JP5917420B2 - 基板、前記基板を生体分子の機能測定に使用する方法、及び前記基板の製造方法 - Google Patents
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Description
1)脂質分子を溶解している有機溶媒は高沸点であるため、膜形成後も残留してしまう。
2)小穴に塗りつけた脂質溶液の自発的膜形成に頼るため、形成された膜は脂質二分子膜とその周囲を取り囲む環状バルク層との混合状態であり、小穴全面を均一な脂質二分子膜で覆うことが困難である。
3)測定のたびに小穴を手作業で作成する必要があるため、穴の径が不均一で、測定結果にばらつきが生じてしまう。
前記基板には、マイクロキャビティの開口部に微小孔(以下、ナノホールと呼ぶことがある。)を有する支持層が存在する。このマイクロキャビティの開口部のサイズ(直径)が従来よりも大きい場合においても、支持層が脂質二分子膜を支持するため、前記開口部を被覆する脂質二分子膜を安定化することができる。また、当該支持層によって脂質二分子膜を充分に支持することにより、脂質二分子膜を配置した基板におけるマイクロキャビティ内外の浸透圧変化や当該基板を運搬する際の振動等の影響も受け難くなる。
前記開口部の1μm 2 当たり、2〜400個の前記微小孔が設けられていることが好ましい。
前記開口部の口径面積に対する前記複数の微小孔の合計の口径面積が、1〜60%であることが好ましい。
この構成によれば、前記基板のマイクロキャビティ上で脂質二分子膜が支持層に支えられていることにより、当該脂質二分子膜の安定性が向上している。更に、当該支持層によって支えられた脂質二分子膜は、細胞膜を模した均一な膜構造を形成し易い。このように優れた特性を有する脂質二分子膜は、細胞膜の様にマイクロキャビティの内部と外部を隔てることができるため、例えば膜タンパク質の機能解析に有用である。
この構成によれば、膜安定性が向上した脂質二分子膜において、当該膜タンパク質の機
能を生理的な状態で解析することができる。
この構成によれば、脂質二分子膜でシールされたマイクロキャビティ内の状態を当該蛍光物質によって調べることができる。また、当該脂質二分子膜により、当該蛍光物質がマイクロキャビティの外部へ流出することを抑制できる。
この構成によれば、脂質二分子膜でシールされたマイクロキャビティ内の状態を当該電極によって、マイクロキャビティ内外の電位差又は電流値の変化として検出することができる。
この使用方法においては、前記基板の脂質二分子膜が支持層により安定化されているため、当該脂質二分子膜に配置した生体分子の機能測定を従来よりも容易に、高感度で行うことができる。また、従来よりもサイズが大きい脂質二分子膜を使用できるため、測定データのS/N比を向上させることができる。
この製造方法によれば、予めマイクロキャビティが形成された基板表面に支持層を形成する場合と比べて、支持層の形成が容易である。また、この製造方法によれば、支持層に形成した微小孔(ナノホール)の直下にマイクロキャビティを形成することが可能であり、微小孔とマイクロキャビティの位置がずれたり、微小孔が非貫通孔になることがない。この結果、当該基板の製造効率を向上させることができる。
前記支持層のうち、前記絶縁層に形成されるマイクロキャビティが接する領域に複数の微小孔を形成し、前記複数の微小孔を通して、前記絶縁層の上面をエッチングすることにより、前記複数の微小孔の直下に前記マイクロキャビティを形成し、前記マイクロキャビティの底部に前記導電層の少なくとも一部を露出させることを特徴とする基板の製造方法。
この製造方法によれば、マイクロキャビティの底部に電極として機能可能な導電層が配置された基板を容易に製造することができる。また、この製造方法によれば、予めマイクロキャビティが形成された基板表面に支持層を形成する場合と比べて、支持層の形成が容易である。また、この製造方法によれば、支持層に形成した微小孔(ナノホール)の直下にマイクロキャビティを形成することが可能であり、微小孔とマイクロキャビティの位置がずれたり、微小孔が非貫通孔になることがない。この結果、当該基板の製造効率を向上させることができる。
図1に示すように、本発明の第一実施形態の基板として、脂質二分子膜基板1が挙げられる。脂質二分子膜基板1においては、基板本体10にマイクロキャビティ20が設けられ、マイクロキャビティ20の開口部25及び基板本体の第一面10a(上面10a)が支持層11によって覆われ、更に支持層11が脂質二分子膜30によって覆われている。
ナノホール21が形成される支持層11の厚さは薄いほど好ましい。この理由は、マイクロキャビティの内部に注入した蛍光物質を励起するために、ナノホール21を通してマイクロキャビティの外部から内部へ励起光を照射する場合、ナノホール21の口径が励起光の波長よりも小さくても、支持層11の厚さが薄い場合には、当該励起光の少なくとも一部をマイクロキャビティの内部へ透過させることができるからである。励起光が減衰しつつもナノホールを透過可能であることは、本発明者らが実験的に確認している。
ただし、支持層11の厚さが極端に薄くなると、その構造的強度が弱まる可能性がある。このような事情を考慮すると、上述した厚さの範囲が好ましい。
開口部25を上面側から見た場合の形状としては、例えば円形、楕円形、三角形、矩形、多角形等の形状が挙げられる。
上記範囲の下限値0.1μm以上とすることにより、脂質二分子膜30内に充分な量の膜タンパク質31を配置し、当該膜タンパク質の機能をより容易に測定することができる。また、支持層11が設けられていない場合(従来の基板)では、脂質二分子膜30が自重によって開口部25からマイクロキャビティ20の内部へ落ち込む可能性があるために、開口部25の口径を3μm以上にすることが困難であった。しかし、本実施形態においては開口部25を覆う支持層11が設けられているため、脂質二分子膜30の落ち込みが防止されているので、開口部25の口径を従来よりも大きくすることができる。この結果、脂質二分子膜30内の膜タンパク質31の機能測定をより容易に高感度で行うことができる。
に関与するTRP(transient receptor potential)チャネル、細胞間情報伝達や痛みに関与するATP受容体、細胞間情報伝達や情動に関与するセロトニン受容体、細胞間情報伝達や興奮性神経伝達に関与するNMDA受容体、細胞間情報伝達や興奮性神経伝達に関与するAMPA受容体、細胞間情報伝達や興奮性神経伝達に関与するカイニン酸受容体、細胞間情報伝達や抑制性神経伝達に関与するGABA受容体等が挙げられる。
図2に示すように、本発明の第二実施形態の基板として、脂質二分子膜基板2が挙げられる。脂質二分子膜基板2は、第一実施形態の構成に加えて、マイクロキャビティ20の内部に蛍光物質23(蛍光分子23)が含まれている。
この構成以外は、前述した第一実施形態の脂質二分子膜基板1(膜タンパク質固定化基板1)と同様であるので、同一部分に同一符号を付して説明を省略する。
以下に、第二実施形態の脂質二分子膜2が第一実施形態の脂質二分子膜基板1と相違する点を説明する。
図3に示すように、本発明の第三実施形態の基板として、脂質二分子膜基板3が挙げられる。脂質二分子膜基板3は、第一実施形態の構成に加えて、マイクロキャビティ20の中に電極40を備え、マイクロキャビティ20の外部溶液Lの中に対向電極41を備えている。
この構成以外は、前述した第一実施形態の脂質二分子膜基板1(膜タンパク質固定化基板1)と同様であるので、同一部分に同一符号を付して説明を省略する。
以下に、第三実施形態の脂質二分子膜基板3が第一実施形態の脂質二分子膜基板1と相違する点を説明する。
膜タンパク質31の機能測定に際しては、マイクロキャビティ20の外部溶液Lに対向電極41を配置することが好ましい。電極40および対向電極41は、パッチクランプ測定装置に接続して使用することが好ましい。
電極40の材料としては、銀、塩化銀や、金、白金などが例示できる。
本発明にかかる基板に脂質二分子膜を配置することによって、脂質二分子膜基板を製造することができる。その好適な方法を、図1を参照して説明する。
当該製造方法としては、充填工程及び脂質二分子膜形成工程を、この順で行う方法が好ましい。なお、本発明の趣旨を逸脱しない限り、ここで挙げた2つの工程以外の他の工程を追加しても良い。
充填工程は、支持層の上面11aに水溶液を注いで、基板本体10に設けられたマイクロキャビティ20の中に前記水溶液を充填する工程である。
支持層の上面11aに注ぐ前記水溶液の組成は特に制限されず、例えば、グルコースと塩化カルシウムを含む水溶液Lが挙げられる。
支持層の上面11aに注ぐ水溶液Lの量は、マイクロキャビティ20を充填できる量であれば特に制限されないが、上面11aの上方に水溶液Lを溜めることが可能な量を注ぐことが好ましい。
支持層の上面11aに水溶液Lを注ぐ方法は特に制限されず、ピペット等で上面11aに前記水溶液を滴下した後、必要に応じて当該基板本体10および滴下した水溶液Lを超音波処理又は真空処理等することによって、マイクロキャビティ20から気泡を排出させて、マイクロキャビティ20の内部に当該水溶液Lを充填することができる。
脂質二分子膜工程は、支持層の上面11a上にある水溶液Lに巨大ベシクルを添加し、前記巨大ベシクルを支持層11の上面11aに沈降させ、マイクロキャビティ20の近傍で前記巨大ベシクルを展開し、マイクロキャビティ20の開口部25及び該開口部25を覆う支持層11に設けられたナノホール21を脂質二分子膜30で覆う工程である。
巨大ベシクルは、前述のとおり公知の方法で調製したものを使用できる。巨大ベシクルの大きさ(直径)は、マイクロキャビティの開口部25よりも充分に大きいものであることが好ましく、例えば10μm以上の直径を有する巨大ベシクルを使用することができる。また、例えば10μm〜100μmの大きさの巨大ベシクルを使用できるが、この大きさの範囲に限定されず、他の大きさの巨大ベシクルを使用しても構わない。
前記ベシクル分散液における巨大ベシクルの濃度の目安としては、添加した巨大ベシクルが、支持層の上面11aの広い領域、例えば上面11aの80%以上の領域、を占有して拡がる程度の濃度であることが好ましい。例えば、0.1mM〜10mMの濃度で巨大ベシクルを含むベシクル分散液を使用することができるが、この濃度範囲に限定されず、他の濃度のベシクル分散液を使用しても構わない。
また、当該脂質二分子膜30に膜タンパク質31を配置することにより、当該膜タンパク質31の機能を高感度で測定可能な膜タンパク質固定化基板を製造することができる。
図2で模式的に表された第二実施形態の脂質二分子膜基板2(膜タンパク質固定化基板2)の作製例を具体的に説明する。
基板本体10として、シリコン基板(Si(001)基板)を用いた。基板本体10の上面10aに、120nmの厚さの酸化シリコンからなる支持層11を熱酸化膜法により形成した。
次に、EB(電子線)リソグラフィ法によって、支持層11のナノホール21を形成する領域を改質し、その改質部をドライエッチング法によって除去して、開口が円形状のナノホール21を複数形成し、4×5個に配列したグリッドパターンを形成した(図1参照)。各ナノホール21の開口の直径は、約100nm、約200nm又は約300 nmの何れかのサイズであった。各ナノホール21を形成するための前記ドライエッチングは、基板本体の上面10aに到達するまで行った。
また、複数のナノホール21が備えられたマイクロキャビティ20の断面を観察した電子顕微鏡像を図5に示す。
脂質二分子膜30は巨大ベシクルを支持層11の上で展開することで形成した。脂質二分子膜の展開に用いた巨大ベシクルは、以下のようにして形成した。
ジフィタニルホスファチジルコリン(DPhPC)(80モル%)とコレステロール(20モル%)の混合クロロホルム溶液(濃度2.5mM)を調製した。続いて、表面に膜厚100nmのITOが薄膜化されたガラス基板(サイズ40×40mm、50〜100Ω/cm)上に、前記クロロホルム溶液200μLを均一に塗布した。この基板を、室温で2時間、減圧乾燥して、クロロホルム溶媒を完全に除去することによって、均一なリン脂質薄膜をITO基板上に形成した。次に、そのリン脂質薄膜の上に、窓部を有するシリコーンゴムを密着して配置した。この窓部は、外寸30×30mm、厚さ1mmのシリコーンゴムを20×20mmのサイズでくり貫いて形成されている。続いて、この窓部に200mMのスクロース水溶液を400μL滴下し、さらに、そのスクロース水溶液の上部にITO基板を配置し、シリコーンゴムの窓部にある溶液を2枚のITO基板で挟み込んで密閉した。続いて、各ITO基板にクリップ電極を接続し、60℃のホットプレート上で、交流電場(正弦波、1V、10Hz)を2時間印加することによって、電界形成法により巨大ベシクルを作製した。
マイクロキャビティ20を充填するための水溶液22として、塩化カルシウムを含む200mMグルコース水溶液を準備した。この充填用水溶液22を支持層の上面11aに滴下し、マイクロキャビティ20の内部に充填するとともに、支持層の上面11aの上部にも充分に溢れさせた。溢れさせた充填用水溶液22中に巨大ベシクルを添加し、更に巨大ベシクルを支持層11の上面11aに沈降させて、その上面11a上に巨大ベシクルを展開することにより脂質二分子膜30を形成した。
ほぼ全面にローダミン由来の蛍光が観察されたことから、脂質二分子膜30が支持層の上面11aのほぼ全面に形成されていることがわかる。更に、マイクロキャビティ20aからは、カルセイン由来の蛍光が観察された。一方で、脂質二分子膜30で覆われていないマイクロキャビティ20bからは、カルセイン由来の蛍光は観察されなかった。
第二実施形態の脂質二分子膜基板2(膜タンパク質固定化基板2)の別の作製例を、図2の模式図を参照して具体的に説明する。
本実施例においては、膜タンパク質31としてα−ヘモリシンを脂質二分子膜30に配置した。また、この膜タンパク質固定化基板2のマイクロキャビティ20の内部に、イオンの流入により蛍光強度が変化する蛍光分子23を配置した。これらの構成以外は、前述した実施例1と同様であるので、同一部分に同一符号を付して説明を省略する。
以下に、実施例2の膜タンパク質固定化基板2が実施例1の膜タンパク質固定化基板2と相違する点を説明する。
得られた脂質二分子膜基板2を用いて、脂質二分子膜30にα−ヘモリシンを配置することによって、カルシウムイオンが透過する膜貫通チャネル(膜タンパク質31)を形成させた膜タンパク質固定化基板2を得た。これを用いて、マイクロキャビティ20の外部の水溶液Lを1mM塩化カルシウム水溶液に置換したときのFluo4の蛍光強度変化を測定することにより、α−ヘモリシンを介したカルシウムイオンの膜透過を定量的に検出することができた。
第三実施形態の脂質二分子膜基板3(膜タンパク質固定化基板3)の作製例を、図3の模式図を参照して具体的に説明する。
本実施例においては、イオンの流入を電気生理的手法によって検出するために、マイクロキャビティ20の内部に電極40を配置し、外部に対向電極41を配置した。この構成以外は、前述した実施例1及び実施例2と同様であるので、同一部分に同一符号を付して説明を省略する。
以下に、実施例3の膜タンパク質固定化基板3が実施例1及び実施例2の膜タンパク質固定化基板2と相違する点を説明する。
本実施例の変形例として、1つの電極40に対して複数のマイクロキャビティ20を設けてもよいが、この構成の場合、当該1つの電極40で測定する際に、全てのマイクロキャビティ20を脂質二分子膜30で覆う必要があるため、測定準備や測定条件が煩雑となる。従って、一つの電極40には、一つのマイクロキャビティ20を形成することが望ましい。
Claims (10)
- マイクロキャビティを有する基板本体と、
前記基板本体上に積層され、前記マイクロキャビティの開口部を覆う支持層と、が少なくとも備えられ、
前記開口部の上方に、前記支持層を貫通する複数の微小孔が設けられていることを特徴とする基板。 - 前記支持層及び前記複数の微小孔の上に、脂質二分子膜が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の基板。
- 前記脂質二分子膜の前記複数の微小孔を覆っている部分に、膜タンパク質が含まれていることを特徴とする請求項2に記載の基板。
- 前記マイクロキャビティ内に蛍光物質が配置されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の基板。
- 前記マイクロキャビティ内に電極が配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の基板。
- 前記開口部の1μm 2 当たり、2〜400個の前記微小孔が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の基板。
- 前記開口部の口径面積に対する前記複数の微小孔の合計の口径面積が、1〜60%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の基板。
- 請求項1〜7のいずれか一項に記載の基板を生体分子の機能測定に使用する方法。
- 請求項1〜7のいずれか一項に記載の基板の製造方法であって、
基板本体の第一面に支持層を積層し、
前記支持層のうち、前記基板本体に形成されるマイクロキャビティが接する領域に複数の微小孔を形成し、
前記複数の微小孔を通して、前記基板本体の第一面をエッチングすることにより、前記複数の微小孔の直下に前記マイクロキャビティを形成することを特徴とする基板の製造方法。 - 請求項1〜7のいずれか一項に記載の基板の製造方法であって、
基板本体の第一面の上部に導電層を積層し、
前記導電層が配置された前記基板本体の第一面上に絶縁層及び支持層をこの順で積層し、
前記支持層のうち、前記絶縁層に形成されるマイクロキャビティが接する領域に複数の微小孔を形成し、
前記複数の微小孔を通して、前記絶縁層の上面をエッチングすることにより、前記複数の微小孔の直下に前記マイクロキャビティを形成し、
前記マイクロキャビティの底部に前記導電層の少なくとも一部を露出させることを特徴とする基板の製造方法。
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