JP2011142917A - 微小転移の検出方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】一定温度、1段階操作で、迅速に(例えば手術施行中に)腫瘍細胞由来のRNAを増幅、検出することを特徴とする腫瘍細胞の微小転移検出法を提供することを課題とする。
【解決手段】腫瘍細胞に由来するRNAを、特異的に増幅可能なオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせを利用し、これらのオリゴヌクレオチドプライマーの組合せからなるRNA増幅工程を、インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを用いて測定する検出法によって、前記課題を解決する。
【選択図】 図4

Description

本発明は、腫瘍細胞の微小転移の検出法、該方法でプライマー等として好適に使用されるポリヌクレオチド(CEA検出用)、そしてこれらポリヌクレオチドを含有する腫瘍細胞の微小転移の検出キットに関するものである。本発明の腫瘍細胞の微小転移の検出法は、一定温度下、1段階の操作で腫瘍細胞に由来するRNAを増幅し検出する方法であるため、迅速な検出ができ、例えば手術による腫瘍細胞の除去前に実施することが可能である。
癌細胞は原発巣部位から放出され、血流やリンパ液流を経由して広がり、遠方の臓器に微小転移を形成する。この微小転移によって原発巣の根治的切除が成功したにも関わらず再発する症例があることにより、原発巣のみならず周辺のリンパ節の切除(リンパ節郭清)が標準術式となっているが、リンパ節郭清で再発を防ぐことができたとしても後遺症(むくみ等)で生活レベルの低下を余儀なくされている患者が多いことも問題となっている。
そこで、再発を防ぎ、かつ、切除範囲をできるだけ縮小することが現代の腫瘍外科手術の目標となっているが、そのためには微小転移を正確に捕らえなくてはならない。ところが術前の画像診断による微小転移の検出では検出感度や特異性が十分といえないため、術中に被験者の組織等をサンプリングして代表切片を顕微鏡で調査する必要があった。
最近では癌特異的な遺伝子の発現に伴い生成されるmRNAをRT−PCR法で増幅し検出することで腫瘍細胞を検出する研究が盛んに行われている(非特許文献1から3)。
また、RNAをRNAとして増幅し検出する方法として、特許文献1から3のような方法が知られている。
Palmieri G.,Ascierto PA.ら、Journal of Clinical Oncology,19,1437−1443、2001年
Nogi H.,Takeyama H.,ら、Breast Cancer,10,74−81、2003年 特許第2650159号 Hampton R.,Walker M.ら、Oncogene,21,7817−7823、2002年 特許第3241717号 特開2000−14400号
非特許文献1から3に開示されたRT−PCR法では、反応液温度を急激に昇温し降温するという繰り返し操作が必要であり、またその操作の複雑さから熟練を要するうえ、逆転写とPCR法による増幅という、二段階以上の工程が必要となるという課題がある。この結果RT−PCR法では、検出結果を得るまでに長時間が必要(例えば逆転写反応は30から60分、PCR反応は30から60分を要することが一般的である)となることに加え、特にRT反応後PCR反応を開始する際に試料間のコンタミネーションが行いよう注意する必要がある。一段階の工程で実施可能なRT−PCR法も開発されており、該方法によれば時間の短縮化は可能であるものの、検出感度は10^3から10^5コピー程度と、なおも十分とは言えない。
更にRT−PCR法で感度を高めようとすると、増幅し検出する対象RNAごとに、例えば温度の昇降条件等の増幅条件を最適化する必要がある。しかしながら微小転移の検出においては、例えばCEA(癌胎児性抗原)、Cytokeratin20及びβ actin、又は、はMammaglobin A、SCC抗原(扁平上皮癌関連抗原、Squamous Cell Carcinoma Antigen)及びPBGD(Porphobilinogen Deaminase)等というように、複数の腫瘍遺伝子のm−RNAを同時に増幅し検出することが必要となる場合がある。このような場合に前記した最適化条件が異なってしまうと、実際のところ複数のm−RNAを同一の温度昇降装置で処理することが困難となって複数回の検出を行わざるを得なくなり、検出結果を得るまでにますます時間が必要となる。
RNAを逆転写してcDNAに変換した後、反応液を昇降温してDNAを増幅するいわゆるPCRを実施するRT−PCR法とは異なり、反応液の昇降温なしにRNAをRNAとして増幅し検出する方法が知られている(例えば特許文献1に記載されたNASBA法、特許文献2に記載されたTMA法、特許文献3に記載された増幅・検出法等)。これらの方法では、例えば、その転写によって特定配列のRNA転写産物を生成する、RNAポリメレースのプロモーター配列を含む2本鎖DNAを合成することを含む方法である。
より具体的には、例えば、任意のRNAに存在し、該RNAを他のRNAから区別し得る特定配列に対して、(1)その3’端に相補的なDNAプライマーとRNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)を用い、RNAを鋳型として特定配列と相補的なDNAを生成し、(2)この逆転写によって生じるRNA−DNA2本鎖に対して、リボヌクレアーゼH活性を有する酵素を作用させてRNAを分解し、1本鎖DNAを生成させ、(3)この1本鎖の3’端に相補的で、それ自身がその5’端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列を有するDNAプライマーとDNA依存性DNAポリメラーゼを用い、前記したプロモーター配列を含む2本鎖DNAを合成し、(4)この2本鎖DNAにRNAポリメラーゼを作用させて転写産物(特定配列のRNA)を生成するのである。RNA転写産物は特定配列のRNAであるため、前記(1)の反応における鋳型となり、前記(1)反応で用いるDNAプライマーと結合し、(2)以降の反応が進行してRNA増幅の連鎖反応が引き起こされる。
これら方法の特徴は、PCRのように反応液を昇降温する必要がなく、またRNAの逆転写とその後の連鎖的増幅反応を分けて実施することがない、とう点にある。
そこで本発明の目的は、被験者における腫瘍細胞の原発巣部位以外から得られた試料に対し、これらのような方法を適用して腫瘍細胞由来のRNAを増幅・検出することにより、結果的に腫瘍細胞の微小転移を一定温度、1段階操作で、迅速に(例えば手術施行中に)検出可能な方法を提供することにある。
前記の目的を達成するためになされた本願請求項1の発明は、被験者における腫瘍細胞の原発巣部位以外から得られた試料に対して、腫瘍細胞由来のRNAに存在する特定配列について、特定配列の一部と相補的な配列を有する第1のプライマー及び特定配列の一部と相同的な配列を有する第2のプライマー(ここで第1又は第2のプライマーのいずれか一方はその5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されたプライマーである)を用いて、(1)RNAを鋳型とするRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による特定配列に相補的なcDNAの合成、(2)リボヌクレアーゼH活性を有する酵素によるRNA−DNA2本鎖のRNAの分解(1本鎖DNAの生成)、(3)1本鎖DNAを鋳型とするDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による特定配列又は特定配列に相補的な配列とRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAの生成、及び、(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による該2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物の生成(このRNA転写産物は、前記(1)の反応における鋳型となる)を行うことにより前記m−RNAを検出する、腫瘍細胞の微小転移の検出法である。
本願請求項2の発明は、前記請求項1の発明に係り、腫瘍細胞のRNAが癌胎児性抗原(CEA)であることを特徴とする。
本願請求項3の発明は、前記請求項3の方法でプライマー等として好適に使用される、配列番号1〜22に示される塩基配列又はその相補鎖中の、少なくとも10の連続するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである。
そして本願請求項4の発明は、請求項3に記載のポリヌクレオチドを含有する腫瘍細胞の微小転移の検出キットである。以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、RNAをRNAとして増幅する方法を採用することにより、腫瘍細胞の微小転移を一定温度、1段階操作で、迅速に(例えば手術施行中に)検出可能である。特に、転写産物に対して特異的に結合可能な、インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブ(特許第3189000号公報参照)を反応液に共存させておけば、特定配列又はそれに相補的な配列の増幅と同時にその増幅の様子を検出(モニタリング)することもできる。モニタリングに用いるプローブは、特定配列又はそれに相補的な配列と特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドに、該ヌクレオチドが転写産物と相補結合すると結合していない状態と比較して蛍光特性が変化するインターカレーター性蛍光色素を結合したものであり、本発明を実施するにおいて前記モニタリングは最も好適な形態である。なお、オリゴヌクレオチドへのインタカレーター性蛍光色素の標識方法は特に限定はないが、リン原子からリンカーを介して結合する方法が望ましい。結合方法としては先ず、オリゴヌクレオチドの鎖内または末端にアミノ基等の官能基を導入し、インタカレーター性蛍光色素にも必要であればオリゴヌクレオチドへ導入した官能基と反応又は結合可能な官能基を導入し、双方の官能基同士を結合させることが例示できる。より詳細には、特願2000−154431号又はIshiguro,T(1996)Nucleic Acids Res.24(24)4992−4997に記載されている(本明細書の図2A参照)。更に、オリゴヌクレオチド鎖内あるいは末端への官能基の導入方法も特に限定はないが、Label−ON Reagents(Clontech社製)等を例示することができる(図2B)。
本発明は、一定温度で実施することができるが、その温度は35℃から50℃(好ましくは44℃)と比較的低温である。本発明は、腫瘍細胞の微小転移を、被験者における腫瘍細胞の原発巣部位以外から得られた試料に対して実施することによって検出するものである。本発明によってその微小転移を検出し得る腫瘍細胞は、特異的なRNAを転写している腫瘍細胞、又は、特異的ではないものの、正常細胞とは異なる転写量で任意のRNAを発言しているものであれば特に制限はない。
本発明において、腫瘍細胞の微小転移検出のために直接的な増幅・検出対象とされるRNAは、例えば、src、erbB、sis、ras、myc又はfos等の癌遺伝子から転写されるm−RNA、BCR−ABL、PML−RARA、DEK−CAN又はE2A−PBX等から転写されるm−RNA、そして癌胎児性タンパク質として知られるCEA(carcinoembryonic antigen)、AFP(alpha fetoprotein)、POA(pancratic oncofetal antigen)、NSE(neuro specific enolase)、SCC(squamous cell carcinoma antigen)、PSA(prostate specific antigen)、BFP(basic fetoprotein)、γSm(γ−seminoprotein)、SP1(β1−glycoprotein)、CAF(carcino embryonic fibronectin)、cytokeratin 19、cytokeratin 20、mammaglobin、α macroglobin等をコードする遺伝子から転写されるm−RNA、癌性異所産生物質であるElastase−1、ALP(alkalin phosphatase)、PAP(prostate acid phosphatase)、ICDH(isocitric acid dehydrogenase)等の癌性アイソザイム等をコードする遺伝子から転写されるm−RNA、ADH(antidiuretic hormone)、ACTH(adorenocorticotropic hormone)、CRF(corticotropin−releasing factor)、FSH(follicle−stimulating hormone)、PRL(prolactin)、PTH(parathyroid hormone)、βHCG(β human chorionic gonadotropin)、PTHrP(parathyroid hormone related peptide)又はcalcitonin等のホルモン等をコードする遺伝子から転写されるm−RNA、そしてIAP(immunosupressive acid protein)、PIVKA II(protein induced by Vitamin K absence or antagonist)、TPA(tissue polypeptide antigen)、SHBG(sex hormone binding globulin)等の癌性異常タンパク質(ポリペプチド)等をコードする遺伝子から転写されるm−RNAを例示することができる。中でもCEAに関するRNAは、正常細胞ではほとんど転写されていない、腫瘍細胞に特異的なRNAであり、増幅・検出対象として特に好適である。
本発明の実施に当たっては、まずどのRNAを検出対象とするかを決定し、次にそのRNA中に存在する特定配列を決定し、そして決定された特定配列に基づいて本発明の実施に使用する第1及び第2プライマー等の配列をデザインすることになる。例えば配列番号1〜22に示される塩基配列又はその相補鎖中の、少なくとも10の連続するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドは、実施例において述べるように、CEAをコードする遺伝子から転写されるm−RNAの検出プライマー等として特に好適な配列の一例を示したものである。
腫瘍細胞の原発巣部とは、最初に腫瘍が発生した部位を意味する。本発明では、前記腫瘍細胞の原発巣部以外から得られた試料を使用する。ここで試料とは、RNAを含む核酸試料を意味する。本発明では、例えば被験者における腫瘍細胞の原発巣部位以外から得られた組織等を材料として、例えば特開平7−59572号等に記載された方法に基づいて調製した試料を使用し、前記例示したようなRNAを直接的な増幅・検出対象とすることで、当該試料の由来元である組織等に腫瘍細胞が微小転移しているか否かを検出するのである。
以下に本願発明を更に具体的に説明する。試料中に、増幅・検出対象とした腫瘍細胞由来のRNAが存在した場合には、(1)該RNA中に存在する特定配列を鋳型として、第1のプライマー(特定配列の3’末端領域に相補的配列)が相補結合し、RNA依存性DNAポリラーゼによる伸長反応からcDNAを生成することによりRNA−DNAからなる2本鎖を形成し、(2)次いでリボヌクレアーゼH活性を有する酵素によりRNA−DNA2本鎖のRNAが分解されて1本鎖DNAを生成する。その後、(3)該1本鎖DNAに対し第2のプライマー(標的RNAの5’末端領域に相同的配列で、その5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されている)が相補結合し、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記標的RNA配列と相同的な配列からなるRNAを転写可能なプロモーターを有する2本鎖DNAを生成する。そして、(4)該2本鎖DNAがRNAポリメラーゼ活性を有する酵素存在下で前記特定配列と相同的な配列からなるRNA転写産物が生成されるが、このRNA転写産物は特定配列からなるRNAであるため(1)の反応における鋳型となり、結果として上記(1)から(4)の反応はRNAやDNAを生成する際の酵素基質が使い尽くされるか、又は、上記の各種酵素が失活するまで連鎖的に生じることになる。
上記例は第2プライマーとしてその5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されたものを用いる例(以下第1形態という)である。本発明では、第1プライマーの5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーター配列を付加して使用しても良い(以下第2形態という)。第1形態で本発明を実施する場合には、特定配列の増幅効率を高めてその検出感度を向上させるために、前記(1)の反応に先立って、特定配列を含むRNAを特定配列の5’末端で切断しておく必要がある(例えば特許文献3参照)。
RNAを切断する方法としては、例えば、特定配列の5’末端に重複して隣接する領域に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチド(切断用オリゴヌクレオチド)を共存させ、後の反応でも使用されるリボヌクレアーゼH活性を有する酵素を作用させて切断する方法を例示することができる。ここで、切断用オリゴヌクレオチドの3’末端は、このオリゴヌクレオチドがプライマーとして機能しないよう、例えばアミノ化等の処理を施しておくことが好ましい。
腫瘍細胞の微小転移を検出するためには、上記のようにして増幅された特定配列の存在を検出してその存否を確認し、又は、増幅された特定配列の量(RNAコピー数)から試料中に存在した特定配列量(対象となったRNAコピー数)を推定する必要がある。特定配列の検出は、例えば一定時間上記反応を行った反応液に対して、特定配列に対して相補的に結合し得る固定化及び標識化プローブを用いるサンドイッチアッセイ法を適用することもできるが、前述したように、特定配列に特異的に結合する、インタカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを使用することが好ましい。またこのプローブは前記(1)から(4)の反応を阻害しないため、その存在下で上記特定配列の増幅を実施して、特定配列の増幅の様子をモニタリングすることが特に好ましい。なお、インタカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブ共存下で特定配列の増幅を行う場合には、そのプローブ部分が伸長反応のプライマーとして機能しないように、例えばその3’末端にグリコール酸やビオチンを付加する等しておくことが好ましい。そして増幅反応中にこのインタカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブが特定配列と結合して発する蛍光信号を蛍光検出機によって測定し、そのプロファイルから得られる情報(例えば蛍光色素が発する蛍光の強度が一定の強度に達するまでに要した増幅反応時間等)を既知量の標準RNAに関するプロファイルから得られる情報と比較することにより、その存否を確認し、又は、増幅された特定配列の量(RNAコピー数)から試料中に存在した特定配列量(対象となったRNAコピー数)を推定することができる。
以上に記載した本発明の方法は、予め検出キットを用意しておくことにより、極めて簡単に実施することが可能である。検出キットは、好ましくは、第1及び第2のプライマー、(第1形態で本発明を実施するのであれば)切断用プライマー、インタカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブ、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、リボヌクレアーゼH活性を有する酵素、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、RNAポリメラーゼ活性を有する酵素、これら酵素の基質等の、特定配列を増幅し検出するために必要な全ての試薬を含むものであるが、これら全ての試薬を単一の容器に封入可能な点は特筆すべきである。即ち、一定量の試料をかかる単一容器に分注するという操作さえ実施すれば、その後は自動的に腫瘍細胞由来のRNAを増幅し検出することができる。この容器は、例えば蛍光色素が発する信号を外部から測定可能なように、少なくともその一部分が透明な材料で構成されてさえいれば良く、試料を分注した後に密閉することが可能なものはコンタミネーションの防止のうえで特に好ましい。
以上の説明のように、本発明によれば、比較的低温かつ一定温度(35℃〜50℃、好ましくは44℃)条件下で、増幅反応から検出までを1段階の操作で、短時間に、腫瘍細胞由来のRNAを増幅、検出することができる。したがって、手術施行中に腫瘍細胞の微小転移を検出することに応用可能である。
本発明では、試料中の標的RNA(腫瘍細胞由来のRNA)をもとにして、DNA依存性RNAポリメレースのプロモーター領域を末端にもつ2本鎖DNAが合成され、これが多量の1本鎖RNAの合成源になり、さらに合成された1本鎖RNA量は飛躍的に増大し、インターカレーター性蛍光色素で標識されたプローブが、生成した1本鎖RNAと相補結合することによる蛍光増加を測定する工程において、蛍光強度が増加する過程を解析することにより、簡便かつ、短時間に初期RNA量を決定することが可能である。
また、一定温度であるために,複数の標的RNA(腫瘍細胞由来のRNA)の増幅、検出を同時に、1つの装置で実施できる。
そして、上記の結果、本発明によれば、一段階操作で、腫瘍細胞に由来するRNAを検出するためのオリゴヌクレオチドの組合せを提供すること、すなわち腫瘍細胞由来RNAの増幅用のオリゴヌクレオチドプライマー、及び検出用のオリゴヌクレオチドプローブの組合わせを提供することで、それを利用した簡便、迅速かつ高感度な腫瘍細胞の検出方法ならびに検出キットを医療分野に提供することが可能となる。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
実施例1
本願発明によるオリゴヌクレオチドプライマーの組合わせを用いて,癌胎児性抗原(carcino embryonic antigen;CEA)RNAの特異的増幅を行った。なおCEA RNAとは、CEAの塩基配列(National Center Biotechnology Informationのaccession No.: M29540)を含む2本鎖DNAを鋳型としたインビトロ転写により合成、精製されたRNAである。そして本実施例における特定配列は、後述する表1における転写産物を意味するものである。
(1)CEA RNA(2109mer)を試料とし、260nmの紫外部吸収により定量後、RNA希釈液(10mM Tris−HCl(pH8.0)、0.1mM EDTA、0.5U/μl RNase Inhibitor、5.0mM DTT)を用い1.0×10^4コピー/5μlとなるよう希釈した。コントロール試験区(nega)には希釈液のみを用いた。
(2)以下の組成の反応液20.8μlを0.5ml容PCR用チューブ(Gene Amp Thin−Walled Reaction Tubes、パーキンエルマー製)に分注し、これに上記CEA RNA試料5.0μlを添加した。
反応液の組成(濃度は酵素溶液添加後の反応系の最終濃度)
60.0mM Tris−塩酸緩衝液(pH8.6)
17.0mM 塩化マグネシウム
100.0mM 塩化カリウム
1.0mM DTT
6U RNase Inhibitor(タカラバイオ(株)製)
各0.25mM dATP,dCTP,dGTP,dTTP
各3.0mM ATP、CTP、UTP
2.25mM GTP
3.6mM ITP
各1.0μMの第1のオリゴヌクレオチドプライマーと第2のオリゴヌクレオチドプライマー(配列及び使用したプライマーの組合せは表1の通り)。なお、第2オリゴヌクレオチドプライマーの塩基配列の5’末端には配列番号23(T7ポリメレースのプロモータ配列)を付加して使用した。
0.16μMの切断用オリゴヌクレオチドプライマー(標的RNAを第2のプライマーが結合し得る位置で切断するためのオリゴヌクレオチド。3’末端はアミノ化されている。表1参照)。
13.0% DMSO
容量調製用蒸留水
Figure 2011142917
(3)上記の反応液を、44℃で5分間保温後、以下の組成の予め44℃で2分間保温した酵素液5.0μlを添加した。
酵素液の組成(反応時の再終濃度)
2.0% ソルビトール
8ユニット AMV逆転写酵素 (タカラバイオ(株)製)
142ユニット T7 RNAポリメレース (GIBCO製)
3.6μg 牛血清アルブミン
容量調製用蒸留水
(4)引き続きPCRチューブを44℃に30分間保温した後、特定の増幅産物を3%アガロースゲルを用いた電気泳動により分析した。
(5)電気泳動後の染色にはSYBR Green II(宝酒造製)を用いた。
電気泳動結果を図1に示した。いずれの組み合わせでも、特異的なRNA増幅産物、即ち増幅された特定配列(図1の括弧部分)が得られた。このことから、これらのオリゴヌクレオチドプライマーの組合せは、CEAに由来するRNAの増幅に有用であることが示された。
実施例2
インタカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを作製した。
配列番号19に記載の配列中の5’末端から5番目の塩基(G)と6番目の塩基(A)の間に、Label−ON Reagents(Clontech社製)を用いて炭素数15のリンカーを介してアミノ基を修飾結合した、20merのオリゴヌクレオチドを調製した。さらにその3’末端をビオチンで修飾した。これに、インターカレーター性蛍光色素として公知の色素であるオキサゾールイエローを標識し、オキサゾールイエロー標識オリゴヌクレオチドプローブ(配列番号19)を調製した(図2B、Ishiguro,T(1996)Nucleic Acids Res.24(24)4992−4997参照)。
実施例3
本願発明によるオリゴヌクレオチドプライマーの組合わせを用いて、CEA RNAの様々な初期コピー数における検出を行った。
(1)CEA RNA(2109mer)を試料とし、260nmの紫外部吸収により定量後、RNA希釈液(10mM Tris−HCl(pH8.0)、0.1mM EDTA、0.5U/μl RNase Inhibitor、5.0mM DTT)を用い1.0×10^7〜10^2コピー/5μlとなるよう希釈した。コントロール試験区(nega)には希釈液のみを用いた。
(2)以下の組成の反応液20.0μlを0.5ml容PCR用チューブ(Gene Amp Thin−Walled Reaction Tubes、パーキンエルマー製)に分注し、これに上記RNA試料5μlを添加した。
反応液の組成(濃度は酵素溶液添加後の反応系の最終濃度)
60.0mM Tris−塩酸緩衝液(pH8.6)
17.0mM 塩化マグネシウム
100.0mM 塩化カリウム
1.0mM DTT
各0.25mM dATP,dCTP,dGTP,dTTP
各3.0mM ATP、CTP、UTP
2.25mM GTP
3.6mM ITP
各1.0μMの第1のオリゴヌクレオチドプライマー(配列番号20)と第2のオリゴヌクレオチドプライマー(配列番号12)。なお、第2オリゴヌクレオチドプライマーの塩基配列の5’末端には配列番号23(T7ポリメレースのプロモータ配列)を付加して使用した。
0.16μMの切断用オリゴヌクレオチドプライマー(配列番号18;CEA RNAを第2のプライマーが結合し得る位置で切断するためのオリゴヌクレオチド。3’末端はアミノ化)
6U リボヌクレエース インヒビター(タカラバイオ社製)
13.0% DMSO
容量調製用蒸留水
15.0nMのインターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブ(実施例2で調製したもの)。
(3)上記の反応液を、44℃で5分間保温後、以下の組成で、かつ、予め44℃で2分間保温した酵素液5.0μlを添加した。
酵素液の組成(反応時の再終濃度)
2.0% ソルビトール
8ユニット AMV逆転写酵素 (タカラバイオ(株)製)
142ユニット T7 RNAポリメレース (GIBCO製)
3.6μg 牛血清アルブミン
容量調製用蒸留水
(4)引き続きPCRチューブを直接測定可能な温調機能付き蛍光分光光度計を用い、44℃保温して、励起波長470nm、蛍光波長510nmで、反応溶液の蛍光強度を経時的に測定した。
酵素添加時の時刻を0分として、サンプルの蛍光強度比(所定時刻の蛍光強度値÷バックグランドの蛍光強度値)の経時変化を図3に示した。RNAサンプル濃度は10^7コピー/30μlから10^2コピー/30μlである。図3より、CEA RNAの初期濃度に依存した蛍光プロファイルが得られ、未知試料中に存在するCEAに由来するRNA量を検出することが可能であることが示唆された。
実施例4
本願発明によるオリゴヌクレオチドプライマーの組合わせを用いて,実際の低分化型胃癌細胞株MKN45が発現するCEAを測定した。
(1)サンプル採取。
低分化型胃癌細胞株MKN45をそれぞれRPMI1640培地(10%FCS含有)で培養後、トリプシン処理によって細胞をディッシュから剥離、回収した。遠心分離により培地を除き、リン酸緩衝化生理食塩水で洗浄した後、細胞ペレットを0.5mL TRIZOL試薬(インビトロジェン社製)に溶解した。
また、社内の健康ドナーボランティア採血より、モノ・ポリ分離溶液(大日本製薬社製)で正常白血球を分離し、0.5mL TRIZOL試薬に溶解した。
(2)RNA抽出。
10個のMKN45と正常白血球をそれぞれ1.5mLのエッペンドルフチューブに入れ(0.5mL TRIZOL試薬に溶解している)、使い捨て可能なホモジナイザー(家田社製)にて細かく裁断した。さらに0.5mL TRIZOL試薬を加え、ボルテックスミキサーで攪拌した。室温に5分間静置した後、0.2mLのクロロホルムを加え、15秒間ボルテックスミキサーで攪拌した。室温に3分間静置後、4℃、15分間、12000xGで遠心した。上清を新たなエッペンドルフチューブに移し、0.5mLプロパノールを加え、転倒混和した。室温10分静置後、4℃、15分間、12000xGで遠心した。上清を除去し、ペレットに1mLの75%エタノール水溶液を加え、4℃、5分間、7500xGで遠心した。上清を取り除き、ペレットを1時間、風乾した。その後、ペレットをRNA希釈液(10mM Tris−HCl (pH8.0)、0.1mM EDTA、0.5U/μl RNase Inhibitor、5.0mM DTT)に溶解後、260nmの吸光度測定値から濃度を算出した。MKN45 10個からは10.7μgのRNAが抽出され、正常白血球10^6個からは12.2μgのRNAが抽出された。
(3)MKN45抽出物の測定。
試薬組成は実施例3と同様で実施した。サンプルは、MKN45抽出物100ng/5μLをMKN45 10^4個相当とし、さらにこれを正常白血球抽出物120ng/5μL(10^4個相当)で10倍づつ希釈して、MKN45の10^3個相当,10^2個相当、10^1個相当とした。negaには正常白血球抽出物120ng/5μL(10^4個相当)を用いた。CEA RNAは、10^3コピー/5μlと10^7コピー/5μlを測定した。
測定データを図4に示した。10^4の正常白血球中のMKN45は10^1個まで検出できた。正常白血球抽出物(nega)は検出しなかった。得られた結果から、本発明は正常組織中の微小な癌細胞を検出しうることを証明した。
実施例5
本願発明による、別のオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせを用いて、CEA RNAの様々な初期コピー数における検出を実施例3と同様に行った。ただし、第1のオリゴヌクレオチドプライマーは配列番号20、第2のオリゴヌクレオチドプライマーは配列番号22を使用した。なお、第2のオリゴヌクレオチドプライマーの塩基配列の5‘末端には配列番号23(T7ポリメレースのプロモータ配列を)付加して使用した。切断用オリゴヌクレオチドプライマーは配列番号21を使用した。
酵素添加時の時刻を0分として、サンプルの蛍光強度比(所定時刻の蛍光強度値÷バックグランドの蛍光強度値)の経時変化を図5に示した。RNAサンプル濃度は10^7コピー/30μlから10^2コピー/30μlである。図5より、CEA RNAの初期濃度に依存した蛍光プロファイルが得られ、未知試料中に存在するCEAに由来するRNA量を検出することが可能であることが示唆された。
また、実施例3の結果よりも、各初期コピー数の検出時間が早くなり、プライマーの組み合わせとして、この組み合わせが特に好適であることが示された。
実施例1で行った初期RNA量10^4コピー/30μlにおいて、RNA増幅反応を様々なプライマーの組み合わせにより行った結果である。negaとはRNA試料の代わりに希釈液のみを用いたサンプルのことである。レーンMが分子量マーカー(φX174/HaeIII digest(Marker 4,ニッポンジーン(株)製))、レーン1が組合せ1のnega、レーン2が組合せ1の10^4コピー、レーン3が組合せ2のnega、レーン4が組合せ2の10^4コピー、レーン5が組合せ3のnega、レーン6が組合せ3の10^4コピー、レーン7が組合せ4のnega、レーン8が組合せ4の10^4コピー、レーン9が組合せ5のnega、レーン10が組合せ5の10^4コピー、レーン11が組合せ6のnega、レーン12が組合せ6の10^4コピー、レーン13が組合せ7のnega、レーン14が組合せ7の10^4コピーである。なお、図中に、各オリゴヌクレオチドの組み合わせを用いたときの特異的増幅バンドを括弧で示した。 実施例2〜4で用いたインターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドの、インターカレーター性蛍光色素(この実施例ではオキサゾールイエロー)との結合部分の化学構造である。B^1、B^2、B^3、B^4は核酸塩基を示す。特願2000−154431またはIshiguro,T(1996)Nucleic Acids Res.24(24)4992−4997に記載の方法で作製した場合(図2A)と、Label−ON Reagents(Clontech社製)を用いてヌクレオチド鎖内に官能基を導入して作製した場合(図2B)である。 実施例3で行った初期RNA量10^7コピー/30μlから10^2コピー/30μlにおいて、反応時間とRNAの生成とともに増大する蛍光増加率のグラフである。negaはRNA試料の代わりに希釈液のみを用いた。 実施例3と同様の試薬組成でMKN45抽出物を測定したときのグラフである。negaとはRNA試料の代わりに希釈液のみを用いたサンプルのことである。10^4はMKN45 10^4個相当の抽出物である。10^3は正常白血球10^4個中のMKN45 10^3個相当の抽出物である。10^2は正常白血球10^4個中のMKN45 10^2個相当の抽出物である。 10^1は正常白血球10^4個中のMKN45 10^1個相当の抽出物である。negaは正常白血球10^4個相当の抽出物である。cal10^7はCEA RNA10^7コピー/5μL、cal10^3はCEA RNA10^3コピー/5μLである。 実施例5で行った初期RNA量10^7コピー/30μlから10^2コピー/30μlにおいて、反応時間とRNAの生成とともに増大する蛍光増加率のグラフである。negaはRNA試料の代わりに希釈液のみを用いた。

Claims (1)

  1. 被験者における腫瘍細胞の原発巣部位以外から得られた試料に対して、癌胎児性抗原(CEA)由来のm−RNAに存在する特定配列について、配列番号20に記載した第1のプライマー、配列番号22に記載した第2のプライマー(第2のプライマーの5’末端にはRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されている)及び配列番号21に記載した切断用プライマーを用いて、(1)特定配列の5’末端側でのRNAの切断、(2)RNAを鋳型とするRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による特定配列に相補的なcDNAの合成、(3)リボヌクレアーゼH活性を有する酵素によるRNA−DNA2本鎖のRNAの分解(1本鎖DNAの生成)、(4)1本鎖DNAを鋳型とするDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による特定配列又は特定配列に相補的な配列とRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAの生成、及び、(5)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物の生成であって、このRNA転写産物は、前記(2)の反応における鋳型となるを行うことにより前記m−RNAを検出する、腫瘍細胞の微小転移の検出法。
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