以下において、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則として繰返さない。
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態に従うモータ駆動システムの全体構成図である。
図1を参照して、本発明の実施の形態に従うモータ駆動システム100は、直流電圧発生部10♯と、平滑コンデンサC0と、インバータ14と、交流モータM1とを備える。
交流モータM1は、たとえば、ハイブリッド自動車または電気自動車の駆動輪を駆動するためのトルクを発生する駆動用電動機である。あるいは、この交流モータM1は、エンジンにて駆動される発電機の機能を持つように構成されてもよく、電動機および発電機の機能を併せ持つように構成されてもよい。さらに、交流モータM1は、エンジンに対して電動機として動作し、たとえば、エンジン始動を行ない得るようなものとしてハイブリッド自動車に組み込まれるようにしてもよい。
直流電圧発生部10♯は、充電可能に構成された直流電源Bと、システムリレーSR1,SR2と、平滑コンデンサC1と、昇降圧コンバータ12とを含む。
直流電源Bは、たとえばニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池を含んで構成される。あるいは、電気二重層キャパシタ等の蓄電装置により直流電源Bを構成してもよい。直流電源Bが出力する直流電圧Vbは、電圧センサ10によって検知される。電圧センサ10は、検出した直流電圧Vbを制御装置30へ出力する。
システムリレーSR1は、直流電源Bの正極端子および正極線6の間に接続され、システムリレーSR2は、直流電源Bの負極端子および負極線5の間に接続される。システムリレーSR1,SR2は、制御装置30からの信号SEによりオン/オフされる。より具体的には、システムリレーSR1,SR2は、制御装置30からのH(論理ハイ)レベルの信号SEによりオンされ、制御装置30からのL(論理ロー)レベルの信号SEによりオフされる。平滑コンデンサC1は、正極線6および負極線5の間に接続される。
昇降圧コンバータ12は、リアクトルL1と、電力用半導体スイッチング素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。
電力用半導体スイッチング素子Q1およびQ2は、正極線7および負極線5の間に直列に接続される。電力用半導体スイッチング素子Q1およびQ2のオン・オフは、制御装置30からのスイッチング制御信号S1およびS2によって制御される。
この発明の実施の形態において、電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」と称する)としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタあるいは、電力用バイポーラトランジスタ等を用いることができる。スイッチング素子Q1,Q2に対しては、逆並列ダイオードD1,D2がそれぞれ配置されている。
リアクトルL1は、スイッチング素子Q1およびQ2の接続ノードと正極線6の間に接続される。また、平滑コンデンサC0は、正極線7および負極線5の間に接続される。
インバータ14は、正極線7および負極線5の間に並列に設けられる、U相アーム15と、V相アーム16と、W相アーム17とを含む。各相アームは、正極線7および負極線5の間に直列接続されたスイッチング素子を含む。たとえば、U相アーム15は、スイッチング素子Q3,Q4を含む。V相アーム16は、スイッチング素子Q5,Q6を含む。W相アーム17は、スイッチング素子Q7,Q8を含む。また、スイッチング素子Q3〜Q8に対して、逆並列ダイオードD3〜D8がそれぞれ接続されている。スイッチング素子Q3〜Q8のオン・オフは、制御装置30からのスイッチング制御信号S3〜S8によって制御される。
各相アームの中間点は、交流モータM1の各相コイルの各相端に接続されている。代表的には、交流モータM1は、3相の永久磁石モータであり、U,V,W相の3つのコイルの一端が中性点に共通接続されて構成される。さらに、各相コイルの他端は、各相アーム15〜17のスイッチング素子の中間点と接続されている。
昇降圧コンバータ12は、昇圧動作時には、直流電源Bから供給された直流電圧Vbを昇圧した直流電圧VH(インバータ14への入力電圧に相当するこの直流電圧を、以下「システム電圧」とも称する)をインバータ14へ供給する。より具体的には、制御装置30からのスイッチング制御信号S1,S2に応答して、スイッチング素子Q1のオン期間およびQ2のオン期間が交互に設けられ、昇圧比は、これらのオン期間の比に応じたものとなる。
また、昇降圧コンバータ12は、降圧動作時には、平滑コンデンサC0を介してインバータ14から供給された直流電圧VH(システム電圧)を降圧して直流電源Bを充電する。より具体的には、制御装置30からのスイッチング制御信号S1,S2に応答して、スイッチング素子Q1のみがオンする期間と、スイッチング素子Q1,Q2の両方がオフする期間とが交互に設けられ、降圧比は上記オン期間のデューティ比に応じたものとなる。なお、スイッチング素子Q1,Q2の両方がオフする期間の代わりに、逆並列ダイオードD2のオン期間に合わせてスイッチング素子Q2のみをオンさせる期間を設けても良い。この場合には、原則としてスイッチング素子Q1,Q2は相補的にオン・オフを繰返す。
平滑コンデンサC0は、昇降圧コンバータ12からの直流電圧を平滑化し、その平滑化した直流電圧をインバータ14へ供給する。電圧センサ13は、平滑コンデンサC0の両端の電圧、すなわち、システム電圧を検出し、その検出値VHを制御装置30へ出力する。
インバータ14は、制御装置30からのスイッチング制御信号S3〜S8に応答して、スイッチング素子Q3〜Q8のスイッチング動作を行なう。インバータ14には平滑コンデンサC0から直流電圧VHが供給される。
インバータ14は、交流モータM1のトルク指令値が正(Trqcom>0)の場合には、スイッチング素子Q3〜Q8のスイッチング動作により直流電圧を交流電圧に変換して正のトルクを出力するように交流モータM1を駆動する。
また、インバータ14は、交流モータM1のトルク指令値が零の場合(Trqcom=0)には、スイッチング素子Q3〜Q8のスイッチング動作により、直流電圧を交流電圧に変換してトルクが零になるように交流モータM1を駆動する。
このような制御により、交流モータM1は、トルク指令値Trqcomによって指定された零または正のトルクを発生するように駆動される。
さらに、モータ駆動システム100が搭載されたハイブリッド自動車または電気自動車の回生制動時には、交流モータM1のトルク指令値Trqcomは負に設定される(Trqcom<0)。この場合には、インバータ14は、スイッチング素子Q3〜Q8のスイッチング動作により、交流モータM1が発電した交流電圧を直流電圧VHに変換し、その変換した直流電圧VH(システム電圧)を平滑コンデンサC0を介して昇降圧コンバータ12へ供給する。
なお、ここで言う回生制動とは、ハイブリッド自動車または電気自動車を運転するドライバーによるフットブレーキ操作があった場合の回生発電を伴う制動や、フットブレーキを操作しないものの、走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両を減速(または加速の中止)させることを含む。
電流センサ24は、交流モータM1に流れるモータ電流を検出し、その検出したモータ電流を制御装置30へ出力する。なお、三相電流iu,iv,iwの瞬時値の和は零であるので、図1に示すように電流センサ24は2相分のモータ電流(たとえば、V相電流ivおよびW相電流iw)を検出するように配置すれば足りる。
回転角センサ(レゾルバ25)は、交流モータM1のロータ回転角θを検出し、その検出した回転角θを制御装置30へ送出する。制御装置30では、回転角θに基づき交流モータM1の回転数(回転速度)を算出する。
制御装置30は、外部に設けられた電子制御ユニット(上位ECU:図示せず)から入力されたトルク指令値Trqcom、電圧センサ10によって検出されたバッテリ電圧Vb、電圧センサ13によって検出されたシステム電圧VHおよび電流センサ24からのモータ電流iv,iw、レゾルバ25からの回転角θに基づいて、交流モータM1がトルク指令値Trqcomに従ったトルクを出力するように、昇降圧コンバータ12およびインバータ14の動作を制御する。
昇降圧コンバータ12およびインバータ14を上記のように制御するためのスイッチング制御信号S1〜S8を生成して、昇降圧コンバータ12およびインバータ14へ出力する。
昇降圧コンバータ12の昇圧動作時には、制御装置30は、平滑コンデンサC0の出力電圧VHをフィードバック制御し、出力電圧VHが電圧指令値となるようにスイッチング制御信号S1,S2を生成する。
また、制御装置30は、ハイブリッド自動車または電気自動車が回生制動モードに入ったことを示す信号を外部ECUから受けると、交流モータM1で発電された交流電圧を直流電圧に変換するようにスイッチング制御信号S3〜S8を生成してインバータ14へ出力する。これにより、インバータ14は、交流モータM1で発電された交流電圧を直流電圧に変換して昇降圧コンバータ12へ供給する。
制御装置30は、さらに、ハイブリッド自動車または電気自動車が回生制動モードに入ったことを示す信号を外部ECUから受けると、インバータ14から供給された直流電圧を降圧するようにスイッチング制御信号S1,S2を生成し、昇降圧コンバータ12へ出力する。これにより、交流モータM1が発電した交流電圧は、直流電圧に変換され、降圧されて直流電源Bに供給される。
さらに、制御装置30は、システムリレーSR1,SR2をオン/オフするための信号SEを生成してシステムリレーSR1,SR2へ出力する。
次に、制御装置30によって制御される、インバータ14における電力変換について詳細に説明する。
図2は、本発明の実施の形態に従うモータ駆動システムで用いられる制御方式を説明する図である。
図2に示すように、本発明の実施の形態によるモータ駆動システム100では、インバータ14における電圧変換について3つの制御モードを切換えて使用する。具体的には、3つの制御モードは、正弦波PWM制御、過変調PWM制御および矩形波電圧制御の各制御モードである。
正弦波PWM制御は、一般的なPWM制御方式として用いられるものであり、各相アームにおけるスイッチング素子のオン・オフを、正弦波状の電圧指令値と搬送波(代表的には三角波)との電圧比較に従って制御する。この結果、上アーム素子のオン期間に対応するハイレベル期間と、下アーム素子のオン期間に対応するローレベル期間との集合について、一定期間内でその基本波成分が正弦波となるようにデューティ比が制御される。周知のように、正弦波PWM制御では、この基本波成分振幅をインバータ入力電圧の0.61倍までしか高めることができない。
一方、矩形波電圧制御では、上記一定期間内で、PWMデューティを最大値に維持した場合に相当する、ハイレベル期間およびローレベル期間の比が1:1の矩形波1パルス分を交流モータ印加する。これにより、変調率は0.78まで高められる。
過変調PWM制御は、搬送波の振幅を縮小するようにを歪ませた上で上記正弦波PWM制御と同様のPWM制御を行なうものである。この結果、基本波成分を歪ませることによって、変調率を0.61〜0.78の範囲まで高めることができる。本実施の形態では、通常のPWM制御方式である正弦波PWM制御および、過変調PWM制御の両者をPWM制御方式に分類する。
交流モータM1では、回転数や出力トルクが増加すると誘起電圧が高くなり、その必要電圧が高くなる。コンバータ12による昇圧電圧すなわち、システム電圧VHは、このモータ必要電圧(誘起電圧)よりも高く設定する必要がある。その一方で、コンバータ12による昇圧電圧すなわち、システム電圧には限界値(VH最大電圧)が存在する。
したがって、モータ必要電圧(誘起電圧)がシステム電圧の最大値(VH最大電圧)より低い領域では、正弦波PWM制御または過変調PWM制御によるPWM制御方式が適用されて、ベクトル制御に従ったモータ電流制御によって出力トルクがトルク指令値Trqcomに制御される。
その一方で、モータ必要電圧(誘起電圧)がシステム電圧の最大値(VH最大電圧)に達すると、システム電圧VHを維持した上で弱め界磁制御の一種としての矩形波電圧制御方式が適用される。矩形波電圧制御時には、基本波成分の振幅が固定されるため、電力演算によって求められるトルク実績値とトルク指令値との偏差に基づく、矩形波パルスの電圧位相制御によってトルク制御が実行される。
図3は、制御方式の選択手法を説明するフローチャートである。
図3のフローチャートに示されるように、図示しない上位ECUによって、アクセル開度等に従う車両要求出力に基づき交流モータM1のトルク指令値Trqcomが算出される(ステップS100)のを受けて、制御装置30は、予め設定されたマップ等に基づいて、交流モータM1のトルク指令値Trqcomおよび回転数からモータ必要電圧(誘起電圧)を算出し(ステップS110)、さらに、モータ必要電圧とシステム電圧の最大値(VH最大電圧)との関係に従って、矩形波電圧制御方式およびPWM制御方式(正弦波PWM制御方式/過変調PWM制御方式)のいずれを適用してモータ制御を行なうかを決定する(ステップS120)。PWM制御方式の適用時に、正弦波PWM制御方式および過変調PWM制御方式のいずれを用いるかについては、ベクトル制御に従う電圧指令値の変調率範囲に応じて決定する。上記制御フローに従って、交流モータM1の運転条件に従って、図2に示した複数の制御方式のうちから適正な制御方式が選択される。
図4は、モータ条件に対応した制御方式の切換えを説明する図である。
制御方式の選択の結果、図4に示されるように、低回転数域A1ではトルク変動を小さくするために正弦波PWM制御が用いられ、中回転数域A2では過変調PWM制御、高回転数域A3では矩形波電圧制御が適用される。特に、過変調PWM制御および矩形波電圧制御の適用により、交流モータM1の出力向上が実現される。このように、図2に示した制御モードのいずれを用いるかについては、実現可能な変調率の範囲内で決定される。
図5は、制御装置30によって実行されるPWM制御の制御ブロック図である。
図5に示されるように、PWM制御部200Aは、電流指令生成部210と、座標変換部220,250と、PI演算部240と、制御モード判定部270とを含む。PWM制御部200Aは、PWM信号生成部260を制御してインバータ14のスイッチング信号S3〜S8を発生させる。
電流指令生成部210は、予め作成されたテーブル等に従って、トルク指令値Trqcomに応じたd軸電流指令値Idcomおよびq軸電流指令値Iqcomを生成する。
座標変換部220は、レゾルバ25によって検出される交流モータM1の回転角θを用いた座標変換(3相→2相)により、電流センサ24によって検出されたV相電流ivおよびW相電流ivを基に、d軸電流Idおよびq軸電流Iqを算出する。
PI演算部240には、d軸電流の指令値に対する偏差ΔId(ΔId=Idcom−Id)およびq軸電流の指令値に対する偏差ΔIq(ΔIq=Iqcom−Iq)が入力される。PI演算部240は、d軸電流偏差ΔIdおよびq軸電流偏差ΔIqについて所定ゲインによるPI演算を行なって制御偏差を求め、この制御偏差に応じたd軸電圧指令値Vd♯およびq軸電圧指令値Vq♯を生成する。
座標変換部250は、交流モータM1の回転角θを用いた座標変換(2相→3相)によって、d軸電圧指令値Vd♯およびq軸電圧指令値Vq♯をU相、V相、W相の各相電圧指令値Vu,Vv,Vwに変換する。なお、d軸,q軸電圧指令値Vd♯,Vq♯から各相電圧指令値Vu,Vv,Vwへの変換には、システム電圧VHも反映される。
制御モード判定部270は、図3に示したフローチャートに従ってPWM制御方式(正弦波PWM制御方式/過変調PWM制御方式)が選択されたときに、以下に示す変調率演算に従って、正弦波PWM制御方式および過変調PWM制御方式の一方を選択する。
制御モード判定部270は、PI演算部240によって生成されたd軸電圧指令値Vd♯およびq軸電圧指令値Vq♯を用いて、下記(1),(2)式に従って線間電圧振幅Vampを算出する。
Vamp=|Vd♯|・cosφ+|Vq♯|・sinφ …(1)
tanφ=Vq♯/Vd♯ …(2)
さらに、制御モード判定部270は、システム電圧VHに対する上記演算による線間電圧振幅Vampの比である変調率Kmdを、すなわち下記(3)式に従って演算する。
Kmd=Vamp/VH♯…(3)
制御モード判定部270は、上記の演算により求められた変調率Kmdに従って、正弦波PWM制御および過変調PWM制御の一方を選択する。なお、上述のように、制御モード判定部270による制御方式の選択はPWM信号生成部260における搬送波の切換えに反映される。すなわち、過変調PWM制御方式時には、PWM信号生成部260におけるPWM変調時に用いられる搬送波が、正弦波PWM制御方式時の一般的なものから切換えられる。
あるいは、式(3)により求められた変調率KmdがPWM制御方式により実現可能な範囲を超えている場合には、制御モード判定部270は、矩形波電圧制御方式への変更を促す出力を上位ECU(図示せず)に対して送出してもよい。
PWM信号生成部260は、各相における電圧指令値Vu,Vv,Vwと所定の搬送波との比較に基づいて、図1に示したスイッチング制御信号S3〜S8を生成する。インバータ14が、PWM信号生成部260によって生成されたスイッチング制御信号S3〜S8に従ってスイッチング制御されることにより、電流指令生成部210に入力されたトルク指令値Trqcomに従ったトルクを出力するための交流電圧が印加される。
このように、トルク指令値Trqcomに応じた電流指令値(Idcom,Iqcom)へモータ電流を制御する閉ループが構成されることにより、交流モータM1の出力トルクはトルク指令値Trqcomに従って制御される。
図6は、制御装置30によって実行される矩形波電圧制御の制御ブロック図である。
図6を参照して、この矩形波電圧制御ブロックは、電圧位相演算部200Bと、矩形波発生処理部400とを含む。
電圧位相演算部200Bは、PWM制御方式時と同様の座標変換部220と、トルク推定部420と、PI演算部430と、位相リミッタ432とを含む。矩形波発生処理部400は、矩形波発生器440と、信号発生部450とを含む。
座標変換部220は、PWM制御方式時と同様に、電流センサ24によるV相電流ivおよびW相電流iwから求められる各相電流をd軸電流Itおよびq軸電流Iqに座標変換する。
トルク推定部420は、座標変換部220によって求められたd軸電流Idおよびq軸Iqを用いて、交流モータM1の出力トルクを推定する。トルク推定部420は、たとえば、d軸電流Idおよびq軸電流Iqを引数としてトルク推定値Trqを出力するトルク算出マップにより構成される。
PI演算部430へは、トルク指令値Trqcomに対するトルク推定値Trqの偏差ΔTrq(ΔTrq=Trqcom−Trq)が入力される。PI演算部430は、トルク偏差ΔTrqについて所定ゲインによるPI演算を行なって制御偏差を求め、求められた制御偏差に応じて矩形波電圧の位相φvを設定する。具体的には、正トルク発生(Trqcom>0)時には、トルク不足時には電圧位相を進める一方で、トルク過剰時には電圧位相を遅らせる。また、負トルク発生(Trqcom<0)時には、トルク不足時には電圧位相を遅らせる一方で、トルク過剰時には電圧位相を進める。
位相リミッタ432は、PI演算部430の出力する位相φVIに所定の制限をかける。そして、位相リミッタの出力する電圧位相φvは、矩形波発生器440に与えられる。
矩形波発生器440は、電圧位相φvに従って、各相電圧指令値(矩形波パルス)Vu,Vv,Vwを発生する。信号発生部450は、各相電圧指令値Vu,Vv,Vwに従ってスイッチング制御信号S3〜S8を発生する。インバータ14がスイッチング制御信号S3〜S8に従ったスイッチング動作を行なうことにより、電圧位相φvに従った矩形波パルスが、モータの各相電圧として印加される。
図6に示した電圧位相演算部200Bでは、トルクフィードバック制御に用いるトルク推定値Trqの算出を、図5に示したPWM制御時と同様に電流センサ24およびレゾルバ25の出力のみに基づいて実行している。このため、PWM制御と矩形波電圧制御との間で制御方式を切換えた場合においても、モータ制御に用いる交流モータの状態量(センサ検出量)に変化が生じない。
[矩形波電圧制御におけるオフセット電流の低減]
矩形波電圧制御では、ロータの回転角に対して矩形波の電圧位相を操作することによりトルク制御を実施している。たとえば、所定範囲内の位相操作量では、電気角に対して電圧位相を進める量に応じて、トルクを増加させることができる。通常、三相モータの場合、電圧位相を操作することが可能なタイミングは、電気角の1周期中に6回存在する。
しかし、電気角の1周期中に6回のタイミングの全てにおいて、様々な電圧位相への操作が可能にしておくと、毎回異なる電圧位相の操作が行なわれる可能性があり、三相の矩形電圧の上下幅が異なり、オフセット電流が発生するという問題がある。このオフセット電流は、過電流や車両振動の原因となる可能性がある。そこで、まずこの電圧位相の操作について説明を行なう。
図7は、矩形波制御において定常時で電圧位相を操作しない場合の各相の電圧波形を示した波形図である。
図7においては、横軸は時間を示すが、横軸には時間の変化に対応する電気角が記載されている。電気角は、ロータの回転位置に基づいて定まる。
三相モータの場合、矩形波制御では定常時にはU相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwは120°ずつずれており、各波形は上下幅が電気角で各々180°と等しくなっている。各波形はオン・オフの幅が等しいのでこの状態ではオフセット電流は発生しない。
矩形波制御において電圧位相を変更することができるタイミングは、各相波形がオンからオフまたはオフからオンへと遷移するタイミングである。したがって、電圧位相を変更することができるタイミングは、図7の波形においては電気角60°ごとに存在する。
図8は、電圧位相の操作によりオフセット電流が発生する例を説明するための波形図である。
図8を参照して、この例では、180°の電気角においてU相の電圧が遷移するタイミングを変更した場合が示される。この例の電圧位相の操作量は10°である。電気角180°以降は、U相、V相、W相の各波形は電気角10°だけ後ろにずれている。すると、図8の矢印で示すように、オン幅が電気角190°となる部分がある。すると前後の隣り合う180°オフ期間と幅が異なるので、電圧のオン時とオフ時のバランスが一時的に崩れて、オフセット電流が発生する。操作量が10°よりも大きくなれば、バランスの崩れが大きくなるのでオフセット電流はさらに大きくなる。
ここで、この1周期内で、トルク指令に応答して電気角でスイッチング(各矩形波電圧波形の立ち上がりまたは立下り)の位相を60°遅らせたい場合を考える。電気角0°においてスイッチング位相を60°遅らせるのでは、U相電圧のオフ期間が180+60=240°になり、次のオン期間の180°と著しくバランスが崩れてしまう。同様にV相でもオフ期間が240°になる期間が発生し、W相ではオン期間が240°になる期間が発生してしまう。
このような場合、電圧位相を操作するときに電気周期ごとの操作量を一定に保てば、電圧のオン時とオフ時の幅を等しくしておくことができる。すなわち、各相においてオフからオンに遷移する波形の立ち上がりを遅らせる場合には、その次の立下りも遅らせて、スイッチング波形のオン幅とオフ幅をなるべく等しく保つように制御を行なえばよい。
以下に、電気角0°から300°までの各スイッチングにおいて、毎回電圧位相の変化量を10°ずつ増加させていく場合を例に説明する。
図9は、本願の発明が適用された場合の電圧位相の変化の一例を示した波形図である。
図9を参照して、電圧位相の変化の合計量が60°である場合が例示されている。図9では、1周期内に各相で2回ずつ合計6回のスイッチングが行なわれている。位相の変化量がすべてゼロであれば、スイッチングが行われる時期は図7に示したように0°,60°,120°,180°,240°,300°の6箇所である。これらの時期をスイッチング基準位相と呼ぶことにする。
まず、スイッチング基準位相0°では、U相電圧Vuを10°遅らせる。すると、U相電圧VuがLからHに立ち上がるのは電気角10°の位置になる。
次に、スイッチング基準位相60°では、先ほどの変化量よりもさらに10°遅らせ、W相電圧Vwを遷移させる時期を基準位相に対して20°遅らせる。すると、W相電圧VwがHからLに立ち下がるのは電気角60+20=80°の位置になる。
次に、スイッチング基準位相120°では、先ほどの変化量よりもさらに10°遅らせ、V相電圧Vvを遷移させる時期を基準位相に対して30°遅らせる。すると、V相電圧VvがLからHに立ち上がるのは電気角120+30=150°の位置になる。
次に、スイッチング基準位相180°では、先ほどの変化量よりもさらに10°遅らせ、U相電圧Vuを遷移させる時期を基準位相に対して40°遅らせる。すると、U相電圧VuがHからLに立ち下がるのは電気角180+40=220°の位置になる。
次に、スイッチング基準位相240°では、先ほどの変化量よりもさらに10°遅らせ、W相電圧Vwを遷移させる時期を基準位相に対して50°遅らせる。すると、W相電圧VwがLからHに立ち上がるのは電気角240+50=290°の位置になる。
次に、スイッチング基準位相300°では、先ほどの変化量よりもさらに10°遅らせ、V相電圧Vvを遷移させる時期を基準位相に対して60°遅らせる。すると、V相電圧VvがHからLに立ち下がるのは電気角300+60=360°の位置になる。
そして、次の周期以降は、基準位相に対して一律に60°遅らせて各相の波形を変化させる。このように、電圧波形の位相を60°遅らせる場合に、1周期の間は変化分を次第に増加させていき、次の周期からは一律に60°遅らせる。これにより、各相の電圧波形のオン期間とオフ期間のバランスが著しく崩れる場所が無くなり、オフセット電流の発生は防止される。
具体的には、破線で囲まれた期間TUにおいては、U,V,W相電圧のオン期間は210°であり、オフ期間も210°であるので、オフセット電流は発生しないことがわかる。
[制御装置の詳細]
図10は、制御装置30の構成の一例を示した図である。
図10を参照して、制御装置30は、マイコンコア部200とROM、RAMと、矩形波発生処理部400と、PWM信号生成部260とを含む。
たとえば、制御装置30は、ワンチップマイコンで実現することができる。マイコンコア部200はROMなどからプログラムを読み出して実行することによって、各種処理を行なう。また、矩形波発生処理部400、PWM信号生成部260は、専用回路によって実現されマイコンコア部200からの指令やデータに基づいて高速に矩形波発生処理やPWM処理を行なう。
図11は、矩形波処理における位相差演算フィードバック処理の所要時間Taを示した図である。
図11を参照して、モータ回転速度が増加すると、演算フィードバックを実行完了しなければならない時間Taは短くなる。矩形波フィードバック制御1回あたりの演算時間Tcは、マイコン処理能力に依存する値であり、固定値である。このTcとTaとの交点が、そのマイコンが処理可能なモータ回転数Nmaxである。モータ回転速度が増加すると、電気角の1周期分の時間が短くなる。そこで、本実施の形態では、フィードバック演算を間引いて実行する。
図12は、図9に示した矩形波制御を実現する制御を説明するための第1のフローチャートである。このフローチャートの処理は、図10のマイコンコア部200で実行されており、所定のメインルーチンから一定時間経過ごとまたは所定の条件が成立するごとに呼出されて実行される。
図12を参照して、まずステップS1において現在の時刻が取得され、その時刻が電気角300°に相当するタイミングであるか、すなわち、1周期におけるスイッチング基準位相0°,60°,120°,180°,240°,300°のうち最後のスイッチング基準位相であるか否かが判断される。ステップS1の判断が肯定的(YES)であれば処理はステップS2に進み、ステップS1の判断が否定的(NO)であれば、処理はステップS5に進む。
ステップS2ではフィードバック演算により、1周期で位相をどれだけ変化させるかの合計量Δθtotが次式により演算される。
Δθtot=Kp×ΔTq+Ki×ΣΔTq …(4)
なお、Kpは比例積分制御(PI制御)の比例ゲインであり、Kiは積分ゲインである。またTqはトルクである。この演算は、図6ではPI演算部430で実行される。
ステップS2に続いてステップS3の処理が実行される。ステップS3では、Δθtotの6分の1を、1周期のうちの6回のスイッチングにおけるスイッチング基準位相に対しての、各相の矩形波電圧の電圧位相の変化量の1回あたりの増加量(または減少量)Δθaに設定する。そして、ステップS4においてΔθaがマイコンコア部200から矩形波発生処理部400に出力され、その後ステップS5に処理が進み、制御はメインルーチンに移される。
図13は、図9に示した矩形波制御を実現する制御を説明するための第2のフローチャートである。このフローチャートの処理は、図10の矩形波発生処理部400で実行されており、所定のメインルーチンから一定時間経過ごとまたは所定の条件が成立するごとに呼出されて実行される。なお、この処理はハードウエアで実行されるようにしても良い。
図13を参照して、まず処理が開始されると、ステップS10において矩形波発生処理部400はマイコンコア部200からΔθaを受信する。
続いて、ステップS11において、時刻tが電気角0°に相当するタイミングであるか、すなわち、1周期におけるスイッチング基準位相0°,60°,120°,180°,240°,300°のうち最初のスイッチング基準位相であるか否かが判断される。ステップS11の判断が肯定的(YES)であればステップS12処理が進み、位相変化量ΔθはステップS10で受信したΔθaに設定される。
一方、ステップS11の判断が否定的(NO)であれば、ステップS13に処理が進む。ステップS13においては、時刻tが電気角60°に相当するタイミングであるか否かが判断される。ステップS13の判断が肯定的(YES)であればステップS14に処理が進み、位相変化量ΔθはステップS12で設定する値よりもさらにΔθaだけ多いΔθa×2に設定される。
ステップS13の判断が否定的(NO)であれば、ステップS15に処理が進む。ステップS15においては、時刻tが電気角120°に相当するタイミングであるか否かが判断される。ステップS15の判断が肯定的(YES)であればステップS16に処理が進み、位相変化量ΔθはステップS14で設定する値よりもさらにΔθaだけ多いΔθa×3に設定される。
ステップS15の判断が否定的(NO)であれば、ステップS17に処理が進む。ステップS17においては、時刻tが電気角180°に相当するタイミングであるか否かが判断される。ステップS17の判断が肯定的(YES)であればステップS18に処理が進み、位相変化量ΔθはステップS16で設定する値よりもさらにΔθaだけ多いΔθa×4に設定される。
ステップS17の判断が否定的(NO)であれば、ステップS19に処理が進む。ステップS19においては、時刻tが電気角240°に相当するタイミングであるか否かが判断される。ステップS19の判断が肯定的(YES)であればステップS20に処理が進み、位相変化量ΔθはステップS18で設定する値よりもさらにΔθaだけ多いΔθa×5に設定される。
ステップS19の判断が否定的(NO)であれば、ステップS21に処理が進む。ステップS21においては、時刻tが電気角300°に相当するタイミングであるか否かが判断される。ステップS21の判断が肯定的(YES)であればステップS22に処理が進み、位相変化量ΔθはステップS20で設定する値よりもさらにΔθaだけ多いΔθa×6に設定される。
ステップS12,S14,S16,S18,S20,S22のいずれかにおいて変化量Δθが設定された場合には、ステップS23に処理が進み、対応する矩形波電圧のスイッチングが実行され、その後ステップS24において制御はメインルーチンに移される。
たとえば、ステップS22では、ステップS10で受信したΔθaの6倍を基準位相からの変化量Δθに決定する。そしてステップS23において、相電圧のスイッチングを実行する。図9では、電気角0°の手前の300°に相当する時刻で、変化量Δθ=0°に設定されているので、V相電圧Vvがちょうど300°でHレベルからLレベルに立ち下がっている。
なお、ステップS21の判断が否定的(NO)であれば、今回の時刻tのタイミングではスイッチングが実行されない場合であり、ステップS24に処理が進み制御はメインルーチンに移される。
図12、図13のフローチャートで説明したように、1周期に6回あるスイッチングにおいて、基準位相からの変化量をΔθaずつ増加させていき、1周期経過した後にはΔθtotの位相変化量となるように制御を行なう。このようにすることで、各相の波形のオン期間とオフ期間のバランスが著しく崩れてしまう部分がなくなり、オフセット電流を低減させることが可能となる。
[実施の形態2]
実施の形態1では、電気角の1周期にフィードバック演算を1回実行する例を示したが、さらに高速回転に対応可能とするため、実施の形態2では、フィードバック演算の頻度を電気角の2周期に1回、電気角の3周期に1回・・・と拡張する。その際に、電圧位相の分割数は、電気角2周期に1回の場合は12等分、電気角3周期に1回の場合は18等分・・・と拡張する。
図14は、実施の形態2の矩形波制御を説明するための第1のフローチャートである。このフローチャートの処理は、図10のマイコンコア部200で実行されており、所定のメインルーチンから一定時間経過ごとまたは所定の条件が成立するごとに呼出されて実行される。
図14を参照して、まずステップS51においてモータ回転速度に対応する計算頻度Fが算出される。続いて、ステップS52において、電気角の1周期の経過をカウントしている変数Nが計算頻度Fと一致するか否かが判断される。N=Fが成立しない場合には、ステップS52からステップS53に処理が進む。
ステップS53では、電気角の1周期の経過の時間待ちが実行され、電気角の1周期が経過したら、ステップS54において変数Nのカウントアップが実行され、ステップS52に処理が戻る。
ステップS52において、変数Nが計算頻度Fと一致した場合には、ステップS55に処理が進む。
ステップS55ではフィードバック演算により、1周期で位相をどれだけ変化させるかの合計量Δθtotが既出の式(4)により演算される。
Δθtot=Kp×ΔTq+Ki×ΣΔTq …(4)
なお、Kpは比例積分制御(PI制御)の比例ゲインであり、Kiは積分ゲインである。またTqはトルクである。この演算は、図6ではPI演算部430で実行される。
ステップS55に続いてステップS56の処理が実行される。ステップS56では、Δθtotの6分の1を、1周期のうちの6回のスイッチングにおけるスイッチング基準位相に対しての、各相の矩形波電圧の電圧位相の変化量の1回あたりの増加量(または減少量)Δθaに設定する。そして、ステップS57においてΔθaがマイコンコア部200から矩形波発生処理部400に出力され、その後ステップS58に処理が進み、制御はメインルーチンに移される。
図15は、実施の形態2の矩形波制御を説明するための第2のフローチャートである。このフローチャートの処理は、図10の矩形波発生処理部400で実行されており、所定のメインルーチンから一定時間経過ごとまたは所定の条件が成立するごとに呼出されて実行される。なお、この処理はハードウエアで実行されるようにしても良い。
図15を参照して、まず処理が開始されると、ステップS71において矩形波発生処理部400はマイコンコア部200からΔθaおよび計算頻度Fを受信する。続いて、ステップS72においてカウントアップのための変数Nが0に初期化される。この変数Nは図14における変数Nとは別の変数である。
続いて、ステップS73において、時刻tが電気角0°に相当するタイミングであるか、すなわち、1周期におけるスイッチング基準位相0°,60°,120°,180°,240°,300°のうち最初のスイッチング基準位相であるか否かが判断される。ステップS73の判断が肯定的(YES)であればステップS74に処理が進み、位相変化量ΔθはステップS71で受信したΔθaに(1+6N)を乗じた値((1+6N)×Δθa)に設定される。
一方、ステップS73の判断が否定的(NO)であれば、ステップS75に処理が進む。ステップS75においては、時刻tが電気角60°に相当するタイミングであるか否かが判断される。ステップS75の判断が肯定的(YES)であればステップS76に処理が進み、位相変化量ΔθはステップS74で設定する値よりもさらにΔθaだけ多い(2+6N)×Δθaに設定される。
ステップS75の判断が否定的(NO)であれば、ステップS77に処理が進む。ステップS77においては、時刻tが電気角120°に相当するタイミングであるか否かが判断される。ステップS77の判断が肯定的(YES)であればステップS78に処理が進み、位相変化量ΔθはステップS76で設定する値よりもさらにΔθaだけ多い(3+6N)×Δθaに設定される。
ステップS77の判断が否定的(NO)であれば、ステップS79に処理が進む。ステップS79においては、時刻tが電気角180°に相当するタイミングであるか否かが判断される。ステップS79の判断が肯定的(YES)であればステップS80に処理が進み、位相変化量ΔθはステップS78で設定する値よりもさらにΔθaだけ多い(4+6N)×Δθaに設定される。
ステップS79の判断が否定的(NO)であれば、ステップS81に処理が進む。ステップS81においては、時刻tが電気角240°に相当するタイミングであるか否かが判断される。ステップS81の判断が肯定的(YES)であればステップS82に処理が進み、位相変化量ΔθはステップS80で設定する値よりもさらにΔθaだけ多い(5+6N)×Δθaに設定される。
ステップS81の判断が否定的(NO)であれば、ステップS83に処理が進む。ステップS83においては、時刻tが電気角300°に相当するタイミングであるか否かが判断される。ステップS83の判断が肯定的(YES)であればステップS84に処理が進み、位相変化量ΔθはステップS82で設定する値よりもさらにΔθaだけ多い(6+6N)×Δθaに設定される。そして、ステップS85においてカウントアップの変数Nに1が加算される。
ステップS74,S76,S78,S80,S82のいずれかにおいて変化量Δθが設定された場合またはS84で変化量Δθが設定されステップS85で変数Nがインクリメントされた場合にはステップS86に処理が進み、対応する矩形波電圧のスイッチングが実行される。
ステップS83の判断が否定的(NO)であった場合、またはステップS86でスイッチングの実行がされた場合には、ステップS87に処理が進む。ステップS87では変数Nが計算頻度Fと等しいか否かが判断される。
ステップS87においてN=Fが成立しなければ、ステップS73に処理が戻り、再び次の電気角周期のスイッチングが行なわれる。一方、ステップS87において、N=Fが成立した場合にはステップS88に処理が進み制御はメインルーチンに移される。
以上説明したように、実施の形態2においては、モータ回転速度に対応するように計算頻度Fを定めているので、マイコンコア部200の処理速度を上げなくても、モータの高速回転に対応することが可能となる。
なお、実施の形態2においてはモータ回転速度に対応するように計算速度Fを定めた例を説明したが、計算頻度Fを1より大きい数に固定するのでも良い。
[実施の形態3]
図16は、更新タイミングの遅延の発生について説明するための図である。
図16を参照して、横軸には時間が示されている。そして図16の上段から順に、電気角の変化、正常時の増加量Δθaの更新タイミングを示す波形ΔθaA、遅延発生時の増加量Δθaの更新タイミングを示す波形ΔθaBが示されている。
正常時には、処理P1の後に時刻t5、t11付近で増加量ΔθaAの更新が行なわれている。時刻t5では増加量ΔθaAを示すデータがDAT1からDAT2に更新され、時刻t11では増加量ΔθaAを示すデータがDAT2からDAT3に更新されている。
これに対し、遅延発生時の増加量ΔθaBを見ると、マイコンコア部200において増加量Δθaの演算よりも優先する割込み処理P0が実行された結果、処理P1の開始が遅れ、更新時間に遅延TD1が発生している。このような遅延が発生すると、図9で実現したようなU,V,W相の電圧波形のバランスが崩れてしまう。そこで実施の形態3では、増加量Δθaの更新を演算時からある程度遅延させ、更新時期の位相を固定することによって、優先順位の高い割り込み処理が入っても電圧波形のバランスが崩れにくいようにする。
図17は、実施の形態3において、制御装置30によって実行される矩形波電圧制御の制御ブロック図である。
図17に示した制御ブロック図では、図6の制御ブロック図の構成において、矩形波発生処理部400に代えて矩形波発生処理部400Aを含む。矩形波発生処理部400Aは、矩形波発生処理部400の電圧位相φvおよび増加量Δθaが入力される経路にラッチ439が設けられる点が異なる。図17の他の部分については、図6で説明したブロック図と同様であるので、ここでは説明は繰返さない。
図18は、実施の形態3の矩形波制御を実現する制御を説明するためのフローチャートである。このフローチャートの処理は、所定のメインルーチンから一定時間経過ごとまたは所定の条件が成立するごとに呼出されて実行される。なお、この処理は矩形波発生処理部についてはハードウエアで実行されるようにしても良い。
図18を参照して、マイコンコア部では処理が開始されると、ステップS101において起動タイミングであるか否かが判断される。起動タイミングであれば、フィードバック演算をステップS102において実行し、ステップS103において増加量Δθaが演算され、ステップS104において増加量Δθaが電圧位相演算部200Bから矩形波発生処理部400Aに出力される。なお、ステップS101において起動タイミングでなければステップS105に処理が進み制御はメインルーチンに移される。
一方、矩形波発生処理部400Aでは、ステップS201において増加量Δθaを電圧位相演算部200Bから受信すると、ステップS202に処理が進み、現在の時刻が更新タイミングであるか否かが判断される。更新タイミングは、図16に示された正常時の更新タイミング(t5、t11)である。このようにすれば、図16のΔθaBでしめしたように、更新すべきタイミング以外での増加量の切換が発生する可能性を低減させることができる。
ステップS202において現在の時刻が更新タイミングであれば、ステップS203において、受信した新規な増加量Δθaに基づいてスイッチングが実行される。一方、ステップS203において現在の時刻が更新タイミングでなければ、ステップS204において、前回の増加量Δθaに基づいてスイッチングが実行される。
ステップS203またはステップS204でスイッチングが実行されると、ステップS205に処理が進み制御はメインルーチンに移される。
実施の形態3においては、更新タイミングに一致しない場合には増加量Δθaがされないので、U,V,W相の波形のバランスが著しく崩れることを防止することができる。これにより、確実に電気角1周期内の電圧位相が等分になるため、オフセット電流の発生が低減される。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。