JP2011157986A - 多板摩擦係合装置における摩擦板の固着防止構造 - Google Patents

多板摩擦係合装置における摩擦板の固着防止構造 Download PDF

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Abstract

【課題】ドライブプレートとドリブンプレートとの焼付けを防止する。
【解決手段】軸方向の両端に位置するドリブンプレート81、82の間で、ドリブンプレート81〜84とドライブプレート7とが交互に重ね合わせて配置され、ドリブンプレート81〜84とドライブプレート7とを軸方向に押圧するピストン20の押圧部21が、ドリブンプレート81の内径側に当接した多板摩擦係合装置において、
ドリブンプレート81の歯部811に、ドリブンプレート83側に突出する突出部812を設けて、突出部812の外周に、突出部812の径方向の厚みが薄くなる方向に傾斜する傾斜面813を設けると共に、ドリブンプレート83の歯部831に、ドリブンプレート81側に突出する突出部832を設けて、突出部832の内周に、突出部832の径方向の厚みが薄くなる方向に傾斜する傾斜面833を設けた。
【選択図】図2

Description

本発明は、多板摩擦係合装置における摩擦板の固着防止構造に関する。
特許文献1には、車両の自動変速機の多板摩擦係合装置における焼付け対策構造が開示されている。
特開平3−9119号公報
図9の(a)は、特許文献1の焼き付き対策構造が適用された従来例にかかる多板摩擦係合装置の部分拡大図であり、(b)は、(a)における要部を拡大して模式的に示した図である。
図9に示す多板摩擦係合装置100では、外側の支持部材110で支持されたドリブンプレート111(外側摩擦板)と、内側の支持部材120で支持されたドライブプレート121(内側摩擦板)とが、自動変速機の軸方向で交互に並べられてクラッチが構成される。
この多板摩擦係合装置100では、支持部材110に設けられたスナップリング112が、ピストン130とは反対側のドリブンプレート111の外周側に当接して、ドリブンプレート111の位置決めがされている。
また、ピストン130の押圧部131が、ピストン130側のドリブンプレート111の内周側を押圧するようになっており、ドリブンプレート111とドライブプレート121の締結・解放が、油圧により軸方向にストロークするピストン130と、ピストン130を初期位置に復帰させるリターンスプリング132とにより行われる。
図9の(b)に示すように、ドライブプレート121の外周側の両側には、ドリブンプレート111とドライブプレート121とを締結した時に、ドリブンプレート111と接触するフェーシング材122が設けられており、ドリブンプレート111の外周側には、ドライブプレート121側に突出する突出部111aが設けられている。
この多板摩擦係合装置100では、締結・解放の繰り返しによりフェーシング材122が摩耗すると、ドリブンプレート111の突出部111aが、隣接するドリブンプレート111の突出部111aと接触して、ドライブプレート121とドリブンプレート111とが直接接触しないようになっている。
しかし、多板摩擦係合装置100の場合、ドリブンプレート111におけるピストン130からの押圧力を受ける位置P1(作用点)と、スナップリング112で支持されている点P2(反作用点)とが、自動変速機の軸方向で一致していないので、ピストン側のドリブンプレート111の内周側が、ピストン130の押圧力でドライブプレート121側に変形することがある。
かかる場合、フェーシング材122が摩耗した際に、隣接するドリブンプレート111の突出部111a同士が接触しても、変形したドリブンプレート111がドライブプレート121に接触することを阻止できず、ドリブンプレート111(外側摩擦板)とドライブプレート121(内側摩擦板)との接触に起因する焼付けが生ずる場合がった。
そこで、摩擦板同士の接触に起因する焼付けを防止できるようにすることが求められている。
本発明は、それぞれのスプラインを径方向に対向させた相対回転可能な円筒状の外側支持部材および内側支持部材と、外側支持部材のスプラインに噛み合う歯部を備える複数の外側摩擦板と、内側支持部材のスプラインに噛み合う歯部を備える複数の内側摩擦板と、外側摩擦板と内側摩擦板とを軸方向に押圧するピストンと、を備え、軸方向の両端に位置する外側摩擦板の間で、外側摩擦板と内側摩擦板とが交互に重ね合わせて配置され、ピストンが、軸方向の両端に位置する外側摩擦板のうちの一方の外側摩擦板の内径側に当接した多板摩擦係合装置において、一方の外側摩擦板の歯部に、軸方向に突出する突出部を設け、突出部の外周に、先端側に向かうにつれて突出部の径方向の厚みが薄くなる傾斜面を設けると共に、一方の外側摩擦板に隣接する外側摩擦板の歯部に、一方の外側摩擦板側に突出する突出部を設けると共に、一方の外側摩擦板に隣接する外側摩擦板の突出部の内周に、先端側に向かうにつれて突出部の径方向の厚みが薄くなる傾斜面を設けた構成の摩擦板の固着防止構造とした。
本発明によれば、内側摩擦板のフェーシング材が摩耗して、隣り合う外側摩擦板の押圧されたときの離間距離が所定以下になったときに、外側摩擦板と内側摩擦板とがピストンにより軸方向に押圧されると、一方の外側摩擦板の突出部の外周の傾斜面が、隣接する外側摩擦板の突出部の内周の傾斜面に当接した状態となる。
この状態で外側摩擦板と内側摩擦板とがピストンによりさらに押圧されると、一方の外側摩擦板には、隣接する摩擦板との当接部を支点として内径側をピストンの押圧方向に移動させようとする力が作用する。
この際、一方の外側摩擦板の外径側には、突出部を径方向外側に移動させながら一方の外側摩擦板を回転させようとする回転モーメントが作用するが、一方の外側摩擦板の突出部は、隣接する外側摩擦板の突出部に内径側から当接しており、径方向外側への移動が阻止されているので、一方の外側摩擦板の回転が抑えられる。
これにより、一方の外側摩擦板から見てピストンの押圧方向に位置する内側摩擦板への、外側摩擦板の接触が防止できるので、外側摩擦板と内側摩擦板との接触に起因する焼付けを好適に防止できるようになる。
実施の形態にかかる固着防止構造の概略構成図である。 図1におけるクラッチ9の部分を拡大して示す図である。 図1におけるクラッチ9の部分を拡大して示す図である。 ドリブンプレートを説明する図である。 ドリブンプレートを説明する図である。 ドリブンプレートを説明する図である。 本発明の作用を説明する図である。 本発明の作用を説明する図である。 従来例にかかる固着防止構造を説明する図である。
以下、本発明にかかる固着防止構造の実施の形態を説明する。
実施の形態に係る固着防止構造は、自動変速機の多板摩擦係合装置に適用されている。
図1に示すように、変速機ケース1の内壁にスプライン2が形成されるとともに、スプライン2に対向して外周にスプライン6を備えるハブ部5が不図示の回転部材から延びており、ハブ部5のスプライン6に内周の歯部を係合させた複数のドライブプレート7と、変速機ケース1のスプライン2に外周の歯部を係合させた複数のドリブンプレート8と、が軸方向に交互に重ねて配置されて、多板摩擦係合装置のクラッチ9を構成している。
クラッチ9を押圧するためのピストン20が、変速機ケース1に固定された隔壁10のリング状のシリンダ11内に、軸方向にストローク可能に配置され、ピストン20とシリンダ11の間に油室13が形成されている。
クラッチ9と隔壁10の間には、スプリングシート15が設けられており、ピストン20とスプリングシート15の間に、ピストン20を初期位置に復帰させるためのリターンスプリング17が配置されている。
スプリングシート15は、軸方向から見てリング形状を有しており、スプリングシート15の外周側は、リターンスプリング17とは反対側の面が、変速機ケース1のスプライン溝3に嵌め込んだスナップリング4aに係止されおり、スプリングシート15は、スナップリング4aにより、軸方向が位置決めされている。
スプリングシート15は、ピストン20の押圧部21を貫通させる通過穴16を備えており、通過穴16を貫通したピストン20の押圧部21は、ドリブンプレート8の内径側に当接している。
図2は、図1におけるクラッチ9の部分の拡大図であって、(a)は、ピストン20の押圧部21で、ドライブプレート7とドリブンプレート8とが軸方向に圧縮(押圧)されていない状態(クラッチ9が解放状態)である場合を示す図であり、(b)は、圧縮されている状態(クラッチ9が締結状態)である場合を示す図であり。図3は、ピストン20の押圧部21で、ドライブプレート7とドリブンプレート8とが軸方向に圧縮されている状態(クラッチ9が締結状態)であって、フェーシング材7aが摩耗している場合を示す図である。
図2の(a)に示すように、ドリブンプレート8は、外径側の断面形状がそれぞれ異なっており、軸方向の両端に位置するドリブンプレート81、82と、ドリブンプレート81、82の間で、交互に配置されたドリブンプレート83、84とを備える。
なお、以下の説明において、ドリブンプレート81〜84を特に区別しない場合には、ドリブンプレート8と標記する。
図4の(a)は、ドリブンプレート81を、ピストン20側(図2の(a)において右側)から見た部分拡大図であり、(b)は、ドリブンプレート81を、隣接するドライブプレート7側(図2の(b)において左側)から見た部分拡大図であり、(c)は、(b)におけるA−A断面図である。
図4の(a)に示すように、ドリブンプレート81は、リング状の本体部810の外周縁に、径方向外側に延びる歯部811が周方向に沿って所定間隔で設けられた基本形状を有している。
図2の(a)に示すように、本体部810のドライブプレート7との対向面810aは、ドリブンプレート81が、ピストン20により押圧されてドライブプレート7側に移動した際に、ドライブプレート7のフェーシング材7aが当接する当接面となっている。
図4の(a)に示すように、歯部811は、図中仮想線で示す変速機ケース1のスプライン2の間のスプライン溝3と整合する位置に、スプライン溝3と同一個数設けられている。
軸方向から見た歯部811の幅は、径方向外側に向かうにつれて縮幅しており、図4の(b)、(c)に示すように、歯部811の先端側の一方の面には、突出部812が設けられている。
突出部812は、ドリブンプレート81の回転中心から径方向に延びる仮想線IM1に直交する方向に突出している。
突出部812の外周側には、仮想線IM1に所定角度θで交差する傾斜面813が設けられている。
傾斜面813は、仮想線IM1から離れるにつれて突出部812の径方向の厚みh1が薄くなるように設けられており、突出部812の先端には、仮想線IM1に平行な平坦面812aが残されている。
図2に示すように、ドリブンプレート81は、変速機ケース1のスプライン2に、歯部811を係合させて、最もピストン20(図1参照)寄りの位置に配置される。
この際、ドリブンプレート81は、突出部812をピストン20とは反対側(隣接するドライブプレート7側)に向けた状態で配置され、本体部810の内径側に、ピストン20の押圧部21が当接するようになっている。
ドリブンプレート82は、ドリブンプレート81と同一形状を有しており、突出部822をピストン20側(図中右側)に向けた状態で、ピストン20から最も離れた位置に配置されている。
ドリブンプレート82は、ピストン20とは反対側の面の外径側に当接するスナップリング4bにより、軸方向が位置決めされている。
図5の(a)は、ドリブンプレート83を、隣接するドライブプレート7側から見た部分拡大図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面図である。
図5の(a)に示すように、ドリブンプレート83は、ドリブンプレート81と同じ基本形状を有しており、リング状の本体部830の外周縁から径方向外側に延びる歯部831の断面形状が、前記したドリブンプレート81の歯部811と相違している。
ドリブンプレート83では、歯部831の先端側の両側に、突出部832、832が設けられている。
突出部832、832は、ドリブンプレート83の回転中心から径方向に延びる仮想線IM3に直交する方向に突出しており、内周側には、仮想線IM3に所定角度θで交差する傾斜面833が設けられている。
傾斜面833は、仮想線IM3から離れるにつれて突出部832の径方向の厚みh3が薄くなるように設けられており、突出部832の先端には、仮想線IM3に対して平行な平坦面832aが残されている。
ここで、傾斜面833は、隣接するドリブンプレート81、82、84(図2参照)の外周側の傾斜面813、823、843に対して平行に設けられている。
図2に示すように、ドリブンプレート83は、変速機ケース1のスプライン2に、歯部831を係合させて、隣接するドリブンプレート81、82、84との間にドライブプレート7が位置するように配置される。
図6の(a)は、ドリブンプレート84を、隣接するドライブプレート7側から見た部分拡大図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面図である。
図6の(a)に示すように、ドリブンプレート84もまた、ドリブンプレート81と同じ基本形状を有しており、リング状の本体部840の外周縁から径方向外側に延びる歯部841の断面形状が、前記したドリブンプレート81、82、83の歯部811、821、831と相違している。
ドリブンプレート84では、歯部841の先端側の両側に、突出部842、842が設けられている。
突出部842、842は、ドリブンプレート84の回転中心から径方向に延びる仮想線IM4に直交する方向に突出しており、外周側には、仮想線IM4に所定角度θで交差する傾斜面843が設けられている。
傾斜面843は、仮想線IM4から離れるにつれて突出部842の径方向の厚みh4が薄くなるように設けられており、突出部842の先端には、仮想線IM4に対して平行な平坦面842aが残されている。
ここで、図2に示すように、傾斜面843は、隣接するドリブンプレート83の内周側の傾斜面833に対して平行に設けられており、隣接するドリブンプレート83、84の突出部832、842同士が当接した際に、傾斜面833、843同士が互いに接触するようになっている。
ドリブンプレート84は、変速機ケース1のスプライン2に、歯部841を係合させて、隣接するドリブンプレート83との間にドライブプレート7が位置するように配置される。
実施の形態にかかる固着防止構造の作用を説明する。
図7は、ドリブンプレートの外径側に作用する回転モーメントと、付勢力を説明する図であり、(a)、(b)は、実施の形態にかかる突出部を備えるドリブンプレートの場合を、(c)は、従来例にかかる突出部を備えるドリブンプレートの場合を、説明する図である。
図8の(a)は、ドリブンプレート81〜84の外径側に作用する回転モーメントと、付勢力を説明する図であって、ドリブンプレート83、84の数を、図1から減らして示した図であり、(b)は、ドリブンプレート82に作用する回転モーメントと、付勢力を説明する図である。
なお、以下の説明では、ドリブンプレート83、84の両側に設けられた突出部832、842を区別するために、必要に応じて、ピストン20(図1参照)側の突出部を、突出部832α、842α、反対側の突出部を、突出部832β、842βと標記する。
図2に示すように、ドライブプレート7とドリブンプレート8とが、図2の(a)に示す解放状態から、ピストン20の押圧部21より軸方向に押圧されると、ドライブプレート7のドリブンプレート8との対向に設けられたフェーシング材7aの厚みWが十分である間は、ドリブンプレート8(81、82、84)の突出部812、822、842を、ドリブンプレート83の本体部830に当接させないで、ドライブプレート7とドリブンプレート8とが締結状態になる(図2の(b)参照)。
一方、ドライブプレート7とドリブンプレート8の締結/開放の繰り返しにより、フェーシング材7aが摩耗すると、図3に示すように、ドリブンプレート8(81、82、84)の突出部812、822、842を、ドリブンプレート83の本体部830に当接させて、ドライブプレート7とドリブンプレート8とが締結状態になる。
ここで、ピストン20の押圧部21とは反対側に位置するドリブンプレート82は、スナップリング4bで外周側が支持されており、ピストン20側のドリブンプレート81は、スナップリング4bよりも内径側で、ピストン20の押圧部21から押圧力を受けるようになっているので、軸方向に複数設けられたドリブンプレート8では、ピストンからの押圧力を受ける位置P1(作用点)と、スナップリング4bで支持されている点P2(反作用点)とが、軸方向で一致していない。
そのため、ドライブプレート7とドリブンプレート8とが、図3に示す締結状態になると、ピストンの押圧力は、隣接するドリブンプレート83との当接部P3を支点として、ドリブンプレート81の内径側を、ピストンの押圧方向(矢印Fpで示す方向)に回転させるように作用する。
この図3に示す状態では、図7の(b)に示すように、突出部812が設けられたドリブンプレート81の外径側に、矢印M1で示す方向の回転モーメントが作用する。
ここで、ドリブンプレート81の突出部812は、隣接するドリブンプレート83の突出部832に内径側(内周側)から当接しており、突出部812が設けられた外径側の矢印M1で示す方向への回転が阻止されるようになっている。
また、傾斜面813、833の接触面では、回転モーメントM1を受けた突出部812が、ピストン20の押圧力に応じた付勢力Fを突出部832に作用させるが、この際に突出部812は、付勢力Fと反対方向の付勢力F’(反力)を突出部832から受け、この付勢力F’が、ドリブンプレート81に作用する回転モーメントM1を打ち消す方向に作用する。
さらに、突出部812は、ドリブンプレート81において外径側の端部に一体に形成されているので、突出部812に作用する付勢力F’は、ドリブンプレート81の本体部810の内周側をピストン20側に移動させようとするモーメントM’(図7の(a)参照)を生じる。
そうすると、隣接するドリブンプレート83との当接部を支点としたドリブンプレート81の回転が抑えられることになる。
なお、ピストン20の押圧力Fpが大きくなると、傾斜面833に作用する付勢力Fも大きくなるが、傾斜面833から受ける反力F’も大きくなるので、ピストン20の押圧力Fpの大小にかかわらず、押圧力Fpに応じた反力F’がドリブンプレート81に作用して、ドリブンプレート81の回転が抑えられる(キャンセルされる)。
ちなみに、図7の(c)に示すように、従来例にかかるドリブンプレート111の突出部111a(図9参照)と同じ形状の突出部812’、832’(傾斜面のない突出部)を有するドリブンプレート81’、83’の場合、突出部812’が設けられた外径側の回転が突出部832’により阻止されない。そのため、ドリブンプレート81’の回転をキャンセルする方向の力が、ドリブンプレート81’に入力されないので、ドリブンプレート81’は、隣接するドリブンプレート83’との当接部を支点として回転し、外径側が、径方向外側(図中符号Xで示す方向)に、内径側が、隣接するドリブンプレート83’側(ドライブプレート7側)に、それぞれ大きく変形してしまう。
そのため、フェーシング材7aが摩耗して、突出部812’、832’同士を当接させた状態で、ドライブプレート7とドリブンプレート81’、83’が締結されると、ドライブプレート7側に変形したドリブンプレート83’の内径側が、ドライブプレート7に接触して、焼付けを起こしてしまう。
次に、ドリブンプレート82〜84の外径側に作用する回転モーメントと、付勢力を、図8を参照して説明する。
前記したように、ドリブンプレート83のドリブンプレート81側の突出部832αには、ドリブンプレート81の突出部812からの付勢力Fが作用するので、ドリブンプレート83の外径側には、突出部832α側を径方向外側に、突出部832β側を径方向内側に、それぞれ移動させようとする回転モーメント、すなわち、矢印M2で示す方向の回転モーメントが作用する。
しかし、実施の形態では、突出部832βは、隣接するドリブンプレート84の突出部842αに外周側から当接しており、径方向内側への移動が阻止されている。
また、回転モーメントM2を受けた突出部832βが、付勢力Fを突出部842αに作用させるが、この際に突出部832βは、付勢力Fと反対方向の付勢力F’(反力)を、突出部842βから受け、この付勢力F’が、ドリブンプレート83の外径側に作用する回転モーメントM2を打ち消す方向に作用する。
さらに、突出部832βは、ドリブンプレート83において外径側の端部に一体に形成されているので、突出部832βに作用する付勢力F’は、ドリブンプレート83の内径側をドリブンプレート81から離れる方向に移動させようとするモーメントを生じる。
そうすると、前記したドリブンプレート81の場合と同様に、隣接するドリブンプレート84との当接部を支点としたドリブンプレート83の回転が抑えられることになる。
同様に、ドリブンプレート84の突出部842αには、ドリブンプレート83の突出部832βからの付勢力Fが入力されるので、ドリブンプレート84の外径側には、矢印M3で示す方向の回転モーメントが作用する。
しかし、ドリブンプレート83の場合と同様の現象が、ドリブンプレート84の場合にも生ずるので、ドリブンプレート84の回転も抑えられることになる。
なお、ドリブンプレート82、84の間のドリブンプレート83にも、同様の現象が生じて、ドリブンプレート83の回転も抑えられる。
また、ドリブンプレート82の突出部822には、ドリブンプレート83の突出部832βからの付勢力Fが入力されるので、ドリブンプレート82の外径側には、矢印M5で示す方向の回転モーメントが作用する。
そうすると、突出部822は、ドリブンプレート82において外径側の端部に一体に形成されているので、突出部822に作用する付勢力Fは、ドリブンプレート82の内径側を、図中左側(ピストン20とは反対側)に移動させようとするモーメントを生じる。
よって、ドリブンプレート82、83の間に位置することになるドライブプレート7のフェーシング材7a(図2参照)が摩耗しても、ドリブンプレート82とドライブプレート7との接触は起こり難くなる。
このように、突出部812、822の外周側に傾斜面があるドリブンプレート81、82を軸方向の両側に配置し、突出部832の内周側に傾斜面があるドリブンプレート83と、突出部842の外周側に傾斜面があるドリブンプレート84を、ドリブンプレート81、82の間に交互に配置することにより、ドリブンプレート81〜84の各々の外径側に作用する回転モーメントを、隣接するドリブンプレートの突出部から受ける反力によりキャンセルできるので、ドリブンプレート81〜84の隣接するドリブンプレートとの当接部を支点とした回転が抑えることができると共に、ドリブンプレートの変形を抑えることができる。
これにより、ドライブプレート7とドリブンプレート8の締結/開放の繰り返しにより、ドライブプレート7のフェーシング材7aが摩耗して、図3に示すように、締結時にドリブンプレート8(81、82、84)の突出部(812、822、842)が、ドライブプレート7とドリブンプレート8との直接接触を防ぐために、隣接するドリブンプレート83の本体部830に当接するようになっても、ドリブンプレート8の内径側のドライブプレート7側への変形が抑えられているので、ドライブプレート7とドリブンプレート81との接触を確実に防止できる。よって、同種金属であるドリブンプレート81とドライブプレート7との接触に起因する焼付けの発生を好適に防止できるようになる。
ちなみに、図8の(b)に示すように、傾斜面が内周側に設けられている突出部822’が、ドリブンプレート82に設けられている場合には、ドリブンプレート82に矢印M5’で示す方向の回転モーメントが作用して、ドリブンプレート82の内径側が、図示しないドライブプレート7側に変形することになる。
かかる場合、ドリブンプレート82がドライブプレート7に接触して、焼き付きが生ずるおそれがあるので、スナップリング4bで外径側が支持されたドリブンプレート82では、傾斜面が外周側に設けられている必要がある。
ここで、実施形態における変速機ケース1が、発明における外側支持部材に相当し、ハブ部5が、発明における内側支持部材に相当し、ドリブンプレート8が、発明における外側摩擦板に相当し、ドライブプレート7が、発明における内側摩擦板に相当し、ドリブンプレート81、82が、発明における軸方向の両側に位置する外側摩擦板に相当し、ドリブンプレート81が、発明における一方の外側摩擦板に相当する。
そして、油圧駆動されるピストン20とスプリングシート15で支持されたリターンスプリング17とで、発明における油圧ピストン機構を構成している。
以上の通り、実施の形態では、
それぞれのスプライン2、6を径方向に対向させた相対回転可能な変速機ケース1およびハブ部5と、変速機ケース1のスプライン2に噛み合う歯部811〜841を備えるドリブンプレート8(81〜84)と、ハブ部5のスプライン6に噛み合う歯部を備えると共にドリブンプレート8との対向面にフェーシング材7aが設けられたドライブプレート7と、ドライブプレート7とドリブンプレート8とを、回転中心軸の軸方向に押圧するピストン20と、軸方向の両端に位置するドリブンプレート81、82の間で、ドライブプレート7とドリブンプレート8とが交互に重ね合わせて配置され、ピストン20の押圧部21が、ドリブンプレート81の内径側に当接し、ドリブンプレート82が、外径側に当接するスナップリング4aで位置決めされた多板摩擦係合装置において、ドリブンプレート81の歯部811に、軸方向に沿ってドリブンプレート83側に突出する突出部812を設けて、この突出部812の外周に、先端側に向かうにつれて、突出部812の径方向の厚みが薄くなる方向に傾斜する傾斜面813を設けると共に、ドリブンプレート81に隣接するドリブンプレート83の歯部831に、軸方向に沿ってドリブンプレート81側に突出する突出部832を設けて、この突出部832の内周に、先端側に向かうにつれて、突出部832の径方向の厚みが薄くなる方向に傾斜する傾斜面833を設けた構成とした。
フェーシング材7aが摩耗して、軸方向で隣接するドリブンプレート8(81〜84)がピストン20により押圧されたときの離間距離が所定以下となったときに、ドライブプレート7とドリブンプレート8とがピストン202より軸方向に押圧されると、ドリブンプレート81の突出部812の外周の傾斜面813が、隣接するドリブンプレート83の突出部832の内周の傾斜面833に当接した状態となる
この状態でドライブプレート7とドリブンプレート8とがピストン20によりさらに押圧されると、ピストン20の押圧力は、ドリブンプレート81の本体部810の内径側を、隣接するドリブンプレート83との当接部P3(図3参照)を支点として、ピストン20の押圧方向(ドライブプレート7の側)に回転させるように作用する。
この際、図8に示すように、ドリブンプレート81の突出部812が設けられた外径側に、突出部812を径方向外側に移動させながら、ドリブンプレート81を回転させようとする回転モーメント(図中、矢印M1で示す)が作用する。
しかし、ドリブンプレート81の突出部812は、隣接するドリブンプレート83の突出部832に内径側から当接して径方向外側への移動が阻止されているので、ドリブンプレート81の回転が抑えられる。また、突出部812が突出部832から受ける反力F’が、ドリブンプレート81の変形を抑制する方向に作用する。
これにより、図3に示すように、ドリブンプレート81から見てピストン20の押圧方向に位置するドライブプレート7への、ドリブンプレート81の移動と変形が抑えられて、フェーシング材7a材が摩耗したときに、ドライブプレート7とドリブンプレート8とが軸方向に押圧されても、ドライブプレート7とドリブンプレート81との接触が生じにくくなる。よって、同種金属であるドリブンプレート81とドライブプレート7との接触に起因する焼付けの発生を好適に防止できるようになる。
また、ドリブンプレート81の変形が抑えられるので、ドリブンプレート81がフェーシング材7aの一部のみに接触する状態になり難いので、フェーシング材7aの偏摩耗の発生を抑えることができる。
さらに、突出部812が、突出部832から受ける反力F’(図8参照)は、ピストン20の押圧力Fpに応じて変化するので、ピストンの押圧力の異なる種々の多板摩擦係合装置に、本発明にかかる固着防止構造を適用できる。
また、ドライブプレートとドリブンプレートの構成は、従来のものと変わりがないので、従来の多板摩擦係合装置を備える自動変速機のレイアウトを保持したままで、本発明にかかる固着防止構造を適用できる。
また、突出部同士が接触するまでは、自動変速機の性能に影響がないので、現行の自動変速機にも容易に適用できる。
さらに、ドリブンプレート8(81〜84)の歯部811、821、831、841の総てに、軸方向に突出する突出部812、822、832、842が設けられており、軸方向で複数配置されたドリブンプレート8(81〜84)では、突出部の外周に傾斜面843が設けられたドリブンプレート84と、突出部の内周に傾斜面833が設けられたドリブンプレート83とが、交互に配置されている構成とした。
これにより、ピストン20の押圧力を受けたドリブンプレート81から突出部812を介して入力される付勢力Fにより、隣接するドリブンプレート83、84の外径側に回転モーメントが作用しても、ドリブンプレート83、84の外径側の回転モーメントによる移動は、隣接するドリブンプレート82,83、84の傾斜面823、833、843により抑制され、さらに、ドリブンプレートを変形させる方向に作用する力(付勢力F)は、隣接するドリブンプレートの突出部842から作用する反力F’によりキャンセルされるので、ドリブンプレート81〜84の回転と変形を好適に抑えることができるようになる。
よって、同種金属であるドリブンプレート8とドライブプレート7から構成されるクラッチ9の全体に亘って、ドリブンプレート8とドライブプレート7との接触に起因する焼付けの発生を好適に防止できるようになる。
実施の形態では、ドライブプレート7を内径側に、ドリブンプレート8を外径側に、それぞれ配置させたクラッチ9の場合を例に挙げて説明をしたが、本発明はクラッチの場合に限定されるものではなく、実施の形態の場合のクラッチ9と同じ構成のブレーキ、すなわち複数の摩擦板を軸方向に並べて構成されるブレーキにも、好適に適用可能である。
実施の形態では、総てのドリブンプレート8(81〜84)の突出部812〜842に、傾斜面813、823、833、843を設けた場合を例示した。
しかし、内径側にピストンの20の押圧部21が当接するドリブンプレート81の突出部812と、このドリブンプレート81に隣接するドリブンプレート83の突出部832であってドリブンプレート81側に位置する突出部832とにのみ、傾斜面813、833を設けて、他のドリブンプレート82〜84の突出部822、823、824には傾斜面を設けないようにしても良い。
ピストン20の押圧力が内径側に作用するドリブンプレートは、最もピストン20側に位置するドリブンプレート81のみであり、他のドリブンプレート82〜84の内径側には押圧力が作用しない。
そのため、これら他のドリブンプレート82〜84の突出部を、図9の(b)に示すような傾斜面のない形状の突出部111aとしても、ドリブンプレート82〜84が互いの突出部を当接させるまでピストン20により押圧された場合に、ドリブンプレート82〜84における押圧力の作用点と、反作用点とが、自動変速機の軸方向で一致するので、突出部同士の当接点を支点として回転させようとする回転モーメントが、他のドリブンプレート82〜84に作用しないからである。
すなわち、他のドリブンプレート82〜84に関しては、回転モーメントを相殺するための傾斜面を必ずしも設けなくても、他のドリブンプレート82〜84の変形に起因するドライブプレート7とドリブンプレート8との接触を防止できるので、同種金属であるドリブンプレート81とドライブプレート7との接触に起因する焼付けの発生を好適に防止できる。
1 変速機ケース
2 スプライン
3 スプライン溝
4a、4b スナップリング
5 ハブ部
6 スプライン
7 ドライブプレート
7a フェーシング材
8、81〜84 ドリブンプレート
9 クラッチ
10 隔壁
11 シリンダ
13 油室
15 スプリングシート
16 通過穴
17 リターンスプリング
20 ピストン
21 押圧部
100 多板摩擦係合装置
110 支持部材
111 ドリブンプレート
111a 突出部
112 スナップリング
120 支持部材
121 ドライブプレート
122 フェーシング材
130 ピストン
131 押圧部
132 リターンスプリング
810、820、830、840 本体部
811、821、831、841 歯部
812、812’、822、822’、832、842 突出部
813、823、833、843 傾斜面

Claims (2)

  1. それぞれのスプラインを径方向に対向させた相対回転可能な円筒状の外側支持部材および内側支持部材と、
    前記外側支持部材のスプラインに噛み合う歯部を備える複数の外側摩擦板と、
    前記内側支持部材のスプラインに噛み合う歯部を備える複数の内側摩擦板と、
    前記外側摩擦板と前記内側摩擦板とを軸方向に押圧するピストンと、を備え、
    前記軸方向の両端に位置する外側摩擦板の間で、前記外側摩擦板と前記内側摩擦板とが交互に重ね合わせて配置され、
    前記ピストンが、前記軸方向の両端に位置する外側摩擦板のうちの一方の外側摩擦板の内径側に当接した多板摩擦係合装置において、
    前記一方の外側摩擦板の歯部に、前記軸方向に突出する突出部を設け、前記突出部の外周に、先端側に向かうにつれて突出部の前記径方向の厚みが薄くなる傾斜面を設けると共に、
    前記一方の外側摩擦板に隣接する外側摩擦板の歯部に、前記一方の外側摩擦板側に突出する突出部を設けると共に、前記一方の外側摩擦板に隣接する外側摩擦板の突出部の内周に、先端側に向かうにつれて突出部の前記径方向の厚みが薄くなる傾斜面を設けたことを特徴とする多板摩擦係合装置における摩擦板の固着防止構造。
  2. 前記複数の外側摩擦板の歯部の総てに、前記軸方向に突出する突出部が設けられており、
    前記軸方向で複数配置された外側摩擦板では、
    前記突出部の外周に傾斜面が設けられた外側摩擦板と、前記突出部の内周に傾斜面が設けられた外側摩擦板とが、交互に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の多板摩擦係合装置における摩擦板の固着防止構造。
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