JP2011137214A - 差動歯車およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】低〜中サイクル域における疲労強度を大幅に向上させた差動歯車の提供。
【解決手段】生地の鋼が、C:0.35〜0.45%、Si≦0.10%、Mn:0.50〜1.0%、P≦0.015%、S≦0.030%、Cr:0.05〜0.15%、Mo:0.15〜0.25%、Al:0.01〜0.05%、N≦0.010%、O≦0.0020%、B:0.0010〜0.0030%及びTi:0.010〜0.045%を含み、残部はFeと不純物からなる化学組成を有する鋼であり、かつ、硬化層深さ:0.80〜1.50mm、硬化層の旧オーステナイト平均粒径≦12μm、歯元部の表面から50μm位置での残留応力≦−700MPa、〔(表層部のビッカース硬さ)−(芯部のビッカース硬さ)〕で表されるΔHVの値:10〜40を満たす差動歯車。さらに表層部の全脱炭層深さ≦0.015mm、表層部のC量:0.35〜0.50%を満たしてもよい。
【選択図】図2

Description

本発明は、差動歯車およびその製造方法に関する。詳しくは、いわゆる「低〜中サイクル域」における曲げ疲労強度、すなわち、「塑性変形を与えるように繰返しの衝撃的な負荷をかけた場合に、103〜104サイクル程度以下の繰返し数で曲げ疲労破壊が発生する強度」が、従来の浸炭焼入れ処理された差動歯車よりも高い差動歯車およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、熱間鍛造および調質処理時の脱炭を防止し、かつ調質処理後、輪郭高周波焼入れを施す2段焼入れ工程を行うことで、従来よりも「低〜中サイクル域」での曲げ疲労強度を向上させることが可能な高周波焼入れ差動歯車およびその製造方法に関する。
自動車の駆動部品である差動歯車は、JISに規格化されているSCr420、SCM420などの機械構造用合金鋼(鋼材)を素材とし、熱間鍛造により所定形状に成形した後、歯元部での曲げ疲労強度を確保するために、表面硬化処理を施して製造されており、上記の差動歯車に対する表面硬化処理としては、一般に、非特許文献1に示されるような「浸炭焼入れ処理」が用いられてきた。
一方、近年では、自動車の燃費向上あるいは排ガス低減など、環境への対応という観点から、自動車用部品の軽量化に対する要求がさらに高まり、差動歯車に対して曲げ疲労強度の一層の向上が望まれている。
しかしながら、差動歯車の歯元部での曲げ疲労強度を確保するために、上述の「浸炭焼入れ処理」、なかでも「ガス浸炭焼入れ処理」を施した場合には、
〔1〕「粒界酸化層」の形成、
〔2〕高炭素マルテンサイト組織に起因した表面の硬化層の脆化、
を回避することが困難であるため、上記の要望に対して十分には応えることができていない。
そこで、非特許文献1に「浸炭焼入れ処理」を前提とした材料の検討がなされているが、こうした材料の変更のみでは、上述した〔1〕および〔2〕の問題を同時に回避することが困難であり、やはり、衝撃的な負荷が加わる差動歯車の歯元部曲げ疲労強度を向上するには十分とはいえないものであった。
こうした背景から、差動歯車の歯元部にかかる衝撃的な負荷に対する疲労強度、すなわち「低〜中サイクル域」での曲げ疲労強度を向上させるために、上述した「浸炭焼入れ処理」に代わる表面硬化処理方法として「高周波焼入れ処理」を用いた技術が提案されている。
具体的には、非特許文献2に、中炭素鋼であるS45Cを素材とし、「焼入れ−焼戻し」のいわゆる「調質処理」を行った後でさらに高周波焼入れによる輪郭焼入れを行う「繰り返し焼入れ処理」を施した歯車の曲げ疲労強度が、SCM420を素材として従来の浸炭焼入れ処理を行った歯車の曲げ疲労強度より高くなることが開示されている。
松島ら:R&D神戸製鋼技報、Vol.50、No.1(2000)、P.57−60 堀川ら:社団法人日本材料学会・学術講演会講演論文集、Vol.46、(1997)、pp.281−282
前述の非特許文献2には、調質処理後に高周波焼入れによる輪郭焼入れを行ったS45Cの歯車が、従来の浸炭焼入れしたSCM420の歯車よりも高い曲げ疲労強度を有することが開示されているが、高周波焼入れは、高周波による誘導加熱処理によって急速かつ短時間加熱を行った後、冷却媒体を用いて焼入れ処理する技術である。したがって、高周波焼入れによる輪郭焼入れを行うと、その加熱速度や鋼成分によっては変態点が変わるため、不完全焼入れ組織が生じる場合のあることが考えられる。なお、マルテンサイト組織よりも軟質な不完全焼入れ組織が存在する場合には、その不完全焼入れ組織が応力集中限となって、疲労破壊が生じることを避けられないことがある。このため、非特許文献2で提案された技術は、必ずしも「低〜中サイクル域」における曲げ疲労強度の向上効果が得られるというものではない。
さらに、前記の非特許文献2には旧オーステナイト結晶粒径の影響が開示されていないので、曲げ疲労強度の向上に対して、旧オーステナイト結晶粒径の微細化がどの程度寄与するのかも不明であった。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、「低〜中サイクル域」における曲げ疲労強度を大幅に向上させた差動歯車とその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、「低〜中サイクル域」における差動歯車の曲げ疲労特性を向上させるために、種々の調査・検討を行った。
その結果先ず、機械構造用合金鋼SCM440を素材として調質処理を行い、その後さらに、硬化層の旧オーステナイト結晶粒径が微細になるように高周波焼入れして「繰り返し焼入れ処理」を行い、さらに上記の高周波焼入れを行う場合に、不完全焼入れ組織の生成を抑制することができれば「低〜中サイクル域」における曲げ疲労強度が向上することが確認できた。
次に本発明者らは、高周波焼入れ性を高めて不完全焼入れ組織の形成を抑制するために、材料面からの検討を行うこととし、鋼の化学成分について種々検討を加えた。
その結果、下記(a)〜(d)の基本成分設計思想が得られた。
(a)Siは、含有量の増加に伴ってA3変態点を上昇させる元素であるため、高周波焼入れ性の低下を招く。したがって、Siの含有量は低くするのがよい。
(b)Crは、セメンタイトを安定化する作用がある。このため、通常焼入れの場合には焼入れ性を増加させる元素の一つであるCrも、加熱時間が短い高周波焼入れの場合には、その含有量が高いと、セメンタイトが十分固溶せず、高周波焼入れ性の低下を招くことがある。したがって、Crの含有量も低くするのがよい。
(c)高周波焼入れした際の不完全焼入れ組織の生成を防止するためには、C、Mn、MoおよびBの含有量を高めてこれらの元素による高周波焼入れ性向上作用を活用するのがよい。
(d)Bの焼入れ性向上効果を確保するためにはNを固定するためにTiを含有させるのがよいものの、Tiの含有量が多すぎる場合には、鋼材中のC量が減少してフェライトの割合が多くなるので、鋼材のA3変態点を上昇させ、却って高周波焼入れ性の低下を招く場合がある。このため、Tiの含有量を適正な範囲に調整するのがよい。
そこで本発明者らは、上記の基本成分設計思想のもとに基礎試験を行うために、種々の鋼を溶製して作製した4点曲げ試験片について調質処理を行い、さらに硬化層の旧オーステナイト結晶粒径が微細になるように高周波焼入れして「繰り返し焼入れ処理」を行い、曲げ疲労強度を評価した。
その結果、SCr420に相当する鋼を浸炭焼入れ−焼戻しした場合の曲げ疲労強度を基準にして、それより40%以上高い曲げ疲労強度を得ることができた。
そこで上記基礎試験結果をもとに、本発明者らはさらに熱間鍛造によって差動歯車を作製し、作製した差動歯車に対して同様の処理を行い、実部品での評価を行った。
その結果、SCr420に相当する鋼を浸炭焼入れ−焼戻しした場合の曲げ疲労強度に対して40%以上とまではいえないものの、実部品である差動歯車においても30%程度曲げ疲労強度を向上することができた。
そこで、本発明者らは実部品での曲げ疲労強度の向上効果が、基礎試験での曲げ疲労強度の向上効果よりも小さくなった原因について調査した。
その結果、調質処理後に輪郭高周波焼入れ−焼戻しした差動歯車の表層部には、従来のカーボンポテンシャルの高い雰囲気の浸炭焼入れ−焼戻し処理で製造した差動歯車の場合には生ずることのなかった「脱炭」が生じており、特に、差動歯車の表層部に生じた全脱炭層深さ(以下、「DM−T」ともいう。)が実体の差動歯車の曲げ疲労強度に対して影響を及ぼしていることが明らかになった。
そこで、上記の差動歯車表層部における脱炭を抑制するために検討を重ね、次の知見に至った。
(e)差動歯車表層部に生じた脱炭は、熱間鍛造工程、鍛造後の調質処理工程または輪郭高周波焼入れ処理工程のいずれかで生じたと推定されるが、輪郭高周波焼入れ処理工程は、急速かつ短時間の加熱処理であるため脱炭はほとんど生じない。
(f)熱間鍛造時のオーステナイト単相域に加熱された状態での脱炭を抑制するためには、低温でかつ短時間加熱を行うことが有効である。また、熱間鍛造後の冷却工程における脱炭を抑制するには、オーステナイトとフェライトの2相組織温度領域を可能な限り短時間で通過させればよい。
(g)調質処理工程において、大気雰囲気中で加熱処理を行えば脱炭が生じてしまう。調質処理工程での脱炭を抑制するためには、調質処理工程の焼入れ時の加熱雰囲気のカーボンポテンシャルを鋼のC含有量と同程度以上に調整すればよい。
(h)しかしながら、熱間鍛造工程における脱炭抑制と、鍛造後の調質処理工程における脱炭抑制を図っても脱炭が生じる場合がある。
(i)この特異な現象は、熱間鍛造工程において鍛造品の表面に形成される酸化スケールが影響するもので、たとえ焼入れ時の加熱雰囲気のカーボンポテンシャルを制御して加熱しても、酸化スケールが酸素供給源となり材料側のCと結合してCO2を形成し、鍛造品の表層部のC量を低下させることとなり、その結果フェライト脱炭が生じてしまう。
(j)したがって、熱間鍛造後に行う調質処理工程における脱炭を抑制するためには、熱間鍛造の段階で表面に形成された酸化スケールを除去した上で、焼入れ時の加熱雰囲気のカーボンポテンシャルを鋼のC含有量と同程度以上に調整すればよい。
そして、以上の方法によって差動歯車表層部での脱炭を抑制すれば、調質処理後に輪郭高周波焼入れ−焼戻し処理を行った実部品の差動歯車による曲げ疲労強度は、基礎試験での結果と同じく、SCr420に相当する鋼を浸炭焼入れ−焼戻しした差動歯車の曲げ疲労強度に比べて40%以上向上することが判明した。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)および(2)に示す差動歯車ならびに(3)に示す差動歯車の製造方法にある。
(1)生地の鋼が、質量%で、C:0.35〜0.45%、Si:0.10%以下、Mn:0.50〜1.0%、P:0.015%以下、S:0.030%以下、Cr:0.05〜0.15%、Mo:0.15〜0.25%、Al:0.01〜0.05%、N:0.010%以下、O(酸素):0.0020%以下、B:0.0010〜0.0030%およびTi:0.010〜0.045%を含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有する鋼であり、かつ、下記の条件(イ)〜(ニ)を満たすことを特徴とする差動歯車。
(イ)硬化層深さ:0.80〜1.50mm、
(ロ)硬化層の旧オーステナイト平均粒径:12μm以下、
(ハ)歯元部において表面から50μm位置での残留応力:−700MPa以下、
(ニ)〔(表層部のビッカース硬さ)−(芯部のビッカース硬さ)〕で表されるΔHVの値:10〜40。
(2)上記(1)に記載の差動歯車において、さらに下記の条件(ホ)および(ヘ)を満たすことを特徴とする差動歯車。
(ホ)表層部の全脱炭層深さ:0.015mm以下、
(ヘ)表層部のC量:0.35〜0.50%。
(3)上記(1)に記載した差動歯車の生地の化学組成を有する鋼材を、下記の工程〈1〉〜〈8〉の順に処理することを特徴とする差動歯車の製造方法。
工程〈1〉:鋼材を1000〜1200℃の温度域の温度であるT℃において加熱時間を10min以内として加熱する。
工程〈2〉:加熱した鋼材を、鍛造終了温度を900℃以上として熱間鍛造し、差動歯車の形状に成形する。
工程〈3〉:成形した差動歯車形状品を、熱間鍛造終了温度から1〜20℃/sの平均冷却速度で300℃まで冷却する。
工程〈4〉:差動歯車形状品の表面に生成した酸化スケールを除去する。
工程〈5〉:酸化スケールを除去した差動歯車形状品を、カーボンポテンシャルが0.40〜0.50%の雰囲気で820〜1000℃に加熱した後、焼入れを行う。
工程〈6〉:焼入れした差動歯車形状品を200℃以下の温度で焼戻し処理する。
工程〈7〉:焼戻し処理した差動歯車形状品に、さらに、加熱は周波数40〜60kHzで行い、差動歯車の歯底表面温度が600〜700℃になるよう予熱処理を行い、その後大気放冷して、加熱時間0.2〜0.5sで歯底表面温度が950〜1050℃になるよう、本加熱処理を施して輪郭高周波焼入れを行う。
工程〈8〉:輪郭高周波焼入れした差動歯車形状品を200℃以下の温度で焼戻し処理する。
なお、残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石やスクラップあるいは環境などから混入するものを指す。
「硬化層深さ」は表面からビッカース硬さが550となる位置までの距離を指し、「硬化層」は表面から上記「硬化層深さ」に至るまでの領域を指す。
残留応力における「負号」は圧縮残留応力であることを示す。
「全脱炭層深さ」は、JIS G 0558(2007)の「鋼の脱炭層深さ測定方法」に規定された顕微鏡による測定方法での「DM−T」を指す。
「表層部のC量」は、表面から深さ100μmまでの位置における平均C量を指す。
鋼材の加熱温度は、鋼材表面における温度を指す。同様に、差動歯車形状品の加熱温度も差動歯車形状品の表面における温度を指す。また、熱間鍛造終了温度は被鍛造材の表面における温度を指し、焼戻し温度は焼戻し炉の設定温度を指す。
平均冷却速度とは、熱間鍛造を終了した差動歯車形状品の表面温度から求めた値を指す。
以下、上記 (1)および(2)に示す差動歯車に係る発明ならびに(3)に示す差動歯車の製造方法に係る発明をそれぞれ、「本発明(1)」〜「本発明(3)」という。また、総称して「本発明」ということがある。
本発明の差動歯車の「低〜中サイクル域」での曲げ疲労強度は、従来の浸炭焼入れ−焼戻し処理した差動歯車の曲げ疲労強度に比べて大幅に向上している。このため、本発明の差動歯車は、衝撃的でしかも比較的大きな負荷が加わることのある自動車用差動歯車として用いるのに好適である。なお、この差動歯車は本発明の製造方法によって容易に製造することができる。
実施例で用いた差動歯車の形状を説明する図である。 実施例において、差動歯車形状品に施した輪郭高周波焼入れ−焼戻しの条件を説明する図である。 差動耐久試験装置について、その一例を模式的に示す図である。 差動耐久試験装置におけるディファレンシャルユニットについて、その一例を模式的に示す図である。なお、図中の「ピニオンギア」と「サイドギア」が「差動歯車」に該当する。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
(A)生地の鋼の化学組成
C:0.35〜0.45%
Cは、鋼の強度を確保する作用および高周波焼入れ後の硬化層硬さを確保する作用を有する。しかしながら、その含有量が0.35%未満では、前記作用による所望の効果が得られない。一方、Cの含有量が0.45%を超えると、高周波焼入れで形成された硬化層が脆性破壊を起こすため、靱性が低下する。したがって、Cの含有量を0.35〜0.45%とした。なお、前記の効果を安定して得るために、C含有量の下限は0.38%とすることが好ましい。
Si:0.10%以下
Siは、不純物として含有される元素である。SiはA3変態点を上昇させ、高周波焼入れ性を低下させる。しかも、Siの含有量の増加に伴ってA3変態点が上昇するため、熱間鍛造後の冷却過程で脱炭が生じやすいオーステナイトとフェライトの2相領域の温度が広がるので、Siの含有量が高い場合には脱炭が生じやすくなる。特に、Siの含有量が0.10%を超えると、高周波焼入れ性の低下および熱間鍛造後の脱炭の生成が著しくなる。したがって、Siの含有量を0.10%以下とした。Siはその含有量が少なければ少ないほど好ましい。
Mn:0.50〜1.0%
Mnは、高周波焼入れ性を向上させる元素である。しかしながら、Mnの含有量が0.50%未満の場合、前記作用による所望の効果が得られない。一方、1.0%を超えてMnを含有させても前記の効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Mnの含有量を0.50〜1.0%とした。なお、合金コストを低く抑えたうえで前記の効果を安定して得るために、Mnの含有量の下限は0.55%にすることが好ましい。
P:0.015%以下
Pは、高周波焼入れによる硬化層の靱性を低下させ、特に、その含有量が0.015%を超えると、硬化層の靱性低下が著しくなる。したがって、Pの含有量を、0.015%以下とした。なお、Pの含有量は、0.010%以下にすることが好ましい。
S:0.030%以下
Sは、不純物として含有される元素である。また、Sは、添加すればMnと結合してMnSを形成し、被削性、なかでも切り屑処理性を高める作用を有する。しかしながら、Sの含有量が多くなってMnSの生成量が多くなりすぎると、被削性は改善されても、疲労強度の低下を招き、特に、Sの含有量が0.030%を超えると、疲労強度の低下が著しくなる。したがって、Sの含有量を0.030%以下とした。なお、S含有量の上限は好ましくは0.020%である。
Cr:0.05〜0.15%
Crは、CやMnと同様、鋼の焼入れ性を高めて強度を向上させる作用を有する。しかしながら、Crの含有量が0.05%未満の場合、十分な効果が得られない。一方、Crにはセメンタイトを安定化する作用があるため、高周波焼入れの場合には、その含有量が高くなるとセメンタイトが十分固溶せず、却って焼入れ性の低下を招くことになり、特に、Crの含有量が0.15%を超えると、高周波焼入れ性の低下が著しくなる。したがって、Crの含有量を0.05〜0.15%とした。
Mo:0.15〜0.25%
Moは、CやMnと同様、鋼の焼入れ性を高めて強度を向上させる作用を有する。Moには、焼戻し軟化抵抗を高める効果もある。しかしながら、Moの含有量が0.15%未満の場合には、強度向上効果および焼戻し軟化抵抗向上効果を安定して得ることができない。一方、0.25%を超えてMoを含有させてもコストが嵩むばかりである。したがって、Moの含有量を0.15〜0.25%とした。
Al:0.01〜0.05%
Alは、Siと同様に脱酸作用を有する。さらに、Alは、鋼中のNと結合してAlNを形成し、このAlNが高周波焼入れする際の結晶粒粗大化を防止する作用がある。しかしながら、Alの含有量が0.01%未満の場合には、脱酸効果やAlNの形成による高周波焼入れする際の結晶粒粗大化防止効果が期待できない。一方、AlもA3変態点を上昇させ、高周波焼入れ性を低下させる元素であり、Alの含有量が多くなって0.05%を超えると、高周波焼入れ性の低下が著しくなる。したがって、Alの含有量を0.01〜0.05%とした。
N:0.010%以下
Nは、不純物として含有される元素である。Nは、B、Al、Tiなどとの親和力が大きい元素であり、Bと結合してBNを形成した場合には、後述するBの高周波焼入れ性を高める効果を得難くなり、特に、Nの含有量が多くなって0.010%を超えると、BN形成によって、Bによる高周波焼入れ性向上効果を確保できなくなる。さらに、鋼中の固溶N量が増加すると、熱間変形能の低下をきたし、特に、Nの含有量が0.010%を超えると、熱間変形能の低下が著しくなる。したがって、Nの含有量を、0.010%以下とした。なお、鋼中の不純物としてのNの含有量は可能な限り低減することが好ましい。
O(酸素):0.0020%以下
Oは、不純物として含有される元素である。Oは、鋼中の元素と結合して酸化物を形成し、強度低下、なかでも疲労強度の低下を招く。特に、Oの含有量が0.0020%を超えると、形成される酸化物が多くなるとともにMnSが粗大化して、疲労強度の低下が顕著になる。したがって、Oの含有量を0.0020%以下とした。なお、鋼中の不純物としてのOの含有量は0.0015%以下とすることが好ましい。
B:0.0010〜0.0030%
Bは、高周波焼入れ性を向上させる作用を有し、その効果はBの含有量が0.0010%以上で顕著である。しかしながら、0.0030%を超えてBを含有させても前記の効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Bの含有量を0.0010〜0.0030%とした。
なお、上記した範囲の量のBを含有する場合であっても、Bが鋼中の不純物として存在するNと結合してBNを形成した場合には、高周波焼入れ性を高めることができない。したがって、既に述べたように、Bの高周波焼入れ性向上効果を発揮させるためには、鋼中の不純物として存在するNの含有量を低減する必要がある。
Ti:0.010〜0.045%
Bを含有することによって高周波焼入れ性が向上するのは、Bが化合物ではなく、単独で存在する場合である。そのため、BがNと結合して窒化物を形成した場合には、Bによる焼入れ性向上効果は期待できない。上記の理由から、BよりもNとの親和力が大きく窒化物形成能が強いTiを0.010%含有させる。しかしながら、0.045%を超える量のTiを含有させても、Nを固定する効果が飽和するばかりか、粗大なTiNが多量に生成してしまう。また、Tiの含有量が多すぎる場合には、鋼材中のC量が減少してフェライトの割合が多くなるので、鋼材のA3変態点を上昇させ、却って高周波焼入れ性の低下を招く。そのため、疲労特性の低下をきたす場合がある。したがって、Tiの含有量を0.010〜0.045%とした。なお、Bの焼入れ性向上作用を確実に発揮させるために、Ti含有量の下限は0.015%とすることが好ましい。
(B)差動歯車の表面の硬化層の特性
生地の鋼が、前記(A)項で述べた化学組成を有する本発明の差動歯車は、その表面の硬化層が下記(イ)〜(ニ)の条件を満たすものでなければならない。
(イ)硬化層深さ:0.80〜1.50mm、
(ロ)硬化層の旧オーステナイト平均粒径:12μm以下、
(ハ)歯元部において表面から50μm位置での残留応力:−700MPa以下、
(ニ)〔(表層部のビッカース硬さ)−(芯部のビッカース硬さ)〕で表されるΔHVの値:10〜40。
以下、上記(イ)〜(ニ)のそれぞれについて説明する。
(イ)硬化層深さ:
差動歯車の表面からビッカース硬さ(以下、「HV硬さ」ともいう。)が550となる位置までの距離である硬化層深さは、曲げ疲労強度に大きな影響を与える。硬化層深さが0.80mm未満の場合には、硬化層深さが浅すぎて亀裂進展寿命が短くなるため、曲げ疲労強度が向上しない。一方、硬化層深さが1.50mmを超える場合は、輪郭高周波焼入れ時に投入する熱エネルギーが大きくなるので硬化層の結晶粒を微細にすることができず、このために硬化層の靱性が低下して、曲げ疲労強度を高めることができない。したがって、硬化層深さを0.80〜1.50mmと規定した。なお、硬化層深さの下限は好ましくは0.90mmである。また、硬化層深さの上限は好ましくは1.40mmである。
(ロ)硬化層の旧オーステナイト平均粒径:
輪郭高周波焼入れで形成された硬化層の旧オーステナイト平均粒径が12μmを超える場合、硬化層の靱性低下が生じるので、曲げ疲労強度を高めることができない。したがって、硬化層の旧オーステナイト平均粒径を12μm以下と規定した。硬化層の旧オーステナイト平均粒径の上限は好ましくは10μmである。なお、硬化層の旧オーステナイト平均粒径の下限は特に規定する必要はないものの、工業的には1.0μm程度が限界になる。
(ハ)歯元部において表面から50μm位置での残留応力:
輪郭高周波焼入れすることによって、差動歯車の表面近傍には圧縮の残留応力(負の残留応力)が生じる。しかしながら、曲げ疲労強度が特に必要とされる差動歯車の歯元部において、表面から50μm位置での残留応力(以下、「σr(50)」ともいう。)が−700MPaより大きい場合(絶対値としての残留応力が小さい場合)には、曲げ疲労強度の向上効果が乏しい。したがって、歯元部においてσr(50)を−700MPa以下と規定した。σr(50)の上限は好ましくは−750MPaである。なお、残留応力であるσr(50)の下限は特に規定する必要はないものの、工業的には−2000MPa程度が限界になる。
(ニ)ΔHVの値:
差動歯車の曲げ疲労強度を向上するには、高周波焼入れにより形成される硬化層の硬さを増加させつつ、靱性も高める必要がある。〔(表層部のビッカース硬さ)−(芯部のビッカース硬さ)〕で表されるΔHVの値が10未満の場合、表面の硬化層と差動歯車芯部の硬さがほとんど変わらないことになり、曲げ疲労強度の向上が期待できない。一方、工業的な高周波焼入れによる製造の場合に、ΔHVの値が40を超えるようにすることは困難である。したがって、ΔHVの値を10〜40と規定した。なお、ΔHVの下限は好ましくは12である。
本発明の差動歯車は、その表層部が、さらに下記(ホ)および(ヘ)の条件を満たすことがより望ましい。
(ホ)表層部の全脱炭層深さ:0.015mm以下、
(ヘ)表層部のC量:0.35〜0.50%。
以下、上記(ホ)と(ヘ)のそれぞれについて説明する。
(ホ)表層部の全脱炭層深さ:
差動歯車表層部に生じた脱炭は曲げ疲労強度に大きな影響を与える。JIS G 0558(2007)に規定された顕微鏡による測定方法での表層部の全脱炭層深さ(DM−T)が0.015mmを超えると、表層部である硬化層のマルテンサイトの靱性は向上するが、強度が低下するため、「低〜中サイクル域」における曲げ疲労強度の向上効果が小さくなる。したがって、表層部の全脱炭層深さを0.015mm以下とすることが好ましい。DM−Tの上限は好ましくは0.012mmである。なお、DM−Tの下限は特に規定する必要はなく、小さければ小さいほど好ましい。
(へ)表層部のC量:
差動歯車の曲げ疲労強度を向上するには、高周波焼入れにより形成される硬化層の硬さと靱性をともに高める必要がある。表層部のC量が0.35%未満の場合、硬化層の靱性を高くすることができるが、硬さが不足し、曲げ疲労強度の向上が期待できない。また、表層部のC量が0.50%を超えると、硬化層の硬さは十分確保できるが、靱性が低下し、曲げ疲労強度の向上効果が小さくなる。したがって、表層部のC量を0.35〜0.50%とすることが好ましい。なお、表層部のC量の下限は好ましくは0.38%である。また、表層部のC量の上限は好ましくは0.48%である。
(C)製造条件について:
以下に詳述する差動歯車の製造条件は、工業的な規模で本発明の差動歯車を経済的に要領よく実現するための方法の一つであり、差動歯車自体の技術的範囲はこの製造条件によって規定されるものではない。
本発明に係る差動歯車は、(A)項に記載の生地の化学組成を有する鋼を用いて製造された鋼材に、例えば、下記の工程〈1〉〜〈8〉に記載の処理を順に施すことにより製造することができる。
なお、工程〈1〉の処理を施す前の鋼材の製造については、特にその条件を特定する必要はない。
(C−1)工程〈1〉の加熱処理:
工程〈1〉では、(A)項に記載の生地の化学組成を有する鋼材を、1000〜1200℃の温度域の温度であるT℃において加熱時間を10min以内として加熱する。
加熱処理である工程〈1〉において、先ず、1000〜1200℃の温度域の温度であるT℃に加熱するのは、所定の差動歯車形状に成形する前の鋼材に生じる加熱の際の脱炭を抑制し、かつ、熱間鍛造時の極端な変形抵抗の上昇を抑制するためである。
加熱温度が1000℃未満の場合には、脱炭の抑制効果は顕著であるものの、熱間鍛造の変形抵抗が高くなりすぎるため、所定の差動歯車形状に成形する熱間鍛造のための過剰な設備増強が必要となりコストの増大を招くことがある。
一方、加熱温度が1200℃を超える場合、熱間鍛造時の変形抵抗は低くなるが、脱炭を抑制することが困難になるとともに、熱間鍛造後の差動歯車形状品の表面に形成される酸化スケールの厚みが増し、酸化スケールの除去が困難になる場合がある。
また、1000〜1200℃の温度域の温度であるT℃に加熱する場合であっても、保持時間が10minを超える場合には、脱炭を抑制することが困難になることがある。
加熱温度としてのT℃の下限は、熱間鍛造時の鍛造荷重の低減(金型寿命向上)の観点から、1050℃とすることがより好ましい。また、加熱温度T℃の上限は、脱炭抑制の観点から、1100℃とすることがより好ましい。
なお、加熱温度T℃に到達すれば、その直後に熱間鍛造を開始してもよい。加熱手段については特に規定するものではないが、脱炭抑制の観点から、例えば、急速加熱が可能な高周波誘導加熱や通電加熱方式を用いることが好ましい。
(C−2)工程〈2〉の熱間鍛造処理:
工程〈2〉では、加熱した鋼材を、鍛造終了温度を900℃以上として熱間鍛造し、差動歯車の形状に成形する。
熱間鍛造終了温度が900℃を下回ると、鍛造荷重が高くなるとともに、材料の延性不良に起因した割れが生じて、成形不良になることがある。差動歯車の形状に成形する熱間鍛造の終了温度の下限は950℃とすることがより好ましい。
また、熱間鍛造で成形する部品の形状によっては、加工発熱に伴う温度上昇が大きくなる場合が想定される。この加工発熱に伴う温度上昇によって、熱間鍛造終了温度が1200℃を超える場合には、脱炭を抑制することが困難になる場合がある。したがって、差動歯車の形状に成形する熱間鍛造の終了温度の上限は1200℃とすることが好ましい。
(C−3)工程〈3〉の熱間鍛造で成形した差動歯車形状品の冷却処理:
工程〈3〉では、成形した差動歯車形状品を、熱間鍛造終了温度から1〜20℃/sの平均冷却速度で300℃まで冷却する。
熱間鍛造終了後、その温度から300℃までの温度域の平均冷却速度が1℃/s未満の場合には、脱炭を生じやすいオーステナイトとフェライトの2相組織となる温度域に長時間滞留することになり、脱炭を抑制することが困難になる場合がある。
一方、熱間鍛造終了後、その温度から300℃までの温度域の平均冷却速度が20℃/s以上の場合には、マルテンサイトが生成して差動歯車形状品にいわゆる「焼割れ」が生じることがある。
なお、1〜20℃/sの平均冷却速度で冷却する温度域の下限温度は300℃までとすれば十分であって、300℃を下回る温度域の冷却速度については制限を設けるには及ばない。このため、製造設備や生産性を勘案して、例えば、空冷(放冷)、強制風冷やミスト冷却などから適宜決定すればよい。
(C−4)工程〈4〉の差動歯車形状品の表面に生成した酸化スケールの除去処理:
工程〈4〉では、差動歯車形状品の表面に生成した酸化スケールを除去する。これは、酸化スケールを除去しない状態では、たとえ焼入れの際の加熱を雰囲気制御して実施しても、酸化スケールが酸素供給源となり、材料側のCと結合してCO2を形成し、差動歯車形状品の表層部のC量を低下させることとなって、フェライト脱炭を抑制することが困難となることがあるからである。
なお、差動歯車形状品の表面に生成した酸化スケールの除去手段については特に規定するものではない。切削などの機械加工、ショットブラスト、酸洗など適宜の手段で行えばよい。
(C−5)工程〈5〉の酸化スケールを除去した差動歯車形状品の焼入れ処理:
工程〈5〉では、酸化スケールを除去した差動歯車形状品を、カーボンポテンシャルが0.40〜0.50%の雰囲気で820〜1000℃に加熱した後、焼入れを行う。
焼入れ処理工程において、加熱雰囲気のカーボンポテンシャルが0.40%未満の場合には、前記(A)項に記載した生地のC含有量に対して雰囲気のカーボンポテンシャルが低いため、脱炭を生じる場合がある。一方、加熱雰囲気のカーボンポテンシャルが0.50%を超える場合、脱炭を抑制することはできるものの、前記(A)項に記載した生地のC含有量に対して雰囲気のカーボンポテンシャルが高いために、雰囲気からCが侵入するいわゆる「浸炭現象」が生じ、差動歯車形状品の表層部のC量が増加することに伴い、硬化層の靱性確保が困難になって脆性破壊を生じやすくなるため、曲げ疲労強度の向上効果が乏しくなることがある。
なお、上記雰囲気中での加熱温度が820℃未満の場合には、表面の硬化層が均一硬質なマルテンサイト組織にならず、焼入れ処理後のミクロ組織にフェライトが残存するか、あるいは、焼入れ後に全てマルテンサイトになっても、C濃度のゆらぎが生じることになる。その結果、後述する輪郭高周波焼入れによって不完全焼入れ組織が生じることを抑制できないために、曲げ疲労強度が低下する場合がある。
一方、上記雰囲気中での加熱温度が1000℃を超える場合、焼入れ処理後のミクロ組織は均一なマルテンサイト組織であるものの、旧オーステナイト粒径が粗大となるため、後述する輪郭高周波焼入れによって形成される硬化層の旧オーステナイト平均粒径を12μm以下に微細化することが困難になり、その結果、曲げ疲労強度の低下を招くことがある。
上記条件による焼入れを行うことによって、差動歯車の表層部のC量を、前述した(へ)の特性、具体的には、「表層部のC量:0.35〜0.50%」の特性を容易に具備させることができる。
(C−6)工程〈6〉の差動歯車形状品の焼戻し処理:
工程〈6〉では、焼入れした差動歯車形状品を、焼入れ後のいわゆる置き割れを防止することを目的に、200℃以下の温度で焼戻し処理を行う。
(C−7)工程〈7〉の差動歯車形状品の輪郭高周波焼入れ処理:
工程〈7〉では、焼戻し処理した差動歯車形状品に、さらに、加熱は周波数40〜60kHzで行い、差動歯車の歯底表面温度が600〜700℃になるよう、予熱処理を行い、その後大気放冷して、加熱時間0.2〜0.5sで歯底表面温度が950〜1050℃になるよう、本加熱処理を施して輪郭高周波焼入れを行う。
輪郭高周波焼入れを行う際、短時間で所定の温度まで加熱して焼入れを行う必要がある。しかしながら、差動歯車形状品を常温から加熱した場合には焼入れ可能なオーステナイトの温度域まで差動歯車形状品を短時間で加熱することはできない。したがって、本加熱時の差動歯車形状品の温度上昇を助けるために、予め差動歯車形状品を加熱する予熱処理を行う必要がある。
周波数を40〜60kHzにする理由は、周波数が40kHz未満では歯先の温度が上がらず、一方周波数が60kHzを超えると歯底の温度が上がらないためである。
歯底表面温度が600〜700℃となるよう予熱処理する理由は、歯底表面温度が600℃より低いと予熱の効果が得られず、一方歯底表面温度が700℃を超えると再オーステナイト化し、焼入れ時に差動歯車形状品の変形が大きくなってしまうからである。
本加熱の加熱時間を0.2〜0.5sにする理由は、本加熱の加熱時間が0.2s未満では高周波焼入れの制御が困難で加熱ができないからであり、一方本加熱の加熱時間が0.5sを超えると輪郭に沿った硬化層が形成できないためである。
歯底表面温度が950〜1050℃となるよう本加熱する理由は、歯底表面温度が950℃より低いとオーステナイト化が十分でなく、一方歯底表面温度が1050℃より高いと結晶粒が粗大化するためである。
差動歯車形状品に対して上記の加熱処理を行った後に、水冷や油冷等により焼入れを行う。
上記条件による輪郭高周波焼入れを行うことによって、差動歯車の表面硬化層に、前述した(ロ)の特性、具体的には、「硬化層の旧オーステナイト平均粒径:12μm以下」の特性を容易に具備させることができる。
なお、輪郭高周波焼入れの条件は、部品形状などにより調整すれば良く、周波数を固定して高周波加熱を行ってもよいし、また加熱途中で周波数を変更してもよい。
(C−8)工程〈8〉の差動歯車形状品の焼戻し処理:
工程〈8〉では、輪郭高周波焼入れした差動歯車形状品を200℃以下の温度で焼戻し処理する。
上記条件による焼戻しを行うことによって、差動歯車の表面硬化層に、前述した(ハ)および(ニ)の特性、具体的には、「歯元部において表面から50μm位置での残留応力:−700MPa以下」および「〔(表層部のビッカース硬さ)−(芯部のビッカース硬さ)〕で表されるΔHVの値:10〜40」の特性を容易に具備させることができる。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
表1に示す化学組成を有する鋼A〜Eを真空炉溶製して150kg鋼塊を作製した。
なお、表1中の鋼Aは、機械構造用合金鋼SCM440の成分に対してSiとCrの含有量をそれぞれ0.05%、0.10%と低くすることで高周波焼入れ性の低下を抑制し、かつBを添加することで高周波焼入れ性を向上させた鋼である。鋼Bは、鋼Aと同様に機械構造用合金鋼SCM440の成分に対してSiとCrの含有量をそれぞれ0.08%、0.10%と低くすることで高周波焼入れ性の低下を抑制し、かつCの含有量を0.51%に増加させ、さらにBを添加した鋼であり、鋼Cは、機械構造用合金鋼SCM440の成分に対してMoを添加しない鋼であり、鋼Dは、機械構造用合金鋼SCM440の成分に対してCの含有量を0.21%に低下させ、かつMoを添加しない鋼であり、鋼Eは、機械構造用合金鋼SCM440の成分に対してCの含有量を0.21%に低下させた鋼である。上記のうちで鋼Dおよび鋼Eはそれぞれ、従来の表面硬化処理の手法である浸炭焼入れ処理での特性を比較するために作製したSCr420およびSCM420に相当する鋼である。
Figure 2011137214
上記の各鋼塊を1250℃に加熱した後、熱間鍛造して直径34mmの丸棒とした。なお、熱間鍛造後の冷却は大気中での放冷とした。
鋼A〜Cについては、熱間鍛造して得た上記の直径34mmの丸棒の中心部から、機械加工によって直径21mmの丸棒を作製し、この直径21mmの丸棒を表2に示す種々の加熱温度に加熱して90min均熱保持した後、油焼入れを行った。油焼入れした後、さらに加熱温度180℃、均熱時間120minの焼戻し処理を施した。
上記の調質処理を行った直径21mmの丸棒の中心部から、機械加工によって、断面が13mm×13mmで長さが100mmの直方体を切り出し、その後さらに、上記直方体の一つの面の長さ方向中央の部位に、半径2mmの半円切欠きを設けて、4点曲げ試験片を作製した。
上記の4点曲げ試験片の一部について、半円切欠きを設けた面に、出力が50kWの条件で加熱時間を変えて高周波加熱した後に水冷する高周波焼入れを施した。なお、表2に上記高周波焼入れ条件の詳細を併記した。
次いで、上記の高周波焼入れした4点曲げ試験片を加熱温度180℃、均熱時間60minの条件で焼戻しして、高周波焼入れ性および硬化層の旧オーステナイト粒径の調査を行った。
高周波焼入れ性は、上記の高周波焼入れ−焼戻し後の4点曲げ試験片の半円切欠きを設けた部位での横断面が調査できるように樹脂に埋め込んで研磨した後、JIS Z 2244(2009)に規定された方法でビッカース硬さ試験を行って評価した。すなわち、試験力を2.94Nとしてビッカース硬さ試験を行って硬さ分布を求め、硬化層の表面である切欠き底からHV硬さが550となる位置までの距離(mm)を求めた。なお、以下においては、切欠き底(すなわち、硬化層の表面)からHV硬さが550となる位置までの距離を「硬化層深さ」という。
さらに、試験片の半円切欠きを設けた部位の横断面において、上記JIS Z 2244(2009)に規定された方法で、試験力を2.94Nとして、切欠き底から0.03mmの位置のHV硬さと中心部のHV硬さを測定し、各々の測定値を表層部のビッカース硬さおよび芯部のビッカース硬さとして、〔ΔHV=(表層部のビッカース硬さ)−(芯部のビッカース硬さ)〕によって表されるΔHVを求めた。
硬化層の旧オーステナイト粒径は、上記高周波焼入れ−焼戻し後の4点曲げ試験片の半円切欠きを設けた部位での横断面が観察できるように樹脂に埋め込んで鏡面研磨した後、界面活性剤を添加したピクリン酸飽和水溶液で腐食して旧オーステナイト粒界を現出させ、表面から上記の「硬化層深さ」までの領域について任意に5視野撮影した倍率400倍の光学顕微鏡写真を用いて、切断法によって「平均切片長さ」Lを求め、「1.128×L」を硬化層の旧オーステナイト平均粒径とした。
なお、高周波焼入れ−焼戻しを行わなかった表2の試験番号8の場合についても、4点曲げ試験片の半円切欠きを設けた部位での横断面が調査できるように樹脂に埋め込んで研磨した後、JIS Z 2244(2009)に規定された方法で、試験力を2.94Nとしてビッカース硬さ試験を行って、切欠き底から0.03mmの位置のHV硬さと中心部のHV硬さを測定し、各々の測定値を表層部のビッカース硬さおよび芯部のビッカース硬さとして、〔ΔHV=(表層部のビッカースの硬さ)−(芯部のビッカース硬さ)〕によって表されるΔHVを求めた。また、表面から0.5mmの深さまでの領域について任意に5視野撮影した倍率400倍の光学顕微鏡写真を用いて、切断法によって「平均切片長さ」Lを求め、同様に「1.128×L」の値を旧オーステナイト平均粒径とした。
一方、鋼Dおよび鋼Eについては、前記の熱間鍛造して得た直径34mmの丸棒の中心部から、直接に機械加工によって、断面が13mm×13mmで長さが100mmの直方体を切り出し、その後さらに、上記直方体の一つの面の長さ方向中央の部位に、半径2mmの半円切欠きを設けて、4点曲げ試験片を作製した。
次いで、カーボンポテンシャル0.8%の状態下で、940℃で180min保持してから870℃に冷却してさらに60min保持した後、油焼入する条件で浸炭焼入れした。上記の浸炭焼入れ後さらに、加熱温度180℃、均熱時間60minの条件で焼戻しした後、既に述べたのと同様の方法で硬化層深さおよびΔHVを調査し、さらに、上記の「硬化層深さ」までの領域について任意に5視野撮影した倍率400倍の光学顕微鏡写真を用いて、切断法によって「平均切片長さ」Lを求め、「1.128×L」の値を硬化層の旧オーステナイト平均粒径とした。
また、上記の各種処理を行った鋼A〜Eの計16条件の4点曲げ試験片を用いて、その半円切欠き底の表面から50μmの位置における残留応力であるσr(50)の値を測定した。なお、測定は電解研磨により表面から50μmの深さ位置まで研磨し、50μm深さ位置で回折X線の強度を測定し、その測定で得られたピーク強度の半値幅とピーク中心位置との関係から残留応力を求めた。
さらに、上記の各種処理を行った鋼A〜Eの計16条件の4点曲げ試験片を用いて、曲げ疲労強度を調査した。
曲げ疲労強度試験は、応力比を0.1、支点間距離を45mmとして行い、繰り返し回数1×104回での亀裂発生強度を曲げ疲労強度として評価した。
なお、SCr420に相当する鋼Dを浸炭焼入れ−焼戻しした場合の曲げ疲労強度を基準にして、それより40%以上向上していることを目標とした。
表2に、上記の各試験結果を併せて示す。なお、表2には、試験番号15の曲げ疲労強度を基準値とした場合の、その値からの向上率を併せて示した。
Figure 2011137214
表2から、試験番号1〜7の場合、良好な曲げ疲労強度を有しているのに対して、試験番号8〜14の場合には、曲げ疲労強度が低いことが明らかになった。
そして、この表2から、820〜1000℃の温度範囲で加熱後、焼入れ−焼戻しの調質処理を行い、さらに高周波焼入れ−焼戻しを行うことによって、
・硬化層深さを0.80〜1.50mm、
・硬化層の旧オーステナイト平均粒径を12μm以下、
・表面から50μmの位置における残留応力を−700MPa以下、
・〔(表層部のビッカース硬さ)−(芯部のビッカース硬さ)〕で表されるΔHVの値を10以上、
とすれば、浸炭処理した鋼Dの曲げ疲労強度を基準にして、それより40%以上高い曲げ疲労強度が得られることが判る。
(実施例2)
表3に示した化学組成を有する鋼F〜Hを真空炉溶製して150kg鋼塊を作製し、実部品形状での評価を実施した。
なお、表3中の鋼Fは、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼であり、前述の表1の鋼Aに相当する鋼である。一方、鋼Gは、成分元素のうちのCが本発明で規定する含有量の範囲から外れた比較例の鋼である。また、鋼Hは、成分元素のうちのC、Si、P、Cr、Mo、Ti、NおよびBが本発明で規定する含有量の範囲から外れた比較例の鋼である。
なお、上記の比較例の鋼のうちで鋼Hは、JIS G 4053(2008)に記載されたSCr420に相当し、前述の表1の鋼Dに相当する鋼である。
Figure 2011137214
上記の各鋼塊を1250℃に加熱した後、熱間鍛造して直径34mmの丸棒とした。なお、熱間鍛造後の冷却は大気中での放冷とした。
次いで、鋼Fおよび鋼Gについては、熱間鍛造して得た上記の直径34mmの丸棒を、870℃で60min加熱してオーステナイト単相組織にした後、大気中で放冷した。一方、鋼Hについては、熱間鍛造して得た上記の直径34mmの丸棒を、925℃で60min加熱してオーステナイト単相組織にし、大気中で放冷した。
上記の直径34mmの放冷材の中心部から、機械加工によって直径が28mmで長さが34.3mmの試験片を切り出し、この試験片を素材として、表4に示す条件で熱間鍛造して、図1に示す外径が53.5mm、内径が18mmで厚みが18mmの差動歯車の形状に成形した。
具体的には、試験番号17、試験番号20および試験番号21では、加熱温度T℃を1100℃として加熱時間3minの加熱処理を行った後、鍛造終了温度が1000℃となるように熱間鍛造して、差動歯車の形状に成形した。
試験番号18および試験番号19では、加熱温度T℃を1100℃として加熱時間5minの加熱処理を行った後、鍛造終了温度が1000℃となるように熱間鍛造して、差動歯車の形状に成形した。
なお、試験番号17では、熱間鍛造終了後、10℃/sの平均冷却速度で300℃まで冷却し、その後大気中で放冷して室温まで冷却した。
試験番号18では、熱間鍛造終了後、0.1℃/sの平均冷却速度で300℃まで冷却し、その後大気中で放冷して室温まで冷却した。
試験番号19および試験番号20では、熱間鍛造終了後、2℃/sの平均冷却速度で300℃まで冷却し、その後大気中で放冷して室温まで冷却した。
試験番号21では、熱間鍛造終了後、0.2℃/sの平均冷却速度で300℃まで冷却し、その後大気中で放冷して室温まで冷却した。
Figure 2011137214
次に、試験番号17、試験番号18、試験番号20および試験番号21の差動歯車形状品については、熱間鍛造時にその表面に生成した酸化スケールを、HV硬さが400〜500のスチール球を用いて、投射時間が15min、投射圧が0.2〜0.4MPa(2〜4kgf/cm2)の条件でショットブラスト処理して除去した。なお、試験番号19の差動歯車形状品については、表面に生成した酸化スケールを除去しなかった。
上記処理の後、試験番号17〜20の差動歯車形状品は、表4に示すカーボンポテンシャルに調整した雰囲気中で870℃に加熱して90min均熱保持した後、油焼入れを行った。
油焼入れした後、さらに加熱温度180℃、均熱時間120minの焼戻し処理を施した。
上記の処理を行った試験番号17〜20の差動歯車形状品に図2に示す条件で輪郭高周波焼入れ−焼戻しを施し、差動歯車に仕上げた。なお、高周波焼入れ時の冷却には水溶性焼入れ冷却剤を用いた。
なお、試験番号21の差動歯車形状品については、ショットブラストによって表面に生成した酸化スケールを除去した後、カーボンポテンシャル0.8%の状態下で、940℃で180min保持してから870℃に冷却してさらに60min保持した後、油焼入する条件で浸炭焼入れした。上記の浸炭焼入れ後さらに、加熱温度180℃、均熱時間60minの条件で焼戻しして、差動歯車に仕上げた。
上記のようにして作製した各差動歯車について、顕微鏡による測定方法での全脱炭層深さ(DM−T)、硬化層深さ(以下、「d」ということがある。)、硬化層の旧オーステナイト平均粒径、歯元部において表面から50μm位置での残留応力(σr(50))、〔(表層部のビッカース硬さ)−(芯部のビッカース硬さ)〕によって表されるΔHVの調査、硬化層の表層部のC量の測定とともに、疲労強度の評価を行った。但し、試験番号19の差動歯車については、疲労強度の評価は行わなかった。
先ず、差動歯車の歯元部での縦断面が調査できるように樹脂に埋め込んで研磨した後、3%硝酸アルコール液(ナイタル)で腐食し、JIS G 0558(2007)に規定されたDM−Tを調査した。
また、差動歯車の歯元部での縦断面が調査できるように樹脂に埋め込んで研磨した後、JIS Z 2244(2009)に規定された方法で、試験力を2.94Nとしてビッカース硬さ試験を行って硬さ分布を求め、歯元部表面からHV硬さが550となる位置までの距離dを求めた。また、歯元部の縦断面において、上記JIS Z 2244(2009)に規定された方法で、試験力を2.94Nとして、表面から0.03mmの位置のHV硬さと中心部のHV硬さを測定し、各々の測定値を表層部のビッカース硬さおよび芯部の硬さとして、〔ΔHV=(表層部のビッカース硬さ)−(芯部のビッカース硬さ)〕によって表されるΔHVを求めた。
さらに、差動歯車の歯元部における硬化層の縦断面が観察できるように樹脂に埋め込んで鏡面研磨した後、界面活性剤を添加したピクリン酸飽和水溶液で腐食して旧オーステナイト粒界を現出させ、表面からの距離がdまでの硬化層について任意に5視野撮影した倍率400倍の光学顕微鏡写真を用いて、切断法によって「平均切片長さ」Lを求め、「1.128×L」から硬化層の旧オーステナイト平均粒径を算出した。
また、表層部のC量は、差動歯車の歯元部での縦断面が調査出来るように樹脂に埋め込んで研磨した後、表面から100μmの範囲を、歯車の中心方向に波長分散型EPMA装置を用いて検量線により測定して求めた。
加えて、電解研磨により表面から50μmの深さ位置まで研磨し、50μm深さ位置で回折X線の強度を測定し、その測定で得られたピーク強度の半値幅とピーク中心位置との関係から、差動歯車の歯元部において表面から50μm位置での残留応力であるσr(50)の値を測定した。
疲労強度の評価には差動耐久試験装置を用い、入力側の回転数を12rpmとして実施した。
図3に、差動耐久試験装置について、その一例を模式的に示す。また、図4に、差動耐久試験装置におけるディファレンシャルユニットについて、その一例を模式的に示す。
以下、差動耐久試験装置の機構について説明する。
先ず、差動耐久試験装置の入力シャフト 1から入力したトルクが、リングギア 2を介してディファレンシャルユニット 3を構成するディファレンシャルケース 4に入力される。なお、上記の入力シャフト 1から入力したトルクとはモーターの設定値を意味する。
次いで、ディファレンシャルケース 4に入力された回転が、ピニオンシャフト 5を介してピニオンギア 6およびこのピニオンギア 6に噛み合わされた一対のサイドギア 7に伝達され、その一対のサイドギア 7から、出力シャフト 8へと出力される。
なお、ディファレンシャルユニット 3を構成するディファレンシャルケース 4からの出力は、一端が固定シャフト 8'となっており、出力シャフト 8の回転との間でディファレンシャルケース 4が差動する構造になっている。すなわち、上記のピニオンギア 6が回転することにより、一対のサイドギア 7の相対回転、つまり差動が可能になる構造であり、図中の「ピニオンギア 6」と「サイドギア 7」が「差動歯車」に該当する。
差動耐久試験装置を用いた試験で得られたトルクと繰り返し回数の関係から、繰り返し数1×104回での破断トルクを算出し、算出した破断トルクを曲げ疲労強度として評価した。
なお、曲げ疲労強度は、SCr420に相当する鋼Hを浸炭焼入れ−焼戻しした試験番号21の場合の曲げ疲労強度を基準にして、それより30%以上向上していることを第1目標とし、40%以上向上していることを第2目標とした。
表5に、上記の各試験結果を示す。
Figure 2011137214
表5から、本発明で規定する条件を満たす試験番号17の差動歯車の場合、曲げ疲労強度は2880N・mであって、JIS G 4053(2008)に記載されたSCr420に相当する鋼Hを用いて、浸炭焼入れ−焼戻しした試験番号21の差動歯車の曲げ疲労強度より40%以上向上しており、第2目標である「低〜中サイクル域」で優れた曲げ疲労強度を有することが明らかである。
また、試験番号18の差動歯車の場合、曲げ疲労強度はSCr420に相当する鋼Hを用いて、浸炭焼入れ−焼戻しした試験番号21の差動歯車の曲げ疲労強度より30%以上向上しており、第1目標の曲げ疲労強度を有している。しかしながら、脱炭層が生じており、DM−Tが0.030mmと発明で規定する上限値を超えるため、第2目標の40%向上には達していない。
これに対して、試験番号20の差動歯車の場合、生地となる鋼GのC含有量が0.51%と高く、本発明で規定する上限を超えるため、硬化層の靱性が低下し、曲げ疲労強度はSCr420に相当する鋼Hを用いて浸炭焼入れ−焼戻しした試験番号21の差動歯車に比べて向上していない。
本発明の差動歯車の「低〜中サイクル域」での曲げ疲労強度は、従来の浸炭焼入れ−焼戻し処理した差動歯車の曲げ疲労強度に比べて大幅に向上している。このため、本発明の差動歯車は、衝撃的でしかも比較的大きな負荷が加わることのある自動車用差動歯車として用いるのに好適である。なお、この差動歯車は本発明の製造方法によって容易に製造することができる。
1:入力シャフト
2:リングギア
3:ディファレンシャルユニット
4:ディファレンシャルケース
5:ピニオンシャフト
6:ピニオンギア
7:サイドギア
8:出力シャフト
8':固定シャフト

Claims (3)

  1. 生地の鋼が、質量%で、C:0.35〜0.45%、Si:0.10%以下、Mn:0.50〜1.0%、P:0.015%以下、S:0.030%以下、Cr:0.05〜0.15%、Mo:0.15〜0.25%、Al:0.01〜0.05%、N:0.010%以下、O(酸素):0.0020%以下、B:0.0010〜0.0030%およびTi:0.010〜0.045%を含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有する鋼であり、かつ、下記の条件(イ)〜(ニ)を満たすことを特徴とする差動歯車。
    (イ)硬化層深さ:0.80〜1.50mm
    (ロ)硬化層の旧オーステナイト平均粒径:12μm以下
    (ハ)歯元部において表面から50μm位置での残留応力:−700MPa以下
    (ニ)〔(表層部のビッカース硬さ)−(芯部のビッカース硬さ)〕で表されるΔHVの値:10〜40
  2. 請求項1に記載の差動歯車において、さらに下記の条件(ホ)および(ヘ)を満たすことを特徴とする差動歯車。
    (ホ)表層部の全脱炭層深さ:0.015mm以下
    (ヘ)表層部のC量:0.35〜0.50%
  3. 請求項1に記載した差動歯車の生地の化学組成を有する鋼材を、下記の工程〈1〉〜〈8〉の順に処理することを特徴とする差動歯車の製造方法。
    工程〈1〉:鋼材を1000〜1200℃の温度域の温度であるT℃において加熱時間を10min以内として加熱する。
    工程〈2〉:加熱した鋼材を、鍛造終了温度を900℃以上として熱間鍛造し、差動歯車の形状に成形する。
    工程〈3〉:成形した差動歯車形状品を、熱間鍛造終了温度から1〜20℃/sの平均冷却速度で300℃まで冷却する。
    工程〈4〉:差動歯車形状品の表面に生成した酸化スケールを除去する。
    工程〈5〉:酸化スケールを除去した差動歯車形状品を、カーボンポテンシャルが0.40〜0.50%の雰囲気で820〜1000℃に加熱した後、焼入れを行う。
    工程〈6〉:焼入れした差動歯車形状品を200℃以下の温度で焼戻し処理する。
    工程〈7〉:焼戻し処理した差動歯車形状品に、さらに、加熱は周波数40〜60kHzで行い、差動歯車の歯底表面温度が600〜700℃になるよう予熱処理を行い、その後大気放冷して、加熱時間0.2〜0.5sで歯底表面温度が950〜1050℃になるよう、本加熱処理を施して輪郭高周波焼入れを行う。
    工程〈8〉:輪郭高周波焼入れした差動歯車形状品を200℃以下の温度で焼戻し処理する。
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