JP2011157661A - 生分解性長繊維不織布 - Google Patents

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Abstract

【課題】毛羽立ちが少なく、機械的強度と粉漏れ性、透明性等に優れる不織布及びそれを含む食品用フィルターの提供。
【解決手段】融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体100wt%、融点が140℃以下の脂肪族ポリエステル共重合体0.5〜10wt%を、該ポリ乳酸系重合体と該脂肪族ポリエステル共重合体の溶融流動比が0.2〜1.5の範囲で、溶融紡糸して得られ、該ポリ乳酸系重合体が海部を形成し、該脂肪族ポリエステル共重合体が島部を形成する海島型複合長繊維を、熱圧着で一体化して得られ、複屈折率が0.012を越え、沸水収縮率が5%以下であり、かつ、透明性が50%以上であることを特徴とする生分解性長繊維不織布、及び該不織布を含む食品用フィルター。
【選択図】なし

Description

本発明は、使用後にはほぼ完全に分解されて廃棄処理が容易であるポリ乳酸系重合体を主成分として含む生分解性長繊維から構成され、高い機械的強度を有し、ヒートシール性、寸法安定性、粉漏れ性、透明性に優れた生分解性長繊維不織布に関する。
現在、包装材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等の樹脂からなる不織布が使用されているが、これらの樹脂からなる不織布は自己分解性がなく、自然環境下で極めて安定である。そのため、使用済みの包装材料等は、焼却炉での焼却や埋立処理がなされているが、近年、環境保護の観点から、資源リサイクル及び温室効果ガス抑制等を目的として、使用済包装材料に関して環境に優しい有効利用の方法や廃棄方法の早期開発が望まれている。
また、ティーバッグ用途等に使用されている包装材料として紙が用いられていることが多いが、紙は透明性が悪く、包装材料の中身が見えないこと、ヒートシール加工ができないこと等の問題もある。
従来から既知の高分子材料を高性能・多様化するために熱可塑性樹脂のポリマーブレンドについて数々の研究が行われているが、一般的に非相溶系のポリマー同士をブレンドしただけでは均一に分散させることが困難であり、安定して生産することは難しいとされてきた。
以下の特許文献1には、短繊維が熱溶着された生分解性不織布を用いた飲料用フィルターバッグが開示されているが、紙フィルターバッグはヒートシール性、抽出性等に優れている反面、微細な粒子、粉末等の粉漏れが発生すること、繊維が脱落しやすいこと等の問題がある。
以下の特許文献2には、光学純度が異なる2種類のポリ乳酸系重合体の複合短繊維からなる不織布が提案されているが、実際の加工温度での収縮率が大きいため、地合が悪く、粗硬な不織布しか得られない。
以下の特許文献3には、複合繊維の鞘成分を熱風加工により熱圧着を行って得られた不織布が開示されているが、嵩高で熱収縮性が大きいために粗硬となり、フィルター用途には適していない。
以下の特許文献4では、ポリ乳酸の低い熱圧着性を改善するために2基の押出機を用いて2成分のポリマーを別々に融解後、鞘芯型等の繊維を作製する方法が開示されている。この方法では、芯部に高融点ポリマー、鞘部に低融点ポリマーが用いられるため、ロールでの熱圧着時に鞘部の収縮が生じるため、ロールに取られ易く、また、耐熱性が低いという問題がある。さらに、設備的に大きくなること等、コスト面や製造面からも複雑な方法となるという問題がある。
特開2002−177148号公報 特開2001−49533号公報 特開2007−126780号公報 特開2007−119928号公報
本発明が解決しようとする課題は、非相溶系のポリマーブレンドにおいて相溶化剤を用いず、大きな設備を必要とせずに紡糸可能で、ポリ乳酸特有の低い熱圧着性を改善して高い機械的強度やヒートシール性を有し、且つ、食品用フィルターとして細かい粒子状物等においても粉漏れがし難く、寸法安定性や透明性に優れた生分解性長繊維不織布、及びこれを含む食品用フィルターを提供することである。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討し、実験を重ねた結果、ポリ乳酸系重合体のブレンド紡糸において特定の物性を有する脂肪族ポリエステル共重合体を選定することで相溶化剤を用いなくても熱安定性と分散性を向上させることが可能であり、長繊維を構成する繊維の構造と繊径、脂肪族ポリエステル共重合体のブレンド比率と溶融流動比率、不織布の熱圧着面積率及び熱圧着部の形状の観点から詳細な検討を行い、構成繊維である生分解性長繊維の紡糸性が良好であり、これを不織布とした場合に、食品用フィルターとして透明性や寸法安定性に優れて毛羽立ち難く、粉漏れ性、機械的強度、ヒートシール性に優れた生分解性長繊維不織布が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体100wt%、融点が140℃以下の脂肪族ポリエステル共重合体0.5〜10wt%を、該ポリ乳酸系重合体と該脂肪族ポリエステル共重合体の溶融流動比が0.2〜1.5の範囲で、溶融紡糸して得られ、該ポリ乳酸系重合体が海部を形成し、該脂肪族ポリエステル共重合体が島部を形成する海島型複合長繊維を、熱圧着で一体化して得られ、複屈折率が0.012を越え、沸水収縮率が5%以下であり、かつ、透明性が50%以上であることを特徴とする生分解性長繊維不織布。
[2]前記ポリ乳酸系重合体が、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、L−乳酸とD−乳酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、及びL−乳酸とD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体からなる群から選ばれる重合体、又は該重合体の種類以上のブレンド体である、前記[1]に記載の生分解性長繊維不織布。
[3]前記脂肪族ポリエステル共重合体がポリブチレンサクシネートである、前記[1]又は[2]に記載の生分解性長繊維不織布。
[4]前記生分解性長繊維不織布の熱圧着面積率が5〜40%である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の生分解性長繊維不織布。
[5]前記生分解性長繊維不織布の粉漏れ率が10%以下であり、ヒートシール強度が1.5N/25mm以上であり、かつ、毛羽等級が2.5級以上である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の生分解性長繊維不織布。
[6]前記生分解性長繊維不織布の目付が10〜50g/m2 であり、かつ、厚みが0.02〜0.50mmである、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の生分解性長繊維不織布。
[7]前記生分解性長繊維不織布のMD方向の100g/m目付に換算した時の引張強度が200N/50mm以上である、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の生分解性長繊維不織布。
[8]前記長繊維は、紡糸速度3000〜8000m/minで牽引されて紡糸され、繊度が1.0〜4.0dtexであり、かつ、結晶化度が30〜60%である、前記[1]〜[7]のいずれかに記載の生分解性長繊維不織布。
[9]前記[1]〜[8]のいずれかに記載の生分解性長繊維不織布を含む食品用フィルター。
本発明の生分解性長繊維不織布は、ポリ乳酸系重合体に低融点・低結晶性の脂肪族ポリエステル共重合体をブレンドした海島型複合繊維から構成されるため、第一に、低融点・低結晶性成分を含有することにより繊維の熱圧着が良好に行われ、繊維間の接着性がより強固になるため、剛性が高く、機械的強度やヒートシール強度に優れ、かつ、毛羽立ちが少なく、第二に、脂肪族ポリエステル共重合体が繊維表面に不連続に露出していることにより、熱圧着時の「ロール取られ」が起こりにくく、寸法安定性に優れ、第三に、使用後は生分解性を有することで環境への負荷を低減することができる。したがって、本発明の生分解性長繊維不織布は、食品用フィルターとして好適に利用することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いるポリ乳酸系重合体としては、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、L−乳酸とD−乳酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体およびL−乳酸とD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体からなる群から選ばれるいずれかの重合体、又は該重合体の2種類以上のブレンド体が挙げられる。ポリ乳酸系重合体としては、融点が150℃以上である重合体が好適に使用できる。
上記ポリ乳酸系重合体の成分として用いられるヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの中では、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。
前記ポリ乳酸系重合体のMFRは、20〜120g/10minが好ましく、より好ましくは30〜70g/10minである。MFRが20g/10min以上であれば溶融粘性が適切であり、紡糸工程において繊維の細化が起こり易いために配向結晶化が進み、十分な単糸強度が得られる傾向がある。一方、MFRが120g/10min以下であると溶融粘性が適切なため、紡糸工程において単糸切れが発生することが少なく、単糸強度が高いものが得られる。
前記脂肪族ポリエステル共重合体としては、例えば、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート・アジペート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリブチレンテレフタレート・アジペート、ポリカプロラクトン等を挙げることができる。これらの中でも特にポリブチレンサクシネートが好ましい。
前記脂肪族ポリエステル共重合体のMFRは、100g/10min以下が好ましく、より好ましくは20〜80g/10minであり、さらに好ましくは30〜70g/10minである。また、ポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステル共重合体との溶融流量比は、0.2〜1.5であり、好ましくは0.3〜1.4である。すなわち、0.2≦[脂肪族ポリエステル共重合体の溶融流量/ポリ乳酸系重合体の溶融流量]≦1.5である。溶融流量比がこの範囲内であると海島型複合繊維の紡糸性が良好であり、且つ、脂肪族ポリエステル共重合体の繊維中での分散性が良好となるために安定した熱圧着性が得られ、ヒートシール性、機械的強度に優れた不織布が得られる。
本発明でいう海島型構造とは、ポリ乳酸系重合体が海部を、脂肪族ポリエステル共重合体が島部を形成し、ポリマーブレンド繊維断面において真円、楕円状等に島部が微分散している構造をいい、通常、繊維軸方向では不連続に小さな島部が微分散していると推定されるものであり、好ましくは繊維断面において内側よりも繊維外周側に多くの島部が微分散しており、一部が繊維表面に露出している構造をいう。これらブレンド樹脂の延伸時に島部の脂肪族ポリエステル共重合体が、海部を形成するポリ乳酸系重合体の延伸、配向結晶化を阻害すると推定される。それゆえ、ポリ乳酸系重合体が、低結晶性のまま延伸を終了し、熱接着性が改善された繊維が得られる。
本発明においては、ポリ乳酸系重合体に対する脂肪族ポリエステル共重合体の添加率は、紡糸性や熱圧着性改善による不織布の機械的強度向上の点から0.5〜10.0wt%であり、好ましくは1.0〜5.0wt%である。添加率が0.5wt%未満であると熱圧着性改善効果が得られず、目的とする高剛性で高強度化された不織布が得られず、一方、添加率が10.0wt%を超えると紡糸中に糸切れが多発し、安定して連続した繊維が得られず、生産性が低下する。
本発明に用いるポリ乳酸系重合体には、本発明の目的を損なわない範囲で他の慣用の各種添加成分、例えば、各種エラストマー類等の衝撃性改良剤、結晶核剤、着色防止剤、酸化防止剤、耐熱剤、可塑剤、滑剤、耐候剤、着色剤、顔料等の添加剤を添加することができる。
本発明に係る長繊維の形成は、常用の紡糸口金を用いて溶融紡糸で行う。ポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステル共重合体をブレンドさせるには、ポリ乳酸系重合体にマスターバッチ化する方法、ドライブレンドにより混合する方法等が挙げられるが、コスト面からドライブレンド法を採用することが好ましい。また、長繊維の構造は、ポリ乳酸系重合体が海部を形成し、脂肪族ポリエステル共重合体が島部を形成する海島型構造であることが必要である。
本発明に係る長繊維不織布は、スパンボンド法にて効率よく製造することができる。すなわち、前記のポリ乳酸系重合体を加熱溶融して紡糸口金から吐出させ、得られた紡出糸条を公知の冷却装置を用いて冷却し、エアーサッカー等の吸引装置にて牽引細化する。引き続き、吸引装置から排出された糸条群を開繊させた後、コンベア上に堆積させてウェブとする。次いで、このコンベア上に形成されたウェブに加熱されたエンボスロール等の部分熱圧着装置を用いて部分的に熱圧着を施すことにより、長繊維スパンボンド不織布を得る。スパンボンド法で得られる不織布は、布強度が強く、かつ、ボンディング部の破損による短繊維の脱落がない等の物性上の特徴を有しており、また、低コストで生産性が高いため、衛生、土木、建築、農業・園芸、生活資材を中心に広範な用途で使用されている。
本発明に係る長繊維の繊度は、好ましくは1.0〜4.0dtexであり、より好ましくは1.0〜3.0dtexである。繊度が1.0dtex未満であると紡糸時においてエジェクターの張力に繊維が十分に耐えることができず、繊維の一部が切れる場合がある。また、繊度が4.0dtex以下であれば、不織布化し、食品用フィルターとして用いる際、粉漏れ量が少なく、フィルター材として適している。
本発明の生分解性長繊維不織布は、低融点・低結晶性成分を含有した海島型ブレンド長繊維ウェブを熱圧着で一体化した構造を有しているために繊維間の接合が強固であり、剛性が高められて高い機械的強度とヒートシール強度が得られ、また、低融点・低結晶性成分を表層に不連続に有する構造にすることで熱圧着時の「ロール取られ」が起こりにくく、且つ、寸法安定性に優れる等の特徴が得られる。
本発明の長繊維不織布の熱圧着は、凹凸の表面構造を有するエンボスロールとフラットロールからなる一対の加熱ロールを用いることも可能である。エンボスロールにより熱圧着を行う場合、不織布全面積に対して5〜40%の範囲における熱圧着面積率での熱圧着が行われることが好ましく、より好ましくは5〜30%であり、さらに好ましくは5〜20%である。熱圧着面積率がこの範囲内であると良好な繊維相互間の熱圧着処理を行うことができ、得られる不織布の適度な機械的強度と剛性、通気性、粉漏れ性を図る上で好ましい。
熱圧着処理温度及び圧力は、供給されるウェブの目付、速度等の条件によって適宜選択されるべきものであり、一概には定められないが、ポリ乳酸系重合体の融点よりも10〜80℃低い温度であることが好ましく、より好ましくは20〜50℃低い温度であり、さらに好ましくは20〜40℃低い温度である。毛羽等級としては2.5級以上が必要であり、好ましくは3級以上である。
本発明の生分解性長繊維不織布の粉漏れ率は、10wt%以下が好ましく、より好ましくは7.5wt%以下、さらに好ましくは5.0wt%以下である。粉漏れ率が10wt%以下であると微細な粒子・粉末等の遮蔽性、保持性に優れる。粉漏れ率が10wt%を超えると食品用フィルターとして用いた際、粉漏れ量が多くなり、フィルターとして適さない。
本発明の生分解性長繊維不織布の沸水収縮率は、5%以下であり、好ましくは3%以下である。沸水収縮率が5%以下であると熱成型加工等での収縮がほとんど無く、工程安定性に優れ、また、100℃近い高温環境下にさらされるような使用形態でも形態保持性に優れる。
本発明の生分解性長繊維不織布のヒートシール強度は、1.5N/25mm以上であり、好ましくは2.0N/25mm以上である。ヒートシール強度が1.5N/25mm未満であるとシール部分が剥離し易くなり、内容物が外部に漏れる等の問題が生じる。
本発明の生分解性長繊維不織布の透明性は、50%以上であり、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上である。透明性が50%未満では、不織布を通じて中身の状態が見えにくく、不鮮明になる。
本発明の生分解性長繊維不織布の目付は、10〜50g/mが好ましく、より好ましくは12〜30g/mであり、さらに好ましくは12〜20g/mである。目付が10g/m未満では、透明性は良いが、繊維間隙が大きく、粉漏れし易くなり、機械的強度が不十分であり、一方、目付が50g/mを超えると、粉漏れ量は少なくなるが、透明性・成分抽出性が劣る。
本発明の生分解性長繊維不織布の厚みは、0.02〜0.50mmが好ましく、より好ましくは0.03〜0.30mmである。目付と厚みがこの範囲内にあると食品用フィルターとして使用する際に優れた透明性、粉漏れ性、成分抽出性が得られる。
本発明の生分解性長繊維不織布の平均見掛け密度は、0.05〜0.50g/cmが好ましく、より好ましくは0.10〜0.30g/cmであり、さらに好ましくは0.10〜0.25g/cmである。平均見掛け密度は、不織布の剛性、粉漏れ性及び成分抽出性に関係し、この範囲であれば、食品用フィルターとしての袋形状への加工適性及び粉漏れ性に優れる。平均見掛け密度が0.05g/cm未満では、繊維間隙が大きくなるために粉漏れ量が多く、不織布の剛性が不足し、一方、平均見掛け密度が0.50g/cmを超えると繊維間隙が小さく、粉漏れ性は良くなるが、成分抽出性が悪くなり、食品用フィルターとしての要求性能を達成できない。
本発明の生分解性長繊維不織布の引張強度は、MD方向で100g/m目付に換算した時、200N/50mm以上であることが好ましく、より好ましくは210N/50mm以上である。引張強度がこの範囲であると製袋加工時の生産安定性や食品用フィルターとしての使用時の破れ防止等に優れる。
本発明に係る長繊維を製造する際の紡糸速度は、3000〜8000m/minが好ましく、より好ましくは4000〜7000m/minである。紡出糸条を牽引細化する際の牽引速度が上記の範囲内であると、ポリ乳酸系重合体の配向結晶化が十分で機械的特性や寸法安定性に優れた不織布が得られ、且つ、紡糸中に糸切れが発生する可能性が少なく、不織布の生産性の点からも好ましい。
本発明に係る長繊維の複屈折率Δnは、0.012〜0.025が好ましく、より好ましくは、0.014〜0.022である。複屈折率がこの範囲であると、繊維の配向結晶性が適度で、機械的強度や寸法安定性に優れた不織布が得られる。
本発明に係る長繊維の結晶化度は、30〜60%が好ましく、より好ましくは35〜60%である。結晶化度がこの範囲内であると、機械的強度や寸法安定性に優れた繊維が得られる。
本発明の生分解性長繊維不織布には、本発明の作用効果が発揮される範囲で、常用の後加工、例えば、消臭剤、抗菌剤、防ダニ剤等の付与をしてもよいし、染色、撥水加工、透水加工、透湿防水加工等を施してもよい。
本発明の生分解性長繊維不織布は、透明性に優れているために中身が鮮明に見え、かつ、粉漏れ性に優れているために緑茶、紅茶、コーヒー等の食品用フィルターとして非常に適した特性を有している。食品用フィルターとしては、平袋でもよいが、立体形状であると、中身が一層良く見え、抽出が効果的に行われるので好ましい。立体形状としては、四面体形状、三角錐立体形状等が好ましい。
立体形状の食品用フィルターは、被抽出物を充填し封入した後、袋詰めされて販売されるが、購入した消費者が袋から取り出して使用する時には、速やかに元の立体形状に戻ることが要求される。本発明の長繊維不織布は、コシがあり、適度な剛性を有しているため、このような形状回復性に優れている。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されることを意図されない。
まず、測定方法、評価方法を説明する。
(1)目付(g/m):JIS L−1906に準拠し、縦20cm×横25cmの試験片を試料の幅1m当たり3箇所採取して質量を測定し、その平均値を単位面積当たりの質量に換算して求めた。
(2)厚み:JIS L−1906に規定の方法で荷重100g/cmの厚みを測定した。
(3)平均見掛け密度(g/cm):JIS L−1906に規定の方法で測定した目付と厚みから、以下の式により単位体積当たりの質量を求め、試料の幅1m当たり3箇所の平均で求めた。
平均見掛け密度(g/cm)=(目付 g/m)/((厚み mm)×1000)
(4)繊度(dtex):1m長の重量を測定してn=5の平均値を求め、10000m長に算出して求めた。
(5)MFR(g/10min):メルトインデクサー(東洋精機社製:MELT INDEXER S−101)溶融流量装置を用い、JIS K−7210に準じてオリフィス径2.095mm、オリフィス長0.8mm、荷重2.16kg、測定温度230℃の条件で一定体積分を吐出するのに要する時間から10分間当たりの溶融ポリマーの吐出量(g)を算出し、求めた。
尚、溶融流動比は、以下の式:
溶融流量比=[(脂肪族ポリエステル共重合体のMFR)/(ポリ乳酸系共重合体のMFR)]
で計算される。
(6)沸水収縮率(%):JIS L−1906に準拠し、縦25cm×横25cmの試験片を試料の幅1m当たり3箇所採取し、沸騰水中に3分間浸漬し、自然乾燥後にMD方向及びCD方向の収縮率を求める。それぞれの平均値を算出し、MD方向とCD方向のいずれか大きい方の収縮率をその不織布の沸水収縮率とした。
(7)透明性(%):マクベス分光光度計(CE-7000A型:サカタインク製)で反射率(L値)を測定し、標準白板のL値(Lw0)と標準黒板のL値(Lb0)の差を求めて基準とし、試料を白板上に置いたL値(Lw)と同様に黒板状に置いたL値(Lb)から下記式に従って透明性を求めた。
透明性(%)={(Lw−Lb)/(Lw0−Lb0)}×100
(8)熱圧着面積率(%):1cm角の試験片をサンプリングして電子顕微鏡で写真を撮影し、その各写真より熱圧着部の面積を測定し、その平均値を熱圧着部の面積とした。また、熱圧着部のパターンのピッチをMD方向及びCD方向において測定し、これらの値により、不織布の単位面積当たりに占める熱圧着面積の比率を熱圧着面積率として算出した。
(9)粉漏れ率(wt%):JIS Z−8901試験用粉末7種ダストを約2g秤取し、その重量W1(g)を測定して不織布の上に乗せ、振動機で5分間振動させた後、不織布を通過したダスト重量W2(g)を測定し、下記式により求めた。
粉漏れ率(wt%)=(W2/W1)×100
(10)引張強度(N/50mm):島津製作所社製オートグラフAGS−5G型を用いて、50mm幅の試料を把握長100mm、引張速度300mm/minで伸長し、得られる破断時の荷重を強度とし、不織布のMD方向について5回測定を行い、その平均値を求めた。
(11)ヒートシール強度(N/25mm):島津製作所社製オートグラフAGS−5G型を用いて25mm幅の試料のヒートシール部分を約50mm上下方向に剥離して取り付け、把握長50mm、引張速度100mm/minで伸長し、得られる破断時の荷重を強度とし、不織布のMD方向について5回測定を行い、その平均値を求めた。ヒートシール条件は、シール温度150℃、シール時間1秒、圧力0.5MPa、シール面積7mm×25mmであった。
(12)複屈折率(Δn):OLYMPUS社製のBH2型偏光顕微鏡コンペンセーターを用いて、通常の干渉縞法によってレターデーションと繊維径より牽引直後の繊維の複屈折率を求めた。
(13)結晶化度(%):TAインスツルメント社製の示差走査熱量計DSC2920を用い、昇温速度を10℃/minで、30℃から200℃まで昇温して結晶化発熱量ΔHc、結晶融解熱量ΔHmを測定した。結晶化度(%)は下記式により求めた。
結晶化度χc(%)=(ΔHm−ΔHc)/93×100
ここで、93J/gはポリ乳酸の完全結晶の融解熱量である。
(14)生分解性:不織布を土中に埋設し、6ケ月後に取り出して不織布の形態保持性、又は破断強度の保持率によって以下の評価基準に従って、生分解性をに評価した。
○:不織布の形態を保持していない、または、破断強度が初期値に対して50%以下に低下している。
×:破断強度が初期値に対して50%を超える。
(15)毛羽等級:MD、CD方向に25mm×300mmの試験片を採取し、日本学術振興会型堅牢度試験機を用いて、摩擦子の荷重が200g、摩擦子側には同布を使用し、50回動作をさせて、以下の評価基準に従って、耐毛羽性を等級付けた。
1.0級:試験片が破損するほど繊維が剥ぎ取られる。
2.0級;試験片が薄くなるほど甚だしく繊維が剥ぎ取られる。
2.5級:毛玉が大きくはっきりと見られ、複数箇所で繊維が浮き上がり始める。
3.0級:はっきりとした毛玉ができ始め、または小さな毛玉が複数見られる。
3.5級:繊維が3〜5本程度、もしくは数ヶ所に小さな毛玉ができ始める程度に毛羽立っている。
4.0級:繊維が1〜2本程度、もしくは一ヶ所に小さな毛玉ができ始める程度に毛羽立っている。
5.0級:毛羽立ちがない。
次に、実施例及び比較例によって本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
融点167℃、MFR44g/10minであるポリ乳酸系重合体に、溶融流動比が1.1であるポリブチレンサクシネートを添加量が10wt%となるようにドライブレンドにて混合し、常用の溶融紡糸装置に供給した。次に、230℃にて均一に溶融混合し、円形断面の紡糸孔を有する紡糸口金から紡糸速度4600m/minにて溶融紡出して繊度が2.0dtexのポリ乳酸系ブレンド長繊維を得た。この繊維を開繊分散して目付20g/mのウェブを作製し、エンボスロールとフラットロール間において熱圧着面積率7.1%で部分熱圧着することにより、生分解性長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。
[実施例2]
実施例1においてポリブチレンサクシネートの添加率が6.0wt%となるようにブレンドしたこと以外は、実施例1と同様にして生分解性長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。
[実施例3]
実施例1においてポリブチレンサクシネートの添加率が3.0wt%となるようにブレンドしたこと以外は、実施例1と同様にして生分解性長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。
[実施例4]
実施例1においてポリブチレンサクシネートの添加率が3.0wt%となるようにブレンドし、繊度が2.4dtexのポリ乳酸系ブレンド長繊維を開繊分散して目付40g/mのウェブを作製したこと以外は、実施例1と同様にして生分解性長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。
[実施例5]
融点167℃、MFR44g/10minであるポリ乳酸系重合体に、溶融流動比が1.1であるポリブチレンサクシネートを添加率が1.0wt%となるようにドライブレンドにて混合し、常用の溶融紡糸装置に供給した。次に、230℃にて均一に溶融混合し、円形断面の紡糸孔を有する紡糸口金から紡糸速度6000m/minにて溶融紡出して繊度が1.3dtexのポリ乳酸系ブレンド長繊維を得た。この繊維を開繊分散して目付16g/mのウェブを作製し、エンボスロールとフラットロール間において熱圧着面積率7.1%で部分熱圧着することにより生分解性長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。
[実施例6]
実施例5において熱圧着面積率11.4%で部分熱圧着したこと以外は、実施例5と同様にして生分解性長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。
[実施例7]
実施例5において熱圧着面積率14.4%で部分熱圧着したこと以外は、実施例5と同様にして生分解性長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。
[実施例8]
実施例5において熱圧着面積率30.0%で部分熱圧着したこと以外は、実施例5と同様にして生分解性長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。
[実施例9]
実施例5において繊度が2.0dtexのポリ乳酸系ブレンド長繊維を熱圧着面積率11.4%で部分熱圧着したこと以外は、実施例5と同様にして生分解性長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。
[比較例1]
実施例1においてポリブチレンサクシネートを添加しないこと以外は、実施例1と同様にして生分解性長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。熱圧着性が悪いため、ヒートシール強度と引張強度が不良であった。
[比較例2]
実施例1において溶融流動比が2.0であるポリブチレンサクシネートをブレンドしたこと以外は、実施例1と同様にして生分解性長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。溶融流動比が高いために配向結晶化抑制効果が少なく、ヒートシール強度と引張強度が不良であった。
[比較例3]
実施例1においてポリブチレンサクシネート樹脂を添加率が15wt%となるようにブレンドしたこと以外は、実施例1と同様にして生分解性長繊維不織布を得ようとしたが、糸切れの多発と紡口付近での糸曲がりが発生し、紡糸不可の状態であり、連続した糸が得ることはできなかった。
[比較例4]
実施例5において繊度が5.0dtexのポリ乳酸系ブレンド長繊維を熱圧着面積率11.4%で部分熱圧着したこと以外は、実施例5と同様にして生分解性長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。紡糸速度が低く、繊度が大きいために沸水収縮性が高く、且つ、粉漏れ性が高くなり、フィルター性能に劣るものであった。
[比較例5]
実施例1においてポリブチレンサクシネートの添加率が3.0wt%となるようにブレンドし、繊度が2.4dtexのポリ乳酸系ブレンド長繊維を開繊分散して目付60g/mのウェブを作成したこと以外は、実施例1と同様にして生分解性長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。高目付であるために透明性が低く、通気度が低いためにフィルターとして抽出性の悪いものとなった。
[比較例6]
実施例1において溶融流動比が0.1であるポリブチレンサクシネートの添加率が3.0wt%となるようにブレンドしたこと以外は、実施例1と同様にして生分解性長繊維不織布を得ようとしたが、糸切れの多発と紡口付近での糸曲がりが発生し、紡糸不可の状態であり、連続した糸を得ることはできなかった。
[比較例7]
実施例1においてポリブチレンサクシネートの添加率が3.0wt%となるようにブレンドし、繊度が0.6dtexのポリ乳酸系ブレンド長繊維を作成したこと以外は、実施例1と同様にして生分解性長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。繊度が小さすぎたために透明性が不良であり、フィルター性能に劣るものであった。
[実施例8]
実施例5において熱圧着面積率3.0%で部分熱圧着したこと以外は、実施例5と同様にして生分解性長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。熱圧着面積率が低く、ウェブの熱圧着が不完全なため、ヒートシール強度と引張強度が不良であった。
Figure 2011157661
本発明の生分解性長繊維不織布は、毛羽立ちが少なく、機械的強度と粉漏れ性、透明性等に優れることから土嚢袋、ベタガケシート、防草シート、植生シート、育苗ポット等の土木農業資材、ワイピングクロス、水切り袋、シーツ、ベッドカバー、発熱体包材、乾燥包材、食品用包材等の生活資材、マット,吸音材、天井材、シート内張布等の自動車内装材、空調用フィルター、ダスト捕集用フィルター材等の工業資材、使い捨ておむつ等の衛生材料等に好ましく用いられる。特に、緑茶、紅茶、コーヒー、出し汁等に用いられる食品用フィルターの分野に好適に利用できる。

Claims (9)

  1. 融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体100wt%、融点が140℃以下の脂肪族ポリエステル共重合体0.5〜10wt%を、該ポリ乳酸系重合体と該脂肪族ポリエステル共重合体の溶融流動比が0.2〜1.5の範囲で、溶融紡糸して得られ、該ポリ乳酸系重合体が海部を形成し、該脂肪族ポリエステル共重合体が島部を形成する海島型複合長繊維を、熱圧着で一体化して得られ、複屈折率が0.012を越え、沸水収縮率が5%以下であり、かつ、透明性が50%以上であることを特徴とする生分解性長繊維不織布。
  2. 前記ポリ乳酸系重合体が、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、L−乳酸とD−乳酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、及びL−乳酸とD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体からなる群から選ばれる重合体、又は該重合体の種類以上のブレンド体である、請求項1に記載の生分解性長繊維不織布。
  3. 前記脂肪族ポリエステル共重合体がポリブチレンサクシネートである、請求項1又は2に記載の生分解性長繊維不織布。
  4. 前記生分解性長繊維不織布の熱圧着面積率が5〜40%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の生分解性長繊維不織布。
  5. 前記生分解性長繊維不織布の粉漏れ率が10%以下であり、ヒートシール強度が1.5N/25mm以上であり、かつ、毛羽等級が2.5級以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の生分解性長繊維不織布。
  6. 前記生分解性長繊維不織布の目付が10〜50g/m2 であり、かつ、厚みが0.02〜0.50mmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の生分解性長繊維不織布。
  7. 前記生分解性長繊維不織布のMD方向の100g/m目付に換算した時の引張強度が200N/50mm以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の生分解性長繊維不織布。
  8. 前記長繊維は、紡糸速度3000〜8000m/minで牽引されて紡糸され、繊度が1.0〜4.0dtexであり、かつ、結晶化度が30〜60%である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の生分解性長繊維不織布。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載の生分解性長繊維不織布を含む食品用フィルター。
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