の薄化が完了した状態を撮影した図である。 〔実施例1〕において、測定された電流トレースを示す図である。 〔実施例1〕において、測定された膜電位−電流特性を示す図である。 (a)は、〔実施例2〕において観察された蛍光標識したアラメチシンの蛍光像を示す図であり、(b)は、〔実施例2〕において測定された電流トレースを示す図である。 〔実施例3〕において測定または観察された、リアノジン添加前の電流トレース(a)、リアノジン受容体チャネルの蛍光像(b)、およびリアノジンの蛍光像(c)、並びに、リアノジン添加後の電流トレース(d)、リアノジン受容体チャネルの蛍光像(e)、およびリアノジンの蛍光像(f)を示す図である。
符号の説明
1 電流測定装置
2 人工脂質二重膜
3 上溶液槽
4 小孔(膜形成用開口部)
5 支持層
6 底板
7 間隔保持部材
8 下溶液槽
9 (上溶液槽の)底面
10 陰圧吸引部
12 脂質溶液
13 電流計測部(電流計測手段)
14 アース部
15・16 電極
17 光学顕微鏡(光学観察手段)
21 吸引口
22 チューブ

Claims (11)

  1. 人工脂質二重膜を介して流れる電流を測定可能とする電流測定装置であって、水溶液を蓄積可能となっている上溶液槽と、該上溶液槽の下方に配置される下溶液槽とを備えており、上溶液槽の底面には膜形成用開口部が形成されているとともに、下溶液槽の底面には、人工脂質二重膜を支持する支持層が設けられており、上溶液槽の膜形成用開口部で形成した人工脂質二重膜を支持層上に接触させて支持する電流測定装置において、
    さらに、上記支持層を表面に載置する底板と、上溶液槽および底板の間に所定の間隔を保持する間隔保持部材とを備えており、
    上記下溶液槽は、底板および間隔保持部材に囲まれることにより、上溶液槽の下方に形成され、
    底板および間隔保持部材に囲まれて形成される下溶液槽の内部の圧力を低下させる陰圧形成手段を備えており、
    該陰圧形成手段により、上溶液槽の膜形成用開口部で形成した人工脂質二重膜を下溶液槽側に膨らませることにより、該人工脂質二重膜を薄化した状態で支持層に接触させ、支持層上で支持することを特徴とする電流測定装置。
  2. 上記陰圧形成手段は、上記間隔保持部材に形成され、上記下溶液槽から外部につながる吸引口と、該吸引口に接続され、下溶液槽内部の水溶液を吸引する吸引手段とを含むことを特徴とする請求項に記載の電流測定装置。
  3. 上記間隔保持部材は、上溶液槽および底板の間隔を変化可能となっており、該間隔の変化により、上溶液槽の膜形成用開口部で形成した人工脂質二重膜を下溶液槽側に膨らませることを特徴とする請求項に記載の電流測定装置。
  4. 上記間隔保持部材は弾性体からなっており、上下に伸縮可能となっていることを特徴とする請求項に記載の電流測定装置。
  5. 上記支持層高分子ゲルからなっていることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の電流測定装置。
  6. 上記高分子ゲルとして、アガロースまたはポリアクリルアミドが用いられることを特徴とする請求項に記載の電流測定装置。
  7. 上記高分子ゲル層の厚さが、50nm以上2mm以下であることを特徴とする請求項5または6に記載の電流測定装置。
  8. 上記膜形成用開口部の直径が、10μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の電流測定装置。
  9. 上記底板が透光性を有する材料からなっているとともに、底板の下方には、支持層上の人工脂質二重膜を観察可能とする光学観察手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の電流測定装置。
  10. 溶液槽に電気的に接続される電流計測手段と、下溶液槽に電気的に接続されるアース手段とを備えていることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の電流測定装置。
  11. 記人工脂質二重膜がイオンチャネルを含むことを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の電流測定装置。
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