本発明の実施形態について説明する前に、本発明者が本発明を創作するに至った経緯を説明する。
無線機器では、アンテナの配置スペースが制限されることが多く、誘電体に接してアンテナを形成することで電気長を稼いで小型化を図ったり、無線回路やグランドパターンの形成された回路基板にアンテナを実装することで、回路基板とアンテナとが別体とされる構成よりも小型化を図っている。特に無線機器の体格に対し、大きい波長(数十cm〜数m)となる周波数を使用周波数(共振周波数)とする際には、このような構成が採用される。
本発明者は、車両のスマートエントリーシステムに用いられる小型のアンテナ装置として、誘電体を用いて小型化したアンテナを、グランドパターンと、該グランドパターンに接続された無線回路と有する回路基板に実装してなるアンテナ装置(図1及び図3)を試作し、鋭意検討を行った。
図1に示すアンテナ装置10では、エレメントが誘電体に保持されてなるユニット30が所謂チップアンテナとなっており、共振特性を得るために、ユニット30のエレメントと無線回路40との間に、複数のインダクタ41が挿入されている。すなわち、整合回路を必要としている。
回路基板20の長方形の一面21上には、回路基板20における短手辺側の長さと同一の長さを有し、回路基板20と同方向に長い長方形のグランドパターン22が形成されている。そして、グランドパターン22の形成されていない領域、すなわち、回路基板20の長手方向に沿う長さが回路基板20の短手方向に沿う長さよりも短い領域には、上記したユニット30が実装されている。ユニット30に含まれるエレメントの伸延方向(又は軸方向)は、回路基板20の短手方向に沿っている。
ユニット30のエレメントは、その電気長が使用周波数の波長に対して略1/4の長さとなっており、無線回路40は、一端側がユニット30のエレメントに、他端側がグランドパターン22に接続されている。すなわち、ユニット30のエレメントは、モノポールアンテナとなっている。
このようなアンテナ装置10では、グランドパターン22もアンテナの一部として機能させるため、無線回路40から給電してアンテナ(エレメント)を動作させると、図1に示すように、グランドパターン22における無線回路40との接続部位付近の端部、詳しくは、矩形状のグランドパターン22におけるユニット30側の短手辺部22aと無線回路40に近い側の長手辺部22cに強い電流が誘起される。そして、矩形状のグランドパターン22における短手辺部22aに沿って流れる電流は、その向きが、ユニット30のエレメントに流れる電流の向きと逆であり、これにより、エレメントに流れる電流の一部が相殺される。
これにより、矩形状のグランドパターン22における無線回路40に近い側の長手辺部22cに沿って流れる電流による放射パターン(図1の一点鎖線)が、ユニット30のエレメントに流れる電流による放射パターン(図1の破線)よりも大きくなる。換言すれば、グランドパターン22の影響が大きいため、ユニット30のエレメントの放射効率が低くなる。
このように、長手辺部22cに沿って流れる電流の影響が大きいため、アンテナ装置10において、回路基板20の一面21に沿う方向(平行な方向)の水平面指向性は、図2に示すように、横向き8の字状の特性を示す。すなわち、正面方向にNULLが存在する。なお、正面方向とは、回路基板20の長手方向を前後方向、短手方向を横方向とすると、前後方向のうちの、グランドパターン22からみてユニット30のエレメント側の方向であり、特に図2において、0°±15°の範囲内(345°〜15°)を指す。なお、図2では、3m地点での電界強度を示している。
正面方向に充分な電波が放出されないと、自動車におけるスマートエントリーシステムのような、相手側無線機に向けてアンテナ装置10を動作させる場合には、動作しない状況となる可能性が高くなる。
一方、図3に示すアンテナ装置10では、誘電体からなる保持部材に、一方を信号線とし、他方をグランド線とする2つのエレメント(ダイポールアンテナ)が保持されてユニット30が構成されている。また、2つのエレメントは、螺旋状に延びる螺旋部を有する外側エレメントと、外側エレメントにおける螺旋部の内側に該螺旋部と間隔をあけて配置され、外側エレメントにおける螺旋部の軸方向に沿って螺旋状に延びる螺旋部を有する内側エレメントを有する2重螺旋構造となっている。なお、ユニット30の構成と、インダクタ41を有さない点以外の構成は、図1に示した構成と基本的に同じ構成となっており、2つのエレメントにおける螺旋部の軸方向が、回路基板20の短手方向に沿っている(平行である)。
このようなアンテナ装置10は、本出願人が出願した、特開2007−43653号公報、特願2008−147340号に示されるものである。2重螺旋構造を採用したことによる効果と上記した誘電体による波長短縮効果により、ユニット30のエレメント(アンテナ)と無線回路40との間にインダクタを挿入しなくとも(整合回路を必要とせずに)、アンテナ自身で共振特性を得ることができる。
したがって、矩形状のグランドパターン22にはほとんど電流が流れず、図3に示すように、ユニット30のエレメントに流れる電流による放射パターン(図3の破線)が、矩形状のグランドパターン22における無線回路40に近い側の長手辺部22cに沿って流れる電流による放射パターン(図3の一点鎖線)よりも大きくなる。換言すれば、グランドパターン22の影響が小さいため、ユニット30のエレメント(アンテナ)の放射効率が高くなる。
このように、ユニット30のエレメント(アンテナ)に流れる電流の影響が大きいため、アンテナ装置10において、水平面指向性は、図4に示すように、NULLが正面方向方横方向にずれた8の字状の特性を示す。すなわち、正面方向のアンテナ利得は向上される。しかしながら、NULLが存在するため、水平面の全方向に電波を放射させることが困難であった。なお、図4でも、3m地点での電界強度を示している。
そこで、本発明者は、アンテナを構成するエレメントが誘電体からなる保持部材にて保持され、エレメントを含む保持部材が回路基板20に固定されたアンテナ装置10において、水平偏波に対し、水平面指向性を無指向性とすべく、さらに鋭意検討をおこなった。以下に示す実施形態は、上記鋭意検討の結果、得られた知見に基づくものである。
(第1実施形態)
以下において、上記図1、図3に示した参考例の要素と同一の要素には、同一の符号を付与するものとする。また、方向の規定も、上記参考例と同じものとする。
本実施形態に係るアンテナ装置10は、車両のキーレスリモートシステム(使用周波数312.15MHz)の受信機として構成されている。
図5〜図7に示すように、アンテナ装置10は、要部として、回路基板20と、2重螺旋構造のエレメント31としての外側エレメント33及び内側エレメント34と、誘電体からなり、2つのエレメント31(33,34)と一体化された保持部材32と、を備えている。そして、エレメント31と保持部材32とにより、ユニット30が構成されている。
回路基板20は、絶縁材料からなる基材(例えば誘電率3程度の樹脂基材)を用いて構成されており、平面に沿う形状が長方形とされている。すなわち、一面21も長方形となっている。以下においては、長方形の回路基板20において、短手辺部を符号20a,20d、長手辺部を符号20b、20cとする。回路基板20の一面21には、導体箔(例えば銅箔)をパターニングしてなる導体パターンとして、グランドパターン22及び導体パターン23,24が形成されている。
グランドパターン22は、電位の基準となる部位であり、本実施形態では、短手方向の長さが、回路基板20における短手辺部20a,20dの長さよりも若干短く、且つ、回路基板20の長手方向に長い長方形となっている。以下においては、長方形のグランドパターン22において、短手辺部を符号22a,22d、長手辺部を符号22b、22cとする。なお、短手辺部20aと短手辺部22a、短手辺部20dと短手辺部22dが対応し、長手辺部20bと長手辺部22b、長手辺部20cと長手辺部22cが対応している。
長方形のグランドパターン22における短手辺部22dは、長方形の回路基板20の一方の短手辺部20dと、長手方向において一致している。そして、回路基板20の一面21において、長手方向におけるグランドパターン22の短手辺部22a側は、グランドパターン22の形成されていない領域となっている。この領域は、回路基板20の長手方向に沿う長さが回路基板20の短手方向に沿う長さよりも短い領域となっており、ユニット30が実装されている。このように、長方形のグランドパターン22における一方の短手辺部22a側に、ユニット30が配置されている。
また、グランドパターン22における短手方向の中央が、回路基板20における短手方向の中央と略一致しており、回路基板20の一面21において、短手方向におけるグランドパターン22の長手辺部22b,22cの両サイドも、グランドパターン22の形成されていない領域となっている。この領域は、回路基板20の長手方向に沿う長さが回路基板20の短手方向に沿う長さよりも長い領域となっている。そして、回路基板20の一面21において、上記したグランドパターン22の両サイドの領域には、導体パターン23,24がそれぞれ形成されている。なお、導体パターン23が外側用導体パターン、導体パターン24が内側用導体パターンに相当する。
導体パターン23は、短手方向において、グランドパターン22の長手辺部22b側に形成されており、長手方向に沿って延びる垂直部23aと、垂直部23aの一端に連結された折返し構造の部位23bからなる。そして、折返し部23bにおける垂直部23aとは反対側の端部が所謂ランドとなっており、このランドの部位に、外側エレメント33の端部33bがはんだ付けされている。
折返し部23bは、平面に沿う方向においてL字状をなしており、短手方向における長さが、垂直部23aの長さに比べて十分に短い長さとなっている。また、折返し部23bにおいて、短手方向における端部がランドとされている。
一方、垂直部23aにおける折返し部23bとは反対側の端部が、導体パターン23におけるユニット30とは反対側の端部23cとなっており、この端部23cは開放端となっている。垂直部23aにおいて、端部23cは、図5に示すように、回路基板20の短手辺部20dから所定距離離れた場所に位置しており、ユニット30側の端部は、長方形のグランドパターン22における短手辺部22aよりも回路基板20の短手辺部20aに近い場所に位置している。
また、垂直部23aと対向するグランドパターン22の長手辺部22bとの間には、長手方向に沿って均一幅の隙間が設けられている。この隙間は、短手方向の体格の点からは、狭いほど好ましく、グランドパターン22の長手辺部22b付近に誘起されたイメージ電流による垂直部23aに流れる電流の一部相殺の点からは、広いほど好ましい。これらの点を考慮して、上記隙間は設定されている。
導体パターン24は、短手方向において、グランドパターン22の長手辺部22c側に形成されており、長手方向に沿って延びる垂直部24aと、垂直部24aの一端に連結された折返し構造の部位24bからなる。そして、折返し部24bにおける垂直部24aとは反対側の端部が所謂ランドとなっており、このランドの部位に、内側エレメント34の端部34bがはんだ付けされている。
折返し部24bも、折返し部23b同様、平面に沿う方向においてL字状をなしており、短手方向における長さが、垂直部24aの長さに比べて十分に短い長さとなっている。本実施形態では、短手方向において、折返し部24bの長さが、折返し部23bの長さと同じ長さとなっている。また、折返し部24bにおいて、短手方向における端部がランドとされている。
一方、垂直部24aにおける折返し部24bとは反対側の端部が、導体パターン24におけるユニット30とは反対側の端部24cとなっている。本実施形態では、この端部24cが、無線回路40と電気的に接続された給電点となっている。垂直部24aにおいて、端部24cは、図5に示すように、回路基板20の短手辺部20d付近に位置しており、ユニット30側の端部は、長方形のグランドパターン22における短手辺部22aよりも回路基板20の短手辺部20aに近い場所に位置している。
また、垂直部24aと対向するグランドパターン22の長手辺部22cとの間にも、長手方向に沿って均一幅の隙間が設けられている。この隙間は、短手方向の体格の点からは、狭いほど好ましく、グランドパターン22の長手辺部22c付近に誘起されたイメージ電流による垂直部24aに流れる電流の一部相殺の点からは、広いほど好ましい。これらの点を考慮して、上記隙間は設定されている。本実施形態では、垂直部23aと長手辺部22bとの隙間、垂直部24aと長手辺部22cとの隙間が互いに等しい値となっている。
このように、一対の導体パターン23,24は、グランドパターン22における短手方向の中央(回路基板20における短手方向の中央)に対して、ほぼ線対称の位置関係となっている。
ユニット30は、アンテナを構成するエレメント31と、該エレメント31を保持する保持部材32とが一体化されたものである。エレメント31は、図5〜図7に示すように、回路基板20の一面21に沿って(一面21と平行に)、螺旋状に延びる螺旋部33aを有する外側エレメント33と、外側エレメント33における螺旋部33aの内側に間隔を隔てて配置され、螺旋部33aの軸方向(以下、単に軸方向と示す)に沿って螺旋状に延びる螺旋部34aを有する内側エレメント34とにより構成されている。
そして、回路基板20にユニット30が固定された状態で、各螺旋部33a,34aの軸方向は、回路基板20の短手方向に平行、換言すればグランドパターン22の短手辺部22aに平行となっている。また、回路基板20の一面21に対しても略平行となっている。
各エレメント33,34は、軸方向における異なる側の端部33b,34b(以下、実装部33b,34bと示す)側にて、対応する導体パターン23,24のランドと接続されている。具体的には、2つのエレメント33,34において、軸方向における異なる側の端部が、回路基板20の一面21に略平行とされ、各エレメント33,34における実装部33b、34bとなっている。そして、各実装部33b,34bは、回路基板20の一面21に設けられた対応するランド上に配置され、図示しないはんだを介してランドと接続されている。このように、実装部33b,34bの構造として表面実装構造を採用すると、2つのエレメント33,34(ユニット30)をリフローによって回路基板20に一括実装することが可能であり、回路基板20に対するエレメント33,34の実装を効率化することができる。本実施形態においても、各エレメント33,34は、回路基板20に対して、リフローによって一括実装されている。
具体的には、短手方向における長手辺部20b側において、外側エレメント33の実装部33bと導体パターン23のランドとが、はんだを介して電気的且つ機械的に接続されている。これにより、導体パターン23と外側エレメント33が一体化され、1つの電流経路となっている。また、導体パターン23と外側エレメント33の電気長が、使用周波数の波長の約1/4の長さとなっている。なお、外側エレメント33における、導体パターン24側の端部33cは開放端となっている。
一方、短手方向における長手辺部20c側において、内側エレメント34の実装部34bと導体パターン24のランドとが、はんだを介して電気的且つ機械的に接続されている。これにより、導体パターン24と内側エレメント34が一体化され、1つの電流経路となっている。また、導体パターン24と内側エレメント34の電気長が、使用周波数の波長の約1/4の長さとなっている。なお、内側エレメント34における、導体パターン23側の端部34cは開放端となっている。
このように、本実施形態に係るアンテナ装置10では、導体パターン23と外側エレメント33の電気長と、導体パターン24と内側エレメント34の電気長との和が、使用周波数の波長の約1/2の長さとなっている。すなわち、導体パターン23及び外側エレメント33からなる導線と、導体パターン24及び内側エレメント34からなる導線との2本の導線が、電源の正負の電極に接続された所謂半波長ダイポールアンテナとなっている。
なお、2つのエレメント33,34における螺旋部33a,34aの形態は、特に限定されるものではなく、外側エレメント33における螺旋部33a内に、内側エレメント34における螺旋部34aの少なくとも一部が非接触で配置された構造であれば採用することができる。たとえば各エレメント33,34の螺旋形状としては、略円形、略矩形、矩形以外の多角形などを採用することができる。
また、各エレメント33,34における螺旋部33a,34aの巻き数(軸方向において隣接する螺旋部の中心間の距離)も、特に限定されるものではない。本実施形態では、内側エレメント34における螺旋部34aの巻き数nが、外側エレメント33における螺旋部33aの巻き数mよりも少なく(n<m)なっている。このような構成とすると、螺旋部34aの巻き数nを螺旋部33aの巻き数mよりも大きく(n>m)した構成よりも、静電正接(tanδ)によるロスを低減して、アンテナ利得を向上することができる。この点は、本発明者によって確認されている(特願2008−147340号参照)。
また、本実施形態では、軸方向における体格の小型化を考慮して、軸方向において、螺旋部33a,34aの長さが略等しくされ、螺旋部33a,34a同士が、軸方向においてお互いほぼ全域で相対するようになっている。このような構成とすると、例えば外側エレメント33の螺旋部33aに流れる電流により、内側エレメント34の螺旋部34aに、軸方向全体にわたって2次電流(イメージ電流)が誘起されることとなる。さらには、螺旋部33aの軸と螺旋部34aの軸が、短手方向全域で互いに重なる位置関係となっている。
ここで、エレメント31(33,34)は、上記したように、螺旋状に延びる外側エレメント33の内部に、所定の間隔を隔てて螺旋状の内側エレメント34を配置してなる非接触構造となっている。したがって、2つのエレメント33,34の位置関係がアンテナの性能(共振特性)に対して重要である。例えば、2つのエレメント33,34の螺旋部33a,34aにおける対向間隔が変化すると、2つの螺旋部33a,34aの対向領域間に構成されるコンデンサの容量が変化するため、共振周波数が変化し、放射特性に影響を与える。
保持部材32は、このような問題を解決するため(アンテナの性能を保持するため)に、2つのエレメント33,34の螺旋部33a,34aに接触しつつ螺旋部33a,34a間の対向領域に配置されて、2つのエレメント33,34が所定の位置関係をなすように構成されている。この保持部材32により、外側エレメント33の螺旋部33aの軸と内側エレメント34の螺旋部34aの軸が一致されている。
また、保持部材32は誘電体からなる。したがって、エレメント33,34(螺旋部33a,34a)に流れる高周波電流の波長短縮が生じ、誘電体が配置されない構成に比べて、アンテナの共振周波数を低域にシフトさせることができる。また、共振周波数が同じであれば、電気長を稼いで、体格を小型化することができる。
本実施形態では、誘電率(ε)が7程度のポリスチレン系樹脂を用いて保持部材32が構成されている。また、保持部材32は、図5に示すように、軸方向(短手方向)の長さが、螺旋部33a,34aの長さよりも若干長く、長手方向の長さ及び回路基板20の一面21に垂直な方向の高さよりも長い略直方体状とされている。
保持部材32の内部には、内側エレメント34の螺旋部34a全体が埋設されている。すなわち、螺旋部34aを覆うように、螺旋部34aの周囲に保持部材32が配置されている。また、図5及び図7に示すように、保持部材32の表面(外面)に、外側エレメント33の螺旋部33aが軸方向に沿って巻回されている。すなわち、2つのエレメント33,34の螺旋部33a,34a間の相対する領域全てに、保持部材32が介在されている。
なお、図5に示すように、内側エレメント34の実装部33bは、短手方向において、保持部材32における導体パターン24側の端部付近で、保持部材32から露出されている。
そして、螺旋部33a,34aの軸方向、すなわち保持部材32の長手方向が、回路基板20の短手方向と一致するように、ユニット30が回路基板20の一面21に実装されている。また、保持部材32(ユニット30)と対向するグランドパターン22の短手辺部22aとの間には、短手方向に沿って均一幅の隙間が設けられている。換言すれば、僅かな隙間を介して、グランドパターン22の短手辺部22aに対し、ユニット30が対向配置されている。
無線回路40は、導体パターン23、外側エレメント33、導体パターン24、内側エレメント34からなるアンテナに対する高周波源であり、上記アンテナに送信信号を出力する送信回路、及び、アンテナが受信した受信信号を処理する受信回路の少なくとも一方として機能するものである。本実施形態では、アンテナに送信信号を出力するとともに、アンテナが受信した受信信号を処理する送受信回路として構成されている。
本実施形態では、上記したように、導体パターン24の垂直部24aにおける端部24cに一端が接続され、他端がグランドパターン22に接続されている。また、無線回路40は、半導体チップに電子素子が集積されてなるICチップとして構成されており、回路基板20の一面21に実装されている。なお、ICチップ以外にも、回路基板20の導体パターン及び回路基板20に実装されたディスクリート素子により、無線回路40が構成されても良い。
次に、上記構成のアンテナ装置10の製造方法の一例について説明する。なお、ここでいう上下方向とは、回路基板20の一面21に対し略垂直な方向(以下、単に垂直方向と示す)であり、下側とは一面21に近い側、上側とは一面21に遠い側である。
先ず、エレメント31(33,34)、保持部材32、回路基板20をそれぞれ準備する。本実施形態では、金属板に、打ち抜き加工、曲げ加工など施すことで、所定の巻き数nを有する内側エレメント34を準備する。
また、外側エレメント33として、図8及び図9に示すように、下側エレメント35aと上側エレメント36aを有し、垂直方向において2分割された構造のものを準備する。下側エレメント35aは、螺旋部33aのうちの回路基板20の一面21に配置される部分であり、金属板に、打ち抜き加工、曲げ加工など施すことで、図8に示すように、リードフレーム35の一部として構成されている。なお、図3に示す符号35bは、軸方向(短手方向)において、それぞれの端部側で下側エレメント35a同士を連結する連結部35bである。この連結部35bは、外側エレメント33としては不要な部分であり、後に除去される。
また、上側エレメント36aは、外側エレメント33のうちの下側エレメント35aを除く部分(螺旋部33aの一部及び実装部33b)であり、金属板に、打ち抜き加工、曲げ加工など施すことで、図9に示すように、リードフレーム36の一部として構成されている。なお、図9に示す符号36bは、軸方向(短手方向)において、螺旋部33aを構成する部分のそれぞれの端部側で上側エレメント36a同士を連結する連結部36bである。この連結部36bも、外側エレメント33としては不要な部分であり、後に除去される。
また、誘電体からなる保持部材32として、図8及び図9に示すように、下側保持部材32aと上側保持部材32bを有し、垂直方向において2分割された構造のものを準備する。下側保持部材32aは、上記したように樹脂を用いて略直方体状に成形されており、その上面から側面にかけて、内側エレメント34が嵌めこまれる溝(図示略)が設けられている。また、下面には、下側エレメント34aが嵌めこまれる溝(図示略)が設けられている。
上側保持部材32bも、下側保持部材32aと同じ材料を用いて略直方体状に成形されており、その上面から側面にかけて、上側エレメント36aが嵌めこまれる溝(図示略)が設けられている。
次に、下側保持部材32aの対応する溝に、リードフレーム35の下側エレメント35aを嵌め込むとともに、対応する溝に内側エレメント34を嵌め込む。これにより、図8に示すように、下側保持部材32a、内側エレメント34、リードフレーム35が一体化されたユニットとなる。
また、同様に、上側保持部材32bの対応する溝に、リードフレーム36の上側エレメント36aを嵌め込む。これにより、図9に示すように、上側保持部材32bとリードフレーム36が一体化されたユニットとなる。
そして、下側保持部材32aと上側保持部材32bを嵌め合わせて一体化し、保持部材32とする。これにより、内側エレメント34の螺旋部34aが、保持部材32によって覆われた状態となる。また、外側エレメント33の螺旋部33aを構成する下側エレメント35aと上側エレメント36aとの対応する端部同士が重なった状態となる。
次に、下側エレメント35aと上側エレメント36aの重なった部分にレーザ光を照射し、端部同士をレーザ溶接する。そして、レーザ溶接後、リードフレーム35,36の不要部分である連結部35b,36bを除去することで、図5及び図7に示すユニット30が形成される。
次に、別途準備した回路基板20において、導体パターン23,24における折返し部23b,24b側の端部(ランド)上に、スクリーン印刷やディスペンサなどで図示しないはんだを塗布した後、各実装部33b,34bが対応するランド上に載置されるように、ユニット30を、回路基板20の一面21上に位置決め載置する。そして、この位置決め状態で、リフローを実施することにより、実装部33b,34bと対応するランドとがはんだを介して接合され、上記したアンテナ装置10が形成される。
なお、ユニット30を回路基板20に配置する際に、実装部33b、34b以外の箇所を回路基板20の一面21に固定することで、回路基板20に対するアンテナの実装構造を安定化させることもできる。例えば、外側エレメント33の一部(例えばレーザ溶接部や保持部材32の下面)を回路基板20との接触部としても良い。
次に、本実施形態に係るアンテナ装置10の効果について説明する。
図10に示すように、無線回路40に接続された導体パターン24の端部24cから給電すると、導体パターン24の垂直部24a、折返し部24bを通じて、導体パターン24に接続された内側エレメント34に、図11に示すように電流が流れる。このとき、内側エレメント34の螺旋部34aに流れる電流により、図12に示すように、外側エレメント33の螺旋部33aに、内側エレメント34に流れる電流とは逆向きの電流(イメージ電流)が誘起される。そして、図10及び図12に示すように、外側エレメント33に接続された導体パターン23の垂直部23a及び折返し部23bにも、電流が流れる。なお、図11及び図12に示す破線矢印は電流経路を示している。なお、高周波電流により、電流の向きは、周期的に切り替わる。
また、導体パターン23及び外側エレメント33の電気長と、導体パターン24及び内側エレメント34の電気長との和が、使用周波数の波長の1/2の長さとなっている。したがって、導体パターン23及び外側エレメント33からなる導線と、導体パターン24及び内側エレメント34からなる導線との2本の導線が、所謂半波長ダイポールアンテナとして機能する。
このような構成のアンテナ装置10では、回路基板20に形成された一対の導体パターン23,24が、螺旋部33a,34aの軸方向に垂直な方向であって同一側に延びる垂直部23a,24aをそれぞれ含んでいる。そして、これら垂直部23a,24aは、互いに平行な位置関係となっている。
したがって、半波長ダイポールアンテナの指向性は、2つのエレメント33,34のうち、螺旋部33a,34aに流れる電流が形成する電磁界成分と、一対の導体パターン23,24のうち、軸方向に垂直な垂直部23a,24aに流れる電流が形成する電磁界成分とを合成した指向性となる。
二重螺旋構造のエレメント33,34を備えたアンテナ装置10では、上記参考例(図3)で示したように、アンテナ自身で共振特性を得ることができるため、矩形状のグランドパターン22にはほとんど電流が流れず、ユニット30のエレメント33,34の放射効率が高い。
一方、導体パターン24における垂直部24aの端部24cを給電点としているので、垂直部24aの電流密度が高くなり、軸方向に垂直な方向(長手方向)に沿って延びる垂直部23a,24aからの放射効率も高い。
また、グランドパターン22の短手辺部22aに対して、僅かな隙間を介してユニット30が対向配置されているものの、導体パターン23及び外側エレメント33からなる導線と、導体パターン24及び内側エレメント34からなる導線との2本の導線が、所謂半波長ダイポールアンテナとして機能するため、グランドパターン22はアンテナの一部として機能しない(グランドパターン22に流れる電流成分を活用しない)。
以上により、本実施形態に係るアンテナ装置10は、グランドパターン22や無線回路40が形成された回路基板20に、アンテナを構成するエレメント31(33,34)と誘電材料からなる保持部材32のユニット30が実装された構成でありながらも、回路基板20の一面に沿って、軸方向(短手方向)に流れる電流成分と、軸方向に垂直な方向(長手方向)に流れる電流成分とで、水平偏波に対し、NULLのない水平面指向性、すなわち無指向性を実現することができる。
この点については、本発明者によって確認されている。図13では、実線が水平偏波に対する水平面の指向性を示しており、破線が垂直偏波に対する水平面の指向性を示している。水平偏波に対する水平面の指向性は略円形となっており、この結果から、アンテナ装置10が、水平偏波に対し、水平面の指向性が無指向性となっていることが明らかである。
特に本実施形態では、導体パターン23及び外側エレメント33からなる導線の電気長を、使用周波数の波長の約1/4の長さとし、導体パターン24及び内側エレメント34からなる導線の電気長も、使用周波数の波長の約1/4の長さとしている。したがって、垂直部23aに流れる電流のベクトルが、共振状態で、垂直部24aに流れる電流のベクトルと同一の方向となる。したがって、互いに平行に配置された垂直部23a,24aを有しながらも、それぞれに流れる電流が形成する電磁界が互いに打ち消し合うことはないので、アンテナ利得を向上することができる。
また、本実施形態では、各エレメント33,34を螺旋構造とするとともに、誘電体からなる保持部材32の波長短縮効果によって電気長を稼いで、軸方向(短手方向)におけるエレメント31(33,34)の小型化を図っている。さらには、無線回路40やグランドパターン22が形成された回路基板20に、エレメント33,34を含むユニット30を実装して一体化することで、配置スペースの縮小を図っている。したがって、アンテナ装置10の体格を小型化することができる。
また、本実施形態では、グランドパターン22が長方形であり、螺旋部33a,34aの軸方向がグランドパターン22の短手辺部22aに対して平行となり、且つ、ユニット30と短手辺部22aとの間に所定の間隔を有するようにように、ユニット30が回路基板20に実装されている。また、短手方向において、一対の導体パターン23,24における垂直部23a,24aの間にグランドパターン22が位置し、各垂直部23a,24aが、グランドパターン22の長手辺部22b,22cに対して平行で、且つ、所定の間隔を有するように形成されている。これにより、回路基板20の一面21に沿う方向において、アンテナ装置10の体格をより小型化することもできる。
また、本実施形態では、アンテナを構成する2つのエレメント33,34の螺旋部33a,34aが、回路基板20の一面21に略平行に配置されている。ここで、比較的波長の長い(数十cm〜数m)領域の電波を使用するアンテナ装置では、アンテナ装置の体格に対してアンテナの大きさが支配的である。また、基板の一面に垂直な方向のほうが、基板の一面に沿う方向よりも、アンテナ装置の体格に対するアンテナの影響が大きい。したがって、本実施形態によれば、螺旋部33a,34aの軸方向が、回路基板20の一面21に対して略垂直とされた構成よりも、アンテナ装置10の体格をより小型化することができる。また、回路基板20への実装(導体パターン23,24との接続)を容易とすることができる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
本実施形態において、アンテナ装置10が、車両のスマートエントリーシステムに用いられる例を示した。しかしながら、アンテナ装置10の適用範囲は上記例に限定されるものではない。比較的波長の長い(数十cm〜数m)領域の電波を使用する無線機器に好適である。
本実施形態では、内側エレメント34の螺旋部34aが、誘電体からなる保持部材32によって覆われ、保持部材32の表面(外面)に、外側エレメント33の螺旋部33aが巻回された例を示した。しかしながら、保持部材32の形態としては上記例に限定されるものではない。保持部材32は、両エレメント33,34の位置関係を保持しつつ、軸方向において2つのエレメント33,34における螺旋部33a,34a全体と接触されていれば良い。
本実施形態に係るアンテナ装置10の製造方法は上記例に限定されるものではない。それ以外にも、例えば、金属線(ワイヤ)を加工して2つのエレメント33,34を形成し、このエレメント33,34を上記した構成の保持部材32(32a,32b)の溝に嵌め込んでユニット30としても良い。また、保持部材32を射出成形する際に、2つのエレメント33,34の少なくとも一方をインサート部品としても良い。
本実施形態では、グランドパターン22が長方形である例を示したが、長方形以外の矩形状を採用しても良い。導体パターン23,24と対向する辺部が短手辺部、ユニット30と対向する辺部が長手辺部とされた長方形のグランドパターン22を採用しても良い。さらには、矩形以外の形状を採用しても良い。
本実施形態では、回路基板20の一面21にグランドパターン22と導体パターン23,24が形成される例を示した。しかしながら、一面21の裏面に、グランドパターン22、導体パターン23、及び導体パターン23の少なくとも一部が形成された構成としても良い。また、回路基板20として、導体パターンが多層に配置された多層基板を採用する場合には、内層にグランドパターン22、導体パターン23、及び導体パターン23の少なくとも一部が形成された構成としても良い。
本実施形態では、導体パターン24における内側エレメント34との接続端(折返し部24bのランド)から所定距離離れ、該電気的な接続端との間に垂直部24aの少なくとも一部を含む部位、具体的には、垂直部24a側の端部24cを、無線回路40との接続点、すなわち給電点とする例を示した。しかしながら、外側エレメント33と接続された導体パターン23において、外側エレメント33との接続端(折返し部23bのランド)から所定距離離れ、該電気的な接続端との間に垂直部23aの少なくとも一部を含む部位を給電点としても良い。また、導体パターン23,24において、対応するエレメント33,34との接続端とは反対側の端部以外の部位を給電点としても良い。
図14に示す例では、外側エレメント33と接続された導体パターン23において、垂直部23aの途中に給電点を設けている。この構成では、導体パターン23において、給電点から外側エレメント33とは反対側の端部23cまでの部位が、所謂スタブとして機能することとなる。このように、給電点の位置を、導体パターン23,24のいずれか一方における、対応するエレメント33,34との電気的な接続端から所定距離離れ、該電気的な接続端との間に垂直部23a,24aの少なくとも一部を含むように適宜調整することで、アンテナのインピーダンスを調整することもできる。図14は、その他変形例を示す平面図であり、図5に対応している。
本実施形態では、導体パターン23,24が、垂直部23a,24aとともに、折返し部23b、24bを有する例を示した。しかしながら、折返し部23b、24bを有さない構成としても良い。
また、垂直部23a,24aの端部が、導体パターン23,24の一端23c、24cとされる例を示した。しかしながら、導体パターン23,24の先端を略90度の角度で、対向する導体パターン24,23側に折曲した構造を採用しても良い。例えば図5に示した構成では、回路基板20が長手方向において拡大され、長手方向において位置がずれたグランドパターン22の短手辺部22dと回路基板20の短手辺部20dとの間に、これらと平行となるように折曲部が配置された構成を採用することができる。
本実施形態では、導体パターン23及び外側エレメント33からなる導線の電気長を、使用周波数の波長の約1/4の長さとし、導体パターン24及び内側エレメント34からなる導線の電気長も、使用周波数の波長の約1/4の長さとする例を示した。しかしながら、導体パターン23及び外側エレメント33からなる導線の電気長と、導体パターン24及び内側エレメント34からなる導線の電気長との和が、使用周波数の波長の約1/2の長さとなるように、各電気長が少なくとも設定されれば良い。したがって、各電気長を、使用周波数の波長の約1/4の長さとは異なる長さ、すなわち、一方が使用周波数の波長の約1/4よりも長く、他方が使用周波数の波長の約1/4よりも短い構成としても良い。