JP2011144167A - 血糖値降下剤及び血糖値降下飲食品組成物 - Google Patents

血糖値降下剤及び血糖値降下飲食品組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】食品由来の物質で安全性が高く、高い血糖値降下作用のある血糖値降下剤及び血糖値降下飲食品組成物を提供する。
【解決手段】Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチドを含有する、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)阻害剤及び血糖降下剤並びに該ペプチドを用いた食品の製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、DPP4阻害剤、血糖値降下剤、血糖値降下方法、DPP4を阻害する方法、及び血糖値降下飲食品組成物に関する。
糖尿病は現代における最も一般的な慢性疾患の一つであり、心血管疾患の発生の主要因の一つである。糖尿病は、食餌中の糖を消費するという、インスリンの正常な活性が損なわれることによって引き起こされる。糖尿病にはインスリン依存型糖尿病(所謂I型糖尿病)とインスリン非依存型糖尿病(所謂II型糖尿病)とに主に分類され、近年、インスリン非依存型糖尿病の患者数は生活習慣の変化、肥満の増加、及び人口集団の加齢によって急激に増加している。
一般的に糖尿病においては、体内でのインスリン産生能が極めて低下しているか、又は作られたとしても、インスリン感受性の低下等によりそのインスリンが有効ではなく、これを原因として血糖値上昇が起き、それに伴う種々の高血糖症状を引き起こす。現在広く行われている治療としては、インスリン投与以外に、血糖値降下剤の投与によって血糖値をコントロールする方法が用いられている。
近年、こうしたII型糖尿病患者の増加に伴い、従来のインスリン投与以外の種々の治療法が探索されている。その中で生体から分泌されるインクレチンに注目が集まっている。
インクレチンは消化管ホルモンの総称であり、インスリン分泌を刺激することで血糖値を下げる作用があることが判っている。インクレチンの中でもGLP−1アナログ等が医薬品として開発されている。さらには、GLP−1はペプチド分解酵素であるジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)によって分解され失活することから、インクレチンの構造中のDPP4により攻撃を受ける部位を修飾して誘導体とする物質や、DPP4自身の作用を阻害する物質などについても今後の新しい糖尿病治療薬となることが期待されている。
これまでも様々なDPP4阻害を目的とした化合物が提案されている。例えば、特定のロイシン誘導体やメチオニン誘導体(特許文献1)、ピロリジン誘導体、N−オキシド体又はそれらのプロドラッグ(特許文献2、特許文献3)、アダマンチルグリシン誘導体(特許文献4)、ピロピロリジン誘導体(特許文献5)、特定基や特定構造を有する加水分解型タンニン(特許文献6)、ビルダグリプチン及びメトホルミンを含む製剤(特許文献7)、またタンパク質の加水分解物(特許文献8)等が挙げられる。
しかし、これら従来のDPP4阻害剤としての化合物などは、特異的な立体構造を制御した合成を要するため、複雑な合成経路を経なければならず、またそれに伴い合成コストがかかる可能性がある(特許文献1、2,3、4、5、7)。また植物からの抽出物である場合には、大量安定供給が出来ない可能性がある(特許文献6)。またその効果については未だ不十分である。特に安全性の高い食品由来でその様な有効かつ十分な作用を発揮する素材についての探索は継続して行われているのが現状であった。
国際公開第2006/118196号 特開2007−31396号明細書 特表2007−1946号明細書 特表2007−501231号明細書 特表2008−540651号明細書 特開2008−280291号明細書 特表2009−510068号明細書 米国特許出願公開第2009/0075904号明細書
このように安全性の高い食品由来でその様な有効かつ十分な作用を発揮する素材を用いた血糖値降下剤及び血糖値降下飲食品組成物はこれまでに見出されていなかった。
上記従来の問題点に鑑み、本発明者等は鋭意研究を進めたところ、β−ラクトグロブリンの分解物由来の化合物にDPP4(ジペプチジルペプチダーゼ4)阻害作用があることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、食品由来の物質で安全性が高く、高い血糖値降下作用のある血糖値降下剤、血糖値降下方法、DPP4を阻害する方法、及び血糖値降下飲食品組成物を提供する。
本発明は以下の態様を包含する。
[1] Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチドを有効成分として含有する、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)阻害剤。
一態様では、このDPP4阻害剤に含まれる前記ペプチドは、配列番号1のN末端から4残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチドであることがより好ましい。
一態様では、このDPP4阻害剤に含まれる前記ペプチドは、配列番号1のN末端から5残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチドであることがさらに好ましい。
一態様では、このDPP4阻害剤に含まれる前記ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドであることが特に好ましい。
一態様ではまた、このDPP4阻害剤に含まれる前記ペプチドは、Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のアミノ酸配列からなるペプチドであることが特に好ましい。
[2] Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチドを含有するβ−ラクトグロブリン加水分解物を有効成分として含有する、DPP4阻害剤。
[3] [1]又は[2]のDPP4阻害剤を含む、血糖値降下剤。
[4] Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチド又は該ペプチドを含有するβ−ラクトグロブリン加水分解物を、前記ペプチドの含量が添加後の全体量に対して0.01重量%以上となる量で、飲食品組成物に添加することを含む、飲食品組成物の製造方法。
この方法の一態様では、飲食品組成物は発酵乳飲食品である。またこの方法は、DPP4阻害用又は血糖値降下用の飲食品組成物を製造するためのものであり得る。
[5] Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチド又は該ペプチドを含有するβ−ラクトグロブリン加水分解物を、前記ペプチドの含量が添加後の全体量に対して0.01重量%以上となる量で含む、食品組成物。
この飲食品組成物の一態様は、発酵乳飲食品である。
[6] Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチド又は該ペプチドを含有するβ−ラクトグロブリン加水分解物、及び製剤補助剤からなる、DPP4阻害用又は血糖値降下用食品組成物。
[7] [1]又は[2]のDPP4阻害剤を非ヒト哺乳動物に投与することを含む、DPP4活性を阻害する方法。
[8] [1]又は[2]DPP4阻害剤又は[3]の血糖値降下剤を高血糖症の非ヒト哺乳動物に投与することを含む、血糖値を降下させる方法。
本発明はさらに以下の態様をも包含する。
本発明の一態様は、少なくともVal−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyrのアミノ酸配列を有するペプチド化合物からなる血糖値降下剤である。
また、本発明の別の態様は、少なくともVal−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyrのアミノ酸配列を有するペプチド化合物の有効量を哺乳動物に投与することからなる血糖値降下方法である。
さらに、本発明の別の態様は、少なくともVal−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyrのアミノ酸配列を有するペプチド化合物の有効量を哺乳動物に投与することからなるDPP4を阻害する方法である。
上記いずれかの態様において、前記ペプチド化合物はβ−ラクトグロブリンの分解物由来の化合物であることが好ましい。
また、上記ペプチド化合物はVal−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyrのアミノ酸配列のみからなることが好ましい。
また上記いずれかの方法においては、有効量が1〜300mg/kg/dayであることが好ましい。
また、本発明の別の態様は、少なくともVal−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyrのアミノ酸配列を有するペプチド化合物を含んでなる血糖値降下飲食品組成物である。
上記血糖値降下飲食品組成物においては、前記ペプチド化合物はβ−ラクトグロブリンの分解物由来の化合物であることが好ましい。
また上記血糖値降下飲食品組成物においては、上記ペプチド化合物はVal−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyrのアミノ酸配列のみからなることが好ましい。
また上記血糖値降下飲食品組成物においては、上記ペプチド化合物は全体量に対して0.01〜10wt%含んでいることが好ましい。
また血糖値降下飲食品組成物が発酵乳飲食品であることが好ましく、ヨーグルト、ヨーグルト飲料等のヨーグルト飲食品であることが更に好ましい。
本発明に係るペプチドは、製造容易でありながら、強力なDPP4阻害作用を有し、その作用により血糖上昇レベルを抑制し血糖値を効果的に降下させることができる。本発明による血糖値降下剤及び血糖値降下飲食品組成物はβ−ラクトグロブリンの分解物由来の化合物であるために安全性も高く、また高い高血糖値降下作用を示す。
ペプチドVAGTWYを用いたDPP4酵素阻害活性を示したグラフ図である。 STZ糖尿病マウスを用いた血糖降下作用を示したグラフ図である。
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。なお本明細書では、アミノ酸配列及びそれを構成するアミノ酸残基を、通常のアミノ酸一文字表記又は三文字表記で表している。
本発明は、Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチドが、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)阻害作用を有するという知見に基づく。すなわち本発明は、Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチドを含有する、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)阻害剤を提供する。
ここで、「Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列」とは、配列番号1のアミノ酸配列上の、N末端のVal(バリン)を含む3アミノ酸残基長以上の部分配列又は全長配列を意味する。具体的には、配列番号1のN末端から3残基の連続したアミノ酸配列は、Val−Ala−Gly(一文字表記:VAG)であり、同様にN末端から4残基の連続したアミノ酸配列は、Val−Ala−Gly−Thr(一文字表記:VAGT)であり、N末端から5残基の連続したアミノ酸配列は、Val−Ala−Gly−Thr−Trp(一文字表記:VAGTW)である。配列番号1のN末端から6残基の連続したアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列(全長配列)である。
本発明に係る上記ペプチドのうち、DPP4阻害活性の点では、本発明に係るVal−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から4残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチドがより好ましく、同N末端から5残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチドがさらに好ましく、同N末端から6残基の連続したアミノ酸配列(配列番号1のアミノ酸配列)を含むペプチドがさらに好ましく、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドが特に好ましい。
配列番号1のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチドは、3残基長以上であるが、4残基長以上であることが好ましく、5残基長以上であることがさらに好ましく、6残基長以上であることが特に好ましい。該ペプチドは、例えば、3残基長〜30残基長であってよい。該ペプチドは、好ましくは15残基長以下であり、より好ましくは10残基長以下であり、例えば8残基長以下又は6残基長以下である。
配列番号1のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチドは、ペプチド固相合成法やペプチド液相合成法等の当業者に周知のペプチド合成法によって常法により合成することができ、例えば市販の自動ペプチド合成機等を用いて容易に合成することができる。
Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチド、例えば配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドは、タンパク質加水分解物(例えば、β−ラクトグロブリン加水分解物)中に含まれ得る。したがってVal−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチドは、タンパク質加水分解物、例えばβ−ラクトグロブリン加水分解物(β−ラクトグロブリン分解物)由来のペプチドであってよい。タンパク質加水分解物は、例えば、当業者には周知の塩酸分解法等の化学的分解法、熱水抽出法、又はプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)等の酵素を用いた酵素分解法によってタンパク質から調製することができるが、医薬品や食品に使用する場合にはプロテアーゼ処理(酵素分解法)によって調製することが好ましい。タンパク質加水分解物(例えばβ−ラクトグロブリン加水分解物)は、プロテアーゼ、例えばトリプシン、ペプチターゼ、プロテイナーゼ、エンドペプチダーゼ、エキソペプチダーゼ、アスパルティックプロテイナーゼ、ペプシン、金属プロテイナーゼ、セリンプロテイナーゼキモトリプシン、チオールプロテイナーゼ、パパイン、フィシン、ブロメライン、酸性プロテーゼ、中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ等でタンパク質(例えばβ−ラクトグロブリン)を処理することによって得ることができる。プロテアーゼは、ウシ、ブタ、ヒト等の各種由来のものを使用することができる。また、β−ラクトグロブリンは、ウシ、水牛、羊、ヤギ、ラクダ、インド牛、ヤク牛、馬、ロバ、トナカイ等の哺乳動物のβ−ラクトグロブリンであってよい。
β−ラクトグロブリン(本明細書では、「β−LG」と略称する場合がある)は、分子量約18.3kDaのタンパク質である。ウシβ−ラクトグロブリンのアミノ酸配列は、例えば山内邦男、横山健吉編、ミルク総合事典、朝倉書店、1992年、34頁(アイソフォームB)やNCBIのプロテインデータベースのアクセッション番号1QG5_A(アイソフォームA;配列番号5)に開示されている。ホエイからβ−ラクトグロブリンを分画する方法については多くの報告〔例えば、桑田有:月刊フードケミカル,2月号,68(1991);米国特許第5,420,249号;特開平07−123927号公報;特開平07−203863号公報等〕があり、また、市販品として数々上市もされている。
例えば、その一例を挙げると、ホエイを限外濾過し、低分子量ホエイタンパク質濃縮物(LWPC)を得た後、ゲル濾過(例えば、Sepacryl S100 やSuperdex 75)に供して、分子サイズに基づき分離する方法がある。
β−ラクトグロブリン加水分解物は、β−ラクトグロブリンの調製物を酵素的もしくは化学的加水分解することにより、又は化学合成、酵素や微生物を利用した生物化学的合成等で調製又は製造することができる。
一態様では、本発明で好ましく使用されるペプチド化合物は少なくともVal−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyrのアミノ酸配列を一部に有するものであり、さらに好ましくはβ−ラクトグロブリンの分解物由来であるペプチド化合物であり、さらには上記Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyrのアミノ酸配列のみからなる(以下、VAGTWYと略称する)ペプチド化合物が最も好ましい。
本発明に係るVal−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含む上記ペプチドのジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)阻害活性は、当業者に周知のDPP4活性アッセイ法やDPP4阻害アッセイ法(Gotoh H. et al., Clin Chem (1988) 34(12):2499-501; Augeri D.J. et al., J Med Chem. (2005) 48(15):5025-5037)を用いて評価することができる。そのようなアッセイを実施するためのキットとして、例えばDPPIV-GloTM Protease Assay(Promega)、DPPIV Drug Discovery Kit(Enzo Life Sciences International, Inc.)、DPP (IV) Inhibitor Screening Assay Kit(Cayman Chemical Company)等が市販されており、本発明においてもそれらを使用することができる。具体的には、実施例2に記載のようにしてDPP4阻害活性を測定することができる。
本発明に係るペプチド、すなわちVal−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含む上記ペプチドは、そのDPP4阻害作用に基づき、血糖降下作用を発揮する。具体的には本発明に係るペプチドは、DPP4活性の阻害により、インクレチンの分解を抑制して血中インクレチンレベルを上昇させ、インクレチンによるインスリン分泌を増強させ、その結果、血糖値を降下させることができる。したがって本発明に係るペプチドはDPP4阻害剤又は血糖降下剤として使用することができる。同様の機構に基づくDPP4阻害剤としては、すでにシタグリプチンやビルダグリプチン等が知られており、血糖降下剤として利用されている。インクレチンによるインスリン分泌はグルコース依存性であり血糖値が低いときはインスリン分泌を促進しないことから、DPP4阻害剤(DPP4阻害薬)は、高血糖時に選択的に作用し、低血糖を引き起こしにくいという利点を有する。DPP4阻害剤はまた、経口投与でき服用容易であること、β細胞保護作用を有すること等の利点を有することも知られている。本発明に係るペプチドはこのようなDPP4阻害剤の一般的利点に加えて、短いペプチドであるため調製が容易であるという大きな利点も有する。したがって本発明に係るペプチドはDPP4阻害剤として有用であり、このDPP4阻害剤は血糖降下剤として非常に有効に使用できる。この血糖降下剤は、高血糖症の被験体(例えば、哺乳動物)に適用するものであることが好ましい。本発明は、Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含む上記ペプチドを有効成分として含有するDPP4阻害剤又は血糖降下剤を提供する。
本発明に係るペプチドの血糖降下活性は、当業者に周知の方法により測定することができ、例えばストレプトゾトシン誘発糖尿病マウス等の糖尿病モデルマウスに本発明に係るペプチドを経口投与し、その後の血糖レベルが、当該ペプチドを投与しない対照の血糖値と比較してどれほど低下したかを測定することにより評価することができる。具体的には、実施例3に記載のようにして行えばよい。実施例3に記載の方法は、DPP4の反応基質であるGly−Pro−pNAにDPP4が作用すると、405nmで吸光度を有するp−ニトロアニリン(以下、p−NAともいう)が遊離することに基づくものである。この酵素反応の系にDPP4阻害作用を有する物質を添加した場合、遊離するp−NA量の減少を405nmの吸光度の減少で検出することができるので、これをもってDPP4阻害作用を評価することができる。
本発明に係るペプチドを含むDPP4阻害剤又は血糖降下剤は医薬組成物であり得る。 本発明のDPP4阻害剤又は血糖値降下剤や医薬組成物は、経口投与又は非経口投与(筋肉内、皮下、静脈内、坐薬、経皮等)のいずれでも投与できる。
本発明のDPP4阻害剤又は血糖値降下剤は、これを含有する医薬品組成物として提供することができる。医薬品の投与形態としては、例えば錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、溶液、シロップ剤、乳液等による経口投与を挙げることができる。これらの各種製剤は、常法に従って本発明の血糖値降下剤に、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤、溶媒などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤(製剤補助剤)を用いて製剤化することができる。製剤補助剤は有効成分の活性レベルに本質的に影響を及ぼさない不活性成分であることが好ましい。
本発明の血糖値降下剤は、これを含有する血糖値降下飲食品組成物としても提供することができる。
本発明は、本発明に係るペプチド(Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチド)又は該ペプチドを含有するβ−ラクトグロブリン加水分解物を、前記ペプチドの含量が添加後の全体量に対して0.01重量%(wt%)以上(例えば、0.01重量%〜30重量%、好ましくは0.05重量%〜10重量%、より好ましくは0.08重量%〜10重量%、さらに好ましくは0.1重量%〜7重量%、とりわけ好ましくは0.1重量%〜1重量%、例えば0.5重量%〜5重量%)となる量で含む、食品組成物を提供する。なお「添加後の全体量」とは、本発明に係るペプチドを含めた食品組成物の全体の重量(質量)をいう。
本発明はまた、本発明に係る上記ペプチド又は該ペプチドを含有するβ−ラクトグロブリン加水分解物を、前記ペプチドの含量が添加後の全体量に対して0.01重量%以上(例えば、0.01重量%〜30重量%、好ましくは0.05重量%〜10重量%、より好ましくは0.08重量%〜10重量%、さらに好ましくは0.1重量%〜7重量%、とりわけ好ましくは0.1重量%〜1重量%、例えば0.5重量%〜5重量%)となる量で、飲食品組成物に添加することを含む、飲食品組成物の製造方法も提供する。
飲食品組成物に用いる本発明に係るペプチドは、Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上(好ましくは4残基以上、より好ましくは5残基以上、さらに好ましくは配列番号1)の連続したアミノ酸配列を含む本発明に係るペプチドであり、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドも好ましい。
本発明に係る「飲食品組成物」は、任意の飲料、食品及び機能性食品並びにそれらの原料組成物を包含する。本発明に係る「飲食品組成物」は通常は生鮮食品を含まない。本発明の飲食品組成物は、DPP4阻害用又は血糖値降下用のものであってよい。血糖値降下用の本発明に係る飲食品組成物を、本明細書では血糖値降下飲食品組成物とも称する。
本発明における「飲食品組成物」の種類は、特に限定されない。例えば本発明に係るペプチドを含む飲料として、発酵乳(ヨーグルトなど)、乳酸菌飲料、乳飲料(コーヒー牛乳、フルーツ牛乳など)、お茶系飲料(緑茶、紅茶及びウーロン茶など)、果物・野菜系飲料(オレンジ、りんご、ぶどうなどの果汁や、トマト、ニンジンなどの野菜汁を含む飲料)、アルコール性飲料(ビール、発泡酒、ワインなど)、炭酸飲料及び清涼飲料等の飲料を例示することができる。本発明に係るペプチドを含む飲料の原料組成物として、そのような飲料を凍結乾燥等により乾燥させて粉末状にしたもの等も挙げられる。各種飲料の製造法等については、既存の参考書、例えば「最新・ソフトドリンクス」(2003)(株式会社光琳)等を参考にすることができる。
本発明に係るペプチドを含有する食品は、特に限定されず、菓子、チーズやヨーグルト等の乳製品、調味料等であってもよい。とりわけ好適な食品としては、発酵乳飲食品が挙げられる。本発明に係る発酵乳飲食品は、ヨーグルト、ヨーグルト含有食品、又はヨーグルト飲料であってよく、発酵乳の製造用のスターターであってもよい。
また、本発明に係るペプチドを含有する飲食品として、機能性食品も好ましい。本発明の「機能性食品」は、生体に対して一定の機能性を有する食品を意味し、例えば、特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)及び栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル及び液剤などの各種剤形のもの)及び美容食品(例えばダイエット食品)などのいわゆる健康食品全般を包含する。本発明の機能性食品はまた、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品を包含する。
本発明の機能性食品として好ましいより具体的な例には、病者用食品、妊産婦・授乳婦用粉乳、乳児用調製粉乳、高齢者用食品等の特別用途食品がある。本発明に係るペプチドは、低血糖等の副作用を低減しながら血糖値上昇を効果的に抑制することができるため、体力の弱い乳幼児、妊婦、授乳婦、高齢者等の高血糖症の軽減のための使用に特に好適である。
本発明の好適な機能性食品としては、乳幼児用サプリメント、妊産婦・授乳婦用サプリメント、高齢者用サプリメント及び病者用サプリメント等が挙げられる。また本発明に係るペプチドを含有する機能性食品の好ましい例として、保健機能食品が挙げられる。保健機能食品は、特定保健用食品(個別許可型)であっても、栄養機能食品(規格基準型)であってもよい。
本発明の機能性食品は、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤などの固形製剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤などの液体製剤、あるいはジェル剤などの製剤の形状であってもよいし、通常の飲食品の形状(例えば、発酵乳、飲料、粉状茶葉、菓子など)であってもよい。
本発明はまた、Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチド又は該ペプチドを含有するβ−ラクトグロブリン加水分解物、及び製剤補助剤からなる、DPP4阻害用又は血糖値降下用食品組成物も提供する。このようなDPP4阻害用又は血糖値降下用食品組成物は、好ましくは、上述のような機能性食品(例えば、保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル及び液剤、ドリンク剤などの各種剤形のもの)及び美容食品等)である。ここで用いる製剤補助剤は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤、溶媒などの医薬又は食品製剤の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤(製剤補助剤)である。製剤補助剤は有効成分の活性レベルに本質的に影響を及ぼさない不活性成分であることが好ましい。
本発明の飲食品組成物、例えば血糖値降下飲食品組成物は、カテゴリーや種類に制限はないが特に糖尿病患者用食品に適用することができる。したがって本発明の血糖値降下剤を含有する特定保健用食品等の特別用途食品や栄養機能食品、介護用食品として直接摂取することにより血糖値コントロール治療を簡便に行うことができる。また、菓子、乳酸菌飲料、チーズやヨーグルト等の乳製品、調味料等であっても良い。
飲食品の形状についても制限はなく、固形、液状、流動食状、ゼリー状、タブレット状、顆粒状、カプセル状など、通常流通し得るあらゆる飲食品形状をとることができる。上記飲食品の製造は、当業者の常法によって行うことができる、糖質、タンパク質、脂質、食物繊維、ビタミン類、生体必須微量金属(硫酸マンガン、硫酸亜鉛、塩化マグネシウム、炭酸カリウム等)、香料やその他の配合物を添加することもできる。
また本発明の飲食品組成物、例えば血糖値降下飲食品組成物は、具体的には、各種飲食品、飲食品組成物(例えば、牛乳、清涼飲料、発酵乳(ヨーグルト、ヨーグルト飲料)、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、幼児用粉乳等食品、授乳婦用粉乳等食品、栄養食品等)に本発明の血糖値降下剤を添加し、これを摂取してもよい。また、その性状についても、通常用いられる飲食品の状態、例えば、固体状(粉末、顆粒状その他)、ペースト状、液状ないし懸濁状のいずれでもよい。
その他の成分についても特に限定されないが、本発明に係るペプチドを本発明のDPP4阻害剤又は血糖値降下剤(有効成分)として飲食品組成物に含ませて用いる場合には、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を有効成分以外の主成分として使用することができる。タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼイン、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これら加水分解物;バター、乳清ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種乳由来成分などが挙げられる。糖質としては一般の糖類、加工澱粉(テキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレン、乳清ミネラルなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。これらの成分は、単独でも2種以上を組み合わせても使用することができ、合成品及び/又はこれらを多く含む食品を用いてもよい。
本発明のDPP4阻害剤又は血糖値降下剤は、その目的、用途(飲食品組成物、治療薬などの医療品組成物)に応じて組成物中の含有量を任意に定めることができる。本発明はこれに限定されないがその含量としては、全体量に対して本発明に係るペプチドの添加量が通常、0.01〜10wt%(重量%)、より好ましくは0.1〜1wt%となる量であり得る。
本発明はまた、本発明に係るDPP4阻害剤を被験体に投与することを含む、被験体においてDPP4活性を阻害する方法も提供する。被験体は、哺乳動物であることが好ましく、非ヒト哺乳動物であり得る。非ヒト哺乳動物は、例えば、チンパンジー等の非ヒト霊長類、マウス、ラット、モルモット等のげっ歯類の他、イヌ、ネコ、ウサギ等であってもよい。
本発明はまた、本発明に係るDPP4阻害剤又は血糖値降下剤を被験体に投与することを含む、血糖値を降下させる方法も提供する。投与を受ける被験体は、高血糖症であることが好ましい。被験体はまた、哺乳動物であることが好ましく、非ヒト哺乳動物であることがより好ましい。本発明に係るペプチドは、高血糖症の非ヒト哺乳動物を投与対象としたDPP4阻害剤又は血糖値降下剤に用いるのに好適である。
本発明において「高血糖症」とは、健康個体(対照)と比較して、被験体の空腹時の血中グルコース濃度が継続的に高い(過剰)状態を呈していることを意味する。例えばヒト成人の場合、正常な血糖値は80〜110mg/dl(4〜6mmol/L)であり、継続して126mg/dl(7mmol/L)以上の空腹時血糖値を示す患者は高血糖症と判断され得る。よって例えば、被験体が、健康個体(対照)と比較して14.5%以上高い血糖値を示す場合、当該被験体は高血糖症であると判断することができる。高血糖症は、糖尿病の他、脳卒中や心筋梗塞、さらに敗血症等の感染症及び/又は炎症の際にも発症する。高血糖状態が継続すると臓器が傷害されるため、迅速かつ効果的に血糖値を降下させることが求められる。したがって本発明において、高血糖症の被験体(好ましくは、高血糖症の非ヒト哺乳動物)は、II型糖尿病、脳卒中、心筋梗塞、又は敗血症等の感染症及び/若しくは炎症性疾患を有していてもよい。高血糖症の被験体は、典型的には、II型糖尿病患者でありうる。
本発明のDPP4阻害剤又は血糖値降下剤の摂取量及び投与量は、投与経路、ヒトを含む投与対象哺乳動物の年齢、体重、症状など、種々の要因を考慮して、適宜設定することができる。本発明はこれに限定されないが、成人一日あたり、当該血糖値降下剤を好ましくは1〜300mg/kg/day、より好ましくは100〜300mg/kg/dayの用量を摂取あるいは投与する。しかしながら、長期間に亘って予防及び/又は治療の目的で摂取する場合には、上記範囲よりも少量であってもよい。これにより、DPP4を阻害し、血糖値を効果的に下げることができる。
以下、本発明を例を挙げて説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、本明細書において%表示は明示しない場合には重量%を示す。
[実施例1]本発明のペプチド化合物の製造
原料となるβ−ラクトグロブリン(β−LG)としては、ウシβ−LGであるBioPUREβ−LG(JE−003−3−922、DAVISCO社製)を用いた。またトリプシンはウシ膵臓製WAP7991(和光純薬製、200−13953、CAS No. 9002-07-7)を用いた。
[β−LG分解物の調製]
まずBioPUREβ−LGを50mL容のファルコンチューブに1g量り入れた。ついで、0.1M Tris−HCl(pH8.0)緩衝液20mLを加え溶解した。これにトリプシン10mgを加え37℃で24時間インキュベートした。その後、外温約90℃で5分間加熱することで、トリプシンを失活させる。得られた溶液を凍結させ凍結乾燥を行った。
[β−LG分解物の分画]
得られたβ−LGトリプシン分解物(以下、β−LG分解物とも称する)の凍結乾燥物を溶解し、以下の条件で分画を行った。
Column:XBride BEH130 PREP C18 5μm 10×150mm(waters)
溶出液A:0.1%TFA
溶出液B:0.1%TFA,90%アセトニトリル
グラジエント:以下の表の条件で変化させた。
Figure 2011144167
16〜22分まで溶出した画分を分取後、減圧下濃縮し乾燥した。
得られた分取画分を以下の条件にて再度分画を行った。
Column:XBride BEH130 PREP C18 5μm 10×150mm(waters)
溶出液A:0.1%TFA
溶出液B:0.1%TFA,90%アセトニトリル
グラジエント:以下の表の条件で変化させた。
Figure 2011144167
16〜18.5分まで溶出した画分を分取後、減圧下濃縮し乾燥した。
得られた成分はLC/MSにて分子量を決定した。その結果、当該画分より得られた分析対象物の分子量は696.6であった。
β−LGのアミノ酸配列から分子量が696.6と同程度になるβ−LG由来ペプチド断片を予測したところ、上記画分中のペプチドの配列はVAGTWY(分子量695.79;アミノ酸一文字表記)と推定された。推定された配列を有するペプチドを合成し、先述の分画条件と同じ条件にて分析したところ、保持時間が上記で得た未知化合物と同一であることが判った。この結果と分子量とにより、β−LG分解物中の当該ペプチド化合物がVal−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyrのアミノ酸配列を有するペプチド化合物であることを確認した。
[実施例2]試験例(1)VAGTWY又はβ−LG分解物のDPP4阻害作用評価
実施例1で得られたVAGTWYまたはβ−LG分解物について、下記の方法でDPP4阻害作用の評価を行った。
本方法は、DPP4の反応基質であるGly−Pro−pNAにDPP4が作用すると、405nmでの吸光度を有するp−NAが遊離することに基づくものである。この酵素反応の系にDPP4阻害作用を有する物質を添加した場合、遊離するp−NA量の減少を405nmの吸光度の減少で検出することができるので、これをもってDPP4阻害作用を評価することができる。
[酵素阻害活性測定]
[1.試薬]
<酵素反応用の緩衝液>
・1M塩酸:塩酸(和光純薬製、特級、Lot.PKF5785)9mLに水を加えて100mLとした。
・0.1M Tris−HCl(pH8.0)緩衝液:トリスヒドロキシアミノメタン(FW121.12,和光純薬製、特級、Lot.CEF1897)を用いて0.1Mトリス溶液を調製し、1M塩酸でpH8.0とした。
<検量線作成用の標準品>
・1mM p−ニトロアニリン溶液:p−ニトロアニリン(FW138.12,和光純薬製、特級、Lot.ALG0092)1.38mgを0.1M Tris−HCl(pH8.0)緩衝液10mLで溶解した。
<DPP4の反応基質>
・1mM Gly−Pro−pNA溶液:Gly−Pro−pNA(FW328.75,シグマ社製)3.28mgを0.1M Tris−HCl(pH8.0)緩衝液10mLで溶解した。
<DPP4を含有する試薬>
・人血清:液状コントロール血清1ワコー(和光純薬製)を用いた。
<試料溶液>
・合成ペプチド(配列:VAGTWY):0.1M Tris−HCl(pH8.0)緩衝液中に溶解して調製した。
・β−LG分解物(実施例1で調製したもの):0.1M Tris−HCl(pH8.0)緩衝液中に溶解して調製した。
なお、試料溶液の調製において、合成ペプチドはVAGTWYの分子量(MW696)、β−LG分解物はβ−LGの分子量(MW18300)を用いてモル濃度を算出した。
[2.試験方法]
<p−NA検量線の作成>
1mM p−ニトロアニリン溶液10、20、30、40、50μLをウェルに入れ、0.1M Tris−HCl(pH8.0)にて全量を100μLとした。さらに1mM Gly−Pro−pNA溶液100μLを各ウェルに加えた。各ウェルについて、マイクロプレートリーダーにて405nmの吸光度を測定した。この値によりp−NAの検量線を作成した。
<DPP4酵素反応>
(1.試験液の調製:人血清中のDPP4活性測定用)
人血清50μLをウェルに入れ、0.1M Tris−HCl(pH8.0)緩衝液50μLを加えて全量を100μLとした。さらに1mM Gly−Pro−pNA溶液100μLを各ウェルに加えた。このウェルを阻害率0%の対照として用いた。また、1mM Gly−Pro−pNA溶液の代わりに0.1M Tris−HCl(pH8.0)100μLを加えたブランクを調製したウェルも設けた。
(2.試験液の調製:試料の酵素阻害試験用)
試料溶液50μL(濃度は任意に調整)をウェルに入れ、人血清50μLを各ウェルに加えて全量を100μLとした。さらに1mM Gly−Pro−pNA溶液100μLを各ウェルに加えた。このとき各ウェルの試料濃度は、合成ペプチド(配列:VAGTWY)は10、50、250、1250μM、β−LG分解物(実施例1で調製したもの)は11.12、55.6、278μMであった。
(3.酵素反応)
試料溶液に人血清とGly−Pro−pNA溶液を加えた後、37℃でこの試料を30分間インキュベートして酵素反応させた。
<遊離したp−NAの算出〜DPP4阻害活性の評価>
酵素反応後すみやかに、各ウェルについて405nmの吸光度を測定した。この測定値に基づき、p−NAについて上記のように作成した検量線を用いて、試験において遊離したp−NA量を算出した。得られたp−NA量からDPP4阻害活性を評価した。具体的には、人血清とGly−Pro−pNAのみで酵素反応させたウェルの値[A]、ブランクのウェルの吸光度[B]、人血清、Gly−Pro−pNAおよび試料で酵素反応させたウェルの値[C]を次式に当てはめてDPP4抑制率(%)を算出した。さらに、各試料の濃度とDPP4抑制率の関係から、各試料のIC50値を算出した。
Figure 2011144167
[結果]
得られた結果を図1にグラフとして示す。なお本試験に使用した試料には前記実施例1で得られたペプチドVAGTWYとβ−LG分解物とを用いた。また、グラフ中の印の黒三角はペプチドVAGTWY、黒四角はβ−LG分解物の結果を示す。
上記の方法によりin vitroでヒト型DPP4(ジペプチジルペプチダーゼ4)阻害作用を評価したところ、ペプチド及びβ−LG分解物のIC50値(酵素活性を50%阻害する濃度)がそれぞれ174μM、210μMであることが明らかになった(図1)。IC50値が近似した値であることから、β−LG分解物における効果発現はペプチドVAGTWYによるものと推察される。すなわち、β−LG分解物のDPP4(ジペプチジルペプチダーゼ4)阻害活性は、ほぼペプチドVAGTWYの阻害活性で担保できると考えられる。
以上より、Val−Ala−Gly−Thr−Trp−TyrのペプチドがDPP4(ジペプチジルペプチダーゼ4)阻害活性を有することが示された。このペプチドは、インスリン分泌を刺激するインクレチンのDPP4による分解を抑制し、血糖値降下作用を有すると考えられた。
[実施例3]試験例(2)
STZ糖尿病マウス(ストレプトゾトシン誘発糖尿病マウス)を用いてペプチドVAGTWYの血糖降下作用について調べた。
[STZ糖尿病マウスの作製]
6週齢の雄性ddy系マウスを1週間訓化飼育し、体重測定の後にストレプトゾトシン(Sigma社)を尾静脈より40mg/kgの用量で投与した。ストレプトゾトシン投与から2日後に、摂食時の血糖値を測定し、血糖値が150〜250mg/dlのマウスを選抜した。このようにして糖尿病の発症を確認できたマウス(全4群、各群10匹)を1晩絶食し、後述の試験に用いた。
[血糖降下試験]
前記STZ糖尿病マウスに、実施例1で得られたβ−LG分解物(ペプチド化合物VAGTWYを含む)100、300、1000mgを実施例2に記載の0.1M Tris−HCl(pH8.0)緩衝液に溶解し、投与容量10mL/kgで経口投与を行った。β−LG分解物を100、300、1000mg投与した群を、以降、それぞれ100mg/kg投与群、300mg/kg投与群、1,000mg/kg投与群とする。また、対照(Control)群には、前記0.1M Tris−HCl(pH8.0)緩衝液を10mL/kg投与した。β−LG分解物又は0.1M Tris−HCl(pH8.0)緩衝液(対照)を投与後すみやかに、スターチ2g/kgを10mL/kgの容量で経口投与した。スターチの投与後30分、60分、90分及び120分に採血を行い、各時点における血糖値を測定した。
[結果]
得られた結果を図2に示す。図2において、値は全て平均値±標準誤差で示した(n=10)。β−LG分解物(ペプチドVAGTWYを含む)1,000mg/kg投与群では、*印で示すように、対照群に比較して危険率5%で有意差が認められた。さらに300mg/kg投与群では、(*)印で示すように、対照群に比較して危険率10%で血糖値低下傾向が認められた。このように、本発明のペプチドVAGTWYを含むβ−LG分解物は有意に血糖値降下作用を示すことが示された。
[実施例4]試験例(3)
VAGTWY由来の部分ペプチド(3残基長:VAG、AGT、GTW、TWY、4残基長:VAGT、AGTW、GTWY)について、実施例2と同様の方法に従ってジペプチジルペプチダーゼ4阻害活性を評価した。
[被検物質]
それぞれのペプチド(VAG、AGT、GTW、TWY、VAGT、AGTW、GTWY)は、ベックス社への委託合成により入手した。ペプチドIPI(Ile−Pro−Ile、Sigma-Aldrich社)は、Pascal Rigoletらの報告(FEBS Journal, 272,pp.2050-2059(2005))に記載されたジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)阻害活性ペプチドであり、陽性対照として使用した。
[酵素阻害活性測定]
実施例2と同様の方法によりin vitroでヒト型ジペプチジルペプチダーゼ4阻害作用を評価した。
[結果]
結果を表3に示す。VAG及びVAGTのIC50値がそれぞれ1136μM、484μMであることが示された。他のペプチドではp−NA測定値が減少せず、IC50値の測定が不能であった(表3中、n.d.として表記した)。すなわち、N末端を有しない部分ペプチドはDPP4阻害活性を示さなかった。
Figure 2011144167
この結果、ペプチドVAGTWYのN末端を含むペプチド断片はジペプチジルペプチダーゼ4阻害作用を保持することが示された。また、ペプチドVAGTWYのN末端含有断片の中では、断片長が長くなるほど阻害活性が高いことが示された。
本発明に係るペプチドを用いれば、副作用が軽減されるDPP4阻害に基づく血糖値降下剤を、簡便に製造することができる。本発明による血糖値降下剤及び血糖値降下飲食品組成物はβ−ラクトグロブリンの分解物由来の化合物であるために安全性も高く、また高い血糖値降下作用を示すことから、その利用価値は高い。

Claims (15)

  1. Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチドを有効成分として含有する、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)阻害剤。
  2. 前記ペプチドが配列番号1のN末端から4残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチドである、請求項1に記載のDPP4阻害剤。
  3. 前記ペプチドが配列番号1のN末端から5残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチドである、請求項1又は2に記載のDPP4阻害剤。
  4. 前記ペプチドが配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のDPP4阻害剤。
  5. Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含有する、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)阻害剤。
  6. Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチドを含有するβ−ラクトグロブリン加水分解物を有効成分として含有する、DPP4阻害剤。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のDPP4阻害剤を含有する、血糖値降下剤。
  8. Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチド又は該ペプチドを含有するβ−ラクトグロブリン加水分解物を、前記ペプチドの含量が添加後の全体量に対して0.01重量%以上となる量で、飲食品組成物に添加することを含む、飲食品組成物の製造方法。
  9. 飲食品組成物が発酵乳飲食品である、請求項8に記載の方法。
  10. 飲食品組成物がDPP4阻害用又は血糖値降下用のものである、請求項8又は9に記載の方法。
  11. Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチド又は該ペプチドを含有するβ−ラクトグロブリン加水分解物を、前記ペプチドの含量が添加後の全体量に対して0.01重量%以上となる量で含む、食品組成物。
  12. 飲食品組成物が発酵乳飲食品である、請求項11に記載の食品組成物。
  13. Val−Ala−Gly−Thr−Trp−Tyr(配列番号1)のN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチド又は該ペプチドを含有するβ−ラクトグロブリン加水分解物、及び製剤補助剤からなる、DPP4阻害用又は血糖値降下用食品組成物。
  14. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のDPP4阻害剤を非ヒト哺乳動物に投与することを含む、DPP4活性を阻害する方法。
  15. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のDPP4阻害剤又は請求項7に記載の血糖値降下剤を高血糖症の非ヒト哺乳動物に投与することを含む、血糖値を降下させる方法。
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